旅12 新たなる旅立ちっていうとカッコイイよね!
「ん…んん〜……ふぁっふ……」
現在7時。ちょうど目が覚めたところだ。
私の傍にはもちろんアメリちゃんが寝ている。魔物化した時のあれを除けば久々にアメリちゃんと一緒に寝た事になる。
久々だからか、それともワーシープになった私に抱かれながら寝ているからかいつも以上に気持ちよさそうに寝ている…起こさないようにしないとね。
私は昨日退院したので今日は町長さんの家の二階に泊めてもらった。
私が入院していた間、基本的にはネオムさんと一緒に居るプロメ以外はここに泊めてもらっていたらしい。ディナマを退治したお礼だとか。
そのお礼で私の治療費などもタダとなっている…一応昨日感謝しておいたけどまだし足りないな…
「おはようございます!」
「おっ!おはようさん!ワーシープが一番早起きとは面白いねえ!」
アメリちゃんや皆を起こさないように私はそっとベッドから抜けだし、一階に下りた。
キッチンのほうからいい匂いがしたので向かってみたら、町長の奥さんのドワーフさんが朝ご飯を作っていた。
なので私は挨拶と感謝の言葉を言う事にした。
「ははは……いやあ、いろいろとありがとうございます。おかげで助かりました!」
「なーに、気にすんな!こっちも襲って来ないとはいえディナマには困っていたから助かったよ!ありがとうな!」
そう言ってくれるのは嬉しいが、私は大した事やってないし、アメリちゃんを助けるためとはいえ勝手に大怪我しただけだから私に感謝されても……
いや、折角感謝してもらっているしそう考えるのはやめよう。
「いえいえ…なんでしたらお礼として刈り取った私の毛をあげましょうか?」
「お、本当か!?くれるって言うなら欲しいねぇ…ワーシープの毛って結構高価だからな!」
「あ、やっぱりですか…まあ私達には必要無いですし、お礼としてあげます。好きなだけ持っていってください」
…やっぱりワーシープの毛って高価だったんだ…
アメリちゃんの『テント』にあるベッドに使われているのがワーシープの毛だってアメリちゃんから聞いた時からなんとなくそう思ったんだよね…たしかにあのベッド寝心地いいんだよな…
ってことは私…狙われる?まあ刈り取った瞬間その男の人は私に犯される事になるだろうけど。
「ありがとな!そろそろ朝食ができるから他の皆を起こしてきな!ちょっと話しておきたい事もあるしな…」
「わかりました!」
私は2階に戻り皆を起こす事にした。
…………
………
……
…
『ごちそうさまでした!!』
「このスープ凄く美味しかったです!!作り方とか教えてもらってもいいですか!?」
「おう、いいぜ!でもその前に聞いてほしい事がある…」
私達は奥さんが作ってくれたスープで朝ご飯をすませた。
とても美味しかったので作り方を聞こうとしたが何か話があるらしい…真剣な顔をし始めた。
「どうかしたのですか?」
「いやな…今朝早くに入った情報なんだが…お前らがやっつけたディナマの連中が…深夜に大量に病院に運ばれたらしいんだ…全員重傷を負った状態でな…」
「えっ!?本当ですか!?いったい何が…」
私達は重症までは負わせていない。つまり、昨日誰かが重傷を負わせたのだろう。
たしかにあまり強くはなかったけど…それでもあんなに大勢の人を…複数人がやったのだろうか…
でも…いったい何のために?
