旅36 コラボな散歩
「うわあ〜!どこを見ても美しい景色だね〜!!」
「……そうか?」
「そうかって……まあユウロがわからないのもなんとなくわかるけどさ……」
「人間にはおそろしい場所として見られるらしいですからユウロさんがぎもんに思うのも仕方ないですね」
現在12時。
私達は無事に魔界に辿り着く事が出来た。
見た事ないような形をした植物…例えば淡く光る花なんかが生え、家の形も人間界とは少し違った雰囲気が出ているし、空気も濃くて深呼吸すると気持ち良い。
そして何よりも違うのが、今は12時だというのに薄暗いのだ……だが決して不健康な感じでは無くて、むしろ過ごしやすい。
でもまあそれは魔物だからだろう…人間であるユウロはどこか禍々しいものを見ているような顔をし続けているし、空気だってどこか甘ったるいなんて言っていた。
言われてみればたしかに禍々しいかもしれないが…それでもやはり私には美しく感じる。
あまり自覚は無いが、やはり魔物化した際に価値観などが変わったのだろうか……
「はうぅ……」
「アメリ大丈夫か?」
「うん……魔界に入ってからはちょっと元気になったよ……」
昨日のシーボとの戦闘で魔力を使い過ぎて倒れてしまったアメリちゃん……歩くのもままならない程なので今はスズに背負われている。
ちょっと前に魔界に入ったところだが、さっきまでは身体を起こすのも大変そうだったのに今は身体を起こしてお話しているので、本人が言うように魔界に入ってからちょっとは元気になったようだ。
それでもやはり辛そうではあるし、それに……
ぐうぅぅぅぅ……
ぎゅるるる……
「……」
「うぅ……おなか空いて力が入らないよぉ……」
いつも以上に空腹を訴えてくるアメリちゃんのお腹の音…昨日の夜からずっとこんな調子だ。
もちろん昨日の夜も今日の朝も一応ご飯は食べている…が、少ししたらまたお腹が空いてしまうようであった。
そもそも毎回魔力が減り過ぎるとお腹がよく空いているし、今のアメリちゃんは物を食べる体力も無く、いつもと比べたらあまり食べて無いのでずっとお腹が空いている状態だ。
できればアメリちゃんの魔力を補充したいのだが……前カリンがアメリちゃんにあげていたような子供でも飲める精補給剤みたいなものでもあればいいけど……
「最終手段はユウロがアメリちゃんに精を注げば……」
「おい……」
「実際に挿入するんじゃなくて私がおちんちんを手で扱いてアメリちゃんの口の中に…」
「お前俺を精神的に攻めて殺す気か?」
「……冗談だからそんなに怒らないでよ……」
本気で危ない状態になった場合はユウロに射精してもらうしかないと思ったが…ユウロが珍しく怖い顔して怒ってきたのでこの話はやめにしよう。
「はぁ……もう昼だし、アメリちゃんもこんな調子だからどこかで昼飯食べようぜ」
「そうだね…でも魔界に人間がご飯を食べられるお店ってあるのかな?」
「いくらなんでもあると思いますよ。サマリさんだって人間とかわらないごはんたべてますよね?」
「それもそうだね……じゃあお店探してみようか」
まあお腹の音も鳴り続けているし、時間的にもちょうど良いので、私達はお昼ご飯を食べる為にどこか食事が出来るお店を探す事にした。
ぐうぅぅぅぅ……
ぐぎゅるるるぅぅ……
「……凄い音だな……」
「うぅ…言わないでスズお姉ちゃん……」
「アメリはしたない……」
「フランも言わないで……おなか空いたものは空いたの……」
アメリちゃんのお腹が限界を迎えそう…というか既に限界突破しているので、急いで探し出す事にした……
…………
………
……
…
「うーん…どこかにないかなぁ……」
「ん?なあサマリ…あの建物って飲食店じゃないか?」
「え?ああ、あの周りとちょっと違う感じの建物の事?」
「おう…というか魔界以外では大体あんな建物だから違う感じって言うのも違うかと……」
「ごはん〜……」
お店を探し始めてから20分程経過。
それらしきものが見当たらず探し続けていたら、ようやくそれらしきものが目の前に現れた。
「『狐の尻尾』かぁ……カリンがいたら絶対拒否してそうだよなぁ……」
「たしかにそうかもね」
「ごはん〜……」
他の建物と違って人間界と変わらない建物の『狐の尻尾』というお店。
営業中と書かれているし、アメリちゃんがさっきからご飯としか言わなくなってしまったので早速入る事にした。
……………………
「お店の見た目通り普通のメニューだな……何食べようか?」
「うーん…とりあえず何か頼んだ方が良いかな……」
「ごはん〜……」
「アタイはもう決めたよ」
「あたしも決めました!」
お店に入った後、男の店員さんに案内された私達は早速何かを注文しようとしていた。
「海鮮パスタとか美味しそうだね…」
「だな…俺も同じのにしようかな……」
「じゃあ決まりだね…すみませーん!」
メニューを見た感じでは特に変わった物はなさそうである…これならユウロも問題無く食べられるだろう。
という事で、私達はさっき案内してくれた男の人に注文を言って、料理が出てくるのを話しながら待つ事にした。
「そういえばフランちゃん、魔界に入ってから日傘差してないね」
「はい。魔界であればかさがなくても大丈夫ですから」
「へぇ……やっぱり暗いからか?」
「はい。日光がぜんぜんキツくないので……」
「ごはん〜……」
「……ねえアメリ、側近としてもしんゆうとしても言わせてもらうけど、もうちょっときちっと座ってまとうよ」
「だっておなか空いて力がぁ……」
「もぉ……」
こんな感じで他愛のないお話をしたり、くたっと机に伏しているアメリちゃんを窘めるフランちゃんを見てほんわかしながら待つ事数分……
「お待たせしました」
「わ〜おいしそ〜いただきまーす!!」
このお店の名前が狐の尻尾である理由であろう…おそらく店長だと思われる妖狐さんが注文した物を両手どころか細い腕にまで器用に乗せながら持ってきた。
お腹が空き過ぎて我慢が出来なかったアメリちゃんは、目の前に注文した物が置かれた瞬間に勢い良く食べ始めた。
「はむはむ……もぐもぐ……ぱくぱく…………」
「もーアメリったら……」
「まぁまぁフランちゃん、私達も食べようよ」
「そうですね…いただきます!」
魔界に入り少し元気になった為か勢い良く食べ続けてるアメリちゃんに続くように、私達も食べ始める事にした。
「あの…一つ聞いてもよろしいですか?」
「はい?ええ、いいですが……」
食べ始めて少ししたら、先程の妖狐さんが話し掛けてきた。
周りを見ると、丁度お客が少なくなった所のようだ……だから私達に話しかけてきたのだろうか?
「そこで美味しそうに食べてる女の子って……リリムですよね?」
「ぱくぱく……ごくんっ…うん、アメリはリリムだよ!」
どうやらアメリちゃんがリリムかどうか気になったらしい。
まあ今までの旅でなんとなくわかってきたが、普通子供のリリムが旅なんかしてると思わない…なので、不思議に思った人は聞いてくるんだろう。
と思ったら……
「やはりですか……という事はミリアさんの妹さんになりますね」
「ミリア……さん?その人ってアメリのお姉ちゃん?」
「えっと……リリムですが……知らないのですか?」
「うん……聞いたことあるかもしれないけど知らない……」
「そうでしたか……」
どうやら他にリリム……アメリちゃんのお姉さんを知っているらしい。
まあここは魔界だし、リリムもよく居たりするのかな?
「そのミリアお姉ちゃんってこの街に住んでるの?」
「いえ……このお店の常連ってところですかね」
「へぇ……会ってみたいなぁ……アメリ今会ったことないお姉ちゃんたちに会いたくて旅してるんだ」
「そうですか…ミリアさんはいろんな場所に行かれるのでもしかしたら会えるかもしれませんね」
ミリアさんというお姉さんはこのお店によく来るらしい…
タイミングさえ合えばもしかしたら会えたのかな……なんて思っていたら……
「いらっしゃいま……あ、お二人ともこんにちは」
「こんにちはレナ。今日は珍しくお昼にしては客の入りが少ないようね」
「まあ……ピーク時よりは少し遅い時間というのもありますけどね」
ちょうど新たなお客さんが来たらしい。
しかも、妖狐さん―レナさんと言うらしい―の知り合いのようだ。
誰が来たのだろうと思い、入口の方を見てみたら……
「そうだミリアさん、丁度良いタイミングで来ましたね」
「丁度良いタイミング?何かあったの?」
「実はこのお客さん達の一人が……」
ムスッとした表情をしている亜麻色の髪と赤い角に藍色の瞳を持ったサキュバスの少女と、白い髪と尻尾に赤い瞳にダークエンジェルのような漆黒の翼を持った女性がいた。
レナさんとのやりとりを見る限りだとどうやらこの漆黒の翼を持った女性がミリアさんらしい。
角は隠してでもいるのか見当たらないし、翼の形状はちょっとどころじゃない程違うけど…瞳や髪色、それに顔や雰囲気からすればたしかにリリムである。
「あれ?ねえミリア、そこの子供ってあんたの妹なんじゃない?」
「え?」
「ん?アメリのこと?」
と、ここでミリアさんらしき人の隣に居たサキュバスの少女がアメリちゃんに気付いたようだ。
アメリちゃんを指差してミリアさんにそう告げていた。
「あら…たしかに妹のようね……また増えたのね」
「うん?…………むにゅ!?」
「ええっ!?」
それを聞いたミリアさんはアメリちゃんに近付いて「また妹が増えた」と言った後……
……アメリちゃんのほっぺたをむにむにと触り始めた。
「何?知らない妹なの?」
「ええ、見た事も無いと思うわ…おそらく私が家を出た後に生まれた子だと思うわ」
「そういえばあんた達って姉妹で会う事無いって前に言ってたっけ……そんなものなのね」
「そういえばと言えば……あなた、名前は何ていうの?」
「むにゃ……アメリだよ!」
やはり互いに会った事が無いらしい。
まあアメリちゃんが知らなくて相手が知ってたのってリリスさんぐらいだったし、そのリリスさんよりは確実に年上っぽいから魔王城に住んでいないなら知らなくて当たり前か。
「むにぃ……えっと…あなたがミリアお姉ちゃん?」
「ええそうよ、はじめましてアメリ」
「はじめまして!」
少ししてようやくほっぺをむにむにする手を緩めたミリアさん。
「このアメリちゃんは会った事の無い姉妹に会う為に旅をしているとの事ですよ」
「うんそうだよ!会ったことないお姉ちゃんたちとお話したくて旅に出たの!」
「へぇ……」
アメリちゃんが旅をしている理由が意外だったのか、旅をしている理由を言ったら驚いた顔をしていた。
今までの経験上、リリムって姉妹にしては互いの事を知らない事が多いから、アメリちゃんみたいに他の姉妹に会いたいって思う人が少ないのかな?
