Phase6 -状況開始- 【残酷】
「...」
どうも皆さんこんにちは、八島です
え、今何しているかって?
最初の吹出しが無言じゃ解らない?えぇ、確かに、ごもっともな指摘でございます
えっとですね...簡単に申しますと...
「「「...」」」
興奮した村人達に鍬とか鎌とか斧を向けられながら包囲されています
えぇ、かなり興奮してますよ?
50人ぐらいですかね、皆さん今にも襲ってきそうですね...小銃とか持っててもさすがに無理っぽいですね
まさに戦○自衛隊のヤラレ役みたいな感じになってますね、ハイ
さて、何故こうなったかと言いますと...えと...作者っ!パスっ!
...最後までやれよ...こほん、どうも、代わりまして作者です
何故こうなったか、それは少し時間を遡ります...
−−−−30分前−−−
「これをこうして...」
「ん〜と〜...あぁっ!こうするのか!」
「そうそう、それで...」
高機動車の車内、後ろの座席からさっきから何か聞こえてくる
どうやら神崎がイーシェに何か教えているようだ
仲のいい姉妹にも見えて微笑ましい光景に見えなくもない、だが教えていることは非常に物騒である
「...で、弾倉を挿入したらこのスライドをこう引いて...」
「それでこれを動かすんだよね?」
「そうだ、飲み込みが早いぞ」
イーシェの手に握られているのは9mm機関拳銃(「拳」は常用漢字ではないため正しくは「9mm機関けん銃」となる)、自衛隊で採用されている短機関銃(拳銃弾を使用する小型の機関銃)である
銃床のない、大型拳銃程の大きさしかないコンパクトさが長所であるがそれ故に毎分約1200発という高い発射速度と相成って非常にコントロールの難しい代物である
その為、使い方も狙いを点けて点射するのではなく、目標に向かって弾をばら撒くという使い方をするのだ
高機動車とともに送られてきた物だが神崎が面白がって使い方を教えているのだ
実際、彼女の機動性に9mm機関拳銃の掃射能力を付与したら心強いだろうから誰も止めはしない
もっとも止める人物がいないというのも一因であるが...
残りの2人、桂は高機動車の運転をしているので仕方がない、そして裕はと言うと...
「...zzz...zzz...」
助手席に収まり、鉄帽を抱えて寝息を立てていた
一昨日に引き続き昨日も搾り取られた裕はかなり疲れていたのだ
余程疲れていたのか後ろでイーシェ達がワイワイ騒いでいるのだが一向に起きる気配はない
イーシェ達も原因は自分達である為か誰も起こそうとしなかった
「お、村が見えて来たんじゃないか?」
「あ!あれあれ!あれだよ!」
「ですね...小隊長、起きてください...小隊長?」
「んが?」
走り続けて20分、ようやく村が見えたのだ
「ふあぁ...ふぅ...何?」
欠伸をしてから鉄帽を被ると前に目を向けた
「村が見えました、もうすぐ到着します」
「うん、見えた...ようやく野宿から解放されるな...」
「宿屋あるかな?」
「解らん、イーシェ?」
「ボクも来たことないから解らないな...」
「じゃあ何であの村知ってんだ?」
「あの村に知り合いがいるんだ、たまに森まで狩りに来て知り合ったんだ」
「むぅ...ま、最悪飯だけでも食おう、こいつがあるから野宿よかまだましになったしな」
そう言うとポンと高機動車のシートを叩いた
と、その時、村の入り口にいた子供達がこちらを見た
何をする訳でもなく、ジッとこちらを見ている
何だろう?と見ていると突然走り出した
そのまま村の中心に走って行ってしまった
「...神崎、今の見た?」
「見た」
「...何だと思う?」
「解らん」
「だよね...」
そのまま村の入り口まで来た
「...誰もいない?」
「...いないね」
「...いないな」
「...いませんね」
誰もいない
人はおろか猫1匹見当たらない
「...さっきは居たよな?」
「うん、ボクも見た!」
「......全員ここに居ろ」
「小隊長?」
「俺が見てくる、お前らはここで援護しろ」
「指揮官が出てくのはあんまり感心しないけどね...」
そう言いつつも神崎は小銃のスライドを引き初弾を装填すると後部席から降りた
裕も同じように初弾を装填するとドアを開けた
話し声すら聞こえない、風の音だけが聞こえる
「...ここまで静かだと気味が悪いな...」
「...気をつけろよ...さっきから見られてる」
「あぁ、俺も感じてる」
通りには誰もいない、先程まで営業していたであろう露店は無人のまま放置されていた
しかし、先程から無数の視線が裕達を捉えていた
「...偵察してくる、カバー頼むぜ」
「了解」
ゆっくりと、村の中心部に向けて歩き出す
この村はどうやら大通りを中心に村が広がっているようだ、その為一直線に伸びた大通りを歩いている、後ろからも神崎達がカバーしてくれているので安心できた
「...」
《八島、どんな様子だ?》
インカムに無線を通した神崎の声が伝わる
「静かだ、誰もいない...だが、間違いなく見られてる...多分、家の中だ」
《もしかして盗賊か何かと思われてるんじゃないか?》
「まさか...」
『バンッ!』
その瞬間だった
通りに面した家々から人が飛び出してくる
そして、ぐるりと裕を取り囲んでしまった
50人はいるだろうか...各々手には鍬や斧を持っている、更に何人かハーピーやラミアなどの魔物娘も見える
皆殺気剥き出しでこちらを威嚇してくる
《八島っ!》
無線から緊迫した神崎の声が弾けた
恐らく神崎達が周りにいる村人達に狙いを着けている筈だ
「...待機だ...絶対撃つな...」
それを伝えるとそのまま両手を上げて闘う意思が無いことを伝える
「...落ち着け...こちらに闘うつもりは無い...ただ宿を探してるだけだ」
「嘘つくんじゃねぇ!」
一団から怒鳴り声が響いた
そちらを見ると年の頃30半ばといった大きな体の男性だった
どうやらこの男性が一団の代表のようだ
「怪しい奴め!てめぇが最近この辺りを荒らし回ってる盗賊なんだろ!」
...神崎さん、どうやらあなたの推理は当たっていたようです
「嘘じゃない、ただの旅の者だ」
「そう言って騙す気だろ!」
「違う!本当だ!」
このまま押し問答が続くかと思われた、だが予想外の人物がこの事態を解決した
「待ってーっ!」
「ん?」
「え?」
全員の視線が声の方向に向けられる、視線の先に居たのは...
「イーシェっ!?」
「待ってーっ!」
高機動車から走ってくるイーシェだった
「あっ!イーシェだ!」
すると、一団の中に居たハーピーの少女が反応した、どうやらイーシェの知り合いというのはこの少女のようだ
「ピッピ久しぶり!」
「うん!イーシェも!...どうしたの?その服?珍しい柄だね?」
「これ?ご主人様から貰ったの♪」
「ご主人様?」
「うん♪あの人♪」
裕を指差すイーシェ、そのまま視線が集中する裕
何か恥ずいな...
「ピッピ、知り合いか?」
「うん!東の森に住んでるワーウルフのイーシェだよ!よく話してるんだ♪」
「何だ、ピッピの知り合いならそう言ってくれよ」
一斉に手に持つ耕具を下ろす、どうやら誤解は解けたようだ
「...イーシェ、良くやった」
「?えへへ〜♪褒めて褒めて♪」
わらわらと村民達が引き上げて行く中、頭を撫でてやると嬉しそうに尻尾を振っていた
「すまなかったな、兄ちゃん」
突然話しかけられた
振り向くと先程の大男が立っていた、そこには先程の鬼のような形相はなく、申し訳なさそうな顔が代わりにあった
「妙ななりした奴らが来たって子供たちが言うからよ、てっきり盗賊がこの村を襲いに来たと思ってな」
「いえ、誤解も解けましたし気にしてません」
「そう言って貰えるとありがたいよ...宿を探してるんだよな、予算はどれくらいだ?」
「.........Σあっ!」
そう、大事な事に気づいた...この世界のお金持ってません
「...しまったな〜...」
「...もしかして、金無いのか?」
「...実は...」
「なら俺ん家に来な、飯も食わしてやるよ」
「Σいいんですか!?」
「あぁ、間違えちまった礼だ気にしなくていいぜ」
「...」バッ
後ろを振り返ります
「「」」ビシッ
ビッと親指を突き立てる神崎、桂両名
「お願いしますっ!」
「おう!任せろ!」
ズバッと自衛隊で鍛えた礼でお願いしました
「え〜!じゃあ旦那さん見つけたんだ〜!」
「うん!凄く優しいんだ〜♥」
そんな中、イーシェとピッピは会話を続けていた...