「そういえば彼等と居た魔物達は?」
「ああ…どうやら連中とヤっている途中で全員急に眠くなって寝てしまっていたらしい。で、目を覚ましたら気に入った男達が皆死ぬ直前だったから慌ててこの町の病院まで駆け込んだらしい…」
「そうですか…魔物は無傷なんですか?」
「ああ、無傷だ…だからわけがわからないんだ…連中の中の誰かの意識が戻るのを待つしかないそうだ」
魔物達も傷付いてたり殺されたりしていたのなら勇者の仕業だろう。
だが、魔物には一切手をつけずに男ばかりを傷付けている…教団の勇者にしては少し変だ…
これは…気をつけたほうが良いかな…
「わかりました…とりあえず東には行かない様にした方がよさそうだね…」
「ん?お前達もう出発するのか?」
「はい、今日のお昼には出発しようと思いまして…」
今日の10時頃にネオムさんが退院する。
私達はとりあえずプロメにこれからどうするかを聞いてから出発しようと思っている。
私達はこの町に住んでいる『エキドナ』って蛇の魔物のお母さんから聞いた情報である場所に向かう事にしたのだが、プロメやネオムさんはそこに一緒に行くのか、それとも…
「そうか…じゃあ今からさっきのスープの作り方を教えてやるよ!」
「ありがとうございます!!あとお弁当も作りたいのでキッチンをお借りしてよろしいですか?」
「もちろん!」
とりあえずディナマの話は置いといて、私は奥さんにスープの作り方を教えてもらう事にした。
他の皆は旅の準備をするために部屋に戻った。
====================
「ネオムさん退院おめでとうございます!」
「ありがとう君達…こちらこそ助けてもらったりプロメに協力してくれて感謝する」
現在11時。私達は病院の前でプロメ達と合流した。
「で、二人はこれからどうするの?」
「それなんだけどさ…」
そして、二人はこれからどうするのかを聞いた。
「やっぱ、アタシとネオムはここで別れる事にするよ…きちんと話をつけておかないと今回みたいに迷惑がかかっちまう…」
「そう…」
そもそもディナマがネオムさんを誘拐したのは、ネオムさんの両親が多額の謝礼金付きで捜索願を出していた事が原因である。
なので二人で両親のもとに行って、正式に一緒に暮らす事を言いに行ったほうが良いんじゃないかという事になったのだ。
ただ、そのネオムさんの住んでいた街は反魔物寄りの中立的な立場らしく、簡単にはいかないだろう。
そのため私達と別れて二人で行き、どんだけ掛かっても納得させてみるとのことだ。
だから、ここで私達とはお別れ。一緒に行こうにも、魔物はなるべく行かないほうが良いとの事だから行けないのだ。
「じゃあここでお別れか…」
「ああ…でも、ネオムはいろんな土地の生態を調査する仕事に就いているんだ。もちろんアタシも一緒にその仕事をやるつもりだ。だからこれからも皆が旅を続けるならどこかで会うかもな!」
「そうなの?じゃあそのときはまた!」
「…て今すぐ別れるような言い方するなよ…とりあえず昼飯は俺達と一緒に食べるんだろ?」
「はは!それもそうだな!!じゃあ最後にサマリのウマい料理を食べさせてくれよな!」
「うん!まかせてよ!ワーシープになっても料理の腕は全く落ちてないんだから!」
私達はラノナスにある緑の大きな芝生がある公園で、さっき私が作ったお弁当を食べる事にした。
…………
………
……
…
「ふぅ…やっぱサマリの料理はウマい!」
「ははっ…ありがとプロメ!」
現在13時。
私達はラノナスの大きな芝生がある公園でお弁当を食べながらゆったりしていた。
「アメリみーっけ!」
「うぅ…みつかっちゃった…」
ラノナスの中で一番大きな公園なだけあり、芝生ではしゃぎまわっている子供達が人間も魔物も大勢いる。
