旅終 旅は続くよどこまでも!
「わあ〜!きれいなお花だ〜!!」
広がる青い空に、ちょっとずつ西にかたむき始めた太陽。
ドイコサルアで新たなお姉ちゃんの居場所を聞けたアメリたちは、早速その町に向かって旅をしていた。
お姉ちゃんは北にずっと進んだところにある町にいるって聞いたから、町を出た後はコンパスできちんと確認しながらずっと北に向かって歩き続けていた。
その途中、いろんな形や色のお花が咲いている野原……お花畑があらわれた。
「見たことないお花ばかりだ〜♪」
なんだか楽しくなってきたから、色とりどりのお花の中を駆け回る。
今日は風もあるから綿毛がふわふわと、まるでケサランパサランさんみたいにお空を飛びまわっている。
アメリが近くを通ると、お花のみつを吸っていた蝶々さんがひらひらと飛んで行く。
ごはんのじゃましちゃってごめんねって思いながらも、アメリはわくわくした気持ちをそのままに両手を広げながら走っていた。
「わわっ!あ……わあ〜!!」
風が少し強く吹いて、花びらもまい上がる。
赤に黄色に紫に、白にオレンジにピンク色と、いろんなお花が宙をまう。
太陽の光をまといながら縦横無尽にひらひらとまうお花が、とってもきれいだった。
「ねえねえサマリお姉ちゃんたち!あれ……」
このきれいな光景を見ていないかもしれないからと、サマリお姉ちゃんたちに教えてあげようとして振り向いたら……
「あ……そっか……」
そこには……サマリお姉ちゃんも、ユウロお兄ちゃんもいなかった。
「アメリ、一人だったんだっけ……」
それもそうだ。
アメリが一人、先に宿を出て旅をしているんだから、いるわけがなかった。
「しっかりしなきゃな……」
ようやく結ばれたサマリお姉ちゃんとユウロお姉ちゃん。
そんな二人のじゃまにならないように、アメリは一人でお姉ちゃん探しの旅を続けることにしたのだった。
お姉ちゃん探しは元々アメリの目的だ。なにも二人を巻き込むことはない。
今までは世界を回るついでにとついて来てくれていたけれど……二人が恋人になった今、いつまでもアメリにつきあわせちゃだめだ。
「さて、行こっかな……」
二人がいっしょになったらアメリはじゃまにならないように消える……けっこう前にサマリお姉ちゃんがユウロお兄ちゃんにほれてそうな様子を見せていた時からずっと決めていたことだ。
もし二人が恋人にならなかったらずっといっしょにいられたけど……恋人になったからアメリはいっしょにはいられない。
だからアメリは今日の朝、早起きして二人からまるで逃げるように飛んで移動して、こうして一人で旅をしていたのだった。
「はぁ……」
自分で旅立ったのだけど、ずっと二人といっしょだったからかやっぱりさみしく感じてしまう。
いつもしゃべっていた話し声も、いつも聞こえていた足音も、いつも感じていた温もりも、今は何一つないのだから。
「……」
たった一人の旅……ベリリお姉ちゃんがいなくなってからサマリお姉ちゃんと会うまでもしていたけど、その時以上にさみしい。
あれからずっと一人じゃなかったから……今までいた他の人の気配が、今日になって急に感じられなくなったからだろう。
でも、たぶんこれからはずっと一人での旅になるから、早くなれないといけない。
「今日は風がすずしいなぁ……」
野原に吹き抜ける風が、お花畑を見つけた時よりも冷たく感じた……
…………
………
……
…
「……」
しばらくは緑の映える草原をとぼとぼと歩いていたけど、いつしか夕方になって、夕日を反射してキラキラと輝いていた川を見ていたらお外も真っ暗になったから、アメリはテントを張ってその中に入った。
「やっぱり静かだなぁ……」
今までアメリのテントに入ったことある人はほとんど皆大きいとか広いとか言っていたけど、アメリにはわからなかった。
でも……こうして一人でいると、たしかに大きいし広く感じる……テーブルも大きいし、イスやベッドの数も多いことが余計にそう感じてしまうのかもしれない。
ぐうぅぅぅぅ……
「……おなか空いたなぁ……」
アメリのおなかが大きな音を立てた。
だれにも聞かれることはないけど、テント内にひびいた音を聞いただけでも少し恥ずかしい。
今日は朝から飛んでたし、疲れもあってとってもおなかが空いていた。
お昼ごはんは今朝ドイコサルアで買ったパンを食べたけど、それはもうないから夜ごはんは自分で作らないといけない。
「何作ろうかなー」
今ある食材を見て、夜ごはんはどうしようかなと悩む。
ドイコサルアで色々と買い込んで食材だけはやたらとそろっているから、中々パッと決められない。
今までサマリお姉ちゃんのお料理を手伝ってきたからある程度の物は作れるけど……時間のかかるものはおなかが空いたのでさけたい。
「あー、ハンバーグにしようかな……」
アメリが手に取ったのは、サマリお姉ちゃんにほしいと言って買ってもらったひき肉だった。
ハンバーグはアメリが初めてサマリお姉ちゃんのお手伝いをした時の料理だ……それからも何度か作っているから、ハンバーグならもうほとんどカンペキに作れる。
「タマネギどこかな……あ、あった。そうだチーズも入れちゃお」
材料を全部集めて、まずはタマネギをみじん切りにする。
最初は危ないからって使わせてくれなかった包丁も、いつしか教えてくれるようになって、今じゃトントンと手際よく切ることも出来るようになった。
「よいしょっと……キッチンもうちょっと低ければ楽なのになぁ……」
切ったタマネギをフライパンに入れて、半透明になるまで炒める。
包丁と同じような時に炒めることも教えてもらった。
最初は焦がしちゃったりしたこともあったけど、今はもう火加減はカンペキにわかる。
「まあ、アメリがもうちょっと大きくなるまでの辛抱かな……」
炒めたタマネギに卵、塩コショウ、パン粉をボウルに入れてかき混ぜ、ひき肉を更にその中に投入してこねる。
初めての時はこのこねる作業を手伝ったんだっけ……アメリが上手にこねたからおいしくなったんだよってサマリお姉ちゃんが言ってくれてうれしかったなぁ……
「んしょ……よいしょ……っと。このぐらいでいいかな?」
手早くこね終えたあと、2つに分けて丸く形を整える。そしてとろけるチーズもこの時にお肉の真ん中に入れておく。
量を多くして作っちゃったので片方は明日の朝ごはん用だ……アメリは早起きが苦手だから今の内にある程度作っておかないとごはんの前に空腹でそれどころじゃなくなっちゃうかもしれないからね。
「片方はしまって……じゃあ焼こうっと」
形を整えたハンバーグの一つをフライパンに置いて火をつけて焼き始める。
ジューっという音と共にお肉の焼けるいい匂いが漂ってきた。自分で言うのもなんだけどおいしそうだ。
「おおっ!上手に焼けてる〜♪」
焦げ目がついてきたのでひっくり返してさらに焼き……チーズインハンバーグの完成っと。
丁度いい具合に焦げ目もついている……初めて全部自分一人で作ったけど、なかなかの出来だ。
「早速食べようっと」
焼いたハンバーグをレタスをしいたお皿に乗っけて、適当なパン、それとケチャップといっしょに机に運ぶ。
「……」
机に並べられた、たった一人分のごはん。
大きな机に8人分のイスがある場所で並べられた一人分のごはんは……なんだかさみしく感じる。
「はぁ……」
テント内はきちんと明るくなっているのに、どこか暗く感じる……広い中で一人でさみしいから、そう感じるのかもしれない。
ごはんを作っていた時は気にならなかったけど……作り終わって部屋を見渡してしまったせいだろう。またさみしい気持ちがよみがえってきてしまった。
「サマリお姉ちゃんとユウロお兄ちゃんがいたらな……」
二人がいたらいいなって、つい口に出してしまった。
でも、ようやく幸せになれたお姉ちゃんたちの間に割り込むのは良くないから……こればかりは言っても仕方がない。
「まあいくらさみしくてもどうしようもないよね……いきなりお姉ちゃんたちが現れるわけもないんだから……」
それでも、今ここに現れてくれたら……なんて思う自分もいる。
だがいくら思っても現れるはずが無い……アメリがどこに向かっているか知らないはずだし、そもそもこのテントは近くで立ててるところを見たりアメリが案内したりしない限りここにあるのは気付かないから、もし近くに居てもわからないのだから。
「ごはん食べよ……」
さみしさを抱いたまま、折角温かいハンバーグが冷めるとおいしさが減ってしまうので、アメリはごはんを食べることにした。
「うん、おいしい」
ナイフで一口サイズに切って、フォークで口に運ぶ……とろっとしたチーズが伸びて、口の中でとろける。
かむと温かい肉汁がじわっと出てくるし、きちんと中まで火が通っている。
サマリお姉ちゃんが作ったハンバーグには敵わないけど、それでもかなりおいしいと言えるだろう。
