旅13 ロリ王女と黒勇者〜妹と姉のコラボ語り〜
…………
目を開けると…広がる青…
天から差し込む光が、辺りを幻想的に照らす。
ここに来てから、もう数カ月が経ったらしい…
時間の感覚がよくわからないから、『らしい』。
でも…それでもいい…
時間なんて関係なく…ただ浮いていればいいのだ。
そう…この青に身を任せ…ただ…
でも…『会いたい』…
わたしは…『会いたい』…
生きていると、伝えたい…
大切な、幼馴染みに、伝えたい…
でも、わたしが今どこに居るかわからない。
だから、会いに行けない…
会いたい…
=======[サマリ視点]=======
「もっこもこアターック!!」
「きゃー♪」
「…なにしてんの?」
現在21時。
私とアメリちゃんは『テント』で遊んでいた。簡単にいえば寝る前の運動というか触れ合いだ。
ワーシープになり、もこもことした毛皮が生えた私。そのもこもこした身体でアメリちゃんに勢いよく抱きついた。だから「もこもこアタック」だ。
ちなみに、シャワーを浴び終え出てきたユウロに何してるのかと言われてしまったが…
「ユウロにはもこもこホールドだー!!」
「ちょ!?なにするんだ…あ……ねむ………ぐぅ…………」
「うわぁ…さっきまで普通に起きてたユウロが寝ちゃった…」
「サマリお姉ちゃんすごーい!」
後ろから完全に胸や身体が密着する形でユウロに抱きついた。相手の動きを制限するように抱きつくから「もこもこホールド」である。
いくら私の毛が短めでも、ここまで密着されたらワーシープの毛皮が纏っている眠りの魔力が抱きつかれた対象に速攻で襲いかかる。つまり、相手は眠ってしまうのだ。しかも抱きついている時に身体を擦り付けるように動かしたらさらに効果が出る。
結果、ユウロはすやすやと私に抱かれながら寝てしまったのだ。
「ぐぅ…………ぐぅ…………」
「気持ちよさそうに寝てるわね〜…勇者に襲われたときにこれやってみようかしら?」
「その前に攻撃されてそうだけどね……ところで、いつまでユウロに胸を押しつけてるんだい?」
「…なんか気持ちよくて……」
なんだか自分のおっぱいをユウロに押しつけていると私まで気持ちよくて…
寝てしまうって事じゃないんだと思うけど…トロンとしてきて…
「……そのままだと魔物の本能に任せてユウロを強姦しそうだね……」
「おっと!それはマズい!ナイスツッコミだよツバキ!」
ツバキに言われて気が付いた。私今ちょっと興奮していたんだ。
私は慌てて寝ているユウロから離れた。
危なかった…このまま魔物の本能に身を任せてユウロを襲っていたらきっとユウロは怒るどころじゃ済まないんだろうな…
「ふぁ〜〜……ユウロお兄ちゃんがねてるのを見てたらアメリもねむくなっちゃった…」
「じゃあもう寝よっか。ツバキは?」
「僕も寝るけど、その前にユウロをベッドまで運ばなきゃね」
私達はユウロをベッドまで運んだあと、それぞれのベッドに入り寝る事にした。
もちろんアメリちゃんは私に抱かれながら一緒に寝る。
アメリちゃんが私の抱き心地が最高と言っていたが、それは違うと思う。
だって、アメリちゃんの抱き心地のほうが最高だもん。
異論がある人がいたら抱かせてみt…いや、アメリちゃんは誰にも譲らない!!
…………………
ぐぅ…………
=======[ユウロ視点]=======
「…で、二人はまだか?」
「さぁ…まだなんじゃない?まだ後ろには見えないし…」
昼過ぎ、というよりは夕方に近くなってきた頃、俺達はそろそろファストサルド領に到着するってところまで来たのだが…
今ここに居るのは俺とツバキの二人だけだった。
「たく…「すぐ追いつくから先に行ってて」って言うから先行ったけど…こりゃあ待ってた方が良かったか?」
「まあ仕方ないんじゃない?実際昨日ユウロも熟睡してたんだし」
「はぁ…だったらやるなよな…」
なぜアメリちゃんとサマリの二人が居ないのかというと…昼ご飯を食べ終わった後サマリがアメリちゃんにもこもこホールドだっけか?昨日俺にやったことと同じ事をやったのだ。
確かにアメリちゃんもやってって言ってたけど…あれやられると深い眠りについて簡単には起きられないんだよね。
ってことでアメリちゃんが熟睡してしまい、「なんとか起こしてから行く、すぐ追いつくから先に行ってて」って言われたので俺とツバキで先に行くことになったのだ。
だが、結局まだ来る気配が無い。こちらに向かっている最中だといいのだが…
「ま、先に領内に入ってリリムの情報でも集めるか」
「そうだね。まあ余程の事が無い限り合流は出来るだろうしね」
つーわけで、俺達はファストサルド領に入ろうと…
「そこの二人、何をしているんですか?」
…入ろうとしたけど、自警隊員か何かか、男の人…てか同じ位の少年に止められてしまった。
「えっと…俺達はただの旅人です」
「本当ですか?」
どうやら俺達の事を疑っているらしい…
まあ無理もないか。だって武器を持った見知らぬ男が二人で居るんだもんな…
しかしこの少年、凄い気迫だ。おもわず後退りしてs…
「うわったあっ!!」
「…!!」
…後退りしてたら段差があったらしく、後ろ向きに転んでしまった。
しかも…
「その十字の首飾り…貴方達は教団の者ですね!!」
「あ…」
転んだ拍子にポケットから首飾りが出てしまった。
これって教団の証みたいなものだから…親魔物領で出したら非常に不味いよなぁ…
慌ててしまったけどもう遅いよな…
だって少年が疑いの目で俺を睨んでるし。
「なぜここへ…まさかリリスを狙って…!?」
「あ、その、俺は勇者じゃ…ていうか元勇者であって今は違うんだけど…」
「…信じられるとでも?」
「ですよね〜…」
やっちゃったなぁ…絶対マズい事になったよな…
なんとなく目線でツバキに助けを求めるけど…
「はぁ……」
溜息つかれました。
なんでそんな物持ってるんだよって言いたそうだ。
「これは魅了されない為の御守りみたいなものだよ。リリムのだって聞かないんだぜ?」
とりあえずなんでこの首飾りを未だに持っているかの言い訳をツバキにしたら…
「…ということはやはり貴方達は…!!」
「えっ、いや、ホントに元だから!!嘘じゃないから!!」
俺を現役の勇者だと思ったらしく、少年が怖い顔しながら剣を構えてきた。
…マジどうしよう…
「リリスを傷付けなんかさせませんよ?」
「てかさっきからリリスって誰の事だよ!?」
「しらばっくれないで下さい。このファストサルド領領主のリリム、黒勇者の事ですよ!」
「へっ!?」
黒勇者?リリムが勇者?
