連載小説
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旅行4 一人で旅する謎の少女
「ねえねえ今度はどこ行く?」
「うーん、ここなんてどう?」
「どれどれ……遺跡の街フィフラムか。ええんちゃう?」

現在22時。
私達は大きな湖の畔で『テント』を張り、そこで次の目的地を決めていた。
一つ前に立ち寄った町で、この湖はウンディーネも宿る綺麗な湖で、夕日が映える有名な観光地だと話を聞いたので行ってみたのだ。言われた通り、湖の一面全てがオレンジ色、いや黄金色に輝き、その上を舞うウンディーネの姿はつい時間も忘れ見惚れてしまう程に綺麗だった。
そしてそのウンディーネにここで寝泊まりしても良いと許可を得られたので、こうして『テント』を張って明日に備えているのである。

「ここには知らないお姉ちゃんいるかな?」
「どうだろうな。ブランカさん以降、アメリちゃんが知らないお姉さんには合ってないよな?」
「あれからもう3ヶ月くらいやな。知っとるお姉さんなら一人会うたけど、それも偶々やし、そこから全く影も形もあらへんな」
「エルゼルさんね。元気にしてるかな……」

何時もなら出会ったお姉さんに他のお姉さんの情報を貰ったりするのだが、ブランカさんは他の姉妹と随分と会っていないと言っていた通り、その手の情報は全く持っていなかった。なので私達はとりあえず親魔物領を中心に気ままに旅をし続けつつ、ちょっとずつリリムの情報を集めているのだが……ここに来て、全く情報が無くなっていたのだった。
ちなみに、ユウロが「知らないお姉さん」と強調して言った通り、アメリちゃんが既に知っているお姉さんなら1人出会っていた。魔界の歴史を研究しているエルゼルさんと夫のスクルさんだ。ちなみに歴史家は夫のスクルさんの方で、アメリちゃんの旅立ちより後に結ばれたらしい。

「スクルさんの話は面白ったな。俺あんまり歴史って好きじゃなかったけど、自分の知らない世界の歴史は興味深く聞けるわ」
「はん、スクルさんでなんか思い出してしもたわ……絶対稲荷か妖狐やろ」
「はいはい。別にカリンじゃないから良いでしょ?」

旅の途中、知っているとはいえお姉さんの一人に出会えたことではしゃいだアメリちゃんが原因でスクルさんを池ポチャしたのをきっかけに、そのまましばらく『テント』の中でお話を聞いていたのだ。その中でも勇者の……アメリちゃんのお父さんの話は中々に興味深かった。オチのせいでカリンはちょっと不機嫌になってしまったが。

「もし今度帰る事があったらお父さん達からも雨乞いの話を中心に昔のお話聞いてみようかな」
「それもいいかもね。なんか他の話は言葉を濁らせてたけど、本人なら教えてくれるかもよ?」

まあ、旧時代の話になるので全部は教えてくれないだろう。もっと沢山聞きたがっていたアメリちゃんだったが、エルゼルさんもスクルさんも言葉を濁して沈黙してしまっていたし、あまり良い話ではないと思う。それでも、自分の親の話に興味を持ったアメリちゃんの興味津々な視線を受けたら、本人ならばマイルドな武勇伝くらい面白おかしく教えてもらえそうではある。

「そういえばアメリちゃん、知ってるお姉さん繋がりで思い出したけど、ヘカテーさんから貰った飴はきちんと持ってる?」
「勿論! 前襲われた時は引き出しにしまってて使えなかったから、今はもしもの為に常にポケットに入れてあるよ!」

そう言ってアメリちゃんはズボンのポケットから黒い塊を取り出した。これは正確には飴玉ではなく、アメリちゃんのお姉さんの一人、ヘカテーさんの魔力を固めたものだ。これを食べればアメリちゃんの魔力を瞬時に回復してくれるらしいので、もしも戦闘になった時用にと常に身に付けさせておいてあるのだ。

「そのもしもがないのが一番いいけどな。ロイさん達と一緒に盗賊達に襲われて以来、セレンの件やアメリちゃんが勇者に襲われたりはしたけど、盗賊関係は全くなく平和に旅が続けられてるしさ」
「せやな。ウチが合流してからここまで特に戦う機会はなかったな」
「ま、それが一番だよ」

確かに、ここ最近は戦闘は一切起きず、平和に旅を続けられていた。ちなみにロイさんというのはヘカテーさんの執事(夫)で、その戦闘力も高い紳士だ。彼らと出会った時、私はまだユウロへの恋心に気付かないようにしていた時期だ。もう何か月も前だが、元気にしているだろうか……

「そういえばサマリ、あの時最後にヘカテーさんに何か言われて顔が真っ赤になってたけど、何言われたんだ?」
「んー、忘れちゃった」
「そっか」

そんなヘカテーさん、別れ際に私とユウロとセレンちゃんに何かを囁いていたのだが……私には、自分の気持ちの赴くままにユウロを抱け、的な事を言ってきたのだ。当時はユウロへの恋愛感情は無自覚だったので思わず何言ってるんだと慌ててしまったのだが……結局似たような事をセレンちゃんにも言われたし、それで良かったのでアドバイスは的確だったと言える。
とまあ本当は何を言われたのかは覚えているのだが、それを今更ユウロに言うのもちょっと恥ずかしいので忘れたと嘘をついた。嘘だと見抜いたのかそうでもないのか、軽く返事をしたユウロにこれ以上追及される事は無かった。

「ふぁ……ん」

丁度話が途切れたところで、アメリちゃんが大きな欠伸をした。時間は22時過ぎ、私達は兎も角、アメリちゃんはそろそろ寝落ちてしまう時間だ。

「もうおねむの時間やな。じゃあアメリちゃん、今日はウチと寝ようか」
「うん……カリンお姉ちゃん、一緒に寝よ」
「じゃあおやすみアメリちゃん、カリン」
「おやすみ……」
「ほなおやすみ。あんたらもほどほどにして寝るんやで」
「言われなくても」

