旅23 コラボ記念狐祭り開催!!
「ねえスズ、その地図からすると明日には着きそう?」
「そうだなぁ…このペースなら明日の昼ぐらいには着くと思うよ?」
「なら大丈夫そうね…食材いっぱい買わないとね」
現在20時。
ちょうど夜ご飯も食べ終わり、あとどれ位で目的地に着くかを地図で調べていたところだ。
私達は『宵ノ宮』というキツネ系の魔物が多く住むという町に向かって旅をしていた。
目的はまあ少なくなった食材の買い足しだが、大きな町だというし、魔物の6割がキツネ系だという程なのでどんな町か見て周ろうとも思っているのだ。
「やっぱウチ行きたくない…妖狐はともかく稲荷は見たくもない…」
「あのさあ花梨、いつまでブツブツと言っているつもりなの?」
「あのなスズ…誰にも嫌なもんはあると思うんやけど…」
「アタイはその嫌なものもわからないんだけど」
「…それ言われるとウチなんも言えなくなるわ……」
1名嫌がっている者もいるにはいるが、どのみち行かないと食べるものが無くなってしまうので行く事に変わりは無い。
まあカリンが言っている事もわからなくは無いけどね。誰にだって苦手なものはあるだろう。
「でもさあカリン、お前は一人の稲荷が嫌いなだけだろ?」
「そうやけど…ほら、例えばある1匹の犬におもいっきりお尻を噛まれたとするやん。それで犬が苦手になる事もあるやろ?噛んだ犬はたった1種のそれも1匹なのに、その場合は犬全般が苦手になるやろ?」
「ああ…なるほどね…」
例えはわかりやすいようなわかりづらいような…とにかくカリンはキツネ系の魔物全般が苦手である事はわかった。
「じゃあカリンお姉ちゃんは町に入らないの?」
「いや…商人としても大きな町は知っておきたいしな…まあキツネしかおらんっちゅうわけじゃないからウチもちゃんと一緒に行くで」
「ホントに?なんかカリンお姉ちゃんずっと行きたくないって言ってたから町に入らないんじゃないかってアメリ思ってたけど…いっしょに行くならたのしもうよ!!」
「せやな…折角行った事無い町に行くんやもんな…楽しまな損か…ほなアメリちゃん、一緒に観ような!」
「うん!」
まあカリンもなんだかんだ言いつつも行ってはみたいようだ。
アメリちゃんと一緒に町を観光すると言ったのだし、カリンのほうは問題ないだろう。
「それじゃあ話も一段落したし、お風呂行こっか!」
なので、私はアメリちゃんとスズと一緒にお風呂に行く事にした。
「うん!スズお姉ちゃんも行こうよ!」
「う、うん…だ、大丈夫だよねサマリ?」
「…………………………………………………………………うん」
「その溜めは何!?」
だがスズは初めて一緒にお風呂に入ったときに私が散々胸を弄ったのが軽くトラウマになっているらしい。その為、凄くビクビクとしながら私にそんな事をしないかどうかを聞いてきた。
もちろん私はあの日以来スズの胸に触ってなどいない。だからいらぬ心配だろう…
…というか、そう言って私に意識させるからダメなんだよ…
…ああ、そのデカ乳が羨ましい…
「じゃあ…行こうか……」
「…なんでさっきよりもトーン低めで喋ってるの?」
「大丈夫…何もしないから…」
「え、やっぱアタイ後で花梨と一緒に…」
「アメリちゃんもスズと一緒が良いよね?」
「うん!」
「うっ…わ、わかった、一緒にお風呂に入るよ…ほ、本当に何もしないでよ!」
そして私達はお風呂に入った。
もちろん、私はスズに対して『今日は』言ったとおり何もしなかった……
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「ここが宵ノ宮か〜!!」
「大きい町だね〜!!」
「うわ……至る所にキツネ系の魔物がおる…」
「でも他の魔物もちゃんといるじゃねえか。人間だって多いしな」
「アタイの事を見ても誰も怖がらない…やったあ♪」
現在13時。
私達は朝早くから歩いていた事もあり、お昼過ぎには『宵ノ宮』に辿り着くことができた。
とりあえず見える範囲で見渡してみたが…カリンが言っていたとおりキツネ系の魔物が大勢いる。
「あの尻尾が2本生えてる人は…稲荷?」
「ちゃうな…魔力の放出具合がでたらめやで妖狐のほうやな…」
「じゃああっちの男の人と一緒に歩いている水色の着物を着た人は?」
「ちっ……あれは稲荷や……やっぱ別人でもムカっとくるなぁ…」
「まあまあ…ほら、あそこにキツネ系じゃない魔物のゴーストが…ってあれ?でも狐の姿をしているような…」
「サマリお姉ちゃん、あれは『ゴースト』さんじゃなくて『狐火』さんだよ」
「おいカリン、あの夫婦は人間同士じゃないか?」
「ユウロ…もしやあんたわかってて言ってるやろ…あれは『狐憑き』や!!」
「へぇ〜……ん?まあいいや……」
本当にどこを見てもキツネ系の魔物がいると言ってもあながち間違ってないほどいっぱいいるのだ。
毛並みも様々な妖狐や稲荷、それに狐火や狐憑きといった聞いた事無かった魔物まで、ありとあらゆるキツネがいるのだ。
「で、早速食材を買いに行く?」
「そうだな…」
ぐうぅぅぅぅ……
「ん?なんかアメリのほうから音が聞こえてきたような…」
「…まずはどこかのお店で昼飯にしようぜ」
「そうだね。いいお店あるかな〜」
「先言っとくけどウチ別に妖狐や稲荷が経営しとる店でもええからな。そんなんまで気にせんから〜」
「了解。じゃあ探そっか」
まずは食材でも買いに行こうと思ったが、13時過ぎな事もありいつものようにアメリちゃんのお腹の音が鳴り響いたので私達は飲食店を探す事にした。
「……アメリおなかすいた///」
恥ずかしがってるアメリちゃんの顔はもちろん真っ赤であった。可愛いんだけどね。
…………
………
……
…
「それで…どうするよ?」
「う〜ん…そうね…」
それから大体30分が経過。
町を観光しつつ飲食店を探していたが、いっぱいお店があって逆に決められず困っていた。
「うぅ…どこでもいいからアメリはやくごはんたべたい…」
「そうだね…もうちょっと待ってねアメリちゃん」
アメリちゃんがだんだん元気が無くなってきたので、とりあえず近くのお店に入ろうとしたちょうどその時…
「そこの異人さん…じゃない人もいるわね……何かお困りで?」
「えっ、あ、はぁ…まあ…お昼ご飯をどこで食べようか迷ってまして…」
突然後ろから声が掛かり、振り返ってみると…
「あら♪なら私がオススメのお店を紹介してあげる♪」
「えっ!?あ、ありがとうございます」
そこには金色の三角耳を頭からピンッと生やし、同じ色の毛で覆われて、小刻みに揺れている尻尾を腰から生やした妖狐だと思われる女性がいた。
尻尾は一本しか生えていないし、喋り方もかなり砕けたものだが、その立ち振る舞いはどこか高貴な感じも持ち合わせていた。
「えっと…オススメのお店って?」
「『狐路』っていうお店よ♪」
「きつねのみち?ってことはその店はキツネ系の魔物が開いとるんか?」
「ええ、安芸(アキ)という三尾の妖狐が店主を勤めてる食事処よ!」
「妖狐か…ならええや…」
「ならええやって…カリンやっぱ気にしてるじゃん…」
気にしないと言いながら結局気にしていたカリンも一応行く気ではあるようだし…
「ねえ妖狐のお姉ちゃん…アメリおなかすいたからはやくたべたい…」
「ん?あなたは…もしかしてリリム?」
「うん!」
「それにウシオニとは…面白いメンバーね♪じゃあ早速行きましょっか!」
私達は早速この妖狐さんの案内で食事処『狐路』に向かう事にした。
…………………………
「はい、とうちゃ〜く♪」
「ここがその狐路ですか〜」
一尾の妖狐さん…名前は『梨花(リカ)』と言うらしい…梨花さんの案内で私達は狐路に辿り着いた。
「はやく入ろうよ!リカお姉ちゃんもいっしょにたべるんでしょ?」
「そうねぇ…一緒に食べたかったんだけどね…」
早速お店の中に入ろうとしたのだけど…ここに来るまでに一緒に食べようという話だった梨花さんがお店に入ろうとはせずに、来た道の遠くのほうを見ていた。
いったいどうしたのだろうか?と思っていたら…
「梨花さまぁぁあああああああああっ!!見つけましたよおおおおおおっ!!」
「鈴歌(スズカ)ったら…嗅ぎつけるの早すぎよ……」
その視線の先から何やら梨花さんの名前を大きな声で叫びながらかなりの速度で走ってくる者がいた。
その者は猫のような耳と尻尾が二本生えているように見えるので…たぶんネコマタだろう。
「どうしたん?あのネコマタ、梨花さんに用があるようやけど…」
「うーん…残念ながら私は逃げなければならないようね…」
「へ?」
「一緒に食べたかったんだけどね…じゃあアメリちゃん、またの機会にね♪」
「え、う、うん…」
アメリちゃんにそう言った後、梨花さんはネコマタが走ってくる方向とは逆方向に身体を向け…
「じゃあ皆さんはこの町を楽しんでいってね!ちなみに狐路のオススメは『狐の薬膳』よ♪」
それだけ言い残して、もの凄い速度で走り去っていった。
「待って梨花さまああああぁぁぁぁ!!勝手に出歩かないで下さいぃぃぃ!!」
その後をネコマタが一生懸命追いかけているが……たぶん引き離されるだろうな……
「な、なんだったんだろうか?」
「さ、さあ…慌ただしい妖狐だという事はわかったけど…」
「と、とりあえずお店に入ろうや!アメリちゃんもお腹空いとるって言うてるしな…」
「うん…アメリもうおなかすいてほとんどうごけない…」
「そうだね…じゃあそのオススメを食べてみようか…」
とりあえず走り去っていく梨花さんとネコマタさんを見送ってから、私達は狐路の引き戸に手を掛け扉を開けて中に入る事にした。
ガラガラガラガラ…………
「いらっしゃいませー!!ってあれ?異人さんですか?」
「はい…そうじゃないのもいますけどね」
お店に入ると、たぶん二尾の妖狐だと思うウエイトレスさんがすぐにやってきた。
「5名様ですね…1名はウシオニさんですか…」
「…アタイは居たらダメなのか?」
「あ、いえ、そうではありません!この店ではお客様を選ぶことはありませんから!!」
「え…じゃあ今なんで…」
「えっと…下半身が少し大きいので広めのほうがいいかなと思ったので…気分を悪くしたのなら謝ります!!」
「あ、だ、大丈夫です!アタイの勘違いですから!!」
ウシオニがいると言われスズが少し暗い顔をしたが、それが自分が思っていた事と違うとわかった瞬間元気になった。
その様子をみると…やはり弥雲の事は応えているのだろう…
「そうですか…ではお座敷のほうにご案内します!」
「はい、おねがいします!」
私達はウエイトレスさんの案内で私達はお座敷まで案内された。
「安芸さん…膳の値段の事なんだけど…」
「鬼奉行様の頼みでも安くしませんよ」
「…せめて御奉行様と呼んで下さい…それに逆です。目安箱でももっと高くてもという声が多いのですよ…」
「あら?それはまた面白い意見ですね。でも値段を変える気は無いですよ」
案内されている途中で…1、2、3、4、5……うん、間違いない…9本ある…
尻尾が9本全部生えている瑠璃色の着物を着た黒い毛を持った妖狐と、三尾の妖狐さん…安芸さんと呼ばれていたので、先程の梨花さんの話からするとこのお店の店主さんだろう…が奇妙な話をしているのが耳に入った。
安すぎるから高くしてほしいって…そんなに安いのだろうか?