一体どういう事だろうか…とか考えている暇はなさそうだ。
「では…覚悟!!」
「うおっと!」
今すぐにでも動きだしそうだったが…やはり剣で攻撃された。
なんとか後転してかわしたが、結構ギリギリだった。
「そう簡単には行きませんか…なら…」
再び剣を構え……ずに、俺の方に手をかざして…
「本当は使いたくないのですが…リリスやこの街に危害を加えさせないためにも…LA「『アクアピストル』!!」…え!?」
なにかとてつもなくヤバそうなことをされる前に、いつも聞く可愛い声が後ろからしたと思ったら、後ろから大量の水が直線状に飛んできた。
「いったい何が…アクアスではないだろうけど…」
「うおっ!?」
が、どうやったのかわからないがその水をこの少年が弾き飛ばしてしまった。
「ちょっと!ユウロが何かしたんですか!?それともあなたは勇者か何かですか!?」
「なんでユウロお兄ちゃんおそわれてるの!?」
後ろを見てみると…毛が短いワーシープと幼いリリム…サマリとアメリちゃんが立っていた。
どうやら追いついたらしい…タイミングが良いやら悪いやら…
「え?魔物?しかもお連れの方ですか?」
いや…タイミングは良かったらしい。サマリ達を見た少年が動きを止めて俺に疑問を投げかけてきた。
「だから言ったじゃねえか…俺は今は勇者やってねえって…こいつらと旅してるんだよ…」
「どうやらそうらしいですね…失礼しました」
どうやら誤解が解けたらしい…警戒態勢が無くなった。
「えっと…どうなってるの?」
「俺が現役の勇者と勘違いされて自警隊っぽいこの少年に攻撃されてただけだ。こっちの過失だからきにすんな」
「え?そうなの?じゃあじけいたいのお兄ちゃん、魔法つかってゴメンなさい」
「あ、いや、こちらこそ早とちりをしてしまったようで…」
さっきまでの空気が嘘のように、少年は朗らかになった気がする。
「ところで一ついいかな?」
「はい、なんでしょうか?」
と、少年が話を聞いてくれそうになったからか、ここでツバキが少年に質問をした。
「さっきこの街の領主がリリムだって言ってたけど…本当かい?」
「はい、リリスはこの街の領主のリリムですが…」
「ホント!?おねがい!アメリたちをそのリリスお姉ちゃんのところにつれてって!!」
リリムがこの街に居る…しかもまた領主だ。
領主が多い気がするのはやっぱ魔王の娘だからかな?
「え?なぜですか?」
「アメリはお姉ちゃんに会うために旅してるの!」
「お姉ちゃん…すると君はリリム?」
「うん!!」
「そうですか…では案内します。僕についてきて下さい」
俺達は少年…名前はホープと言うらしい…の案内でリリスさんの所まで案内された…
=======[サマリ視点]=======
「ほえ〜〜〜…」
「マジか…すげえな…」
「リリスお姉ちゃんカッコいい〜!!」
アメリちゃんのお姉さん…リリスさんの所まで案内されている間に、ホープくんからいろいろとお話を聞いた。
この街の領主でアメリちゃんのお姉さんであるリリスさんは魔物の勇者…黒勇者として、教団から魔物や勇者の救済をしているらしい。
そんなホープくんもリリスさんに救われた白勇者の一人だったとの事。
白勇者の意味はよくわからない。聞こうとしても「知らない方が良いですよ…」の一点張りなので言いたくないのだろう。
で、そんなホープくんはリリスさんの伴侶なんだって!私より幼く見えるのにもう結婚、しかもリリムとしているなんて…もしかしなくても凄い人?
「ホープ、その者達は?もしかして道案内してるのか?」
「あ、リートさん」
と、話の内容に感心していたら変わった鎧を着た女の人がホープくんに話しかけてきた。
見た目あんまり人と変わらないように思うけど、耳が尖っているから魔物なんだろう。
この魔物…リートさんってなんて種族だろう?
「はい、このリリムの女の子がお姉さんに会う旅をしているらしくて…今リリスの所まで案内してるとこです」
「そうか…ならついでにホープもそのままリリス様と共に居ろ」
「え!?しかし僕はまだ…」
「客人が急に暴れ出した時の護衛としていてほしい」
「…わかりました」
リートさんって上司…みたいなものなのかな?
それと私達が暴れるって…何言ってるん…
…いや、違うな。ホープくんが余所見した隙にリートさんが目線で誤ってきた。
おそらくホープくんは働き人間か何かなのだろう。
それで適当に理由をでっちあげて、リリスさんと一緒に居させようとしてるのか。
いい人だなぁ…
「あ、一応彼女の紹介もしておきます。彼女はリートさん、リリスの側近兼親友の『デュラハン』です」
「あーデュラハンか。首取れるんですか?」
「取れるが取る気はない」
デュラハンって種族か〜…って首が取れる!?
どういうこと?後でアメリちゃんに聞いてみようかな。
「それと…」
「あれ?No.9s…じゃなくてホープとリートじゃん。こいつら誰?」
ホープくんが何かを言いかけたときにいきなり眼鏡を掛けた男の子がヒョッコリと現れた。
「ん?コルト、もう学校終わったのか?楽しかったか?」
「もうって…もうそろそろ夕方だよ?あと学校はいつも通り普通だったよ。相変わらず授業はつまらないけど」
「そうか。真面目に授業は受けるんだぞ」
「わかってるよ。あ、とりあえず帰ったらゴハン作っておくよ」
「ああ頼む。だが怪我には気をつけるんだぞ」
「リートよりは怪我する心配ないよ。なんたってボクの方が家事は優秀だからね!」
「コルト…それを人の前で言うな…」
そして、リートさんの仲良さそうに会話を始めた。
「で、こいつらは?」
「ああ…リリス様の客人だ」
「ふーん…そういえばこの女の子、サキュバスって言うよりリリムだね。黒勇者とどこか似てるとこあるし」
「アメリはリリムだよ!!」
年齢は…アメリちゃんよりは上かな?
