旅30 海賊と幼王女…コラボパニック!!
「皆さんこちらですよ。キッド、遭難していた子達を連れてきました」
「おう、サフィア御苦労様。入っていいぞ」
現在11時らしい。
私達はシー・ビショップのサフィアさんの夫であるキッドさんがいる船長室まで案内された。
サフィアさんが声を掛けたら、船長室の扉越しに若い男の人の声が聞こえてきた…おそらくそのキッドさんだろう。
「ね、ねえユウロ…私達どうなっちゃうんだろう…?」
「さ、さあ?わざわざ助けてくれたわけだし、命を獲られたりはしないと思うけど…」
「わからないわよ?もしかしたらサフィアさんの頼みだから許可しただけで本当は気にいらないとか…」
「ああ…ま、まあもうこうなったらなるようにしかならないんじゃないか?」
ちなみに今私達が乗っている船は…大砲が沢山あり、旗には髑髏が描かれている…つまり海賊船である。
なので今から会わされるキッドさんは、この海賊の船長という事になるわけで…きっと恐ろしい人なんだろう。
なので私とユウロはこれからどうなってしまうのかとさっきから不安で一杯である。
「大きな船だな〜。アタイなんだかワクワクしてきた!」
「カッコいいお船だよね〜!アメリもワクワクしてきた!」
「ふふっ、ありがとうございます。なんせ自慢の船ですからね!」
一方スズとアメリちゃんは目を輝かせながら船のいろんな所を見ている。
まあ二人は海賊に対する知識が無さそう…というか海賊というものを知らなそうだし仕方無いかもしれないけど…もう少し緊張感は持ってもらいたいものだ。
ガチャッ!!
「おーい、入ってこないのか?」
「あ、ごめんなさいキッド。この船をじっくり見ていたようですのでちょっと待ってたんですよ」
と、声を掛けてからなかなか入ろうとしない私達に痺れを切らしたのか、キッドさんだと思われる男の人が部屋から出てきた。
「そうかい…それで、ワーシープに人間男にウシオニにまさかの子供リリムと…お前達がサフィアが言っていた遭難者でいいんだな?」
「えっと…はい、そうです…」
「そうか。あ、俺はキッドだ。このブラック・モンスターの船長をしている。そこに居るシー・ビショップのサフィアの夫でもある。リオクタに着くまでの数日の間よろしくな!」
「あ、はい…よろしくおねがいします!」
キッドさんは予想と違い、見た目及び口調は普通に優しそうで頼りになりそうな人ってところだが…はたして…
と、若干予想と違った事に戸惑っていたら、キッドさんが再び口を開き…
「それでお前達の名前は?何日か一緒に居るのだから知らないと不便だろう?」
こう言って私達の名前を尋ねてきた。
まあそうか…とりあえずお世話になるのだから名前は言わないと…
「私はワーシープのサマリです!この度は助けていただきありがとうございます!」
「俺はユウロです!これから数日間よろしくお願いします!」
「アタイはウシオニのスズ!この船すっごくカッコいいな!!」
「アメリだよ!よろしくねキッドお兄ちゃん!!」
「サマリにユウロ…それにスズ、そしてアメリか…おう、よろしくな!あと船は俺の自慢でもあるからカッコいいと言ってくれてありがとうな!」
そう笑顔で話しかけてくるキッドさんは…
「まあ無人島生活は大変だったろう?陸に着くまではこの船を自分達の家だと思ってくれて構わないからな」
「あ、ありがとうございます!」
絶対に悪い人では無いと思う。
まあ冷静に考えたらサフィアさんみたいな優しい人と一緒に居るのだから悪い人であるはずはないか…サフィアさんとお揃いの貝殻のペンダント(サフィアさんは赤、キッドさんは青)を首から下げているし仲もとても良いのだろう。
でも…なんでそんな人が海賊なんかしてるんだろう?というかそもそも本当に海賊なのか?
「あのー、キッドさん?」
「ん?えっと…サマリか。何か質問でもあるのか?」
「はい。キッドさんっていい人だと思うんですけどなんで海賊なんてやってるんですか?とても略奪とか野蛮なイメージは無いのですが…」
疑問に思ったので、たぶん聞いても怒られはしないだろうと思い質問してみた。
「いい人だと思うか…ありがとよ!それで質問の回答だが、俺は海賊と言ってもそこいらの奴とは違って一般市民や商船を狙う事は無い。俺達の標的は悪名高い領主とか襲いかかってくる海賊とか…一言で言えば悪人だ。罪の無い人に手を挙げるのは俺のポリシーに反するからな」
「ほえ〜!!そうですか!!」
つまりキッドさん達は私達の様な一般市民なんかは絶対に狙う事無く、悪い事をしている人達を狙っている海賊という事か。
悪人から略奪こそしているものの、やはりいい人であった。
「ああ、ちなみに俺達は『カリバルナ』という国の海賊だ。こういえばわかる奴もいるんじゃねえか?」
「ああ〜!聞いたことあります!!たしか…海賊の国でしたよね?昔一人の海賊と上位の魔物が手を組んで当時反魔物国家だったカリバルナを親魔物国家に変えた歴史がある国だって聞いた事があります」
「ほぉ…よく知ってるな。そのとおりだ。だから俺達の国では海賊というのは憧れであるんだ」
「なるほど…」
だから海賊をやっているのか…納得。
「まあその一人の海賊ってのが俺の叔父さんってのもあるけどな!更にその上位の魔物ってのは…アメリの姉になるのか?」
「えっ!?キッドお兄ちゃんの生まれた所にアメリのお姉ちゃんいるの!?」
それで、その海賊の国カリバルナにはどうやらアメリちゃんのお姉さんがいるらしい。
「おう!アミナさんっていうリリムだが…知ってるか?」
「ううん知らない。アメリそのアミナお姉ちゃんに会ってみたい!!カリバルナにつれてって!!」
「あ、いや、悪いが今帰郷する気はないんだ。後で大体の位置を教えてやるから自分達で向かってくれないか?」
「うーん…わかった!」
アミナさんという人らしいが…いったいどんな人だろうか?
アメリちゃんが会った事無いと言ってる事だし、特に目的地も決まって無いわけだから大陸に着いた後まずはそのカリバルナを目指そうかな。
「他に質問とかが無いならそろそろ部屋に案内しようと思うのだがいいか?」
「はい……って部屋ですか?」
「おう。この船は見ての通り大きいから空部屋も沢山ある。目的地に着くまでの間そこを使ってくれ」
「そうですか…ありがとうございます!!」
「それじゃあ案内は頼んだぞサフィア。後で船の内部と他の仲間達の紹介も頼む」
「はい!では皆さんついてきて下さい!」
一通り話も終わり、私達はサフィアさんの案内でその空部屋まで案内してもらう事になった。
…………
………
……
…
「しっかし…本当に大きな船ですね〜」
「ええ。この船だけで航海に必要な施設は一通り揃ってますからね。部屋に荷物などを置いて少し休憩なされた後に船内を案内しますね」
「わかりました。迷子にならないように気をつけなきゃ…」
現在11時半。
船長室から出た後、じっくりと船の内部を見ながら私達は部屋まで案内されていた。
「ではこちらです…」
「お姉ちゃんお姉ちゃん!この人達がさっき言ってた人達?」
「あらピュラ。そうですよ。今お部屋まで案内しているところです」
そして目的地だと思われる部屋に着く直前、後ろから明るい声が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、下半身が魚の女の子が器用に鰭をひょこひょこさせて歩いてきていた。
サフィアさんの事をお姉ちゃんと呼び、下半身が魚という共通点こそあるものの、鱗の色が違うし顔もさほど似ていないからサフィアさんと本当の姉妹という事ではなさそうだ。
「紹介します。この子はピュラ。見ての通り『マーメイド』で血が繋がっているわけではないけど私の妹でもあるの」
「私はピュラ!よろしくね!」
この子は『マーメイド』のピュラちゃんというらしい。
元気良く私達によろしくねと挨拶してくれた。
「ん?あなたは…リリムみたいだけど…なんていう名前なの?あと何歳?」
そしてアメリちゃんを認識したようで、ピュラちゃんはアメリちゃんに話し掛けた。
「アメリだよ!あと8さいだよ!!」
「ホントに!?私も8歳なんだ!!同い年だね!!じゃあアメリ、私とお友達になろ!!」
「うん!お友だちになろ!!……って8さいってホント!?ピュラはアメリと同い年なんだ!!」
なんとこのピュラちゃんはアメリちゃんと同じ8歳らしい。
今までの旅でアメリちゃんと同じ歳の子はほとんど見た事が無かったけど…こうしてみると微笑ましいな…
「じゃあアメリ!私がこの船を案内してあげる!!今から行こう!!」
「うん!あ、じゃあピュラ、まずはお日さまがあたる所につれてって!このにもつかわかさなきゃ」
「わかった!じゃあまずは船の甲板に案内するね!!」
そのままピュラちゃんとアメリちゃんは二人で手を繋ぎながらどこかに…おそらくは濡れているアメリちゃんの荷物を乾かすために船の甲板まで歩いて行った。
「あらあら…あんなにはしゃぐピュラは久しぶりに見たわ…」
「え?そうなんですか?」
「まあ普段から明るい子ではあるんだけどね。やっぱり同年代の子はこの船には居ないから、同い年のアメリちゃんに会えて嬉しいのかと」
「ああ…そうですね。きっとアメリちゃんも嬉しいと思ってますね。見てわかるようにアメリちゃんと同年代の者はいませんしね」
というかアメリちゃんって同い年の子は呼び捨てするんだ…今まで「お姉ちゃん」とか「ちゃん」とか嫌いな人ですら「さん」と付いた呼び方しかしてなかったから凄く新鮮…
…ん?まてよ?たしか他にもアメリちゃんが呼び捨てにしていた人物が居たような…まあいいや。
「ではサマリさんやユウロさん、スズちゃんはどうします?このまま部屋に入るかそれとも部屋に入らずすぐに他の施設を案内しましょうか?」
「えっと…俺は少し休みたいな…環境が思ったより良くてぐっすり眠れたとはいえいろいろあり過ぎて疲れてるからな」
「私も…サフィアさんが海賊船を呼んできたの見た時は結果的には無駄に緊張して疲れたので…」
「アタイはいろいろ見て周りたいけど…まずは部屋を見たいから部屋に入る!」
「わかりました!ではこちらです」
という事で私達は、まずは部屋に入って休憩(スズは部屋の物色)する事にした。
=======[アメリ視点]=======
「ここならあまり邪魔にならないよ」
「わかった。じゃあかわかそうっと!」
ピュラにあんないされてやってきたのは、日光がよく当たるお船の甲板。
ここなら広いしアメリのテントとかコマとかとにかくにもつを並べてもジャマにならないだろう。
ということで、早速アメリは海でぬれちゃったにもつをかわかすことにした。
「そういえばなんでアメリ達って遭難なんかしてたの?」
「えっと…のってたお船がカリュブディスさんたちに沈められちゃって…」
「へぇ…大変だったんだね…」
「うん。でもめったに体けん出来ないことだったから楽しかったよ!」
たしかにユウロお兄ちゃんを抱えながらとぶのはつかれたし、にもつも一時的になくなっちゃったから大変だったけど…それでも島をたんけんしたりお魚おいしかったりして楽しかった。
にもつもぶじ全部戻ってきたし、そうなんした結果ピュラに会えたんだからそうなんしてよかったって言えるぐらいだ。
「じゃあ荷物はここに置いといて…この船の施設を案内していくね!」
「うん!おねがいピュラ!」
にもつも全部かわくように置いたので、早速ピュラにこのお船を案内してもらおうと思ったんだけど…
「お、ピュラとアメリは早速仲良くなったのか」
「あ、お兄ちゃん!!うん!お友達になったよ!!」
「あ、キッドお兄ちゃんだ。どうしたの?」
急に声がして、ふりむいたらこのお船の船長さんであるキッドお兄ちゃんが立っていた。
「いや、とりあえず平和でする事無いから甲板から遠くでも見ようと思ってな…そしたら二人が仲良く何かをしているのが見えたから話し掛けてみたんだよ」
「なるほど〜…あ、キッドお兄ちゃん、ここにアメリのにもつかわかすために置いといていい?」
「おう、いいぞ。雲の流れからしても雨は降らないと思うしな」
キッドお兄ちゃんの許可ももらったし、にもつはこのままで大丈夫だろう。
「じゃあピュラ、あらためて行こう!!」
「そうだね!じゃあどこから案内しようk…」
ぐうぅぅぅぅ…
「……」
「……アメリお腹空いたの?」
「……うん……」
だからこのままどこかに案内してもらおうと思ったんだけど…アメリのおなかが音を出してしまった…
…ピュラとキッドお兄ちゃんに聞かれちゃってちょっとはずかしい…
そういえばもうお昼か…おなかすいたなぁ……
「そういえばちょうどお昼だしご飯からにしないか?時間的に楓(カエデ)もご飯を作り終える頃だろうしな」
「そうだね。じゃあアメリちゃん、私がダイニングまで案内してあげる!!」
「うん…ありがとピュラ!」
ということで、アメリたちはピュラの案内でダイニングまで行くことになった。
カエデさんって人が作ってるらしいんだけど…おいしいのかな?
サマリお姉ちゃんのごはんとどっちのほうがおいしいんだろう?気になるなぁ…
ぐうぅぅぅぅ…
「…ちょっと急ぐ?」
「あははは……ううん…大丈夫だよ。もっとお船をゆっくり見たいからアメリのおなかの音は気にしないで…」
ごはんのこと考えてたらまたおなかが音を出した。
うーん…やっぱり昨日けっこう長く空とんでたから魔力が少なくなってるのかなぁ…だからおなか空いちゃうのかな?
