連載小説
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旅39 羊とそっくりな女戦士
「はぁ……はぁ……」
「くっそ……あいつどこ行ったんだ……」

現在11時ちょっと過ぎ。
私とスズは、ユウロを攫った私そっくりなアマゾネスの少女を走って追っていた。

やはり男が居ないからか、走っている途中で何度か魔物とすれ違ったが、軽く挨拶した程度でたいしてこちらに興味は無さそうであった。
その為私達はアマゾネスを追う事に専念できたが…なかなか追いつけそうもないどころか、ほぼ見失っていた。

「ユウロ…まだ無事だといいけど……」
「どうだろ……無理矢理組み敷かれてる可能性もあるからな……」
「だよね……」

アマゾネス…前にアメリちゃんから聞いた話では、生まれながらの戦士な種族であり女性優位な社会に生きる魔物らしく、男狩りというものを行い男を手に入れる事があるらしい…
つまり、ユウロは文字通り狩られてしまったわけだが…もしユウロがあのアマゾネスを倒す事が出来たなら無事かもしれないが、抵抗できなければそのまま連れ去られて旦那にされてしまうだろう。

「アメリちゃん追いつけるかな…」
「どうだろう…アメリはまだ見えるけど、あのサマリそっくりなアマゾネスの姿は見えないからなんとも…」

ちなみにアメリちゃんは走るより飛ぶほうが速く移動できるので、私達と離れて急いで追っている。
木々の合間を抜けながら飛ぶアメリちゃんはグングンと先に進み、今は指先程度の大きさしか見えない。
進む方向が結構ハッキリしているのでアメリちゃんはまだあのアマゾネスの少女が見えている可能性があるので、私達もアメリちゃんを見失わないように急いで走っている。

「というかサマリ…あのアマゾネス親戚か?」
「いやそれは無いと思うけど…お父さんもお母さんも一人っ子だったって聞いたし、私に兄弟姉妹はいないし…」
「とりあえず似ている理由はサッパリわからないって事か……」
「うん…あそこまで似てると単なる親戚とも思えないけど…」

しかし…本当になんであのアマゾネスの少女は私と似ているのだろうか……いくら考えても全くわからない。
今でこそワーシープになっているから髪の色は違うが、それ以外は本当に自分でもそっくりだと思えたし、髪だって魔物化する前の私とだったらそっくりだ。

「ま、それは一旦置いといて…まずはユウロを取り返さないと!」
「そうだね……」

考えてもわからない事は一旦置いておき、まずはユウロを取り戻す事に専念する事にした。




…………



………



……








「あ、サマリお姉ちゃん!スズお姉ちゃん!」
「はぁ……はぁ……やっと追いついた……」
「アメリちゃん……ユウロはどうなったの?」

ちょっとの間走り続けていると、アメリちゃんが飛ぶ事を止めて地面に立っていた。

「えーっと……あれ……」
「あれ?」

アメリちゃん自身もユウロ達に追いついたのかなと思ってユウロの事を聞いたら指差されたので、そっちのほうを見てみたら……



「はぁ……お、俺の勝ちでいいな……」
「くっ……私が負けるなんて……」

木刀を構えながら立っているユウロと、地面に伏しているアマゾネスが居た。
互いにさっきまで無かった痣がついているので、おそらく戦ってユウロが勝ったという事だろう。

「ユウロ!大丈夫だった?」
「おう、なんとかな」

とにかくユウロは無事だった。
これ以上絡まれると面倒なので、早々に立ち去る……べきなのだろうが……


「くっ……はぁ……はぁ……」
「……」


どうしても、この私そっくりなアマゾネスの事が気になる……


「ねえ…どうしてユウロを攫ったの?」
「どうしてって…それは……ん!?私!?」
「……やっぱり似てる……」

だから私は、アマゾネスに駆け寄って話をしてみる事にした。



「よいしょっと。これでいい?」
「ああ……」

とりあえず地面に伏したまま会話するのはどうかと思ったので、木の幹にもたれ掛るように座らせた。

「それで、どうしてユウロをいきなり攫ったの?」
「ユウロってのはこの男の事だよね?それは……強そうな男だったし、一応好みの部類ではあったから……」
「ま、だと思ってたけどね」

やはりユウロを攫った理由は、この森に棲む他の魔物と似たようなものであった。


「それにしてもお前達ってそっくりだよな…ワーシープかアマゾネスかっていう大きな違いはあるけど、それでもそっくりって言い切れるし……」
「だよね……声もそっくりだもん」
「なんでそんなに似てるんだ?」

皆が言うように、本当に私とこのアマゾネスの少女はそっくりだ。
おそらく年齢も近いだろうし、アメリちゃんが言う通り声も自分で似てると思える程度には似ている。

「それは私にもわからない……お前は何者だ?」
「私はサマリ。似ている理由は私もサッパリわからないけど……え〜っと……」
「私はツムリだ。そうだな…この世の中似ている顔の者が数人居てもおかしくないとは思うけど、こうも似ていては……」
「だよね……でも私には姉妹は居ないし……偶然としか……」

いくら考えてみても、偶然顔も声もそっくりだとしか思えない。
流石に相手がワーシープじゃないからドッペルゲンガーはありえないし、たとえこのアマゾネスのツムリが元人間だとしても私と血縁関係があるとは考えにくい……というか、あったとしても親が違えばここまで似ないだろう。
という事は…私とツムリがそっくりなのは本当にただの偶然だという事なのだろう。

「まあこんな事もあるって事か……」
「なんだか不思議な気分だよ……」

本当に不思議な気分だ……旅しているとこんな事もあるんだな……

「ところでツムリ、一つ聞いていい?」
「ん?何サマリ?」
「この森を安全に抜ける方法ってある?なんとなくわかってると思うけどユウロは魔物に襲われるわけにはいかないから……」
「なるほど……だからあんなに抵抗したわけか……」