−−−2000−−−
「ご馳走様でしたっ!」
「はい、お粗末様」
イーシェの声に恰幅のいい女性が笑顔で応える、この人がダンケ(ダンケというのは先程の大男の人)の奥さんのマルカ、切符のいい女将さんて感じだ
「すいません、無理を言ってしまって」
「いいよいいよ、うちの旦那が迷惑かけたらしいからね、それに、うちの子供達も喜んでるしね」
ダンケの家は子沢山だ、裕の膝の上に乗って寝ている次女を含めたら4人もいるらしい(男2の女2らしい、生まれた順は男>男>女>女)
怖がられるかと思ったがキャッキャと懐いてきているので内心ホッとしている、イーシェなんかは早速次男と長女と遊んでいる
「...裕との家庭生活...悪くないかも...ふふっ♥」
「...子供は2人...男の子と女の子...はう〜♥」
神崎と桂は何か知らんが違う世界に行っていた
「それにしても、お前ぇさんら珍しい恰好してるが、傭兵か何かか?」
ダンケが葡萄酒を飲みながら話しかけてきた
その応えに裕は少し困ってしまった
違う世界から来た軍人です...これが正しい答えだが、信じて貰えるか?...多分NOだろう、自分でも信じられないもんな...
「まぁ...そんなところです」
と、いうことで話を合わせておいた
「そんならよう、盗賊退治してくれねぇか?」
「盗賊?...って、俺が間違われた...あの?」
「おう、そうよ」
杯の葡萄酒を半分ほど一気に飲み干すとダンッとテーブルに置いた
「このあたりの村や街道を通る商人なんかが襲われてんのよ、中には殺された挙句身ぐるみ剥がされた奴までいる」
やり切れない、といった表情を浮かべながらパイプを咥えた
どうやら相当数の被害が出ているようだ
「おかげでこの村は商人が来なくなっちまってよ、今にも干上がりそうなんだよ」
「たしかにそれは...」
「だからよう、あんたら腕も立ちそうだしここは引き受けてくれねぇか?」
返答に困った
確かに泊めて貰う上にご飯まで頂いた恩もあるし、困っているこの村の人達を助けたいと思う、だが...
「...すいません、我々も任務がありまして...明日にはこの村を出ないと...」
「...そうか...それじゃあ、仕方ねぇか」
一瞬見せたがっかりする表情に胸が痛んだ、だからすぐに話を変えることにした
「それにしても、この村はあまり被害が無いように見えませんが?」
「おう!それはな」
「父ちゃんが守ってるからだ!」
突然の声に思わずびっくりしてしまった
声の主はひょこっとテーブルの下から顔を現した
「おうよ!エリックの言う通りよ!」
ダンケはそう言うと機嫌良さそうに現れた長男...エリックを肩に担いだ
「父ちゃんはこの村の自警団の団長なんだ!すごく強いんだ!」
「そうだ!樵歴15年の俺様だ!盗賊如きは俺様の斧で切り捨ててやる!」
そう言って大笑いする親子を見て、微笑ましく思った...胸の痛みを感じながら
−−−2300−−−
村が寝静まった頃...
「...ふぅ...」
イーシェと桂の寝息が響く中、宛がわれた2階の客間の窓から裕は紫煙を吐き出した
「...眠れないのか?」
後ろから声をかけられた、振り向くとTシャツ姿の神崎が立っていた
「...お前こそ寝ないのか?」
「俺が聞いてるんだけど?」
流したつもりだったが長い付き合いの同期は流させてくれないようだ
そのまま裕の隣に来ると裕の煙草を1本抜き、加えて火を点けた
「...迷ってるのか?盗賊退治の件」
「...さすが同期だな...」
「地味に長い付き合いだからな」
そう、悩んでいた
先に述べたように、盗賊退治を受けてあげたい気持ちはある、だが...
「...守る為にしか戦わない、それが自衛隊の...俺達の守るべき一線だと俺は思ってる」
「...あぁ...」
『専守防衛』
守りに徹し、攻めることを放棄する、それが自衛隊の鉄則だった
最近になって少しずつ変化の兆しは見えてきているが、根本であるそれは未だに変わっていない、自国を守る為の存在、それが自衛隊だった
盗賊退治、それは果たして守る為の戦いなのか...いや、そもそも違う世界の存在に対してそれが適用されるのか?
そして、何より大きな要因は...
「...それに俺は...人を殺したことが無い...」
そう、1950年、警察予備隊の設立からこの方、自衛隊は海外派遣などを経験しているが、誰かと戦ったこと...人を殺したことがないのだ
たしかに、自衛隊では戦う為の訓練はしている
しかし、訓練はあくまで訓練であり、実戦と訓練には確固たる壁が存在していた
「...俺は...人を殺すのが怖い...」
「...あぁ、解ってる...俺もだ...それに、桂もな...」
ふっ、と紫煙を吐き出す神崎、横から見ても絵になるなと思ってしまった
「...だがな...裕、俺は思うぞ...」
「ん?」
「...惚れた相手と一緒なら怖くない、ってな」
「...」
神崎の優しさが嬉しかった
「...今まで女ポイ捨てしてきた野郎の言葉とは思えんな...」
「今は野郎じゃないもん♪」
「...もん♪、とか止めろ...気持ち悪い」
「その気持ち悪いのに散々出したのは誰だよ♪」
「...」
「何なら今晩も...」
「殴るぞ」
「暴力はんたーいっ!」
軽口を叩き合う、そして顔を見合わせるとお互い思わず吹き出してしまった
本当にこいつがいてくれて良かった...口に出さないが本当に感謝していた
「...さ、そろそろ寝ようぜ」
「あぁ、そうだな...」
「きゃああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
女性の悲鳴が村に響き渡った
離れようとした窓から再度顔を出した
「何だ!?」
「解らん!」
神崎と共に周りを見渡すが異常は見られない、他の家も悲鳴に驚いて家から飛び出してくる
「盗賊だぁっ!!!」
若い男が叫びながら走ってきたのはその時だった
『バンッ!』
下の方から派手な音がした、そちらに視線を向けると斧を持った大きな体が見えた
それがダンケだと理解するのに時間はかからなかった
「トッシュ!何があった!?」
「ダンケの親方!大変だ!家がやられた!親父とお袋がっ!」
男は怪我をしたのか片腕を抑え震えながら話した
「来やがったなクソ共め!」
そう叫ぶとそのまま走り出そうとした
「父ちゃん!」
すると今度は家から小さな影が走り出てきた、エリックだ、手には木の棒を持っている
「僕も行く!」
「お前は家に居ろ!」
「でもっ!」
食い下がるエリックにダンケはしゃがむとこう言った
「母ちゃんや弟達を守ってやれ、お前ぇは兄ちゃんだろ?」
「...!」
優しい声音だった、そしてエリックが頷くのを確認すると頭を撫でそのまま立ち上がった
「親方っ!」
「行くぞ野郎共っ!」
「おおっ!」
体格のいい男を3人程連れて走り出した、その背中をエリック君はジッと見つめていた
「...神崎!2人を起こせ!後は任せる!」
「了解!」
それを見ていた裕は机に置いてあった9mm拳銃を掴むと走り出した
家を飛び出し、ダンケ達が走った方向に向けて走る
だが、いかんせん地理が解らない
裕は顔を出している村人達に道を聞きながら走った
「...はぁ...はぁ...この辺りの筈だが...はぁ」
走り回り、ようやく目的地の家に着いたと思ったその瞬間だった
「ぐあああぁっ!!!」
「っ!?」
断末魔が聞こえた
(この裏か!)
そう感じ取った裕は家の柵を越え、裏庭に走った
右手に9mm拳銃、左手にマグライトを構えるとそのままライトのスイッチを入れた
「全員動くな!」
そう叫んだがそれに反応する者はいなかった
だが、明りの中には凄惨な状況が照らし出されていた
「...何てこった...」
−−−血の海、庭一面に飛び散った血だった
家の壁まで飛び散った血の跡を追っていくと、そこには血の主が居た
...いや、正しく言えば血の主『だった』ものの塊だった
この家の住人だったであろう寝巻のまま逃げようとした初老の女性、この家を襲ったであろう剣を持った20代後半程の男、盗賊を討ち果たそうとしたであろう手に斧を握ったままの若い青年...
