燃える山岳
私がその山の話を聞いたのは、同業者たちの間で交わされる世間話からだった。
とある魔界の隅にあるその山は、魔物の魔力で満たされているにも関わらず、これまでに一匹の魔物の姿も見つかっていないのだという。
魔物の魔力と言うものは魔物娘の身体から発せられる。本来であれば魔物娘がいなければ魔物の魔力も存在しないのが自然なものだ。
魔物学者として、こんなに興味を引かれる題材は無かった。私が話を聞いてから、荷物をまとめて件の山に赴くまでにそう時間は掛からなかった。
かくして私の調査活動は始まったのだった。
それから半年。私は地元民から借りた炭焼き小屋を拠点に、山の中を歩き回って調査に明け暮れた。
その山には他の山では見られないようなさまざまな場所が存在していた。
ガラス質の何かで出来た森、硫黄臭のする大きな沼、砂丘のような広い砂地、大きな怪物が出鱈目に暴れ回ったような跡の残る岩場。
自然ではまず出来ないような、しかしながら人工では決して作り出せないような光景を見て回るのはもちろん面白く、それらが出来た経緯を考えると非常に興味深かった。
しかし私の研究対象である魔物娘の姿は、この半年を通してどこにも見つけられなかった。
山はかなりの高山帯にあり、そのほとんどが地べたに岩がごろごろと転がっているような荒れ地になっている。それに加えて植物などは大きいものでも腰元あたりまでの低木ばかりなので、どこかに身を潜めているという事も考えられなかった。
自分が一人身の男だという事を考えても、ここまで魔物娘の姿を見ないのであれば存在していないのだと考えるのが自然だった。
季節が巡り雪が降り始めても私は諦めなかった。
寒くなれば寒冷地の魔物娘が現れるかもしれない、と考えたのだ。
イエティ、グラキエス、ゆきおんな等々。雪山の棲む魔物娘も多い。あるいは彼女達が冬の間だけここで暮らし、その時の魔力が残留して山を覆っているのであれば、この現象にも説明が付けられる。
しかし、いくら待っても魔物娘は現れなかった。
真っ白に雪化粧した山を歩き回っても、魔物娘どころかどこでも感知できるような微弱な精霊の気配さえ感じられなかった。
やがて冬の気配は強まり、吹雪の日が増えた。雪の量も多くなり、腰まで埋まってしまう事も珍しい事では無くなって来た。
私は研究の中断を決断せざるを得なかった。私は魔物の専門家ではあったが、雪山の専門家では無いのだ。
仕事上、魔物娘に襲われ腹上死するのは望むところだったが、雪山で凍死する気は無かった。
……まぁ魔物娘の習性上、パートナーを吸い殺すという事はありえないのだが。
ともかく私は再び荷物をまとめ、山を下りることにしたのだった。
がらんどうになった炭焼き小屋に別れを告げ、私は下山道に足を向ける。……はずだった。
しかし小屋から出た途端に、気が変わってしまった。
雲一つない澄み渡った青空を見ていたら、最後にもう一度だけ山を見て回りたいと思ってしまったのだ。
日が暮れるまでに麓の街までたどり着けるように引き返せばいい。日が暮れてしまっても、炭焼き小屋に泊まれば何も問題は無い。
私は最後に思い出を焼きつける様なつもりで、歩きなれた山道に一歩を踏み出した。
かなりの標高を誇るこの山からは、近隣の山々や近くの里が見下ろせる。雪が降る前は青々とした波打つ山々が見下ろせ、雪が降った今も白と青の稜線が美しかった。
加えてこんなにも空が晴れ渡っていれば、気持ちが良く無いわけが無かった。
しかしこうして見慣れた光景もこれが最後だと思うと、寂寥感がこみ上げて来るのもまた事実だった。
結局、私はここで何も成せなかった。
新しい事は何も発見できなかった。魔物娘を発見する事も、魔物の魔力がなぜこんなに充満しているのかも明らかにすることが出来なかった。この山にある色々な場所がどのようにして形成されたのも、仮説は立てられても証明する手立てが思い付かなかった。
しかしまぁ研究と言うものはそう言うものだった。何もかもが上手くいくというわけでは無い。あるいはこの地での経験が、他の場所の探求に役に立つかもしれないのだ。そうでも考えなければやっていられない。
研究とは、闇の中に道があると信じて勇気をもって一歩を踏み出してゆく事なのだ。
自分の信念を再確認して、改めて一歩踏み出そうとしたその時だった。
轟音が、響いた。
突然、山が咆哮を上げたかのようだった。低い唸り声のような音が、地面の底から突き上げていた。
「な、なんだ?」
そして、世界が揺れた。
踏み出そうとした足はたたらを踏み、私は無様に地面に這いつくばる。
揺れは急激に強まり、立ち上がる事すらままならない。
そして突然手足から支えの感覚が失われ。
私の視界は暗転した。
闇の中に、光が見えた。
暗闇をぎざぎざに切り取って穴を空けたかのような光。それは実際、洞窟の天井に空いた穴からそそぐ外の光のようだった。
「痛っつ。しかし痛みがあるという事は生きている、と言う事か」
私は自分の身体を確かめる。
手足はちゃんとついていた。背中と腰が多少痛んだが出血は無く、痛みの質もただの打撲といった程度だった。
立ち上がるのにも、身体を動かすのにも特に支障は無かった。
身体の無事を確認しほっと一息つき、次に状況の確認を行う。
周りはほとんど暗闇に包まれており、周囲に何があるのか判然としない。
唯一分かるのは頭上に光がある事と、足の下が岩場では無く砂地になっているという事だけだった。身体が打撲程度で済んだのも、この砂地と背負っていたザックのおかげだろう。
この状況から察するに、大方地震で地面が崩れて地下洞窟にでも転落してしまったと言ったところだろうか。
私は荷物を下ろし、中から松明と着火装置を取り出して明かりをつける。
意外と辺りは広かったが、しかし周囲は岩の壁に覆われており、どこか別の場所に続いているという様子は無かった。
天井は高く、壁も鼠返しのようになっていてとても登れる気がしない。
「参ったな……」
自力では簡単に出られそうにない。岩壁を登るか、あるいは岩壁を掘り進むくらいしか脱出する方法は無いだろう。
誰かが通りすがりに現れる可能性は非常に少ない。魔物娘は当然見かけなかったし、麓の人間達も恐れてここには近づこうとしないようだった。
同業者が気付いて助けに来るのも期待は出来ない。あるいは魔物娘ダークマターでありながら研究者でもある彼女ならば気付いてくれる可能性も無いでは無いが、彼女も多忙な身だろうし、近隣地域に居るかも分からない。
「万事休すか。ん?」
脱力して腰を下ろすと、手に砂以外の硬いものが当たった。
松明を近づけると、砂の中に大きめの石が埋まっていた。
山の中に石が転がっているなど何も珍しい事では無い。しかしよく見てみると、それはただの石では無かった。
形は綺麗な楕円形をしていて、厚さも板のように薄かった。さらには文字のような物がいくつも刻み付けられていれば、人の手が加えられている事は明白だった。
古代文字の一種のようだったが、自分の知識には無い言語だった。残念ながらこの場で解読する事は出来そうにない。
しかし勿体ない事をしてしまった。自分が落ちてきた時の衝撃だろうか、石板はちょうどど真ん中で二つに折れてしまっていた。
何とかして持ち帰って中身を解読してみたいが、それも難しそうだった。かなり年季の入った代物らしく全体に薄く罅が入っており、下手に動かすとばらばらに崩れてしまいそうなのだ。
私は苦笑いで頭を掻く。もしかしたらこれは世紀の発見かもしれない。しかしそれはこれを持って無事に脱出できたらの話だ。これを持ち出せず、さらに言えばここから出られず野垂れ死になんて事になったら発見どころの話では無い。
果たして真っ直ぐ下山しなかったことが良かったのか悪かったのか。自嘲気味に考えていると、ふと暗闇の中で何かが動く気配がした。
「あなた、だあれ」
突然の声の驚きつつ、私は松明を声のした方へと向ける。
「それ、あなたが壊してくれたの?」
橙色の松明の灯りの中に、人型をした岩が浮かび上がる。
「眩しいわ。でも、温かい光……」
「魔物娘、か?」
岩を削り出して人間の形にしたようなそれは、こくりと頷いた。
小さいながらも、しかし確実に肯定を示す仕草に、私の胸中は興奮に沸き立った。
やはりこの地に魔物娘は居たのだ。しかも知識が無いだけと言う可能性もあるが、見たことも無い種族。研究対象としてはこれ以上の存在は無い。
しかしその熱も長くは続かなかった。研究するとしても、無事に生きて帰れたらだ。
私は落胆しそうになったが、首を振って再度自分を奮い立たせる。
「ここから出る方法は、何かないのか?」
「無い。私もここに閉じ込められてから、ずっとここに居るの」
期待はしていなかったが改めて事実を聞かされるとやるせない気持ちになる。
だが、これで一応死んでしまうという可能性だけは無くなりそうではあった。
魔物娘と度重なる交合を重ねた男はその身にも魔物の魔力を宿し、インキュバスと言う魔物に近い存在に変化する。そうなると恋人の魔物娘との交合だけで生き延びられるようになり、食事や睡眠を取らなくとも生きてゆけるようになるのだ。
とはいえそれは目の前の彼女が自分を受け入れてくれたらの話だ。それにそうなれば自分も人間を辞める覚悟をしなくてはならない。出来るならば、今はまだそれは避けたかった。
「……寒い。近くに行っていい?」
「え? あ、ああ」
外界に比べ雪も風も無いので凍える程では無いとはいえ、言われてみれば確かに寒かった。
明かりの元に近づいて来るにつれ、彼女の姿がはっきりとして来る。
肌は暗い赤銅色。髪は灰色。肉体は人間の女性型を基本形とし、ところどころ岩のような外殻を纏っているようだった。
それ以外の、動植物や昆虫のような身体的特徴は無い。どうやら魔法物質型の魔物娘のようだ。
魔物娘なので当然衣服など纏っておらず、暗闇の中に艶やかな女性的曲線が見事に浮かび上がっていた。
「灯り。人間。どっちも温かい」
彼女は微笑みを浮かべると、私の腕に腕を絡めて来た。
暗い色合いの肌は見た目には堅そうではあったが、押し当てられると存外柔らかかった。乳房も強く押し当てられて、私は落ち着かない気持ちになって目を逸らした。
「と、とりあえず座ろう」
私達は腰をおろした。松明はたき火代わりに地面に突き刺す事にした。
「ずっとずっと一人で待っていた。何年も何年も、あなたみたいな人が来るのを待っていた」
彼女の美しい顔が予想以上に近くにあり、私は息が止まりそうになる。灰色の髪から甘い香りがしてどぎまぎしてしまう。
何を考えているのだろうか私は。研究者なら研究者らしく、冷静に彼女を観察するべきだ。そう、別にやましい気持ちで彼女の身体を観賞するわけでは無いのだ。これは研究の為なのだ。
私は咳払いを一つすると。じっくりと彼女の身体を観察し始める。
文字通り燃え尽きた灰を思わせる灰色の髪。髪飾りの橙色の宝石は、この土地で採れるものなのだろうか。
顔つきは成熟した女性のものだ。切れ長の目は黒曜石のような黒色をしており、その中にガーネットのような赤い瞳が煌めいている。大きめの口は、きっと笑ったらたいそう魅力的な事だろう。
今は大人しい表情を浮かべているが、ただそれだけでも大人の色香を感じる。
肌は暗い色合いをしているが、流石魔物娘と言うべきか傷一つなく肌理が細やかだった。均整のとれた手足や、豊かな乳房を始めとする肉付きのいい体つきも相まって、彼女の身体は大理石の彫像のように美しい。しかし彫像のように硬く冷たい印象かと言うとそうでもなく、彼女の肌からは不思議な温かみと、触れれば容易く形を変えそうな柔らかさを感じた。
彼女の甘い匂い、異国の煙草を思わせるこの甘い香りも、どうやら彼女の肌からもほのかに香っているらしい。
触れてみたいという強烈な衝動を掻きたてられる。少しでも油断すれば温もりを求めて抱き締めてしまいそうだ。やはり彼女は、本物の魔物娘のようだ。
とはいえ私も魔物学者の端くれ。魔物娘にはそれなりに慣れているので、自制する術も多少は身に付けている。そう簡単には落ちはしない。
彼女の身体的特徴が多少は分かったが、これだけでは種族までは分からない。一瞬ここに封印でもされたガーゴイルなのかとも思ったが、しかしガーゴイルであれば岩を荒削りしたような外殻など持っていないはずだ。
むしろこの無機質な体つきはゴーレムと通じるものを感じる。だが、原種のゴーレム程"作られた"と言う感じはしない。
外見からは山岳地特有の岩や砂、あるいは溶岩の特質を持つ魔物娘だと考えられそうではあるが……。まぁ、本人に聞くのが一番かもしれない。
「君は、種族は何て言うの? あと名前は」
「メルティ。ラーヴァゴーレムの、メルティ」
ラーヴァゴーレム! 聞いた事が無い種族だった!
