前編
「よ、よお…げ、元気だったか?」
「うん!1週間監禁されてたけどね!」
誰か今の俺の状況を詳しく解説してくれないかなあ…
どうしてこうなっているんだろうか?
「そ、そうか。それでサキとは連絡取れなかったってわけだな」
「そうそう、ホント大変だったんだから」
突然の来訪者である女子は、気付いたら俺の部屋の中に入って居た。
とりあえず今俺の目の前にいる女子は、たぶんここ1週間も行方不明になってた幼馴染みのサキこと百瀬咲希(ももせさき)だと思われる。
どうやら本人が言うには何者かに監禁されていたらしい。
「大丈夫だったか?」とか「心配してたんだぞ!!」とか「よく無事に戻ってきた…」とか言うべきなんだろうけど…ぶっちゃけそれどころじゃない。
「と、ところで、何で俺の下宿先に来たんだよ?まだおじさん達に会ってないんだろ?心配してると思うから早く会いに行ってやれよ…」
「大丈夫!ヤる事シたらすぐ会いに行くから!!あ、なんだったらレツヤのケータイ貸して。両親に連絡するから」
「あ、いや、今充電してるから。そこの机に置いてあるから」
「ふーん…じゃあいいや」
レツヤってのは俺…笹木烈哉(ささきれつや)の事だが、今はそんな事どうでもいい。
とりあえず目の前にいるサキだと思われる女子からできるだけ離れなければ…
「ところでレツヤ…」
「な、なんだ?何か言いたい事でもあるのか?」
え?さっきからサキ『だと思われる女子』って言ってる理由?
それは…
「うん…さっきから妙に私と距離とってない?」
「さ、さあ?気のせいじゃない?」
目の前にいる女子は、確かにサキと同じ顔…というかサキそのものだろう。
「いや、私が近付こうとすると同じように後ろに下がっているよね?」
「え?あ、あはは…」
ただ、俺の幼馴染みであるサキは人間女子だったはずだ。
「も、もしかして…レツヤは私の事嫌い?」
「あ、そ、そんな事ないけど…嫌いだったら行方不明になってたサキを心配して無いし…」
だが、目の前にいるサキの顔を持つ女子は…
「だったら…シよ♪」
「な、何をだよ?」
「決まっているじゃない…食事(セックス)よ!!」
「まて!今なんか別の単語が聞こえたぞ!!」
頭に小さな角、背中側には薄桃色の小さな翼、腰から翼と同じ色の小さな尻尾が生えており、身体の大事なところに柔らかそうな桃色の体毛が生えていた。
「何言ってるの?それよりレツヤの美味しいご飯(精子)がたべたいなぁ♪」
「いや今も別の意味が聞こえたしそもそも俺はたいした料理作れねえよ!!」
そう、サキは人間を辞めていたのだった。
正確には魔物『レッサーサキュバス』になっていた。
魔物そのものは特に問題はない。
何故ならば、この世の中には魔物娘というものが普通に至る所に存在しているからだ。
事実、俺が通っている高校はここら一帯で一番魔物娘の生徒が多く、なんと各学年で約5割も在籍しているほどだ。
ちなみに各学年で男はインキュバス含めて3割ちょっと、人間女子はなんと2割未満しかいない。
で、そんな人間女子も卒業時は1割程まで減っている。
なぜなら、その間に半数程は様々な理由で人間を辞めているからだ。
だからサキが人間を辞めている事そのものも問題無い。
問題なのは、どうして行方不明になってた…本人が言うには監禁されていたサキが魔物化しているのかだ。
そして、どうして俺の家に来て、俺を追い詰めているのかということだ。
……ホントなんで!?
「別にいいじゃん!私レツヤの事ずっと一緒に居たいと想うほど大好きだし♪」
「告白のタイミングが悪過ぎて素直に喜べねえよ!!」
サキが俺を追い詰めながら好きだと言ってきた。
サキは可愛いし、幼馴染みではなく一人の男としての俺の事を好きだって言われて、嬉しくないわけがない。
実際俺も言い出すきっかけがなかっただけでいつの間にかこの幼馴染みを好きになってたし…両思いだったとわかって幸せな気分だ。
…普通ならな。
だが、今この状況でその事を言われても素直に喜べない。
レッサーサキュバス…それは魔物化したばかりの元人間だ。
つまり、もうサキは人間ではなく魔物…レッサーサキュバスだ。
レッサーサキュバスと言えば、言い方は悪いが…所謂性欲の塊だ。
先程の発言からも考えて、このままでは俺は今からサキに食べられてしまうのだろう…性的な意味で。
「もう!そんなに私とシたくないの!?やっぱりレツヤは私の事嫌いなの!?」
「いや好きだよ!俺もサキの事大好きだよ!!」
「!!…えへへ…嬉しい!!じゃあ両思いで付き合い始めた記念として早速愛の営みを…」
「それはまだ出来ない!」
「むぅ…なんでよ?」
流れで適当な感じで告白してしまい少し後悔したが、サキは嬉しそうに微笑んだのでひとまずOKとしよう。
問題はそこじゃなくて、次の段階(サキの言う愛の営み)である。
魔物化したばかりの魔物とのセックスは凄く激しいと聞くが、魔物とセックスして結果死んだという人は居ないらしいので命の保障はあるからそこはまあ問題は無い…とは言い切れない気がするけどまあいい。
で、問題というのは…
「俺避妊道具持ってねえよ!!」
「何言ってるの!?そんな余計なもの使う必要無い!!」
「いやいやいやいやいやいや!?妊娠なんかしたらヤバいだろ!?俺達まだ高校生だぞ!!更に言えば受験生だぞ!!」
そう、これである。
こんなヤる気満々なサキ(魔物娘)が体外射精で気が済むとは思えない。行為をシてしまえば必ず中出しを要求してくる…どころか無理矢理膣内に射精させられるだろう。
それは今の避妊道具=余計なもの発言からも読み取れる。
だが、いくら相手が人間でなくても妊娠はするのだ。可能性は人より低かろうがゼロではないのだ。
で、俺達は高校生だ。子供なんか出来たら社会的にも経済的にも非常にマズい。
だからこう言って拒否してるのに…
「そういう事言うなら…えいっ!!」
「な、何を…!?あ、足が!?」
「えへへ〜♪もう逃げられないよ♪」
突然サキの目が光ったと思ったら足が動かなくなっていた。
どうやら魔術の類らしい…石にでもなったかのようにピクリとも動かせない。
……ってなんでだよ!?メドゥーサじゃないんだからさ…
ってツッコミをする余裕もなさそうだ。
なぜなら、サキが獲物を追い詰めた時にしか出ることがなさそうな表情で俺の足元までじりじりと近付いてきたからだ。
「さぁ…早速シよう!!」
「ちょ!?ま、待った!!」
「イヤ!!」
そのままサキが俺のズボンに手を掛けてきた。
足以外は動くが、魔物になったサキを突き飛ばせる自信が無いし、そもそもサキを突き飛ばしたくない。
もうサキとセックスする事そのものについては諦めるしかなさそうだ。
だが、まだ時間を稼がせてもらう!!
ちょっと怖いし覚悟を決めるためにもいろんな人にいろいろと聞いておきたいのだ!!
「いや、サ、サキはどうして魔物になっているのか教えてほしいのだが…」
「えーそれ今言わないとダメ?シた後で言うよ!」
「今聞かないと最中も気になって集中できないかも…」
「なにぃ!?それはマズい!じゃあ今から教えてあげる!!」
よし!サキがその気になってくれた!!
今のうちに学校の友人達の中で役立つ意見を言ってくれそうな人にメールで聞いてみよう!!
そう思い偶然机の近くまできていた俺は、ケータイに手をのばしとりあえず同じクラスの男子の流二にメールする事にした。
なぜならあいつにはアルプの彼女がいる。
魔物化した知り合いとセックスした時の心境などを聞きたいのだ。
っと、その前に親にサキの生存報告と魔物化した事をメールしておくか…きっとサキの両親にも連絡してくれるだろう。
「じゃあまずは拐われた日からね…」
メールを作成し始めたところでサキが語り始めた。
実際何が起きたかものすごく気になるからメールを作成しつつもサキの話を聞く事にした。
========[一日目]========
「うっ……あ、あれ?ここどこ?」
気が付いたら私はどこか薄暗い場所にいた。
どうやら小屋みたいな場所らしい…扉はあるけど、施錠されてるのか開く気が全くしないし…換気扇はあるけど窓も無い…
これらから考えられる事は…私はどこかに閉じ込められたということか…
でも…なんで私はこんな場所にいるのだろうか?
