あなたの匂いに魅せられて
日本の夏は、いつからこんなに熱くなったのだろうか。
冷房が入っているはずのオフィスに居ても、座っているだけでもじんわりと汗がにじむ。昼休みをいいことにワイシャツの胸元を広げて風を送り込みながら、俺はため息を吐いた。
窓の外に目をやれば、無数のビル群がぬるりと光るアスファルトの上で太陽に炒められている。まるで世界がフライパンにでもなってしまったかのようだ。
何だか首元が痒いな。と思って見下ろすと、小さな赤い腫れが出来ていた。いつの間にかまた蚊に食われていたらしい。
「ったく。どこにいるんだ」
昔からあまり蚊には食われないたちだったのだが、今年はこの猛暑のせいか、なぜだか頻繁に蚊に食われる。
体質の為か、腫れはすぐに収まるのでそんなに実害は無いものの、何度も虫に刺されるというのも気持ちのいいものではない。
「蚊取り線香か殺虫剤でも買って帰るか」
昼休み終了五分前のチャイムが鳴る。昼飯を終えた女子社員がぞろぞろと戻ってきて、俺は急いで胸元を戻した。
「あ、先輩見ちゃいましたよー」
新人時代に指導していた後輩だった。急いでシャツを整えたつもりだったが、だらしないところを見られてしまった。
「その首、どうしたんですかぁ?」
長くつややかな髪は今時の若者には珍しい黒髪で、目もぱっちりと大きく、顔立ちも整っていて男ウケのいい女子社員だ。そういう女性はだいたい同性から嫌われがちだが、彼女の場合は性格も明るく快活で、女性からの評判もいいらしい。
会社では名字呼びされるものだが、彼女の場合は親愛を込めてか、苗字の『藪野』よりも下の名前で『詩舞香ちゃん』と呼ばれている。
新入社員の相談から年配社員の愚痴、仕事の出来不出来に関わらず誰に対しても真摯に聞いてくれる。本当にいい子だ。
そんな彼女に油断したところを見られてしまったと思うと、なんだか恥ずかしくなってしまった。
「藪野か。お疲れさん。蚊に食われてしまったみたいなんだ。痒くて我慢できなくてな」
「なんだ蚊ですか。ビックリしましたよぉ。あの痕に見えちゃいました。場所が場所ですし」
「何のことだかよく分からないが、まぁ大したことは無いんだけどな。しかしこの夏はよく刺されて参るよ。今日こそ蚊取り線香と痒み止めでも買って帰らないとなぁ」
「それなら私いいもの持ってますよ」
そう言って彼女は、カバンの中からピンク色の物体を取り出した。一見しただけだと何なのか分かりづらかったが、よく見てみればそれは非常になじみのあるものだった。
渦を巻いた線香と小さなスプレー缶。つまりこれは。
「はい。蚊取り線香と制汗スプレーです。新商品らしくてこの間買って使ってみたんですけど、効果がすごかったので、よければ使ってください」
「制汗スプレー?」
「はい。虫って汗の臭いに引き寄せられて来るみたいですから、汗を抑えるだけでも効果があるんです。それにこのスプレー新商品みたいで、制汗剤だけじゃなくてオーデコロンや虫除けしても使えるみたいなんですよ。これで悪い虫からもさよならですね。
結構いい匂いですから、今度は女の子が匂いにつられて寄ってきちゃうかもしれませんよぉ?」
「そりゃありがたいな。まぁCMじゃあるまいし、スプレーしたくらいじゃ変わらないだろうが。けど、知ってるか? 血を吸う蚊は雌だけらしいぞ」
「ふふ、すでに女の子にモテモテなんですね」
「まぁ相手は虫だけどな。とにかくありがとう。使ってみるよ」
俺は笑顔を返しながら、そのファンシーグッズみたいな虫よけセットを受け取った。
いつもどおりに安アパートに帰った俺は、まずは風呂で一日の汗と疲れを落とした。
下着姿のままで冷蔵庫から発泡酒とさきイカを取り出して、茶の間に腰を下ろしてテレビを付ける。
画面の向こうでは小奇麗な格好をした人達が笑ったり驚いたりしていた。だが、その内容は一向に頭に入ってこず、特段興味もわかなかった。
チャンネルを回してみても、何かのドキュメンタリーや、都市伝説がどうとかいう、本当かどうか分からない事を過剰に面白おかしく騒ぎ立てている番組ばかりだった。
感心するとすれば、その編集技法と映像技術くらいだろう。猫や昆虫や爬虫類の格好をした女の子が出てきたが、どれもただのコスプレには見えないほど自然だった。
魔物娘というらしい。ここ最近、テレビやネットでしょっちゅう見かけるようになった。いやはや、流行りというものはよく分からない。
とはいえ、あれは全てCGだろう。あんな生き物が現実にいるわけがない。
興が覚めてきて、いつもどおりにNHKにチャンネルを変えた。
別に面白いからと何かを見ているわけでも無いのだ。さりとて、無音の部屋に独りで居るのも耐えがたくてテレビを消す事も出来ない。
それに、ほかにやりたい事があるかと言えばそれも無い。
「はぁ……」
今日も何とか一日が終わった。そう思うと、無意識のうちにため息がこぼれていた。
ついでにげっぷが出て、そのにおいでふいに昼休みの藪野とのやり取りを思い出した。
「虫は汗の臭いに引き寄せられる、か」
腕を上げて脇の下に鼻を近づける。
夏場に一日仕事をしてきた後だ。におわないと言えば嘘になる。けれど臭いという程では無いと思うのだが、やはり自分で気がついていないだけだろうか。
「制汗スプレー渡されたってことは、そういうことなのかな」
虫の話はきっかけに過ぎなくて、普段からにおいが気になっていたからスプレーや線香を渡したとか……。流石に考えすぎだろうか。
発泡酒を呷って、大きく息を吐く。
ぼんやりとテレビを眺める。画面の時計は、すでに十時近くになっていた。
もともと帰りは遅かったが、一日は本当にあっという間だ。酒をもう一本飲んだら、あとは寝るだけだ。
何だか急に虚しくなってくる。誰かと話したい衝動に駆られるが、しかしこんな時間に急に連絡を取れる相手もいない。
昔から人付き合いは得意では無かった。人に合わせられない事もない。だが、大人数の中にいると疲れてしまう。
独りでいたほうが気が楽だ。けれど寂しくないかといえば、そういうわけでもない。我ながら矛盾していると思うが、人間なんてそんなものだろう。
孤独を忘れられるほど情熱を向けているものも特には無い。仕事は、やむなくやっているだけだ。
出来れば辞めてしまいたい。けれど辞めた後のあてもないし、転職したいと思えるほどにやりたい仕事も特にない。
だから急にこんな気持ちにもなる。
顔も良くない、仕事もぱっとしない、甲斐性もない。人付き合いも面倒くさいで、恋愛や結婚だって何年も前から諦めているというのに、周りからくさいと思われているのではないかと不安になる。誰からも、ありがたがられない存在なのではないかと。
……まさか自分は、藪野に言われたからショックを受けているのだろうか。
新人教育の時に色々と教えたことがあったから今でも気さくに話しかけてくれるだけだ。あれだけ可愛くて気立てのいい子なのだから、きっと恋人だっているだろう。
歳も離れているし、将来性も吊り合わない。
彼女に話しかけられれば嬉しいが、それは別に彼女にとって特別だからでは無い。何かを期待しても後で虚しくなるだけだ。そんなこと分かりきっているというのに。
何度目かのため息を吐きながら、さきイカを噛みしめる。
「……まぁ、体臭で周りを不快にするわけにもいかないしな」
肌着の下にスプレーを吹きつける。肌がさっぱりとし、甘い匂いが漂うと、少しは気分も和らいだ気がした。
「蚊に刺されなければそれでいい」
蚊取り線香に火をつける。これも新製品なのか、線香と言うよりはお香のような、ハーブのような匂いがした。
特に楽しいことでいっぱいなわけではないが、大きな不幸もない。何も得られないけれど、何も失われない平穏な生活。
大病も怪我もせず息災に生きているのだから、それでいいじゃないか。
線香は、小さな灯りとともに着実に灰になっていく。それを見ていると、しかしこのままでいいのだろうかとも思えてくる。人生だって、この線香と同じようなものなのではないかと。
「はぁ……」
考えてすぐにどうにもなることでもない。こんな事を考えているくらいならもう寝てしまったほうがいいかもしれない。
いつの間にか発泡酒の缶は空になっていた。ツマミのイカも無くなっている。
だが、ささくれだった気持ちのままでは寝るに寝られそうにない。
……となれば、やることは一つか。
テレビを消して、パソコンを付ける。
ネットでアダルトビデオでも見て、一発抜いてしまおう。そうすればすぐに気持ちよく寝られるはずだ。
いつものサイトを立ち上げて適当な動画を見繕う。別に高価なプレゼントや小難しいデートコースを考えなくたって、少し探すだけですぐにエロくてスタイルのいい美人は相手をしてくれるのだ。
……ただし、画面の向こうに手は届かないが。
動画を再生すると、画面の向こうから綺麗な女が笑いかけてくれる。
どこからか男が現れて女を好きなように弄び始める。喘ぎ声が聞こえ始めると、俺もすぐに勃起し始める。
脳裏に後輩の顔が浮かんだ。見たこともない彼女の乱れる姿が、聞いたこともない嬌声が、頭のなかに湧き上がる。
身近な人間をおかずにするなど最低だと思う。けど今以上の関係になるわけでは無いのだから、このくらい許されるだろうとも思う。
動画はクライマックスを迎えつつあった。
こちらも、あと少し。というところで。
ピーンポーン
突然、インターホンが鳴った。
ぎょっとして身体から出かかっていたものが全部引っ込み、しぼんでしまう。
こんな遅い時間に誰だろうか。電気は付いているが、出て行くのも面倒だ。
無視して居留守をしてしまおう。
と、再びビデオに集中しようとするのだが。
ピンポーン。ピンポーン。
流石に萎えてしまった。
よほど大事な用事なのか、それとも嫌がらせか。ともかく相手の顔を確かめてやろうと玄関に向かう。
覗き穴から扉の外を確かめて、頭のなかが真っ白になった。
「え。何だ、これ」
女の子が立っていた。長い髪を頭の左右で結んで垂らした、いわゆるツインテールの女の子だ。
この顔、どこかで見覚えが……。まさか。
「せーんぱーい。いるんでしょー。おはなししましょー」
今まさにおかずにしていた後輩だった。縞模様のニーソックスにホットパンツ、袖無しのパーカーという、いつものきっちりとした姿からは想像できない露出の多い服装ですぐには分からなかったが、やはりあの子に間違いない。
こんなに夜遅くに何の用だ。仕事の話にしては服装がラフすぎる。
と言うかやたらと陽気でテンションが高いが、どこかで飲んできた後なのか?