「ご注文は何になさいますか?」
「えっと…狐の薬膳ってのを…5つでいいよね?」
「うん!」「おう」「ああ」「ええよ」
「じゃあそれで」
「畏まりました!」
お座敷まで案内された後私達は注文を受けたので、さっき去り際に言われたオススメである『狐の薬膳』を注文した。
「薬膳最後の甘味の葛きりは食後でよろしいですか?」
「葛きり?よくわからないけど食後で…いいよね?」
「ええよ!全員食後で頼むわ!」
「畏まりました。では少々お待ち下さい」
そう言ってウエイトレスさんはお店の厨房のほうに去っていった。
「ねえカリンお姉ちゃん…甘味のくずきりってなに?」
「せやな…葛餅…って言ってもわからんか…まあデザートや。楽しみにしとき」
「わかった……おなかすいたなぁ…はやくこないかなぁ……」
そんな感じで、軽くお喋りをしたり「おなかすいたー」と言いながらゆらゆらと揺れているアメリちゃんを見たりしながら料理を待ち続けること数分…
「お待たせいたしましたー。狐の薬膳ですー」
「やっときたーー!!アメリもうおなかペコペコー!!」
ウエイトレスさんが3回にわけて5人分の狐の薬膳を運んできた。
その内容は…
「稲荷寿司…外見がほんの少し前食べたものより黒くない?…というか濃い茶色だよね?」
「ああ…黒稲荷はなんとなくわかった。んでこれは…大根の漬物か?」
「そうだね…稲荷寿司は食べやすい大きさだし、美味しそうだね」
「そんで茗荷のお吸い物か…うまそうやなぁ…」
「おすいもののたまごが妖狐さんのしっぽに見える!!」
まあそんな感じだった。
出汁の匂いが漂ってきた……どれもこれも美味しそうである。
と言う事で…
「それじゃあ早速食べよっか!」
「うん♪」
『いただきます!!』
お腹が空いている私達は、早速その料理を食べることにした。
「稲荷ずしからたーべよっ♪あむっ!……もぐもぐ……お、おいし〜〜!!」
「どれどれ……ん!?ホントだ凄く美味しい!!」
私とアメリちゃんはまず例の黒稲荷寿司を食べてみた。
噛んだ瞬間、ちょっと普通の米よりもちっとしたお米や中に混ざってる粟などの様々な穀物の食感と供に、ほんの少しだけ酸っぱさも感じる甘味が口の中に広がった。
失礼だとは思うが、前に食べた普通の稲荷寿司よりも格段に美味しい…思わず声に出してしまったほどだ。
「アタイは茗荷のお吸い物から………うん、出汁が効いてて美味しい!」
「ホントだな…卵も味が染みてるし……うん、茗荷もシャキっとして旨い!」
スズとユウロはお吸い物からいったようだ。
どれ、私も飲んでみよ………うん、二人が言っていたとおりだ。
出汁に使われているのは…昆布出汁と鰹節かな?それに茗荷というものの爽やかな風味が広がって…大げさかもしれないけど、身体に染みわたっていく……
「ん……この浅漬け、稲荷寿司の五穀米にめっちゃあうなぁ〜…悔しいけど旨いわ……」
何が悔しいかはわかるようでわからないが、黒稲荷寿司と一緒に大根の漬物を食べていたカリンがそう呟いた。
私も食べてみた……ポリポリとしてて美味しい。カリンが言うとおり黒稲荷寿司によく合っている。
「ん〜…旨かったなぁ……」
「そうだな…結構腹も満たされたしな…」
出された料理全てを美味しく食べ終わった頃に…
「お待たせいたしましたー。こちらが葛きり餅でございますー」
「おお〜!まってましたー!!」
「アメリはしゃぎ過ぎ…まあアタイも楽しみに待ってたけどね!」
例の葛きり餅というものが来た。
見た目は…葛餅なる立方体のぷるっとしているものに黄粉って言ったっけ?黄色っぽい粉と黒い蜜が掛かっている。
「じゃあ早速食べてみようかな……パクッ!」
それを爪楊枝で一つ刺して…口元まで運び、食べてみた。
「何コレ!?美味しいって言葉じゃ全然足りない位美味しい!!」
「おいしー!あまーい!!」
食べた瞬間…程良い甘さとプニッとした食感を感じ…思わず叫んでしまった。
決して大げさではない…それほど美味しかったのだ。
「葛きりとか久々に食ったけど今まで食ったものの中で一番うめえや…」
「旨すぎやろ……おかわりしようかなぁ…結構ケチなウチからみても安すぎやでなぁ…」
「こんなに美味しいもの、記憶がある間で食べた事無いよ…」
他の皆も同じらしい。それぞれが言葉こそ違うけど美味しいと言っている。
「うふふ♪ありがとうございます。お気に召したようで」
「あ、えっと…もしかして店主さん?」
「はい。私がこの店の店主をしてる安芸です」
すると、そんな私達の声を聞いたからか店主の安芸さんが私達の所に笑顔できた。
「えーっと…うるさかったですか?」
「いえいえ…むしろ満足していただいたようで私も嬉しくてね♪この葛きりは私が作っているからね」
「え!?そうなんですか…めちゃくちゃ美味しいです!もう作り方教えてほしい程ですよ!」
「それはちょっと無理ですね…」
「ですよね〜…」
もしかしてうるさくて注意でもしに来たのかと思ったが、違ったようだ。
「ところで、そこの女の子は…」
「アメリのこと?アメリはリリムだよ?」
そしてアメリちゃんのほうを見て、何かに気付いたようだ。
「なるほど…お顔も似てますね……ではナーラ様の妹様ですか?」
「へ?」
そして、唐突に誰かの名前らしきものを言った。
「ナーラ…お姉ちゃん?」
「あら?ご存じ無いようで…少し前にこの店に来たのですよ。なんでも食い道楽の旅をなさってるらしいですよ?」
言い方からするとアメリちゃんのお姉さんのようだけど…
「それって…武白の向こう側の山に住んでいるリリムですか?」
「いいえ…ナーラ様は異国のほうから来たようでしたよ?たしか魔王城にお住まいだと…」
「ん〜?おうちにいるお姉ちゃん?」
しかも私達がこれから会おうとしている人とは別人…更には魔王城に住んでいる人らしい。
ならアメリちゃんは知ってそうだけど…頭上に?マークが浮かんで見えるほど悩んでいる。
「ん〜…おうちにいたお姉ちゃんたちの中にお料理が大好きで世界中のお店をまわってる…ほかのお姉ちゃんやお母さんのしりあいたちにびしょくひめって言われてるお姉ちゃんはいるんだけど…ナーラって名前のお姉ちゃんは知らない…」
「じゃあまだ会った事の無い別のお姉さんって事?」
「ん〜…でもそのお姉ちゃん以外にそういうことしそうなお姉ちゃんきいたこともないしな〜…」
思い当たるお姉さんはいるようだが名前が一致しないらしい…もしかしてナーラさんは偽名とか?
「……そうだ、もしこんど会うことあったらそのお姉ちゃんにきいてみる!!」
悩んだ結果…また今度そのお姉さんに会った時に聞いてみるらしい。
そのお姉さんにも会ってみたいなぁ…料理詳しいらしいし、何か旅の途中でも手軽に出来て美味しい料理とか教えてもらえないかなぁ……
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「次は何処行く?」
「うーん…そうだなぁ…食材は最後にするとして……どうする?」
現在15時。
狐路で満足なお昼ご飯を食べ終わり、私達は次はどこに行こうかと相談していた。
一番の目的は食糧の調達だが、買った食材を持ち運びながら町を観光する気にはなれないし、かといって町中でアメリちゃんの『テント』を出すのもどうかと思うので、市場や食品街は最後にしようと思う。
「だったらさ…さっき安芸さんに聞いた神社に行ってみようぜ!」
「あー、さっき言ってた宵ノ宮の北区にあるって口逢神社か…そうだね、行ってみよっか!」
という事で、私達は神社に向かってみる事にした。
その神社で旅の無事でも祈ろうと思う。
「狐の町の神社とか…嫌な予感しかせーへんけどな…」
「花梨…まだ言うのか?」
「ええやろ別に…ウチ稲荷なんぞ祭りたくなんや…」
まあ約1名が稲荷信仰じゃないかと疑っているが、気にせず向かう事にしたのだが…
「ド、ドロボー!!」
「どけどけどけえー!!」
「ん?なんやあれ?」
北区のほうに向かおうと足を進めていたら、大声で叫びながら何かが入った大きな袋を抱えて全身黒の服を着た男の人がこちらに向かって走ってきた。
聞こえてきた女の人の叫びからすると…この男の人は泥棒のようだ……ってええ!?
「待ちやがれそこの盗っ人!!」
「大人しくお縄につけぇ!!」
「ちっ!同心のやつらがもう嗅ぎつけやがったか!!」
その泥棒の遥か後方に男の人と…ジパングでよく見掛ける明かりを灯す円筒状のもの…提灯だっけ?それが人型になって、左右に一つずつ大きく『御』『用』と書かれた大袖を着た女の人が追っているようだが…距離からして追いつけるか微妙である。
「…どうする?」
「せやなぁ…あの泥棒、捕まえられそうならウチらで捕まえるか?」
「まあご丁寧にこっちに向かってきてる事だし、一発殴れば止まるだろ」
「いやいや…殴ったら余計面倒な事になる気がするんだけど…」
ちょうどその泥棒は私達のほうに近付いてきているし、私達で捕まえてみようと思ったのだが…どうやって捕まえようか?