魔物娘の世界は本当に広大だ。やはり私などまだまだ勉強不足と言う事だろう。人里の魔物娘ばかり研究していると、こうして特殊な地域特有の魔物娘にはどうしても疎くなる。
「ラーヴァゴーレムと言うのは?」
「溶岩で出来た魔物。昔ここに来た人間の賢者はそう言っていた。あなたは?」
「私は、これでも魔物学者の端くれでね。名前は……」
私は自分の名前を告げる。魔物学者と名乗ってはいるが無名もいいところで、当然彼女も聞いた事が無さそうな様子だった。まぁ、ずっとこんなところに居たのなら知る機会など無いだろうが。
「いい名前ね……。うふふ、気に入ったわ。ところで、あなたはどうしてこの山に来たのかしら?」
「同業者から不思議な山の話を聞いてね。魔物の魔力が満ちているのに、魔物を見かけないという山が……」
私は急にメルティに違和感を覚え、話の途中で言葉を区切る。
今までの大人しくたどたどしい言葉づかいに比べて、今の問いかけは非常に滑らかで、そして妖しげな色香を纏った口調だった。
肌の色も最初の暗い赤銅色から、少しずつ明るい赤み帯びていっている気がする。
「じゃあ、探し求めていた魔物娘をようやく見つけられたっていう事なのね」
「ま、まぁ、そうだね」
形の良い唇がにぃっと吊り上げられる。熱い吐息が私の首元をくすぐった。
「ねぇ、もっとくっついていい?」
答えを聞く間もなく、彼女は更に距離を詰めて肌を密着させてきた。
心なしか、彼女の身体も先ほどよりも柔らかくなっている気がした。触れているだけで彼女の熱が伝わって来て、寒さと共に緊張感までとろけてしまいそうだ。
「やっぱり人間って、あったかいのね」
「き、君の身体の方が温かいと思うけど」
彼女の身体は、やはり明らかに変化していた。
最初は暗い赤銅色だった肌が今では火口から流れ落ちたばかりの溶岩のような鮮やかな赤橙色になっており、その質感も軽く触っただけでもぷるんと弾けそうな柔らかなものに変わっていた。
「確かにそうかもしれない。でもこれはあなたのおかげ」
「私の?」
「魔物娘にとって人間の男は特別なの。人間の精液は特上のごちそうだけれど、でも私達は何もそれだけを糧としているわけじゃ無い。汗や、肌からもわずかだけれど精は出ているから」
私は思考を巡らせ、そしてはっと気が付いた。
先代魔王からサキュバスの現魔王に代替わりをした事によって、魔物は魔物娘に変わり、人間の男性の生命エネルギー、精を糧とするようになった。
その精が最も多く含まれるのが文字通り精液なのではあるが、しかし生命エネルギーである精は彼女の言う通り男性の身体の至る所から多少ではあるが溢れている。
であるなら、仮に体温にも精が含まれているのだとすれば……。それは自然の熱よりも強く、魔物娘達の身体に効果を及ぼす事になるだろう。
現に男性の温もりを求めずにはいられないセルキーと言う種族や、男性の体温と精を奪ううちに氷の魔力を溶解させてしまうグラキエスと言う種族も居る。
「あなたの身体、とっても温かいわ。もっと欲しい。直に、肌を合わせたいわ。……これ、邪魔ね」
そう考えれば、冬場の低温で力を失っていたラーヴァゴーレムが私の体温で力を取り戻したと考えても何らおかしい事は無い。
だが待てよ。それならば夏場に彼女達の姿を見なかった説明が付かなくなる……。
「って、メルティいきなり何を……ん?」
考え事をしている間に、彼女は私の身体に抱きついていた。そして驚くべきことに、彼女の触れている私の防寒服から黒煙が上がっていた!
「ちょ、何をしているんだ!」
慌てて彼女の身体を引き剥がしたが、もう手遅れだった。服は真っ黒に炭化しており、動いた拍子にぼろぼろと崩れ落ちて素肌があらわになってしまった。
服は焼けたが、しかし素肌には火傷も傷も無かった。恐らくは彼女の魔力で洋服だけが焼け落ちたのだろう。洋服や武器が破壊されても、人間の身体には傷一つ付かないというのは魔物娘を相手にしていればよくある事ではある。
幸か不幸か、肌には奇妙な熱が残って寒くは無い。しかし魔物が与えてくる熱など欲情を催す火照りに違いなく、その上魔物娘の前で肌を晒しているというこの状況は非常にまずい。
「ふふ。そんな格好じゃ寒いでしょう? さぁ、直に肌を重ねて温め合いましょう。ほら、脱がせてあげるわ」
「ちょっと待っ」
分かり切っていた事ではあったが、こう言った状況で人間が魔物娘から逃れるすべはまず無い。
私も例に漏れず、あっけなくメルティに組み敷かれ唇を奪われてしまった。
彼女は柔らかな唇で荒々しく私の唇を貪ると、何の遠慮もせずに舌を入れてきた。
外見に似合わないとろけるような瑞々しい舌が口の中を暴れ回る。舌同士を強く擦り合せ、歯茎を嘗め回し、唇の裏を撫でてくる。
ほのかな甘さにわずかに煙の香ばしさが混ざったような匂いが鼻の奥に抜けてゆく。
身体の奥から湧き上がる衝動を、どうにも止められない。
思い返してみれば最近は人間に会う事さえも稀だった。当然女性と触れ合う事も、大分ご無沙汰の事だ。
調査の過程で魔物娘に襲われるという事も、ここ最近はまるでなかった。
そんなただでさえ誘惑に屈しやすい状況で、これだ。これが普通の娼婦であったのなら自制も効いただろうが、本気になった魔物娘を前にしては……。
あぁ、もう駄目だ。性欲を抑えられない。
私は欲望のまま舌を伸ばす。喉がからからだった。彼女の唾液を味わいたくてたまらなかった。
メルティの赤橙の双眸に映る、私の情けない蕩け顔。
私が陥落した事を悟った彼女がにたりと笑うと、瞳に映っていた私の顔もまた卑猥に歪んだように見えた。
今や、メルティには出会った時の大人しい面影などどこにもなかった。
発情した獣のような表情を浮かべる今の彼女は、まさに凶暴な本性を現した魔物娘そのものだった。
「その表情、素敵よ。……決めたわ。あなたを私の旦那様にしてあげる」
いつの間にか松明の火は消えていた。
暗闇の中に妖しく浮かび上がるメルティの赤熱とした身体が、ついに私に覆い被さって来た。
「さぁ、一緒に燃え上りましょう」
彼女の手が私の身体の上をまさぐってゆく。
腹筋から胸、腋の下を抜けて腕をくすぐり、指を絡ませて強く手を握ってくる。
彼女が肌に触れるたび、二人を邪魔する衣服は焼け落ち、肌には抑え様も無い火照りだけが残されてゆく。
上半身だけでなく、下半身も同様だった。
防寒服はあっけなく焼き尽くされ、私はあっという間に丸裸にされてしまった。
私を裸に剥き終わると、彼女は私の両足を大きく開かせ、脚の間に跪いてまじまじと私のそれを眺める。
「凄い、立派よ。こんなの見たことない」
「そんな、事は、無い」
彼女は上気したように頬を染めると、うっとりとした表情で首を振る。
「ううん。とっても素敵。今にも噴火してしまいそうな程に張りつめて……。あぁん、随分と溜まっているのね、こんなに濃い雄の匂い、もう我慢出来ない」
彼女はそう言って私の先端に口づけすると、じゅるじゅると音を立てながら根元まで一気に咥え込んでゆく。
熱い!
何より先に感じたのは彼女の口の中の熱さだった。
これまで感じたことの無い程の激しい熱。にもかかわらず、肉体が傷つき火傷していると言った感触は無かった。
それは肉体な熱ではなく精神的な興奮、高揚、昂りから来る熱のようだった。言うなれば性的な興奮から来る身体の火照りを極限まで昂らせたような熱を、外から注ぎ込まれているような感覚だった。
根元まで一気に飲み込んだ彼女は、その柔らかな舌を裏筋に、かりのくびれに絡み付かせながら、幾度も頭を上下させる。
目の前が白熱した。自分でも早いと思ったが、溢れ出る熱を止められなかった。
「メル、ティ。出るっ」
メルティの口の中に、私はあっけない程容易く射精してしまう。
彼女は私を見上げてにたりと笑い、さらに射精を促すように尿道のあたりに舌を這わせながら、さらに強く吸い上げてきた。
強烈な快楽に腰ががくがくと震える。たまらず彼女の身体を掴もうとすると、彼女はそんな私の手を取り自らの乳房に導いてきた。
躊躇ったのは一瞬だけだった。私は腰の脈動の度に与えられる感覚に耐えきれず、すがりつくように彼女のおっぱいを握りしめる。
柔らかなそれは指に吸い付いてくるようにしっとりとしており、指の間から零れ落ちそうな程に柔らかく形を変える。
メルティの背中が一度びくんと跳ねたが、彼女の反応はそれだけだった。
彼女は私の射精が続く限り激しく私の肉棒を吸い上げ続けた。彼女が満足げに顔を上げる頃には、私は少し憔悴してしまっていた。
「長い間雄の身体の中に溜め込まれていると、精の味もこんなに豊かになるのね。とっても美味しかったわ。あなたの匂いと味が凝縮された濃い味わいに、口の中や喉にひっかかる程の粘度もたまらない」
「それは、何よりだ」
私は彼女の瞳の奥に捕食者の光が消えていないのを感じ取り、本能的に後ずさる。
しかし当然ながら彼女がそれを見逃すはずが無かった。
「でも、まだ足りないわ」
「私は、もう満足だよ」
「嘘よ。だってほら、あなたのあそこはまだ出し足りないって凄い主張しているじゃない」
彼女の視線の先を追ってたどり着いたのは自分のまたぐらだった。出来の悪いはずだった自分の息子がいつの間にか見たことも無い程に立派になって、さらに強く硬くあろうとするかのように、上を目指してそそり立っていた。
幾筋もの血管を浮かばせて湯気が出そうな程に赤黒く腫れ上がり、時折びくんびくんと跳ねて我慢汁を垂れ流すその姿は、自分の物とはいえ少しグロテスクにも見える。
「うっ」
「辛いでしょう。私も辛いの。だから、ね」
にじり寄ってくる彼女を、私は止められない。
心のどこかでこのままではまずいとは思っていた。しかし私自身もまた、心のどこかでは彼女の身体を求めてしまっていた。現に下半身を抱き締められ、彼女の熱に包まれて私は安堵さえしてしまった。
彼女は私のいびつなそれに頬ずりさえしてくれる。
気付けば私も手を伸ばして彼女の髪を撫でていた。
「そんな風に私に優しく触れてくれたのは、あなたが初めてよ」
「メル、ティ」
「ほら見て、あなたがさっきあんなに強く掴んだから、おっぱいがこんなになっちゃった」
メルティはその豊かな乳房をしたから持ち上げ、左右に揺すって見せる。
大きく揺れ動くそのもっちりとした質感もさることながら、私の視線は彼女のおっぱいの先端に釘付けになってしまう。
ただでさえ色っぽく赤みを帯びた彼女の肌の中でも、特に乳房の先端、乳首に当たるような部分が真っ赤になっていた。人間だったのなら勃ち上がって充血していると言ったところだろうか。むしゃぶりつきたくなるような衝動に駆られてしまう。
「お礼に、凄く気持ちいい事してあげる。ここをこうして、あンっ」
メルティは自らの乳房を掴み、軽く絞り込む様に動かす。すると乳首から、まるで母乳のように彼女の体液が噴き出してきた。
彼女の乳房の正面にあった私の一物はもろに彼女の体液を浴びて、橙色のねっとりとした彼女の体液まみれにされてしまった。
「これは一体……。身体は大丈夫なのか?」
「スライムみたいに私のお汁を少し出しただけだから、全然平気よ。母乳が良かった? でも、母乳よりねばねばしてるから、こうすれば、ほら」
そう言うと彼女は私の股間に胸を押し付けてきた。豊満な彼女のおっぱいの前では、普段以上に膨れ上がっているはずの愚息でさえも容易く覆い隠されてしまう。
粘度を帯びた体液の上から、人肌とも粘液とも言えない不思議な柔らかさを持った乳房が押し付けられる。
彼女の肌は口の中に匹敵するほど熱く、その触り心地も粘膜のような柔らかさだった。
「ふふ。じゃあ、動かすわね」
彼女は乳房の両側に手の平を押し当てると、一物をしっかりと包み込ませてからゆっくりと乳房を動かし始めた。
口の中も極上の快楽だったが、彼女の胸の中も負けず劣らずの心地よさだった。おっぱいは隙間なく一物を埋め尽くし、滑らかな肌は滑りよく私の一物を擦り上げる。
激しく上下に動かしたかと思うと、動きを緩めてゆっくり肌の感触を楽しませる。かと思えば左右の乳房を不規則に揉み解すように動かして見せる。
彼女の攻め方が変われば、大きなおっぱいもまた淫らに形を変える。
その様を見ているだけで私はくらくらとしてきて、再び頭がのぼせ上って来てしまう。
「くぁ、あああっ」
「出る? 出る? 出るのね? ふふ、それじゃあ、はむっ」
彼女は乳房に埋まった私の一物の、その亀頭の部分だけを器用に露出させ、あろうことか再び口の中に咥え込む。
柔らかな乳房の感触と、亀頭のくびれから鈴口に渡って嘗め回してくる彼女の舌の責めに耐えられるわけも無く、私は再度彼女の中に精を放つ。
「あふ、れたれた、いっぱいれてりゅよ」
ずぞぞぞぞ。と派手に音を立てて彼女は私を吸い上げる。
身体の火照りが吸われてゆく。
気持ちが良すぎて、全身ががくがくと震える。まるで命そのものが愛撫されながら吸い上げられてゆくようで、恐怖さえ覚える程だった。それでも私は、この時が長く続いて欲しいとさえ思ってしまう。
「ちゅる、ちゅる、ちゅううぅぅっ。ぱはぁっ。あぁん残念。もう終わっちゃった」
彼女は眉を寄せて悲しそうな表情を浮かべる。しかしわざとそんな表情を作って見せただけなのか、彼女の表情はすぐに勝気そうな笑みに変わった。
「まぁでも一度の射精が終わったら、また気持ち良くしていっぱい出させればいいだけよね。安心してね。私の魔力を浴びれば、どんなにたくさん射精してもすぐに元気になれるから」
彼女の言葉に嘘は無いのだろう。普通であれば一度大量に射精してしまえばすぐにまた射精する事など出来るわけがない。
「私、ずっとここでご飯を食べていなかったからお腹がペコペコなの。たった二回の射精くらいじゃ、前菜代わりにもならないわ」
満面の笑みを浮かべる彼女に見つめられ、私はぞっとする。
つまり彼女はこんなものでは無く、もっともっと激しい攻めで私が枯れ果てるまで精を搾り続けようという気なのだ。
二度の大量射精を経て、私も少し冷静さを取り戻し始めていた。
雄としての自分は喜んで彼女を受け入れようとしていた。けれど冷静な自分は、この状況がかつてない程に危険だと警告を発していた。
そして理性の残っている自分が信じたのは、冷静な方の自分だった。
「ちょっと、待ってくれ。こんなに大量の射精を、しかも何度も連続してしたら身体が耐えられない」
「大丈夫よ。愛する旦那様を死なせるような激しい責めなんて絶対しないから。……でも、死ぬほど気持ちいい目にはあわせてあげるけど」
既に腰元はがっちりと掴まれていて動くこともままならない。だが、仮に身体を動かす事が出来たとしても逃げ場のないこの状況ではどうしようも無いのも事実だった。
「この出会いを魔王様に感謝しなくっちゃ。大昔にこの山を封印した賢者にも、お礼を言いたいくらいだわ」
「山を封印?」
「そこに石板があったでしょ? あなたが壊してくれた石版よ。遥か昔、この山の魔物達があまりにも凶暴だからって力の強い人間が封印を施していったのよ。
長い間眠りについて来たけど、でも魔王様が変わったり色々あって、封印も少しずつ緩んでいっていたの。あともう少しってところだったんだけど、結局最後に封印を破壊してくれたのはあなただった」
「それで……山の中に魔力が満ちていたのに魔物娘がいなかったのか」
「そう。もともとこの山は魔力が溜まりやすくて、私達もそんな魔力が溜まって生まれた存在ではあるんだけどね……。
でもそんな事はどうでもいいのよ。どうでもいい、些細な事。
重要なのは目の前に愛しい人が居るっていう事。愛しい人と全身全霊で愛し合う。大切なのは、ただそれだけなの。……あぁ、いい匂い」
私はなんという事をしてしまったのだろう。そんな事情があった事も知らずに興味本位で山に踏み入り、凶暴な魔物娘を封じていた封印をこの手で破ってしまうなんて……。
恐らく目覚めたのはメルティだけでは無いはずだ。人間ほどの大きさをした岩などこの山の至る所に転がっている。その全てがラーヴァゴーレムだったとしたら……。
麓の村が危ない! このままでは村中の男が私のような目に遭ってしまう!