そもそもどうやってこの住所を知ったんだ。個人的に教えたことは無いはずなのだが……。
「せーんぱーい。入れて下さいよー」
「藪野なのか?」
「あ、やっぱり居た! そうですよー。お部屋に入れてくださーい」
何が嬉しいのか、声が楽しげに跳ね上がる。
「ちょっと待て、急に来られたって困る」
「入れてくれないと、私だって困っちゃいますよぉ。先輩にとっても大事な話をしに来たんですからぁ」
「大事な話?」
一体何なのだろう。
「いーれーてーくーだーさーいーよー。せんぱーい」
疑問は尽きない。だが、入れないわけにはいかなそうだ。この調子では帰れと言っても帰らないだろう。
声がどんどん大きくなっていて、このままでは近所迷惑で苦情が来る。
「ちょっと待て。今準備する」
「準備なんていいですよぉ。入れて下さいよぉ」
ドアノブを回す音を背中に聞きながら、急いで人前用の服を着込んで部屋を片付ける。
ドアを叩く音に急かされながら最低限の処置を終えて、鍵を外した。
「待たせたな」
「えへへー。待たされましたぁ」
彼女はニコニコ笑いながら、猫のようにするりと俺の脇をくぐり抜けて部屋の中へと入り込む。まるで実家にでも帰ってきたかのように当たり前の動きで。
「お前、飲んでるのか」
「飲んでないですよぉ」
わざとらしく鼻を鳴らして匂いを嗅いでみる。
予想していたアルコールの匂いの代わりに、甘い柑橘のような香りが鼻腔をくすぐる。
「ほら、お酒の匂いなんてしないでしょ?」
「あ、ああ」
今のはシャンプーか、それとも彼女自身の匂いか。どちらにしろおふざけとはいえ女性の匂いを嗅ぐのは、ちょっと趣味が悪かったかもしれない。
「へぇー。台所も結構綺麗にしてるんですねー」
彼女は今度はキッチンを物色していた。
「ん? まぁ、ろくに料理もしてないからな。というか、いきなり来てあまりじろじろと見るもんじゃないだろ」
「いいじゃないですかぁ。私と先輩の仲なんですし」
「どういう仲だよ」
「何も知らない無垢な私に、先輩のヤり方を色々と仕込んでくれたんじゃないですかぁ」
こんな意味深に聞こえる冗談を言う子だっただろうか。俺は肩をすくめながら、至って冷静に返事をした。
「仕事をな」
「あはは。じゃあ、今度私が料理作ってあげますよー」
「そうだな。誰かに食事を作ってもらえると助かる」
いつもと違い相手をするのが少し面倒な感じではあったが、その反面いつも以上にやたらと可愛く見える。なんだか調子を狂わされて、ついついそんな軽口を叩いてしまった。
どうせ明日には覚えていまいと彼女を見ると、彼女は微笑みながらも、やたらと真剣な瞳でこっちを見ていた。
「約束ですよ」
「あ……、あぁ」
年甲斐もなくどぎまぎしてしまい、かすれ声になってしまった。
「えへへ、それじゃあおじゃましまーす」
女性からこんな視線を向けられたのは初めてだ。
何なのだろう。一体。
と言うか、冷静に考えるとちょっとまずい状態なんじゃないのか。
何の目的で来たのかも分からない、明らかにいつもと様子の違う、しかも会社の後輩の女性を部屋に入れてしまうなんて。
美人局、とか。彼女に限ってそんなことは無いとは思うが……。
藪野はこちらの気持ちなど知らずに、勝手にベッドの上に腰掛け、パーカーの胸元を開けて手のひらでパタパタと空気を送っている。
「で、大事な話って何なんだ」
「話っていうか、何ていうか……。それより先輩、いつもこんなに暑い部屋に居るんですか? 熱中症になっちゃいますよ」
「窓開けて扇風機回してれば、エアコン無くても平気なんだよ。裸ならな」
「そっか。じゃあ裸になっちゃいましょうか」
パーカーの下のタンクトップを見せつけながら、彼女はいたずらっぽく笑う。俺は黙ってエアコンの電源を入れた。
「こんな時間に突然来たんだ。よっぽど大切な事なんだろう?」
彼女は脱ぎかけのままで動きを止め、目を細める。
「ええ。大切な事ですよ。今後の私と先輩に関わる、とっても大切な事」
初めて見る表情だった。彼女に限らず、これまで出会ってきた人間の中で、こんな表情を見たこと自体が初めてだった。
ただ可愛いとか、色っぽいとか、そういうものではない。
見る者の心を乱し、狂わせ、まるごと根こそぎ奪ってしまうような、艶然とした微笑み。
「私、先輩を誘惑しに来たんです」
「誘、惑?」
唇を舐める彼女の微笑みにただならぬものを感じて、俺の中で、何かが震え出した気がした。
「そう、誘惑です。私は先輩をたぶらかして、食べちゃうために来たんです」
彼女は楽しそうに言葉を重ねながら、俺の手を取り隣に座らせる。
「藪野。なんかお前変だぞ」
「もう、苗字じゃなくて、たまには他の人みたいに詩舞香って呼んで下さいよ、先輩」
彼女は俺にしなだれかかるようにしてしなを作る。タンクトップの胸元から溢れるように谷間が見えた。小さな二つのぽっちりが、膨らみの頂点で大きく主張している。
俺が慌てて目をそらすと、彼女は声を立てずに笑った。
「いいんですよ。そのために下着付けずに来たんですから」
「何を言っているんだ。おかしいぞお前」
「えっちな女の子は嫌いですか?」
「別にそんなことは……。いや、そういうことじゃなくてだな。やっぱり飲んできたんじゃないのか。香水か何かで誤魔化して」
「だから、飲んでなんていませんよって。でも、酔ってはいるかもしれませんけど」
詩舞香の顔が近づいてくる。詩舞香の匂いが強くなる。俺は咄嗟に、座ったまま後ずさってしまう。
だが、彼女はそれを良しとせずに、更にこちらに近づく。
「先輩の匂いに、くらくらしちゃってます」
「俺の、匂い? ……やっぱり、くさいってことか」
「もう先輩ったら。逆です、先輩の匂いは、とってもいい匂いなんですよ」
詩舞香は俺の身体にしがみついて、胸に顔を押し付けて匂いを嗅いでくる。深呼吸して、満足そうに吐息を吐き出す。
「あぁん。この匂い、たまらないです。ずっとこうしたかった。
ずっと好きだったんです。結構アピールしてたのに、全然気にしてくれないんだもん。もうちょっと普通に頑張ってみようとは思ったんですけど、もういい加減我慢できなくなっちゃって、だからこうして押しかけて来ちゃいました」
彼女が、俺を? 確かに色々話しかけたり、気にかけてくれる子だとは思っていたけれど。まさかそんな。
「冗談だろう?」
「たとえ百万円くれるって言われても、好きでもない人にこんな事しませんよ」
「一億円なら」
「同じことです。私達にとっては、お金なんて意味ないですから」
小学生のようなやり取りをしても仕方ないか。
「もっとかっこいいやつとか、面白いやつとか、仕事ができるやつなんていくらでもいるだろう。悪いことは言わないから、もっといい人を探した方がいいんじゃないか?」
至極当然のことを言ったつもりだったのだが、彼女はむくれて頬を膨らませる。
「少しは素直に喜んでくれたっていいのに。人間って変なこと気にしますよね。私は先輩が好きなんです。面白いとか仕事とかお金とか関係ありません。先輩じゃなきゃ嫌なんです」
「けど、俺なんて何の取り柄も無いんだぜ。騙されているのかと思うじゃないか」
「そんな言い方、悲しいです。先輩は素敵なところいっぱいあるのになぁ。でも、確かに騙してでも欲しいものはあるかも」
「何だよ。貯金もそんなに無いぞ」
「お金なんていりません。私はただ、先輩の心と身体が欲しい」
彼女は俺の胸を指でなぞりながら上目遣いで見上げてくる。俺は視線に耐えきれず、目をそらした。
「あまりからかわないでくれないか」
「からかってなんていませんよ。私は本気で先輩が好きなんです。優しいところ、真面目なところ、温かい血が流れているところ、いい匂いがするところ」
「そんな奴、俺以外にだって」
「顔を見ていると子宮が疼くんです。先輩の赤ちゃんが欲しくてきゅんきゅんしちゃうんです。こんな気持ちになるの、先輩だけなんです」
胸がときめくというのは一般的によく言うが、子宮が疼くなんて表現は初めて聞いた。
「でも、どうやって俺の住所を。まさか社員のデータを勝手に?」
「いいえ。もっと簡単で確実な方法があるんですよ」
彼女は部屋の一点を指差す。細い煙を立ち上らせる蚊取り線香と制汗スプレー、彼女に貰ったものが置いてある一角を。
「今日使ってくれてよかったです。じゃないと、明日会社で襲っちゃったかもしれません」
「まさか、煙の匂いで?」
今時蚊取り線香を焚いている家なんて珍しいかもしれないが、しかしだとしても量販店で売られている線香の匂いで探し当てるなんてありえない。
「この線香もスプレーも特別製なんです。私の体液を染み込ませましたから」
「何を言っているのかよく分からない。いくら窓を開けていたからって、匂いだけで俺の部屋を探し当てるなんて不可能だろう」
「まぁ人間には無理でしょうね。でも、私達なら出来るんですよ。魔物娘である、私達なら」
「魔物、娘。都市伝説か何かの話か。いい加減に」
その時不意に虫の羽音が聞こえてきて、俺は一旦言葉を切って辺りを見回す。
独特のモスキート音。聞き覚えがあるようで、しかしその音は初めて聞く音だった。
奇妙に耳につくものの、虫が飛ぶ音にしては妙に澄んでいた。発生源を確かめようと耳を澄ませるほどに、妙に気持ちを掻き乱してくる。
不快ではないが、やはり聞いていると落ち着かなくなってくる。身体の芯が熱くなり、心臓の鼓動がやけにうるさく聞こえる。喉がからからに乾いたような渇望感が湧き上がってくる。
詩舞香の首筋の汗でもいい。舐めたくてたまらなく……。俺は、何を考えている?
「あとはこの子たちのおかげです」
彼女の指先に虫が止まっていた。
細長い脚と翅を持つシルエット。この時期どこからともなく血液を吸いに現れる彼女達だ。
そのいやらしい雌の虫が、彼女の指先に吸い込まれるように消えてゆく。
我が目を疑ってしまうが、しかし握りつぶしたわけでも無かった。指先に止まっていた蚊が、本当に一瞬の間に跡形もなく消えている。
「可愛い私の使い魔ちゃん。先輩の血を、ちょっとずつ運んでくれてたんですよ」
「消えた?」
「私の魔力を蚊の形にして飛ばしていたんです。それを戻しただけ。
ここ数日で先輩の血を吸っていた蚊は、全部私の一部だったんですよ。最近ムラムラしてませんでした? 血の代わりに淫毒を入れてたんですけど」
オナニーでもしないと落ち着かなくて眠れなかったのはそのせいか。いや、これは彼女の作り話だ。男ならムラムラすることなんていくらでもある。
「ホントは、襲って欲しかったんだけどなぁ。でも上手く行きませんでした。先輩、自制心が強い人だから」
指先をぺろりと舐め、唇を歪める彼女。
「先輩に近づく悪い虫は全部私が追っ払ってたんですよ。だってこんなに美味しい先輩の血、誰かにあげるなんてもったいなくて出来なくて。
でも意外にも女の人は近づいて来なかったんですよね。不思議でした。こんなに素敵な人なのに。人間の女はみんな見る目が無いんですかね」
「魔力って何だ。君だって人間だろう」
「だから人間じゃなくて、ヴァンプモスキートって言う種族の魔物娘なんですって。まだ信じてもらえないんですね。
……いいです。証拠を見せてあげます。でも、私の姿を見ても嫌いにならないで下さいね」
詩舞香は脱ぎかかっていたパーカーから腕を抜き、タンクトップの裾に手をかけて、少し恥ずかしそうに俺に向かって微笑む。
「お、おい。脱ぐなって。風邪を引くぞ」
「だってこうしないと服が破けてもったいないんですもん。
先輩。私が脱ぐところ、私の身体、ちゃんと見ていて下さいね」
「あ……」
その一言で、身体が動かなくなる。
女性が裸になるところを興味本位で眺めているなど紳士的ではないと思いつつも、目が離せなくなってしまう。
眩しいほどに白い肌が、可愛らしい小さなおへそが、うっすら浮き出たあばらが、ゆるやかな曲線が、タンクトップが捲れ上げられるに連れて露わになってゆく。
ぷるんと震えながら、柔らかそうな二つの膨らみが顔を出す。
思わず生唾を飲んだ。むしゃぶりつきたいと思っている自分に気づいて恥じるも、しかし目を離すことがどうしても出来ない。
「うふふ。見られるのってちょっと恥ずかしい。でも、興奮しちゃいます」
その背中から、うっすらとした細長い翅が伸びる。向こうの景色が透けて見えるほどに薄い、光を屈折させて七色に煌めく、昆虫の翅が。
彼女はタンクトップを脱ぐと、頭を振って髪の毛の癖を治そうとする。
その髪の間に、いつの間にか髪の毛とは明らかに違うふさふさとした昆虫の触覚のようなものが生えていた。
