読切小説
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淫欲の魔獣
 底なし沼に腰まで浸かっているようだった。腕も脚も重くて動かず、意識もはっきりとせず、分かる事と言えば、ただ世界がゆっくりと揺れている事だけだった。
 あの日から、ずっと夢の中に閉じ込められてしまっているみたいだ。目が覚めていても、今ここで起こっている事がまるで現実のように思えない。
 果たしてこれは良い夢なのか、悪い夢なのか。僕にはよく分からない。いや、分かりたくないのかもしれない。なぜなら、それが理解出来てしまった時には、僕は……。


 世界が揺れている。
 いつもの事だ。あの日から僕の世界はずっと緩やかに揺れ続けている。
 息がかかりそうな程すぐそばに彼女の顔があるという事も、いつも通りだ。彼女は長いまつ毛を瞬かせて僕が目を覚ましたことに気が付くと、切れ長の目と形の良い唇を歪ませて笑った。
 無表情で居てさえもぞくりとするほどに美しい顔をした彼女。彼女はその整った顔を歪ませて、性欲にまみれたさかりの付いた雌の笑みを浮かべる。
 美しさは歪んで消え、代わりに生々しい程の女の色気が宿る。彼女の笑顔の前では、きっと長年神に仕えた聖職者でさえも一匹の獣に堕ちてしまう事だろう。
 獣欲に濁り切った橙色の瞳が、歓喜の色に染まる。
 彼女は僕の耳元に口を寄せると、吐息交じりに囁いてくる。
「あら、おはよう。今回はまた随分と長く気を失っていたわね」
 嫌だと思っても、身体が即座に反応してしまう。
 全身の毛穴がぞくぞくするような感覚と共に、下半身、自分のペニスの芯に血液が集中し始めるのが分かる。
「安心して。あなたが眠っていた間も、私はあなたを離さなかったし、あなたもずぅっと硬いままだった。
 眠っている間も欲望のまま雌を突き続けるなんて、流石は魔物娘の中で最も淫らな種族の一つ、ジャバウォックである私が選んだだけの事はあるわ」
 いつもの事ながらも、諦観を帯びた絶望感が胸の底に沈んでゆく。視線を下げると、確かに僕のペニスは彼女のヴァギナの中に沈み込んだままだった。
 僕を包み込む潤んだ膣肉も、僕の目覚めを喜ぶように震えていた。
 彼女は僕の耳を甘噛みし、そして頬を舐め上げて、僕の口を塞ぐ。
 唇に柔らかく湿った感触が押し付けられる。それが開いて、ねっとりと舌が侵入してくる。
 彼女の、発情しきった雌の甘い匂いと味が、僕の舌に、歯茎に、口の中に擦りつけられる。いくら意思で抵抗しようとしても、身体中にさざ波が走るような、背筋に鳥肌が立つような感覚を止められない。
 そして舌同士が絡み合ううち、僕は自分でも彼女を求めずにはいられなくなる。
 舌を伝って彼女の唾液が垂れ落ちてくる。僕はそれを夢中になって飲んでいる自分に気が付き、激しい自己嫌悪で胸が悪くなった。けれど、嫌悪すればするほどなぜだか身体は彼女の体液を求めてしまい、僕の舌は更に激しく彼女を求めてしまう。
 銀色の糸を引きながら彼女の唇が離れてゆく。
「こっちも。好きにしていいのよ?」
 彼女の手が、鋭い爪を備え、鱗に覆われながらも不思議な柔らかさを持ったドラゴンのような手が、僕の手を掴んで自身の豊かな乳房を握らせる。
 汗でしっとり濡れた肌が吸い付いてくるようだ。丸々と形のいい、片手どころか両手でも納まりきらない程に大きな彼女の乳房が、僕の手の動きに合わせて柔軟に形を変える。
 撫で回すだけでも幸福感を覚えてしまう。柔らかさ、弾力、肌触り。どれをとってもこれ以上の物は無いように思える。握りしめると、指が沈み込む。本当に、手の平がとろけてしまうようだ。
「いい顔ね」
 はっと我に返り、僕は彼女から顔を逸らす。
 すると彼女は追いかけてくるように顔を寄せてくる。
「もう、素直じゃないんだから。……ねぇあなたぁ。あなたがずぅっと寝てるから、私もうお腹が減って仕方がないの。このままじゃ飢え死にしてしまうかもしれない。……だからぁ、あなたの放つ美味しいごはん。いっぱい食べさせて?」
 吐息が掛かる。甘ったるい雌の、否応なしに僕を獣の雄に変えてしまう吐息が。
「気絶する前もずっと僕を犯していた癖に。ちょっと大食い過ぎるんじゃないのか?」
「いっぱい食べる女の子も魅力的でしょ」
「……嫌って言っても、どうせ無理矢理搾り取るんだろ?」
「無理矢理じゃないわよ? だって嫌だったら、あなたのここはこんなに硬く、大きくならないでしょ? 今だってしぼまずに私のアソコを無理矢理押し広げて、早く出したいってぴくぴくしてるじゃない。あなただって、シたいんでしょ? ね?」
 彼女は上半身を起き上がらせると、僕の両手をその強靭な腕でベッドに押さえつける。そして、腰を激しく上下に振り始める。
「く、う」
「ぁあん。擦れる、凄いのぉ。旦那様のちんぽ、さいこぉ……」
 彼女の艶やかな桃色の長い髪が震える。動きに合わせて豊かな乳房がゆさゆさと揺れる。傷一つない、少し浅黒い彼女の肌理細やかな肌が少しずつ紅潮してゆき、玉の汗を浮かばせる。
 粘液を帯びた彼女の柔肉が激しく僕自身に絡み付き、締め上げてくる。細やかな柔襞の一つ一つが絞り上げるように蠕動し、僕を追い詰める。
「あ、あああ」
 声が漏れてしまう。
「かわいい」
 嬉しそうな彼女の顔が嫌で顔を背けるが、彼女はそうして晒された僕の首筋に口づけし、甘噛みさえしてくる。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と言う水音が激しくなる。
 肉壺の収縮の間が短く、激しくなってゆく。彼女の吐息が、汗の匂いが、僕をどうしようもなく人間から一匹の獣へと引き摺り下ろす。
 身体の底から、それがせり上がってくる。
 恐らくそれが分かったんだろう。彼女は僕を強く強く抱き締めて、囁いた。
「あぁ、あなたぁ。愛してるぅ」
 寒気を感じながら、僕は彼女の膣内に射精した。
 全身が冷めていく中、ただペニスだけが異様な熱を発しながら震えていた。