いつもならアメリちゃんは私と一緒に寝るのだが、今日はこの後私とユウロは夜の営みを行うのでカリンと一緒に寝る。アメリちゃんと一緒に寝る時だけカリンは人化の魔法を解除するので、今のカリンの腰からは大きくてもふっとした尻尾が生えている。アメリちゃん曰く、ワーシープウール程ではないが、カリンの尻尾もふわふわの抱き枕で寝心地が良いとの事だ。

「それじゃユウロ……んんっ♪」

という事でアメリちゃんとカリンがベッドで寝息を立て始めた頃、私とユウロも同じベッドに上がり、私はユウロの上に覆い被さり、毛皮と胸を押し付けつつユウロのペニスを弄り行為に及んだのであった。



……………………



「ふぁぁ……」
「なんや、結局夜遅くまでヤッとったんか」
「ううん。正確な時間は覚えてないけど、日付変わるくらいには夢の中に行ってたと思うよ」

現在11時。
私達はウンディーネの見送りを受けながら湖を出発し、次の目的地である遺跡の街フィフラムへ向かっていた。

「最近また体毛が伸びてきたから眠たいんじゃね?」
「あー、かもね」
「確かに、最近サマリお姉ちゃんもこもこしてるもんね」

少し雲が多くて太陽が見え隠れし、少し風が靡いている丘の上の草原をゆったりと歩いている途中で、大きな欠伸が出てしまった。いつもの事だが、昨日は何度か中に射精されているうちに眠ってしまったので正確な睡眠時間はわからないが、そこまで夜更かしはしていないので、欠伸の原因は寝不足ではない。ユウロの言う通り、最近また生え揃ってきたワーシープウールのせいだろう。
ユウロと定期的に性交しているからか、以前よりも伸びるペースが速くなり、また実感できるほど艶も良くなっていた。1ヶ月ほど前にユウロのカット練習がてら半分ほど刈り取ったのでわりと動いているうちは眠気とは無縁だったのだが、また日中でも眠気が纏わりつくほどになってきたようだ。

「ほな今度はバッサリ切るか?」
「うーむ、俺としてはもう数回は練習がてら半分くらいで切っておきたいんだけど……他人の体毛は勿論、髪の毛すら切った事はないから、全部切るとなると肌を傷付けちゃいそうで怖いんだよな」
「そうならへん為にも全部刈り取る練習もせぇへんと駄目やろ?」
「それもわかってるけど、まだそれ以前だしさ。普通に切るだけでも緊張で手が震えちまうし、やっぱもうちょっと練習させてほしいかな」
「私としては全部刈り取ってほしいけど、まあ仕方ないか」
「カリンお姉ちゃんが切っちゃえば良いんじゃないの?」
「それやと何時まで経ってもユウロが上達せぇへんからなぁ……」

前回からユウロにカットしてもらっているが、その関係で前みたいに全部バッサリ切らなくなった。その分切って貰える機会が増えると考えれば嬉しいが、あの込み上がってくる獣欲に身を任せての交わりができないと思うと少し寂しくもある。しかし、一気に全部切ろうとしないのも私を間違って傷付けないようにという気遣いによるものなので、無理は言えない。
それに、半分ほど切るのはユウロと結ばれる前と同じなので別に不便ではなく、獣欲にも眠気にも襲われず、むしろ旅をするには都合が良いのでそこまで文句はない。

「じゃあ今日の夜にでも半分くらい切るか」
「うん、お願いね」
「その分もウチに売ってな。最近は質もええから、半分でもそこそこ出すで」
「うん、ありがとう」

とりあえず今夜切ってもらうと決めたので、この話はここで打ち切ってまたのんびりと草原を歩き続ける。
ここは人の手が入っていない場所だからか、周りをよく見渡すと様々な昆虫や動物の姿が見える。少し強い風に乗りながら、ひらひらと蝶が舞う。少し長い草むらの影から、野生のウサギがひょっこりと顔を覗かせていた。

「ウサギさんだ! 可愛い!」
「あっちには狐か? なんか犬っぽい小動物がいるな」
「せやな。普通の狐はまだ可愛く思えるんやけどなぁ」
「はいはい……」

可愛い! と叫びながら野生の動物を追いかけるアメリちゃん。人に慣れていないようで、追いかけたらすぐに逃げてしまい触れられてはいないが、それでも楽しそうだ。
とまあ、そんな感じにのほほんとした時間が続いていたが……

「あははは……わっ!?」
「ん?」
「なんだ!?」

少し離れた場所から、突然沢山の鳥や野生動物が飛び出し、一斉に散っていった。
そして……動物達の影の中から、何人かの人影が現れた。

「待てっ!」
「逃がすか!」
「はぁ……はぁ……ひぃいい……!」

その人影は全部で4人。少しボロのある服を着た人相が悪く手に短剣を持つ男性が3人と、その男達に追われている大きな鞄を背負っている女性が一人。発している言葉や、後方をちらちら見つつも全力で走る女性を見るに、どうやら女性が男性3人に襲われているようだ。

「はぁ……はぁ……あっ!」
「あっ」

しばらく遠巻きに様子を見ていたのだが……逃げている女性と目が合ってしまった。

「た、助けて下さい!」

そして、助けを求められてしまった。

「やっぱそうなるか」
「まあ、困ってるなら助けねえとな」
「アメリも頑張るよ!」

勿論、求められなくても助ける気でいたので、私達……正確に言えば、戦闘ができない私以外の3人は準備万端だ。カリンは籠に入れている棍棒を、ユウロは腰に括ってある木刀を、そしてアメリちゃんは以前ラインという街に居た空理さんから貰った魔力を肩代わりしてくれる魔石のネックレスをポケットから取り出して装着し、逃げてくる女性の方へ向かった。