そうじゃないとなんかアメリが大食いみたいでイヤだな…
…………
………
……
…
「……ん?なんだろこの匂い…?」
「ああ、たぶんシャローナさんのお薬の匂いだね」
「おくすり?あ〜言われてみれば…」
ピュラちゃんにダイニングまで案内してもらってる途中で、草の匂いやよくわからない甘い匂いなどいろんな匂いがしてきた。
なんだろうと思ってたら、ピュラちゃんが一つの部屋を指差した。
どうやらシャローナさんって人が作ってるおくすりの匂いらしい。
そういえばノーベお姉ちゃんのおうちでも同じような匂いがした気がする…そうでもない匂いもあるけど。
ガチャ
「さて、そろそろお昼の時間かしら…ってあら、船長さんにピュラちゃんじゃない」
「あ、シャローナさん!」
と、おくすりの匂いの話をしていたらちょうど扉が開いて、サキュバスのお姉ちゃんが出てきた。
このサキュバスのお姉ちゃんがシャローナって人らしい。
ノーベお姉ちゃんと同じように白衣を着ているけど…お医者さん、しかも船のだから船医さんかな?
「それでその子が例の遭難者?」
「ああそうだ。遭難者の一人でアメリという名の子供リリムだ」
「アメリだよ!数日の間よろしくね!!」
「ええよろしく。私はシャローナ。この船で船医をしているわ」
やっぱりシャローナお姉ちゃんは船医さんだった。
「あ、丁度良いわ。アメリちゃん、ちょっと身体のチェックをさせてね」
「ん?なんで?」
「まあ遭難していたわけだし、一応健康状態を確かめておこうとね…すぐ終わるからね」
そう言うとシャローナお姉ちゃんはよくわからない道具でアメリの身体をペタペタしたり、角やつばさやしっぽをやさしくさわってきたり、目や口の中をじっと見てきたりした。
そして首を一回「うん…」って言いながらたてに小さく動かして…
「身体には異常は見当たらない…至って健康ね。でもリリム特有の膨大な魔力、それが半分以上失われているわ」
アメリの身体のじょうたいをおしえてくれた。
どうやらアメリの身体は元気であるらしい…けど、やっぱり魔力が少ないって言われちゃった。
「うん。ユウロお兄ちゃんを海の魔物さんたちからまもるためにずっと抱きかかえてとんでたし、それからも島をしらべるのにとんでたし、たき火するために小さい火の魔法を使ったりしたもん」
「なるほどね…じゃあアメリちゃん、ちょっと待っててね」
アメリが魔力が少なくなってる原因だと思うことをシャローナお姉ちゃんに伝えたら、シャローナお姉ちゃんは一回医りょう室に戻って…
「はいお待たせ。アメリちゃんこれ飲んでみて」
「…おいシャローナ、何だこのピンク色の液体は?」
きれいなピンク色のお水が入ったビンを手にもってすぐにもどってきた。
なんだろうこれ?ちょっと甘い匂いがするけど…
キッドお兄ちゃんもよくわからないらしくってシャローナお姉ちゃんに聞いている。
「これは市販されている味気ない精補給剤を私なりに美味しくしてみたものよ…といってもなかなか上手く行かなくて子供騙し程度だけどね」
どうやらあのおいしくない精ほきゅうざいのちょっとだけおいしいものらしい。
魔力回復させたいし…早速のんでみよう…
「んく…んく……ん〜…ちょっと甘く感じるしまあまあおいしいかも…」
「そう…それはよかったわ」
のんでみたら…前カリンお姉ちゃんにもらったやつよりはおいしくないけど、他のよりはおいしかった。
それに魔力も回復して元気いっぱいだ…おなかは空いてるけど。
「そうか…てっきりまた変な薬でも作ったのかと思った…」
「あら?またって言うと私がよく変な薬作っているように聞こえるじゃない」
「事実作ってるじゃねえか!!獣人型の魔物にしか効かない媚薬とか話術が上達する薬が失敗した性格が変わる薬とか!!」
「あ、あはは……さ、さあ船長さんもピュラちゃんもアメリちゃんもダイニングに行きましょ」
「誤魔化したか…まあ今回はまともなものだったからいいがな…」
…なんだかよくわからないけどシャローナお姉ちゃんは不思議なお薬をいっぱい作ってるってことはわかった。
=======[サマリ視点]=======
「楓さん洋食もお上手ですね〜…後で教えてもらえませんか?」
「いいですよ。では今夜の夕食は一緒に作りますか?私もサマリさんの料理気になりますし」
「はい!ぜひ一緒に作りましょう!!」
現在12時半。
私達は少し休憩した後に、お昼という事でサフィアさんにダイニングまで案内された。
「それにしても…楓さんは大変ではないのですか?やっぱ海賊なだけあって戦闘とかありますし、それに結構な人数が居るのに…コリックさんは手伝ってましたけど楓さんぐらいしか料理人いなそうですし…」
「まあ大変で辛いと思う事もありますけど…私の料理を感謝して、喜んでくれている人がいるって思うとね!」
「ああ、そうですよね!私も作った料理をおいしそうに食べる皆を見てると嬉しくなっちゃいますもん!」
そこでこの船の料理人である稲荷の楓さんと出会った。
差はかなりあるとは思うが、同じ旅の中で料理する者としてお話をしていたのだ。
ちなみに楓さんは稲荷ではあるけど、洋食も作れるとの事…その証拠に、現在テーブルの上にはなんともおいしそうなペペロンチーノパスタや洋風海鮮サラダが乗っている。
「やっぱりこの船凄いや!!キッチンやダイニングも綺麗だしさ!!」
「おーいスズー。飯だからちょっとは大人しくしろよー」
「あ、そうか…やっぱこの船いろんなものがあって面白くてさ、ついはしゃいじゃうんだよ」
「ふふ…スズさんって可愛いですね」
「え…あ、ありがとう!!アタイってウシオニだから怖がられる事が多いから…可愛いって言われると照れちゃうよ…」
スズは相変わらず船内をキョロキョロしているが、ユウロやサフィアさんは大人しく椅子に座っている。
「…ところでオリヴィアさん…でしたっけ?なんで俺の木刀をそんなにじっと見つめてるんですか?」
「いやあその木刀、他の木刀と違う気がするからじっくり見てみたいなと思ってな…なんせ私は武器が好きだからな!」
「そうか…まあ見るだけなら見せてあげますよ」
「おおありがとう!!Thank you very much!!」
「…見るだけだよオリヴィア。お客さんの武器を欲しがったりしないでよ?」
「…え?ちょっとそれは困るので早急に返してもらいたいのですが…」
「ヘルム副船長、きっと大丈夫ですよ。オリヴィアさんもユウロさんの武器を奪ったりしないはずですよ?」
「そうそう、流石に奪いまではしないって!」
「…ならいいけど…」
「あ、ところでコリック…リシャスは来て無いようだが?」
「今はまだ昼ですからリシャスさんは寝てますよ」
ちなみに他にもキャビンボーイのコリックさんや副船長のヘルムさん、それに戦闘員でまさかの『ドラゴン』であるオリヴィアさんなど大勢の海賊の皆さんがいた。
今は昼食の最後の一品と、そろそろこっちに向かっているキッドさんを待っている感じである。
それとアメリちゃんとピュラちゃんもキッドさんと一緒に居る所を目撃されているから、一緒に来ているのを待っている。
と、こんな感じにお話したりして盛り上がっていたら…
「おー、今日も美味そうな料理だな!」
「いい匂いだー!」
「わーおいしそー!!」
「あら、やっぱり最後になってしまったようね…」
キッドさんとピュラちゃんにアメリちゃん、それと白衣を着たサキュバス…おそらくさっきサフィアさんが言っていた船医のシャローナさんがダイニングに入ってきた。
「あ、サマリお姉ちゃんたちも来てたんだ」
「というかアメリちゃん達を待っていたようなものだよ」
「えっそうなの!?じゃあ早く食べようよ!!アメリ魔力は回復したけどおなか空いたもん!!」
そしてこっちに気付いたアメリちゃんが小走りでやってきて私の隣に座った。
「それじゃあ…」
『いただきます!!』
全員そろったし、料理も出来たので、私達は楓さんが作ったお昼ご飯を食べ始めた。
流石に海賊船の料理人を任されているだけあって、とてもおいしかった…
…………
………
……
…
「かわいたー♪」
「早かったね!!」
「いい天気だもんね〜…夕食の準備の時間までここでお昼寝してようかな?」
現在14時。
私とアメリちゃん、それとピュラちゃんは船の甲板…アメリちゃんが荷物を乾かしていた場所で日向ぼっこをしていた。
そう、日向ぼっこをしていたのだが…
『敵船!敵船だー!!他の海賊がこっちに向かってきているぞー!!』
「えっ!?」
どうやら他の海賊が現れたらしい…という事はつまり……
「もしかして…戦闘なんか起きちゃったりする?」
「うん…だからアメリもサマリさんもお兄ちゃん達の邪魔にならないように部屋に戻ろう!!」
やっぱり戦闘になるようだ…
折角のんびりと平和にお昼寝でもしようと思ってたのに…まあ海賊船なんだから仕方ないけどさ…
「アメリは手伝わなくていいのかなあ?」
「えっアメリちゃん闘えるの!?」
「うん!アメリ魔法とくいだよ!!ヒドい人以外はあまり使いたくないけどね」
「へえ〜!!アメリって凄いね!でもお兄ちゃん強いし、只の海賊なら簡単に倒しちゃうからきっと大丈夫だよ!!」
アメリちゃんは自分も闘ったほうがいいかと思ったようだが、ピュラちゃん曰くキッドさんは強いから大丈夫とのこと。
まあこっちも今は適当に船内をうろついているユウロとスズがいるし、二人も戦闘に参加するかもしれないから問題は無いだろう。
「じゃあ部屋にもどろっと!!」
「そうだね。まあ万が一にいざという状況になったら私が二人を守るからね!!」
「ありがとうございます!!」
「え、サマリお姉ちゃん……たたかえるっけ?」
「……」
…きっとそんな状況にはならないだろうけど、この二人は私が守るって言ったらアメリちゃんに的確なツッコミをされてしまった…
なんか悔しいけど実際アメリちゃんの言うとおり私は強い人がいる戦闘ではただの足手まといだからな…大人しく二人を連れて部屋に戻ることにした。
『野郎ども!戦闘だぁ!!』
『ウオォォォォォォオ!!』
部屋に戻る途中でキッドさんの戦闘開始の叫び声と、多くの雄叫びが聞こえてきた。
雄叫びの中にはユウロの声とたぶんスズだと思われる声もあったのでたぶん無理言って参加したのだろう。
『ヒャッハー!!てめえらの宝をよこせー!!』
『野郎ども!!こんなヘンテコな奴等速攻で返り討ちにするぞ!!』
その後すぐに相手の海賊達の声と共に金属音や銃声が聞こえてきた。
どうやら戦闘が始まったようだ。微妙にではあるが戦闘で生じている振動がここにも伝わってくる。
「あ、ピュラ!!よかった…ちゃんとアメリちゃんやサマリさんと一緒に居たのね…」
「あ、お姉ちゃん!私は大丈夫だよ!」
とりあえず部屋に戻って大人しくしてようとしたら、サフィアさんが丁度部屋に入ろうとしていたところに遭遇した。
おそらくだが部屋にピュラちゃんが居なかったのでもしかしたら私達と一緒に居るかもしれないと思ってきたのだろう。
心配そうな表情をしていたがピュラちゃんを見た瞬間に安堵の表情に変わったところからも想像がつく。
「ではサフィアさんも一緒にここで戦闘が無事に終わるのを待ちましょうか」
「ええ…キッドは強いから大丈夫だとは思いますが…それでも心配になります…」
「大丈夫だよ!!キッドお兄ちゃんも、他のみんなもつよいもん!!」
私達非戦闘員に出来る事は皆の無事を祈るだけ…
だからここで皆の無事を、戦闘が終わって勝利の雄叫びを皆が叫ぶまでの間祈っていた…
ちなみに相手は相当弱かったのか、戦闘時間は15分だった。
…………
………
……
…
「いやぁ…アタイとユウロも戦闘に参加して活躍したからって戦利品分けてもらえちゃったよ」
「あのねぇ…無事だったどころか無傷だったからいいけどさぁ…海賊の戦闘を経験してみたいなんて理由で戦わないでよ…心配するこっちの身にもなってよね!!」
「ゴメンゴメン…でも楽しかったよ!!」
「ハァ…まあいっか…しかしこの船、本当になんでもあるね…」
「だよなあ…まさかこんなに大きいお風呂があるなんて思わなかったよ」
現在20時。
私達はこの船の大浴場でゆっくりとお風呂に入りながら今日の事を話していた。
まさかの15分の戦闘(これにはサフィアさんとピュラちゃんも驚いていた)が終わった後に相手の海賊の船にあった宝石の一部をユウロとスズが分け前としてもらってきたのだ。
ほぼこっちが勝手に参加しただけだから返そうとしたのだが、キッドさんは二人とも敵を大勢薙ぎ倒す大活躍をしたからって言って受け取ろうとしなかったのでそのまま貰うことにしたのだ。
ちなみに相手の海賊は一人残らず海に捨てられた…つまり海の魔物達の旦那さんに転職する事になったらしい。まあそれなら幸せな生活を送っていけるだろう。
「本当に戦闘中のスズちゃんの活躍は凄かったですよ…少なくとも私よりは強いですしね」
「楓さん…あ、夜ご飯の時に揚げだし豆腐の作り方教えて下さりありがとうございます!」
「いえ…こちらこそサマリさんの料理は勉強になりました」
今この大浴場には船に乗っている女性陣が全員集まっている。
「後でキッドにコリックの昇格を要求しなければ…」
「おいおいリシャス…あまりキャプテンに強く言うなよ。サフィアだって折角の時間をあんたに取られたくないと思ってるかもしれないだろ?OK?」
「そ、それは…だが愛するコリックの為にも…!!」
その中には戦闘が終わった後相手の船に置いてあった変な剣を持って自室に籠っていたオリヴィアさんや夜ご飯の時に初めて出会ったコリックさんの奥さんでヴァンパイアのリシャスさんももちろんいる。
「アメリのテントのお風呂とどっちのほうが大きいんだろ〜?」
「え、アメリのあのテントにこんなに大きいお風呂あるの!?」
「うん」
「それは凄い…アメリちゃんは子供でもリリムですからそういったものも豪華なんだね…」
「そう…らしいね。アメリはあれがふつうだって思ってたから…」
「ねえアメリ…後で見せて!!」
「いいよ!後でピュラに見せてあげる!!」
ピュラちゃんとアメリちゃんはお風呂の隅のほうでサフィアさんと3人で蕩けた表情で浸かっている。
「ところでサマリちゃん…」
「ん?なんですかシャローナさん?」
と、私がゆったりとある女性陣のあるものを見ながらボーっとしていたらシャローナさんが話し掛けてきた。
「何故かさっきからサマリちゃんからの視線が痛く感じる気がするんだけど…」
「え?何の事かなあ?気のせいだと思いますよ?」
目の前でゆらゆらと揺れる塊をじっと見ながら私は適当に答えた。
「いや…絶対に気のせいじゃないよね…絶対私の胸を睨みつけてる…よね?」
「あーそうですね自慢ですか?」
「えっ!?なんでそうなるの?」
そんな私に話しかけてくるシャローナさんの胸には何故か大きな塊が付いていた。
それはまるで私に見せつけるように強く存在しているではないか。
「…その胸に付着している脂肪の塊のサイズ何ですか?」
「しぼ…えっと〜…だいたいIかな〜…」
あい?愛?藍?哀?逢?
