旅番外編! 私の大切なご主人様
「あーあ…ダメだこりゃ…これは一旦ジパング本土に戻らないと…」
これは、私のご主人様がこの小屋から居なくなった日の出来事だ。
「あーくそ、やっぱ無理させちまったか…あの技師に何言われるやら…はぁ…」
ご主人様は正常に作動しなくなった分析計を見ながらブツブツと何か独り言を言っている。
何故独り言かというと、まだ私はお話どころか動く事も出来なかったし、それにご主人様以外にこの島に人間はおろか妖怪すら居ないからだ。
「まあ仕方ないか…発表日まで時間が迫っているから今すぐ行かないとな…」
ちなみにご主人様はこの無人島の自然…植物の生態や土の成分などを調べ研究する仕事をしている。いうなれば科学者だ。
それで、研究に使っている装置の…しかも重要なものが壊れてしまったのでそれを作った人に直してもらいに行く為にその壊れた装置を抱え、準備を整え始めた。
「ん〜と…おそらく今から行くと夜に海を渡る事になるから…毛布1枚ぐらい持ってったほうがいいか…そんで食べるものと…よし、出発するか…帰ってこれるのは1週間後かな…」
そして準備が終わって、なるべく早く行く為か小屋を飛び出していった。
余程慌てていたのか、島を離れる時は毎回一緒に持って行ってた私の事を置いて…
そして、1週間経っても…ご主人様は帰ってこなかった……
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「牡丹ちゃん?おーい聞いてるー?」
「……はっ!?あ、ご、ごめんなさい林檎さん!ぼーっとしてました!!」
「いやそんなに気にしなくていいけどね…ほら、陸地が見えてきたよ!!」
輝く太陽の下、どこまでも続く水平線をぼーっと見ながらご主人様が居なくなった日の事を思い出していたら、話しかけられていた事に気付かなかった。
言われたとおりに見てみると…たしかに陸地…というか山らしきものが遠くにうっすらと見えた。
「あそこにご主人様が…」
「たぶんね…もしこの町に居なくてもそう遠くには行って無い筈だから、探せばすぐに見つかると思うよ」
私は帰ってこないご主人様を探すため、たまたま知り合った妖怪『ネレイス』の林檎(りんご)さんに無人島から海に入らないよう木箱に入れられてジパングまで運ばれていた。
何故わざわざ木箱に入れられて運ばれているかというと…私、牡丹(ぼたん)は『提灯おばけ』という妖怪だからである。
たぶん大丈夫だとは思うけど…やっぱり提灯だし、海に落ちると言うか、水に浸かるのはかなり怖いのでこうして海に落ちないように林檎さんに運んでもらっているのだ。
「ああ…ご主人様…早く会いたいよ〜…」
「ま、まあそんなに気を落とさないで。わたしも一緒に探してあげるからね!!」
「うぅ…ありがとうございます…」
ご主人様が島を出てから2週間と1日が経過…私が自分で動けるようになってからは10日ほど経過した。
その間、私は一人でご主人様の帰りを待っていたのだが…ご主人様が言っていた「帰ってくるのは1週間後」を信じて待っていたのだが…ご主人様は帰ってこなかった。
ご主人様は期限を守らない事は滅多にない程真面目な人…それこそ誰も約束などしていないのにも関わらず自分が決めた時間に合わせて動く人だから…1週間を余裕で越えても帰ってこなかった時は言いようもない不安に駆られた。
ご主人様の身に何か大きな事故があって大怪我でもしたのではないか…
ジパング本土に向かう途中で海に棲む妖怪にご主人様が捕まったりしていないだろうか…
もしかしたら私を捨てたのではないだろうか…
本当にさまざまな不安が私を襲ってきて…昨日まで苦しかった。
そう、『昨日までは』だ…
なぜならば、昨日たまたまご主人様の小屋に来た人達…強盗かと思って攻撃しちゃったけど遭難者だった…が、ご主人様らしき人物をジパング本土の倭光(わみつ)という町の…名前までは覚えてないけど雑貨屋で見掛けたと言ったのだ。
しかもその遭難者達が言うには、ご主人様は船のパーツを探しているらしい。
どうやら海を渡る途中、もしくは帰ろうとした時に船に何かが起こって壊れてしまったのだろう。
船自体は大陸製の物なので、ジパングでパーツを探すのは困難だ…それ故に修理に時間が掛かってしまってご主人様は帰ってこれないのだろう…
なにはともあれ、ご主人様が無事だって事や私を捨てた訳じゃなくて帰れないだけだという事がわかった。
だから私はいてもたっても居られなくなり、その遭難者達の知り合いだった林檎さんに頼んでこうしてジパング本土まで運んでもらっているのだ。
しかも林檎さんはそれだけでなくご主人様を探すのを手伝ってくれると言ってくれた…旦那さんも居るって言ってたから旦那さんに早く会いたいはずなのに…それでも私を手伝ってくれるというのだ。感謝してもしきれない。
「それでさ、何も情報が無いと探しようがないから一緒に探すためにもそのご主人様の名前や特徴とかを教えてよ」
「あ、そうでしたね…」
そういえばまだ林檎さんにご主人様の事を言ってなかった気がする…
手伝ってもらえるのだから、なるべくわかりやすくハッキリと伝えなければ!!
「えっと…ご主人様の名前は咲哉(さくや)様と言いまして…ジパング人らしい顔つきに短髪黒髪で黒い瞳をしてます。身長は大体170センチ程で体型は意外とがっちりしてます。それに優しい人ですが眼つきが鋭くて一見怖い印象を与える事もあるかも…それで年齢は24です」
「なるほどね…結構わかりやすいからすぐ見つかるかもね!」
ちょっと長くなっちゃったけど上手く伝えられたようだ。
そして林檎さんは私の説明を聞き頷いた後…
「それじゃあ急いで行くよー!!しっかりつかまっててね!!」
「へっ?……う、うわあ〜〜〜!?」
ネレイスとしての本領を発揮したのか、立っていられない程の速度で動き始めた。
危うく海に落ちそうになって怖かった……
…………
………
……
…
「はい、到着!!」
「や、やっと着いた……」
そのままの速度で海を渡り、しばらくして港町の倭光に着いた私達。
「林檎さ〜ん…めちゃくちゃ怖かったですよ〜!!」
「ゴメンゴメン…急いで行ったほうが良いかな〜って思ってつい…」
「たしかにそうですけど…何度も海に落ちるかと思いましたよ……」
「いやあ…でもおかげで早く着いたでしょ?」
「たしかに明るい内に着きましたけど…動けないならあまり変わりませんよ…」
「あはは…」
早くご主人様を探しに行きたいところではあるが…先程の恐怖体験のせいで身体が動かない。
手伝ってくれる林檎さんには悪いが、しばらくは動けないだろう。
なので今はとりあえず海岸で動けるようになるまで体力と気力を回復させている。
「とりあえずまずは何でもいいから情報を集めないとね」
「そうですね…でも…もう少し休ませて下さい…」
「あははは…じゃあわたしがちょっと港に居る人に聞いてくるからここで休んでなよ」
「はい…お願いします…」
林檎さんは私を置いて漁船だと思うものが集まっている場所まで器用に足だけ人化して小走りで行ってしまった。
一人残された私は、林檎さんが戻ってくるまで一人ボーっと海を見て休んでいる事にした…
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「ねえ父ちゃん!!俺あの提灯がほしい!!」
「ん?おおあの新品の提灯か!」
これは…私の一番古い記憶?
「特に文字とかは書かれていないし作りも普通か…本当にこれで良いのか?他にもいろいろあるぞ?」
「うん!なんか綺麗だし、こう…これって感じがしたんだ!」
間違いない…私が作られて、店頭で売られている頃の記憶だ…
正確には…私の元になっている提灯が作られ、商品として店に並べられている時の記憶か…
その記憶の中で、元気いっぱいの男の子が私を指差し父親にねだっている。
「まあ新品だし前の提灯みたいに簡単には壊れないか…新しい提灯はこれで良いんだな?」
「うん!俺絶対にこの提灯がいい!」
「そうか…しかし珍しいじゃないか。咲哉はいつも『何でもいい』だの『どれでもいい』だのと無関心な事が多いのに」
「まあね…でも今回は一目見た瞬間『これだ!!』って思ったんだ」
どうやらこの親子は使っていた提灯が壊れてしまったらしく、新しい提灯を買いに来たようだ。
そして、男の子が…幼い頃のご主人様が、私を手にとってくれた。
そう…これは私とご主人様との出会いの記憶だ。
「じゃあ買うか…すみませーん、この提灯買いまーす!!」
そして、ご主人様の父上はお金を払いに店員の元に向かった。
「えへへ…絶対俺が大事にしてやるからな!!」
その間ご主人様は、私を壊れないように優しく、それでいて離さないとするかのように力強く抱きしめていた。
……………………
それからも、ご主人様は本当に私を大事に使ってくれていた。
「なあ咲哉…お前の持ってる提灯、気のせいか他のより明るくね?」
「えっ?そうか?気のせいだろ」
「気のせいか?まあいいや…つーか咲哉の提灯綺麗だよな。どこも破れたりしてないしさ」
「まあな」
これは、少し成長したご主人様がご友人数名と暗い夜道を歩いている時の事だ。
たしかこの時はご友人達と山一つ越えた町までお出掛けしており、帰りは暗くなるからと予め私を持って出掛けていた帰りであった。
「俺一応ちょくちょくこの提灯の手入れもしてるしな」
「えっ本当に!?面倒じゃね?」
「そうでもないさ。俺はこの提灯を気にいってるからな。好きなものに取り掛かる事で苦なんか感じないだろ?」
ご主人様は本当によく私の手入れをしてくれていた。
表面や骨組を優しく拭いてくれたり、風や虫などが原因で破れていたら丁寧に紙を貼りなおしてくれたりと…とにかく大事に扱ってくれていた。
「まあそうだけどさ…咲哉変わってるな〜。普通提灯の手入れなんか酷く壊れた時ぐらいしかしなくね?」
「父ちゃんにもそれ言われたけどさ…なんか大切に使っていたいんだよ」
本当にご主人様の趣味は私の手入れと言ってもおかしくない程、ご主人様は私を大切にしてくれた。
「ふ〜ん…でもさ、咲哉がそんなに大事にしているならさ、もしかしたらいつかその提灯は付喪神になるかもな!」
「付喪神?なんだそれ?」
「ん?知らないの?じゃあ教えてやるよ…って言っても俺もそんなに詳しくは知らないけどな」
…ある意味このご友人は預言者であったわけだ。
事実私は提灯おばけとして動く事が出来るようになったのだから。
「付喪神ってのはな、人間が使う道具に命が宿ったものの事を言うんだ。まあ道具の妖怪化ってのが一番しっくり来るかな」
「へぇ…それは提灯でもなのか?」
「というか俺は提灯以外でそういった例は聞いた事が無い。付喪神になった提灯は提灯おばけっていう妖怪の一種になるらしいぜ?」
「そうか…提灯おばけか…」
ご友人に説明され、提灯おばけという存在を知ったご主人様は…
「こいつが提灯おばけになったら…名前とか付けたほうが良いのかな?」
「また随分と気が早いな…なると決まったわけじゃねえのに…」
「まあな…でも俺はこの提灯を大切にするつもりだからな。もしかしたら本当にある日突然提灯おばけになるかもしれないだろ?その時咄嗟には名前なんか付けたり出来ないだろ?」
「いやたしかにそうだけどさ…まあ好きにすれば?」
ご友人に気が早いと言われながらも、私に名前を付けてくれた…
「そうだな〜…妖怪って事は女の子って事だよな?」
「まあ…俺が知ってる妖怪は女性しかいないし、近所に住む稲荷のおばさ…お姉さんだってそんなような事言ってたしな」
「そうか……じゃああの花の名前とかは?あの花綺麗だし、花の名前って女の子らしいしさ」
「ん?ああ、あれか…」
ご友人と話しながら歩いている時、綺麗だったが故にたまたまご主人様の視界に入った一輪の花の名を…
「あれってたしか…牡丹だったっけな」
「そうか…よし!もしこの提灯が提灯おばけになったら、名前は牡丹にしよう!!」
「また安直な…まあ本人がそれで良いなら文句は無いけど…」
こうして…私の名前は牡丹になったのだった。
そう…ご主人様が、私に牡丹と名付けてくれたのだった…
……………………
「う〜ん…これはこうなって…違うな…こうするのか?」
「咲哉…もう寝たらどうだい?」
「あ、父さん…いえ、この計算を終えるまでは寝ません。そう決めてからやり始めたので…」
これは…ご主人様が科学者を目指して、夜遅くまで勉強なさっていた時の事だ。
机の上に沢山の本や紙が散らばり、大陸の筆記用具であるペンを使い、私という小さな光源を頼りに何やら文字や数字を走り書きしていたところに、ご主人様の父上が心配して様子を見に来たのだ。
「まあ勉強をする事は悪いとは思わないが…身体を壊したら身も蓋もないぞ?」
「いえ…でも俺はまだ…」
「目の下にそんなに大きな隈を作っておいて大丈夫だなんて言わせないからな」
この頃のご主人様は科学者になる為に頑張って勉強していた。
ただ…頑張り過ぎて身体を少し壊し掛けていたのだ…
「ですが…俺はやっと自分の夢を見つけたんです!多少無茶しても叶えたい夢なんです!!」
「そうか…そういうならワシは強くは言わん…」
昔から将来の夢とかが無く、適当に生きていたと言っても過言ではなかったご主人様。
学もそこそこ、剣術もまあまあ、体力も一般的で、特にこれといった特徴を持たないと自分で考えていたからか、日々をだらだらと過ごしていた。
だが、ある時にご主人様が住むこの町に異国の科学者の方がやってきた。
そのお方の語る自然の持つ可能性や、目の前で実践していた実験に感銘を受け…ご主人様は科学者になる事を決めた。
その日からご主人様は様々な知識を身に付けようと躍起になったのだが…今までの反動か、無茶をする事が多かった。
「でも…その提灯はそんな咲哉の事をどう思っているかな?」
「え…いきなり何を…」
「いや…もしその咲哉がとても大事にしている提灯…その提灯がもし話す事が出来たとしたら、今の咲哉になんと言うかなと思ってな…」
「……」
私としては…夢に向かって無茶をするのは良い事だとは思えなかった。
たとえ無茶しなければ夢を叶えるのに時間が掛かるとしたって私は…こうやって言うのはご主人様には悪いが…夢を早く叶えたい事ごときでご主人様が弱っていくのは見ていたくなかった。
それは父上も同じなのだろう…ご主人様のその姿勢自体を強く否定はしないものの…
「頑張っている咲哉を応援はしている…でもな、無茶をするのであればワシは全力で止めるつもりだ。おそらくその提灯だって…今この時に命が宿っていればそうするだろう…」
「なぜ…そう思うのですか?」
「ずっと今の咲哉の様子を近くで見ている者なら同じ考えに至るだろうからな。母さんだって心配しているんだぞ?」
「そうですか…」
まるで私の気持ちを代弁しているかのように、ご主人様にそう言ったのだから。
「わかりました…父さんや母さん、それに牡丹に心配掛けるのは良くないですね…今日はもう休む事にします」
「それでいい……ところで牡丹とは?」
「えっ?……あ………な、なんでもありません!!」
「そうか…ははっ…これは咲哉のお嫁さんはすでに決まっているようなものか!!」
「なっ!?そ、そういうのではないですよ!!」
やはりご主人様は無理して疲れていたのだろう…普段誰にも言わないようにしていた私の…提灯に付けた名前をうっかり父上に言ってしまったのだから。
