おねーたんといっしょ!
「みゃあみゃあ……」
ボクは、気付いたら独りだった。
「みゃあ……」
別に親が居なかったわけではないし、一緒に乳を飲んでいる兄弟だっていた。
でも、ある日目が覚めたら、ボクは全く見覚えのない場所にいて、親も兄弟も居なくなっていた。
「みゃおぉ……」
汚い物や臭い物が山積みになっているこんな場所を、当てもなく彷徨う。
親や兄弟を呼んでいるが、やはり反応はない。誰かが現れる気配もない。
「みゃぅ……」
起きてから何も食べず、ずっと歩き続けていたボクの体力が限界を迎えたようだ。
力なく地面に倒れ、ぼーっと空を見上げた。
「……」
このまま親が助けに来てくれなかったら、ボクは死んでしまうのだろうか。
そんな事を思いながらも、どうしようもできないボクは、体力を消費しないようになるべく身体を動かさずにいた。
親が助けに来てくれる、そんな可能性の低い奇跡を信じて。
「……」
『おい、そこの白いチビ助』
『え?』
しばらくの間その状態で居たら、突然、知らない人の声が聞こえてきた。
『お前だ、お前。生きてるか?』
『だ、だれ?』
どうやらボクの事を呼んでるみたいだ。
誰かは知らないが、呼ばれたので目を開けてそっちを見た。
『おお、生きてたか。大丈夫かチビ助。お腹空いてるのか?』
『う、うん……』
そこには、茶色い毛並の、ボクより1,2回り大きい人がいた。
『じゃあおねーたんがチビ助のためにご飯を持ってきてやろう。ありがたく思え!』
『うん……ありがとう』
そう言って、ボクの前から立ち去っていき……
『ほらチビ助、ご飯だぞ。食べられるか?』
『う、うん……おいしい』
ボクのために、何かのお肉とか食べ物を持ってきてくれた。
おかげでボクは、死なずに生きていく事ができた。
これが、ボクとおねーたんの出会いだった。
……………………
『チビ助はどうしてあそこにいたのかわからないのか』
『うん。おねーたんはどうしてここにいるの?』
『私は好きでここにいる。ここならご飯もベッドもなんだってあるからな!』
おねーたんに案内されながら、ボクはこのごみ溜め場を歩いていた。
どうやらここは人間という生物達が不法投棄っていうごみを捨てる場所らしい。
『今日からチビ助もここで暮らすんだ。どこに何があるかは覚えておくんだぞ』
『うん……』
『あー、チビ助はちょっと前まで乳飲み子だったみたいだからお母ちゃんと別れて寂しいかもしれないけど……ここではそんな泣き言漏らしてたら生きていけないぞ』
『うん。わかってるよ』
もちろん、ボクが居た場所の近くにそんなものはなかった。つまり、親もこの近くにはいないという事だ。
自分がどうしてこんなところにいるのかは全くわからないし、どこから来たかもわからないから、ボクはここで一人で生きていくしかないのだ。
『まあ、ちょっとはおねーたんが助けてあげるよ。チビ助の事、なんとなく気に入ったし』
『ありがとおねーたん!』
『ふふんっもっと頼っていいぞ!』
いや、一人ではない。
どうやら、おねーたんがボクを助けてくれるらしい。とても心強い。
『ご飯はあそこにいっぱいあるからな。ちょっと臭いけど、美味いものは美味い……』
『おい小娘、そこの白いチビはどうしたんだ?』
『ん? ああ、おっちゃん』
比較的食べられる物が多く捨てられてる場所を説明してもらっている時に、後ろから野太い声が聞こえてきた。
振り向くと、灰色の毛並の大人が、ボク達のほうを見ていた。
『いやあ、本人もよくわかってないらしくてさ、気付いたらここにいたんだって』
『そうか……おいチビ』
『は、はい……』
左の目が傷付いているし、声も低いせいで、見た目はかなり怖いおじさん。
『何か困ったらワシやそこの小娘を頼るんだな。他にもここに住み着いているのは沢山居るが、他人を助けるようなお人好しはワシとそこの小娘だけだからな』
『あ……ありがとう……』
『ふふん。おっちゃんは強面のくせに優しいもんな』
『強面は余計だ。こうなりたくてなったわけではない』
でも、中身は優しいおじさんだった。
『昔ワシを飼ってた人間に裏切られただけじゃ! あー腹立たしい。人間なんて屑、信用したワシが馬鹿だった!』
『こらおっちゃん! チビ助の前で変な印象与えるな!』
『変とは何だ変とは! 真実を言っているだけだ!』
『それはまあそうかもしれないけど、おっちゃんの言い方じゃ人間全部が悪い人みたいじゃん!』
『ぐぬぬ……ワシは全員嫌いじゃ! 美味いもん食わしてくれたからちと気を許したら玉潰した挙句瓶で目を傷付けるような奴らなど好いてたまるか!』
『うぬぬ……おっちゃんの頑固!』
『……ぷ、あはははははっ!』
そんなおじさんとおねーたんの口喧嘩を見ていたら、思わず吹き出してしまった。
『うおっ!? チビ助が笑った!』
『な、何だいきなり……』
『あははははっ、だってなんかおかしくってさ!』
色々と不安があったけど、笑った事で全部吹き飛んだ。
この二人がいれば生きていける気がする。そう思いながらボクは、新しい生活を始める決心がついたのであった。
……………………
「にゃーにゃー」
「ふにぃ……」
おねーたん達と一緒にゴミ捨て場で暮らし始めてから、そこそこの月日が経過した。
『こらチビ助、いつまで寝てるんだ』
『だってこの日向、暖かくてお昼寝するのに丁度良いんだもん。他の子だって寝てるよ』
ボクは何度もおねーたんやおじさんに助けてもらいながら、特に大事に至る事は無く毎日平和に生きていた。
『余所は余所、うちはうち。手伝えって言ったじゃん』
『だってボク眠い……ふぎゃっ!?』
『いいから起きろチビ助。おねーたんを手伝え』
『む〜わかったよぉ……』
もちろん助けてもらってばかりではなく、今日みたいにおねーたんの力になる事もある。
ただ、爪を立てて背中を引っかいたり、尻尾を踏んづけたりするのはやめてほしい。痛くて涙目になる。
『それで、何すればいいの?』
『こっちこっち。良い物見つけたからチビ助も運ぶの手伝え。一人で運べない事もないけど二人のほうが楽だし、手伝ってくれたらチビ助にも使わせてやる!』
『良い物って?』
『まあ、見てのお楽しみ』
ゴミ山の中を駆け抜けながら、ボクはおねーたんが何をする気なのかを聞いた。
どうやら、何かいいものを見つけたから運ぶのを手伝ってほしいらしい。
重いものだと嫌だなと思いながらも、ボクはおねーたんに素直についていった。
『ほらチビ助、これを運ぶの手伝って』
『これって……何?』
『毛布っていう暖かい布。でも温かいから寒い今の時期に丁度いいと思う』
『へえ……』
おねーたんの後に付いて行って、辿り着いたのは高く積み上げられたゴミ山だった。
そして、そこにあったのはもこもこの暖かそうな大きな布だった。
確かに、寒い今の時期には丁度良さそうである。
『私はこっちから引っ張るから、チビ助はそっちの端咥えて引っ張って』
『うん』
という事で、おねーたんと一緒に暖かそうな布を、ゴミ山の中から引っ張り出そうとした。
『ぬぎぎ〜』
『ほらチビ助、もっと力入れて』
『うぐぅ〜』
だが、結構成長したのにかかわらず、身体が小さいボクの力では上手く引っ張り出せない。
『まったく、見てられんな』
『あ、おっちゃん』
『ワシもチビと一緒に手伝うから使わせてくれ』
『むう……まあ、おっちゃんならいいか』
『よし。それでは引っ張るか』
その時、どこからかおじさんが現れて、ボクの隣に来て一緒に引っ張ってくれた。
『そぉれ! わあっ!?』
おじさんの力もあり、ボク達は暖かそうな布を引っ張り出す事ができた。
ただし、ゴミ山の中にあったものだから……詰みあがっていたゴミ山も崩れて、僕たちの上に降ってきた。
『よし、引っ張り出せた。やっぱり暖かいや』
『きゅぅ……ゴミ山も崩れて降ってきたから痛いよぉ……』
『アイタタタ……』
ゴミ山に埋もれ、目を回しているボクとおじさん。
ちゃっかり一人だけ避けていたおねーたんは、暖かい布の上で一足早く丸くなっている。
『ほらほら、二人ともお入り。間に挟まれるとぬくぬくだよ』
『にゃぁ……本当だぁ……♪』
『あいてて……女子共、ワシも入れろ……あ〜ぬくぬくだぁ〜♪』
ふらふらになりながらも、おじさんと一緒におねーたんの隣に入り込む。
クルッとなってるところに入ると、上も下もぬくぬくで、日向以上にぽかぽかになった。
「みゃー♪」
「にゃー♪」
「にゃお♪」
三人一緒にぽかぽかしながら、ゆったりとお昼寝をしたのであった。
そんな、贅沢はできない環境でも、ささやかな幸せが、いつまでも続くと思っていた……
……………………
「にゃー!!」
「ふぎゃあああ!!」
「にゃあああっ!!」
「みぃーみぃー!!」
だが、その幸せな日々は、ある日突然奪われてしまった。
『はぁ……はぁ……』
『おいチビ助! 足を止めるな! 焼け死ぬぞ!!』
『そ、そんな事言ってもぉ……』
ボク達の住んでいたごみ溜め場全体が炎に包まれたのだ。
ごみ溜め場に住んでいた皆は、それぞれが散り散りになって必死に逃げている。
もちろんボクも死にたくないので、おねーたんと一緒に必死に逃げていた。
ただ、身体が小さいボクは、おねーたんに付いていくのも限界だった。
ここで立ち止まったら燃えてしまうが……ボクはもう走れるほどの元気はない。
『はぁ……はぁ……』
『チビ助!!』
『小娘! お前は先に行け! チビはワシが連れていく!!』
『はぁ……にゃふ!?』
『おっちゃん! じゃあ任せた!』
そんなボクの首根っこを、おじさんが咥えて持ち上げた。
ボクは宙ぶらりんになり、おじさんに運ばれる形になった。
『うわあっ!? 熱いよぉ……』
『我慢しろ! 全身焼肉になるよりはいいだろ!』
雨が降っていないどころか、風も強くはないとはいえ吹いているので、炎は激しくなる一方だ。
時々炎が身体を掠めて熱いし、その度にビックリしてしまう。
『くっ、もう少しだ! もう少しで炎がないところに……』
『おじさん、上! 危ない!!』
『なっ!?』
それでも、もう少しで炎のない場所まで抜ける事ができる。
そこまで行ければ安全だ……と思った瞬間だった。
上空から、炎に包まれた大量のごみが、ボク達めがけて降ってきた。多すぎてとてもじゃないが避け切れない。
『う、うわああああああああっ!!』
『く……小娘! チビを受け取れえっ!』
『お、おっちゃん!』
怖さのあまり叫びながら目を瞑っていたら、首元で咥えられている感覚がなくなり、急に身体が浮いた。
目を開けると……ボクの身体は空中に浮いており、先に行っていたおねーたんの傍まで飛ばされており、おねーたんの身体にぶつかる形で止まった。
そして、振り向くと……炎に包まれた場所で、炎に包まれたごみに埋もれていくおじさんの姿があった。
『チビ、小娘、長く生きろよ!』
『おじさあああああああああんっ!!』
『おっちゃああああああああああんっ!!』
それだけ叫んだおじさんは……炎の中に消えていった。
『おじさ……おねーたん離して!』
『馬鹿チビ助! お前が行ってどうする! 私だってこうなっちゃったらもう……くそぉ!』
ボクはおじさんを助けようと炎の中に戻ろうとしたが、おねーたんが尻尾を踏んで止めた。
そんなおねーたんも、悔しそうな表情を浮かべ、歯を食いしばって耐えていた。
「みゃあああああおっ!!」
「なああああああおっ!!」
哀しい鳴き声だけが、炎に包まれたごみ溜め場に響いたのだった……
……………………
『おねーたん……これからボク達どうなっちゃうの?』
『さあね。おねーたんにもわからないよ』
それからボク達は、当てもなく街中を彷徨い歩いていた。
ごみ溜め場は全焼してしまったので、そこに住み続ける事はできなかった。
他に住んでいた皆も、散り散りになってどこかに移って行ったのだ。
『おねーたんお腹空いた』
『もうちょっとだけ我慢しろチビ助。ここは何もないしな』
あのごみ溜め場から外に出た事がないから、ボク達には行く当てがなかった。今だって、人間達が住む街の裏路地を適当に歩いているだけだ。
それでも、全て燃えて何もないところにいつまでもいるわけにもいかない。だから彷徨い続けているのだ。
こうして、ボク達は毎日ギリギリの生活を送っている。今みたいに、全然食べ物が手に入らない時だってある。
実際、もう夜だが今日はまだ何も食べていない。お腹が空いて力がでず、歩みもふらふらとしてしまう。
『おねーたん……』
『あーもーわかったよ。ちょっと探してくるからここで待ってろ!』
あまりにもお腹が空きすぎてそう文句を言っていたら、若干怒り口調でおねーたんがそう言った後、一人でどこかに行ってしまった。
「にゃぁ……」
自分でもちょっと我儘言い過ぎたかなとか思いながら、ボクはその場で座って待つことにした。
「にぃ……」
もう随分この生活をしているが、安心できる新天地には中々辿り着けないでいた。
せめて寝床だけでも見つけたいが……ここが人間達が大勢暮らす地域だからか、安心して眠れる場所もない。ここ最近は、どこかでひっそりと、おねーたんと二人で固まって寝ている事が多い。
ご飯だって、人間が捨てたまだ食べられるものを漁っている日のほうが多い。今日みたいにおねーたんがどこかから持ってきてくれる事もあるが、どちらにせよ、安定して食事ができる可能性は低い。
それでも、おねーたんが居てくれるから、ボクはこの生活がそこまで嫌ではなかった。
おねーたんと一緒だから、なんとか生きていける自信があるのだ。
「ふにゃぁ……」
『ほれチビ助、持ってきてやったぞ』
『あ、お帰りおねーたん』
しばらくしたら、おねーたんが凄く大きいお魚を咥えて帰ってきた。
『そんな大きなお魚どこから持ってきたの?』
『人間のお店から貰ってきた。お金は落ちてたの置いてきたから泥棒じゃない』
『ふ〜ん……よくわからないけど、ありがとおねーたん!』
ボクどころか、自分の身体よりも大きなお魚を持ってきたおねーたん。
どこから持ってきたのかと思えば、人間がいるお店とかいう場所から持ってきたらしい。よくわからないが、流石はおねーたんだ。
『これなら二人で食べてもお腹いっぱいになるだろ』
『だね』
二人一緒にお魚のお腹から齧り付き、お腹いっぱい食べたのであった。
しばらくの間は、こんな感じにおねーたんと一緒に暮らしていた。
だが、この生活は長くは続かなかった。
……………………
「みゃぁ……」
「にゃあっ」
それは、ある雨の日の事だった。
『べとべとだぁ……』
『これじゃあ移動できないな』
雨に当たるのは嫌なので、ボクとおねーたんは雨の当たらないところでじっと座っていた。
多少であれば問題ないが、生憎痛い程の勢いで降っているため、最低でも弱まるまでは全く動けないでいた。
『チビ助、寒くないか?』
『うん、大丈夫だよ。おねーたんは?』
『私も寒くはないぞ。雨は冷たいから当たりたくはないけどな』
ずっと弱まる気配を見せない雨を、ボク達はただじっと見ているしかなかった。
時々目の前を通り、そのついでにこっちのほうを見てくる人間達が持っているような、雨を防ぐ物があれば自由に動けたのだろうけど……生憎、ボク達が使える代物ではない。
だからこそ、こうして雨が止むのを待っていたのだが……
「にゃぁ……」
「ふにぃ……」
「……ん? こんなところにネコが……」
ボク達の前に現れた、一人の人間のオス。
こいつが、ボク達の生活を変えてしまった。
「にゃっ!?」
「んー、首輪とか付いてないし、野良猫かな……」
その人間のオスがボク達の前で止まって、しゃがみ込んだと思うや否や、いきなりおねーたんを抱え上げたのだ。
そのままおねーたんを品定めでもするかのように、じーっと身体中を見ていた。
『なんだこいつ、私の身体ジロジロ見て……』
『おねーたん!』
『慌てるなチビ助。きっとこのオスは私の身体に見惚れているんだ』
『そう……なの?』
おねーたんは持ち上げられた瞬間は驚いていたが、今は落ち着いてじっとしている。
一方、ボクはおねーたんが何か酷い事されるのではないかと気が気ではない。
だって人間は、おじさん曰くボク達を平気で傷付けてくるような生き物らしいから。
「ふーむ……1匹ならまあ……よし。お前、家に来ないか?」
「にゃ?」
『えっ?』
しばらくじーっとおねーたんを見ていた人間は、突然そう言うと……おねーたんを抱えたまま立ち上がった。
「よしよし、暴れるなよ」
『お、おねーたん!?』
『く……チビ助! このっ止まれ!』
「おいおい、暴れるなって」
そして……なんと、そのままおねーたんを連れさろうと歩き出した。
ボクは雨に濡れる事も一切気にせず、叫びながらこのオスを追う。
おねーたんのほうも、自分が攫われている事に気付いて、一転して暴れ始めた。
「こらこら……いてっ!」
「フ〜!!」
しばらくはなんて事もなさそうにおねーたんを抱きしめていた人間だったが、おねーたんが指を引っかいたのは流石に効いたようで、慌ててその手を離した。
その隙におねーたんは逃げ出し、ボクの傍に近寄って、ボクと離れ離れにするなと文句を言う。
「もーだから暴れるな……って、もしかして……」
「ふしゃー!!」
「もしかして……2匹一緒が良いのか」
「ふにゃ!」
どうやらそれが通じたようで、人間のオスは理解したかのように手をポンと叩いた。
「まあ、仕方ない。それじゃあ……」
「にゃあ!?」
「こっちの小さいネコも連れてってやるよ。どっちもメスみたいだし、これ以上増えないだろうしな」
そして……今度はおねーたんだけではなく、ボクも一緒に抱えた。
「ま、2匹だと生活がちょっと厳しいけど仕方ないか。美味いもん食わせてやるからな〜♪」
『お、おねーたん!』
『まあ、チビ助と一緒なら良しとしよう!』
『い、いいの!?』
『いいよ。この人間が優しければ、ご飯と寝床の心配はしなくて済むし』
『で、でも……人間は怖い生き物だっておじさんが……』
『おっちゃんは一部の例だけで全てを言い過ぎなんだよ。あまり真に受けるなチビ助。それに、酷い人間だったら逃げればいいじゃないか』
『そう……なのかなぁ……』
ボクは逃げようとしたけれど、ボクと一緒なら良いやと一切抵抗せずなすがままになっているおねーたん。
人間に世話されるというのはやっぱり怖いが、おねーたんと離れたくはないので、ボクも大人しく連れ去られることにしたのだった。
……………………
「チャイ、シロ、ご飯だぞ」
「にゃあ♪」
「にゃー」
そして、ボク達と人間のオス……としあきとの共同生活が始まった。
『おねーたん、このカリカリしたやつ美味しいね』
『まあまあだな。としあきめ、もっと美味しい物を食べさせろってんだ』
『でもおねーたんも夢中で食べてるじゃん』
『誰も不味いとは言ってない。これはこれで美味しい』
最初はビクビクしていたが、としあきは特にボク達を傷付ける事は無く、それどころか今まででは考えられない贅沢な暮らしを提供してくれた。
ご飯は用意してくれるし、暖かい寝床も提供してくれたし、時々構ってくれる。一部の不満を除けば、今まで生きてきた中で一番良い暮らしだ。
人間だけどおじさんの言うような酷い生物ではない。おねーたんの言う通りそれは一部のやつだけみたいで、としあきは当てはまらないようだ。
「チャイ、シロ、美味いか?」
「にゃあ♪」
「にぃ♪」
ちなみに、としあきの言うチャイはおねーたん、シロはボクの事を指している。
たぶんおねーたんが茶色い毛並、そしてボクが白い毛並だからそんな呼び名を付けたのだろう。単純だがわかりやすい。
「よしよし。しかし可愛いなお前ら」
「ふにぃ♪」
「にゃー」
「ふふ。やっぱ拾って良かったよ」
『ふふん。ご飯の途中だが仕方ない。可愛いと言ってくれたし撫でる事を許してやろう』
『むぅ……ボクはご飯はゆっくり食べたいんだけどなぁ……』
ボクもそうだが、おねーたんはとしあきに心を許したみたいだ。
としあきに撫でられたおねーたんは、今まで聞いた事のないような声で鳴く。どうやらとしあきに撫でられるのが心地良いみたいだ。
まあ、ボクだってとしあきに撫でられるとなんだか嬉しい。が、ご飯の時は食べる事に集中させてもらいたい。撫でるなら暇な時にしてほしいものだ。
「おーよしよ……ん? 黒江かな?」
『む……まさかあの女が来た?』
相変わらず撫で続けていたとしあきだが、チャイムが鳴ってやめてしまった。
この夜遅い時間に来る可能性があるのは、郵便以外では一人しかいない。それを勘付いたおねーたんは、一人不機嫌になる。
「やっほー俊彰。ネコちゃん達見に来たよ〜」
「おう。今丁度飯食わせたところだ」
家の中に入ってきたのは、やっぱりとしあきの幼馴染で人間のメスのくろえだった。
「やっほーチャイちゃん!」
「ふうううっ!!」
「うぅ……やっぱりチャイちゃんには嫌われてる……」
「はははは……」
おねーたんはなんでか知らないけどくろえが嫌いらしい。なんでも特に理由はないけど気に入らないらしい。
おねーたんの事は好きだけど、流石にそれは酷いのではないかなと思う。毎回くろえが来る度にこうして威嚇して自分を絶対に触らせようとしない程嫌いな理由がハッキリしていないのだから。
「にゃー」
「逆に、シロちゃんは懐いてくれてるねー。よしよし♪」
「ごろごろ♪」
その分、ボクはくろえにすり寄ってあげている。