ついでだから、ツムリにこの森を安全に抜ける方法が無いか聞いてみる事にした。

「結論から言えば、安全にこの森を抜ける方法は無い」
「あ、やっぱり」
「マジか……」

が、やっぱり安全に抜ける方法なんて無いらしい。
予想は出来ていたが……なんとも面倒である。

「だけど……私達アマゾネスが護衛に付いて出口まで行くという方法もある」
「え……いいの?」
「ああ……私は負けてしまったし、色々と訳があるなら手を引くつもりだからね……」
「本当か?」
「ああ、本当だよ」

なんて思ってたら、ツムリが護衛するという提案をしてきた。
たしかにこの森に詳しいし、アマゾネスなら並大抵の魔物よりは強いだろうし、自分で言っているだけではあるがユウロを襲わないのならばこんなに心強い事は無い。

「だったら…お願いしていい?」
「もちろん!ただ……」
「ただ?」
「ユウロにやられた今、すぐに案内するのは無理だから……一度私が住む集落に来てくれない?」

だがまあツムリはつい先ほどユウロに倒されたところなので、案内しようにも出来る状態では無い。
だからツムリの住む集落に来てほしいと言われたが……それはアマゾネスの集落って事で……

「それって……大丈夫なのか?」
「まあ…私がやられたってわかればそう襲ってくる者は居ないと思う……これでも長の娘だし、同世代の仲では一番強いし男が居ないアマゾネスの中でもトップクラスだからね」
「それなら大丈夫だね!じゃあ行こうか!」

どうやら大丈夫そうだ。
このままただ森に居るのももの凄く不安なので、その集落までツムリの案内で向かう事になった。
もちろんツムリは歩けないので、私が背負いながらである……


「あ、そういえばツムリって今何歳?」
「この前16歳になったところ。サマリは?」
「私は数ヶ月前に17歳になったところ。私の方が年上だね!」
「そう……歳は一応違うのか……」


顔も似てるし、なんだか世話の焼ける妹みたいだな……
そう思いながら、私はアマゾネスの集落までツムリを背負って歩いたのだった……



====================



「……なるほど、事情はわかった……しかし情けないなツムリ……」
「うっ……ごめんなさいお母さん……」

現在12時。
私達はツムリの案内で、あの場からそこまで離れていないアマゾネスの集落に辿り着いた。
ツムリの言った通り、ツムリが倒されたと知ってうかつにユウロを襲おうとする者は居ないようだ。

「男に負けるとは…たしかにこの者は強そうではあるが……情けないったらありゃしない……」
「うぅ……」
「ま、まあ俺が言うのも違う気がしますが、そうツムリを責めないであげて下さいセノンさん」
「まったく……男にこう言われてしまうとは……これはもう一度一から訓練したほうが良いかねぇ……」

というわけで私達は今ツムリの家…より正確にはこのアマゾネスの集落の長でツムリのお母さんであるセノンさんの家にお邪魔させてもらっている。
集落の長なだけあって立派な家である。そしてなんとも強そうなお母さんである。

「ま、あんた達の事情はわかった。明日森の出口まで送ってあげよう。このダメ娘の事もあるし、今日は家に泊まっていきな。もちろん誰にも襲わせないから安心してほしい」
「あ、ありがとうございます…」
「じゃあ早速この家見て周っていいか?アタイこういう大きな家見るの好きなんだ!!」
「アメリも!!ダメ?」
「もちろんいいぞ。なんなら私の夫に案内させようか」
「あーっと……いいのならばぜひ……」
「もちろん。ただこれから昼食の時間だから、その後でな」

という事で今日はセノンさんの家に泊まる事になったのだ。

「で、サマリと言ったかな?たしかにツムリとそっくりだな……」
「でしょ?なんでかわかるお母さん?」
「ん〜……何か思いつくか?」
「いえ……もしかしたらツムリと私の両親が似ているのかと思いましたが、お母さんとセノンさんは全く似てませんし、旦那さんもお父さんと似てません」
「そうか……まあ親が似ていても仕方ないとは思うがな」

ちなみにツムリはというとセノンさんの前で小さくなっている。
男に負けたという事で頭が上がらないようだ。

「まあ結論からすると本当にただの偶然かと……」
「そうとしか言えないか……まあゆっくりしていってくれたまえ。急なお客だったから粗末な物しか出せないが一緒に昼食でもどうだ?」
「あ、ぜひご一緒にお願いします。一応こちらも軽くサンドイッチを作ってあったのでそれも一緒に」

私とツムリがそっくりな明確な理由は結局わからないが、とりあえず私達はお昼ご飯を一緒に食べる事にしたのだった。




………



……







「へぇ…皆は世界を見ながらアメリちゃんのお姉さん達と会う為の旅をしてるんだ……」
「そうだよ!」

現在15時。
お昼ご飯を頂いた後、私達は家の中を案内してもらって、宛がわれた客間でツムリとお話をしていた。

「私はあまりこの森から外に出た事無いからな…」
「え、そうなの?」
「まあそんなに外に出る理由も無いしね。まあ近くの町や高原には行った事あるけど、海とかは見た事無いな」
「海かぁ…広くて眩しくて潮の香りがして……って上手く表現できないや……とにかく一目見たらすごく感動するよ」
「そうか…一度は見てみたいけど、ここからだと遠いよね……」
「まあ…機会があれば出掛けてみれば?」
「ああ、そうするよ。皆の話を聞いていると色々と見てみたくなってきたしね」

まだ出会ってからそんなに経っていないが、私と中身はともかく見た目や声、それに喋り方もどことなく似ているからか、あっという間に打ち解けていた。

「あ、じゃあ私達と一緒に旅する?」
「いや…今すぐはちょっと……少なくともお母さんに再び地獄の訓練を受けさせられてからになると思う……」
「ああ……頑張れツムリ。俺に負けたお前が悪い」
「くそ……ムカっときたけど真実だから何も言い返せない……」

そんなツムリも私達の旅の話をしていたら旅に興味を持ったらしく、どこかに旅したいと言い出した。
だから誘ってみたのだが……どうやら一緒に行くのは無理そうである。
女社会のアマゾネスなだけあってやはり男であるユウロに負けるのは、私達で言う男が女に負けるのと同じような扱いなのだろう。