『あい』って何の事かなぁ?
まさか胸のサイズの話じゃないよね?
「変な事言わずにきちんと答えて下さいよ?」
「え、いやだからIカップ…」
「ふざけるなあっ!!」
私の叫び声が大浴場中に響き、注目の的になっているがそんな事はどうでもいい…
その憎き巨大な塊を奪い取ってやる!!
「そんなにあるなら私に少し分けてもらっても良いよね?」
「え…それは困るけど…」
「いいからよこせえっ!!」
「ちょっ、やめ、鷲掴みにしないdひゃあっ!!」
私は目の前の塊をもぎ取ろうと鷲掴みにした。
強く握っているだけなのにさすがサキュバス…ちょっと感じているらしい…
「へぇ〜この重量感があって敏感な塊で世の男を虜にしてるのかなぁ?」
「いや、私まだ夫居ないしそんな事してない…」
「だったらなおさらいいよね?今使わないんだし」
「いやそういうことじゃ…やめっ!?」
夫が居ないのなら…別に少し位いいよね?
「ま、待てサマリ!さすがにそれはやり過ぎだ!!」
「たしかにシャローナさんは大きくて羨ましいですが…とにかく落ち着いて下さいサマリさん!」
と、シャローナさんの胸をもみくちゃにしてたらリシャスさんと楓さんに腕を抑えられて止められてしまった。
…あ
「あれ?二人とも私にその巨乳を分けにきてくれたんですか?」
「へ?あ、いや…そんなわけあるか!!」
「私のはわけられません!!」
なんと、この二人にもシャローナさん程ではないけど私よりは相当大きい胸が付いていた。
ああ…羨ましい……
「ふふふ……そう…分けてくれないのですか……」
「な、なんですか?」
「おい…何故かどす黒いオーラみたいなものが見えるのだが…」
分けてくれないのだったら…私は……
「ならば…3人からイかせてでも奪い取る!!」
「ちょっと!!それ何か違う!!」
「や、やめろ!!暴れるな!!私のおっぱいを触るな!!」
「お、落ち着いて下さいサマリさん!!そんなことしてもサマリさんのものにはなりませんから!!」
その巨乳を奪い取る為に、3人に飛び掛かった。
「……」
「あ、スズお姉ちゃん…にげてきたんだね」
「うん…流石に途中から嫌な予感がしたからこそこそと逃げてきた…」
「って事はサマリさんってよくああなるの?」
「うん…サマリお姉ちゃんっておっぱいのことになるとこわいんだ…」
「お姉ちゃん…サマリさんにもぎ取られないように早く逃げたほうがいいよ…」
「え、ええ…」
「Danger…私は胸がそこまで大きくなくて良かったと今初めて思ったよ…」
何か隅のほうでこそこそ喋っている者がいるけど…気にせず3人の胸を奪いに行くことにした……
====================
「うぅ…またやってしまった……」
「ホント…あの後は大変だったんですからね…」
「うっ…ごめんなさいコリックさん…」
「はは…だから今日は朝から謝りに行ってたのですね」
現在16時。
昨日私は大浴場でまた暴走してしまって結構いろんな人に迷惑を掛けてしまったので謝りに周っていたのだ。
直接被害を与えてしまった楓さんとリシャスさんは笑って許してくれた…ただリシャスさんのほうはあの後興奮しきった身体をコリックさんと一晩中ヤりまくって落ち着かせたらしいが。
まあつまりコリックさんにも迷惑が掛かったわけであって…今も少し言われてしまった。
ちなみにシャローナさんに至っては謝りに行った時に『胸が大きくなる薬』なるものを作るから見逃してと少し怯えながら言ってきた…
胸は大きくなりたいけど…薬に手をつけるつもりは無いと断ったけど…怯えなくてもいいのに…
まあ昨日一番被害を与えたのはシャローナさんだから仕方ないか…
どうも他人の自分より大きなおっぱいを見ると心の奥底からどす黒い嫉妬の感情が湧きあがって自分でもわけわからなくなるんだよなぁ…
どうにかした方がいいんだろうけど…どうやったら普通に大きくなるのかなぁ…
「あ、ところでアメリちゃんは?今どこにいるかわかります?」
「ああ、アメリちゃんならさっき僕見ましたよ。ピュラちゃんと一緒に独楽で遊んでました」
「そう、ならいいや」
昼過ぎから全くアメリちゃんを見掛けなかったからどこに行ったのだろうと思ってたけど、ピュラちゃんと遊んでいるなら迷子になる事も無いから大丈夫だろう。
そう思いまた私はコリックさんとヘルムさんと3人でお話を再開しようとしたのだが…
『キッド!!何故コリックを昇格しようとしないんだ!?』
『いやだからもう少し活躍してからだな…』
「あれ?この声って…」
「はは…またのようだね」
「……もう……本当に合わせる顔が無くなるから止めてって言ってるのに…」
どこか遠くから…おそらく甲板の向こうから、リシャスさんとキッドさんの声が聞こえてきた。
話の内容からして、昨日大浴場内で言っていた事だろう。
よくある事なのかヘルムさんは苦笑いしているし、コリックさんも俯いて申し訳なさそうにしている。
「まあとにかく声がする方に行こうか」
「そうですね…」
「あ、私も行きます…」
とりあえず様子を見る為に声がする方に移動した…
「ならせめて次の戦利品の分け前をコリックの分を増やせ!!あれはコリックの活躍に対して少なすぎるだろ!!何故私より少ないのだ!!」
「ちゃんと活躍を考えての配分だ!!」
やっぱりリシャスさんがキッドさんに詰め寄っていた。
それだけでなく、この声を聞いてユウロやスズや楓さん、アメリちゃんやピュラちゃんもこの様子を見ていた。
「リシャスさん〜!!キッド船長に無理言わないでって言ってるのに…」
「どこが無理なものか!!夫の扱いの不満を言っているだけだ!」
「いやだから僕そこまで活躍してないから昇格も昇給も無くて問題無いんだってば」
「何を言っている!お前は頑張っているじゃないか!!キッドが見て無くても私がきちんと見ている!!」
「いやだから…」
そのままコリックさんが二人の間に割り入って止めようとして…そのままリシャスさんと口論になってしまったのだが…
「はいはいそこまで!!こんなところで言い合ってても仕方ないでしょ?」
「そうですよ!!コリック君も困っているようですしここは大人しくしましょうよ!」
ヘルムさんとユウロの二人が手をパンパンと叩きながら二人の口論を止めに入った。
しかし、それが気にいらなかったのかリシャスさんはみるみるうちに表情を恐くしていき…
「影の薄い嫁無しの雑魚と出番の薄い童貞雑魚が偉そうな口を利くなあ!!」
「「ぐはあっ!!」」
相当キツい一言を二人揃って貰ってしまった。
「そりゃあ影は薄いかもしれないし嫁も居ないけどさ…僕副船長なのに…」
「いやそりゃあ童貞の雑魚だけどさ…自分の意思で童貞だけどさ…そんなハッキリ言わなくても良いじゃんか…」
「ていうか前もそれ言ったよね…僕これでも副船長なのにさ…」
「そもそも出番の薄いってなんだよ…漫画じゃないんだからさ…俺リシャスさんの前にほとんど現れて無いだけじゃんか…」
「ご、ごめんなさーい!!」
誰がどう見てもヘコんでいる二人…ヘルムさんは膝を抱えて俯いているし、ユウロは膝をついて地面を指でぐりぐりと弄りながらブツブツと何かを言っていた。
その様子を見たコリックさんは慌てて謝っているが効果は無いようだ…
リシャスさんに至っては悪びれてすら居ないようだ…まあこの二人は人間だからヴァンパイアのリシャスさんにとっては下僕同然なのだろう…
「も〜リシャスお姉ちゃんそんなこと言っちゃダメだよ!!」
「へっ!?」
と、そんな様子を見ていたアメリちゃんがちょっと怒った様で、リシャスさんに顔を赤くしながら怒りに出てきた。
「今のはリシャスお姉ちゃんとコリックお兄ちゃんのケンカをとめようとしただけなのにそういう言い方はダメだよ!!」
「いや、しかしだな…」
「しかしも何もない!!大体コリックお兄ちゃんだってリシャスお姉ちゃんのそういう行動で困っているんだからね!!」
「え…でも私はコリックの事を想ってだな…」
「それでキッドお兄ちゃんを困らせてさらにコリックお兄ちゃんまでがっかりさせてあげくヘルムお兄ちゃんにユウロお兄ちゃんまでどよーんとさせていいと思ってるの?」
「あ、いや…その…」
そして、よっぽど怒っているのか…
「…反省しないのならアメリのおs…知り合いの知り合いの『ダンピール』さんにリシャスお姉ちゃんをおしおきしてもらうようにたのむよ?」
「え…それは困る…」
アメリちゃんはリシャスさんに対してまさかの脅しを掛けた。
私はアメリちゃんが言ったダンピールなるものがよくわからないけど、リシャスさんの表情が少し引き攣ったのでおそらくヴァンパイアにとって恐れるような相手なのだろう。
「う、ま、その、なんだ…す、すまなかった…」
「お、おう…」
「むぅ…」
仕方なくといった感じでリシャスさんは呟くように謝った…が、アメリちゃんはまだ納得していないようであった。
でも、それについての話題は続けられそうにもなかった。
『て、敵襲〜!!今度は教団ですー!!』
「なにっ!?」
そう…教団の船が攻めてきたのだった。
この海賊船は見ての通り魔物もいる…その為このように教団が襲ってくる事もあるとは聞いていたのだが…わざわざ今日来なくてもな…
『我々人間の敵である魔物共と賊行為を行っている屑共!!貴様らを根絶やしにしてやる!!』
そうこうしているうちにハッキリと目で見える範囲に教団の船が現れた。
船の大きさはこのブラックモンスターと変わりないほど大きい…
しかも人数の差はかなりある…相手は私達の数倍はいるように思える…
「屑共とは言ってくれるじゃねえか…野郎ども!!戦闘準備しろ!!教団の連中を返り討ちにするぞ!!」
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
しかしキッドさん達は怯む事無くそれぞれ戦闘準備を終え、いつでも戦えるようになっていた。
「じゃあサマリさんやアメリちゃんは私達と船の中へ…」
そして私達の様に戦えない者は船内に行くようサフィアさんに言われたが…
「「イヤです!!」」
「えっ!?何言ってるの?邪魔になるから中へ…」
「アメリもたたかう!!お兄ちゃんたちをクズだなんて言ったあの人たちゆるせないもん!!」
「私は戦いませんが…皆の戦っている姿をこの目で見届けたいんです!!」
私達はそれぞれの理由で、ここに残ると言った。
「そんな…わがまま言ってないで…」
「いいぞ別に」
「キッド!何故そんな事言うのですか!?」
「いや、二人の目は本気だからな…それに俺達がこいつ等を全力で守る。それでも危なかったらきちんと隠れるって言うならばだけどな」
「もちろんです!!」
キッドさんも後押ししてくれたので、私達はここに残る事になった。
「よし!行くぞ!!」
『ワアアアアアアアッ!!』
「兵士共よ!奴等を根絶やしにするのだ!!」
『イエッサー!!』
そして…戦闘が始まった!!