「ふぅっ。あとはパンツだけど……」
触覚だけでは無かった。タンクトップを掴んでいる手も、腕も、そしてニーソックスを履いていたはずの脚も、節のついた昆虫のような四肢に変わっていた。
白と黒の縞模様のそれは、さんざん悩まされた蚊を思い起こさせる。
なのに、何故だろう。彼女の幼さの残る身体には妙に似合っていて、女の肌理細やかな肌と昆虫の四肢の対比はアンバランスながらも奇妙な艶めかしさを感じさせた。
今まで憧れていた女優やモデルが何だったのかと思うくらいに美しく、そして身体の芯が震える程の生々しい色気があった。
「先輩。脱がしたくないですか?」
「え?」
「さんざんおかずにしてた後輩の服を剥ぎ取って、下着の匂いを嗅いで、その下の淫らな蜜を味わいたく無いですか? その勃起したおちんぽで、女の花を散らしたくないですか」
詩舞香は俺の耳元に口を近づけて、囁いてくる。
「私はされたいです。先輩に、滅茶苦茶にされたいです」
考える前に、彼女のホットパンツに手が伸びていた。
「ふふ。あとは、先輩にお任せしますね」
手が震えてボタンを外すのに手間取ったが、それさえ外れればファスナーを下ろすのは容易かった。
現れたのは、これまた白と黒の横縞の紐パンだった。大人が履くには少し可愛らしすぎる気もしたが、童顔で小柄な詩舞香には似合っていた。
ホットパンツを下ろしていくと、すでにクロッチがじっとりと濡れているのが分かった。女の蜜の香りが漂い始め、辛抱たまらなくなる。
早く彼女の花をこの目に見たくて、ホットパンツを脱がすのさえ煩わしかった。片方の脚に引っかかったままにも構わず、俺は最後の下着の紐をゆっくりと引いてゆく。
「もう、そんなにがっつかなくても逃げないのに。……でも、先輩からそんなに求められると、やっぱり嬉しいです」
小さな布を外すと、むわりと淫らなにおいが広がった。
詩舞香のにおいは甘酸っぱく、嗅げば嗅ぐほどにもっと近づきたくなってしまう癖になるにおいだった。
彼女の強い香りにくらくらしつつも、俺はにおいの源から目が離せない。
つるつるとした血色の良い裸の丘に刻まれた割れ目から、ねっとりと糸が引いていた。
俺は彼女の太ももを押し広げ、割れ目に顔を近づけてゆく。その付け根にある桃色の宝石を味わいたくて、舌を伸ばす。
そして、そこに手が届く寸前。
俺はふと、我に返った。
自分は一体何をしているのかとはたと気づく。会社の可愛い後輩に対して、一時の性欲にかられてとんでもないことをしかかっているのではないか、と。
「詩舞香。やっぱりこんなことは」
「もうっ。据え膳ですよ先輩。どんだけ自制心高いんですか。……まぁ、そういうとこも可愛くて好きになっちゃったんですけど。でもここまで脱がせたのに何もしないのは、逆に私に失礼じゃないですか」
「わ、悪い。でも、だな。仮にお前が俺の事を想ってくれてたとしても、やっぱりこういうことは段階を踏んで」
「ズボン膨らませながらそんなこと言っても説得力皆無ですよ? 私とえっちなことしたくないってわけじゃないんですよね?」
彼女の指が優しく俺の頬を、髪を撫でる。見た目によらず昆虫の四肢は温かく、ぷにぷにとした弾力で、触られていると心地よかった。
「先輩。たまには自分に正直になってもいいんですよ。私の前でくらい、全部さらけ出して下さい。どんな先輩でも受け止めますから」
「詩舞香」
彼女の胸元に抱きしめられる。あまり大きいとはいえない、どちらかと言えば控えめな膨らみ。しかしその間に挟まれると、なんとも言えない安らぎと猛りを覚えてしまう。
「それでも勇気が出ないなら、とびっきりのおまじないをしてあげます」
小さな音が聞こえてくる。虫が飛ぶような、けれどどこか弦楽器のような澄んだ響きも併せ持つ、不思議な音が。
詩舞香の甘い匂いが鼻先をくすぐる。ふわりと、やわらかな空気が周りを包み込む。
顔を上げると、微笑む彼女の後ろに、虹色の後光が差していた。
……違う、翅が震えているんだ。細かく震えて、空気を動かしている。
「やりたいこと、していいんですよ。せんぱい」
彼女の手のひらが、頬に触れる。あどけない笑顔が近づいてくる。
ずっと前から思っていた。一度でいいから、その肌に触れてみたいと。柔らかそうな唇にキスしたら、どんな気持ちがするのだろうかと。
俺からも手を伸ばし、彼女の頬に、耳元に触れる。
「だいすきです」
吐息がかかるほどに唇が近づく。彼女の瞳の中に、俺がいた。俺だけが写っていた。
唇に、柔らかく湿った感触が触れる。それだけで、ぞくぞくと寒気がするほどの快楽が背筋を駆け巡った。
「ほら、私だって、したいことしちゃった」
もう一度唇を重ねる。三度目はこちらから強く押し付ける。
「んっ。んっ」
唇を割って舌を伸ばすと、彼女の方からも歓迎するように舌を絡めてくれた。
ただひたすらに求め合い、柔らかい部分を擦り合わせて、体液を混ぜあわせ続けた。
ぴちゃ、くちゅ、と水音が響くごとに、彼女の瞳がぼんやりと焦点を失ってゆく。
唾液が垂れ落ちる。もったいないとばかりに、俺は顎に、首筋に、舌を這わせて雫を追いかける。
唾液の味に混じって、汗の味がした。
詩舞香の味。詩舞香をもっと感じたくて、俺は彼女の肌をねぶり続ける。
首から、浮き出た鎖骨へ。
「あぁ、せんぱい……。もっと、私に触って下さい」
彼女の乳房に指を這わせる。手のひらに収まるほどの膨らみ。けれどその感触は手のひらでは収まりきらない心地よさを与えてくれる。
指先で控えめな乳首を転がすように撫でる。彼女の昂ぶりが、吐息から、鼓動から伝わってくる。
柔らかなその母性の象徴を、唇でも堪能する。甘噛し、唾液をまぶして、赤ん坊のように吸い付く。
甘い声を上げながら、詩舞香は弓なりに仰け反った。仰け反りながらも、彼女は俺の髪をなで、抱き寄せてくれる。
「すきです。せんぱい、だいすきぃ……。ああぁあ」
腰を抱き寄せる。
お腹に何度も口づけし、滑らかなその肌に頬ずりしながら、おへそのくぼみに舌をねじ込みながら、ゆっくりと下に下に、彼女の匂いの強い方へと向かってゆく。
「い、いいですよ、せんぱい。もっと、気持よくなっちゃいましょう?」
匂いの源、彼女の股ぐらに顔を埋める。
大きく息を吸えば、他に何も考えられない程の幸福感で満たされる。
けれど、もっと幸せな気持ちになれるはずだ。もっともっと気持ちよくなれるはず。
「あっ。んん……。先輩の舌、気持ちいい。上手、です」
蜜を滴らせる割れ目に舌を這わせる。何度舐め取っても尽きないほどに、蜜はあとからあとから溢れ出してくる。
音を立てて蜜を吸い、詩舞香の愛の味を堪能する。
ぴちゃ、ぴちゃ。じゅるるる。と音を立てるごとに、詩舞香の身体が小刻みに震える。俺の髪を撫でる指に力が篭もる。
谷底に隠された宝石を舌で探り当て、唾液をまぶしながら可愛がる。
彼女の嬌声が大きくなる。その匂いが、更に濃くなってゆく。
「あ、そこはっ。そんなに、されたら」
桃色の宝石を愛撫し続けながら、彼女の秘裂の中に指を忍び込ませる。
「あぅ、先輩の、指が、入って」
濡れた秘肉がすぐさま指に吸い付いてくる。予想以上の締め付けに驚きながらゆっくりと中を撫でてゆくと、蜜が更に勢い良く溢れ出してくるようになった。
今度は繊細な宝石の感触を指で確認しながら、蜜の溢れる秘裂に舌をねじ入れる。更に濃い彼女の味を楽しんでいると。急に顔を太ももで強く挟まれた。
「だめ、だめです。もう私、い、いっちゃ、あ、ああっ」
勢い良く蜜が吹き出すのとともに、彼女の身体が強く痙攣する。
乱れた呼吸が遠くから聞こえてくる。詩舞香のものかと思えば、自分もまた同じように荒い呼吸を繰り返していた。
自分でも気が付かないうちに、俺の方も詩舞香以外の全てを忘れてしまうほどに興奮していたらしい。
「ふふ。すみません。先輩の服、びしょびしょに、しちゃいましたね」
少し疲れのにじむ顔で彼女は微笑む。微笑みながら、まるで母親がそうするように俺の服を脱がしてくる。
こそばゆい、等と思う間もなく手際よく上半身が裸にされて、すぐにズボンに手をかけられる。
「今度は、私が楽しむ番ですよ」
下着ごとズボンが脱がされると、すでに硬く反り返ったそれが勢い良く跳ね上がった。
それが露出した瞬間、詩舞香は明らかに目を丸くし、表情を固くしていた。すぐに舌なめずりして余裕の表情に戻っていたが、少し緊張しているようにも見えた。
「思っていたより、ずっと立派です。全部入るかなぁ」
つるりとした彼女の節の付いた指が竿の部分を掴み、ゆっくりとしごき始める。硬さよりも弾力が勝る不思議な感触は、包み込まれているだけで心地よかった。
彼女は俺自身に頬ずりし、舌を出して裏筋をぺろりと舐めあげる。それから大きく口を開けて、一度俺の顔を見上げる。
「いただきます」
いたずらっぽく笑ってから、ぱくりと赤黒く腫れ上がった亀頭を咥え込んだ。頬の、舌の、ぬるりとした感触が一番敏感な部分を包み込み、蠢き始める。
「んんっ。おいひいれふ」
夢ではないだろうか。皆に愛される詩舞香が、俺なんかのペニスに夢中になっているなんて。ジュルジュルと下品な音を立てて、口をすぼめて吸い付いて、舌でねっとりと裏筋を、かり首を、亀頭を舐め回しているなんて。
けれど、この感触も音も夢にしてはあまりにもリアルだった。
下腹の底から衝動があふれてくる。滾ってくる。
汚してしまいたい。自分の欲望で、彼女を自分のものにしてしまいたい。
このまま注ぎたい。詩舞香に、俺の欲望の全てを受け入れてもらいたい。
「んふふ」
しかし弾ける寸前、彼女の唇が離れていってしまう。
「詩舞香」
唾液でぬるぬるになった肉棒を手でしごきながら、彼女はニンマリと笑う。
「精液、登ってきてますね。我慢汁の味も濃くなってきてる。……まずは、お口で頂いちゃいますね」
そして再び口で咥え込む。
頬の肉で隙間なく包み込み、頭を激しく前後させる。
「ああ、ああああっ」
刺激が強すぎて、思わず彼女の頭を掴んで引き離そうとしてしまう。彼女は俺の腰に腕を回してしがみついて抵抗する。
頭のなかが真っ白になるとともに、下半身が爆ぜた。
腰をガクガク震わせながら、俺は彼女の喉奥へと放精する。
脈動するごとに、これまで感じたこともないほどに勢い良く精液が遡っていった。
詩舞香は涙目になりながらも、それを一滴もこぼさず口の中で受け止める。喉を鳴らして飲み下していく。俺の先っちょに、嚥下する喉の動きが伝わってくる。まるでペニスごと飲み干そうとでもするかのような勢いだった。
程なく射精は落ち着いたが、詩舞香はなかなか俺を咥え込んだまま離してくれなかった。
うっとりとした表情で俺を見上げながら、肉棒を味わい続けていた。
「おひんひん、おいひい」
「し、詩舞香。このままは、ちょっと」
いったばかりの敏感なところを舐め回され続けるのは、心地よい反面刺激が強すぎた。
彼女も分かってくれたのか、最後に口づけ一つして、ようやく俺自身を開放してくれた。
「そうですよね。このまま、お口に出しただけじゃ満足できないですよね」
「いや、俺は」
「だって、まだこんなに大きくて硬いんですもん。私だって、このままじゃ終われないですよ」
彼女の手に支えられるまでもなく、俺の陰茎は未だに勃起を保ったままだった。むしろ射精前よりも心持ち大きく、力強く反り返っているようにも見える程だ。
「それに……」
血管が浮き出て、見覚えのないいびつなイボまで出来ていた。いや、これはまさか。
「あは、気がついちゃいました? せんぱいのおちんちんの血、ちょっと貰っちゃったんです。痛くは無かったですよね? 優しくしましたし、たっぷり舐めて体液も注入しましたので」
「体液を、注入って」
身体の底がむずむずと疼いてくる。意識がこれ以上ないほどに硬くなったペニスに集中する。
「えっちな気分になっちゃう毒です」
詩舞香の細い肩を掴む。
寒気がするほどに興奮してくる。
視野が、狭まっていく。
もう、詩舞香しか見えない。
このまま押し倒し濡れたヴァギナにペニスをねじ込みたい。思う存分、彼女をよがらせ、淫らに泣かせたい。欲望のままにこの肢体を貪りたい。
けれど同時に、可愛い後輩を大切にしたいという気持ちがそれを思い留まらせる。
彼女を抱き寄せることも出来ず、突き飛ばすことも出来ず、ただただ手が震える。
「ほら、せんぱい、見てください」
だが、そんな俺の葛藤などつまらないものだとでも言うかのように、彼女は俺を甘く誘う。