「な、なんだ!?」
「人間の男女と……リリムか!」
「ちっ魔物が邪魔してきたか……構わんやっちまうぞ!」

男達も私達の存在に気付いたようで、一瞬足を止めたが、気にせず私達ごと襲うつもりのようだ。短剣を握り直し、一斉に突っ込んできた。

「うおおおおおっ!」
「動きが単調過ぎ……だ!」
「おわっ!?」

男の一人は短剣を構えながら一直線にユウロへ突っ込んできたが、身軽で回避が得意なユウロに直線的な攻撃が当たるはずもなく、寸前で右側にステップして躱し、木刀で短剣を持つ手を叩き落とさせた。

「そこをどけ女! 殺すぞ!」
「どアホ。アンタ如きに殺される程雑魚ちゃうわ」
「何だと!? このアマ……死ね!」

二人目は短剣の先をカリンへ向けながら殺すぞと脅してきたが、カリンは脅しに屈するどころか呆れを隠さず男を挑発した。馬鹿にされた男は目を見開き血走らせながら大きく踏み出し、カリン目掛けて短剣を振り下ろした。
カリンはそれをボーっと見ているわけがなく、半歩後ろへと下がって短剣を避け、お返しとばかりに足を振り上げて男の顔面に蹴りを入れた。

「ふぐうっ!?」
「もういっちょ!」
「あげえっ!?」

顔面を蹴られてふらつく男の胴体を、今度は軸足を踏み込み棍棒で打ち抜いた。カリンは今人間の姿をしているが、その中身は刑部狸。魔物らしいパワーを生かし、そのまま男を吹っ飛ばした。

「クソ野郎が……うごっ!?」
「もげっ!?」

吹っ飛んだ男は、そのままユウロに襲い掛かった男の元まで飛んでいき、ユウロを見ていたせいでそちらの様子に気付かなかった男にぶつかった。決して小柄ではない男にぶつかったのだ、その衝撃は強く、二人仲良く気絶してしまったようだ。

「くっ、手前らふざけやがって!」

あっという間に二人がやられた事で焦った残りの一人は、何を思ったか武器の短剣を追っていた女性目掛けて投げつけたが……

「ひっ!」
「させないよ!」

アメリちゃんが魔法で壁を作り、短剣を弾き飛ばしたので、女性は無傷なうえこの男は武器も失ってしまった。

「チッ、邪魔するなクソガキ!!」
「クソガキじゃないもんアメリだもん!」

そう叫びながらアメリちゃんは男の攻撃が届かない上空へと飛び、片手を空へと掲げた。そして、手のひらの先に小さな黒い点ができたと思えば、その黒点から黒い稲妻が無数に発生し、頭の大きさ程の黒く光る球体を作り出した。

「電気系統のマナショットか。だが当たらなければ意味など……」
「痺れちゃえ!」
「がああああっ!!」

その稲妻球はアメリちゃんが腕を振り下ろしたと同時に発光して手のひらから消え、次の瞬間には大きな光を発しながら対敵していた男の身体に当たっていた。飛んでいくところが全く見えなかったので、その速度は実物の雷と同じなのかもしれない。頭ほどの大きさだった稲妻球も、当たった瞬間に弾けて男の全身を包み、身体全体に電撃を流し込んでいる。かなり強力なのか、離れた場所にいる私にも電気が届いているようで、静電気で少し体毛がふわりとしている感覚がした。

「あ……が……」

見るからにヤバそうな魔法が当たった男は、声にならない呻きを上げつつ、手足をピクピクと痙攣させながらその場で膝を付き、倒れた。服が少し焦げている気がするが、大丈夫なのだろうか。

「あわわ……まさか殺しちゃった……?」
「ううん。ちょっと痺れて気絶してもらっただけだよ。毛糸の服とか着た時にバチってなるやつの超強い版って感じかな」
「そ、そう……なの?」

追われていた女の人もこれにはビックリしたようで、おずおずといった感じでアメリちゃんに殺していないかを尋ねていた。勿論人間を殺すわけがないが、確かにそう見えても仕方がないくらい派手な魔法だった。

「さてと、一応片付いたしさっさとこの場から離れようぜ」
「気絶してるみたいやしな。目覚まされると面倒やし、ずらかるで」
「そうだね。貴女も一緒にここから離れよ」
「は、はい……」

とりあえず3人ともサクッと倒したが、2人は軽く気絶させただけなのですぐ起き上がってしまうだろう。そうなる前に、私達は警戒しつつ急いでこの場を離れたのだった。



……………………



「それでは改めて……助けて下さりありがとうございました!」
「どういたしまして! えーっと、お姉ちゃんお名前はなんて言うの?」
「私はサリス。リリムの……アメリちゃんだっけ? よろしくね!」

現在12時半。
私達はあの場から速足で移動した後、平らになっている場所で『テント』を張り、その中でやり過ごす事にした。人除けの効果もあるので、しばらくこの近辺を探されても見つかる事は無いだろう。
勿論、追われていた女性……サリスも一緒に『テント』の中に避難している。勿論、『テント』内に入ってしばらくは外見からは想像つかない広さに驚いていたが、程良く落ち着いたようで改めて礼を言ってきた。

「ほんで、アンタはなんで襲われてたん?」
「彼らは盗賊のグループらしく、あの近くを歩いていたらいきなり襲われて……私、今は一人で旅をしていたので、標的にされたのでしょう」
「ああ、成る程ね」

やはり彼らは見た目通りに盗賊だったようで、サリスは不運にも標的にされて襲われていたらしい。偶々私達が近くに居なければ今頃どうなっていた事か……その点は運が良かったと言えるだろう。

「今は一人でって、前は誰かと一緒だったの?」
「はい。以前は同じ街に住む男性と共に旅をしていたのですが、少し前に立ち寄った国でそこで暮らす魔物と恋に落ちてそこに留まってしまったので……私は旅を止めるわけにはいかなかったので、そこで別れてからは一人旅をしていました」
「あらら……」
「一応護身術は学んでいるので一人でも大丈夫と高を括っていたのですが、結果はあの通りという事です」