=======[ユウロ視点]=======
「ぐああっ!!」「ごへっ!!」
「多分まだ意味はわからないと思うけど海で達者に暮らせよー!!」
次々と船に乗り込んでくる教団の兵士達。
昨日のあからさまに雑魚だった海賊達と違い腕は立つが…それでも下っ端程度なら難なく倒して海に落とす事が出来る。
海にさえ落としてしまえば後はポセイドンのおかげで死ぬ事無く海の魔物にお持ち帰りされるだろうから、積極的に海に落としている。
「クソッ!!なんて邪魔な盾dぐあっ!?」
「そりゃあこうやって防がないと盾の意味無いでしょ?」
ヘルムさんも近くで剣と盾を駆使して次から次へと湧いてくる教団兵を流れるように薙ぎ倒していっている。
さっきは雑魚とか言われてたけど…少なくとも俺よりは強いと思う。
まあ…
「貴様らあああ!!コリックに手をだしたらその命は無いと思え!!」
「う、うわあ!?ヴァンパイアだー!!」
「てかコリックなんか知らねぐほっ!!」
「黙れぇぇえ!!私の夫を屑扱いした事を忘れはしないぞぉぉぉぉお!!」
あっちのほうで敵にレイピアを振り回し何か叫びながら斬りかかっているリシャスさんのほうがよっぽど強いっちゃあ強いけどね…
「私の魔術を喰らいなさい!!」
「ふん!そんなものは対策済みだ!!」
「なっ!?弾かれて…」
「海賊の稲荷め!!死ねえ!!」
「させないよ!!」
「なっ!?ウシオニだtうわっ!?糸が絡まって…やめ…落ちる〜!!」
リシャスさんが居る場所と反対のほうには楓さんとスズが一緒に戦っていた。
敵は魔術を弾くような仕掛けを装備品にしていたようで楓さんが放った魔術を弾いて斬りかかろうとしたが、スズが咄嗟に糸の塊を噴射して相手を突き飛ばし、そのまま蜘蛛の糸に絡めたまま海まで放り投げていた。
「ありがとうございますスズさん」
「いや、礼には及ばないよ。早くこんな戦い終わらせてご飯にしよう!」
「そうですね!!今日はとびっきり美味しい物をたくさん作ってパーティーでもしましょう!!」
そのまま自分達を囲んでいる敵に怯む事無くそれぞれ挑んでいるようだ。
さて、俺も頑張らないとな…
「ぎゃあああっ!!」
「ちょっこんな強い魔物がいるなんて聞いてねーよぉ…」
「おいおい、教団なのに弱すぎだろ…もっと楽しませてくれるような奴はいないのか?」
ふと視線を移したら、敵船の近くでオリヴィアさんが数人を同時に相手しているのが見えた。
やはりドラゴンなだけあって全く問題無く教団の兵士達を一方的に倒していた。
「まあいいや。それより珍しい武器があるといいなあ」
「くっそ…なんでこんな余裕なんだよ…喰らえ『フレイムラジエーション』!!」
「What!?」
だが、油断していたのか相手の炎の魔法を受けてしまっていた。
「ん〜そんなものか…たいした事ないな…」
「なっ!?効いていないだと!?俺の一番強い魔法なのに…」
「いいか、炎ってのはな…こういうものだ!」
しかし、全くダメージを負わなかったのかケロッとした表情で立っていたオリヴィアさん。
今度はオリヴィアさんが大きく息を吸って…
「ブオォォォォ!!」
「ぎゃあー!!熱いいいい!!」
「うわあっ!?燃え、燃える〜!!」
口から灼熱の炎を吐き出し、魔法を撃ってきた兵士含め数人をその炎で包んだ。
炎の熱さで身悶える兵士達は一目散に自ら海へ飛びこんだ…瞬間にスキュラ達に連れて行かれたようだ。
「あそこに戦えそうもないワーシープが居るぞ!!」
「あ、しまった!!」
余所見しながら戦っていたら物陰に居たサマリが見つかってしまったらしい。
…まあ咄嗟にしまったなんて言ってしまったがあれ位の強さの兵士なら…
「サマリお姉ちゃんをきずつけさせない!!『ストーム』!!」
「えっ…ひょあああああああああああっ!!」
やはりサマリを護るように戦っているアメリちゃんが簡単にやっつけてしまった。
アメリちゃんが発生させた暴風によって近くに居た大量の兵士達は吹き飛ばされていった。
「サマリお姉ちゃん…お船の中に行ってたほうがいいんじゃないかな?」
「うーん…大丈夫だよ。えいっ!!」
「むぷっ!?あ、ねむ……」
「…そうだね。じゃあがんばろうね!!」
「うん!」
そしてサマリも護られてばかりでは無く、自分の毛の塊を襲ってくる兵士の顔に押し付けて眠らせたりしている。
なんだかんだでこの二人は問題無いだろう。
「くそおっ!!何故こんな野蛮な屑集団に我等教団の騎士が遅れをとるのだ!?」
「さあな。お前さんの指示が悪かったりしてるんじゃねえのか?」
「何をいきなり…ってキキキキキッド!?」
「よう。倒しに来てやったぜ」
俺達が大半の兵士達を倒している間にキッドさんは相手の親玉の下に辿り着いたようだ。
そこまで行くのに全くの無傷であることからその実力がはっきりとわかる…その証拠にキッドさんが通ったと思われるルートにはキッドさんの長剣で斬られたりショットガンで撃たれたりして苦しんでいる兵士が道なりに倒れている…だからか相手の親玉は動揺を隠せないようだ。
「さて、今から俺はお前に攻撃しようと思うのだが…その前に宝を渡して撤退したり自ら海に飛び込むって言うなら見逃してやるぜ?」
「く……わかった…宝を渡し撤退しよう……」
「そうか…まあいいだろう」
そしてどうやらあいつはふんぞり返って命令ぐらいしか出来ないウザいおえらいさんタイプだったのだろう…ショットガンを腹部に突き付けられながらそう言われてあっけなく撤退を決めた…ように思えた。
「それじゃあ野郎ども!!そんな奴等はほっといて船に戻れ!!」
「…油断したなバカめ!!死ねえ!!『ミサイルニードル』!!」
「なっ!?危ないキッドさん!!」
だがそれはキッドさんを油断させる演技だったようだ。
キッドさんが俺達のほうを向いた瞬間、ガバッと起き上がって魔力で出来た無数の針を飛ばしてきた。
敵に背を向けていたキッドさんが声に気付いて振り向いたが間に合いそうもない!!
ドドドドドドドドドドド……!!
「キッドーーー!!」
サフィアさんの悲痛な叫び声は…針の襲う音で掻き消されてしまっていた……
「ふふ…ふはは…ふはははは!!どうだ!!恐れ入ったかこの屑海賊が!!」
「くそっ!良くもうちの船長を…………ん?」
「お前達!敵の親玉は撃ち取った!!後は汚らわしい雑魚共を一掃するだけだ!!」
キッドさんを倒して調子に乗る相手の親玉だが…俺達は全員あるものを見つけていた。
「さあ!どうした!?早くあいつらを…」
「あら…ずいぶんと物騒な事をしてるじゃない…」
「ん?何の声d…な、なななな…!?」
そのあるもの…正確にはそのある者とは…
「近くの国に用があって、その帰りにたまたまブラックモンスターを見つけたから立ち寄ろうとして近付いてみたらこんな感じに戦いになってるんだもの…私ビックリしちゃったわよ」
「ななな…リ、リリムだあああ!!」
白い翼と白い肌、白い髪に白い尻尾、対照的な黒い角を持った魔物…リリムが敵側の船の上空に居たのだ。
「あ、あれは…アミナ王妃!!」
「へっ!?じゃああの人が…カリバルナにいるアメリちゃんのお姉さん!?」
しかもヘルムさん曰く、あのリリムがアミナさんらしい。
おそらく王妃としての仕事の途中でたまたま近くを通って様子を見に来たところなのだろう…
なんとまあタイミングがベストすぎる…
「てて…不意打ちする程の考えがあったのかよ……ってアミナさん!?」
「お久しぶりキッド。なんとか私の防壁は間に合ったようね」
「はい…おかげで助かりました…」
アミナさんが来てくれたおかげでキッドさんは無事だったのだから…
「よいしょっと…そんじゃあ覚悟は出来てるよな?」
「え、ひ、ひいいっ!!」
リリムがこちら側にいると知って(おそらくアメリちゃんがリリムだとは気付いていない)より勝ち目がないと感じてしまったのだろう…もはや相手には余裕が無い。
「お前らごときに使うつもりは無かったのだが…悪いが全力で行かせてもらう!!」
そう叫んだ後、キッドさんは…
「サフィア…俺に力を貸してくれ!!」
首に下げていたペンダントに手を置き何か呟いた…
そしたらキッドさんが首から下げていたペンダントが輝き始めた。
「ひっな、なんだ!?」
「説明するのが面倒だから愛と神の力とでも思っておけ!!」
「ひぃ!!そんnあひゃああっ!!」
そのままもの凄いスピードで敵の親玉に駆け寄ったかと思ったら、そいつに掴みかかってそのまま海に放り投げた。
「さて…野郎ども!この勝負は俺達の勝ちだ!!後は雑魚の片づけと行こうじゃないか!!」
「ウオオオオオ!!」
敵の親玉も居なくなった事なので、俺達はもはや戦意が残っていない一般兵を縄で縛りあげたりし始めた。
…………
………
……
…
「えっと…あなたがアミナお姉ちゃん?」
「そうよ。私はアミナ。まさかこの船に妹が乗っているなんて思わなかった」
「たまたま遭難していたのをサフィアが見つけて助けたんだ。まあアミナさんみたいに会った事無い姉を探して旅しているらしいから丁度良かったんじゃないかな」
「あらそうなの!?えっと…名前は?」
「アメリだよ!!よろしくねアミナお姉ちゃん!!」
「ええ、よろしくアメリ!!」
戦闘も終わり、教団から財宝や売れそうな武器を獲り船に戻った俺達。
そこでアミナさんとアメリちゃんが対面した。
やっぱり姉妹って全員微妙に違うけどそっくりだよなぁ…魔王もこんな顔してるのかな?
「それで…あなた達がアメリと一緒に旅している人達って事でいいのね?」
「はい!」「そうです!!」「ああ!!」
そして俺達…俺とサマリとスズのほうを優しそうな目で見てそう尋ねてきた。
「アメリと一緒に旅してくれてありがとうね。この子まだ幼いから世話掛かるし時折迷惑かけるかもしれないけどこれからも一緒に旅をしてあげてね!」
「もちろんですよ!!」
「むぅ…アメリそんなにめーわくかけてないもん…」
優しいお姉さんとちょっとむくれる妹…なんか画になるなぁ…
「それでアミナさん、もう叔父さんのところに戻るのか?」
「まあそんなに留守にするのも良くないでしょうからね。でもキッドやサフィアちゃんにその仲間達、それにアメリと一緒に旅してくれてる子達にも会えたから私は嬉しかったわ」
「そうか…じゃあせめてお礼を…先程の戦闘で助けてくれてありがとうございました!!」
「気にしなくていいわよ…私だってルイスと同じくキッドの事は家族だって思ってるんだから。家族は助けあって当たり前でしょ?」
「アミナさん…」
キッドさんとアミナさんを見ていると…なんだか親子愛を感じた…
いいなぁ……
ぐうぅぅぅぅ……
「ん?」
「あら?」
「もしかして…」
「うぅ…」
と、なんだか良い雰囲気になっていたのに、高らかにお腹の音が辺りに響きだした。
もしやと思いアメリちゃんのほうを見てみると…どうやら正解だったようで、顔を真っ赤にし、お腹を押さえながら俯いていた。
「アメリ…お腹空いた?」
「うん…おなか空いた…」
「あ、そうだ!これからパーティーにしようと思ってたのですよ!!王妃様もぜひどうですか?」
「え…そうね…ルイスには悪いけど私も参加させてもらおうかしら。アメリともいろいろお話したいしね!」
「ホント!?じゃあアメリといっぱいお話しようよアミナお姉ちゃん!!」
「あ、じゃあ私料理手伝います!!行きましょう楓さん!!」
そして、俺達は船上パーティー…って言うとちょっと違うかもしれないけど、アミナさんも含めて大いにはしゃぎパーティーを楽しんだ。
「でね、ノーベお姉ちゃんにもおはなししたんだけど…またお母さんとお父さんケンカしちゃってさ〜…」
「えっ!?それって大丈夫なの!?」
「大丈夫よピュラちゃん…お母様とお父様はよく喧嘩してるけど必ず仲直りするんだから」
「そうそう、よくあることだよ」
「へぇ…そんなものなんだね…」
「そう、そんなものよ…ところで他にはどんな姉妹に会ったの?」
「ん〜と…あ、デルエラお姉ちゃんにも会ったよ!!」
「あ〜デルエラお姉様か〜」
「あ、アメリ、そのデルエラさん私達も会ったことあるよ!」
「ホントに!?」
「うん!すっごく優しかった!!」
「だよね〜!!」
「優し…まあ優しいか…」
アメリちゃんは楓さんやサマリが作った料理を口いっぱいに頬張りつつピュラちゃんとアミナさんに今までの旅の事や最近の家の事情などを話していた。
=======[サマリ視点]=======
「この街がリオクタですか?」
「おうそうだ!ようやく到着したな!」
「はい!数日の間お世話になりました!!」
「礼はいいさ。サマリは料理をしてくれたし、ユウロやスズは戦闘や雑用を手伝ってくれたし、アメリなんかリシャスやアミナさんの見た事無い一面を見せてくれたしな!こっちも助かったし楽しかった。ありがとうな!!」
「いえいえ…」
現在10時。
あれから3日間は特に襲撃や事故も無く、私達は無事にリオクタに到着した。
リオクタは親魔物領らしいし、私達も安心して降りられるだろう。
「お別れだねアメリ…」
「そうだねピュラ…でもまた会おうね!!」
「うん!だって私達は…」
「「友達だもんね!!」」
アメリちゃんとピュラちゃんもお別れを言っている。
二人は本当に仲良しになって、船に居た間ずっと一緒に居たほどだ。
「それでは皆さんさようなら〜!!」
「ええ!また機会があったら会いましょう!!」
「キッドお兄ちゃん!!アミナお姉ちゃんによろしくね〜!!」
「おう!またアミナさんにも会ってあげてな!!」
そして私達はキッドさん達にお別れを言って、街中に進んでいった……
ジパングの旅を終え、ちょっとしたハプニングもあり海上で貴重な体験をした私達…
そしてまた私達は…大陸での旅を始めるのだ!
「とりあえずどこに行く?アミナさんにも会えたし無理してカリバルナまで行く必要はないだろ?」
「そうだね…アメリちゃんは何処行きたい?」
「どこでもいいよ!きままに旅しよっ!」
「そうだな!しかし大陸か〜うわ〜アタイめっちゃ感動〜!!ジパングと建物の感じが違う!!」
そう…何が起きるかわからない、誰と出会うかわからない…そんなきままな旅がまた大陸で始まるのだ!!