「私のここ、早くせんぱいのおちんちんが欲しくて、びしょびしょです。……自分で言うのも何ですけど、すっごく気持ちいいと思いますよ? ううん。せんぱいが気持ちよくなるまで、好きにしていいです。私は先輩がしたいこと、何だって受け入れちゃいますから」
彼女は硬直した俺を優しく支え、自らの身体へと導いてくれる。
先端が彼女の入り口に触れる。さきっちょが濡れた肉に包まれる。葛藤ごと解きほぐそうとするかのように、彼女の愛の器が情熱的にうねっている。
もう、我慢も限界だった。
彼女を強く抱き寄せる。お腹とお腹が隙間なく密着し、胸板で柔らかな感触が潰れる。お互いの汗が混ざり合い、ぬるぬると肌と肌が溶け合っていくようだ。
それだけでも心臓が破裂してしまうのではないかと思うほど興奮した。だが、本番はこれからだ。
俺は、肉付きのいいおしりを鷲掴みにする。
「あぁ、せんぱいっ」
そのまま、俺の身体へと引き寄せる。
ぴったりと閉じていた柔肉を押し広げながら、体中の熱と劣情が集まってパンパンに膨れ上がった俺自身が彼女の中へと沈み込んでいく。
「せんぱいの、おっきいの、はいってくる」
ひしめき合う細やかな肉襞が吸い付いてくる。粘液でぬめり、形を覚え込もうとするかのように蠕動し、絡みついてくる。
「きた、あ、あ、あ、一番奥、あたっ。くぅんっ」
ザラザラとした感触が先端に触れる。その瞬間、詩舞香が甘い声を上げながら強くしがみついてきた。
「えへへ。か、軽く、いっちゃ、いっちゃいましたぁ。せんぱいは、きもちいぃですか?」
切なげな声に、俺は腰を揺らしつつ答える。
「あぁ。最高だ」
「せんぱ、あぁ、こすれるの、きもちいぃ」
くちゅ、ねちゅ、ぐちゅ。愛液を混ぜあわせ、飛び散らせながら、接合部から淫らな音が響き始める。
こらえきれず力んでしまうのか、彼女の背中で薄い翅が時折震える。その付け根を指先でくすぐると、彼女はビクッと身体を震わせた。
「だめ、だめです。そこは、びんかんだから」
「じゃあここは」
腰から伸びている昆虫の、蚊の腹のような部分。黒と白の縞模様で、一部が透けてワイン色の液体が揺れている。
そこを撫でると、今度はしがみついていた手足から力が抜けた。
慌てて彼女を支えて、しっかりと抱きとめる。
「きゅうに、さわっちゃ、だめですってばぁ」
どんな顔をしているのだろう。対面座位のような形で抱き合っているため顔は見えないのだが、声はこれまでにないほどにとろけきっている。
「えへへ。きれいでしょ? そこには、わたしの宝物が入ってるんですよ?」
「宝物?」
息を弾ませながらも、夢見るような口調で彼女は続ける。
「こっそり集めた、先輩の血です。ただ栄養にしてたわけじゃ、ないんですよ? 血液の情報から、先輩のこと、もっとよく知るために集めてたんです。
私の身体を、先輩の身体に合うように。先輩を気持ちよくしてあげられるように、先輩で気持よくなれるように。先輩の赤ちゃん妊娠しやすくなるように。
だから、ほら、おまんこの形、先輩にぴったりでしょ?」
何だか恐ろしいことを言われている気がしたが、今はとにかく彼女の膣内に射精することしか考えられなかった。
「あぁ、すごく気持ちいい。入れているだけで出ちゃいそうだよ」
腰を振りつつ、俺は彼女の髪を撫で、触覚を指先でもてあそぶ。
「先輩の、指の味がします」
「ここでも味が分かるのか?」
「他にも、においとか、色々わかりますよ。会社の中の、どこにいても、先輩を感じていましたし、何時に何回オナニーしたのかも、全部わかります」
「じゃあ、こうするとどうなるんだ?」
興味本位でそれを口でついばみ、一房舐めてみた。
その瞬間、彼女の身体が強く痙攣し、勢い良く弓なりに反り返った。
彼女のヴァギナが、より一層強く強く俺を締め付ける。精液を無理矢理にでも絞り出そうとするかのようにすぼまり、揉み上げるように蠢きはじめる。
「くぁ、詩舞香ぁ」
「あ、あたまのなか、なめ、られてる、みたいな、あ、あ、わたし、あああああっ!」
彼女の肌から、甘い匂いが強く香りだす。彼女の汗の匂いだった。その匂いに理性も脳も蕩かされる。
あふれだす。彼女に対する愛しさと性欲が下半身から勢い良く放射される。
射精が始まり、精液が彼女の胎内に注がれてゆく。
それが魔物娘の性なのか、射精が始まった途端に、今度は彼女の方から腰を振って来た。膣全体の蠕動もより一層強まる。
体重も預けられ、押し倒される形になる。犯しているはずが、逆に犯され精液を搾り取られているような体勢。だが、詩舞香にされるならそれも悪くない。
「先輩の、精液が、あっ、おくに、おくにねばねばって、はりついて……。わたしもう、我慢できないっ」
首筋にチクリとした痛み。それとともに何かが吸われていく感覚と、何かを無理矢理注入されていく感覚が脈打つ。
彼女の虫の腹部に、赤い液体が増えていく。
あぁ、血を吸われているのか。
「んちゅぅっ。おいしい。精液も、血液も、先輩の温かい体温も、ぜんぶぜんぶだぁいすきぃ」
吸われていく。精も、血も。けれどそれ以上に、安らかな温かさと目眩がする程の官能が全身に広がっていく。
奪われるのでも、与えられるのでもない。互いの大切なもの、気持ちのいいものを交換しあっているような、そんな心地よさで身体が満たされていく。
射精の脈動が収まると、詩舞香も俺の首から口を離した。
やがて二人の呼吸も少しずつ落ち着いてきて、この素晴らしい行為もここまでか。……と思ったのだが、どうやらそう都合良くはいかないようだった。
詩舞香は上半身を起こして、上気した目で俺を見下ろす。虚ろに笑いながら、唇をぺろりと舐める。
「二回もこんなに射精したのに、勃起が全然収まりませんね」
膝を立て、彼女は泡立った愛液で白く汚れた接合部を見せつける。
ぐちゅ。と音を立てながら、腰を上下に振る。
「うっ」
「まだいっぱい出そうですね、せんぱぁい」
彼女は愉しそうに腰を振り始める。
押しのけようとする手は彼女に掴まれ、優しく指同士を絡め取られる。
「勃起が収まるまで、好きなだけ私の中で射精して下さい。私の毒には強壮作用もありますから、上手くいけば二日三日は勃起が止まりませんよぉ。うふふ、赤ちゃん出来るまで、ずっとえっちしましょうね、せんぱい」
詩舞香はうっとりとした表情で吐息を吐き出す。
「こんな風に恋人みたいに手を繋ぎながら、気持ち良いこととか、子作りのことだけ考えてひたすらえっちし続けるの、ずっと夢だったんです。あぁ、私幸せです。せんぱい、だぁいすきぃ」
何も考えられない。
このまま気持ちよくなって、彼女に射精し続けたいという欲望しか出てこない。
けれど、可愛い後輩からこんな風に言ってもらえることはとても幸せな事のようにも思えた。
人間離れした外見だし、少し彼女の気持ちが一方的すぎる気もするが……。それが何だと言うのだろう。
人間では無いかもしれないが、詩舞香は詩舞香だ。正直に言えば、俺もずっと前から彼女に惹かれていたのだから。
これだけ可愛くて、淫らで気持ちいい身体で、にも関わらず一途に俺のことを求めてくれる。おまけに俺なんかの子供を欲しいと言ってくれる女、他に居ない。これを幸せと言わず何を幸せと言うのだろうか。
ぼんやりとした頭でそんな事を考えながら、俺は腰を突き上げながら三度彼女の最奥へと愛情を撒き散らした。
安っぽい蛍光灯の二重丸が見えた。
電気は消えているが、部屋は明るい。ということは、朝になったのだ。
すでに部屋の中は蒸し暑かった。うっすら汗ばみ始めた肌が不快で気怠いが、出勤の準備をしなければならない。
布団から起き上がろうとすると、今まで寝ていたはずなのに何故か全身が重かった。おまけに思春期の頃のようにガチガチに朝立ちまでしてしまっている。
「あれ」
おかしい。
明らかに汗染みとは思えないほどにシーツがひどく濡れている。それにいくら夏場だとはいえ、どうして俺は全裸で寝ていたんだ。
そういえば、とてつもなく卑猥な夢を見た。
藪野。お気に入りの可愛い後輩とセックスする夢だ。しかもとてもお上品とは言えない、欲望のまま互いの身体を貪り合うような激しいまぐわいを、一晩中飽きること無く繰り返すような淫らな夢。
彼女はなぜか蚊のようなコスプレをしているのだが、とにかく仕草や反応がいちいち可愛らしく、その身体は極上だった。
目が覚めてしまったことが残念で仕方ない。
「まぁ、いい夢見れた、かな」
「それは良かったです、先輩」
独り言に返事が来るとは思いもよらず、驚いて顔を上げると、そこには夢のなかで散々求め合った後輩がいた。しかも、蚊のコスプレをしたうえで、裸エプロンというよく分からない格好で。
「や、ぶの?」
「もう先輩ったら、今更そんな他人行儀な呼び方やめてくださいよ。昨日の夜みたいに、詩舞香って呼んで可愛がってください」
「え、あれ、夢じゃ」
「寝ぼけてるんですか? はい、朝ご飯食べて今日も一日元気出してイきましょう」
お盆からごはん、味噌汁、焼き魚という理想的な朝食を机に下ろしながら、彼女はニッコリと微笑む。
「な、なんで」
「なんでって、お料理するって昨日約束したじゃないですか」
「いや、そうじゃなくて。……あれは、夢だったんじゃ」
「えぇ、夢のように素晴らしい夜でした。あんなに情熱的に愛してもらえるなんて、思っても居ませんでした。
気付いたら日が昇っちゃってましたね。今日も一緒に、気持ちのいい一日にしましょうね」
気持ちのいい一日、か。しかし会社にいかなければならないと思うと、どんなに爽やかな朝も憂鬱だ。
と言うかその前にこの状況も何とかしなければならない。順番がかなり狂ってしまったが、詩舞香と正式に男女の関係になるとしても、どう付き合っていくかという問題もある。彼女は会社でも人気者だ。これからの人間関係を考えると憂鬱どころか地獄にも思えてくる。
「あ、そうだ。年休の連絡入れておかなくっちゃ」
「え、いや、出社するだろ?」
「でも先輩、多分今日も一日勃起収まりませんよ。そんなんじゃ外出られないですよね」
俺は自分の体を見下ろしながら絶句する。
硬く反り返った息子のいたるところにキスマークのような痕が出来て、小さく腫れてしまっていた。
「おはようございます。藪野です。しばらく年休取りたいと思いますので、よろしくお願いします。
……え、理由ですか? 子作りえっちです。はい、先輩も一緒です。年休の処理も二人分お願いします。
……ええ、上手くいきました。……ふふ、ありがとうございます。そっちもそろそろですよね。頑張ってくださいね」
身体を見下ろしている間に、電話が終わっていた。
「誰に掛けてたんだ。と言うかセックスを理由に休めるわけが」
「大丈夫です。産休があるんですから、妊休、妊娠活動休暇があったって不思議は無いでしょう?」
「いや、そんなの聞いたこと」
「大丈夫ですって。何の心配もいりません。うちの会社の経営陣にはもう何人も魔物娘が入り込んでますから、ちょちょいと何とかしてくれます。社内のことも、社外のことも、ね」
その微笑みが妙に淫らで、そして意味深で、俺は少し怖くなる。
そんな俺の心中はつゆ知らず、彼女はお箸を持ってずいと身体を乗り出してきた。
「さぁ、食べさせてあげますから早く朝ごはん食べちゃってください。じゃないと、私の朝ごはんにならないですから」
「いや、一緒に食べればいいじゃないか」
「何言ってるんですか」
彼女は俺の身体を舐めるように見てから、舌なめずりしてこう言った。
「私の朝ごはんは先輩なんですよ。あぁん、でも、そうですね。先輩のおっしゃる通りです。一緒に食べればいいんですもんね。うんうん。
さっきから我慢汁や汗が乾いた匂いがたまらなくて……。我慢するのも大変だったんですっ」
お箸が宙に飛ぶのと同時に、俺は彼女に押し倒される。
「子作りえっち休暇の始まりですよっ」
子作りえっち休暇か。さて、年休は何日残っていたか。滅多に休みは取らなかったから、相当な日数が余っていたはずだが。
「い、入れちゃいますよ、あ、あ、ああんっ」
ぬるりと粘着く熱に包み込まれ、耳元で嬌声が聞こえ始めると、もう細かいことも考えられなくなってしまう。
汗ばむ肌が重なりあう。夏の暑さよりも激しい彼女の情熱で、俺はのぼせ上がってしまう。
もはや他に何も考えることが出来ず、俺は詩舞香の身体に溺れていった……。
それから数日。詩舞香に噛まれ、勃起が続く限り俺達はひたすらやり続けた。
詩舞香の身体、彼女との交わりは素晴らしく、何回交わっても飽きるということは無かった。
最初こそ彼女の虫の身体に少し違和感があったものの、数回交わればもうそんなことは気にならなくなり、当たり前のものに思えるようになった。むしろ逆に、人間の限界を超えた抱き心地と愛を与えてくれる彼女無しでは、もう生きては行けないのではないかと思ってしまう程になってしまった。