……しかし待てよ。それは本当に危険な事なのだろうか。
思い出してみれば、確かあの村は親魔物派であるにもかかわらずこんな僻地にあるせいで深刻な嫁不足に悩まされていたはずだ。
昔と違い、今の魔物娘は命を奪う程危険な生き物では無い。人間と和解し愛し合いたい魔物娘達にとっては、この封印は時代遅れの枷に過ぎなかったはずだ。
嫁不足の村と、人間を愛したい魔物娘達。両者が出会ったところで、特に問題は無さそうだ。むしろ自分は両者にとっての救世主になったとも言えるかもしれない。
しかし、村と魔物娘達にとっては救いになるかもしれないが、私自身の人生は救われない。
私だって魔物学者だ。そりゃあいつかは魔物娘と夫婦になりたいと思ってはいる。魔物娘が嫌いならば、そもそも魔物学者などしていないからだ。
けれどその夢が叶ったからと言って、その後の人生全てをこんな暗い洞窟の底で暮らしてゆくのは御免だった。
私は魔物娘も好きだが、研究するのも好きなのだ。研究したものを人に伝え、魔物娘の事をもっと広く世の中に伝えてゆくことが自分の使命だとも思っているのだ。
「気持ちいいでしょ。毎日毎日してあげるからね。朝起きてから眠りに落ちるまで、ここでこうして、ずっとずぅっと死ぬまで気持ち良くしてあげる。……まぁ、私達に寿命が来るのがどれだけ先の事かは分からないけれどね。
大丈夫よ。最初は少し辛く思うかもしれないけど、インキュバスになってしまえばそれが何よりの幸せになるんだから。死ぬまで幸せでいられるんだから、素敵よね。ふふっ。
さて、次はどうしようかな。こういうのは、どうかしら」
メルティはそのとろとろととろけかけているかのような手のひらで私の一物を握りしめると、ゆっくりと上下に扱き始める。
「くあぁ」
「いい声よ。素敵。んちゅぅっ」
恐らく彼女の魔力を浴び続けているせいだろう。二度の射精を経てもなお、身体の芯の火照りは冷める気配を見せなかった。むしろ冷めるどころか、回を経るごとに熱さが増しているようでさえあった。
彼女は私の睾丸に口づけし、玉を口に含んで舌の上で転がしてくる。
手の平は激しく扱いたかと思えば緩やかに包み込むような物に変わり、睾丸への口の責めも甘噛みをしたり吸い付いたり付け根に口づけしたりと、彼女の愛撫は変化に富んでいて休む間も与えられない。
このまま射精し続ければ、きっと気持ちがいいのだろう。
しかしその一方で、私の脳裏に昔目撃したとある光景が蘇っていた。
それは魔物娘と交わる男の姿だった。男は誰と言う事も無く、魔物娘もどの種族と言う事も無い。ただ彼等に共通して言えることは、完全に堕落しきっていて、本当の意味で寝食を忘れてひたすらお互いの肉体の身を求め合っているという事だった。
それも一つの幸せだとは思う。けれども私は、そんなのは嫌だ。魔物娘と愛し合いたい気持ちはもちろんあるが、肌を重ねるだけでは無く色々な事を一緒に楽しんでいきたい。
こんなところに監禁されるのは、絶対に嫌だ。
そんな気持ちが無意識に働いていたのか、いつの間にか私は自分のザックの中に手を伸ばしていた。
指先は、すぐに目的のそれを探し当てる。
けれども私はやはり迷ってしまう。魔物娘達に悪意は無い。あるのは人間の、特に男性に対する深い愛情だけなのだ。
時に問題が起こるのは、彼女達の愛情の形が人間の理解の範囲を超えている事があるから。だから誤解を抱えたまま、一方的に相手を拒絶する事だけはしたくない。
言葉を交わせるならば、お互い愛情があるならば、話せばきっと分かり合えるはずだ。
私は、快楽の波に弄ばれながらも、必死に自分を保ってメルティの説得を試みる。
「メルティ。やめて、くれ」
「んちゅ。どうして?」
「気持ちは嬉しい。でも嫌なんだ。こんな風に一方的に搾り取られるのは」
「あぁ、遠慮しているのね。でもそんなのいらないわ。だってほら、身体は正直にこんなに喜んでる。こんなに硬く大きくなって、だらしなくおつゆ垂れ流しているんだから。
……出したいんでしょ? いいのよ。出したいときに、私のどこにでも出して。膣でも、さっきみたいに口やおっぱいでも大歓迎。何ならお尻でも構わないわ。でもどうせなら長く味わってもらいたいし、とりあえず一回抜いちゃうわね」
彼女は話は終わりだとばかりに、再び口淫を再開させる。
「メルティ。そういう事じゃないんだ。愛しているなら、俺の話も聞いてくれ」
メルティはちらりとこちらに目をやるものの、すぐに興味無さそうに男根へと戻してしまう。
「君は、交合していればそれで幸せかもしれない。私も君のような魔物とこうしていると幸せを感じるし、魔物娘と結婚する事は長年の夢だった。でも、私の幸せはそれだけでは無いんだ。もっとたくさん魔物娘の事を学び、魔物娘の素晴らしさを世間に広めて、幸せな夫婦をもっと増やしたいんだ。
それもまた私の夢であり、幸せなんだ。だからこの先一生ここでこうしているというのは、耐えられないんだよ。
君の気持ちは嬉しいし、私もそれに応えたいと思っている。だからメルティ、せめて私の話を」
私の必死の訴えに、メルティはようやく口を止めて顔を上げてくれた。しかし私の安堵は、ほんの一瞬で終わってしまった。
「だからぁ、あなたは私とこうしている事が一番の幸せなんだってばぁ。これからそれを身体に教えてあげるから、難しい事なんて何も考えずに私だけを感じていてよ」
メルティはあくまでも屈託なく笑うと、すぐに私の一物へと戻ってゆく。
私は唇を噛み、心を鬼にする。
手にしているこれが彼女に通用するかは分からない。通用するとしても、こんな少量では効果が無い可能性だってある。それに、彼女を傷つけてしまうかもしれない。
けれど私も、ただ大人しく彼女に支配されているわけにはいかないのだ。
「メルティ。ごめん!」
私は握りしめたそれを、思い切り強く彼女の身体に叩きつけた。
絹を裂いた様な女の悲鳴が洞窟の中に響き渡り、再び世界を暗闇が覆い尽くした。
私はしばしの放心の後、松明を探り当てて火を灯し直した。
あたりを伺うと、メルティの姿はすぐに見つかった。
彼女は全身ずぶ濡れになって、自分の身体を抱き締めるようにして震えていた。
その表情からは先ほどまでの余裕が消えており、怯えるような表情で涙を浮かべていた。赤熱していた全身からも光が失われていて、最初に見つけた時のように暗い赤銅色へと戻っていた。
どうやら試みは成功したようだった。
私がザックから探り当てたのは皮袋の水筒だった。水のたっぷりと入ったそれを、彼女の身体に叩きつけたのだ。
かくして皮袋は彼女の外殻の尖った部分で破れ、中身の水がぶちまけられたというわけだった。熱や溶岩の魔物娘ならば水を掛ければ弱らせられるのではないかという単純な思い付きだったのだが、思いのほか効果的だったようだ。
と言うか、少々効果があり過ぎたようだ。流石の私もここまでとは、彼女を泣かせてしまうとは思わなかった。
「メルティ」
「あ、あ、あああ。どう、して? どうしてこんな、ひどい事するの? わたしは、わたしはただ、あなたに気持ち良くなって欲しかっただけなのに」
「ごめんね。でも君が話を聞いてくれなかったから」
その時のメルティの表情の悲痛さは、しばらく忘れられないだろう。溶岩の魔物娘にも関わらず、彼女の表情はまさに凍り付いていた。
「ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい。お願い、許して。何でもするから、嫌いにならないで」
搾り出すような悲鳴に近い声に、胸の中が罪悪感で重くなる。
「嫌いになんてならないよ。……その、まだ自信を持って好きと言える程君の事は良く知らないけど、きっと好きになれると思う」
「ほんとうに?」
「本当だよ」
「ずっと一緒に居てもいい?」
「ここにってわけにはいかないけど、私などで良ければ」
「……じゃあ、それを証明して」
「え?」
彼女は私に向かって腰を下ろした体制のまま、膝を立てて脚を開く。
露わになった脚の付け根には、人間の女性のものと同じものが付いていた。
陰毛の生えていないつるつるとしたその割れ目を、彼女は指をあてがって左右に広げて見せる。
彼女の暗い洞穴の入り口が開き、私を待ち望んでいるかのようにとろりとした粘液が滴った。
「さっきは、確かにやり過ぎたと思う。あなたがちゃんと話してくれていたのに、わたしは自分の事しか考えていなかった……。
だから、わたしにおしおきして。めちゃくちゃに、好きなようにして」
涙に濡れたしおらしい表情で懇願され、私は思わず生唾を飲んでしまう。
実のところ、私の剛直は一切力を失っていなかった。それどころか溢れ出る直前まで手淫と口淫をされ続けていた影響で、いつ彼女に衝動的に襲い掛かってしまってもおかしく無い状態だった。
二回も射精したというのに節操のない自分の有り様に呆れてしまうが、否定できない現実でもあった。
今まで理性を振り絞っていたが、攻勢から一変した彼女の弱弱しい姿も魅力が過ぎて、長くは持ちそうになかった。
だが、果たしてこのまま彼女を犯す事がお仕置きになるのだろうか。交わりこそが彼女達が力を取り戻す一番の手段なのではないか。
そんな風に疑いつつも、私の指は既に彼女の太ももに伸びていた。
彼女の肌は先ほどまでの溶けてしまいそうな程の熱や柔らかさこそ失われていたものの、人肌程の温もりと弾力は失われてはいなかった。
「はっ。あ、んっ」
すべすべの内腿を撫で回し、割れ目の付近に指を近づけては焦らすように遠ざける。指の動きと共にメルティの呼吸が乱れ始め、だんだんと艶を帯びたものになってゆく。
息遣いに余裕が無くなってきたところを見計らい、私は彼女の膝を掴み、荒っぽく左右に広げた。
「や、やぁっ」
「嫌なのか?」
「い、いいえ。挿れて下さい」
「分かった」
私は指を軽く舐めて濡らしてから、彼女の割れ目をなぞるようにして彼女の入り口を探り当て、指を少しずつ侵入させてゆく。
「あっ、そんな、指で、なんて」
きつく強く、押し返すように締まりの良い入り口を抜けてゆくと、指先に確かな熱を感じた。表面は濡れて温度が下がってしまっていたようだったが、彼女の中心部はまだ先ほどまでの熱い疼きを残しているようだった。
指を少し曲げて、奥をゆったりとした手つきでこね回すと、メルティが子猫のような声を上げた。
「あぁっ、あ、あ、あああっ」
涙をぽろぽろとこぼしながら私にしがみつき、身体を痙攣させるメルティ。その表情を見ていると、先ほど彼女自身がやり過ぎてしまった事も理解できる気がした。
「いじわる、しないでぇ」
可愛さと愛しさと嗜虐心が絶妙に混ざり合ったような感情。
私は彼女の耳元に首を寄せ囁く。
「だってこれは、おしおきじゃないか」
「はうぅぅ」
彼女の泣き顔を見ているうちに、私はどうしても落ち着かなくなってきてしまった。やはり、私には相手を責めるのは向いていないらしい。
「反省したかい?」
彼女は子供のように大きく頷いた。
「どうしてほしい? 言ってごらん」
「あなたの、おっきいのが欲しいの。おなかがきゅうきゅうして、もうこれ以上我慢できないの」
私は微笑み、彼女に優しく口づけする。
彼女の下の入り口に自分の先端をあてがい、問うように瞳を覗き込む。
とろけたような安堵の笑みが彼女の答えだった。私は頷き、腰を沈めてゆく。
「はぁ、ぁあああ。入って、くるぅ」
「くっ。きっつ」
指を入れた時に十分感じていたが、彼女の中は狭く引き締まっており、入って来ようとする私を押し返そうとするように強く締め付けてくる。
構わず腰に力を入れていく。激しい締め付けを歯を食いしばって堪え、とうとう彼女の中に自分の全てを刻み付ける。