今までの会話から牡丹が何を指しているのか察した父上は、深夜だから小さく、それでいて高らかに笑っていた。
ご主人様は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、口を滑らせた事を少し後悔していた…
……………………
「…ちっ…なんでこんな事態に陥ってるんだよ……足が痛くて動かねえと思ったら折れてやがる…」
今度は…更にご主人様が成長なさり、科学者になりたての頃の事だ。
ご主人様は実験に使用する試料を探して住んでいる町から少し遠い所にある山を登ったは良かったが、途中で雨が降ってきたので急いで下山している最中で…すでに辺りが暗くなってきていた事もあり足を滑らせて崖下に落ちてしまっていた。
幸か不幸か怪我は足の骨が折れただけであり、致命傷などは一切負って無かった。
「くっそ…そんなに食糧とか持ってきてないからな…這ってでも移動するしか……いや…ここを這って移動とか無理か…段差が多すぎる…」
だが、足の骨が折れ普通に移動する手段が断たれた状態で、尚且つ食糧もたいして持っておらず連絡手段も無く一人しか居ない状況ではそう長くはもたないだろう。
「せめて山に棲む善良な妖怪が見つけてくれたらな…あ、そうだ!」
そこでご主人様は山に棲んでいる妖怪や、通りかかる人に見つけてもらえるようにする事を考えたようだ。
「…よし、マッチは無事だったようだ……頼んだぜ牡丹!!」
ご主人様は鞄の中から、落ちた時に少しだけ破れてしまった私と奇跡的に無事だった火種となるマッチを取り出し火を点けて、ご主人様自身のすぐ近くにそっと置いた。
これなら夜でも周りが見え発見されやすいだろうし、さらに小さいと言っても火があるから獣避けにはなるだろう。
「食糧減らして連れてきたんだからしっかり頼むぜ?さて…あるものを少しずつ食べていくか…」
自分で持って来たのにと今になっては思うが…私はご主人様の為に辺りを明るくし続けた。
「なんだこの灯りは……って人間!?しかも怪我してるじゃないか!!大丈夫か君!!」
「あ、こんなにも早く助けが来ると思わなかった…はい、一応意識とかは大丈夫ですが足の骨が折れたらしく足が動きません」
「…結構冷静だな…まあ足が動かないなら仕方ない。私が背負って連れて行こう…」
「あ、ありがとうございます」
その甲斐もあって、ご主人様は数刻も経たないうちにジパングではちょっと珍しいサキュバスみたいな人に無事発見されたのだった。
みたいなってのは…今にして思えばその人はちょっとサキュバスとは違った気がするからだ。
こう雰囲気っていうか…どこか気品溢れる感じがそのサキュバス?さんから感じたからだ。
「えっと…ところで、俺はどこに連れて行かれているのでしょうか?」
「ああ…私はこう見えても医者をしていてな。この山の麓にある街で私と夫が開いている病院があるからそこで手術及び入院をしてもらう」
「はい…あれ?ちょっと待って下さい!」
「どうした?何かおかしな事でもあったか?」
「えっと…二つ程あります…一つは、たしかこの山の麓の街は妖怪に厳しかったはずだということで、もう一つは、どうして医者が山に居るのか……なんでですか?」
もちろん私を手に持ったままそのサキュバス?さんに背負られているご主人様…
疑問に思う事があったようで、サキュバス?さんに質問をし始めた。
「ああ…一つ目の質問の答えとしては、それは少し前までの事であって今は人魔共に仲良く暮らせる街になっている。そして二つ目の質問の答えだが、そんな街には未だに魔物を排除し元の人間だけが住む…と言っても元々あの街には魔物が大勢潜んでいたがな…まあそういった奴等が居ないかの見回りをしていたから山に居たって事だ」
「は、はぁ…そうですか…まあよくわかりませんがおかげで助かりました」
「気にするな。私はその提灯の灯りがなければ君を発見する事は無かったのだ。感謝するならその提灯にするのだな」
とにかく無事助けられたご主人様…
「あ、そうだ…提灯の修理に使えるもの、どこかに売ってません?」
「ああ、売ってはいるが…何故今それを聞く?医者としてはまずは自分の身を心配しろと言いたいのだが?」
「あ、いえ…この提灯は俺が小さかった頃から大切にしている物で…変に思われるかもしれませんが自分の命と同じ位大切な物なんです…」
自分の身の安全が確保されたからか、少し壊れた私を直す事を考え始めたご主人様。
注意されたように自分の身をもう少し心配してもらいたいが、私の事を心配してくれるのは…ちょっと嬉しかった。
「……そうか…そんなに想われていてその提灯は幸せだろうな…」
「えっ?あ、はい…ありがとうございます…」
その想いがサキュバス?さんにも伝わったのか、私のほうを見ながらそう呟いていた。
その後ご主人様はそのサキュバス?さんや旦那さんの治療のおかげですぐに完治することが出来た。
「…よし、これで元通りだ!俺を助けてくれてありがとな牡丹!」
そしてすぐに私を直してくれた。
直してくれたご主人様の顔は、とても嬉しそうであった。
……………………
「無人島の調査か…かなりの大役じゃないか!お前まだ若いのに凄いな咲哉!」
「まあな。不安もかなりあるけど、むしろ楽しみのほうが大きいさ」
そして…およそ一年前。ご主人様が無人島の自然の調査をなんと国から任された時の事だ。
「ところで咲哉…お前一人で無人島生活って寂しくないか?」
「まあ…でも俺と一緒に行ってくれる人なんかいないからな…流石にもう老齢の両親を連れていくわけにはいかないしさ」
「そうか…俺が一緒に行ってやろうか?」
「馬鹿言うなよ。お前だって自分の仕事や生活があるだろ?しかも奥さんが黙ってないだろ?」
「悪いが冗談だよ。まあ…流石に俺も燃やされたくは無いからな」
出発前にご主人様は、幼少期からの付き合いがあるご友人とお喋りをしていた。
ちなみにこのご友人…ご主人様が私に牡丹と名付けてくれた時に近くに居たご友人で、数年前に白蛇さんと結婚をしていた。
「そういやあ咲哉、お前無人島に何持っていくんだ?つーか寝床とかは大丈夫なのか?そもそもどうやって行くんだ?」
「ああ…寝床っていうか、一応台風程度は耐えられる小屋は用意されているらしい。それで国から贈られた大陸製の立派な小船で向かう」
「ふーん…やっぱ国が動いているからある程度は用意されてるんだな」
「まあ本当にある程度だけなんだけどな」
ご主人様は無人島に住む事になる。
研究及び生活する為に立派な小屋やある程度の生活用品は用意されているらしいが、それでも病気になったりしたら治す為の薬とかはそんなに用意されていないので大変である。
更に言うと無人島と本土での連絡手段はほぼ皆無だ。
1、2ヵ月に一回カラステングさんが様子を見に来るらしいが、それ以外は用意した船で自力で戻らなければならないのだ。
「それで何持って行くんだよ?」
「ああ…まあ基本的には大陸に勉強しに行っていた時と同じように着替えや歯ブラシ、後は非常食とか…ああそうだ、実験用の器材も今回は運ばないと駄目か…」
ご主人様はこの年齢になるまでの間、何度か勉学の為に大陸に渡っていた事があった。
何度も行くうちにどんな荷物があればいいのかわかるようになってきたらしく、必要最低限だけ持って行くので持っていく予定の荷物は案外少ない。
「ふ〜ん…例の提灯は?」
「牡丹の事か?もちろん連れていくさ」
もちろん私は連れていってもらえる。
まあこの時にはもうすでに私は家族用ではなくご主人様専用の提灯になってたから問題は無かった。
「やっぱ嫁は連れていくか…」
「なっ!?いきなり何言うんだよ!!」
「ん?違うのか?お前が嫁作らないのはてっきりあの提灯が付喪神になるのを待っているからだと思ってたんだけど」
「違うわい…普通に女にモテなかっただけだっての」
「へぇ〜…まあ冗談だって。だから拗ねるなよ」
「へいへい…でも本当に牡丹は提灯おばけになるのか?もう10年以上経つけど未だに動きだす気配もないぜ?」
「さあな。提灯おばけ自体は存在するんだから咲哉の牡丹に対する愛が足りないんじゃねえの?」
ただ、私はご主人様と出会って大体14年も経ったのに、この時はまだ動くどころかお話すら出来る状態では無かった。
実際はこの約1年後にこうして動けるようになるのだが…10年以上経っても私が動かなかったから疑問に思ったのだろう。
ご友人はご主人様の私への愛が足りないと言ったが、そんな事は無かった。
だって…ご主人様は何度も私を直してくれたし、いつだって傍に置いてくれていたのだから…
それでも動けるようになって無かったのは…単純に魔力と想いが結びついていなかったから…だと思う。
「ま、その話は置いといて…研究頑張れよ!」
「ああ、頑張るさ!お前も自分の仕事頑張れよ!」
「そうだな。それじゃあな!そろそろ帰らねえと嫉妬深い妻に怒られちまう」
「おう!まあ発表ある時や食糧がやばくなった時とかには帰るからその時にはまた」
ご友人と別れて、無人島へ行く準備を始めたご主人様。
「牡丹も入れたし…よし、出発するか!!」
そしてご主人様は一人で…いや、私と二人きりでの無人島生活が始まったのだ……
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「………ん、……んちゃん……」
「……」
「おーい牡丹ちゃーん!!」
「……はっ!?」
いつの間にか私の隣に居た林檎さんに身体を揺さぶられて私の意識は現在に戻ってきた。
どうやら海をボーっと眺めているうちに眠ってしまっていたようだ。
だからご主人様との思い出が頭の中で巡っていたのだろう…懐かしい思い出だった。
「牡丹ちゃん大丈夫?やっぱり疲れてる?」
「いえ…大丈夫です」
「そう…ならいいけど…」
たしかにちょっと疲れてはいるし、ご飯も食べていないから空腹感は感じているが、心配する程のものではないだろう。
それより、林檎さんが戻ってきているという事は…
「ご主人様の情報は何か入りましたか?」
「あ、うん…一応ね…」
「本当ですか!?早く教えて下さい!!」
「うわっ!?わ、わかったから落ち着いて…」
やはりご主人様の情報が入ったらしい。
その情報が早く聞きたくて思わず林檎さんに掴みかかってしまったがその林檎さんに抑えられ、落ち着いて聞く事にした。
「えっとね…咲哉さんなんだけど、この街には船のパーツが無いからって大体4日ほど前に隣町の通馬(とおま)まで向かって行っちゃったらしいんだ。その咲哉さんの壊れてしまった船を預かっている人の情報だから間違いないよ…」
「そうですか…では早速その通馬まで向かいましょうよ!!」
林檎さん曰く、ご主人様は隣町の通馬って場所に行ったらしい。
場所さえ分かれば後は会いに行くだけ…そう思って早速出発しようとしたのだけど…
「あ、まって…その…ちょっと聞いて…」
「ん?どうかしましたか?」
林檎さんが私の肩を持って、真剣な表情で…
「そのね…咲哉さん通馬に向かったらしいんだけどね…もしかしたら事故に巻き込まれた可能性があるの…」
「…………は?」
聞き間違いであってほしい事を言ってきたのだ。
「え、り、林檎さん…じ、事故って何ですか?」
「えっとね…」
とりあえず、事故に巻き込まれたという情報だけではご主人様がどうなっているかの予想も付けにくい。
なのでより詳しい事を林檎さんに聞きだす。
「大体2、3日前の話なんだけど…ここ倭光と通馬を繋ぐ道の途中でね…大きな落石事故があったらしいの」
「落石事故…ですか?」
どうやら落石事故があったらしい。
しかも2、3日前なら丁度ご主人様が通っててもおかしくないタイミングだ…嫌な汗が私の頬を伝う…
「うん…それでね…酷い事に人通りが多かった時間らしくて…そのせいで大人数が落石に飲み込まれて…それで…」
「…それで…何ですか?」
大人数が飲みこまれて…人通りが多かった…
言い淀んでいる林檎さんの様子を見ていると、どうしても嫌な予感しかしない…
「どうやら…不幸中の幸いでまだ死者は出ていないらしいけど…かなり命が危ない人が数人いるらしくて…しかもその中に咲哉さんがいる可能性が高いらしいんだ…」
「え……そ、そんな……」
そして、嫌な予感は最悪とまではいかないものの、悪い形で的中してしまったようだ。
ご主人様はまだ生きてはいる…でも死にかけている…
やっと会えると思ったら…下手すれば永遠のお別れになるとかあんまりだ……
「じ、じゃあ…今ご主人様はどこに…?」
「大きな病院…この町の中央病院か通馬とは別方向にある隣町の樫紅(かしく)の病院に運ばれたらしいから…どっちかにいるかも…」
「じゃあ近い方からすぐ行きましょう林檎さん!!」
「…そうだね!この町の病院の場所は聞いてあるからすぐ行けるよ!!」
だから私は、林檎さんと一緒に病院まで走る事にした。
正直走り続ける程の体力はまだ回復していない…どころか、さっきより疲れている感じはする…
でも…ご主人様に早く会わないとと思ったら、私の足は自然と早く、疲れを感じずに動き続けた。
…………
………
……
…
「林檎さん早く!!」
「待って牡丹ちゃん!慌てる気持ちはわかるけど落ち着いて!!そっちは道違うから!!」
「えっ違うのですか!?」
「うん。右じゃなくて左だから…だから迷子になって余計な時間とか掛けないように落ち着いて行こうね」
「はい…そうですね…でもご主人様かどうか早く確認したいんです!!」
「わかってる。だからきちんと地図を確認しながら確実に向かっているんだよ」
倭光の中央病院にご主人様はいなかった。
しかし、そこで入院していた人からご主人様らしき科学者の男の人が一緒に巻き込まれていた事と、その男の人は酷い状態だったので施設や技術が揃っている樫紅の病院に運ばれていったそうだという情報を得る事が出来た。
なので私達は樫紅までの地図を貰って、暗くなってきた空の下でご主人様かどうかを確認する為に急いでその病院まで向かっている。
「その重傷を負った人がご主人様じゃなければ一番良いんですが…」
「まあ…もし咲哉さんだったとしても最悪命に別状が無ければいいけどね…」
「そうですね…」
ご主人様がどうか無事でありますように…
今の私は病院に向かいながら、そう祈る事しか出来なかった……
……………………
「……っと、どうやらここのようだね」
「ここですか…結構大きいですね…」
そうして走り続ける事数時間。
目的地である樫紅の病院まで辿り着く事が出来たが…
「…あれ?ここって……」
「ん?知ってるの牡丹ちゃん?」
「はい…たしか昔ご主人様が足の骨を折った時に入院していた所です」
その建物は…さっきのご主人様との思い出の中にもあった、ご主人様が崖から落ちて足の骨を折ってしまったときに連れて行かれた、サキュバス?さんが経営している病院だった。
「もう閉まっているみたいだけど…」
「あ!診療時間外でご用がある方はこのボタンを押して下さいって書いてあります!!」
「そうだね…じゃあ押してみようか」
流石にもう空は真っ暗で、星や月が輝いている時間帯。
私が提灯おばけだから私の周りは明るいけど、もうすでに夜遅い時間だった。
そんな時間に病院が開いているわけがなく、病院の扉は固く閉ざされていたが…すぐ横にボタンが付いていた。
ご用がある方は押して下さいと書いてあるので、私は軽くそのボタンを押してみた。
ブーーッ!!