当初の気持ちは何処やら。俺は途中からもう、休みが取れる限り彼女との時間に当てようと考えるようになっていた。
しかしいくら年休が残っているとはいえ、長期休暇を取るなら会社にちゃんと説明くらいはしなければならないだろう。それなら電話ではなく、直接顔を出したほうがいい。
そんなわけで、俺達は怒られること覚悟で何日ぶりかに会社に顔を出した。
のだが……。
「こりゃあ一体、どうなってるんだ」
久方ぶりの社内には、ほとんど社員が出社して居なかった。
既婚者はほぼ休み。そして出社している数少ない社員たちも。
「あっ。んっ。そこ、擦れて、いいっ」
「はぁっ。はぁっ。課長、出ますよっ」
そこかしこで人目もはばからず肌を晒して抱き合い、愛し合っている。男性の方は人間のままだが、女性の方は、皆詩舞香のように身体の一部が異形に変化して、いわゆる魔物娘と変わり果てていた。
「私達が休んでいる間に社内の方針転換があったみたいですね」
「いや、方針転換ってレベルじゃ……。でも、みんな魔物娘だったんだな」
「いいえ。もともとは数匹いただけなんですが」
部屋の隅で大きな嬌声が上がった。どうやら一組の男女が絶頂を迎えたようだ。
それとともに、オフィスの桃色の空気が更に情欲のピンク色で重ね塗りされたかのように、色濃く濃厚になった気がした。
「多分、こっそり社内でまぐわってた魔物娘から漏れ出た魔力に当てられて、魔物化したんだと思います」
仕組みを説明されたところでいまいちピンとは来なかったのだが、つまりは空気に飲まれて身体まで変わってしまったという事だろうか。
「しかし、これじゃあ休みの話どころじゃないな」
「そうですね。それじゃあ、先輩」
詩舞香が腕を絡めて、潤んだ瞳でこちらを見上げてくる。
「せっかく出社したんですから、私達もオフィス・ラブしましょうか」
やれやれ。今年の夏も暑くなりそうだ。
俺はそんなことを考えながら、彼女のスカートの中に手を滑り込ませるのだった。
冷房が入っているはずのオフィスに居ても、座っているだけでもじんわりと汗がにじむ。昼休みをいいことにワイシャツの胸元を広げて風を送り込みながら、俺はため息を吐いた。
窓の外に目をやれば、無数のビル群がぬるりと光るアスファルトの上で太陽に炒められている。まるで世界がフライパンにでもなってしまったかのようだ。
何だか首元が痒いな。と思って見下ろすと、小さな赤い腫れが出来ていた。いつの間にかまた蚊に食われていたらしい。
「ったく。どこにいるんだ」
昔からあまり蚊には食われないたちだったのだが、今年はこの猛暑のせいか、なぜだか頻繁に蚊に食われる。
体質の為か、腫れはすぐに収まるのでそんなに実害は無いものの、何度も虫に刺されるというのも気持ちのいいものではない。
「蚊取り線香か殺虫剤でも買って帰るか」
昼休み終了五分前のチャイムが鳴る。昼飯を終えた女子社員がぞろぞろと戻ってきて、俺は急いで胸元を戻した。
「あ、先輩見ちゃいましたよー」
新人時代に指導していた後輩だった。急いでシャツを整えたつもりだったが、だらしないところを見られてしまった。
「その首、どうしたんですかぁ?」
長くつややかな髪は今時の若者には珍しい黒髪で、目もぱっちりと大きく、顔立ちも整っていて男ウケのいい女子社員だ。そういう女性はだいたい同性から嫌われがちだが、彼女の場合は性格も明るく快活で、女性からの評判もいいらしい。
会社では名字呼びされるものだが、彼女の場合は親愛を込めてか、苗字の『藪野』よりも下の名前で『詩舞香ちゃん』と呼ばれている。
新入社員の相談から年配社員の愚痴、仕事の出来不出来に関わらず誰に対しても真摯に聞いてくれる。本当にいい子だ。
そんな彼女に油断したところを見られてしまったと思うと、なんだか恥ずかしくなってしまった。
「藪野か。お疲れさん。蚊に食われてしまったみたいなんだ。痒くて我慢できなくてな」
「なんだ蚊ですか。ビックリしましたよぉ。あの痕に見えちゃいました。場所が場所ですし」
「何のことだかよく分からないが、まぁ大したことは無いんだけどな。しかしこの夏はよく刺されて参るよ。今日こそ蚊取り線香と痒み止めでも買って帰らないとなぁ」
「それなら私いいもの持ってますよ」
そう言って彼女は、カバンの中からピンク色の物体を取り出した。一見しただけだと何なのか分かりづらかったが、よく見てみればそれは非常になじみのあるものだった。
渦を巻いた線香と小さなスプレー缶。つまりこれは。
「はい。蚊取り線香と制汗スプレーです。新商品らしくてこの間買って使ってみたんですけど、効果がすごかったので、よければ使ってください」
「制汗スプレー?」
「はい。虫って汗の臭いに引き寄せられて来るみたいですから、汗を抑えるだけでも効果があるんです。それにこのスプレー新商品みたいで、制汗剤だけじゃなくてオーデコロンや虫除けしても使えるみたいなんですよ。これで悪い虫からもさよならですね。
結構いい匂いですから、今度は女の子が匂いにつられて寄ってきちゃうかもしれませんよぉ?」
「そりゃありがたいな。まぁCMじゃあるまいし、スプレーしたくらいじゃ変わらないだろうが。けど、知ってるか? 血を吸う蚊は雌だけらしいぞ」
「ふふ、すでに女の子にモテモテなんですね」
「まぁ相手は虫だけどな。とにかくありがとう。使ってみるよ」
俺は笑顔を返しながら、そのファンシーグッズみたいな虫よけセットを受け取った。
いつもどおりに安アパートに帰った俺は、まずは風呂で一日の汗と疲れを落とした。
下着姿のままで冷蔵庫から発泡酒とさきイカを取り出して、茶の間に腰を下ろしてテレビを付ける。
画面の向こうでは小奇麗な格好をした人達が笑ったり驚いたりしていた。だが、その内容は一向に頭に入ってこず、特段興味もわかなかった。
チャンネルを回してみても、何かのドキュメンタリーや、都市伝説がどうとかいう、本当かどうか分からない事を過剰に面白おかしく騒ぎ立てている番組ばかりだった。
感心するとすれば、その編集技法と映像技術くらいだろう。猫や昆虫や爬虫類の格好をした女の子が出てきたが、どれもただのコスプレには見えないほど自然だった。
魔物娘というらしい。ここ最近、テレビやネットでしょっちゅう見かけるようになった。いやはや、流行りというものはよく分からない。
とはいえ、あれは全てCGだろう。あんな生き物が現実にいるわけがない。
興が覚めてきて、いつもどおりにNHKにチャンネルを変えた。
別に面白いからと何かを見ているわけでも無いのだ。さりとて、無音の部屋に独りで居るのも耐えがたくてテレビを消す事も出来ない。
それに、ほかにやりたい事があるかと言えばそれも無い。
「はぁ……」
今日も何とか一日が終わった。そう思うと、無意識のうちにため息がこぼれていた。
ついでにげっぷが出て、そのにおいでふいに昼休みの藪野とのやり取りを思い出した。
「虫は汗の臭いに引き寄せられる、か」
腕を上げて脇の下に鼻を近づける。
夏場に一日仕事をしてきた後だ。におわないと言えば嘘になる。けれど臭いという程では無いと思うのだが、やはり自分で気がついていないだけだろうか。
「制汗スプレー渡されたってことは、そういうことなのかな」
虫の話はきっかけに過ぎなくて、普段からにおいが気になっていたからスプレーや線香を渡したとか……。流石に考えすぎだろうか。
発泡酒を呷って、大きく息を吐く。
ぼんやりとテレビを眺める。画面の時計は、すでに十時近くになっていた。
もともと帰りは遅かったが、一日は本当にあっという間だ。酒をもう一本飲んだら、あとは寝るだけだ。
何だか急に虚しくなってくる。誰かと話したい衝動に駆られるが、しかしこんな時間に急に連絡を取れる相手もいない。
昔から人付き合いは得意では無かった。人に合わせられない事もない。だが、大人数の中にいると疲れてしまう。
独りでいたほうが気が楽だ。けれど寂しくないかといえば、そういうわけでもない。我ながら矛盾していると思うが、人間なんてそんなものだろう。
孤独を忘れられるほど情熱を向けているものも特には無い。仕事は、やむなくやっているだけだ。
出来れば辞めてしまいたい。けれど辞めた後のあてもないし、転職したいと思えるほどにやりたい仕事も特にない。
だから急にこんな気持ちにもなる。
顔も良くない、仕事もぱっとしない、甲斐性もない。人付き合いも面倒くさいで、恋愛や結婚だって何年も前から諦めているというのに、周りからくさいと思われているのではないかと不安になる。誰からも、ありがたがられない存在なのではないかと。
……まさか自分は、藪野に言われたからショックを受けているのだろうか。
新人教育の時に色々と教えたことがあったから今でも気さくに話しかけてくれるだけだ。あれだけ可愛くて気立てのいい子なのだから、きっと恋人だっているだろう。
歳も離れているし、将来性も吊り合わない。
彼女に話しかけられれば嬉しいが、それは別に彼女にとって特別だからでは無い。何かを期待しても後で虚しくなるだけだ。そんなこと分かりきっているというのに。
何度目かのため息を吐きながら、さきイカを噛みしめる。
「……まぁ、体臭で周りを不快にするわけにもいかないしな」
肌着の下にスプレーを吹きつける。肌がさっぱりとし、甘い匂いが漂うと、少しは気分も和らいだ気がした。
「蚊に刺されなければそれでいい」
蚊取り線香に火をつける。これも新製品なのか、線香と言うよりはお香のような、ハーブのような匂いがした。
特に楽しいことでいっぱいなわけではないが、大きな不幸もない。何も得られないけれど、何も失われない平穏な生活。
大病も怪我もせず息災に生きているのだから、それでいいじゃないか。
線香は、小さな灯りとともに着実に灰になっていく。それを見ていると、しかしこのままでいいのだろうかとも思えてくる。人生だって、この線香と同じようなものなのではないかと。
「はぁ……」
考えてすぐにどうにもなることでもない。こんな事を考えているくらいならもう寝てしまったほうがいいかもしれない。
いつの間にか発泡酒の缶は空になっていた。ツマミのイカも無くなっている。
だが、ささくれだった気持ちのままでは寝るに寝られそうにない。
……となれば、やることは一つか。
テレビを消して、パソコンを付ける。
ネットでアダルトビデオでも見て、一発抜いてしまおう。そうすればすぐに気持ちよく寝られるはずだ。
いつものサイトを立ち上げて適当な動画を見繕う。別に高価なプレゼントや小難しいデートコースを考えなくたって、少し探すだけですぐにエロくてスタイルのいい美人は相手をしてくれるのだ。
……ただし、画面の向こうに手は届かないが。
動画を再生すると、画面の向こうから綺麗な女が笑いかけてくれる。
どこからか男が現れて女を好きなように弄び始める。喘ぎ声が聞こえ始めると、俺もすぐに勃起し始める。
脳裏に後輩の顔が浮かんだ。見たこともない彼女の乱れる姿が、聞いたこともない嬌声が、頭のなかに湧き上がる。
身近な人間をおかずにするなど最低だと思う。けど今以上の関係になるわけでは無いのだから、このくらい許されるだろうとも思う。
動画はクライマックスを迎えつつあった。
こちらも、あと少し。というところで。
ピーンポーン
突然、インターホンが鳴った。
ぎょっとして身体から出かかっていたものが全部引っ込み、しぼんでしまう。
こんな遅い時間に誰だろうか。電気は付いているが、出て行くのも面倒だ。
無視して居留守をしてしまおう。
と、再びビデオに集中しようとするのだが。
ピンポーン。ピンポーン。
流石に萎えてしまった。
よほど大事な用事なのか、それとも嫌がらせか。ともかく相手の顔を確かめてやろうと玄関に向かう。
覗き穴から扉の外を確かめて、頭のなかが真っ白になった。
「え。何だ、これ」
女の子が立っていた。長い髪を頭の左右で結んで垂らした、いわゆるツインテールの女の子だ。
この顔、どこかで見覚えが……。まさか。
「せーんぱーい。いるんでしょー。おはなししましょー」
今まさにおかずにしていた後輩だった。縞模様のニーソックスにホットパンツ、袖無しのパーカーという、いつものきっちりとした姿からは想像できない露出の多い服装ですぐには分からなかったが、やはりあの子に間違いない。
こんなに夜遅くに何の用だ。仕事の話にしては服装がラフすぎる。
と言うかやたらと陽気でテンションが高いが、どこかで飲んできた後なのか?