「うーん……たしか……」
私は夏季補習が終わって学校から家に帰ろうとして、少し薄暗く人気の無い道を歩いていた。
今日の夕飯は何だろうな?なんて思いながらゆっくりと歩いていたら…
「後ろから誰かに襲われて…眠くなってきて…気が付いたらここにいたと…」
って感じだったかな…
あれ?ということは…
「私…誘拐された!?」
「ええ…どうやらそうらしいわ…」
「ふぇ!?だ、誰ですか?」
私の後ろから知らない女性の声が聞こえてきた。
発言からして私を誘拐した人ではなく、私と同じく誘拐された人だとは思うが…
恐る恐る振り返ってみると…
「あら…可愛い子ね…」
「へ!?あ、どうも…」
そこには、白衣を着たサキュバスのお姉さんがいた。
いろいろ考えていたから今までいたのに気付かなかった…
「えーっと…貴女は?」
「私は崎本優香(さきもとゆうか)。ある高校で保健医兼カウンセラーの先生をやっているわ。あなたと同じく帰宅中に誰かに誘拐されたってところね」
「そうですか…私は百瀬咲希、高校3年生です」
「あら受験生?大変な時期ね…」
「はい…まあ…あまり成績は良くないので…」
サキュバスの崎本先生が一緒にいて、さらにお話をしてくれたおかげで、拐われたという恐怖心は若干ではあるが薄らいでいった…
そのためなのか、私の中で今の状況に対する疑問が大きくなってきた…
「ところで…私達どうして誘拐なんかされたのでしょうか?」
「さあ?私にもさっぱり…気が付いたらここにいたし、犯人は私も見ていないわ」
私が何故誘拐されたのか…さっぱりわからない。
私は平凡な家庭の人間だし…いくらなんでも身代金目的とかじゃないよね…
それに、なんでサキュバスの先生と一緒に広い部屋に監禁されているんだ?おかしくないか?
あと、おかしいと言えば…
「この部屋…やたらと生活に必要なものが揃ってますよね…」
「そうね…ますますわけがわからないわね…」
そう、この部屋には生活に必要なものが普通にあるのだ。さすがに外部の情報が得られたり外部と通信出来るようなものは無いが、そうでないものはやたらと揃っているのだ。
ざっと見た感じだと…洋式トイレ、シャワーと一体化したお風呂、洗面台、机にクッション、冷蔵庫(中には飲み物と少量のお菓子)、冷房、ベッドなんかがあった。
トイレとお風呂は仕切りが無いし、ベッドもキングサイズのものが一台あるだけ(枕は2つ)と変な部分もあるが、そこは一緒に監禁されているのが同性なのでさほど問題はなさそうだが…
「んー…もしかしたらどこかにカメラでもあったりして…」
「ああ、隠し撮りですか…それは一応有り得ますね…」
先生が言うとおり、たしかにここまでオープンな部屋に閉じ込めているなら隠し撮りも有り得る。
女性の生活を隠し撮り…私にはさっぱりわからないけどそういうのが好きな人もいるだろう。
しかし…サキュバスの先生はともかく何故普通の人間である私もなんだろうか?綺麗どころなら他の魔物から選べばいい気がするのだが…
と、いろいろ思考を巡らせていたその時…!!
ガタンッ!!
「「!?」」
突然扉のほうから物音がしたので振り返ってみたら…
「…どうします?」
「そうね…ちょっと怖いけどいただいたほうが精神的にも体力的にもいいとは思うわ…」
固く閉ざされた扉の下に、食事…丸いパンとクリームシチューが置かれていた。
シチューからは湯気が出ているので温かいのだろう…しかも美味しそうな匂いが漂ってきて空腹を感じてきた。
そういえば今何時だろうか?少なくとも襲われた時は夕方だったから夜ではあろう…どおりでお腹が空くわけだ。
ということで、いきなり現れて怪しさたっぷりのパンとシチューを食べる事にしたのだが…
「…なんで『百瀬咲希用』と『崎本優香用』って書かれているんですかね?」
「さて…一瞬私がサキュバスだからって精液でも混ざってるのかと思ったけど…特に変わった臭いはしないわね…」
何故かお皿にそれぞれの名前が書かれていて、分けられていた。
名前が知られているのは、鞄やポケットの中にあったものが無くなっているし、おそらく学生証などを見られたからであろう。
まあ先生が言うにはどちらも違いはなさそうなのだが…どうしてだろうか?
「まあ考えてもわからないし、見られている可能性もあるし素直に従って食べましょ」
「そうですね…では…いただきます!」
「いただきます」
…………
………
……
…
「「ごちそうさまでした!」」
シチューとパンを食べてみたところ…普通に美味しく、別に変わったところは特になかった。
様子を見る限り先生のほうも問題なさそうだ。
「で、これからどうします?」
「そうね…部屋中を詳しく調べてみましょ。カメラとか見つかるかもしれないし、それが無くてもこの部屋に何があるかを把握しておいたほうがいいわ」
「そうですね。結構小物も多そうですし…調べてみましょう!」
ということで、私達は手分けして部屋に何があるのかを調べた結果…
「うーん…カメラらしき物はなさそうね…」
「そうですね…変な物が少しありますが、大半は生活用品ですね…」
コップ、歯ブラシ、箱ティッシュ、予備のトイレットペーパー、タオル、石鹸、リンスインシャンプー、絆創膏、市販の風邪薬と整腸剤、手鏡、etc…
それら生活用品が複数個ずつこの部屋に置かれていた。
変な物は…一応本がいくつか置かれていたのだがその中身が官能小説やヌード写真集など…まあいやらしい方向に特化していた。
「それで今からどうする?お風呂にでも入る?」
「そうですね…まだちょっと怖いのでこのまま寝ようかと…」
「それもそうね…そうだ、スイッチらしきものはなかったから電気は消せそうに無いわ。咲希ちゃんは明るい場所で寝られる?」
「ええ、一応寝られます」
「じゃあ寝ましょうか…今何時かはわからないけど、夜更かしは肌にも健康にも良くないしね…」
そう言ってベッドに入る先生。
ベッドは1つしかないので私もその隣に入って寝る事にした。
誰かと同じベッドで寝るというのは少し変な気分だが、ベッドは大きいし相手もサキュバスとはいえ同性なのでどこか安心して普通に寝る事が出来た…
====================
「…って感じで誘拐された日は終わったのよ」
「…そんな事が実際にあるものなんだな…」
今話を聞いて初めて知ったけど、一人じゃなかったんだな…
というかたぶん状況から考えて、その崎本先生ってサキュバスがサキをレッサーサキュバスにしたんだよな…どうしてかはまだわからないけど。
わからないといえば…今の話だけでは犯人の目的がさっぱりだ。
「そうそう…ってレツヤ、ちゃんと聞いてる?いつの間にかケータイ触ってるけど…」
「おう、聞いてるぞ。一応メールで親に連絡してるだけだ」
俺の親にメールでサキの無事と魔物化を報告したし、早速流二に聞いてみるか。
「そう…ならいいや。じゃあ次の日の話をするね…」
流二に…
『幼馴染みの女子が魔物化した。
性的な意味で襲われそう。
どうしたら良い?回避って可能か?
