盗み食いオークの顛末!
最近、果樹園や畑が何者かに荒らされるようになった。
規模としては小さく、幾つかの果物や野菜を食べられてしまう程度のものではあったが、しかし農作業に行く度に手間隙かけて育ててきた作物が食い散らかされるのは気持ちのいいものではなかった。
いくら数が少なくとも、毎日続けば稼ぎにも響いてくる。
畑の周りに柵を張り巡らせたが、犯人は大型の動物なのか何なのか、簡単に壊されてしまってらちが明かない。
そこで牧場主の彼は知人の猟師に相談し、頑丈な罠を作ってもらうことにした。まだ駆け出しで蓄えも少ない彼にとっては決して軽い出費ではなかったが、これで作物の被害が無くなることを考えれば惜しくは無かった。
それに、罠猟を続けてかかった獲物を売っていれば収入の足しにもなる。長い目で見ればそちらのほうが良いとの判断だった。
かくして彼のもとに罠は届き、知人の助言のもと、犯人が通るであろう場所に罠は設置される事となった。
絹を裂くような悲鳴が聞こえたのは、まさに罠を仕掛けた翌日の早朝の事だった。
まさかこんなにすぐに結果が出るとは罠を仕掛けた本人でさえ思っても居なかったが、ともあれ何かが罠にかかったことは確かなようだった。
彼は急いで着替えと準備をして、罠を仕掛けた場所に走った。
まだ日は山間に顔を隠したまま、東の空がすみれ色に染まり始めていた。冷たく少し湿った空気を切って走るうちに、意識もすっきりと研ぎ澄まされていった。
果たして作物を荒らしていたのは何なのか。イタチか狐か、それとも猪や鹿か、あるいは甘いもの好きの狼か。
罠を作った本人によれば、仮に熊が掛かっていたとしてもそう簡単には外れないとの事だ。止め刺しの方法も色々と教えてもらってある。何が掛かっていたとしても、あとは正体を突き止めて仕留めるだけだ。
遠くから、土を掘り返そうとするような、地団駄を踏むような音が聞こえてくる。
罠を仕掛けた辺りで何かが暴れている。
獲物は彼が考えていたよりも大きかった。鹿よりは大きく、しかし猪にしては小さかった。
土や泥で薄汚れてはいるものの、毛皮で覆われているようには見えなかった。
どこかの牧場から逃げ出した豚でも迷い込んでいたのかもしれない。彼のそんな予想は、獲物に近づきその様子がはっきりするに連れて確信に近づいてゆく。
誰かの所有物となれば、そう簡単に殺してしまうわけにもいかなくなる。骨折り損かと落胆しかける彼だったが、しかしと考えなおす。
無事保護したと牧場主に返してやれば少しくらいは礼金がもらえるかもしれない。そうなれば、どうやって傷つけずに捕まえるかが問題だが……。
段々と獲物の姿が近づいてくる。その姿は、しかし近づいてよくよく見てみれば彼が予想していたものと大きくかけ離れた形をしていた。
思っていた以上に胴体が細く、そして手足が長く太かった。どう見ても人間にしか見えなかった。
ひどく汚れてはいたが肌は血色の良い桃色をしており、洋服と呼ぶのもはばかられる程に大雑把なものではあったが胸元と股ぐらには毛皮が蔦でくくりつけられていた。
そしてその足首には、罠に掛かった獲物を捕える頑丈な鎖の仕掛けがしっかりと巻きついていた。
「ふえぇ。なにこれぇ。とれないよぉ。ぷぴぃっ」
なるほど。と彼は合点する。
道理で聞こえてきた悲鳴が、獣の雄叫びにしては可愛らしい声だったわけだ。
犯人は野生の獣でもなければ、どこかの牧場の逃亡者でもなかった。腹を空かせたこそ泥の小娘だったというわけだ。
彼はため息を吐きながら歩みを緩める。
罠の支払いの足しのあても無くなってしまった。見たところ若い娘のようではあるから、人買いにでも売ればそれなりの値にはなるだろうが、いくら盗人相手でもそれはあまりにも気の毒だろう。
とにかく手足を縛って話を聞こう。後のことはそれから考えればいい。
盗み食いの犯人に近づきつつ、彼はふと疑問に思い始める。彼女の身体が汚れすぎているのだ。それも、不自然なほどに。衛生状態に気を使えない山賊や盗賊にしても、もう少しまともな格好をしていてもいいはずだ。
おまけに頭に何か妙なものを乗せている。帽子にしては小さく、腕や足の動きに合わせて時折動いている。
どことなく、豚の耳のようにも見える。
嫌な予感を抱きつつ、彼は少女のおしりを確認する。
そこから生える細く短い尻尾を見つけて、彼は表情を引きつらせた。
それと同時に少女の動きが止まる。ゆっくりと振り返る彼女と、目が合ってしまう。
「あぁ、ちょうどいいところに人間のお兄さん。ねぇねぇこれ外してよ。足に絡まっちゃって取れなくなっちゃって」
少女は助かったとばかりに、ほっと表情を緩ませた。
「ほう、それは災難だな」
耳を確かめるべく助ける振りで近づきつつ、彼は顔をしかめた。
彼女の身体が臭うのだ。独特の獣臭と、汗が乾いたような臭い、そして泥や草いきれが混じったような何とも言えない強い臭いがした。
髪の毛も脂で固まって、まるで枯れ草の塊が乗っているようだ。
巻き付いた鎖に気を取られていることをいいことに耳に触れてみると、それは柔らかく、ほのかに温かかった。やはり、耳のようだ。
人間ではない。
豚の魔物。おそらく、オークの雌だろう。
雌の魔物が増えているという話は聞いたことがあったが、魔物という物自体、実際に見たのは初めてだった。
「この前から柵は出来るし、今度は罠。人の通り道にこんなもの仕掛けて、酷いと思わない? こっちはいい迷惑だよぉ」
「そんな酷い奴がいるのか。困った奴だなそりゃ。見つけて懲らしめないといけないな。
……ところで、ここはよく通るのか?」
「うん。この先に美味しいリンゴや野菜がなってるんだ」
「自然になっているものなのか」
「多分人間さんが作ってるんだと思うけど、たくさんあるからちょっとくらいもらったって平気だよ。そうだ。せっかくだからお兄さんも一緒に貰っていこうよ」
彼はにこにこと機嫌良さそうに笑いながら頷いた。
「美味いリンゴか、楽しみだな。どうせなら一緒に食べないか?」
「うん! 罠はびっくりしたけど、お兄さんと仲良くなれそうで良かった! 私はリコ。よろしくね!」
屈託なく笑うリコに対して、彼は笑顔を崩さずに頷いた。
「俺はウルク。よろしく頼む」
「ウルク。いい名前だね! それにしても本当にびっくりしちゃったよぉ。下手したら怪我してたところだった。仕掛けた人の顔を見てみたいよ」
「そいつを見つけたらどうするんだ?」
「同じ目に合わせてやるの。縛り付けて身動きできないようにして、好きなだけ犯してやるんだぁ。
ぷぴぷぴっ。『許して下さい。何でもします』って言っても許してあげない。私がしたいときにする性奴隷にしてやるんだから」
ウルクは腕を組み、神妙な顔で頷く。
「俺もこの間から、よく分からんやつに酷いことされてばかりだったんだ。お前の気持ちもよく分かるよ。危うく怪我するところだったんだもんな。そのくらいの目に遭わせたって当然だよ」
「ありがとう。ウルクは話が分かるいい奴だ!」
「……しかし、罠を仕掛けたやつは意外と近くにいるかもしれんぞ」
「うん。でもまずは先にこれ外してくれる?」
自力では罠を外せないらしいリコの様子を見て、ウルクは策を思いついてにやりと笑う。
「いや待て。ここは作戦を立てよう。きっと罠を仕掛けたやつは明るくなったら罠の様子を見に来るはず。
そこでだ。俺が先に気がついて、お前を捕まえたという話にするんだ。ゆるく腕を縛っておいて、相手が油断したところでそれを外して襲いかかる。どうだ」
「ぷぴぃっ! それ面白いよ! いいかも! ウルク、すぐに腕を縛って!」
素直に両腕を差し出す少女の姿に、ウルクは少々拍子抜けしながらも頷いた。
「……あぁ、任せておけ」
持ってきていた荒縄で少女の両腕を縛り上げる。遠慮せずに、力いっぱい締め上げた。
「ちょ、ちょっとウルク。少し痛いよ。これじゃあ解けなくなっちゃう」
「それでいいんだよ」
「どうして? あ、分かった。ウルクが途中で助けてくれるんだね」
「いや、お前にもう助けは来ない」
首を傾げる少女に対し、ウルクは自分を指差してみせる。
「罠を仕掛けたのは俺だ。最近、俺の育てた果物や野菜を盗み食いをする奴が居るみたいだったからな」
表情を無くし、みるみる顔色を青ざめさせるリコを、ウルクは冷たい笑みで見下ろした。
「あ、ああ、あの。わ、私じゃありません。食べてません。こ、これは何かの間違いで」
「この先にあるリンゴ、なんで美味しいって知ってるんだ? ん?」
「そ、それは……」
「掛かった獲物は、さばいて売る予定なんだよ。不届き者が商品を盗んでいくお陰で、売上が減っていてなぁ」
ウルクが背中に忍ばせていた大型の狩猟用ナイフを見せびらかすように引き抜くと、息を呑むような小さな音が聞こえた。
「まさか魔物がかかるとはなぁ。……さて、どうするか」
少女の瞳に涙が溜まっていく。
一見するとしおらしい様子に見えなくは無いが、しかしウルクは油断しなかった。
オークは強いものには媚びへつらい、弱いものには威張り散らすと聞いている。こちらを油断させるための演技でないとも限らないのだ。
「ゆ、許して下さい。何でもします。だから、殺さないで」
「『許して下さい。何でもします』って言った相手を、お前はどうするって言ってたっけなぁ?」
リコの口から、小さな悲鳴が漏れる。見開いた大きな瞳に涙が満ちる。
「あ、あなたの奴隷になります。代わりにいっぱい働きます。何だってします。靴でも足でも何でも舐めます。お望みならば性奴隷にだってなります。好きなときに、好きなように犯してくださって結構です。だから、だからどうか命だけは助けてください」
「まぁ、魔物とは言えこの手で命を奪うのは気が引けるな……」
表情を明るくするリコに、ウルクは歯を見せて笑いかける。
「教会につき出すか」
彼女は言葉を失い、絶望的な表情でウルクを見上げ、そして。
ぐううぅぅ。
と、腹の虫を鳴らした。
直後、彼女は顔を真っ赤に染めてお腹を抑え、そして今更腹の音をかき消そうとするかのように泣きわめき始めた。
「うわぁぁぁん。だってどうしようもなかったんですぅ。お腹が減ってお腹が減って、そのへんの草じゃもう耐えられなくて、そんな時に美味しそうなリンゴがあって……。食べたら本当に美味しくてたまらなくて。もちろん一回だけで我慢するつもりだったんです。でも、一度あのリンゴを味わってしまったらもう忘れられなくて、ダメだって分かってても身体が勝手にここに向かっちゃうんですぅ。お腹が空いてて美味しくて我慢できなくてとにかく食べたくてしょうがなかったんですぅ」
ウルクは一生懸命弁明する彼女の言葉を呆れたような表情で、しかし最後まで言葉を遮ることはせずにしっかりと聞いてやった。
「そんなに美味かったか」
「はいぃ。あんなに美味しい物、初めて食べましたぁ」
緩みそうになる顔を無理矢理強面にしようとするせいで、ウルクの顔は余計に不気味さを増してゆく。
「そうか。だが盗み食いは盗み食いだ。お前にはしかるべき罰を受けてもらう。だが、その前に、少しお楽しみといこうじゃないか」
大きなナイフを片手に、ウルクは怯える少女に歩み寄ってゆく……。
それからどれくらいの時間が経っただろうか……。
「ぷぴぃっ。ダメ、もうダメですぅ。こんなにたくさん、入れられてっ、おなかが、熱くなってますぅ」
人気のない森の中の農場に、若い娘の嬌声が響き渡っていた。
「そんな事を言って、まだまだ入りそうじゃないか。ほれ、新しいのを出すぞ」
リコはウルクが思っていたよりも従順に、彼の命令に従った。
抵抗するならそのままにしておくつもりだったが、邪魔だったので手枷もすでに外してある。お陰で、とても捗っていた。
「あぁっ。ダメなのに、もう限界なのにっ。お口が、勝手にぃ」