そもそもどうやってこの住所を知ったんだ。個人的に教えたことは無いはずなのだが……。
「せーんぱーい。入れて下さいよー」
「藪野なのか?」
「あ、やっぱり居た! そうですよー。お部屋に入れてくださーい」
何が嬉しいのか、声が楽しげに跳ね上がる。
「ちょっと待て、急に来られたって困る」
「入れてくれないと、私だって困っちゃいますよぉ。先輩にとっても大事な話をしに来たんですからぁ」
「大事な話?」
一体何なのだろう。
「いーれーてーくーだーさーいーよー。せんぱーい」
疑問は尽きない。だが、入れないわけにはいかなそうだ。この調子では帰れと言っても帰らないだろう。
声がどんどん大きくなっていて、このままでは近所迷惑で苦情が来る。
「ちょっと待て。今準備する」
「準備なんていいですよぉ。入れて下さいよぉ」
ドアノブを回す音を背中に聞きながら、急いで人前用の服を着込んで部屋を片付ける。
ドアを叩く音に急かされながら最低限の処置を終えて、鍵を外した。
「待たせたな」
「えへへー。待たされましたぁ」
彼女はニコニコ笑いながら、猫のようにするりと俺の脇をくぐり抜けて部屋の中へと入り込む。まるで実家にでも帰ってきたかのように当たり前の動きで。
「お前、飲んでるのか」
「飲んでないですよぉ」
わざとらしく鼻を鳴らして匂いを嗅いでみる。
予想していたアルコールの匂いの代わりに、甘い柑橘のような香りが鼻腔をくすぐる。
「ほら、お酒の匂いなんてしないでしょ?」
「あ、ああ」
今のはシャンプーか、それとも彼女自身の匂いか。どちらにしろおふざけとはいえ女性の匂いを嗅ぐのは、ちょっと趣味が悪かったかもしれない。
「へぇー。台所も結構綺麗にしてるんですねー」
彼女は今度はキッチンを物色していた。
「ん? まぁ、ろくに料理もしてないからな。というか、いきなり来てあまりじろじろと見るもんじゃないだろ」
「いいじゃないですかぁ。私と先輩の仲なんですし」
「どういう仲だよ」
「何も知らない無垢な私に、先輩のヤり方を色々と仕込んでくれたんじゃないですかぁ」
こんな意味深に聞こえる冗談を言う子だっただろうか。俺は肩をすくめながら、至って冷静に返事をした。
「仕事をな」
「あはは。じゃあ、今度私が料理作ってあげますよー」
「そうだな。誰かに食事を作ってもらえると助かる」
いつもと違い相手をするのが少し面倒な感じではあったが、その反面いつも以上にやたらと可愛く見える。なんだか調子を狂わされて、ついついそんな軽口を叩いてしまった。
どうせ明日には覚えていまいと彼女を見ると、彼女は微笑みながらも、やたらと真剣な瞳でこっちを見ていた。
「約束ですよ」
「あ……、あぁ」
年甲斐もなくどぎまぎしてしまい、かすれ声になってしまった。
「えへへ、それじゃあおじゃましまーす」
女性からこんな視線を向けられたのは初めてだ。
何なのだろう。一体。
と言うか、冷静に考えるとちょっとまずい状態なんじゃないのか。
何の目的で来たのかも分からない、明らかにいつもと様子の違う、しかも会社の後輩の女性を部屋に入れてしまうなんて。
美人局、とか。彼女に限ってそんなことは無いとは思うが……。
藪野はこちらの気持ちなど知らずに、勝手にベッドの上に腰掛け、パーカーの胸元を開けて手のひらでパタパタと空気を送っている。
「で、大事な話って何なんだ」
「話っていうか、何ていうか……。それより先輩、いつもこんなに暑い部屋に居るんですか? 熱中症になっちゃいますよ」
「窓開けて扇風機回してれば、エアコン無くても平気なんだよ。裸ならな」
「そっか。じゃあ裸になっちゃいましょうか」
パーカーの下のタンクトップを見せつけながら、彼女はいたずらっぽく笑う。俺は黙ってエアコンの電源を入れた。
「こんな時間に突然来たんだ。よっぽど大切な事なんだろう?」
彼女は脱ぎかけのままで動きを止め、目を細める。
「ええ。大切な事ですよ。今後の私と先輩に関わる、とっても大切な事」
初めて見る表情だった。彼女に限らず、これまで出会ってきた人間の中で、こんな表情を見たこと自体が初めてだった。
ただ可愛いとか、色っぽいとか、そういうものではない。
見る者の心を乱し、狂わせ、まるごと根こそぎ奪ってしまうような、艶然とした微笑み。
「私、先輩を誘惑しに来たんです」
「誘、惑?」
唇を舐める彼女の微笑みにただならぬものを感じて、俺の中で、何かが震え出した気がした。
「そう、誘惑です。私は先輩をたぶらかして、食べちゃうために来たんです」
彼女は楽しそうに言葉を重ねながら、俺の手を取り隣に座らせる。
「藪野。なんかお前変だぞ」
「もう、苗字じゃなくて、たまには他の人みたいに詩舞香って呼んで下さいよ、先輩」
彼女は俺にしなだれかかるようにしてしなを作る。タンクトップの胸元から溢れるように谷間が見えた。小さな二つのぽっちりが、膨らみの頂点で大きく主張している。
俺が慌てて目をそらすと、彼女は声を立てずに笑った。
「いいんですよ。そのために下着付けずに来たんですから」
「何を言っているんだ。おかしいぞお前」
「えっちな女の子は嫌いですか?」
「別にそんなことは……。いや、そういうことじゃなくてだな。やっぱり飲んできたんじゃないのか。香水か何かで誤魔化して」
「だから、飲んでなんていませんよって。でも、酔ってはいるかもしれませんけど」
詩舞香の顔が近づいてくる。詩舞香の匂いが強くなる。俺は咄嗟に、座ったまま後ずさってしまう。
だが、彼女はそれを良しとせずに、更にこちらに近づく。
「先輩の匂いに、くらくらしちゃってます」
「俺の、匂い? ……やっぱり、くさいってことか」
「もう先輩ったら。逆です、先輩の匂いは、とってもいい匂いなんですよ」
詩舞香は俺の身体にしがみついて、胸に顔を押し付けて匂いを嗅いでくる。深呼吸して、満足そうに吐息を吐き出す。
「あぁん。この匂い、たまらないです。ずっとこうしたかった。
ずっと好きだったんです。結構アピールしてたのに、全然気にしてくれないんだもん。もうちょっと普通に頑張ってみようとは思ったんですけど、もういい加減我慢できなくなっちゃって、だからこうして押しかけて来ちゃいました」
彼女が、俺を? 確かに色々話しかけたり、気にかけてくれる子だとは思っていたけれど。まさかそんな。
「冗談だろう?」
「たとえ百万円くれるって言われても、好きでもない人にこんな事しませんよ」
「一億円なら」
「同じことです。私達にとっては、お金なんて意味ないですから」
小学生のようなやり取りをしても仕方ないか。
「もっとかっこいいやつとか、面白いやつとか、仕事ができるやつなんていくらでもいるだろう。悪いことは言わないから、もっといい人を探した方がいいんじゃないか?」
至極当然のことを言ったつもりだったのだが、彼女はむくれて頬を膨らませる。
「少しは素直に喜んでくれたっていいのに。人間って変なこと気にしますよね。私は先輩が好きなんです。面白いとか仕事とかお金とか関係ありません。先輩じゃなきゃ嫌なんです」
「けど、俺なんて何の取り柄も無いんだぜ。騙されているのかと思うじゃないか」
「そんな言い方、悲しいです。先輩は素敵なところいっぱいあるのになぁ。でも、確かに騙してでも欲しいものはあるかも」
「何だよ。貯金もそんなに無いぞ」
「お金なんていりません。私はただ、先輩の心と身体が欲しい」
彼女は俺の胸を指でなぞりながら上目遣いで見上げてくる。俺は視線に耐えきれず、目をそらした。
「あまりからかわないでくれないか」
「からかってなんていませんよ。私は本気で先輩が好きなんです。優しいところ、真面目なところ、温かい血が流れているところ、いい匂いがするところ」
「そんな奴、俺以外にだって」
「顔を見ていると子宮が疼くんです。先輩の赤ちゃんが欲しくてきゅんきゅんしちゃうんです。こんな気持ちになるの、先輩だけなんです」
胸がときめくというのは一般的によく言うが、子宮が疼くなんて表現は初めて聞いた。
「でも、どうやって俺の住所を。まさか社員のデータを勝手に?」
「いいえ。もっと簡単で確実な方法があるんですよ」
彼女は部屋の一点を指差す。細い煙を立ち上らせる蚊取り線香と制汗スプレー、彼女に貰ったものが置いてある一角を。
「今日使ってくれてよかったです。じゃないと、明日会社で襲っちゃったかもしれません」
「まさか、煙の匂いで?」
今時蚊取り線香を焚いている家なんて珍しいかもしれないが、しかしだとしても量販店で売られている線香の匂いで探し当てるなんてありえない。
「この線香もスプレーも特別製なんです。私の体液を染み込ませましたから」
「何を言っているのかよく分からない。いくら窓を開けていたからって、匂いだけで俺の部屋を探し当てるなんて不可能だろう」
「まぁ人間には無理でしょうね。でも、私達なら出来るんですよ。魔物娘である、私達なら」
「魔物、娘。都市伝説か何かの話か。いい加減に」
その時不意に虫の羽音が聞こえてきて、俺は一旦言葉を切って辺りを見回す。
独特のモスキート音。聞き覚えがあるようで、しかしその音は初めて聞く音だった。
奇妙に耳につくものの、虫が飛ぶ音にしては妙に澄んでいた。発生源を確かめようと耳を澄ませるほどに、妙に気持ちを掻き乱してくる。
不快ではないが、やはり聞いていると落ち着かなくなってくる。身体の芯が熱くなり、心臓の鼓動がやけにうるさく聞こえる。喉がからからに乾いたような渇望感が湧き上がってくる。
詩舞香の首筋の汗でもいい。舐めたくてたまらなく……。俺は、何を考えている?
「あとはこの子たちのおかげです」
彼女の指先に虫が止まっていた。
細長い脚と翅を持つシルエット。この時期どこからともなく血液を吸いに現れる彼女達だ。
そのいやらしい雌の虫が、彼女の指先に吸い込まれるように消えてゆく。
我が目を疑ってしまうが、しかし握りつぶしたわけでも無かった。指先に止まっていた蚊が、本当に一瞬の間に跡形もなく消えている。
「可愛い私の使い魔ちゃん。先輩の血を、ちょっとずつ運んでくれてたんですよ」
「消えた?」
「私の魔力を蚊の形にして飛ばしていたんです。それを戻しただけ。
ここ数日で先輩の血を吸っていた蚊は、全部私の一部だったんですよ。最近ムラムラしてませんでした? 血の代わりに淫毒を入れてたんですけど」
オナニーでもしないと落ち着かなくて眠れなかったのはそのせいか。いや、これは彼女の作り話だ。男ならムラムラすることなんていくらでもある。
「ホントは、襲って欲しかったんだけどなぁ。でも上手く行きませんでした。先輩、自制心が強い人だから」
指先をぺろりと舐め、唇を歪める彼女。
「先輩に近づく悪い虫は全部私が追っ払ってたんですよ。だってこんなに美味しい先輩の血、誰かにあげるなんてもったいなくて出来なくて。
でも意外にも女の人は近づいて来なかったんですよね。不思議でした。こんなに素敵な人なのに。人間の女はみんな見る目が無いんですかね」
「魔力って何だ。君だって人間だろう」
「だから人間じゃなくて、ヴァンプモスキートって言う種族の魔物娘なんですって。まだ信じてもらえないんですね。
……いいです。証拠を見せてあげます。でも、私の姿を見ても嫌いにならないで下さいね」
詩舞香は脱ぎかかっていたパーカーから腕を抜き、タンクトップの裾に手をかけて、少し恥ずかしそうに俺に向かって微笑む。
「お、おい。脱ぐなって。風邪を引くぞ」
「だってこうしないと服が破けてもったいないんですもん。
先輩。私が脱ぐところ、私の身体、ちゃんと見ていて下さいね」
「あ……」
その一言で、身体が動かなくなる。
女性が裸になるところを興味本位で眺めているなど紳士的ではないと思いつつも、目が離せなくなってしまう。
眩しいほどに白い肌が、可愛らしい小さなおへそが、うっすら浮き出たあばらが、ゆるやかな曲線が、タンクトップが捲れ上げられるに連れて露わになってゆく。
ぷるんと震えながら、柔らかそうな二つの膨らみが顔を出す。
思わず生唾を飲んだ。むしゃぶりつきたいと思っている自分に気づいて恥じるも、しかし目を離すことがどうしても出来ない。
「うふふ。見られるのってちょっと恥ずかしい。でも、興奮しちゃいます」
その背中から、うっすらとした細長い翅が伸びる。向こうの景色が透けて見えるほどに薄い、光を屈折させて七色に煌めく、昆虫の翅が。
彼女はタンクトップを脱ぐと、頭を振って髪の毛の癖を治そうとする。
その髪の間に、いつの間にか髪の毛とは明らかに違うふさふさとした昆虫の触覚のようなものが生えていた。
「ふぅっ。あとはパンツだけど……」
触覚だけでは無かった。タンクトップを掴んでいる手も、腕も、そしてニーソックスを履いていたはずの脚も、節のついた昆虫のような四肢に変わっていた。
白と黒の縞模様のそれは、さんざん悩まされた蚊を思い起こさせる。
なのに、何故だろう。彼女の幼さの残る身体には妙に似合っていて、女の肌理細やかな肌と昆虫の四肢の対比はアンバランスながらも奇妙な艶めかしさを感じさせた。
今まで憧れていた女優やモデルが何だったのかと思うくらいに美しく、そして身体の芯が震える程の生々しい色気があった。
「先輩。脱がしたくないですか?」
「え?」