「…これでいいのかな?」
「たぶん…何か変な音も聞こえたし合ってると思うよ」
するとすぐに病院の中に高い音が響いた。
そのまましばらく待っていると、玄関が明るくなって…
ガチャッ
ガラガラガラ……
「はい、どちらさまで…ん?提灯おばけにネレイス?こんな時間に何か用か?」
鍵を開けた音に続いて、病院の人が扉を開けて姿を現した。
その姿は…やはりあの時にご主人様を助けてくれた医者のサキュバス…じゃない…
今は明るい場所で見た事と、提灯おばけになったからわかる…この人リリム様だ…
その医者のリリム様が私達に何用かと聞いてきたので、早速ご主人様がいるかを聞く事にした。
「あの…ご主人様…じゃなくて…咲哉って男の人ってこの病院で入院していますか?」
「それがどうした……ん?もしかしてお前はあの時の提灯か?ほら数年前に咲哉さんが足を折った時の…」
「はいそうです!覚えていましたか!!」
「まあな…あれほど提灯に思い入れがあった男は他に見た事無いからな…やはり提灯おばけとなったか…そうだ、その咲哉という患者なら家にいる。安心しろ、もちろん一命は取り留めてある…それどころか今は回復していっている」
「え…本当ですか!?ありがとうございます!!」
やはりご主人様はこの病院に居たようだ。
それどころかリリム様の治療のおかげで一命を取り留めたばかりか回復すらしているらしい。
「良かったね牡丹ちゃん!」
「はい…よかった……よがっだですぅ〜!!」
「ほらほら〜、会えるんだから泣いてないで笑ってなきゃ〜」
「ぐすっ……そ、そうですね!!」
私は嬉しくて…おもわず嬉し泣きしていた……
しかし林檎さんに言われた通り、折角無事だったご主人様に会えるのだから笑顔で会いたい。
だから頑張って泣くのを止めて、笑顔になろうとした。
「…それだけ大事に想っているのか…では案内しよう」
「ぐすっ……はい…ありがと……う………?」
どうにか泣きやみ、リリム様の案内でご主人様の下に行こうとして足を動かそうとしたら…
…何故か突然私から力が抜けていって…その場で倒れてしまっていた。
「牡丹ちゃん?……牡丹ちゃん!?どうしたの!?」
「ん?どうし……っておい!しっかりするんだ!!」
そして…声も出せなくなり…視界も暗くなっていって……
「お……し…………そ……ま…………ぞ!」
「は………だ………す……」
リリム様や林檎さんの声も聞こえなくなり……私の意識は遠のいていった………
====================
「……?」
気がついたら、私の目の前には木面が…というか天井が広がっていた。
つまり私は倒れた後病院のどこか一室まで運ばれて寝かせられているのだろう。
とりあえず今私はどんな場所で寝かされているのか…それを確認する為に首を横に向けてみたら…
「……!?」
「……ん?おお、どうやら起きたようだな」
なんと、私の横で私と同じようにご主人様が寝ていたのだ。
つまり…ここはご主人様がいる病室で…しかも同じ布団に寝かせられていたのだ。
「……!!」
「ん?どうした?顔が真っ赤だぞ…もしかしてやっぱりまだ具合が悪いのか?」
「あ、いえ、たしかに本調子ではありませんがそうではないですから!!」
「そうか…よくわからないけどまあ本人がそうやって言うなら別にいいや…」
その事実に気付いた私は、途端に緊張や恥ずかしさや照れで顔どころか全身の肌が真っ赤に染まってしまった。
その様子を見たご主人様が私の事を心配してより近付いてきた事によってより一層照れてしまったので慌てて否定して少し離れてもらった。
おかげで心臓がバクバクして止まらない…
「それより確認したいんだが…」
「えっ?はい、何でしょうか?」
「えっと…お前は本当に牡丹なのか?」
「へ?あ、そうか…」
と、私が自分の鼓動を落ち着かせようとしているところに、ご主人様が真剣な顔をして私にこう確認をしてきた。
そういえば私がこの姿になったのはご主人様が無人島を出発した後だった…だからご主人様は今の私の姿を見た事が無かったはずだ。
それならいきなり現れた私があの提灯だって簡単には信じられないだろう…そう考えた私は提灯の牡丹だって証明と共にご主人様に告げる事にする。
「私はご主人様が幼い頃に町のお店で父上に買ってもらった提灯の牡丹ですよ。そう…ご主人様が「絶対俺が大事にしてやるからな」と言って抱きしめた提灯…ご主人様が夜道をご友人と歩いている時にたまたま目に入った牡丹の花から名前を付けた提灯…それが動けるようになったのが私…牡丹ですよ」
「…そういえばそんな事もあったな…なんか本人に言われると恥ずかしいな…」
「と言う事は…私がご主人様に大切にされていた提灯だって信じてくれましたか?」
「ああ…その事を知っているのは俺の持っている提灯の牡丹だけだからな…ようやく付喪神になったんだな…」
「はい!これでご主人様とお話も出来ますし…こうして触れ合う事も出来ます…へへっ…」
私はご主人様の身体に触れながら、ご主人様と出会った時やご主人様が名前を付けてくれた事を話したら信じてくれたようだ。
ご主人様は私の頭を撫でながら感慨深く付喪神になったんだなと言ってきた…
その頭を撫でられる感覚がとても心地良い……ついにやけてしまう……
「…そういえば…なんで私ご主人様の隣で寝かせられているのですか?というかどうして私倒れたんだろう?」
と、ここで私はふと疑問に思っていた事を口にした。
まあご主人様の隣に寝かせられているのは、おそらく倒れた私をリリム様や林檎さんが気を利かせてここに運んだからだろうけど…そもそも何故私は倒れたのだろうか?
もしかしたらご主人様は何か知っているかもしれないと思って聞いてみた。
「あ〜…それはだな〜…どうやら牡丹、お前は魔力が空に近いらしいんだわ…」
「……へっ?」
リリム様に聞いたのかご主人様はやはり知っていたらしく、少し言いづらそうな雰囲気を出しながらも少しずつ教えてくれた。
「まあ…つまりその…今の牡丹は相当な空腹状態なうえに俺を探す為に飲まず食わずで無茶をしたから…」
「だから私は倒れたって事ですか?」
「まあ…そういう事だ。緊張の糸が途切れたから一気に疲れとして出てきて倒れたのだろうって医者は言ってたな…」
どうやら魔力が足りず空腹状態でご主人様を探していて、無事を確認して緊張状態で無くなったから気の緩みで倒れてしまったらしい。
そういえば…今日の朝に焼き魚を一つ食べてから何も口にしていなかったな…
という事は、私の場合きちんとご飯を食べて無理をしなければ良いわけか…
でも…
「ねえご主人様…私達提灯おばけの食料って…なんだか知ってます?」
「それも聞いたけど…人間の精……だっけ?」
「はい」
私の様な提灯おばけは人間の男性の精を食料としている。
もちろん他のものでも大丈夫ではあるけど…折角ご主人様にも会えた事だし…
「だからご主人様……」
私はご主人様の寝巻を剥いで…
「私を使って…気持ち良くなりながら…私に精を下さい」
「え…おい…ちょっと…」
自分が着ていた服を、下着ごと取り払った…
着ているものが無くなり、私のお腹の炎で部屋の中が明るくなる…と言っても、その炎は今朝よりも小さくなっている。
それでも…私の灯りで、ご主人様と私の身体は…何も身に着けてはいない身体は照らされていた。
「さあ…ご主人様…」
「ちょ、ちょっと待て牡丹!!」
「…何ですか?私では不満ですか?」
早速ご主人様に気持ち良くなってもらおうとしたのだが、何故かご主人様は私を止めてきた。
もしかして私にそういった行為をしてもらうのが嫌なのか…そんな不安が生まれてきた。
「いや…そうじゃなくてさ…」
しかし…私の不安とは全く別物だったらしく…
「その…そういう事…牡丹は本当に俺としたいのか?」
「え…はい…」
「じゃあさ…それは食事の為か?それとも恩返しの為か?」
「え…それは…」
真剣な顔をして、こう聞いてきた。
もちろん、私の答えは決まっている。
「そうですね…食事の為、恩返しの為…それもあるかもしれませんが……」
「あるかもしれません…が?」
「私は…ご主人様が大好きだから…ご主人様と身体を重ね合わせたいのですよ!」
もちろん…今まで私を大事に扱ってくれた恩返しもあるし、今からご主人様の精を貰うという事には食事の意味も含まれているだろう。
でも私は何よりもご主人様が好きだから…
私の大切なご主人様の事が大好きだからこそ、私と交わってもらいたいのだ。
「そうか…ならさ…俺の事はご主人様じゃなくて咲哉って呼んでくれよ」
「え…?」
「俺だって牡丹の事好きだからな!そんな他人行儀で呼ばないでくれよ!!」
「えっ!?は、はい!!わかりました咲哉様!」
そんなご主人様は…自分の事を咲哉と呼んでくれと言ってきた。
何よりも大好きな…私の事を好きだと言ってくれたご主人様の頼みだ…だから私は咲哉様と言ったのだが…
「……まあひとまずはそれでいいや……」
咲哉様はどこか納得していない表情を浮かべていた。
何かいけなかったところでもあるのだろうか?