「……うん、おいしい……」
でも……なぜだか、心の底からおいしいって思えなかった。
まだまだ温かいハンバーグなのに……どこか冷たく感じた。
「……」
パンを食べても、レタスを食べても、ハンバーグを食べても……どこか味気なかった。
……………………
「おてて冷たーい!」
ごはんも食べ終わりおなかいっぱいになったので、アメリは食器や調理器具を洗っていた。
いつもお皿洗いはユウロお兄ちゃんと、たまに量が多い時はサマリお姉ちゃんがやっていたから、アメリは洗いものにはなれてなかった。
それでも何度かはやったこともあるし、見ていたこともあるのでなんとかお皿洗いは出来た。
「うー、おふろ入って温まろうっ!」
一人分の食器だけ洗えばいいとはいえ、それでも一人でやるのは初めてだったから大変だった。
おかげで手が冷たくてちょっといたかった……けど、毎日これをユウロお兄ちゃんがやっていたんだと思うと、なんだか申し訳なくなってくる。
でも、そう思っていても、もうかんしゃする相手はここにいない。
「おふろおふろっと……」
手を温めるためにも、アメリはそのままおふろに入ることにした。
扉を開けて中に入ると……やっぱりそこも広く感じた。
「そういえば二日前はここでサマリお姉ちゃんとちょっとエッチなことしたっけ……」
サマリお姉ちゃんを始め、プロメお姉ちゃんやリンゴお姉ちゃんやカリンお姉ちゃんやスズお姉ちゃんやフランやセレンお姉ちゃんたちといっしょに入っていたおふろも、一人だとやっぱり大きい。
今までの旅の中おふろであったこと……主にサマリお姉ちゃんの暴走やオナニーなんかを思い出しながらも、アメリはシャワーを浴びて身体を洗う。
「ふぅ……」
ごしごしとかみの毛や身体を念入りに洗う。
翼の裏なんかは良く洗い落とすことが多くてサマリお姉ちゃんに洗ってもらってたっけ……なんて思いながら、体の隅々までよく洗う。
「はぁ〜……♪」
身体中の泡を流して、これまた広い浴槽につかる。
あっという間に身体がぽかぽかとしてきた……とっても気持ちいい。
「ん……?」
一人で静かに入っていると、ぽたぽたと水の落ちる音やちゃぷちゃぷと水が波打つ音なんかがけっこう聞こえてくる。
いつもはしゃべっていたから気付かなかったけど……こういうのもたまにはいいものだ。
「そろそろ出ようっと」
身体も十分温まったから、アメリはお風呂から出ることにした。
「ふぁふ……そろそろ眠くなってきたな〜」
身体をタオルでごしごし拭いて、ねまきに着替える。
そしておふろ場を出て、明日の朝ごはんの用意をし始める。
さっき作ったハンバーグを使ったハンバーガーにしようと思って、パンを切ったりしておく。
こうすればあとはハンバーグを焼くだけになるから、朝の早起きが苦手なアメリでもすぐ作って食べられるだろう。
「……これでやることないしもうねよ……」
明日の朝ごはんの準備も終わったので、アメリはもうねることにした。
いつもならおふろ上がりはサマリお姉ちゃんたちとお話したり遊んだりしていたんだけど、今日はもうお話する相手はだれもいないし、コマとかで遊ぶ気分にもなれない。
そうすると他にすることは何一つないし、ちょっとは眠いからベッドに入って横になっていればいつかはねているだろうと思って、アメリはいつも使っているベッドに入った。
「……」
お布団を被って、目をちゃんと閉じて横になってみたものの、おふろ上がりの時に感じていた眠気がどこかに行ってしまっていた。
ワーシープさんの毛皮を使った布団に包まれているのに……どうも落ち着かなくて眠れない……
一番暖かなワーシープウールが……いつも抱きついていた相手がいないから、落ち着かない。
「はぁ……」
今日だけで何回目かわからない溜息を吐きながら、アメリは目を開けて天井を見上げた。
窓からかすかに見える月明かりが、暗いテントの中を照らしている。
テントの中で独りぼっちのアメリを、いつもと変わらず照らしていた。
「……うぅ……」
暗い中で孤独を感じていたら……欠伸で出ちゃうものとはちがう涙が……アメリの目からあふれ出てきた。
これからずっと一人でねるから、このさみしさもなれないといけないって思っても……いや、思えば思うほど、涙があふれ返ってしまう。
「うぅ……ぐす……ひっく……」
さみしくてあふれ出る涙は止まらない……
いくらガマンしようとしても止められない……
どうにかしてさみしい気持ちを抑えようとしても、なかなかむずかしい。
いくら泣いていても、だれかが来てくれるわけじゃない。
そう思うと、余計さみしくなって……余計涙が出てくる。
「ぐす……そうだ……」
そんな時、ふと思い出した物があった。
アメリはそれを取りに行くために、流れる涙を袖で拭いてお布団から抜け出した。
「あった……」
アメリが手に取った物……それは、フランといっしょにサマリお姉ちゃんに買ってもらったウサギのぬいぐるみだ。
フランがおうちに帰る時にアメリのと交換した、フランとの親友の証のぬいぐるみ……気のせいであっても、ギュッと抱きしめるとフランが近くに居てくれる感じがした。
「……」
ぬいぐるみを抱きしめたままお布団に入り、再び目を閉じて横になる。
「…………」
これでもやっぱりさみしいけれど、ちょっとだけさみしさが減ってくれた。
だから、そう時間が掛からないうちにアメリは眠ることができたのだった……
…………
………
……
…
「……ごちそーさまー……」
朝はやっぱり早く起きられなかったので、そろそろ10時ぐらいになるって時に朝ごはんを食べ終わった。
起きた時にだれもいなくて沈んだ心のままごはんを食べたからか、おいしいはずなのにやっぱりあまりおいしく感じない。
「はぁ……じゃあ出発しよっと」
片づけをさっさと済ませたので、アメリはテントから出てお姉ちゃんのいる町を目指して歩くことにした。
早くお姉ちゃんに会いたいって気持ちもあるけど……なによりこんなに広いテントに居るとさみしさがずっとおそってくるので、すぐにでも出たかった。
「よいしょっと……何日くらいで着くかなぁ……」
テントを出てきちんと畳んでカバンにしまったあと、地図を確認しながら歩き始めた。
迷子になって変な所に迷い込んでも大変なので、きちんと確認しながら進む。
いつもはアメリ以外のだれかが見てくれていたけど……今はアメリしか居ないんだから、きちんと地図を見ながら進まなければ。
「昨日も思ったけどきれいな川だなぁ……」
しばらくは川沿いに進んでいればいいみたいだから、さらさらと流れる川を見ながら歩く。
時々小さなお魚さんが泳いでいるのが見える……なんとも気持ちよさそうだ。
「そういえば今日のお昼ごはんはどうしようかな……」
いつもはサマリお姉ちゃんが作ってくれていたり、町で売っているものを買って食べたりしていたのだが……サマリお姉ちゃんはもういないし、町も近くにない。
だからお昼ごはんは作っておかなければいけなかったのにすっかり忘れていた……また出すのもちょっと面倒だけど、テントに入って作るしかないだろう。
「はぁ……だれかいないかなぁ……」
整備されていない場所だからかあまり人影は見当たらない。
魔物ならいるかなと思ったけど、それらしき気配や魔力は感じない。
まあ、川にすむ魔物が住むには浅すぎる川だし、野原で遊ぶことはあっても住んでいる魔物はそういないだろう。
「なんだかなあ……」
昨日からため息といっしょでやけに独り言が多いなと思いながらも、独り言を言うのを止められない。
今もだれかいないか探しているぐらいだ……やっぱり一人はさみしい。
でも……一人で旅立つのはまちがってなかったと思う。
サマリお姉ちゃんたちが幸せになってくれるのなら……アメリがさみしくてもしょうがない。
「そうだ……こういう時は歌おう!」
だから……アメリはさみしさを紛らわすために、大きな声で歌いながらお姉ちゃんのもとへ歩き続けたのだった。
……………………
「らーららー♪」
太陽が段々と落ちていくお昼過ぎ。
しばらく川沿いを歌いながら歩いていたら何かの歩く音がしてきた。
なんだろうと思っていたら魔界豚に乗りながら偶然通りかかったゴブリンのお姉ちゃんで、商売をやってたからちょうどいいやと思って食べ物を買った。
アメリはそれを食べて、おなかいっぱいのままぐんぐんと進んでいた。
「それにしてもあのゴブリンのお姉ちゃんが乗っていた魔界豚さんはとっても大きかったな〜」
久々に魔界豚さんと遊べたから楽しくなっちゃて、アメリは気分がよかった。
大きな声で歌いスキップしながら進んでいたらあっという間に川沿いは終わって、今は森林の近くにある高原を歩いていた。
「るーるるーん♪」
ぽかぽかした陽射しと、ふわっとかみを撫でる風が心地いい。