 ***


 彼女に出会った日、僕はそれまで持っていた全てを失った。
 両親とは離れ離れになり、住んでいた村をも追われた。
 彼女は、何の前触れもなく、唐突に僕の前に現れた。
 人間の女のような姿ながらも、彼女は明らかに人間では無かった。この世のどこを探しても、頭に角を生やし、空を飛べる翼を持ち、目の無い蛇のような不気味な触手をうねらせ、爬虫類のような尻尾や鱗に覆われた手足を持った人間など、居るはずが無いのだから。
「ようやく見つけたわ。私にぴったりの旦那様。私の純潔を捧げ、淫欲の全てを与えるに足る雄を」
 彼女はいきなりそんな事を口走ると、なんの躊躇も無く僕を抱き締め、そして口づけをしてきたのだった。
 その時僕はたまたま村の中央部に居て、村の多くの人間もそれを見ていた。
 どこかから悲鳴が上がった。彼女の言葉も口づけも、僕にしか分からなかった。きっと遠目から見れば、いきなり喰らい付いたようにしか見えなかっただろう。
 村は大混乱に陥った。何しろ、いきなり空からドラゴンのような角や翼、尻尾を生やし、鋭い爪やぬめるような光沢の鱗で覆われた手足をした、人間の女のような生き物が下りて来て、あまつさえ村の住人に襲い掛かったのだから。
 けれど、周りで人間が騒ぎ出している事になど、彼女は全く興味を持っていなかった。
 その落ちゆく夕日のような色合いの瞳に映っていたのは、あくまでも僕一人だった。
「さぁ、私の住処に行きましょう。誰も邪魔の入らない場所で、ゆっくりお互いの事を知って、永遠に愛し合いましょう?」
 彼女がいわゆる『魔物娘』だという事に気が付いたのは、その時だった。
 魔物娘。それは人間の女に化けた、神と人間の敵である魔物達の総称だ。魔物達は魔王がサキュバス種へと変わった事で、かつての凶暴で暴力的だけだった時代からより狡猾に変化した。今の魔物達は人間を直接殺し、喰らうのではなく、人間を誘惑し、騙す事で内側から人間社会を蝕もうとするようになっていたのだった。
 僕はそんな恐ろしい化け物から、つがいの相手として目を付けられてしまったというわけだった。
 どうすればいいのか考える間もなかった。彼女は僕をしっかり抱きしめると、翼をはためかせて瞬時に大空へと飛び立ってしまった。
 無論抵抗はした。けれど、ただの人間である僕が魔物の膂力に敵うはずもなかった。
 抵抗するのを諦めた僕が次に見たのは、青い空に亀裂が入るという摩訶不思議な現象だった。
「あの向こうが私達の国。不思議の国よ。その日ごとに変わった淫らな出来事が起きて、その度みんな愛し合うような、愛に溢れたとっても素敵な国なの。きっと気に入ってもらえるわ」
 僕はその時にもう元の世界には戻れないのだという事を悟った。そして、静かに意識を手放したのだった。


 次に目が覚めた時には、どこかの貴族の屋敷を思わせる豪奢な部屋の中の、キングサイズのベッドの上に居た。
 ベッドのシーツはシルク製で、普段使っていたものとは触り心地も弾力も段違いだった。同じ用途に使う物とは思えない程だった。
 白い壁には汚れ一つなく、壁際には大きな額縁の絵画が飾られていたり、なんに使うのか分からないような見たことも無い調度品がいくつも並んでいた。
 床を見下ろせば綺麗に磨き上げられたフローリングの上に上等そうな絨毯が敷かれていた。
 まるで別世界のようだった。
 否。実際に別世界に来てしまったのだった。それを証明する存在が、僕のすぐ隣に座っていた。にやにやと笑いながら、僕の方をじっと見ていた。
「あなたぁ」
 ざっくりと胸元の開いたナイトドレスから、むっちりとした胸の谷間がのぞいていた。膝立ちでにじり寄るたびに、丈の短いスカートからその中身が見えそうになっていた。
 浅黒い。けれど艶やかで、染みも傷も無い綺麗な肌。
 そこだけ取れば魅力的な女性だった。けれど彼女の頭からは角が、腰からは翼や尻尾が生えていて、そしてさらにその背からは、大きな口の付いた触手のようなものが生えて蠢いていた。
 その姿はまさに悪魔じみていた。
「あなたの男になった覚えはありません」
「そうね。だって、これから夫婦になるのだもの。さぁ、契りを結びましょう」
 伸ばされる彼女の手から逃れるべく、僕は必死で身をよじった。だが、一瞬の後には僕は彼女の胸の中に捕えられてしまっていた。
 まるで手が伸びたか、瞬間移動でもしたかのようだった。
 彼女は僕に口づけしてきた。初めは唇を触れ合わせるように、二度目は強く押し付けるように、そして三度目で舌を入れ、僕の口の中を掻き回してきた。
 僕は必死で首を振り、彼女を振り払おうとした。
「やめろ。お願いだ、やめてくれ」
「恥ずかしがることは無いわ。……私だって、初めてだもの」
 けれどもその表情は、到底初心な乙女のものには見えなかった。獲物を狙う捕食者にも似た、色欲に狂った女の笑みだった。
「そうじゃない。僕は」
 魔物なんかと結ばれる気なんて無かった。
 教会の教えでは、魔物と結ばれた人間もまた魔物になってしまうと言われていた。このままでは、僕も魔物になってしまう。それだけは御免だった。
 けれど、当然ながら彼女は僕の言う事など一つも聞いては居なかった。
「分かったわ。私がリードしてあげる」
 そう言うと彼女は僕の服を引き千切り。
 ……そして僕は、彼女に凌辱された。