「と、とにかく、まずは咲哉様を気持ちよくさせますね!!」
「お、おう……うあっ、あふっ…」
何が不満なのかはわからないけどひとまずはそれでいいと仰ったので、私は早速咲哉様との行為を始める事にした。
私は咲哉様の下着を丁寧に外し、その下に存在している立派な逸物を小さな手で扱き始めた。
提灯だった頃はもちろん、こうして人間と同じような身体になった後もこうした行為はした事が無い為咲哉様が感じてくれるか不安だったが、どうやら感じてくれているらしい。
強弱付けて揉んだり、上下に扱いたり、皮を剥いだりしているうちに咲哉様は気持ちよさそうな声を発し、手の中にある逸物が段々と太く硬くなっている。
それと共に発している男の臭いが濃くなり、先端からは透明な粘液を溢れだしている…その先走りを潤滑油としてさらに早く手を滑らせる。
「咲哉様…どうですか?」
「うぁっ…気持ちいいぞ牡丹…」
「そうですか♪ではこれはどうです…れるっ…」
「ん?うおっ!?」
そんな咲哉様の逸物を私は自分の舌で舐めてみた。
裏筋に合わせて舐めあげてみたり、鈴口を中心に亀頭に唾液を塗りたくるようにちろちろと攻めてみた。
その度に咲哉様はビクッと身体を震わし、快感に染まった息を出している。
「んふ…ではこれは……はむ…じゅう…」
「ああっ!そ、それ…うぁ…」
そのまま今度は私の口に咲哉様の逸物を咥え込んだ…と言っても流石に咲哉様の少し大きい逸物全部を私の小さな口の中に入れるのは残念ながら出来ないが。
私は吸うようにして口を窄め、唇でカリ首を引っ掛けるように首をゆっくり動かした。
もちろん舌で刺激するのを忘れない…実際はありえないが、咲哉様の熱で舌が溶けてしまいそうだ。
「じゅぷ…じゅる……」
「うお、あぁ…ふぁう……」
動かしているうちに咲哉様の逸物が口に収めきれない程大きくなり、しきりにビクビクと震え始めた…
もしかしてそろそろ射精する…そう思って私は更に激しく首を動かし、舌も使って射精を促した。
「ぐっ、で、射精るっ!!」
「んんぶっ!?ん……んぐ……」
そして逸物の先端が私の喉の奥を突いた瞬間、咲哉様の逸物から濃い精液が私の食道に直接注ぎこまれた。
粘りつきなかなか落ちない為か、熱を持った咲哉様の精液が食道を進む感覚が強く感じる。
それに…咲哉様の匂いが鼻腔をくすぐり…思わず射精中の逸物を更に奥に沈めようとしてしまう。
「お、おい牡丹…喉に当たってたが大丈夫か?」
「ふぁ〜♪…あ、はい、おいしかったです…咲哉様も気持ち良かったですか?」
「そうか…ああ、気持ち良かったよ」
射精が終わり、咲哉様は私の口からまだ硬いままの逸物を抜いた。
出る時に唇を窄め、逸物内に残った精液を搾りだした…舌に感じる咲哉様の味が何とも言えない幸せを感じさせてくれる。
「で…気持ち牡丹の灯りが明るくなった気がするし、これでもう良いのか?」
「は?何を言っているのですか咲哉様?まだこちらを味わって無いですよね?」
しかし、咲哉様があり得ない事を…もう止めるかと言ってきたので、私は慌てて立ち上がり自らの股の割れ目に指を這わせ、咲哉様に見せつけるようにゆっくりと開いた。
そこは咲哉様の逸物を早く欲しがっているからか、それとも先程咲哉様の精液を飲んだからか、すでに十分な程濡れていた。
「咲哉様…こちらにもいっぱい注いで下さい…」
「ああそうだな…でもその前に…」
「どうしまsわあっ!?んぷっ!?」
だから咲哉様の硬く反り勃つ逸物を私のナカに挿れようとしたのだが…その前にと咲哉様は私の頭を片手で抱くように引き寄せて…私の唇に咲哉様自身の唇を触れさせた。
いきなりだったけど…咲哉様が私に接吻をしてくれた。
そのまま唇同士が触れるだけの接吻を数十秒続け、二人の間に一本の細い銀色の橋を掛けつつ名残惜しむようにゆっくりと唇を離していった。
「…ん〜…甘いと感じる中にほんのりとある苦みは自分の精液かな…」
「あ、その…咲哉様のおちんちんを咥えた口に…よかったのですか?」
「いいさ。唇が触れただけだったけど、牡丹との接吻はそんなものが気にならない程良かったからな」
先程私が口淫したばかりだったから不快に感じたかもしれないと思ったが、そんな事は無いと言ってくれたので嬉しかった。
「でしたら…んっ…ちゅる……」
だから今度は私から咲哉様に接吻をした。
しかも今度は私の舌を咲哉様の口内に押し入り、舌を絡める深い接吻をだ。
「ぷはぁっ…どうでした?」
「はぁ…はぁ…す、凄いな牡丹…」
まだまだぎこちない動きだったと思ったが、咲哉様は満足してくれたようだ。
息を荒げるご主人様の逸物は、接吻をする前よりも大きく…それこそ先程私の口内にあった時並みになっていた。
「凄いと言えば…牡丹の性器も…」
「へ?あ、あわわ…こ、これはその…」
そして咲哉様に言われて気付いたが、私の陰唇は大洪水と言っても差し支えが無い程濡れぼそっており、咲哉様の逸物を欲しがっているかのようだった。
「まあ俺も大概か…じゃあ、いいのか牡丹?」
「はい…私のおまんこに…咲哉様のおちんちんを挿入れて下さい…そして、私を愛して下さい…」
「わかった…じゃあ挿入れるぞ…」
そして、ついにその時が来た…
咲哉様の熱く滾る逸物が、私の愛液溢れる陰唇にあてがわれ…先端からゆっくりと膣内へ侵入してきた。
私の膣襞を引っ掻き回しながら、そのまま奥に進んでいき…
「はぁ…本当に良いんだな?」
「咲哉様だから良いのですよ…はぁんっ!」
手前でもう一度私に確認をしてきた咲哉様に同意をし、私は自ら腰を沈めて処女膜を突き破った。
初めてだったけど…既に快感で染まっているからか、それともこの妖怪としての身体を持っているからか、不思議と痛みは無くピリッとする小さな絶頂を感じただけだった。
「あっ…気持ちいいですか咲哉さまぁ〜♪」
「ああっ、もう、ヤバいかも…」
そのままゆっくりと腰を動かす。
流石に少し前まで重症だった咲哉様に負担を掛けるのは良くないので、私の敏感なところを擦る逸物の感触を味わう為にも自ら腰を前後左右に動かす。
それだけじゃなく、下腹部に力を入れて逸物を搾るように攻めてみる…それが気持ち良いのか、咲哉様の下半身は時折ピクっと震える。
「咲哉さまぁ〜、私もう、イキそうです〜!!」
「お、俺も、もう、もうっ!!」
自分で動いてるはずなのに、咲哉様の逸物は私の敏感な部分を的確に攻めてくる。
その為、私も咲哉様と同じように身体が快感にビクッと震え、イキそうになっていた。
そして…
「ぐああぁっ!!」
「あ、あ、き、きた!!ああ、あぁあああぁあっ!!」
私の子宮に咲哉様の逸物から一際熱い物が…精液が叩き付けられた。
その脈動を、その熱を、その幸せを感じ取った私は…盛大にイってしまった。
自分の中で咲哉様の放出した熱が…自分の熱に変わるのを感じ取れた。
「ふぅ…ふぅ…」
「咲哉さま〜…もっと〜…」
「へっ?ちょっ!今出したばっか…うあっ!!」
咲哉様の精を子宮で受けたからか、先程よりも大きく…激しくなった気がする私のお腹の炎。
それに比例するように、私の中で咲哉様への想いが大きくなっている。
それは…もっと咲哉様の精が欲しい、咲哉様と繋がっていたいという気持ちも同時に大きくなっていき…
私は…未だ硬いままの逸物を膣内に挿入れたまま、さっきの交わりよりも激しく腰を動かし始めた……
====================
「ん……まぶしっ…ん?朝か?」
「あ、おはようございます咲哉様!!」
次の日の朝。
咲哉様に沢山精を注いでもらって元気いっぱいな私は、昨日性交している途中で気絶してしまった咲哉様が目を覚ましたので元気いっぱいに挨拶をした。
私の挨拶を聞いて振り向いた咲哉様はじっと私のほうを見つめてきて…
「ん?牡丹…って事は昨日のは夢じゃないんだな…」
こんな事を言ってきた。
「当たり前ですよ!!なんで夢だと思うんですか!?」
「いや…途中から記憶が曖昧だし…服もちゃんと来てるし…」
「それは私が寝ている咲哉様に着せたからです!!」
「そうか…ありがとう…それに今までずっとどれだけ待っても動かなかった牡丹が人間の女の子のようになってあんな事してくるなんて…簡単に現実とは思えないだろ?」
「まあ…そう言われると…でもこれは現実です!!」
たしかに咲哉様は私が提灯おばけになる日をずっと待ち遠しく思っていたのだし、それが叶ったのが夜、しかも身体を交えている途中で意識が飛んだとなれば夢だと思うのも無理ないだろう。
でも、私は現にこうして咲哉様と一緒にお喋りをしているし、身体を重ね、好きだとお互いに言い合ったのだ。
これが夢であるはずが無い。というか夢であってほしくない。
「まあ現実だろうな…あ、そうだ…牡丹、今回は島に置いていってしまってゴメンな」
「いいですよ…こうして会えた事ですし…そういえば咲哉様…装置は直ったのですか?」
「ああ、そっちは技師に「無茶させすぎだ!!」って怒られながらも直してもらった」
やっとこさ現実だと完璧に理解出来た咲哉様は、唐突に私を無人島に置いていってしまった事を謝りだした。
まあそれは咲哉様に無事会えたので気にしない事として、そういえば咲哉様は装置が壊れたからジパング本土に戻った事を思い出し、その事を聞く事にした。
「ですが…その装置はどこへ?壊れた船と一緒ですか?」
「ああその通りだ。そうだ…船どうしよう…近くの街にパーツがあれば良いんだが…」
どうやら装置のほうはほぼ問題無く直ったようだ。
まあ技師さんは…私の記憶が正しければ頑固親父と頑固ドワーフさん夫婦だから…怒られたって軽く言ってもかなり堪えたのだろう…苦笑いと共に苦労したのが表情に出ている。
それで問題は…やはり船の事らしい。
予想した通りパーツは見つかっていないらしく、島に帰れない状況という事か。
パーツでは無く代わりの船を探すにしても…流石にそんなお金は持ってはいない。
かといってこのまま本土に居たら咲哉様の研究が進まず…学会なるものでの発表が出来ず、信頼や実績が落ちてしまう。
「そういえば牡丹はどうやってこっちに来れたんだ?まさか海を泳いだのか?」
「いえ…たまたま知り合ったネレイスの林檎さんに木箱に入った状態で運んでもらいました」
「そうか…それは流石に帰りも頼むって事は出来ないな…」
だからといって私がこっちに来たように林檎さんに二人で運んでもらうのも…
…そういえば林檎さんどこ行ったんだろう?
さっき部屋の片付けをしている時に医者のリリム様とその旦那さんには会ったけど、林檎さんは見掛けて無いな…
と、いつの間にか見なくなっていた林檎さんはどうしたんだろうと考えていたら…
サーーッパシンッ!!
「お取り込み中のとこ悪いけどちょっと邪魔するでー!」
「……?あなたは誰ですか?」
いきなり病室の襖が開き、見知らぬ人…ではなく、見知らぬ刑部狸がいきなり部屋に入ってきた。
格好からしてここの看護師ではなさそうだが…
「あれ?あんたどこかで見たことあるような…たしか倭光の…」
「せや!あんたが数日前に船のパーツを買いに来た『たぬたぬ雑貨』の店員や!!」
どうやら咲哉様が船のパーツを求めて寄った雑貨屋の店員らしい。
そういえばあの遭難者達がご主人様を見たって言っていた雑貨屋の名前もそんな感じだった気がする…
その雑貨屋の店員がいったい何の用だろうか?
「あんたたしか船のパーツが無いって言ってたやん?」
「ああ…もしかしてあるのか?」
「いや、残念ながら今は扱っとらん…ただ2週間ちょっと待っとってくれるんなら取り寄せる事は可能や。大陸からの取り寄せやで値段は弾むけどな」
どうやら咲哉様が船のパーツを探している事を覚えており、取り寄せをしてくれる事を伝えに来たらしい。
しかし2週間となると…ちょっと時間が掛かり過ぎな気がする。
「うーん…2週間はちょっと…そこまで時間がもう無いので…」
「まあそう言うと思っとったわ…そこでや、今度学会やっけ?それがある時にその船のパーツを買うって事で、今回はウチの店が代わりの船を貸出という形で出したろうかという相談に来たんやわ」
ただそれはこの店員にもわかっていた事らしく、代わりの船を借りないかと言ってきたのだ。
「それは…たしかに良い案ですが…お金があるか…」
「あ、船の貸出料金はタダでええよ」
「…ええっ!?本当ですか!?それならぜひ借りさせて下さい!!」
「え…ちょっと待って下さい咲哉様!!怪しいですよ!!どうして船をタダで貸すとか言えるのです?」
そして、その船の貸出料はタダで良いと言ってきた。
咲哉様は驚いて…更には喜んで借りようとしたが…いきなりそんなに知らない人物に船をタダで貸すとかこの店員…怪し過ぎにも程がある。
だから私は借りようとしていた咲哉様を止め、店員に事情を聞いた。
「まあいきなりこんな事言ったら怪しまれるか…まあそうやな…牡丹やっけ?あんたがおるからお礼としてタダで貸すって言ってるんや」
「は?なんで私がいるとタダになるのです?」
よくわからない…私何かこの店員にしたっけ?