くろえもとしあきと同じぐらい優しいのでボクは好きだ。だから甘えさせてあげている。
『おいチビ助! くろえに懐くな!』
「シロちゃんコチョコチョ〜」
『くろえのなでなでも気持ち良いよおねーたん。これを堪能しないなんてもったいないなぁ』
「チャイは俺には懐いてるんだけどなぁ……」
『ふん。その間私はとしあきを独り占めだ。我慢するのは大変だが幸せだ。だから全然羨ましくなんてない』
『ふーん……』
おねーたんはとしあきの腕の中で満足そうに撫でられている。
まあ、たしかにとしあきに撫でられると、くろえの時とは違った気持ち良さがあるのでわからないでもないが……だからと言ってくろえを避け過ぎである。
『おねーたんもしかして……』
『もしかして……何?』
『まさかだと思うけど……くろえに嫉妬してる?』
『……そんなんじゃないし』
『返事遅かったし図星だね』
『うるさいチビ助!』
もしかしておねーたんはとしあきと仲が良いくろえに嫉妬しているのではないかと思ったけど、どうやら正解みたいだ。
『私は単にくろえが気に入らないだけだ! 大体嫉妬って何だ!』
『だっておねーたんとしあきの事凄く気に入ってるじゃん』
「ふにゃああああっ!」
「にゃあにゃあ」
「なんだかこの子達、交互に鳴いてるし会話してるみたいだね」
「そうかもしれないよ。なんたってチャイだけ連れ帰ろうとしたらシロも連れてけってチャイが暴れたし、きっと仲良しなんだよ」
「へぇ。品種が違うし姉妹じゃないだろうけど、二匹は仲良しなんだねー♪」
「にゃあ♪」
「ふしゃー!!」
くろえと仲良くするなとうるさいおねーたん。そんなの人の勝手だとボクは言い返す。
確かに普段は姉妹のようにボクとおねーたんは仲が良いが、くろえの事になるとこうしてちょっと喧嘩になる。
「俺達のように幼馴染だったりしてな」
「かもね。二匹ともあたし達のように仲良くするんだぞ!」
「にゃあ!」
『ふん……くろえに言われなくても私とチビ助は仲良しだ。だからとしあきから離れろ!』
『やっぱりくろえに嫉妬してるじゃん』
『うっ』
おねーたんはとしあきが好きだからべたべたするくろえが嫌いなのだろう。
ボクだってとしあきは好きだが、おねーたんみたいに嫉妬する事は無い。ボクとおねーたんだってしてるんだし、一緒にとしあきにべたべたすればいいだけだ。
「そういえば黒江、お前今日どうするんだ?」
「泊めてもらうつもりだったけどダメ?」
「にゃに!?」
「別に良いけど……一人暮らししてる男の家に堂々と泊まるってのもなぁ……」
「今更だよ今更。男って言っても俊彰ならどうせ手を出さないだろうし安心だしね」
そして、どうやらそのくろえが今日はこの家に泊まっていくらしい。
おねーたんはあからさまに嫌がっている。が、おねーたんの言葉は人間には通じないので何を言おうが泊まる事には変わらないだろう。
「うーむ……信頼されていると考えればいいのか、舐められてると考えればいいのか……」
「あれ? なんなら襲っちゃう? あたしの服をひん剥いてレイプ……」
「するかボケぇ! 泊まるんだったらとりあえずシャワーでも浴びてこい。飯は?」
「食べてないからよろしく。それじゃあシロちゃん、あたしと一緒に身体綺麗にしましょうねー♪」
「にゃ!?」
だからかくろえは、ボクを抱きかかえたままお風呂に移動し始めた。
『シャワー嫌!』
『我儘言ってないでくろえと綺麗にしてこいチビ助。人間と暮らすなら身体を綺麗にするのは大事だぞ』
『シャワーじゃなくてもいいもん!』
「わっシロちゃんも急に暴れ始めた」
「俺達の言ってる事がわかってるかのような反応するんだよなこいつら。シロはシャワーが嫌いらしいからしっかり身体を抑えて洗うんだぞ」
「うん。シロちゃん、綺麗になろうねー♪」
「にゃああああぁぁぁぁ……」
ボクはシャワーが嫌いだ。ずぶ濡れになるし目に染みるし耳も痛いしで、綺麗になると言っても嫌なものは嫌だった。
だから頑張って抵抗したのだが……無情にもボクは、くろえに抱かれたままお風呂場まで拉致されたのであった。
……………………
「にゃあ♪」
「にぃ……」
シャワーという地獄を終え、ボクは身体を乾かすために暖かい風が出ている場所で座っていた。
おねーたんもボクとくろえが入った後にとしあきと一緒に入り、綺麗さっぱり上機嫌だ。
『いやあ、やっぱりお風呂は良いなあ♪』
『どこが?』
なんでおねーたんがあんなにお風呂が好きなのかがサッパリわからない。
基本的におねーたんを見習って、おねーたんと一緒に行動しているボクだが、これだけは理解できなかった。
「いやあ、やっぱり俊彰の料理は美味しいなあ。良いお嫁さんになれるよ」
「うるせえ。彼女ができないからって彼氏を作る気はない。大体黒江が女なのにできなさ過ぎなんだよ。そんなんだから毎度彼氏ができてもすぐ振られる事になるんだよ」
「別にそんな理由で別れるわけじゃないもん……」
くろえととしあきはご飯を食べている。
ボク達はさっき食べたからお腹いっぱいなので、ぼーっと身体を乾かしている。
「にぃ……」
「話は変えるけど、そういえばどうしてチャイちゃんとシロちゃん拾ったの?」
「にゃ!?」
しばらくぼーっとしていたが、としあきとくろえの話題がボク達の事になったので、耳を傾ける事にした。
「まあ、元から猫か犬か飼いたいなとは思ってたんだよ。折角ペットOKな広いマンションに一人で住んでるから寂しいしな」
「そうだね。流石医者の息子、金持ちめ……」
「黒江だって似たようなもんだろ? 大手企業の社長令嬢さん」
「まあね。でも次女だから跡継ぎじゃないし、好き勝手できる分こんな贅沢できるほど仕送りとか貰ってないけどね」
「ははは……まあ、俺も次男だけどな」
「ああそうか。羨ましいぞこの野郎!」
話の内容は大半が難しすぎて理解できない。
「おっと話が脱線したな。それで数週間前の雨の日に、雨宿りしてたチャイとシロと偶然出会ったんだよ」
「そうみたいだね。今の時代でも珍しくやってる駄菓子屋のところでしょ?」
「そうそう。あそこの屋根の下で二匹で丸まってたんだよ。可愛くってなぁ……野性っぽかったし、ついお持ち帰りしたってとこだ」
「にゃあっ♪」
だが、一つだけわかったのは、としあきはボク達が可愛くて連れ帰ったという事だ。
それを聞いたボクは嬉しく思った。おねーたんも大喜びだ。
「最初は、先に見つけたチャイだけにしようかと思ったんだけどな。それでチャイだけ連れ帰ろうとしたらシロも付いてくるし、チャイはチャイで連れ出す前までは大人しかったのに急に暴れるしでさ、結局二匹とも連れ帰っというわけ」
「あーさっき言ってたよね。二匹仲良しだって」
「そうそう。それで二匹とも持ち帰ってこうして飼ってると、本当にそんな感じがするんだよ。まあ、幼馴染みっていうよりは姉妹だけどな」
「へぇ……チャイちゃんがお姉さんでシロちゃんが妹?」
「そう」
そしてそのまま、ボクとおねーたん自体の話題に変わった。
「なんというか、チャイがシロを引っ張っているような素振りをよく見かけるんだよね。拾って初めてご飯出した時も、まずチャイから食べて半信半疑だったシロがそれに続いて食べてたし」
『そういえば最初チビ助はとしあきの出したご飯食べるの躊躇してた』
『だって……人間がわざわざ用意したご飯ってのが怖かったもん。おねーたんが平気そうに食べたから問題ないなって思った』
「そういえばお風呂もシロちゃんは暴れるのにチャイちゃんは大人しいよね。そこもお姉ちゃんとしてしっかりしてるからかな?」
『チビ助、いい加減シャワーに慣れればいいのに』
『無理! 目に染みるし耳に入って痛いし……なんでおねーたんは平気なの?』
『としあきと一緒だからな!』
ボク達の話を続けるとしあきとくろえ。それに反応するボクとおねーたん。
二人がご飯を食べている間、ずっとそんな感じで盛り上がっていた。
「さて、ご飯も食べ終わったし……食べた後すぐってのはあまり良くないが、まあ寝るか」
「そうだね。時間も時間だし、他にする事もないしね」
そして、ご飯も食べ終わり就寝準備に入った二人。
ボク達も身体が乾き、眠たくなってきた。
「しかし一人暮らしなのに布団2つあるとは……もしや俊彰、あたしが泊まりに来ることを想定して……」
「そんなわけあるか。予備だよ予備。汗臭くて布団干したら突然の雨でずぶ濡れになるなんて時用だ」
「そんな事まずないと思うけど……」
「それが一回あったんだよな」
「えっうそ……」
「マジで」
どうやら二人は同じ部屋で隣り合って寝るようだ。
ボクも普段は用意された寝床でおねーたんと一緒に寝るのだが……
「それじゃあ電気消すぞ」
「うん。おやすみ俊あ……うわっ!」
「にゃー!」
としあきとくろえが一緒に寝ようとする時は、必ずと言っていい程おねーたんは二人の間に割って入り、俊彰にくっついて寝ようとする。
「やっぱり来たか……黒江が居る日はいつもここで寝ようとするからな」
「俊彰と一緒に寝るあたしに嫉妬してたりしてね。それじゃあチャイちゃんも一緒に寝ようね〜」
『ふん。くろえと寝る気はない。私はとしあきと一緒に寝たいんだ!』
やっぱりくろえに嫉妬してるじゃないかと思いつつ、ボクも寝ようとしている二人に近づく。
「お、やっぱりシロも来たか」
『としあき寝よー』
「モテモテだね俊彰。ハーレム形成?」
「うるせえ。猫にモテても仕方ないだろ」
『むう……私はとしあきの事大好きだぞ』
「わっ! こらチャイ、脇腹を舐めるな!」
『ボクもとしあき大好き!』
おねーたんとは反対側のとしあきの横に入り、寝転んでいるとしあきに抱き着く形で寝る。
としあきに密着していると暖かいし、なんだか落ち着く。
「それじゃあおやすみ」
「ああ、おやすみ」
「にゃ……」
「ふにぃ……」
そんな感じで、皆一緒にお布団の上で寝たのであった。
ここのところこんな生活が続いている。
もちろん、シャワーの件を除けば全く不満はないし、ここから逃げ出すなんて考えは一切ない。
ボクもおねーたんもとしあきが大好きだ。だから、逃げ出そうだなんてまったく考える事は無いし、としあきから離れる事なんて考えたくはない。
だからずっと、こんな感じにとしあきと、時々くろえも一緒にボク達と寝るような、まったりとした幸せな日々が続くと思っていた。
『……としあき、大好きだぞ……』
でも、そう思っていたのはボクだけだった。
『私と……交尾を……』
おねーたんの言う大好きの意味が、ボクの言うそれと違うという事に、この時は気付きもしなかった。
……………………
「にゃあ……」
「にゃ……」
それは、とある満月の夜の事だった。
『としあき遅いねー』
『そうだな……はぁ……』
綺麗に輝く月を見上げながら、ボクとおねーたんは薄暗い部屋の中でとしあきの帰りを待っていた。
今日のとしあきはサークルとかいうので帰りが遅くなるらしく、いつもならご飯の時間なのに未だに帰ってくる気配がなかった。
『ちょっと寂しいね』
『そうだな……はぁ……』
おねーたんと二人きり……気ままに生きている他の人達と違い、ボクは普段からおねーたんとずっと一緒に行動していたから、少し前まではそれが当たり前だった。
でも、今はとしあきもずっと一緒だ。そのとしあきが居ないのはちょっと……いや、かなり寂しかった。
おねーたんもそうなのか、ずっと月を見上げてぼーっとしている。その証拠に、ボクへの返事が投げやりだ。
『はぁ……』
『どうかしたの?』
『いや……別に……』
なんだか今日はおねーたんの溜息がかなり多い気がする。
昨日もくろえが泊まっていったので、ボクとおねーたんはとしあきにくっついて寝たわけだが……その後からずっとこんな調子だ。
「にゃぁお……」
何かを我慢しているような、それでいて何かを悩んでいる。今朝から落ち着かない様子だ。
それに、珍しくメスらしい表情を浮かべながら、物寂しそうに鳴くおねーたん。こんなおねーたんは、今まで一度も見た事なかった。
『おねーたん……』
『……』
おねーたんの様子は変だが、ボクにはどうにもできないのでしばらく黙っていたが……
『いったい……』
『チビ助……私、決めたよ』
『え?』
せめて理由だけは知ろうと本当にどうかしたのかと聞き出そうとしたところで、おねーたんの口から告げられた。
『決めたって……何を?』
『私……今日としあきが帰ってきたら、としあきと交尾する』
『……は?』
猫であるおねーたんが、人間であるとしあきと交尾するという、突拍子もない事を。
『おねーたん……発情期?』
『うん……ずっと我慢してたけど、昨日で我慢の限界を迎えた……』
『それでおかしい事をいきなり……』
今日のおねーたんがやたらメスっぽく、落ち着かない様子だったことから発情期なのはわかる。
言われてみれば、おねーたんの鳴き声はオスを誘うそれだ。ボクも同じメスだからわかる。
だが……それは同じ猫に対してのはずだ。としあきは人間だから、そもそも交尾したいという考え自体おかしい。
いくらとしあきが大好きなオスだからって、別の生き物なんだから交尾なんてできっこないのだから。
『別におかしくはない。としあきは信頼できるし安心する。夫になってほしい。だからおねーたんはとしあきと交尾する』
『え……いやでも、どうやって?』
それなのに、おねーたんはその気だ。としあきと交尾する気満々なのだ。
『おねーたんととしあきは別の生物だよ? どう考えても交尾なんて無理だよ……』
『まあ……私が普通の猫なら、な』
『え……?』
どう考えても無理だと告げたら、おねーたんが変な事を言い始めた。
まるで自分は普通の猫ではないと、冗談だとしか思えない事をだ。
『実は……チビ助にも言ってなかった事があるんだ』
『え? え? な、何おねーたん?』
『私はな、実はこの世界の猫じゃないんだ』
『は? え? な、何を言って……』
それどころか、それ以上に冗談めいた事を、真剣な眼差しで言ってのけたのだ。
いくらなんでもそんなの信じられない。おねーたんはボクをからかっているのだ。
そう思ったのだが……
『いいよ。チビ助には見せてあげる』
『な、何を……?』
『私の正体』
『!?』
そう言うと同時に、おねーたんはスッと、まるで人間のように後ろ足だけで直立した。
それだけでも驚きだったが、それだけでは終わらず、身体も段々と大きくなっていき……
『ごめんなチビ助……いつか言おうとは思ってたんだけど……」
『あ……ああ……』
頭から生える三角の耳と金色に光る眼はそのままだが、顔から体毛が消え失せ、鼻や口が人間のそれと同じになっていた。
前足や後ろ足も、指はやたら膨らみつつも肉球や爪の形はおねーたんのそれをそのまま大きくした感じだが、関節辺りから肌が見えており、体毛の代わりに身体は人間が身に着けているような布を着ていた。
腰からはちょっと大きくなったおねーたんの尻尾が……何故か二本も生えていた。
『お、おねー……たん?』
「ああ、おねーたんだぞチビ助」
所々猫の特徴はあるものの、その姿や大きさは少し小柄な人間だった。
ボクと同じ猫だったはずのおねーたんがいきなり半分人間に変わった。にわかには信じられないが……見た目といい、雰囲気といい、言葉遣いといい、目の前の猫人間は、どう考えてもおねーたん本人だった。
「おねーたんな、本当は別の世界のネコマタっていう妖怪なんだよ」
『ネコ……マタ?』
「そう、ネコマタ。ほら、尻尾が二本でネコマタだ」
二本の尻尾を自在に動かし、得意げにボクにそう語るおねーたん。
でもボクは驚き過ぎておねーたんの話がほとんど耳に入ってこない。ネコマタだと言われても、それが何なのかがわからない。
それでも、全然理解できていない現状を少しでも良くしようと、頑張って耳を傾ける。
「おねーたんはな、数年前に妖怪の中で強い魔力を持つとあるお偉いさんが作った、私が居た世界とこの世界を繋ぐゲートを通ってきたんだ」
『ゲート……』
「ああそうだ。目的は、自分の夫となる人を見つけるためにな」
『夫……って、番?』
「そうだ。それに、別の世界ってのにも憧れがあったから潜る事にしたんだ。そして辿り着いたのがあのごみ溜め場だ。あそこを拠点にして、気に入る人間を待っていた」
自分の番となるオスを求めて、わざわざ別の世界からこの世界に来たと言うおねーたん。
その世界にはそんなにオスが居ないのか、それとも単純におねーたんがこの世界に来たかったからか……どちらにせよ、異世界から来たという言葉が、俄かには信じられない。
だが、ボクの知る限りでは、こんな猫と人間を足して2で割ったような生き物はこの世界にいない。目の前で変身されたから、ボクは信じるしかなかった。
『でもおねーたん……おねーたんはネコマタって生物なんだよね?』
「ああそうだぞ」
『じゃあ結局人間じゃないから、人間であるとしあきと交尾はできないんじゃないの?』
それは信じるにしても、結局おねーたんは人間ではないので、としあきと交尾はできないはずだ。
その疑問をおねーたんにぶつけてみたら……更に驚くことを口にした。
「できる。だっておねーたんのとーたんは人間だ」
「にゃ!?」
「そもそも妖怪はどの種族でもメスしかいないからな。子孫を残すには人間が必要不可欠だ!」
なんと、おねーたんの親は片方人間だったらしい。
いくらなんでも……と思ったが、よく考えればおねーたんは半分は人間みたいなものだ。だから問題はないかもしれない。
「だから私はとしあきと……」
「ただいまー」
「あっ、としあきだぁ❤」
そんな感じでおねーたんの事を聞いているうちにかなりの時間が経過していた。いつの間にか、月が高い位置に移動していた。
その時、玄関のほうで物音が聞こえ……としあきが帰ってきた。
「ただいまチャイ、シロ……」
「おかえりとしあきー!」
「うわあっ!? え? は!?」
ボク達のいる部屋にとしあきが現れた瞬間、おねーたんはとしあきめがけて跳び、その勢いのまま床に押し倒した。
「な、何だ!? ば、化け物!!」
「むぅ……としあきわかってない。まあ、無理もないけど」
としあきはやはり目の前にいるのがおねーたんだと気付いていないらしい。
おねーたんから逃げようとじたばたしているが、小柄だけどおねーたんのほうが力が強いようで逃げ出せないでいた。
「にゃー」
「シ、シロ! チャイと一緒に逃げ……あれ? チャイは? チャイはどこに……」
「ふふん。自分が化け物に襲われてるのに飼い猫の心配するなんて、益々気に入ったぞとしあき」
「な、何を……あれ?」
目の前にいるのはおねーたんだから大丈夫と、としあきを落ち着かせようとして近づいたら、自分が大変な状況であるにもかかわらずボクとおねーたんに気を掛けて、逃げろと言ってくれた。こんな状況でもボク達に気を掛けてくれたことに、ボクも益々としあきが好きになる。
とはいえ、実際には全く逃げる必要はないのでボクはとしあきとおねーたんの近くに座る。としあきもボクのその行動に疑問を持ったらしく、少し落ち着いた様子でおねーたんの姿を見て、何かに気付いたようだ。
「どうしたとしあき?」
「……チャイ?」
「にゃあ♪ この姿でも気付いてくれるとは流石としあき。私が認めたオスなだけある」
「……へ? じゃ、じゃあお前はチャイだって言うのか!?」
「そうだぞとしあき! 私はチャイだ!」
なんと、おねーたんの今の姿を見て、自分の飼い猫だと気付いたみたいだ。
としあきよりも長く一緒にいるボクだって目の前で変身されていなかったら多分こんなに早くは気付かない。それだけおねーたんの事をよく見ていたのだろう。
凄いなと思うと同時に、なんだか羨ましさを感じる。
「ほ、本当にチャイなのか?」
「仕方ない。一瞬だけ猫に化けてあげよう」
「……うわっ!? ちゃ、チャイ!?」
「ふっふ。これで信じたか」
それでもまだ100%信じ切ってはいないとしあきの前で、今度はよく知っているおねーたんの姿に戻った。
ボクもそうだが、としあきもこれで目の前の猫人間がおねーたんだと信じたみたいだ。それでも驚きのあまり声が出ない様子だ。
「で、でもチャイが……どうして……」
「こっちが本当の姿だ。としあきは私を大切にしてくれた。可愛がってくれたとしあきが大好きだから正体を明かしたんだ! としあき好きだ! 私の夫になってほしい!」
「お、夫!?」
「そうだ! としあきと一緒に寝たりお風呂に入る度に発情して襲いたくなっていたのを我慢してたけど、もう無理! 私と交尾しろ!」
「こ、交尾!?」
そして交尾しろと迫るおねーたん。いくらなんでも唐突過ぎるのでとしあきはたじたじだ。
「ほれほれとしあき、お風呂の時のように下着脱げ!」
「うわっ、やめてくれチャイ!」
「にゅふふ……♪」
そんなとしあきに構う事なく、下履きに手を掛けてずり下ろそうとするおねーたん。
「わあっ!」
「うーむ、まだ勃ってはいないか」
そして、特に苦戦することなくとしあきの下履きを下ろし、オスの生殖器を丸出しにした。
ボクの知っているものとは形が結構違い、かなり奇妙に見えるが……それでも、なんでか愛おしいもののようにも見えた。
「ならこれでどうだ」
「うあっ! な、なんだこれ……あっ!」
『う、うわぁ〜……』
「ふにふに……にゃあっ♪」
その生殖器を肉球で挟み、リズミカルに扱き始めると……あっという間に太く大きくなった。