「おう、サフィア御苦労様。入っていいぞ」
現在11時らしい。
私達はシー・ビショップのサフィアさんの夫であるキッドさんがいる船長室まで案内された。
サフィアさんが声を掛けたら、船長室の扉越しに若い男の人の声が聞こえてきた…おそらくそのキッドさんだろう。
「ね、ねえユウロ…私達どうなっちゃうんだろう…?」
「さ、さあ?わざわざ助けてくれたわけだし、命を獲られたりはしないと思うけど…」
「わからないわよ?もしかしたらサフィアさんの頼みだから許可しただけで本当は気にいらないとか…」
「ああ…ま、まあもうこうなったらなるようにしかならないんじゃないか?」
ちなみに今私達が乗っている船は…大砲が沢山あり、旗には髑髏が描かれている…つまり海賊船である。
なので今から会わされるキッドさんは、この海賊の船長という事になるわけで…きっと恐ろしい人なんだろう。
なので私とユウロはこれからどうなってしまうのかとさっきから不安で一杯である。
「大きな船だな〜。アタイなんだかワクワクしてきた!」
「カッコいいお船だよね〜!アメリもワクワクしてきた!」
「ふふっ、ありがとうございます。なんせ自慢の船ですからね!」
一方スズとアメリちゃんは目を輝かせながら船のいろんな所を見ている。
まあ二人は海賊に対する知識が無さそう…というか海賊というものを知らなそうだし仕方無いかもしれないけど…もう少し緊張感は持ってもらいたいものだ。
ガチャッ!!
「おーい、入ってこないのか?」
「あ、ごめんなさいキッド。この船をじっくり見ていたようですのでちょっと待ってたんですよ」
と、声を掛けてからなかなか入ろうとしない私達に痺れを切らしたのか、キッドさんだと思われる男の人が部屋から出てきた。
「そうかい…それで、ワーシープに人間男にウシオニにまさかの子供リリムと…お前達がサフィアが言っていた遭難者でいいんだな?」
「えっと…はい、そうです…」
「そうか。あ、俺はキッドだ。このブラック・モンスターの船長をしている。そこに居るシー・ビショップのサフィアの夫でもある。リオクタに着くまでの数日の間よろしくな!」
「あ、はい…よろしくおねがいします!」
キッドさんは予想と違い、見た目及び口調は普通に優しそうで頼りになりそうな人ってところだが…はたして…
と、若干予想と違った事に戸惑っていたら、キッドさんが再び口を開き…
「それでお前達の名前は?何日か一緒に居るのだから知らないと不便だろう?」
こう言って私達の名前を尋ねてきた。
まあそうか…とりあえずお世話になるのだから名前は言わないと…
「私はワーシープのサマリです!この度は助けていただきありがとうございます!」
「俺はユウロです!これから数日間よろしくお願いします!」
「アタイはウシオニのスズ!この船すっごくカッコいいな!!」
「アメリだよ!よろしくねキッドお兄ちゃん!!」
「サマリにユウロ…それにスズ、そしてアメリか…おう、よろしくな!あと船は俺の自慢でもあるからカッコいいと言ってくれてありがとうな!」
そう笑顔で話しかけてくるキッドさんは…
「まあ無人島生活は大変だったろう?陸に着くまではこの船を自分達の家だと思ってくれて構わないからな」
「あ、ありがとうございます!」
絶対に悪い人では無いと思う。
まあ冷静に考えたらサフィアさんみたいな優しい人と一緒に居るのだから悪い人であるはずはないか…サフィアさんとお揃いの貝殻のペンダント(サフィアさんは赤、キッドさんは青)を首から下げているし仲もとても良いのだろう。
でも…なんでそんな人が海賊なんかしてるんだろう?というかそもそも本当に海賊なのか?
「あのー、キッドさん?」
「ん?えっと…サマリか。何か質問でもあるのか?」
「はい。キッドさんっていい人だと思うんですけどなんで海賊なんてやってるんですか?とても略奪とか野蛮なイメージは無いのですが…」
疑問に思ったので、たぶん聞いても怒られはしないだろうと思い質問してみた。
「いい人だと思うか…ありがとよ!それで質問の回答だが、俺は海賊と言ってもそこいらの奴とは違って一般市民や商船を狙う事は無い。俺達の標的は悪名高い領主とか襲いかかってくる海賊とか…一言で言えば悪人だ。罪の無い人に手を挙げるのは俺のポリシーに反するからな」
「ほえ〜!!そうですか!!」
つまりキッドさん達は私達の様な一般市民なんかは絶対に狙う事無く、悪い事をしている人達を狙っている海賊という事か。
悪人から略奪こそしているものの、やはりいい人であった。
「ああ、ちなみに俺達は『カリバルナ』という国の海賊だ。こういえばわかる奴もいるんじゃねえか?」
「ああ〜!聞いたことあります!!たしか…海賊の国でしたよね?昔一人の海賊と上位の魔物が手を組んで当時反魔物国家だったカリバルナを親魔物国家に変えた歴史がある国だって聞いた事があります」
「ほぉ…よく知ってるな。そのとおりだ。だから俺達の国では海賊というのは憧れであるんだ」
「なるほど…」
だから海賊をやっているのか…納得。
「まあその一人の海賊ってのが俺の叔父さんってのもあるけどな!更にその上位の魔物ってのは…アメリの姉になるのか?」
「えっ!?キッドお兄ちゃんの生まれた所にアメリのお姉ちゃんいるの!?」
それで、その海賊の国カリバルナにはどうやらアメリちゃんのお姉さんがいるらしい。
「おう!アミナさんっていうリリムだが…知ってるか?」
「ううん知らない。アメリそのアミナお姉ちゃんに会ってみたい!!カリバルナにつれてって!!」
「あ、いや、悪いが今帰郷する気はないんだ。後で大体の位置を教えてやるから自分達で向かってくれないか?」
「うーん…わかった!」
アミナさんという人らしいが…いったいどんな人だろうか?
アメリちゃんが会った事無いと言ってる事だし、特に目的地も決まって無いわけだから大陸に着いた後まずはそのカリバルナを目指そうかな。
「他に質問とかが無いならそろそろ部屋に案内しようと思うのだがいいか?」
「はい……って部屋ですか?」
「おう。この船は見ての通り大きいから空部屋も沢山ある。目的地に着くまでの間そこを使ってくれ」
「そうですか…ありがとうございます!!」
「それじゃあ案内は頼んだぞサフィア。後で船の内部と他の仲間達の紹介も頼む」
「はい!では皆さんついてきて下さい!」
一通り話も終わり、私達はサフィアさんの案内でその空部屋まで案内してもらう事になった。
…………
………
……
…
「しっかし…本当に大きな船ですね〜」
「ええ。この船だけで航海に必要な施設は一通り揃ってますからね。部屋に荷物などを置いて少し休憩なされた後に船内を案内しますね」
「わかりました。迷子にならないように気をつけなきゃ…」
現在11時半。
船長室から出た後、じっくりと船の内部を見ながら私達は部屋まで案内されていた。
「ではこちらです…」
「お姉ちゃんお姉ちゃん!この人達がさっき言ってた人達?」
「あらピュラ。そうですよ。今お部屋まで案内しているところです」
そして目的地だと思われる部屋に着く直前、後ろから明るい声が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、下半身が魚の女の子が器用に鰭をひょこひょこさせて歩いてきていた。
サフィアさんの事をお姉ちゃんと呼び、下半身が魚という共通点こそあるものの、鱗の色が違うし顔もさほど似ていないからサフィアさんと本当の姉妹という事ではなさそうだ。
「紹介します。この子はピュラ。見ての通り『マーメイド』で血が繋がっているわけではないけど私の妹でもあるの」
「私はピュラ!よろしくね!」
この子は『マーメイド』のピュラちゃんというらしい。
元気良く私達によろしくねと挨拶してくれた。
「ん?あなたは…リリムみたいだけど…なんていう名前なの?あと何歳?」
そしてアメリちゃんを認識したようで、ピュラちゃんはアメリちゃんに話し掛けた。
「アメリだよ!あと8さいだよ!!」
「ホントに!?私も8歳なんだ!!同い年だね!!じゃあアメリ、私とお友達になろ!!」
「うん!お友だちになろ!!……って8さいってホント!?ピュラはアメリと同い年なんだ!!」
なんとこのピュラちゃんはアメリちゃんと同じ8歳らしい。
今までの旅でアメリちゃんと同じ歳の子はほとんど見た事が無かったけど…こうしてみると微笑ましいな…
「じゃあアメリ!私がこの船を案内してあげる!!今から行こう!!」
「うん!あ、じゃあピュラ、まずはお日さまがあたる所につれてって!このにもつかわかさなきゃ」
「わかった!じゃあまずは船の甲板に案内するね!!」
そのままピュラちゃんとアメリちゃんは二人で手を繋ぎながらどこかに…おそらくは濡れているアメリちゃんの荷物を乾かすために船の甲板まで歩いて行った。
「あらあら…あんなにはしゃぐピュラは久しぶりに見たわ…」
「え?そうなんですか?」
「まあ普段から明るい子ではあるんだけどね。やっぱり同年代の子はこの船には居ないから、同い年のアメリちゃんに会えて嬉しいのかと」
「ああ…そうですね。きっとアメリちゃんも嬉しいと思ってますね。見てわかるようにアメリちゃんと同年代の者はいませんしね」
というかアメリちゃんって同い年の子は呼び捨てするんだ…今まで「お姉ちゃん」とか「ちゃん」とか嫌いな人ですら「さん」と付いた呼び方しかしてなかったから凄く新鮮…
…ん?まてよ?たしか他にもアメリちゃんが呼び捨てにしていた人物が居たような…まあいいや。
「ではサマリさんやユウロさん、スズちゃんはどうします?このまま部屋に入るかそれとも部屋に入らずすぐに他の施設を案内しましょうか?」
「えっと…俺は少し休みたいな…環境が思ったより良くてぐっすり眠れたとはいえいろいろあり過ぎて疲れてるからな」
「私も…サフィアさんが海賊船を呼んできたの見た時は結果的には無駄に緊張して疲れたので…」
「アタイはいろいろ見て周りたいけど…まずは部屋を見たいから部屋に入る!」
「わかりました!ではこちらです」
という事で私達は、まずは部屋に入って休憩(スズは部屋の物色)する事にした。
=======[アメリ視点]=======
「ここならあまり邪魔にならないよ」
「わかった。じゃあかわかそうっと!」
ピュラにあんないされてやってきたのは、日光がよく当たるお船の甲板。
ここなら広いしアメリのテントとかコマとかとにかくにもつを並べてもジャマにならないだろう。
ということで、早速アメリは海でぬれちゃったにもつをかわかすことにした。
「そういえばなんでアメリ達って遭難なんかしてたの?」
「えっと…のってたお船がカリュブディスさんたちに沈められちゃって…」
「へぇ…大変だったんだね…」
「うん。でもめったに体けん出来ないことだったから楽しかったよ!」
たしかにユウロお兄ちゃんを抱えながらとぶのはつかれたし、にもつも一時的になくなっちゃったから大変だったけど…それでも島をたんけんしたりお魚おいしかったりして楽しかった。
にもつもぶじ全部戻ってきたし、そうなんした結果ピュラに会えたんだからそうなんしてよかったって言えるぐらいだ。
「じゃあ荷物はここに置いといて…この船の施設を案内していくね!」
「うん!おねがいピュラ!」
にもつも全部かわくように置いたので、早速ピュラにこのお船を案内してもらおうと思ったんだけど…
「お、ピュラとアメリは早速仲良くなったのか」
「あ、お兄ちゃん!!うん!お友達になったよ!!」
「あ、キッドお兄ちゃんだ。どうしたの?」
急に声がして、ふりむいたらこのお船の船長さんであるキッドお兄ちゃんが立っていた。
「いや、とりあえず平和でする事無いから甲板から遠くでも見ようと思ってな…そしたら二人が仲良く何かをしているのが見えたから話し掛けてみたんだよ」
「なるほど〜…あ、キッドお兄ちゃん、ここにアメリのにもつかわかすために置いといていい?」
「おう、いいぞ。雲の流れからしても雨は降らないと思うしな」
キッドお兄ちゃんの許可ももらったし、にもつはこのままで大丈夫だろう。
「じゃあピュラ、あらためて行こう!!」
「そうだね!じゃあどこから案内しようk…」
ぐうぅぅぅぅ…
「……」
「……アメリお腹空いたの?」
「……うん……」
だからこのままどこかに案内してもらおうと思ったんだけど…アメリのおなかが音を出してしまった…
…ピュラとキッドお兄ちゃんに聞かれちゃってちょっとはずかしい…
そういえばもうお昼か…おなかすいたなぁ……
「そういえばちょうどお昼だしご飯からにしないか?時間的に楓(カエデ)もご飯を作り終える頃だろうしな」
「そうだね。じゃあアメリちゃん、私がダイニングまで案内してあげる!!」
「うん…ありがとピュラ!」
ということで、アメリたちはピュラの案内でダイニングまで行くことになった。
カエデさんって人が作ってるらしいんだけど…おいしいのかな?
サマリお姉ちゃんのごはんとどっちのほうがおいしいんだろう?気になるなぁ…
ぐうぅぅぅぅ…
「…ちょっと急ぐ?」
「あははは……ううん…大丈夫だよ。もっとお船をゆっくり見たいからアメリのおなかの音は気にしないで…」
ごはんのこと考えてたらまたおなかが音を出した。
うーん…やっぱり昨日けっこう長く空とんでたから魔力が少なくなってるのかなぁ…だからおなか空いちゃうのかな?