ルンルン気分で足を運んでいた……その時だった。
「誰か助けてー!!」
「るんるるー……ん?」
森林の中から、誰かの声が聞こえてきた。
聞きまちがえじゃなかったら……助けてって言ってた気がする。
「待てっ!逃さねえぞ!!」
「わあ〜!!助けてえええっ!!」
やっぱりだれかがおそわれてて、必死に逃げているようだった。
声からして追っているほうは男の人、逃げてるのは女の人だ……
しかも男の人のほうは少し怖い感じだし、女の人はおびえているみたいだから……もしかして……
「うわあっ!!」
「だ、大丈夫お姉ちゃん?」
「うえ?あ、君!早く逃げたほうが良いよ!!」
なんていろいろと考えているうちにいつの間にか声は近くなっていて……女の人が森林から飛び出してきた。
その女の人は……やっぱり魔物だった。
必死に逃げていたのは、狐の尻尾が一本だけ生えた妖狐のお姉ちゃんだった。
「逃さないと言ってるだ……増えただと?」
「わわっ!!この人相当強い勇者だから早く逃げるよ!!」
そして追っていた男の人は……やっぱり勇者だった。
おそらく親魔物領まで単身で乗り込んで魔物を見境なくおそっているのだろう。
教団のマークが入ったよろいを着て、それでも速く走れるように細工された靴をはいていたようだ……
「妖狐のお姉ちゃんは先に逃げてて。アメリが食い止めるから!」
「え、でも……」
「大丈夫!アメリは飛んで逃げられるから。お姉ちゃんが逃げ切るまで足止めしておいてあげる!!」
見たところ空を飛ぶための物は身に着けてないし、アメリはすぐに逃げられるだろう。
でも妖狐のお姉ちゃんはすぐに追いつかれて、勇者さんが持っている大きな剣で斬られてしまうかもしれない。
だから、アメリが足止めしてあげることにした。
「ち……ガキのサキュバス如きが嘗めやがって……」
「む……アメリサキュバスじゃなくてリリムだもん!!」
またアメリまちがえられた……
アークインプさんとならまだわからないでもないけど、それ以外とまちがえられるのはちょっと心外だ。
この姿はどう考えたってリリム以外ないと思うのに……サマリお姉ちゃんみたいな反魔物領の普通の人ならともかく、勇者さんならわかると思うのに……
「リリムか……それは気を引きしめないとな……」
アメリが言ったことできちんとわかってくれたみたい……だけど、気を引きしめちゃったせいで隙がなくなってしまった。
以前にも簡単に自分の種族を言わないほうがいい時もあるってユウロお兄ちゃんに怒られたこともあったっけ……でもまちがえられたままなのは気分がよくないから仕方ない。
「えっと……じゃあお願いね!」
「うん、任せて!!」
でも、それでアメリには止められると思った妖狐さんが逃げてくれたので、この場合は良かったとしよう。
「まあだがしかしリリムと言えど子供ならたいした事もないな……」
「むぅ……たしかに子供だけどアメリにはこのペンダントが……?」
気を抜くと今すぐにでもおそってきそうだったから、あのペンダントに魔力を集中させ……ようとしたら、何か違和感を感じた。
「ペンダント?俺にはそんなものしているように見えないが……」
「あ……そうだ、リュックの中だった……」
よく考えたらここらは安全だろうからって首から外してあったんだった。
一応テントの中じゃなくてリュックの中に入っているから取り出せばいいだけなんだけど……それまで待ってくれる自信がない。
「えっと……ちょっと待って……」
「待つかよ!」
「うわあっ!?アメリのリュックが〜!!」
それでもペンダントがあったほうが圧倒的に有利になるから取り出そうとして……やっぱり待ってくれずにアメリのリュックを剣で弾き飛ばされてしまった。
「じゃあ死ね!」
「わわっ!『エレクトリックディスチャージ』!」
「ぐあっ!」
そのままアメリを頭からバッサリ切ろうとしてきたから、慌てて放電魔術を使ってよけた。
一応これでも成長してるし、魔力の絶対量も上がってるはずだけど……最近は魔術をずっと使ってなかったし、使ったとしてもペンダントを通していたから一気に魔力が減っていく感じがした。
「やりやがったなクソ……そっちが魔術ならこっちも魔術だ……『ムーブシーリング』」
「え……しまっ……!?」
それでも、もう少し抵抗してから逃げきれる程度の魔力ぐらいは残っている……そう思っていたら、身体の動きを封じられる封印魔術を使われてしまった。
まさかそんな物が使えるとは思っていなかったから完全に油断してたアメリは、見事にかかってしまい動けなくなってしまった。
「はぁ……これ使うとかなり疲れるから使いたくなかったが……短期で決着つけねえと危なそうだからな……」
「くっ……動いて!」
「無駄だ!俺が気絶するか上位の治癒魔術でも使わない限り解除なんかされねえよ」
「なら……『ロックスライド』!」
「うおっと。小さくてもリリムって事か。こんな上位の魔術を使えるなんてな……だが、当たらなければ意味はないんだよ」
ちゆ魔術が使えないアメリでは魔術による解除はムリだ。
かといってこの勇者さんを気絶させられるかと言ったら……今かなり魔力を使う大型のものを使ったのに軽々とよけられてしまったからそれもムリだろう。
まさに……絶体絶命というものみたいだ。
「という事で死にな。人類の為にな!!」
「っ!!」
動かない身体……頭上から振り下ろされる剣……
今のアメリに、これをよける方法は一切無い……
もうダメだ……アメリはここで死んじゃうんだと……怖くなってアメリは目をつむった。
結局、お姉ちゃん全員に会えないまま……アメリは一人ぼっちで死んでいく……
そう、たった一人で……ここで死んでしまうんだ……
「…………?」
……なんて思ってたのに、いつまでたってもアメリの頭に剣は振り下ろされなかった。
頭どころか、どこにも斬られるようなことはされていない。
不思議に思って、おそるおそる目を開けてみると……
「ぐあっ……!」
「え……!?」
勇者さんの手に何かが飛んできて……剣を弾き飛ばしていた。
「あ……これって……」
その何かは……木でできた剣だった。
しかも……アメリがよく見たことのある木刀だった。
「クソ……お前何すっっ!!」
「どーん!」
「ぐほっ!!」
その木刀の持ち主は……かんぱつ入れずに勇者さんにとびげりした。
「まったく……やっと追いついたと思ったら何殺されそうになってるんだよアメリちゃん。俺の時のようにちゃんと逃げないと駄目だろ?」
「ユウロ……お兄ちゃん?」
そう……絶対いないはずのユウロお兄ちゃんが、アメリの目の前で勇者さんをけり飛ばしていた。
「いってえ……何者だお前?勇者が魔物を退治する邪魔をしようって言うのか?」
「おう、その通りだ。ものわかり良くて助かるよっと」
そのまま投げた木刀を拾って、勇者さんにこうげきを始めた。
「お前そのリリムの関係者か何かって事か?」
「そうさ。大事な旅仲間だよ!」
勇者さんのこうげきを木刀で流し、森林の方へ下がっていくユウロお兄ちゃん。
押されてたり逃げたりしているというよりは、アメリから遠ざけているように見える。ユウロお兄ちゃんならそれくらいできてもおかしくはない。
「旅仲間?お前このガキリリムと旅してるのか?」
「ああそうさ。俺はアメリちゃんと旅してる……」
そのまま森林の近くに行ったと思ったら、思いっきり踏み込んでなぐりかかったユウロお兄ちゃん。
防御から一転したこうげきだったけど、ギリギリかわされてしまい、今度はこうげきに回って勇者さんを森林に追いつめていた。
そしてその森林の方には……白くてもこもこしたものが少しだけ見えた。
そう……とても安心できる、ワーシープの毛皮が……
「……アメリちゃんだけじゃなくて恋人とも一緒にな!」
「喰らえ!もこもこホールド!!」
「んなっ!?ワーシープだ……と……」
ユウロお兄ちゃんが森林と高原の境目まで勇者さんを追い詰めたところで、森から出てきたワーシープは……やっぱりサマリお姉ちゃんだった。
後ろからもこもこの毛を勇者さんに押し付けて眠らせるつもりのようだ……いきなりのサマリお姉ちゃんの登場で、勇者さんは慌てふためいている。
「おまけにもこもこインパクト!」
「ぶわっ……あ……くっそ……ぅ…………ぐぅ……」
そして、ワーシープの毛の塊を顔に押し付けられて……あっという間に眠ってしまった。
「はいオッケー。もう離れていいぞ」
「本当に?じゃあ離れようっと……ユウロ以外の男の人とはなるべくくっつきたくないって思っちゃうんだよね。よくて一緒に旅したツバキぐらい?」
「嬉しいっちゃ嬉しいけど恥ずかしい事言ってくれるじゃねえか……」
別れたはずの二人が、何故かアメリを助けてくれた。
おかげで助かったけど……どうしてここにいるのだろうか?