「さんざんおかずにしてた後輩の服を剥ぎ取って、下着の匂いを嗅いで、その下の淫らな蜜を味わいたく無いですか? その勃起したおちんぽで、女の花を散らしたくないですか」
詩舞香は俺の耳元に口を近づけて、囁いてくる。
「私はされたいです。先輩に、滅茶苦茶にされたいです」
考える前に、彼女のホットパンツに手が伸びていた。
「ふふ。あとは、先輩にお任せしますね」
手が震えてボタンを外すのに手間取ったが、それさえ外れればファスナーを下ろすのは容易かった。
現れたのは、これまた白と黒の横縞の紐パンだった。大人が履くには少し可愛らしすぎる気もしたが、童顔で小柄な詩舞香には似合っていた。
ホットパンツを下ろしていくと、すでにクロッチがじっとりと濡れているのが分かった。女の蜜の香りが漂い始め、辛抱たまらなくなる。
早く彼女の花をこの目に見たくて、ホットパンツを脱がすのさえ煩わしかった。片方の脚に引っかかったままにも構わず、俺は最後の下着の紐をゆっくりと引いてゆく。
「もう、そんなにがっつかなくても逃げないのに。……でも、先輩からそんなに求められると、やっぱり嬉しいです」
小さな布を外すと、むわりと淫らなにおいが広がった。
詩舞香のにおいは甘酸っぱく、嗅げば嗅ぐほどにもっと近づきたくなってしまう癖になるにおいだった。
彼女の強い香りにくらくらしつつも、俺はにおいの源から目が離せない。
つるつるとした血色の良い裸の丘に刻まれた割れ目から、ねっとりと糸が引いていた。
俺は彼女の太ももを押し広げ、割れ目に顔を近づけてゆく。その付け根にある桃色の宝石を味わいたくて、舌を伸ばす。
そして、そこに手が届く寸前。
俺はふと、我に返った。
自分は一体何をしているのかとはたと気づく。会社の可愛い後輩に対して、一時の性欲にかられてとんでもないことをしかかっているのではないか、と。
「詩舞香。やっぱりこんなことは」
「もうっ。据え膳ですよ先輩。どんだけ自制心高いんですか。……まぁ、そういうとこも可愛くて好きになっちゃったんですけど。でもここまで脱がせたのに何もしないのは、逆に私に失礼じゃないですか」
「わ、悪い。でも、だな。仮にお前が俺の事を想ってくれてたとしても、やっぱりこういうことは段階を踏んで」
「ズボン膨らませながらそんなこと言っても説得力皆無ですよ? 私とえっちなことしたくないってわけじゃないんですよね?」
彼女の指が優しく俺の頬を、髪を撫でる。見た目によらず昆虫の四肢は温かく、ぷにぷにとした弾力で、触られていると心地よかった。
「先輩。たまには自分に正直になってもいいんですよ。私の前でくらい、全部さらけ出して下さい。どんな先輩でも受け止めますから」
「詩舞香」
彼女の胸元に抱きしめられる。あまり大きいとはいえない、どちらかと言えば控えめな膨らみ。しかしその間に挟まれると、なんとも言えない安らぎと猛りを覚えてしまう。
「それでも勇気が出ないなら、とびっきりのおまじないをしてあげます」
小さな音が聞こえてくる。虫が飛ぶような、けれどどこか弦楽器のような澄んだ響きも併せ持つ、不思議な音が。
詩舞香の甘い匂いが鼻先をくすぐる。ふわりと、やわらかな空気が周りを包み込む。
顔を上げると、微笑む彼女の後ろに、虹色の後光が差していた。
……違う、翅が震えているんだ。細かく震えて、空気を動かしている。
「やりたいこと、していいんですよ。せんぱい」
彼女の手のひらが、頬に触れる。あどけない笑顔が近づいてくる。
ずっと前から思っていた。一度でいいから、その肌に触れてみたいと。柔らかそうな唇にキスしたら、どんな気持ちがするのだろうかと。
俺からも手を伸ばし、彼女の頬に、耳元に触れる。
「だいすきです」
吐息がかかるほどに唇が近づく。彼女の瞳の中に、俺がいた。俺だけが写っていた。
唇に、柔らかく湿った感触が触れる。それだけで、ぞくぞくと寒気がするほどの快楽が背筋を駆け巡った。
「ほら、私だって、したいことしちゃった」
もう一度唇を重ねる。三度目はこちらから強く押し付ける。
「んっ。んっ」
唇を割って舌を伸ばすと、彼女の方からも歓迎するように舌を絡めてくれた。
ただひたすらに求め合い、柔らかい部分を擦り合わせて、体液を混ぜあわせ続けた。
ぴちゃ、くちゅ、と水音が響くごとに、彼女の瞳がぼんやりと焦点を失ってゆく。
唾液が垂れ落ちる。もったいないとばかりに、俺は顎に、首筋に、舌を這わせて雫を追いかける。
唾液の味に混じって、汗の味がした。
詩舞香の味。詩舞香をもっと感じたくて、俺は彼女の肌をねぶり続ける。
首から、浮き出た鎖骨へ。
「あぁ、せんぱい……。もっと、私に触って下さい」
彼女の乳房に指を這わせる。手のひらに収まるほどの膨らみ。けれどその感触は手のひらでは収まりきらない心地よさを与えてくれる。
指先で控えめな乳首を転がすように撫でる。彼女の昂ぶりが、吐息から、鼓動から伝わってくる。
柔らかなその母性の象徴を、唇でも堪能する。甘噛し、唾液をまぶして、赤ん坊のように吸い付く。
甘い声を上げながら、詩舞香は弓なりに仰け反った。仰け反りながらも、彼女は俺の髪をなで、抱き寄せてくれる。
「すきです。せんぱい、だいすきぃ……。ああぁあ」
腰を抱き寄せる。
お腹に何度も口づけし、滑らかなその肌に頬ずりしながら、おへそのくぼみに舌をねじ込みながら、ゆっくりと下に下に、彼女の匂いの強い方へと向かってゆく。
「い、いいですよ、せんぱい。もっと、気持よくなっちゃいましょう?」
匂いの源、彼女の股ぐらに顔を埋める。
大きく息を吸えば、他に何も考えられない程の幸福感で満たされる。
けれど、もっと幸せな気持ちになれるはずだ。もっともっと気持ちよくなれるはず。
「あっ。んん……。先輩の舌、気持ちいい。上手、です」
蜜を滴らせる割れ目に舌を這わせる。何度舐め取っても尽きないほどに、蜜はあとからあとから溢れ出してくる。
音を立てて蜜を吸い、詩舞香の愛の味を堪能する。
ぴちゃ、ぴちゃ。じゅるるる。と音を立てるごとに、詩舞香の身体が小刻みに震える。俺の髪を撫でる指に力が篭もる。
谷底に隠された宝石を舌で探り当て、唾液をまぶしながら可愛がる。
彼女の嬌声が大きくなる。その匂いが、更に濃くなってゆく。
「あ、そこはっ。そんなに、されたら」
桃色の宝石を愛撫し続けながら、彼女の秘裂の中に指を忍び込ませる。
「あぅ、先輩の、指が、入って」
濡れた秘肉がすぐさま指に吸い付いてくる。予想以上の締め付けに驚きながらゆっくりと中を撫でてゆくと、蜜が更に勢い良く溢れ出してくるようになった。
今度は繊細な宝石の感触を指で確認しながら、蜜の溢れる秘裂に舌をねじ入れる。更に濃い彼女の味を楽しんでいると。急に顔を太ももで強く挟まれた。
「だめ、だめです。もう私、い、いっちゃ、あ、ああっ」
勢い良く蜜が吹き出すのとともに、彼女の身体が強く痙攣する。
乱れた呼吸が遠くから聞こえてくる。詩舞香のものかと思えば、自分もまた同じように荒い呼吸を繰り返していた。
自分でも気が付かないうちに、俺の方も詩舞香以外の全てを忘れてしまうほどに興奮していたらしい。
「ふふ。すみません。先輩の服、びしょびしょに、しちゃいましたね」
少し疲れのにじむ顔で彼女は微笑む。微笑みながら、まるで母親がそうするように俺の服を脱がしてくる。
こそばゆい、等と思う間もなく手際よく上半身が裸にされて、すぐにズボンに手をかけられる。
「今度は、私が楽しむ番ですよ」
下着ごとズボンが脱がされると、すでに硬く反り返ったそれが勢い良く跳ね上がった。
それが露出した瞬間、詩舞香は明らかに目を丸くし、表情を固くしていた。すぐに舌なめずりして余裕の表情に戻っていたが、少し緊張しているようにも見えた。
「思っていたより、ずっと立派です。全部入るかなぁ」
つるりとした彼女の節の付いた指が竿の部分を掴み、ゆっくりとしごき始める。硬さよりも弾力が勝る不思議な感触は、包み込まれているだけで心地よかった。
彼女は俺自身に頬ずりし、舌を出して裏筋をぺろりと舐めあげる。それから大きく口を開けて、一度俺の顔を見上げる。
「いただきます」
いたずらっぽく笑ってから、ぱくりと赤黒く腫れ上がった亀頭を咥え込んだ。頬の、舌の、ぬるりとした感触が一番敏感な部分を包み込み、蠢き始める。
「んんっ。おいひいれふ」
夢ではないだろうか。皆に愛される詩舞香が、俺なんかのペニスに夢中になっているなんて。ジュルジュルと下品な音を立てて、口をすぼめて吸い付いて、舌でねっとりと裏筋を、かり首を、亀頭を舐め回しているなんて。
けれど、この感触も音も夢にしてはあまりにもリアルだった。
下腹の底から衝動があふれてくる。滾ってくる。
汚してしまいたい。自分の欲望で、彼女を自分のものにしてしまいたい。
このまま注ぎたい。詩舞香に、俺の欲望の全てを受け入れてもらいたい。
「んふふ」
しかし弾ける寸前、彼女の唇が離れていってしまう。
「詩舞香」
唾液でぬるぬるになった肉棒を手でしごきながら、彼女はニンマリと笑う。
「精液、登ってきてますね。我慢汁の味も濃くなってきてる。……まずは、お口で頂いちゃいますね」
そして再び口で咥え込む。
頬の肉で隙間なく包み込み、頭を激しく前後させる。
「ああ、ああああっ」
刺激が強すぎて、思わず彼女の頭を掴んで引き離そうとしてしまう。彼女は俺の腰に腕を回してしがみついて抵抗する。
頭のなかが真っ白になるとともに、下半身が爆ぜた。
腰をガクガク震わせながら、俺は彼女の喉奥へと放精する。
脈動するごとに、これまで感じたこともないほどに勢い良く精液が遡っていった。
詩舞香は涙目になりながらも、それを一滴もこぼさず口の中で受け止める。喉を鳴らして飲み下していく。俺の先っちょに、嚥下する喉の動きが伝わってくる。まるでペニスごと飲み干そうとでもするかのような勢いだった。
程なく射精は落ち着いたが、詩舞香はなかなか俺を咥え込んだまま離してくれなかった。
うっとりとした表情で俺を見上げながら、肉棒を味わい続けていた。
「おひんひん、おいひい」
「し、詩舞香。このままは、ちょっと」
いったばかりの敏感なところを舐め回され続けるのは、心地よい反面刺激が強すぎた。
彼女も分かってくれたのか、最後に口づけ一つして、ようやく俺自身を開放してくれた。
「そうですよね。このまま、お口に出しただけじゃ満足できないですよね」
「いや、俺は」
「だって、まだこんなに大きくて硬いんですもん。私だって、このままじゃ終われないですよ」
彼女の手に支えられるまでもなく、俺の陰茎は未だに勃起を保ったままだった。むしろ射精前よりも心持ち大きく、力強く反り返っているようにも見える程だ。
「それに……」
血管が浮き出て、見覚えのないいびつなイボまで出来ていた。いや、これはまさか。
「あは、気がついちゃいました? せんぱいのおちんちんの血、ちょっと貰っちゃったんです。痛くは無かったですよね? 優しくしましたし、たっぷり舐めて体液も注入しましたので」
「体液を、注入って」
身体の底がむずむずと疼いてくる。意識がこれ以上ないほどに硬くなったペニスに集中する。
「えっちな気分になっちゃう毒です」
詩舞香の細い肩を掴む。
寒気がするほどに興奮してくる。
視野が、狭まっていく。
もう、詩舞香しか見えない。
このまま押し倒し濡れたヴァギナにペニスをねじ込みたい。思う存分、彼女をよがらせ、淫らに泣かせたい。欲望のままにこの肢体を貪りたい。
けれど同時に、可愛い後輩を大切にしたいという気持ちがそれを思い留まらせる。
彼女を抱き寄せることも出来ず、突き飛ばすことも出来ず、ただただ手が震える。
「ほら、せんぱい、見てください」
だが、そんな俺の葛藤などつまらないものだとでも言うかのように、彼女は俺を甘く誘う。
「私のここ、早くせんぱいのおちんちんが欲しくて、びしょびしょです。……自分で言うのも何ですけど、すっごく気持ちいいと思いますよ? ううん。せんぱいが気持ちよくなるまで、好きにしていいです。私は先輩がしたいこと、何だって受け入れちゃいますから」
彼女は硬直した俺を優しく支え、自らの身体へと導いてくれる。
先端が彼女の入り口に触れる。さきっちょが濡れた肉に包まれる。葛藤ごと解きほぐそうとするかのように、彼女の愛の器が情熱的にうねっている。
もう、我慢も限界だった。
彼女を強く抱き寄せる。お腹とお腹が隙間なく密着し、胸板で柔らかな感触が潰れる。お互いの汗が混ざり合い、ぬるぬると肌と肌が溶け合っていくようだ。
それだけでも心臓が破裂してしまうのではないかと思うほど興奮した。だが、本番はこれからだ。
俺は、肉付きのいいおしりを鷲掴みにする。
「あぁ、せんぱいっ」
そのまま、俺の身体へと引き寄せる。
ぴったりと閉じていた柔肉を押し広げながら、体中の熱と劣情が集まってパンパンに膨れ上がった俺自身が彼女の中へと沈み込んでいく。
「せんぱいの、おっきいの、はいってくる」
ひしめき合う細やかな肉襞が吸い付いてくる。粘液でぬめり、形を覚え込もうとするかのように蠕動し、絡みついてくる。
「きた、あ、あ、あ、一番奥、あたっ。くぅんっ」
ザラザラとした感触が先端に触れる。その瞬間、詩舞香が甘い声を上げながら強くしがみついてきた。
「えへへ。か、軽く、いっちゃ、いっちゃいましたぁ。せんぱいは、きもちいぃですか?」