「来たぁ。硬いのが、お、奥まで、全部、入ったのぉ」
全て入りきると、ちょうど私の亀頭部分だけが彼女の芯の熱い疼きに飲み込まれるような形になった。
締まった膣肉が強く締め付けてくる入り口付近に比べ、彼女の中心部は私自身を優しく包み込んでねっとりと絡み付いて来てくれる。
口とも胸とも違う、なんとも言えない絶妙な快楽。
私はそれを更に楽しみたくて、ゆっくりと腰を動かし始める。
「あ、擦れ、るぅ。硬くて、熱いのが、擦れてるよぉ。わたし、私、お腹がのぼせちゃうよぉ」
身を捻ろうとする彼女の身体を無理矢理地面に押さえつけながら、私は本能のままひたすら腰を振った。
だんだんと紅潮してくる彼女の表情にたまらない気持ちになり、乱暴に唇を吸い、乳房を荒々しく揉みしだく。
どこもかしこも甘く、柔らかい。
身体の芯がぐつぐつと煮えて、あらゆるものが欲望の中に溶けてゆくようだった。私はもう、彼女が欲しくて欲しくて、それ以外の事は考えられなかった。
彼女の腕が、足が、私の身体にしがみついてくる。私は愛しくてたまらなくなり、口づけしながら彼女の身体を強く抱き締め返す。
「あなたぁ。ん、くちゅ。好き、好きぃ。大好きぃ」
「あぁ、メルティ。ちゅぅっ。私も、だ」
いつの間にか彼女の身体の紅潮は全身に広がっていた。
とろけるような感触を取り戻した彼女の肌はぴったりと私の肌に吸い付き、優しく包み込む様にまとわりついて来る。
変化しているのは外見だけでは無かった。抽挿を繰り返すうちに、眠らされていた火山が外部からの刺激で蘇るかのように、彼女の膣の中の肉も激しい情熱を取り戻していた。
今にも溶け落ちそうな程のその感触は、もはや肉と言うよりはスライムの粘液のようだった。しかし粘度は遥かに高く、絡み付いたまま離すまいとまとわりついて来る感触も比較にならない程だった。
最初はわずかだった挿入部からの水音も、今ではぐちゅぐちゅびしゃびしゃと洞窟内に大きく響き渡っている。
「私、これ好き。もっと、もっとおしおきしてぇ。あなたぁ」
とうとうメルティの方からも腰を振って来る。
恐らくは肌の触れ合いや汗などから、再び私の精を取り込んだのだろう。
けれど、私はもうごちゃごちゃと言う気は無かった。今はただ彼女の身体を味わい、楽しむ事だけしか考えられなかった。
腰の動きを、更に奥をえぐるような物に変える。
彼女はもう喘ぎ声を上げる余裕も無いようだった。ただ荒い呼吸を繰り返し、背を弓なりに反らせるだけだった。
私は彼女の腰を掴み、より一層彼女の中に深く踏み込む。
きゅうぅっと、彼女の中が強く収縮し、私はとうとう耐えきれずに彼女の中で全てを解放した。
二人分の鼓動が重なる。どくりどくりと剛直が脈打てば、ごくんごくんと柔筒が蠢き、吐き出された物を吸い上げ飲み干してゆく。
眩暈がするほどの快楽に、私は呆然と身を任せるほかなかった。
そんな私の後頭部に彼女の手が添えられる。誘われるまま、私は彼女の柔らかなおっぱいの中に顔を埋める。
煙のような甘い匂い。それを楽しむ間もなく、今度は顔を引き寄せられて唇を奪われた。
ゆっくりと舌を絡める、いたわるような口づけ。それは長い射精が終わるまで続き、脈動が収まるころにようやく糸を引いて唇が離れた。
「とっても、素敵だった」
この感想には苦笑いを浮かべずにはいられなかった。
「一応、お仕置きなんだけど?」
「こんなお仕置きなら大歓迎よ。もっとお仕置きして。あなたのしてくれる事なら、私は何でも受け入れるわ」
私は改めて彼女に強く抱き締められる。
「完全に元に戻っちゃったみたいだね」
「だってあんなに激しく愛されたら、誰だって熱くなってしまうわよ。……それともあなたは、おざなりに私を抱いていただけなの?」
そう言われては、こう答えるしかなかった。
「本気だったよ。こんなに燃え上ったのは生まれて初めてだ」
「あぁ、なんて甘い響き。あなた、もう一度しましょう? 今度はもっと、もぉっときついお仕置きをお願い」
私は思わずため息を吐いてしまった。これではお仕置きでは無くご褒美ではないか。
「……メルティ。私がどうして君にあんな事をしたか、分かってくれてるんだよね」
「分かっているわ。こんな狭苦しいところで交わらずに、もっと人の多いところで見せつけるように激しくしたいのよね?」
頭の中が真っ白になった。本気で彼女が何を言っているのか理解できなかった。
「ちょっと待ってくれ、私は」
「魔物娘とのまぐわいをたくさん学んで、魔物娘との交わる事の素晴らしさを世間に広めて、幸せに求め合う夫婦をもっと増やしたいのよね。分かっているわ。ええ、私も凄く共感しているわ」
なんと言う魔物娘的解釈だろうか。素晴らしすぎて涙が出そうだ。
「でも。ね、あなた。私はずっとここで一人で封印されてきて、本当にお腹が減ってるの。だから、もう少しだけでいいから、人の温もりに触れていたいの。
あなたをここに閉じ込めるなんて事はしない。一緒にここを出て、あなたの言う事もちゃんと聞くって約束するから。だからもう一度だけ、私を抱いて」
激しい熱を帯びた強気な状態の彼女のはずだった。にもかかわらずその時の彼女は、初めて男を前にしたかのような不安に満ちた少女のような顔をしていた。
私は小さく息を吐き、自分自身の胸に問いかける。
この山に来る前は、自分はまだ誰かと身を固める気など無かった。身を固めるにしても、もっとちゃんとした出会いで、きちんと恋をして結婚まで事を運ぶつもりだった。
けれどまぁ、この山に来たのも、下山しようという日にメルティと出会ったのも、あるいは運命だったのかもしれない。
いや、そんな言い訳をするまでも無いだろう。彼女に対する自分のこの胸の熱さを考えれば、彼女と一緒になる理由としては十分すぎる。
出会ってまだ本当に間もないが、魔物娘との恋は大体そんなものだろう。
私は覚悟を決めると、微笑んで彼女の頭を撫でてやった。
「分かった。メルティが満足するまで、たっぷり注ぎ込んであげよう。だって私は、君の旦那様なんだからね」
メルティの顔が目に見えてぱぁっと輝く。胸の中のこの感情は、やっぱり愛情と言う奴なのかもしれない。
あまりに嬉しかったのだろうか、彼女は言葉も忘れて私に抱きつき、唇を重ねて来た。
そして視界が反転し、押し倒していたはずがいつの間にか押し倒される体勢に変わっていた。
「好き、好き、大好きぃ。しようね。いっぱいしようね。私の旦那様!」
身体中に彼女の口づけと「好き好き」が降ってくる。激しく燃え滾るような愛の雨を、私はただ受け入れる。
だが、素直な少女のような顔はここまでだった。
彼女は再びさかりの付いた獣のような表情に戻ると、私の身体に覆い被さって激しく腰を上下させ始めた。
そのあとは、魔物娘の新婚夫婦と大体同じだった。
言うまでも無い事だろうが、あえて言おうか。
そのあとめちゃくちゃ搾り取られた。
翌日洞窟から外に出ると、辺りの景色は一変していた。
山肌を覆い尽くしていた雪は消え去り、気温も常夏かと思われる程に高くなっていた。
山の火口からは黒煙が上がっており、赤々とした溶岩が流れ落ちているのも遠目に確認できた。
まさに山自体が燃え上っているかと錯覚しそうな程に、山全体が生き生きと活動を再開させていた。
「何だか、別世界みたいだ」
「これが本当のこの山の姿なのよ。あなたが封印を解いてくれたおかげで、山が本来の力を取り戻したの。魔物娘達の姿だって、ほら」
言われるままにメルティの指差す先に視線をやれば、彼女の言う通りに魔物娘らしい姿がいくつも見て取れた。
彼女のようなラーヴァゴーレムの姿もあれば、別の魔物娘も居た。土地柄なのか、魔法物質型の魔物娘が多いようだった。
私は年甲斐も無く胸躍らせている自分に気が付く。
今まで封印されてきた、大勢の魔物娘の棲む山。これ以上魔物学者の興味を惹かれる場所はあるだろうか。
「これは……。下山している場合じゃないな」
「しばらくこの山に居るって事?」
「研究をやり直したい。一緒に居てくれるか?」
「もちろんよ! 私の仲間も紹介するわ。みんな可愛くてえっちな子ばかりよ!」
メルティは少し興奮した様子で嬉しそうにそう言ったが、私は即座に返事が出来なかった。
同族の仲間を紹介する。それは魔物娘達に割とよくある、ハーレム形成のきっかけでもあるのだ。
まぁラーヴァゴーレムはオークやラージマウスと違い元来ハーレムを作る種族では無いようではあるから、大丈夫だとは思うが……。
「まぁ、それもおいおい、な。……ところで、そろそろ解放してくれないか?」
「えぇー。いいじゃない。まだこの山に居るんだったら、もうしばらくこうしていようよ」
なんやかんやと話してはいるが、未だに私はメルティと繋がったままだった。真面目な話をしつつも、立ったままで彼女の身体を抱えるようにして深く交わったままなのだ。
昨日は、あの後激しく愛を交わしたり、疲れたらゆったりと繋がったままいちゃついたりと、結局交合しっぱなしだった。
そしていつの間にか疲れて眠ってしまい、朝起きた時には体温が少し下がって硬質化した彼女の身体から抜けなくなってしまっていたのだ。
もう一晩交合に明け暮れるのも覚悟したが、彼女は意外にも約束だからと繋がったまま地形変化の魔法を使い、私達を地上へと運んでくれたのだった。
まぁ硬質化と言っても人間の女に比べても格段に抱き心地がいいのは変わらないのだが……。しかしこんな状態では、まともに動く事もままならない。
せっかく彼女の魔法で外に出られたというのに……。
「どうやったら外せるんだ」
「いいじゃない。焦らなくても」
「メルティ。私の言う事も聞いてくれるんだろう?」
「えっとぉ、私の身体が情熱的に火照ったら、自然と肌もとろけて抜けやすくなるかも」
「……本当は体温調節出来るんじゃないのか?」
彼女は分かりやすく目を逸らす。しかし誤魔化すという事は、結局自分からは私を離す気は無いという事だろう。
そっちがその気なら、こっちもそう言う手に出るしかない。
私はお尻を支える手に力を籠め、昨日から衰えることを知らない剛直を彼女の身体の奥深くへと突き立てる。
「それだめ、深すぎるぅ」
すかさず柔らかい土の上に彼女を組伏し、腰を振りつつ彼女の全身に手を這わせ始める。
メルティは大きく悦びの声を上げる。
そそられないかと言えば嘘になるが、何だかうまく乗せられたようで少し癪だった。これから先、色々と苦労しそうだ。
けれどもまぁ、こういう苦労ならそれほど悪くも無いかもしれない。
「あっ。そこ弱いの、だめぇ……」
晴天の下、身を隠す物も無い山のど真ん中で、私は愛しい人に覆い被さり腰を振る。
私は魔物学者だ。まずは手始めに、自分の嫁の身体を隅々まで調査し尽くすのも一興だろう。
とある魔界の隅にあるその山は、魔物の魔力で満たされているにも関わらず、これまでに一匹の魔物の姿も見つかっていないのだという。
魔物の魔力と言うものは魔物娘の身体から発せられる。本来であれば魔物娘がいなければ魔物の魔力も存在しないのが自然なものだ。
魔物学者として、こんなに興味を引かれる題材は無かった。私が話を聞いてから、荷物をまとめて件の山に赴くまでにそう時間は掛からなかった。
かくして私の調査活動は始まったのだった。
それから半年。私は地元民から借りた炭焼き小屋を拠点に、山の中を歩き回って調査に明け暮れた。
その山には他の山では見られないようなさまざまな場所が存在していた。
ガラス質の何かで出来た森、硫黄臭のする大きな沼、砂丘のような広い砂地、大きな怪物が出鱈目に暴れ回ったような跡の残る岩場。
自然ではまず出来ないような、しかしながら人工では決して作り出せないような光景を見て回るのはもちろん面白く、それらが出来た経緯を考えると非常に興味深かった。