口元を白く汚しながら、リコはウルクが突き出したそれにむしゃぶりつく。
「こぼさず全部飲むんだ。いいな」
「は、はいぃ。ご主人様ぁ」
「それにしても、お前の欲求は底なしだな。俺もこんなに多くしたのは初めてだ。……それでも、ふふ、流石に限界か。見てみろ、腹の形が変わるくらいにぱんぱんだぞ」
「はうぅ。これ以上食べたら、お腹壊れちゃいますぅ」
「そうだな。流石に鍋二つ分もクリームシチューを食ったら流石に限界だろうな」
自宅の前の炊事場で空になった器を受け取りながら、ウルクは額の汗を拭う。
すでに洗い場には鍋が二つ転がっていた。どちらも先ほどまではウルク手製のシチューで満たされていたものだ。それがあっという間に、全てこのオークの少女の腹の中へと収まってしまった。
「これは何なんですか。初めて食べました」
「ミルクを使ったシチューだよ。うちの野菜を使ってる。美味かったか」
「はい! こんなに幸せな瞬間、生まれて初めてですぅ」
目を輝かせて見を乗りだすリコ。その臭いにウルクは反射的に後ずさりかけてしまうが、何とか耐えて踏みとどまる。
「群れからはぐれてずっと一人で食べるものも食べられなくて……。あぁ、生きるって素晴らしいです!」
「そりゃ良かった」
「でも驚きました。まさかご主人様が魔法使いだったなんて」
「……は?」
「……え? このとびきり美味しい食べ物、魔法で出したんですよね?」
残り物の野菜の切れっ端や傷みかけの肉をぶつ切りにして、目分量の味付けで適当に煮込んだだけのものを魔法扱いされては、世界の誰もが大魔法使いになってしまう。
ウルクは苦笑いをしながら首を振った。
「俺はお前のご主人でもなければ魔法使いでもないよ。一人じゃ食べきれなくて、痛みかけたりで捨てる直前だったものを適当に料理しただけだ」
「いいえ! 私にとっては命の恩人です。助けていただいたこの命、私の全ては、もうご主人様のものなのですっ!」
「大げさな奴だなぁ。と言うか、まだ許すとは……」
「それにこんなに美味しい食べ物を作れるなんて。いずれにせよ魔法使い並みに凄い技術の持ち主ってことじゃないですか! 尊敬しちゃいますぅ」
「いや、このくらいの料理なら誰でも」
「そんなことありませんっ。ご主人様はすごい人ですっ」
芝居がかった口調ではあったが、さりとて先程の様子を見るに、演技が出来るほど器用でも頭の回りも良くは無さそうだ。
無邪気に目を輝かせる少女を前にしては、これ以上ウルクも意地悪を言う気にはなれなかった。
「分かった。分かった。そういうことにしておこうか」
ウルクは呆れたように肩を竦める。果たしてリコに対してなのか、これから自分が取る行動に対してなのかは、ウルク自身にも分からなかった。
「腹いっぱいになったか? そしたら、今回は許してやるから、家に帰れ」
目を丸くするリコに、ウルクは反論を許す間もなく続ける。
「まぁ、色々怖がらせたり意地悪もしたしな。少しは懲りただろう。だから今回はこれぐらいで勘弁してやる。
ただし、今回だけだぞ。美味しいリンゴは、誰かが一生懸命作っているんだって分かっただろ。だから金輪際、無断で盗み食いするのはやめろよ」
言われていることが理解できているのかいないのか、リコはぽかんと口を開けたまま、呆然とウルクを見上げ続ける。
「……あー。もし腹が減ってどうしようも無くなったらうちに来い。このくらいの飯なら食わせてやるよ。その代わり、食い物の分は働いてもらうけどな」
「どうして」
「ん」
「どうしてそんなに優しくしてくれるんですか」
ウルクは言葉を詰まらせる。それから地面を見て、空を見上げて、リコから顔を背けてぶっきらぼうにこう言った。
「リンゴや野菜、美味いって言ってくれただろ。……あんな風に言われたの初めてだったんだよ。嬉しくて、さ。だから。
……って、おい。どうしたんだ」
ウルクが少し目を離している隙に、リコがぽろぽろと涙を流し始めていた。
大粒の涙が溢れるたび、頬の汚れが溶けて涙の筋が出来る。
「わ、私も、こんなに優しくされたの、は、初めてで。群れからはぐれてからずっと一人で。どこへ向かえばいいかも分からなくって。人間からは石投げられたり、怒鳴られたり、臭いって言われて、近づけなかったし……。う、ううぅ」
ウルクは幾度も頷き、震える少女の肩に手を置こうとする。が、やはり身体の汚れが気になり置き掛けた手をそっと戻した。
人の形をして人の言葉を話すせいか、ウルクはどうしても彼女のことを凶暴な魔物として見ることが出来なかった。人間の、ただの不憫な少女のように見えてしまうのだ。
しかしだからこそ彼女の汚れや臭いを余計に身近なものとして感じてしまう。石を投げたり怒鳴る気にもならないが、やはり臭いものは臭かった。
「ご主人様!」
パッと顔を上げて見つめられ、ウルクは内心を誤魔化すように笑顔を作る。
「これまでの罪の償いと、美味しいご飯のお礼をさせてください」
リコはもじもじと身体を縮ませながら、自らの身体に巻き付けている蔦の結び目に手をかける。
「何も持っていない私には、こんなものしか捧げられませんが……。私の身体、好きにしてください」
少女の体にへばりつくようにくっついていた毛皮と蔦が剥がれる。足元に転がったそれは、もはや衣服というよりゴミのようにしか見えなかった。
全身あますところなく泥や脂で黒く、茶色く汚れている女の身体を前に、ウルクは小さく唸った。
一瞬、躊躇した。だが目の前の身体を見ても何も感じない事に至って、自分の欲求に従うことに決めた。
「……言ったな。お前の身体、本当に俺の好き勝手にしていいんだな。何してもいいんだな」
「え、あの。いいです、けど。何をするんですか? まさか、痛いこと? それは、えっと……」
あまりにも真剣なウルクの視線にリコは一瞬たじろいだが、ウルクは聞こえないふりでにっこりと笑った。
「なら、好きにさせてもらおうか。全身、あますところなく、すみずみまで、な」
「ひっ。いやぁ……。こんなところで、本当にしなくちゃだめですか」
「俺の言うことは聞くんだろう。いいからやるんだ」
「こ、こうですか」
「そうだ。もっと丁寧に。指を上手く使え」
「ん、んんんっ」
「これを使えば、もっと良くなるぞ」
「ふえぇ。ぬるぬるしますよぉ。あぁっ。でも、これぇ、いぃですぅ。すごいですぅ。こんなの初めてぇ」
「ふふっ。そうだろう。一度知ってしまったら、もうこれ無しには生きられなくなってしまうだろう。
ほら見ろ、汚い汁がたくさん出てきたぞ」
「ぷぴぃ……。恥ずかしいですよぉ」
「でも、気持ちいいんだろう」
「……はい。気持ちいい、です」
「もっとしたいか」
「もっと、したいです。気持ちよくなりたいですぅっ」
「仕方ないな。直接俺がこの手でやり方を教えてやろう」
「ご、ご主人様……。あっ」
農場からほど近い小川のほとり。男と女の声を除けば、川のせせらぎの音以外、獣や小鳥の鳴き声さえも聞こえない。
川の水に足を浸して、一糸まとわぬ姿で立ち尽くすリコへと向かって、ウルクは躊躇なく迫ってゆく。
彼女は戸惑うように瞳を揺らしたものの、最後には覚悟を決めたように目をつむり、彼に身体を預ける。
ウルクは、その足元にあった桶から石鹸水に浸された布を拾い上げると、軽く絞ってから無造作にリコの背中を擦り始める。
「ぷぴっ! ご主人様、ちょ、ちょっと痛いです。そんなに強くしないでくださいぃ」
「これぐらいやらないと汚れが落ちないだろうが。お前もちゃんと力を込めて自分の体を拭け」
泥汚れや堆積していた汗や脂や垢で、すでに二人の足元の水は黒々と濁ってしまっている。川の流れで洗い流される以上の量の汚れがリコの身体から出てきているのだった。
「や、やってますよぉ」
「ほぉう?」
ウルクは挑発的に笑うと、先ほどリコが洗っていた部分、二の腕を指で擦った。
まだ薄黒い表皮がぼろぼろと剥がれて指にへばりついた。目の前にその指を曝されると、リコは初心な少女のように頬を染めて目をそらした。
「女の子の恥ずかしいところ、そんなに見ないでください」
「恥ずかしいという自覚があるなら、しっかり洗え。造形も良さそうなんだから、顔もしっかりな」
ぶつくさ言いながらも、ウルクは彼女のうなじから腰の辺りまで、泡立った布で丹念に汚れを拭き取ってゆく。
川の水は一気に黒く汚れていくが、代わりに少女の肌は文字通り磨き上げられるかのように本来の美しさを取り戻していった。
血色の良い健康的な肌色を取り戻し、触ればつるりと滑らかで、水滴も玉のように弾く肌理細やかな肌があらわになる。
ウルクは満足気に一息つくと、改めて自分の目の前の無防備な女の背中を見下ろした。そしてその予想外の艶めかしさに初めて気が付いて、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「背中、終わりましたぁ?」
「あ、ああ」
「私も、腕と足は終わりましたよぉ。ほら、見てください。綺麗になったでしょ」
なまめかしい女の手足を差し出されて、ウルクは一瞬たじろぐ。
「見違えるようだな。綺麗だ」
「試しに触ってみてください」
さっきまでの勢いはどこへ行ったのか。ウルクは躊躇いながら、恐る恐るといった手つきで少女の肉付きのいい腕に、太ももに触れる。
どちらももっちりとした触り心地で、柔らかくありながらも確かな弾力で彼の指を押し返す。
リコはそんなウルクの様子を見て、汚れたままの顔をくしゃくしゃにする。
「まだ顔が汚れてる。それに胸、腹、尻、あと股の間。念入りに綺麗にするんだ」
「はーい」
リコは言われるままにむにゅむにゅと胸を揉み始める。ウルクは慌てて目を逸らした。
洗うのが楽しくなってきたのか、リコは鼻歌さえ歌い始める。
ウルクは途中までは黙ってそれを聞いていたが、そのうちじっとしているのも耐えられなくなり、大きく息を吐いて彼女の頭に布を置いた。
「ひゃん。冷たいですよぉ」
「大人しくしてろ。髪を洗ってやる」
「えへへ。ありがとうございます」
まずは石鹸水の付いた布で髪の毛に付いている汚れを落とす。背中の時に負けず劣らずすぐに布が真っ黒になるが、その分髪の毛も本来の色を取り戻してゆく。
枯れ葉が乗っているだけのような頭だったのが、ようやく赤茶けた髪が生えている程度には見えてくる。
それからウルクは、耳に水が入らないように気をつけながら髪の間に指を入れて頭皮を揉むように洗い始める。
垢や脂が大量に出てくるが、幾度も水で洗い流しながら続けていくうちに、更に髪の毛も柔らかく、艶やかになっていった。
そして汚れが出なくなる程洗ったあとに残ったのは、陽の光を明るく照り返す少し癖のついたストロベリーブロンドだった。
「磨けば光るとはよく言うけど、こりゃすごい」
ぽろりと漏らすように呟きながら、ウルクは綺麗になったリコの髪を撫で続ける。
濡れてはいても、上等な絹のようにさらりとした触り心地で、桃色の髪は透き通るようだった。
いつしかウルクはその髪に触り、眺めるのに夢中になっていた。気を取られすぎて、自分のことを呼ぶ声さえ気が付かなくなってしまうほどに。
「ご主人様。ご主人様ってばぁ」
「え、あ。悪い。何だ?」
川の水面に揺れる陽光が、丸みを帯びた肉感的な女体を照らし出していた。
言葉を失っているウルクの前で、リコはくるりと一回りしてみせる。
柔らかな木漏れ日、肌の上の水滴がきらきらと輝く。目鼻立ちの整った、可愛らしい女の子がそこにいた。
はしばみ色のぱっちりと大きな瞳。ふっくらした色っぽい唇。鼻はちょっと上を向いているが、そこがまたあどけなく可愛らしい。
肌の色は健康的に血色が良く、頬は少し興奮しているのかほんのり赤く染まっていた。