「並大抵の奴なら楽勝だと思ってたんだけどな……ユウロは強いよ」
「まあこれでも元勇者だしな」
「いやいや、元勇者どころか現役勇者にだって負ける気は無かったよ…」
「そんなにユウロって強かったのか?いやアタイもユウロに沈められた事あった気もするけど……アタイよりはツムリの方が強そうだしさ」
「こっちの攻撃はほとんど防がれるのにそっちの攻撃は避けられないしでね……決まった型があると思ったらいきなり崩してきたりして戦いにくかったよ」
「いやぁ…なんかそこまで言われると嬉しくなって顔がついにやけちゃうな…」

たしかにユウロってあまり攻撃当たった事無い気がする。
例え当たっても急所は避けてるし……ルコニに吹き飛ばされた時も身体を捻って溝は避けたし、エルビと闘った時も全身に痣や掠り傷こそ出来ていたが致命傷に陥りそうな大怪我は全く無かった。
どうやらユウロは避けるのが得意らしい……といってもスズの時やさっきのツムリの時のように陰からの不意打ちにはどうしようもないみたいだが。


「そういえばツムリお姉ちゃん……」
「ん?どうしたアメリちゃん、何か私に聞きたい事でもあるの?」
「うん……ツムリお姉ちゃんってサマリお姉ちゃんに似てるけどさ……」

と、なにやらアメリちゃんが気になった事があるらしい。
結構真剣な表情でツムリに話しかけて、そして……


「ツムリお姉ちゃんって……料理上手なの?」


……何故そんなに真剣な表情で聞いたのかわからないが、料理が上手なのかを聞いていた。
いやまあアメリちゃんにとっては重要だったりするのだろう……よくわからないけど。

「な、何故そんな事を聞くの?さ、サマリは上手なの?」
「うん!サマリお姉ちゃんのごはんはすごくおいしいよ!」
「さっきのサンドイッチ、あれサマリが作ったやつだからな」
「なっ!?あのおいしかったサンドイッチを……そうかサマリは料理上手なのか……他の皆は?」
「俺はちょっとは出来る」
「アタイもサマリ程じゃないけど出来るよ」
「アメリもサマリお姉ちゃんにおしえてもらってるから出来るよ!」
「そ、そうなんだ……」

私の料理をおいしかったと言ってくれるのは嬉しいのだが……何かツムリの様子がおかしい……

「それでツムリお姉ちゃんは?」
「サマリそっくりだからそんなとこまで似てたりするのか?」
「え、さ、さぁあはははは……」

何か誤魔化し気味に笑い始めたし……もしかして……

「ツムリは……料理出来ないとか?」
「うっ……」
「……そのようだな……」

どうやら図星らしい……黙ったまま俯いてしまった。

「………………ばいい……」

そして何か呟いたようだけど……声が小さ過ぎてよく聞き取れなかった。

「へ?何だって?」
「料理…………ればいい……」
「え?なに?」
「料理なん………出来ればいい……」
「もうちょっと大きな声で言ってくれない?」

ブツブツと呟かれてよく聞き取れないので、何度も聞き返していたら……

「だから、料理なんて男が出来ればいいんだ!!」
「わあっ!ビックリしたー……」

顔を真っ赤にしながら、いきなりツムリはそう叫んだ。

「大体家事は男がやるもんだ!別に私が料理出来ないくらいで問題なんか起きない!!」
「ちょ、落ち着けって」
「何だ!?そんなに料理が出来ない事がおかしいのか!そこまで言うなら外に出ろもう一度勝ぶぷっ!?」
「はいはい落ち着いてー」

そのままムキになってユウロに決闘を申し込もうとしたので、私はツムリを落ち着かせる為にもこもこアタックを実行した。
これで少しは落ち着いただろう……

「出来ないなら出来ないでそんなにムキになる事無いのに……」
「う〜だってぇ……アマゾネスでは家事等家の事は男がやって、私達はそんなか弱い男達を護る為に戦うんだから料理出来なくてもいいのに……なんか馬鹿にされてる気がしたんだもん……」
「あ、いや、馬鹿にはしてないけどさ……」

むしろ落ち着き過ぎで涙目になってきたツムリ……
なんだか世話が焼ける妹みたいだ……一つ下で顔がそっくりな為本当にそんな錯覚に陥ってしまう。

「でもさツムリ、少しは料理出来たほうが良いと思うよ?」
「……なんで?」
「なんでって……まあ女の子だからってのはアマゾネスだから通用しないとして……」
「うん……」

ただまあ、男が家事をするから私は出来なくてもいいと言い張るツムリに、私は言いたい事を言う事にした。

「将来ツムリに旦那さんが出来たとする。その旦那さんが普段は料理を作るとして…たまには自分が作ってあげようって気分にはならない?」
「たぶんならない」
「……あっそう……」

まずは、私の両親にもあった事だが、たまに普段料理していないほうが料理をする事は無いのかと聞いてみたのだが……速攻で否定されてしまった。
なので次…呆れながらもそう簡単に否定出来無さそうな事を聞いてみる。

「じゃあさ、その旦那さんが病気や怪我で倒れた時も旦那さんに作らせるつもり?」
「そ、それは……さすがに……」
「でしょ?じゃあ誰が作るかというと……」
「……私……」
「そういう事。ちょっとは作れるようにしておかないと自分のご飯はおろか、旦那さんの為の病人食も作れないでしょ?」
「そ、それもそうか……」

やはりこれは否定できなさそうである。
実際私も将来旦那さんが出来た時、もし料理が出来ないのなら教えてでも多少は作れるようになってもらうつもりだ。
という事で……

「だからさツムリ…私が料理の事教えてあげようか?」
「へ?いきなり何を……」
「いやあ…料理出来ないなら少し教えてあげようかなって。もちろんセノンさんに許可を貰ってからだけどね」
「え、いいよ別に……」
「よくないよ。全く出来ないんだったら少しは覚えないと。という事でやるよ!」
「え、あ、うん……おねがいします……」