「ところでアメリ、この人達はアメリと一緒に旅をしている人?」
「うん!」
そして私達の事が視界に入ったのか、私達の事を聞き始めた。
丁度良いし、自己紹介することにしよう。
「あ、私はサマリ、ワーシープです。アメリちゃんと一緒に旅してます」
「俺はユウロです。見ての通りただの人間です」
「アタイはウシオニのスズ、よろしく!」
「あたしはフランと申します。アメリの側近でありしんゆうです」
「よろしく。アメリと一緒に旅をしてくれてありがとうね」
やっぱり毎度出会ったら同じような自己紹介してる気もするけど……最初の挨拶は大事だからいいか。
「そういえばミリアお姉ちゃん、こっちのサキュバスのお姉ちゃんはだれ?」
私達は全員自己紹介を終えたので、入店してきた時よりは和らいでいるが未だ少し不機嫌そうなサキュバスの少女について聞いてみた。
「この子はルカ。私の友達」
「ミリアお姉ちゃんの友だちかー…よろしくねルカお姉ちゃん!」
「よ、よろしく……」
人見知りなのか、アメリちゃんと握手をしながらもミリアさんの隣で顔を赤くしながら目を逸らしているサキュバスの少女はルカちゃんというらしい。
私よりは幼く見えるのだが、ミリアさんの友達との事だからもしかしたら私よりは年上なのかなぁ……
「……ん?ねえあんた……」
「何ルカお姉ちゃん?」
「あんた…リリムにしては魔力少なくない?というか……消耗してる?」
「あ、わかりましたか……」
そんな感じで目を逸らしていたルカちゃんが、アメリちゃんの魔力の消耗を感じ取ったらしい。
さっきまでとはうってかわって、真剣な表情でアメリちゃんを見ていた。
「実は昨日教団兵の4精霊使いと鉢合わせしてしまいまして……」
「精霊さんたち全員にアメリの魔力ほとんど全部あげちゃったんだ……それで力出ないしおなか空くしでたいへん……」
「それはまた凄い事やってるわね……」
そして理由を言ったら今度は呆れ顔をされた。
表情豊かな子だなぁ……
「今までもそんな事無かった?」
「ここまでは初めてですが魔力が少なくなる事はありましたよ。今までは精補給剤を貰ったりとか…後は出会ったお姉さんに魔力を分けてもらったりとか……」
「へぇ……じゃあミリア、あんたがこの子に魔力を分けてあげたら?」
「そうね……分けてあげるわ。妹と関わるなんて滅多に無い良い機会だもの」
「ありがと……むにゅっ」
話し終わると同時にまたもやアメリちゃんのほっぺをむにっとつまんだミリアさん。
「むにぃ〜〜♪」
アメリちゃんが蕩けた表情をし始めたので、そのまま魔力をアメリちゃんに流しているようだ。
これでアメリちゃんの深刻な魔力不足は解消されたのか。偶然にもお姉さんと会えて良かった。
「……はい、これで大丈夫」
「むにゃぁ♪ありがとミリアお姉ちゃん……」
「凄い顔してるわね……」
ルカちゃんが言う通り、たしかに凄い顔をしてる……もう少しアメリちゃんが大人だったら男が見惚れるのではないだろうか。
「ミリアさん、ルカさん、お席はどこにします?」
「あ、ごめんなさいね。座る事を忘れていたわ」
と、ここでレナさんが少し苦笑いしながらどこに座るのかミリアさん達に尋ねた。
いくら知り合いとはいえお店のお客さんとして来ているのにいつまで経っても席に案内出来なかったので痺れを切らしたのだろう。
「あの、ミリアさんとルカちゃんもご一緒に……」
丁度良いやと思って、二人も私達と一緒に食べませんかと言おうとしたのだが……
「あのさああんた…アタシの事を『ちゃん』を付けて呼ぶのはやめてくれない?」
「へ?」
ルカ「ちゃん」と言ったのが気に食わなかったらしく、私を睨みながらそう言ってきた。
「そういう呼ばれ方嫌だし…そもそも言っとくけどアタシ多分あんたの3倍以上は生きてるからね」
「……へ?私は17ですが……」
「ふーん…17ならやっぱり3倍以上、しかも4倍近くはアタシの方が生きてるわ」
「ええっ!?ぜ、全然見えない……」
どうやらルカちゃん……いやルカさんは私よりも相当年上らしい。
もしかしたら年上かもとは思ったけど……魔物って見た目通りの年齢じゃ通用しないんだなぁ…って改めて思った瞬間だった。
「ルカにも色々とあるからね…」
「そうですか…じゃあこの話はもう止めとして……お二人とも一緒に食べませんか?」
「私はいいわよ。でもルカは……」
「アタシもいいけど。あんたが妹と話してる姿って言うのも興味あるしね」
見た目よりも若いのには何かしら他人に話していいようなものではない理由があるらしい…なので、その話はやめにして本来言おうとしていた事を言った。
二人ともその気になってくれたので、私達は一緒にお昼ご飯を食べる事になった。
「じゃあレナ、私はおまかせでいいわ」
「アタシは海鮮パスタとコーンスープで」
「はい、わかりました。すぐにお持ちしますね」
二人も注文を終えたので、早速色々と聞いてみる事にしよう。
「あのーミリアさん……」
「何?」
「ミリアさんの翼……他のリリムと結構違いますよね?」
「そうね。ちなみに角も隠してるわけじゃなくて最初から無いわよ」
「へぇ……」
まずはミリアさんの姿について聞いてみた。
今まで会ったお姉さん達も翼や尻尾、角の形に若干の違いがあったとはいえ、ここまで大きく違う人は初めて見た。
とは言っても顔はアメリちゃん含む他の姉妹に似ているのでリリムである事には間違いないだろうけど…なんでだろうか?
「ちなみに魔力の質も他の姉妹と比べたら強力らしくて、ついでに性欲は母様が驚くぐらい低いわよ」
「へぇ……どうしてなのミリアお姉ちゃん?」
「さあ?知らないわ。生まれた時から今まで生きてきてそうだっただけだもの」
「ふーん……」
どうやら他のリリムと色々違う部分があるらしいが、それは本人にもわからないし気にしていないようだ。
まあ……個人差の範疇と言えばそうかもしれない。
「アメリは私の翼や角についてどう思う?」
「ん〜……」
それでも少しは気になるのか、それともただアメリちゃんがどう思ったのかを興味本位でか、アメリちゃんに自分の姿について聞いていたミリアさん。
それに対してアメリちゃんが言った事は……
「つばさは……とべるの?」
「ええ。何の問題も無く飛べるわよ」
「じゃあいいんじゃないかな…きれいでちょっとうらやましいけど、あらうのたいへんそうだもん。どっちがいいとか言えないよね!」
「たしかにそうね」
見当違いのようで、そうでもなさそうな事を言った。
こうも曖昧な事を思ったのは、そう言われたミリアさんが同意しているようだったからだ。
「でも角ないのはなぁ……」
「あら…どうして?」
「角さわられると気持ちいいもん」
「そうなの……」
そしてアメリちゃん曰く角はあった方が良いらしい。
たしかに頭を洗ってあげてる時、角に触ると嬉しそうにしている。
「ま、私の姿についてはこれでおしまい。私自身わからないから質問されても困るしね」
「わかりました。じゃあ…ミリアさんとルカさんってよくこのお店に来るのですか?」
「ええそうよ。よくと言えるかはわからないけど、レナとは友達だからこのお店には行くわ」
「そうですか…じゃあ今日会えたのはホント偶然ですね……」
ただ自分の姿についてはあまり興味がないのか、早々に話題を変えようとしてきたミリアさん。
なので話題を変える事にしたのだった。
「じゃあ今度はこちらから良いかしら。皆さんはどうしてアメリと旅をしているの?」
そして今度は私達に質問してきたミリアさん。
「ではミリア様、あたしから……あたしはアメリの側近でもありますから……まあいっしょに旅してみたかったので……たいへんですからおうちに住んでる人に会ったらつれていってもらうよていです」
「へえ…幼馴染みか……」
「アタイは昔の記憶が無くて…記憶が戻ったらいいなって思ってね。それと一人は嫌だからかな」
「俺はまあ元勇者で、帰るわけにもいかないから一緒に旅し始めたってとこです……妹様を襲ってすんませんでした!!」
「私は……まあ世界中を旅していたかったから……ですね。アメリちゃんとは偶然出会いました」
「へぇ…それぞれ理由はバラバラなんだ……」
私達がアメリちゃんと旅している理由を聞いてきたので、それぞれ答えた。
ルカさんに言われた通り、たしかにこう言うと私達ってバラバラな理由で旅しているように思える。
「いや、でもまあ全員に共通しているのはこの世界を自分の足で見て周りたいって事ですね」
「なるほどね……」
でもまあ私以外はそれぞれ別の理由も付いてはいるが、今一緒に旅してる仲間は皆この理由だ。
「じゃあ次は…そうね…今までどんな姉妹に会ったの?」
「う〜ん……えっとね……」
次は今までにあったお姉さんについて聞いてきた。
自分が知っている姉妹に会ったのかの確認なのか、それとも関わりがなくても少しは気になるのか…
まあ理由はともかく聞かれたので答える事にしよう。
「まずはレスカティエでデルエラお姉ちゃんに会って……」
「テトラストでアクチさん、ファストサルドでリリスさん、あとマルクトでたまたま旅行に来てたフィオナさんにも会ったな…」
「そうだね。あとジパングでメーデさんとノーベさんにも会って…大陸に戻る時にアミナさんにも会ったよね」
「それで最近アイラさんに会って……そんなものか?」
「そうだね…」
こうして確認してみると…結構な人数のリリムに出会ってるんだなと思う。
デルエラさんは私は直接会ってないから除くとしたって、ミリアさんでアメリちゃんを含めて9人目だ。
名前だけと言えば…デルエラさんの他にも宵ノ宮で聞いた謎のナーラさんも居るな……聞いた事あるだけの人も含めたら11人か……
種族として確立されている程人数がいると言ってもリリムはそう居ないはず……だからもしアメリちゃんに出会ってなかったらその誰とも会う事も無かったのかもしれない……
そう考えると結構貴重な体験をしているんだな……
「なるほど……聞いた事あるのも居れば、全く知らない姉妹もいるわね……」
やはり全員が全員わかるわけではないようだ。
姉妹全員の顔と名前を知るリリムっているのかな?
なんてリリムについて考えてたら…
「そういえばセラ姉さんの名前は無かったような……」
「セラ?」
ミリアさんの口から、新たなリリムの名前が出てきた。
「そう、セラ姉さん。その様子だと会った事は無いようね」
「うん、知らないお姉ちゃんだよ。セラお姉ちゃんってどんなお姉ちゃんなの?」
セラさんと言うリリム……会った事はもちろん、聞いた事も無い……いったいどういう人なんだろうか?
「セラ姉さんというのは私の一つ上の姉で……」
「説明するより実際に会った方が早いんじゃない?」
という事でミリアさんがセラさんについて説明しようとしたところで……ルカさんが割って入った。
会った方が良いって…近くに居るのだろうか?
「ほら、ミリアならこの人数の転移も簡単でしょ?」
「まあ出来るけど……ルカ?」
「な、何よ…会いたいって言うのなら会わせてあげてもいいんじゃないの?」
どうやらミリアさんの転移魔法で連れて行くという事らしいが……ルカさんの様子が変だ。
「今日ここに来た目的…何かわかってる?」
「お待たせしました。冷めないうちに食べて下さいね」
「……この通り食事に来たのでしょ?」
と、ここでミリアさんとルカさんが頼んだ料理が届いた。
まるでミリアさんの話から逃げるように、ルカさんは届いたパスタをいそいそと食べ始めた。
「それもそうだけれど…ルカ、あなたそろそろ簡単な料理ぐらい出来るようになったほうが良いわよ?」
「出来てるじゃない。卵焼きとか…」
「殻ごと焼く卵焼きが出来てもねえ…」
「……へ?」
「何?何か問題でもある?」
「いえ……」
どうやらルカさんの料理の腕が相当酷いらしく、レナさんに料理を教えてもらおうとしてきたのもあるらしい。
というか殻ごと焼く卵焼きって……それってちゃんと焼けるのか?