ちなみに、早くお弁当を食べ終わったアメリちゃんもその子供達と混ざって遊んでいる。同年代の子供ばかりだからか、もの凄く楽しそうだ。
また、あちこちのベンチなどではカップルだと思われる男女が仲良く座っていたり、広場で手を繋ぎながら歩いている魔物と男性の姿もちらほらと見える。
ドドドドドドド……
と、大きな砂煙を出しながら赤と白が混じった頭の女の子がこちらに向かってきた。
「昨日のワーシープさ〜ん!これありがとう!」
「あ、キミは昨日の…使いこなしてるね〜。凄いじゃん!」
「もう動けるのが楽しくって!!本当にありがとう!!」
昨日たまたま出会ったこの町一番の実力者であるエキドナさん。
その(たぶん)5番目の娘さんの…『マタンゴ』だったかな?…が、あの可動椅子の高速移動機能を完璧に使いこなしながら私達がいる所まで走ってきた。
昨日そのエキドナさんからリリムの…アメリちゃんのお姉さんの情報を聞いたとき、娘さん達のお話も聞いた。
それで、どうやら動く事の出来ないマタンゴの娘も居るらしく、だったらともう私は使う事のない可動椅子をドワーフさんに許可を貰ってからプレゼントしたのだ。
よくわからないけどマタンゴ特有の胞子はエキドナさんが魔力でどうにかしているらしく、高速で猛ダッシュしても問題ないらしい。あげた瞬間から大喜びで私よりも使いこなしてあちこち走りまわっているとの事。
その証拠に、彼女は目の前で嬉しそうに砂煙を立てながら走り去っていった。
「元気そうだな…ところで、なんでこんなにサマリは料理が出来るんだ?」
「特にこれといったことはやってないよ。ただ昔からお母さんの……手伝いをしていた…だけだよ…」
「……そうか…」
プロメからなぜ料理が上手かを聞かれ、答えるときにお母さんの事を思い出した。
私の両親二人とも魔物に怯えるような人達だ…それこそ子供のアメリちゃんにも怯えていたほどだ。
そんな両親は、魔物になった私を受け入れてくれるのだろうか?
魔物になった私を、娘として見てくれるのだろうか?
「…ま、きっと親御さんも受け入れてくれるさ。自分の娘が悩んで選んだ事に拒否する親なんか居ないって!!」
「うん……そうだといいな…」
一応両親のもとに、私が魔物になった事とその経緯を手紙にして出した。
私は旅をしているから返事が届くかはわからない。だから、両親がどう答えるかもわからないまま。
だから、怖い。
両親が私を拒否しないか怖いのだ。
でも、プロメが…皆が励ましてくれる…だから気が楽でいられる。
「まあ、私の両親を信じますか!」
「そうそう、それでいいんだよ!」
だから、このことは考えないことにする。
………
……
…
「ところでツバキ、なんでツバキは彼女とか作ろうとしないの?」
ゆったりとお話しているとき、ふと思った事をツバキに聞いてみた。
「え、今それ聞く?」
「あ、言いたくないならいいよ。ユウロだって言いたくないからって聞いてないし…」
「うーん…そうだなあ…」
私が魔物化する時、ユウロと一緒に何度も自分は襲うなと釘をさしてきたツバキ。
その理由を知らないから聞いてみた。が、ツバキはあまり乗り気ではなさそうだ。
「まあ、簡単にだけ言うよ…」
が、どうやら少しだけ教えてくれるらしい。
なので、ツバキの話に耳を傾けた。
「まず、僕が旅している理由なんだけど…なんでかわかる?」
「うーん…なんで?」
「わかった!異文化交流だろ!」
「…プロメ、それ意味わかって言ってる?」
「なんとなくだけ…」
ツバキが旅している理由か…
確かに、ツバキは私達と旅を続けると言っていた…自分も旅に目的なんかないからって。
でも…それと彼女を作りたくない理由は結びつくのか?