血管が浮きグロテスクな赤黒い肉棒を、おねーたんはうっとりとした表情で見つめている。
「すりすり……❤」
「ううっ! ちゃ、チャコ、やめ……ふあっ!?」
「くんくん……ぺろっ、にゃあ♪」
手を肉棒に添えて、少し赤らめた頬を擦り付ける。
おねーたんの肌が擦れる度にビクビクと震える肉棒の先端から、透明な汁が溢れてきた。
目を細めながらその汁をペロリと舐めたおねーたんは、悦び鳴く。
「前戯はこれぐらいでいいかな。ほらとしあき、交尾するぞ♪」
そう言いながら、自分が着ている布を剥ぎ取るおねーたん。
発情して体温が上がり若干汗ばんでいるのか、ツルツルの肌が艶めかしく月光に反射する。
『おねーたんの生殖器、凄く濡れてる……それに、としあきの生殖器も……』
「ごく……」
そして、おねーたんの股間からは透明な水が溢れ出ており、接触しているとしあきのお腹を濡らす。
オスとしての本能からか、あんなに抵抗していたとしあきが一切暴れなくなり、おねーたんの生殖器を見て生唾を飲む。
そして強くなるオスの匂い……何故だか自分も、その匂いに惹かれ始めていた。
「挿入れるぞ、としあき……にゃふぅぅっ❤」
「ぐ、うう……す、すご……」
としあきの生殖器に照準を合わせ、ゆっくりと自分の腰を下ろし……興奮し発情しきった声を上げながら、自身の生殖器に飲み込んでいくおねーたん。
「ふぅ……ふぅ……はにゃ!?」
「くあっ!! ああっ!!」
先端のほうからゆっくりと中に入っていたが、何故か全部入りきらないうちに止まった。
息を荒げながらも、今度は真剣な面持ちなおねーたん。何かはわからないが、覚悟を決めているようにも見える。
しかし、としあきのほうが我慢できなかったようで、床に置きっぱなしだった腕を持ち上げおねーたんの腰を掴み、自分の身体に引き寄せて一気に生殖器を根本までおねーたんの中に入れた。
「ふぁっ、あっ、はにゃああぁああぁぁぁあっ♪」
「うっ、うあぁぁ……!」
その瞬間、おねーたんは身体を弓なりに反らし、腰をビクビクと痙攣させながら高い声を上げた。
としあきも気持ちよさそうな声を漏らし、おねーたんと同じように腰を震えさせた。
そして、二人の結合部からは、少量の赤い液体と……白く生臭い粘液が漏れ出ていた。
「にゃ、にゃふぅ……酷いぞとしあき。いきなり腰を掴んで射精するなんてぇ❤」
「くっ……はぁ……はぁ……ご、ごめんチャイ……俺、初めてで……」
「別に良いよ。かーたんに聞いてたのと違って痛くなかったし。それにそれだけ私のおまんこが気持ち良かったって事だからな!」
数十秒間の絶頂が続いた後、口から涎を垂らしながらとしあきの身体の上に倒れたおねーたん。
顔を真っ赤にし、目が少し虚ろではあるが……幸せそうに、としあきの身体をすりすりする。
としあきの身体がおねーたんの匂いに包まれていく……なんだかそれが、ボクの心を暴れさせて落ち着かない。
「もう一回するけど、その前に……んっ」
「んんっ!?」
『わあ……』
そんなボクの気持ちなど知らずに、おねーたんは身体を伸ばして、としあきの口に自分の口を押し付けた。
くちゅくちゅという水音が微かに聞こえる。多分おねーたんは自分の舌をとしあきの舌に絡ませているのだろう。
貪欲にとしあきの唾液を奪い取り飲み込むおねーたん。嬉しいのか、二本の尻尾が両方ともピンと立っている。
「んぷ……としあきの唇、貰ったぞ」
「はぁ……はぁ……舌、ざらざらしてたな……」
「一応私半分は猫だからね。それより、また固くなった♪」
『いいなぁ……』
口を離し、大きく息を吸う二人。その間は、互いの唾液が混ざった銀色の橋で繋がっている。
おねーたんズルい、羨ましい……そんな感情が、ボクの頭を支配する。
「じゃあ動くぞとしあき」
「あ、ああ……うあっ」
やっぱりボクの事など一切気にせず、生殖器を入れたまま自分の腰を動かし始めたおねーたん。
互いの腰と腰がぶつかり合う度に、肉同士がペチンと鳴るのと同時に厭らしい水音がボクの耳に入って来る。
より強くなるオスの匂いと共にボクの精神を蝕み……何時しかボクの身体は火照り、生殖器は疼いていた。
「にゃぁぁ……」
「んっ、んにっ、あっ、いっ、いいっ! としあきのおちんちん、気持ちいいっ♪」
悦び喘ぎ声を漏らしながら、おねーたんはとしあきの生殖器で善がり狂う。
恍惚の笑みを浮かべ、としあきに密着しながら、子種を搾りだそうと腰をくねらせる。
猫らしくないそんな動きも、ボクには厭らしく、それでいて艶やかに感じた。
としあきのほうもおねーたんのお尻を握り、おねーたんを下から突き上げ、気持ちよさそうな声を漏らしている。
ボクの身体に降り注ぐ飛沫……二人の汗や体液に塗れる。
それでもボクはこの場から動けない。二人の人間風交尾から目が離せない。
気持ちよさそうに交わる二人が、羨ましくて仕方がない。
「ふぁ、ぁ、ぁあっ、と、としあきぃ❤」
「ちゃ、チャイ! そろそろ、ヤバい!」
「奥に、奥に射精してえぇぇぇっ!!」
目をとろんとさせながらも、そろそろ射精が近いのか、二人の動きが一層激しくなった。
より深く、より強く二人の腰がぶつかり、白く濁った液が結合部から飛び散る。
「あっ、くぅっ……っ!」
「ふにゃぁぁああっ❤」
そして、一番深く突き入れたタイミングで、射精が始まったようだ。
二人で強く抱き合いながら、身体を細かく震わせ、幸せを噛みしめていた。
そんな二人を見ていたボクは、ただ羨ましくて仕方がなかった。
ボクも二人に交じりたい。おねーたんと一緒に、としあきと交尾したい。そんな考えが、ボクの全てを支配していた。
「はぁ……はぁ……」
「ふにゃぁ……❤」
荒い息を繰り返しながら余韻に浸っている二人に密着するぐらい近づき……
「はぁ……うひっ!?」
「にゃあっ!」
「わっ! こらチビ助! 何をしている!!」
としあきの股間からぶら下がっている袋をペロリと舐めた。ボクが舐めた瞬間、中にある玉がびくりと跳ねた。
初めて舐めたそれはなんだかとても美味しくて、二舐め、三舐めと舌を走らせる。敏感な部位なようで、その度に大きく袋が揺れる。
「ぴちゃぴちゃ」
「こらチビ助、やめるんだ!」
『ふにゃ!? 何するのおねーたん!』
夢中で舐めていたら、頭を柔らかくも硬いもので押さえつけられた。
見上げると、ちょっと困り顔のおねーたんがボクの頭を押さえていた。
「それはこっちの台詞だチビ助。としあきの玉袋なんて舐めてどうした?」
『おねーたんだけズルい! ボクもとしあきと交尾したい!』
「それは無理だ。何故ならチビ助は私と違って普通の猫だからだ」
『でもぉ……』
ボクもとしあきと交尾したい。発情したボクはその思いをおねーたんに打ち明けたが、軽く流されてしまった。
「ど、どうしたチャイ? シロと会話しているのか?」
「チビ助……シロが自分も交尾したいってうるさいんだ。としあきは普通の猫と交尾できるか?」
「え……いやそれはいくらなんでも……獣姦は、しかも猫とは流石に……」
「ほら、そういう事だチビ助。諦めろ」
『ええ〜……』
それはそうだ。おねーたんはネコマタ、ボクはただの猫。
ただの猫と交尾をしたがる人間なんてまずいないし、いたとしてもできるわけがない。
そんな事はわかっている。わかってはいるが……ボクの気持ちは身体と違って押さえつけられない。
『ボクもとしあき大好き! ボクもおねーたんと一緒に交尾したい!』
「うるさいぞチビ助。そんな事言われてもおねーたん困るだけだ」
『ボクもおねーたんと同じようにとしあきと交尾したい!』
「だから、何度言ってもチビ助は無理……ん?」
『おねーたんと一緒に……はにゃ!?』
だから、おねーたんを困らせると分かっていても、ボクは引かずに交尾したいと訴えていたら……突然胸がズキンと痛み、身体が熱くなった。
『な、なに……これ……?』
「お、おいチビ助、どうした?」
「な、なんかシロがいきなり苦しそうに蹲ったんだが……何かやばいのか?」
「い、いや……でもまさか……」
全身がミシミシと悲鳴を上げ、毛という毛が全て逆立つ。
あまり苦しくはないが、それでもこの異常事態に、本能的に身体を丸めた。
「ふ、ふにゃ……にゃあ……」
「な、なんだ!? シロの身体が大きく……」
それによって身体の異常は治まる……どころか、余計に酷くなる。
中から熱を持った何かが溢れ出し、身体を膨張させていくように感じた。
「やっぱりそうか……」
「おいチャイ! シロに何が起きたか説明できるのか!?」
「うん。チビ助……シロは……」
「にゃああああぁぁ……」
いや、感じるのではない。ドクンドクンと暴れる心臓の音に合わせ、実際に身体が膨らんでいく。
メキメキと前足や後ろ足が膨らみ、身体もその体積を増やしていく。心なしか尻尾も伸びているようで、お尻が熱い。
「シロは……妖怪化したんだ」
「にゃあああああああああんっ♪」
一際大きく心臓が鳴り、身体の中心から溢れ出てきた強い快感と共に身体が一気に膨らみ……変化が終わった。
「はぁ……はぁ……」
「お、おいシロ……だよな? 大丈夫か?」
「う、うん……はぁ……大丈夫だよとしあき……」
「そ、そうか……大丈夫か……」
「うん……ん?」
身体は落ち着いたものの、急激だった事もあり荒い息を吐くボク。
そんなボクを心配して声を掛けてきたとしあきだったが、実際息が荒い事以外は何も問題ないので大丈夫だと返した。
なのでとしあきも安心したようだと思ったところで、ちょっと引っかかった。
猫であるボクと、人間であるとしあき。会話が成り立つはずがないのに、今成り立ったような気がした。
「あれ? ボクが言ってる事わかるの?」
「え? ああ。というかお前今人間の言語、しかも日本語喋ってるし……」
「ええっ!?」
おかしいと思い、ボクが言ってる事がわかるか聞いたら、わかっていると返ってきた。
それどころか、どうやらボクが人間の言葉を喋っているみたいだ。
驚きのあまり後ろ足で立ち上がってしまった。
「なんで人間の……って、そういえばボク、後ろ足だけで立ってる……」
なんと、人間の言葉が喋れるだけでなく、後ろ足だけで立つ事もできてしまった。
これではまるでおねーたんのようだ。
「もしかしてボク、おねーたんと同じネコマタになった?」
「違うぞチビ助。そこにある鏡見てみろ」
「にゃ?」
だからもしかしておねーたんと同じネコマタっていうのにボクもなったのではないかと思ったが、おねーたん自身に否定されてしまった。
そして、鏡を見ろと言われたので、部屋に置いてあった大きな鏡で自分の姿を確認してみた。
「……ほんとだ。ちょっとおねーたんと違うね」
そこに映ったボクの姿は、どうみても普通の猫よりはおねーたんに近かったが、たしかにおねーたんとも違っていた。
まず、頭にボクの耳が生え、ついでに髪の毛も生えているが、おねーたんの顔には生えていない毛が、ボクの顔にはびっしりと生えていた。白というよりは銀色の髪の毛さえなければ、真っ白な毛並のボクの顔そのものがそこにはあった。
前足や後ろ足もおねーたんほど膨らんでおらず、身体に合わせて大きくはなっているが割と原形を留めていた。
それに、いつの間にか身体には少しリボンや鈴などの装飾品が着けられているが、おねーたんと違って肌の露出はなく、きちんと全身白い体毛に覆われていた。
そして、勿論尻尾も1本だけだ。たしかにネコマタとやらではなさそうだ。
「ボク、どうしちゃったの?」
「多分だけど、チビ助は妖怪化……正確には魔物化か。私とずっと一緒だったから魔力が体に染みついて、大好きなとしあきと交尾したいって思いがきっかけで魔物化したんだ」
「魔物化?」
「そうだ。チビ助は魔物化したんだ。ネコマタじゃなくて、猫が成る魔物、ケット・シーにな」
「ケットシー……」
おねーたん曰く、ボクはケットシーという魔物になったらしい。
そしてその魔物化は、大好きなとしあきと交尾したいと強く願ったからだという事らしい。
という事は……
「じゃあボク、としあきと交尾できるの?」
「ああそうだ。チビ助も私と一緒にとしあきと交尾できるぞ」
「なあっ!?」
「はにゃあ〜❤」
今のボクはおねーたんと同じように、としあきと交尾することができるという事だ。
「じゃあボクとも交尾しよ!」
「え、いやだから俺は獣姦は……」
「駄目なの? としあきの事が好きなのに……それで子宮が疼いているのにぃ……」
「う……」
でも、としあきは乗り気じゃないので、ボクはちょっと寂しかった。
「わ、わかったよシロ。もうこうなったら一緒だ。いいよ。シよう」
「にゃあっ♪」
それでも、最後には交尾してくれると言ってくれた。
ボクは喜びながら、としあきの上からどいたおねーたんと交代した。
「え、えっと……」
だがしかし、早速交尾しようとしたが人間風の交尾の仕方はよく分かっていない事に気付いた。
「こ、こうかな……」
「う……い、良いぞシロ」
だから、さっきのおねーたんの見様見真似で、おねーたんの時とは違い既に固く大きいが、としあきの生殖器を肉球で抑えて扱いてみた。
としあきも良いぞって言っているのだからこんな感じでいいのだろう。という事で、引き続き前足に力を入れて擦る。
「チビ助、おちんちんの先っちょ舐めてみろ」
「え? う、うん……ペロッ」
おねーたんに言われて、透明な液体が漏れ出ているとしあきの生殖器の先を舐めてみた。
なんだかしょっぱいが、それ以上に甘美な味がした。変な臭いのする水道水って水よりも美味しい。
「ペロ、ペロペロ……」
「ぐっ、ま、待てシロ! それ以上は……うっ!」
「にゃふ!?」
もっともっととしあきが欲しいと舌で先端を舐め続けていたら、突然大きく震え出し……ボクの顔に熱い何かが掛かった。
「ふわぁ……♪」
「ご、ごめんシロ……」
「ペロ……にゃあ♪」
それは、強くオスの匂いがする、としあきの子種汁だった。
ボクの白い毛皮にこびり付く、同じく白い粘液。舐めてみると、さっきの透明の液体とは比べ物にならない程濃厚な味がした。
「ペロリ」
「わっ何するのおねーたん!?」
「慌てるなチビ助。ちゅう」
「むっ……♪」
としあきの匂いに夢中になっていたら、頬をおねーたんに舐められた。
急な事で少し驚いたが、その後急に唇を押し付け、舌がボクの口の中に入ってきたので更にビックリした。
そして広がるとしあきの匂いと味。どうやらおねーたんは舐め取るのが難しい頬の精液を舐め取り口移ししてくれたみたいだ。
「ん……猫だったらフェラチオなんてできなかった。いい経験になっただろ」
「う、うん……でも……」
たしかに、生殖器を肉球で扱いたり口で舐めたりとか、精液を顔にかけられるなんて経験は普通の猫ではできなかっただろう。それ自体は良い経験だ。
でも、ボクの子宮の疼きはより酷くなる。早くここに欲しいと、熱を持って訴えてくる。
「わかってる。ほらとしあき、もう1発ぐらい余裕だよね」
「うぁ……」
「あっまた……♪」
おねーたんに弄られ、少し柔らかくなっていた生殖器が再び硬く勃った。
もう我慢できない。だからボクは、さっきのおねーたんと同じようにとしあきの股間の上に立ち……
「ほらチビ助、ゆっくり腰を下ろすんだぞ」
「うん……にゃあぁぁっ♪」
おねーたんの助けを借りながら、ボクはとしあきの生殖器に自分の生殖器を近付け……ゆっくりと中に挿入した。
途端、生殖器周りを中心にして全身に広がる快楽の波。あまりもの気持ち良さに、腰が抜けて後ろ足に力が入らなくなり、おねーたんに支えられている状態になる。
「それじゃあゆっくり下ろしていくからな」
「う……ぐぅ……シロのほうがキツ……っ」
「ふあ、き、気持ちいいよぉ……❤」
おねーたんの腕の力が抜けていくと同時にボクも下がっていき、としあきの生殖器がその分膣内を掻き分けて沈む。
肉襞を擦る感覚に、ボクの身体は悦び震え、頭の中が肉欲一色に染まっていく。
「ほらチビ助、腰を振るんだ」
「にゃ、にゃぁぁ……しゅ、しゅごいぃぃっ♪」
足の力が抜けているので、前後に軽く揺するような動きだが……それでも、腰を振ると膣内を生殖器が掻き乱し、今まで感じた事のない大きな快感が身体中を走った。
先端の膨らみが特に敏感な部分をゴリゴリと擦る度に、全身の毛という毛が逆立っている。
人間の言語を喋れるようになったにもかかわらず、あまりもの気持ち良さに呂律が回らず、発情しきった声で鳴く事しかできない。
「シロ、動かすぞ」
「はにゃ!? ふあっ、んあっ、あああっ♪」
しかし、としあきにとっては些細な快感でしかなかったのか、それとももう射精しそうで慌て始めたのか、理由はわからないが……ボクの腰を先程のおねーたんの時と同じように掴み、激しく上下に動かし始めた。
子宮の入り口目掛けてガンガンと強く打ち付けられる。目の前がチカチカするほどの強い衝撃と激しい快感がボクを襲う。
口からも、そして生殖器からも涎が洪水のように溢れてくる。尻尾も自分の意思と関係なくびぃんと真上を指しっぱなし。ボクの頭は悦び狂ってしまったようだ。
「にゃあっ、んにぃ、ふあっ、な、何かきちゃうぅっ! 身体のゾクゾクが止まらにゃあああっ!」
「ぐ、う、あっ!」
「にゃあ、二人ともイキそうだね。ほらとしあき、チビ助に種付けしちゃえ……ぺろっ」
「や、やめろチャ……ああああっ」
パンパンと淫猥でリズミカルな音が部屋中に響き、汗や涎など互いの体液が飛び散る。
生殖器が身体を貫く程、じわじわ、ゾクゾクとボクの中の何かが爆発しそうだ。
そんな中でおねーたんはとしあきの耳元に顔を寄せる。
そして、何かを囁いた後に……耳の中を舌で舐めた。
それと同時に、ボクの中で生殖器が……爆ぜた。
「ふ、ふにゃああああああああっ、あ……❤」
子宮の奥深くまで突き刺さるように突き入れられたとしあきの生殖器が痙攣し、ドクッ、ドクッと熱い子種汁がボクの子宮を叩く。
その衝動と熱に犯され、ボクも快感が爆発し、背を弓なりに反らし腰が大きく痙攣する。
「ああ……あ……あっ❤」
としあきと交尾できた。としあきとの子供が作れる。そんな幸せが頭を悦びで染める。
その間にもボクの中に沢山注がれていくとしあきの精液。身体は繋がったまま心だけがひたすら天に昇っていく。
「にゃふぅ……♪」
「チビ助、激しくイッてたな」
「イッてた……? うん……♪」
ボクにとっては永遠なんじゃないかという時間が……実際には少しの時間が経過したところで、ゆっくりと落ち着きを取り戻し始めた。
それと同時に視界や思考も少しずつハッキリしていく。目の前で顔を赤らめてボクを見つめるおねーたんの姿を確認した。
どうやら、この快感が爆発する事をイクというらしい。今後の為にも覚えておこう。
「さてチビ助、おねーたんと交代だ」
「え〜、もっととしあきと交尾してたい!」
「駄目だ! 私だって本当はとしあきを独り占めしたいんだぞ! チビ助だから譲ったんだ。でもこれ以上は駄目だ!」
「やだ! ボクだってもっととしあきと繋がっていたいもん!」
「お、お前ら……お、俺の体力を考えてくれ……」
なんだかまだ物足りないのでもっととしあきと交尾しようとしたら、おねーたんが交代しろとボクに言ってきた。
息も絶え絶えなとしあきを余所に、ボクは繋がったままおねーたんと言い争う。
「俊彰ー、玄関空いてたけどいるのー?」
その時、玄関のほうから扉が開く音と、同時に女性の声が聞こえてきた。
「あ」
「げっ、この声は……」
「くろえだー!」
その声はボク達のよく知る人物、くろえの声だった。
どうやら今日も遊びに来たらしい。ゆっくりとであるが、こちらに近付いてきている。
「俊あ……は?」
「ち……やっぱりくろえか」
「くろえー♪」
そしてボク達の前に現れ……ボク達のほうを見た瞬間、驚いた顔のまま完全に固まった。
「みてみてくろ……ふぎゃっ!?」
「と、俊彰!? 大丈夫!? 何なのこの化け物!?」
「いてて……」
だがその後すぐさま気を取り戻し、としあきの上に乗っていたボクを突き飛ばし、としあきの身体を持ち上げた。
突き飛ばされたボクは床に尻もちをつく。ちょっとお尻が痛い。
「フーッ!! チビ助を虐めるなくろえ!」
「な、なんなのこの猫の化け物達……どうなってるの俊彰!?」
「チビ助を虐めるくろえには引っ掻き攻撃だ!」
「きゃあっ!!」
元々くろえの事が嫌いだったおねーたんは、ボクが突き飛ばされた事に怒り、爪を出した腕をくろえ目掛けて振り下ろした。
「ストップおねーたん!」
「ふにゃ!?」
「きゃあ!? な、何これ!?」
ボクはそれを止めるために、どこかから取り出したロープを魔術で操りおねーたんの身体を縛った。おねーたんだけではなく、くろえのほうも暴れないようにしっかりと縛りつけた。
なんでそんな魔術を使えるのかはよくわかっていないが、使えてしまったものは仕方がない。
「こらチビ助! いきなり何をする!?」
「落ち着いておねーたん。ボクは平気。くろえは今のボク達の姿じゃわからないから、得体の知れない化け物がとしあきを襲ってると思ってボクを突き飛ばしてとしあきを護っただけだよ。それにくろえはきっととしあきの事好きだから、勝手にとしあきと交尾してたボク達の事怒ったんだよ」
くろえがボクを突き飛ばした理由はざっとこんなところだろう。
ボクやおねーたんは猫と人間を足したような姿なのだから、人間のくろえには立派な化け物に見えるのはわかる。そんな化け物が好きな人を襲っていたら誰だって突き飛ばすだろう。