ちょっと無理矢理ではあるけど、私はツムリに料理を教える事にしたのだった。

「……なんか顔似てるからか凄い姉妹の会話に見えるな」
「だね……アメリちょっとうらやましいな……」
「アタイも羨ましい……アタイにも姉妹とか居ないかなぁ……」
「あ、やっぱりそう見える?私も喋ってる途中でそう思ったんだ」
「まあ無いと思うけどね……本当に姉に叱られてる妹の気分だよ……」
『あはははっ!』

皆思っていた事は同じだったらしい……
大きな声で笑いあった後、私はセノンさんに厨房を使う許可を貰いに行った……



…………



………



……







「はいそれじゃあ始めようか」
「う、うん……よろしく……」

現在16時。
セノンさんからの許可も今日の夕飯は私達が作るという条件で下りたので、早速ツムリの料理指導をする事になった。
どうやらセノンさんもツムリが全く料理出来ないのは良くないと考えたらしく、「ビシバシと鍛えてやってくれ」と言われたので遠慮無く教えて行こうと思う。
ちなみにそんなセノンさんも料理は苦手らしいが、簡単な物は作れると言っていたのでやっぱりアマゾネスであろうが最低限の料理は作れないとね。
という事で私達は、今日の夕飯も兼ねて鍋料理を作る事にした。
本当はさっき言った通り、病人に食べさせても大丈夫な雑炊にしようと思ったけど、残念ながらこの集落には米が無いし、大人数だから鍋にする事になったのだ。
今の暑い季節にはあまり鍋は合わないけど……これなら大半の材料は切るだけでいいし、味付けの指導もできるしね。

「じゃあまずは食材を切ろうと思うけど……なんで包丁でそんな構え取ってるの?」
「え、違うの?」
「ツムリ……あなた何と闘うつもりなの?」

まずは葱を切るとこから始めようとしたのだが、何故かツムリは包丁で今から狩りでもするかのような構えを取っていた。
たしか私達は鍋を作る筈なんだけどな……何と闘いに行くのだろうか?

「はぁ……まあとりあえず私がお手本を見せるからよく見ていてね」
「うん」

かなり基礎的な部分から教えなきゃ駄目か……
そう思いながら、私は葱を一本まな板の上に乗せ大きめに切り始めた。
もちろんツムリが見てわかりやすいように普段の速度よりかなり遅い速度でだ。

「とまあこんな感じに切ってみて。多少不揃いでもいいから手だけは切らないように気をつけてね」
「う、うん…やってみるよ……」

一本分の葱を切り終えたので、今度はツムリに葱を切ってみるよう言った。
包丁を持ち葱をまな板の上に乗せた後、今にも手を切りそうにたどたどしくも葱を切り始めた。

「こ、こう?」
「んー…ちょっと力入れ過ぎ。切れ口潰れちゃってるじゃん。まあ慣れないうちは仕方ないけど、もう少し力抜いて……」
「じゃあ……こう?」
「そうそうそんな感じ……って指出さない!切っちゃうよ!!」
「わっと!ありがとう……気を付けないと……」
「そうだね。じゃあ他の葱も同じようにお願いね。私は大根切っておくから」

その様子にちょっとハラハラしながらも、私も他の食材を切っていく事にした。
こう言っては悪いが、全部ツムリに教えながらになると夕飯に間に合うか微妙だからね。

「ふんふ〜ん……♪」
「…………いたっ」
「えっもしかして切った!?」

そのまま鼻歌交じりに大根の皮を剥いて銀杏切りにしていたら、ゆっくりと葱を切り続けているツムリが突然「いたっ」と言ったので、もしかしたら指を切ってしまったんじゃないかと慌ててそっちに目をやったが……

「あ、いや、大丈夫っぽい……少なくとも血は出て無い」
「そう……それならよかった……」

たしかに指先を薄く切った痕は付いているが、出血していないしさほど深くは切れていない。
ツムリが丈夫なのか、それとも恐る恐るやっていたからそこまで勢いが無かった為か…とにかく大きな怪我で無くて良かった。

「ツムリ、切るときに押さえるほうの手は指を伸ばさないで軽く曲げるんだよ」
「えっと……こう?」
「それはただの握り拳。まあ伸ばしてるよりはいいけど……なんて言えばいいかな……こう……ワーキャットみたいな感じ?」
「えーっと……こ、こう?」
「そうそうそんな感じに軽く曲げた状態で押さえて、あとは切る速度に合わせてちゃんとそっちの手も動かすんだよ」
「うんわかった」

なので私は軽くアドバイスしておくだけにして、再び大根を切り始めたのだった。



……………………



「ふぅ……なんとか切り終わった……」
「おつかれ。汗掻いてるけど大丈夫?」
「自分の指を切らないようにってずっと緊張してた……」
「ふふっ、まあこれからも毎日やっていれば自然と切る事が出来るようになるよ。じゃあ次はお肉やってみようか」
「そうだね…ってサマリ凄い……私が葱を切っている間に山程あった野菜のほとんどを切り終わってる……」
「まあ経験の差だね。私だって最初はツムリみたいなものだったし、ずっと料理を作り続ければここまでのものにはなるよ」
「そうなんだ……」

ツムリが用意してあった葱を全部切り終わったので、次は肉を切ってもらう事にした。
野菜とちょっと力の入れる点は違うけど、葱の切り方も短時間で結構上達してたしおそらく大丈夫だろう。

ちなみにツムリが葱を切っている間に、私は大根と白菜とニンジンとタマネギと椎茸を全部切っておいた。
椎茸はツムリにもやってもらおうと思っていたけど、ツムリの方を注意しながらも鼻歌交じりに切っていたらつい全部切ってしまっていたのだ。

「じゃあ次はお肉になるんだけど……やった事は?」
「やった事どころか見た事すら無い。動物の肉の解体は見た事あるけど、その時はこんな小さな包丁では無かったしね」
「……あのさあ……普段お父さんが料理してるところとか見ないの?」
「お父さんが料理してる時は大体鍛錬してるか警備してるからね……手伝った事は記憶のある限りだと一回も無いよ」
「そんな堂々と言わなくていいから。じゃあ始めるよ。この豚肉をアメリちゃんでも簡単に食べられるように細かく切ってね」
「うんわかった」