不可能ならどう構えればいい? 』
…とメールを送ったし、返信を待ちつつサキの話に集中する事にしよう…
========[二日目]========
「ふぁ〜…んん…」
「おはよう咲希ちゃん。よく眠れた?」
「あ……はい…おはようございます…」
目が覚めたら、隣から声が聞こえた。
隣をみたら優しく微笑みながらおはようと言った先生がいた…つまり、昨日拐われたのは夢ではなかったということだ。
その事実にガックリしながらも、私は先生に挨拶した。
「今何時でしょうか?」
「さあ…でも朝ご飯の時間ではあるようね…」
「へ?………あっ!」
思ったより眠れた感じなので時間が気になったが、残念ながらこの部屋には何故か時計が無いので時間を知る手段は無い。
だけど…何故か先生が朝ご飯の時間だと言った。
何でそんな事わかったんだろうと思いながら先生の視線の先を見たら…
「朝ご飯…ですかね?」
「ええ、たぶんそうね…私はあれがこの部屋に置かれた音で起きたわ。大体5分前よ」
「そうですか…」
昨日の夜と同じように、扉の下に食べ物が置かれていた。
朝ご飯はパックの牛乳とクロワッサン2つ、それにベーコンエッグのようだ……結構豪華だな。
「今日も指名されてますね…」
「そうね…ま、変わったとこはなさそうだし食べましょ」
昨日の夜ご飯と同じように分けられていたが、やはり特に変な味とかはしなかった。
………
……
…
「しかし、私達を誘拐した犯人はいったい何がしたいんですかね?」
「そうね…全く見当がつかないわ…」
それから特にやる事もなく、先生とずっとお話を続けていた。
「今頃親は心配してるかな〜…」
「私は…学校が事態に気付いてくれてたらいいな…」
昼ご飯の時間にでもなったのか扉の下から現れたチャーハンを食べ終え、ベッドに腰掛けながらだ。
「どうにかしてこの部屋から脱出出来ませんかね〜…」
「そうねぇ…私がリリムなら咲希ちゃんをスライムに変えたりして隙間から外に行かせたり出来ただろうけど…残念ながら私は普通のサキュバスだしね…」
「え、いや、それはちょっと…」
話しているうちに私は自分が誘拐そして監禁されている事をちょっとだけ忘れてしまうほど、先生とのお話は楽しかった。
「あら、魔物になるのは嫌?それともスライムになるのが嫌?」
「えっと…別にスライムじゃなくても…嫌とまでは言いませんが…」
「まあこれは例え話だからそんなに構えなくていいわよ?」
「あ、はい…」
ただ、魔物化の話だけは考えた事なかったので困ったが。
………
……
…
「「ごちそうさまでした」」
例の如く分けられていた夜ご飯も食べ終わった。
「結局何が目的なんでしょうか?」
「本当ね…私達を困らせたいだけだったりして」
「いくら何でもそれは…って言えないんですよね…本当に何したいんですかね?」
いまだに私達を誘拐した目的は見当もつかないままだ。
そもそもその犯人は私達の前に現れる気配がない。
そろそろ何をされるのかという恐怖よりも何がしたいのかという怒りや呆れのほうが大きくなってきた。
「まあ考えても仕方がない事はひとまずおいといて、今から何をするか決めましょ」
「そうですね…と言ってもあまり出来ること無いと思いますが…」
とりあえず犯人の考えなんてわからないものについての話を止め、今から何をするか決める事にした。
「どうする?ちょっと怖いけどお風呂入る?」
「うーん…そうですね〜…」
とりあえずお風呂に入るかどうか…より正確にはシャワーを浴びるかどうかという話をし始めた。
昨日は怖くて入れなかったし、正直今日も怖いが…流石に2日連続でお風呂に入らないのは嫌だった。
「怖いけど…身体は洗いたいですね…」
「そうよね…じゃあお風呂にしましょうか」
なので私達はお風呂に入る事にした。
でも私はやっぱりまだ怖いので、先に先生が入ってくれる事になったのだが…
「じゃあお先に…あら?咲希ちゃん、私の身体をじっと見てるけど…何か変?」
「ふぇ!?あ、いえ…ごめんなさい…」
服を脱いで裸になった崎本先生の身体を、私はじっと見ていた。
先生は魔物…しかもサキュバスなだけあって、その肌はつい触れたくなるような美しさだった。
それはもう私とは比べものにならないほどに……それに胸も……私もDはあるけど……比べ物にならない程大きい……ちょっぴり羨ましい。
「いや、綺麗だなぁと思って…」
「あら…ふふっ♪ありがとう」
そして先生が私に話し掛けたので私は我にかえり謝って素直に感想を言った。
嬉しかったのか、先生は微笑んだ…私が男子なら確実に惚れていたんじゃないかと思うほど美しい微笑みだった。
先生がシャワーを浴びている間、私はなるべく先生を見ないようにして、部屋内にカメラらしき物が無いか注意深く探したが、やはり見付からなかった。
そして先生が浴び終えた後私もシャワーを浴びた。
その時に私の裸姿を見て先生が「咲希ちゃんも綺麗な肌してるわよ♪」と言ってくれたのがお世辞だとしても凄く嬉しかった…けど、裸をじっと見られるのは流石に同性でも恥ずかしかった。
====================
「いやぁ…あの時はまだ犯人が何でご飯を分けていたのかわかってなかったんだよな〜」
「って事は意味はあったのか…」
「まあね。お風呂入るのも怖かったからな〜」
話を聞く限りでは監禁生活もそんなに酷いものではなさそうに聞こえるのだが、実際は大変だったのだろう。
その時の状況を話すサキの表情からも苦労や疲れが見られた。
♪〜〜
「ん?何の音?」
「あ、メールきた」
と、ここで俺のケータイから着メロが流れた。
つまり誰かからメールがきたのだろう…早速確認してみる事にする。
「おばさんから?」
「ん〜…んにゃ、友達からだ」
「…女?」
「アルプの彼女持ちの男だから安心しな」
メールは流二からだったので、ちょっと怖い顔で女かどうかを聞いてきたサキに素直に教える事にする。
さて、なんて返信がきたかなぁ〜っと…
『回避なんか出来るわけないから。
諦めて全てを受け入れろ。
というか最初から女だったんなら別にいいじゃねえか。
変な葛藤とかせずに済む分俺より遥かにマシだから。
追伸:今からミキとシ始めるのでメールしても返信できないからな』
…やはりそうきたか…
まあ回避出来ないと回答されるのはなんとなく予想出来ていたが、実際に言われると何とか回避したくなるものである。
という事で他の奴にも聞いてみようかと思う。
次は…ちょっとサキが怖いが魔物に聞いてみるか…
「それじゃあ3日目の話をするね!まあまだそんなに動きは無いけどね…」
誰に聞こうか考えつつ、俺はサキの話に集中する事にした。
========[三日目]========
「んん〜…ふぅ…」
「おはよう咲希ちゃん。よく眠れた?」
「あ、はい…おはようございます……って何をしてるんですか?」
目が覚めて、大きく伸びをしながら身体を起こしたら先生が昨日と同じようにおはようと言ったので、先生のほうを向いて挨拶したのだが…
「何って…ちょっと早起きしたから暇潰しの読書よ」
「え、いや…まあそうですが…」
先生はベッドの縁に座って本を読んでいた。
それだけならなにもおかしな事は無いし、むしろ本を読んでいる先生は知的に見えて似合ってはいるのだけど…
「だって…たしかその本って…」
「ん?ああ…結構面白いわよ?咲希ちゃんも読んでみる?」
「わ、私は読みません!!」
「そう…まあ咲希ちゃんには刺激が強すぎるかもね」
この部屋に置いてある本は全てやらしいものである。
先生が今読んでいるのはつまり…チラ見すらしたくない官能小説なのだ。
そんなものよく読めるなぁ…と少し思ったが、よく考えたら先生はサキュバスだから普通なのかな?
ガタッ…
「…どうやら朝ご飯のようね」
「はい…今日はおにぎりか〜…」
時間になったのか、朝ご飯が現れた。
今日はおにぎり2つに沢庵、それに肉入り野菜炒めみたいだ…なんか本当に監禁されているのかわからなくなるほど普通に豪華なメニューだな…
「じゃあ食べましょうか」
「そうですね。冷める前に食べましょう」
いつものように分けられた朝ご飯を、もう躊躇う事もなく食べ始めた…
………
……
…
「あ〜〜〜〜〜〜…暇だ〜〜〜〜〜〜〜…」
ご飯も食べ終わり、やる事が何もない…
「せめて単語帳だけでもあればな〜…」
人間暇になるとあんなに嫌な勉強ですらやりたくなるらしい…
「あーあ…本当に何がしたくて監禁なんかしてるんだろうな〜…」
でも、それすら出来ず私はただ叫んでいた。
と、このように暇を嘆いていたら…
「暇ならそこにある本でも読んでみたらどう?」
「えっ…私はちょっと…」
崎本先生が私に再び官能小説を薦めてきた。
そう言う先生は朝と同じく官能小説を読んでいた…と言ってももう4冊目だが。
「そう…でも結構面白いわよ?小説のほうは100%エロシーンってわけでもないのだから咲希ちゃんでもすんなりと読めるんじゃないかなとは思うけど…」
「うーん…」
そこまで言われると暇な今では読んでみようかなという気になってしまう。
「それじゃあ読んでみようかな…この3つで面白かったのってどっちですか?」
「そうねえ…一番右のが面白かったかな?」
「わかりました。じゃあ昼ご飯までこっち読んでます」
という事で、若干抵抗はあるがやる事がなく他に暇を潰す方法も思いつかないので、私は先生に薦められた小説を読む事にした。
……………………
「…どうだった?」
「…凄く…エロかったです…」
「あら?これでも刺激強すぎたかしら?」
途中お昼ご飯の時間を挟みつつ、先生に薦められた官能小説を読み終えた。
なんというか…想像以上に物凄く不健全な内容であった。
たしかに100%エロシーンってわけじゃ無かったけれど、だからといって普通の小説のように読む事は出来ない。
だって…大人の男性が女性の胸に吸いついてたり、女の人が男の人の性器を口で咥えたりとかしている破廉恥なシーンが普通に数度出てきたのだ…とても真顔で読めるものでは無い。
これを普通に読める先生はやっぱりサキュバスなんだなと改めて実感した。
「咲希ちゃんこういった経験なさそうだもんね…」
「あ、あるわけないですよ!!私人間ですし、まだ高3ですよ!?」
「そう?今時の高3なら人間でも結構居ると思うわよ?咲希ちゃん彼氏とセックスしないの?」