そして、くろえはきっととしあきの事が好きだ。シャワーの時は暴れていてちゃんと聞いていないのでうろ覚えだが、それっぽい事を言っていたような気もする。今の態度を見た感じ当たりだろう。
「え……黒江が俺の事を……?」
「あ、いやそれは……」
その事を指摘され、さっきまでの慌てっぷりがどこかに行きしどろもどろし始めたくろえ。
自身の顔を真っ赤にし、としあきの顔を直視できないでいる。
「べ、別にそんなんじゃないもん……俊彰の事なんてどうでもいいもん」
「素直じゃないなあ……」
「私はそうやって嘘をついて誤魔化すくろえが嫌いだ」
だが、素直に好きだと認めないくろえは、どうでもいいなどととしあきを傷付けるような嘘をつく。
照れ隠しなんだろうけど、それはちょっと酷いと思った。
「な、なんなのよあんた達。まるであたしの事を知って……あれ? よく見たらどこかで……」
「ああ。こいつらはチャイとシロだ。二人ともこの姿に変身するところを見たから間違いない」
「ええっ!? いったいどういう……わっ!?」
だから、くろえが素直になれるようにボクは……
「な、何だこの光は!?」
「お、おいチビ助。まさか……」
「神様が教えてくれたんだ。くろえも素直になって、ボク達が楽しく暮らしていける世界の事をね」
「えっ……それって……」
「だから、ボクがその猫の王国に連れてってあげる!」
突如頭の中に鳴り響いたバステトという名の猫神様の導きに従い、おねーたんととしあきとくろえを猫の王国に連れていくために、またしても何故か使える転移魔術を展開し始めた。
「いいぞチビ助! レッツゴー!」
「わあっ!!」
「きゃあああっ!!」
としあきが注いでくれた精の力を使い、ボクの身体から魔力を放出して……4人一緒に転移を始めた。
「着いたよ!」
「おおーっ!!」
「いてて……こ、ここはどこだ?」
「部屋みたいだけど、見た事ない……うっ!?」
「ん? ど、どうした黒江!?」
そして、導きのままに猫の王国にある家の一室に辿り着いた瞬間、くろえに魔法が掛けられた。
「う……うぅ……あっ」
「ま、まさか……!」
さっきのボクと同じように蹲り……身体の変化が始まった。
「うあ……あっ、ああっ!!」
くろえの黒い髪がぶわっと盛り上がり、頭の天辺に髪と同じ色の三角形の突起……猫の耳が生えてきた。
叫び広がる口の中から白い牙が伸びてきて、舌も少しザラザラに変化した。瞳も縦に細長くなる。
前足や後ろ足……いや、手足には膝や肘の少し上辺りから黒く艶やかな毛がぷつぷつと生えてきて、それがぶわりと一気に伸びた。
手足の先も、ボクやおねーたんと同じような形に変化した。柔らかそうな肉球と鋭い爪が目立つ。
そして、腰からはにゅうっと細くて長い黒い尻尾が伸びてきた。
「ああ……にゃああああっ!」
「そ、そんな……黒江まで猫人間に……」
そう、バステト様の力でくろえも人間からボクやおねーたんと同じようにキャット属の魔物に変化したのだ。
「にゃ、にゃにこれぇ……あたし猫みたいになってる〜」
「にゃあ♪ くろえはワーキャットになったみたいだな」
「みたいだね」
急だった事もあり、身体が変化した事に戸惑っているくろえ。
「仕方ない。それじゃあチビ助、やるか」
「うん。そうだね」
「わっ!? し、シロちゃん、チャイちゃん、な、何するの?」
そんなくろえを、ボクとおねーたんで床に押し倒して……
「何って、くろえを素直にするの!」
「メス猫としてのなんたるかを猫の先輩としておねーたんが教えてあげよう」
「にゃ、にゃぁ……」
ボクらが怖いのかブルブルと震えてるくろえに覆いかぶさり……
「にゃあああああああああああああああああああああああああああああんっ!!」
メス猫として素直になれるように、身体にいっぱい教え込んであげたのであった。
……………………
「ふにゃぁ……」
猫の王国で暮らすようになってから、数か月が経過した。
ボクは日光が当たる絨毯の上で、気持ちよくお昼寝を堪能していた。
「シーロちゃん♪」
「にゃ!?」
ぽかぽかと夢見心地でいたら、上から黒い毛皮に覆われた手足がいきなり現れ、ボクの身体を強く抱きしめた。
「にゃぁ……なーにくろねーたん? ボク眠いんだけど……」
「にゅふふ〜♪ スキンシップだよ〜♪」
お昼寝を邪魔されてちょっと不機嫌なボクにお構いなしに頬をすりすりさせてくる黒猫は、同じ家に住むワーキャットになったくろねーたんだ。
元々人間だった時からよくなでなでして来たり、としあきへのボディタッチも多かったくろねーたんだが、ワーキャットになって自分に素直になった結果こうしてスキンシップと称して頬をすりすりしたり喉を撫でてきたりもっと過激な事をしてくることが格段に多くなった。
別に嫌いじゃないし、むしろくろねーたんとのスキンシップは好きだが……今は日向でお昼寝していたいのでムッとする。
ちなみに、くろねーたんというのはもちろんくろえの事だ。ボクがおねーたんの事をおねーたんと呼んでいたら自分もそう呼んでほしいと言われたから、くろえおねーたん略してくろねーたんと呼ぶ事にしたのだ。
「勝手にやって……ボク寝るから……」
「むぅ……ノリの悪いシロちゃんにはこうだ! かぷっ」
「はにゃっ!?」
くろねーたんの事は放っておいてお昼寝しようとしたら、耳の先端を甘噛みされた。
耳はボクの性感帯のようで、甘噛みなんてされたら思わず身体がびくんと跳ねてしまう。
「折角ワーキャットになった事だし、この舌で毛繕いもしてあげるね」
「うひっ、そ、そこは耳……にゃふっ!?」
それだけでは飽き足らず、今度は耳の中に舌を入れてきた。滑る舌が毛の1本1本をなぞり、ゾクゾクとする。
感じてしまうので首を振るなどして抵抗を頑張ってみるが、いつの間にか抱きしめられ、首をがっしりと固定されてしまい抵抗できない。
ケットシーになっても小柄なボクは、人間のメスの中でも大きいほうだったくろねーたんにこうされては逃げられない。
「に、にゃぁぁぁ……」
「ふふん。軽くイッちゃったみたいだね」
なす術もなく耳への愛撫を受け続けたボクは軽くイッてしまった。
くろねーたんにとっては軽くじゃれただけの行為で、ボクの股の毛皮はしっとりと濡れてしまった。
「うぅ……酷いやくろねーたん」
「ごめんね〜。寂しかったからつい、ね」
うっすらと涙を浮かべた目でキッとくろねーたんを睨みながら文句を言う。
気持ち良くはあったけど、眠いと思っていた時にヤられても機嫌が悪くなるだけだ。
今としあきとおねーたんが二人きりで買い物に出かけているのでこの家にはボクとくろねーたんしかいない。だから寂しいのはわかるが……ついで人をイかせないでほしい。
「お詫びに背中のマッサージしてあげるから許して」
「うーん……してくれるならいいよ」
ただ、くろねーたんが背中をマッサージしてくれると言うので許してあげる事にした。
医者の家系であるとしあきと幼馴染みであるくろねーたんは、小さい時からとしあきの母からマッサージ技術を仕込まれていたらしく、マッサージがとても上手ですごく気持ちいいのだ。
前よりはよっぽどマシになったとはいえ、意外と強い独占欲故か相変わらずくろねーたんの事が気にくわないらしいおねーたんも、このマッサージだけは自分から頼むほど気に入っているぐらいだ。
「んっどうシロちゃん? 気持ちいい?」
「ふにぃ……気持ちいいよ〜♪」
「お、ここちょっと凝ってるね。ぐりぐり〜」
「にゃあぁぁ……♪」
肉球に力を入れて背中に圧を掛けるくろねーたん。身体の柔らかさには自信があるが、それでも少し凝っている筋肉がほぐされる。
性的なものとはまた違った気持ち良さに、気の抜けた声が漏れだしてしまう。
「肩とかも、ケットシーになって器用に動かせるようになったはいいけどそのせいで使い過ぎてて結構凝ってるみたいだね」
「ふにゃぁ……だって猫じゃできなかった事をいっぱいやりたいもん」
「まあ、あたしも人間じゃできなかった事をいっぱいやってるからお互い様かな。それじゃあ肩もほぐすね」
「あ、あ、あ、あぁ〜♪」
重たい物を持ったりしているからか、自分でもたまに凝っていると感じる肩も、リズム良く叩かれ、揉み解される。
この最高に気持ちいいマッサージも普通の猫じゃやってもらえなかったことを考えると、としあきと交尾できるという事以外でもケットシーになって良かったと思える事が多い。
「やれやれ、遊びに来てやったら随分と気持ちよさそうにしてるな」
「あ、グレイちゃん! こんにちは!」
「ふん。今は黒猫でも元人間なんぞにする挨拶などないわっ!」
気持ち良くマッサージを受けていたら、部屋の入り口から低めの声が聞こえてきた。どうやらお客さんのようだ。
顔を入口のほうに向けてみると、そこには灰色の毛並で左目に傷が付いているケットシーが立っていた。
「おじさん、相変わらず人間嫌いだね」
「当たり前だ。身体や性別が変わろうがワシの人間への恨みは変わらん!」
「むぅ……確かにグレイちゃんをそんな目に遭わせた人間は酷いけど、あたしや俊彰はそんな事絶対にしないのになぁ……」
「それについてはチビや小娘の態度や言動から信用はできる。だが、それとワシの人間嫌いは別だ。目も玉も潰されて他にも酷い事されたのに好きになぞなれるか!」
このケットシーは、なんとあの日ごみ溜め場の火事で燃え死んだと思っていたおじさんだ。
どうやらたまたまあの場におねーたんと同じくあの世界に来ていたケットシーがいたらしく、バステト様に頼んで逃げ遅れた猫は全員この国に移住していたとの事だ。実際、あのごみ溜め場に住んでいた他の猫もたまに見かける。
この国で初めて再開したとき、おじさんが生きていた事にボクとおねーたんは喜び、ケットシーになっていた事はそれ以上に驚いたものだ。
本人曰く、気付いたらこの国にいて、しばらくしたある日突然この姿になっていたそうだ。精を作る器官が昔人間によって潰されたからメスに、しかもケットシーになったんじゃないかと言っていた。
しかし、人間嫌いだと公言しているおじさんが本当にそれだけでケットシーになれるのかは少し疑問が残る。とはいえ、本人がまったく気にしていないのでこの疑問も気にしない事にした。
「とか言いながらくろねーたんととしあきが付けたグレイって名前気に入ってるじゃん。この前おじさんの釣り仲間のチェシャ猫さんとオス猫さんに、自分の事はこれからグレイと呼んでくれって楽しそうに言ってたって聞いたよ」
「へぇ〜、名前気に入ってくれたんだねグレイちゃん♪」
「ち、違う! 個人を指すキーワードがあったほうが色々便利だと考えて利用してやってるだけだ! か、勘違いするんじゃない!」
「おじさんはくろねーたん以上に素直じゃないなぁ……」
「ち、違う! 好きで名前を使ってるわけじゃないぞ!」
まあ、おじさんもなんだかんだこの国に来てから猫やキャット属の魔物と仲良くしている人間を見たり、実際にとしあき達と関わり始めた事で、心のどこかでは人間の事が好きになっているのだろう。
おじさんの友人達もそう言っているし、何よりボクやおねーたんがいるとはいえ人間のとしあきや元人間のくろねーたんがいるこの家にしょっちゅう遊びに来てはなんだかんだお話してご飯まで食べていくのだから。
「げふんっ。ところでお前達、こんなところでメス同士イチャイチャしていていいのか?」
「え?」
やはり恥ずかしかったのか、咳払いをして唐突に話題を変えたおじさん。
「ここに来る前、お前達の慕う人間のオスと小娘が路地裏で盛っているのを見掛けたぞ」
「にゃっ!?」
「グレイちゃんそれ本当!?」
「あ、ああ……」
その口から出てきた言葉は……なんと、買い物に出かけているはずのとしあきとおねーたんが裏路地でボク達に内緒で交尾しているというものだった。
ボクは驚いて起き上がり、くろねーたんはおじさんの肩をがっしり掴んで本当かどうかをハッキリ聞き出そうとした。
「他人の交尾なんて直視したくないからハッキリ見たわけじゃないが、あの声や茶色毛の猫は小娘だったと思うぞ」
「そう……チャイちゃん、抜け駆けかぁ……」
「だからとしあきと二人きりで……へぇ……」
「お、お前達、目が鈍く光って見えるしなんか怖いぞ……」
どうやら、本当におねーたんはとしあきと交尾しているらしい。
そういう抜け駆けは禁止だと、ボク達の中で決めていたはずだ。夜這いを掛ける時は3人一緒だし、独り占めするときも事前に誰かに言っておくというルールを作ったはずなのに、おねーたんは破っているらしい。
「ねえシロちゃん……帰ってきたらさぁ……ふふっ」
「ボクも同じ事考えてるよ……にゃふふふ♪」
「わ、ワシは帰らせてもらおうかな……」
くろねーたんと二人で、としあき達が帰ってきた後の事を想像して笑う。
おじさんにとってそんなボク達が怖かったのか、おどおどしながら窓から外に飛び出し帰ったようだ。
「ただいまー」
「クッションとお魚いっぱい買ってきたぞー!」
「あ、帰ってきたみたいだね……」
「そうみたいだね……」
それとほぼ入れ替わる形で、二人が帰ってきたようだ。
「ただい……ってどうした?」
「ほんとだ……グレイちゃんの言ってた通りだね……」
「おねーたんからとしあきの精の匂いがするね……」
「げっ」
二人の身体は綺麗なので見た目は普段通りだが、おねーたんの身体からは間違えようのないとしあきの精の匂いがいっぱい染みついていた。
おじさんが言っていた通り、ここに帰って来るまでにとしあきと交尾していた動かない証拠だ。
「おねーたん抜け駆けしたね?」
「う……ち、違う! としあきが私とシたいからって無理やり……」
「はあ!? 子宮がムズムズするから交尾しろって無理やり路地裏に引き込んだのはチャイだろ?」
「えっあ、その……」
「チャイちゃん、嘘はいけないよ」
嘘をついてまで誤魔化そうとするおねーたんだが、残念ながらとしあき自身がハッキリとおねーたんに無理やりされたと言ってしまった。
「という事でおねーたん、お仕置き〜」
「うわあっ!? やめろチビ助!」
「チャイちゃん、暴れると余計に絡まるよ?」
「くろえに言われなくてもわかってる……ってにゃあぁ……」
ルールを破ったおねーたんを、ボクは魔術で作り出したロープで身動きできない様しっかりと縛りつけた。
勿論このロープはボクの意思がなければ解く事はできない。おねーたんが猫化してもそれに合わせて伸縮する優れものだ。
「さてと、チャイちゃんに誘われたからと言っても、ハッキリと断らなかった俊彰にも責任はあるよね〜」
「えっちょ、ちょっと待て黒江。ズボンを掴んでどうする気だ?」
「勿論、おねーたんにシた分、ボク達とも交尾してもらうの!」
「ちょ、シロまで……うわっ!?」
そして、ボク達は二人がかりでとしあきのズボンを下着ごと下ろし、としあきのおちんちんを丸出しにした。
「にゃ? 特に触ってないのに少し勃起してる……もしかしてあたし達に襲われる事期待してた?」
「初めてじゃないもんね。としあき、期待してたんだ」
「いや、その、これは……」
おねーたんと交尾したばかりでも、特に問題なく硬く反り立っているとしあきのペニス。
最初の頃は全員1回ずつ交尾したらもう限界を迎えていたが、最近は全員2回ずつどころかそれ以上シても元気で居られることが多い。ボク達にとっては嬉しい事だ。
「ほーら、どっちから入れてもいいんだよ?」
「その代わり、ボク達にもおねーたんと一緒の回数射精してね」
「ゴク……」
並びあったボクとくろねーたんは四つん這いになり、としあきに自分の割れ目を見せつける。
おねーたんから漂うとしあきの精の匂い、としあきの硬く勃起したペニス、ついでに先程までのくろねーたんのスキンシップやマッサージのせいで既にボクの生殖器はとろとろになっており、いつでも男性器を受け入れる準備ができあがっている。
それはくろねーたんも一緒で、割れ目から透明な蜜を垂らしている。
そんなボク達のうち、としあきが先に選んだのは……
「入れるぞ……くぅ……」
「はにゃぁ〜♪ 俊彰のおちんちんがおまんこにきたぁ❤」
残念ながらくろねーたんのほうだった。
くろねーたんの生殖器にずぶずぶと沈んでいくとしあきのペニス。くろねーたんは耳をぴくぴくさせながら、頬やボクやおねーたんよりも大きなおっぱいを床に押し付け、顔を蕩けさせる。
「むぅ……ボクは後かぁ……にゃふっ!?」
「シロもきちんと入れてやるから、とりあえずはこれで我慢な」
「にゃあっ❤」
後回しにされて少しふくれっ面していたボクの生殖器に、としあきの指が這う。
おちんちんと比べると物足りないが、これはこれで良い。
「ひあ、あっ、はっ、ああっ、そこ、そこいいのっ!」
「ひにゃあっ指でくちゅくちゅされるのいいよぉ❤」
「二人ともズルいぞ! 私も!」
「おねーたんは……ひうっ、いっぱい射精してもらったんだからあっ、まだそのままじっとしててえっ」
「チビ助! おねーたんにこんな事するなんて酷いぞ!」
「ひあっ……ルール破ったらお仕置きだって言ったのおねーたんだよ」
「う、そ、それはそうだけどさ……」
膣内に入れた人差し指が不規則に動き、また親指でクリトリスも刺激され、ボクの頭は蕩けてしまう。
くろねーたんも後ろから激しく突かれ、涎を垂らしながらメス猫らしく喘ぐ。
そんなボク達の様子を羨ましそうに睨み付けるおねーたん。だが、おねーたんから感じるとしあきの精からして1,2回の射精ではない事は明白なので、自分も混ざりたいと叫ばれても解く気はない。
おねーたんは尊敬しているし、ボクをここまで引っ張ってくれた事は感謝しているが、それとこれとは別だ。そもそもこの罰だっておねーたん自身で言った事なので仕方がない。
「くぅっ、射精すぞ、黒江!」
「にゃああ、俊彰の精液、いっぱい中出しされてるぅ。俊彰の子供孕んじゃうううううっ❤」
しばらく腰を振り続けた後、グッとくろねーたんの腰を引き寄せ、そのまま子宮目掛けて射精したとしあき。
濃厚な精の匂いが二人の結合部から漏れ出し、ボクの鼻腔をくすぐる。
「う……ふぅ……」
「としあきぃ、次はボクの番〜」
そんな匂いを嗅いで我慢なんてできるはずがない。
としあきの射精が終わるのを見計らい、ボクはとしあきに向かってお尻を振りながら急かす。
「そう急かすなって。ほら、しっかりとお尻をこっち向けて。次は黒江が指な」
「にゃあああ……♪」
くろねーたんから引き抜かれた、硬さを保ったままの生殖器が、今度はボクの生殖器の入り口にピトッとくっついた。
そして、ゆっくりとボクの膣肉を掻き分けながら突き刺さる。
「ふにゃ、にゃ、にぃ、ふああっ❤」
「あっ、あっ、まだイッたばかりなのにぃ……❤」
「としあき! 私も、私も弄って!」
「待つんだチャイ。まずは黒江とシロの二人に射精してからだ。その後でいっぱいシてあげるから、おねーたんなら少し我慢しなさい」
「むぅ……としあきにそう言われたら我慢するしかない……でも、気持ちよさそうな二人の幸せそうな顔見てたら我慢できないよぉ……」
としあきになだめられ、ようやく少し大人しくなったおねーたん。
だがボクはそんなおねーたんの様子に気を掛ける事なんてできない。抽挿によって与えられる快感に呑み込まれ、周りの音も景色も頭に入ってこない。頭に入ってくるのは、としあきの温もりとボクを犯すペニスの感触だけだった。
「にゃうぅ、ふあああっ、ひぎいいっ♪」
ペニスの先端が子宮口を突く度、脳天から雷が落ちたような快楽が襲う。只の猫に戻ったかのように、言葉になっていない声で快感を叫ぶ。
ケットシーは他のキャット属の魔物の中でも特に獣に近い存在。やっぱりボクは猫だからか、後ろからペニスを抽挿される体位での交尾が一番感じて好きだ。
「ぐあぁっ、シロ、射精すぞ!」
「きてぇとしあきぃ。ボクを孕ませてぇぇぇぇ❤」
真っ白になった頭に響いてきた、としあきの射精宣言。
くろねーたんやおなねーたんと一緒だ。ボクもとしあきとの子供が欲しい。だから孕ませてとねだりながら、ボクは膣をキュッと窄めた。
「ぐぅっ……!!」
「ふあああああっ、きたぁぁぁっ❤」
その途端、としあきのペニスから、熱い精液がボクの中に迸った。
何回種付けされても飽きるどころか、その度に病みつきになるとしあきの精の味にボクはうっとりとし、身体を絶頂で震わせる。
「ふにゃぁぁ……にゃっ」
「次はまた黒江だな。あとシロ、そろそろチャイも参加させてあげたいから縄をほどいてやりな」
「としあきが言うなら仕方ないにゃあ……はいおねーたん」
「よし自由になった。としあき私もおまんこも弄れー!」
としあきの頼みなので、まだふわふわしている中でおねーたんのロープを解いた。
その瞬間ボクと反対側のくろねーたんの横に並び、そう言いながらお尻を突き出したおねーたん。
まだまだボク達4人の交尾は続きそうだ。
「仕方ない。これでいいか?」
「にゃうんっ!」
「ふあぁ……また俊彰のちんこがぁ❤」
「ふああ、まだイッてるのにぃ❤」
小さいときからおねーたんと一緒だったボクは、大きくなった今でもおねーたんと一緒に同じ人と暮らしている。
これからもきっと、おねーたん達と一緒に、こんな幸せな生活を続けていくんだ。
そう思いながら、ボクは肉欲の渦に溺れていったのであった。