女性の一人旅とは珍しいなと思ったが、どうやら元々はお供に別の男性が居たようだ。しかし、魔物と恋仲になってしまい別れる事になり、今は一人旅になっていたという事らしい。
珍しい、と言っておいてなんだが、私もアメリちゃんやユウロと出会わなければ一人旅をしていたわけで……私も一応護身術を学んでおり、お父さんよりは腕っぷしも強くなったので、それを過信して一人旅をしようとしていたわけだが、現状非戦闘員になっている事を考えれば、一人旅をしていたのならばきっと彼女と同じ目に遭っていただろう。そろそろ1年になるが、旅立ちのあの日にアメリちゃんと出会っていて本当に良かったと心底思った。

「なんでそこまでして旅をしているんだ?」
「実は、私は行方知れずとなった両親を探して旅をしているのです。勇者様のパーティーの一員として国を旅だったのですが、1年ほど前に親魔物国家へ向かう所から行方が分からなくなってしまって……死んだとは思いたくなかったので、痕跡を求めてこうして旅を……」
「ちょい待ち。勇者パーティーって、ほんならあんた反魔物国家の人間なん?」
「ええまあ。あ、でも、旅の途中で多くの魔物達に親切にしてもらったのでもう嫌悪感はありませんよ。始めは聞いていたのと違って驚きましたけどね」
「なーんだ。なら安心だね」

サリスが一人で旅を続けている理由は、行方不明となった両親を探す為らしい。勇者の仲間として旅立った両親の行方を追うのならば、反魔物国家出身なのに親魔物国家の領土に居たのも頷ける。勇者だし、きっと魔界か親魔物国家に遠征したところで足取りが途切れてしまったのだろう。

「んで、アンタはこれからどこ行くつもりでおったん?」
「実は足取りが切れる直前の街で集められた情報がほとんどなく、あてずっぽうで親魔物国家を巡っていたので……一応近場のフィフラムって所へ向かおうと。情報は期待できないですけどね」
「あ、フィフラムなら私達と一緒だね」

しかも、両親の情報はほとんどなく手探りで探しているようだ。反魔物国家出身なのに、ほとんど影も形もない人物を求めて親魔物国家を渡り歩くのは、肉体的にも精神的にも相当大変だったと思う。

「じゃあさ、サリスお姉ちゃんもアメリ達と一緒に行く?」
「え?」

それはきっとアメリちゃんも考えたのだろう。それならばと、アメリちゃんはサリスに対して一緒に旅をしないかと誘った。

「そのほうが良いんじゃね? いくら魔物が女性を狙う事が少ないとはいえ、さっきみたいな事もあるし女の一人旅は危ないだろうしさ」
「い、良いのですか?」
「別にええやろ。ま、サマリとユウロがカップルでしょっちゅうヤッとるのをアンタが許容できるんならやけどな」
「ま、まあそれくらいなら……見せつけてくるならちょっと困りますが……」
「流石に見せつけはしないよ。そういう事をシてる時に見られるの恥ずかしいしね」

私も含め、他の皆も同じ事を考えたようだ。ユウロもカリンも、特に反対意見を言う事はなかった。

「それじゃあ……よろしくお願いします!」
「よろしくね、サリスお姉ちゃん!」

という事で、割とあっさりと新たな旅仲間が増えたのだった。

「……よしっ!」
「それじゃあよろしくね。私はサマリ。ご飯なら任せてね!」
「俺はユウロ。主に戦闘や力仕事をやってる。あと、サマリの彼氏だからそこのところよろしく」
「ウチは花梨。人間の旅商人や。旅の資金調達なら任しとき!」
「は、はい! よろしくお願いします!」

やっぱり少し心細かったのか、私達に受け入れられたサリスが、こっそり拳を握り締めて嬉しそうにし、恥ずかしいのか直ぐに拳を解いているのが目に入ったが、特に言及せずに私達は改めて自己紹介をしたのであった。



……………………



シャアァァァァァ……



「へぇ、サリスも17歳なんだ。じゃあ私と同い年だね」
「みたいだね。サマリは料理も上手だし、もう少し年上だと思ってたよ」

現在20時半。
まださっきの盗賊達が近くをうろついている可能性があるので、今日はこのままここで一夜過ごす事にした私達。夜ご飯も食べ終わり、私とアメリちゃん、そしてサリスの3人で一緒にお風呂に入っているところだ。
ちなみにカリンとユウロは今食後の皿洗いをしている。私達が出た後で二人でお風呂に入る、なんてわけはなく、カリンが一人で入って、最後にユウロが一人で入る。どうやらカリンはサリスには人間で通す気でいるらしい。最近はカリンも私達と一緒に入っていたが、お風呂の時は人化の魔法を解除する関係でまた別に入る事にしたのだった。
ちなみに、最初はサリスも別に入ろうとしていたが、アメリちゃんに一緒に入ろうと迫られたので折れて一緒に入っている。嫌悪感は無くなったとはいえ、やはり魔物と裸の付き合いをするのはまだ抵抗があるようだ。今も極力腕やスポンジで局部を隠しながら身体を洗っている。

「それにしても凄いよねここ。こんな立派なシャワールームに浴槽まであるなんてさ」
「最初は皆驚くんだよね。勿論、私も最初は驚いたよ」
「だよね……大浴場ならともかく、テント、というか小屋でこんな立派だとは思わないよ」
「そんなにビックリする事かなぁ……」

3人で入ってもまだまだ余裕で広い『テント』の浴室。今まで一緒に旅をしてきた中では、アメリちゃんと同じく魔王城で暮らすフランちゃん以外は全員この広さに驚いており、サリスも例外ではなかった。
サリスがその広さにキョロキョロとせわしなく視線を動かしている横で、流石にもう慣れた私は気にせず石鹸を泡立て、角の天辺から蹄の先まで入念にスポンジで擦り、今日一日身体に付着した汚れを洗い落とす。特に今日はこの後体毛を切ってもらう予定なので、より入念に汚れを落としていた。