「サマリお姉ちゃんもお料理出来るしルカお姉ちゃんにおしえてあげようよ!」
「はぁ?なんでそうなるの?」
「だってサマリお姉ちゃんいつもごはん作ってくれるけどおいしいもん!だからサマリお姉ちゃん!」
「え…………まあ実際にお店を出してるレナさんに教わった方が上達すると思うから私は遠慮しておきます……」
アメリちゃんが私に、ルカさんに料理を教えればと言ってきたが……まず本人がそんなに乗り気でない上に私より上手な人に教わるって話なら私が出る幕は無いだろう。
というか…卵をそのまま焼いたものを料理だって言える人に上手く教えられる気が全くしない……
とまあこんな感じに互いの話をしながら、楽しい昼食の時間を過ごしたのであった。
====================
「それでどうする?本当に今すぐにセラ姉さんに会ってみる?」
「うん!いつ会えるかわからないし、すぐ会いに行けるなら会いに行く!!」
現在14時。
お昼ご飯を食べ終わり、私達はミリアさん達と一緒にお店を出ていた。
「じゃあ決まりね。もちろんルカも行くわよね?」
「あんたの事だからどうせ行かないって言っても連れて行くのでしょ?別にいいわよ」
「うーん…そう言うって事はセラ姉さんに会いたくないって事か……セラ姉さん悲しむわね……」
「ちょ、ちょっと!そんな事言ってないでしょ!?会いに行くに決まってるじゃない!!」
「ふふ…じゃあ行きましょうか」
そしてこれから新たなアメリちゃんのお姉さんであるセラさんの住むお城に、ミリアさんの転移魔法で向かう事になったのだ。
私達はもちろん、ルカさんも一緒にだ。
ちなみにセラさんの住むお城は魔界ではないらしいのでユウロもこれなら一安心である。
「セラお姉ちゃんってどんなお姉ちゃんなんだろうな〜…」
「セラさまかぁ……やさしいお方ではあると思うけど……」
「ま、あってみてのお楽しみって事で……こっちは準備終わりましたよ!」
「じゃあ行きましょうか。それじゃあ皆私の近くに集まって……」
こちらの準備…といってもほとんど何もしていないが…を済ませ、早速向かう事にした。
ミリアさん達も準備は終わっていたようで…おそらく家に取りに行っていたのか、いつの間にかミリアさんの服装が黒を基調としたものから白いドレス姿に変わっていた。
もしかしてかなり立派な場所にでも行くのか……と思ったけど、ルカさんの方は服装の点ではさっきまでと特に変わった様子は無いのでセラさんの趣向か何かなのだろう。
そんなルカさんはさっきまで持ってなかった荷物を持っている……手土産かなんかだろうか?
「じゃあ行くわね…」
「……!?」
ミリアさんが転移魔法を使ったのか、足元が光ったなぁ…なんて思っていたら……
「はい、着いたわよ」
「……えっ!?」
あっという間に、森の中に佇む立派なお城が目の前に広がっていた。
……転移魔法って凄いなぁ……
「それじゃ入りましょうか」
ミリアさんはそう言うと、いかにもな重厚な扉を押し開けた。
「これはミリア様にルカ様…他にも大勢居ますね……本日はどのようなご用件でしょうか?」
「全員姉さんに会いにきたのだけど、居るかしら?」
「はい、今でしたら三階の居間にいらっしゃるかと。ご案内します」
「よろしくね」
そして扉の向こう側に居たメイドサキュバスさんと淡々と会話を進めて行くミリアさん。
「ドレスなんて恥ずかしいからそのままの格好で来たけど……やっぱ場違いな感じがする……」
「うわーきれー!!」
「ひろーい!!」
「でっかいお城だー!!」
「……どうしてあんた達ってそんなにテンション高めでいられるわけ?」
一方では来た事あるはずなのにそわそわしてるルカさんと、目を輝かしてあちこちを忙しなく見ているアメリちゃんとフランちゃんとスズが居た。
廊下には豪華な絨毯が敷かれ、壁には絵画が飾られており、思わず目移りはするけど…
「……というかアメリちゃんとフランちゃんは魔王城に住んでるんだからこれくらい普通じゃないの?」
「おうちとちがうもん!」
「広いおうちはワクワクします!!」
「そういうものなんだね……」
魔王城よりは狭いだろうし、もっと豪華仕様だったりすると思うんだけど……やっぱり自分の家じゃないからワクワクするようだ。
「失礼しますセラ様。お客様をお連れしました」
「どうぞ」
と、いろいろ見ながら廊下を進んでいるうちに目的の場所に到着したようだ。
メイドサキュバスさんが扉をノックしたら、中からセラさんだと思われる女性の声が聞こえてきて、扉がゆっくりと開かれた。
「あらミリア。よく来てくれたわね、嬉しいわ」
そこに現れたのは、黒いドレスを着たミリアさんと違い黒い角、白い蝙蝠の様な翼を生やしたリリム…おそらくセラさんだった。
やはり他の姉妹と比べると、角の形状や顔つきなど細部は違えどどこか似ている。
「それにルカも……ん?」
扉から姿を現したセラさんらしきリリムは、まずミリアさんを、次にルカさんを見た後、私達を…より正確にはアメリちゃんを見て止まった。
「この子は……」
「はじめまして!セラお姉ちゃんですか?」
「ええ、私はセラ。あなたは?どうやら妹のようだけど……」
「アメリだよ!知らないお姉ちゃん達に会いたくて旅をしてるんだ!」
そして互いに自己紹介を始めた。
やはりこのリリムはセラさんだった……どこか高貴な雰囲気は出ているが、アメリちゃんと並ぶとやはりただの姉妹にしか見えない……って当たり前か。
「知らないお姉ちゃん達に会いたくて旅?」
「どうもそうらしいわ。ついさっき私も偶然出会ってね…まだ姉さんには会ってないって言うから連れて来たのよ」
「なるほどね…初めましてアメリ、よろしくね」
「うん!よろしくねセラお姉ちゃんみゅ!?」
そしてミリアさんと同じように、唐突にほっぺをむにむにし始めた。
……流行っているのだろうか?
「むにゃぁ……」
「それであなた達は…アメリと供に旅をしてる子達?」
「あ、はいそうです…」
このままお互いの自己紹介をし始め、ゆっくりとお話をし始めたのだった……
…………
………
……
…
「なるほどね…普段ぼんやりとしてるワーシープが旅してるなんておかしいと思ったわ。あんたは元人間なのね」
「はい。もう魔物になってから……いや、まだ魔物になってから2ヶ月ちょっとしか経ってないですけどね」
「あなた達結構凄い体験してるのね…もう足は大丈夫なの?」
「おかげさまで。走ることだって平気で出来ます」
「走るワーシープか……毛皮が生えてる状態だと想像がつかないわね……」
現在16時。
セラさんの家の居間で、クッキーや小さなケーキと一緒に紅茶を飲みながら色々なお話をしていた。
「ところで…セラさんの旦那さんは…居るのですよね?」
「今は寝てるわ。ちょっとやり過ぎちゃってね……」
「何を……とは聞きません。なんとなくセラさん艶々してますから想像つきますし」
「義兄さんの姿が見えないと思ってたけど、やっぱりそういう事だったのね……」
魔王様についての話とか、私達の旅の話だとか、普段セラさんがどんな事をしているとか……とにかくいろんな話をずっとしている。
「え?どういうこと?」
「子供は知らなくていいの」
「アメリ、簡単に言うと母様と父様がよくしている事よ」
「わかった!ベッドの上でラブラブしてたんだね!」
「……なんなのあんた達の家庭って……」
ちなみにユウロとスズとフランは今はこの場にいない。
なぜなら「この広いお城を見て周っていい?」と目を輝かせながらセラさんに許可を貰ってお城の探検を3人でしているからだ。
私やアメリちゃんはセラさんやミリアさん、それにルカさんとお話していたかったのでここに残っている。
「あ、そうだ。ねえねえセラお姉ちゃん、ミリアお姉ちゃん」
「ん?どうしたのアメリ?」
「お姉ちゃんたちってとしが近い姉妹だったよね?」
「そうね、私にとってミリアは一つ下の妹だわね。と言っても年齢で言えば7つ程違うけど…それがどうしたの?」
「なら昔からなかよかったのかなって。アメリは一つ上のお姉ちゃんとはなかいいけどそのお姉ちゃんはさらに一つ上のお姉ちゃんとはなかわるくはないけどよくもなさそうだから気になったんだ」
「なるほどね…」
と、ここでアメリちゃんが姉妹の仲について聞いていた。
まあたしかにミリアさんとセラさんは仲が良い…
一つ違いなら仲良さそうなものだが、姉妹で知らないなんて事も多いからリリムにはそれが通用しないだろうしな……
メーデさんとノーベさんも仲が良かったけど、それぞれさらに一つ上や下の話は聞かなかったもんな……
「そうね…昔から仲は良かったわよ。それこそミリアがまだ今のアメリより小さかった時からね」
「へぇ〜…」
小さい頃から仲が良いのか…互いを知らないリリムもいるのだから、そこまで仲が良いのは珍しいのかな?
「セラ姉さんは昔から私にかまってくれたからね。でも呼び名を広めるのはやめてほしいわ」
「よびな?」
「あんたも聞いた事あるかもよ?『麗翼姫』っての」
「ん〜……」
どうやらセラさんはミリアさんに呼び名を付けて広めているらしい。
私は聞いた事無いけど…たしかに綺麗な翼を持ったお姫様だから間違ってない。
ただまあ呼ばれてる本人は好きじゃないのか困り顔をしているが。
「あ、そうだ……ねえミリアお姉ちゃん」
「何かしら?もしかして聞いた事あったの?」
「うん、お城にいるお姉ちゃんたちから聞いたことあるよ。ミリアお姉ちゃんだってのは知らなかったけど……そういえばあと勇者ごろしってのもきいたことあるよ。これもミリアお姉ちゃん?」
「ええ、まあ、そう、ね……はぁ……」
アメリちゃんは聞いた事があるらしい。
そして新たな呼び名がアメリちゃんの口から出てきた……どうやらそれもミリアさんらしく、少しうんざりした様子で大きくため息を吐いていた。
しかし勇者殺しかぁ……魔王様の娘であるリリムが人をその言葉通りの意味で殺すだなんてありえないだろうから、おそらく骨抜きにでもして戦意を無くしたりしたとかなんだろうな……
アメリちゃんはまだ子供だからかそんな事は無いが、リリムは誘惑の魔法を使わなくたってその姿を見せただけで魅了し欲情させる事が出来るらしい。
身近にいる男であるユウロはあの十字のペンダントで魅了系を防いでいるせいで全く実感がないが、リリムとはそういうものだとの事だ。
「たっだいまー!!」
「見学きょかありがとうございました!すごく楽しかったです!!」
「凄く広かったな……つーかなんでお風呂が複数もあるんだ?」
話をしているうちに城内見学に行ってた3人が元気よく帰って来た。
3人とも目を輝かせながら帰ってきたが……外見通り広かったようで、ユウロはその表情に疲れも見てとれる。
「私と会話するよりも見たかったお城の見学はどうだった?」
「え……そ、それは……」
「ふふ、冗談よ。今からまたお話すればいいだけだしね。私の家の見学は楽しかった?」
「う、うん!広いしメイドさん達は優しいし珍しい物も多いし綺麗だしどこ見ても楽しかったよ!」
「そ、そう。でも少し落ち着いてね……」
そしてちょっと意地悪な事を言われうろたえた後、スズがもう少しでお互いの額がぶつかりそうなほど身を乗り出してセラさんに楽しかった事を伝えた。
それだけ興奮していたのだろう…満面の笑みを浮かべているその姿は怪物と恐れられているとは到底思えない。
「さてと。3人とも戻ってきた事だし、夕食の時間までもう少しある事でもあるし、お風呂にでも行きましょうか
「はい?」
スズを落ち着かせた後、セラさんは突然お風呂に行こうと言い出した。
「姉さんお風呂好きね」
「もちろん。あなたの翼の手入れやルカの髪も洗ってあげたいしね」
「えっ、アタシはいい……」
「そうね。ルカの背中を洗ってあげなきゃね」
「ちょっと!なんでそんな話になるのよ!!」
「あら、いつもの事じゃない」
「いつもでは無いでしょ!!勘違いさせるような事言わないでよ!!」
そしてミリアさんと二人でルカさんをからかい始めた。
さっきまでの話の中でもよくルカさんを弄っていたけど、まあルカさんは面白い反応してくれるし弄りたくなる気持ちもよくわかる。
「まあ、今日はミリアとルカだけじゃなくて、アメリの髪も洗ってあげたくてね」
「え、ホント!?ありがとうセラお姉ちゃん!!」
という事で、私達はちょっと早い気もするお風呂を堪能する事にした。
……もちろん、残念ながらユウロは別行動である。
====================
「ひろーい!」
「でかーい!!」
現在17時。
セラさんの案内で3つもある浴場の一つに案内してもらっていた。
この浴場はこのお城にある浴場の中でも一番大きな浴場らしい……
というか3つもあるって……セラさんは本当にお風呂が好きなんだなぁ……
「ほらサマリお姉ちゃん、アメリのテントのおふろはそんなに大きくないでしょ?」
「立派なお城と比べたら駄目だよアメリちゃん。規模が違うんだから」
しかしとにかく広い……
実際にそんな事しないが、この浴場で思いっきり運動ぐらいは出来ると思う。
「それでどうするの姉さん。誰から手をつけるの?」
「そうね…ミリアの翼やルカの髪の手入れもいいけど、折角私に会いに来てくれたし今回はアメリの髪を洗うのが最初ね。その後にミリア、ルカは最後になっちゃうけど待っててね」
「わーい♪」
「あ、アタシは別に……あ、そうだ……」
「ん?どうしたのルカ、慌てて脱衣所に行って……」
まずはアメリちゃんの髪を洗うと言いながら、セラさんは透明なケースから手入れ用の道具を取り出していた。
そしてセラさんの言葉を受け少しうろたえていたルカさんは、何かを思い出したかのように脱衣所の方に戻って行き……
「これよこれ、手土産として持ってきてた薬を取ってきたのよ」
「なんですかこれ?」
その手に不思議なものを持って再び入ってきた。
本人曰く何かの薬らしいが…浴槽に持ってきて……なんだろうか?