そして先生にそういった経験なさそうと言われたが、もちろんあるわけがない。
たしかに周りには経験ありそうな人もいるけど、私には無縁である。
「わ、私にはそういった関係の人なんかいません!!」
「えっ!?意外ね〜…咲希ちゃん可愛いからてっきり彼氏居るかと思ってたわ」
「か、彼氏はまだいません…」
何故なら、私には彼氏など居ないからだ。
たしかに今までで男子から告白された事も何度かあるが、全て断っていた。
「じゃあ…咲希ちゃんって好きな男の子いる?」
「えっ!?えっと〜……はい、一応います…」
だって…私にはずっと好きな男の子がいるから。
「へぇ〜!どんな子?」
「えっと…幼馴染みです…」
幼い頃からずっと一緒で、高校が別になってから初めて恋していたんだって気付いた男の子が…
レツヤがいるから…
「あら…それは素敵ね!幼馴染みに恋か…私もしてみたかったな」
「そういえば崎本先生って恋人とかはいるのですか?」
「えっと…残念ながら今のところいないわ…」
「えっ!?崎本先生ってかなり綺麗で美しいうえにサキュバスだからいると思ってました!」
「何か褒めすぎな気はするけどありがとね…それでも恋人はいないのよ…れっきとした処女だしね…」
「いやそこまでは聞いてませんが…意外でした……」
魔物なら恋人ぐらいいるかと思ってた…それこそ先生みたいな美人ならば結婚すらしていると思っていた。
かなり意外である……
「まあ私の事はおいといて…咲希ちゃんはその幼馴染みの子に告白しないの?」
「えっ!?こ、告白ですか!?し、しませんよ!!」
と、ここで先生が告白しないのかと聞いてきた。
もちろん、私にはそんな勇気などない。
それに、レツヤは私の事なんかどうとも思っていないだろう。
「どうして?フラれるのが怖い?」
「……はい……」
だから…私は告白しない…いや、告白出来ないでいた。
それに、告白してレツヤにフラれたら…きっと今までの関係すら崩れてしまうだろう…それは絶対に嫌だった。
「そっか…でも咲希ちゃんなら大丈夫だと思う…なんて気楽な意見を言うつもりはないわ」
「はい…え?」
その事を先生に伝えたら…アドバイスみたいな事を言い始めた。
「私は咲希ちゃんの事はこうして知っているけど、その幼馴染みの男の子の事は知らないからね…だからその子が咲希ちゃんの事をどう想っているのかは想像さえつける事は出来ないから大丈夫とは言えないわ…」
「は、はあ…」
「でもね…これだけは言えるわ…」
そう言いながら、先生は私の眼をじっと見据えて…
「自ら行動を起こさなければ良い結果なんかまず起こらないわよ」
「…えっ?」
「咲希ちゃんが怖くて告白出来ないのはとてもよくわかる。でもね…相手の気持ちがわからない以上、咲希ちゃんからいかないと良い関係になる可能性はとても低いままなのよ?」
「そ、それは…」
力強く…こう、言ってきた。
「それに…告白しなければ関係が壊れないだなんて思ってたら駄目よ?」
「えっ…ど、どうして…」
「たしかに幼馴染みという関係そのものは壊れないでしょうね…ただし、その子の横には咲希ちゃんじゃない女の子が居る事になるかもね」
「あ、そ、そんな…」
そして…考えたくもない恐ろしい事を言ってきた…
でもたしかにそれは有り得る…
レツヤが通っている学校は魔物率が高いし…レツヤが彼女達に惚れたり、その逆も無いとは言えない…
聞いた話ではレツヤの学校は魔物率が高いのに校内での性的行為は全面禁止されているらしいから襲われてって事は無いと思うけど…それ以外の可能性は捨てられないのだ…
「だから…怖くても自分から告白したほうがいいわよ?失敗を怖れてたら上手くいくものも上手くいかないから、怖れず自信を持ってね!」
「えっ、あ、はい…」
なので、断られる事を怖れずに告白したほうが良いと先生は力強くアドバイスしてくれた。
その力強さに思わずはいと言ったが…それでも怖くて自分から告白しようと思えない…
しかし、そんな私の考えはお見通しなのか…
「そうだ…どうしても怖いのなら…私が咲希ちゃんに告白する力をあげようか?」
「へっ!?力ですか?」
どこか妖しい笑顔を浮かべながら私にこう言ってきた。
たしかに告白する力が貰えるのはいいかもしれないが…
「それって…私を魔物にするという事ですか?」
「あら?わかっちゃった?」
「まあなんとなくですが…あとお断りさせていただきます」
「そう…まあ無理にとは言わないけど…」
やはり魔物になるという事だったので、私はその案を断った。
別に魔物になるのが死んでも嫌というわけではないけど、人間として産まれたのだから出来れば人間でいたいのだ。
「でも…魔物になったら良い事もあるのよ?」
「えっ…例えば?」
ただ先生は諦めきれないのか魔物になると良い事があると言ってきた。
魔物になる気は無いが、どんな事があるのかは気になるので一応聞いてみる事にする。
「例えば…そうねぇ…さっき言った告白する勇気も出てくるし、その幼馴染みの子に自分の身体の良さを直に教え込めばもう他の女なんかに目が行かなくなるから安心よ?」
「ああ…まあたしかに魔物の奥さんを持っている旦那様主体での浮気率はほぼ無いって聞きますね…でもそれってエッチな事をやれと言ってるようなものですし…ちょっと……」
「それにね…そこまで手入れしなくても綺麗な肌でいられるわ。流石に健康に悪い事をし続けると多少は悪くなっちゃうけどね」
「それは……ちょっと羨ましいかも……」
「更には…例えば咲希ちゃんが大きいおっぱいが欲しいと思って、その幼馴染みの子が巨乳好きだったら…大きなおっぱいも手に入るわ」
「余計なお世話です!!というか私は人間ではまだ大きい方です!!」
そこそこ気になるもの、特に最後はそれだけで魔物になってもいいかもって少し思ったが…やっぱり魔物になる気は無い。
それにだ…
「たとえ今私が先生の手でサキュバスになったところで、監禁されている現状では告白出来ないですからね」
「あ…それもそうか…」
たとえ魔物になったところで今の監禁されている状態ではレツヤに告白どころか部屋からの脱出すら無理である。
「本当にもどかしいわね…いつまで私達を閉じ込めておくつもりなのかしら?」
「本当に嫌になりますね…いい加減目的くらい言ってくれたっていいのに…」
これがきっかけとなり、話題は恋の話から未だ性別すらわからない私達を監禁した犯人への文句に変わって行った…
そしてこのまま夜まで犯人への文句のオンパレードだった…だからなのか、夜ご飯の豚の生姜焼きは嫌がらせか少し肉が固かった。
この事から、もしかしたら盗聴器みたいなものがある可能性が出てきたが…やはりそれらしき物は探しても見付からなかった。
「ふぁ〜…」
「あら咲希ちゃん、大きな欠伸ね」
「はい…今何時なのかはわかりませんがお風呂も入った事ですしもう眠いです…」
そして今日は疲れたのか、お風呂で身体をさっぱりさせたら急激に眠くなってきた。
「そうね…それじゃあおやすみ咲希ちゃん」
「はい…って崎本先生は寝ないのですか?」
「え、ええ…もう少し起きているわ」
だから寝ようとしたのだが、いつもは同じタイミングで寝る先生は寝ようとしなかった。
少し言い詰まったのが気になるが…わざわざ合わせる必要もないし、それに大方途中のページで開きっぱなしで置いてあるエッチな本を最後まで読んでから寝るつもりなのだろう。
「そうですか…ではおやすみなさい…」
なので私は先に寝る事にした。
やはり疲れていたのか、すぐに深い眠りについていった…
だから、私が寝た後先生が何をしていたのかは、この日は気付く事は無かった…
====================
「あーあ…今思えばあのエッチな本をちゃんと読んでおけばよかったな〜…」
「…一応聞くが何故そう思う?」
「だって〜…レツヤとセックスする時に参考になるじゃんか!」
「…やっぱりか…」
というかエロ本を読めばよかったなんていう比較的どうでもいい事を聞きたいわけじゃないのだが…
そんな事よりもより気になる事があるのだが…
「なあサキ…今の話からするとサキは魔物になる気無いって言ってたよな…それにその崎本先生ってサキュバスもサキを無理矢理に魔物にする気は無いって事だったんだよな…」
「うんそうだね…」
「じゃあどうしてサキはレッサーサキュバスになってるんだよ!?」
さっきの3日目の話的には魔物化が起こるとは思えなかったので聞いてみたのだが…
「それは…まだ秘密♪」
「は!?」
にぃーっと笑顔になりながら秘密と言われてしまった。
「またこれから順に話してあげるから楽しみに待っててよ!!」
「はあ…」
まあこの先の話で言ってくれるそうだから大人しく聞いている事にする。
あ、そうだ…メールしないと…
魔物か…同じクラスのバフォメットの八木に聞いてみようかな…
魔物だし魔物の気持ちもわかるだろうと思い、俺は…
『なあ、幼馴染みが魔物化しちまったんだけど…
求めてくるHって受け入れるべきか?
その場合何か覚悟しておいたほうがいいか? 』
…とメールを八木宛てに作成して送信した。
「でもさ〜、今となっては魔物になって良かったって思っているんだ〜」
「えっ?」
ちょうどメールを送信した瞬間、サキがさっきの話の続きをし始めて…
「だって〜…あんなに怖かったレツヤへの告白もすんなり出来たし〜…」
「ま、まあそうだな…」
嬉しそうに告白出来た事を言った後…
「それに…」
「それに?」
「この身体ならレツヤと一緒に気持ち良くなれるもんね…私だけを夢中で求めるようになってくれるもんね…」
「っ!?」
その悪魔の姿に合うようで合わないような少し怖い笑顔でこう呟いた。
「ねえ、レツヤ…」
「お、おう…ま、まあ4日目の話をしてくれよ…」
「そうだね…早く最後まで話をして…ふふっ♪」
何故かサキに今すぐ捕食されてしまうような錯覚(あながち間違ってはいない気はするが)に襲われたので、監禁中の話の続きを促して話題を逸らす事にした。
「そうだね…たしかあの日は…」
それが功を奏し、サキは4日目の話をし始めた。
ただ俺と早くセックスしたいからか、さっきより若干早口で話を始めた…
「うん!1週間監禁されてたけどね!」
誰か今の俺の状況を詳しく解説してくれないかなあ…
どうしてこうなっているんだろうか?