「そうだね…まあわからないと思うよ…」
「じゃあなんだよ?もったいぶるなよ」
「僕の旅する理由はね…」
ツバキはプロメの文句を聞いて、何故か覚悟したような顔になり…
「目の前で居なくなってしまった…死んでしまった幼馴染みの事を忘れるためさ…」
衝撃の理由を、私達に教えてくれた。
「あ、う……すまん…」
「え……その……ゴメン…」
まさかだった。
まさか、そんなに悲しい理由だなんて思わなかった。
だから自然と謝罪の言葉を言っていた。
「あ、いや、そんなに暗くならないでよ。僕は大丈夫だから」
「でも…」
「だから気にしないでって。僕はもうほとんど大丈夫だから」
ほとんどって…それって少しはつらいんじゃ…
「なあツバキ、目の前で居なくなったってどういうことだ?」
「僕はジパングの小さな海沿いの町出身でね…ある嵐の日に海の様子を二人で見に行ったときに…大波に攫われた…」
「…そうか……」
そんな…お別れすら言えなかった状況って…
悲し過ぎるよ…
「まあ確かにまだ林檎の事は…ああ、その幼馴染みね…林檎の事は忘れられてないんだけどね…」
「そう…」
でも、その幼馴染みのリンゴの事を忘れるなんて…と思ってたら…
「林檎の事を忘れないと、僕は前に進めないから…それまでは、誰とも恋仲になろうなんて思えないんだ…僕は彼女の事が好きだったから…」
そう言われ、言葉が詰まってしまった。
「だからツバキは大切な人同士をどうこう言っていたのか…」
「まあね…誰であろうと僕と同じ悲しい気持ちをしてほしくないし…それをさせようとする人は許せないからね…」
だから、ツバキは大切な人同士が離される事に怒りを覚え、助けようとしているのか…
「はい、僕の話はおしまい!こんな暗い雰囲気になりそうだったから話すの戸惑ってたんだよ…」
「あ、うん、そうね、はいおわり!じゃあ片付けでもしよう!」
本人もこれ以上この話をしたくないのか、手を大きく叩いて話をやめたから、これ以上は聞かない事にした。
「…俺とは違うか……」
ユウロが何か呟いた気がするが、私の耳には届かなかった。
====================
「じゃあ、ここでお別れだな…」
「うん…元気でね…」
現在15時。
私達はラノナスを出発し、道が右、真ん中、左の3つに分岐しているところに出た。
このうち、真ん中の道が私達が目指す『ファストサルド領』に続く道で、左の道がネオムさんの故郷に続く道だ。
つまり、ここで私達はお別れだ。
「また機会があったら絶対会おうぜ!」
「プロメとネオムさんが一緒に居られる事を願うよ!」
「プロメお姉ちゃんもネオムおじさんも元気でね!そしてしあわせでいてね!!」
それぞれ皆思いを伝え…
「ああ…皆ありがとう!アタシは絶対ネオムと一緒に皆とまた会う!」
「皆さんありがとう。僕達はきっと両親の許しを得て供に幸せに生きていきます!」
二人も、私達に思いを伝えた。
「それじゃあ皆、元気でな〜!特にサマリ!もう自分の役割がどうとか悩むなよ!!」
「うん!もう大丈夫!プロメも絶対ネオムさんとずっと一緒に居てよね〜!!」
「まかせろ!!」
そして私達は…お互いの進むべき道に足を進めた…
「うーん…やっぱりプロメお姉ちゃんがいないと少しさみしいな…」
「まあね…でもまた会えるよ。同じ世界に居るんだもの」
「そうだね!ありがとうユウロお兄ちゃん!」
別れはちょっぴり寂しいけれど、永遠の別れじゃない。
また会えると信じて…振り向かずに…前に足を進めて行った。
アメリちゃんのお姉さんが居るらしい、『ファストサルド領』へ、真っ直ぐに…
これまでの旅は、人間のサマリとしての旅だった。
そしてこれからは、ワーシープのサマリとしての旅の始まり。
魔物化した事によって何が変わるのか…それとも何も変わらないのか…
また、変わったとしたら…何がどう変わったのか…
それは誰にもわからない。
主神だろうが、魔王様だろうがわからない。
もちろん、私にもわからない。
わからないから、私は旅をするのだ。
わからないから、旅は面白いのだ。
だから、足を進める。
形は少し変わったけど、変わらぬ二本足で…
幼き王女や強い男の子達と、きままな旅は続いていく…
=======[???視点]=======
ここは…どこ?
わたしは……流石に誰かはわかる……
でも…わたしは…こんなに青かったかな?
いや…青いのは周りか…
そんな事もないか?私も青いか?
でも……いいや……
なんか…開放感が溢れ出てくるし……
漂っているだけで…とても気分が良い……
漂う?そういえば浮いている感じだ…
でも、上に見えるのは…空…なのか?
まるで……闇………
いや、わたしが…逆向いているのか?
わからない……
わからないと言えば…
そういえば……わたし……
どうして……
まだ…
生きているんだ……?