「そういえばさ、サリスは両親が旅立ってからはどうしてたの? 一人で暮らしてたの?」
「ううん。近所に住むおばさんにお世話になりながら弟と一緒に暮らしてたよ」
「へぇ……え、弟居るの?」
「あ、うん。今はそのおばさんの家で弟がお世話になってるけどね」

シャワーで汚れごと泡を洗い流しながら、折角なのでサリス自身の事を聞きだす。

「弟君は置いていったんだね」
「まだ11歳の子供だからね。一緒には連れて行けないよ」
「寂しくないの?」
「ちょっとは寂しいよ。心配もしてる。旅立つまでずっと一緒だったし、唯一の肉親だしね。でも、一応過ごしやすい国で何泊かしてる間に手紙を出して安否は確認してるから、滅茶苦茶寂しいし心配ってわけじゃないかな」
「そっか……どんな子なの?」
「こっちの心配も何のそのってくらいもう元気いっぱいで、それでいておばさんや私の言う事は素直に聞く良い子だよ。これから反抗期に入っていくからちょっと心配もあるけどね」
「まあ、そればかりはわからないからね。でも、大切に思ってたらきっと大丈夫だよ」
「かなぁ……まあ、反抗的で手を焼いたとしても、嫌う事は無いかな。私、弟大好きだしね」

どうやらサリスには弟が一人いるらしい。どれくらい旅をしているのかはまだ聞いていないが、長い間会えてはいないのだろう。自身がそう言うように、弟の話をしているサリスは嬉しそうに、そして少し寂しそうに見えた。

「アメリもサリスお姉ちゃんの弟に会ってみたいなぁ……」
「そのうち、機会があればね……」

私もそうだが、そんなサリスの弟君に会ってみたいとアメリちゃんが呟いた。でも、サリスの故郷は反魔物国家だし、中々難しいだろう。それはサリスもわかっているようで、ちょっと困り気味に機会があればと言った。でも、折角だからその機会があれば良いなと思う。

「そういえば……アメリちゃんは何歳なの? うちの弟より若く見えるんだけど……」
「アメリは9歳だよ!」
「へぇ……本当にうちの弟より若いんだ。ほら、魔物って見た目と実年齢が合わないのも多いから、アメリちゃんもてっきりそのパターンかと思ったよ」
「まあ、バフォメットのお姉ちゃんやグレムリンのお姉ちゃんなんかはいくつになっても小さな女の子みたいな見た目してるもんね。でもアメリは本当に子供だよ!」
「みたいだね。私の弟より小さいのに旅をしてるんだね。魔物って凄いな……それとも、魔王の娘だから?」
「うーん……どうだろうね?」

話は変わり、まだ聞いていなかったようでサリスはアメリちゃんの年齢を訪ねたのだが……アメリちゃんが自身の年齢を伝えた途端、私は驚いて動きが止まってしまった。

「え、ちょっと待って。アメリちゃん、今9歳なの?」
「え? うん、9歳だけど……それがどうかしたの?」

そんな私にお構いなく話は続いていたが、ハッとして話に割り込む形で止めた。私の記憶が正しければ、アメリちゃんの年齢は8歳だったはずだ。だからもう一度確認したのだが、「何がおかしいの?」と言わんばかりに9歳だと言われてしまった。

「どうしたの? じゃないよ! 何時9歳になったの!?」
「え、えっと……エルゼルお姉ちゃん達と会ったちょっと後くらい……」
「もう2ヶ月近くも前じゃん!」

アメリちゃんの肩をガシッと掴み、何時誕生日を迎えたのか強く問い質す。返ってきた答えは、エルゼルさん達と会ったちょっと後……つまり、もう2ヶ月近くも前だった。
冷静に考えたら、アメリちゃんは私が旅立った日、つまり私の誕生日の時には既に8歳だった。その私の誕生日は今日から大体2週間後だから、それより前に8歳になっていたアメリちゃんの誕生日が過ぎていてもおかしくはない。それに、3ヶ月前にブランカさんと喋っている時に、実家に帰った9年近く前に赤ん坊のアメリちゃんを見たと言っていた。あの時に9年近く前と言っていたのだから、そこから1ヶ月くらいだと予測できたはずだ。それなのに全然気付かなかった事に滅茶苦茶後悔していた。

「もー、言ってよぉー!」
「い、いやあそんなに気にする事じゃないかなって……」
「気にするよ! お誕生日のプレゼントとかお誕生日ケーキとか作ったのに!」
「ご、ごめんなさい……特にそういう話した事なかったから……」
「あ、いやいや、謝らなくても良いよ。そうだよね、なんでだろうね……」

言われてから気付いたが、私達はアメリちゃんを含めて互いの誕生日を知らなかったのだ。よく考えたらアメリちゃんやカリンどころか、ユウロの誕生日すら知らない。私の誕生日も誰も知らないだろう。なぜ今までその話題にならなかったのか物凄く不思議だ。

「じゃあ、お風呂出てから皆に聞いてみれば良いんじゃない?」
「そうだね。それと、フィフラムに着いたらお誕生日ケーキの材料も買わないとね」
「え、良いよそんなの……」
「遠慮しないの。折角だし、作らせてよ」

兎に角、まずはアメリちゃんの誕生日を祝う必要がある。もう2ヶ月も経っているからかアメリちゃんは遠慮しているが、子供の頃の誕生日は特別な記念日なのだ。スルーするのはよろしくない。だから私は次の街に着いたら材料を買って、アメリちゃんの為にケーキを作ってあげる事を決めたのだった。