「これは湯に入れるだけでリラックス出来る効果の出る薬よ。もちろんこれならヴァンパイアだって浴槽に入れるようになるわよ」
「ほ、ホントですか!?」
「ついでの効果だったんだけど、今回はそれが良かったようね」
どうやら自作の、お風呂に入れるとリラックス出来る薬らしい。しかもヴァンパイアも普通に入れるようになるとの事でフランちゃんも大喜びだ。
「じゃあアタシはこれ入れてるから。変な事して誰かの身体に掛かってもいい思いはしないから絶対にしないでよね。特に変な場所は触らないでよね!」
「それって……触れって事かしら?」
「はあ?なんでそうなるのよ!」
「冗談よ、冗談」
微笑みながらルカさんに冗談を言うミリアさんに顔を真っ赤にしながら反応するルカさんは、ミリアさんに注意しながらも浴槽に薬を入れ始めた。
「じゃあアメリ、ここに座って」
「うん……ひゃっ!?」
「あ、ごめんね。熱かった?」
「う、ううん…ちょっとおどろいただけだよ……ちょうどいいあたたかさだよ」
「そう。じゃあこのまま洗っていくわね。何かあったら言ってね」
「うん!」
一方、セラさんは言っていたとおりにアメリちゃんの髪の毛を洗い始めた。
「私やミリア以上にサラサラしてるわね…やっぱり姉妹でも髪質は若干違うのか、それとも子供だからかしら?」
「ふにぃ〜♪」
「ぽけーっとしちゃって…そんなに気持ちいい?」
「気持ちいいよセラお姉ちゃん♪」
「ふふ、ありがと」
慣れた手つきでアメリちゃんの髪を洗うセラさん。
それは絶妙な心地良さなのだろう…アメリちゃんの顔は言われた通りぽけーっとしている。
「じゃあ泡を流すわよ。目に入らないようにしっかり瞑っていてね」
「はーい!」
そしてシャワーで白い泡が落とされる…
優しくアメリちゃんの髪を撫でるセラさん……初めてあったとは思えないくらい仲の良い姉妹に見える。
「こっちも出来たわよ。入ったら絶対リラックス出来るからね」
「よし一番乗りだ!」
「あ、こらスズ!走らない!!」
「アメリも入る!行こうフラン!」
「あたしはまだ身体洗いおわってないから先入ってて!」
アメリちゃんが髪を洗ってもらい終えたタイミングでルカさんのほうも準備が終わったらしい。
それを聞いたスズが走って入ろうとするのを注意しながら、身体を丁度洗い終えた私も入りに行く事にした。
「凄く賑やかね」
「そうね。じゃあミリア、次はあなたの番よ」
「わかったわ。お願いね姉さん」
そしてセラさんはミリアさんの綺麗な翼を手入れし始めた。
「ふぅ……いい湯だなぁ……」
「はは、サマリ年寄りっぽいな!」
「何よスズ……別に気持ちいいんだからいいじゃない」
「そうだな」
そんなセラさん達を見ながら、ゆっくりと湯船に浸かる私達。
ルカさんが入れた薬の効果なのか、いつも以上に身体の疲れが染み出て行く感じがする。
「あ〜いい湯だなぁ〜……」
「フランもおばあちゃんっぽい〜」
「いいじゃん。きもちいいしへんなきもちにならないんだもん」
「そ〜だね〜」
アメリちゃんとフランちゃんもご機嫌のようだ。
二人で仲良くこちらと同じようなやりとりをしている。
「こんな薬作れるなんてルカさんは凄いな!」
「なっ、べ、別にこれくらい普通よ!アタシの師匠はバフォメットだしね」
「へぇ〜……どうりで薬品とかに詳しいのですか〜……」
「ま、まあそれだけじゃないけどそうよ!」
前になんとなくアメリちゃんに聞いた話だと、バフォメットって色々と出来るらしいからな…
そんな上位魔物の弟子ならこれくらい簡単に作れちゃうのかと思うと尊敬せずにはいられない。
「やっぱり凄いですねルカさんは……」
「そうそう、こんな凄い事を普通だって言えるのが凄い……」
「そ、そんなに褒められてもかえって困るからやめてほしいんだけど……」
そうやって言うルカさんの表情が嬉しそうだったのは言わないでおこう……
そう思いながら、私はリラックスしていたのだった……
…………
………
……
…
「……で、なんでこうなったわけ……」
「今日会った人じゃないからいいでしょルカ?」
「そうね、たしかにそう言ったわね……」
現在22時。
お風呂に長々と入った後、用意されていた夜ご飯をユウロやようやく起きてきたセラさんの旦那さんと一緒に食べた。
しかしまあ流石リリム、ご飯が一段と豪華でおいしかった。
そしてセラさんの旦那さんも優しそうでいい人であった……この後もきっとまたセラさんに搾り取られそうではあったが。
「ルカお姉ちゃんもいっしょにねようよ!」
「……いいわ。もうこうなったからには何も言わないわよ」
「みんなでおとまり会ですね!」
それで今日は夜も更けてきたので、セラさんの家に皆で泊まる事になったのだ。
皆と言うのはもちろんミリアさんとルカさんも一緒にだ。
ルカさんは帰ろうとしていたが、前に何か言ったのか「今回は初対面じゃないからいいわよね?」とセラさんとミリアさん両名に言われて、結局一緒に泊まる事になったのだ。
まあその本人は今旦那さんとある意味寝ているのでこの場にはいないわけだが。
「というかあんた達は初対面の人の家にも堂々と泊めてもらうのね……」
「え、だってお姉ちゃんのおうちだもん。アメリとまってもんだいないと思うんだけど……」
「そ、そうきたか……じ、じゃああんた以外は?」
「だっていっしょに旅してるのになんでアメリだけべつにとまらないとダメなの?」
「な、なるほどね……」
いつの間にか仲良くなっているアメリちゃんとルカさんの話を聞きながら、私は……
「たしかに上手ね…美味しいわ」
「そ、そうですか?ありがとうございます!」
レナさんのお店でアメリちゃんが私のご飯はおいしいと言っていたのを思い出したミリアさんが「簡単なもの一品作ってくれない?」と言ってきたので、セラさんに厨房と食材を借りて私は簡単に野菜炒めを作った。
夕食を食べた後だったので少なめに、それでいて遅くなってもいけないから簡単に作ったのだが、なかなかの評価を得られたようだ。
「サマリの飯は美味いからな!」
「なんであんたが自慢げに語ってるのよ……」
「ユウロが自慢する事じゃないな」
「いやわかってるから……」
ユウロもそう言ってくれるので、私としてはとても嬉しかった……
まあルカさんとスズにツッコまれていたけどね…
「ふぁぁ〜…」
「あら?アメリもう眠いの?」
「うん…今日もたのしかったから…ねむたい……」
と、時間も時間だからか、アメリちゃんが大きな欠伸をして眠たそうにしていた。
「そうね…まだ早いといえば早いけど、もう寝ちゃう?」
「ですね。それにいつも寝るのはこんな時間ですからね」
「じゃあ寝ましょっか……男のあんたはなるべく離れて寝なさいよ」
「わかってますって……」
なので私達は、皆揃って寝る事にした。
と言ってもルカさんはいろいろあって男は好きでないようなので、ユウロはちょっと離れて寝る事になった。
可哀想だから近くで寝てあげようとも思ったが、特に離れてってわけでもないから別にいいか……
「それじゃあアメリ、今日は私と一緒に寝る?」
「うん、いいよミリアお姉ちゃん」
ただ今日はアメリちゃんは私では無くミリアさんに抱かれて寝る。
アメリちゃんの温もりが無いのは寂しいが仕方がない。
「ルカさん私と……」
「絶対に寝ないから!」
「……ちぇ……」
フランちゃんはいつもと変わらずスズに抱かれて寝るし、だからルカさんと一緒に寝ようと思ったが、言いだす前に断られてしまった。
「ではおやすみなさい」
「おやすみー」
「おやす……ぐぅ……」
皆でおやすみと言いあった後、皆順番に眠り始めたのだった……
====================
「それではお世話になりました!」
「バイバイセラお姉ちゃん!」
「ええ、また会いにきてね」
「うん!」
現在8時。
私達はセラさんのお城をでて、お別れの挨拶をしていた。
もちろん帰りもミリアさんの転移魔法で移動する…あの魔界をちょうど抜ける辺りまで送ってくれるそうだ。
「それじゃ姉さん、そろそろ行くから。また今度」
「ええ、ルカもまた今度ね」
「う、うん……」
挨拶も済んだので、私達はミリアさんの近くに集まり……
「それじゃあ行くわね……」
「……」
「はい到着」
「……わぁ……やっぱり凄いな転移魔法……」
足下が光ったなと思ったら、あっという間に薄暗い丘に辿り着いた。
「ここを真っ直ぐ行けば魔界は抜けられるわ。たぶんユウロ君もこれでインキュバス化する事は無いわ」
「ありがとうございます!」
もう少し歩いたら魔界を抜け、いよいよ魔物が多く棲む森に突入する。
その手前に町があるらしいからそこでしっかりと準備をしてから行こう。
「それじゃあアタシ達もこれで…」
「はい、お世話になりました!」
「私は世界の各地を散歩してるから、またどこかで会うかもしれないわね」
「その時はまたよろしくねミリアお姉ちゃん!」
私達はミリアさんとルカさんと別れ、次の目的地に向かって出発した。
次はどんな出会いがあるのだろうか……
その想いを胸に、私達は魔物が沢山棲む森…の先にあるシャインローズ領に向けて足を動かし始めた。
「……そうか?」
「そうかって……まあユウロがわからないのもなんとなくわかるけどさ……」
「人間にはおそろしい場所として見られるらしいですからユウロさんがぎもんに思うのも仕方ないですね」
現在12時。
私達は無事に魔界に辿り着く事が出来た。
見た事ないような形をした植物…例えば淡く光る花なんかが生え、家の形も人間界とは少し違った雰囲気が出ているし、空気も濃くて深呼吸すると気持ち良い。
そして何よりも違うのが、今は12時だというのに薄暗いのだ……だが決して不健康な感じでは無くて、むしろ過ごしやすい。
でもまあそれは魔物だからだろう…人間であるユウロはどこか禍々しいものを見ているような顔をし続けているし、空気だってどこか甘ったるいなんて言っていた。