現在7時。ちょうど目が覚めたところだ。
私の傍にはもちろんアメリちゃんが寝ている。魔物化した時のあれを除けば久々にアメリちゃんと一緒に寝た事になる。
久々だからか、それともワーシープになった私に抱かれながら寝ているからかいつも以上に気持ちよさそうに寝ている…起こさないようにしないとね。
私は昨日退院したので今日は町長さんの家の二階に泊めてもらった。
私が入院していた間、基本的にはネオムさんと一緒に居るプロメ以外はここに泊めてもらっていたらしい。ディナマを退治したお礼だとか。
そのお礼で私の治療費などもタダとなっている…一応昨日感謝しておいたけどまだし足りないな…
「おはようございます!」
「おっ!おはようさん!ワーシープが一番早起きとは面白いねえ!」
アメリちゃんや皆を起こさないように私はそっとベッドから抜けだし、一階に下りた。
キッチンのほうからいい匂いがしたので向かってみたら、町長の奥さんのドワーフさんが朝ご飯を作っていた。
なので私は挨拶と感謝の言葉を言う事にした。
「ははは……いやあ、いろいろとありがとうございます。おかげで助かりました!」
「なーに、気にすんな!こっちも襲って来ないとはいえディナマには困っていたから助かったよ!ありがとうな!」
そう言ってくれるのは嬉しいが、私は大した事やってないし、アメリちゃんを助けるためとはいえ勝手に大怪我しただけだから私に感謝されても……
いや、折角感謝してもらっているしそう考えるのはやめよう。
「いえいえ…なんでしたらお礼として刈り取った私の毛をあげましょうか?」
「お、本当か!?くれるって言うなら欲しいねぇ…ワーシープの毛って結構高価だからな!」
「あ、やっぱりですか…まあ私達には必要無いですし、お礼としてあげます。好きなだけ持っていってください」
…やっぱりワーシープの毛って高価だったんだ…
アメリちゃんの『テント』にあるベッドに使われているのがワーシープの毛だってアメリちゃんから聞いた時からなんとなくそう思ったんだよね…たしかにあのベッド寝心地いいんだよな…
ってことは私…狙われる?まあ刈り取った瞬間その男の人は私に犯される事になるだろうけど。
「ありがとな!そろそろ朝食ができるから他の皆を起こしてきな!ちょっと話しておきたい事もあるしな…」
「わかりました!」
私は2階に戻り皆を起こす事にした。
…………
………
……
…
『ごちそうさまでした!!』
「このスープ凄く美味しかったです!!作り方とか教えてもらってもいいですか!?」
「おう、いいぜ!でもその前に聞いてほしい事がある…」
私達は奥さんが作ってくれたスープで朝ご飯をすませた。
とても美味しかったので作り方を聞こうとしたが何か話があるらしい…真剣な顔をし始めた。
「どうかしたのですか?」
「いやな…今朝早くに入った情報なんだが…お前らがやっつけたディナマの連中が…深夜に大量に病院に運ばれたらしいんだ…全員重傷を負った状態でな…」
「えっ!?本当ですか!?いったい何が…」
私達は重症までは負わせていない。つまり、昨日誰かが重傷を負わせたのだろう。
たしかにあまり強くはなかったけど…それでもあんなに大勢の人を…複数人がやったのだろうか…
でも…いったい何のために?