カポーン……



「ふぅぅ……」
「浴槽って旅に出るまで入った事なかったけど、結構良いよね……」
「だよね……」

アメリちゃんの誕生日騒動も一旦落ち着き、3人揃って浴槽に浸かる。温かいお湯が身体に染みわたり、疲れを溶かしてくれる。

「そういえば……入った後に言うのもなんだけど、このお風呂で魔物化したりしないよね?」
「え……どうだろ?」
「大丈夫だよ。お湯自体は普通のお湯だから。ミューカストードやカク猿のお姉ちゃんじゃないから、一緒にお風呂入っただけで魔物にはならないよ。でなきゃずっと一緒にお風呂に入ってるサマリお姉ちゃんが魔物になるのももっと早かったよ」
「あーそう言えばそうだね……」

お風呂の気持ち良さに3人揃って蕩けた顔を浮かべていたが、ふとサリスがその表情を強張らせたと思えば、そんな事を聞いてきた。いくら魔物に対する嫌悪感が薄れてきたとはいえ、自分が魔物になりたいとは思っていないのだろう。かつての私自身もそうだったので、その気持ちはよくわかる。
で、肝心のその答えはノー。このお風呂は浴槽に魔法を仕掛けてあり、常に清潔感と適温を保つように施されているが、お湯そのものは普通のものだ。アメリちゃんが意図的に自分の魔力を大量にお湯に溶かしこまない限り、魔物化は起こりえないのだ。

「そういえばご飯食べてる時に言ってたね。サマリって元は人間だったんだっけ」
「そうだよ。私も反魔物領の村出身でね。そういう意味ではサリスの気持ちもわかるかな」
「へぇ……そうなんだ」

私の両親は健在だし、逆に弟なんていないけど、話を聞いているとわりと私とサリスには共通点がある。年齢も同じだし、反魔物国家出身なのも同じ、性格も全く同じではないけど、それなりに近く感じる。逆に結構違うのは……胸の大きさかな。

「魔物になって何か変わった?」
「んー……根本的には変わってないけど、ワーシープだからかやたら眠気に襲われたり、野菜がより好きになったかな。種族的な事を除けば、まあエッチにはなったかな。ユウロと結ばれてからは特にね。まあ、日中は旅を楽しめてるし、四六時中脳内ピンクではないよ」
「あー、やっぱそうなんだ……」

魔物になって何か変わったかと聞かれたので、自分なりに変わったと思うところを答える。姿形は当たり前として、それ以外の事を言えば……欲望に忠実になったとは思う。食欲は元からだけど、睡眠欲と性欲もあまり自重しなくなった気はする。
ただ、それ以外は基本変わっていない。魔物だろうが人間だろうが、自分は自分だ。それに、睡眠欲や性欲も、表に出てきやすくなっただけで、元より自分が持っていたものだ。そうはいっても、こればかりは実際に魔物にならないとわからないとは思うので、とりあえずエロくなったとだけ伝えた。

「あ、あとちょっとおっぱいが膨らんだかな?」
「えっ?」
「……えっ? って何かな?」

あとは私的には重要な事を伝えたら、ドストレートに疑問を口にされてしまった。確かに、元があまり膨らみが無く、今もそんなに膨らみはない。B-からB になった程度だ。カリンと同等かそれ以上の膨らみを持つサリスと比べたら無いも同然だろう。というかサリスも着やせするタイプだったのか服を着ている時はそんなにデカいとは思っていなかったので裏切られた気分だ。

「そりゃあサリスはたぷんたぷんだもんねそれ何カップよ」
「え、えっと……Fカップ……」
「ああ゛ん!?」
「ひぃっ!」
「はぁ……始まったよ……」

何故私の周りはこうも無駄に乳がデカい女ばかり集まるのだろうか。実家周りの友人達もそうだし、今まで一緒に旅をしてきた中で私より小さかったのは子供のアメリちゃんとフランちゃん、そして幼女体型のセレンちゃんだけだ。プロメもリンゴもカリンも、年下のスズですら私より大きかった。同い年のサリスもそうだ。どうも神かそれに準ずる者の嫌がらせを感じる。そんなに私を虐めて楽しいのだろうか。

「ちょ、ちょっとサマリ……な、何を……」
「寄越せ……そのおっぱいを寄越せ!」
「ま、待って! キャラ変わってる! た、助けてアメリちゃん!」
「無理。頑張れサリスお姉ちゃん」
「ちょっアメリちゃ……ひぃぃっ!」

その胸の塊をもぎ取るため、じりじりと浴槽の隅へとサリスを追いやっていく。サリスはアメリちゃんに助けを求めるも、呆れと諦めの表情を浮かべるアメリちゃんからは無理と断られてしまった。助けを得られず、恐怖で震える哀れな子羊を調理するために、私は一歩ずつ距離を縮める。

「た、助け……おわっ!」
「逃がすかぁ!」

あとは捕らえるだけ……のところで、最後の抵抗かパッと立ち上がり浴槽から出て扉に手を掛けたので、私は逃がさない為にサリスに飛びつき、床に押し倒した。扉は少し開いたが、逃げる事は叶わなかったようだ。

「そのおっぱいを私に寄越せぇ!!」
「や、やめてえぇぇっ!」

私は馬乗りになってサリスの胸に手を伸ばした。私の執念の叫びと、彼女の悲痛な叫びだけが、浴槽に響いたのだった……



====================



「なあカリン」
「ん?」

サマリとアメリちゃん、サリスの3人が風呂へ行っている間に、俺とカリンで夕飯で使った食器と調理器具を洗っていたのだが、その途中で俺はある確認をする為にカリンに声を掛けた。

「お前、サリスの事どう思う?」

それは、今日から共に旅をする事になったサリスについてだ。既に俺達にはバレているのに、サリスにはわざわざ魔物であることを隠しているので、信用してはいなそうだと思っているが……