でもまだ子供だろう。リートさんと話をしている姿はまさに……
「彼はコルト。僕と同じく元白勇者の一人で…まあ見ての通りリートさんとは姉と弟みたいなものですね」
「な!?ちが……うって言いきれないのが悔しいな…」
そう、姉と弟にしか見えない。
外見全く違うのに実の姉と弟にしか見えない。
それだけ仲良く見えるのだ。
…ちょっとだけうらやましいな…私も妹や弟が欲しかったな…アメリちゃんが居るから今はいいけど。
「で、黒勇者の客を案内しなくていいの?」
「あ、そうですね。では皆さんまた僕についてきて下さい!」
そう言ってホープくんは再び歩きだしたので、私達はついていった。
「はぁ…リリス様も含め、あの二人は働き過ぎだ。あの客人達と少しは休んでくれたらいいが…」
「ボクからしたらリートも十分働き過ぎだと思うけどね。休まないと家事すらまともに出来なくなるんじゃない?」
「なっ!?」
「ま、リートが相手を見つけるまではボクがついてるから安心だけど、これじゃあ将来が心配だよ」
「…お前はいつになったら素直になるんだ…」
「…これでも素直になったと自分で思うよ?」
「まあ…いい……夕飯は任せた。私も時間になったら帰るからな」
「任せてよ」
リートさんとコルトくんの会話が少し聞こえてきたが、ホントうらやましく感じた。
なんで私に兄弟姉妹が居ないんだろう…もう一人位作ってくれてもよかったのに…
…………
………
……
…
「あれ?どうしたのホープ?珍しいじゃない」
「リリスに会いたいって言う子が居てね…妹さんだって」
「妹?……あ!!」
あれから少し歩き、とある部屋に案内された私達。
その部屋の中にはアメリちゃんとそっくりな、それでも細部はやっぱりアメリちゃんともアクチさんとも違うリリムが居た。
つまりこのリリムがアメリちゃんのお姉さんで黒勇者さんのリリスさんなのだろう。
で、そんなリリスさんだと思われるリリムがアメリちゃんのほうを見て…
「あなたはもしかして…アメリね!!久しぶり〜!!」
「むにゅっ!?」
って言いながらアメリちゃんに抱きついてきた。
その豊満な胸にアメリちゃんの頭を埋め込むような形で……胸分けてほしい…
ってあれ?アメリちゃんの事知ってる?
「むにゅぅ…あれ?リリスお姉ちゃんアメリのこと知ってるの?」
「もちろん!アメリはまだ今よりうんと小さかったから覚えていないかもしれないけど、アメリを抱っこしてあげた事もあるんだから!」
「ホント!?」
「ホントよ!!大きくなったわねアメリ!私の領地にようこそ!」
なるほど、アメリちゃんがまだ赤ん坊だった頃かな?その位の時はまだ魔王様のお城に居たってことか。
なら姉として妹の事を知っててもおかしくないか。
「それで貴方達は?人間の男の子2人とワーシープの女の子のようだけど…」
リリスさんが私達のほうを向いて聞いてきたので自己紹介をする事にした。
「あ、私達はアメリちゃんと一緒に旅している仲間です。私はサマリ、この前までは人間で、ちょっとした都合でアメリちゃんにワーシープにしてもらいました」
「俺はユウロです。ただのしがない元勇者です」
「僕はツバキです。一緒に旅してるジパング人ってところです」
「そう…皆さん、アメリの事をよろしくお願いしますね」
「あ、はい!」
領主で黒勇者なんて言うからもっと凄い人オーラが全開なイメージがあったけど、こうみるとちょっと凄いだけの普通の女の子のようだ。
「あ、そうだ!ユウロって君だよね?」
「え?はいそうですが…何か?」
と、リリスさんが何かを思い出したかのようにユウロに話しかけた。
「えっとね…もし幼いリリムと旅をしているユウロって子がきたら酒場まで連れてきてほしいってNと名乗る人物から頼まれてたんだ」
「へっ!?なんで!?てかNって誰!?」
「さあ?なんか苦労してそうだからこの領地に来たら酒奢ってやるって言ってたけど…」
どうやら誰かさんにユウロの事が知られているらしい。
…何者なんだそのNって人物。
「そうですか…よくわかりませんがまあリリスさんが領主をやってるこの領地でそうそうおかしな人は居ないと思うんで行ってきます。酒場の場所教えてもらえますか?」
「そうね…いいわ、私が送ってあげる」
「へ?あっ!」
そう言ってリリスさんはユウロの足元に魔法陣を展開させた。
おそらく転移魔法だろう。あっという間にユウロの身体が光に包まれ消えた。
「あ、それとサマリちゃん」
「え?あ、はい」
「そのNと名乗る人物がサマリちゃんの料理を食べてみたいとも言ってたけど…料理上手なの?」
「え、ええ、まあ…」
私の事も知っているとは…本当に何者なんだそのNって人物?
「部屋の奥にキッチンがあるからそこで何かお弁当を作ってあげるといいわ」
「そうですね…まあユウロを迎えに行くついでに渡してきます」
何者かはわからないけど、まあ望んでいるなら作ってあげるか…
「で、ホープはどうするの?自警部隊の仕事に戻るの?」
「いえ、リートさんに客人が急に暴れ出した時の為にリリスの護衛をしろって言われたから今日はもうずっと傍に居るよ」
「ホント!?じゃあ今からそのお客さん達とお話するから私の隣にゆったりと座りながら護衛してね!!」
「それ護衛って言うのかな…まあいいか」
「ということでアメリ、私といっぱいお喋りしようか!お茶とお菓子も用意したわ!」
「ワーイ!!それじゃあアメリはリリスお姉ちゃんとホープお兄ちゃんのことききたい!!」
「あ、それ僕も興味あります。ぜひ聞かせてください」
「いいわよ!じゃあまず私とホープの出会いから…」
「ちょっとリリス!!それは気軽に子供に話していいものじゃ…」
惚気モードに入ったリリスさんをよそに私はキッチンでお弁当を作る事にした。
時々聞こえてくる声に驚きながらもお弁当が完成したので、初エッチの話を詳しく聞いた後にユウロが居る酒場まで転移してもらうことにした。
====================
「はあっ……はあっ……ふぅ……もう、いったい何だったのあの人…」
「ぐぅ〜…………」
とりあえず状況を整理しよう。
まずリリスさんに転移してもらった私はすぐに酒場で白ワインと赤ワインを飲んで酔っ払ってるユウロを見つけた。
で、その近くにNと名乗る人物がユウロと一緒にいたのだ。
そのNと名乗る人物にユウロは本当に奢ってもらっていたのでお礼を言って私が作ったお弁当を渡した。
ここまでは特に問題無かった。無かったのだが…
そのNと名乗る人物も酔っていたのか、「ワーシープモコモコ♪」とか言いながらいきなり私に抱きついてきたのだ。
何かしらの危機を感じた私は咄嗟に鞄の中に潜ませておいた私の刈り取ってあった毛を取り出し、Nと名乗る人物の顔に押し付けて眠らせた。
そのままその毛を枕として寝かせたままユウロを背中に抱えながらダッシュで我武者羅に逃げてきたのだ。
少し失礼だったかもしれないが、私が作ったお弁当と私の毛を大きなクッションサイズで置いてきたのだから許してほしいところだ。
で、今は夕陽が綺麗に輝く、この街を一望出来る丘の上に居る。
ちなみにユウロはお酒の酔いと私の毛皮の効果でぐっすりと寝ている。あまり重く感じないのは私が魔物になったからだろうか?