しかし私の研究対象である魔物娘の姿は、この半年を通してどこにも見つけられなかった。
山はかなりの高山帯にあり、そのほとんどが地べたに岩がごろごろと転がっているような荒れ地になっている。それに加えて植物などは大きいものでも腰元あたりまでの低木ばかりなので、どこかに身を潜めているという事も考えられなかった。
自分が一人身の男だという事を考えても、ここまで魔物娘の姿を見ないのであれば存在していないのだと考えるのが自然だった。
季節が巡り雪が降り始めても私は諦めなかった。
寒くなれば寒冷地の魔物娘が現れるかもしれない、と考えたのだ。
イエティ、グラキエス、ゆきおんな等々。雪山の棲む魔物娘も多い。あるいは彼女達が冬の間だけここで暮らし、その時の魔力が残留して山を覆っているのであれば、この現象にも説明が付けられる。
しかし、いくら待っても魔物娘は現れなかった。
真っ白に雪化粧した山を歩き回っても、魔物娘どころかどこでも感知できるような微弱な精霊の気配さえ感じられなかった。
やがて冬の気配は強まり、吹雪の日が増えた。雪の量も多くなり、腰まで埋まってしまう事も珍しい事では無くなって来た。
私は研究の中断を決断せざるを得なかった。私は魔物の専門家ではあったが、雪山の専門家では無いのだ。
仕事上、魔物娘に襲われ腹上死するのは望むところだったが、雪山で凍死する気は無かった。
……まぁ魔物娘の習性上、パートナーを吸い殺すという事はありえないのだが。
ともかく私は再び荷物をまとめ、山を下りることにしたのだった。
がらんどうになった炭焼き小屋に別れを告げ、私は下山道に足を向ける。……はずだった。
しかし小屋から出た途端に、気が変わってしまった。
雲一つない澄み渡った青空を見ていたら、最後にもう一度だけ山を見て回りたいと思ってしまったのだ。
日が暮れるまでに麓の街までたどり着けるように引き返せばいい。日が暮れてしまっても、炭焼き小屋に泊まれば何も問題は無い。
私は最後に思い出を焼きつける様なつもりで、歩きなれた山道に一歩を踏み出した。
かなりの標高を誇るこの山からは、近隣の山々や近くの里が見下ろせる。雪が降る前は青々とした波打つ山々が見下ろせ、雪が降った今も白と青の稜線が美しかった。
加えてこんなにも空が晴れ渡っていれば、気持ちが良く無いわけが無かった。
しかしこうして見慣れた光景もこれが最後だと思うと、寂寥感がこみ上げて来るのもまた事実だった。
結局、私はここで何も成せなかった。
新しい事は何も発見できなかった。魔物娘を発見する事も、魔物の魔力がなぜこんなに充満しているのかも明らかにすることが出来なかった。この山にある色々な場所がどのようにして形成されたのも、仮説は立てられても証明する手立てが思い付かなかった。
しかしまぁ研究と言うものはそう言うものだった。何もかもが上手くいくというわけでは無い。あるいはこの地での経験が、他の場所の探求に役に立つかもしれないのだ。そうでも考えなければやっていられない。
研究とは、闇の中に道があると信じて勇気をもって一歩を踏み出してゆく事なのだ。
自分の信念を再確認して、改めて一歩踏み出そうとしたその時だった。
轟音が、響いた。
突然、山が咆哮を上げたかのようだった。低い唸り声のような音が、地面の底から突き上げていた。
「な、なんだ?」
そして、世界が揺れた。
踏み出そうとした足はたたらを踏み、私は無様に地面に這いつくばる。
揺れは急激に強まり、立ち上がる事すらままならない。
そして突然手足から支えの感覚が失われ。
私の視界は暗転した。
闇の中に、光が見えた。
暗闇をぎざぎざに切り取って穴を空けたかのような光。それは実際、洞窟の天井に空いた穴からそそぐ外の光のようだった。
「痛っつ。しかし痛みがあるという事は生きている、と言う事か」
私は自分の身体を確かめる。
手足はちゃんとついていた。背中と腰が多少痛んだが出血は無く、痛みの質もただの打撲といった程度だった。
立ち上がるのにも、身体を動かすのにも特に支障は無かった。
身体の無事を確認しほっと一息つき、次に状況の確認を行う。
周りはほとんど暗闇に包まれており、周囲に何があるのか判然としない。
唯一分かるのは頭上に光がある事と、足の下が岩場では無く砂地になっているという事だけだった。身体が打撲程度で済んだのも、この砂地と背負っていたザックのおかげだろう。
この状況から察するに、大方地震で地面が崩れて地下洞窟にでも転落してしまったと言ったところだろうか。
私は荷物を下ろし、中から松明と着火装置を取り出して明かりをつける。
意外と辺りは広かったが、しかし周囲は岩の壁に覆われており、どこか別の場所に続いているという様子は無かった。
天井は高く、壁も鼠返しのようになっていてとても登れる気がしない。
「参ったな……」
自力では簡単に出られそうにない。岩壁を登るか、あるいは岩壁を掘り進むくらいしか脱出する方法は無いだろう。
誰かが通りすがりに現れる可能性は非常に少ない。魔物娘は当然見かけなかったし、麓の人間達も恐れてここには近づこうとしないようだった。
同業者が気付いて助けに来るのも期待は出来ない。あるいは魔物娘ダークマターでありながら研究者でもある彼女ならば気付いてくれる可能性も無いでは無いが、彼女も多忙な身だろうし、近隣地域に居るかも分からない。
「万事休すか。ん?」
脱力して腰を下ろすと、手に砂以外の硬いものが当たった。
松明を近づけると、砂の中に大きめの石が埋まっていた。
山の中に石が転がっているなど何も珍しい事では無い。しかしよく見てみると、それはただの石では無かった。
形は綺麗な楕円形をしていて、厚さも板のように薄かった。さらには文字のような物がいくつも刻み付けられていれば、人の手が加えられている事は明白だった。
古代文字の一種のようだったが、自分の知識には無い言語だった。残念ながらこの場で解読する事は出来そうにない。
しかし勿体ない事をしてしまった。自分が落ちてきた時の衝撃だろうか、石板はちょうどど真ん中で二つに折れてしまっていた。
何とかして持ち帰って中身を解読してみたいが、それも難しそうだった。かなり年季の入った代物らしく全体に薄く罅が入っており、下手に動かすとばらばらに崩れてしまいそうなのだ。
私は苦笑いで頭を掻く。もしかしたらこれは世紀の発見かもしれない。しかしそれはこれを持って無事に脱出できたらの話だ。これを持ち出せず、さらに言えばここから出られず野垂れ死になんて事になったら発見どころの話では無い。
果たして真っ直ぐ下山しなかったことが良かったのか悪かったのか。自嘲気味に考えていると、ふと暗闇の中で何かが動く気配がした。
「あなた、だあれ」
突然の声の驚きつつ、私は松明を声のした方へと向ける。
「それ、あなたが壊してくれたの?」
橙色の松明の灯りの中に、人型をした岩が浮かび上がる。
「眩しいわ。でも、温かい光……」
「魔物娘、か?」
岩を削り出して人間の形にしたようなそれは、こくりと頷いた。
小さいながらも、しかし確実に肯定を示す仕草に、私の胸中は興奮に沸き立った。
やはりこの地に魔物娘は居たのだ。しかも知識が無いだけと言う可能性もあるが、見たことも無い種族。研究対象としてはこれ以上の存在は無い。
しかしその熱も長くは続かなかった。研究するとしても、無事に生きて帰れたらだ。
私は落胆しそうになったが、首を振って再度自分を奮い立たせる。
「ここから出る方法は、何かないのか?」
「無い。私もここに閉じ込められてから、ずっとここに居るの」
期待はしていなかったが改めて事実を聞かされるとやるせない気持ちになる。
だが、これで一応死んでしまうという可能性だけは無くなりそうではあった。
魔物娘と度重なる交合を重ねた男はその身にも魔物の魔力を宿し、インキュバスと言う魔物に近い存在に変化する。そうなると恋人の魔物娘との交合だけで生き延びられるようになり、食事や睡眠を取らなくとも生きてゆけるようになるのだ。
とはいえそれは目の前の彼女が自分を受け入れてくれたらの話だ。それにそうなれば自分も人間を辞める覚悟をしなくてはならない。出来るならば、今はまだそれは避けたかった。
「……寒い。近くに行っていい?」
「え? あ、ああ」
外界に比べ雪も風も無いので凍える程では無いとはいえ、言われてみれば確かに寒かった。
明かりの元に近づいて来るにつれ、彼女の姿がはっきりとして来る。
肌は暗い赤銅色。髪は灰色。肉体は人間の女性型を基本形とし、ところどころ岩のような外殻を纏っているようだった。
それ以外の、動植物や昆虫のような身体的特徴は無い。どうやら魔法物質型の魔物娘のようだ。
魔物娘なので当然衣服など纏っておらず、暗闇の中に艶やかな女性的曲線が見事に浮かび上がっていた。
「灯り。人間。どっちも温かい」
彼女は微笑みを浮かべると、私の腕に腕を絡めて来た。
暗い色合いの肌は見た目には堅そうではあったが、押し当てられると存外柔らかかった。乳房も強く押し当てられて、私は落ち着かない気持ちになって目を逸らした。
「と、とりあえず座ろう」
私達は腰をおろした。松明はたき火代わりに地面に突き刺す事にした。
「ずっとずっと一人で待っていた。何年も何年も、あなたみたいな人が来るのを待っていた」
彼女の美しい顔が予想以上に近くにあり、私は息が止まりそうになる。灰色の髪から甘い香りがしてどぎまぎしてしまう。
何を考えているのだろうか私は。研究者なら研究者らしく、冷静に彼女を観察するべきだ。そう、別にやましい気持ちで彼女の身体を観賞するわけでは無いのだ。これは研究の為なのだ。
私は咳払いを一つすると。じっくりと彼女の身体を観察し始める。
文字通り燃え尽きた灰を思わせる灰色の髪。髪飾りの橙色の宝石は、この土地で採れるものなのだろうか。
顔つきは成熟した女性のものだ。切れ長の目は黒曜石のような黒色をしており、その中にガーネットのような赤い瞳が煌めいている。大きめの口は、きっと笑ったらたいそう魅力的な事だろう。
今は大人しい表情を浮かべているが、ただそれだけでも大人の色香を感じる。
肌は暗い色合いをしているが、流石魔物娘と言うべきか傷一つなく肌理が細やかだった。均整のとれた手足や、豊かな乳房を始めとする肉付きのいい体つきも相まって、彼女の身体は大理石の彫像のように美しい。しかし彫像のように硬く冷たい印象かと言うとそうでもなく、彼女の肌からは不思議な温かみと、触れれば容易く形を変えそうな柔らかさを感じた。
彼女の甘い匂い、異国の煙草を思わせるこの甘い香りも、どうやら彼女の肌からもほのかに香っているらしい。
触れてみたいという強烈な衝動を掻きたてられる。少しでも油断すれば温もりを求めて抱き締めてしまいそうだ。やはり彼女は、本物の魔物娘のようだ。
とはいえ私も魔物学者の端くれ。魔物娘にはそれなりに慣れているので、自制する術も多少は身に付けている。そう簡単には落ちはしない。
彼女の身体的特徴が多少は分かったが、これだけでは種族までは分からない。一瞬ここに封印でもされたガーゴイルなのかとも思ったが、しかしガーゴイルであれば岩を荒削りしたような外殻など持っていないはずだ。
むしろこの無機質な体つきはゴーレムと通じるものを感じる。だが、原種のゴーレム程"作られた"と言う感じはしない。
外見からは山岳地特有の岩や砂、あるいは溶岩の特質を持つ魔物娘だと考えられそうではあるが……。まぁ、本人に聞くのが一番かもしれない。
「君は、種族は何て言うの? あと名前は」
「メルティ。ラーヴァゴーレムの、メルティ」
ラーヴァゴーレム! 聞いた事が無い種族だった!