先程まで呼吸をし、動いていた筈の『それら』は二度と動くことはないだろう
背中に、胸に、腕に、首に、切り傷や刺し傷がまざまざと残り、今尚、鮮血を滴らせていた
中には体の『一部』が欠落したものもいた
「...」
青年の首筋に指を当ててみる、仄かに暖かさを残した体からは最早何の鼓動も感じられなかった
開いたままの目を閉じてやる
いくつかの足跡が村の外に向かって続いていた、恐らく盗賊の物であろう
どうやら生き残った盗賊はもう逃げ去ったようだった
「...ぅ...」
「っ!」
かすかに呻き声が聞こえた、ライトをその方向に向けるとそこには横たわった巨体があった
「ダンケさんっ!」
飛ぶようにして死体を越えるとダンケの横に滑り込んだ
「...おぉ...お前ぇさんか...」
弱弱しくだが、確かにこちらを見た
しかし、その体には死闘の跡がはっきりと見て取れた
体の至る所を切り付けられ、力強さの象徴だった太い腕は片方『なかった』
「しっかりして下さいっ!ダンケさんっ!」
「へへへ...5人は...やっ...たん...ぅ...だが...やられちまったぜ...」
ひゅーひゅーと呼吸する度に嫌な音を立てながら喋るダンケ、そこには最早夕食の時に見た力強さはなかった
「奴ら...20人は...いた...ふっ...金目の物を...ごほっ...全部っ...」
「喋らないで下さいっ!今止血をっ!」
装具は家に置いてきた、救急包帯の代わりに持っていたタオルで止血をしようとすると...血に濡れた手がそれを止めた
「無駄だ...自分の...げほっ...体だ...げほっがはっ!...一番解るのは...俺だ...がぼっ!」
「ダンケさんっ!」
一息に話すと血の塊を吐いた、地面に吸収しきれなかった血が広がっていく
「奴ら...ふっ!...また...村を...今度は...ぐっ!...もっと多勢で...がはぁっ!」
「解ったっ!解りましたからっ!」
もう喋るな、その言葉を言う前に震える手がTシャツの襟を掴み、引き寄せた
「...頼む...家族を...この村を...っ...かはっ!」
「...っ」
最後の力を振り絞った声に、言葉を失った
「...マルカ...愛してる..........」
『ずるっ...どさっ』
頼みを託し、最後の言葉を残した男の手が地面に滑り落ちた
「...ダンケさん...?......ダンケさんっ!」
動かなくなった男の体を裕は揺らした
しかし、動くことを止めた心臓が再び鼓動することはなく、虚空を見つめた瞳にはもう何も映っていなかった...
今、夫であり、父であった男が...息を引き取った...
−−−0200−−−
村の集会所として使われている建物には、深夜にも関わらず多くの人が集まっていた
そして、その中からはいくつもの嗚咽が響いていた
「親父...お袋...うぅ...」
「あなたぁっ!...あぁ...何で...こんな...」
今回、盗賊に殺された者達の家族が亡骸を前に泣いているのだ
被害にあった家は3軒、死者は9名にのぼった
そして、その中にはマルカの姿もあった
「...あんたっ...っ...」
夫の亡骸を前に、マルカは子供達を抱きしめながら声を殺して泣いていた
子供達も母に縋り付き、父親の死を泣いて悲しんでいた
その時、小さな体が出口に向けて走り出した
戸口をくぐってそのまま外に飛び出そうとしていた小さな体は入り口を塞いだ何かにぶつかった
そのまま跳ね返り、床に転がった小さな体−−−エリックは、すぐに体を起こすとキッと見上げた、手には小さな木の棒が握られていた
「...そんな物持って何処行く気だ?」
戸口を塞いだもの−−−裕が口を開いた、着ているTシャツにはダンケの血がはっきりと残っていた
「父ちゃんの仇を討つんだ!どけ!」
涙まじりのの怒声に周りの視線が集中する、マルカと弟達も顔を上げこちらを見る
「...お前には無理だ」
「無理じゃない!」
「無理だっ!」
弾けた怒声にエリックが黙った、周りも静かにシンッとした空気が流れた
「...今のお前じゃ行った所で返り討ちになるだけだ...父ちゃんが命を張って守ったのにそれじゃ救われないだろ?」
「っ!」
切々と語りかけた、今度は届いた
「...でもっ...でもっ!」
「...強くなれ、エリック」
しゃがんで目線の高さを合わせると、そのまま頭に手を置いた
「強くなって、母ちゃんと弟達を守れ...父ちゃんと約束したんだろ?」
そう聞くとくしゃくしゃに泣きながらもしっかりと、力強く頷いた
「それでいい...母ちゃん達を守っててくれ」
再度頷いた少年に優しく微笑んだ
「...あんた...何する気だい?」
振り返った
マルカがジッとこちらを見ていた
「...男の最後の頼みを...果たしてきます」
マルカが目を見開いた
そして、立ち上がるとエリックの頭を撫でた
「エリック...後は任せろ」
体の中で、何かが煮えたぎっている
それが何なのか、それはしっかりと知覚していた
あの人達に、涙を流させた...笑顔を奪った奴らへの...
「ここから先は−−−」
そう、これは−−−
「−−−俺達の仕事だ」
−−−怒りだ
集会所を出ると、そこにはイーシェ達が集まっていた
皆、各々の武器を持ち、完全武装の状態であった
「...八島...行くんだろ?」
「...」
神崎が皆の意見を代表して言った
3人をぐるりと見渡した、皆、決意に満ちた光を目に宿していた
「...皆、俺について来てくれるか?」
「もちろんっ!」
「どこまでもついて行きますっ!」
「ボクもボクも!」
仲間達が、心強かった
こいつらとなら、どんな壁も越えられる気がした...
迷っていたものを全て捨て去ると、叫んだ
「これより状況を開始するっ!遠慮はいらない、全弾奴らにぶち込めっ!」
「「「了解!!!」」」
4人の精鋭の声が村に響いた
彼らの戦いが...始まった
「ぎゃっはははははははっ!」
夜の森に下品な笑いが響いた
声のする方を見ると、大きな焚火が焚かれその周りには50人は下らない数の人間が居た
皆、酒を飲み、焼いた鳥の肉を喰らって上機嫌だ
そう、こいつらこそ、村を襲った最近噂になっている盗賊団だった
そして、一番上等な葡萄酒を奪った純金製の杯で飲んでいるこの下品な笑いの主こそ、盗賊団の頭目、カイテルだった
ダンケにも劣らぬ巨躯の持ち主ですさまじい力の持ち主だった
また、剣技も上手く、元々はとある国の騎士団長だった程の腕前である
しかし、その残忍な性格から戦時捕虜への拷問や虐殺、領内における略奪など、目に余る悪行を行い騎士団長の任を解かれ、国から追放されてしまったのだ
「ぎゃははははははっ!あの目障りな野郎を殺せたのは一番の収穫だったぜ!」
上機嫌に笑いながら一気に酒を飲み干す、どうやらダンケを殺したのはカイテルのようだ
「しかしお頭、今回の襲撃で8人もやられちまいましたぜ」
隣で肉を貪っていた男がカイテルに話しかける、するとカイテルはふん、と鼻を鳴らした
「雑魚が何人死のうが構わねえさ、どうせ代えなんざいくらでも転がってる」
その言葉に対して誰も文句を言わない、言えないのだ
この集団にとってカイテルは絶対の存在
逆らえば殺され、誰かが代わりに入ってくる
それだったら黙って従った美味しい思いをした方がいい
それがこの全員の考えだった
「さて、次は総攻撃を仕掛けて村丸ごと貰おうぜ!若い女を捕まえてよ、溜まっちまってヤりたくてヤりたくて仕方がないぜ!」
「またまた、親方がヤっちまうと女どもが皆壊れちまうんですから」
「俺様は巨根で絶倫だからな!ぎゃはははははははっ!」
下品な笑いと共に杯を呷る、だが空だと解ると不機嫌な顔になり、近くにいた若手に杯を投げつけた
「おいっ!早く酒持って来い!」
「へ、へいっ!」
若い盗賊が慌てて杯を拾うと走り去り、杯を葡萄酒で満たすとすぐ戻って来た
「お頭!どうぞ!」
「おうっ!よこs」
『ビシャッ!』
振り返ったカイテルの顔面に赤い液体がかかる
一瞬何か解らなかった、葡萄酒をかけられたのかと思ったが違う
このヌメッとした肌触りは...
目線を上げると、そこには杯を持った男が立っていた、そう...
−−−額に大きな穴を空けた男が
「な...」
周りがシンッと静かになった
静か過ぎて焚火の薪が爆ぜる音がうるさい程だ
そのまま男はゆっくりと重力に引かれて倒れる
カイテルには、それがとてもゆっくりに...まるでスローモーションでも見るかのように遅く感じた
...そして...