「そういえば彼等と居た魔物達は?」
「ああ…どうやら連中とヤっている途中で全員急に眠くなって寝てしまっていたらしい。で、目を覚ましたら気に入った男達が皆死ぬ直前だったから慌ててこの町の病院まで駆け込んだらしい…」
「そうですか…魔物は無傷なんですか?」
「ああ、無傷だ…だからわけがわからないんだ…連中の中の誰かの意識が戻るのを待つしかないそうだ」
魔物達も傷付いてたり殺されたりしていたのなら勇者の仕業だろう。
だが、魔物には一切手をつけずに男ばかりを傷付けている…教団の勇者にしては少し変だ…
これは…気をつけたほうが良いかな…
「わかりました…とりあえず東には行かない様にした方がよさそうだね…」
「ん?お前達もう出発するのか?」
「はい、今日のお昼には出発しようと思いまして…」
今日の10時頃にネオムさんが退院する。
私達はとりあえずプロメにこれからどうするかを聞いてから出発しようと思っている。
私達はこの町に住んでいる『エキドナ』って蛇の魔物のお母さんから聞いた情報である場所に向かう事にしたのだが、プロメやネオムさんはそこに一緒に行くのか、それとも…
「そうか…じゃあ今からさっきのスープの作り方を教えてやるよ!」
「ありがとうございます!!あとお弁当も作りたいのでキッチンをお借りしてよろしいですか?」
「もちろん!」
とりあえずディナマの話は置いといて、私は奥さんにスープの作り方を教えてもらう事にした。
他の皆は旅の準備をするために部屋に戻った。
====================
「ネオムさん退院おめでとうございます!」
「ありがとう君達…こちらこそ助けてもらったりプロメに協力してくれて感謝する」
現在11時。私達は病院の前でプロメ達と合流した。
「で、二人はこれからどうするの?」
「それなんだけどさ…」
そして、二人はこれからどうするのかを聞いた。
「やっぱ、アタシとネオムはここで別れる事にするよ…きちんと話をつけておかないと今回みたいに迷惑がかかっちまう…」
「そう…」
そもそもディナマがネオムさんを誘拐したのは、ネオムさんの両親が多額の謝礼金付きで捜索願を出していた事が原因である。
なので二人で両親のもとに行って、正式に一緒に暮らす事を言いに行ったほうが良いんじゃないかという事になったのだ。
ただ、そのネオムさんの住んでいた街は反魔物寄りの中立的な立場らしく、簡単にはいかないだろう。
そのため私達と別れて二人で行き、どんだけ掛かっても納得させてみるとのことだ。
だから、ここで私達とはお別れ。一緒に行こうにも、魔物はなるべく行かないほうが良いとの事だから行けないのだ。
「じゃあここでお別れか…」
「ああ…でも、ネオムはいろんな土地の生態を調査する仕事に就いているんだ。もちろんアタシも一緒にその仕事をやるつもりだ。だからこれからも皆が旅を続けるならどこかで会うかもな!」
「そうなの?じゃあそのときはまた!」
「…て今すぐ別れるような言い方するなよ…とりあえず昼飯は俺達と一緒に食べるんだろ?」
「はは!それもそうだな!!じゃあ最後にサマリのウマい料理を食べさせてくれよな!」
「うん!まかせてよ!ワーシープになっても料理の腕は全く落ちてないんだから!」
私達はラノナスにある緑の大きな芝生がある公園で、さっき私が作ったお弁当を食べる事にした。
…………
………
……
…
「ふぅ…やっぱサマリの料理はウマい!」
「ははっ…ありがとプロメ!」
現在13時。
私達はラノナスの大きな芝生がある公園でお弁当を食べながらゆったりしていた。
「アメリみーっけ!」
「うぅ…みつかっちゃった…」
ラノナスの中で一番大きな公園なだけあり、芝生ではしゃぎまわっている子供達が人間も魔物も大勢いる。