言われてみればたしかに禍々しいかもしれないが…それでもやはり私には美しく感じる。
あまり自覚は無いが、やはり魔物化した際に価値観などが変わったのだろうか……
「はうぅ……」
「アメリ大丈夫か?」
「うん……魔界に入ってからはちょっと元気になったよ……」
昨日のシーボとの戦闘で魔力を使い過ぎて倒れてしまったアメリちゃん……歩くのもままならない程なので今はスズに背負われている。
ちょっと前に魔界に入ったところだが、さっきまでは身体を起こすのも大変そうだったのに今は身体を起こしてお話しているので、本人が言うように魔界に入ってからちょっとは元気になったようだ。
それでもやはり辛そうではあるし、それに……
ぐうぅぅぅぅ……
ぎゅるるる……
「……」
「うぅ……おなか空いて力が入らないよぉ……」
いつも以上に空腹を訴えてくるアメリちゃんのお腹の音…昨日の夜からずっとこんな調子だ。
もちろん昨日の夜も今日の朝も一応ご飯は食べている…が、少ししたらまたお腹が空いてしまうようであった。
そもそも毎回魔力が減り過ぎるとお腹がよく空いているし、今のアメリちゃんは物を食べる体力も無く、いつもと比べたらあまり食べて無いのでずっとお腹が空いている状態だ。
できればアメリちゃんの魔力を補充したいのだが……前カリンがアメリちゃんにあげていたような子供でも飲める精補給剤みたいなものでもあればいいけど……
「最終手段はユウロがアメリちゃんに精を注げば……」
「おい……」
「実際に挿入するんじゃなくて私がおちんちんを手で扱いてアメリちゃんの口の中に…」
「お前俺を精神的に攻めて殺す気か?」
「……冗談だからそんなに怒らないでよ……」
本気で危ない状態になった場合はユウロに射精してもらうしかないと思ったが…ユウロが珍しく怖い顔して怒ってきたのでこの話はやめにしよう。
「はぁ……もう昼だし、アメリちゃんもこんな調子だからどこかで昼飯食べようぜ」
「そうだね…でも魔界に人間がご飯を食べられるお店ってあるのかな?」
「いくらなんでもあると思いますよ。サマリさんだって人間とかわらないごはんたべてますよね?」
「それもそうだね……じゃあお店探してみようか」
まあお腹の音も鳴り続けているし、時間的にもちょうど良いので、私達はお昼ご飯を食べる為にどこか食事が出来るお店を探す事にした。
ぐうぅぅぅぅ……
ぐぎゅるるるぅぅ……
「……凄い音だな……」
「うぅ…言わないでスズお姉ちゃん……」
「アメリはしたない……」
「フランも言わないで……おなか空いたものは空いたの……」
アメリちゃんのお腹が限界を迎えそう…というか既に限界突破しているので、急いで探し出す事にした……
…………
………
……
…
「うーん…どこかにないかなぁ……」
「ん?なあサマリ…あの建物って飲食店じゃないか?」
「え?ああ、あの周りとちょっと違う感じの建物の事?」
「おう…というか魔界以外では大体あんな建物だから違う感じって言うのも違うかと……」
「ごはん〜……」
お店を探し始めてから20分程経過。
それらしきものが見当たらず探し続けていたら、ようやくそれらしきものが目の前に現れた。
「『狐の尻尾』かぁ……カリンがいたら絶対拒否してそうだよなぁ……」
「たしかにそうかもね」
「ごはん〜……」
他の建物と違って人間界と変わらない建物の『狐の尻尾』というお店。
営業中と書かれているし、アメリちゃんがさっきからご飯としか言わなくなってしまったので早速入る事にした。
……………………
「お店の見た目通り普通のメニューだな……何食べようか?」
「うーん…とりあえず何か頼んだ方が良いかな……」
「ごはん〜……」
「アタイはもう決めたよ」
「あたしも決めました!」
お店に入った後、男の店員さんに案内された私達は早速何かを注文しようとしていた。
「海鮮パスタとか美味しそうだね…」
「だな…俺も同じのにしようかな……」
「じゃあ決まりだね…すみませーん!」
メニューを見た感じでは特に変わった物はなさそうである…これならユウロも問題無く食べられるだろう。
という事で、私達はさっき案内してくれた男の人に注文を言って、料理が出てくるのを話しながら待つ事にした。
「そういえばフランちゃん、魔界に入ってから日傘差してないね」
「はい。魔界であればかさがなくても大丈夫ですから」
「へぇ……やっぱり暗いからか?」
「はい。日光がぜんぜんキツくないので……」
「ごはん〜……」
「……ねえアメリ、側近としてもしんゆうとしても言わせてもらうけど、もうちょっときちっと座ってまとうよ」
「だっておなか空いて力がぁ……」
「もぉ……」
こんな感じで他愛のないお話をしたり、くたっと机に伏しているアメリちゃんを窘めるフランちゃんを見てほんわかしながら待つ事数分……
「お待たせしました」
「わ〜おいしそ〜いただきまーす!!」
このお店の名前が狐の尻尾である理由であろう…おそらく店長だと思われる妖狐さんが注文した物を両手どころか細い腕にまで器用に乗せながら持ってきた。
お腹が空き過ぎて我慢が出来なかったアメリちゃんは、目の前に注文した物が置かれた瞬間に勢い良く食べ始めた。
「はむはむ……もぐもぐ……ぱくぱく…………」
「もーアメリったら……」
「まぁまぁフランちゃん、私達も食べようよ」
「そうですね…いただきます!」
魔界に入り少し元気になった為か勢い良く食べ続けてるアメリちゃんに続くように、私達も食べ始める事にした。
「あの…一つ聞いてもよろしいですか?」
「はい?ええ、いいですが……」
食べ始めて少ししたら、先程の妖狐さんが話し掛けてきた。
周りを見ると、丁度お客が少なくなった所のようだ……だから私達に話しかけてきたのだろうか?
「そこで美味しそうに食べてる女の子って……リリムですよね?」
「ぱくぱく……ごくんっ…うん、アメリはリリムだよ!」
どうやらアメリちゃんがリリムかどうか気になったらしい。
まあ今までの旅でなんとなくわかってきたが、普通子供のリリムが旅なんかしてると思わない…なので、不思議に思った人は聞いてくるんだろう。
と思ったら……
「やはりですか……という事はミリアさんの妹さんになりますね」
「ミリア……さん?その人ってアメリのお姉ちゃん?」
「えっと……リリムですが……知らないのですか?」
「うん……聞いたことあるかもしれないけど知らない……」
「そうでしたか……」
どうやら他にリリム……アメリちゃんのお姉さんを知っているらしい。
まあここは魔界だし、リリムもよく居たりするのかな?
「そのミリアお姉ちゃんってこの街に住んでるの?」
「いえ……このお店の常連ってところですかね」
「へぇ……会ってみたいなぁ……アメリ今会ったことないお姉ちゃんたちに会いたくて旅してるんだ」
「そうですか…ミリアさんはいろんな場所に行かれるのでもしかしたら会えるかもしれませんね」
ミリアさんというお姉さんはこのお店によく来るらしい…
タイミングさえ合えばもしかしたら会えたのかな……なんて思っていたら……
「いらっしゃいま……あ、お二人ともこんにちは」
「こんにちはレナ。今日は珍しくお昼にしては客の入りが少ないようね」
「まあ……ピーク時よりは少し遅い時間というのもありますけどね」
ちょうど新たなお客さんが来たらしい。
しかも、妖狐さん―レナさんと言うらしい―の知り合いのようだ。
誰が来たのだろうと思い、入口の方を見てみたら……
「そうだミリアさん、丁度良いタイミングで来ましたね」
「丁度良いタイミング?何かあったの?」
「実はこのお客さん達の一人が……」
ムスッとした表情をしている亜麻色の髪と赤い角に藍色の瞳を持ったサキュバスの少女と、白い髪と尻尾に赤い瞳にダークエンジェルのような漆黒の翼を持った女性がいた。
レナさんとのやりとりを見る限りだとどうやらこの漆黒の翼を持った女性がミリアさんらしい。
角は隠してでもいるのか見当たらないし、翼の形状はちょっとどころじゃない程違うけど…瞳や髪色、それに顔や雰囲気からすればたしかにリリムである。
「あれ?ねえミリア、そこの子供ってあんたの妹なんじゃない?」
「え?」
「ん?アメリのこと?」
と、ここでミリアさんらしき人の隣に居たサキュバスの少女がアメリちゃんに気付いたようだ。
アメリちゃんを指差してミリアさんにそう告げていた。
「あら…たしかに妹のようね……また増えたのね」
「うん?…………むにゅ!?」
「ええっ!?」
それを聞いたミリアさんはアメリちゃんに近付いて「また妹が増えた」と言った後……
……アメリちゃんのほっぺたをむにむにと触り始めた。
「何?知らない妹なの?」
「ええ、見た事も無いと思うわ…おそらく私が家を出た後に生まれた子だと思うわ」
「そういえばあんた達って姉妹で会う事無いって前に言ってたっけ……そんなものなのね」
「そういえばと言えば……あなた、名前は何ていうの?」
「むにゃ……アメリだよ!」
やはり互いに会った事が無いらしい。
まあアメリちゃんが知らなくて相手が知ってたのってリリスさんぐらいだったし、そのリリスさんよりは確実に年上っぽいから魔王城に住んでいないなら知らなくて当たり前か。
「むにぃ……えっと…あなたがミリアお姉ちゃん?」
「ええそうよ、はじめましてアメリ」
「はじめまして!」
少ししてようやくほっぺをむにむにする手を緩めたミリアさん。
「このアメリちゃんは会った事の無い姉妹に会う為に旅をしているとの事ですよ」
「うんそうだよ!会ったことないお姉ちゃんたちとお話したくて旅に出たの!」
「へぇ……」
アメリちゃんが旅をしている理由が意外だったのか、旅をしている理由を言ったら驚いた顔をしていた。
今までの経験上、リリムって姉妹にしては互いの事を知らない事が多いから、アメリちゃんみたいに他の姉妹に会いたいって思う人が少ないのかな?