「おっと。今はそんな事よりアメリちゃんの無事を確認しないと」
「あ、そうだった。アメリちゃん大丈夫!?」
「う、うん……一応大丈夫……」
勇者さんが眠ったおかげか、アメリにかかっていた魔術は解けたので動けるようになった。
怪我もたいしてないから大丈夫と言えば大丈夫だけど……それよりも不思議に思っているのが、この二人がここに居ることだった。
「ねえ……なんでお姉ちゃんたちがいるの?」
「なんでって……まあ説明は後だ。とりあえずこの場から急いで離れるぞ。このアホ勇者がいつ起きるかわからないからな」
「話はそれからねアメリちゃん。ほら行くよ!」
「う、うん……」
どうしてか聞こうとしたらそう言われた。
たしかにこのままここで立ち話をしていたら何時この人が起きるかわからない……だからアメリたちは急いでこの場から離れた……
…………
………
……
…
「なんでアメリの場所がわかったの?」
高原を駆け抜けてから、広い場所にテントを張って3人で中に入ったアメリ。
心なしか……テントの中は昨日とちがって大きいと感じない気がした。
「まず宿のサキュバスさんからアメリちゃんがお姉さんの情報を貰ったって聞いたからね。絶対そっちを目指してるだろうなって思って走って追いかけたんだよ」
「あまり寝ずに走ったからな。結構早く追い付けたってわけでさ、丁度アメリちゃんと別れたばっかりだって言うゴブリンに昼過ぎに会ったんだよ」
「どっちに向かったのかって聞いたら教えてくれたからそっちに向かってみたら今度は全力で逃げてる妖狐さんに会ってね。どうやらアメリちゃんが戦ってるらしかったから急いで向かったんだよ」
どうしてアメリがいる場所がわかったのか……まずは一番疑問に思っていたそれについて聞いてみた。
整備されていない道を通ったけどきっちりお姉ちゃんたちは同じような所を通ってきていたらしい……
「じゃあ……なんでアメリのところに来たの?」
どうしてあの場にいたかはわかった。
でも、どうしてアメリを追い掛けてきたのかわからなかったから、今度はそう聞いてみた。
「はぁ……さてと。アメリちゃん、どうしてこんな手紙書いて先に一人で行っちゃったのかな?」
そしたら、大きなため息をつかれながら、アメリが二人にのこしていった手紙をつきつけられた。
「だって……アメリ二人の仲のじゃまになると思ったから……」
「はぁ……まあそうだろうな。この手紙にもそう書いてあるしな」
「うん……」
アメリは逆にサマリお姉ちゃんとユウロお兄ちゃんに、アメリが書いた手紙を見せられながらいろいろと聞かれた。
どうしてこんな手紙を書いたのとかなんで先に一人で行っちゃったのかとか……どうやらちょっと怒ってるみたいで、なんだか怖い。
「だって……二人がラブラブなのに、アメリが間にいたらじゃまでしょ?だから……二人の愛のじゃまにならないように、アメリは一人で旅することにしたんだもん……二人だってアメリがいたらじゃまだって思うでしょ?」
「「……」」
アメリが先に行った理由をしゃべっても、なぜかすごく怖い顔をしてきたお姉ちゃんたち。
頭をおさえながら何かむずかしい顔をしている……アメリ別に変なこと言ったつもりはないけど、何か気にいらなかったのだろうか?
「はぁぁ……あのさあ……アメリちゃん?」
「え、えっと……何?」
ムッとした顔をしているサマリお姉ちゃんが立ち上がって、アメリに近付き……
「アメリちゃんの事邪魔だなんて……思うわけないでしょ?」
「え……あ……」
そっともこもこした胸にアメリを押し付けて……いや、アメリを優しく抱きしめてきた。
「アメリちゃんが邪魔だなんて私達は考えられないよ……ねえユウロ?」
「当たり前だ。俺もサマリもアメリちゃんがいなければ出会わなかったし、俺に至っては旅もしてないんだぞ?アメリちゃんは俺達の出会いにおいて最大の恩人なんだぞ。それにな……」
ユウロお兄ちゃんは、優しくアメリの頭に手を置いて……
「アメリちゃんは、俺らにとって実の妹同然なんだよ」
「そうだよ。そんな妹が一人で行っちゃったら心配で苦しいよ……」
「ユウロお兄ちゃん……サマリお姉ちゃん……」
二人して……アメリのことを、妹だって言ってくれた。
「だからさ、これからもずっと、私達と一緒に旅しようよ。ね?」
「そうだぞアメリちゃん。俺達と一緒にお姉さんに会いに行く旅のついでに世界中を回ろうぜ」
「……うん……」
アメリは……お姉ちゃんたちといっしょに居ても良い……
「世界のおいしいものを一緒に食べようよ」
「……うん……」
「どんな奴が来ても、俺が護ってやるからな」
「……うん……!」
アメリは、お姉ちゃんたちといっしょに旅をしていい……
「お料理も一緒に作っていこうよ。いろいろ教えてあげるからさ」
「また一緒に遊ぼうぜ。独楽でも新しいおもちゃでも遊び方なら教えてあげるからさ」
「……うん……!!」
アメリは、二人といっしょに居ていいんだ。
「うん……うん……!うぅ……うわああああああああああん!!」
「わわっ!?」
「ど、どうしたんだアメリちゃん!?いきなり泣き出して……」
「だって、だって!アメリさみしかったもん!!お姉ちゃんたちといっしょにいちゃダメだからって……でもさみしかったもん!!わあああああん!!」
それが嬉しくて、さみしかったという気持ちも溢れてきて、よくわからなくなって……アメリは大きな声で泣いてしまった。
いろんな感情がドロドロに溶けて……涙になって溢れてきた。
「よしよし……大丈夫だよ。私達はずっと一緒だからね」
「そうそう。もし旅を続けられない状況……まあ……サマリが妊娠したりして俺達がリタイアしたとしても、アメリちゃんを邪険に思う事なんか絶対にないからな。また旅が出来るようになったら絶対一緒に行くからな!」
「うん!うんっ!!ぐすっ……絶対にずっといっしょだよ!!」
「もちろん!」
「ああ!」
涙を流しながらも、アメリたちはずっといっしょに旅をすることを約束したのだった。
「次のお姉さんってどんな人だろうね?」
「やさしいお姉ちゃんだといいなぁ〜」
「まあアメリちゃん相手には優しかったお姉さんしかいないし大丈夫だと思うぞ?それにしても腹減ってきたな……」
「アメリも!なんか泣いたらおなか空いてきちゃった!」
「うーん……夜ご飯まではまだ時間あるし……じゃあおやつにプチケーキでも作ろうか」
「わーい!アメリも手伝う!」
「俺もそれなら手伝えるぜ!皆で作るぞ!」
「「おーっ」」
テントの中でアメリ以外の声がひびく……
とてもあたたかく……楽しい声が。
「そういえばアメリちゃん。私達がいない間ご飯はどうしてたの?」
「えっとね。ハンバーグ作って食べた」
「おー凄いじゃないか!今度作って俺達にも食べさせてよ!」
「アメリちゃんの手料理か〜。私も食べてみたいかも」
「いいよ!アメリのうではサマリお姉ちゃんのおかげであがってるからね!!」
いつまでも……そう、いつまでも、ずっと…………
アメリたちの旅は……ずっと続くよ、どこまでも!!