「お兄ちゃん!早く帰ってご飯にしよ!今日はお兄ちゃんが作る海のシチューだから楽しみだなあ〜!」
「少し待てよマリー、ったく…こっちは仕事上がりだっつーのに…」
ちょっと遠くのほうで兄妹…っていっても妹はサキュバスみたいだけど…が今日の夕飯の話をしながら妹は嬉しそうに急ぎ足で、兄は疲れているのかのんびりと歩いている。
「そうだお兄ちゃん!私また成長したみたいなんだけど触って確かめてよ!」
「…女の子が男に気軽に胸を触らせようとするんじゃありません」
「はぁ〜……まだまだかぁ…」
…いや、兄妹って言うよりは…女の子は男の子に恋をしているのかな…頑張れ!
「フィジル…詩は完成したか?」
「ああマリア…おかげさまで完成したよ。見てみるかい?」
また、この丘の一角では詩人と思われる男性と、この夕陽の様な赤毛で角や尻尾などが生えた褐色の女性(なんて魔物だろ?サキュバスの一種っぽいけど…)が居た。
仲睦まじくいるその光景からおそらく夫婦かそれに準ずる関係だろう。
「いや、仕事後の時間があるときでいい。それよりもだ…仕事の前にだな…」
「は、はは…これから夜勤なんだからほどほどにしたほうがいいかと思うけどね…」
うん、絶対そうだろう。
じゃなきゃ女性の方からあんな不敵な笑みは出ないだろうからね。
………………
…しかし、本当に綺麗な光景だ……
「ねえユウロ、美しいと思わない?」
「ぐぅ………すぅ…………」
「…もう……仕方ないなあ……」
綺麗な光景を一人で見るのもなんだから二人で見たかったが、ユウロは相変わらずぐっすりと寝ていた。
そんなユウロに軽く呆れながらも、ユウロを背負いながら、私はリリスさんの所に戻ろうとして…
「あれ?どこだったっけ?」
迷子になっていた。
「そこの羊のお譲さん」
「ひゃい!?」
どうしようかと考えていたらいきなり後ろから声を掛けられてビックリした。
さっきまで全く気配を感じなかったのに…いったいいつの間に現れたんだろうか。
「迷子かな?」
「は、はい。領主様のとこに戻りたいのですが迷っちゃって…」
「それなら我輩が案内してあげよう。これでも自警部隊の一員だから安心したまえ。それに今から勤務だから遠慮することはない」
そう言ってくれた男の人は…ヴァンパイアみたいな見た目をしていた…なんで?
「ん?どうかしたのかな?」
「あ、いえ、すいません…えっと、あなたは?」
「我輩はヴラドと言う。我が妻はヴァンパイアだから我輩も夜にしか戦えなくて夜勤なのだよ」
「あ、そうですか…ではヴラドさん、お言葉に甘えて道案内を頼みます」
ヴラドさんはヴァンパイアの奥さんがいるからこんな見た目なのかなと思いながら、私はヴラドさんの案内で無事リリスさんの所まで戻る事が出来た。
「それでホープったら私が抱き寄せて胸に顔を埋めたら癒されてるのか眠くなっちゃって〜…」
「ちょっと!?それも言うの!?」
「それで!?それからホープお兄ちゃんをどうしてるのリリスお姉ちゃん?」
「時と場合によるけど…素直に寝かせない時はね…」
「なに?アメリすごく気になる!!早くおしえて!!」
「ふむふむ…とっても仲が良いんですね…」
結構時間が経っていたけどまだ惚気話をしていたのは流石夫持ちの魔物と言ったところか…
でも一番ビックリしたのはその話をずっと真剣に聞いていたアメリちゃんとツバキがいたことだった…
…………
………
……
…
「さてと、これでいいかな」
「すぅー…………」
現在19時。
まだお話したいし、旅の話も聞きたいからとリリスさんに今日は泊まっていくように言われたのでお言葉に甘える事にした私達。
アメリちゃんもお姉ちゃんに会えて嬉しいのかずっとリリスさんにくっついてお話を聞いている。それを若干ホープくんがうらやましそうに見ながらも和やかにお話…いや、惚気話をしていた。
ツバキはツバキでそんなリリスさんとホープくんの様子を見てニヤニヤしてたし…そんなに大切な人同士のやり取りを見るのが楽しいのかな?わからなくは無いけど。
ちなみにユウロはずっと眠りっぱなしで、用意された部屋に私がそのまま連れて行って今ベッドに寝かせたところだ。
「よく眠ってるなぁ…」
「すぅ…………」
特に気をつけながら運んでたわけじゃないから揺れで起きるかと思ったけど一回も起きなかった。そこまでぐっすりと熟睡している。
毎日きちんと、それに昨日はぐっすり寝ているから寝不足という事ではないのだろう。
ってことは単純にユウロはお酒に弱いのかな?それとも私の毛皮の効果?いや両方か?
「じゃ、そろそろ行くね。起きたらユウロもご飯食べに来るんだよ…って聞こえてないか」
「すぅ………んん………」
ただ泊めてもらうだけなのはアレなので、私も夕飯の準備を手伝う事にした。
だからそろそろ行かないと完成が遅れてしまい、皆(特にアメリちゃん)のお腹の音が私に空腹を訴えかけてくるだろう。
なので、ユウロを置いて部屋から出て行こうとした、そのとき……
「……ごめん……なさい……」
「……へ?」
ユウロがいきなり謝ってきた。
「もう……しないから……」
「……寝言か…」
しかし、ユウロは寝ている。
なので寝言だろうけど…いったいどんな夢を見ているのだろうか?
「だから……すてない…で……」
「……え!?」
少なくとも楽しい夢ではないだろう……
なぜなら……寝ているユウロの目から、涙が流れているからだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「…………」
捨てないでって言っているから、何か大切な物でも捨てられそうになっているのだろうか?
もうしないとかごめんなさいとか言っているから悪い事でもして怒られてもいるのか?