ボクは、気付いたら独りだった。
「みゃあ……」
別に親が居なかったわけではないし、一緒に乳を飲んでいる兄弟だっていた。
でも、ある日目が覚めたら、ボクは全く見覚えのない場所にいて、親も兄弟も居なくなっていた。
「みゃおぉ……」
汚い物や臭い物が山積みになっているこんな場所を、当てもなく彷徨う。
親や兄弟を呼んでいるが、やはり反応はない。誰かが現れる気配もない。
「みゃぅ……」
起きてから何も食べず、ずっと歩き続けていたボクの体力が限界を迎えたようだ。
力なく地面に倒れ、ぼーっと空を見上げた。
「……」
このまま親が助けに来てくれなかったら、ボクは死んでしまうのだろうか。
そんな事を思いながらも、どうしようもできないボクは、体力を消費しないようになるべく身体を動かさずにいた。
親が助けに来てくれる、そんな可能性の低い奇跡を信じて。
「……」
『おい、そこの白いチビ助』
『え?』
しばらくの間その状態で居たら、突然、知らない人の声が聞こえてきた。
『お前だ、お前。生きてるか?』
『だ、だれ?』
どうやらボクの事を呼んでるみたいだ。
誰かは知らないが、呼ばれたので目を開けてそっちを見た。
『おお、生きてたか。大丈夫かチビ助。お腹空いてるのか?』
『う、うん……』
そこには、茶色い毛並の、ボクより1,2回り大きい人がいた。
『じゃあおねーたんがチビ助のためにご飯を持ってきてやろう。ありがたく思え!』
『うん……ありがとう』
そう言って、ボクの前から立ち去っていき……
『ほらチビ助、ご飯だぞ。食べられるか?』
『う、うん……おいしい』
ボクのために、何かのお肉とか食べ物を持ってきてくれた。
おかげでボクは、死なずに生きていく事ができた。
これが、ボクとおねーたんの出会いだった。
……………………
『チビ助はどうしてあそこにいたのかわからないのか』
『うん。おねーたんはどうしてここにいるの?』
『私は好きでここにいる。ここならご飯もベッドもなんだってあるからな!』
おねーたんに案内されながら、ボクはこのごみ溜め場を歩いていた。
どうやらここは人間という生物達が不法投棄っていうごみを捨てる場所らしい。
『今日からチビ助もここで暮らすんだ。どこに何があるかは覚えておくんだぞ』
『うん……』
『あー、チビ助はちょっと前まで乳飲み子だったみたいだからお母ちゃんと別れて寂しいかもしれないけど……ここではそんな泣き言漏らしてたら生きていけないぞ』
『うん。わかってるよ』
もちろん、ボクが居た場所の近くにそんなものはなかった。つまり、親もこの近くにはいないという事だ。
自分がどうしてこんなところにいるのかは全くわからないし、どこから来たかもわからないから、ボクはここで一人で生きていくしかないのだ。
『まあ、ちょっとはおねーたんが助けてあげるよ。チビ助の事、なんとなく気に入ったし』
『ありがとおねーたん!』
『ふふんっもっと頼っていいぞ!』
いや、一人ではない。
どうやら、おねーたんがボクを助けてくれるらしい。とても心強い。
『ご飯はあそこにいっぱいあるからな。ちょっと臭いけど、美味いものは美味い……』
『おい小娘、そこの白いチビはどうしたんだ?』
『ん? ああ、おっちゃん』
比較的食べられる物が多く捨てられてる場所を説明してもらっている時に、後ろから野太い声が聞こえてきた。
振り向くと、灰色の毛並の大人が、ボク達のほうを見ていた。
『いやあ、本人もよくわかってないらしくてさ、気付いたらここにいたんだって』
『そうか……おいチビ』
『は、はい……』
左の目が傷付いているし、声も低いせいで、見た目はかなり怖いおじさん。
『何か困ったらワシやそこの小娘を頼るんだな。他にもここに住み着いているのは沢山居るが、他人を助けるようなお人好しはワシとそこの小娘だけだからな』
『あ……ありがとう……』
『ふふん。おっちゃんは強面のくせに優しいもんな』
『強面は余計だ。こうなりたくてなったわけではない』
でも、中身は優しいおじさんだった。
『昔ワシを飼ってた人間に裏切られただけじゃ! あー腹立たしい。人間なんて屑、信用したワシが馬鹿だった!』
『こらおっちゃん! チビ助の前で変な印象与えるな!』
『変とは何だ変とは! 真実を言っているだけだ!』
『それはまあそうかもしれないけど、おっちゃんの言い方じゃ人間全部が悪い人みたいじゃん!』
『ぐぬぬ……ワシは全員嫌いじゃ! 美味いもん食わしてくれたからちと気を許したら玉潰した挙句瓶で目を傷付けるような奴らなど好いてたまるか!』
『うぬぬ……おっちゃんの頑固!』
『……ぷ、あはははははっ!』
そんなおじさんとおねーたんの口喧嘩を見ていたら、思わず吹き出してしまった。
『うおっ!? チビ助が笑った!』
『な、何だいきなり……』
『あははははっ、だってなんかおかしくってさ!』
色々と不安があったけど、笑った事で全部吹き飛んだ。
この二人がいれば生きていける気がする。そう思いながらボクは、新しい生活を始める決心がついたのであった。
……………………
「にゃーにゃー」
「ふにぃ……」
おねーたん達と一緒にゴミ捨て場で暮らし始めてから、そこそこの月日が経過した。
『こらチビ助、いつまで寝てるんだ』
『だってこの日向、暖かくてお昼寝するのに丁度良いんだもん。他の子だって寝てるよ』
ボクは何度もおねーたんやおじさんに助けてもらいながら、特に大事に至る事は無く毎日平和に生きていた。
『余所は余所、うちはうち。手伝えって言ったじゃん』
『だってボク眠い……ふぎゃっ!?』
『いいから起きろチビ助。おねーたんを手伝え』
『む〜わかったよぉ……』
もちろん助けてもらってばかりではなく、今日みたいにおねーたんの力になる事もある。
ただ、爪を立てて背中を引っかいたり、尻尾を踏んづけたりするのはやめてほしい。痛くて涙目になる。
『それで、何すればいいの?』
『こっちこっち。良い物見つけたからチビ助も運ぶの手伝え。一人で運べない事もないけど二人のほうが楽だし、手伝ってくれたらチビ助にも使わせてやる!』
『良い物って?』
『まあ、見てのお楽しみ』
ゴミ山の中を駆け抜けながら、ボクはおねーたんが何をする気なのかを聞いた。
どうやら、何かいいものを見つけたから運ぶのを手伝ってほしいらしい。
重いものだと嫌だなと思いながらも、ボクはおねーたんに素直についていった。
『ほらチビ助、これを運ぶの手伝って』
『これって……何?』
『毛布っていう暖かい布。でも温かいから寒い今の時期に丁度いいと思う』
『へえ……』
おねーたんの後に付いて行って、辿り着いたのは高く積み上げられたゴミ山だった。
そして、そこにあったのはもこもこの暖かそうな大きな布だった。
確かに、寒い今の時期には丁度良さそうである。
『私はこっちから引っ張るから、チビ助はそっちの端咥えて引っ張って』
『うん』
という事で、おねーたんと一緒に暖かそうな布を、ゴミ山の中から引っ張り出そうとした。
『ぬぎぎ〜』
『ほらチビ助、もっと力入れて』
『うぐぅ〜』
だが、結構成長したのにかかわらず、身体が小さいボクの力では上手く引っ張り出せない。
『まったく、見てられんな』
『あ、おっちゃん』
『ワシもチビと一緒に手伝うから使わせてくれ』
『むう……まあ、おっちゃんならいいか』
『よし。それでは引っ張るか』
その時、どこからかおじさんが現れて、ボクの隣に来て一緒に引っ張ってくれた。
『そぉれ! わあっ!?』
おじさんの力もあり、ボク達は暖かそうな布を引っ張り出す事ができた。
ただし、ゴミ山の中にあったものだから……詰みあがっていたゴミ山も崩れて、僕たちの上に降ってきた。
『よし、引っ張り出せた。やっぱり暖かいや』
『きゅぅ……ゴミ山も崩れて降ってきたから痛いよぉ……』
『アイタタタ……』
ゴミ山に埋もれ、目を回しているボクとおじさん。
ちゃっかり一人だけ避けていたおねーたんは、暖かい布の上で一足早く丸くなっている。
『ほらほら、二人ともお入り。間に挟まれるとぬくぬくだよ』
『にゃぁ……本当だぁ……♪』
『あいてて……女子共、ワシも入れろ……あ〜ぬくぬくだぁ〜♪』
ふらふらになりながらも、おじさんと一緒におねーたんの隣に入り込む。
クルッとなってるところに入ると、上も下もぬくぬくで、日向以上にぽかぽかになった。
「みゃー♪」
「にゃー♪」
「にゃお♪」
三人一緒にぽかぽかしながら、ゆったりとお昼寝をしたのであった。
そんな、贅沢はできない環境でも、ささやかな幸せが、いつまでも続くと思っていた……
……………………
「にゃー!!」
「ふぎゃあああ!!」
「にゃあああっ!!」
「みぃーみぃー!!」
だが、その幸せな日々は、ある日突然奪われてしまった。
『はぁ……はぁ……』
『おいチビ助! 足を止めるな! 焼け死ぬぞ!!』
『そ、そんな事言ってもぉ……』
ボク達の住んでいたごみ溜め場全体が炎に包まれたのだ。
ごみ溜め場に住んでいた皆は、それぞれが散り散りになって必死に逃げている。
もちろんボクも死にたくないので、おねーたんと一緒に必死に逃げていた。
ただ、身体が小さいボクは、おねーたんに付いていくのも限界だった。
ここで立ち止まったら燃えてしまうが……ボクはもう走れるほどの元気はない。
『はぁ……はぁ……』
『チビ助!!』
『小娘! お前は先に行け! チビはワシが連れていく!!』
『はぁ……にゃふ!?』
『おっちゃん! じゃあ任せた!』
そんなボクの首根っこを、おじさんが咥えて持ち上げた。
ボクは宙ぶらりんになり、おじさんに運ばれる形になった。
『うわあっ!? 熱いよぉ……』
『我慢しろ! 全身焼肉になるよりはいいだろ!』
雨が降っていないどころか、風も強くはないとはいえ吹いているので、炎は激しくなる一方だ。
時々炎が身体を掠めて熱いし、その度にビックリしてしまう。
『くっ、もう少しだ! もう少しで炎がないところに……』
『おじさん、上! 危ない!!』
『なっ!?』
それでも、もう少しで炎のない場所まで抜ける事ができる。
そこまで行ければ安全だ……と思った瞬間だった。
上空から、炎に包まれた大量のごみが、ボク達めがけて降ってきた。多すぎてとてもじゃないが避け切れない。
『う、うわああああああああっ!!』
『く……小娘! チビを受け取れえっ!』
『お、おっちゃん!』
怖さのあまり叫びながら目を瞑っていたら、首元で咥えられている感覚がなくなり、急に身体が浮いた。
目を開けると……ボクの身体は空中に浮いており、先に行っていたおねーたんの傍まで飛ばされており、おねーたんの身体にぶつかる形で止まった。
そして、振り向くと……炎に包まれた場所で、炎に包まれたごみに埋もれていくおじさんの姿があった。
『チビ、小娘、長く生きろよ!』
『おじさあああああああああんっ!!』
『おっちゃああああああああああんっ!!』
それだけ叫んだおじさんは……炎の中に消えていった。
『おじさ……おねーたん離して!』
『馬鹿チビ助! お前が行ってどうする! 私だってこうなっちゃったらもう……くそぉ!』
ボクはおじさんを助けようと炎の中に戻ろうとしたが、おねーたんが尻尾を踏んで止めた。
そんなおねーたんも、悔しそうな表情を浮かべ、歯を食いしばって耐えていた。
「みゃあああああおっ!!」
「なああああああおっ!!」
哀しい鳴き声だけが、炎に包まれたごみ溜め場に響いたのだった……
……………………
『おねーたん……これからボク達どうなっちゃうの?』
『さあね。おねーたんにもわからないよ』
それからボク達は、当てもなく街中を彷徨い歩いていた。
ごみ溜め場は全焼してしまったので、そこに住み続ける事はできなかった。
他に住んでいた皆も、散り散りになってどこかに移って行ったのだ。
『おねーたんお腹空いた』
『もうちょっとだけ我慢しろチビ助。ここは何もないしな』
あのごみ溜め場から外に出た事がないから、ボク達には行く当てがなかった。今だって、人間達が住む街の裏路地を適当に歩いているだけだ。
それでも、全て燃えて何もないところにいつまでもいるわけにもいかない。だから彷徨い続けているのだ。
こうして、ボク達は毎日ギリギリの生活を送っている。今みたいに、全然食べ物が手に入らない時だってある。
実際、もう夜だが今日はまだ何も食べていない。お腹が空いて力がでず、歩みもふらふらとしてしまう。
『おねーたん……』
『あーもーわかったよ。ちょっと探してくるからここで待ってろ!』
あまりにもお腹が空きすぎてそう文句を言っていたら、若干怒り口調でおねーたんがそう言った後、一人でどこかに行ってしまった。
「にゃぁ……」
自分でもちょっと我儘言い過ぎたかなとか思いながら、ボクはその場で座って待つことにした。
「にぃ……」
もう随分この生活をしているが、安心できる新天地には中々辿り着けないでいた。
せめて寝床だけでも見つけたいが……ここが人間達が大勢暮らす地域だからか、安心して眠れる場所もない。ここ最近は、どこかでひっそりと、おねーたんと二人で固まって寝ている事が多い。
ご飯だって、人間が捨てたまだ食べられるものを漁っている日のほうが多い。今日みたいにおねーたんがどこかから持ってきてくれる事もあるが、どちらにせよ、安定して食事ができる可能性は低い。
それでも、おねーたんが居てくれるから、ボクはこの生活がそこまで嫌ではなかった。
おねーたんと一緒だから、なんとか生きていける自信があるのだ。
「ふにゃぁ……」
『ほれチビ助、持ってきてやったぞ』
『あ、お帰りおねーたん』
しばらくしたら、おねーたんが凄く大きいお魚を咥えて帰ってきた。
『そんな大きなお魚どこから持ってきたの?』
『人間のお店から貰ってきた。お金は落ちてたの置いてきたから泥棒じゃない』
『ふ〜ん……よくわからないけど、ありがとおねーたん!』
ボクどころか、自分の身体よりも大きなお魚を持ってきたおねーたん。
どこから持ってきたのかと思えば、人間がいるお店とかいう場所から持ってきたらしい。よくわからないが、流石はおねーたんだ。
『これなら二人で食べてもお腹いっぱいになるだろ』
『だね』
二人一緒にお魚のお腹から齧り付き、お腹いっぱい食べたのであった。
しばらくの間は、こんな感じにおねーたんと一緒に暮らしていた。
だが、この生活は長くは続かなかった。
……………………
「みゃぁ……」
「にゃあっ」
それは、ある雨の日の事だった。
『べとべとだぁ……』
『これじゃあ移動できないな』
雨に当たるのは嫌なので、ボクとおねーたんは雨の当たらないところでじっと座っていた。
多少であれば問題ないが、生憎痛い程の勢いで降っているため、最低でも弱まるまでは全く動けないでいた。
『チビ助、寒くないか?』
『うん、大丈夫だよ。おねーたんは?』
『私も寒くはないぞ。雨は冷たいから当たりたくはないけどな』
ずっと弱まる気配を見せない雨を、ボク達はただじっと見ているしかなかった。
時々目の前を通り、そのついでにこっちのほうを見てくる人間達が持っているような、雨を防ぐ物があれば自由に動けたのだろうけど……生憎、ボク達が使える代物ではない。
だからこそ、こうして雨が止むのを待っていたのだが……
「にゃぁ……」
「ふにぃ……」
「……ん? こんなところにネコが……」
ボク達の前に現れた、一人の人間のオス。
こいつが、ボク達の生活を変えてしまった。
「にゃっ!?」
「んー、首輪とか付いてないし、野良猫かな……」
その人間のオスがボク達の前で止まって、しゃがみ込んだと思うや否や、いきなりおねーたんを抱え上げたのだ。
そのままおねーたんを品定めでもするかのように、じーっと身体中を見ていた。
『なんだこいつ、私の身体ジロジロ見て……』
『おねーたん!』
『慌てるなチビ助。きっとこのオスは私の身体に見惚れているんだ』
『そう……なの?』
おねーたんは持ち上げられた瞬間は驚いていたが、今は落ち着いてじっとしている。
一方、ボクはおねーたんが何か酷い事されるのではないかと気が気ではない。
だって人間は、おじさん曰くボク達を平気で傷付けてくるような生き物らしいから。
「ふーむ……1匹ならまあ……よし。お前、家に来ないか?」
「にゃ?」
『えっ?』
しばらくじーっとおねーたんを見ていた人間は、突然そう言うと……おねーたんを抱えたまま立ち上がった。
「よしよし、暴れるなよ」
『お、おねーたん!?』
『く……チビ助! このっ止まれ!』
「おいおい、暴れるなって」
そして……なんと、そのままおねーたんを連れさろうと歩き出した。
ボクは雨に濡れる事も一切気にせず、叫びながらこのオスを追う。
おねーたんのほうも、自分が攫われている事に気付いて、一転して暴れ始めた。
「こらこら……いてっ!」
「フ〜!!」
しばらくはなんて事もなさそうにおねーたんを抱きしめていた人間だったが、おねーたんが指を引っかいたのは流石に効いたようで、慌ててその手を離した。
その隙におねーたんは逃げ出し、ボクの傍に近寄って、ボクと離れ離れにするなと文句を言う。
「もーだから暴れるな……って、もしかして……」
「ふしゃー!!」
「もしかして……2匹一緒が良いのか」
「ふにゃ!」
どうやらそれが通じたようで、人間のオスは理解したかのように手をポンと叩いた。
「まあ、仕方ない。それじゃあ……」
「にゃあ!?」
「こっちの小さいネコも連れてってやるよ。どっちもメスみたいだし、これ以上増えないだろうしな」
そして……今度はおねーたんだけではなく、ボクも一緒に抱えた。
「ま、2匹だと生活がちょっと厳しいけど仕方ないか。美味いもん食わせてやるからな〜♪」
『お、おねーたん!』
『まあ、チビ助と一緒なら良しとしよう!』
『い、いいの!?』
『いいよ。この人間が優しければ、ご飯と寝床の心配はしなくて済むし』
『で、でも……人間は怖い生き物だっておじさんが……』
『おっちゃんは一部の例だけで全てを言い過ぎなんだよ。あまり真に受けるなチビ助。それに、酷い人間だったら逃げればいいじゃないか』
『そう……なのかなぁ……』
ボクは逃げようとしたけれど、ボクと一緒なら良いやと一切抵抗せずなすがままになっているおねーたん。
人間に世話されるというのはやっぱり怖いが、おねーたんと離れたくはないので、ボクも大人しく連れ去られることにしたのだった。
……………………
「チャイ、シロ、ご飯だぞ」
「にゃあ♪」
「にゃー」
そして、ボク達と人間のオス……としあきとの共同生活が始まった。
『おねーたん、このカリカリしたやつ美味しいね』
『まあまあだな。としあきめ、もっと美味しい物を食べさせろってんだ』
『でもおねーたんも夢中で食べてるじゃん』
『誰も不味いとは言ってない。これはこれで美味しい』
最初はビクビクしていたが、としあきは特にボク達を傷付ける事は無く、それどころか今まででは考えられない贅沢な暮らしを提供してくれた。
ご飯は用意してくれるし、暖かい寝床も提供してくれたし、時々構ってくれる。一部の不満を除けば、今まで生きてきた中で一番良い暮らしだ。
人間だけどおじさんの言うような酷い生物ではない。おねーたんの言う通りそれは一部のやつだけみたいで、としあきは当てはまらないようだ。
「チャイ、シロ、美味いか?」
「にゃあ♪」
「にぃ♪」
ちなみに、としあきの言うチャイはおねーたん、シロはボクの事を指している。
たぶんおねーたんが茶色い毛並、そしてボクが白い毛並だからそんな呼び名を付けたのだろう。単純だがわかりやすい。
「よしよし。しかし可愛いなお前ら」
「ふにぃ♪」
「にゃー」
「ふふ。やっぱ拾って良かったよ」
『ふふん。ご飯の途中だが仕方ない。可愛いと言ってくれたし撫でる事を許してやろう』
『むぅ……ボクはご飯はゆっくり食べたいんだけどなぁ……』
ボクもそうだが、おねーたんはとしあきに心を許したみたいだ。
としあきに撫でられたおねーたんは、今まで聞いた事のないような声で鳴く。どうやらとしあきに撫でられるのが心地良いみたいだ。
まあ、ボクだってとしあきに撫でられるとなんだか嬉しい。が、ご飯の時は食べる事に集中させてもらいたい。撫でるなら暇な時にしてほしいものだ。
「おーよしよ……ん? 黒江かな?」
『む……まさかあの女が来た?』
相変わらず撫で続けていたとしあきだが、チャイムが鳴ってやめてしまった。
この夜遅い時間に来る可能性があるのは、郵便以外では一人しかいない。それを勘付いたおねーたんは、一人不機嫌になる。
「やっほー俊彰。ネコちゃん達見に来たよ〜」
「おう。今丁度飯食わせたところだ」
家の中に入ってきたのは、やっぱりとしあきの幼馴染で人間のメスのくろえだった。
「やっほーチャイちゃん!」
「ふうううっ!!」
「うぅ……やっぱりチャイちゃんには嫌われてる……」
「はははは……」
おねーたんはなんでか知らないけどくろえが嫌いらしい。なんでも特に理由はないけど気に入らないらしい。
おねーたんの事は好きだけど、流石にそれは酷いのではないかなと思う。毎回くろえが来る度にこうして威嚇して自分を絶対に触らせようとしない程嫌いな理由がハッキリしていないのだから。
「にゃー」
「逆に、シロちゃんは懐いてくれてるねー。よしよし♪」
「ごろごろ♪」
その分、ボクはくろえにすり寄ってあげている。
くろえもとしあきと同じぐらい優しいのでボクは好きだ。だから甘えさせてあげている。