魔物娘の世界は本当に広大だ。やはり私などまだまだ勉強不足と言う事だろう。人里の魔物娘ばかり研究していると、こうして特殊な地域特有の魔物娘にはどうしても疎くなる。
「ラーヴァゴーレムと言うのは?」
「溶岩で出来た魔物。昔ここに来た人間の賢者はそう言っていた。あなたは?」
「私は、これでも魔物学者の端くれでね。名前は……」
私は自分の名前を告げる。魔物学者と名乗ってはいるが無名もいいところで、当然彼女も聞いた事が無さそうな様子だった。まぁ、ずっとこんなところに居たのなら知る機会など無いだろうが。
「いい名前ね……。うふふ、気に入ったわ。ところで、あなたはどうしてこの山に来たのかしら?」
「同業者から不思議な山の話を聞いてね。魔物の魔力が満ちているのに、魔物を見かけないという山が……」
私は急にメルティに違和感を覚え、話の途中で言葉を区切る。
今までの大人しくたどたどしい言葉づかいに比べて、今の問いかけは非常に滑らかで、そして妖しげな色香を纏った口調だった。
肌の色も最初の暗い赤銅色から、少しずつ明るい赤み帯びていっている気がする。
「じゃあ、探し求めていた魔物娘をようやく見つけられたっていう事なのね」
「ま、まぁ、そうだね」
形の良い唇がにぃっと吊り上げられる。熱い吐息が私の首元をくすぐった。
「ねぇ、もっとくっついていい?」
答えを聞く間もなく、彼女は更に距離を詰めて肌を密着させてきた。
心なしか、彼女の身体も先ほどよりも柔らかくなっている気がした。触れているだけで彼女の熱が伝わって来て、寒さと共に緊張感までとろけてしまいそうだ。
「やっぱり人間って、あったかいのね」
「き、君の身体の方が温かいと思うけど」
彼女の身体は、やはり明らかに変化していた。
最初は暗い赤銅色だった肌が今では火口から流れ落ちたばかりの溶岩のような鮮やかな赤橙色になっており、その質感も軽く触っただけでもぷるんと弾けそうな柔らかなものに変わっていた。
「確かにそうかもしれない。でもこれはあなたのおかげ」
「私の?」
「魔物娘にとって人間の男は特別なの。人間の精液は特上のごちそうだけれど、でも私達は何もそれだけを糧としているわけじゃ無い。汗や、肌からもわずかだけれど精は出ているから」
私は思考を巡らせ、そしてはっと気が付いた。
先代魔王からサキュバスの現魔王に代替わりをした事によって、魔物は魔物娘に変わり、人間の男性の生命エネルギー、精を糧とするようになった。
その精が最も多く含まれるのが文字通り精液なのではあるが、しかし生命エネルギーである精は彼女の言う通り男性の身体の至る所から多少ではあるが溢れている。
であるなら、仮に体温にも精が含まれているのだとすれば……。それは自然の熱よりも強く、魔物娘達の身体に効果を及ぼす事になるだろう。
現に男性の温もりを求めずにはいられないセルキーと言う種族や、男性の体温と精を奪ううちに氷の魔力を溶解させてしまうグラキエスと言う種族も居る。
「あなたの身体、とっても温かいわ。もっと欲しい。直に、肌を合わせたいわ。……これ、邪魔ね」
そう考えれば、冬場の低温で力を失っていたラーヴァゴーレムが私の体温で力を取り戻したと考えても何らおかしい事は無い。
だが待てよ。それならば夏場に彼女達の姿を見なかった説明が付かなくなる……。
「って、メルティいきなり何を……ん?」
考え事をしている間に、彼女は私の身体に抱きついていた。そして驚くべきことに、彼女の触れている私の防寒服から黒煙が上がっていた!
「ちょ、何をしているんだ!」
慌てて彼女の身体を引き剥がしたが、もう手遅れだった。服は真っ黒に炭化しており、動いた拍子にぼろぼろと崩れ落ちて素肌があらわになってしまった。
服は焼けたが、しかし素肌には火傷も傷も無かった。恐らくは彼女の魔力で洋服だけが焼け落ちたのだろう。洋服や武器が破壊されても、人間の身体には傷一つ付かないというのは魔物娘を相手にしていればよくある事ではある。
幸か不幸か、肌には奇妙な熱が残って寒くは無い。しかし魔物が与えてくる熱など欲情を催す火照りに違いなく、その上魔物娘の前で肌を晒しているというこの状況は非常にまずい。
「ふふ。そんな格好じゃ寒いでしょう? さぁ、直に肌を重ねて温め合いましょう。ほら、脱がせてあげるわ」
「ちょっと待っ」
分かり切っていた事ではあったが、こう言った状況で人間が魔物娘から逃れるすべはまず無い。
私も例に漏れず、あっけなくメルティに組み敷かれ唇を奪われてしまった。
彼女は柔らかな唇で荒々しく私の唇を貪ると、何の遠慮もせずに舌を入れてきた。
外見に似合わないとろけるような瑞々しい舌が口の中を暴れ回る。舌同士を強く擦り合せ、歯茎を嘗め回し、唇の裏を撫でてくる。
ほのかな甘さにわずかに煙の香ばしさが混ざったような匂いが鼻の奥に抜けてゆく。
身体の奥から湧き上がる衝動を、どうにも止められない。
思い返してみれば最近は人間に会う事さえも稀だった。当然女性と触れ合う事も、大分ご無沙汰の事だ。
調査の過程で魔物娘に襲われるという事も、ここ最近はまるでなかった。
そんなただでさえ誘惑に屈しやすい状況で、これだ。これが普通の娼婦であったのなら自制も効いただろうが、本気になった魔物娘を前にしては……。
あぁ、もう駄目だ。性欲を抑えられない。
私は欲望のまま舌を伸ばす。喉がからからだった。彼女の唾液を味わいたくてたまらなかった。
メルティの赤橙の双眸に映る、私の情けない蕩け顔。
私が陥落した事を悟った彼女がにたりと笑うと、瞳に映っていた私の顔もまた卑猥に歪んだように見えた。
今や、メルティには出会った時の大人しい面影などどこにもなかった。
発情した獣のような表情を浮かべる今の彼女は、まさに凶暴な本性を現した魔物娘そのものだった。
「その表情、素敵よ。……決めたわ。あなたを私の旦那様にしてあげる」
いつの間にか松明の火は消えていた。
暗闇の中に妖しく浮かび上がるメルティの赤熱とした身体が、ついに私に覆い被さって来た。
「さぁ、一緒に燃え上りましょう」
彼女の手が私の身体の上をまさぐってゆく。
腹筋から胸、腋の下を抜けて腕をくすぐり、指を絡ませて強く手を握ってくる。
彼女が肌に触れるたび、二人を邪魔する衣服は焼け落ち、肌には抑え様も無い火照りだけが残されてゆく。
上半身だけでなく、下半身も同様だった。
防寒服はあっけなく焼き尽くされ、私はあっという間に丸裸にされてしまった。
私を裸に剥き終わると、彼女は私の両足を大きく開かせ、脚の間に跪いてまじまじと私のそれを眺める。
「凄い、立派よ。こんなの見たことない」
「そんな、事は、無い」
彼女は上気したように頬を染めると、うっとりとした表情で首を振る。
「ううん。とっても素敵。今にも噴火してしまいそうな程に張りつめて……。あぁん、随分と溜まっているのね、こんなに濃い雄の匂い、もう我慢出来ない」
彼女はそう言って私の先端に口づけすると、じゅるじゅると音を立てながら根元まで一気に咥え込んでゆく。
熱い!
何より先に感じたのは彼女の口の中の熱さだった。
これまで感じたことの無い程の激しい熱。にもかかわらず、肉体が傷つき火傷していると言った感触は無かった。
それは肉体な熱ではなく精神的な興奮、高揚、昂りから来る熱のようだった。言うなれば性的な興奮から来る身体の火照りを極限まで昂らせたような熱を、外から注ぎ込まれているような感覚だった。
根元まで一気に飲み込んだ彼女は、その柔らかな舌を裏筋に、かりのくびれに絡み付かせながら、幾度も頭を上下させる。
目の前が白熱した。自分でも早いと思ったが、溢れ出る熱を止められなかった。
「メル、ティ。出るっ」
メルティの口の中に、私はあっけない程容易く射精してしまう。
彼女は私を見上げてにたりと笑い、さらに射精を促すように尿道のあたりに舌を這わせながら、さらに強く吸い上げてきた。
強烈な快楽に腰ががくがくと震える。たまらず彼女の身体を掴もうとすると、彼女はそんな私の手を取り自らの乳房に導いてきた。
躊躇ったのは一瞬だけだった。私は腰の脈動の度に与えられる感覚に耐えきれず、すがりつくように彼女のおっぱいを握りしめる。
柔らかなそれは指に吸い付いてくるようにしっとりとしており、指の間から零れ落ちそうな程に柔らかく形を変える。
メルティの背中が一度びくんと跳ねたが、彼女の反応はそれだけだった。
彼女は私の射精が続く限り激しく私の肉棒を吸い上げ続けた。彼女が満足げに顔を上げる頃には、私は少し憔悴してしまっていた。
「長い間雄の身体の中に溜め込まれていると、精の味もこんなに豊かになるのね。とっても美味しかったわ。あなたの匂いと味が凝縮された濃い味わいに、口の中や喉にひっかかる程の粘度もたまらない」
「それは、何よりだ」
私は彼女の瞳の奥に捕食者の光が消えていないのを感じ取り、本能的に後ずさる。
しかし当然ながら彼女がそれを見逃すはずが無かった。
「でも、まだ足りないわ」
「私は、もう満足だよ」
「嘘よ。だってほら、あなたのあそこはまだ出し足りないって凄い主張しているじゃない」
彼女の視線の先を追ってたどり着いたのは自分のまたぐらだった。出来の悪いはずだった自分の息子がいつの間にか見たことも無い程に立派になって、さらに強く硬くあろうとするかのように、上を目指してそそり立っていた。
幾筋もの血管を浮かばせて湯気が出そうな程に赤黒く腫れ上がり、時折びくんびくんと跳ねて我慢汁を垂れ流すその姿は、自分の物とはいえ少しグロテスクにも見える。
「うっ」
「辛いでしょう。私も辛いの。だから、ね」
にじり寄ってくる彼女を、私は止められない。
心のどこかでこのままではまずいとは思っていた。しかし私自身もまた、心のどこかでは彼女の身体を求めてしまっていた。現に下半身を抱き締められ、彼女の熱に包まれて私は安堵さえしてしまった。
彼女は私のいびつなそれに頬ずりさえしてくれる。
気付けば私も手を伸ばして彼女の髪を撫でていた。
「そんな風に私に優しく触れてくれたのは、あなたが初めてよ」
「メル、ティ」
「ほら見て、あなたがさっきあんなに強く掴んだから、おっぱいがこんなになっちゃった」
メルティはその豊かな乳房をしたから持ち上げ、左右に揺すって見せる。
大きく揺れ動くそのもっちりとした質感もさることながら、私の視線は彼女のおっぱいの先端に釘付けになってしまう。
ただでさえ色っぽく赤みを帯びた彼女の肌の中でも、特に乳房の先端、乳首に当たるような部分が真っ赤になっていた。人間だったのなら勃ち上がって充血していると言ったところだろうか。むしゃぶりつきたくなるような衝動に駆られてしまう。
「お礼に、凄く気持ちいい事してあげる。ここをこうして、あンっ」
メルティは自らの乳房を掴み、軽く絞り込む様に動かす。すると乳首から、まるで母乳のように彼女の体液が噴き出してきた。
彼女の乳房の正面にあった私の一物はもろに彼女の体液を浴びて、橙色のねっとりとした彼女の体液まみれにされてしまった。
「これは一体……。身体は大丈夫なのか?」
「スライムみたいに私のお汁を少し出しただけだから、全然平気よ。母乳が良かった? でも、母乳よりねばねばしてるから、こうすれば、ほら」
そう言うと彼女は私の股間に胸を押し付けてきた。豊満な彼女のおっぱいの前では、普段以上に膨れ上がっているはずの愚息でさえも容易く覆い隠されてしまう。
粘度を帯びた体液の上から、人肌とも粘液とも言えない不思議な柔らかさを持った乳房が押し付けられる。
彼女の肌は口の中に匹敵するほど熱く、その触り心地も粘膜のような柔らかさだった。
「ふふ。じゃあ、動かすわね」
彼女は乳房の両側に手の平を押し当てると、一物をしっかりと包み込ませてからゆっくりと乳房を動かし始めた。
口の中も極上の快楽だったが、彼女の胸の中も負けず劣らずの心地よさだった。おっぱいは隙間なく一物を埋め尽くし、滑らかな肌は滑りよく私の一物を擦り上げる。
激しく上下に動かしたかと思うと、動きを緩めてゆっくり肌の感触を楽しませる。かと思えば左右の乳房を不規則に揉み解すように動かして見せる。
彼女の攻め方が変われば、大きなおっぱいもまた淫らに形を変える。
その様を見ているだけで私はくらくらとしてきて、再び頭がのぼせ上って来てしまう。
「くぁ、あああっ」
「出る? 出る? 出るのね? ふふ、それじゃあ、はむっ」
彼女は乳房に埋まった私の一物の、その亀頭の部分だけを器用に露出させ、あろうことか再び口の中に咥え込む。
柔らかな乳房の感触と、亀頭のくびれから鈴口に渡って嘗め回してくる彼女の舌の責めに耐えられるわけも無く、私は再度彼女の中に精を放つ。
「あふ、れたれた、いっぱいれてりゅよ」
ずぞぞぞぞ。と派手に音を立てて彼女は私を吸い上げる。
身体の火照りが吸われてゆく。
気持ちが良すぎて、全身ががくがくと震える。まるで命そのものが愛撫されながら吸い上げられてゆくようで、恐怖さえ覚える程だった。それでも私は、この時が長く続いて欲しいとさえ思ってしまう。
「ちゅる、ちゅる、ちゅううぅぅっ。ぱはぁっ。あぁん残念。もう終わっちゃった」
彼女は眉を寄せて悲しそうな表情を浮かべる。しかしわざとそんな表情を作って見せただけなのか、彼女の表情はすぐに勝気そうな笑みに変わった。
「まぁでも一度の射精が終わったら、また気持ち良くしていっぱい出させればいいだけよね。安心してね。私の魔力を浴びれば、どんなにたくさん射精してもすぐに元気になれるから」
彼女の言葉に嘘は無いのだろう。普通であれば一度大量に射精してしまえばすぐにまた射精する事など出来るわけがない。
「私、ずっとここでご飯を食べていなかったからお腹がペコペコなの。たった二回の射精くらいじゃ、前菜代わりにもならないわ」
満面の笑みを浮かべる彼女に見つめられ、私はぞっとする。
つまり彼女はこんなものでは無く、もっともっと激しい攻めで私が枯れ果てるまで精を搾り続けようという気なのだ。
二度の大量射精を経て、私も少し冷静さを取り戻し始めていた。
雄としての自分は喜んで彼女を受け入れようとしていた。けれど冷静な自分は、この状況がかつてない程に危険だと警告を発していた。
そして理性の残っている自分が信じたのは、冷静な方の自分だった。
「ちょっと、待ってくれ。こんなに大量の射精を、しかも何度も連続してしたら身体が耐えられない」
「大丈夫よ。愛する旦那様を死なせるような激しい責めなんて絶対しないから。……でも、死ぬほど気持ちいい目にはあわせてあげるけど」
既に腰元はがっちりと掴まれていて動くこともままならない。だが、仮に身体を動かす事が出来たとしても逃げ場のないこの状況ではどうしようも無いのも事実だった。
「この出会いを魔王様に感謝しなくっちゃ。大昔にこの山を封印した賢者にも、お礼を言いたいくらいだわ」
「山を封印?」
「そこに石板があったでしょ? あなたが壊してくれた石版よ。遥か昔、この山の魔物達があまりにも凶暴だからって力の強い人間が封印を施していったのよ。
長い間眠りについて来たけど、でも魔王様が変わったり色々あって、封印も少しずつ緩んでいっていたの。あともう少しってところだったんだけど、結局最後に封印を破壊してくれたのはあなただった」
「それで……山の中に魔力が満ちていたのに魔物娘がいなかったのか」
「そう。もともとこの山は魔力が溜まりやすくて、私達もそんな魔力が溜まって生まれた存在ではあるんだけどね……。
でもそんな事はどうでもいいのよ。どうでもいい、些細な事。
重要なのは目の前に愛しい人が居るっていう事。愛しい人と全身全霊で愛し合う。大切なのは、ただそれだけなの。……あぁ、いい匂い」
私はなんという事をしてしまったのだろう。そんな事情があった事も知らずに興味本位で山に踏み入り、凶暴な魔物娘を封じていた封印をこの手で破ってしまうなんて……。
恐らく目覚めたのはメルティだけでは無いはずだ。人間ほどの大きさをした岩などこの山の至る所に転がっている。その全てがラーヴァゴーレムだったとしたら……。
麓の村が危ない! このままでは村中の男が私のような目に遭ってしまう!