案の定お肉も切った事無かった……どころか、まさかの料理の手伝いをした事が無いときた。
全くした事が無いにしては上手ではあるけど……それ以前に少しは手伝おうと思った事は無かったのだろうか?
まあアマゾネス社会では仕方のない事かもしれないけど……

「う〜ん…こんな感じ?」
「そうそう、そんな感じ。上手じゃんか」
「え、えへへ……なんだか料理が楽しくなってきた!」
「でしょ?」

それでも、まだまだ料理のさわりの部分とはいえツムリにも料理の楽しさは伝わってきたようだ。
私が上手だって褒めると嬉しそうにしている……まあ私も小さい頃こうして褒められるともっと料理が上達するように頑張ろうと思ったからな……是非ツムリにもこのまま上達していってもらいたいものだ。

「よーしじゃんじゃんやるぞー!」
「いいけど手だけは本当に切らないようにね。戦いの方にも支障が出るかもしれないからね」
「わかってるって!なんだかサマリが口うるさい姉ちゃんみたいに思えてきた……」

とは言っても調子乗って怪我して貰っても困るのでちょっと注意したら、少し不貞腐れたツムリに口を尖らせながらそんな事を言われてしまった……

「…大丈夫、私もツムリの事さっきから世話の焼ける妹みたいだと思ってるから」
「……あっそう……悪うございましたね世話の焼ける妹で……ホント口うるさい姉ちゃんだ…」
「悪うございましたね口うるさい姉で……というかこっちは心配して言ったんだけど?」
「心配し過ぎだって。そんな簡単に同じミスを繰り返さないよ」
「そう……ならいいけど、さっきからしそうで怖いから口うるさく言ってるだけですー」
「むっ……じゃあ見ていてよ!このお肉を手を切らずにサマリより早く切ってみせるから!」
「ほーやってみなさいよじゃあ私は鳥肉でツムリより早く切ってあげるわよ!」

それにムカっとした私はつい言い返してしまい、更にムキになったツムリと何故か競争する流れになってしまった。





だが……





「……うあぁ……」
「どんなもんだい!だから言ったじゃないの…ほら手を見せて!」
「くやしいなぁ……あと痛い……」

もちろん私の楽勝であった。
それどころか、ツムリは私より早く切ろうとしてざっくりと指を切ってしまったのだ。
しかも今度は指から血も滲み出ているので、早急に処置をしなければ。

「慣れないうちから無茶をすると怪我するから絶対にやらない事。わかった?」
「うん…」

結構ざっくりと切れてはいるが大怪我って言う程では無いので、切ってしまった場所を消毒して包帯で軽く巻いておく。
魔物なんだし、これだけでも多分数日で、もしかしたら明日にでも完治するはずだ。

「まあ包丁はもういいや。残りは私が切っておくから」
「うんよろしく……もっと練習しないとな……」
「だからツムリは切った野菜を見栄えよく鍋に入れてね。見た目を良くするのも料理には大事だからね」
「わかった。それなら私にも簡単に出来るよ」

あとは包丁を使うのが怖くならなければ…そしてそのまま料理する事が怖くならなければいいが……料理をする気力がツムリの表情や発言から読み取れるので多分大丈夫だろう。

「野菜を入れた後は水を少し浸るかどうか辺りまで入れてね。入れ過ぎると野菜から出る水分で溢れかえっちゃうから気をつけて」
「うん……こんな感じかな……いやこれだとニンジンが入らないか……」

ちょっとしたハプニングや口論をしながらも、私とツムリは料理をし続けたのであった……




…………



………



……








「ごちそーさまー!」
「うん…なかなか上手だな……同じ顔なのにこうも違うのか……」
「うぐ……ね、葱は全部私が切ったんだけど……」
「ちなみに味付けもほとんどツムリに任せました」
「ほぉ……戦闘では男に負けるが料理の腕なら男に勝てるかもな」
「お母さ〜ん……」
「ま、まあそんなにツムリを責めないでやって下さいよ……」
「一応褒めていたつもりなのだが……ま、自分で実力不足を痛感しているならそれでよい」

現在19時。
ちょっと早めではあるけど、私とツムリの二人で作った鍋を食べ終えた私達。
味付けはこれも経験かなと思ってツムリにやらせたのだが、普通においしかった。

「素直に自分の娘の料理の腕を褒めれば良いのに……」
「う、うるさい!お前は黙っていろ!!」
「はいはい……ツムリ上手いぞ!たまにでいいからお父さんツムリの料理が食べたいな」
「うぅ…お父さんありがとう……お父さんが倒れたら私が作ってあげるね……」
「……倒れない限りは作ってくれないんだね……」
「……楽しかったから手伝い程度ならたまにやってあげる……」
「その前に鍛錬をだな……」
「わかってるよ……」

そしてまたツムリの家族の会話が面白くて、そして暖かくて……
こういう家族の姿を見ていると、私も自分の両親に会いたくなって来ちゃうな……
私が魔物化した事…受け入れてくれたかなぁ……

「おーいどうしたのサマリ?なんか寂しそうな顔してるけど……」
「いや…ちょっとね……まあ軽いホームシックみたいなものだよ」

ちょっと両親の事を考えてるうちに顔に出ていたのだろう…ツムリが私の顔を覗いてそう言ってきた。

「なるほどね…やっぱり旅してると家が恋しくなるの?」
「たまにね…でもまあ一人旅じゃないからそこまで寂しくはならないよ。ね、アメリちゃん!」
「えへへへ……」

まあたしかに寂しいと思うときもあるけど、ユウロにアメリちゃん、それにスズや今まで一緒に旅してきた皆が居たからそこまで寂しさを感じた事は無い。
最初は一人で旅をしようと思っていたが…偶然アメリちゃんに出会えて本当に良かった。
もしアメリちゃんに出会う事無く一人で旅に出ていたら、私はそんなに寂しいと思わずに旅が出来たのだろうか……

「もしと言えば……私に妹が居たらさっき一緒に料理していたツムリみたいだったのかな?」
「何を急に……まあたしかにあの時のサマリは、もし姉ちゃんが居たらあんな感じなのかなって思ったけどさ……」