『おいチビ助! くろえに懐くな!』
「シロちゃんコチョコチョ〜」
『くろえのなでなでも気持ち良いよおねーたん。これを堪能しないなんてもったいないなぁ』
「チャイは俺には懐いてるんだけどなぁ……」
『ふん。その間私はとしあきを独り占めだ。我慢するのは大変だが幸せだ。だから全然羨ましくなんてない』
『ふーん……』
おねーたんはとしあきの腕の中で満足そうに撫でられている。
まあ、たしかにとしあきに撫でられると、くろえの時とは違った気持ち良さがあるのでわからないでもないが……だからと言ってくろえを避け過ぎである。
『おねーたんもしかして……』
『もしかして……何?』
『まさかだと思うけど……くろえに嫉妬してる?』
『……そんなんじゃないし』
『返事遅かったし図星だね』
『うるさいチビ助!』
もしかしておねーたんはとしあきと仲が良いくろえに嫉妬しているのではないかと思ったけど、どうやら正解みたいだ。
『私は単にくろえが気に入らないだけだ! 大体嫉妬って何だ!』
『だっておねーたんとしあきの事凄く気に入ってるじゃん』
「ふにゃああああっ!」
「にゃあにゃあ」
「なんだかこの子達、交互に鳴いてるし会話してるみたいだね」
「そうかもしれないよ。なんたってチャイだけ連れ帰ろうとしたらシロも連れてけってチャイが暴れたし、きっと仲良しなんだよ」
「へぇ。品種が違うし姉妹じゃないだろうけど、二匹は仲良しなんだねー♪」
「にゃあ♪」
「ふしゃー!!」
くろえと仲良くするなとうるさいおねーたん。そんなの人の勝手だとボクは言い返す。
確かに普段は姉妹のようにボクとおねーたんは仲が良いが、くろえの事になるとこうしてちょっと喧嘩になる。
「俺達のように幼馴染だったりしてな」
「かもね。二匹ともあたし達のように仲良くするんだぞ!」
「にゃあ!」
『ふん……くろえに言われなくても私とチビ助は仲良しだ。だからとしあきから離れろ!』
『やっぱりくろえに嫉妬してるじゃん』
『うっ』
おねーたんはとしあきが好きだからべたべたするくろえが嫌いなのだろう。
ボクだってとしあきは好きだが、おねーたんみたいに嫉妬する事は無い。ボクとおねーたんだってしてるんだし、一緒にとしあきにべたべたすればいいだけだ。
「そういえば黒江、お前今日どうするんだ?」
「泊めてもらうつもりだったけどダメ?」
「にゃに!?」
「別に良いけど……一人暮らししてる男の家に堂々と泊まるってのもなぁ……」
「今更だよ今更。男って言っても俊彰ならどうせ手を出さないだろうし安心だしね」
そして、どうやらそのくろえが今日はこの家に泊まっていくらしい。
おねーたんはあからさまに嫌がっている。が、おねーたんの言葉は人間には通じないので何を言おうが泊まる事には変わらないだろう。
「うーむ……信頼されていると考えればいいのか、舐められてると考えればいいのか……」
「あれ? なんなら襲っちゃう? あたしの服をひん剥いてレイプ……」
「するかボケぇ! 泊まるんだったらとりあえずシャワーでも浴びてこい。飯は?」
「食べてないからよろしく。それじゃあシロちゃん、あたしと一緒に身体綺麗にしましょうねー♪」
「にゃ!?」
だからかくろえは、ボクを抱きかかえたままお風呂に移動し始めた。
『シャワー嫌!』
『我儘言ってないでくろえと綺麗にしてこいチビ助。人間と暮らすなら身体を綺麗にするのは大事だぞ』
『シャワーじゃなくてもいいもん!』
「わっシロちゃんも急に暴れ始めた」
「俺達の言ってる事がわかってるかのような反応するんだよなこいつら。シロはシャワーが嫌いらしいからしっかり身体を抑えて洗うんだぞ」
「うん。シロちゃん、綺麗になろうねー♪」
「にゃああああぁぁぁぁ……」
ボクはシャワーが嫌いだ。ずぶ濡れになるし目に染みるし耳も痛いしで、綺麗になると言っても嫌なものは嫌だった。
だから頑張って抵抗したのだが……無情にもボクは、くろえに抱かれたままお風呂場まで拉致されたのであった。
……………………
「にゃあ♪」
「にぃ……」
シャワーという地獄を終え、ボクは身体を乾かすために暖かい風が出ている場所で座っていた。
おねーたんもボクとくろえが入った後にとしあきと一緒に入り、綺麗さっぱり上機嫌だ。
『いやあ、やっぱりお風呂は良いなあ♪』
『どこが?』
なんでおねーたんがあんなにお風呂が好きなのかがサッパリわからない。
基本的におねーたんを見習って、おねーたんと一緒に行動しているボクだが、これだけは理解できなかった。
「いやあ、やっぱり俊彰の料理は美味しいなあ。良いお嫁さんになれるよ」
「うるせえ。彼女ができないからって彼氏を作る気はない。大体黒江が女なのにできなさ過ぎなんだよ。そんなんだから毎度彼氏ができてもすぐ振られる事になるんだよ」
「別にそんな理由で別れるわけじゃないもん……」
くろえととしあきはご飯を食べている。
ボク達はさっき食べたからお腹いっぱいなので、ぼーっと身体を乾かしている。
「にぃ……」
「話は変えるけど、そういえばどうしてチャイちゃんとシロちゃん拾ったの?」
「にゃ!?」
しばらくぼーっとしていたが、としあきとくろえの話題がボク達の事になったので、耳を傾ける事にした。
「まあ、元から猫か犬か飼いたいなとは思ってたんだよ。折角ペットOKな広いマンションに一人で住んでるから寂しいしな」
「そうだね。流石医者の息子、金持ちめ……」
「黒江だって似たようなもんだろ? 大手企業の社長令嬢さん」
「まあね。でも次女だから跡継ぎじゃないし、好き勝手できる分こんな贅沢できるほど仕送りとか貰ってないけどね」
「ははは……まあ、俺も次男だけどな」
「ああそうか。羨ましいぞこの野郎!」
話の内容は大半が難しすぎて理解できない。
「おっと話が脱線したな。それで数週間前の雨の日に、雨宿りしてたチャイとシロと偶然出会ったんだよ」
「そうみたいだね。今の時代でも珍しくやってる駄菓子屋のところでしょ?」
「そうそう。あそこの屋根の下で二匹で丸まってたんだよ。可愛くってなぁ……野性っぽかったし、ついお持ち帰りしたってとこだ」
「にゃあっ♪」
だが、一つだけわかったのは、としあきはボク達が可愛くて連れ帰ったという事だ。
それを聞いたボクは嬉しく思った。おねーたんも大喜びだ。
「最初は、先に見つけたチャイだけにしようかと思ったんだけどな。それでチャイだけ連れ帰ろうとしたらシロも付いてくるし、チャイはチャイで連れ出す前までは大人しかったのに急に暴れるしでさ、結局二匹とも連れ帰っというわけ」
「あーさっき言ってたよね。二匹仲良しだって」
「そうそう。それで二匹とも持ち帰ってこうして飼ってると、本当にそんな感じがするんだよ。まあ、幼馴染みっていうよりは姉妹だけどな」
「へぇ……チャイちゃんがお姉さんでシロちゃんが妹?」
「そう」
そしてそのまま、ボクとおねーたん自体の話題に変わった。
「なんというか、チャイがシロを引っ張っているような素振りをよく見かけるんだよね。拾って初めてご飯出した時も、まずチャイから食べて半信半疑だったシロがそれに続いて食べてたし」
『そういえば最初チビ助はとしあきの出したご飯食べるの躊躇してた』
『だって……人間がわざわざ用意したご飯ってのが怖かったもん。おねーたんが平気そうに食べたから問題ないなって思った』
「そういえばお風呂もシロちゃんは暴れるのにチャイちゃんは大人しいよね。そこもお姉ちゃんとしてしっかりしてるからかな?」
『チビ助、いい加減シャワーに慣れればいいのに』
『無理! 目に染みるし耳に入って痛いし……なんでおねーたんは平気なの?』
『としあきと一緒だからな!』
ボク達の話を続けるとしあきとくろえ。それに反応するボクとおねーたん。
二人がご飯を食べている間、ずっとそんな感じで盛り上がっていた。
「さて、ご飯も食べ終わったし……食べた後すぐってのはあまり良くないが、まあ寝るか」
「そうだね。時間も時間だし、他にする事もないしね」
そして、ご飯も食べ終わり就寝準備に入った二人。
ボク達も身体が乾き、眠たくなってきた。
「しかし一人暮らしなのに布団2つあるとは……もしや俊彰、あたしが泊まりに来ることを想定して……」
「そんなわけあるか。予備だよ予備。汗臭くて布団干したら突然の雨でずぶ濡れになるなんて時用だ」
「そんな事まずないと思うけど……」
「それが一回あったんだよな」
「えっうそ……」
「マジで」
どうやら二人は同じ部屋で隣り合って寝るようだ。
ボクも普段は用意された寝床でおねーたんと一緒に寝るのだが……
「それじゃあ電気消すぞ」
「うん。おやすみ俊あ……うわっ!」
「にゃー!」
としあきとくろえが一緒に寝ようとする時は、必ずと言っていい程おねーたんは二人の間に割って入り、俊彰にくっついて寝ようとする。
「やっぱり来たか……黒江が居る日はいつもここで寝ようとするからな」
「俊彰と一緒に寝るあたしに嫉妬してたりしてね。それじゃあチャイちゃんも一緒に寝ようね〜」
『ふん。くろえと寝る気はない。私はとしあきと一緒に寝たいんだ!』
やっぱりくろえに嫉妬してるじゃないかと思いつつ、ボクも寝ようとしている二人に近づく。
「お、やっぱりシロも来たか」
『としあき寝よー』
「モテモテだね俊彰。ハーレム形成?」
「うるせえ。猫にモテても仕方ないだろ」
『むう……私はとしあきの事大好きだぞ』
「わっ! こらチャイ、脇腹を舐めるな!」
『ボクもとしあき大好き!』
おねーたんとは反対側のとしあきの横に入り、寝転んでいるとしあきに抱き着く形で寝る。
としあきに密着していると暖かいし、なんだか落ち着く。
「それじゃあおやすみ」
「ああ、おやすみ」
「にゃ……」
「ふにぃ……」
そんな感じで、皆一緒にお布団の上で寝たのであった。
ここのところこんな生活が続いている。
もちろん、シャワーの件を除けば全く不満はないし、ここから逃げ出すなんて考えは一切ない。
ボクもおねーたんもとしあきが大好きだ。だから、逃げ出そうだなんてまったく考える事は無いし、としあきから離れる事なんて考えたくはない。
だからずっと、こんな感じにとしあきと、時々くろえも一緒にボク達と寝るような、まったりとした幸せな日々が続くと思っていた。
『……としあき、大好きだぞ……』
でも、そう思っていたのはボクだけだった。
『私と……交尾を……』
おねーたんの言う大好きの意味が、ボクの言うそれと違うという事に、この時は気付きもしなかった。
……………………
「にゃあ……」
「にゃ……」
それは、とある満月の夜の事だった。
『としあき遅いねー』
『そうだな……はぁ……』
綺麗に輝く月を見上げながら、ボクとおねーたんは薄暗い部屋の中でとしあきの帰りを待っていた。
今日のとしあきはサークルとかいうので帰りが遅くなるらしく、いつもならご飯の時間なのに未だに帰ってくる気配がなかった。
『ちょっと寂しいね』
『そうだな……はぁ……』
おねーたんと二人きり……気ままに生きている他の人達と違い、ボクは普段からおねーたんとずっと一緒に行動していたから、少し前まではそれが当たり前だった。
でも、今はとしあきもずっと一緒だ。そのとしあきが居ないのはちょっと……いや、かなり寂しかった。
おねーたんもそうなのか、ずっと月を見上げてぼーっとしている。その証拠に、ボクへの返事が投げやりだ。
『はぁ……』
『どうかしたの?』
『いや……別に……』
なんだか今日はおねーたんの溜息がかなり多い気がする。
昨日もくろえが泊まっていったので、ボクとおねーたんはとしあきにくっついて寝たわけだが……その後からずっとこんな調子だ。
「にゃぁお……」
何かを我慢しているような、それでいて何かを悩んでいる。今朝から落ち着かない様子だ。
それに、珍しくメスらしい表情を浮かべながら、物寂しそうに鳴くおねーたん。こんなおねーたんは、今まで一度も見た事なかった。
『おねーたん……』
『……』
おねーたんの様子は変だが、ボクにはどうにもできないのでしばらく黙っていたが……
『いったい……』
『チビ助……私、決めたよ』
『え?』
せめて理由だけは知ろうと本当にどうかしたのかと聞き出そうとしたところで、おねーたんの口から告げられた。
『決めたって……何を?』
『私……今日としあきが帰ってきたら、としあきと交尾する』
『……は?』
猫であるおねーたんが、人間であるとしあきと交尾するという、突拍子もない事を。
『おねーたん……発情期?』
『うん……ずっと我慢してたけど、昨日で我慢の限界を迎えた……』
『それでおかしい事をいきなり……』
今日のおねーたんがやたらメスっぽく、落ち着かない様子だったことから発情期なのはわかる。
言われてみれば、おねーたんの鳴き声はオスを誘うそれだ。ボクも同じメスだからわかる。
だが……それは同じ猫に対してのはずだ。としあきは人間だから、そもそも交尾したいという考え自体おかしい。
いくらとしあきが大好きなオスだからって、別の生き物なんだから交尾なんてできっこないのだから。
『別におかしくはない。としあきは信頼できるし安心する。夫になってほしい。だからおねーたんはとしあきと交尾する』
『え……いやでも、どうやって?』
それなのに、おねーたんはその気だ。としあきと交尾する気満々なのだ。
『おねーたんととしあきは別の生物だよ? どう考えても交尾なんて無理だよ……』
『まあ……私が普通の猫なら、な』
『え……?』
どう考えても無理だと告げたら、おねーたんが変な事を言い始めた。
まるで自分は普通の猫ではないと、冗談だとしか思えない事をだ。
『実は……チビ助にも言ってなかった事があるんだ』
『え? え? な、何おねーたん?』
『私はな、実はこの世界の猫じゃないんだ』
『は? え? な、何を言って……』
それどころか、それ以上に冗談めいた事を、真剣な眼差しで言ってのけたのだ。
いくらなんでもそんなの信じられない。おねーたんはボクをからかっているのだ。
そう思ったのだが……
『いいよ。チビ助には見せてあげる』
『な、何を……?』
『私の正体』
『!?』
そう言うと同時に、おねーたんはスッと、まるで人間のように後ろ足だけで直立した。
それだけでも驚きだったが、それだけでは終わらず、身体も段々と大きくなっていき……
『ごめんなチビ助……いつか言おうとは思ってたんだけど……」
『あ……ああ……』
頭から生える三角の耳と金色に光る眼はそのままだが、顔から体毛が消え失せ、鼻や口が人間のそれと同じになっていた。
前足や後ろ足も、指はやたら膨らみつつも肉球や爪の形はおねーたんのそれをそのまま大きくした感じだが、関節辺りから肌が見えており、体毛の代わりに身体は人間が身に着けているような布を着ていた。
腰からはちょっと大きくなったおねーたんの尻尾が……何故か二本も生えていた。
『お、おねー……たん?』
「ああ、おねーたんだぞチビ助」
所々猫の特徴はあるものの、その姿や大きさは少し小柄な人間だった。
ボクと同じ猫だったはずのおねーたんがいきなり半分人間に変わった。にわかには信じられないが……見た目といい、雰囲気といい、言葉遣いといい、目の前の猫人間は、どう考えてもおねーたん本人だった。
「おねーたんな、本当は別の世界のネコマタっていう妖怪なんだよ」
『ネコ……マタ?』
「そう、ネコマタ。ほら、尻尾が二本でネコマタだ」
二本の尻尾を自在に動かし、得意げにボクにそう語るおねーたん。
でもボクは驚き過ぎておねーたんの話がほとんど耳に入ってこない。ネコマタだと言われても、それが何なのかがわからない。
それでも、全然理解できていない現状を少しでも良くしようと、頑張って耳を傾ける。
「おねーたんはな、数年前に妖怪の中で強い魔力を持つとあるお偉いさんが作った、私が居た世界とこの世界を繋ぐゲートを通ってきたんだ」
『ゲート……』
「ああそうだ。目的は、自分の夫となる人を見つけるためにな」
『夫……って、番?』
「そうだ。それに、別の世界ってのにも憧れがあったから潜る事にしたんだ。そして辿り着いたのがあのごみ溜め場だ。あそこを拠点にして、気に入る人間を待っていた」
自分の番となるオスを求めて、わざわざ別の世界からこの世界に来たと言うおねーたん。
その世界にはそんなにオスが居ないのか、それとも単純におねーたんがこの世界に来たかったからか……どちらにせよ、異世界から来たという言葉が、俄かには信じられない。
だが、ボクの知る限りでは、こんな猫と人間を足して2で割ったような生き物はこの世界にいない。目の前で変身されたから、ボクは信じるしかなかった。
『でもおねーたん……おねーたんはネコマタって生物なんだよね?』
「ああそうだぞ」
『じゃあ結局人間じゃないから、人間であるとしあきと交尾はできないんじゃないの?』
それは信じるにしても、結局おねーたんは人間ではないので、としあきと交尾はできないはずだ。
その疑問をおねーたんにぶつけてみたら……更に驚くことを口にした。
「できる。だっておねーたんのとーたんは人間だ」
「にゃ!?」
「そもそも妖怪はどの種族でもメスしかいないからな。子孫を残すには人間が必要不可欠だ!」
なんと、おねーたんの親は片方人間だったらしい。
いくらなんでも……と思ったが、よく考えればおねーたんは半分は人間みたいなものだ。だから問題はないかもしれない。
「だから私はとしあきと……」
「ただいまー」
「あっ、としあきだぁ❤」
そんな感じでおねーたんの事を聞いているうちにかなりの時間が経過していた。いつの間にか、月が高い位置に移動していた。
その時、玄関のほうで物音が聞こえ……としあきが帰ってきた。
「ただいまチャイ、シロ……」
「おかえりとしあきー!」
「うわあっ!? え? は!?」
ボク達のいる部屋にとしあきが現れた瞬間、おねーたんはとしあきめがけて跳び、その勢いのまま床に押し倒した。
「な、何だ!? ば、化け物!!」
「むぅ……としあきわかってない。まあ、無理もないけど」
としあきはやはり目の前にいるのがおねーたんだと気付いていないらしい。
おねーたんから逃げようとじたばたしているが、小柄だけどおねーたんのほうが力が強いようで逃げ出せないでいた。
「にゃー」
「シ、シロ! チャイと一緒に逃げ……あれ? チャイは? チャイはどこに……」
「ふふん。自分が化け物に襲われてるのに飼い猫の心配するなんて、益々気に入ったぞとしあき」
「な、何を……あれ?」
目の前にいるのはおねーたんだから大丈夫と、としあきを落ち着かせようとして近づいたら、自分が大変な状況であるにもかかわらずボクとおねーたんに気を掛けて、逃げろと言ってくれた。こんな状況でもボク達に気を掛けてくれたことに、ボクも益々としあきが好きになる。
とはいえ、実際には全く逃げる必要はないのでボクはとしあきとおねーたんの近くに座る。としあきもボクのその行動に疑問を持ったらしく、少し落ち着いた様子でおねーたんの姿を見て、何かに気付いたようだ。
「どうしたとしあき?」
「……チャイ?」
「にゃあ♪ この姿でも気付いてくれるとは流石としあき。私が認めたオスなだけある」
「……へ? じゃ、じゃあお前はチャイだって言うのか!?」
「そうだぞとしあき! 私はチャイだ!」
なんと、おねーたんの今の姿を見て、自分の飼い猫だと気付いたみたいだ。
としあきよりも長く一緒にいるボクだって目の前で変身されていなかったら多分こんなに早くは気付かない。それだけおねーたんの事をよく見ていたのだろう。
凄いなと思うと同時に、なんだか羨ましさを感じる。
「ほ、本当にチャイなのか?」
「仕方ない。一瞬だけ猫に化けてあげよう」
「……うわっ!? ちゃ、チャイ!?」
「ふっふ。これで信じたか」
それでもまだ100%信じ切ってはいないとしあきの前で、今度はよく知っているおねーたんの姿に戻った。
ボクもそうだが、としあきもこれで目の前の猫人間がおねーたんだと信じたみたいだ。それでも驚きのあまり声が出ない様子だ。
「で、でもチャイが……どうして……」
「こっちが本当の姿だ。としあきは私を大切にしてくれた。可愛がってくれたとしあきが大好きだから正体を明かしたんだ! としあき好きだ! 私の夫になってほしい!」
「お、夫!?」
「そうだ! としあきと一緒に寝たりお風呂に入る度に発情して襲いたくなっていたのを我慢してたけど、もう無理! 私と交尾しろ!」
「こ、交尾!?」
そして交尾しろと迫るおねーたん。いくらなんでも唐突過ぎるのでとしあきはたじたじだ。
「ほれほれとしあき、お風呂の時のように下着脱げ!」
「うわっ、やめてくれチャイ!」
「にゅふふ……♪」
そんなとしあきに構う事なく、下履きに手を掛けてずり下ろそうとするおねーたん。
「わあっ!」
「うーむ、まだ勃ってはいないか」
そして、特に苦戦することなくとしあきの下履きを下ろし、オスの生殖器を丸出しにした。
ボクの知っているものとは形が結構違い、かなり奇妙に見えるが……それでも、なんでか愛おしいもののようにも見えた。
「ならこれでどうだ」
「うあっ! な、なんだこれ……あっ!」
『う、うわぁ〜……』
「ふにふに……にゃあっ♪」
その生殖器を肉球で挟み、リズミカルに扱き始めると……あっという間に太く大きくなった。