「う〜ん…今泥棒撃退グッズは取り扱っとらんからなぁ…」
「アメリの魔法でなんとかできるかなぁ…」
「もこもこアタックは…避けられる気がするな…」
「…いや、ここはアタイに任せな!!」
どうしようか悩んでいると、スズが自信を持って自分に任せてみろと言った。
どうするつもりなのだろう……と思ったが、なんとなくわかったぞ……
「……」
スズは泥棒をよく狙い……そして……
「ふんっ!!」
「おらー!!どけどけー…って何dウボァ!?」
予想通り自身の糸を泥棒に目掛けて噴射し、見事命中させた。
その結果泥棒は身動きが取れなくなり…地面に伏せる形で逃げられなくなり……
「捕まえたぞこの盗っ人があ!!」
「御用だー!!」
「くっそぉ……なんでこんな所にウシオニなんて居やがるんだよ…」
追っていた二人が追いつき、泥棒は無事に捕まった。
「おお…どうやらこの者達のおかげで無事に捕まえられたようだな…」
「「あっ!禮前(ライゼン)様!!お疲れ様です!!」」
「お疲れ様って…私は何もしてないのだが…見ての通り私服だしな…」
と、突然どこからか黒い妖狐…禮前様と呼ばれた妖狐が現れた…ってこの人さっき狐路に居た瑠璃色の着物を着た9尾の黒妖狐さんだ!
たしかさっき御奉行様とか呼ばれていたような…って事は偉い人か…どおりで様って言われるわけだ。
「そこの旅人方、ご協力感謝いたします!」
「え、いや、アタイは当たり前の事をしただけで…」
「いえ…あなた方がいたから早く捕まえる事が出来たのです!それで、時間がよろしければ少しお話がしたいのですが…」
「うーん…そう言うけど…皆はいい?」
その禮前さんがお話したいと言ってきた。
まあまだ時間はあるし、少しぐらいなら良いかなと思ったので…
「まあこれから神社に行ってさらに食材を買おうとしていたので…30分程でしたら…」
「そんなに時間は取りませんのでぜひ!そこの団子茶屋でお話…を……」
「…?どうしました?」
30分位ならと伝え、禮前さんはそこにある団子茶屋でお話しましょうと言おうとしてた途中で何かを見つけたのかじっとどこかを見たまま言葉を発しなくなってしまった。
その視線を辿ると……団子茶屋で禮前さんのように黒い毛の妖狐が…同じ服を着た女の子に対して性的な嫌がらせを行っているのが遠目からでもはっきりと見えた。
「赤李(アカリ)、宗右衛門(ソウエモン)、その男を連れて行ってくれ…それと皆さん、少しだけお待ち下さい……」
こちらを見ずにそう言って、禮前さんは…
「こんのバカ娘がっ!!何回言ったら真面目に仕事をするんだ!!」
その性的嫌がらせをしている黒妖狐…どうやら娘さんらしい…の頭に目にも止まらぬ速さで拳骨を振り下ろしてそのまま説教を始めた…
「…親ってすげえな…」
「そうだね…アタイの親もあんな人かなぁ…」
………
……
…
20分後。
「え〜、その〜、お見苦しいところを見せてすまなかった…」
「いえいえ…」
「折角の時間も短くなってしまった…」
「まあ少し位でしたら大丈夫ですので…」
公開説教を終えた禮前さんとその団子茶屋で私達はお話をし始めた。
ちなみに娘さんは拳骨と正座での説教を受け涙目になりながら仕事を再開し始めた。
「今回はご協力真に感謝しております…それで、あなた方は旅人みたいだが…どういった目的で宵ノ宮に?」
「いやぁ…私達はアメリちゃん…このリリムの女の子の事ですが…アメリちゃんのお姉さん達を探しながらきままに旅をしているのですよ」
「それで俺達は今回はこの町よりも向こうにそのお姉さんがいると聞いて向かっている最中で…その通り道にこの町があったので食糧の調達がてら町の観光をしていたんです」
「なるほど…それで白光(シカリ)さんところの神社に…そういえばさっき狐路に居ましたね…あのお店は私もお気に入りでね…美味しかったですか?」
「もぐもぐ……うん!おいしかったよ!ライゼンお姉ちゃんもおいしかった?」
「もちろんだとも!」
こんな感じでお団子を食べながら、ゆっくりとお話していた。
「そういえばライゼンお姉ちゃんはしっぽ9本生えてるんだね」
「え、まあ生えていますが…」
「ちゅー事は…旦那さんおるんか?」
「え、ま、まあ瑠璃(ルリ)という夫がいますが…」
「そうなんですか!?禮前さんの旦那さんの瑠璃さんってどんな人ですか?」
「え〜っと…ま、まあ、道を外した私を正してくれた素敵な夫で…」
「へぇ〜…ん?道を外した?」
「い、いやぁ…昔今の夫じゃない男相手に失恋したときにちょっとな…ま、まあ気にしないでくれ!」
そういえば禮前さんは尻尾が9本生えている…という事は旦那さんが居るのだろう。
そう思ったので旦那さん…瑠璃さんについての話になったのだが…なぜか禮前さんの歯切れが悪くなった。
「ちょっと瑠璃さん会ってみたいです…」
「え!?あ、その、そ、それは困る…」
「なんで?別にアメリたちへんなことはしないよ?」
「い、いや…それはわかってるけど…あ、あはははは……」
最後には笑って誤魔化されたが…瑠璃さんの身に人には言えない何かがあったのだろうか?
遠くのほうでこの話を聞いている娘さんも苦笑いしてるし…
…まあこれ以上は触れない方がいいかな…
「あ、そうだ…食品街とかどこにあるかわかります?」
「ああ…もちろんわかるが…」
「なら教えて下さい!口逢神社に行った後に行こうと思ってるので…」
「よしわかった。神社からなら…」
そう思った私は、とりあえず話題を変える事にした…
上手くいったようで、禮前さんからさっきまでのしどろもどろした感じは無くなっていった…
====================
ワイワイ……ガヤガヤ……
「うわ…沢山の人や魔物で溢れかえってる…」
「はぐれないようにしないとな…」
現在16時。
禮前さんと別れた後、私達は口逢神社に向かったのだが…
「こう見るとやっぱここは狐地獄やと思うわ…」
「地獄って言い方はどうかと…まあたしかにキツネ系の魔物がいっぱいいるね…」
よほど大きい神社である為か、沢山の人や魔物…やはり稲荷や妖狐などのキツネ系が多い…で溢れかえっていた。
さっき禮前さんからこの神社の話は聞いたが…話で聞いた以上に人気である。
「まあお参りはしようよ。この中を掻い潜っていくのは大変だけどね」
「そうだね…さっきから油断するとはぐれそうで怖いもん…じゃあ行こうかアメリちゃん……」
なので、子供だから背が低く人混みでは見つけ辛いアメリちゃんとはぐれないように手を繋ぎながら奥まで行こうとしたら…
「」
「あれ?アメリちゃん…?」
「」
「あ…アメリちゃんがいない!?」
そこにアメリちゃんは居なかった…つまり、もう手遅れだった。
「はあっ!?もしかしてはぐれたのか!?」
「んなアホな!?この人混みの中じゃあ探すのも一苦労やで…」
「でも探さないと…おーいアメリちゃ―ん!!」
「アメリー、返事をしてー!!」
ワイワイ……ガヤガヤ……
大声を出して探しているが…人混みの中なのですぐに私達の声は雑音と同化していった…
「どうする?」
「とりあえず奥まで行ってみるぞ…アメリちゃん小柄だからか結構スイスイと進んでたし、人の流れに巻き込まれて先に行ってる可能性のほうが高いだろうからな」
なので私達は、周りをよく見ながら奥に進んでいく事にした……
=======[アメリ視点]=======
「……あれ?みんなは?」
ほかの人におされたり間をくぐりぬけたりしながらすすんでたらいつの間にかアメリ一人になってた…
もしかしてアメリ…まいごになっちゃった!?
「サマリお姉ちゃーん!」
「ユウロお兄ちゃーん!」
「カリンお姉ちゃーん!」
「スズお姉ちゃーん!」
みんなの名前を一人ずつよんでみたけど…だめだ…だれもへんじしてくれない…ちかくにいないみたい…
「ん〜…どうしよ〜…」
さすがにアメリをおいてどっか行っちゃうなんてことはないと思うけど…みんなアメリのことしんぱいしてるよね…
でも…人が多すぎてアメリからはみんなが見えないし…かといってここでとぶとめいわくだろうしな…
「あ、そうだ!人が少なそうな場所まで行けばいいんだ!!」
アメリはそう思い、人が少なさそうな場所までいそいで行ってみた。
…………
………
……
…
「んしょ…ここならいいかな?」
人がいっぱいいる所をちょっともみくちゃにされながらもなんとかぬけ出して、人が少ない場所まできた。
ここからなら空とんでみんなをさがせる…そう思ってとぼうとしたんだけど…
「あら?異人さんの女の子…どうなさいましたか?」
「ん?」
アメリのうしろからきれいな女の人の声がきこえたから、とぶのをやめてうしろをふりかえったら…
「あ、白い妖狐のお姉ちゃんだ…お姉ちゃんも9本しっぽあるんだね!」
「はい…『も』って事は禮前様にお会いしたのですか?」
「うん!」
『みこふく』ってものをきたしっぽが9本生えている、白い毛を生やした妖狐のお姉ちゃんが…おそうじしてたのかほうきをもって立っていた。
ん?9本のしっぽが生えている白妖狐さん?