 裸と言うのは、自分で思っていた以上に心細い物だった。それも得体のしれない他人、人間どころか魔物を前にしては、例え一瞬で破り捨てられる服だったとしても、有ると無いでは精神的に大きな違いがあった。
 いつ喰われるか分からない。そんな状況に陥りながらも、僕は必死で抵抗を続けた。
 拳を握りしめては振り下ろし、膝や足を使って蹴り上げようとした。
 けれど、その全ては失敗に終わった。
 彼女は四肢の他にも、自由に動く尻尾と口の付いた触手を持っていたのだ。僕の手足はすぐに触手と尻尾に絡め取られてしまった。
「ねぇ、見て? 私の身体。これからこの全てがあなたのものになるのよ?」
 ドレスを脱ぎ捨て、彼女もまた裸体を僕の眼前に晒した。
 魔物との契りを恐れながらも、僕は彼女の裸に見蕩れずにいられなかった。美しいと思わずにいられなかった。身体のラインは女性らしい曲線を描き、健康的な浅黒い肌から雌の色香が匂い立っているかのようだった。
 見ているだけで艶めかしかった。見るだけでなく、触れてみたい。匂いを嗅ぎたい。舐めてみたい。そんな衝動を抱かせる裸体だった。
 抱いてはならないと分かっていても、抱かずにはいられない衝動を男に抱かせる。まさに魔物だった。これが魔物の恐ろしさなのだった。僕はこの時、それを初めて知った。
 けれど、こんなものはまだ恐ろしさの一角に過ぎなかった。
「勃起しかけてる。興奮してくれたのね。うふふ……」
 彼女は僕のペニスに顔を近づけて、躊躇いも無く頬ずりし、匂いを嗅いだ。
「あぁ、いい匂い……。さかりが付く直前の、若々しい雄の匂い。まだ雌の匂いの一切付いていない、私だけの雄の匂い……。
 そうね、初めはこの香りを楽しみながら、お口でしてあげる」
 僕の一物を咥え込む彼女の動きには、何のためらいも無かった。食事のパンを口に運ぶかのような自然な動きで、僕の皮をかぶったままの亀頭に口づけし、飲み込んでしまった。
 舌が皮の隙間に入り込んで、舌だけで被っていた皮を剥かれた。そのまま濡れそぼった舌が敏感な亀頭に、かりに絡み付いて舐め上げてきた。
 女性経験の無い僕にとっては未知の感覚だった。強烈過ぎて、気持ちいいかさえも分からない程だった。
 彼女が激しく頭を動かす姿に、それでいて丁寧に舌を動かしてくる感触に、僕は身体の底から湧き上がってくる感覚を抑えられなかった。
 駄目だと分かっていた。いけない事だと理解していた。このままでは人間では無くなってしまうという恐怖は常にあった。けれど、突き上げてくる衝動は止められなかった。
 上目づかいで潤んだ瞳を向けてくる彼女と目が合った瞬間。僕は我慢できずに、魔物の口の中に精を吐き出してしまった。
「っ! あぁ、おいひぃ……。ひあわへぇ……」
 罪悪感と恐怖感で胸がいっぱいになる僕とは対照的に、彼女は白濁で口元を汚しながらも満ち足りた表情を浮かべていた。


 彼女は口を開け、中にある僕の放った精液を見せつける。それから口を閉じて、味わっているかのように頬を動かして見せた。その動きは、まるでディナーに出てきたワインの味でも楽しんでいるかのようだった。
 そして、最後に音を立てて飲み下した。
「精の味も最高。でも、やっぱりお口じゃ物足りない。……あなたも、そうよね」
 僕のペニスは硬さを失っていなかった。それどころかドラゴンの手に掴まれて上下に扱かれると、萎えるどころかさらに硬さを増してしまうありさまだった。
 恐ろしいはずのドラゴンの手。けれど触れられてみると意外とその手の平は柔らかく肉厚で、擦れる感覚が何とも言えず心地よかった。
 十分硬くなっている事を確認すると、彼女は僕の上に馬乗りになった。
 僕の胸の上で彼女の柔らかな乳房が潰れ、体温が溶けあった。それだけで僕は何も考えられなくなってしまった。
「入れるわね。んっ。はあぁ……」
 ぬるり、と自分の物が彼女の中に入っていくのが分かった。彼女の中は熱く、ぬるぬるにぬめっていて、そして激しく蠕動していた。早く奥まで突かれたくて仕方がないとでもいった様子だった。
 一瞬、何かを破る感覚があった。その時だけ彼女が表情を強張らせていた気がしたが、はっきりとは分からなかった。
 僕は動揺してそれどころでは無かったのだ。
 とうとう魔物と結ばれてしまい、全身に激しい嫌悪感と背徳感が広がった。けれどそれよりもさらに快楽が強すぎて、感情はすぐに塗り替えられてしまった。折り重なる幾つもの感情と、初めての圧倒的な感覚に、僕は嵐の中に放り出されたような気持ちだった。
「入った。やっと、やっと一つになれた……」
 常に雌の顔をしている彼女だったが、僕が中に入ってからは眉根を寄せた艶っぽい表情になっていた。
 理性は警鐘を鳴らしていた。けれど彼女の表情を見るうちに、彼女の匂いや触り心地、内側の感触を感じているうちに、僕の肉体は完全に獣の雄のそれになってしまっていた。
「すごく、気持ちいぃ。もっとあなたを感じていたい。でも、まずはこの渇きを癒したいの……。これからずっと交わっていられるんだから、だから、まずはおなかがいっぱいになるまで、ちょうだい?」
 最初は何を言っているのか分からなかった。理解できたのは彼女の動きが変わってからだった。
 彼女の腰が、まるで別の生き物のように激しく滑らかに動き始めたのだ。
 僕は最後の抵抗を試みた。全力で暴れて、せめて契りが完了してしまうのだけは避けようと足掻いた。
 けれど力の差は歴然だった。そこには子供が大人に挑むよりも遥かに遠い、言うなれば赤子が歴戦の傭兵に歯向かおうとするくらいの歴然とした力の差があった。
 魔物の膣は、まさしく魔性だった。僕はあっけなく二度目の射精を彼女の胎内に放ってしまった。
 こうして僕は彼女の、魔物娘ジャバウォックの婿となってしまったのだった。