血管が浮きグロテスクな赤黒い肉棒を、おねーたんはうっとりとした表情で見つめている。
「すりすり……❤」
「ううっ! ちゃ、チャコ、やめ……ふあっ!?」
「くんくん……ぺろっ、にゃあ♪」
手を肉棒に添えて、少し赤らめた頬を擦り付ける。
おねーたんの肌が擦れる度にビクビクと震える肉棒の先端から、透明な汁が溢れてきた。
目を細めながらその汁をペロリと舐めたおねーたんは、悦び鳴く。
「前戯はこれぐらいでいいかな。ほらとしあき、交尾するぞ♪」
そう言いながら、自分が着ている布を剥ぎ取るおねーたん。
発情して体温が上がり若干汗ばんでいるのか、ツルツルの肌が艶めかしく月光に反射する。
『おねーたんの生殖器、凄く濡れてる……それに、としあきの生殖器も……』
「ごく……」
そして、おねーたんの股間からは透明な水が溢れ出ており、接触しているとしあきのお腹を濡らす。
オスとしての本能からか、あんなに抵抗していたとしあきが一切暴れなくなり、おねーたんの生殖器を見て生唾を飲む。
そして強くなるオスの匂い……何故だか自分も、その匂いに惹かれ始めていた。
「挿入れるぞ、としあき……にゃふぅぅっ❤」
「ぐ、うう……す、すご……」
としあきの生殖器に照準を合わせ、ゆっくりと自分の腰を下ろし……興奮し発情しきった声を上げながら、自身の生殖器に飲み込んでいくおねーたん。
「ふぅ……ふぅ……はにゃ!?」
「くあっ!! ああっ!!」
先端のほうからゆっくりと中に入っていたが、何故か全部入りきらないうちに止まった。
息を荒げながらも、今度は真剣な面持ちなおねーたん。何かはわからないが、覚悟を決めているようにも見える。
しかし、としあきのほうが我慢できなかったようで、床に置きっぱなしだった腕を持ち上げおねーたんの腰を掴み、自分の身体に引き寄せて一気に生殖器を根本までおねーたんの中に入れた。
「ふぁっ、あっ、はにゃああぁああぁぁぁあっ♪」
「うっ、うあぁぁ……!」
その瞬間、おねーたんは身体を弓なりに反らし、腰をビクビクと痙攣させながら高い声を上げた。
としあきも気持ちよさそうな声を漏らし、おねーたんと同じように腰を震えさせた。
そして、二人の結合部からは、少量の赤い液体と……白く生臭い粘液が漏れ出ていた。
「にゃ、にゃふぅ……酷いぞとしあき。いきなり腰を掴んで射精するなんてぇ❤」
「くっ……はぁ……はぁ……ご、ごめんチャイ……俺、初めてで……」
「別に良いよ。かーたんに聞いてたのと違って痛くなかったし。それにそれだけ私のおまんこが気持ち良かったって事だからな!」
数十秒間の絶頂が続いた後、口から涎を垂らしながらとしあきの身体の上に倒れたおねーたん。
顔を真っ赤にし、目が少し虚ろではあるが……幸せそうに、としあきの身体をすりすりする。
としあきの身体がおねーたんの匂いに包まれていく……なんだかそれが、ボクの心を暴れさせて落ち着かない。
「もう一回するけど、その前に……んっ」
「んんっ!?」
『わあ……』
そんなボクの気持ちなど知らずに、おねーたんは身体を伸ばして、としあきの口に自分の口を押し付けた。
くちゅくちゅという水音が微かに聞こえる。多分おねーたんは自分の舌をとしあきの舌に絡ませているのだろう。
貪欲にとしあきの唾液を奪い取り飲み込むおねーたん。嬉しいのか、二本の尻尾が両方ともピンと立っている。
「んぷ……としあきの唇、貰ったぞ」
「はぁ……はぁ……舌、ざらざらしてたな……」
「一応私半分は猫だからね。それより、また固くなった♪」
『いいなぁ……』
口を離し、大きく息を吸う二人。その間は、互いの唾液が混ざった銀色の橋で繋がっている。
おねーたんズルい、羨ましい……そんな感情が、ボクの頭を支配する。
「じゃあ動くぞとしあき」
「あ、ああ……うあっ」
やっぱりボクの事など一切気にせず、生殖器を入れたまま自分の腰を動かし始めたおねーたん。
互いの腰と腰がぶつかり合う度に、肉同士がペチンと鳴るのと同時に厭らしい水音がボクの耳に入って来る。
より強くなるオスの匂いと共にボクの精神を蝕み……何時しかボクの身体は火照り、生殖器は疼いていた。
「にゃぁぁ……」
「んっ、んにっ、あっ、いっ、いいっ! としあきのおちんちん、気持ちいいっ♪」
悦び喘ぎ声を漏らしながら、おねーたんはとしあきの生殖器で善がり狂う。
恍惚の笑みを浮かべ、としあきに密着しながら、子種を搾りだそうと腰をくねらせる。
猫らしくないそんな動きも、ボクには厭らしく、それでいて艶やかに感じた。
としあきのほうもおねーたんのお尻を握り、おねーたんを下から突き上げ、気持ちよさそうな声を漏らしている。
ボクの身体に降り注ぐ飛沫……二人の汗や体液に塗れる。
それでもボクはこの場から動けない。二人の人間風交尾から目が離せない。
気持ちよさそうに交わる二人が、羨ましくて仕方がない。
「ふぁ、ぁ、ぁあっ、と、としあきぃ❤」
「ちゃ、チャイ! そろそろ、ヤバい!」
「奥に、奥に射精してえぇぇぇっ!!」
目をとろんとさせながらも、そろそろ射精が近いのか、二人の動きが一層激しくなった。
より深く、より強く二人の腰がぶつかり、白く濁った液が結合部から飛び散る。
「あっ、くぅっ……っ!」
「ふにゃぁぁああっ❤」
そして、一番深く突き入れたタイミングで、射精が始まったようだ。
二人で強く抱き合いながら、身体を細かく震わせ、幸せを噛みしめていた。
そんな二人を見ていたボクは、ただ羨ましくて仕方がなかった。
ボクも二人に交じりたい。おねーたんと一緒に、としあきと交尾したい。そんな考えが、ボクの全てを支配していた。
「はぁ……はぁ……」
「ふにゃぁ……❤」
荒い息を繰り返しながら余韻に浸っている二人に密着するぐらい近づき……
「はぁ……うひっ!?」
「にゃあっ!」
「わっ! こらチビ助! 何をしている!!」
としあきの股間からぶら下がっている袋をペロリと舐めた。ボクが舐めた瞬間、中にある玉がびくりと跳ねた。
初めて舐めたそれはなんだかとても美味しくて、二舐め、三舐めと舌を走らせる。敏感な部位なようで、その度に大きく袋が揺れる。
「ぴちゃぴちゃ」
「こらチビ助、やめるんだ!」
『ふにゃ!? 何するのおねーたん!』
夢中で舐めていたら、頭を柔らかくも硬いもので押さえつけられた。
見上げると、ちょっと困り顔のおねーたんがボクの頭を押さえていた。
「それはこっちの台詞だチビ助。としあきの玉袋なんて舐めてどうした?」
『おねーたんだけズルい! ボクもとしあきと交尾したい!』
「それは無理だ。何故ならチビ助は私と違って普通の猫だからだ」
『でもぉ……』
ボクもとしあきと交尾したい。発情したボクはその思いをおねーたんに打ち明けたが、軽く流されてしまった。
「ど、どうしたチャイ? シロと会話しているのか?」
「チビ助……シロが自分も交尾したいってうるさいんだ。としあきは普通の猫と交尾できるか?」
「え……いやそれはいくらなんでも……獣姦は、しかも猫とは流石に……」
「ほら、そういう事だチビ助。諦めろ」
『ええ〜……』
それはそうだ。おねーたんはネコマタ、ボクはただの猫。
ただの猫と交尾をしたがる人間なんてまずいないし、いたとしてもできるわけがない。
そんな事はわかっている。わかってはいるが……ボクの気持ちは身体と違って押さえつけられない。
『ボクもとしあき大好き! ボクもおねーたんと一緒に交尾したい!』
「うるさいぞチビ助。そんな事言われてもおねーたん困るだけだ」
『ボクもおねーたんと同じようにとしあきと交尾したい!』
「だから、何度言ってもチビ助は無理……ん?」
『おねーたんと一緒に……はにゃ!?』
だから、おねーたんを困らせると分かっていても、ボクは引かずに交尾したいと訴えていたら……突然胸がズキンと痛み、身体が熱くなった。
『な、なに……これ……?』
「お、おいチビ助、どうした?」
「な、なんかシロがいきなり苦しそうに蹲ったんだが……何かやばいのか?」
「い、いや……でもまさか……」
全身がミシミシと悲鳴を上げ、毛という毛が全て逆立つ。
あまり苦しくはないが、それでもこの異常事態に、本能的に身体を丸めた。
「ふ、ふにゃ……にゃあ……」
「な、なんだ!? シロの身体が大きく……」
それによって身体の異常は治まる……どころか、余計に酷くなる。
中から熱を持った何かが溢れ出し、身体を膨張させていくように感じた。
「やっぱりそうか……」
「おいチャイ! シロに何が起きたか説明できるのか!?」
「うん。チビ助……シロは……」
「にゃああああぁぁ……」
いや、感じるのではない。ドクンドクンと暴れる心臓の音に合わせ、実際に身体が膨らんでいく。
メキメキと前足や後ろ足が膨らみ、身体もその体積を増やしていく。心なしか尻尾も伸びているようで、お尻が熱い。
「シロは……妖怪化したんだ」
「にゃあああああああああんっ♪」
一際大きく心臓が鳴り、身体の中心から溢れ出てきた強い快感と共に身体が一気に膨らみ……変化が終わった。
「はぁ……はぁ……」
「お、おいシロ……だよな? 大丈夫か?」
「う、うん……はぁ……大丈夫だよとしあき……」
「そ、そうか……大丈夫か……」
「うん……ん?」
身体は落ち着いたものの、急激だった事もあり荒い息を吐くボク。
そんなボクを心配して声を掛けてきたとしあきだったが、実際息が荒い事以外は何も問題ないので大丈夫だと返した。
なのでとしあきも安心したようだと思ったところで、ちょっと引っかかった。
猫であるボクと、人間であるとしあき。会話が成り立つはずがないのに、今成り立ったような気がした。
「あれ? ボクが言ってる事わかるの?」
「え? ああ。というかお前今人間の言語、しかも日本語喋ってるし……」
「ええっ!?」
おかしいと思い、ボクが言ってる事がわかるか聞いたら、わかっていると返ってきた。
それどころか、どうやらボクが人間の言葉を喋っているみたいだ。
驚きのあまり後ろ足で立ち上がってしまった。
「なんで人間の……って、そういえばボク、後ろ足だけで立ってる……」
なんと、人間の言葉が喋れるだけでなく、後ろ足だけで立つ事もできてしまった。
これではまるでおねーたんのようだ。
「もしかしてボク、おねーたんと同じネコマタになった?」
「違うぞチビ助。そこにある鏡見てみろ」
「にゃ?」
だからもしかしておねーたんと同じネコマタっていうのにボクもなったのではないかと思ったが、おねーたん自身に否定されてしまった。
そして、鏡を見ろと言われたので、部屋に置いてあった大きな鏡で自分の姿を確認してみた。
「……ほんとだ。ちょっとおねーたんと違うね」
そこに映ったボクの姿は、どうみても普通の猫よりはおねーたんに近かったが、たしかにおねーたんとも違っていた。
まず、頭にボクの耳が生え、ついでに髪の毛も生えているが、おねーたんの顔には生えていない毛が、ボクの顔にはびっしりと生えていた。白というよりは銀色の髪の毛さえなければ、真っ白な毛並のボクの顔そのものがそこにはあった。
前足や後ろ足もおねーたんほど膨らんでおらず、身体に合わせて大きくはなっているが割と原形を留めていた。
それに、いつの間にか身体には少しリボンや鈴などの装飾品が着けられているが、おねーたんと違って肌の露出はなく、きちんと全身白い体毛に覆われていた。
そして、勿論尻尾も1本だけだ。たしかにネコマタとやらではなさそうだ。
「ボク、どうしちゃったの?」
「多分だけど、チビ助は妖怪化……正確には魔物化か。私とずっと一緒だったから魔力が体に染みついて、大好きなとしあきと交尾したいって思いがきっかけで魔物化したんだ」
「魔物化?」
「そうだ。チビ助は魔物化したんだ。ネコマタじゃなくて、猫が成る魔物、ケット・シーにな」
「ケットシー……」
おねーたん曰く、ボクはケットシーという魔物になったらしい。
そしてその魔物化は、大好きなとしあきと交尾したいと強く願ったからだという事らしい。
という事は……
「じゃあボク、としあきと交尾できるの?」
「ああそうだ。チビ助も私と一緒にとしあきと交尾できるぞ」
「なあっ!?」
「はにゃあ〜❤」
今のボクはおねーたんと同じように、としあきと交尾することができるという事だ。
「じゃあボクとも交尾しよ!」
「え、いやだから俺は獣姦は……」
「駄目なの? としあきの事が好きなのに……それで子宮が疼いているのにぃ……」
「う……」
でも、としあきは乗り気じゃないので、ボクはちょっと寂しかった。
「わ、わかったよシロ。もうこうなったら一緒だ。いいよ。シよう」
「にゃあっ♪」
それでも、最後には交尾してくれると言ってくれた。
ボクは喜びながら、としあきの上からどいたおねーたんと交代した。
「え、えっと……」
だがしかし、早速交尾しようとしたが人間風の交尾の仕方はよく分かっていない事に気付いた。
「こ、こうかな……」
「う……い、良いぞシロ」
だから、さっきのおねーたんの見様見真似で、おねーたんの時とは違い既に固く大きいが、としあきの生殖器を肉球で抑えて扱いてみた。
としあきも良いぞって言っているのだからこんな感じでいいのだろう。という事で、引き続き前足に力を入れて擦る。
「チビ助、おちんちんの先っちょ舐めてみろ」
「え? う、うん……ペロッ」
おねーたんに言われて、透明な液体が漏れ出ているとしあきの生殖器の先を舐めてみた。
なんだかしょっぱいが、それ以上に甘美な味がした。変な臭いのする水道水って水よりも美味しい。
「ペロ、ペロペロ……」
「ぐっ、ま、待てシロ! それ以上は……うっ!」
「にゃふ!?」
もっともっととしあきが欲しいと舌で先端を舐め続けていたら、突然大きく震え出し……ボクの顔に熱い何かが掛かった。
「ふわぁ……♪」
「ご、ごめんシロ……」
「ペロ……にゃあ♪」
それは、強くオスの匂いがする、としあきの子種汁だった。
ボクの白い毛皮にこびり付く、同じく白い粘液。舐めてみると、さっきの透明の液体とは比べ物にならない程濃厚な味がした。
「ペロリ」
「わっ何するのおねーたん!?」
「慌てるなチビ助。ちゅう」
「むっ……♪」
としあきの匂いに夢中になっていたら、頬をおねーたんに舐められた。
急な事で少し驚いたが、その後急に唇を押し付け、舌がボクの口の中に入ってきたので更にビックリした。
そして広がるとしあきの匂いと味。どうやらおねーたんは舐め取るのが難しい頬の精液を舐め取り口移ししてくれたみたいだ。
「ん……猫だったらフェラチオなんてできなかった。いい経験になっただろ」
「う、うん……でも……」
たしかに、生殖器を肉球で扱いたり口で舐めたりとか、精液を顔にかけられるなんて経験は普通の猫ではできなかっただろう。それ自体は良い経験だ。
でも、ボクの子宮の疼きはより酷くなる。早くここに欲しいと、熱を持って訴えてくる。
「わかってる。ほらとしあき、もう1発ぐらい余裕だよね」
「うぁ……」
「あっまた……♪」
おねーたんに弄られ、少し柔らかくなっていた生殖器が再び硬く勃った。
もう我慢できない。だからボクは、さっきのおねーたんと同じようにとしあきの股間の上に立ち……
「ほらチビ助、ゆっくり腰を下ろすんだぞ」
「うん……にゃあぁぁっ♪」
おねーたんの助けを借りながら、ボクはとしあきの生殖器に自分の生殖器を近付け……ゆっくりと中に挿入した。
途端、生殖器周りを中心にして全身に広がる快楽の波。あまりもの気持ち良さに、腰が抜けて後ろ足に力が入らなくなり、おねーたんに支えられている状態になる。
「それじゃあゆっくり下ろしていくからな」
「う……ぐぅ……シロのほうがキツ……っ」
「ふあ、き、気持ちいいよぉ……❤」
おねーたんの腕の力が抜けていくと同時にボクも下がっていき、としあきの生殖器がその分膣内を掻き分けて沈む。
肉襞を擦る感覚に、ボクの身体は悦び震え、頭の中が肉欲一色に染まっていく。
「ほらチビ助、腰を振るんだ」
「にゃ、にゃぁぁ……しゅ、しゅごいぃぃっ♪」
足の力が抜けているので、前後に軽く揺するような動きだが……それでも、腰を振ると膣内を生殖器が掻き乱し、今まで感じた事のない大きな快感が身体中を走った。
先端の膨らみが特に敏感な部分をゴリゴリと擦る度に、全身の毛という毛が逆立っている。
人間の言語を喋れるようになったにもかかわらず、あまりもの気持ち良さに呂律が回らず、発情しきった声で鳴く事しかできない。
「シロ、動かすぞ」
「はにゃ!? ふあっ、んあっ、あああっ♪」
しかし、としあきにとっては些細な快感でしかなかったのか、それとももう射精しそうで慌て始めたのか、理由はわからないが……ボクの腰を先程のおねーたんの時と同じように掴み、激しく上下に動かし始めた。
子宮の入り口目掛けてガンガンと強く打ち付けられる。目の前がチカチカするほどの強い衝撃と激しい快感がボクを襲う。
口からも、そして生殖器からも涎が洪水のように溢れてくる。尻尾も自分の意思と関係なくびぃんと真上を指しっぱなし。ボクの頭は悦び狂ってしまったようだ。
「にゃあっ、んにぃ、ふあっ、な、何かきちゃうぅっ! 身体のゾクゾクが止まらにゃあああっ!」
「ぐ、う、あっ!」
「にゃあ、二人ともイキそうだね。ほらとしあき、チビ助に種付けしちゃえ……ぺろっ」
「や、やめろチャ……ああああっ」
パンパンと淫猥でリズミカルな音が部屋中に響き、汗や涎など互いの体液が飛び散る。
生殖器が身体を貫く程、じわじわ、ゾクゾクとボクの中の何かが爆発しそうだ。
そんな中でおねーたんはとしあきの耳元に顔を寄せる。
そして、何かを囁いた後に……耳の中を舌で舐めた。
それと同時に、ボクの中で生殖器が……爆ぜた。
「ふ、ふにゃああああああああっ、あ……❤」
子宮の奥深くまで突き刺さるように突き入れられたとしあきの生殖器が痙攣し、ドクッ、ドクッと熱い子種汁がボクの子宮を叩く。
その衝動と熱に犯され、ボクも快感が爆発し、背を弓なりに反らし腰が大きく痙攣する。
「ああ……あ……あっ❤」
としあきと交尾できた。としあきとの子供が作れる。そんな幸せが頭を悦びで染める。
その間にもボクの中に沢山注がれていくとしあきの精液。身体は繋がったまま心だけがひたすら天に昇っていく。
「にゃふぅ……♪」
「チビ助、激しくイッてたな」
「イッてた……? うん……♪」
ボクにとっては永遠なんじゃないかという時間が……実際には少しの時間が経過したところで、ゆっくりと落ち着きを取り戻し始めた。
それと同時に視界や思考も少しずつハッキリしていく。目の前で顔を赤らめてボクを見つめるおねーたんの姿を確認した。
どうやら、この快感が爆発する事をイクというらしい。今後の為にも覚えておこう。
「さてチビ助、おねーたんと交代だ」
「え〜、もっととしあきと交尾してたい!」
「駄目だ! 私だって本当はとしあきを独り占めしたいんだぞ! チビ助だから譲ったんだ。でもこれ以上は駄目だ!」
「やだ! ボクだってもっととしあきと繋がっていたいもん!」
「お、お前ら……お、俺の体力を考えてくれ……」
なんだかまだ物足りないのでもっととしあきと交尾しようとしたら、おねーたんが交代しろとボクに言ってきた。
息も絶え絶えなとしあきを余所に、ボクは繋がったままおねーたんと言い争う。
「俊彰ー、玄関空いてたけどいるのー?」
その時、玄関のほうから扉が開く音と、同時に女性の声が聞こえてきた。
「あ」
「げっ、この声は……」
「くろえだー!」
その声はボク達のよく知る人物、くろえの声だった。
どうやら今日も遊びに来たらしい。ゆっくりとであるが、こちらに近付いてきている。
「俊あ……は?」
「ち……やっぱりくろえか」
「くろえー♪」
そしてボク達の前に現れ……ボク達のほうを見た瞬間、驚いた顔のまま完全に固まった。
「みてみてくろ……ふぎゃっ!?」
「と、俊彰!? 大丈夫!? 何なのこの化け物!?」
「いてて……」
だがその後すぐさま気を取り戻し、としあきの上に乗っていたボクを突き飛ばし、としあきの身体を持ち上げた。
突き飛ばされたボクは床に尻もちをつく。ちょっとお尻が痛い。
「フーッ!! チビ助を虐めるなくろえ!」
「な、なんなのこの猫の化け物達……どうなってるの俊彰!?」
「チビ助を虐めるくろえには引っ掻き攻撃だ!」
「きゃあっ!!」
元々くろえの事が嫌いだったおねーたんは、ボクが突き飛ばされた事に怒り、爪を出した腕をくろえ目掛けて振り下ろした。
「ストップおねーたん!」
「ふにゃ!?」
「きゃあ!? な、何これ!?」
ボクはそれを止めるために、どこかから取り出したロープを魔術で操りおねーたんの身体を縛った。おねーたんだけではなく、くろえのほうも暴れないようにしっかりと縛りつけた。
なんでそんな魔術を使えるのかはよくわかっていないが、使えてしまったものは仕方がない。
「こらチビ助! いきなり何をする!?」
「落ち着いておねーたん。ボクは平気。くろえは今のボク達の姿じゃわからないから、得体の知れない化け物がとしあきを襲ってると思ってボクを突き飛ばしてとしあきを護っただけだよ。それにくろえはきっととしあきの事好きだから、勝手にとしあきと交尾してたボク達の事怒ったんだよ」
くろえがボクを突き飛ばした理由はざっとこんなところだろう。
ボクやおねーたんは猫と人間を足したような姿なのだから、人間のくろえには立派な化け物に見えるのはわかる。そんな化け物が好きな人を襲っていたら誰だって突き飛ばすだろう。