「どうって、まあ……少し胡散臭いなと」
「やっぱりカリンもか」

どうやらそのようで、皿に着いた洗剤を洗い落としながらオレにそう呟いてきたカリン。

「カリンもかって、ほなアンタもそう思っとるん?」
「まあな。サリス自身もだが、昼間の盗賊連中もちょっと引っかかるところがある」
「せやな。ウチも引っかかっとる」

それは俺も同じだ。そこまで怪しいというわけではないが、どうも引っ掛かるところがあり、サリスの事を完全に信用できないでいた。

「あいつら、やけにあっさり倒せたけどさ、なんかわざと臭かったよな」
「ああ。アメリちゃんにやられた奴はほんまに気絶しとったとは思うが……ウチ顔面蹴ったけど、浅かった気ぃするんよ」
「俺もだ。お前が吹っ飛ばした時、俺の相手がちらっとそっちを見ていた気がする」
「気がする?」
「俺もつられてちょっとそっち見たから、きちんとは見てない。それは兎も角、いくら男同士がぶつかったとはいえ、そう簡単に気絶するほどなよなよしてはいなかったと思うんだよな」

サリスの言動や行動というよりは、最初の盗賊達に怪しいところがあった。あっさりと全員打ちのめして俺達はその場を離れたのだが、やけにあっさり過ぎたのが気になった。相手の隙が大き過ぎたし、何よりアメリちゃんが相手していた奴なんて態々唯一の武器の短剣を投げたのだ。いくら盗賊だからと言って、あそこまで頭の悪い行動をするとは思えなかった。だからわざとやられたか、もしくは短剣の扱いに全く慣れていなかったからあそこまであっさり倒せたのか。どちらにせよ、違和感がある。
それと、あの盗賊感丸出しの格好も、同じように疑わしく感じる。いくら3人で行動しているとはいえ、あんな警戒してくださいと言わんばかりの格好をしているだろうか。普通は、警戒されないようにしていると思うのだが……
勿論、只のアホな盗賊成り立て連中という可能性もある。むしろ考え過ぎである可能性の方が高い。しかし、奴らが俺達を見て発した言葉が、俺達に疑問を抱かせる原因となっていたのだ。

「それにあいつら、アメリちゃんの種族をリリムだって一発で見抜いたよな。今まで人間で一発で見抜いた奴っていたか?」
「ああ。普通はちっこいリリムが親魔物領とはいうても人間界におるとは考えへんはず。サキュバスか、アークインプ辺りと思うはずや。それなのにリリムやとわかったんは……」
「魔物に精通しているか、あるいは初めから知っていたか……だな」

そう、特に疑わしいのが、サリスもあの盗賊達もアメリちゃんをリリムだと一発で見抜いたところだ。人間界に大人なら兎も角幼いリリムがいる、というか旅をしているなんて思わないのか、人間はもとより、魔物ですらアメリちゃんの種族を普通のサキュバスやアークインプなどと間違えた人は多い。それなのにリリムだとわかったのは、元々魔物に精通しており、リリムの特徴を持ち魔力が大きいからリリムとわかったから、もしくは俺達の事を知っていたから、と思えてしまう。どちらにせよ、そこら辺の盗賊がわかるとは思えない。
まあ、サリスに関しては盗賊達がリリムだと言ったからリリムだとわかった可能性も高いので、彼女自身は怪しいとは言い切れない……ここまでなら、だ。

「で、誰もツッコまなかったから俺もスルーしたけど……」
「一緒に行こうとウチらが言うた後のガッツポーズやな」
「ああ。すぐに止めたけど、だからこそちょっとな」

ガッツポーズをしただけなら、心細かった中で俺達と一緒に行ける事になって嬉しく思いやったとも思えるが、直ぐにハッとしてそれを解いたのが気になった。まるで、嬉しいと思われてはいけないかのような行動だ。
勿論、これだって「思わずガッツポーズをしてしまったが、恥ずかしいから直ぐに止めた」とも解釈は可能だ。証拠も何もないし、疑問に思う、の範疇は越えていない。

「俺達の考え過ぎ、なら良いんだけどな……」
「まあ、怪しかったとしても、なら何者やっちゅう話やし」
「それは簡単だろ。アメリちゃんを退治しに来た教団の連中だ」
「そうなんか? まあ、アメリちゃんはリリムやし、可能性は高いと思うけど……」

証拠がないから、盗賊とサリスがグルだ、とは言えないが……どちらもそれぞれで怪しいとして、ではいったい何者かという話だが……十中八九、主神を信仰する教団関係者だ。そして狙いは、これもおそらくだがアメリちゃんだ。勿論、そう自信持って言える理由はある。

「付近で魔王の娘の姿が確認された。しかも子供だ。大人になれば伝説級の勇者でもなければ手出しが困難。子供の内に始末せよ」
「あん?」
「俺が勇者やってた頃に出された指令だよ。ま、俺は子供に手を掛けるのは嫌だから命令無視してこうして一緒に旅してるけどな」

それは、かつてそこに所属していた事のある俺自身がそう指令を下されていたからだ。彼らの中では魔物は悪であり、倒すべき存在だ。その中でも、魔物の中の頂点に立つ魔王、その娘を倒せたとなれば、相手の力を大きく削れるのだ。実際、アメリちゃんは他の同世代の魔物と比べれば強いが、大人のリリムと比べれば未熟だ。
本来、幼少期のリリムは王魔界に居り、人間界に現れる事はまずない。親魔物領なら稀に観光や留学などの理由で居るかもしれないが、各地を少人数で旅しているのなんてアメリちゃんぐらいだろう。つまり、他の魔物、それこそリリムの中では一番狙われやすい存在だ。
以前、モイライという街でニータという情報通のラージマウスから、俺達は知っている人は知っているグループだと聞かされた。人間だけでなく、多種多様な魔物、しかも幼少のリリムが入り混じったパーティーだ。冷静に考えればかなり目立つ。
で、そんな目立つ存在を教団が耳に入れたとして、放っておくわけがない。直接倒しに行くだけでなく、人間だって一緒に旅をしているから、スパイを送り込もうと考えるかもしれない。それが、あの盗賊やサリスの正体という可能性も、限りなく低くはあるが、0とは言い切れないのだ。