 その日、僕は彼女に、数えきれない程何度も何度も絶頂を味わわされ、精を搾り取られた続けた。
「やめて。もう出ない。出ないから……。もう許して……」
「そんな事無いわよ。ほら、もう少しだけ頑張って? おちんちんもまだ硬いし、まだいっぱい出せるわよ」
 数えていたのは四回までだった。それ以上は、もう意識が朦朧として覚えていられなかった。
「もうちょっと、もうちょっとだけ頑張って。ほら、精がせり上がり始めた。あっ、来た。あっついのいっぱい来たぁ」
「ぅう、ああぁ……」
 彼女は初めての交合が終わっても満足してくれなかった。それどころか、人の味を覚えた獣が如く、精の味を覚えた彼女はひたすらに僕の精液を搾ろうと僕の上で腰を振り続けた。
「もう、空っぽだよ……」
「大丈夫。まだこんなに出るんだもの。まだまだ出来るわ。あなたの精力はこんなものじゃないって、私知ってるもの。
 ……もし疲れたら、私が何度だって元気にしてあげる」
 僕は、怖かった。
 確かに交合は気持ち良かった。けれどそれが問題だった。気持ち良すぎるのだった。
 自分でもどうしようもない感覚に流され、僕は抵抗する事さえも出来ず、彼女を受け入れる事しか出来なかった。
 精を放つごとに、自分が人間では無くなっていく気がした。何しろ、射精しても射精しても勃起が収まらず、放たれる精液の量も減る気配を見せなかった。
 絶望的な恐怖感と狂気のような快楽の渦の中で、僕は射精を繰り返した。
 早く終わってくれる事だけを祈り続けていた。けれど助けの手はどこからも現れなかった。
 恐怖と快楽が意識の限界を超え、気絶してしまうまで、僕はずっと彼女に犯され続けた。


 地獄のような快楽に溺れるのは、その日だけでは終わらなかった。むしろ、その日が始まりだったと言った方が正しかった。
 それから先は、延々と快楽に塗り潰される日々が続いた。
 彼女は眠らず、食事もとらなかった。ただひたすらに僕との交わりを求めて来た。魔物娘は、交合さえしていればあとは睡眠も食事も必要ないようだった。おかげで昼夜の感覚がすぐに無くなった。
 彼女の性欲は異常なほど強く、何度やっても満足しなかった。当然僕は眠れず、意識を手放せる時と言ったらあまりに強すぎる快楽に気を失ってしまう時だけだった。
 大概の魔物娘は性欲が強いとされていが、その中でもジャバウォックは、彼女は特に性欲が強いようだった。
 こうして僕の生活の中からまぐわい以外の全てが無くなった。そして交わり方の知識と経験ばかりが増えていった。
 彼女は僕に色々な方法での交わりを求めてきた。
 彼女が上になる方法、彼女が下になる方法、横になって後ろから繋がる方法、後ろから犬のように交わる方法、等々、とにかく色々な方法で交わった。
 魔法薬も色々使った。
 母乳が出るようになる薬を使い、彼女の母乳を飲みながら射精を繰り返すという永久機関のような事もした。分身薬を使って僕が数人になり、複数人で輪姦するかのように、口と、膣と、尻と、触手の口と、とにかく穴と言う穴へ射精した事もあった。その逆に、無数の彼女に同時に襲われるという交わりもした。口の付いた触手に身体中に喰らい付かれ、とろけるような快楽の中で捕食されているかのような交わりもした。
 大量の精液を一気飲みしてみたいという彼女の望みを果たすために、洗面器がいっぱいになるまで手淫され続けた事もあった。
 外で交わった事もあった。
 森の中で、泉の縁で、街中の大通りで、時には空を飛びながら交わった事もあった。彼女の知人が催した"お茶会"では、ステージに上がって特に激しくまぐわった。
 僕はひたすら彼女に犯され、彼女の望む様に犯した。
 犯し、犯されるうちに、だんだんと彼女との交わりにも抵抗が無くなった。いや、諦めてしまったのだ。
 けれど、交われば交わる程に僕の胸は重く苦しくもなっていた。
 彼女と交わるごとに、僕の身体は少しずつ人間離れしていった。そのうち食事をしなくても平気になり、眠っていない事にも気付かなくなった。いつしか何度連続で交わっても疲れなくなっていた。
 けれども、身体が幾ら魔物に近づいて行っても、非人間的な行いを繰り返していても、僕の心はまだ人間だった。
 交わるたびに神に許しを乞い、救いを乞い続けていた。
 ……けれど、誰かが救いに来てくれる事など一度もなかった。