「ごめんなさ……………すぅ……」
「……」
ユウロが見ている夢の内容がとても気になるが、それを見る手段は無い。
それに寝言を言うのをやめてまた寝息を立て始めたので、私はユウロをそっとしとく事にした。
「さて、料理のお手伝いに行きますか!」
まだ気にはなるけど、私はユウロを寝かせたまま夕飯の準備を手伝いに行った。
目を開けると…広がる青…
天から差し込む光が、辺りを幻想的に照らす。
ここに来てから、もう数カ月が経ったらしい…
時間の感覚がよくわからないから、『らしい』。
でも…それでもいい…
時間なんて関係なく…ただ浮いていればいいのだ。
そう…この青に身を任せ…ただ…
でも…『会いたい』…
わたしは…『会いたい』…
生きていると、伝えたい…
大切な、幼馴染みに、伝えたい…
でも、わたしが今どこに居るかわからない。
だから、会いに行けない…
会いたい…
=======[サマリ視点]=======
「もっこもこアターック!!」
「きゃー♪」
「…なにしてんの?」
現在21時。
私とアメリちゃんは『テント』で遊んでいた。簡単にいえば寝る前の運動というか触れ合いだ。
ワーシープになり、もこもことした毛皮が生えた私。そのもこもこした身体でアメリちゃんに勢いよく抱きついた。だから「もこもこアタック」だ。
ちなみに、シャワーを浴び終え出てきたユウロに何してるのかと言われてしまったが…
「ユウロにはもこもこホールドだー!!」
「ちょ!?なにするんだ…あ……ねむ………ぐぅ…………」
「うわぁ…さっきまで普通に起きてたユウロが寝ちゃった…」
「サマリお姉ちゃんすごーい!」
後ろから完全に胸や身体が密着する形でユウロに抱きついた。相手の動きを制限するように抱きつくから「もこもこホールド」である。
いくら私の毛が短めでも、ここまで密着されたらワーシープの毛皮が纏っている眠りの魔力が抱きつかれた対象に速攻で襲いかかる。つまり、相手は眠ってしまうのだ。しかも抱きついている時に身体を擦り付けるように動かしたらさらに効果が出る。
結果、ユウロはすやすやと私に抱かれながら寝てしまったのだ。
「ぐぅ…………ぐぅ…………」
「気持ちよさそうに寝てるわね〜…勇者に襲われたときにこれやってみようかしら?」
「その前に攻撃されてそうだけどね……ところで、いつまでユウロに胸を押しつけてるんだい?」
「…なんか気持ちよくて……」
なんだか自分のおっぱいをユウロに押しつけていると私まで気持ちよくて…
寝てしまうって事じゃないんだと思うけど…トロンとしてきて…
「……そのままだと魔物の本能に任せてユウロを強姦しそうだね……」
「おっと!それはマズい!ナイスツッコミだよツバキ!」
ツバキに言われて気が付いた。私今ちょっと興奮していたんだ。
私は慌てて寝ているユウロから離れた。
危なかった…このまま魔物の本能に身を任せてユウロを襲っていたらきっとユウロは怒るどころじゃ済まないんだろうな…
「ふぁ〜〜……ユウロお兄ちゃんがねてるのを見てたらアメリもねむくなっちゃった…」
「じゃあもう寝よっか。ツバキは?」
「僕も寝るけど、その前にユウロをベッドまで運ばなきゃね」
私達はユウロをベッドまで運んだあと、それぞれのベッドに入り寝る事にした。
もちろんアメリちゃんは私に抱かれながら一緒に寝る。
アメリちゃんが私の抱き心地が最高と言っていたが、それは違うと思う。
だって、アメリちゃんの抱き心地のほうが最高だもん。
異論がある人がいたら抱かせてみt…いや、アメリちゃんは誰にも譲らない!!
…………………
ぐぅ…………
=======[ユウロ視点]=======
「…で、二人はまだか?」
「さぁ…まだなんじゃない?まだ後ろには見えないし…」
昼過ぎ、というよりは夕方に近くなってきた頃、俺達はそろそろファストサルド領に到着するってところまで来たのだが…
今ここに居るのは俺とツバキの二人だけだった。
「たく…「すぐ追いつくから先に行ってて」って言うから先行ったけど…こりゃあ待ってた方が良かったか?」
「まあ仕方ないんじゃない?実際昨日ユウロも熟睡してたんだし」
「はぁ…だったらやるなよな…」
なぜアメリちゃんとサマリの二人が居ないのかというと…昼ご飯を食べ終わった後サマリがアメリちゃんにもこもこホールドだっけか?昨日俺にやったことと同じ事をやったのだ。
確かにアメリちゃんもやってって言ってたけど…あれやられると深い眠りについて簡単には起きられないんだよね。
ってことでアメリちゃんが熟睡してしまい、「なんとか起こしてから行く、すぐ追いつくから先に行ってて」って言われたので俺とツバキで先に行くことになったのだ。
だが、結局まだ来る気配が無い。こちらに向かっている最中だといいのだが…
「ま、先に領内に入ってリリムの情報でも集めるか」
「そうだね。まあ余程の事が無い限り合流は出来るだろうしね」
つーわけで、俺達はファストサルド領に入ろうと…
「そこの二人、何をしているんですか?」
…入ろうとしたけど、自警隊員か何かか、男の人…てか同じ位の少年に止められてしまった。
「えっと…俺達はただの旅人です」
「本当ですか?」
どうやら俺達の事を疑っているらしい…
まあ無理もないか。だって武器を持った見知らぬ男が二人で居るんだもんな…
しかしこの少年、凄い気迫だ。おもわず後退りしてs…
「うわったあっ!!」
「…!!」
…後退りしてたら段差があったらしく、後ろ向きに転んでしまった。
しかも…
「その十字の首飾り…貴方達は教団の者ですね!!」
「あ…」
転んだ拍子にポケットから首飾りが出てしまった。
これって教団の証みたいなものだから…親魔物領で出したら非常に不味いよなぁ…
慌ててしまったけどもう遅いよな…
だって少年が疑いの目で俺を睨んでるし。
「なぜここへ…まさかリリスを狙って…!?」
「あ、その、俺は勇者じゃ…ていうか元勇者であって今は違うんだけど…」
「…信じられるとでも?」
「ですよね〜…」
やっちゃったなぁ…絶対マズい事になったよな…
なんとなく目線でツバキに助けを求めるけど…
「はぁ……」
溜息つかれました。
なんでそんな物持ってるんだよって言いたそうだ。
「これは魅了されない為の御守りみたいなものだよ。リリムのだって聞かないんだぜ?」
とりあえずなんでこの首飾りを未だに持っているかの言い訳をツバキにしたら…
「…ということはやはり貴方達は…!!」
「えっ、いや、ホントに元だから!!嘘じゃないから!!」
俺を現役の勇者だと思ったらしく、少年が怖い顔しながら剣を構えてきた。
…マジどうしよう…
「リリスを傷付けなんかさせませんよ?」
「てかさっきからリリスって誰の事だよ!?」
「しらばっくれないで下さい。このファストサルド領領主のリリム、黒勇者の事ですよ!」
「へっ!?」
黒勇者?リリムが勇者?