広がる青い空に、ちょっとずつ西にかたむき始めた太陽。
ドイコサルアで新たなお姉ちゃんの居場所を聞けたアメリたちは、早速その町に向かって旅をしていた。
お姉ちゃんは北にずっと進んだところにある町にいるって聞いたから、町を出た後はコンパスできちんと確認しながらずっと北に向かって歩き続けていた。
その途中、いろんな形や色のお花が咲いている野原……お花畑があらわれた。
「見たことないお花ばかりだ〜♪」
なんだか楽しくなってきたから、色とりどりのお花の中を駆け回る。
今日は風もあるから綿毛がふわふわと、まるでケサランパサランさんみたいにお空を飛びまわっている。
アメリが近くを通ると、お花のみつを吸っていた蝶々さんがひらひらと飛んで行く。
ごはんのじゃましちゃってごめんねって思いながらも、アメリはわくわくした気持ちをそのままに両手を広げながら走っていた。
「わわっ!あ……わあ〜!!」
風が少し強く吹いて、花びらもまい上がる。
赤に黄色に紫に、白にオレンジにピンク色と、いろんなお花が宙をまう。
太陽の光をまといながら縦横無尽にひらひらとまうお花が、とってもきれいだった。
「ねえねえサマリお姉ちゃんたち!あれ……」
このきれいな光景を見ていないかもしれないからと、サマリお姉ちゃんたちに教えてあげようとして振り向いたら……
「あ……そっか……」
そこには……サマリお姉ちゃんも、ユウロお兄ちゃんもいなかった。
「アメリ、一人だったんだっけ……」
それもそうだ。
アメリが一人、先に宿を出て旅をしているんだから、いるわけがなかった。
「しっかりしなきゃな……」
ようやく結ばれたサマリお姉ちゃんとユウロお姉ちゃん。
そんな二人のじゃまにならないように、アメリは一人でお姉ちゃん探しの旅を続けることにしたのだった。
お姉ちゃん探しは元々アメリの目的だ。なにも二人を巻き込むことはない。
今までは世界を回るついでにとついて来てくれていたけれど……二人が恋人になった今、いつまでもアメリにつきあわせちゃだめだ。
「さて、行こっかな……」
二人がいっしょになったらアメリはじゃまにならないように消える……けっこう前にサマリお姉ちゃんがユウロお兄ちゃんにほれてそうな様子を見せていた時からずっと決めていたことだ。
もし二人が恋人にならなかったらずっといっしょにいられたけど……恋人になったからアメリはいっしょにはいられない。
だからアメリは今日の朝、早起きして二人からまるで逃げるように飛んで移動して、こうして一人で旅をしていたのだった。
「はぁ……」
自分で旅立ったのだけど、ずっと二人といっしょだったからかやっぱりさみしく感じてしまう。
いつもしゃべっていた話し声も、いつも聞こえていた足音も、いつも感じていた温もりも、今は何一つないのだから。
「……」
たった一人の旅……ベリリお姉ちゃんがいなくなってからサマリお姉ちゃんと会うまでもしていたけど、その時以上にさみしい。
あれからずっと一人じゃなかったから……今までいた他の人の気配が、今日になって急に感じられなくなったからだろう。
でも、たぶんこれからはずっと一人での旅になるから、早くなれないといけない。
「今日は風がすずしいなぁ……」
野原に吹き抜ける風が、お花畑を見つけた時よりも冷たく感じた……
…………
………
……
…
「……」
しばらくは緑の映える草原をとぼとぼと歩いていたけど、いつしか夕方になって、夕日を反射してキラキラと輝いていた川を見ていたらお外も真っ暗になったから、アメリはテントを張ってその中に入った。
「やっぱり静かだなぁ……」
今までアメリのテントに入ったことある人はほとんど皆大きいとか広いとか言っていたけど、アメリにはわからなかった。
でも……こうして一人でいると、たしかに大きいし広く感じる……テーブルも大きいし、イスやベッドの数も多いことが余計にそう感じてしまうのかもしれない。
ぐうぅぅぅぅ……
「……おなか空いたなぁ……」
アメリのおなかが大きな音を立てた。
だれにも聞かれることはないけど、テント内にひびいた音を聞いただけでも少し恥ずかしい。
今日は朝から飛んでたし、疲れもあってとってもおなかが空いていた。
お昼ごはんは今朝ドイコサルアで買ったパンを食べたけど、それはもうないから夜ごはんは自分で作らないといけない。
「何作ろうかなー」
今ある食材を見て、夜ごはんはどうしようかなと悩む。
ドイコサルアで色々と買い込んで食材だけはやたらとそろっているから、中々パッと決められない。
今までサマリお姉ちゃんのお料理を手伝ってきたからある程度の物は作れるけど……時間のかかるものはおなかが空いたのでさけたい。
「あー、ハンバーグにしようかな……」
アメリが手に取ったのは、サマリお姉ちゃんにほしいと言って買ってもらったひき肉だった。
ハンバーグはアメリが初めてサマリお姉ちゃんのお手伝いをした時の料理だ……それからも何度か作っているから、ハンバーグならもうほとんどカンペキに作れる。
「タマネギどこかな……あ、あった。そうだチーズも入れちゃお」
材料を全部集めて、まずはタマネギをみじん切りにする。
最初は危ないからって使わせてくれなかった包丁も、いつしか教えてくれるようになって、今じゃトントンと手際よく切ることも出来るようになった。
「よいしょっと……キッチンもうちょっと低ければ楽なのになぁ……」
切ったタマネギをフライパンに入れて、半透明になるまで炒める。
包丁と同じような時に炒めることも教えてもらった。
最初は焦がしちゃったりしたこともあったけど、今はもう火加減はカンペキにわかる。
「まあ、アメリがもうちょっと大きくなるまでの辛抱かな……」
炒めたタマネギに卵、塩コショウ、パン粉をボウルに入れてかき混ぜ、ひき肉を更にその中に投入してこねる。
初めての時はこのこねる作業を手伝ったんだっけ……アメリが上手にこねたからおいしくなったんだよってサマリお姉ちゃんが言ってくれてうれしかったなぁ……
「んしょ……よいしょ……っと。このぐらいでいいかな?」
手早くこね終えたあと、2つに分けて丸く形を整える。そしてとろけるチーズもこの時にお肉の真ん中に入れておく。
量を多くして作っちゃったので片方は明日の朝ごはん用だ……アメリは早起きが苦手だから今の内にある程度作っておかないとごはんの前に空腹でそれどころじゃなくなっちゃうかもしれないからね。
「片方はしまって……じゃあ焼こうっと」
形を整えたハンバーグの一つをフライパンに置いて火をつけて焼き始める。
ジューっという音と共にお肉の焼けるいい匂いが漂ってきた。自分で言うのもなんだけどおいしそうだ。
「おおっ!上手に焼けてる〜♪」
焦げ目がついてきたのでひっくり返してさらに焼き……チーズインハンバーグの完成っと。
丁度いい具合に焦げ目もついている……初めて全部自分一人で作ったけど、なかなかの出来だ。
「早速食べようっと」
焼いたハンバーグをレタスをしいたお皿に乗っけて、適当なパン、それとケチャップといっしょに机に運ぶ。
「……」
机に並べられた、たった一人分のごはん。
大きな机に8人分のイスがある場所で並べられた一人分のごはんは……なんだかさみしく感じる。
「はぁ……」
テント内はきちんと明るくなっているのに、どこか暗く感じる……広い中で一人でさみしいから、そう感じるのかもしれない。
ごはんを作っていた時は気にならなかったけど……作り終わって部屋を見渡してしまったせいだろう。またさみしい気持ちがよみがえってきてしまった。
「サマリお姉ちゃんとユウロお兄ちゃんがいたらな……」
二人がいたらいいなって、つい口に出してしまった。
でも、ようやく幸せになれたお姉ちゃんたちの間に割り込むのは良くないから……こればかりは言っても仕方がない。
「まあいくらさみしくてもどうしようもないよね……いきなりお姉ちゃんたちが現れるわけもないんだから……」
それでも、今ここに現れてくれたら……なんて思う自分もいる。
だがいくら思っても現れるはずが無い……アメリがどこに向かっているか知らないはずだし、そもそもこのテントは近くで立ててるところを見たりアメリが案内したりしない限りここにあるのは気付かないから、もし近くに居てもわからないのだから。
「ごはん食べよ……」
さみしさを抱いたまま、折角温かいハンバーグが冷めるとおいしさが減ってしまうので、アメリはごはんを食べることにした。
「うん、おいしい」
ナイフで一口サイズに切って、フォークで口に運ぶ……とろっとしたチーズが伸びて、口の中でとろける。
かむと温かい肉汁がじわっと出てくるし、きちんと中まで火が通っている。
サマリお姉ちゃんが作ったハンバーグには敵わないけど、それでもかなりおいしいと言えるだろう。