……しかし待てよ。それは本当に危険な事なのだろうか。
思い出してみれば、確かあの村は親魔物派であるにもかかわらずこんな僻地にあるせいで深刻な嫁不足に悩まされていたはずだ。
昔と違い、今の魔物娘は命を奪う程危険な生き物では無い。人間と和解し愛し合いたい魔物娘達にとっては、この封印は時代遅れの枷に過ぎなかったはずだ。
嫁不足の村と、人間を愛したい魔物娘達。両者が出会ったところで、特に問題は無さそうだ。むしろ自分は両者にとっての救世主になったとも言えるかもしれない。
しかし、村と魔物娘達にとっては救いになるかもしれないが、私自身の人生は救われない。
私だって魔物学者だ。そりゃあいつかは魔物娘と夫婦になりたいと思ってはいる。魔物娘が嫌いならば、そもそも魔物学者などしていないからだ。
けれどその夢が叶ったからと言って、その後の人生全てをこんな暗い洞窟の底で暮らしてゆくのは御免だった。
私は魔物娘も好きだが、研究するのも好きなのだ。研究したものを人に伝え、魔物娘の事をもっと広く世の中に伝えてゆくことが自分の使命だとも思っているのだ。
「気持ちいいでしょ。毎日毎日してあげるからね。朝起きてから眠りに落ちるまで、ここでこうして、ずっとずぅっと死ぬまで気持ち良くしてあげる。……まぁ、私達に寿命が来るのがどれだけ先の事かは分からないけれどね。
大丈夫よ。最初は少し辛く思うかもしれないけど、インキュバスになってしまえばそれが何よりの幸せになるんだから。死ぬまで幸せでいられるんだから、素敵よね。ふふっ。
さて、次はどうしようかな。こういうのは、どうかしら」
メルティはそのとろとろととろけかけているかのような手のひらで私の一物を握りしめると、ゆっくりと上下に扱き始める。
「くあぁ」
「いい声よ。素敵。んちゅぅっ」
恐らく彼女の魔力を浴び続けているせいだろう。二度の射精を経てもなお、身体の芯の火照りは冷める気配を見せなかった。むしろ冷めるどころか、回を経るごとに熱さが増しているようでさえあった。
彼女は私の睾丸に口づけし、玉を口に含んで舌の上で転がしてくる。
手の平は激しく扱いたかと思えば緩やかに包み込むような物に変わり、睾丸への口の責めも甘噛みをしたり吸い付いたり付け根に口づけしたりと、彼女の愛撫は変化に富んでいて休む間も与えられない。
このまま射精し続ければ、きっと気持ちがいいのだろう。
しかしその一方で、私の脳裏に昔目撃したとある光景が蘇っていた。
それは魔物娘と交わる男の姿だった。男は誰と言う事も無く、魔物娘もどの種族と言う事も無い。ただ彼等に共通して言えることは、完全に堕落しきっていて、本当の意味で寝食を忘れてひたすらお互いの肉体の身を求め合っているという事だった。
それも一つの幸せだとは思う。けれども私は、そんなのは嫌だ。魔物娘と愛し合いたい気持ちはもちろんあるが、肌を重ねるだけでは無く色々な事を一緒に楽しんでいきたい。
こんなところに監禁されるのは、絶対に嫌だ。
そんな気持ちが無意識に働いていたのか、いつの間にか私は自分のザックの中に手を伸ばしていた。
指先は、すぐに目的のそれを探し当てる。
けれども私はやはり迷ってしまう。魔物娘達に悪意は無い。あるのは人間の、特に男性に対する深い愛情だけなのだ。
時に問題が起こるのは、彼女達の愛情の形が人間の理解の範囲を超えている事があるから。だから誤解を抱えたまま、一方的に相手を拒絶する事だけはしたくない。
言葉を交わせるならば、お互い愛情があるならば、話せばきっと分かり合えるはずだ。
私は、快楽の波に弄ばれながらも、必死に自分を保ってメルティの説得を試みる。
「メルティ。やめて、くれ」
「んちゅ。どうして?」
「気持ちは嬉しい。でも嫌なんだ。こんな風に一方的に搾り取られるのは」
「あぁ、遠慮しているのね。でもそんなのいらないわ。だってほら、身体は正直にこんなに喜んでる。こんなに硬く大きくなって、だらしなくおつゆ垂れ流しているんだから。
……出したいんでしょ? いいのよ。出したいときに、私のどこにでも出して。膣でも、さっきみたいに口やおっぱいでも大歓迎。何ならお尻でも構わないわ。でもどうせなら長く味わってもらいたいし、とりあえず一回抜いちゃうわね」
彼女は話は終わりだとばかりに、再び口淫を再開させる。
「メルティ。そういう事じゃないんだ。愛しているなら、俺の話も聞いてくれ」
メルティはちらりとこちらに目をやるものの、すぐに興味無さそうに男根へと戻してしまう。
「君は、交合していればそれで幸せかもしれない。私も君のような魔物とこうしていると幸せを感じるし、魔物娘と結婚する事は長年の夢だった。でも、私の幸せはそれだけでは無いんだ。もっとたくさん魔物娘の事を学び、魔物娘の素晴らしさを世間に広めて、幸せな夫婦をもっと増やしたいんだ。
それもまた私の夢であり、幸せなんだ。だからこの先一生ここでこうしているというのは、耐えられないんだよ。
君の気持ちは嬉しいし、私もそれに応えたいと思っている。だからメルティ、せめて私の話を」
私の必死の訴えに、メルティはようやく口を止めて顔を上げてくれた。しかし私の安堵は、ほんの一瞬で終わってしまった。
「だからぁ、あなたは私とこうしている事が一番の幸せなんだってばぁ。これからそれを身体に教えてあげるから、難しい事なんて何も考えずに私だけを感じていてよ」
メルティはあくまでも屈託なく笑うと、すぐに私の一物へと戻ってゆく。
私は唇を噛み、心を鬼にする。
手にしているこれが彼女に通用するかは分からない。通用するとしても、こんな少量では効果が無い可能性だってある。それに、彼女を傷つけてしまうかもしれない。
けれど私も、ただ大人しく彼女に支配されているわけにはいかないのだ。
「メルティ。ごめん!」
私は握りしめたそれを、思い切り強く彼女の身体に叩きつけた。
絹を裂いた様な女の悲鳴が洞窟の中に響き渡り、再び世界を暗闇が覆い尽くした。
私はしばしの放心の後、松明を探り当てて火を灯し直した。
あたりを伺うと、メルティの姿はすぐに見つかった。
彼女は全身ずぶ濡れになって、自分の身体を抱き締めるようにして震えていた。
その表情からは先ほどまでの余裕が消えており、怯えるような表情で涙を浮かべていた。赤熱していた全身からも光が失われていて、最初に見つけた時のように暗い赤銅色へと戻っていた。
どうやら試みは成功したようだった。
私がザックから探り当てたのは皮袋の水筒だった。水のたっぷりと入ったそれを、彼女の身体に叩きつけたのだ。
かくして皮袋は彼女の外殻の尖った部分で破れ、中身の水がぶちまけられたというわけだった。熱や溶岩の魔物娘ならば水を掛ければ弱らせられるのではないかという単純な思い付きだったのだが、思いのほか効果的だったようだ。
と言うか、少々効果があり過ぎたようだ。流石の私もここまでとは、彼女を泣かせてしまうとは思わなかった。
「メルティ」
「あ、あ、あああ。どう、して? どうしてこんな、ひどい事するの? わたしは、わたしはただ、あなたに気持ち良くなって欲しかっただけなのに」
「ごめんね。でも君が話を聞いてくれなかったから」
その時のメルティの表情の悲痛さは、しばらく忘れられないだろう。溶岩の魔物娘にも関わらず、彼女の表情はまさに凍り付いていた。
「ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい。お願い、許して。何でもするから、嫌いにならないで」
搾り出すような悲鳴に近い声に、胸の中が罪悪感で重くなる。
「嫌いになんてならないよ。……その、まだ自信を持って好きと言える程君の事は良く知らないけど、きっと好きになれると思う」
「ほんとうに?」
「本当だよ」
「ずっと一緒に居てもいい?」
「ここにってわけにはいかないけど、私などで良ければ」
「……じゃあ、それを証明して」
「え?」
彼女は私に向かって腰を下ろした体制のまま、膝を立てて脚を開く。
露わになった脚の付け根には、人間の女性のものと同じものが付いていた。
陰毛の生えていないつるつるとしたその割れ目を、彼女は指をあてがって左右に広げて見せる。
彼女の暗い洞穴の入り口が開き、私を待ち望んでいるかのようにとろりとした粘液が滴った。
「さっきは、確かにやり過ぎたと思う。あなたがちゃんと話してくれていたのに、わたしは自分の事しか考えていなかった……。
だから、わたしにおしおきして。めちゃくちゃに、好きなようにして」
涙に濡れたしおらしい表情で懇願され、私は思わず生唾を飲んでしまう。
実のところ、私の剛直は一切力を失っていなかった。それどころか溢れ出る直前まで手淫と口淫をされ続けていた影響で、いつ彼女に衝動的に襲い掛かってしまってもおかしく無い状態だった。
二回も射精したというのに節操のない自分の有り様に呆れてしまうが、否定できない現実でもあった。
今まで理性を振り絞っていたが、攻勢から一変した彼女の弱弱しい姿も魅力が過ぎて、長くは持ちそうになかった。
だが、果たしてこのまま彼女を犯す事がお仕置きになるのだろうか。交わりこそが彼女達が力を取り戻す一番の手段なのではないか。
そんな風に疑いつつも、私の指は既に彼女の太ももに伸びていた。
彼女の肌は先ほどまでの溶けてしまいそうな程の熱や柔らかさこそ失われていたものの、人肌程の温もりと弾力は失われてはいなかった。
「はっ。あ、んっ」
すべすべの内腿を撫で回し、割れ目の付近に指を近づけては焦らすように遠ざける。指の動きと共にメルティの呼吸が乱れ始め、だんだんと艶を帯びたものになってゆく。
息遣いに余裕が無くなってきたところを見計らい、私は彼女の膝を掴み、荒っぽく左右に広げた。
「や、やぁっ」
「嫌なのか?」
「い、いいえ。挿れて下さい」
「分かった」
私は指を軽く舐めて濡らしてから、彼女の割れ目をなぞるようにして彼女の入り口を探り当て、指を少しずつ侵入させてゆく。
「あっ、そんな、指で、なんて」
きつく強く、押し返すように締まりの良い入り口を抜けてゆくと、指先に確かな熱を感じた。表面は濡れて温度が下がってしまっていたようだったが、彼女の中心部はまだ先ほどまでの熱い疼きを残しているようだった。
指を少し曲げて、奥をゆったりとした手つきでこね回すと、メルティが子猫のような声を上げた。
「あぁっ、あ、あ、あああっ」
涙をぽろぽろとこぼしながら私にしがみつき、身体を痙攣させるメルティ。その表情を見ていると、先ほど彼女自身がやり過ぎてしまった事も理解できる気がした。
「いじわる、しないでぇ」
可愛さと愛しさと嗜虐心が絶妙に混ざり合ったような感情。
私は彼女の耳元に首を寄せ囁く。
「だってこれは、おしおきじゃないか」
「はうぅぅ」
彼女の泣き顔を見ているうちに、私はどうしても落ち着かなくなってきてしまった。やはり、私には相手を責めるのは向いていないらしい。
「反省したかい?」
彼女は子供のように大きく頷いた。
「どうしてほしい? 言ってごらん」
「あなたの、おっきいのが欲しいの。おなかがきゅうきゅうして、もうこれ以上我慢できないの」
私は微笑み、彼女に優しく口づけする。
彼女の下の入り口に自分の先端をあてがい、問うように瞳を覗き込む。