『...ドシャッ!』
男の死体が、地面に倒れる
そして、狂宴は始まった
『タタンッ!タタンッ!』
『ダーンッ!チャコンッ...ダーンッ!』
神崎と桂が藪の中から銃撃を開始した
夜間の射撃だったが、大きく焚かれた焚火の為、視界には困らなかった
「ぐあっ!」
「ぎゃっ!」
放たれた銃弾は的確に心臓や頭部を撃ち抜いていた
「何だ!?どうなってる!?」
「攻撃か!?見張りは何してる!」
見張りは6人いたが、全員集中力散漫でほとんど形だけであった
静かに見張りを『無力化』した裕達は完全に盗賊を包囲していた
こうして敵が混乱しているわずか1分の間に15人程を制圧していた
「慌てるな!火を消せ!」
そう言ってカイテルが立ち上がり叫んだ
『タタンッ!』
「ぐおっ!!!」
だが、その姿もすぐに銃弾の標的となり倒れてしまった
『バシャッ!』
誰かがカイテルの言葉に反応し、焚火に水をかけた
瞬間明るかった森が暗闇に覆われた
明るい所から暗い所に行き、暗闇に目が慣れる事を『暗調応』という
そして、目が暗闇に慣れるまでの時間は平均15分程度だといわれている
盗賊達はこちらも見えないが相手も見えなければ攻撃できない筈、その間に逃げればいいと睨んだのだ
だが、『JGVS−V8単眼式個人用暗視眼鏡』(いわゆる『暗視装置』、通称『NVG』)を装備した裕達にとってそれは一方的な狩りの時間だった
『パララララララッ!』
「ぐぁっ!」
「ぎゃっ!」
9mm機関拳銃を持ったイーシェが盗賊達の間を駆け巡る
ワーウルフの彼女は夜目が効くためNVG無しでも見えるのだ
駆け回りながら大まかな狙いを着けると9mm機関拳銃の引き金を引いた
連射にセットされた9mm機関拳銃から発射された銃弾の雨は盗賊の体を穴だらけにするとスライドを止めた、弾が切れたのだ
「うおおおおおっ!」
その瞬間、後ろから一人の盗賊が剣を抜いて襲ってきた
『ビュンっ!...ごきっ!』
だが、目にも止まらない速さで繰り出されたイーシェの蹴りを顎に喰らうと、首をありえない方向に曲げ、そのまま倒れた
「...ボクに触るな、汚らわしい」
吐き捨てるように言うと空になった弾倉を捨て、弾帯に着いた弾嚢から新しい弾倉を出し、装填した
そして、そのまま暴風のように戦場を駆け回った
「ば、馬鹿な...」
カイテルは信じられなかった、自分が作り上げた盗賊団が壊滅していく
それも今まで見たこともないような攻撃で
両膝を撃ち抜かれ立つこともできずにカイテルは部下達の断末魔を仰臥して聞いているしかなかった
しばらくして、静かになった
終わったのか?と思っていると、足音がした
目を向けると、1人の男がこちらに歩いてくる
いや、1人じゃないこちらに近づくごとに一人、また一人と増えていく
そしてカイテルの目の前に来た時には人数は4人になっていた
「...お前が頭目だな?」
先頭の男が口を開いた
鋭い眼光をこちらに据え、冷たい言葉で話しかけてくる、心臓を鷲掴みにされるような胸苦しさを感じながらカイテルは喚いた
「貴様らよくも!ただでは済まさんぞ!」
懐からナイフを取り出そうとする
『タンッ!』
しかし、男はそれを許してくれなかった
「ぎゃああああああっ!」
男が持っていたものから轟音が響き、手首が吹き飛んだ
「...」
『ザクザクザクザクっ...ガッ!』
「ぐぅっ!」
男はカイテルの横まで来ると、俯せになったカイテルを蹴って仰向けにした
「...」
『ジャキッ!』
そして、カイテルの目の前に持っている物の先端を向ける
「...終わりだ」
「ひっ!」
カイテルには解った、この男は自分を殺そうとしている
「ま、待て!止めろ!金ならやる!全部やる!だから止めろおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
必死に命乞いをした、だが...
「刻め、これがお前が奪った−−−」
スッと体温が下がった
「−−−笑顔の重さだ」
『タンッ!』
−−−0930−−−
『ゴーンッ...ゴーンッ...』
村の教会には人々が集まり、鎮魂の鐘が鳴らされていた
皆、黒い喪服を纏い、大切な家族の、親しかった友人の死を悔やんだ
それを離れて見ている人物がいた
「...」
「...元気出せよ、八島」
「...元気だ」
「元気って顔じゃない」
「...どんな?」
「人相悪い...Σアイタっ!」
神崎にチョップをかましてからまた教会を見た
参列している人々の中に目的の人物を見つける
片手に幼い我が子を抱き、もう片方の手で次男達の手を引くマルカの姿だった
その後ろには、長女の手を引くエリックの姿も見える
その姿には、昨日見た明るさは微塵も無かった
「...」
「...やれる事はやった、違うか?」
「...あぁ...」
「起きちまった事はどうしようもない...この後の事は...あの人達次第だ」
「あぁ...そうだな...」
ここ最近村の近辺を騒がせていた盗賊団は何者かによって首魁であるカイテル以下全員が殺されていたのが村人達によって確認された
仲間割れか別の盗賊団に襲撃されたのかは不明だったが強奪された金品はそのまま残されていたため、誰が何の為にしたのかは不明だった
そして、片付けが一段落した今、被害者達の合同葬儀が執り行われていた
「...」
「...あの家族は大丈夫さ、きっと」
「...あぁ...」
そう言うと来た道を引き返した、恐らく、もう会うこともないだろうと思いながら...
「あ、小隊長!」
高機動車のドアを閉めた桂が帰ってきたこちらに気づいた
「荷物の積み込み完了しました!」
「ご苦労...それじゃ、行くか」
「でも、本当に黙って行っちゃうの?」
パタパタとイーシェが走ってきた
「...あぁ、会えば辛くなりそうだからな...」
「くぅ〜ん...お礼言いたかった...」
「...そうだな...」
元気の無くなったイーシェを励ますように頭を撫でたが、いつものようにうまく撫でれなかった
「......何してるだ神崎?」
「ん?」
いきなり神崎に頭を撫でられた
「お前のマネ」
「......離せ」
「うわ〜可愛くね〜...Σアイタ!?」
もう一度神崎にチョップを入れた...ちなみに、ちょっと頭撫でて貰って気持ちよかったのは秘密だ
「さ、もう...」
「小隊長!」
突然桂が叫んだ
そして裕の後ろを指差す
「...ちょっと待ちな」
「...マルカさん...」
マルカが後ろに居た、子供達も一緒だ
「...勝手に出てく気かい?」
「...すいません」
黙って頭を下げる、それ以外にできることはなさそうだったから
「...これ、持ってきな」
「え?...これって...」
手渡されたのは小さな皮袋だった
中には2、30枚程の銀貨が入っている
「盗賊共の懸賞金さ、うちの村長が懸けてたもんだが、仕留めた相手が解らないからって死んだ自警団の連中に、ってねそれは旦那の分さ」
「そんな、これは」
「いいんだよ、元々はあんたらが貰うべきもんだ」
息を飲んだ
この女傑は知っていたのだ、あれは裕達がやったと
「...貰っておくれ、その方があの人も喜ぶ」
「...ありがとうございます」
裕は袋を大切にポケットにしまった
「...あの、伝えなければいけないことが...」
「ん?」
「...『マルカ愛してる』...それがダンケさんの最後の言葉でした...」
「...そうか...そうかい...っ」
それを聞いた瞬間、マルカは静かに涙を流した
静かに、ほろほろと涙が零れた
「...重ね重ね言わせて貰うよ...本当にありがとう...」
その瞬間、報われた気がした
心にかかっていた靄が綺麗に晴れたようだった
そして、思った...これで良かった、と...
「またここに来たら寄って行きな!うまい飯をだしてやるよ!」
「すいません!ありがとうございます!」
そして、全員高機動車に乗車し、出発の瞬間を迎えた
「...兄ちゃん!」
「ん?」
今まで黙っていたエリックが、突然叫んだ
「僕...いつか!兄ちゃんや父ちゃんみたいな強い男になる!」
「っ!」
ギュっ!と拳を握りしめ、精一杯叫んだその顔には強い決意の色があった
「...あぁ!お前ならなれる!がんばれよ!」
「うんっ!」
元気に頷いたエリックに笑顔を見せ、そのまま出発の合図を出した
微笑みながら見送るマルカが、元気に手を振るエリックが、どんどん離れて行く
それが見えなくなるまで裕も窓から手を振っていた
「...神崎」
「ん?何?」
裕と同じようにイーシェと共に手を振っていた神崎が窓を閉めてからこちらを見る
「お前の言うとおりだったな...」
「は?何が?」
神崎が身を乗り出して聞いてくる
「...あの家族なら...大丈夫だな」
「あぁ...なんてったってあの父ちゃんと母ちゃんだぜ!」
「あぁ、そうだな」
...そう言って裕は空を見上げた
あの家族の未来を示すように、空は雲一つない快晴だった
「...きっと...大丈夫さ...」
to be a continued...