「そ、そうか。それでサキとは連絡取れなかったってわけだな」
「そうそう、ホント大変だったんだから」
突然の来訪者である女子は、気付いたら俺の部屋の中に入って居た。
とりあえず今俺の目の前にいる女子は、たぶんここ1週間も行方不明になってた幼馴染みのサキこと百瀬咲希(ももせさき)だと思われる。
どうやら本人が言うには何者かに監禁されていたらしい。
「大丈夫だったか?」とか「心配してたんだぞ!!」とか「よく無事に戻ってきた…」とか言うべきなんだろうけど…ぶっちゃけそれどころじゃない。
「と、ところで、何で俺の下宿先に来たんだよ?まだおじさん達に会ってないんだろ?心配してると思うから早く会いに行ってやれよ…」
「大丈夫!ヤる事シたらすぐ会いに行くから!!あ、なんだったらレツヤのケータイ貸して。両親に連絡するから」
「あ、いや、今充電してるから。そこの机に置いてあるから」
「ふーん…じゃあいいや」
レツヤってのは俺…笹木烈哉(ささきれつや)の事だが、今はそんな事どうでもいい。
とりあえず目の前にいるサキだと思われる女子からできるだけ離れなければ…
「ところでレツヤ…」
「な、なんだ?何か言いたい事でもあるのか?」
え?さっきからサキ『だと思われる女子』って言ってる理由?
それは…
「うん…さっきから妙に私と距離とってない?」
「さ、さあ?気のせいじゃない?」
目の前にいる女子は、確かにサキと同じ顔…というかサキそのものだろう。
「いや、私が近付こうとすると同じように後ろに下がっているよね?」
「え?あ、あはは…」
ただ、俺の幼馴染みであるサキは人間女子だったはずだ。
「も、もしかして…レツヤは私の事嫌い?」
「あ、そ、そんな事ないけど…嫌いだったら行方不明になってたサキを心配して無いし…」
だが、目の前にいるサキの顔を持つ女子は…
「だったら…シよ♪」
「な、何をだよ?」
「決まっているじゃない…食事(セックス)よ!!」
「まて!今なんか別の単語が聞こえたぞ!!」
頭に小さな角、背中側には薄桃色の小さな翼、腰から翼と同じ色の小さな尻尾が生えており、身体の大事なところに柔らかそうな桃色の体毛が生えていた。
「何言ってるの?それよりレツヤの美味しいご飯(精子)がたべたいなぁ♪」
「いや今も別の意味が聞こえたしそもそも俺はたいした料理作れねえよ!!」
そう、サキは人間を辞めていたのだった。
正確には魔物『レッサーサキュバス』になっていた。
魔物そのものは特に問題はない。
何故ならば、この世の中には魔物娘というものが普通に至る所に存在しているからだ。
事実、俺が通っている高校はここら一帯で一番魔物娘の生徒が多く、なんと各学年で約5割も在籍しているほどだ。
ちなみに各学年で男はインキュバス含めて3割ちょっと、人間女子はなんと2割未満しかいない。
で、そんな人間女子も卒業時は1割程まで減っている。
なぜなら、その間に半数程は様々な理由で人間を辞めているからだ。
だからサキが人間を辞めている事そのものも問題無い。
問題なのは、どうして行方不明になってた…本人が言うには監禁されていたサキが魔物化しているのかだ。
そして、どうして俺の家に来て、俺を追い詰めているのかということだ。
……ホントなんで!?
「別にいいじゃん!私レツヤの事ずっと一緒に居たいと想うほど大好きだし♪」
「告白のタイミングが悪過ぎて素直に喜べねえよ!!」
サキが俺を追い詰めながら好きだと言ってきた。
サキは可愛いし、幼馴染みではなく一人の男としての俺の事を好きだって言われて、嬉しくないわけがない。
実際俺も言い出すきっかけがなかっただけでいつの間にかこの幼馴染みを好きになってたし…両思いだったとわかって幸せな気分だ。
…普通ならな。
だが、今この状況でその事を言われても素直に喜べない。
レッサーサキュバス…それは魔物化したばかりの元人間だ。
つまり、もうサキは人間ではなく魔物…レッサーサキュバスだ。
レッサーサキュバスと言えば、言い方は悪いが…所謂性欲の塊だ。
先程の発言からも考えて、このままでは俺は今からサキに食べられてしまうのだろう…性的な意味で。
「もう!そんなに私とシたくないの!?やっぱりレツヤは私の事嫌いなの!?」
「いや好きだよ!俺もサキの事大好きだよ!!」
「!!…えへへ…嬉しい!!じゃあ両思いで付き合い始めた記念として早速愛の営みを…」
「それはまだ出来ない!」
「むぅ…なんでよ?」
流れで適当な感じで告白してしまい少し後悔したが、サキは嬉しそうに微笑んだのでひとまずOKとしよう。
問題はそこじゃなくて、次の段階(サキの言う愛の営み)である。
魔物化したばかりの魔物とのセックスは凄く激しいと聞くが、魔物とセックスして結果死んだという人は居ないらしいので命の保障はあるからそこはまあ問題は無い…とは言い切れない気がするけどまあいい。
で、問題というのは…
「俺避妊道具持ってねえよ!!」
「何言ってるの!?そんな余計なもの使う必要無い!!」
「いやいやいやいやいやいや!?妊娠なんかしたらヤバいだろ!?俺達まだ高校生だぞ!!更に言えば受験生だぞ!!」
そう、これである。
こんなヤる気満々なサキ(魔物娘)が体外射精で気が済むとは思えない。行為をシてしまえば必ず中出しを要求してくる…どころか無理矢理膣内に射精させられるだろう。
それは今の避妊道具=余計なもの発言からも読み取れる。
だが、いくら相手が人間でなくても妊娠はするのだ。可能性は人より低かろうがゼロではないのだ。
で、俺達は高校生だ。子供なんか出来たら社会的にも経済的にも非常にマズい。
だからこう言って拒否してるのに…
「そういう事言うなら…えいっ!!」
「な、何を…!?あ、足が!?」
「えへへ〜♪もう逃げられないよ♪」
突然サキの目が光ったと思ったら足が動かなくなっていた。
どうやら魔術の類らしい…石にでもなったかのようにピクリとも動かせない。
……ってなんでだよ!?メドゥーサじゃないんだからさ…
ってツッコミをする余裕もなさそうだ。
なぜなら、サキが獲物を追い詰めた時にしか出ることがなさそうな表情で俺の足元までじりじりと近付いてきたからだ。
「さぁ…早速シよう!!」
「ちょ!?ま、待った!!」
「イヤ!!」
そのままサキが俺のズボンに手を掛けてきた。
足以外は動くが、魔物になったサキを突き飛ばせる自信が無いし、そもそもサキを突き飛ばしたくない。
もうサキとセックスする事そのものについては諦めるしかなさそうだ。
だが、まだ時間を稼がせてもらう!!
ちょっと怖いし覚悟を決めるためにもいろんな人にいろいろと聞いておきたいのだ!!
「いや、サ、サキはどうして魔物になっているのか教えてほしいのだが…」
「えーそれ今言わないとダメ?シた後で言うよ!」
「今聞かないと最中も気になって集中できないかも…」
「なにぃ!?それはマズい!じゃあ今から教えてあげる!!」
よし!サキがその気になってくれた!!
今のうちに学校の友人達の中で役立つ意見を言ってくれそうな人にメールで聞いてみよう!!
そう思い偶然机の近くまできていた俺は、ケータイに手をのばしとりあえず同じクラスの男子の流二にメールする事にした。
なぜならあいつにはアルプの彼女がいる。
魔物化した知り合いとセックスした時の心境などを聞きたいのだ。
っと、その前に親にサキの生存報告と魔物化した事をメールしておくか…きっとサキの両親にも連絡してくれるだろう。
「じゃあまずは拐われた日からね…」
メールを作成し始めたところでサキが語り始めた。
実際何が起きたかものすごく気になるからメールを作成しつつもサキの話を聞く事にした。
========[一日目]========
「うっ……あ、あれ?ここどこ?」
気が付いたら私はどこか薄暗い場所にいた。
どうやら小屋みたいな場所らしい…扉はあるけど、施錠されてるのか開く気が全くしないし…換気扇はあるけど窓も無い…
これらから考えられる事は…私はどこかに閉じ込められたということか…
でも…なんで私はこんな場所にいるのだろうか?