赤みがかった金髪に掛かる大きな裸の耳をぴょこっと動かして、彼女は白い歯を見せて笑った。
「綺麗になりました。とっても気持ちよかったです」
いつしかウルクは目の前の少女の身体から、陽の光を照り返すその肌から視線を離せない。
肉付きのいい二の腕、片手では収まりきらない豊かな乳房、程よくあぶらの乗ったお腹、蠱惑的な曲線を描く腰回り、むっちりした太もも。
「ご主人様が用意してくれた道具で歯も磨いたんですよ。口の中もすごいすっきりしました。って、聞いてますかご主人様?」
「あ、ああ。そりゃ、よかったよ」
いつの間にか、ウルクの顔も赤く染まり始めていた。
ウルクはまだ若い。早く独り立ちをしたいからと勉強や仕事に打ち込んでばかりで、女を知るどころか一緒に遊ぶことや、ちゃんと手を繋いだことさえまだなかったのだ。
ズボン越しに下半身にも変化が起こっていたが、リコも、ウルク自身でさえ気がついていなかった。
「本当に、ありがとうございます。こんなに良くしてくれた人、ご主人様が初めてです」
そのリコの表情に、ウルクは返事もまともに出来なくなるほど見惚れてしまう。
まるで全身が心臓になったかのように、鼓動がウルクの体中に響き始める。自分自身でさえもよく分からない激しい感情が身体の奥から湧き上がってくるが、しかし身体はそれとは反比例するように緊張し、動かなくなってしまう。
「そうだ。今度はご主人様を綺麗にしましょう。私も手伝いますからっ」
「お、おい」
リコは無邪気に抱きつくようにウルクの腕を取る。
「ちょっと、待っ。あっ!」
が、ウルクは未知の感覚で身体も心も強張っていた。濡れた石に足を取られて、リコを押し倒そうとするかのように倒れこんでしまう。
静かな川沿いに、大きな水の弾ける音と男と女の悲鳴が響き渡った。
「へっくし」
小川のすぐ側。日当たりの良い原っぱではあったが、しばらく休んでいても濡れた衣服はなかなか乾く気配は見せなかった。
それどころか風が吹くたび身体が冷やされ、ウルクは何度もくしゃみをしていた。
「ご主人様。やっぱりその服脱いで乾かしたほうがいいですよ」
「いや、大丈夫」
「でも、このままじゃ風邪を引いてしまいますよぉ」
先ほどまで身体を洗っていたリコは、今は裸体の上にウルクが用意していたシーツをまとっていた。
もともと身に着けていた汚れた毛皮を着せるわけにもいかず、かといって一人所帯のウルクの家には女物の服も無く、とりあえずの妥協点がこれだった。
ウルクはなるべくリコの方を見ないようにしながら、身を縮めて少しでも身体を温めようとする。
「じゃあ、急いで帰って暖を取りましょう」
「それが、ちょっと障りがあってまだ立てないんだ」
いちいちリコが心配そうに顔を覗き込んでくる。そのたびの彼女の肌が視界に入って来るため、ウルクの言う『障り』はいまだ収まる気配を見せなかった。
「まさか、転んだ時に怪我を? なら、私がご主人様を背負って帰ります! こう見えても力には自信があるんです!」
リコはそう言って胸を張る。その豊かな乳房が見事に揺れて、シーツから零れ落ちそうになる。
「ね? ご主人様。遠慮せず私を使ってください」
「え、あ、あぁ」
ウルクははっと我に返る。いつの間にか、彼女の身体に、笑顔に魅入られてしまっていた。
「で、でも大丈夫だから。本当に、怪我はしていないから」
「じゃあどうしてこんなところに?」
ウルクは目を泳がせ、しばし黙考した挙句、小さい声でこう言った。
「ちょっと日光浴をな」
「寒がる日光浴なんて聞いたことありません」
リコは腰に手を当て、頬を膨らませて宣言する。
「ここから動かないなら、力ずくでも脱がしますからね」
「ちょっと待て。色々良くしてやっただろ? 俺の言う事を聞くんだろう?」
「それとこれとは別です。恩人が病気になるかもしれないのに、黙って見過ごすことなんて出来ません!」
ウルクの身体にリコの手が伸びる。彼は抵抗を試みるが、リコ本人が言っていたように彼女の力は意外と強く、そして動きも素早かった。
あっという間にシャツを脱がされ、上半身を裸に剥かれてしまう。
「さぁ次は下を脱がしますよっ」
続いて彼女の手がズボンに掛かった。ウルクは慌てて股間を抑えるが、やはりその力と技の前には無力だった。
剥ぎ取られた衣服は丁寧にしわを伸ばされて、日当りのいい場所に広げられた。
「これでシーツにくるまって一緒に温まりましょ」
一仕事終えたと言わんばかりの満足げな顔で、リコはウルクを振り返る。
「ね、ごしゅじん……さ、ま」
そして、彼の身体の変化に気が付き、言葉を失った。その頬もみるみるうちに赤くなってゆく。
「え、あの、えっと、その」
「み、見るな」
「は、はい。いえ、でもぉ」
リコは視線を彷徨わせる。言われたようにそこを見ないように努めているようだったが、どうしても気になるらしく何度も何度も視線が往復している。
ウルクの股間。黒々とした茂みの奥から、男の両の手でも隠し切れない太く大きな巨木が生えていた。
「す、すみません。でも、気になって……」
もはや隠す気も無く、リコはじっくりとウルクのそこを凝視する。ウルクは恥部を隠そうとするが、頭を隠せばお尻が隠せないといった状態で、いくら手を動かそうが状況は全く変わらなかった。
しまいには、もう隠すことさえあきらめてしまう。
「違うんだ。これはな」
「わ、分かっています。いいんです。何も言わないでください」
「だから、そうじゃなくて」
「ご主人様。言い訳はみっともないです」
代わりに弁明を試みるも、こうもぴしゃりと言われてしまっては、ウルクも黙るしかなくなってしまう。
「済まない」
「どうして謝るんですか。健康的な男の人なら、急にこういう風になってしまうことだってあるんでしょう?」
「まぁ、たまにはな。いやでも今回のは」
「どんな理由だって構いません。でも、今は私が居るんですから、私を使ってすっきりしてください」
シーツがはらりと地面に落ちる。綺麗になった女の肌を惜しげもなくさらして、リコは優しく微笑む。
「綺麗にしてもらったばっかりですし、清らかな身体ですよ。もちろん、病気なんて持ってません。何も心配されなくても大丈夫です」
「大丈夫じゃないだろ。お前、何言って」
リコが近づこうとすると、ウルクは後ずさる。しかしすぐに足がもつれて、ウルクは草原の上にしりもちをついてしまう。
「ご主人様のお手伝いをし、ご奉仕するのが、私の悦び。ご主人様に気持ちよくなっていただければ、私も嬉しいんです」
「だから言ってるだろ。別に俺はご主人様じゃない。大したことなんて何も」
「いいえご主人様、それは違います。
この命はウルク様に救われた命。この身体はウルク様に綺麗にしてもらった身体。ウルク様は薄汚い、盗人の私にも親切にしてくれた。人の心の温かさも教えてもらいました。
この身も心も、私の全てはウルク様の手で生まれ変わったんです。だから私の全てを、ウルク様に、私のご主人様に捧げたいんです」
「……そんな、大げさな」
声がかすれて、ウルクはそれ以上何も言えなかった。
リコはひざまずき、彼の下半身に身を寄せる。息がかかるほどに顔を近づけ、上目遣いに男を見上げる。
「ご奉仕、させてください」
潤んだ瞳は、ただ純粋だった。
ウルクは彼女の髪を撫でる。くすぐったそうにしながらも、彼女はひたむきに答えを待ち続けた。
いつの間にか乾いていた髪からは柑橘のような甘い香りが漂う。大きな豚の耳たぶはぷにぷにと柔らかく、温かかった。
彼はしばらく髪を触って考え続けた挙句に、ようやく低く唸って口を開いた。
「お、お、お前の、その」
「はい」
「お、おっぱい。大きくて、気持ちよさそう、だな」
ウルクは、目を輝かせながら次の言葉を待っているリコに向かって小声で命じる。
「そのおっぱいで、抜いてくれるか」
「はいっ。喜んでご奉仕しますっ」
リコは元気いっぱいの声で返事をして、身を乗り出した。
黒い茂みの上に、二つの大きな肌色の果実が乗せられる。太く大きくいびつな一本木を、その根元から挟み込んで押しつぶす。
果実は大きく、リコが両側から手で押さえると、茂みごと巨木を覆いつくしてしまう程だった。
自身を包み込むその感触に、ウルクは思わず嘆息する。
その吐息がくすぐったかったのか、リコは小さく笑った。
「気持ちいいですかぁ」
「あ、ああ。すごく気持ちいい」
「これからもっと気持ちよくなりますよ」
リコはいたずらっぽく舌を出す。唾液でてらてらと光るそこから、谷間に向かって糸を引きながら雫がこぼれ落ちていく。
「それじゃあ、動かしますね」
リコは両手で支えている重たげなそれを上下に動かし始める。谷間に落ちた雨水が隙間に染み込み滑りを良くしてゆく。
手の動きに合わせて乳房の形が変わる。その影から赤黒い亀頭が見え隠れする。
にちゅ、ぬちゅ、という淫らな音に、荒くなってゆく男と女の吐息が重なってゆく。
粘りを帯びた谷間の奥から、淫靡な匂いが立ち上り始める。
大きく息を吸い、頬を赤く上気させながら、リコはうっとりと目を細めた。
「がまん汁、出てきましたね」
「そう、か?」
「はい。唾液や、汗と混じって、すごい匂いです」
「確かに、いやらしい感じの匂いだな」
リコは眉を寄せ、心細げにウルクの表情を伺う。
「臭い、ですか? お嫌いですか」
「いや。すごくそそられる」
「よかったぁ」
ほっとしたように吐息を吐いて、リコは少しはにかんだ。
「えへへ。それじゃあもっともっと頑張りますね」
リコは左右の手でそろえていた動きを、今度は別々に不規則な動きで、挟み込んだそれをもみほぐすように変化させる。
先程までと変わった変則的な刺激に、ウルクはうめき声を上げる。
歯を食いしばりながら、気を逸らすようにウルクは再び彼女の髪に手を伸ばす。
「リコの髪の匂い、汗の匂いかな。最初は他の匂いがきつすぎて分からなかったけど、いい匂いだな」
「ご、ご主人様ぁ」
「顔だって、こんなに綺麗だと思わなかった。身体もこんなに色っぽいとはな。おまけにこんなことまでさせてしまって、色々もったいないな」
「全部、見捨てずに拾ってくださったご主人様のおかげです。綺麗になった顔も体も、今はもうご主人様のものなんですよ」
リコはほぅっと吐息を吐いて続ける。
「でも、ご主人様が勃起してくれてよかったぁ。おかげで、こうして恩返しを、ご奉仕をさせてもらうことが出来たんですから。
私のいいところ、少しは分かって下さいましたよね?」
「いいところも何も。……こうなったのも、お前のせいなんだぞ」
「え?」
顔を上げたリコの視線を真っ直ぐ受け止め、口ごもりながらもウルクは言葉をつなげる。
「こんなに可愛くて、綺麗な女の裸見たら、誰だってこうなるだろ」
「もしかして、私で?」
リコの両手にぐぅっと力が篭る。
締め付けが一気に強まり、ウルクはうめきながら腰を震わせた。
「リコ。急にそんなされたらっ。くぅっ」
堪えようとするが、止められなかった。
赤黒い亀頭から黄ばんだ白濁液が飛び散り、リコの頬に打ち付けられる。
「ああっ。もったいないっ」
顔にかけられたことなど全く気にせずに、リコは白濁を吐き続ける亀頭に食らいつく。
口の中の柔らかな肉に覆われ、舌で舐め回されるうちに、ウルクの射精は収まるどころかさらに勢いを増してゆく。
リコは唇と舌を使って、余すことなく精液を舐め取り、卑猥な音を立てながらすすり上げる。そして小さく喉を鳴らしながら、ウルクの放つものを嚥下してゆく。
十を超える脈動の末、ようやく射精が落ち着いても、リコは尿道に残った精液さえ掻き出そうとするかのように舌を動かし続ける。
「リコ、もう、いいから」
名残惜しそうにウルクのそれから口を離した後、今度は顔についた精液を指で取る。