 ***


「あなた。……あなたは、まだ私の事を心の底からは愛してくれていないのよね」
 目覚めてすぐの交わりの後、珍しく彼女は僕の身体を解放すると、少し寂しそうな顔でそんな事を言った。
 僕は答えられなかった。答えられるはずが無かった。
「身体はこんなにも愛してくれているのに。……私の事、嫌い?」
 口を開く前に、彼女の指が僕の唇を塞いでいた。
「私は、あなたの事をずっと見ていたのよ。敬虔な主神教徒の多い小さな村で生まれてから、ずっとあなたの事を見てきた。あなたのご両親の事も」
 心臓がどくんと跳ねる。母の事、父の事、まさか知っているのか。
「嘘だ。そんな、どうやって……」
「私は最高位の魔物娘、ジャバウォックよ。自分に相応しい相手を探すために、世界の壁を隔てて遠見するくらいわけ無いわ」
「……僕の事を全部見ていたって言うのか? 生まれてからの、全てを?」
「ええ、そうよ。ここまで言えば、私があなたを夫に選んだのも分かるでしょ?」
 頭の中に記憶が蘇る。
 村での暮らし。主神の教えに従った、規則正しい生活。常に清く正しくあろうとした日々。いろいろな事を我慢し、自分を抑えてきた、生まれてからの全ての人生。
 そう。僕は生まれてからずっと、自分を抑えて生きてきた。
 そして、その自分を抑えて生きてきた結果が、村での最後の光景だった。
 村の中央広場で、自分を磔にして火あぶりにしようとした村人達。
『魔物の子め!』『裏切り者め!』『穢れが移る。近寄るな!』
 怒りで顔を赤黒く染めた村人達。浴びせらえる罵声。
 本当は分かっていた。彼女が来たせいで全てを失ったんじゃない。全てを失った後に、彼女が現れたんだ。
 ……知らなかった。母がいつの間にかサキュバスになっていたなんて。父が魔物になった母を喜んで抱いていたなんて。
 知らなかった……? いや、知らないふりをしていただけだ。
「昔からえっちな子だったわよね。でも敬虔な信者だから、いやらしいことなんて全く興味の無いふりをしていて、そのくせ両親の交わりはこっそりのぞいていた。あなたのそんな歪んだ性欲が堪らなく可愛くて愛おしくて、その煮詰めたような淫欲をこの身に浴びてみたかった……」
「違う。僕は……。僕はそんな人間じゃない。神の教えに従って、だから誰にも手を出した事だって無かった」
「でも、そういう目で見ていた。本当は誰よりも興味を持っていた」
 ……あぁ、そうだ。彼女の言う通りだ。僕は、そうだ。幼い頃から女の人を見るたびに、普通じゃない感覚を抱いていた。今なら分かる。あれは性欲だったんだ。
 母さんが魔物になり始めていた事だって、僕は知っていて見逃していた。
 いつの頃からか母親が異様に美しくなり始めていた。僕は母が綺麗になっていくのをもっと見ていたかった。ベッドの上で父に抱かれて日に日に淫らに乱れるようになっていく姿をもっと見ていたかったのだ。例え角や羽や尻尾が生え始めても、気持ちよさそうによがり狂う母と父を見ていられればそれで良かった。
 母を喜んで抱く父に羨望さえ抱いていた。母を抱きたいというわけでは無かった。ただ、魔物との交わりが人との交わりよりもより気持ちよさそうで、自分もそれを経験してみたくて、ただそれだけだった。
 僕はケダモノだ。劣情の塊だ。けれどそれは神の教えには反するから、誰にも認められないから、そんな自分を押し殺して生きてきたんだ。
「私は、そんなあなただから愛したのよ。例え神に、世界の全てがあなたを否定したとしても、私だけはあなたを受け入れる。あなたの欲望の全てを。だって私も同じだから。生まれた時から誰かが交わっているのを見るのが好きで、早く運命の相手と結ばれたくてたまらなくて、そればかり考えて来たから」
 そうだ。僕はしたくてしたくて仕方なかった。人間の娘とももちろん、気持ち良くなれるのなら魔物と交わる事でさえいとわないと考えていた。ただ快楽に溺れたかった。
 僕はそんな自分の本質から、教会の教えによって無理矢理目を背けていただけだ。彼女と交わるまでも無く、僕は最初から彼女と同じ、淫欲の魔獣のようなものだったのだ。
 僕は自分の本性を自覚してしまった。思い出してしまった。けれど、だからと言って今までの人生を全て否定する事も、すぐには出来なかった。
 夢じゃない。これこそが現実なのだった。世界が崩れていくようだった。もうどうしたらいいのか分からなかった。
「あなた。そんな顔しないで」
 彼女が微笑み、優しく口づけをしてくる。
 初めて見る笑顔だった。母親のような優しさに満ちた、それでいて泣く寸前にも見える儚げな笑顔。
「そういう時は快楽に身を任せてしまえばいいのよ。私が忘れさせてあげる」
 僕はゆっくりと彼女に押し倒される。
 幾度となく重ねられた肌。何度触れ合っているにも関わらず、飽きることなくその度に劣情を抱かせる魔性の肌。
 乳房が潰れ、手の平同士が重なり、唇と唇が、舌と舌が絡み合う。
 耳元に吐息が触れ、そして両耳の穴にさらに舌が侵入してくる。ぐちゅぐちゅと言う音が頭の中に直接響いて、意識そのものを愛撫されているような気持ちになる。
 彼女の触手の口の舌だ。こんな風に耳を責められるのは初めてだ。
「ん、んんっ。ふ、ぅ……ん」
 尻尾が僕の一物に絡み付き、彼女の膣の入口へと導く。
 濡れた柔肉の感触が触れるなり、彼女はすぐに僕を迎え入れた。
 形のいい眉が歪む。僕はこの時の彼女の顔が大好きだ。あぁ、そうだ。大好きだ。
 僕は、彼女の背中に両腕を回してしっかり抱きしめる。
 もう、人間じゃなくたっていい。僕は獣でいい。気持ち良くなれるなら、この雌が気持ちよさそうな姿を見られるなら、もう何だっていい……。
「ん。ふぅ……んんん」
 耳から入った粘膜質の感触が全身に鳥肌を立たせる。まるで理性や意識ごと脳を舐められているような気分になる。
 そして僕は唇と舌から、肌と肌から、ペニスとヴァギナから境界を失い、彼女と一つになってゆく。
 もうどちらの粘膜がどちらの粘膜を愛撫しているのか分からない。ただ気持ちいい。それだけだった。
 何かが膨れ上がり、解き放たれ、混ざり合い……。
 そして僕は初めて穏やかな気持ちのまま交わりを終えて、眠りについた。