「ところでアメリ、この人達はアメリと一緒に旅をしている人?」
「うん!」
そして私達の事が視界に入ったのか、私達の事を聞き始めた。
丁度良いし、自己紹介することにしよう。
「あ、私はサマリ、ワーシープです。アメリちゃんと一緒に旅してます」
「俺はユウロです。見ての通りただの人間です」
「アタイはウシオニのスズ、よろしく!」
「あたしはフランと申します。アメリの側近でありしんゆうです」
「よろしく。アメリと一緒に旅をしてくれてありがとうね」
やっぱり毎度出会ったら同じような自己紹介してる気もするけど……最初の挨拶は大事だからいいか。
「そういえばミリアお姉ちゃん、こっちのサキュバスのお姉ちゃんはだれ?」
私達は全員自己紹介を終えたので、入店してきた時よりは和らいでいるが未だ少し不機嫌そうなサキュバスの少女について聞いてみた。
「この子はルカ。私の友達」
「ミリアお姉ちゃんの友だちかー…よろしくねルカお姉ちゃん!」
「よ、よろしく……」
人見知りなのか、アメリちゃんと握手をしながらもミリアさんの隣で顔を赤くしながら目を逸らしているサキュバスの少女はルカちゃんというらしい。
私よりは幼く見えるのだが、ミリアさんの友達との事だからもしかしたら私よりは年上なのかなぁ……
「……ん?ねえあんた……」
「何ルカお姉ちゃん?」
「あんた…リリムにしては魔力少なくない?というか……消耗してる?」
「あ、わかりましたか……」
そんな感じで目を逸らしていたルカちゃんが、アメリちゃんの魔力の消耗を感じ取ったらしい。
さっきまでとはうってかわって、真剣な表情でアメリちゃんを見ていた。
「実は昨日教団兵の4精霊使いと鉢合わせしてしまいまして……」
「精霊さんたち全員にアメリの魔力ほとんど全部あげちゃったんだ……それで力出ないしおなか空くしでたいへん……」
「それはまた凄い事やってるわね……」
そして理由を言ったら今度は呆れ顔をされた。
表情豊かな子だなぁ……
「今までもそんな事無かった?」
「ここまでは初めてですが魔力が少なくなる事はありましたよ。今までは精補給剤を貰ったりとか…後は出会ったお姉さんに魔力を分けてもらったりとか……」
「へぇ……じゃあミリア、あんたがこの子に魔力を分けてあげたら?」
「そうね……分けてあげるわ。妹と関わるなんて滅多に無い良い機会だもの」
「ありがと……むにゅっ」
話し終わると同時にまたもやアメリちゃんのほっぺをむにっとつまんだミリアさん。
「むにぃ〜〜♪」
アメリちゃんが蕩けた表情をし始めたので、そのまま魔力をアメリちゃんに流しているようだ。
これでアメリちゃんの深刻な魔力不足は解消されたのか。偶然にもお姉さんと会えて良かった。
「……はい、これで大丈夫」
「むにゃぁ♪ありがとミリアお姉ちゃん……」
「凄い顔してるわね……」
ルカちゃんが言う通り、たしかに凄い顔をしてる……もう少しアメリちゃんが大人だったら男が見惚れるのではないだろうか。
「ミリアさん、ルカさん、お席はどこにします?」
「あ、ごめんなさいね。座る事を忘れていたわ」
と、ここでレナさんが少し苦笑いしながらどこに座るのかミリアさん達に尋ねた。
いくら知り合いとはいえお店のお客さんとして来ているのにいつまで経っても席に案内出来なかったので痺れを切らしたのだろう。
「あの、ミリアさんとルカちゃんもご一緒に……」
丁度良いやと思って、二人も私達と一緒に食べませんかと言おうとしたのだが……
「あのさああんた…アタシの事を『ちゃん』を付けて呼ぶのはやめてくれない?」
「へ?」
ルカ「ちゃん」と言ったのが気に食わなかったらしく、私を睨みながらそう言ってきた。
「そういう呼ばれ方嫌だし…そもそも言っとくけどアタシ多分あんたの3倍以上は生きてるからね」
「……へ?私は17ですが……」
「ふーん…17ならやっぱり3倍以上、しかも4倍近くはアタシの方が生きてるわ」
「ええっ!?ぜ、全然見えない……」
どうやらルカちゃん……いやルカさんは私よりも相当年上らしい。
もしかしたら年上かもとは思ったけど……魔物って見た目通りの年齢じゃ通用しないんだなぁ…って改めて思った瞬間だった。
「ルカにも色々とあるからね…」
「そうですか…じゃあこの話はもう止めとして……お二人とも一緒に食べませんか?」
「私はいいわよ。でもルカは……」
「アタシもいいけど。あんたが妹と話してる姿って言うのも興味あるしね」
見た目よりも若いのには何かしら他人に話していいようなものではない理由があるらしい…なので、その話はやめにして本来言おうとしていた事を言った。
二人ともその気になってくれたので、私達は一緒にお昼ご飯を食べる事になった。
「じゃあレナ、私はおまかせでいいわ」
「アタシは海鮮パスタとコーンスープで」
「はい、わかりました。すぐにお持ちしますね」
二人も注文を終えたので、早速色々と聞いてみる事にしよう。
「あのーミリアさん……」
「何?」
「ミリアさんの翼……他のリリムと結構違いますよね?」
「そうね。ちなみに角も隠してるわけじゃなくて最初から無いわよ」
「へぇ……」
まずはミリアさんの姿について聞いてみた。
今まで会ったお姉さん達も翼や尻尾、角の形に若干の違いがあったとはいえ、ここまで大きく違う人は初めて見た。
とは言っても顔はアメリちゃん含む他の姉妹に似ているのでリリムである事には間違いないだろうけど…なんでだろうか?
「ちなみに魔力の質も他の姉妹と比べたら強力らしくて、ついでに性欲は母様が驚くぐらい低いわよ」
「へぇ……どうしてなのミリアお姉ちゃん?」
「さあ?知らないわ。生まれた時から今まで生きてきてそうだっただけだもの」
「ふーん……」
どうやら他のリリムと色々違う部分があるらしいが、それは本人にもわからないし気にしていないようだ。
まあ……個人差の範疇と言えばそうかもしれない。
「アメリは私の翼や角についてどう思う?」
「ん〜……」
それでも少しは気になるのか、それともただアメリちゃんがどう思ったのかを興味本位でか、アメリちゃんに自分の姿について聞いていたミリアさん。
それに対してアメリちゃんが言った事は……
「つばさは……とべるの?」
「ええ。何の問題も無く飛べるわよ」
「じゃあいいんじゃないかな…きれいでちょっとうらやましいけど、あらうのたいへんそうだもん。どっちがいいとか言えないよね!」
「たしかにそうね」
見当違いのようで、そうでもなさそうな事を言った。
こうも曖昧な事を思ったのは、そう言われたミリアさんが同意しているようだったからだ。
「でも角ないのはなぁ……」
「あら…どうして?」
「角さわられると気持ちいいもん」
「そうなの……」
そしてアメリちゃん曰く角はあった方が良いらしい。
たしかに頭を洗ってあげてる時、角に触ると嬉しそうにしている。
「ま、私の姿についてはこれでおしまい。私自身わからないから質問されても困るしね」
「わかりました。じゃあ…ミリアさんとルカさんってよくこのお店に来るのですか?」
「ええそうよ。よくと言えるかはわからないけど、レナとは友達だからこのお店には行くわ」
「そうですか…じゃあ今日会えたのはホント偶然ですね……」
ただ自分の姿についてはあまり興味がないのか、早々に話題を変えようとしてきたミリアさん。
なので話題を変える事にしたのだった。
「じゃあ今度はこちらから良いかしら。皆さんはどうしてアメリと旅をしているの?」
そして今度は私達に質問してきたミリアさん。
「ではミリア様、あたしから……あたしはアメリの側近でもありますから……まあいっしょに旅してみたかったので……たいへんですからおうちに住んでる人に会ったらつれていってもらうよていです」
「へえ…幼馴染みか……」
「アタイは昔の記憶が無くて…記憶が戻ったらいいなって思ってね。それと一人は嫌だからかな」
「俺はまあ元勇者で、帰るわけにもいかないから一緒に旅し始めたってとこです……妹様を襲ってすんませんでした!!」
「私は……まあ世界中を旅していたかったから……ですね。アメリちゃんとは偶然出会いました」
「へぇ…それぞれ理由はバラバラなんだ……」
私達がアメリちゃんと旅している理由を聞いてきたので、それぞれ答えた。
ルカさんに言われた通り、たしかにこう言うと私達ってバラバラな理由で旅しているように思える。
「いや、でもまあ全員に共通しているのはこの世界を自分の足で見て周りたいって事ですね」
「なるほどね……」
でもまあ私以外はそれぞれ別の理由も付いてはいるが、今一緒に旅してる仲間は皆この理由だ。
「じゃあ次は…そうね…今までどんな姉妹に会ったの?」
「う〜ん……えっとね……」
次は今までにあったお姉さんについて聞いてきた。
自分が知っている姉妹に会ったのかの確認なのか、それとも関わりがなくても少しは気になるのか…
まあ理由はともかく聞かれたので答える事にしよう。
「まずはレスカティエでデルエラお姉ちゃんに会って……」
「テトラストでアクチさん、ファストサルドでリリスさん、あとマルクトでたまたま旅行に来てたフィオナさんにも会ったな…」
「そうだね。あとジパングでメーデさんとノーベさんにも会って…大陸に戻る時にアミナさんにも会ったよね」
「それで最近アイラさんに会って……そんなものか?」
「そうだね…」
こうして確認してみると…結構な人数のリリムに出会ってるんだなと思う。
デルエラさんは私は直接会ってないから除くとしたって、ミリアさんでアメリちゃんを含めて9人目だ。
名前だけと言えば…デルエラさんの他にも宵ノ宮で聞いた謎のナーラさんも居るな……聞いた事あるだけの人も含めたら11人か……
種族として確立されている程人数がいると言ってもリリムはそう居ないはず……だからもしアメリちゃんに出会ってなかったらその誰とも会う事も無かったのかもしれない……
そう考えると結構貴重な体験をしているんだな……
「なるほど……聞いた事あるのも居れば、全く知らない姉妹もいるわね……」
やはり全員が全員わかるわけではないようだ。
姉妹全員の顔と名前を知るリリムっているのかな?
なんてリリムについて考えてたら…
「そういえばセラ姉さんの名前は無かったような……」
「セラ?」
ミリアさんの口から、新たなリリムの名前が出てきた。
「そう、セラ姉さん。その様子だと会った事は無いようね」
「うん、知らないお姉ちゃんだよ。セラお姉ちゃんってどんなお姉ちゃんなの?」
セラさんと言うリリム……会った事はもちろん、聞いた事も無い……いったいどういう人なんだろうか?
「セラ姉さんというのは私の一つ上の姉で……」
「説明するより実際に会った方が早いんじゃない?」
という事でミリアさんがセラさんについて説明しようとしたところで……ルカさんが割って入った。
会った方が良いって…近くに居るのだろうか?
「ほら、ミリアならこの人数の転移も簡単でしょ?」
「まあ出来るけど……ルカ?」
「な、何よ…会いたいって言うのなら会わせてあげてもいいんじゃないの?」
どうやらミリアさんの転移魔法で連れて行くという事らしいが……ルカさんの様子が変だ。
「今日ここに来た目的…何かわかってる?」
「お待たせしました。冷めないうちに食べて下さいね」
「……この通り食事に来たのでしょ?」
と、ここでミリアさんとルカさんが頼んだ料理が届いた。
まるでミリアさんの話から逃げるように、ルカさんは届いたパスタをいそいそと食べ始めた。
「それもそうだけれど…ルカ、あなたそろそろ簡単な料理ぐらい出来るようになったほうが良いわよ?」
「出来てるじゃない。卵焼きとか…」
「殻ごと焼く卵焼きが出来てもねえ…」
「……へ?」
「何?何か問題でもある?」
「いえ……」
どうやらルカさんの料理の腕が相当酷いらしく、レナさんに料理を教えてもらおうとしてきたのもあるらしい。
というか殻ごと焼く卵焼きって……それってちゃんと焼けるのか?