「うーん……たしか……」
私は夏季補習が終わって学校から家に帰ろうとして、少し薄暗く人気の無い道を歩いていた。
今日の夕飯は何だろうな?なんて思いながらゆっくりと歩いていたら…
「後ろから誰かに襲われて…眠くなってきて…気が付いたらここにいたと…」
って感じだったかな…
あれ?ということは…
「私…誘拐された!?」
「ええ…どうやらそうらしいわ…」
「ふぇ!?だ、誰ですか?」
私の後ろから知らない女性の声が聞こえてきた。
発言からして私を誘拐した人ではなく、私と同じく誘拐された人だとは思うが…
恐る恐る振り返ってみると…
「あら…可愛い子ね…」
「へ!?あ、どうも…」
そこには、白衣を着たサキュバスのお姉さんがいた。
いろいろ考えていたから今までいたのに気付かなかった…
「えーっと…貴女は?」
「私は崎本優香(さきもとゆうか)。ある高校で保健医兼カウンセラーの先生をやっているわ。あなたと同じく帰宅中に誰かに誘拐されたってところね」
「そうですか…私は百瀬咲希、高校3年生です」
「あら受験生?大変な時期ね…」
「はい…まあ…あまり成績は良くないので…」
サキュバスの崎本先生が一緒にいて、さらにお話をしてくれたおかげで、拐われたという恐怖心は若干ではあるが薄らいでいった…
そのためなのか、私の中で今の状況に対する疑問が大きくなってきた…
「ところで…私達どうして誘拐なんかされたのでしょうか?」
「さあ?私にもさっぱり…気が付いたらここにいたし、犯人は私も見ていないわ」
私が何故誘拐されたのか…さっぱりわからない。
私は平凡な家庭の人間だし…いくらなんでも身代金目的とかじゃないよね…
それに、なんでサキュバスの先生と一緒に広い部屋に監禁されているんだ?おかしくないか?
あと、おかしいと言えば…
「この部屋…やたらと生活に必要なものが揃ってますよね…」
「そうね…ますますわけがわからないわね…」
そう、この部屋には生活に必要なものが普通にあるのだ。さすがに外部の情報が得られたり外部と通信出来るようなものは無いが、そうでないものはやたらと揃っているのだ。
ざっと見た感じだと…洋式トイレ、シャワーと一体化したお風呂、洗面台、机にクッション、冷蔵庫(中には飲み物と少量のお菓子)、冷房、ベッドなんかがあった。
トイレとお風呂は仕切りが無いし、ベッドもキングサイズのものが一台あるだけ(枕は2つ)と変な部分もあるが、そこは一緒に監禁されているのが同性なのでさほど問題はなさそうだが…
「んー…もしかしたらどこかにカメラでもあったりして…」
「ああ、隠し撮りですか…それは一応有り得ますね…」
先生が言うとおり、たしかにここまでオープンな部屋に閉じ込めているなら隠し撮りも有り得る。
女性の生活を隠し撮り…私にはさっぱりわからないけどそういうのが好きな人もいるだろう。
しかし…サキュバスの先生はともかく何故普通の人間である私もなんだろうか?綺麗どころなら他の魔物から選べばいい気がするのだが…
と、いろいろ思考を巡らせていたその時…!!
ガタンッ!!
「「!?」」
突然扉のほうから物音がしたので振り返ってみたら…
「…どうします?」
「そうね…ちょっと怖いけどいただいたほうが精神的にも体力的にもいいとは思うわ…」
固く閉ざされた扉の下に、食事…丸いパンとクリームシチューが置かれていた。
シチューからは湯気が出ているので温かいのだろう…しかも美味しそうな匂いが漂ってきて空腹を感じてきた。
そういえば今何時だろうか?少なくとも襲われた時は夕方だったから夜ではあろう…どおりでお腹が空くわけだ。
ということで、いきなり現れて怪しさたっぷりのパンとシチューを食べる事にしたのだが…
「…なんで『百瀬咲希用』と『崎本優香用』って書かれているんですかね?」
「さて…一瞬私がサキュバスだからって精液でも混ざってるのかと思ったけど…特に変わった臭いはしないわね…」
何故かお皿にそれぞれの名前が書かれていて、分けられていた。
名前が知られているのは、鞄やポケットの中にあったものが無くなっているし、おそらく学生証などを見られたからであろう。
まあ先生が言うにはどちらも違いはなさそうなのだが…どうしてだろうか?
「まあ考えてもわからないし、見られている可能性もあるし素直に従って食べましょ」
「そうですね…では…いただきます!」
「いただきます」
…………
………
……
…
「「ごちそうさまでした!」」
シチューとパンを食べてみたところ…普通に美味しく、別に変わったところは特になかった。
様子を見る限り先生のほうも問題なさそうだ。
「で、これからどうします?」
「そうね…部屋中を詳しく調べてみましょ。カメラとか見つかるかもしれないし、それが無くてもこの部屋に何があるかを把握しておいたほうがいいわ」
「そうですね。結構小物も多そうですし…調べてみましょう!」
ということで、私達は手分けして部屋に何があるのかを調べた結果…
「うーん…カメラらしき物はなさそうね…」
「そうですね…変な物が少しありますが、大半は生活用品ですね…」
コップ、歯ブラシ、箱ティッシュ、予備のトイレットペーパー、タオル、石鹸、リンスインシャンプー、絆創膏、市販の風邪薬と整腸剤、手鏡、etc…
それら生活用品が複数個ずつこの部屋に置かれていた。
変な物は…一応本がいくつか置かれていたのだがその中身が官能小説やヌード写真集など…まあいやらしい方向に特化していた。
「それで今からどうする?お風呂にでも入る?」
「そうですね…まだちょっと怖いのでこのまま寝ようかと…」
「それもそうね…そうだ、スイッチらしきものはなかったから電気は消せそうに無いわ。咲希ちゃんは明るい場所で寝られる?」
「ええ、一応寝られます」
「じゃあ寝ましょうか…今何時かはわからないけど、夜更かしは肌にも健康にも良くないしね…」
そう言ってベッドに入る先生。
ベッドは1つしかないので私もその隣に入って寝る事にした。
誰かと同じベッドで寝るというのは少し変な気分だが、ベッドは大きいし相手もサキュバスとはいえ同性なのでどこか安心して普通に寝る事が出来た…
====================
「…って感じで誘拐された日は終わったのよ」
「…そんな事が実際にあるものなんだな…」
今話を聞いて初めて知ったけど、一人じゃなかったんだな…
というかたぶん状況から考えて、その崎本先生ってサキュバスがサキをレッサーサキュバスにしたんだよな…どうしてかはまだわからないけど。
わからないといえば…今の話だけでは犯人の目的がさっぱりだ。
「そうそう…ってレツヤ、ちゃんと聞いてる?いつの間にかケータイ触ってるけど…」
「おう、聞いてるぞ。一応メールで親に連絡してるだけだ」
俺の親にメールでサキの無事と魔物化を報告したし、早速流二に聞いてみるか。
「そう…ならいいや。じゃあ次の日の話をするね…」
流二に…
『幼馴染みの女子が魔物化した。
性的な意味で襲われそう。
どうしたら良い?回避って可能か?