 ………………

 …………

 ……

 広い部屋の中で、初めて僕は一人になっていた。
 交わりを終え二人で目覚めた後、彼女が珍しく外の様子を見て来ると言って出ていったのだ。確かに、最近人間界の勇者が紛れ込んだという噂は流れていた。
『近くで変な気配がするの。大したことは無いと思うけれど、ちょっと様子を見てくる。あなたはここを出ないで』
 彼女は大丈夫だろうか。不思議の国のドラゴンの化身なのだから、よっぽどの実力者でも無い限り相手にもならないだろうが……。
 それにしても、彼女がいないだけでなんとも心寂しく不安だった。
 これまで彼女と繋がっていない時など無かったのだから、考えてみれば当たり前だった。言ってみれば、もう彼女は僕の半身のようなものになってしまっていたのだ。
「父さんもこんな気持ちだったのかな」
 魔物になった母を初めて見た時、父は大層驚いていた。けれどすぐに微笑んで母を強く抱き締め、「お前はお前だ。これからも変わらず愛し続ける」と言っていた。あれはきっと、愛し合っているうちに互いが互いの半身のように思える程に想いが強くなっていたからこその言葉だったのだろう。
 結局二人は交わりの時間が増え過ぎ、それがきっかけで村人達に不審がられて魔物化が知れてしまって僕達一家は村からは追われる事になってしまったが、それでも両親にとっては魔物化自体は不幸な事では無かったはずだ。
 当然、僕に両親を恨む気持ちは無い。
 父も母も元気で居るだろうか。僕は村人に捕まってしまって、それからは彼女に娶られてこの世界に来てしまったから分からないが、今はただ二人が元気に居てくれることを願うばかりだ。
 そうだ。彼女が帰ってきたら、親を紹介しに一度人間界に行ってみるのもいいかもしれない。
 そんな事を考えているうちに、早くも部屋の扉が開いた。
「おかえり。今ちょうどいい事を思い付いて……」
 そこから先は言葉が出なかった。
 なぜなら、扉の向こうに居たのは彼女では無かったからだ。
 細身の全身鎧を身に纏い、腰に長剣を下げた戦士。表情はフェイスガードで分からなかったが、体格は女性のように華奢だった。
「やっと見つけたわ。私は神に遣わされた勇者の一人。あなたを助けに来たの」
 体格に違わず、その声も女性のものだった。
 フェイスガードの下から現れた顔は、溌剌そうな少女の笑顔だった。