どうも皆さんこんにちは、八島です
え、今何しているかって?
最初の吹出しが無言じゃ解らない?えぇ、確かに、ごもっともな指摘でございます
えっとですね...簡単に申しますと...
「「「...」」」
興奮した村人達に鍬とか鎌とか斧を向けられながら包囲されています
えぇ、かなり興奮してますよ?
50人ぐらいですかね、皆さん今にも襲ってきそうですね...小銃とか持っててもさすがに無理っぽいですね
まさに戦○自衛隊のヤラレ役みたいな感じになってますね、ハイ
さて、何故こうなったかと言いますと...えと...作者っ!パスっ!
...最後までやれよ...こほん、どうも、代わりまして作者です
何故こうなったか、それは少し時間を遡ります...
−−−−30分前−−−
「これをこうして...」
「ん〜と〜...あぁっ!こうするのか!」
「そうそう、それで...」
高機動車の車内、後ろの座席からさっきから何か聞こえてくる
どうやら神崎がイーシェに何か教えているようだ
仲のいい姉妹にも見えて微笑ましい光景に見えなくもない、だが教えていることは非常に物騒である
「...で、弾倉を挿入したらこのスライドをこう引いて...」
「それでこれを動かすんだよね?」
「そうだ、飲み込みが早いぞ」
イーシェの手に握られているのは9mm機関拳銃(「拳」は常用漢字ではないため正しくは「9mm機関けん銃」となる)、自衛隊で採用されている短機関銃(拳銃弾を使用する小型の機関銃)である
銃床のない、大型拳銃程の大きさしかないコンパクトさが長所であるがそれ故に毎分約1200発という高い発射速度と相成って非常にコントロールの難しい代物である
その為、使い方も狙いを点けて点射するのではなく、目標に向かって弾をばら撒くという使い方をするのだ
高機動車とともに送られてきた物だが神崎が面白がって使い方を教えているのだ
実際、彼女の機動性に9mm機関拳銃の掃射能力を付与したら心強いだろうから誰も止めはしない
もっとも止める人物がいないというのも一因であるが...
残りの2人、桂は高機動車の運転をしているので仕方がない、そして裕はと言うと...
「...zzz...zzz...」
助手席に収まり、鉄帽を抱えて寝息を立てていた
一昨日に引き続き昨日も搾り取られた裕はかなり疲れていたのだ
余程疲れていたのか後ろでイーシェ達がワイワイ騒いでいるのだが一向に起きる気配はない
イーシェ達も原因は自分達である為か誰も起こそうとしなかった
「お、村が見えて来たんじゃないか?」
「あ!あれあれ!あれだよ!」
「ですね...小隊長、起きてください...小隊長?」
「んが?」
走り続けて20分、ようやく村が見えたのだ
「ふあぁ...ふぅ...何?」
欠伸をしてから鉄帽を被ると前に目を向けた
「村が見えました、もうすぐ到着します」
「うん、見えた...ようやく野宿から解放されるな...」
「宿屋あるかな?」
「解らん、イーシェ?」
「ボクも来たことないから解らないな...」
「じゃあ何であの村知ってんだ?」
「あの村に知り合いがいるんだ、たまに森まで狩りに来て知り合ったんだ」
「むぅ...ま、最悪飯だけでも食おう、こいつがあるから野宿よかまだましになったしな」
そう言うとポンと高機動車のシートを叩いた
と、その時、村の入り口にいた子供達がこちらを見た
何をする訳でもなく、ジッとこちらを見ている
何だろう?と見ていると突然走り出した
そのまま村の中心に走って行ってしまった
「...神崎、今の見た?」
「見た」
「...何だと思う?」
「解らん」
「だよね...」
そのまま村の入り口まで来た
「...誰もいない?」
「...いないね」
「...いないな」
「...いませんね」
誰もいない
人はおろか猫1匹見当たらない
「...さっきは居たよな?」
「うん、ボクも見た!」
「......全員ここに居ろ」
「小隊長?」
「俺が見てくる、お前らはここで援護しろ」
「指揮官が出てくのはあんまり感心しないけどね...」
そう言いつつも神崎は小銃のスライドを引き初弾を装填すると後部席から降りた
裕も同じように初弾を装填するとドアを開けた
話し声すら聞こえない、風の音だけが聞こえる
「...ここまで静かだと気味が悪いな...」
「...気をつけろよ...さっきから見られてる」
「あぁ、俺も感じてる」
通りには誰もいない、先程まで営業していたであろう露店は無人のまま放置されていた
しかし、先程から無数の視線が裕達を捉えていた
「...偵察してくる、カバー頼むぜ」
「了解」
ゆっくりと、村の中心部に向けて歩き出す
この村はどうやら大通りを中心に村が広がっているようだ、その為一直線に伸びた大通りを歩いている、後ろからも神崎達がカバーしてくれているので安心できた
「...」
《八島、どんな様子だ?》
インカムに無線を通した神崎の声が伝わる
「静かだ、誰もいない...だが、間違いなく見られてる...多分、家の中だ」
《もしかして盗賊か何かと思われてるんじゃないか?》
「まさか...」
『バンッ!』
その瞬間だった
通りに面した家々から人が飛び出してくる
そして、ぐるりと裕を取り囲んでしまった
50人はいるだろうか...各々手には鍬や斧を持っている、更に何人かハーピーやラミアなどの魔物娘も見える
皆殺気剥き出しでこちらを威嚇してくる
《八島っ!》
無線から緊迫した神崎の声が弾けた
恐らく神崎達が周りにいる村人達に狙いを着けている筈だ
「...待機だ...絶対撃つな...」
それを伝えるとそのまま両手を上げて闘う意思が無いことを伝える
「...落ち着け...こちらに闘うつもりは無い...ただ宿を探してるだけだ」
「嘘つくんじゃねぇ!」
一団から怒鳴り声が響いた
そちらを見ると年の頃30半ばといった大きな体の男性だった
どうやらこの男性が一団の代表のようだ
「怪しい奴め!てめぇが最近この辺りを荒らし回ってる盗賊なんだろ!」
...神崎さん、どうやらあなたの推理は当たっていたようです
「嘘じゃない、ただの旅の者だ」
「そう言って騙す気だろ!」
「違う!本当だ!」
このまま押し問答が続くかと思われた、だが予想外の人物がこの事態を解決した
「待ってーっ!」
「ん?」
「え?」
全員の視線が声の方向に向けられる、視線の先に居たのは...
「イーシェっ!?」
「待ってーっ!」
高機動車から走ってくるイーシェだった
「あっ!イーシェだ!」
すると、一団の中に居たハーピーの少女が反応した、どうやらイーシェの知り合いというのはこの少女のようだ
「ピッピ久しぶり!」
「うん!イーシェも!...どうしたの?その服?珍しい柄だね?」
「これ?ご主人様から貰ったの♪」
「ご主人様?」
「うん♪あの人♪」
裕を指差すイーシェ、そのまま視線が集中する裕
何か恥ずいな...
「ピッピ、知り合いか?」
「うん!東の森に住んでるワーウルフのイーシェだよ!よく話してるんだ♪」
「何だ、ピッピの知り合いならそう言ってくれよ」
一斉に手に持つ耕具を下ろす、どうやら誤解は解けたようだ
「...イーシェ、良くやった」
「?えへへ〜♪褒めて褒めて♪」
わらわらと村民達が引き上げて行く中、頭を撫でてやると嬉しそうに尻尾を振っていた
「すまなかったな、兄ちゃん」
突然話しかけられた
振り向くと先程の大男が立っていた、そこには先程の鬼のような形相はなく、申し訳なさそうな顔が代わりにあった
「妙ななりした奴らが来たって子供たちが言うからよ、てっきり盗賊がこの村を襲いに来たと思ってな」
「いえ、誤解も解けましたし気にしてません」
「そう言って貰えるとありがたいよ...宿を探してるんだよな、予算はどれくらいだ?」
「.........Σあっ!」
そう、大事な事に気づいた...この世界のお金持ってません
「...しまったな〜...」
「...もしかして、金無いのか?」
「...実は...」
「なら俺ん家に来な、飯も食わしてやるよ」
「Σいいんですか!?」
「あぁ、間違えちまった礼だ気にしなくていいぜ」
「...」バッ
後ろを振り返ります
「「」」ビシッ
ビッと親指を突き立てる神崎、桂両名
「お願いしますっ!」
「おう!任せろ!」
ズバッと自衛隊で鍛えた礼でお願いしました
「え〜!じゃあ旦那さん見つけたんだ〜!」
「うん!凄く優しいんだ〜♥」
そんな中、イーシェとピッピは会話を続けていた...