「……うん、おいしい……」
でも……なぜだか、心の底からおいしいって思えなかった。
まだまだ温かいハンバーグなのに……どこか冷たく感じた。
「……」
パンを食べても、レタスを食べても、ハンバーグを食べても……どこか味気なかった。
……………………
「おてて冷たーい!」
ごはんも食べ終わりおなかいっぱいになったので、アメリは食器や調理器具を洗っていた。
いつもお皿洗いはユウロお兄ちゃんと、たまに量が多い時はサマリお姉ちゃんがやっていたから、アメリは洗いものにはなれてなかった。
それでも何度かはやったこともあるし、見ていたこともあるのでなんとかお皿洗いは出来た。
「うー、おふろ入って温まろうっ!」
一人分の食器だけ洗えばいいとはいえ、それでも一人でやるのは初めてだったから大変だった。
おかげで手が冷たくてちょっといたかった……けど、毎日これをユウロお兄ちゃんがやっていたんだと思うと、なんだか申し訳なくなってくる。
でも、そう思っていても、もうかんしゃする相手はここにいない。
「おふろおふろっと……」
手を温めるためにも、アメリはそのままおふろに入ることにした。
扉を開けて中に入ると……やっぱりそこも広く感じた。
「そういえば二日前はここでサマリお姉ちゃんとちょっとエッチなことしたっけ……」
サマリお姉ちゃんを始め、プロメお姉ちゃんやリンゴお姉ちゃんやカリンお姉ちゃんやスズお姉ちゃんやフランやセレンお姉ちゃんたちといっしょに入っていたおふろも、一人だとやっぱり大きい。
今までの旅の中おふろであったこと……主にサマリお姉ちゃんの暴走やオナニーなんかを思い出しながらも、アメリはシャワーを浴びて身体を洗う。
「ふぅ……」
ごしごしとかみの毛や身体を念入りに洗う。
翼の裏なんかは良く洗い落とすことが多くてサマリお姉ちゃんに洗ってもらってたっけ……なんて思いながら、体の隅々までよく洗う。
「はぁ〜……♪」
身体中の泡を流して、これまた広い浴槽につかる。
あっという間に身体がぽかぽかとしてきた……とっても気持ちいい。
「ん……?」
一人で静かに入っていると、ぽたぽたと水の落ちる音やちゃぷちゃぷと水が波打つ音なんかがけっこう聞こえてくる。
いつもはしゃべっていたから気付かなかったけど……こういうのもたまにはいいものだ。
「そろそろ出ようっと」
身体も十分温まったから、アメリはお風呂から出ることにした。
「ふぁふ……そろそろ眠くなってきたな〜」
身体をタオルでごしごし拭いて、ねまきに着替える。
そしておふろ場を出て、明日の朝ごはんの用意をし始める。
さっき作ったハンバーグを使ったハンバーガーにしようと思って、パンを切ったりしておく。
こうすればあとはハンバーグを焼くだけになるから、朝の早起きが苦手なアメリでもすぐ作って食べられるだろう。
「……これでやることないしもうねよ……」
明日の朝ごはんの準備も終わったので、アメリはもうねることにした。
いつもならおふろ上がりはサマリお姉ちゃんたちとお話したり遊んだりしていたんだけど、今日はもうお話する相手はだれもいないし、コマとかで遊ぶ気分にもなれない。
そうすると他にすることは何一つないし、ちょっとは眠いからベッドに入って横になっていればいつかはねているだろうと思って、アメリはいつも使っているベッドに入った。
「……」
お布団を被って、目をちゃんと閉じて横になってみたものの、おふろ上がりの時に感じていた眠気がどこかに行ってしまっていた。
ワーシープさんの毛皮を使った布団に包まれているのに……どうも落ち着かなくて眠れない……
一番暖かなワーシープウールが……いつも抱きついていた相手がいないから、落ち着かない。
「はぁ……」
今日だけで何回目かわからない溜息を吐きながら、アメリは目を開けて天井を見上げた。
窓からかすかに見える月明かりが、暗いテントの中を照らしている。
テントの中で独りぼっちのアメリを、いつもと変わらず照らしていた。
「……うぅ……」
暗い中で孤独を感じていたら……欠伸で出ちゃうものとはちがう涙が……アメリの目からあふれ出てきた。
これからずっと一人でねるから、このさみしさもなれないといけないって思っても……いや、思えば思うほど、涙があふれ返ってしまう。
「うぅ……ぐす……ひっく……」
さみしくてあふれ出る涙は止まらない……
いくらガマンしようとしても止められない……
どうにかしてさみしい気持ちを抑えようとしても、なかなかむずかしい。
いくら泣いていても、だれかが来てくれるわけじゃない。
そう思うと、余計さみしくなって……余計涙が出てくる。
「ぐす……そうだ……」
そんな時、ふと思い出した物があった。
アメリはそれを取りに行くために、流れる涙を袖で拭いてお布団から抜け出した。
「あった……」
アメリが手に取った物……それは、フランといっしょにサマリお姉ちゃんに買ってもらったウサギのぬいぐるみだ。
フランがおうちに帰る時にアメリのと交換した、フランとの親友の証のぬいぐるみ……気のせいであっても、ギュッと抱きしめるとフランが近くに居てくれる感じがした。
「……」
ぬいぐるみを抱きしめたままお布団に入り、再び目を閉じて横になる。
「…………」
これでもやっぱりさみしいけれど、ちょっとだけさみしさが減ってくれた。
だから、そう時間が掛からないうちにアメリは眠ることができたのだった……
…………
………
……
…
「……ごちそーさまー……」
朝はやっぱり早く起きられなかったので、そろそろ10時ぐらいになるって時に朝ごはんを食べ終わった。
起きた時にだれもいなくて沈んだ心のままごはんを食べたからか、おいしいはずなのにやっぱりあまりおいしく感じない。
「はぁ……じゃあ出発しよっと」
片づけをさっさと済ませたので、アメリはテントから出てお姉ちゃんのいる町を目指して歩くことにした。
早くお姉ちゃんに会いたいって気持ちもあるけど……なによりこんなに広いテントに居るとさみしさがずっとおそってくるので、すぐにでも出たかった。
「よいしょっと……何日くらいで着くかなぁ……」
テントを出てきちんと畳んでカバンにしまったあと、地図を確認しながら歩き始めた。
迷子になって変な所に迷い込んでも大変なので、きちんと確認しながら進む。
いつもはアメリ以外のだれかが見てくれていたけど……今はアメリしか居ないんだから、きちんと地図を見ながら進まなければ。
「昨日も思ったけどきれいな川だなぁ……」
しばらくは川沿いに進んでいればいいみたいだから、さらさらと流れる川を見ながら歩く。
時々小さなお魚さんが泳いでいるのが見える……なんとも気持ちよさそうだ。
「そういえば今日のお昼ごはんはどうしようかな……」
いつもはサマリお姉ちゃんが作ってくれていたり、町で売っているものを買って食べたりしていたのだが……サマリお姉ちゃんはもういないし、町も近くにない。
だからお昼ごはんは作っておかなければいけなかったのにすっかり忘れていた……また出すのもちょっと面倒だけど、テントに入って作るしかないだろう。
「はぁ……だれかいないかなぁ……」
整備されていない場所だからかあまり人影は見当たらない。
魔物ならいるかなと思ったけど、それらしき気配や魔力は感じない。
まあ、川にすむ魔物が住むには浅すぎる川だし、野原で遊ぶことはあっても住んでいる魔物はそういないだろう。
「なんだかなあ……」
昨日からため息といっしょでやけに独り言が多いなと思いながらも、独り言を言うのを止められない。
今もだれかいないか探しているぐらいだ……やっぱり一人はさみしい。
でも……一人で旅立つのはまちがってなかったと思う。
サマリお姉ちゃんたちが幸せになってくれるのなら……アメリがさみしくてもしょうがない。
「そうだ……こういう時は歌おう!」
だから……アメリはさみしさを紛らわすために、大きな声で歌いながらお姉ちゃんのもとへ歩き続けたのだった。
……………………
「らーららー♪」
太陽が段々と落ちていくお昼過ぎ。
しばらく川沿いを歌いながら歩いていたら何かの歩く音がしてきた。
なんだろうと思っていたら魔界豚に乗りながら偶然通りかかったゴブリンのお姉ちゃんで、商売をやってたからちょうどいいやと思って食べ物を買った。
アメリはそれを食べて、おなかいっぱいのままぐんぐんと進んでいた。
「それにしてもあのゴブリンのお姉ちゃんが乗っていた魔界豚さんはとっても大きかったな〜」
久々に魔界豚さんと遊べたから楽しくなっちゃて、アメリは気分がよかった。
大きな声で歌いスキップしながら進んでいたらあっという間に川沿いは終わって、今は森林の近くにある高原を歩いていた。
「るーるるーん♪」
ぽかぽかした陽射しと、ふわっとかみを撫でる風が心地いい。