そうじゃないとなんかアメリが大食いみたいでイヤだな…
…………
………
……
…
「……ん?なんだろこの匂い…?」
「ああ、たぶんシャローナさんのお薬の匂いだね」
「おくすり?あ〜言われてみれば…」
ピュラちゃんにダイニングまで案内してもらってる途中で、草の匂いやよくわからない甘い匂いなどいろんな匂いがしてきた。
なんだろうと思ってたら、ピュラちゃんが一つの部屋を指差した。
どうやらシャローナさんって人が作ってるおくすりの匂いらしい。
そういえばノーベお姉ちゃんのおうちでも同じような匂いがした気がする…そうでもない匂いもあるけど。
ガチャ
「さて、そろそろお昼の時間かしら…ってあら、船長さんにピュラちゃんじゃない」
「あ、シャローナさん!」
と、おくすりの匂いの話をしていたらちょうど扉が開いて、サキュバスのお姉ちゃんが出てきた。
このサキュバスのお姉ちゃんがシャローナって人らしい。
ノーベお姉ちゃんと同じように白衣を着ているけど…お医者さん、しかも船のだから船医さんかな?
「それでその子が例の遭難者?」
「ああそうだ。遭難者の一人でアメリという名の子供リリムだ」
「アメリだよ!数日の間よろしくね!!」
「ええよろしく。私はシャローナ。この船で船医をしているわ」
やっぱりシャローナお姉ちゃんは船医さんだった。
「あ、丁度良いわ。アメリちゃん、ちょっと身体のチェックをさせてね」
「ん?なんで?」
「まあ遭難していたわけだし、一応健康状態を確かめておこうとね…すぐ終わるからね」
そう言うとシャローナお姉ちゃんはよくわからない道具でアメリの身体をペタペタしたり、角やつばさやしっぽをやさしくさわってきたり、目や口の中をじっと見てきたりした。
そして首を一回「うん…」って言いながらたてに小さく動かして…
「身体には異常は見当たらない…至って健康ね。でもリリム特有の膨大な魔力、それが半分以上失われているわ」
アメリの身体のじょうたいをおしえてくれた。
どうやらアメリの身体は元気であるらしい…けど、やっぱり魔力が少ないって言われちゃった。
「うん。ユウロお兄ちゃんを海の魔物さんたちからまもるためにずっと抱きかかえてとんでたし、それからも島をしらべるのにとんでたし、たき火するために小さい火の魔法を使ったりしたもん」
「なるほどね…じゃあアメリちゃん、ちょっと待っててね」
アメリが魔力が少なくなってる原因だと思うことをシャローナお姉ちゃんに伝えたら、シャローナお姉ちゃんは一回医りょう室に戻って…
「はいお待たせ。アメリちゃんこれ飲んでみて」
「…おいシャローナ、何だこのピンク色の液体は?」
きれいなピンク色のお水が入ったビンを手にもってすぐにもどってきた。
なんだろうこれ?ちょっと甘い匂いがするけど…
キッドお兄ちゃんもよくわからないらしくってシャローナお姉ちゃんに聞いている。
「これは市販されている味気ない精補給剤を私なりに美味しくしてみたものよ…といってもなかなか上手く行かなくて子供騙し程度だけどね」
どうやらあのおいしくない精ほきゅうざいのちょっとだけおいしいものらしい。
魔力回復させたいし…早速のんでみよう…
「んく…んく……ん〜…ちょっと甘く感じるしまあまあおいしいかも…」
「そう…それはよかったわ」
のんでみたら…前カリンお姉ちゃんにもらったやつよりはおいしくないけど、他のよりはおいしかった。
それに魔力も回復して元気いっぱいだ…おなかは空いてるけど。
「そうか…てっきりまた変な薬でも作ったのかと思った…」
「あら?またって言うと私がよく変な薬作っているように聞こえるじゃない」
「事実作ってるじゃねえか!!獣人型の魔物にしか効かない媚薬とか話術が上達する薬が失敗した性格が変わる薬とか!!」
「あ、あはは……さ、さあ船長さんもピュラちゃんもアメリちゃんもダイニングに行きましょ」
「誤魔化したか…まあ今回はまともなものだったからいいがな…」
…なんだかよくわからないけどシャローナお姉ちゃんは不思議なお薬をいっぱい作ってるってことはわかった。
=======[サマリ視点]=======
「楓さん洋食もお上手ですね〜…後で教えてもらえませんか?」
「いいですよ。では今夜の夕食は一緒に作りますか?私もサマリさんの料理気になりますし」
「はい!ぜひ一緒に作りましょう!!」
現在12時半。
私達は少し休憩した後に、お昼という事でサフィアさんにダイニングまで案内された。
「それにしても…楓さんは大変ではないのですか?やっぱ海賊なだけあって戦闘とかありますし、それに結構な人数が居るのに…コリックさんは手伝ってましたけど楓さんぐらいしか料理人いなそうですし…」
「まあ大変で辛いと思う事もありますけど…私の料理を感謝して、喜んでくれている人がいるって思うとね!」
「ああ、そうですよね!私も作った料理をおいしそうに食べる皆を見てると嬉しくなっちゃいますもん!」
そこでこの船の料理人である稲荷の楓さんと出会った。
差はかなりあるとは思うが、同じ旅の中で料理する者としてお話をしていたのだ。
ちなみに楓さんは稲荷ではあるけど、洋食も作れるとの事…その証拠に、現在テーブルの上にはなんともおいしそうなペペロンチーノパスタや洋風海鮮サラダが乗っている。
「やっぱりこの船凄いや!!キッチンやダイニングも綺麗だしさ!!」
「おーいスズー。飯だからちょっとは大人しくしろよー」
「あ、そうか…やっぱこの船いろんなものがあって面白くてさ、ついはしゃいじゃうんだよ」
「ふふ…スズさんって可愛いですね」
「え…あ、ありがとう!!アタイってウシオニだから怖がられる事が多いから…可愛いって言われると照れちゃうよ…」
スズは相変わらず船内をキョロキョロしているが、ユウロやサフィアさんは大人しく椅子に座っている。
「…ところでオリヴィアさん…でしたっけ?なんで俺の木刀をそんなにじっと見つめてるんですか?」
「いやあその木刀、他の木刀と違う気がするからじっくり見てみたいなと思ってな…なんせ私は武器が好きだからな!」
「そうか…まあ見るだけなら見せてあげますよ」
「おおありがとう!!Thank you very much!!」
「…見るだけだよオリヴィア。お客さんの武器を欲しがったりしないでよ?」
「…え?ちょっとそれは困るので早急に返してもらいたいのですが…」
「ヘルム副船長、きっと大丈夫ですよ。オリヴィアさんもユウロさんの武器を奪ったりしないはずですよ?」
「そうそう、流石に奪いまではしないって!」
「…ならいいけど…」
「あ、ところでコリック…リシャスは来て無いようだが?」
「今はまだ昼ですからリシャスさんは寝てますよ」
ちなみに他にもキャビンボーイのコリックさんや副船長のヘルムさん、それに戦闘員でまさかの『ドラゴン』であるオリヴィアさんなど大勢の海賊の皆さんがいた。
今は昼食の最後の一品と、そろそろこっちに向かっているキッドさんを待っている感じである。
それとアメリちゃんとピュラちゃんもキッドさんと一緒に居る所を目撃されているから、一緒に来ているのを待っている。
と、こんな感じにお話したりして盛り上がっていたら…
「おー、今日も美味そうな料理だな!」
「いい匂いだー!」
「わーおいしそー!!」
「あら、やっぱり最後になってしまったようね…」
キッドさんとピュラちゃんにアメリちゃん、それと白衣を着たサキュバス…おそらくさっきサフィアさんが言っていた船医のシャローナさんがダイニングに入ってきた。
「あ、サマリお姉ちゃんたちも来てたんだ」
「というかアメリちゃん達を待っていたようなものだよ」
「えっそうなの!?じゃあ早く食べようよ!!アメリ魔力は回復したけどおなか空いたもん!!」
そしてこっちに気付いたアメリちゃんが小走りでやってきて私の隣に座った。
「それじゃあ…」
『いただきます!!』
全員そろったし、料理も出来たので、私達は楓さんが作ったお昼ご飯を食べ始めた。
流石に海賊船の料理人を任されているだけあって、とてもおいしかった…
…………
………
……
…
「かわいたー♪」
「早かったね!!」
「いい天気だもんね〜…夕食の準備の時間までここでお昼寝してようかな?」
現在14時。
私とアメリちゃん、それとピュラちゃんは船の甲板…アメリちゃんが荷物を乾かしていた場所で日向ぼっこをしていた。
そう、日向ぼっこをしていたのだが…
『敵船!敵船だー!!他の海賊がこっちに向かってきているぞー!!』
「えっ!?」
どうやら他の海賊が現れたらしい…という事はつまり……
「もしかして…戦闘なんか起きちゃったりする?」
「うん…だからアメリもサマリさんもお兄ちゃん達の邪魔にならないように部屋に戻ろう!!」
やっぱり戦闘になるようだ…
折角のんびりと平和にお昼寝でもしようと思ってたのに…まあ海賊船なんだから仕方ないけどさ…
「アメリは手伝わなくていいのかなあ?」
「えっアメリちゃん闘えるの!?」
「うん!アメリ魔法とくいだよ!!ヒドい人以外はあまり使いたくないけどね」
「へえ〜!!アメリって凄いね!でもお兄ちゃん強いし、只の海賊なら簡単に倒しちゃうからきっと大丈夫だよ!!」
アメリちゃんは自分も闘ったほうがいいかと思ったようだが、ピュラちゃん曰くキッドさんは強いから大丈夫とのこと。
まあこっちも今は適当に船内をうろついているユウロとスズがいるし、二人も戦闘に参加するかもしれないから問題は無いだろう。
「じゃあ部屋にもどろっと!!」
「そうだね。まあ万が一にいざという状況になったら私が二人を守るからね!!」
「ありがとうございます!!」
「え、サマリお姉ちゃん……たたかえるっけ?」
「……」
…きっとそんな状況にはならないだろうけど、この二人は私が守るって言ったらアメリちゃんに的確なツッコミをされてしまった…
なんか悔しいけど実際アメリちゃんの言うとおり私は強い人がいる戦闘ではただの足手まといだからな…大人しく二人を連れて部屋に戻ることにした。
『野郎ども!戦闘だぁ!!』
『ウオォォォォォォオ!!』
部屋に戻る途中でキッドさんの戦闘開始の叫び声と、多くの雄叫びが聞こえてきた。
雄叫びの中にはユウロの声とたぶんスズだと思われる声もあったのでたぶん無理言って参加したのだろう。
『ヒャッハー!!てめえらの宝をよこせー!!』
『野郎ども!!こんなヘンテコな奴等速攻で返り討ちにするぞ!!』
その後すぐに相手の海賊達の声と共に金属音や銃声が聞こえてきた。
どうやら戦闘が始まったようだ。微妙にではあるが戦闘で生じている振動がここにも伝わってくる。
「あ、ピュラ!!よかった…ちゃんとアメリちゃんやサマリさんと一緒に居たのね…」
「あ、お姉ちゃん!私は大丈夫だよ!」
とりあえず部屋に戻って大人しくしてようとしたら、サフィアさんが丁度部屋に入ろうとしていたところに遭遇した。
おそらくだが部屋にピュラちゃんが居なかったのでもしかしたら私達と一緒に居るかもしれないと思ってきたのだろう。
心配そうな表情をしていたがピュラちゃんを見た瞬間に安堵の表情に変わったところからも想像がつく。
「ではサフィアさんも一緒にここで戦闘が無事に終わるのを待ちましょうか」
「ええ…キッドは強いから大丈夫だとは思いますが…それでも心配になります…」
「大丈夫だよ!!キッドお兄ちゃんも、他のみんなもつよいもん!!」
私達非戦闘員に出来る事は皆の無事を祈るだけ…
だからここで皆の無事を、戦闘が終わって勝利の雄叫びを皆が叫ぶまでの間祈っていた…
ちなみに相手は相当弱かったのか、戦闘時間は15分だった。
…………
………
……
…
「いやぁ…アタイとユウロも戦闘に参加して活躍したからって戦利品分けてもらえちゃったよ」
「あのねぇ…無事だったどころか無傷だったからいいけどさぁ…海賊の戦闘を経験してみたいなんて理由で戦わないでよ…心配するこっちの身にもなってよね!!」
「ゴメンゴメン…でも楽しかったよ!!」
「ハァ…まあいっか…しかしこの船、本当になんでもあるね…」
「だよなあ…まさかこんなに大きいお風呂があるなんて思わなかったよ」
現在20時。
私達はこの船の大浴場でゆっくりとお風呂に入りながら今日の事を話していた。
まさかの15分の戦闘(これにはサフィアさんとピュラちゃんも驚いていた)が終わった後に相手の海賊の船にあった宝石の一部をユウロとスズが分け前としてもらってきたのだ。
ほぼこっちが勝手に参加しただけだから返そうとしたのだが、キッドさんは二人とも敵を大勢薙ぎ倒す大活躍をしたからって言って受け取ろうとしなかったのでそのまま貰うことにしたのだ。
ちなみに相手の海賊は一人残らず海に捨てられた…つまり海の魔物達の旦那さんに転職する事になったらしい。まあそれなら幸せな生活を送っていけるだろう。
「本当に戦闘中のスズちゃんの活躍は凄かったですよ…少なくとも私よりは強いですしね」
「楓さん…あ、夜ご飯の時に揚げだし豆腐の作り方教えて下さりありがとうございます!」
「いえ…こちらこそサマリさんの料理は勉強になりました」
今この大浴場には船に乗っている女性陣が全員集まっている。
「後でキッドにコリックの昇格を要求しなければ…」
「おいおいリシャス…あまりキャプテンに強く言うなよ。サフィアだって折角の時間をあんたに取られたくないと思ってるかもしれないだろ?OK?」
「そ、それは…だが愛するコリックの為にも…!!」
その中には戦闘が終わった後相手の船に置いてあった変な剣を持って自室に籠っていたオリヴィアさんや夜ご飯の時に初めて出会ったコリックさんの奥さんでヴァンパイアのリシャスさんももちろんいる。
「アメリのテントのお風呂とどっちのほうが大きいんだろ〜?」
「え、アメリのあのテントにこんなに大きいお風呂あるの!?」
「うん」
「それは凄い…アメリちゃんは子供でもリリムですからそういったものも豪華なんだね…」
「そう…らしいね。アメリはあれがふつうだって思ってたから…」
「ねえアメリ…後で見せて!!」
「いいよ!後でピュラに見せてあげる!!」
ピュラちゃんとアメリちゃんはお風呂の隅のほうでサフィアさんと3人で蕩けた表情で浸かっている。
「ところでサマリちゃん…」
「ん?なんですかシャローナさん?」
と、私がゆったりとある女性陣のあるものを見ながらボーっとしていたらシャローナさんが話し掛けてきた。
「何故かさっきからサマリちゃんからの視線が痛く感じる気がするんだけど…」
「え?何の事かなあ?気のせいだと思いますよ?」
目の前でゆらゆらと揺れる塊をじっと見ながら私は適当に答えた。
「いや…絶対に気のせいじゃないよね…絶対私の胸を睨みつけてる…よね?」
「あーそうですね自慢ですか?」
「えっ!?なんでそうなるの?」
そんな私に話しかけてくるシャローナさんの胸には何故か大きな塊が付いていた。
それはまるで私に見せつけるように強く存在しているではないか。
「…その胸に付着している脂肪の塊のサイズ何ですか?」
「しぼ…えっと〜…だいたいIかな〜…」
あい?愛?藍?哀?逢?