−−−2000−−−
「ご馳走様でしたっ!」
「はい、お粗末様」
イーシェの声に恰幅のいい女性が笑顔で応える、この人がダンケ(ダンケというのは先程の大男の人)の奥さんのマルカ、切符のいい女将さんて感じだ
「すいません、無理を言ってしまって」
「いいよいいよ、うちの旦那が迷惑かけたらしいからね、それに、うちの子供達も喜んでるしね」
ダンケの家は子沢山だ、裕の膝の上に乗って寝ている次女を含めたら4人もいるらしい(男2の女2らしい、生まれた順は男>男>女>女)
怖がられるかと思ったがキャッキャと懐いてきているので内心ホッとしている、イーシェなんかは早速次男と長女と遊んでいる
「...裕との家庭生活...悪くないかも...ふふっ♥」
「...子供は2人...男の子と女の子...はう〜♥」
神崎と桂は何か知らんが違う世界に行っていた
「それにしても、お前ぇさんら珍しい恰好してるが、傭兵か何かか?」
ダンケが葡萄酒を飲みながら話しかけてきた
その応えに裕は少し困ってしまった
違う世界から来た軍人です...これが正しい答えだが、信じて貰えるか?...多分NOだろう、自分でも信じられないもんな...
「まぁ...そんなところです」
と、いうことで話を合わせておいた
「そんならよう、盗賊退治してくれねぇか?」
「盗賊?...って、俺が間違われた...あの?」
「おう、そうよ」
杯の葡萄酒を半分ほど一気に飲み干すとダンッとテーブルに置いた
「このあたりの村や街道を通る商人なんかが襲われてんのよ、中には殺された挙句身ぐるみ剥がされた奴までいる」
やり切れない、といった表情を浮かべながらパイプを咥えた
どうやら相当数の被害が出ているようだ
「おかげでこの村は商人が来なくなっちまってよ、今にも干上がりそうなんだよ」
「たしかにそれは...」
「だからよう、あんたら腕も立ちそうだしここは引き受けてくれねぇか?」
返答に困った
確かに泊めて貰う上にご飯まで頂いた恩もあるし、困っているこの村の人達を助けたいと思う、だが...
「...すいません、我々も任務がありまして...明日にはこの村を出ないと...」
「...そうか...それじゃあ、仕方ねぇか」
一瞬見せたがっかりする表情に胸が痛んだ、だからすぐに話を変えることにした
「それにしても、この村はあまり被害が無いように見えませんが?」
「おう!それはな」
「父ちゃんが守ってるからだ!」
突然の声に思わずびっくりしてしまった
声の主はひょこっとテーブルの下から顔を現した
「おうよ!エリックの言う通りよ!」
ダンケはそう言うと機嫌良さそうに現れた長男...エリックを肩に担いだ
「父ちゃんはこの村の自警団の団長なんだ!すごく強いんだ!」
「そうだ!樵歴15年の俺様だ!盗賊如きは俺様の斧で切り捨ててやる!」
そう言って大笑いする親子を見て、微笑ましく思った...胸の痛みを感じながら
−−−2300−−−
村が寝静まった頃...
「...ふぅ...」
イーシェと桂の寝息が響く中、宛がわれた2階の客間の窓から裕は紫煙を吐き出した
「...眠れないのか?」
後ろから声をかけられた、振り向くとTシャツ姿の神崎が立っていた
「...お前こそ寝ないのか?」
「俺が聞いてるんだけど?」
流したつもりだったが長い付き合いの同期は流させてくれないようだ
そのまま裕の隣に来ると裕の煙草を1本抜き、加えて火を点けた
「...迷ってるのか?盗賊退治の件」
「...さすが同期だな...」
「地味に長い付き合いだからな」
そう、悩んでいた
先に述べたように、盗賊退治を受けてあげたい気持ちはある、だが...
「...守る為にしか戦わない、それが自衛隊の...俺達の守るべき一線だと俺は思ってる」
「...あぁ...」
『専守防衛』
守りに徹し、攻めることを放棄する、それが自衛隊の鉄則だった
最近になって少しずつ変化の兆しは見えてきているが、根本であるそれは未だに変わっていない、自国を守る為の存在、それが自衛隊だった
盗賊退治、それは果たして守る為の戦いなのか...いや、そもそも違う世界の存在に対してそれが適用されるのか?
そして、何より大きな要因は...
「...それに俺は...人を殺したことが無い...」
そう、1950年、警察予備隊の設立からこの方、自衛隊は海外派遣などを経験しているが、誰かと戦ったこと...人を殺したことがないのだ
たしかに、自衛隊では戦う為の訓練はしている
しかし、訓練はあくまで訓練であり、実戦と訓練には確固たる壁が存在していた
「...俺は...人を殺すのが怖い...」
「...あぁ、解ってる...俺もだ...それに、桂もな...」
ふっ、と紫煙を吐き出す神崎、横から見ても絵になるなと思ってしまった
「...だがな...裕、俺は思うぞ...」
「ん?」
「...惚れた相手と一緒なら怖くない、ってな」
「...」
神崎の優しさが嬉しかった
「...今まで女ポイ捨てしてきた野郎の言葉とは思えんな...」
「今は野郎じゃないもん♪」
「...もん♪、とか止めろ...気持ち悪い」
「その気持ち悪いのに散々出したのは誰だよ♪」
「...」
「何なら今晩も...」
「殴るぞ」
「暴力はんたーいっ!」
軽口を叩き合う、そして顔を見合わせるとお互い思わず吹き出してしまった
本当にこいつがいてくれて良かった...口に出さないが本当に感謝していた
「...さ、そろそろ寝ようぜ」
「あぁ、そうだな...」
「きゃああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
女性の悲鳴が村に響き渡った
離れようとした窓から再度顔を出した
「何だ!?」
「解らん!」
神崎と共に周りを見渡すが異常は見られない、他の家も悲鳴に驚いて家から飛び出してくる
「盗賊だぁっ!!!」
若い男が叫びながら走ってきたのはその時だった
『バンッ!』
下の方から派手な音がした、そちらに視線を向けると斧を持った大きな体が見えた
それがダンケだと理解するのに時間はかからなかった
「トッシュ!何があった!?」
「ダンケの親方!大変だ!家がやられた!親父とお袋がっ!」
男は怪我をしたのか片腕を抑え震えながら話した
「来やがったなクソ共め!」
そう叫ぶとそのまま走り出そうとした
「父ちゃん!」
すると今度は家から小さな影が走り出てきた、エリックだ、手には木の棒を持っている
「僕も行く!」
「お前は家に居ろ!」
「でもっ!」
食い下がるエリックにダンケはしゃがむとこう言った
「母ちゃんや弟達を守ってやれ、お前ぇは兄ちゃんだろ?」
「...!」
優しい声音だった、そしてエリックが頷くのを確認すると頭を撫でそのまま立ち上がった
「親方っ!」
「行くぞ野郎共っ!」
「おおっ!」
体格のいい男を3人程連れて走り出した、その背中をエリック君はジッと見つめていた
「...神崎!2人を起こせ!後は任せる!」
「了解!」
それを見ていた裕は机に置いてあった9mm拳銃を掴むと走り出した
家を飛び出し、ダンケ達が走った方向に向けて走る
だが、いかんせん地理が解らない
裕は顔を出している村人達に道を聞きながら走った
「...はぁ...はぁ...この辺りの筈だが...はぁ」
走り回り、ようやく目的地の家に着いたと思ったその瞬間だった
「ぐあああぁっ!!!」
「っ!?」
断末魔が聞こえた
(この裏か!)
そう感じ取った裕は家の柵を越え、裏庭に走った
右手に9mm拳銃、左手にマグライトを構えるとそのままライトのスイッチを入れた
「全員動くな!」
そう叫んだがそれに反応する者はいなかった
だが、明りの中には凄惨な状況が照らし出されていた
「...何てこった...」
−−−血の海、庭一面に飛び散った血だった
家の壁まで飛び散った血の跡を追っていくと、そこには血の主が居た
...いや、正しく言えば血の主『だった』ものの塊だった
この家の住人だったであろう寝巻のまま逃げようとした初老の女性、この家を襲ったであろう剣を持った20代後半程の男、盗賊を討ち果たそうとしたであろう手に斧を握ったままの若い青年...