「ま、サリス自身が戦闘できるとは思えねえから、その動きだけ注意しておけばいいだろ」
「魔法使いならわからへんが、筋力はサマリと同じかそれ以下やろうし、単純な戦力なら少なくともウチ以下やな」
「ウチ以下って、お前俺達の中で一番強いだろ?」
「はて、何のことやら……ところで、今そのサリスはサマリやアメリちゃんと一緒にお風呂に入ってるけど、大丈夫なん?」
「空手の達人とかならともかく、何も武器が無い丸裸の状態で魔物に勝てるわけねえだろ。風呂ならむしろ安心だ」
「せやな」

そのサリスは今残り二人と一緒にお風呂に入っている。低い可能性が的中し、サリスが教団関係者だったとしても、その状況がマズいとは思わない。完全防音なので中で暴れられたら気付けないが、人間と魔物では素のスペックに差がある。流石に丸裸の状態ではアメリちゃんは勿論サマリにも勝てはしないだろう。

「まあ、証拠も根拠もないのにずっと疑っててもしゃあないし、頭の片隅に置いて普通に仲間として接していればええか」
「それで良いんじゃね? 万が一ってだけだし、その万が一だったとしても、やけに距離置いたら警戒されるだけだろうしな……」

皿も洗い終わり、話も終えかかったその時。

「そのおっぱいを私に寄越せぇ!!」
「や、やめてえぇぇっ!」

突如、風呂場からサマリの恨みの篭った叫びと、サリスの悲鳴が響いてきた。

「……な?」
「な? ちゃうやろ! アンタの嫁暴走しとるやん!」

服の上からはわからなかったが、どうやらサリスも大きいらしい。やはり心配はいらなかったようで、女性陣恒例イベントが起きただけのようだ。完全防音なはずの風呂場から声が聞こえたのは、サリスが逃げ出そうとして扉が開いたからだろうか。

「ウチ止めてくるからアンタもサマリにハッキリと言うんやで!」
「な、何をだよ?」
「サマリのおっぱいが大きくならないのは自分がそのおっぱいが好きやからってな!」
「……」
「おいコラサマリええ加減にせえよ!」

そう叫びながら風呂場へと向かって行ったカリン。一人残された俺は、一度も口にしていない事をズバリと言い当てられたので、ちょっと恥ずかしがりながら頬を掻いていた。本人は巨乳を望むので言った事は無いが、あの大き過ぎず、それでいて確かな柔らかさを感じるサマリのおっぱいは触ってて心地よいので好きなのだ。あまり理解されない性癖だが、あの控えめな膨らみがストライクなのだ。
まあ、何にせよこれ以上被害が出ないように言ったほうが良いか……そのまま今夜もベッドインで、体毛のカットは明日以降かな……なんて考えながら、サリスから引き剥がしてサマリに説教を始めたカリンの声を遠巻きに聞いていたのだった。
19/07/28 01:09更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
という事で今回は新たな旅の仲間、人間女性のサリス加入回でした。
行方不明になった両親を探す普通の少女か、それとも教団関係者なのか、あるいはまた別の……それは、今後明らかになっていくでしょう。
何れにせよ、ここから幼き王女ときままな旅行は本格的に動き始めます。

ちなみに、黒サマリはこれで見納めです。多分。

それと今回、冒頭にて2組のリリムについて触れました。

まずはエルゼルと夫のスクル。彼女らはキープ様の『エルゼルとスクルの魔界歴史学』の登場キャラクターとなります。2014年10月頃にきままな旅とのコラボ回を連載の中で書いて下さったので、今回はその話でサマリたちが思った事、という形で触れさせてもらいました。
当時はありがとうございました!

そしてヘカテーと夫のロイ。彼女らはランス様の『変態リリムと執事長』の登場キャラクターとなります。こちらは2014年2月頃にコラボ回を同じく連載の中で書いてもらったので、同じく今回触れました。
長らく投稿されてませんし、メールもデーモンさん(図鑑のではない)だったのでご本人には届かぬかもしれませんが……当時はありがとうございました。そして書くと言っておいて返礼SS書けなかった事にお詫び申し上げます。

次回は……到着した遺跡の街フィフラムを観光するサマリ達。古代技術にワクワクしながらも、数ヶ月遅れのアメリちゃんの誕生日パーティーの為の準備も進め……の予定。



以下、言い訳+お願いです

さて、今回は上で述べたようにキープさん、ランスさんのキャラを名前のみとはいえ登場させました。キープさんには軽く許可を取りましたが、ランスさんは連絡が取れなかったので無断です。
そして、他にも星村さん(ライン、空理)、テラーさん(モイライ、ニータ)のキャラや街の名前も登場しています。星村さんからは許可を貰っていますが、テラーさんは同じくデーモンさんで連絡取れなかったので無断です。
いくら前作では登場し、また後にも名前を登場させると言っていたとはいえ、前作は前作。今作とは別の作品です。
本来、他所様のキャラを名前だけとはいえ勝手に出す事はよろしくないと思いますが、名前を言わず遠回しに表現した時、くどさや違和感が生じていたので、前作のコラボで登場させた他所様のキャラの名前は出してしまおうと考えました。
勿論、これは僕の勝手な言い分なので、駄目ではないかという意見が多ければ許可を得ていたい人のキャラに関してはまた遠回しな表現へと戻します。
もしよろしければ、今後もコラボキャラであれ名前だけは必要に応じてちょいちょい出していこうと思います。

そして、前作きままな旅とコラボして下さった作者様へ、もし今作をお読みでしたらお願いがあります。
名前もそうですが、キャラそのものを登場させても良いかを聞かせて下さい。
投稿ペース的にも年単位で未来の話になると思いますが、ちょっとやりたいお話があるので……
方法は感想欄でも、メールでも、ついったーでも、何でも大丈夫です。

以上です。長々と失礼しました。

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