一体どういう事だろうか…とか考えている暇はなさそうだ。
「では…覚悟!!」
「うおっと!」
今すぐにでも動きだしそうだったが…やはり剣で攻撃された。
なんとか後転してかわしたが、結構ギリギリだった。
「そう簡単には行きませんか…なら…」
再び剣を構え……ずに、俺の方に手をかざして…
「本当は使いたくないのですが…リリスやこの街に危害を加えさせないためにも…LA「『アクアピストル』!!」…え!?」
なにかとてつもなくヤバそうなことをされる前に、いつも聞く可愛い声が後ろからしたと思ったら、後ろから大量の水が直線状に飛んできた。
「いったい何が…アクアスではないだろうけど…」
「うおっ!?」
が、どうやったのかわからないがその水をこの少年が弾き飛ばしてしまった。
「ちょっと!ユウロが何かしたんですか!?それともあなたは勇者か何かですか!?」
「なんでユウロお兄ちゃんおそわれてるの!?」
後ろを見てみると…毛が短いワーシープと幼いリリム…サマリとアメリちゃんが立っていた。
どうやら追いついたらしい…タイミングが良いやら悪いやら…
「え?魔物?しかもお連れの方ですか?」
いや…タイミングは良かったらしい。サマリ達を見た少年が動きを止めて俺に疑問を投げかけてきた。
「だから言ったじゃねえか…俺は今は勇者やってねえって…こいつらと旅してるんだよ…」
「どうやらそうらしいですね…失礼しました」
どうやら誤解が解けたらしい…警戒態勢が無くなった。
「えっと…どうなってるの?」
「俺が現役の勇者と勘違いされて自警隊っぽいこの少年に攻撃されてただけだ。こっちの過失だからきにすんな」
「え?そうなの?じゃあじけいたいのお兄ちゃん、魔法つかってゴメンなさい」
「あ、いや、こちらこそ早とちりをしてしまったようで…」
さっきまでの空気が嘘のように、少年は朗らかになった気がする。
「ところで一ついいかな?」
「はい、なんでしょうか?」
と、少年が話を聞いてくれそうになったからか、ここでツバキが少年に質問をした。
「さっきこの街の領主がリリムだって言ってたけど…本当かい?」
「はい、リリスはこの街の領主のリリムですが…」
「ホント!?おねがい!アメリたちをそのリリスお姉ちゃんのところにつれてって!!」
リリムがこの街に居る…しかもまた領主だ。
領主が多い気がするのはやっぱ魔王の娘だからかな?
「え?なぜですか?」
「アメリはお姉ちゃんに会うために旅してるの!」
「お姉ちゃん…すると君はリリム?」
「うん!!」
「そうですか…では案内します。僕についてきて下さい」
俺達は少年…名前はホープと言うらしい…の案内でリリスさんの所まで案内された…
=======[サマリ視点]=======
「ほえ〜〜〜…」
「マジか…すげえな…」
「リリスお姉ちゃんカッコいい〜!!」
アメリちゃんのお姉さん…リリスさんの所まで案内されている間に、ホープくんからいろいろとお話を聞いた。
この街の領主でアメリちゃんのお姉さんであるリリスさんは魔物の勇者…黒勇者として、教団から魔物や勇者の救済をしているらしい。
そんなホープくんもリリスさんに救われた白勇者の一人だったとの事。
白勇者の意味はよくわからない。聞こうとしても「知らない方が良いですよ…」の一点張りなので言いたくないのだろう。
で、そんなホープくんはリリスさんの伴侶なんだって!私より幼く見えるのにもう結婚、しかもリリムとしているなんて…もしかしなくても凄い人?
「ホープ、その者達は?もしかして道案内してるのか?」
「あ、リートさん」
と、話の内容に感心していたら変わった鎧を着た女の人がホープくんに話しかけてきた。
見た目あんまり人と変わらないように思うけど、耳が尖っているから魔物なんだろう。
この魔物…リートさんってなんて種族だろう?
「はい、このリリムの女の子がお姉さんに会う旅をしているらしくて…今リリスの所まで案内してるとこです」
「そうか…ならついでにホープもそのままリリス様と共に居ろ」
「え!?しかし僕はまだ…」
「客人が急に暴れ出した時の護衛としていてほしい」
「…わかりました」
リートさんって上司…みたいなものなのかな?
それと私達が暴れるって…何言ってるん…
…いや、違うな。ホープくんが余所見した隙にリートさんが目線で誤ってきた。
おそらくホープくんは働き人間か何かなのだろう。
それで適当に理由をでっちあげて、リリスさんと一緒に居させようとしてるのか。
いい人だなぁ…
「あ、一応彼女の紹介もしておきます。彼女はリートさん、リリスの側近兼親友の『デュラハン』です」
「あーデュラハンか。首取れるんですか?」
「取れるが取る気はない」
デュラハンって種族か〜…って首が取れる!?
どういうこと?後でアメリちゃんに聞いてみようかな。
「それと…」
「あれ?No.9s…じゃなくてホープとリートじゃん。こいつら誰?」
ホープくんが何かを言いかけたときにいきなり眼鏡を掛けた男の子がヒョッコリと現れた。
「ん?コルト、もう学校終わったのか?楽しかったか?」
「もうって…もうそろそろ夕方だよ?あと学校はいつも通り普通だったよ。相変わらず授業はつまらないけど」
「そうか。真面目に授業は受けるんだぞ」
「わかってるよ。あ、とりあえず帰ったらゴハン作っておくよ」
「ああ頼む。だが怪我には気をつけるんだぞ」
「リートよりは怪我する心配ないよ。なんたってボクの方が家事は優秀だからね!」
「コルト…それを人の前で言うな…」
そして、リートさんの仲良さそうに会話を始めた。
「で、こいつらは?」
「ああ…リリス様の客人だ」
「ふーん…そういえばこの女の子、サキュバスって言うよりリリムだね。黒勇者とどこか似てるとこあるし」
「アメリはリリムだよ!!」
年齢は…アメリちゃんよりは上かな?