いや…咲哉様はともかく、私は初対面だ…と思ってたら…
「んーとな…あんた無人島で遭難者達を泊めたんやろ?」
「はい…何故それを?」
「実はそれウチの仲間なんや。それを昨日の深夜に店に来た林檎にあんたの事情まで含めて全部聞いてな…やでウチからの仲間を助けてくれたお礼や!」
「えっそうなんですか!?」
どうやら一昨日出会った遭難者達の仲間…それに林檎さんの知り合いらしい。
林檎さんを見掛けなかったのはどうやらこの刑部狸さんに会いに行っていたからのようだ。
そして私達の事を説明し、こうしてやってきたのだろう。
林檎さんやあの遭難者達の仲間という事は…絶対に嘘ではないだろう。
「なら…そうしてもらっても良いですか?」
「だからええって言っとるやろ?流石にパーツのほうの料金は払ってもらわんと商売やっていけへんから払ってもらうけど、それまでの壊れた船の管理や代わりの船の貸出料はタダにしたる!」
「ありがとうございます!!これで研究が無事に出来そうだ!!」
「そうですね咲哉様!!」
なので私達はこの刑部狸さんのお言葉に甘え、元の船のパーツを注文しておき、その間は別の船を借りて島に戻って研究をする事にした。
もちろん、私と咲哉様の二人きりで…
…………
………
……
…
「よいしょっと…ふぅ…いろいろあったけど無事戻ってこれたな」
「そうですね!」
それから数日経過し、咲哉様の怪我も良くなったので退院し、私達は船を借りて無事島に戻ってきた。
朝早く出発したが到着した頃にはもう辺りは暗く、少し曇っている事もあり私の灯りがなければ何も見えない程であった。
「それじゃあ早速途中で止まっていた分析の続きからやるか…牡丹、ちょっと暗くて見辛いから近くに来てくれ」
「わかりました。でも咲哉様、それが終わったら…」
「わかってるよ。結構な量あるから分析結果が出るまで時間も掛かる…それこそ一晩は掛かるしな」
そして発表用のデータをとる為に急いで止まっていた実験を再開させた。
ただこの装置を通して成分の分析をしても、結果が出るのには結構時間が掛かる。
「ではこの小屋内を…咲哉様をよく照らす為にもシましょう!」
「まあ最初からそのつもりだけど…その前にさ牡丹…」
「何でしょうか咲哉様?」
だから私は装置に分析する物をセットした咲哉様を求め行動しようとしたのだが…その前にと動きを止められ…
「そのさ…俺の事好きだったら…様って付けるのやめてくれないか?」
「……へ?」
「どうもやっぱり様って付いてるとな…牡丹が俺の妻になってくれるなら…様って付けるのやめてくれないかな?」
「……!?」
様を付けるのを止めてくれと…妻になりたいのなら様を付けずに呼んでくれと言ってきた。
というか…妻になってくれるならって……
「それは…私への告白ですか?」
「えっ…あ…その…うん…」
指摘したら顔が真っ赤になった咲哉様に…ううん…咲哉に私は…
「わかりました…では…私の夫になって下さいね…咲哉!!」
「…ああ!!これからもずっと一緒だぞ牡丹!!」
私からも咲哉に告白して…二人どちらからともなく静かに口づけを交わした…
私が作られて間もないある日に、私とご主人様は出会った。
ご主人様は本当にずっと私を大切にしてくれて、私は嬉しかった。
そして…私にとっても、ご主人様は大切な存在となっていた。
そんなある日の事、私はご主人様と同じように動く事や喋る事が出来るようになった。
そして…ご主人様と…咲哉様と身体を重ねる事も出来るようになった。
私はこれからもこの無人島で、咲哉様の…ううん…夫である咲哉の研究を手伝いながら、ずっと二人一緒に生活していくだろう。
そして…私の身体の灯りは途絶える事無く、ずっと強く燃え続けるだろう。
それはこの島全体を明るく照らすほどの灯りで…けれども照らすものはたった一つだけで…
この自然くらいしかない島で…私はそのたった一つを照らし続けていく…
私の大切なご主人様を……つまり……私の大好きな咲哉を…
これは、私のご主人様がこの小屋から居なくなった日の出来事だ。
「あーくそ、やっぱ無理させちまったか…あの技師に何言われるやら…はぁ…」
ご主人様は正常に作動しなくなった分析計を見ながらブツブツと何か独り言を言っている。
何故独り言かというと、まだ私はお話どころか動く事も出来なかったし、それにご主人様以外にこの島に人間はおろか妖怪すら居ないからだ。
「まあ仕方ないか…発表日まで時間が迫っているから今すぐ行かないとな…」
ちなみにご主人様はこの無人島の自然…植物の生態や土の成分などを調べ研究する仕事をしている。いうなれば科学者だ。
それで、研究に使っている装置の…しかも重要なものが壊れてしまったのでそれを作った人に直してもらいに行く為にその壊れた装置を抱え、準備を整え始めた。
「ん〜と…おそらく今から行くと夜に海を渡る事になるから…毛布1枚ぐらい持ってったほうがいいか…そんで食べるものと…よし、出発するか…帰ってこれるのは1週間後かな…」
そして準備が終わって、なるべく早く行く為か小屋を飛び出していった。
余程慌てていたのか、島を離れる時は毎回一緒に持って行ってた私の事を置いて…
そして、1週間経っても…ご主人様は帰ってこなかった……
====================
「牡丹ちゃん?おーい聞いてるー?」
「……はっ!?あ、ご、ごめんなさい林檎さん!ぼーっとしてました!!」
「いやそんなに気にしなくていいけどね…ほら、陸地が見えてきたよ!!」
輝く太陽の下、どこまでも続く水平線をぼーっと見ながらご主人様が居なくなった日の事を思い出していたら、話しかけられていた事に気付かなかった。
言われたとおりに見てみると…たしかに陸地…というか山らしきものが遠くにうっすらと見えた。
「あそこにご主人様が…」
「たぶんね…もしこの町に居なくてもそう遠くには行って無い筈だから、探せばすぐに見つかると思うよ」
私は帰ってこないご主人様を探すため、たまたま知り合った妖怪『ネレイス』の林檎(りんご)さんに無人島から海に入らないよう木箱に入れられてジパングまで運ばれていた。
何故わざわざ木箱に入れられて運ばれているかというと…私、牡丹(ぼたん)は『提灯おばけ』という妖怪だからである。
たぶん大丈夫だとは思うけど…やっぱり提灯だし、海に落ちると言うか、水に浸かるのはかなり怖いのでこうして海に落ちないように林檎さんに運んでもらっているのだ。
「ああ…ご主人様…早く会いたいよ〜…」
「ま、まあそんなに気を落とさないで。わたしも一緒に探してあげるからね!!」
「うぅ…ありがとうございます…」
ご主人様が島を出てから2週間と1日が経過…私が自分で動けるようになってからは10日ほど経過した。
その間、私は一人でご主人様の帰りを待っていたのだが…ご主人様が言っていた「帰ってくるのは1週間後」を信じて待っていたのだが…ご主人様は帰ってこなかった。
ご主人様は期限を守らない事は滅多にない程真面目な人…それこそ誰も約束などしていないのにも関わらず自分が決めた時間に合わせて動く人だから…1週間を余裕で越えても帰ってこなかった時は言いようもない不安に駆られた。
ご主人様の身に何か大きな事故があって大怪我でもしたのではないか…
ジパング本土に向かう途中で海に棲む妖怪にご主人様が捕まったりしていないだろうか…
もしかしたら私を捨てたのではないだろうか…
本当にさまざまな不安が私を襲ってきて…昨日まで苦しかった。
そう、『昨日までは』だ…
なぜならば、昨日たまたまご主人様の小屋に来た人達…強盗かと思って攻撃しちゃったけど遭難者だった…が、ご主人様らしき人物をジパング本土の倭光(わみつ)という町の…名前までは覚えてないけど雑貨屋で見掛けたと言ったのだ。
しかもその遭難者達が言うには、ご主人様は船のパーツを探しているらしい。
どうやら海を渡る途中、もしくは帰ろうとした時に船に何かが起こって壊れてしまったのだろう。
船自体は大陸製の物なので、ジパングでパーツを探すのは困難だ…それ故に修理に時間が掛かってしまってご主人様は帰ってこれないのだろう…
なにはともあれ、ご主人様が無事だって事や私を捨てた訳じゃなくて帰れないだけだという事がわかった。
だから私はいてもたっても居られなくなり、その遭難者達の知り合いだった林檎さんに頼んでこうしてジパング本土まで運んでもらっているのだ。
しかも林檎さんはそれだけでなくご主人様を探すのを手伝ってくれると言ってくれた…旦那さんも居るって言ってたから旦那さんに早く会いたいはずなのに…それでも私を手伝ってくれるというのだ。感謝してもしきれない。
「それでさ、何も情報が無いと探しようがないから一緒に探すためにもそのご主人様の名前や特徴とかを教えてよ」
「あ、そうでしたね…」
そういえばまだ林檎さんにご主人様の事を言ってなかった気がする…
手伝ってもらえるのだから、なるべくわかりやすくハッキリと伝えなければ!!
「えっと…ご主人様の名前は咲哉(さくや)様と言いまして…ジパング人らしい顔つきに短髪黒髪で黒い瞳をしてます。身長は大体170センチ程で体型は意外とがっちりしてます。それに優しい人ですが眼つきが鋭くて一見怖い印象を与える事もあるかも…それで年齢は24です」
「なるほどね…結構わかりやすいからすぐ見つかるかもね!」
ちょっと長くなっちゃったけど上手く伝えられたようだ。
そして林檎さんは私の説明を聞き頷いた後…
「それじゃあ急いで行くよー!!しっかりつかまっててね!!」
「へっ?……う、うわあ〜〜〜!?」
ネレイスとしての本領を発揮したのか、立っていられない程の速度で動き始めた。
危うく海に落ちそうになって怖かった……
…………
………
……
…
「はい、到着!!」
「や、やっと着いた……」
そのままの速度で海を渡り、しばらくして港町の倭光に着いた私達。
「林檎さ〜ん…めちゃくちゃ怖かったですよ〜!!」
「ゴメンゴメン…急いで行ったほうが良いかな〜って思ってつい…」
「たしかにそうですけど…何度も海に落ちるかと思いましたよ……」
「いやあ…でもおかげで早く着いたでしょ?」
「たしかに明るい内に着きましたけど…動けないならあまり変わりませんよ…」
「あはは…」
早くご主人様を探しに行きたいところではあるが…先程の恐怖体験のせいで身体が動かない。
手伝ってくれる林檎さんには悪いが、しばらくは動けないだろう。
なので今はとりあえず海岸で動けるようになるまで体力と気力を回復させている。
「とりあえずまずは何でもいいから情報を集めないとね」
「そうですね…でも…もう少し休ませて下さい…」
「あははは…じゃあわたしがちょっと港に居る人に聞いてくるからここで休んでなよ」
「はい…お願いします…」
林檎さんは私を置いて漁船だと思うものが集まっている場所まで器用に足だけ人化して小走りで行ってしまった。
一人残された私は、林檎さんが戻ってくるまで一人ボーっと海を見て休んでいる事にした…
====================
「ねえ父ちゃん!!俺あの提灯がほしい!!」
「ん?おおあの新品の提灯か!」
これは…私の一番古い記憶?
「特に文字とかは書かれていないし作りも普通か…本当にこれで良いのか?他にもいろいろあるぞ?」
「うん!なんか綺麗だし、こう…これって感じがしたんだ!」
間違いない…私が作られて、店頭で売られている頃の記憶だ…
正確には…私の元になっている提灯が作られ、商品として店に並べられている時の記憶か…
その記憶の中で、元気いっぱいの男の子が私を指差し父親にねだっている。
「まあ新品だし前の提灯みたいに簡単には壊れないか…新しい提灯はこれで良いんだな?」
「うん!俺絶対にこの提灯がいい!」
「そうか…しかし珍しいじゃないか。咲哉はいつも『何でもいい』だの『どれでもいい』だのと無関心な事が多いのに」
「まあね…でも今回は一目見た瞬間『これだ!!』って思ったんだ」
どうやらこの親子は使っていた提灯が壊れてしまったらしく、新しい提灯を買いに来たようだ。
そして、男の子が…幼い頃のご主人様が、私を手にとってくれた。
そう…これは私とご主人様との出会いの記憶だ。
「じゃあ買うか…すみませーん、この提灯買いまーす!!」
そして、ご主人様の父上はお金を払いに店員の元に向かった。
「えへへ…絶対俺が大事にしてやるからな!!」
その間ご主人様は、私を壊れないように優しく、それでいて離さないとするかのように力強く抱きしめていた。
……………………
それからも、ご主人様は本当に私を大事に使ってくれていた。
「なあ咲哉…お前の持ってる提灯、気のせいか他のより明るくね?」
「えっ?そうか?気のせいだろ」
「気のせいか?まあいいや…つーか咲哉の提灯綺麗だよな。どこも破れたりしてないしさ」
「まあな」
これは、少し成長したご主人様がご友人数名と暗い夜道を歩いている時の事だ。
たしかこの時はご友人達と山一つ越えた町までお出掛けしており、帰りは暗くなるからと予め私を持って出掛けていた帰りであった。
「俺一応ちょくちょくこの提灯の手入れもしてるしな」
「えっ本当に!?面倒じゃね?」
「そうでもないさ。俺はこの提灯を気にいってるからな。好きなものに取り掛かる事で苦なんか感じないだろ?」
ご主人様は本当によく私の手入れをしてくれていた。
表面や骨組を優しく拭いてくれたり、風や虫などが原因で破れていたら丁寧に紙を貼りなおしてくれたりと…とにかく大事に扱ってくれていた。
「まあそうだけどさ…咲哉変わってるな〜。普通提灯の手入れなんか酷く壊れた時ぐらいしかしなくね?」
「父ちゃんにもそれ言われたけどさ…なんか大切に使っていたいんだよ」
本当にご主人様の趣味は私の手入れと言ってもおかしくない程、ご主人様は私を大切にしてくれた。
「ふ〜ん…でもさ、咲哉がそんなに大事にしているならさ、もしかしたらいつかその提灯は付喪神になるかもな!」
「付喪神?なんだそれ?」
「ん?知らないの?じゃあ教えてやるよ…って言っても俺もそんなに詳しくは知らないけどな」
…ある意味このご友人は預言者であったわけだ。
事実私は提灯おばけとして動く事が出来るようになったのだから。
「付喪神ってのはな、人間が使う道具に命が宿ったものの事を言うんだ。まあ道具の妖怪化ってのが一番しっくり来るかな」
「へぇ…それは提灯でもなのか?」
「というか俺は提灯以外でそういった例は聞いた事が無い。付喪神になった提灯は提灯おばけっていう妖怪の一種になるらしいぜ?」
「そうか…提灯おばけか…」
ご友人に説明され、提灯おばけという存在を知ったご主人様は…
「こいつが提灯おばけになったら…名前とか付けたほうが良いのかな?」
「また随分と気が早いな…なると決まったわけじゃねえのに…」
「まあな…でも俺はこの提灯を大切にするつもりだからな。もしかしたら本当にある日突然提灯おばけになるかもしれないだろ?その時咄嗟には名前なんか付けたり出来ないだろ?」
「いやたしかにそうだけどさ…まあ好きにすれば?」
ご友人に気が早いと言われながらも、私に名前を付けてくれた…
「そうだな〜…妖怪って事は女の子って事だよな?」
「まあ…俺が知ってる妖怪は女性しかいないし、近所に住む稲荷のおばさ…お姉さんだってそんなような事言ってたしな」
「そうか……じゃああの花の名前とかは?あの花綺麗だし、花の名前って女の子らしいしさ」
「ん?ああ、あれか…」
ご友人と話しながら歩いている時、綺麗だったが故にたまたまご主人様の視界に入った一輪の花の名を…
「あれってたしか…牡丹だったっけな」
「そうか…よし!もしこの提灯が提灯おばけになったら、名前は牡丹にしよう!!」
「また安直な…まあ本人がそれで良いなら文句は無いけど…」
こうして…私の名前は牡丹になったのだった。
そう…ご主人様が、私に牡丹と名付けてくれたのだった…
……………………
「う〜ん…これはこうなって…違うな…こうするのか?」
「咲哉…もう寝たらどうだい?」
「あ、父さん…いえ、この計算を終えるまでは寝ません。そう決めてからやり始めたので…」
これは…ご主人様が科学者を目指して、夜遅くまで勉強なさっていた時の事だ。
机の上に沢山の本や紙が散らばり、大陸の筆記用具であるペンを使い、私という小さな光源を頼りに何やら文字や数字を走り書きしていたところに、ご主人様の父上が心配して様子を見に来たのだ。
「まあ勉強をする事は悪いとは思わないが…身体を壊したら身も蓋もないぞ?」
「いえ…でも俺はまだ…」
「目の下にそんなに大きな隈を作っておいて大丈夫だなんて言わせないからな」
この頃のご主人様は科学者になる為に頑張って勉強していた。
ただ…頑張り過ぎて身体を少し壊し掛けていたのだ…
「ですが…俺はやっと自分の夢を見つけたんです!多少無茶しても叶えたい夢なんです!!」
「そうか…そういうならワシは強くは言わん…」
昔から将来の夢とかが無く、適当に生きていたと言っても過言ではなかったご主人様。
学もそこそこ、剣術もまあまあ、体力も一般的で、特にこれといった特徴を持たないと自分で考えていたからか、日々をだらだらと過ごしていた。
だが、ある時にご主人様が住むこの町に異国の科学者の方がやってきた。