「あれ?さっきライゼンお姉ちゃんにきいたとき、ここの神社はシカリって名前の白妖狐お姉ちゃんがまつられてるってきいたけど…もしかしてお姉ちゃんがそのシカリさん?」
「はい、私が白光ですよ。あなたは?」
「アメリだよ!」
やっぱりこの白妖狐のお姉ちゃんはシカリお姉ちゃんだった。
優しそうなお姉ちゃんで、とってもえらい人みたいだけどすごくおはなししやすい。
「アメリちゃんね…それでアメリちゃんはどうして境内の裏に?滅多にこんな所まで来る人はいないのに…」
「えっとね…アメリまいごになっちゃって…とりあえず人がいないとこに出てから空とんでみんなをさがそうかと思って…」
「あら…それは大変ね…でもここからなら広く見渡せるしすぐに見つかると思いますよ」
「ホント!?じゃあアメリさっそくさがしてみるね!!」
そう言われたので、さっそくアメリはたかくとんでみんなをさがしてみた…
「あ、いた!!みんなこっちに向かってきてる!!」
シカリお姉ちゃんが言ってたように、かなり広いはんいでさがすことができた。
だからアメリはすぐサマリお姉ちゃんたちを見つけることができた。
そのようすを見てると…みんなアメリがいる場所に向かってるみたいだった。
「どうでしたか?」
「みんなこっちにきてるみたい!」
「そうですか…なら私と少しお話しながら待ちます?」
「うん!」
だからアメリはシカリお姉ちゃんとおはなししながらみんなをまつことにした。
「ねえシカリお姉ちゃん…シカリお姉ちゃんは妖狐さんなんだよね?」
「ええ、稲荷ではないですよ」
「でもこの町の神社にいるんだね」
「まあずいぶん昔は…それこそ最初はなかなか言い出せなくて稲荷を演じてた時もあるんだけどね…なつかしいわ…」
「ふーん…ずいぶん昔って、シカリお姉ちゃんは今何さいなの?」
「…何歳に見える?少なくともアメリちゃんよりは上だけどね♪」
こんなふうにシカリお姉ちゃんとたのしくおはなししていた…
=======[サマリ視点]=======
「さっきアメリちゃんらしきものが飛んでいたのってここら辺だよね?」
「せやな…たぶん人が少ない場所に行ってから飛んだんだと思うで…」
アメリちゃんとはぐれてから数十分。
なんとか人混みを抜けて、さっきアメリちゃんらしきものが飛んでいた辺りまで辿り着いた。
「ここは…境内の裏のほうか?」
「だね…アメリはこんな場所まですぐ行けたのか…アタイは身体が大きいから動き辛くて大変だったよ…」
とにかく…人が少なくなったのでさっきよりは探しやすいし、こっちに向かっている途中上空に小さく見えたサキュバスっぽい影がアメリちゃんの可能性が高いので隈なく探せば会えるはず。
そう思って境内の裏のほうに向かったのだが…
「へぇ〜…だからシカリお姉ちゃんはおそうじしてたんだね!」
「ええ。この時間が楽しくもあるので……あら?」
そこには、白妖狐さん…9尾だし、おそらく先程話に聞いた白光さんだろう…と、笑顔でお話をしているアメリちゃんの姿があった。
「ん?どうしたのシカリお姉ちゃ……あっ!みんな〜!!」
そして、私達に気付いたアメリちゃんが笑顔のまま私達のほうに駆け寄ってきた。
「アメリちゃん…よかった〜…心配したよ〜…」
「しんぱいかけてごめんなさい!」
見た感じ怪我とかは無さそうだ…良かった〜。
「アメリちゃん、皆と会えて良かったね」
「うん!」
「えっと…あなたは白光さん?」
「はい、私は白光です。この神社で一応祭られてます…まあ巫女もやってますがね」
「では白光さん…アメリちゃんを見ていただきありがとうございました!」
「いえいえ…私もアメリちゃんとお話していて楽しかったです…娘が小さかった頃を思い出しました」
私はアメリちゃんの面倒を見ていた白光さんにお礼を言った。
白光さんはニコッと微笑みながらそう返してくれた。
「じゃあアメリちゃん、旅の無事を参拝しに行こう…って白光さんに願ったりすればいいのか?」
「いえいえ…私は別に神通力とか使えないのでお参りでしたらきちんと表でして下さいね」
「あ、はい…わかりました」
ちょっとそう思ったんだけど…白光さんに否定された。
「ですが、皆さんの旅が安全なものになるよう私も祈りますね♪」
「あ…ありがとうございます!」
「じゃあ行こっか!ばいばいシカリお姉ちゃん!!」
「はい。また機会があったらぜひお会いしましょう!!」
でも、その白光さんが旅の安全を祈ってくれた。
なんだか本当に安全に旅ができる気がするのは…白光さんのもつ柔らかな雰囲気の為かな…
笑顔で手を振る白光さんとお別れして、私達は境内の表のほうに向かった。
====================
「すいませ―ん!この油揚げを4袋買いまーす!!」
「はいよー!!」
現在17時過ぎ。
私達は当初の目的である食材を買うために宵ノ宮の食品街に来ていた。
やはりキツネの町…油揚げが安くて大量に買える…
「しっかしまあ沢山買ったな…」
「なんだユウロ?もしかして荷物重いとか言うのか?」
「いや、そうじゃねえけど…今までで一番量多いんじゃねえかと思ってさ」
ユウロの言うとおり、今まで以上に食材を多く買っている。それこそアメリちゃん以外全員が袋を二つ持っている位は買っている。
旅の人数が増えたこともあり、また次いつ買えるかわからないので沢山買っておいて損は無いのだ。
まあお昼ご飯がかなり安く済んだこともあるし、それに…
「なあおっちゃん、アンタ嫁さん妖怪やろ?やったらこの虜の果実はあると嬉しいんとちゃうか?」
「まあさっき言ってた効果があるならぜひとも欲しいが…」
「ならおっちゃん、そこの箱の中に入っとる野菜全部と交換してくれへんか?」
「それはちょっと不等価だと思うけどな…せめてその虜の果実を5つは欲しいな…」
「ん〜…それは高いわ〜…なら果実3つとこの安眠に最適なワーシープの毛で作ったミニ座布団でどうや?」
「まあ…それならいいだろう…」
「おおきになおっちゃん!」
こんな感じにカリンが物々交換したり、はたまた自分の商品を逆に売ってお金を稼いだりしているので、沢山買う事ができるのだ。
「まあでも沢山買ったし、宿でも探そうぜ!」
「あれ…まだこの町におるつもりなん?」
「そりゃあまだ全部周りきれてないからな…やっぱ嫌なのか?」
「まあ…なんだかんだ言ってたけどウチこの町の雰囲気は好きやでええよ」
という事で、この町にある宿を探そうとして身体を動かしたのだが……
ドンッ!!
「きゃあっ!!」
「うおあっ!!」
ちょうどそこに誰かが来たらしく、おもいっきりぶつかって転んでしまった。
「いたた…す、すいません…」
「い、いえ…こちらこそ余所見しながら歩いていたもので…」
とりあえず謝りながら、どんな人とぶつかったのか気になったので見てみると…
「…………」
「…?どうかされましたか?」
「あ、いいえ…お怪我はなさそうかな〜と」
「私は大丈夫ですよ…あなたのほうはお怪我はありませんか?」
「は、はい、大丈夫そうです…」
その人は、お昼に会った禮前さんが着ていた着物と同じ色…つまり瑠璃色の毛並みの4本の尻尾を持った妖狐さんだった。
「…………」
「…?本当に何もありませんか?さっきから私をじっと見ていますが…」
「へっ?あ、な、なんでもないです!!」
ただその瑠璃色の妖狐さん…ちょっと不思議な外見をしていたのだ…
「そうですか…」
狐耳に尻尾が生えているから確実に妖狐なのだが…顔つきがどこか好青年のように見える。
そして、一番謎な部分は…
「…やっぱり私の胸の辺りをじっと見てません?」
「き、気のせいですよあははは…」
この妖狐さん………胸が全く無いのだ。
もうペッタンコ中のペッタンコ…膨らみなんてどこにもないのだ。
今日出会った妖狐さんは皆大きかったから余計にペッタンコに見えるほどだ。
「勝った……」
「…?何か言いましたか?」
「いえ何も言ってませんよあははは…」
思わず勝利宣言を呟いてしまったが、目の前の貧乳妖狐さんには聞こえなかったようだ。良かった…
「「………サマリ………」」
…まあユウロとカリンには聞こえたらしく、可哀想な子を見る目で私のほうを見てきたが…
「まあとにかく大丈夫そうで良かったです…では私は買い物を済ませて早く帰らないといけないのでこれで…」
「あ、まって妖狐のお姉ちゃん?」
そのまま買い物へ行こうとした貧乳妖狐さんを、何故かアメリちゃんが止めた…疑問形なのはなんでだろうか?
「ん?なんだい?」
「妖狐のお姉ちゃん?アメリたち宿さがしてるんだけどどこにあるかわかる?」
「ああ…それでしたらこの道をずっと真っ直ぐいけば安くて良い宿がありますよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
そしてアメリちゃんは宿の場所を貧乳妖狐さんに聞いた。
そういえば私達今から宿を探そうとしていたんだっけ…ぶつかった衝撃などで忘れてた…
まあ貧乳妖狐さんが丁寧に答えてくれたので結果的に宿を探す手間が省けた。
「あ、それと…お姉ちゃんって本当にお姉ちゃん?」
「ん?ああ…まあ今はお姉ちゃんで間違いないな」
それで次にアメリちゃんがした質問の内容がよくわからなかった。
それに対する貧乳妖狐さんの回答も意味がわからなかった。
「へ?どういう事ですか?」
「あ、いや、気にしないでください…」
最初は貧乳妖狐さんが貧乳だから聞いたのかと思ったが…アメリちゃんが間違えるわけないし…どういう事なんだろうか?
「まあいいや…おしえてくれてありがとうね!ばいばい……えっと…お姉ちゃんなんて名前?」
「私?私は『瑠璃』ですが…」
『へっ!?』
「わかった!ばいばいルリお姉ちゃん!」
「お役に立てたようで…それじゃあばいばい!」
アメリちゃんは普通にお別れをしたけれど…私含めアメリちゃん以外の皆はある予測を立てたのか固まっていた。
今去っていった貧乳妖狐さんの名前は瑠璃…
さっきの回答の『今はお姉ちゃん』発言…
それにどこか好青年に見える外見…
つまり…今の妖狐さん…瑠璃さんは……
「…もしかして昼間に会った禮前さんの旦那さんって…」
「い、いや…いくらなんでもないだろ…男はアルプしか魔物になれないはずだぜ?」
「で、でも…こうも条件が揃っとるとなぁ…ちょうど名前も瑠璃で一緒やし…」
「ど、どういう事なんだろう?人間の状態で性別が変わったとか?」
「わ、わからない…」
私達に大きな疑問と衝撃を置いて行った瑠璃さんはもうどこかに行ってしまったので確認の仕様が無かった。
そして、その衝撃を残したまま私達は教えてもらった宿に向かう事にした…
そして明日宵ノ宮を観て周ったら、アメリちゃんのお姉さんに会いに武白に向けて出発だ!