先程まで呼吸をし、動いていた筈の『それら』は二度と動くことはないだろう
背中に、胸に、腕に、首に、切り傷や刺し傷がまざまざと残り、今尚、鮮血を滴らせていた
中には体の『一部』が欠落したものもいた
「...」
青年の首筋に指を当ててみる、仄かに暖かさを残した体からは最早何の鼓動も感じられなかった
開いたままの目を閉じてやる
いくつかの足跡が村の外に向かって続いていた、恐らく盗賊の物であろう
どうやら生き残った盗賊はもう逃げ去ったようだった
「...ぅ...」
「っ!」
かすかに呻き声が聞こえた、ライトをその方向に向けるとそこには横たわった巨体があった
「ダンケさんっ!」
飛ぶようにして死体を越えるとダンケの横に滑り込んだ
「...おぉ...お前ぇさんか...」
弱弱しくだが、確かにこちらを見た
しかし、その体には死闘の跡がはっきりと見て取れた
体の至る所を切り付けられ、力強さの象徴だった太い腕は片方『なかった』
「しっかりして下さいっ!ダンケさんっ!」
「へへへ...5人は...やっ...たん...ぅ...だが...やられちまったぜ...」
ひゅーひゅーと呼吸する度に嫌な音を立てながら喋るダンケ、そこには最早夕食の時に見た力強さはなかった
「奴ら...20人は...いた...ふっ...金目の物を...ごほっ...全部っ...」
「喋らないで下さいっ!今止血をっ!」
装具は家に置いてきた、救急包帯の代わりに持っていたタオルで止血をしようとすると...血に濡れた手がそれを止めた
「無駄だ...自分の...げほっ...体だ...げほっがはっ!...一番解るのは...俺だ...がぼっ!」
「ダンケさんっ!」
一息に話すと血の塊を吐いた、地面に吸収しきれなかった血が広がっていく
「奴ら...ふっ!...また...村を...今度は...ぐっ!...もっと多勢で...がはぁっ!」
「解ったっ!解りましたからっ!」
もう喋るな、その言葉を言う前に震える手がTシャツの襟を掴み、引き寄せた
「...頼む...家族を...この村を...っ...かはっ!」
「...っ」
最後の力を振り絞った声に、言葉を失った
「...マルカ...愛してる..........」
『ずるっ...どさっ』
頼みを託し、最後の言葉を残した男の手が地面に滑り落ちた
「...ダンケさん...?......ダンケさんっ!」
動かなくなった男の体を裕は揺らした
しかし、動くことを止めた心臓が再び鼓動することはなく、虚空を見つめた瞳にはもう何も映っていなかった...
今、夫であり、父であった男が...息を引き取った...
−−−0200−−−
村の集会所として使われている建物には、深夜にも関わらず多くの人が集まっていた
そして、その中からはいくつもの嗚咽が響いていた
「親父...お袋...うぅ...」
「あなたぁっ!...あぁ...何で...こんな...」
今回、盗賊に殺された者達の家族が亡骸を前に泣いているのだ
被害にあった家は3軒、死者は9名にのぼった
そして、その中にはマルカの姿もあった
「...あんたっ...っ...」
夫の亡骸を前に、マルカは子供達を抱きしめながら声を殺して泣いていた
子供達も母に縋り付き、父親の死を泣いて悲しんでいた
その時、小さな体が出口に向けて走り出した
戸口をくぐってそのまま外に飛び出そうとしていた小さな体は入り口を塞いだ何かにぶつかった
そのまま跳ね返り、床に転がった小さな体−−−エリックは、すぐに体を起こすとキッと見上げた、手には小さな木の棒が握られていた
「...そんな物持って何処行く気だ?」
戸口を塞いだもの−−−裕が口を開いた、着ているTシャツにはダンケの血がはっきりと残っていた
「父ちゃんの仇を討つんだ!どけ!」
涙まじりのの怒声に周りの視線が集中する、マルカと弟達も顔を上げこちらを見る
「...お前には無理だ」
「無理じゃない!」
「無理だっ!」
弾けた怒声にエリックが黙った、周りも静かにシンッとした空気が流れた
「...今のお前じゃ行った所で返り討ちになるだけだ...父ちゃんが命を張って守ったのにそれじゃ救われないだろ?」
「っ!」
切々と語りかけた、今度は届いた
「...でもっ...でもっ!」
「...強くなれ、エリック」
しゃがんで目線の高さを合わせると、そのまま頭に手を置いた
「強くなって、母ちゃんと弟達を守れ...父ちゃんと約束したんだろ?」
そう聞くとくしゃくしゃに泣きながらもしっかりと、力強く頷いた
「それでいい...母ちゃん達を守っててくれ」
再度頷いた少年に優しく微笑んだ
「...あんた...何する気だい?」
振り返った
マルカがジッとこちらを見ていた
「...男の最後の頼みを...果たしてきます」
マルカが目を見開いた
そして、立ち上がるとエリックの頭を撫でた
「エリック...後は任せろ」
体の中で、何かが煮えたぎっている
それが何なのか、それはしっかりと知覚していた
あの人達に、涙を流させた...笑顔を奪った奴らへの...
「ここから先は−−−」
そう、これは−−−
「−−−俺達の仕事だ」
−−−怒りだ
集会所を出ると、そこにはイーシェ達が集まっていた
皆、各々の武器を持ち、完全武装の状態であった
「...八島...行くんだろ?」
「...」
神崎が皆の意見を代表して言った
3人をぐるりと見渡した、皆、決意に満ちた光を目に宿していた
「...皆、俺について来てくれるか?」
「もちろんっ!」
「どこまでもついて行きますっ!」
「ボクもボクも!」
仲間達が、心強かった
こいつらとなら、どんな壁も越えられる気がした...
迷っていたものを全て捨て去ると、叫んだ
「これより状況を開始するっ!遠慮はいらない、全弾奴らにぶち込めっ!」
「「「了解!!!」」」
4人の精鋭の声が村に響いた
彼らの戦いが...始まった
「ぎゃっはははははははっ!」
夜の森に下品な笑いが響いた
声のする方を見ると、大きな焚火が焚かれその周りには50人は下らない数の人間が居た
皆、酒を飲み、焼いた鳥の肉を喰らって上機嫌だ
そう、こいつらこそ、村を襲った最近噂になっている盗賊団だった
そして、一番上等な葡萄酒を奪った純金製の杯で飲んでいるこの下品な笑いの主こそ、盗賊団の頭目、カイテルだった
ダンケにも劣らぬ巨躯の持ち主ですさまじい力の持ち主だった
また、剣技も上手く、元々はとある国の騎士団長だった程の腕前である
しかし、その残忍な性格から戦時捕虜への拷問や虐殺、領内における略奪など、目に余る悪行を行い騎士団長の任を解かれ、国から追放されてしまったのだ
「ぎゃははははははっ!あの目障りな野郎を殺せたのは一番の収穫だったぜ!」
上機嫌に笑いながら一気に酒を飲み干す、どうやらダンケを殺したのはカイテルのようだ
「しかしお頭、今回の襲撃で8人もやられちまいましたぜ」
隣で肉を貪っていた男がカイテルに話しかける、するとカイテルはふん、と鼻を鳴らした
「雑魚が何人死のうが構わねえさ、どうせ代えなんざいくらでも転がってる」
その言葉に対して誰も文句を言わない、言えないのだ
この集団にとってカイテルは絶対の存在
逆らえば殺され、誰かが代わりに入ってくる
それだったら黙って従った美味しい思いをした方がいい
それがこの全員の考えだった
「さて、次は総攻撃を仕掛けて村丸ごと貰おうぜ!若い女を捕まえてよ、溜まっちまってヤりたくてヤりたくて仕方がないぜ!」
「またまた、親方がヤっちまうと女どもが皆壊れちまうんですから」
「俺様は巨根で絶倫だからな!ぎゃはははははははっ!」
下品な笑いと共に杯を呷る、だが空だと解ると不機嫌な顔になり、近くにいた若手に杯を投げつけた
「おいっ!早く酒持って来い!」
「へ、へいっ!」
若い盗賊が慌てて杯を拾うと走り去り、杯を葡萄酒で満たすとすぐ戻って来た
「お頭!どうぞ!」
「おうっ!よこs」
『ビシャッ!』
振り返ったカイテルの顔面に赤い液体がかかる
一瞬何か解らなかった、葡萄酒をかけられたのかと思ったが違う
このヌメッとした肌触りは...
目線を上げると、そこには杯を持った男が立っていた、そう...
−−−額に大きな穴を空けた男が
「な...」
周りがシンッと静かになった
静か過ぎて焚火の薪が爆ぜる音がうるさい程だ
そのまま男はゆっくりと重力に引かれて倒れる
カイテルには、それがとてもゆっくりに...まるでスローモーションでも見るかのように遅く感じた
...そして...