そのお方の語る自然の持つ可能性や、目の前で実践していた実験に感銘を受け…ご主人様は科学者になる事を決めた。
その日からご主人様は様々な知識を身に付けようと躍起になったのだが…今までの反動か、無茶をする事が多かった。
「でも…その提灯はそんな咲哉の事をどう思っているかな?」
「え…いきなり何を…」
「いや…もしその咲哉がとても大事にしている提灯…その提灯がもし話す事が出来たとしたら、今の咲哉になんと言うかなと思ってな…」
「……」
私としては…夢に向かって無茶をするのは良い事だとは思えなかった。
たとえ無茶しなければ夢を叶えるのに時間が掛かるとしたって私は…こうやって言うのはご主人様には悪いが…夢を早く叶えたい事ごときでご主人様が弱っていくのは見ていたくなかった。
それは父上も同じなのだろう…ご主人様のその姿勢自体を強く否定はしないものの…
「頑張っている咲哉を応援はしている…でもな、無茶をするのであればワシは全力で止めるつもりだ。おそらくその提灯だって…今この時に命が宿っていればそうするだろう…」
「なぜ…そう思うのですか?」
「ずっと今の咲哉の様子を近くで見ている者なら同じ考えに至るだろうからな。母さんだって心配しているんだぞ?」
「そうですか…」
まるで私の気持ちを代弁しているかのように、ご主人様にそう言ったのだから。
「わかりました…父さんや母さん、それに牡丹に心配掛けるのは良くないですね…今日はもう休む事にします」
「それでいい……ところで牡丹とは?」
「えっ?……あ………な、なんでもありません!!」
「そうか…ははっ…これは咲哉のお嫁さんはすでに決まっているようなものか!!」
「なっ!?そ、そういうのではないですよ!!」
やはりご主人様は無理して疲れていたのだろう…普段誰にも言わないようにしていた私の…提灯に付けた名前をうっかり父上に言ってしまったのだから。
今までの会話から牡丹が何を指しているのか察した父上は、深夜だから小さく、それでいて高らかに笑っていた。
ご主人様は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、口を滑らせた事を少し後悔していた…
……………………
「…ちっ…なんでこんな事態に陥ってるんだよ……足が痛くて動かねえと思ったら折れてやがる…」
今度は…更にご主人様が成長なさり、科学者になりたての頃の事だ。
ご主人様は実験に使用する試料を探して住んでいる町から少し遠い所にある山を登ったは良かったが、途中で雨が降ってきたので急いで下山している最中で…すでに辺りが暗くなってきていた事もあり足を滑らせて崖下に落ちてしまっていた。
幸か不幸か怪我は足の骨が折れただけであり、致命傷などは一切負って無かった。
「くっそ…そんなに食糧とか持ってきてないからな…這ってでも移動するしか……いや…ここを這って移動とか無理か…段差が多すぎる…」
だが、足の骨が折れ普通に移動する手段が断たれた状態で、尚且つ食糧もたいして持っておらず連絡手段も無く一人しか居ない状況ではそう長くはもたないだろう。
「せめて山に棲む善良な妖怪が見つけてくれたらな…あ、そうだ!」
そこでご主人様は山に棲んでいる妖怪や、通りかかる人に見つけてもらえるようにする事を考えたようだ。
「…よし、マッチは無事だったようだ……頼んだぜ牡丹!!」
ご主人様は鞄の中から、落ちた時に少しだけ破れてしまった私と奇跡的に無事だった火種となるマッチを取り出し火を点けて、ご主人様自身のすぐ近くにそっと置いた。
これなら夜でも周りが見え発見されやすいだろうし、さらに小さいと言っても火があるから獣避けにはなるだろう。
「食糧減らして連れてきたんだからしっかり頼むぜ?さて…あるものを少しずつ食べていくか…」
自分で持って来たのにと今になっては思うが…私はご主人様の為に辺りを明るくし続けた。
「なんだこの灯りは……って人間!?しかも怪我してるじゃないか!!大丈夫か君!!」
「あ、こんなにも早く助けが来ると思わなかった…はい、一応意識とかは大丈夫ですが足の骨が折れたらしく足が動きません」
「…結構冷静だな…まあ足が動かないなら仕方ない。私が背負って連れて行こう…」
「あ、ありがとうございます」
その甲斐もあって、ご主人様は数刻も経たないうちにジパングではちょっと珍しいサキュバスみたいな人に無事発見されたのだった。
みたいなってのは…今にして思えばその人はちょっとサキュバスとは違った気がするからだ。
こう雰囲気っていうか…どこか気品溢れる感じがそのサキュバス?さんから感じたからだ。
「えっと…ところで、俺はどこに連れて行かれているのでしょうか?」
「ああ…私はこう見えても医者をしていてな。この山の麓にある街で私と夫が開いている病院があるからそこで手術及び入院をしてもらう」
「はい…あれ?ちょっと待って下さい!」
「どうした?何かおかしな事でもあったか?」
「えっと…二つ程あります…一つは、たしかこの山の麓の街は妖怪に厳しかったはずだということで、もう一つは、どうして医者が山に居るのか……なんでですか?」
もちろん私を手に持ったままそのサキュバス?さんに背負られているご主人様…
疑問に思う事があったようで、サキュバス?さんに質問をし始めた。
「ああ…一つ目の質問の答えとしては、それは少し前までの事であって今は人魔共に仲良く暮らせる街になっている。そして二つ目の質問の答えだが、そんな街には未だに魔物を排除し元の人間だけが住む…と言っても元々あの街には魔物が大勢潜んでいたがな…まあそういった奴等が居ないかの見回りをしていたから山に居たって事だ」
「は、はぁ…そうですか…まあよくわかりませんがおかげで助かりました」
「気にするな。私はその提灯の灯りがなければ君を発見する事は無かったのだ。感謝するならその提灯にするのだな」
とにかく無事助けられたご主人様…
「あ、そうだ…提灯の修理に使えるもの、どこかに売ってません?」
「ああ、売ってはいるが…何故今それを聞く?医者としてはまずは自分の身を心配しろと言いたいのだが?」
「あ、いえ…この提灯は俺が小さかった頃から大切にしている物で…変に思われるかもしれませんが自分の命と同じ位大切な物なんです…」
自分の身の安全が確保されたからか、少し壊れた私を直す事を考え始めたご主人様。
注意されたように自分の身をもう少し心配してもらいたいが、私の事を心配してくれるのは…ちょっと嬉しかった。
「……そうか…そんなに想われていてその提灯は幸せだろうな…」
「えっ?あ、はい…ありがとうございます…」
その想いがサキュバス?さんにも伝わったのか、私のほうを見ながらそう呟いていた。
その後ご主人様はそのサキュバス?さんや旦那さんの治療のおかげですぐに完治することが出来た。
「…よし、これで元通りだ!俺を助けてくれてありがとな牡丹!」
そしてすぐに私を直してくれた。
直してくれたご主人様の顔は、とても嬉しそうであった。
……………………
「無人島の調査か…かなりの大役じゃないか!お前まだ若いのに凄いな咲哉!」
「まあな。不安もかなりあるけど、むしろ楽しみのほうが大きいさ」
そして…およそ一年前。ご主人様が無人島の自然の調査をなんと国から任された時の事だ。
「ところで咲哉…お前一人で無人島生活って寂しくないか?」
「まあ…でも俺と一緒に行ってくれる人なんかいないからな…流石にもう老齢の両親を連れていくわけにはいかないしさ」
「そうか…俺が一緒に行ってやろうか?」
「馬鹿言うなよ。お前だって自分の仕事や生活があるだろ?しかも奥さんが黙ってないだろ?」
「悪いが冗談だよ。まあ…流石に俺も燃やされたくは無いからな」
出発前にご主人様は、幼少期からの付き合いがあるご友人とお喋りをしていた。
ちなみにこのご友人…ご主人様が私に牡丹と名付けてくれた時に近くに居たご友人で、数年前に白蛇さんと結婚をしていた。
「そういやあ咲哉、お前無人島に何持っていくんだ?つーか寝床とかは大丈夫なのか?そもそもどうやって行くんだ?」
「ああ…寝床っていうか、一応台風程度は耐えられる小屋は用意されているらしい。それで国から贈られた大陸製の立派な小船で向かう」
「ふーん…やっぱ国が動いているからある程度は用意されてるんだな」
「まあ本当にある程度だけなんだけどな」
ご主人様は無人島に住む事になる。
研究及び生活する為に立派な小屋やある程度の生活用品は用意されているらしいが、それでも病気になったりしたら治す為の薬とかはそんなに用意されていないので大変である。
更に言うと無人島と本土での連絡手段はほぼ皆無だ。
1、2ヵ月に一回カラステングさんが様子を見に来るらしいが、それ以外は用意した船で自力で戻らなければならないのだ。
「それで何持って行くんだよ?」
「ああ…まあ基本的には大陸に勉強しに行っていた時と同じように着替えや歯ブラシ、後は非常食とか…ああそうだ、実験用の器材も今回は運ばないと駄目か…」
ご主人様はこの年齢になるまでの間、何度か勉学の為に大陸に渡っていた事があった。
何度も行くうちにどんな荷物があればいいのかわかるようになってきたらしく、必要最低限だけ持って行くので持っていく予定の荷物は案外少ない。
「ふ〜ん…例の提灯は?」
「牡丹の事か?もちろん連れていくさ」
もちろん私は連れていってもらえる。
まあこの時にはもうすでに私は家族用ではなくご主人様専用の提灯になってたから問題は無かった。
「やっぱ嫁は連れていくか…」
「なっ!?いきなり何言うんだよ!!」
「ん?違うのか?お前が嫁作らないのはてっきりあの提灯が付喪神になるのを待っているからだと思ってたんだけど」
「違うわい…普通に女にモテなかっただけだっての」
「へぇ〜…まあ冗談だって。だから拗ねるなよ」
「へいへい…でも本当に牡丹は提灯おばけになるのか?もう10年以上経つけど未だに動きだす気配もないぜ?」
「さあな。提灯おばけ自体は存在するんだから咲哉の牡丹に対する愛が足りないんじゃねえの?」
ただ、私はご主人様と出会って大体14年も経ったのに、この時はまだ動くどころかお話すら出来る状態では無かった。
実際はこの約1年後にこうして動けるようになるのだが…10年以上経っても私が動かなかったから疑問に思ったのだろう。
ご友人はご主人様の私への愛が足りないと言ったが、そんな事は無かった。
だって…ご主人様は何度も私を直してくれたし、いつだって傍に置いてくれていたのだから…
それでも動けるようになって無かったのは…単純に魔力と想いが結びついていなかったから…だと思う。
「ま、その話は置いといて…研究頑張れよ!」
「ああ、頑張るさ!お前も自分の仕事頑張れよ!」
「そうだな。それじゃあな!そろそろ帰らねえと嫉妬深い妻に怒られちまう」
「おう!まあ発表ある時や食糧がやばくなった時とかには帰るからその時にはまた」
ご友人と別れて、無人島へ行く準備を始めたご主人様。
「牡丹も入れたし…よし、出発するか!!」
そしてご主人様は一人で…いや、私と二人きりでの無人島生活が始まったのだ……
====================
「………ん、……んちゃん……」
「……」
「おーい牡丹ちゃーん!!」
「……はっ!?」
いつの間にか私の隣に居た林檎さんに身体を揺さぶられて私の意識は現在に戻ってきた。
どうやら海をボーっと眺めているうちに眠ってしまっていたようだ。
だからご主人様との思い出が頭の中で巡っていたのだろう…懐かしい思い出だった。
「牡丹ちゃん大丈夫?やっぱり疲れてる?」
「いえ…大丈夫です」
「そう…ならいいけど…」
たしかにちょっと疲れてはいるし、ご飯も食べていないから空腹感は感じているが、心配する程のものではないだろう。
それより、林檎さんが戻ってきているという事は…
「ご主人様の情報は何か入りましたか?」
「あ、うん…一応ね…」
「本当ですか!?早く教えて下さい!!」
「うわっ!?わ、わかったから落ち着いて…」
やはりご主人様の情報が入ったらしい。
その情報が早く聞きたくて思わず林檎さんに掴みかかってしまったがその林檎さんに抑えられ、落ち着いて聞く事にした。
「えっとね…咲哉さんなんだけど、この街には船のパーツが無いからって大体4日ほど前に隣町の通馬(とおま)まで向かって行っちゃったらしいんだ。その咲哉さんの壊れてしまった船を預かっている人の情報だから間違いないよ…」
「そうですか…では早速その通馬まで向かいましょうよ!!」
林檎さん曰く、ご主人様は隣町の通馬って場所に行ったらしい。
場所さえ分かれば後は会いに行くだけ…そう思って早速出発しようとしたのだけど…
「あ、まって…その…ちょっと聞いて…」
「ん?どうかしましたか?」
林檎さんが私の肩を持って、真剣な表情で…
「そのね…咲哉さん通馬に向かったらしいんだけどね…もしかしたら事故に巻き込まれた可能性があるの…」
「…………は?」
聞き間違いであってほしい事を言ってきたのだ。
「え、り、林檎さん…じ、事故って何ですか?」
「えっとね…」
とりあえず、事故に巻き込まれたという情報だけではご主人様がどうなっているかの予想も付けにくい。
なのでより詳しい事を林檎さんに聞きだす。
「大体2、3日前の話なんだけど…ここ倭光と通馬を繋ぐ道の途中でね…大きな落石事故があったらしいの」
「落石事故…ですか?」
どうやら落石事故があったらしい。
しかも2、3日前なら丁度ご主人様が通っててもおかしくないタイミングだ…嫌な汗が私の頬を伝う…
「うん…それでね…酷い事に人通りが多かった時間らしくて…そのせいで大人数が落石に飲み込まれて…それで…」
「…それで…何ですか?」
大人数が飲みこまれて…人通りが多かった…
言い淀んでいる林檎さんの様子を見ていると、どうしても嫌な予感しかしない…
「どうやら…不幸中の幸いでまだ死者は出ていないらしいけど…かなり命が危ない人が数人いるらしくて…しかもその中に咲哉さんがいる可能性が高いらしいんだ…」
「え……そ、そんな……」
そして、嫌な予感は最悪とまではいかないものの、悪い形で的中してしまったようだ。
ご主人様はまだ生きてはいる…でも死にかけている…
やっと会えると思ったら…下手すれば永遠のお別れになるとかあんまりだ……
「じ、じゃあ…今ご主人様はどこに…?」
「大きな病院…この町の中央病院か通馬とは別方向にある隣町の樫紅(かしく)の病院に運ばれたらしいから…どっちかにいるかも…」
「じゃあ近い方からすぐ行きましょう林檎さん!!」
「…そうだね!この町の病院の場所は聞いてあるからすぐ行けるよ!!」
だから私は、林檎さんと一緒に病院まで走る事にした。
正直走り続ける程の体力はまだ回復していない…どころか、さっきより疲れている感じはする…
でも…ご主人様に早く会わないとと思ったら、私の足は自然と早く、疲れを感じずに動き続けた。
…………
………
……
…
「林檎さん早く!!」
「待って牡丹ちゃん!慌てる気持ちはわかるけど落ち着いて!!そっちは道違うから!!」
「えっ違うのですか!?」
「うん。右じゃなくて左だから…だから迷子になって余計な時間とか掛けないように落ち着いて行こうね」
「はい…そうですね…でもご主人様かどうか早く確認したいんです!!」
「わかってる。だからきちんと地図を確認しながら確実に向かっているんだよ」
倭光の中央病院にご主人様はいなかった。
しかし、そこで入院していた人からご主人様らしき科学者の男の人が一緒に巻き込まれていた事と、その男の人は酷い状態だったので施設や技術が揃っている樫紅の病院に運ばれていったそうだという情報を得る事が出来た。
なので私達は樫紅までの地図を貰って、暗くなってきた空の下でご主人様かどうかを確認する為に急いでその病院まで向かっている。
「その重傷を負った人がご主人様じゃなければ一番良いんですが…」
「まあ…もし咲哉さんだったとしても最悪命に別状が無ければいいけどね…」
「そうですね…」
ご主人様がどうか無事でありますように…
今の私は病院に向かいながら、そう祈る事しか出来なかった……
……………………
「……っと、どうやらここのようだね」
「ここですか…結構大きいですね…」
そうして走り続ける事数時間。
目的地である樫紅の病院まで辿り着く事が出来たが…
「…あれ?ここって……」
「ん?知ってるの牡丹ちゃん?」
「はい…たしか昔ご主人様が足の骨を折った時に入院していた所です」
その建物は…さっきのご主人様との思い出の中にもあった、ご主人様が崖から落ちて足の骨を折ってしまったときに連れて行かれた、サキュバス?さんが経営している病院だった。
「もう閉まっているみたいだけど…」
「あ!診療時間外でご用がある方はこのボタンを押して下さいって書いてあります!!」
「そうだね…じゃあ押してみようか」
流石にもう空は真っ暗で、星や月が輝いている時間帯。
私が提灯おばけだから私の周りは明るいけど、もうすでに夜遅い時間だった。
そんな時間に病院が開いているわけがなく、病院の扉は固く閉ざされていたが…すぐ横にボタンが付いていた。
ご用がある方は押して下さいと書いてあるので、私は軽くそのボタンを押してみた。
ブーーッ!!