ちなみに、早くお弁当を食べ終わったアメリちゃんもその子供達と混ざって遊んでいる。同年代の子供ばかりだからか、もの凄く楽しそうだ。
また、あちこちのベンチなどではカップルだと思われる男女が仲良く座っていたり、広場で手を繋ぎながら歩いている魔物と男性の姿もちらほらと見える。
ドドドドドドド……
と、大きな砂煙を出しながら赤と白が混じった頭の女の子がこちらに向かってきた。
「昨日のワーシープさ〜ん!これありがとう!」
「あ、キミは昨日の…使いこなしてるね〜。凄いじゃん!」
「もう動けるのが楽しくって!!本当にありがとう!!」
昨日たまたま出会ったこの町一番の実力者であるエキドナさん。
その(たぶん)5番目の娘さんの…『マタンゴ』だったかな?…が、あの可動椅子の高速移動機能を完璧に使いこなしながら私達がいる所まで走ってきた。
昨日そのエキドナさんからリリムの…アメリちゃんのお姉さんの情報を聞いたとき、娘さん達のお話も聞いた。
それで、どうやら動く事の出来ないマタンゴの娘も居るらしく、だったらともう私は使う事のない可動椅子をドワーフさんに許可を貰ってからプレゼントしたのだ。
よくわからないけどマタンゴ特有の胞子はエキドナさんが魔力でどうにかしているらしく、高速で猛ダッシュしても問題ないらしい。あげた瞬間から大喜びで私よりも使いこなしてあちこち走りまわっているとの事。
その証拠に、彼女は目の前で嬉しそうに砂煙を立てながら走り去っていった。
「元気そうだな…ところで、なんでこんなにサマリは料理が出来るんだ?」
「特にこれといったことはやってないよ。ただ昔からお母さんの……手伝いをしていた…だけだよ…」
「……そうか…」
プロメからなぜ料理が上手かを聞かれ、答えるときにお母さんの事を思い出した。
私の両親二人とも魔物に怯えるような人達だ…それこそ子供のアメリちゃんにも怯えていたほどだ。
そんな両親は、魔物になった私を受け入れてくれるのだろうか?
魔物になった私を、娘として見てくれるのだろうか?
「…ま、きっと親御さんも受け入れてくれるさ。自分の娘が悩んで選んだ事に拒否する親なんか居ないって!!」
「うん……そうだといいな…」
一応両親のもとに、私が魔物になった事とその経緯を手紙にして出した。
私は旅をしているから返事が届くかはわからない。だから、両親がどう答えるかもわからないまま。
だから、怖い。
両親が私を拒否しないか怖いのだ。
でも、プロメが…皆が励ましてくれる…だから気が楽でいられる。
「まあ、私の両親を信じますか!」
「そうそう、それでいいんだよ!」
だから、このことは考えないことにする。
………
……
…
「ところでツバキ、なんでツバキは彼女とか作ろうとしないの?」
ゆったりとお話しているとき、ふと思った事をツバキに聞いてみた。
「え、今それ聞く?」
「あ、言いたくないならいいよ。ユウロだって言いたくないからって聞いてないし…」
「うーん…そうだなあ…」
私が魔物化する時、ユウロと一緒に何度も自分は襲うなと釘をさしてきたツバキ。
その理由を知らないから聞いてみた。が、ツバキはあまり乗り気ではなさそうだ。
「まあ、簡単にだけ言うよ…」
が、どうやら少しだけ教えてくれるらしい。
なので、ツバキの話に耳を傾けた。
「まず、僕が旅している理由なんだけど…なんでかわかる?」
「うーん…なんで?」
「わかった!異文化交流だろ!」
「…プロメ、それ意味わかって言ってる?」
「なんとなくだけ…」
ツバキが旅している理由か…
確かに、ツバキは私達と旅を続けると言っていた…自分も旅に目的なんかないからって。
でも…それと彼女を作りたくない理由は結びつくのか?