『...ドシャッ!』
男の死体が、地面に倒れる
そして、狂宴は始まった
『タタンッ!タタンッ!』
『ダーンッ!チャコンッ...ダーンッ!』
神崎と桂が藪の中から銃撃を開始した
夜間の射撃だったが、大きく焚かれた焚火の為、視界には困らなかった
「ぐあっ!」
「ぎゃっ!」
放たれた銃弾は的確に心臓や頭部を撃ち抜いていた
「何だ!?どうなってる!?」
「攻撃か!?見張りは何してる!」
見張りは6人いたが、全員集中力散漫でほとんど形だけであった
静かに見張りを『無力化』した裕達は完全に盗賊を包囲していた
こうして敵が混乱しているわずか1分の間に15人程を制圧していた
「慌てるな!火を消せ!」
そう言ってカイテルが立ち上がり叫んだ
『タタンッ!』
「ぐおっ!!!」
だが、その姿もすぐに銃弾の標的となり倒れてしまった
『バシャッ!』
誰かがカイテルの言葉に反応し、焚火に水をかけた
瞬間明るかった森が暗闇に覆われた
明るい所から暗い所に行き、暗闇に目が慣れる事を『暗調応』という
そして、目が暗闇に慣れるまでの時間は平均15分程度だといわれている
盗賊達はこちらも見えないが相手も見えなければ攻撃できない筈、その間に逃げればいいと睨んだのだ
だが、『JGVS−V8単眼式個人用暗視眼鏡』(いわゆる『暗視装置』、通称『NVG』)を装備した裕達にとってそれは一方的な狩りの時間だった
『パララララララッ!』
「ぐぁっ!」
「ぎゃっ!」
9mm機関拳銃を持ったイーシェが盗賊達の間を駆け巡る
ワーウルフの彼女は夜目が効くためNVG無しでも見えるのだ
駆け回りながら大まかな狙いを着けると9mm機関拳銃の引き金を引いた
連射にセットされた9mm機関拳銃から発射された銃弾の雨は盗賊の体を穴だらけにするとスライドを止めた、弾が切れたのだ
「うおおおおおっ!」
その瞬間、後ろから一人の盗賊が剣を抜いて襲ってきた
『ビュンっ!...ごきっ!』
だが、目にも止まらない速さで繰り出されたイーシェの蹴りを顎に喰らうと、首をありえない方向に曲げ、そのまま倒れた
「...ボクに触るな、汚らわしい」
吐き捨てるように言うと空になった弾倉を捨て、弾帯に着いた弾嚢から新しい弾倉を出し、装填した
そして、そのまま暴風のように戦場を駆け回った
「ば、馬鹿な...」
カイテルは信じられなかった、自分が作り上げた盗賊団が壊滅していく
それも今まで見たこともないような攻撃で
両膝を撃ち抜かれ立つこともできずにカイテルは部下達の断末魔を仰臥して聞いているしかなかった
しばらくして、静かになった
終わったのか?と思っていると、足音がした
目を向けると、1人の男がこちらに歩いてくる
いや、1人じゃないこちらに近づくごとに一人、また一人と増えていく
そしてカイテルの目の前に来た時には人数は4人になっていた
「...お前が頭目だな?」
先頭の男が口を開いた
鋭い眼光をこちらに据え、冷たい言葉で話しかけてくる、心臓を鷲掴みにされるような胸苦しさを感じながらカイテルは喚いた
「貴様らよくも!ただでは済まさんぞ!」
懐からナイフを取り出そうとする
『タンッ!』
しかし、男はそれを許してくれなかった
「ぎゃああああああっ!」
男が持っていたものから轟音が響き、手首が吹き飛んだ
「...」
『ザクザクザクザクっ...ガッ!』
「ぐぅっ!」
男はカイテルの横まで来ると、俯せになったカイテルを蹴って仰向けにした
「...」
『ジャキッ!』
そして、カイテルの目の前に持っている物の先端を向ける
「...終わりだ」
「ひっ!」
カイテルには解った、この男は自分を殺そうとしている
「ま、待て!止めろ!金ならやる!全部やる!だから止めろおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
必死に命乞いをした、だが...
「刻め、これがお前が奪った−−−」
スッと体温が下がった
「−−−笑顔の重さだ」
『タンッ!』
−−−0930−−−
『ゴーンッ...ゴーンッ...』
村の教会には人々が集まり、鎮魂の鐘が鳴らされていた
皆、黒い喪服を纏い、大切な家族の、親しかった友人の死を悔やんだ
それを離れて見ている人物がいた
「...」
「...元気出せよ、八島」
「...元気だ」
「元気って顔じゃない」
「...どんな?」
「人相悪い...Σアイタっ!」
神崎にチョップをかましてからまた教会を見た
参列している人々の中に目的の人物を見つける
片手に幼い我が子を抱き、もう片方の手で次男達の手を引くマルカの姿だった
その後ろには、長女の手を引くエリックの姿も見える
その姿には、昨日見た明るさは微塵も無かった
「...」
「...やれる事はやった、違うか?」
「...あぁ...」
「起きちまった事はどうしようもない...この後の事は...あの人達次第だ」
「あぁ...そうだな...」
ここ最近村の近辺を騒がせていた盗賊団は何者かによって首魁であるカイテル以下全員が殺されていたのが村人達によって確認された
仲間割れか別の盗賊団に襲撃されたのかは不明だったが強奪された金品はそのまま残されていたため、誰が何の為にしたのかは不明だった
そして、片付けが一段落した今、被害者達の合同葬儀が執り行われていた
「...」
「...あの家族は大丈夫さ、きっと」
「...あぁ...」
そう言うと来た道を引き返した、恐らく、もう会うこともないだろうと思いながら...
「あ、小隊長!」
高機動車のドアを閉めた桂が帰ってきたこちらに気づいた
「荷物の積み込み完了しました!」
「ご苦労...それじゃ、行くか」
「でも、本当に黙って行っちゃうの?」
パタパタとイーシェが走ってきた
「...あぁ、会えば辛くなりそうだからな...」
「くぅ〜ん...お礼言いたかった...」
「...そうだな...」
元気の無くなったイーシェを励ますように頭を撫でたが、いつものようにうまく撫でれなかった
「......何してるだ神崎?」
「ん?」
いきなり神崎に頭を撫でられた
「お前のマネ」
「......離せ」
「うわ〜可愛くね〜...Σアイタ!?」
もう一度神崎にチョップを入れた...ちなみに、ちょっと頭撫でて貰って気持ちよかったのは秘密だ
「さ、もう...」
「小隊長!」
突然桂が叫んだ
そして裕の後ろを指差す
「...ちょっと待ちな」
「...マルカさん...」
マルカが後ろに居た、子供達も一緒だ
「...勝手に出てく気かい?」
「...すいません」
黙って頭を下げる、それ以外にできることはなさそうだったから
「...これ、持ってきな」
「え?...これって...」
手渡されたのは小さな皮袋だった
中には2、30枚程の銀貨が入っている
「盗賊共の懸賞金さ、うちの村長が懸けてたもんだが、仕留めた相手が解らないからって死んだ自警団の連中に、ってねそれは旦那の分さ」
「そんな、これは」
「いいんだよ、元々はあんたらが貰うべきもんだ」
息を飲んだ
この女傑は知っていたのだ、あれは裕達がやったと
「...貰っておくれ、その方があの人も喜ぶ」
「...ありがとうございます」
裕は袋を大切にポケットにしまった
「...あの、伝えなければいけないことが...」
「ん?」
「...『マルカ愛してる』...それがダンケさんの最後の言葉でした...」
「...そうか...そうかい...っ」
それを聞いた瞬間、マルカは静かに涙を流した
静かに、ほろほろと涙が零れた
「...重ね重ね言わせて貰うよ...本当にありがとう...」
その瞬間、報われた気がした
心にかかっていた靄が綺麗に晴れたようだった
そして、思った...これで良かった、と...
「またここに来たら寄って行きな!うまい飯をだしてやるよ!」
「すいません!ありがとうございます!」
そして、全員高機動車に乗車し、出発の瞬間を迎えた
「...兄ちゃん!」
「ん?」
今まで黙っていたエリックが、突然叫んだ
「僕...いつか!兄ちゃんや父ちゃんみたいな強い男になる!」
「っ!」
ギュっ!と拳を握りしめ、精一杯叫んだその顔には強い決意の色があった
「...あぁ!お前ならなれる!がんばれよ!」
「うんっ!」
元気に頷いたエリックに笑顔を見せ、そのまま出発の合図を出した
微笑みながら見送るマルカが、元気に手を振るエリックが、どんどん離れて行く
それが見えなくなるまで裕も窓から手を振っていた
「...神崎」
「ん?何?」
裕と同じようにイーシェと共に手を振っていた神崎が窓を閉めてからこちらを見る
「お前の言うとおりだったな...」
「は?何が?」
神崎が身を乗り出して聞いてくる
「...あの家族なら...大丈夫だな」
「あぁ...なんてったってあの父ちゃんと母ちゃんだぜ!」
「あぁ、そうだな」
...そう言って裕は空を見上げた
あの家族の未来を示すように、空は雲一つない快晴だった
「...きっと...大丈夫さ...」
to be a continued...
13/12/27 06:37更新 / chababa
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