本当に血が繋がっていないのかわからなくなるくらい、ツムリは私に妹がいたら…って想像と一致するのだ。

「アメリは?」
「アメリちゃんも妹みたいだけど、アメリちゃんの場合は歳の離れた妹みたいで、ツムリは歳の近い妹って感じ」
「はは……その原理だとアメリは私の妹でもあるね」
「えへへ……サマリお姉ちゃんとツムリお姉ちゃんか……」

もちろん普段からアメリちゃんも妹みたいだって思っているけど、ツムリは顔がそっくりなせいで余計にそう思えてしまう。
特に私は昔から妹が欲しかったからなおさらだ。
ちなみにそんなつツムリはアメリちゃんを抱き寄せている……妹二人の微笑ましい姿だ。

「じゃあ今日はツムリお姉ちゃんも一緒に寝よ!」
「へ?あ、まあいいけど…どういう事?」
「アメリいつもサマリお姉ちゃんをだきしめてサマリお姉ちゃんにだきしめられながらねてるけど、今日はツムリお姉ちゃんとサマリお姉ちゃんの間でねる!」
「えーっと……つまり……」

アメリちゃんが言った事を整理すると……まずいつも通り私がアメリちゃんを抱きかかえる形になって、そのアメリちゃんの向こう側にツムリがアメリちゃんを抱く形で寝るという事かな……

「あーまあ布団を2つ繋げれば出来ない事は無いかな?」
「あ、ツムリもそのつもりなんだ……」
「え、嫌なの?」
「ううん…むしろ大賛成だよ!」

実際に妹が居たら一緒に寝たいと思っていたし、これは滅多にないチャンスである。
ツムリも乗り気なので、私達は今日は一緒に寝る事になった。

「まあその前にお風呂に入りなさい。ツムリの鍛錬は明日の早朝から始めるよ」
「あ、お母さんが珍しく優しい」
「……今から夜中ずっとしてもいいんだが?」
「ごめんなさいそれはキツイですすみませんでしたー!!」
「……まったく……」

まあその前にユウロ以外でお風呂に行く事になったけどね。
しかし…ホントツムリはセノンさんに頭が上がらないなぁ……



====================



「ふぁ〜……ふむぅ?」

現在6時。
何故だかいつもより早く起きたのだが……

「あれぇ?ツムリが居ない……」

アメリちゃんはいつも通り私の胸元で可愛らしい寝顔をしていたのだが、その向こう側で昨日の夜一緒に寝たはずのツムリの姿が見えず、更に向こうで枕を抱きながら寝ているスズの姿しか見えなかった。

「ん〜…昨日セノンさんに早朝から鍛錬とか言われてたし、外に居るのかな……」

少し気になったので、アメリちゃんを起こさないように気をつけながら布団を出て部屋の外に向かう事にした。


「むにゃ……もうアメリおなかいっぱい……」
「……ふふ……」

その前にアメリちゃんの寝顔を見てから行こうとしたら…アメリちゃんはご飯を一杯食べてる夢でも見ているのだろうか、お腹いっぱいと言いながらよだれを垂らしていた。
夢の中で満足したような顔を見せているアメリちゃんに思わず微笑みながら、私は部屋を後にしたのだった。



……………………



「はあっ!やっ!」
「ふっ…動きが遅いぞツムリ!そんなのでは強者には簡単に防がれてしまうぞ!」
「たあっ!いやっ!!」
「そうだ、その調子だ!!今度はこちらから行くぞ!」
「ふっ!くっ…」
「どうしたツムリ、もうへばったのか?」
「ま、まだまだ!!」

「おーやってるやってる……」

部屋の外に出て、庭の方に行ってみたら、セノンさんとツムリが稽古をしているのが見えた。
どうやら模擬戦をやっているようで、一進一退の攻防が続いている。
大きな剣をぶつけ合うその様子は、思わず魅入ってしまう迫力があった。

「はっ!やあっ!!」
「わっとと!やるねぇ…でも隙が大きいよ!!」
「わかってるよお母さん!」
「おわっ!?」

と、どうやら決着がついたようだ。
傍から見ても大振りな動きをしたツムリ。その隙を見逃すわけ無くセノンさんは踏み込んだ。
しかしその隙はわざとツムリが見せたものだったようで、当たらないように身体を捻っただけでなく、突き出された剣を上に弾き飛ばした。

「どうお母さん?」
「ふっ…男に負けたから日々の鍛錬をサボってると思ったが、どうやらそんな事も無さそうだな……だが!」
「へ?うわあっ!?」
「まだまだ鍛えなければならないところもあるな……」

そしてツムリがセノンさんに剣を突き付け決着がついた……と思ったら、自分の勝利を確信して油断していたツムリの足を払って転ばして、尻餅をついたツムリの首にさっきまでツムリがもっていた剣を奪い突き付けていた。

「何も相手の剣が無くなったら勝ちでは無い。私達だって武器など無くても戦えるだろ?」
「た、たしかに……」
「まあ戦闘センスは私も誇りに思える程のものがある……あとはその油断癖を直すんだ」
「は、はい!」

たしかにセノンさんの言う通りだ…武器を失ったくらいでは負けにはならない。現に今ツムリは武器を失っていたセノンさんに負けた。

「ふぅ…じゃああとはまた自己鍛錬で……おや?」
「あ、サマリ。いつからそこに?」
「あ、おはようございます。あとさっきからここにいたけど?」

模擬戦が終わり一息ついたところで、ようやく二人は私が見ていた事に気付いたらしい。
まあ真剣にやっていたから気付いていなかったのも無理は無いけどね。

「でもすごいね……ツムリってあんなに強いんだね」
「いやあ…それでもユウロには勝てなかったんだけどね」
「あはは……まあユウロは必至だからね」

二人の模擬戦を見ていたらどうしてユウロが勝ったのかよくわからない程ツムリは強く見えた。

「まあ早朝の鍛錬はここまで。朝食まで二人で話しでもしてなさい」
「あ、うん。わかったよお母さん」

そのまま話してていいのかなと思ったところで、セノンさんが気を利かせてくれた。
なので私達はこのまま縁側でお話を続ける事にした。


「それにしてもサマリ早起きだね。ワーシープだからもっと寝てるものだと思ったよ」
「まあ…最近はまた毛が伸びてきたし、何もしてないと眠くなりはするけど…やっぱり昔から朝ご飯は私が作ってて早起き癖がついてるからね。早く起きれないのは前日夜更かしした時ぐらいだよ」
「へぇ……早起きかぁ……それはそれで違和感が……」