「そうだね…まあわからないと思うよ…」
「じゃあなんだよ?もったいぶるなよ」
「僕の旅する理由はね…」
ツバキはプロメの文句を聞いて、何故か覚悟したような顔になり…
「目の前で居なくなってしまった…死んでしまった幼馴染みの事を忘れるためさ…」
衝撃の理由を、私達に教えてくれた。
「あ、う……すまん…」
「え……その……ゴメン…」
まさかだった。
まさか、そんなに悲しい理由だなんて思わなかった。
だから自然と謝罪の言葉を言っていた。
「あ、いや、そんなに暗くならないでよ。僕は大丈夫だから」
「でも…」
「だから気にしないでって。僕はもうほとんど大丈夫だから」
ほとんどって…それって少しはつらいんじゃ…
「なあツバキ、目の前で居なくなったってどういうことだ?」
「僕はジパングの小さな海沿いの町出身でね…ある嵐の日に海の様子を二人で見に行ったときに…大波に攫われた…」
「…そうか……」
そんな…お別れすら言えなかった状況って…
悲し過ぎるよ…
「まあ確かにまだ林檎の事は…ああ、その幼馴染みね…林檎の事は忘れられてないんだけどね…」
「そう…」
でも、その幼馴染みのリンゴの事を忘れるなんて…と思ってたら…
「林檎の事を忘れないと、僕は前に進めないから…それまでは、誰とも恋仲になろうなんて思えないんだ…僕は彼女の事が好きだったから…」
そう言われ、言葉が詰まってしまった。
「だからツバキは大切な人同士をどうこう言っていたのか…」
「まあね…誰であろうと僕と同じ悲しい気持ちをしてほしくないし…それをさせようとする人は許せないからね…」
だから、ツバキは大切な人同士が離される事に怒りを覚え、助けようとしているのか…
「はい、僕の話はおしまい!こんな暗い雰囲気になりそうだったから話すの戸惑ってたんだよ…」
「あ、うん、そうね、はいおわり!じゃあ片付けでもしよう!」
本人もこれ以上この話をしたくないのか、手を大きく叩いて話をやめたから、これ以上は聞かない事にした。
「…俺とは違うか……」
ユウロが何か呟いた気がするが、私の耳には届かなかった。
====================
「じゃあ、ここでお別れだな…」
「うん…元気でね…」
現在15時。
私達はラノナスを出発し、道が右、真ん中、左の3つに分岐しているところに出た。
このうち、真ん中の道が私達が目指す『ファストサルド領』に続く道で、左の道がネオムさんの故郷に続く道だ。
つまり、ここで私達はお別れだ。
「また機会があったら絶対会おうぜ!」
「プロメとネオムさんが一緒に居られる事を願うよ!」
「プロメお姉ちゃんもネオムおじさんも元気でね!そしてしあわせでいてね!!」
それぞれ皆思いを伝え…
「ああ…皆ありがとう!アタシは絶対ネオムと一緒に皆とまた会う!」
「皆さんありがとう。僕達はきっと両親の許しを得て供に幸せに生きていきます!」
二人も、私達に思いを伝えた。
「それじゃあ皆、元気でな〜!特にサマリ!もう自分の役割がどうとか悩むなよ!!」
「うん!もう大丈夫!プロメも絶対ネオムさんとずっと一緒に居てよね〜!!」
「まかせろ!!」
そして私達は…お互いの進むべき道に足を進めた…
「うーん…やっぱりプロメお姉ちゃんがいないと少しさみしいな…」
「まあね…でもまた会えるよ。同じ世界に居るんだもの」
「そうだね!ありがとうユウロお兄ちゃん!」
別れはちょっぴり寂しいけれど、永遠の別れじゃない。
また会えると信じて…振り向かずに…前に足を進めて行った。
アメリちゃんのお姉さんが居るらしい、『ファストサルド領』へ、真っ直ぐに…
これまでの旅は、人間のサマリとしての旅だった。
そしてこれからは、ワーシープのサマリとしての旅の始まり。
魔物化した事によって何が変わるのか…それとも何も変わらないのか…
また、変わったとしたら…何がどう変わったのか…
それは誰にもわからない。
主神だろうが、魔王様だろうがわからない。
もちろん、私にもわからない。
わからないから、私は旅をするのだ。
わからないから、旅は面白いのだ。
だから、足を進める。
形は少し変わったけど、変わらぬ二本足で…
幼き王女や強い男の子達と、きままな旅は続いていく…
=======[???視点]=======
ここは…どこ?
わたしは……流石に誰かはわかる……
でも…わたしは…こんなに青かったかな?
いや…青いのは周りか…
そんな事もないか?私も青いか?
でも……いいや……
なんか…開放感が溢れ出てくるし……
漂っているだけで…とても気分が良い……
漂う?そういえば浮いている感じだ…
でも、上に見えるのは…空…なのか?
まるで……闇………
いや、わたしが…逆向いているのか?
わからない……
わからないと言えば…
そういえば……わたし……
どうして……
まだ…
生きているんだ……?
12/04/10 23:47更新 / マイクロミー
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