切なげな声に、俺は腰を揺らしつつ答える。
「あぁ。最高だ」
「せんぱ、あぁ、こすれるの、きもちいぃ」
くちゅ、ねちゅ、ぐちゅ。愛液を混ぜあわせ、飛び散らせながら、接合部から淫らな音が響き始める。
こらえきれず力んでしまうのか、彼女の背中で薄い翅が時折震える。その付け根を指先でくすぐると、彼女はビクッと身体を震わせた。
「だめ、だめです。そこは、びんかんだから」
「じゃあここは」
腰から伸びている昆虫の、蚊の腹のような部分。黒と白の縞模様で、一部が透けてワイン色の液体が揺れている。
そこを撫でると、今度はしがみついていた手足から力が抜けた。
慌てて彼女を支えて、しっかりと抱きとめる。
「きゅうに、さわっちゃ、だめですってばぁ」
どんな顔をしているのだろう。対面座位のような形で抱き合っているため顔は見えないのだが、声はこれまでにないほどにとろけきっている。
「えへへ。きれいでしょ? そこには、わたしの宝物が入ってるんですよ?」
「宝物?」
息を弾ませながらも、夢見るような口調で彼女は続ける。
「こっそり集めた、先輩の血です。ただ栄養にしてたわけじゃ、ないんですよ? 血液の情報から、先輩のこと、もっとよく知るために集めてたんです。
私の身体を、先輩の身体に合うように。先輩を気持ちよくしてあげられるように、先輩で気持よくなれるように。先輩の赤ちゃん妊娠しやすくなるように。
だから、ほら、おまんこの形、先輩にぴったりでしょ?」
何だか恐ろしいことを言われている気がしたが、今はとにかく彼女の膣内に射精することしか考えられなかった。
「あぁ、すごく気持ちいい。入れているだけで出ちゃいそうだよ」
腰を振りつつ、俺は彼女の髪を撫で、触覚を指先でもてあそぶ。
「先輩の、指の味がします」
「ここでも味が分かるのか?」
「他にも、においとか、色々わかりますよ。会社の中の、どこにいても、先輩を感じていましたし、何時に何回オナニーしたのかも、全部わかります」
「じゃあ、こうするとどうなるんだ?」
興味本位でそれを口でついばみ、一房舐めてみた。
その瞬間、彼女の身体が強く痙攣し、勢い良く弓なりに反り返った。
彼女のヴァギナが、より一層強く強く俺を締め付ける。精液を無理矢理にでも絞り出そうとするかのようにすぼまり、揉み上げるように蠢きはじめる。
「くぁ、詩舞香ぁ」
「あ、あたまのなか、なめ、られてる、みたいな、あ、あ、わたし、あああああっ!」
彼女の肌から、甘い匂いが強く香りだす。彼女の汗の匂いだった。その匂いに理性も脳も蕩かされる。
あふれだす。彼女に対する愛しさと性欲が下半身から勢い良く放射される。
射精が始まり、精液が彼女の胎内に注がれてゆく。
それが魔物娘の性なのか、射精が始まった途端に、今度は彼女の方から腰を振って来た。膣全体の蠕動もより一層強まる。
体重も預けられ、押し倒される形になる。犯しているはずが、逆に犯され精液を搾り取られているような体勢。だが、詩舞香にされるならそれも悪くない。
「先輩の、精液が、あっ、おくに、おくにねばねばって、はりついて……。わたしもう、我慢できないっ」
首筋にチクリとした痛み。それとともに何かが吸われていく感覚と、何かを無理矢理注入されていく感覚が脈打つ。
彼女の虫の腹部に、赤い液体が増えていく。
あぁ、血を吸われているのか。
「んちゅぅっ。おいしい。精液も、血液も、先輩の温かい体温も、ぜんぶぜんぶだぁいすきぃ」
吸われていく。精も、血も。けれどそれ以上に、安らかな温かさと目眩がする程の官能が全身に広がっていく。
奪われるのでも、与えられるのでもない。互いの大切なもの、気持ちのいいものを交換しあっているような、そんな心地よさで身体が満たされていく。
射精の脈動が収まると、詩舞香も俺の首から口を離した。
やがて二人の呼吸も少しずつ落ち着いてきて、この素晴らしい行為もここまでか。……と思ったのだが、どうやらそう都合良くはいかないようだった。
詩舞香は上半身を起こして、上気した目で俺を見下ろす。虚ろに笑いながら、唇をぺろりと舐める。
「二回もこんなに射精したのに、勃起が全然収まりませんね」
膝を立て、彼女は泡立った愛液で白く汚れた接合部を見せつける。
ぐちゅ。と音を立てながら、腰を上下に振る。
「うっ」
「まだいっぱい出そうですね、せんぱぁい」
彼女は愉しそうに腰を振り始める。
押しのけようとする手は彼女に掴まれ、優しく指同士を絡め取られる。
「勃起が収まるまで、好きなだけ私の中で射精して下さい。私の毒には強壮作用もありますから、上手くいけば二日三日は勃起が止まりませんよぉ。うふふ、赤ちゃん出来るまで、ずっとえっちしましょうね、せんぱい」
詩舞香はうっとりとした表情で吐息を吐き出す。
「こんな風に恋人みたいに手を繋ぎながら、気持ち良いこととか、子作りのことだけ考えてひたすらえっちし続けるの、ずっと夢だったんです。あぁ、私幸せです。せんぱい、だぁいすきぃ」
何も考えられない。
このまま気持ちよくなって、彼女に射精し続けたいという欲望しか出てこない。
けれど、可愛い後輩からこんな風に言ってもらえることはとても幸せな事のようにも思えた。
人間離れした外見だし、少し彼女の気持ちが一方的すぎる気もするが……。それが何だと言うのだろう。
人間では無いかもしれないが、詩舞香は詩舞香だ。正直に言えば、俺もずっと前から彼女に惹かれていたのだから。
これだけ可愛くて、淫らで気持ちいい身体で、にも関わらず一途に俺のことを求めてくれる。おまけに俺なんかの子供を欲しいと言ってくれる女、他に居ない。これを幸せと言わず何を幸せと言うのだろうか。
ぼんやりとした頭でそんな事を考えながら、俺は腰を突き上げながら三度彼女の最奥へと愛情を撒き散らした。
安っぽい蛍光灯の二重丸が見えた。
電気は消えているが、部屋は明るい。ということは、朝になったのだ。
すでに部屋の中は蒸し暑かった。うっすら汗ばみ始めた肌が不快で気怠いが、出勤の準備をしなければならない。
布団から起き上がろうとすると、今まで寝ていたはずなのに何故か全身が重かった。おまけに思春期の頃のようにガチガチに朝立ちまでしてしまっている。
「あれ」
おかしい。
明らかに汗染みとは思えないほどにシーツがひどく濡れている。それにいくら夏場だとはいえ、どうして俺は全裸で寝ていたんだ。
そういえば、とてつもなく卑猥な夢を見た。
藪野。お気に入りの可愛い後輩とセックスする夢だ。しかもとてもお上品とは言えない、欲望のまま互いの身体を貪り合うような激しいまぐわいを、一晩中飽きること無く繰り返すような淫らな夢。
彼女はなぜか蚊のようなコスプレをしているのだが、とにかく仕草や反応がいちいち可愛らしく、その身体は極上だった。
目が覚めてしまったことが残念で仕方ない。
「まぁ、いい夢見れた、かな」
「それは良かったです、先輩」
独り言に返事が来るとは思いもよらず、驚いて顔を上げると、そこには夢のなかで散々求め合った後輩がいた。しかも、蚊のコスプレをしたうえで、裸エプロンというよく分からない格好で。
「や、ぶの?」
「もう先輩ったら、今更そんな他人行儀な呼び方やめてくださいよ。昨日の夜みたいに、詩舞香って呼んで可愛がってください」
「え、あれ、夢じゃ」
「寝ぼけてるんですか? はい、朝ご飯食べて今日も一日元気出してイきましょう」
お盆からごはん、味噌汁、焼き魚という理想的な朝食を机に下ろしながら、彼女はニッコリと微笑む。
「な、なんで」
「なんでって、お料理するって昨日約束したじゃないですか」
「いや、そうじゃなくて。……あれは、夢だったんじゃ」
「えぇ、夢のように素晴らしい夜でした。あんなに情熱的に愛してもらえるなんて、思っても居ませんでした。
気付いたら日が昇っちゃってましたね。今日も一緒に、気持ちのいい一日にしましょうね」
気持ちのいい一日、か。しかし会社にいかなければならないと思うと、どんなに爽やかな朝も憂鬱だ。
と言うかその前にこの状況も何とかしなければならない。順番がかなり狂ってしまったが、詩舞香と正式に男女の関係になるとしても、どう付き合っていくかという問題もある。彼女は会社でも人気者だ。これからの人間関係を考えると憂鬱どころか地獄にも思えてくる。
「あ、そうだ。年休の連絡入れておかなくっちゃ」
「え、いや、出社するだろ?」
「でも先輩、多分今日も一日勃起収まりませんよ。そんなんじゃ外出られないですよね」
俺は自分の体を見下ろしながら絶句する。
硬く反り返った息子のいたるところにキスマークのような痕が出来て、小さく腫れてしまっていた。
「おはようございます。藪野です。しばらく年休取りたいと思いますので、よろしくお願いします。
……え、理由ですか? 子作りえっちです。はい、先輩も一緒です。年休の処理も二人分お願いします。
……ええ、上手くいきました。……ふふ、ありがとうございます。そっちもそろそろですよね。頑張ってくださいね」
身体を見下ろしている間に、電話が終わっていた。
「誰に掛けてたんだ。と言うかセックスを理由に休めるわけが」
「大丈夫です。産休があるんですから、妊休、妊娠活動休暇があったって不思議は無いでしょう?」
「いや、そんなの聞いたこと」
「大丈夫ですって。何の心配もいりません。うちの会社の経営陣にはもう何人も魔物娘が入り込んでますから、ちょちょいと何とかしてくれます。社内のことも、社外のことも、ね」
その微笑みが妙に淫らで、そして意味深で、俺は少し怖くなる。
そんな俺の心中はつゆ知らず、彼女はお箸を持ってずいと身体を乗り出してきた。
「さぁ、食べさせてあげますから早く朝ごはん食べちゃってください。じゃないと、私の朝ごはんにならないですから」
「いや、一緒に食べればいいじゃないか」
「何言ってるんですか」
彼女は俺の身体を舐めるように見てから、舌なめずりしてこう言った。
「私の朝ごはんは先輩なんですよ。あぁん、でも、そうですね。先輩のおっしゃる通りです。一緒に食べればいいんですもんね。うんうん。
さっきから我慢汁や汗が乾いた匂いがたまらなくて……。我慢するのも大変だったんですっ」
お箸が宙に飛ぶのと同時に、俺は彼女に押し倒される。
「子作りえっち休暇の始まりですよっ」
子作りえっち休暇か。さて、年休は何日残っていたか。滅多に休みは取らなかったから、相当な日数が余っていたはずだが。
「い、入れちゃいますよ、あ、あ、ああんっ」
ぬるりと粘着く熱に包み込まれ、耳元で嬌声が聞こえ始めると、もう細かいことも考えられなくなってしまう。
汗ばむ肌が重なりあう。夏の暑さよりも激しい彼女の情熱で、俺はのぼせ上がってしまう。
もはや他に何も考えることが出来ず、俺は詩舞香の身体に溺れていった……。
それから数日。詩舞香に噛まれ、勃起が続く限り俺達はひたすらやり続けた。
詩舞香の身体、彼女との交わりは素晴らしく、何回交わっても飽きるということは無かった。
最初こそ彼女の虫の身体に少し違和感があったものの、数回交わればもうそんなことは気にならなくなり、当たり前のものに思えるようになった。むしろ逆に、人間の限界を超えた抱き心地と愛を与えてくれる彼女無しでは、もう生きては行けないのではないかと思ってしまう程になってしまった。
当初の気持ちは何処やら。俺は途中からもう、休みが取れる限り彼女との時間に当てようと考えるようになっていた。
しかしいくら年休が残っているとはいえ、長期休暇を取るなら会社にちゃんと説明くらいはしなければならないだろう。それなら電話ではなく、直接顔を出したほうがいい。
そんなわけで、俺達は怒られること覚悟で何日ぶりかに会社に顔を出した。
のだが……。
「こりゃあ一体、どうなってるんだ」
久方ぶりの社内には、ほとんど社員が出社して居なかった。
既婚者はほぼ休み。そして出社している数少ない社員たちも。
「あっ。んっ。そこ、擦れて、いいっ」
「はぁっ。はぁっ。課長、出ますよっ」
そこかしこで人目もはばからず肌を晒して抱き合い、愛し合っている。男性の方は人間のままだが、女性の方は、皆詩舞香のように身体の一部が異形に変化して、いわゆる魔物娘と変わり果てていた。
「私達が休んでいる間に社内の方針転換があったみたいですね」
「いや、方針転換ってレベルじゃ……。でも、みんな魔物娘だったんだな」
「いいえ。もともとは数匹いただけなんですが」
部屋の隅で大きな嬌声が上がった。どうやら一組の男女が絶頂を迎えたようだ。
それとともに、オフィスの桃色の空気が更に情欲のピンク色で重ね塗りされたかのように、色濃く濃厚になった気がした。
「多分、こっそり社内でまぐわってた魔物娘から漏れ出た魔力に当てられて、魔物化したんだと思います」
仕組みを説明されたところでいまいちピンとは来なかったのだが、つまりは空気に飲まれて身体まで変わってしまったという事だろうか。
「しかし、これじゃあ休みの話どころじゃないな」
「そうですね。それじゃあ、先輩」
詩舞香が腕を絡めて、潤んだ瞳でこちらを見上げてくる。
「せっかく出社したんですから、私達もオフィス・ラブしましょうか」
やれやれ。今年の夏も暑くなりそうだ。
俺はそんなことを考えながら、彼女のスカートの中に手を滑り込ませるのだった。
16/08/13 18:56更新 / 玉虫色