「…これでいいのかな?」
「たぶん…何か変な音も聞こえたし合ってると思うよ」
するとすぐに病院の中に高い音が響いた。
そのまましばらく待っていると、玄関が明るくなって…
ガチャッ
ガラガラガラ……
「はい、どちらさまで…ん?提灯おばけにネレイス?こんな時間に何か用か?」
鍵を開けた音に続いて、病院の人が扉を開けて姿を現した。
その姿は…やはりあの時にご主人様を助けてくれた医者のサキュバス…じゃない…
今は明るい場所で見た事と、提灯おばけになったからわかる…この人リリム様だ…
その医者のリリム様が私達に何用かと聞いてきたので、早速ご主人様がいるかを聞く事にした。
「あの…ご主人様…じゃなくて…咲哉って男の人ってこの病院で入院していますか?」
「それがどうした……ん?もしかしてお前はあの時の提灯か?ほら数年前に咲哉さんが足を折った時の…」
「はいそうです!覚えていましたか!!」
「まあな…あれほど提灯に思い入れがあった男は他に見た事無いからな…やはり提灯おばけとなったか…そうだ、その咲哉という患者なら家にいる。安心しろ、もちろん一命は取り留めてある…それどころか今は回復していっている」
「え…本当ですか!?ありがとうございます!!」
やはりご主人様はこの病院に居たようだ。
それどころかリリム様の治療のおかげで一命を取り留めたばかりか回復すらしているらしい。
「良かったね牡丹ちゃん!」
「はい…よかった……よがっだですぅ〜!!」
「ほらほら〜、会えるんだから泣いてないで笑ってなきゃ〜」
「ぐすっ……そ、そうですね!!」
私は嬉しくて…おもわず嬉し泣きしていた……
しかし林檎さんに言われた通り、折角無事だったご主人様に会えるのだから笑顔で会いたい。
だから頑張って泣くのを止めて、笑顔になろうとした。
「…それだけ大事に想っているのか…では案内しよう」
「ぐすっ……はい…ありがと……う………?」
どうにか泣きやみ、リリム様の案内でご主人様の下に行こうとして足を動かそうとしたら…
…何故か突然私から力が抜けていって…その場で倒れてしまっていた。
「牡丹ちゃん?……牡丹ちゃん!?どうしたの!?」
「ん?どうし……っておい!しっかりするんだ!!」
そして…声も出せなくなり…視界も暗くなっていって……
「お……し…………そ……ま…………ぞ!」
「は………だ………す……」
リリム様や林檎さんの声も聞こえなくなり……私の意識は遠のいていった………
====================
「……?」
気がついたら、私の目の前には木面が…というか天井が広がっていた。
つまり私は倒れた後病院のどこか一室まで運ばれて寝かせられているのだろう。
とりあえず今私はどんな場所で寝かされているのか…それを確認する為に首を横に向けてみたら…
「……!?」
「……ん?おお、どうやら起きたようだな」
なんと、私の横で私と同じようにご主人様が寝ていたのだ。
つまり…ここはご主人様がいる病室で…しかも同じ布団に寝かせられていたのだ。
「……!!」
「ん?どうした?顔が真っ赤だぞ…もしかしてやっぱりまだ具合が悪いのか?」
「あ、いえ、たしかに本調子ではありませんがそうではないですから!!」
「そうか…よくわからないけどまあ本人がそうやって言うなら別にいいや…」
その事実に気付いた私は、途端に緊張や恥ずかしさや照れで顔どころか全身の肌が真っ赤に染まってしまった。
その様子を見たご主人様が私の事を心配してより近付いてきた事によってより一層照れてしまったので慌てて否定して少し離れてもらった。
おかげで心臓がバクバクして止まらない…
「それより確認したいんだが…」
「えっ?はい、何でしょうか?」
「えっと…お前は本当に牡丹なのか?」
「へ?あ、そうか…」
と、私が自分の鼓動を落ち着かせようとしているところに、ご主人様が真剣な顔をして私にこう確認をしてきた。
そういえば私がこの姿になったのはご主人様が無人島を出発した後だった…だからご主人様は今の私の姿を見た事が無かったはずだ。
それならいきなり現れた私があの提灯だって簡単には信じられないだろう…そう考えた私は提灯の牡丹だって証明と共にご主人様に告げる事にする。
「私はご主人様が幼い頃に町のお店で父上に買ってもらった提灯の牡丹ですよ。そう…ご主人様が「絶対俺が大事にしてやるからな」と言って抱きしめた提灯…ご主人様が夜道をご友人と歩いている時にたまたま目に入った牡丹の花から名前を付けた提灯…それが動けるようになったのが私…牡丹ですよ」
「…そういえばそんな事もあったな…なんか本人に言われると恥ずかしいな…」
「と言う事は…私がご主人様に大切にされていた提灯だって信じてくれましたか?」
「ああ…その事を知っているのは俺の持っている提灯の牡丹だけだからな…ようやく付喪神になったんだな…」
「はい!これでご主人様とお話も出来ますし…こうして触れ合う事も出来ます…へへっ…」
私はご主人様の身体に触れながら、ご主人様と出会った時やご主人様が名前を付けてくれた事を話したら信じてくれたようだ。
ご主人様は私の頭を撫でながら感慨深く付喪神になったんだなと言ってきた…
その頭を撫でられる感覚がとても心地良い……ついにやけてしまう……
「…そういえば…なんで私ご主人様の隣で寝かせられているのですか?というかどうして私倒れたんだろう?」
と、ここで私はふと疑問に思っていた事を口にした。
まあご主人様の隣に寝かせられているのは、おそらく倒れた私をリリム様や林檎さんが気を利かせてここに運んだからだろうけど…そもそも何故私は倒れたのだろうか?
もしかしたらご主人様は何か知っているかもしれないと思って聞いてみた。
「あ〜…それはだな〜…どうやら牡丹、お前は魔力が空に近いらしいんだわ…」
「……へっ?」
リリム様に聞いたのかご主人様はやはり知っていたらしく、少し言いづらそうな雰囲気を出しながらも少しずつ教えてくれた。
「まあ…つまりその…今の牡丹は相当な空腹状態なうえに俺を探す為に飲まず食わずで無茶をしたから…」
「だから私は倒れたって事ですか?」
「まあ…そういう事だ。緊張の糸が途切れたから一気に疲れとして出てきて倒れたのだろうって医者は言ってたな…」
どうやら魔力が足りず空腹状態でご主人様を探していて、無事を確認して緊張状態で無くなったから気の緩みで倒れてしまったらしい。
そういえば…今日の朝に焼き魚を一つ食べてから何も口にしていなかったな…
という事は、私の場合きちんとご飯を食べて無理をしなければ良いわけか…
でも…
「ねえご主人様…私達提灯おばけの食料って…なんだか知ってます?」
「それも聞いたけど…人間の精……だっけ?」
「はい」
私の様な提灯おばけは人間の男性の精を食料としている。
もちろん他のものでも大丈夫ではあるけど…折角ご主人様にも会えた事だし…
「だからご主人様……」
私はご主人様の寝巻を剥いで…
「私を使って…気持ち良くなりながら…私に精を下さい」
「え…おい…ちょっと…」
自分が着ていた服を、下着ごと取り払った…
着ているものが無くなり、私のお腹の炎で部屋の中が明るくなる…と言っても、その炎は今朝よりも小さくなっている。
それでも…私の灯りで、ご主人様と私の身体は…何も身に着けてはいない身体は照らされていた。
「さあ…ご主人様…」
「ちょ、ちょっと待て牡丹!!」
「…何ですか?私では不満ですか?」
早速ご主人様に気持ち良くなってもらおうとしたのだが、何故かご主人様は私を止めてきた。
もしかして私にそういった行為をしてもらうのが嫌なのか…そんな不安が生まれてきた。
「いや…そうじゃなくてさ…」
しかし…私の不安とは全く別物だったらしく…
「その…そういう事…牡丹は本当に俺としたいのか?」
「え…はい…」
「じゃあさ…それは食事の為か?それとも恩返しの為か?」
「え…それは…」
真剣な顔をして、こう聞いてきた。
もちろん、私の答えは決まっている。
「そうですね…食事の為、恩返しの為…それもあるかもしれませんが……」
「あるかもしれません…が?」
「私は…ご主人様が大好きだから…ご主人様と身体を重ね合わせたいのですよ!」
もちろん…今まで私を大事に扱ってくれた恩返しもあるし、今からご主人様の精を貰うという事には食事の意味も含まれているだろう。
でも私は何よりもご主人様が好きだから…
私の大切なご主人様の事が大好きだからこそ、私と交わってもらいたいのだ。
「そうか…ならさ…俺の事はご主人様じゃなくて咲哉って呼んでくれよ」
「え…?」
「俺だって牡丹の事好きだからな!そんな他人行儀で呼ばないでくれよ!!」
「えっ!?は、はい!!わかりました咲哉様!」
そんなご主人様は…自分の事を咲哉と呼んでくれと言ってきた。
何よりも大好きな…私の事を好きだと言ってくれたご主人様の頼みだ…だから私は咲哉様と言ったのだが…
「……まあひとまずはそれでいいや……」
咲哉様はどこか納得していない表情を浮かべていた。
何かいけなかったところでもあるのだろうか?