その後もしばし指を舐めるのに夢中になっていた。そしてウルクも、そんな少女の艶めかしい姿に見入ってしまっていた。
「ふぅっ。ごちそうさまでした。ご主人様の精液、とっても美味しかったです。
ご主人様は、ご満足いただけましたか」
「あぁ。ありがとう」
ウルクに髪を撫でられて、リコは嫣然と微笑んだ。
「実は、もう一つお返ししたいことがあるんです」
ウルクの身体の上から離れ、リコは急に神妙な顔になってウルクを見つめる。
「おいおい。恩返しはもう十分だよ」
「いいえ。だって私だけ見せてもらって、精液をもらったんじゃ、申し訳が無いですから」
リコはウルクの正面に移り、膝を立てて腰を下ろす。そしてゆっくりと、その膝を開いてゆく。そのまたぐらを、ウルクの眼前に捧げる。
「ご主人様のご立派な一物を見せてもらったんですから、粗末なものですけれど、私のものも、よかったら見て、ください」
彼女は太もも、脚の付け根に手を当てて、左右に広げて見せる。
にちゃりと音を立てて、鮮やかな桃色の淫らな花が咲いた。蜜で濡れた花びらが、日の光をてらてらと照り返す。
「リコ。こんなものを見せられたら」
「ご、ごめんなさい。……汚かった、ですか」
「我慢できるわけないだろ」
「ふぇ? あっ。ご主人様ぁっ」
ウルクは彼女の肩を掴み、力任せに押し倒す。
戸惑いの浮かぶ彼女の瞳を覗き込みながら唇を押し付けて、乱暴に舌を入れて中を引っ掻き回す。
「ん、んんっ」
片手は彼女の手を指を絡めて握りしめながら、もう片方の手でさっきまで自身を慰めていた乳房を揉みしだく。
その柔らかさ、指を押し返す弾力をさんざん楽しみ、可愛らしい乳首をつねって色っぽい悲鳴を上げさせると、やっと満足したかのように手のひらを滑らせる。
わずかに肉の乗ったおなかを撫で、おへそのくぼみをくすぐって、若草の生い茂る女の丘へ。そこに咲く花を、手のひら全体で可愛がる。
跳ねようとする少女の身体を自分の身体で押さえつけて、ウルクは花の奥の敏感な部分を撫でまわし、蜜の滴る穴の中へと指を忍ばせる。
唇を離すと、すぐにリコの口から甘ったるい喘ぎ声が漏れ出した。
「あぁ、ごしゅじ、あん。ごしゅじん、さまの、ゆびがぁ……。ぷぴぃっ、そ、そこはぁ」
「最初からすごく濡れているな」
「だって、はぁ、はぁん。あんな、こい、せいえき、あびたらっ」
「挿れていいか」
「はじめてが、わたし、なんかで、よろしければ。どうぞ、ごしゅじんさまの、すきに、すきなように、してください」
リコは空いている手をウルクの頬に添える。引き寄せられるように、再びウルクはリコに口づけする。
どちらからともなく舌を絡め合い、混ざり合った唾液を吸い合う。
ウルクは膨れ上がった怒張を、濡れそぼったリコの入口へとあてがう。問いかけるように幾度かその先端で割れ目をなぞると、受け入れるかのようにリコはその手を彼の背に回した。
ウルクはゆっくりと腰を落としてゆく。熱を帯びた肉の柱が、それよりさらに熱くたぎる柔襞の渦の中に飲み込まれてゆく。
口を離して、ウルクは強くリコを抱き締め、深く彼女の中に沈み込む。
「すき。すきです。あぁ、ごしゅじんさま、ごしゅじんさまぁ、だいすきです。すき。すきぃ」
「リコ。リコぉ……」
「あああっ。そこ、こすれるの、いいです、すきっ。すきぃっ。もっとぉ」
「リコの中も、すごくきついよ。吸い付いてくる、みたいだ」
お互いの繊細な部分を探り合うように、何度も何度も腰を寄り添い合わせる。やがてウルクの動きに焦りが見え始めると、リコはそのむっちりとした脚を男の腰に絡ませ、そして。
「リコ。もう、でるっ」
「ごしゅじん、さまぁ。いいですよ。わたしも、もう、いっ、いくっ、あっ、あああっ」
ウルクは震える腰をさらに奥へ奥へと押し付ける。リコの最奥に擦り付けられる彼の切っ先から、煮え滾った雄の熱が迸る。
一度射精しているにも関わらず、それをさらに超えるほどの量と勢いをもって、ウルクの欲望がリコの胎内に叩きつけられる。
一滴残らず注ぎ込もうとするように、受け止めようとするように、二人は固く抱き合ったまま、互いの背中に回した腕を、絡めた足を、離そうとしなかった。
やがて絶頂の波が引き、呼吸さえも落ち着いても、二人は互いのぬくもりを名残惜しむように寄り添い続けていた。
ウルクが再び乾いた服に袖を通したのは、すでにもう日が傾きかけようかともいう頃になっての事だった。
「さて、帰るか」
衣服を身に着けたウルクはリコを振り返るが、彼女は聞いているのかいないのか、土や葉で汚れたシーツを纏って、顔を近づけて音を立てて匂いを嗅いでいた。
「ぷぴぷぴ。いい匂い。私と、ご主人様の、初めての匂い……」
「おい。リコ」
「これ、洗わずにとっておきたいです。というか、ずっと身に着けていたいです」
「いや、だめだろ。せっかく綺麗になったんだから」
「だって私とご主人様の初めての記念なんですよ。一度で終わらず、何度も気持ちを確かめ合った証なんですよ。大事にしたいですぅ」
ウルクは照れるような恥じるような複雑な表情で頭をかきながら溜息を吐く。
衝動的にウルクから襲う形で始まってしまったまぐわいは、結局一度では終わらなかった。
そのあと興奮したリコが上になって交わり、やり返すように四つん這いにして犯し、そのあとも服が乾くまで時間があるからと、短い休憩を挟みつつもその後も欲に任せて快楽を貪りつづけた。
当然シーツはぐちゃぐちゃになり、せっかく綺麗になったリコの身体もまた少し汚れてしまった。
「わかったよ。捨てないでおいてやる。その代り、洗濯はするぞ」
「えー、洗っちゃうんですかぁ……。でも、取っておいてくれるならいいかなぁ」
「それじゃ、家に帰るぞ」
「そういえば、帰るって……」
「俺達の、家だよ。……俺はお前のご主人様なんだろ」
問いたげな顔で見上げるリコから顔をそらしながら、ウルクは頬をかく。
「言っとくけど、色々とこき使うからな。夜だってさっきみたいにいつ襲い掛かるかもわからん。家も小さい。それでも良ければ、行くとこ無けりゃうちに来い」
リコの顔がパッと明るくなる。立ち上がり、目を輝かせてウルクに飛び付いた。
「いいんですか! 嬉しいですっ!」
「まぁ、ここまでしてしまったしな。尻尾と耳を隠せば人間としても通じるだろ」
「えへへ。ご主人様。ご主人様ぁ」
腕を絡ませて、二人は歩き出す。
新しい家族を連れて、帰るべき家への道を。
「そういえば、何で俺が初めてだってわかったんだ」
「魔物娘ですもん。匂いで分かります。ご主人様の体内で凝縮されて熟成された精の味と匂い。一発で虜になっちゃいました」
「魔物娘か。魔物の雌ってことだよな」
「というか、今は魔物は雌しかいませんよ。随分前に魔王様の代替わりがあって、今はサキュバスが魔王様になってるんです。魔物は魔王様の影響を受けてみんな雌になって、今は食事するにも繁殖するにも人間の男の人の精が必要なんです」
「……本当かよ。まぁ、お前は嘘がつけるような奴じゃ無さそうだしな。
しかしそれが本当なら、教会の教えもいい加減だなぁ」
「あ、家が見えてきましたよ」
「そうだな。……おかえり、リコ」
「あ……。ただいま帰りました。ご主人様」
……………………
………………
…………
……
まだ朝日も昇りきらない早朝。カーテン越しに差し込むわずかな光が朝の到来を告げる。
ウルクは忌々しげに窓の方を睨みながら、シーツを被り直して隣の温もりを探す。
が、その腕はベッドの上で空を切る。身を起こして確かめるが、ベッドにはウルク一人きりだった。
冷たいベッドの上に一人きり。まさか昨日までの温もりは夢だったのだろうかと、ウルクは一人恐ろしくなる。
と、慌てて立ち上がりかける彼の耳が、小さな物音を捉える。
規則正しい、何かを叩くような音。台所から聞こえるそれは、恐らくまな板で何かを切る音だろう。
彼は立ち上がり、洋服を身にまとった。
シックな給仕服の上にエプロンをつけた少女が、台所でてきぱきと動き回っていた。
頭の上についた豚のような耳。お尻から生えたしっぽ。間違いなく、彼の愛しい連れ合いだった。
ウルクはこっそりと彼女に近づき、ぎゅっと後ろから抱き締める。
「ぷぴっ。なんだご主人様ですかぁ。ビックリしましたよぉ」
「お前がどこかに居なくなってしまったかと思って怖くなった」
「もう。どこにも行きませんよ。ご主人様のそば以外に、私の居場所なんて無いんですから」
彼女の首元に軽く口づけして、彼は近くの椅子に座って調理作業に戻るリコを眺める。
共に暮らすようになってから数週間。出会ったときに比べて、リコは大きく成長していた。
着る物にこだわりなど持っていなかったのが、進んで女性らしい格好をするようになった。
読み書きも出来なかったが、今では本も読めるし、手紙も書ける。
そして何より、料理を習いたいと望み、今ではウルクなどよりも遥かに上の腕前になった。しかしそれでもまだ満足せずに料理の本を読んで勉強を続けている。
「毎晩遅くまで一緒にしてるのに、いつもこんなに早く起きて料理していたのか」
「えへへ。魔物娘は精さえ補給できれば、ほとんど寝なくたって大丈夫なんです。それに」
リコは切った材料を鍋に入れてから振り返り、照れたように笑う。
「私、ご主人様と愛し合うのと同じくらい、ご主人様と一緒に美味しいお料理食べるのが大好きなんです。だから、お料理するのも大好きで」
独り暮らしの時に比べて食費は明らかに増加していた。けれどこの笑顔と、彼女の言う通り、二人で食べる食事の美味さに比べれば、そんなものはウルクにとっても些細なものだった。
「いつも、ありがとな」
「こちらこそ、です。待っていてくださいねご主人様。もうすぐ朝ごはんが出来ますから」
ウルクは顔をほころばせながら頷いて、しばらく彼女の後姿を眺めた。
「……様、ご主人様」
「ん……」
目を覚ましたウルクは、一瞬ベッドの上ではないことに困惑する。
「朝ごはん出来ましたよ」
「すまん。寝てしまってた」
「うふふ。可愛い寝顔でしたよ」
テーブルの上にはすでにたくさんの料理が並んでいた。とはいえ、どんなに大量の料理が並んでいたとしても、それがリコの作ったものなら全て食べきれる自信があった。
「さぁ。いただきましょう」
「ああ、いただきます」
手渡されたパンをちぎりながら、ウルクは何から手を付けるか思案する。
「そういえば、今日は町から行商人さんが来る日でしたね」
「あぁ、あのミノタウロスの夫婦か」
「出荷の準備、しておきますね」
「しかし意外と魔物娘って、こんな田舎にまで紛れ込んでいたんだな。お前が来るまで全然気が付いていなかったよ」
「街に遊びに行った時も、たくさんいましたね」
「あぁ。……美味いな、このポトフ」
「魔界産のいいお肉が手に入ったんです。実は、今日来る商人さんにもあるお薬をお願いしてまして……」
リコは、もじもじと指先を絡めながらウルクに上目遣いを送る。
「高いのか?」
「いいえ。そういう事じゃなくて……。その、今晩、楽しみにしててくださいね」
「ふふ。分かった、楽しみにしてるよ」
パンを頬張り、幸せいっぱいに笑顔を浮かべるリコ。盗み食いの犯人だった彼女が、まさかこんなに美しくなり、料理の腕も上達し、夜の方も床上手な素晴らしい嫁になるとは、ウルクも本当に予想外だった。
獣を捕まえるための罠で、こんなにいい嫁を捕まえられるなんて。
それも、自分が一生懸命作った作物に惹かれてやってきたというのだから、こんなに嬉しい話もない。
美味しくて上等な野菜や果物を作っていれば、もしかしたらまた何かいい事があるかもしれない。そう考えると、さらに仕事に対するやる気も湧いてくるというものだった。
「よし、今日も一日頑張るぞ」
「はいっ。頑張りましょー」
独りではなく、二人でなら、きっともっと良い物に出会えるだろう。