「そうだなぁ…このペースなら明日の昼ぐらいには着くと思うよ?」
「なら大丈夫そうね…食材いっぱい買わないとね」
現在20時。
ちょうど夜ご飯も食べ終わり、あとどれ位で目的地に着くかを地図で調べていたところだ。
私達は『宵ノ宮』というキツネ系の魔物が多く住むという町に向かって旅をしていた。
目的はまあ少なくなった食材の買い足しだが、大きな町だというし、魔物の6割がキツネ系だという程なのでどんな町か見て周ろうとも思っているのだ。
「やっぱウチ行きたくない…妖狐はともかく稲荷は見たくもない…」
「あのさあ花梨、いつまでブツブツと言っているつもりなの?」
「あのなスズ…誰にも嫌なもんはあると思うんやけど…」
「アタイはその嫌なものもわからないんだけど」
「…それ言われるとウチなんも言えなくなるわ……」
1名嫌がっている者もいるにはいるが、どのみち行かないと食べるものが無くなってしまうので行く事に変わりは無い。
まあカリンが言っている事もわからなくは無いけどね。誰にだって苦手なものはあるだろう。
「でもさあカリン、お前は一人の稲荷が嫌いなだけだろ?」
「そうやけど…ほら、例えばある1匹の犬におもいっきりお尻を噛まれたとするやん。それで犬が苦手になる事もあるやろ?噛んだ犬はたった1種のそれも1匹なのに、その場合は犬全般が苦手になるやろ?」
「ああ…なるほどね…」
例えはわかりやすいようなわかりづらいような…とにかくカリンはキツネ系の魔物全般が苦手である事はわかった。
「じゃあカリンお姉ちゃんは町に入らないの?」
「いや…商人としても大きな町は知っておきたいしな…まあキツネしかおらんっちゅうわけじゃないからウチもちゃんと一緒に行くで」
「ホントに?なんかカリンお姉ちゃんずっと行きたくないって言ってたから町に入らないんじゃないかってアメリ思ってたけど…いっしょに行くならたのしもうよ!!」
「せやな…折角行った事無い町に行くんやもんな…楽しまな損か…ほなアメリちゃん、一緒に観ような!」
「うん!」
まあカリンもなんだかんだ言いつつも行ってはみたいようだ。
アメリちゃんと一緒に町を観光すると言ったのだし、カリンのほうは問題ないだろう。
「それじゃあ話も一段落したし、お風呂行こっか!」
なので、私はアメリちゃんとスズと一緒にお風呂に行く事にした。
「うん!スズお姉ちゃんも行こうよ!」
「う、うん…だ、大丈夫だよねサマリ?」
「…………………………………………………………………うん」
「その溜めは何!?」
だがスズは初めて一緒にお風呂に入ったときに私が散々胸を弄ったのが軽くトラウマになっているらしい。その為、凄くビクビクとしながら私にそんな事をしないかどうかを聞いてきた。
もちろん私はあの日以来スズの胸に触ってなどいない。だからいらぬ心配だろう…
…というか、そう言って私に意識させるからダメなんだよ…
…ああ、そのデカ乳が羨ましい…
「じゃあ…行こうか……」
「…なんでさっきよりもトーン低めで喋ってるの?」
「大丈夫…何もしないから…」
「え、やっぱアタイ後で花梨と一緒に…」
「アメリちゃんもスズと一緒が良いよね?」
「うん!」
「うっ…わ、わかった、一緒にお風呂に入るよ…ほ、本当に何もしないでよ!」
そして私達はお風呂に入った。
もちろん、私はスズに対して『今日は』言ったとおり何もしなかった……
====================
「ここが宵ノ宮か〜!!」
「大きい町だね〜!!」
「うわ……至る所にキツネ系の魔物がおる…」
「でも他の魔物もちゃんといるじゃねえか。人間だって多いしな」
「アタイの事を見ても誰も怖がらない…やったあ♪」
現在13時。
私達は朝早くから歩いていた事もあり、お昼過ぎには『宵ノ宮』に辿り着くことができた。
とりあえず見える範囲で見渡してみたが…カリンが言っていたとおりキツネ系の魔物が大勢いる。
「あの尻尾が2本生えてる人は…稲荷?」
「ちゃうな…魔力の放出具合がでたらめやで妖狐のほうやな…」
「じゃああっちの男の人と一緒に歩いている水色の着物を着た人は?」
「ちっ……あれは稲荷や……やっぱ別人でもムカっとくるなぁ…」
「まあまあ…ほら、あそこにキツネ系じゃない魔物のゴーストが…ってあれ?でも狐の姿をしているような…」
「サマリお姉ちゃん、あれは『ゴースト』さんじゃなくて『狐火』さんだよ」
「おいカリン、あの夫婦は人間同士じゃないか?」
「ユウロ…もしやあんたわかってて言ってるやろ…あれは『狐憑き』や!!」
「へぇ〜……ん?まあいいや……」
本当にどこを見てもキツネ系の魔物がいると言ってもあながち間違ってないほどいっぱいいるのだ。
毛並みも様々な妖狐や稲荷、それに狐火や狐憑きといった聞いた事無かった魔物まで、ありとあらゆるキツネがいるのだ。
「で、早速食材を買いに行く?」
「そうだな…」
ぐうぅぅぅぅ……
「ん?なんかアメリのほうから音が聞こえてきたような…」
「…まずはどこかのお店で昼飯にしようぜ」
「そうだね。いいお店あるかな〜」
「先言っとくけどウチ別に妖狐や稲荷が経営しとる店でもええからな。そんなんまで気にせんから〜」
「了解。じゃあ探そっか」
まずは食材でも買いに行こうと思ったが、13時過ぎな事もありいつものようにアメリちゃんのお腹の音が鳴り響いたので私達は飲食店を探す事にした。
「……アメリおなかすいた///」
恥ずかしがってるアメリちゃんの顔はもちろん真っ赤であった。可愛いんだけどね。
…………
………
……
…
「それで…どうするよ?」
「う〜ん…そうね…」
それから大体30分が経過。
町を観光しつつ飲食店を探していたが、いっぱいお店があって逆に決められず困っていた。
「うぅ…どこでもいいからアメリはやくごはんたべたい…」
「そうだね…もうちょっと待ってねアメリちゃん」
アメリちゃんがだんだん元気が無くなってきたので、とりあえず近くのお店に入ろうとしたちょうどその時…
「そこの異人さん…じゃない人もいるわね……何かお困りで?」
「えっ、あ、はぁ…まあ…お昼ご飯をどこで食べようか迷ってまして…」
突然後ろから声が掛かり、振り返ってみると…
「あら♪なら私がオススメのお店を紹介してあげる♪」
「えっ!?あ、ありがとうございます」
そこには金色の三角耳を頭からピンッと生やし、同じ色の毛で覆われて、小刻みに揺れている尻尾を腰から生やした妖狐だと思われる女性がいた。
尻尾は一本しか生えていないし、喋り方もかなり砕けたものだが、その立ち振る舞いはどこか高貴な感じも持ち合わせていた。
「えっと…オススメのお店って?」
「『狐路』っていうお店よ♪」
「きつねのみち?ってことはその店はキツネ系の魔物が開いとるんか?」
「ええ、安芸(アキ)という三尾の妖狐が店主を勤めてる食事処よ!」
「妖狐か…ならええや…」
「ならええやって…カリンやっぱ気にしてるじゃん…」
気にしないと言いながら結局気にしていたカリンも一応行く気ではあるようだし…
「ねえ妖狐のお姉ちゃん…アメリおなかすいたからはやくたべたい…」
「ん?あなたは…もしかしてリリム?」
「うん!」
「それにウシオニとは…面白いメンバーね♪じゃあ早速行きましょっか!」
私達は早速この妖狐さんの案内で食事処『狐路』に向かう事にした。
…………………………
「はい、とうちゃ〜く♪」
「ここがその狐路ですか〜」
一尾の妖狐さん…名前は『梨花(リカ)』と言うらしい…梨花さんの案内で私達は狐路に辿り着いた。
「はやく入ろうよ!リカお姉ちゃんもいっしょにたべるんでしょ?」
「そうねぇ…一緒に食べたかったんだけどね…」
早速お店の中に入ろうとしたのだけど…ここに来るまでに一緒に食べようという話だった梨花さんがお店に入ろうとはせずに、来た道の遠くのほうを見ていた。
いったいどうしたのだろうか?と思っていたら…
「梨花さまぁぁあああああああああっ!!見つけましたよおおおおおおっ!!」
「鈴歌(スズカ)ったら…嗅ぎつけるの早すぎよ……」
その視線の先から何やら梨花さんの名前を大きな声で叫びながらかなりの速度で走ってくる者がいた。
その者は猫のような耳と尻尾が二本生えているように見えるので…たぶんネコマタだろう。
「どうしたん?あのネコマタ、梨花さんに用があるようやけど…」
「うーん…残念ながら私は逃げなければならないようね…」
「へ?」
「一緒に食べたかったんだけどね…じゃあアメリちゃん、またの機会にね♪」
「え、う、うん…」
アメリちゃんにそう言った後、梨花さんはネコマタが走ってくる方向とは逆方向に身体を向け…
「じゃあ皆さんはこの町を楽しんでいってね!ちなみに狐路のオススメは『狐の薬膳』よ♪」
それだけ言い残して、もの凄い速度で走り去っていった。
「待って梨花さまああああぁぁぁぁ!!勝手に出歩かないで下さいぃぃぃ!!」
その後をネコマタが一生懸命追いかけているが……たぶん引き離されるだろうな……
「な、なんだったんだろうか?」
「さ、さあ…慌ただしい妖狐だという事はわかったけど…」
「と、とりあえずお店に入ろうや!アメリちゃんもお腹空いとるって言うてるしな…」
「うん…アメリもうおなかすいてほとんどうごけない…」
「そうだね…じゃあそのオススメを食べてみようか…」
とりあえず走り去っていく梨花さんとネコマタさんを見送ってから、私達は狐路の引き戸に手を掛け扉を開けて中に入る事にした。
ガラガラガラガラ…………
「いらっしゃいませー!!ってあれ?異人さんですか?」
「はい…そうじゃないのもいますけどね」
お店に入ると、たぶん二尾の妖狐だと思うウエイトレスさんがすぐにやってきた。
「5名様ですね…1名はウシオニさんですか…」
「…アタイは居たらダメなのか?」
「あ、いえ、そうではありません!この店ではお客様を選ぶことはありませんから!!」
「え…じゃあ今なんで…」
「えっと…下半身が少し大きいので広めのほうがいいかなと思ったので…気分を悪くしたのなら謝ります!!」
「あ、だ、大丈夫です!アタイの勘違いですから!!」
ウシオニがいると言われスズが少し暗い顔をしたが、それが自分が思っていた事と違うとわかった瞬間元気になった。
その様子をみると…やはり弥雲の事は応えているのだろう…
「そうですか…ではお座敷のほうにご案内します!」
「はい、おねがいします!」
私達はウエイトレスさんの案内で私達はお座敷まで案内された。
「安芸さん…膳の値段の事なんだけど…」
「鬼奉行様の頼みでも安くしませんよ」
「…せめて御奉行様と呼んで下さい…それに逆です。目安箱でももっと高くてもという声が多いのですよ…」
「あら?それはまた面白い意見ですね。でも値段を変える気は無いですよ」
案内されている途中で…1、2、3、4、5……うん、間違いない…9本ある…
尻尾が9本全部生えている瑠璃色の着物を着た黒い毛を持った妖狐と、三尾の妖狐さん…安芸さんと呼ばれていたので、先程の梨花さんの話からするとこのお店の店主さんだろう…が奇妙な話をしているのが耳に入った。
安すぎるから高くしてほしいって…そんなに安いのだろうか?