「サマリお姉ちゃんもお料理出来るしルカお姉ちゃんにおしえてあげようよ!」
「はぁ?なんでそうなるの?」
「だってサマリお姉ちゃんいつもごはん作ってくれるけどおいしいもん!だからサマリお姉ちゃん!」
「え…………まあ実際にお店を出してるレナさんに教わった方が上達すると思うから私は遠慮しておきます……」
アメリちゃんが私に、ルカさんに料理を教えればと言ってきたが……まず本人がそんなに乗り気でない上に私より上手な人に教わるって話なら私が出る幕は無いだろう。
というか…卵をそのまま焼いたものを料理だって言える人に上手く教えられる気が全くしない……
とまあこんな感じに互いの話をしながら、楽しい昼食の時間を過ごしたのであった。
====================
「それでどうする?本当に今すぐにセラ姉さんに会ってみる?」
「うん!いつ会えるかわからないし、すぐ会いに行けるなら会いに行く!!」
現在14時。
お昼ご飯を食べ終わり、私達はミリアさん達と一緒にお店を出ていた。
「じゃあ決まりね。もちろんルカも行くわよね?」
「あんたの事だからどうせ行かないって言っても連れて行くのでしょ?別にいいわよ」
「うーん…そう言うって事はセラ姉さんに会いたくないって事か……セラ姉さん悲しむわね……」
「ちょ、ちょっと!そんな事言ってないでしょ!?会いに行くに決まってるじゃない!!」
「ふふ…じゃあ行きましょうか」
そしてこれから新たなアメリちゃんのお姉さんであるセラさんの住むお城に、ミリアさんの転移魔法で向かう事になったのだ。
私達はもちろん、ルカさんも一緒にだ。
ちなみにセラさんの住むお城は魔界ではないらしいのでユウロもこれなら一安心である。
「セラお姉ちゃんってどんなお姉ちゃんなんだろうな〜…」
「セラさまかぁ……やさしいお方ではあると思うけど……」
「ま、あってみてのお楽しみって事で……こっちは準備終わりましたよ!」
「じゃあ行きましょうか。それじゃあ皆私の近くに集まって……」
こちらの準備…といってもほとんど何もしていないが…を済ませ、早速向かう事にした。
ミリアさん達も準備は終わっていたようで…おそらく家に取りに行っていたのか、いつの間にかミリアさんの服装が黒を基調としたものから白いドレス姿に変わっていた。
もしかしてかなり立派な場所にでも行くのか……と思ったけど、ルカさんの方は服装の点ではさっきまでと特に変わった様子は無いのでセラさんの趣向か何かなのだろう。
そんなルカさんはさっきまで持ってなかった荷物を持っている……手土産かなんかだろうか?
「じゃあ行くわね…」
「……!?」
ミリアさんが転移魔法を使ったのか、足元が光ったなぁ…なんて思っていたら……
「はい、着いたわよ」
「……えっ!?」
あっという間に、森の中に佇む立派なお城が目の前に広がっていた。
……転移魔法って凄いなぁ……
「それじゃ入りましょうか」
ミリアさんはそう言うと、いかにもな重厚な扉を押し開けた。
「これはミリア様にルカ様…他にも大勢居ますね……本日はどのようなご用件でしょうか?」
「全員姉さんに会いにきたのだけど、居るかしら?」
「はい、今でしたら三階の居間にいらっしゃるかと。ご案内します」
「よろしくね」
そして扉の向こう側に居たメイドサキュバスさんと淡々と会話を進めて行くミリアさん。
「ドレスなんて恥ずかしいからそのままの格好で来たけど……やっぱ場違いな感じがする……」
「うわーきれー!!」
「ひろーい!!」
「でっかいお城だー!!」
「……どうしてあんた達ってそんなにテンション高めでいられるわけ?」
一方では来た事あるはずなのにそわそわしてるルカさんと、目を輝かしてあちこちを忙しなく見ているアメリちゃんとフランちゃんとスズが居た。
廊下には豪華な絨毯が敷かれ、壁には絵画が飾られており、思わず目移りはするけど…
「……というかアメリちゃんとフランちゃんは魔王城に住んでるんだからこれくらい普通じゃないの?」
「おうちとちがうもん!」
「広いおうちはワクワクします!!」
「そういうものなんだね……」
魔王城よりは狭いだろうし、もっと豪華仕様だったりすると思うんだけど……やっぱり自分の家じゃないからワクワクするようだ。
「失礼しますセラ様。お客様をお連れしました」
「どうぞ」
と、いろいろ見ながら廊下を進んでいるうちに目的の場所に到着したようだ。
メイドサキュバスさんが扉をノックしたら、中からセラさんだと思われる女性の声が聞こえてきて、扉がゆっくりと開かれた。
「あらミリア。よく来てくれたわね、嬉しいわ」
そこに現れたのは、黒いドレスを着たミリアさんと違い黒い角、白い蝙蝠の様な翼を生やしたリリム…おそらくセラさんだった。
やはり他の姉妹と比べると、角の形状や顔つきなど細部は違えどどこか似ている。
「それにルカも……ん?」
扉から姿を現したセラさんらしきリリムは、まずミリアさんを、次にルカさんを見た後、私達を…より正確にはアメリちゃんを見て止まった。
「この子は……」
「はじめまして!セラお姉ちゃんですか?」
「ええ、私はセラ。あなたは?どうやら妹のようだけど……」
「アメリだよ!知らないお姉ちゃん達に会いたくて旅をしてるんだ!」
そして互いに自己紹介を始めた。
やはりこのリリムはセラさんだった……どこか高貴な雰囲気は出ているが、アメリちゃんと並ぶとやはりただの姉妹にしか見えない……って当たり前か。
「知らないお姉ちゃん達に会いたくて旅?」
「どうもそうらしいわ。ついさっき私も偶然出会ってね…まだ姉さんには会ってないって言うから連れて来たのよ」
「なるほどね…初めましてアメリ、よろしくね」
「うん!よろしくねセラお姉ちゃんみゅ!?」
そしてミリアさんと同じように、唐突にほっぺをむにむにし始めた。
……流行っているのだろうか?
「むにゃぁ……」
「それであなた達は…アメリと供に旅をしてる子達?」
「あ、はいそうです…」
このままお互いの自己紹介をし始め、ゆっくりとお話をし始めたのだった……
…………
………
……
…
「なるほどね…普段ぼんやりとしてるワーシープが旅してるなんておかしいと思ったわ。あんたは元人間なのね」
「はい。もう魔物になってから……いや、まだ魔物になってから2ヶ月ちょっとしか経ってないですけどね」
「あなた達結構凄い体験してるのね…もう足は大丈夫なの?」
「おかげさまで。走ることだって平気で出来ます」
「走るワーシープか……毛皮が生えてる状態だと想像がつかないわね……」
現在16時。
セラさんの家の居間で、クッキーや小さなケーキと一緒に紅茶を飲みながら色々なお話をしていた。
「ところで…セラさんの旦那さんは…居るのですよね?」
「今は寝てるわ。ちょっとやり過ぎちゃってね……」
「何を……とは聞きません。なんとなくセラさん艶々してますから想像つきますし」
「義兄さんの姿が見えないと思ってたけど、やっぱりそういう事だったのね……」
魔王様についての話とか、私達の旅の話だとか、普段セラさんがどんな事をしているとか……とにかくいろんな話をずっとしている。
「え?どういうこと?」
「子供は知らなくていいの」
「アメリ、簡単に言うと母様と父様がよくしている事よ」
「わかった!ベッドの上でラブラブしてたんだね!」
「……なんなのあんた達の家庭って……」
ちなみにユウロとスズとフランは今はこの場にいない。
なぜなら「この広いお城を見て周っていい?」と目を輝かせながらセラさんに許可を貰ってお城の探検を3人でしているからだ。
私やアメリちゃんはセラさんやミリアさん、それにルカさんとお話していたかったのでここに残っている。
「あ、そうだ。ねえねえセラお姉ちゃん、ミリアお姉ちゃん」
「ん?どうしたのアメリ?」
「お姉ちゃんたちってとしが近い姉妹だったよね?」
「そうね、私にとってミリアは一つ下の妹だわね。と言っても年齢で言えば7つ程違うけど…それがどうしたの?」
「なら昔からなかよかったのかなって。アメリは一つ上のお姉ちゃんとはなかいいけどそのお姉ちゃんはさらに一つ上のお姉ちゃんとはなかわるくはないけどよくもなさそうだから気になったんだ」
「なるほどね…」
と、ここでアメリちゃんが姉妹の仲について聞いていた。
まあたしかにミリアさんとセラさんは仲が良い…
一つ違いなら仲良さそうなものだが、姉妹で知らないなんて事も多いからリリムにはそれが通用しないだろうしな……
メーデさんとノーベさんも仲が良かったけど、それぞれさらに一つ上や下の話は聞かなかったもんな……
「そうね…昔から仲は良かったわよ。それこそミリアがまだ今のアメリより小さかった時からね」
「へぇ〜…」
小さい頃から仲が良いのか…互いを知らないリリムもいるのだから、そこまで仲が良いのは珍しいのかな?
「セラ姉さんは昔から私にかまってくれたからね。でも呼び名を広めるのはやめてほしいわ」
「よびな?」
「あんたも聞いた事あるかもよ?『麗翼姫』っての」
「ん〜……」
どうやらセラさんはミリアさんに呼び名を付けて広めているらしい。
私は聞いた事無いけど…たしかに綺麗な翼を持ったお姫様だから間違ってない。
ただまあ呼ばれてる本人は好きじゃないのか困り顔をしているが。
「あ、そうだ……ねえミリアお姉ちゃん」
「何かしら?もしかして聞いた事あったの?」
「うん、お城にいるお姉ちゃんたちから聞いたことあるよ。ミリアお姉ちゃんだってのは知らなかったけど……そういえばあと勇者ごろしってのもきいたことあるよ。これもミリアお姉ちゃん?」
「ええ、まあ、そう、ね……はぁ……」
アメリちゃんは聞いた事があるらしい。
そして新たな呼び名がアメリちゃんの口から出てきた……どうやらそれもミリアさんらしく、少しうんざりした様子で大きくため息を吐いていた。
しかし勇者殺しかぁ……魔王様の娘であるリリムが人をその言葉通りの意味で殺すだなんてありえないだろうから、おそらく骨抜きにでもして戦意を無くしたりしたとかなんだろうな……
アメリちゃんはまだ子供だからかそんな事は無いが、リリムは誘惑の魔法を使わなくたってその姿を見せただけで魅了し欲情させる事が出来るらしい。
身近にいる男であるユウロはあの十字のペンダントで魅了系を防いでいるせいで全く実感がないが、リリムとはそういうものだとの事だ。
「たっだいまー!!」
「見学きょかありがとうございました!すごく楽しかったです!!」
「凄く広かったな……つーかなんでお風呂が複数もあるんだ?」
話をしているうちに城内見学に行ってた3人が元気よく帰って来た。
3人とも目を輝かせながら帰ってきたが……外見通り広かったようで、ユウロはその表情に疲れも見てとれる。
「私と会話するよりも見たかったお城の見学はどうだった?」
「え……そ、それは……」
「ふふ、冗談よ。今からまたお話すればいいだけだしね。私の家の見学は楽しかった?」
「う、うん!広いしメイドさん達は優しいし珍しい物も多いし綺麗だしどこ見ても楽しかったよ!」
「そ、そう。でも少し落ち着いてね……」
そしてちょっと意地悪な事を言われうろたえた後、スズがもう少しでお互いの額がぶつかりそうなほど身を乗り出してセラさんに楽しかった事を伝えた。
それだけ興奮していたのだろう…満面の笑みを浮かべているその姿は怪物と恐れられているとは到底思えない。
「さてと。3人とも戻ってきた事だし、夕食の時間までもう少しある事でもあるし、お風呂にでも行きましょうか
「はい?」
スズを落ち着かせた後、セラさんは突然お風呂に行こうと言い出した。
「姉さんお風呂好きね」
「もちろん。あなたの翼の手入れやルカの髪も洗ってあげたいしね」
「えっ、アタシはいい……」
「そうね。ルカの背中を洗ってあげなきゃね」
「ちょっと!なんでそんな話になるのよ!!」
「あら、いつもの事じゃない」
「いつもでは無いでしょ!!勘違いさせるような事言わないでよ!!」
そしてミリアさんと二人でルカさんをからかい始めた。
さっきまでの話の中でもよくルカさんを弄っていたけど、まあルカさんは面白い反応してくれるし弄りたくなる気持ちもよくわかる。
「まあ、今日はミリアとルカだけじゃなくて、アメリの髪も洗ってあげたくてね」
「え、ホント!?ありがとうセラお姉ちゃん!!」
という事で、私達はちょっと早い気もするお風呂を堪能する事にした。
……もちろん、残念ながらユウロは別行動である。
====================
「ひろーい!」
「でかーい!!」
現在17時。
セラさんの案内で3つもある浴場の一つに案内してもらっていた。
この浴場はこのお城にある浴場の中でも一番大きな浴場らしい……
というか3つもあるって……セラさんは本当にお風呂が好きなんだなぁ……
「ほらサマリお姉ちゃん、アメリのテントのおふろはそんなに大きくないでしょ?」
「立派なお城と比べたら駄目だよアメリちゃん。規模が違うんだから」
しかしとにかく広い……
実際にそんな事しないが、この浴場で思いっきり運動ぐらいは出来ると思う。
「それでどうするの姉さん。誰から手をつけるの?」
「そうね…ミリアの翼やルカの髪の手入れもいいけど、折角私に会いに来てくれたし今回はアメリの髪を洗うのが最初ね。その後にミリア、ルカは最後になっちゃうけど待っててね」
「わーい♪」
「あ、アタシは別に……あ、そうだ……」
「ん?どうしたのルカ、慌てて脱衣所に行って……」
まずはアメリちゃんの髪を洗うと言いながら、セラさんは透明なケースから手入れ用の道具を取り出していた。
そしてセラさんの言葉を受け少しうろたえていたルカさんは、何かを思い出したかのように脱衣所の方に戻って行き……
「これよこれ、手土産として持ってきてた薬を取ってきたのよ」
「なんですかこれ?」
その手に不思議なものを持って再び入ってきた。
本人曰く何かの薬らしいが…浴槽に持ってきて……なんだろうか?