とろけたような安堵の笑みが彼女の答えだった。私は頷き、腰を沈めてゆく。
「はぁ、ぁあああ。入って、くるぅ」
「くっ。きっつ」
指を入れた時に十分感じていたが、彼女の中は狭く引き締まっており、入って来ようとする私を押し返そうとするように強く締め付けてくる。
構わず腰に力を入れていく。激しい締め付けを歯を食いしばって堪え、とうとう彼女の中に自分の全てを刻み付ける。
「来たぁ。硬いのが、お、奥まで、全部、入ったのぉ」
全て入りきると、ちょうど私の亀頭部分だけが彼女の芯の熱い疼きに飲み込まれるような形になった。
締まった膣肉が強く締め付けてくる入り口付近に比べ、彼女の中心部は私自身を優しく包み込んでねっとりと絡み付いて来てくれる。
口とも胸とも違う、なんとも言えない絶妙な快楽。
私はそれを更に楽しみたくて、ゆっくりと腰を動かし始める。
「あ、擦れ、るぅ。硬くて、熱いのが、擦れてるよぉ。わたし、私、お腹がのぼせちゃうよぉ」
身を捻ろうとする彼女の身体を無理矢理地面に押さえつけながら、私は本能のままひたすら腰を振った。
だんだんと紅潮してくる彼女の表情にたまらない気持ちになり、乱暴に唇を吸い、乳房を荒々しく揉みしだく。
どこもかしこも甘く、柔らかい。
身体の芯がぐつぐつと煮えて、あらゆるものが欲望の中に溶けてゆくようだった。私はもう、彼女が欲しくて欲しくて、それ以外の事は考えられなかった。
彼女の腕が、足が、私の身体にしがみついてくる。私は愛しくてたまらなくなり、口づけしながら彼女の身体を強く抱き締め返す。
「あなたぁ。ん、くちゅ。好き、好きぃ。大好きぃ」
「あぁ、メルティ。ちゅぅっ。私も、だ」
いつの間にか彼女の身体の紅潮は全身に広がっていた。
とろけるような感触を取り戻した彼女の肌はぴったりと私の肌に吸い付き、優しく包み込む様にまとわりついて来る。
変化しているのは外見だけでは無かった。抽挿を繰り返すうちに、眠らされていた火山が外部からの刺激で蘇るかのように、彼女の膣の中の肉も激しい情熱を取り戻していた。
今にも溶け落ちそうな程のその感触は、もはや肉と言うよりはスライムの粘液のようだった。しかし粘度は遥かに高く、絡み付いたまま離すまいとまとわりついて来る感触も比較にならない程だった。
最初はわずかだった挿入部からの水音も、今ではぐちゅぐちゅびしゃびしゃと洞窟内に大きく響き渡っている。
「私、これ好き。もっと、もっとおしおきしてぇ。あなたぁ」
とうとうメルティの方からも腰を振って来る。
恐らくは肌の触れ合いや汗などから、再び私の精を取り込んだのだろう。
けれど、私はもうごちゃごちゃと言う気は無かった。今はただ彼女の身体を味わい、楽しむ事だけしか考えられなかった。
腰の動きを、更に奥をえぐるような物に変える。
彼女はもう喘ぎ声を上げる余裕も無いようだった。ただ荒い呼吸を繰り返し、背を弓なりに反らせるだけだった。
私は彼女の腰を掴み、より一層彼女の中に深く踏み込む。
きゅうぅっと、彼女の中が強く収縮し、私はとうとう耐えきれずに彼女の中で全てを解放した。
二人分の鼓動が重なる。どくりどくりと剛直が脈打てば、ごくんごくんと柔筒が蠢き、吐き出された物を吸い上げ飲み干してゆく。
眩暈がするほどの快楽に、私は呆然と身を任せるほかなかった。
そんな私の後頭部に彼女の手が添えられる。誘われるまま、私は彼女の柔らかなおっぱいの中に顔を埋める。
煙のような甘い匂い。それを楽しむ間もなく、今度は顔を引き寄せられて唇を奪われた。
ゆっくりと舌を絡める、いたわるような口づけ。それは長い射精が終わるまで続き、脈動が収まるころにようやく糸を引いて唇が離れた。
「とっても、素敵だった」
この感想には苦笑いを浮かべずにはいられなかった。
「一応、お仕置きなんだけど?」
「こんなお仕置きなら大歓迎よ。もっとお仕置きして。あなたのしてくれる事なら、私は何でも受け入れるわ」
私は改めて彼女に強く抱き締められる。
「完全に元に戻っちゃったみたいだね」
「だってあんなに激しく愛されたら、誰だって熱くなってしまうわよ。……それともあなたは、おざなりに私を抱いていただけなの?」
そう言われては、こう答えるしかなかった。
「本気だったよ。こんなに燃え上ったのは生まれて初めてだ」
「あぁ、なんて甘い響き。あなた、もう一度しましょう? 今度はもっと、もぉっときついお仕置きをお願い」
私は思わずため息を吐いてしまった。これではお仕置きでは無くご褒美ではないか。
「……メルティ。私がどうして君にあんな事をしたか、分かってくれてるんだよね」
「分かっているわ。こんな狭苦しいところで交わらずに、もっと人の多いところで見せつけるように激しくしたいのよね?」
頭の中が真っ白になった。本気で彼女が何を言っているのか理解できなかった。
「ちょっと待ってくれ、私は」
「魔物娘とのまぐわいをたくさん学んで、魔物娘との交わる事の素晴らしさを世間に広めて、幸せに求め合う夫婦をもっと増やしたいのよね。分かっているわ。ええ、私も凄く共感しているわ」
なんと言う魔物娘的解釈だろうか。素晴らしすぎて涙が出そうだ。
「でも。ね、あなた。私はずっとここで一人で封印されてきて、本当にお腹が減ってるの。だから、もう少しだけでいいから、人の温もりに触れていたいの。
あなたをここに閉じ込めるなんて事はしない。一緒にここを出て、あなたの言う事もちゃんと聞くって約束するから。だからもう一度だけ、私を抱いて」
激しい熱を帯びた強気な状態の彼女のはずだった。にもかかわらずその時の彼女は、初めて男を前にしたかのような不安に満ちた少女のような顔をしていた。
私は小さく息を吐き、自分自身の胸に問いかける。
この山に来る前は、自分はまだ誰かと身を固める気など無かった。身を固めるにしても、もっとちゃんとした出会いで、きちんと恋をして結婚まで事を運ぶつもりだった。
けれどまぁ、この山に来たのも、下山しようという日にメルティと出会ったのも、あるいは運命だったのかもしれない。
いや、そんな言い訳をするまでも無いだろう。彼女に対する自分のこの胸の熱さを考えれば、彼女と一緒になる理由としては十分すぎる。
出会ってまだ本当に間もないが、魔物娘との恋は大体そんなものだろう。
私は覚悟を決めると、微笑んで彼女の頭を撫でてやった。
「分かった。メルティが満足するまで、たっぷり注ぎ込んであげよう。だって私は、君の旦那様なんだからね」
メルティの顔が目に見えてぱぁっと輝く。胸の中のこの感情は、やっぱり愛情と言う奴なのかもしれない。
あまりに嬉しかったのだろうか、彼女は言葉も忘れて私に抱きつき、唇を重ねて来た。
そして視界が反転し、押し倒していたはずがいつの間にか押し倒される体勢に変わっていた。
「好き、好き、大好きぃ。しようね。いっぱいしようね。私の旦那様!」
身体中に彼女の口づけと「好き好き」が降ってくる。激しく燃え滾るような愛の雨を、私はただ受け入れる。
だが、素直な少女のような顔はここまでだった。
彼女は再びさかりの付いた獣のような表情に戻ると、私の身体に覆い被さって激しく腰を上下させ始めた。
そのあとは、魔物娘の新婚夫婦と大体同じだった。
言うまでも無い事だろうが、あえて言おうか。
そのあとめちゃくちゃ搾り取られた。
翌日洞窟から外に出ると、辺りの景色は一変していた。
山肌を覆い尽くしていた雪は消え去り、気温も常夏かと思われる程に高くなっていた。
山の火口からは黒煙が上がっており、赤々とした溶岩が流れ落ちているのも遠目に確認できた。
まさに山自体が燃え上っているかと錯覚しそうな程に、山全体が生き生きと活動を再開させていた。
「何だか、別世界みたいだ」
「これが本当のこの山の姿なのよ。あなたが封印を解いてくれたおかげで、山が本来の力を取り戻したの。魔物娘達の姿だって、ほら」
言われるままにメルティの指差す先に視線をやれば、彼女の言う通りに魔物娘らしい姿がいくつも見て取れた。
彼女のようなラーヴァゴーレムの姿もあれば、別の魔物娘も居た。土地柄なのか、魔法物質型の魔物娘が多いようだった。
私は年甲斐も無く胸躍らせている自分に気が付く。
今まで封印されてきた、大勢の魔物娘の棲む山。これ以上魔物学者の興味を惹かれる場所はあるだろうか。
「これは……。下山している場合じゃないな」
「しばらくこの山に居るって事?」
「研究をやり直したい。一緒に居てくれるか?」
「もちろんよ! 私の仲間も紹介するわ。みんな可愛くてえっちな子ばかりよ!」
メルティは少し興奮した様子で嬉しそうにそう言ったが、私は即座に返事が出来なかった。
同族の仲間を紹介する。それは魔物娘達に割とよくある、ハーレム形成のきっかけでもあるのだ。
まぁラーヴァゴーレムはオークやラージマウスと違い元来ハーレムを作る種族では無いようではあるから、大丈夫だとは思うが……。
「まぁ、それもおいおい、な。……ところで、そろそろ解放してくれないか?」
「えぇー。いいじゃない。まだこの山に居るんだったら、もうしばらくこうしていようよ」
なんやかんやと話してはいるが、未だに私はメルティと繋がったままだった。真面目な話をしつつも、立ったままで彼女の身体を抱えるようにして深く交わったままなのだ。
昨日は、あの後激しく愛を交わしたり、疲れたらゆったりと繋がったままいちゃついたりと、結局交合しっぱなしだった。
そしていつの間にか疲れて眠ってしまい、朝起きた時には体温が少し下がって硬質化した彼女の身体から抜けなくなってしまっていたのだ。
もう一晩交合に明け暮れるのも覚悟したが、彼女は意外にも約束だからと繋がったまま地形変化の魔法を使い、私達を地上へと運んでくれたのだった。
まぁ硬質化と言っても人間の女に比べても格段に抱き心地がいいのは変わらないのだが……。しかしこんな状態では、まともに動く事もままならない。
せっかく彼女の魔法で外に出られたというのに……。
「どうやったら外せるんだ」
「いいじゃない。焦らなくても」
「メルティ。私の言う事も聞いてくれるんだろう?」
「えっとぉ、私の身体が情熱的に火照ったら、自然と肌もとろけて抜けやすくなるかも」
「……本当は体温調節出来るんじゃないのか?」
彼女は分かりやすく目を逸らす。しかし誤魔化すという事は、結局自分からは私を離す気は無いという事だろう。
そっちがその気なら、こっちもそう言う手に出るしかない。
私はお尻を支える手に力を籠め、昨日から衰えることを知らない剛直を彼女の身体の奥深くへと突き立てる。
「それだめ、深すぎるぅ」
すかさず柔らかい土の上に彼女を組伏し、腰を振りつつ彼女の全身に手を這わせ始める。
メルティは大きく悦びの声を上げる。
そそられないかと言えば嘘になるが、何だかうまく乗せられたようで少し癪だった。これから先、色々と苦労しそうだ。
けれどもまぁ、こういう苦労ならそれほど悪くも無いかもしれない。
「あっ。そこ弱いの、だめぇ……」
晴天の下、身を隠す物も無い山のど真ん中で、私は愛しい人に覆い被さり腰を振る。
私は魔物学者だ。まずは手始めに、自分の嫁の身体を隅々まで調査し尽くすのも一興だろう。
14/02/12 12:51更新 / 玉虫色