でもまだ子供だろう。リートさんと話をしている姿はまさに……
「彼はコルト。僕と同じく元白勇者の一人で…まあ見ての通りリートさんとは姉と弟みたいなものですね」
「な!?ちが……うって言いきれないのが悔しいな…」
そう、姉と弟にしか見えない。
外見全く違うのに実の姉と弟にしか見えない。
それだけ仲良く見えるのだ。
…ちょっとだけうらやましいな…私も妹や弟が欲しかったな…アメリちゃんが居るから今はいいけど。
「で、黒勇者の客を案内しなくていいの?」
「あ、そうですね。では皆さんまた僕についてきて下さい!」
そう言ってホープくんは再び歩きだしたので、私達はついていった。
「はぁ…リリス様も含め、あの二人は働き過ぎだ。あの客人達と少しは休んでくれたらいいが…」
「ボクからしたらリートも十分働き過ぎだと思うけどね。休まないと家事すらまともに出来なくなるんじゃない?」
「なっ!?」
「ま、リートが相手を見つけるまではボクがついてるから安心だけど、これじゃあ将来が心配だよ」
「…お前はいつになったら素直になるんだ…」
「…これでも素直になったと自分で思うよ?」
「まあ…いい……夕飯は任せた。私も時間になったら帰るからな」
「任せてよ」
リートさんとコルトくんの会話が少し聞こえてきたが、ホントうらやましく感じた。
なんで私に兄弟姉妹が居ないんだろう…もう一人位作ってくれてもよかったのに…
…………
………
……
…
「あれ?どうしたのホープ?珍しいじゃない」
「リリスに会いたいって言う子が居てね…妹さんだって」
「妹?……あ!!」
あれから少し歩き、とある部屋に案内された私達。
その部屋の中にはアメリちゃんとそっくりな、それでも細部はやっぱりアメリちゃんともアクチさんとも違うリリムが居た。
つまりこのリリムがアメリちゃんのお姉さんで黒勇者さんのリリスさんなのだろう。
で、そんなリリスさんだと思われるリリムがアメリちゃんのほうを見て…
「あなたはもしかして…アメリね!!久しぶり〜!!」
「むにゅっ!?」
って言いながらアメリちゃんに抱きついてきた。
その豊満な胸にアメリちゃんの頭を埋め込むような形で……胸分けてほしい…
ってあれ?アメリちゃんの事知ってる?
「むにゅぅ…あれ?リリスお姉ちゃんアメリのこと知ってるの?」
「もちろん!アメリはまだ今よりうんと小さかったから覚えていないかもしれないけど、アメリを抱っこしてあげた事もあるんだから!」
「ホント!?」
「ホントよ!!大きくなったわねアメリ!私の領地にようこそ!」
なるほど、アメリちゃんがまだ赤ん坊だった頃かな?その位の時はまだ魔王様のお城に居たってことか。
なら姉として妹の事を知っててもおかしくないか。
「それで貴方達は?人間の男の子2人とワーシープの女の子のようだけど…」
リリスさんが私達のほうを向いて聞いてきたので自己紹介をする事にした。
「あ、私達はアメリちゃんと一緒に旅している仲間です。私はサマリ、この前までは人間で、ちょっとした都合でアメリちゃんにワーシープにしてもらいました」
「俺はユウロです。ただのしがない元勇者です」
「僕はツバキです。一緒に旅してるジパング人ってところです」
「そう…皆さん、アメリの事をよろしくお願いしますね」
「あ、はい!」
領主で黒勇者なんて言うからもっと凄い人オーラが全開なイメージがあったけど、こうみるとちょっと凄いだけの普通の女の子のようだ。
「あ、そうだ!ユウロって君だよね?」
「え?はいそうですが…何か?」
と、リリスさんが何かを思い出したかのようにユウロに話しかけた。
「えっとね…もし幼いリリムと旅をしているユウロって子がきたら酒場まで連れてきてほしいってNと名乗る人物から頼まれてたんだ」
「へっ!?なんで!?てかNって誰!?」
「さあ?なんか苦労してそうだからこの領地に来たら酒奢ってやるって言ってたけど…」
どうやら誰かさんにユウロの事が知られているらしい。
…何者なんだそのNって人物。
「そうですか…よくわかりませんがまあリリスさんが領主をやってるこの領地でそうそうおかしな人は居ないと思うんで行ってきます。酒場の場所教えてもらえますか?」
「そうね…いいわ、私が送ってあげる」
「へ?あっ!」
そう言ってリリスさんはユウロの足元に魔法陣を展開させた。
おそらく転移魔法だろう。あっという間にユウロの身体が光に包まれ消えた。
「あ、それとサマリちゃん」
「え?あ、はい」
「そのNと名乗る人物がサマリちゃんの料理を食べてみたいとも言ってたけど…料理上手なの?」
「え、ええ、まあ…」
私の事も知っているとは…本当に何者なんだそのNって人物?
「部屋の奥にキッチンがあるからそこで何かお弁当を作ってあげるといいわ」
「そうですね…まあユウロを迎えに行くついでに渡してきます」
何者かはわからないけど、まあ望んでいるなら作ってあげるか…
「で、ホープはどうするの?自警部隊の仕事に戻るの?」
「いえ、リートさんに客人が急に暴れ出した時の為にリリスの護衛をしろって言われたから今日はもうずっと傍に居るよ」
「ホント!?じゃあ今からそのお客さん達とお話するから私の隣にゆったりと座りながら護衛してね!!」
「それ護衛って言うのかな…まあいいか」
「ということでアメリ、私といっぱいお喋りしようか!お茶とお菓子も用意したわ!」
「ワーイ!!それじゃあアメリはリリスお姉ちゃんとホープお兄ちゃんのことききたい!!」
「あ、それ僕も興味あります。ぜひ聞かせてください」
「いいわよ!じゃあまず私とホープの出会いから…」
「ちょっとリリス!!それは気軽に子供に話していいものじゃ…」
惚気モードに入ったリリスさんをよそに私はキッチンでお弁当を作る事にした。
時々聞こえてくる声に驚きながらもお弁当が完成したので、初エッチの話を詳しく聞いた後にユウロが居る酒場まで転移してもらうことにした。
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「はあっ……はあっ……ふぅ……もう、いったい何だったのあの人…」
「ぐぅ〜…………」
とりあえず状況を整理しよう。
まずリリスさんに転移してもらった私はすぐに酒場で白ワインと赤ワインを飲んで酔っ払ってるユウロを見つけた。
で、その近くにNと名乗る人物がユウロと一緒にいたのだ。
そのNと名乗る人物にユウロは本当に奢ってもらっていたのでお礼を言って私が作ったお弁当を渡した。
ここまでは特に問題無かった。無かったのだが…
そのNと名乗る人物も酔っていたのか、「ワーシープモコモコ♪」とか言いながらいきなり私に抱きついてきたのだ。
何かしらの危機を感じた私は咄嗟に鞄の中に潜ませておいた私の刈り取ってあった毛を取り出し、Nと名乗る人物の顔に押し付けて眠らせた。
そのままその毛を枕として寝かせたままユウロを背中に抱えながらダッシュで我武者羅に逃げてきたのだ。
少し失礼だったかもしれないが、私が作ったお弁当と私の毛を大きなクッションサイズで置いてきたのだから許してほしいところだ。
で、今は夕陽が綺麗に輝く、この街を一望出来る丘の上に居る。
ちなみにユウロはお酒の酔いと私の毛皮の効果でぐっすりと寝ている。あまり重く感じないのは私が魔物になったからだろうか?