規模としては小さく、幾つかの果物や野菜を食べられてしまう程度のものではあったが、しかし農作業に行く度に手間隙かけて育ててきた作物が食い散らかされるのは気持ちのいいものではなかった。
いくら数が少なくとも、毎日続けば稼ぎにも響いてくる。
畑の周りに柵を張り巡らせたが、犯人は大型の動物なのか何なのか、簡単に壊されてしまってらちが明かない。
そこで牧場主の彼は知人の猟師に相談し、頑丈な罠を作ってもらうことにした。まだ駆け出しで蓄えも少ない彼にとっては決して軽い出費ではなかったが、これで作物の被害が無くなることを考えれば惜しくは無かった。
それに、罠猟を続けてかかった獲物を売っていれば収入の足しにもなる。長い目で見ればそちらのほうが良いとの判断だった。
かくして彼のもとに罠は届き、知人の助言のもと、犯人が通るであろう場所に罠は設置される事となった。
絹を裂くような悲鳴が聞こえたのは、まさに罠を仕掛けた翌日の早朝の事だった。
まさかこんなにすぐに結果が出るとは罠を仕掛けた本人でさえ思っても居なかったが、ともあれ何かが罠にかかったことは確かなようだった。
彼は急いで着替えと準備をして、罠を仕掛けた場所に走った。
まだ日は山間に顔を隠したまま、東の空がすみれ色に染まり始めていた。冷たく少し湿った空気を切って走るうちに、意識もすっきりと研ぎ澄まされていった。
果たして作物を荒らしていたのは何なのか。イタチか狐か、それとも猪や鹿か、あるいは甘いもの好きの狼か。
罠を作った本人によれば、仮に熊が掛かっていたとしてもそう簡単には外れないとの事だ。止め刺しの方法も色々と教えてもらってある。何が掛かっていたとしても、あとは正体を突き止めて仕留めるだけだ。
遠くから、土を掘り返そうとするような、地団駄を踏むような音が聞こえてくる。
罠を仕掛けた辺りで何かが暴れている。
獲物は彼が考えていたよりも大きかった。鹿よりは大きく、しかし猪にしては小さかった。
土や泥で薄汚れてはいるものの、毛皮で覆われているようには見えなかった。
どこかの牧場から逃げ出した豚でも迷い込んでいたのかもしれない。彼のそんな予想は、獲物に近づきその様子がはっきりするに連れて確信に近づいてゆく。
誰かの所有物となれば、そう簡単に殺してしまうわけにもいかなくなる。骨折り損かと落胆しかける彼だったが、しかしと考えなおす。
無事保護したと牧場主に返してやれば少しくらいは礼金がもらえるかもしれない。そうなれば、どうやって傷つけずに捕まえるかが問題だが……。
段々と獲物の姿が近づいてくる。その姿は、しかし近づいてよくよく見てみれば彼が予想していたものと大きくかけ離れた形をしていた。
思っていた以上に胴体が細く、そして手足が長く太かった。どう見ても人間にしか見えなかった。
ひどく汚れてはいたが肌は血色の良い桃色をしており、洋服と呼ぶのもはばかられる程に大雑把なものではあったが胸元と股ぐらには毛皮が蔦でくくりつけられていた。
そしてその足首には、罠に掛かった獲物を捕える頑丈な鎖の仕掛けがしっかりと巻きついていた。
「ふえぇ。なにこれぇ。とれないよぉ。ぷぴぃっ」
なるほど。と彼は合点する。
道理で聞こえてきた悲鳴が、獣の雄叫びにしては可愛らしい声だったわけだ。
犯人は野生の獣でもなければ、どこかの牧場の逃亡者でもなかった。腹を空かせたこそ泥の小娘だったというわけだ。
彼はため息を吐きながら歩みを緩める。
罠の支払いの足しのあても無くなってしまった。見たところ若い娘のようではあるから、人買いにでも売ればそれなりの値にはなるだろうが、いくら盗人相手でもそれはあまりにも気の毒だろう。
とにかく手足を縛って話を聞こう。後のことはそれから考えればいい。
盗み食いの犯人に近づきつつ、彼はふと疑問に思い始める。彼女の身体が汚れすぎているのだ。それも、不自然なほどに。衛生状態に気を使えない山賊や盗賊にしても、もう少しまともな格好をしていてもいいはずだ。
おまけに頭に何か妙なものを乗せている。帽子にしては小さく、腕や足の動きに合わせて時折動いている。
どことなく、豚の耳のようにも見える。
嫌な予感を抱きつつ、彼は少女のおしりを確認する。
そこから生える細く短い尻尾を見つけて、彼は表情を引きつらせた。
それと同時に少女の動きが止まる。ゆっくりと振り返る彼女と、目が合ってしまう。
「あぁ、ちょうどいいところに人間のお兄さん。ねぇねぇこれ外してよ。足に絡まっちゃって取れなくなっちゃって」
少女は助かったとばかりに、ほっと表情を緩ませた。
「ほう、それは災難だな」
耳を確かめるべく助ける振りで近づきつつ、彼は顔をしかめた。
彼女の身体が臭うのだ。独特の獣臭と、汗が乾いたような臭い、そして泥や草いきれが混じったような何とも言えない強い臭いがした。
髪の毛も脂で固まって、まるで枯れ草の塊が乗っているようだ。
巻き付いた鎖に気を取られていることをいいことに耳に触れてみると、それは柔らかく、ほのかに温かかった。やはり、耳のようだ。
人間ではない。
豚の魔物。おそらく、オークの雌だろう。
雌の魔物が増えているという話は聞いたことがあったが、魔物という物自体、実際に見たのは初めてだった。
「この前から柵は出来るし、今度は罠。人の通り道にこんなもの仕掛けて、酷いと思わない? こっちはいい迷惑だよぉ」
「そんな酷い奴がいるのか。困った奴だなそりゃ。見つけて懲らしめないといけないな。
……ところで、ここはよく通るのか?」
「うん。この先に美味しいリンゴや野菜がなってるんだ」
「自然になっているものなのか」
「多分人間さんが作ってるんだと思うけど、たくさんあるからちょっとくらいもらったって平気だよ。そうだ。せっかくだからお兄さんも一緒に貰っていこうよ」
彼はにこにこと機嫌良さそうに笑いながら頷いた。
「美味いリンゴか、楽しみだな。どうせなら一緒に食べないか?」
「うん! 罠はびっくりしたけど、お兄さんと仲良くなれそうで良かった! 私はリコ。よろしくね!」
屈託なく笑うリコに対して、彼は笑顔を崩さずに頷いた。
「俺はウルク。よろしく頼む」
「ウルク。いい名前だね! それにしても本当にびっくりしちゃったよぉ。下手したら怪我してたところだった。仕掛けた人の顔を見てみたいよ」
「そいつを見つけたらどうするんだ?」
「同じ目に合わせてやるの。縛り付けて身動きできないようにして、好きなだけ犯してやるんだぁ。
ぷぴぷぴっ。『許して下さい。何でもします』って言っても許してあげない。私がしたいときにする性奴隷にしてやるんだから」
ウルクは腕を組み、神妙な顔で頷く。
「俺もこの間から、よく分からんやつに酷いことされてばかりだったんだ。お前の気持ちもよく分かるよ。危うく怪我するところだったんだもんな。そのくらいの目に遭わせたって当然だよ」
「ありがとう。ウルクは話が分かるいい奴だ!」
「……しかし、罠を仕掛けたやつは意外と近くにいるかもしれんぞ」
「うん。でもまずは先にこれ外してくれる?」
自力では罠を外せないらしいリコの様子を見て、ウルクは策を思いついてにやりと笑う。
「いや待て。ここは作戦を立てよう。きっと罠を仕掛けたやつは明るくなったら罠の様子を見に来るはず。
そこでだ。俺が先に気がついて、お前を捕まえたという話にするんだ。ゆるく腕を縛っておいて、相手が油断したところでそれを外して襲いかかる。どうだ」
「ぷぴぃっ! それ面白いよ! いいかも! ウルク、すぐに腕を縛って!」
素直に両腕を差し出す少女の姿に、ウルクは少々拍子抜けしながらも頷いた。
「……あぁ、任せておけ」
持ってきていた荒縄で少女の両腕を縛り上げる。遠慮せずに、力いっぱい締め上げた。
「ちょ、ちょっとウルク。少し痛いよ。これじゃあ解けなくなっちゃう」
「それでいいんだよ」
「どうして? あ、分かった。ウルクが途中で助けてくれるんだね」
「いや、お前にもう助けは来ない」
首を傾げる少女に対し、ウルクは自分を指差してみせる。
「罠を仕掛けたのは俺だ。最近、俺の育てた果物や野菜を盗み食いをする奴が居るみたいだったからな」
表情を無くし、みるみる顔色を青ざめさせるリコを、ウルクは冷たい笑みで見下ろした。
「あ、ああ、あの。わ、私じゃありません。食べてません。こ、これは何かの間違いで」
「この先にあるリンゴ、なんで美味しいって知ってるんだ? ん?」
「そ、それは……」
「掛かった獲物は、さばいて売る予定なんだよ。不届き者が商品を盗んでいくお陰で、売上が減っていてなぁ」
ウルクが背中に忍ばせていた大型の狩猟用ナイフを見せびらかすように引き抜くと、息を呑むような小さな音が聞こえた。
「まさか魔物がかかるとはなぁ。……さて、どうするか」
少女の瞳に涙が溜まっていく。
一見するとしおらしい様子に見えなくは無いが、しかしウルクは油断しなかった。
オークは強いものには媚びへつらい、弱いものには威張り散らすと聞いている。こちらを油断させるための演技でないとも限らないのだ。
「ゆ、許して下さい。何でもします。だから、殺さないで」
「『許して下さい。何でもします』って言った相手を、お前はどうするって言ってたっけなぁ?」
リコの口から、小さな悲鳴が漏れる。見開いた大きな瞳に涙が満ちる。
「あ、あなたの奴隷になります。代わりにいっぱい働きます。何だってします。靴でも足でも何でも舐めます。お望みならば性奴隷にだってなります。好きなときに、好きなように犯してくださって結構です。だから、だからどうか命だけは助けてください」
「まぁ、魔物とは言えこの手で命を奪うのは気が引けるな……」
表情を明るくするリコに、ウルクは歯を見せて笑いかける。
「教会につき出すか」
彼女は言葉を失い、絶望的な表情でウルクを見上げ、そして。
ぐううぅぅ。
と、腹の虫を鳴らした。
直後、彼女は顔を真っ赤に染めてお腹を抑え、そして今更腹の音をかき消そうとするかのように泣きわめき始めた。
「うわぁぁぁん。だってどうしようもなかったんですぅ。お腹が減ってお腹が減って、そのへんの草じゃもう耐えられなくて、そんな時に美味しそうなリンゴがあって……。食べたら本当に美味しくてたまらなくて。もちろん一回だけで我慢するつもりだったんです。でも、一度あのリンゴを味わってしまったらもう忘れられなくて、ダメだって分かってても身体が勝手にここに向かっちゃうんですぅ。お腹が空いてて美味しくて我慢できなくてとにかく食べたくてしょうがなかったんですぅ」
ウルクは一生懸命弁明する彼女の言葉を呆れたような表情で、しかし最後まで言葉を遮ることはせずにしっかりと聞いてやった。
「そんなに美味かったか」
「はいぃ。あんなに美味しい物、初めて食べましたぁ」
緩みそうになる顔を無理矢理強面にしようとするせいで、ウルクの顔は余計に不気味さを増してゆく。
「そうか。だが盗み食いは盗み食いだ。お前にはしかるべき罰を受けてもらう。だが、その前に、少しお楽しみといこうじゃないか」
大きなナイフを片手に、ウルクは怯える少女に歩み寄ってゆく……。
それからどれくらいの時間が経っただろうか……。
「ぷぴぃっ。ダメ、もうダメですぅ。こんなにたくさん、入れられてっ、おなかが、熱くなってますぅ」
人気のない森の中の農場に、若い娘の嬌声が響き渡っていた。
「そんな事を言って、まだまだ入りそうじゃないか。ほれ、新しいのを出すぞ」
リコはウルクが思っていたよりも従順に、彼の命令に従った。
抵抗するならそのままにしておくつもりだったが、邪魔だったので手枷もすでに外してある。お陰で、とても捗っていた。
「あぁっ。ダメなのに、もう限界なのにっ。お口が、勝手にぃ」
口元を白く汚しながら、リコはウルクが突き出したそれにむしゃぶりつく。