そして、くろえはきっととしあきの事が好きだ。シャワーの時は暴れていてちゃんと聞いていないのでうろ覚えだが、それっぽい事を言っていたような気もする。今の態度を見た感じ当たりだろう。
「え……黒江が俺の事を……?」
「あ、いやそれは……」
その事を指摘され、さっきまでの慌てっぷりがどこかに行きしどろもどろし始めたくろえ。
自身の顔を真っ赤にし、としあきの顔を直視できないでいる。
「べ、別にそんなんじゃないもん……俊彰の事なんてどうでもいいもん」
「素直じゃないなあ……」
「私はそうやって嘘をついて誤魔化すくろえが嫌いだ」
だが、素直に好きだと認めないくろえは、どうでもいいなどととしあきを傷付けるような嘘をつく。
照れ隠しなんだろうけど、それはちょっと酷いと思った。
「な、なんなのよあんた達。まるであたしの事を知って……あれ? よく見たらどこかで……」
「ああ。こいつらはチャイとシロだ。二人ともこの姿に変身するところを見たから間違いない」
「ええっ!? いったいどういう……わっ!?」
だから、くろえが素直になれるようにボクは……
「な、何だこの光は!?」
「お、おいチビ助。まさか……」
「神様が教えてくれたんだ。くろえも素直になって、ボク達が楽しく暮らしていける世界の事をね」
「えっ……それって……」
「だから、ボクがその猫の王国に連れてってあげる!」
突如頭の中に鳴り響いたバステトという名の猫神様の導きに従い、おねーたんととしあきとくろえを猫の王国に連れていくために、またしても何故か使える転移魔術を展開し始めた。
「いいぞチビ助! レッツゴー!」
「わあっ!!」
「きゃあああっ!!」
としあきが注いでくれた精の力を使い、ボクの身体から魔力を放出して……4人一緒に転移を始めた。
「着いたよ!」
「おおーっ!!」
「いてて……こ、ここはどこだ?」
「部屋みたいだけど、見た事ない……うっ!?」
「ん? ど、どうした黒江!?」
そして、導きのままに猫の王国にある家の一室に辿り着いた瞬間、くろえに魔法が掛けられた。
「う……うぅ……あっ」
「ま、まさか……!」
さっきのボクと同じように蹲り……身体の変化が始まった。
「うあ……あっ、ああっ!!」
くろえの黒い髪がぶわっと盛り上がり、頭の天辺に髪と同じ色の三角形の突起……猫の耳が生えてきた。
叫び広がる口の中から白い牙が伸びてきて、舌も少しザラザラに変化した。瞳も縦に細長くなる。
前足や後ろ足……いや、手足には膝や肘の少し上辺りから黒く艶やかな毛がぷつぷつと生えてきて、それがぶわりと一気に伸びた。
手足の先も、ボクやおねーたんと同じような形に変化した。柔らかそうな肉球と鋭い爪が目立つ。
そして、腰からはにゅうっと細くて長い黒い尻尾が伸びてきた。
「ああ……にゃああああっ!」
「そ、そんな……黒江まで猫人間に……」
そう、バステト様の力でくろえも人間からボクやおねーたんと同じようにキャット属の魔物に変化したのだ。
「にゃ、にゃにこれぇ……あたし猫みたいになってる〜」
「にゃあ♪ くろえはワーキャットになったみたいだな」
「みたいだね」
急だった事もあり、身体が変化した事に戸惑っているくろえ。
「仕方ない。それじゃあチビ助、やるか」
「うん。そうだね」
「わっ!? し、シロちゃん、チャイちゃん、な、何するの?」
そんなくろえを、ボクとおねーたんで床に押し倒して……
「何って、くろえを素直にするの!」
「メス猫としてのなんたるかを猫の先輩としておねーたんが教えてあげよう」
「にゃ、にゃぁ……」
ボクらが怖いのかブルブルと震えてるくろえに覆いかぶさり……
「にゃあああああああああああああああああああああああああああああんっ!!」
メス猫として素直になれるように、身体にいっぱい教え込んであげたのであった。
……………………
「ふにゃぁ……」
猫の王国で暮らすようになってから、数か月が経過した。
ボクは日光が当たる絨毯の上で、気持ちよくお昼寝を堪能していた。
「シーロちゃん♪」
「にゃ!?」
ぽかぽかと夢見心地でいたら、上から黒い毛皮に覆われた手足がいきなり現れ、ボクの身体を強く抱きしめた。
「にゃぁ……なーにくろねーたん? ボク眠いんだけど……」
「にゅふふ〜♪ スキンシップだよ〜♪」
お昼寝を邪魔されてちょっと不機嫌なボクにお構いなしに頬をすりすりさせてくる黒猫は、同じ家に住むワーキャットになったくろねーたんだ。
元々人間だった時からよくなでなでして来たり、としあきへのボディタッチも多かったくろねーたんだが、ワーキャットになって自分に素直になった結果こうしてスキンシップと称して頬をすりすりしたり喉を撫でてきたりもっと過激な事をしてくることが格段に多くなった。
別に嫌いじゃないし、むしろくろねーたんとのスキンシップは好きだが……今は日向でお昼寝していたいのでムッとする。
ちなみに、くろねーたんというのはもちろんくろえの事だ。ボクがおねーたんの事をおねーたんと呼んでいたら自分もそう呼んでほしいと言われたから、くろえおねーたん略してくろねーたんと呼ぶ事にしたのだ。
「勝手にやって……ボク寝るから……」
「むぅ……ノリの悪いシロちゃんにはこうだ! かぷっ」
「はにゃっ!?」
くろねーたんの事は放っておいてお昼寝しようとしたら、耳の先端を甘噛みされた。
耳はボクの性感帯のようで、甘噛みなんてされたら思わず身体がびくんと跳ねてしまう。
「折角ワーキャットになった事だし、この舌で毛繕いもしてあげるね」
「うひっ、そ、そこは耳……にゃふっ!?」
それだけでは飽き足らず、今度は耳の中に舌を入れてきた。滑る舌が毛の1本1本をなぞり、ゾクゾクとする。
感じてしまうので首を振るなどして抵抗を頑張ってみるが、いつの間にか抱きしめられ、首をがっしりと固定されてしまい抵抗できない。
ケットシーになっても小柄なボクは、人間のメスの中でも大きいほうだったくろねーたんにこうされては逃げられない。
「に、にゃぁぁぁ……」
「ふふん。軽くイッちゃったみたいだね」
なす術もなく耳への愛撫を受け続けたボクは軽くイッてしまった。
くろねーたんにとっては軽くじゃれただけの行為で、ボクの股の毛皮はしっとりと濡れてしまった。
「うぅ……酷いやくろねーたん」
「ごめんね〜。寂しかったからつい、ね」
うっすらと涙を浮かべた目でキッとくろねーたんを睨みながら文句を言う。
気持ち良くはあったけど、眠いと思っていた時にヤられても機嫌が悪くなるだけだ。
今としあきとおねーたんが二人きりで買い物に出かけているのでこの家にはボクとくろねーたんしかいない。だから寂しいのはわかるが……ついで人をイかせないでほしい。
「お詫びに背中のマッサージしてあげるから許して」
「うーん……してくれるならいいよ」
ただ、くろねーたんが背中をマッサージしてくれると言うので許してあげる事にした。
医者の家系であるとしあきと幼馴染みであるくろねーたんは、小さい時からとしあきの母からマッサージ技術を仕込まれていたらしく、マッサージがとても上手ですごく気持ちいいのだ。
前よりはよっぽどマシになったとはいえ、意外と強い独占欲故か相変わらずくろねーたんの事が気にくわないらしいおねーたんも、このマッサージだけは自分から頼むほど気に入っているぐらいだ。
「んっどうシロちゃん? 気持ちいい?」
「ふにぃ……気持ちいいよ〜♪」
「お、ここちょっと凝ってるね。ぐりぐり〜」
「にゃあぁぁ……♪」
肉球に力を入れて背中に圧を掛けるくろねーたん。身体の柔らかさには自信があるが、それでも少し凝っている筋肉がほぐされる。
性的なものとはまた違った気持ち良さに、気の抜けた声が漏れだしてしまう。
「肩とかも、ケットシーになって器用に動かせるようになったはいいけどそのせいで使い過ぎてて結構凝ってるみたいだね」
「ふにゃぁ……だって猫じゃできなかった事をいっぱいやりたいもん」
「まあ、あたしも人間じゃできなかった事をいっぱいやってるからお互い様かな。それじゃあ肩もほぐすね」
「あ、あ、あ、あぁ〜♪」
重たい物を持ったりしているからか、自分でもたまに凝っていると感じる肩も、リズム良く叩かれ、揉み解される。
この最高に気持ちいいマッサージも普通の猫じゃやってもらえなかったことを考えると、としあきと交尾できるという事以外でもケットシーになって良かったと思える事が多い。
「やれやれ、遊びに来てやったら随分と気持ちよさそうにしてるな」
「あ、グレイちゃん! こんにちは!」
「ふん。今は黒猫でも元人間なんぞにする挨拶などないわっ!」
気持ち良くマッサージを受けていたら、部屋の入り口から低めの声が聞こえてきた。どうやらお客さんのようだ。
顔を入口のほうに向けてみると、そこには灰色の毛並で左目に傷が付いているケットシーが立っていた。
「おじさん、相変わらず人間嫌いだね」
「当たり前だ。身体や性別が変わろうがワシの人間への恨みは変わらん!」
「むぅ……確かにグレイちゃんをそんな目に遭わせた人間は酷いけど、あたしや俊彰はそんな事絶対にしないのになぁ……」
「それについてはチビや小娘の態度や言動から信用はできる。だが、それとワシの人間嫌いは別だ。目も玉も潰されて他にも酷い事されたのに好きになぞなれるか!」
このケットシーは、なんとあの日ごみ溜め場の火事で燃え死んだと思っていたおじさんだ。
どうやらたまたまあの場におねーたんと同じくあの世界に来ていたケットシーがいたらしく、バステト様に頼んで逃げ遅れた猫は全員この国に移住していたとの事だ。実際、あのごみ溜め場に住んでいた他の猫もたまに見かける。
この国で初めて再開したとき、おじさんが生きていた事にボクとおねーたんは喜び、ケットシーになっていた事はそれ以上に驚いたものだ。
本人曰く、気付いたらこの国にいて、しばらくしたある日突然この姿になっていたそうだ。精を作る器官が昔人間によって潰されたからメスに、しかもケットシーになったんじゃないかと言っていた。
しかし、人間嫌いだと公言しているおじさんが本当にそれだけでケットシーになれるのかは少し疑問が残る。とはいえ、本人がまったく気にしていないのでこの疑問も気にしない事にした。
「とか言いながらくろねーたんととしあきが付けたグレイって名前気に入ってるじゃん。この前おじさんの釣り仲間のチェシャ猫さんとオス猫さんに、自分の事はこれからグレイと呼んでくれって楽しそうに言ってたって聞いたよ」
「へぇ〜、名前気に入ってくれたんだねグレイちゃん♪」
「ち、違う! 個人を指すキーワードがあったほうが色々便利だと考えて利用してやってるだけだ! か、勘違いするんじゃない!」
「おじさんはくろねーたん以上に素直じゃないなぁ……」
「ち、違う! 好きで名前を使ってるわけじゃないぞ!」
まあ、おじさんもなんだかんだこの国に来てから猫やキャット属の魔物と仲良くしている人間を見たり、実際にとしあき達と関わり始めた事で、心のどこかでは人間の事が好きになっているのだろう。
おじさんの友人達もそう言っているし、何よりボクやおねーたんがいるとはいえ人間のとしあきや元人間のくろねーたんがいるこの家にしょっちゅう遊びに来てはなんだかんだお話してご飯まで食べていくのだから。
「げふんっ。ところでお前達、こんなところでメス同士イチャイチャしていていいのか?」
「え?」
やはり恥ずかしかったのか、咳払いをして唐突に話題を変えたおじさん。
「ここに来る前、お前達の慕う人間のオスと小娘が路地裏で盛っているのを見掛けたぞ」
「にゃっ!?」
「グレイちゃんそれ本当!?」
「あ、ああ……」
その口から出てきた言葉は……なんと、買い物に出かけているはずのとしあきとおねーたんが裏路地でボク達に内緒で交尾しているというものだった。
ボクは驚いて起き上がり、くろねーたんはおじさんの肩をがっしり掴んで本当かどうかをハッキリ聞き出そうとした。
「他人の交尾なんて直視したくないからハッキリ見たわけじゃないが、あの声や茶色毛の猫は小娘だったと思うぞ」
「そう……チャイちゃん、抜け駆けかぁ……」
「だからとしあきと二人きりで……へぇ……」
「お、お前達、目が鈍く光って見えるしなんか怖いぞ……」
どうやら、本当におねーたんはとしあきと交尾しているらしい。
そういう抜け駆けは禁止だと、ボク達の中で決めていたはずだ。夜這いを掛ける時は3人一緒だし、独り占めするときも事前に誰かに言っておくというルールを作ったはずなのに、おねーたんは破っているらしい。
「ねえシロちゃん……帰ってきたらさぁ……ふふっ」
「ボクも同じ事考えてるよ……にゃふふふ♪」
「わ、ワシは帰らせてもらおうかな……」
くろねーたんと二人で、としあき達が帰ってきた後の事を想像して笑う。
おじさんにとってそんなボク達が怖かったのか、おどおどしながら窓から外に飛び出し帰ったようだ。
「ただいまー」
「クッションとお魚いっぱい買ってきたぞー!」
「あ、帰ってきたみたいだね……」
「そうみたいだね……」
それとほぼ入れ替わる形で、二人が帰ってきたようだ。
「ただい……ってどうした?」
「ほんとだ……グレイちゃんの言ってた通りだね……」
「おねーたんからとしあきの精の匂いがするね……」
「げっ」
二人の身体は綺麗なので見た目は普段通りだが、おねーたんの身体からは間違えようのないとしあきの精の匂いがいっぱい染みついていた。
おじさんが言っていた通り、ここに帰って来るまでにとしあきと交尾していた動かない証拠だ。
「おねーたん抜け駆けしたね?」
「う……ち、違う! としあきが私とシたいからって無理やり……」
「はあ!? 子宮がムズムズするから交尾しろって無理やり路地裏に引き込んだのはチャイだろ?」
「えっあ、その……」
「チャイちゃん、嘘はいけないよ」
嘘をついてまで誤魔化そうとするおねーたんだが、残念ながらとしあき自身がハッキリとおねーたんに無理やりされたと言ってしまった。
「という事でおねーたん、お仕置き〜」
「うわあっ!? やめろチビ助!」
「チャイちゃん、暴れると余計に絡まるよ?」
「くろえに言われなくてもわかってる……ってにゃあぁ……」
ルールを破ったおねーたんを、ボクは魔術で作り出したロープで身動きできない様しっかりと縛りつけた。
勿論このロープはボクの意思がなければ解く事はできない。おねーたんが猫化してもそれに合わせて伸縮する優れものだ。
「さてと、チャイちゃんに誘われたからと言っても、ハッキリと断らなかった俊彰にも責任はあるよね〜」
「えっちょ、ちょっと待て黒江。ズボンを掴んでどうする気だ?」
「勿論、おねーたんにシた分、ボク達とも交尾してもらうの!」
「ちょ、シロまで……うわっ!?」
そして、ボク達は二人がかりでとしあきのズボンを下着ごと下ろし、としあきのおちんちんを丸出しにした。
「にゃ? 特に触ってないのに少し勃起してる……もしかしてあたし達に襲われる事期待してた?」
「初めてじゃないもんね。としあき、期待してたんだ」
「いや、その、これは……」
おねーたんと交尾したばかりでも、特に問題なく硬く反り立っているとしあきのペニス。
最初の頃は全員1回ずつ交尾したらもう限界を迎えていたが、最近は全員2回ずつどころかそれ以上シても元気で居られることが多い。ボク達にとっては嬉しい事だ。
「ほーら、どっちから入れてもいいんだよ?」
「その代わり、ボク達にもおねーたんと一緒の回数射精してね」
「ゴク……」
並びあったボクとくろねーたんは四つん這いになり、としあきに自分の割れ目を見せつける。
おねーたんから漂うとしあきの精の匂い、としあきの硬く勃起したペニス、ついでに先程までのくろねーたんのスキンシップやマッサージのせいで既にボクの生殖器はとろとろになっており、いつでも男性器を受け入れる準備ができあがっている。
それはくろねーたんも一緒で、割れ目から透明な蜜を垂らしている。
そんなボク達のうち、としあきが先に選んだのは……
「入れるぞ……くぅ……」
「はにゃぁ〜♪ 俊彰のおちんちんがおまんこにきたぁ❤」
残念ながらくろねーたんのほうだった。
くろねーたんの生殖器にずぶずぶと沈んでいくとしあきのペニス。くろねーたんは耳をぴくぴくさせながら、頬やボクやおねーたんよりも大きなおっぱいを床に押し付け、顔を蕩けさせる。
「むぅ……ボクは後かぁ……にゃふっ!?」
「シロもきちんと入れてやるから、とりあえずはこれで我慢な」
「にゃあっ❤」
後回しにされて少しふくれっ面していたボクの生殖器に、としあきの指が這う。
おちんちんと比べると物足りないが、これはこれで良い。
「ひあ、あっ、はっ、ああっ、そこ、そこいいのっ!」
「ひにゃあっ指でくちゅくちゅされるのいいよぉ❤」
「二人ともズルいぞ! 私も!」
「おねーたんは……ひうっ、いっぱい射精してもらったんだからあっ、まだそのままじっとしててえっ」
「チビ助! おねーたんにこんな事するなんて酷いぞ!」
「ひあっ……ルール破ったらお仕置きだって言ったのおねーたんだよ」
「う、そ、それはそうだけどさ……」
膣内に入れた人差し指が不規則に動き、また親指でクリトリスも刺激され、ボクの頭は蕩けてしまう。
くろねーたんも後ろから激しく突かれ、涎を垂らしながらメス猫らしく喘ぐ。
そんなボク達の様子を羨ましそうに睨み付けるおねーたん。だが、おねーたんから感じるとしあきの精からして1,2回の射精ではない事は明白なので、自分も混ざりたいと叫ばれても解く気はない。
おねーたんは尊敬しているし、ボクをここまで引っ張ってくれた事は感謝しているが、それとこれとは別だ。そもそもこの罰だっておねーたん自身で言った事なので仕方がない。
「くぅっ、射精すぞ、黒江!」
「にゃああ、俊彰の精液、いっぱい中出しされてるぅ。俊彰の子供孕んじゃうううううっ❤」
しばらく腰を振り続けた後、グッとくろねーたんの腰を引き寄せ、そのまま子宮目掛けて射精したとしあき。
濃厚な精の匂いが二人の結合部から漏れ出し、ボクの鼻腔をくすぐる。
「う……ふぅ……」
「としあきぃ、次はボクの番〜」
そんな匂いを嗅いで我慢なんてできるはずがない。
としあきの射精が終わるのを見計らい、ボクはとしあきに向かってお尻を振りながら急かす。
「そう急かすなって。ほら、しっかりとお尻をこっち向けて。次は黒江が指な」
「にゃあああ……♪」
くろねーたんから引き抜かれた、硬さを保ったままの生殖器が、今度はボクの生殖器の入り口にピトッとくっついた。
そして、ゆっくりとボクの膣肉を掻き分けながら突き刺さる。
「ふにゃ、にゃ、にぃ、ふああっ❤」
「あっ、あっ、まだイッたばかりなのにぃ……❤」
「としあき! 私も、私も弄って!」
「待つんだチャイ。まずは黒江とシロの二人に射精してからだ。その後でいっぱいシてあげるから、おねーたんなら少し我慢しなさい」
「むぅ……としあきにそう言われたら我慢するしかない……でも、気持ちよさそうな二人の幸せそうな顔見てたら我慢できないよぉ……」
としあきになだめられ、ようやく少し大人しくなったおねーたん。
だがボクはそんなおねーたんの様子に気を掛ける事なんてできない。抽挿によって与えられる快感に呑み込まれ、周りの音も景色も頭に入ってこない。頭に入ってくるのは、としあきの温もりとボクを犯すペニスの感触だけだった。
「にゃうぅ、ふあああっ、ひぎいいっ♪」
ペニスの先端が子宮口を突く度、脳天から雷が落ちたような快楽が襲う。只の猫に戻ったかのように、言葉になっていない声で快感を叫ぶ。
ケットシーは他のキャット属の魔物の中でも特に獣に近い存在。やっぱりボクは猫だからか、後ろからペニスを抽挿される体位での交尾が一番感じて好きだ。
「ぐあぁっ、シロ、射精すぞ!」
「きてぇとしあきぃ。ボクを孕ませてぇぇぇぇ❤」
真っ白になった頭に響いてきた、としあきの射精宣言。
くろねーたんやおなねーたんと一緒だ。ボクもとしあきとの子供が欲しい。だから孕ませてとねだりながら、ボクは膣をキュッと窄めた。
「ぐぅっ……!!」
「ふあああああっ、きたぁぁぁっ❤」
その途端、としあきのペニスから、熱い精液がボクの中に迸った。
何回種付けされても飽きるどころか、その度に病みつきになるとしあきの精の味にボクはうっとりとし、身体を絶頂で震わせる。
「ふにゃぁぁ……にゃっ」
「次はまた黒江だな。あとシロ、そろそろチャイも参加させてあげたいから縄をほどいてやりな」
「としあきが言うなら仕方ないにゃあ……はいおねーたん」
「よし自由になった。としあき私もおまんこも弄れー!」
としあきの頼みなので、まだふわふわしている中でおねーたんのロープを解いた。
その瞬間ボクと反対側のくろねーたんの横に並び、そう言いながらお尻を突き出したおねーたん。
まだまだボク達4人の交尾は続きそうだ。
「仕方ない。これでいいか?」
「にゃうんっ!」
「ふあぁ……また俊彰のちんこがぁ❤」
「ふああ、まだイッてるのにぃ❤」
小さいときからおねーたんと一緒だったボクは、大きくなった今でもおねーたんと一緒に同じ人と暮らしている。
これからもきっと、おねーたん達と一緒に、こんな幸せな生活を続けていくんだ。
そう思いながら、ボクは肉欲の渦に溺れていったのであった。
15/03/28 23:41更新 / マイクロミー