 勇者は僕の名前と、僕の生まれ育った村の名前を知っていた。
 驚く僕を、勇者は有無を言わさずに「ここは危険だから」と半ば無理矢理に部屋の外へと連れ出した。
 勇者は、魔物同様に人間よりも力が強い。僕は抵抗を試みたものの、結局は彼女にそうされてきた時のように力では全く叶わなかった。
 けれど、どうして今更なのだろうか。
 村人に捕まった時は誰も助けてくれなかったのに。
 村の広場で火あぶりにされそうになった時に、助けてくれたのは魔物娘の方だったというのに。
 迷っている間に、とうとう玄関から外に出てしまった。
 昼とも夜とも分からない桃色の空から、シロップのような甘い霧雨が降る不思議の国の情景に、勇者は表情を曇らせる。
「なんて不気味な……」
 けれどもこの世界の日の光は、外で交わっていても肌が焼けない程度に優しく、雨の水も交わりの際の潤滑油として上手く働いてくれるのだ。
 と、そこまで考えて、僕は自分がどれだけこの世界に染まり切っているのかに気が付いた。そして同時に、自分が帰りたくないと思っている事にも。
「勇者さん。僕はあの村で、魔物の子として殺されそうになったんです。それに魔物に連れ去られて何度も交わった。それをどうして今更?」
 勇者は振り返り、見事な笑顔を浮かべる。人を安心させる為に何度も繰り返してきたのだろう、教会の者特有の笑顔を。
「神は百頭の羊のうち、一頭でも迷い出ればその一頭を探されるのです。九十九頭の迷わなかった羊よりも、戻ってきた一頭を喜ばれるのです。ですから」
「それが羊の皮を被ったケダモノだったとしても、ですか?」
「はぁ、それは一体、どういう?」
 勇者の鉄の笑顔に、わずかにヒビが入る。僕の言っている意味が分からない、と言うように首をかしげる。
 その年齢並みの少女の姿の向こうの空に、僕は愛しい妻の姿を見つけた。空を飛んで辺りを見回っていたのだろう。こちらを見つけてすぐに降りてくる。
「僕はもう魔物娘の夫なんです。妻を置いて、元の世界には帰れません。もう妻が来ましたし」
「あなた! その娘は危険よ! 早く離れて!」
「なるほどそういう事ですか、分かりました。あなたはあの魔物の魔法で正気を失っているだけです。魔物さえ排除すれば、きっと正気に戻ります」
 僕は頭を掻く。そうでは無いのだ。彼女が言っていた通り、僕は生まれた時から色に堕ちていた。村娘を見てもそういう事を考えていたし、興味本位で両親の交わりでさえ毎回覗き見ていたのだ。
 生まれた時からこちら側の住人だった。それが羊のように育てられていただけだったのだ。
「奴。ジャバウォックはドラゴンの変異種です。強い力を持っていますから、魔法でそのくらいの事は出来るでしょう」
 ところが、彼女は複雑な、特に精神を操るような魔法は苦手らしいのだ。……裏を返せば、僕は魔法で彼女に惹かれていたわけでは無く、彼女の肉体に魅了されてしまったという事になるのだが。
「人間の小娘が……。このジャバウォックの夫に手を出して、ただで済むとは思っていないでしょうね? あなた。早くその子から離れて」
「離れないで下さい。あなたは私が守ります」
 勇者は構えを取ると、どこからともなく無数のナイフを取り出して投げつける。
 しかし直線的なナイフの動きなど、最高位の魔物であるジャバウォックの前では攻撃にもならない。彼女はわずかに身を動かしただけで、全てのナイフを避けて見せた。が。
「痛っ。何?」
 ナイフは一度彼女のそばを通り過ぎると、空中でその軌道を変えて、再び彼女に向かって襲い掛かっていた。
 彼女は鱗に覆われた手足や尻尾で受け流してはいたが、それでもいくつかは受け切れず、柔肌に赤い線が刻まれていく。
 彼女の肌に傷が……。激しい感情で目の前が歪み、世界が一瞬揺れたように思えた。
「どうですか。ドラゴンに変身する隙など与えませんよ」
 勇者が唇を歪めた。どうやらこの娘が魔法か何かでナイフを操っているらしい。
 何とかしなければ。とは言え、ひ弱な僕では暴力では勇者には敵わないだろう。
 となればどうするか……。考えたが、すぐに思い付いた方法は一つだけだった。
「唇は、流石に遠慮するべきかな……。勇者さん、ちょっと」
「今戦闘中です。あとにしてください」
「大丈夫です。すぐすみますから」
 僕はおもむろに彼女の隣に立ち、そして。
「ちょ、ここは危険ですから、下がっ」