不可能ならどう構えればいい? 』
…とメールを送ったし、返信を待ちつつサキの話に集中する事にしよう…
========[二日目]========
「ふぁ〜…んん…」
「おはよう咲希ちゃん。よく眠れた?」
「あ……はい…おはようございます…」
目が覚めたら、隣から声が聞こえた。
隣をみたら優しく微笑みながらおはようと言った先生がいた…つまり、昨日拐われたのは夢ではなかったということだ。
その事実にガックリしながらも、私は先生に挨拶した。
「今何時でしょうか?」
「さあ…でも朝ご飯の時間ではあるようね…」
「へ?………あっ!」
思ったより眠れた感じなので時間が気になったが、残念ながらこの部屋には何故か時計が無いので時間を知る手段は無い。
だけど…何故か先生が朝ご飯の時間だと言った。
何でそんな事わかったんだろうと思いながら先生の視線の先を見たら…
「朝ご飯…ですかね?」
「ええ、たぶんそうね…私はあれがこの部屋に置かれた音で起きたわ。大体5分前よ」
「そうですか…」
昨日の夜と同じように、扉の下に食べ物が置かれていた。
朝ご飯はパックの牛乳とクロワッサン2つ、それにベーコンエッグのようだ……結構豪華だな。
「今日も指名されてますね…」
「そうね…ま、変わったとこはなさそうだし食べましょ」
昨日の夜ご飯と同じように分けられていたが、やはり特に変な味とかはしなかった。
………
……
…
「しかし、私達を誘拐した犯人はいったい何がしたいんですかね?」
「そうね…全く見当がつかないわ…」
それから特にやる事もなく、先生とずっとお話を続けていた。
「今頃親は心配してるかな〜…」
「私は…学校が事態に気付いてくれてたらいいな…」
昼ご飯の時間にでもなったのか扉の下から現れたチャーハンを食べ終え、ベッドに腰掛けながらだ。
「どうにかしてこの部屋から脱出出来ませんかね〜…」
「そうねぇ…私がリリムなら咲希ちゃんをスライムに変えたりして隙間から外に行かせたり出来ただろうけど…残念ながら私は普通のサキュバスだしね…」
「え、いや、それはちょっと…」
話しているうちに私は自分が誘拐そして監禁されている事をちょっとだけ忘れてしまうほど、先生とのお話は楽しかった。
「あら、魔物になるのは嫌?それともスライムになるのが嫌?」
「えっと…別にスライムじゃなくても…嫌とまでは言いませんが…」
「まあこれは例え話だからそんなに構えなくていいわよ?」
「あ、はい…」
ただ、魔物化の話だけは考えた事なかったので困ったが。
………
……
…
「「ごちそうさまでした」」
例の如く分けられていた夜ご飯も食べ終わった。
「結局何が目的なんでしょうか?」
「本当ね…私達を困らせたいだけだったりして」
「いくら何でもそれは…って言えないんですよね…本当に何したいんですかね?」
いまだに私達を誘拐した目的は見当もつかないままだ。
そもそもその犯人は私達の前に現れる気配がない。
そろそろ何をされるのかという恐怖よりも何がしたいのかという怒りや呆れのほうが大きくなってきた。
「まあ考えても仕方がない事はひとまずおいといて、今から何をするか決めましょ」
「そうですね…と言ってもあまり出来ること無いと思いますが…」
とりあえず犯人の考えなんてわからないものについての話を止め、今から何をするか決める事にした。
「どうする?ちょっと怖いけどお風呂入る?」
「うーん…そうですね〜…」
とりあえずお風呂に入るかどうか…より正確にはシャワーを浴びるかどうかという話をし始めた。
昨日は怖くて入れなかったし、正直今日も怖いが…流石に2日連続でお風呂に入らないのは嫌だった。
「怖いけど…身体は洗いたいですね…」
「そうよね…じゃあお風呂にしましょうか」
なので私達はお風呂に入る事にした。
でも私はやっぱりまだ怖いので、先に先生が入ってくれる事になったのだが…
「じゃあお先に…あら?咲希ちゃん、私の身体をじっと見てるけど…何か変?」
「ふぇ!?あ、いえ…ごめんなさい…」
服を脱いで裸になった崎本先生の身体を、私はじっと見ていた。
先生は魔物…しかもサキュバスなだけあって、その肌はつい触れたくなるような美しさだった。
それはもう私とは比べものにならないほどに……それに胸も……私もDはあるけど……比べ物にならない程大きい……ちょっぴり羨ましい。
「いや、綺麗だなぁと思って…」
「あら…ふふっ♪ありがとう」
そして先生が私に話し掛けたので私は我にかえり謝って素直に感想を言った。
嬉しかったのか、先生は微笑んだ…私が男子なら確実に惚れていたんじゃないかと思うほど美しい微笑みだった。
先生がシャワーを浴びている間、私はなるべく先生を見ないようにして、部屋内にカメラらしき物が無いか注意深く探したが、やはり見付からなかった。
そして先生が浴び終えた後私もシャワーを浴びた。
その時に私の裸姿を見て先生が「咲希ちゃんも綺麗な肌してるわよ♪」と言ってくれたのがお世辞だとしても凄く嬉しかった…けど、裸をじっと見られるのは流石に同性でも恥ずかしかった。
====================
「いやぁ…あの時はまだ犯人が何でご飯を分けていたのかわかってなかったんだよな〜」
「って事は意味はあったのか…」
「まあね。お風呂入るのも怖かったからな〜」
話を聞く限りでは監禁生活もそんなに酷いものではなさそうに聞こえるのだが、実際は大変だったのだろう。
その時の状況を話すサキの表情からも苦労や疲れが見られた。
♪〜〜
「ん?何の音?」
「あ、メールきた」
と、ここで俺のケータイから着メロが流れた。
つまり誰かからメールがきたのだろう…早速確認してみる事にする。
「おばさんから?」
「ん〜…んにゃ、友達からだ」
「…女?」
「アルプの彼女持ちの男だから安心しな」
メールは流二からだったので、ちょっと怖い顔で女かどうかを聞いてきたサキに素直に教える事にする。
さて、なんて返信がきたかなぁ〜っと…
『回避なんか出来るわけないから。
諦めて全てを受け入れろ。
というか最初から女だったんなら別にいいじゃねえか。
変な葛藤とかせずに済む分俺より遥かにマシだから。
追伸:今からミキとシ始めるのでメールしても返信できないからな』
…やはりそうきたか…
まあ回避出来ないと回答されるのはなんとなく予想出来ていたが、実際に言われると何とか回避したくなるものである。
という事で他の奴にも聞いてみようかと思う。
次は…ちょっとサキが怖いが魔物に聞いてみるか…
「それじゃあ3日目の話をするね!まあまだそんなに動きは無いけどね…」
誰に聞こうか考えつつ、俺はサキの話に集中する事にした。
========[三日目]========
「んん〜…ふぅ…」
「おはよう咲希ちゃん。よく眠れた?」
「あ、はい…おはようございます……って何をしてるんですか?」
目が覚めて、大きく伸びをしながら身体を起こしたら先生が昨日と同じようにおはようと言ったので、先生のほうを向いて挨拶したのだが…
「何って…ちょっと早起きしたから暇潰しの読書よ」
「え、いや…まあそうですが…」
先生はベッドの縁に座って本を読んでいた。
それだけならなにもおかしな事は無いし、むしろ本を読んでいる先生は知的に見えて似合ってはいるのだけど…
「だって…たしかその本って…」
「ん?ああ…結構面白いわよ?咲希ちゃんも読んでみる?」
「わ、私は読みません!!」
「そう…まあ咲希ちゃんには刺激が強すぎるかもね」
この部屋に置いてある本は全てやらしいものである。
先生が今読んでいるのはつまり…チラ見すらしたくない官能小説なのだ。
そんなものよく読めるなぁ…と少し思ったが、よく考えたら先生はサキュバスだから普通なのかな?
ガタッ…
「…どうやら朝ご飯のようね」
「はい…今日はおにぎりか〜…」
時間になったのか、朝ご飯が現れた。
今日はおにぎり2つに沢庵、それに肉入り野菜炒めみたいだ…なんか本当に監禁されているのかわからなくなるほど普通に豪華なメニューだな…
「じゃあ食べましょうか」
「そうですね。冷める前に食べましょう」
いつものように分けられた朝ご飯を、もう躊躇う事もなく食べ始めた…
………
……
…
「あ〜〜〜〜〜〜…暇だ〜〜〜〜〜〜〜…」
ご飯も食べ終わり、やる事が何もない…
「せめて単語帳だけでもあればな〜…」
人間暇になるとあんなに嫌な勉強ですらやりたくなるらしい…
「あーあ…本当に何がしたくて監禁なんかしてるんだろうな〜…」
でも、それすら出来ず私はただ叫んでいた。
と、このように暇を嘆いていたら…
「暇ならそこにある本でも読んでみたらどう?」
「えっ…私はちょっと…」
崎本先生が私に再び官能小説を薦めてきた。
そう言う先生は朝と同じく官能小説を読んでいた…と言ってももう4冊目だが。
「そう…でも結構面白いわよ?小説のほうは100%エロシーンってわけでもないのだから咲希ちゃんでもすんなりと読めるんじゃないかなとは思うけど…」
「うーん…」
そこまで言われると暇な今では読んでみようかなという気になってしまう。
「それじゃあ読んでみようかな…この3つで面白かったのってどっちですか?」
「そうねえ…一番右のが面白かったかな?」
「わかりました。じゃあ昼ご飯までこっち読んでます」
という事で、若干抵抗はあるがやる事がなく他に暇を潰す方法も思いつかないので、私は先生に薦められた小説を読む事にした。
……………………
「…どうだった?」
「…凄く…エロかったです…」
「あら?これでも刺激強すぎたかしら?」
途中お昼ご飯の時間を挟みつつ、先生に薦められた官能小説を読み終えた。
なんというか…想像以上に物凄く不健全な内容であった。
たしかに100%エロシーンってわけじゃ無かったけれど、だからといって普通の小説のように読む事は出来ない。
だって…大人の男性が女性の胸に吸いついてたり、女の人が男の人の性器を口で咥えたりとかしている破廉恥なシーンが普通に数度出てきたのだ…とても真顔で読めるものでは無い。
これを普通に読める先生はやっぱりサキュバスなんだなと改めて実感した。
「咲希ちゃんこういった経験なさそうだもんね…」
「あ、あるわけないですよ!!私人間ですし、まだ高3ですよ!?」
「そう?今時の高3なら人間でも結構居ると思うわよ?咲希ちゃん彼氏とセックスしないの?」
そして先生にそういった経験なさそうと言われたが、もちろんあるわけがない。