「と、とにかく、まずは咲哉様を気持ちよくさせますね!!」
「お、おう……うあっ、あふっ…」
何が不満なのかはわからないけどひとまずはそれでいいと仰ったので、私は早速咲哉様との行為を始める事にした。
私は咲哉様の下着を丁寧に外し、その下に存在している立派な逸物を小さな手で扱き始めた。
提灯だった頃はもちろん、こうして人間と同じような身体になった後もこうした行為はした事が無い為咲哉様が感じてくれるか不安だったが、どうやら感じてくれているらしい。
強弱付けて揉んだり、上下に扱いたり、皮を剥いだりしているうちに咲哉様は気持ちよさそうな声を発し、手の中にある逸物が段々と太く硬くなっている。
それと共に発している男の臭いが濃くなり、先端からは透明な粘液を溢れだしている…その先走りを潤滑油としてさらに早く手を滑らせる。
「咲哉様…どうですか?」
「うぁっ…気持ちいいぞ牡丹…」
「そうですか♪ではこれはどうです…れるっ…」
「ん?うおっ!?」
そんな咲哉様の逸物を私は自分の舌で舐めてみた。
裏筋に合わせて舐めあげてみたり、鈴口を中心に亀頭に唾液を塗りたくるようにちろちろと攻めてみた。
その度に咲哉様はビクッと身体を震わし、快感に染まった息を出している。
「んふ…ではこれは……はむ…じゅう…」
「ああっ!そ、それ…うぁ…」
そのまま今度は私の口に咲哉様の逸物を咥え込んだ…と言っても流石に咲哉様の少し大きい逸物全部を私の小さな口の中に入れるのは残念ながら出来ないが。
私は吸うようにして口を窄め、唇でカリ首を引っ掛けるように首をゆっくり動かした。
もちろん舌で刺激するのを忘れない…実際はありえないが、咲哉様の熱で舌が溶けてしまいそうだ。
「じゅぷ…じゅる……」
「うお、あぁ…ふぁう……」
動かしているうちに咲哉様の逸物が口に収めきれない程大きくなり、しきりにビクビクと震え始めた…
もしかしてそろそろ射精する…そう思って私は更に激しく首を動かし、舌も使って射精を促した。
「ぐっ、で、射精るっ!!」
「んんぶっ!?ん……んぐ……」
そして逸物の先端が私の喉の奥を突いた瞬間、咲哉様の逸物から濃い精液が私の食道に直接注ぎこまれた。
粘りつきなかなか落ちない為か、熱を持った咲哉様の精液が食道を進む感覚が強く感じる。
それに…咲哉様の匂いが鼻腔をくすぐり…思わず射精中の逸物を更に奥に沈めようとしてしまう。
「お、おい牡丹…喉に当たってたが大丈夫か?」
「ふぁ〜♪…あ、はい、おいしかったです…咲哉様も気持ち良かったですか?」
「そうか…ああ、気持ち良かったよ」
射精が終わり、咲哉様は私の口からまだ硬いままの逸物を抜いた。
出る時に唇を窄め、逸物内に残った精液を搾りだした…舌に感じる咲哉様の味が何とも言えない幸せを感じさせてくれる。
「で…気持ち牡丹の灯りが明るくなった気がするし、これでもう良いのか?」
「は?何を言っているのですか咲哉様?まだこちらを味わって無いですよね?」
しかし、咲哉様があり得ない事を…もう止めるかと言ってきたので、私は慌てて立ち上がり自らの股の割れ目に指を這わせ、咲哉様に見せつけるようにゆっくりと開いた。
そこは咲哉様の逸物を早く欲しがっているからか、それとも先程咲哉様の精液を飲んだからか、すでに十分な程濡れていた。
「咲哉様…こちらにもいっぱい注いで下さい…」
「ああそうだな…でもその前に…」
「どうしまsわあっ!?んぷっ!?」
だから咲哉様の硬く反り勃つ逸物を私のナカに挿れようとしたのだが…その前にと咲哉様は私の頭を片手で抱くように引き寄せて…私の唇に咲哉様自身の唇を触れさせた。
いきなりだったけど…咲哉様が私に接吻をしてくれた。
そのまま唇同士が触れるだけの接吻を数十秒続け、二人の間に一本の細い銀色の橋を掛けつつ名残惜しむようにゆっくりと唇を離していった。
「…ん〜…甘いと感じる中にほんのりとある苦みは自分の精液かな…」
「あ、その…咲哉様のおちんちんを咥えた口に…よかったのですか?」
「いいさ。唇が触れただけだったけど、牡丹との接吻はそんなものが気にならない程良かったからな」
先程私が口淫したばかりだったから不快に感じたかもしれないと思ったが、そんな事は無いと言ってくれたので嬉しかった。
「でしたら…んっ…ちゅる……」
だから今度は私から咲哉様に接吻をした。
しかも今度は私の舌を咲哉様の口内に押し入り、舌を絡める深い接吻をだ。
「ぷはぁっ…どうでした?」
「はぁ…はぁ…す、凄いな牡丹…」
まだまだぎこちない動きだったと思ったが、咲哉様は満足してくれたようだ。
息を荒げるご主人様の逸物は、接吻をする前よりも大きく…それこそ先程私の口内にあった時並みになっていた。
「凄いと言えば…牡丹の性器も…」
「へ?あ、あわわ…こ、これはその…」
そして咲哉様に言われて気付いたが、私の陰唇は大洪水と言っても差し支えが無い程濡れぼそっており、咲哉様の逸物を欲しがっているかのようだった。
「まあ俺も大概か…じゃあ、いいのか牡丹?」
「はい…私のおまんこに…咲哉様のおちんちんを挿入れて下さい…そして、私を愛して下さい…」
「わかった…じゃあ挿入れるぞ…」
そして、ついにその時が来た…
咲哉様の熱く滾る逸物が、私の愛液溢れる陰唇にあてがわれ…先端からゆっくりと膣内へ侵入してきた。
私の膣襞を引っ掻き回しながら、そのまま奥に進んでいき…
「はぁ…本当に良いんだな?」
「咲哉様だから良いのですよ…はぁんっ!」
手前でもう一度私に確認をしてきた咲哉様に同意をし、私は自ら腰を沈めて処女膜を突き破った。
初めてだったけど…既に快感で染まっているからか、それともこの妖怪としての身体を持っているからか、不思議と痛みは無くピリッとする小さな絶頂を感じただけだった。
「あっ…気持ちいいですか咲哉さまぁ〜♪」
「ああっ、もう、ヤバいかも…」
そのままゆっくりと腰を動かす。
流石に少し前まで重症だった咲哉様に負担を掛けるのは良くないので、私の敏感なところを擦る逸物の感触を味わう為にも自ら腰を前後左右に動かす。
それだけじゃなく、下腹部に力を入れて逸物を搾るように攻めてみる…それが気持ち良いのか、咲哉様の下半身は時折ピクっと震える。
「咲哉さまぁ〜、私もう、イキそうです〜!!」
「お、俺も、もう、もうっ!!」
自分で動いてるはずなのに、咲哉様の逸物は私の敏感な部分を的確に攻めてくる。
その為、私も咲哉様と同じように身体が快感にビクッと震え、イキそうになっていた。
そして…
「ぐああぁっ!!」
「あ、あ、き、きた!!ああ、あぁあああぁあっ!!」
私の子宮に咲哉様の逸物から一際熱い物が…精液が叩き付けられた。
その脈動を、その熱を、その幸せを感じ取った私は…盛大にイってしまった。
自分の中で咲哉様の放出した熱が…自分の熱に変わるのを感じ取れた。
「ふぅ…ふぅ…」
「咲哉さま〜…もっと〜…」
「へっ?ちょっ!今出したばっか…うあっ!!」
咲哉様の精を子宮で受けたからか、先程よりも大きく…激しくなった気がする私のお腹の炎。
それに比例するように、私の中で咲哉様への想いが大きくなっている。
それは…もっと咲哉様の精が欲しい、咲哉様と繋がっていたいという気持ちも同時に大きくなっていき…
私は…未だ硬いままの逸物を膣内に挿入れたまま、さっきの交わりよりも激しく腰を動かし始めた……
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「ん……まぶしっ…ん?朝か?」
「あ、おはようございます咲哉様!!」
次の日の朝。
咲哉様に沢山精を注いでもらって元気いっぱいな私は、昨日性交している途中で気絶してしまった咲哉様が目を覚ましたので元気いっぱいに挨拶をした。
私の挨拶を聞いて振り向いた咲哉様はじっと私のほうを見つめてきて…
「ん?牡丹…って事は昨日のは夢じゃないんだな…」
こんな事を言ってきた。
「当たり前ですよ!!なんで夢だと思うんですか!?」
「いや…途中から記憶が曖昧だし…服もちゃんと来てるし…」
「それは私が寝ている咲哉様に着せたからです!!」
「そうか…ありがとう…それに今までずっとどれだけ待っても動かなかった牡丹が人間の女の子のようになってあんな事してくるなんて…簡単に現実とは思えないだろ?」
「まあ…そう言われると…でもこれは現実です!!」
たしかに咲哉様は私が提灯おばけになる日をずっと待ち遠しく思っていたのだし、それが叶ったのが夜、しかも身体を交えている途中で意識が飛んだとなれば夢だと思うのも無理ないだろう。
でも、私は現にこうして咲哉様と一緒にお喋りをしているし、身体を重ね、好きだとお互いに言い合ったのだ。
これが夢であるはずが無い。というか夢であってほしくない。
「まあ現実だろうな…あ、そうだ…牡丹、今回は島に置いていってしまってゴメンな」
「いいですよ…こうして会えた事ですし…そういえば咲哉様…装置は直ったのですか?」
「ああ、そっちは技師に「無茶させすぎだ!!」って怒られながらも直してもらった」
やっとこさ現実だと完璧に理解出来た咲哉様は、唐突に私を無人島に置いていってしまった事を謝りだした。
まあそれは咲哉様に無事会えたので気にしない事として、そういえば咲哉様は装置が壊れたからジパング本土に戻った事を思い出し、その事を聞く事にした。
「ですが…その装置はどこへ?壊れた船と一緒ですか?」
「ああその通りだ。そうだ…船どうしよう…近くの街にパーツがあれば良いんだが…」
どうやら装置のほうはほぼ問題無く直ったようだ。
まあ技師さんは…私の記憶が正しければ頑固親父と頑固ドワーフさん夫婦だから…怒られたって軽く言ってもかなり堪えたのだろう…苦笑いと共に苦労したのが表情に出ている。
それで問題は…やはり船の事らしい。
予想した通りパーツは見つかっていないらしく、島に帰れない状況という事か。
パーツでは無く代わりの船を探すにしても…流石にそんなお金は持ってはいない。
かといってこのまま本土に居たら咲哉様の研究が進まず…学会なるものでの発表が出来ず、信頼や実績が落ちてしまう。
「そういえば牡丹はどうやってこっちに来れたんだ?まさか海を泳いだのか?」
「いえ…たまたま知り合ったネレイスの林檎さんに木箱に入った状態で運んでもらいました」
「そうか…それは流石に帰りも頼むって事は出来ないな…」
だからといって私がこっちに来たように林檎さんに二人で運んでもらうのも…
…そういえば林檎さんどこ行ったんだろう?
さっき部屋の片付けをしている時に医者のリリム様とその旦那さんには会ったけど、林檎さんは見掛けて無いな…
と、いつの間にか見なくなっていた林檎さんはどうしたんだろうと考えていたら…
サーーッパシンッ!!
「お取り込み中のとこ悪いけどちょっと邪魔するでー!」
「……?あなたは誰ですか?」
いきなり病室の襖が開き、見知らぬ人…ではなく、見知らぬ刑部狸がいきなり部屋に入ってきた。
格好からしてここの看護師ではなさそうだが…
「あれ?あんたどこかで見たことあるような…たしか倭光の…」
「せや!あんたが数日前に船のパーツを買いに来た『たぬたぬ雑貨』の店員や!!」
どうやら咲哉様が船のパーツを求めて寄った雑貨屋の店員らしい。
そういえばあの遭難者達がご主人様を見たって言っていた雑貨屋の名前もそんな感じだった気がする…
その雑貨屋の店員がいったい何の用だろうか?
「あんたたしか船のパーツが無いって言ってたやん?」
「ああ…もしかしてあるのか?」
「いや、残念ながら今は扱っとらん…ただ2週間ちょっと待っとってくれるんなら取り寄せる事は可能や。大陸からの取り寄せやで値段は弾むけどな」
どうやら咲哉様が船のパーツを探している事を覚えており、取り寄せをしてくれる事を伝えに来たらしい。
しかし2週間となると…ちょっと時間が掛かり過ぎな気がする。
「うーん…2週間はちょっと…そこまで時間がもう無いので…」
「まあそう言うと思っとったわ…そこでや、今度学会やっけ?それがある時にその船のパーツを買うって事で、今回はウチの店が代わりの船を貸出という形で出したろうかという相談に来たんやわ」
ただそれはこの店員にもわかっていた事らしく、代わりの船を借りないかと言ってきたのだ。
「それは…たしかに良い案ですが…お金があるか…」
「あ、船の貸出料金はタダでええよ」
「…ええっ!?本当ですか!?それならぜひ借りさせて下さい!!」
「え…ちょっと待って下さい咲哉様!!怪しいですよ!!どうして船をタダで貸すとか言えるのです?」
そして、その船の貸出料はタダで良いと言ってきた。
咲哉様は驚いて…更には喜んで借りようとしたが…いきなりそんなに知らない人物に船をタダで貸すとかこの店員…怪し過ぎにも程がある。
だから私は借りようとしていた咲哉様を止め、店員に事情を聞いた。
「まあいきなりこんな事言ったら怪しまれるか…まあそうやな…牡丹やっけ?あんたがおるからお礼としてタダで貸すって言ってるんや」
「は?なんで私がいるとタダになるのです?」
よくわからない…私何かこの店員にしたっけ?
いや…咲哉様はともかく、私は初対面だ…と思ってたら…
「んーとな…あんた無人島で遭難者達を泊めたんやろ?」
「はい…何故それを?」
「実はそれウチの仲間なんや。それを昨日の深夜に店に来た林檎にあんたの事情まで含めて全部聞いてな…やでウチからの仲間を助けてくれたお礼や!」
「えっそうなんですか!?」
どうやら一昨日出会った遭難者達の仲間…それに林檎さんの知り合いらしい。
林檎さんを見掛けなかったのはどうやらこの刑部狸さんに会いに行っていたからのようだ。
そして私達の事を説明し、こうしてやってきたのだろう。
林檎さんやあの遭難者達の仲間という事は…絶対に嘘ではないだろう。
「なら…そうしてもらっても良いですか?」
「だからええって言っとるやろ?流石にパーツのほうの料金は払ってもらわんと商売やっていけへんから払ってもらうけど、それまでの壊れた船の管理や代わりの船の貸出料はタダにしたる!」
「ありがとうございます!!これで研究が無事に出来そうだ!!」
「そうですね咲哉様!!」
なので私達はこの刑部狸さんのお言葉に甘え、元の船のパーツを注文しておき、その間は別の船を借りて島に戻って研究をする事にした。
もちろん、私と咲哉様の二人きりで…
…………
………
……
…
「よいしょっと…ふぅ…いろいろあったけど無事戻ってこれたな」
「そうですね!」
それから数日経過し、咲哉様の怪我も良くなったので退院し、私達は船を借りて無事島に戻ってきた。
朝早く出発したが到着した頃にはもう辺りは暗く、少し曇っている事もあり私の灯りがなければ何も見えない程であった。
「それじゃあ早速途中で止まっていた分析の続きからやるか…牡丹、ちょっと暗くて見辛いから近くに来てくれ」
「わかりました。でも咲哉様、それが終わったら…」
「わかってるよ。結構な量あるから分析結果が出るまで時間も掛かる…それこそ一晩は掛かるしな」
そして発表用のデータをとる為に急いで止まっていた実験を再開させた。
ただこの装置を通して成分の分析をしても、結果が出るのには結構時間が掛かる。
「ではこの小屋内を…咲哉様をよく照らす為にもシましょう!」
「まあ最初からそのつもりだけど…その前にさ牡丹…」
「何でしょうか咲哉様?」
だから私は装置に分析する物をセットした咲哉様を求め行動しようとしたのだが…その前にと動きを止められ…
「そのさ…俺の事好きだったら…様って付けるのやめてくれないか?」
「……へ?」
「どうもやっぱり様って付いてるとな…牡丹が俺の妻になってくれるなら…様って付けるのやめてくれないかな?」
「……!?」
様を付けるのを止めてくれと…妻になりたいのなら様を付けずに呼んでくれと言ってきた。
というか…妻になってくれるならって……
「それは…私への告白ですか?」
「えっ…あ…その…うん…」
指摘したら顔が真っ赤になった咲哉様に…ううん…咲哉に私は…
「わかりました…では…私の夫になって下さいね…咲哉!!」
「…ああ!!これからもずっと一緒だぞ牡丹!!」
私からも咲哉に告白して…二人どちらからともなく静かに口づけを交わした…
私が作られて間もないある日に、私とご主人様は出会った。
ご主人様は本当にずっと私を大切にしてくれて、私は嬉しかった。
そして…私にとっても、ご主人様は大切な存在となっていた。
そんなある日の事、私はご主人様と同じように動く事や喋る事が出来るようになった。
そして…ご主人様と…咲哉様と身体を重ねる事も出来るようになった。
私はこれからもこの無人島で、咲哉様の…ううん…夫である咲哉の研究を手伝いながら、ずっと二人一緒に生活していくだろう。
そして…私の身体の灯りは途絶える事無く、ずっと強く燃え続けるだろう。
それはこの島全体を明るく照らすほどの灯りで…けれども照らすものはたった一つだけで…
この自然くらいしかない島で…私はそのたった一つを照らし続けていく…
私の大切なご主人様を……つまり……私の大好きな咲哉を…
12/08/05 20:41更新 / マイクロミー