ルンルン気分で足を運んでいた……その時だった。
「誰か助けてー!!」
「るんるるー……ん?」
森林の中から、誰かの声が聞こえてきた。
聞きまちがえじゃなかったら……助けてって言ってた気がする。
「待てっ!逃さねえぞ!!」
「わあ〜!!助けてえええっ!!」
やっぱりだれかがおそわれてて、必死に逃げているようだった。
声からして追っているほうは男の人、逃げてるのは女の人だ……
しかも男の人のほうは少し怖い感じだし、女の人はおびえているみたいだから……もしかして……
「うわあっ!!」
「だ、大丈夫お姉ちゃん?」
「うえ?あ、君!早く逃げたほうが良いよ!!」
なんていろいろと考えているうちにいつの間にか声は近くなっていて……女の人が森林から飛び出してきた。
その女の人は……やっぱり魔物だった。
必死に逃げていたのは、狐の尻尾が一本だけ生えた妖狐のお姉ちゃんだった。
「逃さないと言ってるだ……増えただと?」
「わわっ!!この人相当強い勇者だから早く逃げるよ!!」
そして追っていた男の人は……やっぱり勇者だった。
おそらく親魔物領まで単身で乗り込んで魔物を見境なくおそっているのだろう。
教団のマークが入ったよろいを着て、それでも速く走れるように細工された靴をはいていたようだ……
「妖狐のお姉ちゃんは先に逃げてて。アメリが食い止めるから!」
「え、でも……」
「大丈夫!アメリは飛んで逃げられるから。お姉ちゃんが逃げ切るまで足止めしておいてあげる!!」
見たところ空を飛ぶための物は身に着けてないし、アメリはすぐに逃げられるだろう。
でも妖狐のお姉ちゃんはすぐに追いつかれて、勇者さんが持っている大きな剣で斬られてしまうかもしれない。
だから、アメリが足止めしてあげることにした。
「ち……ガキのサキュバス如きが嘗めやがって……」
「む……アメリサキュバスじゃなくてリリムだもん!!」
またアメリまちがえられた……
アークインプさんとならまだわからないでもないけど、それ以外とまちがえられるのはちょっと心外だ。
この姿はどう考えたってリリム以外ないと思うのに……サマリお姉ちゃんみたいな反魔物領の普通の人ならともかく、勇者さんならわかると思うのに……
「リリムか……それは気を引きしめないとな……」
アメリが言ったことできちんとわかってくれたみたい……だけど、気を引きしめちゃったせいで隙がなくなってしまった。
以前にも簡単に自分の種族を言わないほうがいい時もあるってユウロお兄ちゃんに怒られたこともあったっけ……でもまちがえられたままなのは気分がよくないから仕方ない。
「えっと……じゃあお願いね!」
「うん、任せて!!」
でも、それでアメリには止められると思った妖狐さんが逃げてくれたので、この場合は良かったとしよう。
「まあだがしかしリリムと言えど子供ならたいした事もないな……」
「むぅ……たしかに子供だけどアメリにはこのペンダントが……?」
気を抜くと今すぐにでもおそってきそうだったから、あのペンダントに魔力を集中させ……ようとしたら、何か違和感を感じた。
「ペンダント?俺にはそんなものしているように見えないが……」
「あ……そうだ、リュックの中だった……」
よく考えたらここらは安全だろうからって首から外してあったんだった。
一応テントの中じゃなくてリュックの中に入っているから取り出せばいいだけなんだけど……それまで待ってくれる自信がない。
「えっと……ちょっと待って……」
「待つかよ!」
「うわあっ!?アメリのリュックが〜!!」
それでもペンダントがあったほうが圧倒的に有利になるから取り出そうとして……やっぱり待ってくれずにアメリのリュックを剣で弾き飛ばされてしまった。
「じゃあ死ね!」
「わわっ!『エレクトリックディスチャージ』!」
「ぐあっ!」
そのままアメリを頭からバッサリ切ろうとしてきたから、慌てて放電魔術を使ってよけた。
一応これでも成長してるし、魔力の絶対量も上がってるはずだけど……最近は魔術をずっと使ってなかったし、使ったとしてもペンダントを通していたから一気に魔力が減っていく感じがした。
「やりやがったなクソ……そっちが魔術ならこっちも魔術だ……『ムーブシーリング』」
「え……しまっ……!?」
それでも、もう少し抵抗してから逃げきれる程度の魔力ぐらいは残っている……そう思っていたら、身体の動きを封じられる封印魔術を使われてしまった。
まさかそんな物が使えるとは思っていなかったから完全に油断してたアメリは、見事にかかってしまい動けなくなってしまった。
「はぁ……これ使うとかなり疲れるから使いたくなかったが……短期で決着つけねえと危なそうだからな……」
「くっ……動いて!」
「無駄だ!俺が気絶するか上位の治癒魔術でも使わない限り解除なんかされねえよ」
「なら……『ロックスライド』!」
「うおっと。小さくてもリリムって事か。こんな上位の魔術を使えるなんてな……だが、当たらなければ意味はないんだよ」
ちゆ魔術が使えないアメリでは魔術による解除はムリだ。
かといってこの勇者さんを気絶させられるかと言ったら……今かなり魔力を使う大型のものを使ったのに軽々とよけられてしまったからそれもムリだろう。
まさに……絶体絶命というものみたいだ。
「という事で死にな。人類の為にな!!」
「っ!!」
動かない身体……頭上から振り下ろされる剣……
今のアメリに、これをよける方法は一切無い……
もうダメだ……アメリはここで死んじゃうんだと……怖くなってアメリは目をつむった。
結局、お姉ちゃん全員に会えないまま……アメリは一人ぼっちで死んでいく……
そう、たった一人で……ここで死んでしまうんだ……
「…………?」
……なんて思ってたのに、いつまでたってもアメリの頭に剣は振り下ろされなかった。
頭どころか、どこにも斬られるようなことはされていない。
不思議に思って、おそるおそる目を開けてみると……
「ぐあっ……!」
「え……!?」
勇者さんの手に何かが飛んできて……剣を弾き飛ばしていた。
「あ……これって……」
その何かは……木でできた剣だった。
しかも……アメリがよく見たことのある木刀だった。
「クソ……お前何すっっ!!」
「どーん!」
「ぐほっ!!」
その木刀の持ち主は……かんぱつ入れずに勇者さんにとびげりした。
「まったく……やっと追いついたと思ったら何殺されそうになってるんだよアメリちゃん。俺の時のようにちゃんと逃げないと駄目だろ?」
「ユウロ……お兄ちゃん?」
そう……絶対いないはずのユウロお兄ちゃんが、アメリの目の前で勇者さんをけり飛ばしていた。
「いってえ……何者だお前?勇者が魔物を退治する邪魔をしようって言うのか?」
「おう、その通りだ。ものわかり良くて助かるよっと」
そのまま投げた木刀を拾って、勇者さんにこうげきを始めた。
「お前そのリリムの関係者か何かって事か?」
「そうさ。大事な旅仲間だよ!」
勇者さんのこうげきを木刀で流し、森林の方へ下がっていくユウロお兄ちゃん。
押されてたり逃げたりしているというよりは、アメリから遠ざけているように見える。ユウロお兄ちゃんならそれくらいできてもおかしくはない。
「旅仲間?お前このガキリリムと旅してるのか?」
「ああそうさ。俺はアメリちゃんと旅してる……」
そのまま森林の近くに行ったと思ったら、思いっきり踏み込んでなぐりかかったユウロお兄ちゃん。
防御から一転したこうげきだったけど、ギリギリかわされてしまい、今度はこうげきに回って勇者さんを森林に追いつめていた。
そしてその森林の方には……白くてもこもこしたものが少しだけ見えた。
そう……とても安心できる、ワーシープの毛皮が……
「……アメリちゃんだけじゃなくて恋人とも一緒にな!」
「喰らえ!もこもこホールド!!」
「んなっ!?ワーシープだ……と……」
ユウロお兄ちゃんが森林と高原の境目まで勇者さんを追い詰めたところで、森から出てきたワーシープは……やっぱりサマリお姉ちゃんだった。
後ろからもこもこの毛を勇者さんに押し付けて眠らせるつもりのようだ……いきなりのサマリお姉ちゃんの登場で、勇者さんは慌てふためいている。
「おまけにもこもこインパクト!」
「ぶわっ……あ……くっそ……ぅ…………ぐぅ……」
そして、ワーシープの毛の塊を顔に押し付けられて……あっという間に眠ってしまった。
「はいオッケー。もう離れていいぞ」
「本当に?じゃあ離れようっと……ユウロ以外の男の人とはなるべくくっつきたくないって思っちゃうんだよね。よくて一緒に旅したツバキぐらい?」
「嬉しいっちゃ嬉しいけど恥ずかしい事言ってくれるじゃねえか……」
別れたはずの二人が、何故かアメリを助けてくれた。
おかげで助かったけど……どうしてここにいるのだろうか?