やっぱり最初は私の早起きについて聞いてきたツムリ。
たしかにワーシープってよく寝ているイメージが強いのだろう…旅先でいろんな人に言われているが、不思議な事なんだろう。

「まあ……私元人間だしね」
「……え?」
「あれ、言って無かったっけ?」
「うん……サマリって元人間なんだ……アメリちゃんに魔物にしてもらったって事?」
「そうだよ」

そういえば魔物化した元人間だって話はしていなかった気がする……その為かツムリはすごく驚いた顔をしていた。

「なんか魔物らしくないなと思ってたけど…サマリも元人間だったんだね」
「うん……ん?サマリ『も』?」

そしてサマリ『も』元人間だったんだ……ってもしかして……

「もしかしてツムリも……元人間だったりするの?」
「うん……私の場合は人間だった時の記憶なんか無い程小さい頃にアマゾネスになってるからお母さんに教えてもらっただけなんだけどね」
「そうなんだ……ツムリも……」
「意外と似てるところ多いよね私達って……」
「だね……」

なんとツムリも元人間だったらしい。
そういえば親は似て無いって言った時にセノンさんが「親が似ていても仕方ないとは思う」って言ってた気がするけど…そういう事だったのか。

「サマリは私と違って魔物になったの最近なんでしょ?魔物化して変わった事ってあったりするの?」
「う〜ん…あんまり無いかな…羊っぽくなった事以外では胸がちょっとだけ大きくなったぐらいかな……」
「え、それで……」
「……何か?」
「いやなんでも……私も言える程大きくないし……」
「でもDなら私より大きいじゃんか…妹の方が大きいとか姉として悲しくなるよ……」
「まだ妹とか言うか……まあ私達で比べるならね……アマゾネスって胸も背も大きい人ばかりだから、私昔から小さいって馬鹿にされてた事もあるしね」
「ふーん……お互い苦労してるね……」

記憶なんか無い程小さい時に魔物化したって事は…それほぼ元から魔物だって言っているようなものだ。
だから魔物化した際の変化が気になったのだろう……でも変わった部分はワーシープとしての特徴を除くと胸ぐらいしか思い付かない。
まあそんな胸もツムリより一サイズ程小さいけど……私より年下のくせに私より大きいだなんて……
それでもたしかに昨日集落に着いた時にちらほらと見た他のアマゾネスと比べたらツムリは胸も背も小柄である。
相当苦労したのだろう…それでも集落の同世代の仲では一番強いのだから大したものである。

「あーあと一つ結構変わった事ある……と思ったけどこれ魔物化と関係無いや……」
「ん?何の話?」

もう一つ、人間だった頃の私とは違った部分があった…と思ったが、これは魔物化する以前から変わっていた事だった。

「あ、いや…魔物に対しての見方というか…私って元々反魔物領出身だからね。魔物は人を襲って喰らうものだってつい最近まで思ってたんだ」
「ええっ!?そうなの?」
「うん。まあこれはアメリちゃんと会って、そして旅の途中でいろんな魔物を見て違うんだってわかったけどね……まあこの森に棲む魔物は違う意味で人を襲って喰らってる気もするけどね」
「それは違い無いかもね」

それは、私の中での魔物に対するイメージだ。
元々そんなに信仰心はなかったけど、それでも魔物は恐ろしい存在だって信じてた。けれど実際に出会った魔物は、一部男に必死になっているとこもあるけど…人間と何も変わらなかった。
アメリちゃんと出会って、旅している時にいろんな魔物を見て、私自身が魔物になってわかった事だった。


「そろそろご飯かな……まだでもお手伝いしに行こうかな……」
「あ、そうだサマリ……」
「ん?」
「あのさ……」

結構二人で喋っていたし、そろそろ朝ご飯の時間かなと思って立ち上がろうとしたところで、ツムリが何か悩んでいるような表情で私に……

「サマリさっき反魔物領出身って言ってたよね……」
「うん。それがどうかした?」
「あのさ……サマリの出身地ってどんな名前?」

ツムリは私の出身地について聞いてきた。

「何よいきなり……」
「いいから。ちょっと気になったから聞いてみただけ」
「そう……『トリス』って名前のちょっとした森がある小さな村だよ」
「……!?」

そんな事を聞いてどうしたのかと思ったけど、どうしても知りたそうだったので私は自分の故郷の名前を言った。
その途端、ツムリの表情が驚きで固まっていた……どうかしたのだろうか?

「どうしたの?」
「いや……その……」
「おーい二人ともー!ご飯だってよー!」
「ん、ありがとうスズ。じゃあ行こうか!」
「あ、うん。そうだね……」

気にはなるけど…朝ご飯だっていつの間にか起きていたスズが呼びに来てくれたし、私達は話を止めて朝ご飯を食べに行く事にしたのだった。



=======[ツムリ視点]=======



「……ほら、ここが森の出口だよ」
「この先を真っ直ぐ進めばシャインローズへの案内が見えるはずだ」
「おお……無事に抜けられた……」

私とお母さんは朝ご飯を食べ終わった後、約束通りユウロ達を護衛しながら森の外まで案内した。
途中森に棲むスライムやエルフ、ホーネットにジャイアントアントなんかがユウロに襲ってきたりしたが相手にならなかった。