「こぼさず全部飲むんだ。いいな」
「は、はいぃ。ご主人様ぁ」
「それにしても、お前の欲求は底なしだな。俺もこんなに多くしたのは初めてだ。……それでも、ふふ、流石に限界か。見てみろ、腹の形が変わるくらいにぱんぱんだぞ」
「はうぅ。これ以上食べたら、お腹壊れちゃいますぅ」
「そうだな。流石に鍋二つ分もクリームシチューを食ったら流石に限界だろうな」
自宅の前の炊事場で空になった器を受け取りながら、ウルクは額の汗を拭う。
すでに洗い場には鍋が二つ転がっていた。どちらも先ほどまではウルク手製のシチューで満たされていたものだ。それがあっという間に、全てこのオークの少女の腹の中へと収まってしまった。
「これは何なんですか。初めて食べました」
「ミルクを使ったシチューだよ。うちの野菜を使ってる。美味かったか」
「はい! こんなに幸せな瞬間、生まれて初めてですぅ」
目を輝かせて見を乗りだすリコ。その臭いにウルクは反射的に後ずさりかけてしまうが、何とか耐えて踏みとどまる。
「群れからはぐれてずっと一人で食べるものも食べられなくて……。あぁ、生きるって素晴らしいです!」
「そりゃ良かった」
「でも驚きました。まさかご主人様が魔法使いだったなんて」
「……は?」
「……え? このとびきり美味しい食べ物、魔法で出したんですよね?」
残り物の野菜の切れっ端や傷みかけの肉をぶつ切りにして、目分量の味付けで適当に煮込んだだけのものを魔法扱いされては、世界の誰もが大魔法使いになってしまう。
ウルクは苦笑いをしながら首を振った。
「俺はお前のご主人でもなければ魔法使いでもないよ。一人じゃ食べきれなくて、痛みかけたりで捨てる直前だったものを適当に料理しただけだ」
「いいえ! 私にとっては命の恩人です。助けていただいたこの命、私の全ては、もうご主人様のものなのですっ!」
「大げさな奴だなぁ。と言うか、まだ許すとは……」
「それにこんなに美味しい食べ物を作れるなんて。いずれにせよ魔法使い並みに凄い技術の持ち主ってことじゃないですか! 尊敬しちゃいますぅ」
「いや、このくらいの料理なら誰でも」
「そんなことありませんっ。ご主人様はすごい人ですっ」
芝居がかった口調ではあったが、さりとて先程の様子を見るに、演技が出来るほど器用でも頭の回りも良くは無さそうだ。
無邪気に目を輝かせる少女を前にしては、これ以上ウルクも意地悪を言う気にはなれなかった。
「分かった。分かった。そういうことにしておこうか」
ウルクは呆れたように肩を竦める。果たしてリコに対してなのか、これから自分が取る行動に対してなのかは、ウルク自身にも分からなかった。
「腹いっぱいになったか? そしたら、今回は許してやるから、家に帰れ」
目を丸くするリコに、ウルクは反論を許す間もなく続ける。
「まぁ、色々怖がらせたり意地悪もしたしな。少しは懲りただろう。だから今回はこれぐらいで勘弁してやる。
ただし、今回だけだぞ。美味しいリンゴは、誰かが一生懸命作っているんだって分かっただろ。だから金輪際、無断で盗み食いするのはやめろよ」
言われていることが理解できているのかいないのか、リコはぽかんと口を開けたまま、呆然とウルクを見上げ続ける。
「……あー。もし腹が減ってどうしようも無くなったらうちに来い。このくらいの飯なら食わせてやるよ。その代わり、食い物の分は働いてもらうけどな」
「どうして」
「ん」
「どうしてそんなに優しくしてくれるんですか」
ウルクは言葉を詰まらせる。それから地面を見て、空を見上げて、リコから顔を背けてぶっきらぼうにこう言った。
「リンゴや野菜、美味いって言ってくれただろ。……あんな風に言われたの初めてだったんだよ。嬉しくて、さ。だから。
……って、おい。どうしたんだ」
ウルクが少し目を離している隙に、リコがぽろぽろと涙を流し始めていた。
大粒の涙が溢れるたび、頬の汚れが溶けて涙の筋が出来る。
「わ、私も、こんなに優しくされたの、は、初めてで。群れからはぐれてからずっと一人で。どこへ向かえばいいかも分からなくって。人間からは石投げられたり、怒鳴られたり、臭いって言われて、近づけなかったし……。う、ううぅ」
ウルクは幾度も頷き、震える少女の肩に手を置こうとする。が、やはり身体の汚れが気になり置き掛けた手をそっと戻した。
人の形をして人の言葉を話すせいか、ウルクはどうしても彼女のことを凶暴な魔物として見ることが出来なかった。人間の、ただの不憫な少女のように見えてしまうのだ。
しかしだからこそ彼女の汚れや臭いを余計に身近なものとして感じてしまう。石を投げたり怒鳴る気にもならないが、やはり臭いものは臭かった。
「ご主人様!」
パッと顔を上げて見つめられ、ウルクは内心を誤魔化すように笑顔を作る。
「これまでの罪の償いと、美味しいご飯のお礼をさせてください」
リコはもじもじと身体を縮ませながら、自らの身体に巻き付けている蔦の結び目に手をかける。
「何も持っていない私には、こんなものしか捧げられませんが……。私の身体、好きにしてください」
少女の体にへばりつくようにくっついていた毛皮と蔦が剥がれる。足元に転がったそれは、もはや衣服というよりゴミのようにしか見えなかった。
全身あますところなく泥や脂で黒く、茶色く汚れている女の身体を前に、ウルクは小さく唸った。
一瞬、躊躇した。だが目の前の身体を見ても何も感じない事に至って、自分の欲求に従うことに決めた。
「……言ったな。お前の身体、本当に俺の好き勝手にしていいんだな。何してもいいんだな」
「え、あの。いいです、けど。何をするんですか? まさか、痛いこと? それは、えっと……」
あまりにも真剣なウルクの視線にリコは一瞬たじろいだが、ウルクは聞こえないふりでにっこりと笑った。
「なら、好きにさせてもらおうか。全身、あますところなく、すみずみまで、な」
「ひっ。いやぁ……。こんなところで、本当にしなくちゃだめですか」
「俺の言うことは聞くんだろう。いいからやるんだ」
「こ、こうですか」
「そうだ。もっと丁寧に。指を上手く使え」
「ん、んんんっ」
「これを使えば、もっと良くなるぞ」
「ふえぇ。ぬるぬるしますよぉ。あぁっ。でも、これぇ、いぃですぅ。すごいですぅ。こんなの初めてぇ」
「ふふっ。そうだろう。一度知ってしまったら、もうこれ無しには生きられなくなってしまうだろう。
ほら見ろ、汚い汁がたくさん出てきたぞ」
「ぷぴぃ……。恥ずかしいですよぉ」
「でも、気持ちいいんだろう」
「……はい。気持ちいい、です」
「もっとしたいか」
「もっと、したいです。気持ちよくなりたいですぅっ」
「仕方ないな。直接俺がこの手でやり方を教えてやろう」
「ご、ご主人様……。あっ」
農場からほど近い小川のほとり。男と女の声を除けば、川のせせらぎの音以外、獣や小鳥の鳴き声さえも聞こえない。
川の水に足を浸して、一糸まとわぬ姿で立ち尽くすリコへと向かって、ウルクは躊躇なく迫ってゆく。
彼女は戸惑うように瞳を揺らしたものの、最後には覚悟を決めたように目をつむり、彼に身体を預ける。
ウルクは、その足元にあった桶から石鹸水に浸された布を拾い上げると、軽く絞ってから無造作にリコの背中を擦り始める。
「ぷぴっ! ご主人様、ちょ、ちょっと痛いです。そんなに強くしないでくださいぃ」
「これぐらいやらないと汚れが落ちないだろうが。お前もちゃんと力を込めて自分の体を拭け」
泥汚れや堆積していた汗や脂や垢で、すでに二人の足元の水は黒々と濁ってしまっている。川の流れで洗い流される以上の量の汚れがリコの身体から出てきているのだった。
「や、やってますよぉ」
「ほぉう?」
ウルクは挑発的に笑うと、先ほどリコが洗っていた部分、二の腕を指で擦った。
まだ薄黒い表皮がぼろぼろと剥がれて指にへばりついた。目の前にその指を曝されると、リコは初心な少女のように頬を染めて目をそらした。
「女の子の恥ずかしいところ、そんなに見ないでください」
「恥ずかしいという自覚があるなら、しっかり洗え。造形も良さそうなんだから、顔もしっかりな」
ぶつくさ言いながらも、ウルクは彼女のうなじから腰の辺りまで、泡立った布で丹念に汚れを拭き取ってゆく。
川の水は一気に黒く汚れていくが、代わりに少女の肌は文字通り磨き上げられるかのように本来の美しさを取り戻していった。
血色の良い健康的な肌色を取り戻し、触ればつるりと滑らかで、水滴も玉のように弾く肌理細やかな肌があらわになる。
ウルクは満足気に一息つくと、改めて自分の目の前の無防備な女の背中を見下ろした。そしてその予想外の艶めかしさに初めて気が付いて、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「背中、終わりましたぁ?」
「あ、ああ」
「私も、腕と足は終わりましたよぉ。ほら、見てください。綺麗になったでしょ」
なまめかしい女の手足を差し出されて、ウルクは一瞬たじろぐ。
「見違えるようだな。綺麗だ」
「試しに触ってみてください」
さっきまでの勢いはどこへ行ったのか。ウルクは躊躇いながら、恐る恐るといった手つきで少女の肉付きのいい腕に、太ももに触れる。
どちらももっちりとした触り心地で、柔らかくありながらも確かな弾力で彼の指を押し返す。
リコはそんなウルクの様子を見て、汚れたままの顔をくしゃくしゃにする。
「まだ顔が汚れてる。それに胸、腹、尻、あと股の間。念入りに綺麗にするんだ」
「はーい」
リコは言われるままにむにゅむにゅと胸を揉み始める。ウルクは慌てて目を逸らした。
洗うのが楽しくなってきたのか、リコは鼻歌さえ歌い始める。
ウルクは途中までは黙ってそれを聞いていたが、そのうちじっとしているのも耐えられなくなり、大きく息を吐いて彼女の頭に布を置いた。
「ひゃん。冷たいですよぉ」
「大人しくしてろ。髪を洗ってやる」
「えへへ。ありがとうございます」
まずは石鹸水の付いた布で髪の毛に付いている汚れを落とす。背中の時に負けず劣らずすぐに布が真っ黒になるが、その分髪の毛も本来の色を取り戻してゆく。
枯れ葉が乗っているだけのような頭だったのが、ようやく赤茶けた髪が生えている程度には見えてくる。
それからウルクは、耳に水が入らないように気をつけながら髪の間に指を入れて頭皮を揉むように洗い始める。
垢や脂が大量に出てくるが、幾度も水で洗い流しながら続けていくうちに、更に髪の毛も柔らかく、艶やかになっていった。
そして汚れが出なくなる程洗ったあとに残ったのは、陽の光を明るく照り返す少し癖のついたストロベリーブロンドだった。
「磨けば光るとはよく言うけど、こりゃすごい」
ぽろりと漏らすように呟きながら、ウルクは綺麗になったリコの髪を撫で続ける。
濡れてはいても、上等な絹のようにさらりとした触り心地で、桃色の髪は透き通るようだった。
いつしかウルクはその髪に触り、眺めるのに夢中になっていた。気を取られすぎて、自分のことを呼ぶ声さえ気が付かなくなってしまうほどに。
「ご主人様。ご主人様ってばぁ」
「え、あ。悪い。何だ?」
川の水面に揺れる陽光が、丸みを帯びた肉感的な女体を照らし出していた。
言葉を失っているウルクの前で、リコはくるりと一回りしてみせる。
柔らかな木漏れ日、肌の上の水滴がきらきらと輝く。目鼻立ちの整った、可愛らしい女の子がそこにいた。
はしばみ色のぱっちりと大きな瞳。ふっくらした色っぽい唇。鼻はちょっと上を向いているが、そこがまたあどけなく可愛らしい。
肌の色は健康的に血色が良く、頬は少し興奮しているのかほんのり赤く染まっていた。
赤みがかった金髪に掛かる大きな裸の耳をぴょこっと動かして、彼女は白い歯を見せて笑った。