『あい』って何の事かなぁ?
まさか胸のサイズの話じゃないよね?
「変な事言わずにきちんと答えて下さいよ?」
「え、いやだからIカップ…」
「ふざけるなあっ!!」
私の叫び声が大浴場中に響き、注目の的になっているがそんな事はどうでもいい…
その憎き巨大な塊を奪い取ってやる!!
「そんなにあるなら私に少し分けてもらっても良いよね?」
「え…それは困るけど…」
「いいからよこせえっ!!」
「ちょっ、やめ、鷲掴みにしないdひゃあっ!!」
私は目の前の塊をもぎ取ろうと鷲掴みにした。
強く握っているだけなのにさすがサキュバス…ちょっと感じているらしい…
「へぇ〜この重量感があって敏感な塊で世の男を虜にしてるのかなぁ?」
「いや、私まだ夫居ないしそんな事してない…」
「だったらなおさらいいよね?今使わないんだし」
「いやそういうことじゃ…やめっ!?」
夫が居ないのなら…別に少し位いいよね?
「ま、待てサマリ!さすがにそれはやり過ぎだ!!」
「たしかにシャローナさんは大きくて羨ましいですが…とにかく落ち着いて下さいサマリさん!」
と、シャローナさんの胸をもみくちゃにしてたらリシャスさんと楓さんに腕を抑えられて止められてしまった。
…あ
「あれ?二人とも私にその巨乳を分けにきてくれたんですか?」
「へ?あ、いや…そんなわけあるか!!」
「私のはわけられません!!」
なんと、この二人にもシャローナさん程ではないけど私よりは相当大きい胸が付いていた。
ああ…羨ましい……
「ふふふ……そう…分けてくれないのですか……」
「な、なんですか?」
「おい…何故かどす黒いオーラみたいなものが見えるのだが…」
分けてくれないのだったら…私は……
「ならば…3人からイかせてでも奪い取る!!」
「ちょっと!!それ何か違う!!」
「や、やめろ!!暴れるな!!私のおっぱいを触るな!!」
「お、落ち着いて下さいサマリさん!!そんなことしてもサマリさんのものにはなりませんから!!」
その巨乳を奪い取る為に、3人に飛び掛かった。
「……」
「あ、スズお姉ちゃん…にげてきたんだね」
「うん…流石に途中から嫌な予感がしたからこそこそと逃げてきた…」
「って事はサマリさんってよくああなるの?」
「うん…サマリお姉ちゃんっておっぱいのことになるとこわいんだ…」
「お姉ちゃん…サマリさんにもぎ取られないように早く逃げたほうがいいよ…」
「え、ええ…」
「Danger…私は胸がそこまで大きくなくて良かったと今初めて思ったよ…」
何か隅のほうでこそこそ喋っている者がいるけど…気にせず3人の胸を奪いに行くことにした……
====================
「うぅ…またやってしまった……」
「ホント…あの後は大変だったんですからね…」
「うっ…ごめんなさいコリックさん…」
「はは…だから今日は朝から謝りに行ってたのですね」
現在16時。
昨日私は大浴場でまた暴走してしまって結構いろんな人に迷惑を掛けてしまったので謝りに周っていたのだ。
直接被害を与えてしまった楓さんとリシャスさんは笑って許してくれた…ただリシャスさんのほうはあの後興奮しきった身体をコリックさんと一晩中ヤりまくって落ち着かせたらしいが。
まあつまりコリックさんにも迷惑が掛かったわけであって…今も少し言われてしまった。
ちなみにシャローナさんに至っては謝りに行った時に『胸が大きくなる薬』なるものを作るから見逃してと少し怯えながら言ってきた…
胸は大きくなりたいけど…薬に手をつけるつもりは無いと断ったけど…怯えなくてもいいのに…
まあ昨日一番被害を与えたのはシャローナさんだから仕方ないか…
どうも他人の自分より大きなおっぱいを見ると心の奥底からどす黒い嫉妬の感情が湧きあがって自分でもわけわからなくなるんだよなぁ…
どうにかした方がいいんだろうけど…どうやったら普通に大きくなるのかなぁ…
「あ、ところでアメリちゃんは?今どこにいるかわかります?」
「ああ、アメリちゃんならさっき僕見ましたよ。ピュラちゃんと一緒に独楽で遊んでました」
「そう、ならいいや」
昼過ぎから全くアメリちゃんを見掛けなかったからどこに行ったのだろうと思ってたけど、ピュラちゃんと遊んでいるなら迷子になる事も無いから大丈夫だろう。
そう思いまた私はコリックさんとヘルムさんと3人でお話を再開しようとしたのだが…
『キッド!!何故コリックを昇格しようとしないんだ!?』
『いやだからもう少し活躍してからだな…』
「あれ?この声って…」
「はは…またのようだね」
「……もう……本当に合わせる顔が無くなるから止めてって言ってるのに…」
どこか遠くから…おそらく甲板の向こうから、リシャスさんとキッドさんの声が聞こえてきた。
話の内容からして、昨日大浴場内で言っていた事だろう。
よくある事なのかヘルムさんは苦笑いしているし、コリックさんも俯いて申し訳なさそうにしている。
「まあとにかく声がする方に行こうか」
「そうですね…」
「あ、私も行きます…」
とりあえず様子を見る為に声がする方に移動した…
「ならせめて次の戦利品の分け前をコリックの分を増やせ!!あれはコリックの活躍に対して少なすぎるだろ!!何故私より少ないのだ!!」
「ちゃんと活躍を考えての配分だ!!」
やっぱりリシャスさんがキッドさんに詰め寄っていた。
それだけでなく、この声を聞いてユウロやスズや楓さん、アメリちゃんやピュラちゃんもこの様子を見ていた。
「リシャスさん〜!!キッド船長に無理言わないでって言ってるのに…」
「どこが無理なものか!!夫の扱いの不満を言っているだけだ!」
「いやだから僕そこまで活躍してないから昇格も昇給も無くて問題無いんだってば」
「何を言っている!お前は頑張っているじゃないか!!キッドが見て無くても私がきちんと見ている!!」
「いやだから…」
そのままコリックさんが二人の間に割り入って止めようとして…そのままリシャスさんと口論になってしまったのだが…
「はいはいそこまで!!こんなところで言い合ってても仕方ないでしょ?」
「そうですよ!!コリック君も困っているようですしここは大人しくしましょうよ!」
ヘルムさんとユウロの二人が手をパンパンと叩きながら二人の口論を止めに入った。
しかし、それが気にいらなかったのかリシャスさんはみるみるうちに表情を恐くしていき…
「影の薄い嫁無しの雑魚と出番の薄い童貞雑魚が偉そうな口を利くなあ!!」
「「ぐはあっ!!」」
相当キツい一言を二人揃って貰ってしまった。
「そりゃあ影は薄いかもしれないし嫁も居ないけどさ…僕副船長なのに…」
「いやそりゃあ童貞の雑魚だけどさ…自分の意思で童貞だけどさ…そんなハッキリ言わなくても良いじゃんか…」
「ていうか前もそれ言ったよね…僕これでも副船長なのにさ…」
「そもそも出番の薄いってなんだよ…漫画じゃないんだからさ…俺リシャスさんの前にほとんど現れて無いだけじゃんか…」
「ご、ごめんなさーい!!」
誰がどう見てもヘコんでいる二人…ヘルムさんは膝を抱えて俯いているし、ユウロは膝をついて地面を指でぐりぐりと弄りながらブツブツと何かを言っていた。
その様子を見たコリックさんは慌てて謝っているが効果は無いようだ…
リシャスさんに至っては悪びれてすら居ないようだ…まあこの二人は人間だからヴァンパイアのリシャスさんにとっては下僕同然なのだろう…
「も〜リシャスお姉ちゃんそんなこと言っちゃダメだよ!!」
「へっ!?」
と、そんな様子を見ていたアメリちゃんがちょっと怒った様で、リシャスさんに顔を赤くしながら怒りに出てきた。
「今のはリシャスお姉ちゃんとコリックお兄ちゃんのケンカをとめようとしただけなのにそういう言い方はダメだよ!!」
「いや、しかしだな…」
「しかしも何もない!!大体コリックお兄ちゃんだってリシャスお姉ちゃんのそういう行動で困っているんだからね!!」
「え…でも私はコリックの事を想ってだな…」
「それでキッドお兄ちゃんを困らせてさらにコリックお兄ちゃんまでがっかりさせてあげくヘルムお兄ちゃんにユウロお兄ちゃんまでどよーんとさせていいと思ってるの?」
「あ、いや…その…」
そして、よっぽど怒っているのか…
「…反省しないのならアメリのおs…知り合いの知り合いの『ダンピール』さんにリシャスお姉ちゃんをおしおきしてもらうようにたのむよ?」
「え…それは困る…」
アメリちゃんはリシャスさんに対してまさかの脅しを掛けた。
私はアメリちゃんが言ったダンピールなるものがよくわからないけど、リシャスさんの表情が少し引き攣ったのでおそらくヴァンパイアにとって恐れるような相手なのだろう。
「う、ま、その、なんだ…す、すまなかった…」
「お、おう…」
「むぅ…」
仕方なくといった感じでリシャスさんは呟くように謝った…が、アメリちゃんはまだ納得していないようであった。
でも、それについての話題は続けられそうにもなかった。
『て、敵襲〜!!今度は教団ですー!!』
「なにっ!?」
そう…教団の船が攻めてきたのだった。
この海賊船は見ての通り魔物もいる…その為このように教団が襲ってくる事もあるとは聞いていたのだが…わざわざ今日来なくてもな…
『我々人間の敵である魔物共と賊行為を行っている屑共!!貴様らを根絶やしにしてやる!!』
そうこうしているうちにハッキリと目で見える範囲に教団の船が現れた。
船の大きさはこのブラックモンスターと変わりないほど大きい…
しかも人数の差はかなりある…相手は私達の数倍はいるように思える…
「屑共とは言ってくれるじゃねえか…野郎ども!!戦闘準備しろ!!教団の連中を返り討ちにするぞ!!」
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
しかしキッドさん達は怯む事無くそれぞれ戦闘準備を終え、いつでも戦えるようになっていた。
「じゃあサマリさんやアメリちゃんは私達と船の中へ…」
そして私達の様に戦えない者は船内に行くようサフィアさんに言われたが…
「「イヤです!!」」
「えっ!?何言ってるの?邪魔になるから中へ…」
「アメリもたたかう!!お兄ちゃんたちをクズだなんて言ったあの人たちゆるせないもん!!」
「私は戦いませんが…皆の戦っている姿をこの目で見届けたいんです!!」
私達はそれぞれの理由で、ここに残ると言った。
「そんな…わがまま言ってないで…」
「いいぞ別に」
「キッド!何故そんな事言うのですか!?」
「いや、二人の目は本気だからな…それに俺達がこいつ等を全力で守る。それでも危なかったらきちんと隠れるって言うならばだけどな」
「もちろんです!!」
キッドさんも後押ししてくれたので、私達はここに残る事になった。
「よし!行くぞ!!」
『ワアアアアアアアッ!!』
「兵士共よ!奴等を根絶やしにするのだ!!」
『イエッサー!!』
そして…戦闘が始まった!!