「もの凄く助かりました、ありがとうございます!」
「いやいや気にするな。男を護るのも私達アマゾネスの生き様だ」
「かっこいいなあ!!」

そして無事に森の外まで連れて行く事が出来た。
つまり…サマリ達とはここでお別れである。

「それじゃあお世話になりました!」
「バイバイセノンお姉ちゃん!ツムリお姉ちゃん!」
「ああ、皆も元気でな」

ある事がわかったからちょっと寂しいけど、サマリ達はサマリ達の旅があるからここで素直にお別れだ。

「サマリ!また会う機会があったら会おう!」
「うん!元気でねツムリ!」

手を振り合って、サマリ達は森を抜けた後の草原を真っ直ぐ進み始めて……そのまま姿が見えなくなってしまった……



……………………



「それじゃあ帰ろうかお母さん……」
「ああ……なんだ、そんなにユウロを逃した事が悲しかったのか?」
「……は?何を言って……」
「涙。自分では気づいて無いのか知らないけど流れているぞ」
「……え?あ……」

見えなくなったところで帰ろうとしたら…お母さんにそう言われた。
試しに自分の手を自分の頬に持って行ったら……たしかに暖かい液体が頬を伝っていた。
それを認識した途端……私は自分でもわかる程大量の涙を流し始めていた。

「まったく……次は男を逃さないようもっと鍛錬する事だ」
「う……ひっく……ち、違うよお母さん……そっちじゃない……」
「ん?じゃあなんだ?」

たしかに別れて悲しいけど……それはユウロでは無い。

「別れたく無かったのは……サマリのほうだよ……」
「ほぉ……自分に似ているからか?」

別れたく無かったのは……サマリの方だ。

「ううん……似てるって事だけじゃないよ……」
「じゃあどうしてだ?まさかサマリに恋をしたとか言わないだろうな?」
「いやそれはないけどさぁ……でも恋しくはあるよ……」

だってサマリは……おそらく……






「サマリは……私の本当の姉ちゃんかもしれないから!!」
「……え?」






私の……実の姉ちゃんだからだ。


「お母さん昔、私の事話してくれたよね」
「あ、ああ……ツムリは私達の本当の娘では無く、当時借金で困っていた夫が私と出会う直前に人身売買しようと他人の赤ん坊を攫い、その攫われた娘がツムリだと言った話か?」
「うん……」

私は赤ん坊の頃、今のお父さんに誘拐されたらしい。
そのまま私を売り払おうとしていたところで今のお母さんに遭遇し、あっという間に組み敷かれて犯されてしまったとの話だ。
そしてお母さんがお父さんを搾りきり、私を元の親の下まで返しに行こうとしたところで事件が起きた。

二人の近くで寝かせられていた私は、二人の性交により発生した魔力を取り込んでしまい……アマゾネスになってしまっていたのだ。

「あの時は本当にバカな事をやってしまったよ……反魔物領だったからそのまま返しに行くわけにもいかず結局私達の娘として育てる事にして……元の親御さんにも、夫曰く赤ん坊だったツムリとそう歳が離れていなさそうだった姉にも、ツムリ自身にも謝って済む事では無い事をやってしまった……」
「いいよお母さん……私の本当の両親はどう思ってるかは知らないけど、私自身は実の娘のように二人の愛情を注がれて育ったんだから、感謝こそすれど恨む事は無いって前にも言ったでしょ」

お母さんがお父さんを狩った場所は反魔物領のとある小さな村の森の中だった。
もちろん私も、私の本当の両親も反魔物領の人間だ……アマゾネスになってしまった私を返しに行っても拒絶される可能性が高いのは目に見えている。
だからその判断は私は間違っているとは思わないけど……私が言いたいのはそんな事じゃない。

「でさ…その私を拾ったというか、お父さんと出会った村の名前、なんて言ったっけ?」
「えっと……『トリス』だが?」
「実は今朝サマリが話してくれたんだけど……サマリはトリス出身の元人間なんだってさ」
「なっ!?という事はもしや……」

そう……私が生まれた村も、サマリが生まれた村も同じトリス。
そして顔が似ているという事は……

「そう……だからもしかしたら私とサマリは姉妹なんじゃないかなって……そう思うと……別れるのが寂しくてさぁ……」
「そうか……すまないなツムリ……」
「だからいいって……お父さんは悪くないとは言い切れないけど、別に私は怒って無いし……それに、自分と血が繋がっているかもしれない相手と出会えただけでも充分嬉しかった……」

絶対では無く、私の仮定でしかないが……私達が本当の姉妹だったというなら顔が似ている説明もつくものだ。
何かの根拠がある訳じゃないけど……私達は本当の姉妹だと思うしね。だから……

「二度と会えないなんて事も無いしさ……今度会ったら聞いてみるよ。そして……」

今度サマリに会ったら……生みの両親の所に一緒に合いに行こうと思う。
聞き出せなかったけど、おそらくサマリも魔物になってからは両親と会ってないだろうから……姉妹揃って合いに行こうと思う。

私達は……魔物になっても……離れ離れでも……元気だって言いに。


「まあまずは鍛錬しないとね!料理の腕も上げて、ユウロにも負けない位になったら私も旅をしてみるよ」
「そうだな……では家まで全力で走るぞ!」
「うん!お母さんには負けないからね!!」

そして、今度サマリにあったら絶対に言ってみようと思うんだ……




会えて嬉しかったよ、サマリ姉ちゃんってね。
12/10/27 16:02更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
という事で今回は森後編、サマリとそっくりなアマゾネスのツムリとの姉妹での一時のお話でした。
ツムリが予想した実は本当の姉妹だという説ですが、おそらく最終話まで再登場する事は無いと思うので言っちゃいますが、サマリとツムリは実の姉妹です。
一応旅32の冒頭で実は妹がいたっぽい描写を出してますし、相当わかり辛いものなら旅1の時点ですでにありました。
ほら、なんで3人家族なのにアメリの座る席があったのかという事ですよ……両親は未だにツムリの事を忘れられていないのです。
……半端だから3人家族でも4つ席ある?お客様用?知りません。

そして次回は…お待たせしました。ようやくシャインローズ領に到着します!
つまり『エックス』さんの『MAGENTA』とのコラボです!
ジパングみたいな町並みに目を奪われていた一行は、学生服を着ている少年と出会って…の予定。

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