「綺麗になりました。とっても気持ちよかったです」
いつしかウルクは目の前の少女の身体から、陽の光を照り返すその肌から視線を離せない。
肉付きのいい二の腕、片手では収まりきらない豊かな乳房、程よくあぶらの乗ったお腹、蠱惑的な曲線を描く腰回り、むっちりした太もも。
「ご主人様が用意してくれた道具で歯も磨いたんですよ。口の中もすごいすっきりしました。って、聞いてますかご主人様?」
「あ、ああ。そりゃ、よかったよ」
いつの間にか、ウルクの顔も赤く染まり始めていた。
ウルクはまだ若い。早く独り立ちをしたいからと勉強や仕事に打ち込んでばかりで、女を知るどころか一緒に遊ぶことや、ちゃんと手を繋いだことさえまだなかったのだ。
ズボン越しに下半身にも変化が起こっていたが、リコも、ウルク自身でさえ気がついていなかった。
「本当に、ありがとうございます。こんなに良くしてくれた人、ご主人様が初めてです」
そのリコの表情に、ウルクは返事もまともに出来なくなるほど見惚れてしまう。
まるで全身が心臓になったかのように、鼓動がウルクの体中に響き始める。自分自身でさえもよく分からない激しい感情が身体の奥から湧き上がってくるが、しかし身体はそれとは反比例するように緊張し、動かなくなってしまう。
「そうだ。今度はご主人様を綺麗にしましょう。私も手伝いますからっ」
「お、おい」
リコは無邪気に抱きつくようにウルクの腕を取る。
「ちょっと、待っ。あっ!」
が、ウルクは未知の感覚で身体も心も強張っていた。濡れた石に足を取られて、リコを押し倒そうとするかのように倒れこんでしまう。
静かな川沿いに、大きな水の弾ける音と男と女の悲鳴が響き渡った。
「へっくし」
小川のすぐ側。日当たりの良い原っぱではあったが、しばらく休んでいても濡れた衣服はなかなか乾く気配は見せなかった。
それどころか風が吹くたび身体が冷やされ、ウルクは何度もくしゃみをしていた。
「ご主人様。やっぱりその服脱いで乾かしたほうがいいですよ」
「いや、大丈夫」
「でも、このままじゃ風邪を引いてしまいますよぉ」
先ほどまで身体を洗っていたリコは、今は裸体の上にウルクが用意していたシーツをまとっていた。
もともと身に着けていた汚れた毛皮を着せるわけにもいかず、かといって一人所帯のウルクの家には女物の服も無く、とりあえずの妥協点がこれだった。
ウルクはなるべくリコの方を見ないようにしながら、身を縮めて少しでも身体を温めようとする。
「じゃあ、急いで帰って暖を取りましょう」
「それが、ちょっと障りがあってまだ立てないんだ」
いちいちリコが心配そうに顔を覗き込んでくる。そのたびの彼女の肌が視界に入って来るため、ウルクの言う『障り』はいまだ収まる気配を見せなかった。
「まさか、転んだ時に怪我を? なら、私がご主人様を背負って帰ります! こう見えても力には自信があるんです!」
リコはそう言って胸を張る。その豊かな乳房が見事に揺れて、シーツから零れ落ちそうになる。
「ね? ご主人様。遠慮せず私を使ってください」
「え、あ、あぁ」
ウルクははっと我に返る。いつの間にか、彼女の身体に、笑顔に魅入られてしまっていた。
「で、でも大丈夫だから。本当に、怪我はしていないから」
「じゃあどうしてこんなところに?」
ウルクは目を泳がせ、しばし黙考した挙句、小さい声でこう言った。
「ちょっと日光浴をな」
「寒がる日光浴なんて聞いたことありません」
リコは腰に手を当て、頬を膨らませて宣言する。
「ここから動かないなら、力ずくでも脱がしますからね」
「ちょっと待て。色々良くしてやっただろ? 俺の言う事を聞くんだろう?」
「それとこれとは別です。恩人が病気になるかもしれないのに、黙って見過ごすことなんて出来ません!」
ウルクの身体にリコの手が伸びる。彼は抵抗を試みるが、リコ本人が言っていたように彼女の力は意外と強く、そして動きも素早かった。
あっという間にシャツを脱がされ、上半身を裸に剥かれてしまう。
「さぁ次は下を脱がしますよっ」
続いて彼女の手がズボンに掛かった。ウルクは慌てて股間を抑えるが、やはりその力と技の前には無力だった。
剥ぎ取られた衣服は丁寧にしわを伸ばされて、日当りのいい場所に広げられた。
「これでシーツにくるまって一緒に温まりましょ」
一仕事終えたと言わんばかりの満足げな顔で、リコはウルクを振り返る。
「ね、ごしゅじん……さ、ま」
そして、彼の身体の変化に気が付き、言葉を失った。その頬もみるみるうちに赤くなってゆく。
「え、あの、えっと、その」
「み、見るな」
「は、はい。いえ、でもぉ」
リコは視線を彷徨わせる。言われたようにそこを見ないように努めているようだったが、どうしても気になるらしく何度も何度も視線が往復している。
ウルクの股間。黒々とした茂みの奥から、男の両の手でも隠し切れない太く大きな巨木が生えていた。
「す、すみません。でも、気になって……」
もはや隠す気も無く、リコはじっくりとウルクのそこを凝視する。ウルクは恥部を隠そうとするが、頭を隠せばお尻が隠せないといった状態で、いくら手を動かそうが状況は全く変わらなかった。
しまいには、もう隠すことさえあきらめてしまう。
「違うんだ。これはな」
「わ、分かっています。いいんです。何も言わないでください」
「だから、そうじゃなくて」
「ご主人様。言い訳はみっともないです」
代わりに弁明を試みるも、こうもぴしゃりと言われてしまっては、ウルクも黙るしかなくなってしまう。
「済まない」
「どうして謝るんですか。健康的な男の人なら、急にこういう風になってしまうことだってあるんでしょう?」
「まぁ、たまにはな。いやでも今回のは」
「どんな理由だって構いません。でも、今は私が居るんですから、私を使ってすっきりしてください」
シーツがはらりと地面に落ちる。綺麗になった女の肌を惜しげもなくさらして、リコは優しく微笑む。
「綺麗にしてもらったばっかりですし、清らかな身体ですよ。もちろん、病気なんて持ってません。何も心配されなくても大丈夫です」
「大丈夫じゃないだろ。お前、何言って」
リコが近づこうとすると、ウルクは後ずさる。しかしすぐに足がもつれて、ウルクは草原の上にしりもちをついてしまう。
「ご主人様のお手伝いをし、ご奉仕するのが、私の悦び。ご主人様に気持ちよくなっていただければ、私も嬉しいんです」
「だから言ってるだろ。別に俺はご主人様じゃない。大したことなんて何も」
「いいえご主人様、それは違います。
この命はウルク様に救われた命。この身体はウルク様に綺麗にしてもらった身体。ウルク様は薄汚い、盗人の私にも親切にしてくれた。人の心の温かさも教えてもらいました。
この身も心も、私の全てはウルク様の手で生まれ変わったんです。だから私の全てを、ウルク様に、私のご主人様に捧げたいんです」
「……そんな、大げさな」
声がかすれて、ウルクはそれ以上何も言えなかった。
リコはひざまずき、彼の下半身に身を寄せる。息がかかるほどに顔を近づけ、上目遣いに男を見上げる。
「ご奉仕、させてください」
潤んだ瞳は、ただ純粋だった。
ウルクは彼女の髪を撫でる。くすぐったそうにしながらも、彼女はひたむきに答えを待ち続けた。
いつの間にか乾いていた髪からは柑橘のような甘い香りが漂う。大きな豚の耳たぶはぷにぷにと柔らかく、温かかった。
彼はしばらく髪を触って考え続けた挙句に、ようやく低く唸って口を開いた。
「お、お、お前の、その」
「はい」
「お、おっぱい。大きくて、気持ちよさそう、だな」
ウルクは、目を輝かせながら次の言葉を待っているリコに向かって小声で命じる。
「そのおっぱいで、抜いてくれるか」
「はいっ。喜んでご奉仕しますっ」
リコは元気いっぱいの声で返事をして、身を乗り出した。
黒い茂みの上に、二つの大きな肌色の果実が乗せられる。太く大きくいびつな一本木を、その根元から挟み込んで押しつぶす。
果実は大きく、リコが両側から手で押さえると、茂みごと巨木を覆いつくしてしまう程だった。
自身を包み込むその感触に、ウルクは思わず嘆息する。
その吐息がくすぐったかったのか、リコは小さく笑った。
「気持ちいいですかぁ」
「あ、ああ。すごく気持ちいい」
「これからもっと気持ちよくなりますよ」
リコはいたずらっぽく舌を出す。唾液でてらてらと光るそこから、谷間に向かって糸を引きながら雫がこぼれ落ちていく。
「それじゃあ、動かしますね」
リコは両手で支えている重たげなそれを上下に動かし始める。谷間に落ちた雨水が隙間に染み込み滑りを良くしてゆく。
手の動きに合わせて乳房の形が変わる。その影から赤黒い亀頭が見え隠れする。
にちゅ、ぬちゅ、という淫らな音に、荒くなってゆく男と女の吐息が重なってゆく。
粘りを帯びた谷間の奥から、淫靡な匂いが立ち上り始める。
大きく息を吸い、頬を赤く上気させながら、リコはうっとりと目を細めた。
「がまん汁、出てきましたね」
「そう、か?」
「はい。唾液や、汗と混じって、すごい匂いです」
「確かに、いやらしい感じの匂いだな」
リコは眉を寄せ、心細げにウルクの表情を伺う。
「臭い、ですか? お嫌いですか」
「いや。すごくそそられる」
「よかったぁ」
ほっとしたように吐息を吐いて、リコは少しはにかんだ。
「えへへ。それじゃあもっともっと頑張りますね」
リコは左右の手でそろえていた動きを、今度は別々に不規則な動きで、挟み込んだそれをもみほぐすように変化させる。
先程までと変わった変則的な刺激に、ウルクはうめき声を上げる。
歯を食いしばりながら、気を逸らすようにウルクは再び彼女の髪に手を伸ばす。
「リコの髪の匂い、汗の匂いかな。最初は他の匂いがきつすぎて分からなかったけど、いい匂いだな」
「ご、ご主人様ぁ」
「顔だって、こんなに綺麗だと思わなかった。身体もこんなに色っぽいとはな。おまけにこんなことまでさせてしまって、色々もったいないな」
「全部、見捨てずに拾ってくださったご主人様のおかげです。綺麗になった顔も体も、今はもうご主人様のものなんですよ」
リコはほぅっと吐息を吐いて続ける。
「でも、ご主人様が勃起してくれてよかったぁ。おかげで、こうして恩返しを、ご奉仕をさせてもらうことが出来たんですから。
私のいいところ、少しは分かって下さいましたよね?」
「いいところも何も。……こうなったのも、お前のせいなんだぞ」
「え?」
顔を上げたリコの視線を真っ直ぐ受け止め、口ごもりながらもウルクは言葉をつなげる。
「こんなに可愛くて、綺麗な女の裸見たら、誰だってこうなるだろ」
「もしかして、私で?」
リコの両手にぐぅっと力が篭る。
締め付けが一気に強まり、ウルクはうめきながら腰を震わせた。
「リコ。急にそんなされたらっ。くぅっ」
堪えようとするが、止められなかった。
赤黒い亀頭から黄ばんだ白濁液が飛び散り、リコの頬に打ち付けられる。
「ああっ。もったいないっ」
顔にかけられたことなど全く気にせずに、リコは白濁を吐き続ける亀頭に食らいつく。
口の中の柔らかな肉に覆われ、舌で舐め回されるうちに、ウルクの射精は収まるどころかさらに勢いを増してゆく。
リコは唇と舌を使って、余すことなく精液を舐め取り、卑猥な音を立てながらすすり上げる。そして小さく喉を鳴らしながら、ウルクの放つものを嚥下してゆく。
十を超える脈動の末、ようやく射精が落ち着いても、リコは尿道に残った精液さえ掻き出そうとするかのように舌を動かし続ける。
「リコ、もう、いいから」
名残惜しそうにウルクのそれから口を離した後、今度は顔についた精液を指で取る。
その後もしばし指を舐めるのに夢中になっていた。そしてウルクも、そんな少女の艶めかしい姿に見入ってしまっていた。