「これは湯に入れるだけでリラックス出来る効果の出る薬よ。もちろんこれならヴァンパイアだって浴槽に入れるようになるわよ」
「ほ、ホントですか!?」
「ついでの効果だったんだけど、今回はそれが良かったようね」
どうやら自作の、お風呂に入れるとリラックス出来る薬らしい。しかもヴァンパイアも普通に入れるようになるとの事でフランちゃんも大喜びだ。
「じゃあアタシはこれ入れてるから。変な事して誰かの身体に掛かってもいい思いはしないから絶対にしないでよね。特に変な場所は触らないでよね!」
「それって……触れって事かしら?」
「はあ?なんでそうなるのよ!」
「冗談よ、冗談」
微笑みながらルカさんに冗談を言うミリアさんに顔を真っ赤にしながら反応するルカさんは、ミリアさんに注意しながらも浴槽に薬を入れ始めた。
「じゃあアメリ、ここに座って」
「うん……ひゃっ!?」
「あ、ごめんね。熱かった?」
「う、ううん…ちょっとおどろいただけだよ……ちょうどいいあたたかさだよ」
「そう。じゃあこのまま洗っていくわね。何かあったら言ってね」
「うん!」
一方、セラさんは言っていたとおりにアメリちゃんの髪の毛を洗い始めた。
「私やミリア以上にサラサラしてるわね…やっぱり姉妹でも髪質は若干違うのか、それとも子供だからかしら?」
「ふにぃ〜♪」
「ぽけーっとしちゃって…そんなに気持ちいい?」
「気持ちいいよセラお姉ちゃん♪」
「ふふ、ありがと」
慣れた手つきでアメリちゃんの髪を洗うセラさん。
それは絶妙な心地良さなのだろう…アメリちゃんの顔は言われた通りぽけーっとしている。
「じゃあ泡を流すわよ。目に入らないようにしっかり瞑っていてね」
「はーい!」
そしてシャワーで白い泡が落とされる…
優しくアメリちゃんの髪を撫でるセラさん……初めてあったとは思えないくらい仲の良い姉妹に見える。
「こっちも出来たわよ。入ったら絶対リラックス出来るからね」
「よし一番乗りだ!」
「あ、こらスズ!走らない!!」
「アメリも入る!行こうフラン!」
「あたしはまだ身体洗いおわってないから先入ってて!」
アメリちゃんが髪を洗ってもらい終えたタイミングでルカさんのほうも準備が終わったらしい。
それを聞いたスズが走って入ろうとするのを注意しながら、身体を丁度洗い終えた私も入りに行く事にした。
「凄く賑やかね」
「そうね。じゃあミリア、次はあなたの番よ」
「わかったわ。お願いね姉さん」
そしてセラさんはミリアさんの綺麗な翼を手入れし始めた。
「ふぅ……いい湯だなぁ……」
「はは、サマリ年寄りっぽいな!」
「何よスズ……別に気持ちいいんだからいいじゃない」
「そうだな」
そんなセラさん達を見ながら、ゆっくりと湯船に浸かる私達。
ルカさんが入れた薬の効果なのか、いつも以上に身体の疲れが染み出て行く感じがする。
「あ〜いい湯だなぁ〜……」
「フランもおばあちゃんっぽい〜」
「いいじゃん。きもちいいしへんなきもちにならないんだもん」
「そ〜だね〜」
アメリちゃんとフランちゃんもご機嫌のようだ。
二人で仲良くこちらと同じようなやりとりをしている。
「こんな薬作れるなんてルカさんは凄いな!」
「なっ、べ、別にこれくらい普通よ!アタシの師匠はバフォメットだしね」
「へぇ〜……どうりで薬品とかに詳しいのですか〜……」
「ま、まあそれだけじゃないけどそうよ!」
前になんとなくアメリちゃんに聞いた話だと、バフォメットって色々と出来るらしいからな…
そんな上位魔物の弟子ならこれくらい簡単に作れちゃうのかと思うと尊敬せずにはいられない。
「やっぱり凄いですねルカさんは……」
「そうそう、こんな凄い事を普通だって言えるのが凄い……」
「そ、そんなに褒められてもかえって困るからやめてほしいんだけど……」
そうやって言うルカさんの表情が嬉しそうだったのは言わないでおこう……
そう思いながら、私はリラックスしていたのだった……
…………
………
……
…
「……で、なんでこうなったわけ……」
「今日会った人じゃないからいいでしょルカ?」
「そうね、たしかにそう言ったわね……」
現在22時。
お風呂に長々と入った後、用意されていた夜ご飯をユウロやようやく起きてきたセラさんの旦那さんと一緒に食べた。
しかしまあ流石リリム、ご飯が一段と豪華でおいしかった。
そしてセラさんの旦那さんも優しそうでいい人であった……この後もきっとまたセラさんに搾り取られそうではあったが。
「ルカお姉ちゃんもいっしょにねようよ!」
「……いいわ。もうこうなったからには何も言わないわよ」
「みんなでおとまり会ですね!」
それで今日は夜も更けてきたので、セラさんの家に皆で泊まる事になったのだ。
皆と言うのはもちろんミリアさんとルカさんも一緒にだ。
ルカさんは帰ろうとしていたが、前に何か言ったのか「今回は初対面じゃないからいいわよね?」とセラさんとミリアさん両名に言われて、結局一緒に泊まる事になったのだ。
まあその本人は今旦那さんとある意味寝ているのでこの場にはいないわけだが。
「というかあんた達は初対面の人の家にも堂々と泊めてもらうのね……」
「え、だってお姉ちゃんのおうちだもん。アメリとまってもんだいないと思うんだけど……」
「そ、そうきたか……じ、じゃああんた以外は?」
「だっていっしょに旅してるのになんでアメリだけべつにとまらないとダメなの?」
「な、なるほどね……」
いつの間にか仲良くなっているアメリちゃんとルカさんの話を聞きながら、私は……
「たしかに上手ね…美味しいわ」
「そ、そうですか?ありがとうございます!」
レナさんのお店でアメリちゃんが私のご飯はおいしいと言っていたのを思い出したミリアさんが「簡単なもの一品作ってくれない?」と言ってきたので、セラさんに厨房と食材を借りて私は簡単に野菜炒めを作った。
夕食を食べた後だったので少なめに、それでいて遅くなってもいけないから簡単に作ったのだが、なかなかの評価を得られたようだ。
「サマリの飯は美味いからな!」
「なんであんたが自慢げに語ってるのよ……」
「ユウロが自慢する事じゃないな」
「いやわかってるから……」
ユウロもそう言ってくれるので、私としてはとても嬉しかった……
まあルカさんとスズにツッコまれていたけどね…
「ふぁぁ〜…」
「あら?アメリもう眠いの?」
「うん…今日もたのしかったから…ねむたい……」
と、時間も時間だからか、アメリちゃんが大きな欠伸をして眠たそうにしていた。
「そうね…まだ早いといえば早いけど、もう寝ちゃう?」
「ですね。それにいつも寝るのはこんな時間ですからね」
「じゃあ寝ましょっか……男のあんたはなるべく離れて寝なさいよ」
「わかってますって……」
なので私達は、皆揃って寝る事にした。
と言ってもルカさんはいろいろあって男は好きでないようなので、ユウロはちょっと離れて寝る事になった。
可哀想だから近くで寝てあげようとも思ったが、特に離れてってわけでもないから別にいいか……
「それじゃあアメリ、今日は私と一緒に寝る?」
「うん、いいよミリアお姉ちゃん」
ただ今日はアメリちゃんは私では無くミリアさんに抱かれて寝る。
アメリちゃんの温もりが無いのは寂しいが仕方がない。
「ルカさん私と……」
「絶対に寝ないから!」
「……ちぇ……」
フランちゃんはいつもと変わらずスズに抱かれて寝るし、だからルカさんと一緒に寝ようと思ったが、言いだす前に断られてしまった。
「ではおやすみなさい」
「おやすみー」
「おやす……ぐぅ……」
皆でおやすみと言いあった後、皆順番に眠り始めたのだった……
====================
「それではお世話になりました!」
「バイバイセラお姉ちゃん!」
「ええ、また会いにきてね」
「うん!」
現在8時。
私達はセラさんのお城をでて、お別れの挨拶をしていた。
もちろん帰りもミリアさんの転移魔法で移動する…あの魔界をちょうど抜ける辺りまで送ってくれるそうだ。
「それじゃ姉さん、そろそろ行くから。また今度」
「ええ、ルカもまた今度ね」
「う、うん……」
挨拶も済んだので、私達はミリアさんの近くに集まり……
「それじゃあ行くわね……」
「……」
「はい到着」
「……わぁ……やっぱり凄いな転移魔法……」
足下が光ったなと思ったら、あっという間に薄暗い丘に辿り着いた。
「ここを真っ直ぐ行けば魔界は抜けられるわ。たぶんユウロ君もこれでインキュバス化する事は無いわ」
「ありがとうございます!」
もう少し歩いたら魔界を抜け、いよいよ魔物が多く棲む森に突入する。
その手前に町があるらしいからそこでしっかりと準備をしてから行こう。
「それじゃあアタシ達もこれで…」
「はい、お世話になりました!」
「私は世界の各地を散歩してるから、またどこかで会うかもしれないわね」
「その時はまたよろしくねミリアお姉ちゃん!」
私達はミリアさんとルカさんと別れ、次の目的地に向かって出発した。
次はどんな出会いがあるのだろうか……
その想いを胸に、私達は魔物が沢山棲む森…の先にあるシャインローズ領に向けて足を動かし始めた。
12/10/08 21:16更新 / マイクロミー
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