「おっと。今はそんな事よりアメリちゃんの無事を確認しないと」
「あ、そうだった。アメリちゃん大丈夫!?」
「う、うん……一応大丈夫……」
勇者さんが眠ったおかげか、アメリにかかっていた魔術は解けたので動けるようになった。
怪我もたいしてないから大丈夫と言えば大丈夫だけど……それよりも不思議に思っているのが、この二人がここに居ることだった。
「ねえ……なんでお姉ちゃんたちがいるの?」
「なんでって……まあ説明は後だ。とりあえずこの場から急いで離れるぞ。このアホ勇者がいつ起きるかわからないからな」
「話はそれからねアメリちゃん。ほら行くよ!」
「う、うん……」
どうしてか聞こうとしたらそう言われた。
たしかにこのままここで立ち話をしていたら何時この人が起きるかわからない……だからアメリたちは急いでこの場から離れた……
…………
………
……
…
「なんでアメリの場所がわかったの?」
高原を駆け抜けてから、広い場所にテントを張って3人で中に入ったアメリ。
心なしか……テントの中は昨日とちがって大きいと感じない気がした。
「まず宿のサキュバスさんからアメリちゃんがお姉さんの情報を貰ったって聞いたからね。絶対そっちを目指してるだろうなって思って走って追いかけたんだよ」
「あまり寝ずに走ったからな。結構早く追い付けたってわけでさ、丁度アメリちゃんと別れたばっかりだって言うゴブリンに昼過ぎに会ったんだよ」
「どっちに向かったのかって聞いたら教えてくれたからそっちに向かってみたら今度は全力で逃げてる妖狐さんに会ってね。どうやらアメリちゃんが戦ってるらしかったから急いで向かったんだよ」
どうしてアメリがいる場所がわかったのか……まずは一番疑問に思っていたそれについて聞いてみた。
整備されていない道を通ったけどきっちりお姉ちゃんたちは同じような所を通ってきていたらしい……
「じゃあ……なんでアメリのところに来たの?」
どうしてあの場にいたかはわかった。
でも、どうしてアメリを追い掛けてきたのかわからなかったから、今度はそう聞いてみた。
「はぁ……さてと。アメリちゃん、どうしてこんな手紙書いて先に一人で行っちゃったのかな?」
そしたら、大きなため息をつかれながら、アメリが二人にのこしていった手紙をつきつけられた。
「だって……アメリ二人の仲のじゃまになると思ったから……」
「はぁ……まあそうだろうな。この手紙にもそう書いてあるしな」
「うん……」
アメリは逆にサマリお姉ちゃんとユウロお兄ちゃんに、アメリが書いた手紙を見せられながらいろいろと聞かれた。
どうしてこんな手紙を書いたのとかなんで先に一人で行っちゃったのかとか……どうやらちょっと怒ってるみたいで、なんだか怖い。
「だって……二人がラブラブなのに、アメリが間にいたらじゃまでしょ?だから……二人の愛のじゃまにならないように、アメリは一人で旅することにしたんだもん……二人だってアメリがいたらじゃまだって思うでしょ?」
「「……」」
アメリが先に行った理由をしゃべっても、なぜかすごく怖い顔をしてきたお姉ちゃんたち。
頭をおさえながら何かむずかしい顔をしている……アメリ別に変なこと言ったつもりはないけど、何か気にいらなかったのだろうか?
「はぁぁ……あのさあ……アメリちゃん?」
「え、えっと……何?」
ムッとした顔をしているサマリお姉ちゃんが立ち上がって、アメリに近付き……
「アメリちゃんの事邪魔だなんて……思うわけないでしょ?」
「え……あ……」
そっともこもこした胸にアメリを押し付けて……いや、アメリを優しく抱きしめてきた。
「アメリちゃんが邪魔だなんて私達は考えられないよ……ねえユウロ?」
「当たり前だ。俺もサマリもアメリちゃんがいなければ出会わなかったし、俺に至っては旅もしてないんだぞ?アメリちゃんは俺達の出会いにおいて最大の恩人なんだぞ。それにな……」
ユウロお兄ちゃんは、優しくアメリの頭に手を置いて……
「アメリちゃんは、俺らにとって実の妹同然なんだよ」
「そうだよ。そんな妹が一人で行っちゃったら心配で苦しいよ……」
「ユウロお兄ちゃん……サマリお姉ちゃん……」
二人して……アメリのことを、妹だって言ってくれた。
「だからさ、これからもずっと、私達と一緒に旅しようよ。ね?」
「そうだぞアメリちゃん。俺達と一緒にお姉さんに会いに行く旅のついでに世界中を回ろうぜ」
「……うん……」
アメリは……お姉ちゃんたちといっしょに居ても良い……
「世界のおいしいものを一緒に食べようよ」
「……うん……」
「どんな奴が来ても、俺が護ってやるからな」
「……うん……!」
アメリは、お姉ちゃんたちといっしょに旅をしていい……
「お料理も一緒に作っていこうよ。いろいろ教えてあげるからさ」
「また一緒に遊ぼうぜ。独楽でも新しいおもちゃでも遊び方なら教えてあげるからさ」
「……うん……!!」
アメリは、二人といっしょに居ていいんだ。
「うん……うん……!うぅ……うわああああああああああん!!」
「わわっ!?」
「ど、どうしたんだアメリちゃん!?いきなり泣き出して……」
「だって、だって!アメリさみしかったもん!!お姉ちゃんたちといっしょにいちゃダメだからって……でもさみしかったもん!!わあああああん!!」
それが嬉しくて、さみしかったという気持ちも溢れてきて、よくわからなくなって……アメリは大きな声で泣いてしまった。
いろんな感情がドロドロに溶けて……涙になって溢れてきた。
「よしよし……大丈夫だよ。私達はずっと一緒だからね」
「そうそう。もし旅を続けられない状況……まあ……サマリが妊娠したりして俺達がリタイアしたとしても、アメリちゃんを邪険に思う事なんか絶対にないからな。また旅が出来るようになったら絶対一緒に行くからな!」
「うん!うんっ!!ぐすっ……絶対にずっといっしょだよ!!」
「もちろん!」
「ああ!」
涙を流しながらも、アメリたちはずっといっしょに旅をすることを約束したのだった。
「次のお姉さんってどんな人だろうね?」
「やさしいお姉ちゃんだといいなぁ〜」
「まあアメリちゃん相手には優しかったお姉さんしかいないし大丈夫だと思うぞ?それにしても腹減ってきたな……」
「アメリも!なんか泣いたらおなか空いてきちゃった!」
「うーん……夜ご飯まではまだ時間あるし……じゃあおやつにプチケーキでも作ろうか」
「わーい!アメリも手伝う!」
「俺もそれなら手伝えるぜ!皆で作るぞ!」
「「おーっ」」
テントの中でアメリ以外の声がひびく……
とてもあたたかく……楽しい声が。
「そういえばアメリちゃん。私達がいない間ご飯はどうしてたの?」
「えっとね。ハンバーグ作って食べた」
「おー凄いじゃないか!今度作って俺達にも食べさせてよ!」
「アメリちゃんの手料理か〜。私も食べてみたいかも」
「いいよ!アメリのうではサマリお姉ちゃんのおかげであがってるからね!!」
いつまでも……そう、いつまでも、ずっと…………
アメリたちの旅は……ずっと続くよ、どこまでも!!
13/08/29 08:51更新 / マイクロミー
戻る
次へ