「お兄ちゃん!早く帰ってご飯にしよ!今日はお兄ちゃんが作る海のシチューだから楽しみだなあ〜!」
「少し待てよマリー、ったく…こっちは仕事上がりだっつーのに…」
ちょっと遠くのほうで兄妹…っていっても妹はサキュバスみたいだけど…が今日の夕飯の話をしながら妹は嬉しそうに急ぎ足で、兄は疲れているのかのんびりと歩いている。
「そうだお兄ちゃん!私また成長したみたいなんだけど触って確かめてよ!」
「…女の子が男に気軽に胸を触らせようとするんじゃありません」
「はぁ〜……まだまだかぁ…」
…いや、兄妹って言うよりは…女の子は男の子に恋をしているのかな…頑張れ!
「フィジル…詩は完成したか?」
「ああマリア…おかげさまで完成したよ。見てみるかい?」
また、この丘の一角では詩人と思われる男性と、この夕陽の様な赤毛で角や尻尾などが生えた褐色の女性(なんて魔物だろ?サキュバスの一種っぽいけど…)が居た。
仲睦まじくいるその光景からおそらく夫婦かそれに準ずる関係だろう。
「いや、仕事後の時間があるときでいい。それよりもだ…仕事の前にだな…」
「は、はは…これから夜勤なんだからほどほどにしたほうがいいかと思うけどね…」
うん、絶対そうだろう。
じゃなきゃ女性の方からあんな不敵な笑みは出ないだろうからね。
………………
…しかし、本当に綺麗な光景だ……
「ねえユウロ、美しいと思わない?」
「ぐぅ………すぅ…………」
「…もう……仕方ないなあ……」
綺麗な光景を一人で見るのもなんだから二人で見たかったが、ユウロは相変わらずぐっすりと寝ていた。
そんなユウロに軽く呆れながらも、ユウロを背負いながら、私はリリスさんの所に戻ろうとして…
「あれ?どこだったっけ?」
迷子になっていた。
「そこの羊のお譲さん」
「ひゃい!?」
どうしようかと考えていたらいきなり後ろから声を掛けられてビックリした。
さっきまで全く気配を感じなかったのに…いったいいつの間に現れたんだろうか。
「迷子かな?」
「は、はい。領主様のとこに戻りたいのですが迷っちゃって…」
「それなら我輩が案内してあげよう。これでも自警部隊の一員だから安心したまえ。それに今から勤務だから遠慮することはない」
そう言ってくれた男の人は…ヴァンパイアみたいな見た目をしていた…なんで?
「ん?どうかしたのかな?」
「あ、いえ、すいません…えっと、あなたは?」
「我輩はヴラドと言う。我が妻はヴァンパイアだから我輩も夜にしか戦えなくて夜勤なのだよ」
「あ、そうですか…ではヴラドさん、お言葉に甘えて道案内を頼みます」
ヴラドさんはヴァンパイアの奥さんがいるからこんな見た目なのかなと思いながら、私はヴラドさんの案内で無事リリスさんの所まで戻る事が出来た。
「それでホープったら私が抱き寄せて胸に顔を埋めたら癒されてるのか眠くなっちゃって〜…」
「ちょっと!?それも言うの!?」
「それで!?それからホープお兄ちゃんをどうしてるのリリスお姉ちゃん?」
「時と場合によるけど…素直に寝かせない時はね…」
「なに?アメリすごく気になる!!早くおしえて!!」
「ふむふむ…とっても仲が良いんですね…」
結構時間が経っていたけどまだ惚気話をしていたのは流石夫持ちの魔物と言ったところか…
でも一番ビックリしたのはその話をずっと真剣に聞いていたアメリちゃんとツバキがいたことだった…
…………
………
……
…
「さてと、これでいいかな」
「すぅー…………」
現在19時。
まだお話したいし、旅の話も聞きたいからとリリスさんに今日は泊まっていくように言われたのでお言葉に甘える事にした私達。
アメリちゃんもお姉ちゃんに会えて嬉しいのかずっとリリスさんにくっついてお話を聞いている。それを若干ホープくんがうらやましそうに見ながらも和やかにお話…いや、惚気話をしていた。
ツバキはツバキでそんなリリスさんとホープくんの様子を見てニヤニヤしてたし…そんなに大切な人同士のやり取りを見るのが楽しいのかな?わからなくは無いけど。
ちなみにユウロはずっと眠りっぱなしで、用意された部屋に私がそのまま連れて行って今ベッドに寝かせたところだ。
「よく眠ってるなぁ…」
「すぅ…………」
特に気をつけながら運んでたわけじゃないから揺れで起きるかと思ったけど一回も起きなかった。そこまでぐっすりと熟睡している。
毎日きちんと、それに昨日はぐっすり寝ているから寝不足という事ではないのだろう。
ってことは単純にユウロはお酒に弱いのかな?それとも私の毛皮の効果?いや両方か?
「じゃ、そろそろ行くね。起きたらユウロもご飯食べに来るんだよ…って聞こえてないか」
「すぅ………んん………」
ただ泊めてもらうだけなのはアレなので、私も夕飯の準備を手伝う事にした。
だからそろそろ行かないと完成が遅れてしまい、皆(特にアメリちゃん)のお腹の音が私に空腹を訴えかけてくるだろう。
なので、ユウロを置いて部屋から出て行こうとした、そのとき……
「……ごめん……なさい……」
「……へ?」
ユウロがいきなり謝ってきた。
「もう……しないから……」
「……寝言か…」
しかし、ユウロは寝ている。
なので寝言だろうけど…いったいどんな夢を見ているのだろうか?
「だから……すてない…で……」
「……え!?」
少なくとも楽しい夢ではないだろう……
なぜなら……寝ているユウロの目から、涙が流れているからだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「…………」
捨てないでって言っているから、何か大切な物でも捨てられそうになっているのだろうか?
もうしないとかごめんなさいとか言っているから悪い事でもして怒られてもいるのか?
「ごめんなさ……………すぅ……」
「……」
ユウロが見ている夢の内容がとても気になるが、それを見る手段は無い。
それに寝言を言うのをやめてまた寝息を立て始めたので、私はユウロをそっとしとく事にした。
「さて、料理のお手伝いに行きますか!」
まだ気にはなるけど、私はユウロを寝かせたまま夕飯の準備を手伝いに行った。
12/04/15 17:40更新 / マイクロミー
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