たしかに周りには経験ありそうな人もいるけど、私には無縁である。
「わ、私にはそういった関係の人なんかいません!!」
「えっ!?意外ね〜…咲希ちゃん可愛いからてっきり彼氏居るかと思ってたわ」
「か、彼氏はまだいません…」
何故なら、私には彼氏など居ないからだ。
たしかに今までで男子から告白された事も何度かあるが、全て断っていた。
「じゃあ…咲希ちゃんって好きな男の子いる?」
「えっ!?えっと〜……はい、一応います…」
だって…私にはずっと好きな男の子がいるから。
「へぇ〜!どんな子?」
「えっと…幼馴染みです…」
幼い頃からずっと一緒で、高校が別になってから初めて恋していたんだって気付いた男の子が…
レツヤがいるから…
「あら…それは素敵ね!幼馴染みに恋か…私もしてみたかったな」
「そういえば崎本先生って恋人とかはいるのですか?」
「えっと…残念ながら今のところいないわ…」
「えっ!?崎本先生ってかなり綺麗で美しいうえにサキュバスだからいると思ってました!」
「何か褒めすぎな気はするけどありがとね…それでも恋人はいないのよ…れっきとした処女だしね…」
「いやそこまでは聞いてませんが…意外でした……」
魔物なら恋人ぐらいいるかと思ってた…それこそ先生みたいな美人ならば結婚すらしていると思っていた。
かなり意外である……
「まあ私の事はおいといて…咲希ちゃんはその幼馴染みの子に告白しないの?」
「えっ!?こ、告白ですか!?し、しませんよ!!」
と、ここで先生が告白しないのかと聞いてきた。
もちろん、私にはそんな勇気などない。
それに、レツヤは私の事なんかどうとも思っていないだろう。
「どうして?フラれるのが怖い?」
「……はい……」
だから…私は告白しない…いや、告白出来ないでいた。
それに、告白してレツヤにフラれたら…きっと今までの関係すら崩れてしまうだろう…それは絶対に嫌だった。
「そっか…でも咲希ちゃんなら大丈夫だと思う…なんて気楽な意見を言うつもりはないわ」
「はい…え?」
その事を先生に伝えたら…アドバイスみたいな事を言い始めた。
「私は咲希ちゃんの事はこうして知っているけど、その幼馴染みの男の子の事は知らないからね…だからその子が咲希ちゃんの事をどう想っているのかは想像さえつける事は出来ないから大丈夫とは言えないわ…」
「は、はあ…」
「でもね…これだけは言えるわ…」
そう言いながら、先生は私の眼をじっと見据えて…
「自ら行動を起こさなければ良い結果なんかまず起こらないわよ」
「…えっ?」
「咲希ちゃんが怖くて告白出来ないのはとてもよくわかる。でもね…相手の気持ちがわからない以上、咲希ちゃんからいかないと良い関係になる可能性はとても低いままなのよ?」
「そ、それは…」
力強く…こう、言ってきた。
「それに…告白しなければ関係が壊れないだなんて思ってたら駄目よ?」
「えっ…ど、どうして…」
「たしかに幼馴染みという関係そのものは壊れないでしょうね…ただし、その子の横には咲希ちゃんじゃない女の子が居る事になるかもね」
「あ、そ、そんな…」
そして…考えたくもない恐ろしい事を言ってきた…
でもたしかにそれは有り得る…
レツヤが通っている学校は魔物率が高いし…レツヤが彼女達に惚れたり、その逆も無いとは言えない…
聞いた話ではレツヤの学校は魔物率が高いのに校内での性的行為は全面禁止されているらしいから襲われてって事は無いと思うけど…それ以外の可能性は捨てられないのだ…
「だから…怖くても自分から告白したほうがいいわよ?失敗を怖れてたら上手くいくものも上手くいかないから、怖れず自信を持ってね!」
「えっ、あ、はい…」
なので、断られる事を怖れずに告白したほうが良いと先生は力強くアドバイスしてくれた。
その力強さに思わずはいと言ったが…それでも怖くて自分から告白しようと思えない…
しかし、そんな私の考えはお見通しなのか…
「そうだ…どうしても怖いのなら…私が咲希ちゃんに告白する力をあげようか?」
「へっ!?力ですか?」
どこか妖しい笑顔を浮かべながら私にこう言ってきた。
たしかに告白する力が貰えるのはいいかもしれないが…
「それって…私を魔物にするという事ですか?」
「あら?わかっちゃった?」
「まあなんとなくですが…あとお断りさせていただきます」
「そう…まあ無理にとは言わないけど…」
やはり魔物になるという事だったので、私はその案を断った。
別に魔物になるのが死んでも嫌というわけではないけど、人間として産まれたのだから出来れば人間でいたいのだ。
「でも…魔物になったら良い事もあるのよ?」
「えっ…例えば?」
ただ先生は諦めきれないのか魔物になると良い事があると言ってきた。
魔物になる気は無いが、どんな事があるのかは気になるので一応聞いてみる事にする。
「例えば…そうねぇ…さっき言った告白する勇気も出てくるし、その幼馴染みの子に自分の身体の良さを直に教え込めばもう他の女なんかに目が行かなくなるから安心よ?」
「ああ…まあたしかに魔物の奥さんを持っている旦那様主体での浮気率はほぼ無いって聞きますね…でもそれってエッチな事をやれと言ってるようなものですし…ちょっと……」
「それにね…そこまで手入れしなくても綺麗な肌でいられるわ。流石に健康に悪い事をし続けると多少は悪くなっちゃうけどね」
「それは……ちょっと羨ましいかも……」
「更には…例えば咲希ちゃんが大きいおっぱいが欲しいと思って、その幼馴染みの子が巨乳好きだったら…大きなおっぱいも手に入るわ」
「余計なお世話です!!というか私は人間ではまだ大きい方です!!」
そこそこ気になるもの、特に最後はそれだけで魔物になってもいいかもって少し思ったが…やっぱり魔物になる気は無い。
それにだ…
「たとえ今私が先生の手でサキュバスになったところで、監禁されている現状では告白出来ないですからね」
「あ…それもそうか…」
たとえ魔物になったところで今の監禁されている状態ではレツヤに告白どころか部屋からの脱出すら無理である。
「本当にもどかしいわね…いつまで私達を閉じ込めておくつもりなのかしら?」
「本当に嫌になりますね…いい加減目的くらい言ってくれたっていいのに…」
これがきっかけとなり、話題は恋の話から未だ性別すらわからない私達を監禁した犯人への文句に変わって行った…
そしてこのまま夜まで犯人への文句のオンパレードだった…だからなのか、夜ご飯の豚の生姜焼きは嫌がらせか少し肉が固かった。
この事から、もしかしたら盗聴器みたいなものがある可能性が出てきたが…やはりそれらしき物は探しても見付からなかった。
「ふぁ〜…」
「あら咲希ちゃん、大きな欠伸ね」
「はい…今何時なのかはわかりませんがお風呂も入った事ですしもう眠いです…」
そして今日は疲れたのか、お風呂で身体をさっぱりさせたら急激に眠くなってきた。
「そうね…それじゃあおやすみ咲希ちゃん」
「はい…って崎本先生は寝ないのですか?」
「え、ええ…もう少し起きているわ」
だから寝ようとしたのだが、いつもは同じタイミングで寝る先生は寝ようとしなかった。
少し言い詰まったのが気になるが…わざわざ合わせる必要もないし、それに大方途中のページで開きっぱなしで置いてあるエッチな本を最後まで読んでから寝るつもりなのだろう。
「そうですか…ではおやすみなさい…」
なので私は先に寝る事にした。
やはり疲れていたのか、すぐに深い眠りについていった…
だから、私が寝た後先生が何をしていたのかは、この日は気付く事は無かった…
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「あーあ…今思えばあのエッチな本をちゃんと読んでおけばよかったな〜…」
「…一応聞くが何故そう思う?」
「だって〜…レツヤとセックスする時に参考になるじゃんか!」
「…やっぱりか…」
というかエロ本を読めばよかったなんていう比較的どうでもいい事を聞きたいわけじゃないのだが…
そんな事よりもより気になる事があるのだが…
「なあサキ…今の話からするとサキは魔物になる気無いって言ってたよな…それにその崎本先生ってサキュバスもサキを無理矢理に魔物にする気は無いって事だったんだよな…」
「うんそうだね…」
「じゃあどうしてサキはレッサーサキュバスになってるんだよ!?」
さっきの3日目の話的には魔物化が起こるとは思えなかったので聞いてみたのだが…
「それは…まだ秘密♪」
「は!?」
にぃーっと笑顔になりながら秘密と言われてしまった。
「またこれから順に話してあげるから楽しみに待っててよ!!」
「はあ…」
まあこの先の話で言ってくれるそうだから大人しく聞いている事にする。
あ、そうだ…メールしないと…
魔物か…同じクラスのバフォメットの八木に聞いてみようかな…
魔物だし魔物の気持ちもわかるだろうと思い、俺は…
『なあ、幼馴染みが魔物化しちまったんだけど…
求めてくるHって受け入れるべきか?
その場合何か覚悟しておいたほうがいいか? 』
…とメールを八木宛てに作成して送信した。
「でもさ〜、今となっては魔物になって良かったって思っているんだ〜」
「えっ?」
ちょうどメールを送信した瞬間、サキがさっきの話の続きをし始めて…
「だって〜…あんなに怖かったレツヤへの告白もすんなり出来たし〜…」
「ま、まあそうだな…」
嬉しそうに告白出来た事を言った後…
「それに…」
「それに?」
「この身体ならレツヤと一緒に気持ち良くなれるもんね…私だけを夢中で求めるようになってくれるもんね…」
「っ!?」
その悪魔の姿に合うようで合わないような少し怖い笑顔でこう呟いた。
「ねえ、レツヤ…」
「お、おう…ま、まあ4日目の話をしてくれよ…」
「そうだね…早く最後まで話をして…ふふっ♪」
何故かサキに今すぐ捕食されてしまうような錯覚(あながち間違ってはいない気はするが)に襲われたので、監禁中の話の続きを促して話題を逸らす事にした。
「そうだね…たしかあの日は…」
それが功を奏し、サキは4日目の話をし始めた。
ただ俺と早くセックスしたいからか、さっきより若干早口で話を始めた…
12/09/06 23:10更新 / マイクロミー
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