「ご注文は何になさいますか?」
「えっと…狐の薬膳ってのを…5つでいいよね?」
「うん!」「おう」「ああ」「ええよ」
「じゃあそれで」
「畏まりました!」
お座敷まで案内された後私達は注文を受けたので、さっき去り際に言われたオススメである『狐の薬膳』を注文した。
「薬膳最後の甘味の葛きりは食後でよろしいですか?」
「葛きり?よくわからないけど食後で…いいよね?」
「ええよ!全員食後で頼むわ!」
「畏まりました。では少々お待ち下さい」
そう言ってウエイトレスさんはお店の厨房のほうに去っていった。
「ねえカリンお姉ちゃん…甘味のくずきりってなに?」
「せやな…葛餅…って言ってもわからんか…まあデザートや。楽しみにしとき」
「わかった……おなかすいたなぁ…はやくこないかなぁ……」
そんな感じで、軽くお喋りをしたり「おなかすいたー」と言いながらゆらゆらと揺れているアメリちゃんを見たりしながら料理を待ち続けること数分…
「お待たせいたしましたー。狐の薬膳ですー」
「やっときたーー!!アメリもうおなかペコペコー!!」
ウエイトレスさんが3回にわけて5人分の狐の薬膳を運んできた。
その内容は…
「稲荷寿司…外見がほんの少し前食べたものより黒くない?…というか濃い茶色だよね?」
「ああ…黒稲荷はなんとなくわかった。んでこれは…大根の漬物か?」
「そうだね…稲荷寿司は食べやすい大きさだし、美味しそうだね」
「そんで茗荷のお吸い物か…うまそうやなぁ…」
「おすいもののたまごが妖狐さんのしっぽに見える!!」
まあそんな感じだった。
出汁の匂いが漂ってきた……どれもこれも美味しそうである。
と言う事で…
「それじゃあ早速食べよっか!」
「うん♪」
『いただきます!!』
お腹が空いている私達は、早速その料理を食べることにした。
「稲荷ずしからたーべよっ♪あむっ!……もぐもぐ……お、おいし〜〜!!」
「どれどれ……ん!?ホントだ凄く美味しい!!」
私とアメリちゃんはまず例の黒稲荷寿司を食べてみた。
噛んだ瞬間、ちょっと普通の米よりもちっとしたお米や中に混ざってる粟などの様々な穀物の食感と供に、ほんの少しだけ酸っぱさも感じる甘味が口の中に広がった。
失礼だとは思うが、前に食べた普通の稲荷寿司よりも格段に美味しい…思わず声に出してしまったほどだ。
「アタイは茗荷のお吸い物から………うん、出汁が効いてて美味しい!」
「ホントだな…卵も味が染みてるし……うん、茗荷もシャキっとして旨い!」
スズとユウロはお吸い物からいったようだ。
どれ、私も飲んでみよ………うん、二人が言っていたとおりだ。
出汁に使われているのは…昆布出汁と鰹節かな?それに茗荷というものの爽やかな風味が広がって…大げさかもしれないけど、身体に染みわたっていく……
「ん……この浅漬け、稲荷寿司の五穀米にめっちゃあうなぁ〜…悔しいけど旨いわ……」
何が悔しいかはわかるようでわからないが、黒稲荷寿司と一緒に大根の漬物を食べていたカリンがそう呟いた。
私も食べてみた……ポリポリとしてて美味しい。カリンが言うとおり黒稲荷寿司によく合っている。
「ん〜…旨かったなぁ……」
「そうだな…結構腹も満たされたしな…」
出された料理全てを美味しく食べ終わった頃に…
「お待たせいたしましたー。こちらが葛きり餅でございますー」
「おお〜!まってましたー!!」
「アメリはしゃぎ過ぎ…まあアタイも楽しみに待ってたけどね!」
例の葛きり餅というものが来た。
見た目は…葛餅なる立方体のぷるっとしているものに黄粉って言ったっけ?黄色っぽい粉と黒い蜜が掛かっている。
「じゃあ早速食べてみようかな……パクッ!」
それを爪楊枝で一つ刺して…口元まで運び、食べてみた。
「何コレ!?美味しいって言葉じゃ全然足りない位美味しい!!」
「おいしー!あまーい!!」
食べた瞬間…程良い甘さとプニッとした食感を感じ…思わず叫んでしまった。
決して大げさではない…それほど美味しかったのだ。
「葛きりとか久々に食ったけど今まで食ったものの中で一番うめえや…」
「旨すぎやろ……おかわりしようかなぁ…結構ケチなウチからみても安すぎやでなぁ…」
「こんなに美味しいもの、記憶がある間で食べた事無いよ…」
他の皆も同じらしい。それぞれが言葉こそ違うけど美味しいと言っている。
「うふふ♪ありがとうございます。お気に召したようで」
「あ、えっと…もしかして店主さん?」
「はい。私がこの店の店主をしてる安芸です」
すると、そんな私達の声を聞いたからか店主の安芸さんが私達の所に笑顔できた。
「えーっと…うるさかったですか?」
「いえいえ…むしろ満足していただいたようで私も嬉しくてね♪この葛きりは私が作っているからね」
「え!?そうなんですか…めちゃくちゃ美味しいです!もう作り方教えてほしい程ですよ!」
「それはちょっと無理ですね…」
「ですよね〜…」
もしかしてうるさくて注意でもしに来たのかと思ったが、違ったようだ。
「ところで、そこの女の子は…」
「アメリのこと?アメリはリリムだよ?」
そしてアメリちゃんのほうを見て、何かに気付いたようだ。
「なるほど…お顔も似てますね……ではナーラ様の妹様ですか?」
「へ?」
そして、唐突に誰かの名前らしきものを言った。
「ナーラ…お姉ちゃん?」
「あら?ご存じ無いようで…少し前にこの店に来たのですよ。なんでも食い道楽の旅をなさってるらしいですよ?」
言い方からするとアメリちゃんのお姉さんのようだけど…
「それって…武白の向こう側の山に住んでいるリリムですか?」
「いいえ…ナーラ様は異国のほうから来たようでしたよ?たしか魔王城にお住まいだと…」
「ん〜?おうちにいるお姉ちゃん?」
しかも私達がこれから会おうとしている人とは別人…更には魔王城に住んでいる人らしい。
ならアメリちゃんは知ってそうだけど…頭上に?マークが浮かんで見えるほど悩んでいる。
「ん〜…おうちにいたお姉ちゃんたちの中にお料理が大好きで世界中のお店をまわってる…ほかのお姉ちゃんやお母さんのしりあいたちにびしょくひめって言われてるお姉ちゃんはいるんだけど…ナーラって名前のお姉ちゃんは知らない…」
「じゃあまだ会った事の無い別のお姉さんって事?」
「ん〜…でもそのお姉ちゃん以外にそういうことしそうなお姉ちゃんきいたこともないしな〜…」
思い当たるお姉さんはいるようだが名前が一致しないらしい…もしかしてナーラさんは偽名とか?
「……そうだ、もしこんど会うことあったらそのお姉ちゃんにきいてみる!!」
悩んだ結果…また今度そのお姉さんに会った時に聞いてみるらしい。
そのお姉さんにも会ってみたいなぁ…料理詳しいらしいし、何か旅の途中でも手軽に出来て美味しい料理とか教えてもらえないかなぁ……
====================
「次は何処行く?」
「うーん…そうだなぁ…食材は最後にするとして……どうする?」
現在15時。
狐路で満足なお昼ご飯を食べ終わり、私達は次はどこに行こうかと相談していた。
一番の目的は食糧の調達だが、買った食材を持ち運びながら町を観光する気にはなれないし、かといって町中でアメリちゃんの『テント』を出すのもどうかと思うので、市場や食品街は最後にしようと思う。
「だったらさ…さっき安芸さんに聞いた神社に行ってみようぜ!」
「あー、さっき言ってた宵ノ宮の北区にあるって口逢神社か…そうだね、行ってみよっか!」
という事で、私達は神社に向かってみる事にした。
その神社で旅の無事でも祈ろうと思う。
「狐の町の神社とか…嫌な予感しかせーへんけどな…」
「花梨…まだ言うのか?」
「ええやろ別に…ウチ稲荷なんぞ祭りたくなんや…」
まあ約1名が稲荷信仰じゃないかと疑っているが、気にせず向かう事にしたのだが…
「ド、ドロボー!!」
「どけどけどけえー!!」
「ん?なんやあれ?」
北区のほうに向かおうと足を進めていたら、大声で叫びながら何かが入った大きな袋を抱えて全身黒の服を着た男の人がこちらに向かって走ってきた。
聞こえてきた女の人の叫びからすると…この男の人は泥棒のようだ……ってええ!?
「待ちやがれそこの盗っ人!!」
「大人しくお縄につけぇ!!」
「ちっ!同心のやつらがもう嗅ぎつけやがったか!!」
その泥棒の遥か後方に男の人と…ジパングでよく見掛ける明かりを灯す円筒状のもの…提灯だっけ?それが人型になって、左右に一つずつ大きく『御』『用』と書かれた大袖を着た女の人が追っているようだが…距離からして追いつけるか微妙である。
「…どうする?」
「せやなぁ…あの泥棒、捕まえられそうならウチらで捕まえるか?」
「まあご丁寧にこっちに向かってきてる事だし、一発殴れば止まるだろ」
「いやいや…殴ったら余計面倒な事になる気がするんだけど…」
ちょうどその泥棒は私達のほうに近付いてきているし、私達で捕まえてみようと思ったのだが…どうやって捕まえようか?