 彼女のほっぺたに口づけした。

 その瞬間、時が凍った。
 ナイフは止まり、彼女の動きも止まった。
 そして、魔力の爆発と共に再び時が動き出した。
 一瞬にして、僕の目の前にドラゴンが現れていた。鋭利な爪と牙を備え、大空を翔る翼を持った大いなる爬虫類。頭以外にも、その背に幾つもの盲目の獰猛な首を従える、桃色のドラゴン。ジャバウォック。彼女のもう一つの姿。
 瞬時に僕の側に移動した彼女は、その鋭利な爪を今まさに勇者に振り下ろしていた。
 金属が軋む音に遅れて、地響きが轟いた。
 勇者が見事にその剣でジャバウォックの一撃を受け止めたのだった。だが爪は受け止められても力までは受け流し切れなかったらしい。その足元には亀裂が入り、勇者自身の足も震えていた。
『グルルルル』
「何を……。あな、たは」
「だから言ったでしょ。僕は魔物の夫で、羊の皮を被ったケダモノだって」
「けど、今なら、まだ間に合います。神はまだあなたをお見捨てにはなっていない。どうか、私と一緒に」
『私の夫は神のものじゃない! 私だけの雄なんだから!』
 ジャバウォックの目がギラリと光る。幾つもの首が大きく息を吸い込み、そして。
「まさか、ちょっと待って。嘘……」
 全ての口から桃色の激しい炎が噴き上がる。至近距離から桃色の連続ブレスを浴びせられては、いくら勇者と言えども受け切る事は出来なかった。
「きゃああぁぁぁぁ……」
 炎が少女の身体を包み込む。吐き出された息はその身体を木の葉のように舞い上げると、遥か彼方へとあっけない程簡単に吹き飛ばしてしまった。
 叫び声と少女の姿が、次第に小さくなってゆき、そして消える。
「……殺しちゃいないよね」
『湖の方へ吹っ飛ばしたから多分大丈夫よ。あそこに住んでるスライムまみれになるかもしれないけどね。仮に反れても、この世界なら地面の方が上手く受け止めてくれるわよ』
 魔力の発光と共に、ジャバウォックが元の姿を取り戻す。
「それより、どうして逃げなかったの。どうしてあんな子に、キ」
 言い終わる前に、僕は彼女の口を塞ぐ。
 舌を入れ、彼女の口の中を掻き回し、その味と匂いを堪能する。
「やっぱり妻との、お前とのキスが最高だ」
 彼女は急に顔を真っ赤に染めると、珍しく、本当に珍しく乙女のような恥じらいの表情を見せた。
「そ、そんな事言ったって騙されないんだからね。私がどんな怖かったか」
「僕も怖かったよ。愛する妻の綺麗な肌が傷つけられて、怖くて、腹が立った。けど僕に力は無いから、隙を作るにはあんな事しか思いつかなかったんだ。勇者ならそういう事に免疫も無いだろうしね」
「な、ななな何よ急に、愛しているとか、今までそんな事……一言も言ってくれなかったのに」
 僕は彼女の身体を強く抱き締める。
 豊かな胸の感触が、発情した雌の匂いがたまらない。
「ずっとつれない態度を取っていて悪かったよ。お前の言う通りだった。僕は生まれた時から、淫らな事ばかり考えてた。お前と同じだったんだ。今までずっと考えないようにしていた。忘れようとしていた。けど、お前に言われて自分の本当の気持ちを思い出したんだ」
「あなたぁ……」
「それに何より、お前はこれ以上ない程魅力的な女だ。世界で一番の雌だよ。そんな女が尽くしてくれるのに、いつまでも愛さずにいられるわけがない。
 ……愛しているよ」
 彼女の鼓動が急に早くなるのを肌で感じる。
 僕は彼女の服の隙間から乳房を直に揉み、そのスカートの隙間から指を下着の中へと忍ばせる。
「濡れ濡れじゃないか。それに、まだまだ奥から溢れてくる」
「だって、ずっとその言葉を待っていたんだもの。それを、こんなに素直に言われたら、こうなるのもしょうがないでしょ? あ、指、奥ダメっ」
 彼女の肌からは、既に発情している時の匂いが発せられていた。
 初めて交わった時と似た匂い。けれどその時よりも柔らかく、それでいて濃厚な匂いだった。
「ねぇ、部屋に戻りましょう? 早くベッドで」
「ここでしようよ?」
「え?」
「膝をついて、犬みたいに四つん這いになるのだ。さぁ、早く」
「はい、あなた。……あ、でも、気配が集まり始めてる。多分、騒ぎを聞きつけた周りの魔物娘達よ。もう遠巻きにこっちを見ている子も……」
「それが何か問題? 見せつけてやればいいじゃないか。いつもの事だろう?」
「え……。そ、それもそうね。……あの、服は、着たまま?」
「嫌?」
「わ、私はいいけど。なんか、どきどきしちゃう」
 彼女は言われるまま四つん這いになり、僕に向かってお尻を突き出す。
 指で下着を除けると、じっとりと愛液で濡れた雌穴が充血してひくひくと動いていた。肛門までもが僕を受け入れる準備が出来ていた。
 僕はズボンの中から膨れ上がった肉棒を取り出し、少し迷った末、彼女の膣口へとあてがった。
「やだ。なんかすごく緊張する。初めてのときだってこんなんじゃ無かったのに。……私、どうかしちゃったのかな」
「照れてるお前も、新鮮でいいな。正直、凄く可愛い」
「やめてよ。余計に……あ、あああああっ」
 後ろから一気に貫く。
 照れている姿もそうだが、こんな風によがり声をあげるのも初めてかもしれない。心なしか、絡み付いてくる膣の蠕動もいつもに比べて不規則で、けれども愛液の分泌だけはいつもよりかなり多いように感じた。
 指でお尻を弄ってやると、彼女は弓なりにのけ反りながらびくんと身体を跳ねさせた。中の方も滑りがさらに良くなり、締め付けも強くなる。
「だ、め。おしり弱いって、知ってるでしょ?」
「そうだったね。じゃあこっちはもうちょっと弱ってから責める事にしよう」
「何言って、ぅ、あ、んあああっ」
 腰を大きく降り始めてやる。いやらしい水音と匂いが立ち昇り、肉棒に膣肉が絡み付いて絞り上げてくる。
 僕は後ろから彼女を抱き締める。乳房の感触を両手いっぱいで楽しみながら、翼や尻尾の付け根を甘噛みしたり、舐めたりしてやる。
「や、あぁっ。こんな気持ち、初めて……。いつも、気持ちいいけど、いつもより、ずっと……。私、おかしくなりそう」
 彼女の触手も僕の身体に巻き付いて来て、そこらじゅうを舐めてくる。僕は快楽の奔流に流されながらも、けれども今はその流れを乗りこなせていた。
 彼女の弱い部分を舐め、甘噛みし、乳房を揉みしだき、乳首を優しくつまむ。彼女は大きく吐息を吐いて身体を震わせる。
「僕もお前も、もうすでにおかしいじゃないか」
「そう、そっか。そうよね」
「それに、広い目で見ればさかりの付いたオスとメスが、ただひたすら交尾しているだけだよ。何もおかしい事は無いんだ。そう、これが自然なんだよ……」
 しゃべっているこっちも、だんだんと余裕が無くなって来た。
 いつもと違うのはこちらも同じなようだ。とにかく彼女の中に出したくて仕方がない。
「気持ちいい。凄く気持ちいいよ」
「あなたぁ……愛しているぅ」
「僕もだよ」
 僕達は大きな声を上げながら、共に絶頂を迎えた。
 淫らなメストカゲの子袋の中に、淫らなケダモノの子種が注がれる。身体の奥から欲望が流れ出るように、大量の子種がぶちまけられる。
 けれども、それでも僕らは満足しなかった。
 もっと快楽を。もっと愛を。もっと、もっと……。そんな欲望と共に、僕達はいつまでもいつまでも肌を重ね、腰を振り続けた。
 周りの事など、何も気にせず。
 飽きることなく、さかりの付いた獣のように。
 
14/10/27 22:58更新 / 玉虫色

■作者メッセージ
はじめましての方ははじめまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。書きたい書きたいと思っているのですがなかなか時間が取れず、結構前の短編から間が空いてしまいました。

今回は衝動的に両耳を舐められている話を書きたくなり、ジャバウォックなら舌いっぱいあるから出来るんじゃね? と考え、でもジャバウォックなら拷問じみたセックスをしそうだなぁ。と連想し……。
結果耳舐めはあまり残りませんでした……。

魅力的な新しい子がいっぱい増えてますよねぇ。書きたいなぁ……。あぁ、時間が欲しいなぁ。


ちょっとでもダークな雰囲気を感じてもらえたり、少しでも楽しんで頂けていたら幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

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