=======[ユウロ視点]=======
「ぐああっ!!」「ごへっ!!」
「多分まだ意味はわからないと思うけど海で達者に暮らせよー!!」
次々と船に乗り込んでくる教団の兵士達。
昨日のあからさまに雑魚だった海賊達と違い腕は立つが…それでも下っ端程度なら難なく倒して海に落とす事が出来る。
海にさえ落としてしまえば後はポセイドンのおかげで死ぬ事無く海の魔物にお持ち帰りされるだろうから、積極的に海に落としている。
「クソッ!!なんて邪魔な盾dぐあっ!?」
「そりゃあこうやって防がないと盾の意味無いでしょ?」
ヘルムさんも近くで剣と盾を駆使して次から次へと湧いてくる教団兵を流れるように薙ぎ倒していっている。
さっきは雑魚とか言われてたけど…少なくとも俺よりは強いと思う。
まあ…
「貴様らあああ!!コリックに手をだしたらその命は無いと思え!!」
「う、うわあ!?ヴァンパイアだー!!」
「てかコリックなんか知らねぐほっ!!」
「黙れぇぇえ!!私の夫を屑扱いした事を忘れはしないぞぉぉぉぉお!!」
あっちのほうで敵にレイピアを振り回し何か叫びながら斬りかかっているリシャスさんのほうがよっぽど強いっちゃあ強いけどね…
「私の魔術を喰らいなさい!!」
「ふん!そんなものは対策済みだ!!」
「なっ!?弾かれて…」
「海賊の稲荷め!!死ねえ!!」
「させないよ!!」
「なっ!?ウシオニだtうわっ!?糸が絡まって…やめ…落ちる〜!!」
リシャスさんが居る場所と反対のほうには楓さんとスズが一緒に戦っていた。
敵は魔術を弾くような仕掛けを装備品にしていたようで楓さんが放った魔術を弾いて斬りかかろうとしたが、スズが咄嗟に糸の塊を噴射して相手を突き飛ばし、そのまま蜘蛛の糸に絡めたまま海まで放り投げていた。
「ありがとうございますスズさん」
「いや、礼には及ばないよ。早くこんな戦い終わらせてご飯にしよう!」
「そうですね!!今日はとびっきり美味しい物をたくさん作ってパーティーでもしましょう!!」
そのまま自分達を囲んでいる敵に怯む事無くそれぞれ挑んでいるようだ。
さて、俺も頑張らないとな…
「ぎゃあああっ!!」
「ちょっこんな強い魔物がいるなんて聞いてねーよぉ…」
「おいおい、教団なのに弱すぎだろ…もっと楽しませてくれるような奴はいないのか?」
ふと視線を移したら、敵船の近くでオリヴィアさんが数人を同時に相手しているのが見えた。
やはりドラゴンなだけあって全く問題無く教団の兵士達を一方的に倒していた。
「まあいいや。それより珍しい武器があるといいなあ」
「くっそ…なんでこんな余裕なんだよ…喰らえ『フレイムラジエーション』!!」
「What!?」
だが、油断していたのか相手の炎の魔法を受けてしまっていた。
「ん〜そんなものか…たいした事ないな…」
「なっ!?効いていないだと!?俺の一番強い魔法なのに…」
「いいか、炎ってのはな…こういうものだ!」
しかし、全くダメージを負わなかったのかケロッとした表情で立っていたオリヴィアさん。
今度はオリヴィアさんが大きく息を吸って…
「ブオォォォォ!!」
「ぎゃあー!!熱いいいい!!」
「うわあっ!?燃え、燃える〜!!」
口から灼熱の炎を吐き出し、魔法を撃ってきた兵士含め数人をその炎で包んだ。
炎の熱さで身悶える兵士達は一目散に自ら海へ飛びこんだ…瞬間にスキュラ達に連れて行かれたようだ。
「あそこに戦えそうもないワーシープが居るぞ!!」
「あ、しまった!!」
余所見しながら戦っていたら物陰に居たサマリが見つかってしまったらしい。
…まあ咄嗟にしまったなんて言ってしまったがあれ位の強さの兵士なら…
「サマリお姉ちゃんをきずつけさせない!!『ストーム』!!」
「えっ…ひょあああああああああああっ!!」
やはりサマリを護るように戦っているアメリちゃんが簡単にやっつけてしまった。
アメリちゃんが発生させた暴風によって近くに居た大量の兵士達は吹き飛ばされていった。
「サマリお姉ちゃん…お船の中に行ってたほうがいいんじゃないかな?」
「うーん…大丈夫だよ。えいっ!!」
「むぷっ!?あ、ねむ……」
「…そうだね。じゃあがんばろうね!!」
「うん!」
そしてサマリも護られてばかりでは無く、自分の毛の塊を襲ってくる兵士の顔に押し付けて眠らせたりしている。
なんだかんだでこの二人は問題無いだろう。
「くそおっ!!何故こんな野蛮な屑集団に我等教団の騎士が遅れをとるのだ!?」
「さあな。お前さんの指示が悪かったりしてるんじゃねえのか?」
「何をいきなり…ってキキキキキッド!?」
「よう。倒しに来てやったぜ」
俺達が大半の兵士達を倒している間にキッドさんは相手の親玉の下に辿り着いたようだ。
そこまで行くのに全くの無傷であることからその実力がはっきりとわかる…その証拠にキッドさんが通ったと思われるルートにはキッドさんの長剣で斬られたりショットガンで撃たれたりして苦しんでいる兵士が道なりに倒れている…だからか相手の親玉は動揺を隠せないようだ。
「さて、今から俺はお前に攻撃しようと思うのだが…その前に宝を渡して撤退したり自ら海に飛び込むって言うなら見逃してやるぜ?」
「く……わかった…宝を渡し撤退しよう……」
「そうか…まあいいだろう」
そしてどうやらあいつはふんぞり返って命令ぐらいしか出来ないウザいおえらいさんタイプだったのだろう…ショットガンを腹部に突き付けられながらそう言われてあっけなく撤退を決めた…ように思えた。
「それじゃあ野郎ども!!そんな奴等はほっといて船に戻れ!!」
「…油断したなバカめ!!死ねえ!!『ミサイルニードル』!!」
「なっ!?危ないキッドさん!!」
だがそれはキッドさんを油断させる演技だったようだ。
キッドさんが俺達のほうを向いた瞬間、ガバッと起き上がって魔力で出来た無数の針を飛ばしてきた。
敵に背を向けていたキッドさんが声に気付いて振り向いたが間に合いそうもない!!
ドドドドドドドドドドド……!!
「キッドーーー!!」
サフィアさんの悲痛な叫び声は…針の襲う音で掻き消されてしまっていた……
「ふふ…ふはは…ふはははは!!どうだ!!恐れ入ったかこの屑海賊が!!」
「くそっ!良くもうちの船長を…………ん?」
「お前達!敵の親玉は撃ち取った!!後は汚らわしい雑魚共を一掃するだけだ!!」
キッドさんを倒して調子に乗る相手の親玉だが…俺達は全員あるものを見つけていた。
「さあ!どうした!?早くあいつらを…」
「あら…ずいぶんと物騒な事をしてるじゃない…」
「ん?何の声d…な、なななな…!?」
そのあるもの…正確にはそのある者とは…
「近くの国に用があって、その帰りにたまたまブラックモンスターを見つけたから立ち寄ろうとして近付いてみたらこんな感じに戦いになってるんだもの…私ビックリしちゃったわよ」
「ななな…リ、リリムだあああ!!」
白い翼と白い肌、白い髪に白い尻尾、対照的な黒い角を持った魔物…リリムが敵側の船の上空に居たのだ。
「あ、あれは…アミナ王妃!!」
「へっ!?じゃああの人が…カリバルナにいるアメリちゃんのお姉さん!?」
しかもヘルムさん曰く、あのリリムがアミナさんらしい。
おそらく王妃としての仕事の途中でたまたま近くを通って様子を見に来たところなのだろう…
なんとまあタイミングがベストすぎる…
「てて…不意打ちする程の考えがあったのかよ……ってアミナさん!?」
「お久しぶりキッド。なんとか私の防壁は間に合ったようね」
「はい…おかげで助かりました…」
アミナさんが来てくれたおかげでキッドさんは無事だったのだから…
「よいしょっと…そんじゃあ覚悟は出来てるよな?」
「え、ひ、ひいいっ!!」
リリムがこちら側にいると知って(おそらくアメリちゃんがリリムだとは気付いていない)より勝ち目がないと感じてしまったのだろう…もはや相手には余裕が無い。
「お前らごときに使うつもりは無かったのだが…悪いが全力で行かせてもらう!!」
そう叫んだ後、キッドさんは…
「サフィア…俺に力を貸してくれ!!」
首に下げていたペンダントに手を置き何か呟いた…
そしたらキッドさんが首から下げていたペンダントが輝き始めた。
「ひっな、なんだ!?」
「説明するのが面倒だから愛と神の力とでも思っておけ!!」
「ひぃ!!そんnあひゃああっ!!」
そのままもの凄いスピードで敵の親玉に駆け寄ったかと思ったら、そいつに掴みかかってそのまま海に放り投げた。
「さて…野郎ども!この勝負は俺達の勝ちだ!!後は雑魚の片づけと行こうじゃないか!!」
「ウオオオオオ!!」
敵の親玉も居なくなった事なので、俺達はもはや戦意が残っていない一般兵を縄で縛りあげたりし始めた。
…………
………
……
…
「えっと…あなたがアミナお姉ちゃん?」
「そうよ。私はアミナ。まさかこの船に妹が乗っているなんて思わなかった」
「たまたま遭難していたのをサフィアが見つけて助けたんだ。まあアミナさんみたいに会った事無い姉を探して旅しているらしいから丁度良かったんじゃないかな」
「あらそうなの!?えっと…名前は?」
「アメリだよ!!よろしくねアミナお姉ちゃん!!」
「ええ、よろしくアメリ!!」
戦闘も終わり、教団から財宝や売れそうな武器を獲り船に戻った俺達。
そこでアミナさんとアメリちゃんが対面した。
やっぱり姉妹って全員微妙に違うけどそっくりだよなぁ…魔王もこんな顔してるのかな?
「それで…あなた達がアメリと一緒に旅している人達って事でいいのね?」
「はい!」「そうです!!」「ああ!!」
そして俺達…俺とサマリとスズのほうを優しそうな目で見てそう尋ねてきた。
「アメリと一緒に旅してくれてありがとうね。この子まだ幼いから世話掛かるし時折迷惑かけるかもしれないけどこれからも一緒に旅をしてあげてね!」
「もちろんですよ!!」
「むぅ…アメリそんなにめーわくかけてないもん…」
優しいお姉さんとちょっとむくれる妹…なんか画になるなぁ…
「それでアミナさん、もう叔父さんのところに戻るのか?」
「まあそんなに留守にするのも良くないでしょうからね。でもキッドやサフィアちゃんにその仲間達、それにアメリと一緒に旅してくれてる子達にも会えたから私は嬉しかったわ」
「そうか…じゃあせめてお礼を…先程の戦闘で助けてくれてありがとうございました!!」
「気にしなくていいわよ…私だってルイスと同じくキッドの事は家族だって思ってるんだから。家族は助けあって当たり前でしょ?」
「アミナさん…」
キッドさんとアミナさんを見ていると…なんだか親子愛を感じた…
いいなぁ……
ぐうぅぅぅぅ……
「ん?」
「あら?」
「もしかして…」
「うぅ…」
と、なんだか良い雰囲気になっていたのに、高らかにお腹の音が辺りに響きだした。
もしやと思いアメリちゃんのほうを見てみると…どうやら正解だったようで、顔を真っ赤にし、お腹を押さえながら俯いていた。
「アメリ…お腹空いた?」
「うん…おなか空いた…」
「あ、そうだ!これからパーティーにしようと思ってたのですよ!!王妃様もぜひどうですか?」
「え…そうね…ルイスには悪いけど私も参加させてもらおうかしら。アメリともいろいろお話したいしね!」
「ホント!?じゃあアメリといっぱいお話しようよアミナお姉ちゃん!!」
「あ、じゃあ私料理手伝います!!行きましょう楓さん!!」
そして、俺達は船上パーティー…って言うとちょっと違うかもしれないけど、アミナさんも含めて大いにはしゃぎパーティーを楽しんだ。
「でね、ノーベお姉ちゃんにもおはなししたんだけど…またお母さんとお父さんケンカしちゃってさ〜…」
「えっ!?それって大丈夫なの!?」
「大丈夫よピュラちゃん…お母様とお父様はよく喧嘩してるけど必ず仲直りするんだから」
「そうそう、よくあることだよ」
「へぇ…そんなものなんだね…」
「そう、そんなものよ…ところで他にはどんな姉妹に会ったの?」
「ん〜と…あ、デルエラお姉ちゃんにも会ったよ!!」
「あ〜デルエラお姉様か〜」
「あ、アメリ、そのデルエラさん私達も会ったことあるよ!」
「ホントに!?」
「うん!すっごく優しかった!!」
「だよね〜!!」
「優し…まあ優しいか…」
アメリちゃんは楓さんやサマリが作った料理を口いっぱいに頬張りつつピュラちゃんとアミナさんに今までの旅の事や最近の家の事情などを話していた。
=======[サマリ視点]=======
「この街がリオクタですか?」
「おうそうだ!ようやく到着したな!」
「はい!数日の間お世話になりました!!」
「礼はいいさ。サマリは料理をしてくれたし、ユウロやスズは戦闘や雑用を手伝ってくれたし、アメリなんかリシャスやアミナさんの見た事無い一面を見せてくれたしな!こっちも助かったし楽しかった。ありがとうな!!」
「いえいえ…」
現在10時。
あれから3日間は特に襲撃や事故も無く、私達は無事にリオクタに到着した。
リオクタは親魔物領らしいし、私達も安心して降りられるだろう。
「お別れだねアメリ…」
「そうだねピュラ…でもまた会おうね!!」
「うん!だって私達は…」
「「友達だもんね!!」」
アメリちゃんとピュラちゃんもお別れを言っている。
二人は本当に仲良しになって、船に居た間ずっと一緒に居たほどだ。
「それでは皆さんさようなら〜!!」
「ええ!また機会があったら会いましょう!!」
「キッドお兄ちゃん!!アミナお姉ちゃんによろしくね〜!!」
「おう!またアミナさんにも会ってあげてな!!」
そして私達はキッドさん達にお別れを言って、街中に進んでいった……
ジパングの旅を終え、ちょっとしたハプニングもあり海上で貴重な体験をした私達…
そしてまた私達は…大陸での旅を始めるのだ!
「とりあえずどこに行く?アミナさんにも会えたし無理してカリバルナまで行く必要はないだろ?」
「そうだね…アメリちゃんは何処行きたい?」
「どこでもいいよ!きままに旅しよっ!」
「そうだな!しかし大陸か〜うわ〜アタイめっちゃ感動〜!!ジパングと建物の感じが違う!!」
そう…何が起きるかわからない、誰と出会うかわからない…そんなきままな旅がまた大陸で始まるのだ!!
12/07/22 23:43更新 / マイクロミー
戻る
次へ