「う〜ん…今泥棒撃退グッズは取り扱っとらんからなぁ…」
「アメリの魔法でなんとかできるかなぁ…」
「もこもこアタックは…避けられる気がするな…」
「…いや、ここはアタイに任せな!!」
どうしようか悩んでいると、スズが自信を持って自分に任せてみろと言った。
どうするつもりなのだろう……と思ったが、なんとなくわかったぞ……
「……」
スズは泥棒をよく狙い……そして……
「ふんっ!!」
「おらー!!どけどけー…って何dウボァ!?」
予想通り自身の糸を泥棒に目掛けて噴射し、見事命中させた。
その結果泥棒は身動きが取れなくなり…地面に伏せる形で逃げられなくなり……
「捕まえたぞこの盗っ人があ!!」
「御用だー!!」
「くっそぉ……なんでこんな所にウシオニなんて居やがるんだよ…」
追っていた二人が追いつき、泥棒は無事に捕まった。
「おお…どうやらこの者達のおかげで無事に捕まえられたようだな…」
「「あっ!禮前(ライゼン)様!!お疲れ様です!!」」
「お疲れ様って…私は何もしてないのだが…見ての通り私服だしな…」
と、突然どこからか黒い妖狐…禮前様と呼ばれた妖狐が現れた…ってこの人さっき狐路に居た瑠璃色の着物を着た9尾の黒妖狐さんだ!
たしかさっき御奉行様とか呼ばれていたような…って事は偉い人か…どおりで様って言われるわけだ。
「そこの旅人方、ご協力感謝いたします!」
「え、いや、アタイは当たり前の事をしただけで…」
「いえ…あなた方がいたから早く捕まえる事が出来たのです!それで、時間がよろしければ少しお話がしたいのですが…」
「うーん…そう言うけど…皆はいい?」
その禮前さんがお話したいと言ってきた。
まあまだ時間はあるし、少しぐらいなら良いかなと思ったので…
「まあこれから神社に行ってさらに食材を買おうとしていたので…30分程でしたら…」
「そんなに時間は取りませんのでぜひ!そこの団子茶屋でお話…を……」
「…?どうしました?」
30分位ならと伝え、禮前さんはそこにある団子茶屋でお話しましょうと言おうとしてた途中で何かを見つけたのかじっとどこかを見たまま言葉を発しなくなってしまった。
その視線を辿ると……団子茶屋で禮前さんのように黒い毛の妖狐が…同じ服を着た女の子に対して性的な嫌がらせを行っているのが遠目からでもはっきりと見えた。
「赤李(アカリ)、宗右衛門(ソウエモン)、その男を連れて行ってくれ…それと皆さん、少しだけお待ち下さい……」
こちらを見ずにそう言って、禮前さんは…
「こんのバカ娘がっ!!何回言ったら真面目に仕事をするんだ!!」
その性的嫌がらせをしている黒妖狐…どうやら娘さんらしい…の頭に目にも止まらぬ速さで拳骨を振り下ろしてそのまま説教を始めた…
「…親ってすげえな…」
「そうだね…アタイの親もあんな人かなぁ…」
………
……
…
20分後。
「え〜、その〜、お見苦しいところを見せてすまなかった…」
「いえいえ…」
「折角の時間も短くなってしまった…」
「まあ少し位でしたら大丈夫ですので…」
公開説教を終えた禮前さんとその団子茶屋で私達はお話をし始めた。
ちなみに娘さんは拳骨と正座での説教を受け涙目になりながら仕事を再開し始めた。
「今回はご協力真に感謝しております…それで、あなた方は旅人みたいだが…どういった目的で宵ノ宮に?」
「いやぁ…私達はアメリちゃん…このリリムの女の子の事ですが…アメリちゃんのお姉さん達を探しながらきままに旅をしているのですよ」
「それで俺達は今回はこの町よりも向こうにそのお姉さんがいると聞いて向かっている最中で…その通り道にこの町があったので食糧の調達がてら町の観光をしていたんです」
「なるほど…それで白光(シカリ)さんところの神社に…そういえばさっき狐路に居ましたね…あのお店は私もお気に入りでね…美味しかったですか?」
「もぐもぐ……うん!おいしかったよ!ライゼンお姉ちゃんもおいしかった?」
「もちろんだとも!」
こんな感じでお団子を食べながら、ゆっくりとお話していた。
「そういえばライゼンお姉ちゃんはしっぽ9本生えてるんだね」
「え、まあ生えていますが…」
「ちゅー事は…旦那さんおるんか?」
「え、ま、まあ瑠璃(ルリ)という夫がいますが…」
「そうなんですか!?禮前さんの旦那さんの瑠璃さんってどんな人ですか?」
「え〜っと…ま、まあ、道を外した私を正してくれた素敵な夫で…」
「へぇ〜…ん?道を外した?」
「い、いやぁ…昔今の夫じゃない男相手に失恋したときにちょっとな…ま、まあ気にしないでくれ!」
そういえば禮前さんは尻尾が9本生えている…という事は旦那さんが居るのだろう。
そう思ったので旦那さん…瑠璃さんについての話になったのだが…なぜか禮前さんの歯切れが悪くなった。
「ちょっと瑠璃さん会ってみたいです…」
「え!?あ、その、そ、それは困る…」
「なんで?別にアメリたちへんなことはしないよ?」
「い、いや…それはわかってるけど…あ、あはははは……」
最後には笑って誤魔化されたが…瑠璃さんの身に人には言えない何かがあったのだろうか?
遠くのほうでこの話を聞いている娘さんも苦笑いしてるし…
…まあこれ以上は触れない方がいいかな…
「あ、そうだ…食品街とかどこにあるかわかります?」
「ああ…もちろんわかるが…」
「なら教えて下さい!口逢神社に行った後に行こうと思ってるので…」
「よしわかった。神社からなら…」
そう思った私は、とりあえず話題を変える事にした…
上手くいったようで、禮前さんからさっきまでのしどろもどろした感じは無くなっていった…
====================
ワイワイ……ガヤガヤ……
「うわ…沢山の人や魔物で溢れかえってる…」
「はぐれないようにしないとな…」
現在16時。
禮前さんと別れた後、私達は口逢神社に向かったのだが…
「こう見るとやっぱここは狐地獄やと思うわ…」
「地獄って言い方はどうかと…まあたしかにキツネ系の魔物がいっぱいいるね…」
よほど大きい神社である為か、沢山の人や魔物…やはり稲荷や妖狐などのキツネ系が多い…で溢れかえっていた。
さっき禮前さんからこの神社の話は聞いたが…話で聞いた以上に人気である。
「まあお参りはしようよ。この中を掻い潜っていくのは大変だけどね」
「そうだね…さっきから油断するとはぐれそうで怖いもん…じゃあ行こうかアメリちゃん……」
なので、子供だから背が低く人混みでは見つけ辛いアメリちゃんとはぐれないように手を繋ぎながら奥まで行こうとしたら…
「」
「あれ?アメリちゃん…?」
「」
「あ…アメリちゃんがいない!?」
そこにアメリちゃんは居なかった…つまり、もう手遅れだった。
「はあっ!?もしかしてはぐれたのか!?」
「んなアホな!?この人混みの中じゃあ探すのも一苦労やで…」
「でも探さないと…おーいアメリちゃ―ん!!」
「アメリー、返事をしてー!!」
ワイワイ……ガヤガヤ……
大声を出して探しているが…人混みの中なのですぐに私達の声は雑音と同化していった…
「どうする?」
「とりあえず奥まで行ってみるぞ…アメリちゃん小柄だからか結構スイスイと進んでたし、人の流れに巻き込まれて先に行ってる可能性のほうが高いだろうからな」
なので私達は、周りをよく見ながら奥に進んでいく事にした……
=======[アメリ視点]=======
「……あれ?みんなは?」
ほかの人におされたり間をくぐりぬけたりしながらすすんでたらいつの間にかアメリ一人になってた…
もしかしてアメリ…まいごになっちゃった!?
「サマリお姉ちゃーん!」
「ユウロお兄ちゃーん!」
「カリンお姉ちゃーん!」
「スズお姉ちゃーん!」
みんなの名前を一人ずつよんでみたけど…だめだ…だれもへんじしてくれない…ちかくにいないみたい…
「ん〜…どうしよ〜…」
さすがにアメリをおいてどっか行っちゃうなんてことはないと思うけど…みんなアメリのことしんぱいしてるよね…
でも…人が多すぎてアメリからはみんなが見えないし…かといってここでとぶとめいわくだろうしな…
「あ、そうだ!人が少なそうな場所まで行けばいいんだ!!」
アメリはそう思い、人が少なさそうな場所までいそいで行ってみた。
…………
………
……
…
「んしょ…ここならいいかな?」
人がいっぱいいる所をちょっともみくちゃにされながらもなんとかぬけ出して、人が少ない場所まできた。
ここからなら空とんでみんなをさがせる…そう思ってとぼうとしたんだけど…
「あら?異人さんの女の子…どうなさいましたか?」
「ん?」
アメリのうしろからきれいな女の人の声がきこえたから、とぶのをやめてうしろをふりかえったら…
「あ、白い妖狐のお姉ちゃんだ…お姉ちゃんも9本しっぽあるんだね!」
「はい…『も』って事は禮前様にお会いしたのですか?」
「うん!」
『みこふく』ってものをきたしっぽが9本生えている、白い毛を生やした妖狐のお姉ちゃんが…おそうじしてたのかほうきをもって立っていた。
ん?9本のしっぽが生えている白妖狐さん?