「ふぅっ。ごちそうさまでした。ご主人様の精液、とっても美味しかったです。
ご主人様は、ご満足いただけましたか」
「あぁ。ありがとう」
ウルクに髪を撫でられて、リコは嫣然と微笑んだ。
「実は、もう一つお返ししたいことがあるんです」
ウルクの身体の上から離れ、リコは急に神妙な顔になってウルクを見つめる。
「おいおい。恩返しはもう十分だよ」
「いいえ。だって私だけ見せてもらって、精液をもらったんじゃ、申し訳が無いですから」
リコはウルクの正面に移り、膝を立てて腰を下ろす。そしてゆっくりと、その膝を開いてゆく。そのまたぐらを、ウルクの眼前に捧げる。
「ご主人様のご立派な一物を見せてもらったんですから、粗末なものですけれど、私のものも、よかったら見て、ください」
彼女は太もも、脚の付け根に手を当てて、左右に広げて見せる。
にちゃりと音を立てて、鮮やかな桃色の淫らな花が咲いた。蜜で濡れた花びらが、日の光をてらてらと照り返す。
「リコ。こんなものを見せられたら」
「ご、ごめんなさい。……汚かった、ですか」
「我慢できるわけないだろ」
「ふぇ? あっ。ご主人様ぁっ」
ウルクは彼女の肩を掴み、力任せに押し倒す。
戸惑いの浮かぶ彼女の瞳を覗き込みながら唇を押し付けて、乱暴に舌を入れて中を引っ掻き回す。
「ん、んんっ」
片手は彼女の手を指を絡めて握りしめながら、もう片方の手でさっきまで自身を慰めていた乳房を揉みしだく。
その柔らかさ、指を押し返す弾力をさんざん楽しみ、可愛らしい乳首をつねって色っぽい悲鳴を上げさせると、やっと満足したかのように手のひらを滑らせる。
わずかに肉の乗ったおなかを撫で、おへそのくぼみをくすぐって、若草の生い茂る女の丘へ。そこに咲く花を、手のひら全体で可愛がる。
跳ねようとする少女の身体を自分の身体で押さえつけて、ウルクは花の奥の敏感な部分を撫でまわし、蜜の滴る穴の中へと指を忍ばせる。
唇を離すと、すぐにリコの口から甘ったるい喘ぎ声が漏れ出した。
「あぁ、ごしゅじ、あん。ごしゅじん、さまの、ゆびがぁ……。ぷぴぃっ、そ、そこはぁ」
「最初からすごく濡れているな」
「だって、はぁ、はぁん。あんな、こい、せいえき、あびたらっ」
「挿れていいか」
「はじめてが、わたし、なんかで、よろしければ。どうぞ、ごしゅじんさまの、すきに、すきなように、してください」
リコは空いている手をウルクの頬に添える。引き寄せられるように、再びウルクはリコに口づけする。
どちらからともなく舌を絡め合い、混ざり合った唾液を吸い合う。
ウルクは膨れ上がった怒張を、濡れそぼったリコの入口へとあてがう。問いかけるように幾度かその先端で割れ目をなぞると、受け入れるかのようにリコはその手を彼の背に回した。
ウルクはゆっくりと腰を落としてゆく。熱を帯びた肉の柱が、それよりさらに熱くたぎる柔襞の渦の中に飲み込まれてゆく。
口を離して、ウルクは強くリコを抱き締め、深く彼女の中に沈み込む。
「すき。すきです。あぁ、ごしゅじんさま、ごしゅじんさまぁ、だいすきです。すき。すきぃ」
「リコ。リコぉ……」
「あああっ。そこ、こすれるの、いいです、すきっ。すきぃっ。もっとぉ」
「リコの中も、すごくきついよ。吸い付いてくる、みたいだ」
お互いの繊細な部分を探り合うように、何度も何度も腰を寄り添い合わせる。やがてウルクの動きに焦りが見え始めると、リコはそのむっちりとした脚を男の腰に絡ませ、そして。
「リコ。もう、でるっ」
「ごしゅじん、さまぁ。いいですよ。わたしも、もう、いっ、いくっ、あっ、あああっ」
ウルクは震える腰をさらに奥へ奥へと押し付ける。リコの最奥に擦り付けられる彼の切っ先から、煮え滾った雄の熱が迸る。
一度射精しているにも関わらず、それをさらに超えるほどの量と勢いをもって、ウルクの欲望がリコの胎内に叩きつけられる。
一滴残らず注ぎ込もうとするように、受け止めようとするように、二人は固く抱き合ったまま、互いの背中に回した腕を、絡めた足を、離そうとしなかった。
やがて絶頂の波が引き、呼吸さえも落ち着いても、二人は互いのぬくもりを名残惜しむように寄り添い続けていた。
ウルクが再び乾いた服に袖を通したのは、すでにもう日が傾きかけようかともいう頃になっての事だった。
「さて、帰るか」
衣服を身に着けたウルクはリコを振り返るが、彼女は聞いているのかいないのか、土や葉で汚れたシーツを纏って、顔を近づけて音を立てて匂いを嗅いでいた。
「ぷぴぷぴ。いい匂い。私と、ご主人様の、初めての匂い……」
「おい。リコ」
「これ、洗わずにとっておきたいです。というか、ずっと身に着けていたいです」
「いや、だめだろ。せっかく綺麗になったんだから」
「だって私とご主人様の初めての記念なんですよ。一度で終わらず、何度も気持ちを確かめ合った証なんですよ。大事にしたいですぅ」
ウルクは照れるような恥じるような複雑な表情で頭をかきながら溜息を吐く。
衝動的にウルクから襲う形で始まってしまったまぐわいは、結局一度では終わらなかった。
そのあと興奮したリコが上になって交わり、やり返すように四つん這いにして犯し、そのあとも服が乾くまで時間があるからと、短い休憩を挟みつつもその後も欲に任せて快楽を貪りつづけた。
当然シーツはぐちゃぐちゃになり、せっかく綺麗になったリコの身体もまた少し汚れてしまった。
「わかったよ。捨てないでおいてやる。その代り、洗濯はするぞ」
「えー、洗っちゃうんですかぁ……。でも、取っておいてくれるならいいかなぁ」
「それじゃ、家に帰るぞ」
「そういえば、帰るって……」
「俺達の、家だよ。……俺はお前のご主人様なんだろ」
問いたげな顔で見上げるリコから顔をそらしながら、ウルクは頬をかく。
「言っとくけど、色々とこき使うからな。夜だってさっきみたいにいつ襲い掛かるかもわからん。家も小さい。それでも良ければ、行くとこ無けりゃうちに来い」
リコの顔がパッと明るくなる。立ち上がり、目を輝かせてウルクに飛び付いた。
「いいんですか! 嬉しいですっ!」
「まぁ、ここまでしてしまったしな。尻尾と耳を隠せば人間としても通じるだろ」
「えへへ。ご主人様。ご主人様ぁ」
腕を絡ませて、二人は歩き出す。
新しい家族を連れて、帰るべき家への道を。
「そういえば、何で俺が初めてだってわかったんだ」
「魔物娘ですもん。匂いで分かります。ご主人様の体内で凝縮されて熟成された精の味と匂い。一発で虜になっちゃいました」
「魔物娘か。魔物の雌ってことだよな」
「というか、今は魔物は雌しかいませんよ。随分前に魔王様の代替わりがあって、今はサキュバスが魔王様になってるんです。魔物は魔王様の影響を受けてみんな雌になって、今は食事するにも繁殖するにも人間の男の人の精が必要なんです」
「……本当かよ。まぁ、お前は嘘がつけるような奴じゃ無さそうだしな。
しかしそれが本当なら、教会の教えもいい加減だなぁ」
「あ、家が見えてきましたよ」
「そうだな。……おかえり、リコ」
「あ……。ただいま帰りました。ご主人様」
……………………
………………
…………
……
まだ朝日も昇りきらない早朝。カーテン越しに差し込むわずかな光が朝の到来を告げる。
ウルクは忌々しげに窓の方を睨みながら、シーツを被り直して隣の温もりを探す。
が、その腕はベッドの上で空を切る。身を起こして確かめるが、ベッドにはウルク一人きりだった。
冷たいベッドの上に一人きり。まさか昨日までの温もりは夢だったのだろうかと、ウルクは一人恐ろしくなる。
と、慌てて立ち上がりかける彼の耳が、小さな物音を捉える。
規則正しい、何かを叩くような音。台所から聞こえるそれは、恐らくまな板で何かを切る音だろう。
彼は立ち上がり、洋服を身にまとった。
シックな給仕服の上にエプロンをつけた少女が、台所でてきぱきと動き回っていた。
頭の上についた豚のような耳。お尻から生えたしっぽ。間違いなく、彼の愛しい連れ合いだった。
ウルクはこっそりと彼女に近づき、ぎゅっと後ろから抱き締める。
「ぷぴっ。なんだご主人様ですかぁ。ビックリしましたよぉ」
「お前がどこかに居なくなってしまったかと思って怖くなった」
「もう。どこにも行きませんよ。ご主人様のそば以外に、私の居場所なんて無いんですから」
彼女の首元に軽く口づけして、彼は近くの椅子に座って調理作業に戻るリコを眺める。
共に暮らすようになってから数週間。出会ったときに比べて、リコは大きく成長していた。
着る物にこだわりなど持っていなかったのが、進んで女性らしい格好をするようになった。
読み書きも出来なかったが、今では本も読めるし、手紙も書ける。
そして何より、料理を習いたいと望み、今ではウルクなどよりも遥かに上の腕前になった。しかしそれでもまだ満足せずに料理の本を読んで勉強を続けている。
「毎晩遅くまで一緒にしてるのに、いつもこんなに早く起きて料理していたのか」
「えへへ。魔物娘は精さえ補給できれば、ほとんど寝なくたって大丈夫なんです。それに」
リコは切った材料を鍋に入れてから振り返り、照れたように笑う。
「私、ご主人様と愛し合うのと同じくらい、ご主人様と一緒に美味しいお料理食べるのが大好きなんです。だから、お料理するのも大好きで」
独り暮らしの時に比べて食費は明らかに増加していた。けれどこの笑顔と、彼女の言う通り、二人で食べる食事の美味さに比べれば、そんなものはウルクにとっても些細なものだった。
「いつも、ありがとな」
「こちらこそ、です。待っていてくださいねご主人様。もうすぐ朝ごはんが出来ますから」
ウルクは顔をほころばせながら頷いて、しばらく彼女の後姿を眺めた。
「……様、ご主人様」
「ん……」
目を覚ましたウルクは、一瞬ベッドの上ではないことに困惑する。
「朝ごはん出来ましたよ」
「すまん。寝てしまってた」
「うふふ。可愛い寝顔でしたよ」
テーブルの上にはすでにたくさんの料理が並んでいた。とはいえ、どんなに大量の料理が並んでいたとしても、それがリコの作ったものなら全て食べきれる自信があった。
「さぁ。いただきましょう」
「ああ、いただきます」
手渡されたパンをちぎりながら、ウルクは何から手を付けるか思案する。
「そういえば、今日は町から行商人さんが来る日でしたね」
「あぁ、あのミノタウロスの夫婦か」
「出荷の準備、しておきますね」
「しかし意外と魔物娘って、こんな田舎にまで紛れ込んでいたんだな。お前が来るまで全然気が付いていなかったよ」
「街に遊びに行った時も、たくさんいましたね」
「あぁ。……美味いな、このポトフ」
「魔界産のいいお肉が手に入ったんです。実は、今日来る商人さんにもあるお薬をお願いしてまして……」
リコは、もじもじと指先を絡めながらウルクに上目遣いを送る。
「高いのか?」
「いいえ。そういう事じゃなくて……。その、今晩、楽しみにしててくださいね」
「ふふ。分かった、楽しみにしてるよ」
パンを頬張り、幸せいっぱいに笑顔を浮かべるリコ。盗み食いの犯人だった彼女が、まさかこんなに美しくなり、料理の腕も上達し、夜の方も床上手な素晴らしい嫁になるとは、ウルクも本当に予想外だった。
獣を捕まえるための罠で、こんなにいい嫁を捕まえられるなんて。
それも、自分が一生懸命作った作物に惹かれてやってきたというのだから、こんなに嬉しい話もない。
美味しくて上等な野菜や果物を作っていれば、もしかしたらまた何かいい事があるかもしれない。そう考えると、さらに仕事に対するやる気も湧いてくるというものだった。
「よし、今日も一日頑張るぞ」
「はいっ。頑張りましょー」
独りではなく、二人でなら、きっともっと良い物に出会えるだろう。
16/09/24 00:32更新 / 玉虫色