「あれ?さっきライゼンお姉ちゃんにきいたとき、ここの神社はシカリって名前の白妖狐お姉ちゃんがまつられてるってきいたけど…もしかしてお姉ちゃんがそのシカリさん?」
「はい、私が白光ですよ。あなたは?」
「アメリだよ!」
やっぱりこの白妖狐のお姉ちゃんはシカリお姉ちゃんだった。
優しそうなお姉ちゃんで、とってもえらい人みたいだけどすごくおはなししやすい。
「アメリちゃんね…それでアメリちゃんはどうして境内の裏に?滅多にこんな所まで来る人はいないのに…」
「えっとね…アメリまいごになっちゃって…とりあえず人がいないとこに出てから空とんでみんなをさがそうかと思って…」
「あら…それは大変ね…でもここからなら広く見渡せるしすぐに見つかると思いますよ」
「ホント!?じゃあアメリさっそくさがしてみるね!!」
そう言われたので、さっそくアメリはたかくとんでみんなをさがしてみた…
「あ、いた!!みんなこっちに向かってきてる!!」
シカリお姉ちゃんが言ってたように、かなり広いはんいでさがすことができた。
だからアメリはすぐサマリお姉ちゃんたちを見つけることができた。
そのようすを見てると…みんなアメリがいる場所に向かってるみたいだった。
「どうでしたか?」
「みんなこっちにきてるみたい!」
「そうですか…なら私と少しお話しながら待ちます?」
「うん!」
だからアメリはシカリお姉ちゃんとおはなししながらみんなをまつことにした。
「ねえシカリお姉ちゃん…シカリお姉ちゃんは妖狐さんなんだよね?」
「ええ、稲荷ではないですよ」
「でもこの町の神社にいるんだね」
「まあずいぶん昔は…それこそ最初はなかなか言い出せなくて稲荷を演じてた時もあるんだけどね…なつかしいわ…」
「ふーん…ずいぶん昔って、シカリお姉ちゃんは今何さいなの?」
「…何歳に見える?少なくともアメリちゃんよりは上だけどね♪」
こんなふうにシカリお姉ちゃんとたのしくおはなししていた…
=======[サマリ視点]=======
「さっきアメリちゃんらしきものが飛んでいたのってここら辺だよね?」
「せやな…たぶん人が少ない場所に行ってから飛んだんだと思うで…」
アメリちゃんとはぐれてから数十分。
なんとか人混みを抜けて、さっきアメリちゃんらしきものが飛んでいた辺りまで辿り着いた。
「ここは…境内の裏のほうか?」
「だね…アメリはこんな場所まですぐ行けたのか…アタイは身体が大きいから動き辛くて大変だったよ…」
とにかく…人が少なくなったのでさっきよりは探しやすいし、こっちに向かっている途中上空に小さく見えたサキュバスっぽい影がアメリちゃんの可能性が高いので隈なく探せば会えるはず。
そう思って境内の裏のほうに向かったのだが…
「へぇ〜…だからシカリお姉ちゃんはおそうじしてたんだね!」
「ええ。この時間が楽しくもあるので……あら?」
そこには、白妖狐さん…9尾だし、おそらく先程話に聞いた白光さんだろう…と、笑顔でお話をしているアメリちゃんの姿があった。
「ん?どうしたのシカリお姉ちゃ……あっ!みんな〜!!」
そして、私達に気付いたアメリちゃんが笑顔のまま私達のほうに駆け寄ってきた。
「アメリちゃん…よかった〜…心配したよ〜…」
「しんぱいかけてごめんなさい!」
見た感じ怪我とかは無さそうだ…良かった〜。
「アメリちゃん、皆と会えて良かったね」
「うん!」
「えっと…あなたは白光さん?」
「はい、私は白光です。この神社で一応祭られてます…まあ巫女もやってますがね」
「では白光さん…アメリちゃんを見ていただきありがとうございました!」
「いえいえ…私もアメリちゃんとお話していて楽しかったです…娘が小さかった頃を思い出しました」
私はアメリちゃんの面倒を見ていた白光さんにお礼を言った。
白光さんはニコッと微笑みながらそう返してくれた。
「じゃあアメリちゃん、旅の無事を参拝しに行こう…って白光さんに願ったりすればいいのか?」
「いえいえ…私は別に神通力とか使えないのでお参りでしたらきちんと表でして下さいね」
「あ、はい…わかりました」
ちょっとそう思ったんだけど…白光さんに否定された。
「ですが、皆さんの旅が安全なものになるよう私も祈りますね♪」
「あ…ありがとうございます!」
「じゃあ行こっか!ばいばいシカリお姉ちゃん!!」
「はい。また機会があったらぜひお会いしましょう!!」
でも、その白光さんが旅の安全を祈ってくれた。
なんだか本当に安全に旅ができる気がするのは…白光さんのもつ柔らかな雰囲気の為かな…
笑顔で手を振る白光さんとお別れして、私達は境内の表のほうに向かった。
====================
「すいませ―ん!この油揚げを4袋買いまーす!!」
「はいよー!!」
現在17時過ぎ。
私達は当初の目的である食材を買うために宵ノ宮の食品街に来ていた。
やはりキツネの町…油揚げが安くて大量に買える…
「しっかしまあ沢山買ったな…」
「なんだユウロ?もしかして荷物重いとか言うのか?」
「いや、そうじゃねえけど…今までで一番量多いんじゃねえかと思ってさ」
ユウロの言うとおり、今まで以上に食材を多く買っている。それこそアメリちゃん以外全員が袋を二つ持っている位は買っている。
旅の人数が増えたこともあり、また次いつ買えるかわからないので沢山買っておいて損は無いのだ。
まあお昼ご飯がかなり安く済んだこともあるし、それに…
「なあおっちゃん、アンタ嫁さん妖怪やろ?やったらこの虜の果実はあると嬉しいんとちゃうか?」
「まあさっき言ってた効果があるならぜひとも欲しいが…」
「ならおっちゃん、そこの箱の中に入っとる野菜全部と交換してくれへんか?」
「それはちょっと不等価だと思うけどな…せめてその虜の果実を5つは欲しいな…」
「ん〜…それは高いわ〜…なら果実3つとこの安眠に最適なワーシープの毛で作ったミニ座布団でどうや?」
「まあ…それならいいだろう…」
「おおきになおっちゃん!」
こんな感じにカリンが物々交換したり、はたまた自分の商品を逆に売ってお金を稼いだりしているので、沢山買う事ができるのだ。
「まあでも沢山買ったし、宿でも探そうぜ!」
「あれ…まだこの町におるつもりなん?」
「そりゃあまだ全部周りきれてないからな…やっぱ嫌なのか?」
「まあ…なんだかんだ言ってたけどウチこの町の雰囲気は好きやでええよ」
という事で、この町にある宿を探そうとして身体を動かしたのだが……
ドンッ!!
「きゃあっ!!」
「うおあっ!!」
ちょうどそこに誰かが来たらしく、おもいっきりぶつかって転んでしまった。
「いたた…す、すいません…」
「い、いえ…こちらこそ余所見しながら歩いていたもので…」
とりあえず謝りながら、どんな人とぶつかったのか気になったので見てみると…
「…………」
「…?どうかされましたか?」
「あ、いいえ…お怪我はなさそうかな〜と」
「私は大丈夫ですよ…あなたのほうはお怪我はありませんか?」
「は、はい、大丈夫そうです…」
その人は、お昼に会った禮前さんが着ていた着物と同じ色…つまり瑠璃色の毛並みの4本の尻尾を持った妖狐さんだった。
「…………」
「…?本当に何もありませんか?さっきから私をじっと見ていますが…」
「へっ?あ、な、なんでもないです!!」
ただその瑠璃色の妖狐さん…ちょっと不思議な外見をしていたのだ…
「そうですか…」
狐耳に尻尾が生えているから確実に妖狐なのだが…顔つきがどこか好青年のように見える。
そして、一番謎な部分は…
「…やっぱり私の胸の辺りをじっと見てません?」
「き、気のせいですよあははは…」
この妖狐さん………胸が全く無いのだ。
もうペッタンコ中のペッタンコ…膨らみなんてどこにもないのだ。
今日出会った妖狐さんは皆大きかったから余計にペッタンコに見えるほどだ。
「勝った……」
「…?何か言いましたか?」
「いえ何も言ってませんよあははは…」
思わず勝利宣言を呟いてしまったが、目の前の貧乳妖狐さんには聞こえなかったようだ。良かった…
「「………サマリ………」」
…まあユウロとカリンには聞こえたらしく、可哀想な子を見る目で私のほうを見てきたが…
「まあとにかく大丈夫そうで良かったです…では私は買い物を済ませて早く帰らないといけないのでこれで…」
「あ、まって妖狐のお姉ちゃん?」
そのまま買い物へ行こうとした貧乳妖狐さんを、何故かアメリちゃんが止めた…疑問形なのはなんでだろうか?
「ん?なんだい?」
「妖狐のお姉ちゃん?アメリたち宿さがしてるんだけどどこにあるかわかる?」
「ああ…それでしたらこの道をずっと真っ直ぐいけば安くて良い宿がありますよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
そしてアメリちゃんは宿の場所を貧乳妖狐さんに聞いた。
そういえば私達今から宿を探そうとしていたんだっけ…ぶつかった衝撃などで忘れてた…
まあ貧乳妖狐さんが丁寧に答えてくれたので結果的に宿を探す手間が省けた。
「あ、それと…お姉ちゃんって本当にお姉ちゃん?」
「ん?ああ…まあ今はお姉ちゃんで間違いないな」
それで次にアメリちゃんがした質問の内容がよくわからなかった。
それに対する貧乳妖狐さんの回答も意味がわからなかった。
「へ?どういう事ですか?」
「あ、いや、気にしないでください…」
最初は貧乳妖狐さんが貧乳だから聞いたのかと思ったが…アメリちゃんが間違えるわけないし…どういう事なんだろうか?
「まあいいや…おしえてくれてありがとうね!ばいばい……えっと…お姉ちゃんなんて名前?」
「私?私は『瑠璃』ですが…」
『へっ!?』
「わかった!ばいばいルリお姉ちゃん!」
「お役に立てたようで…それじゃあばいばい!」
アメリちゃんは普通にお別れをしたけれど…私含めアメリちゃん以外の皆はある予測を立てたのか固まっていた。
今去っていった貧乳妖狐さんの名前は瑠璃…
さっきの回答の『今はお姉ちゃん』発言…
それにどこか好青年に見える外見…
つまり…今の妖狐さん…瑠璃さんは……
「…もしかして昼間に会った禮前さんの旦那さんって…」
「い、いや…いくらなんでもないだろ…男はアルプしか魔物になれないはずだぜ?」
「で、でも…こうも条件が揃っとるとなぁ…ちょうど名前も瑠璃で一緒やし…」
「ど、どういう事なんだろう?人間の状態で性別が変わったとか?」
「わ、わからない…」
私達に大きな疑問と衝撃を置いて行った瑠璃さんはもうどこかに行ってしまったので確認の仕様が無かった。
そして、その衝撃を残したまま私達は教えてもらった宿に向かう事にした…
そして明日宵ノ宮を観て周ったら、アメリちゃんのお姉さんに会いに武白に向けて出発だ!
12/06/03 14:56更新 / マイクロミー
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