Phase2 -仲間-
『ブオッ!!!!』
ワーウルフが繰り出した爪が空を切りながら裕に向かってくる
それを左手で弾きながらナイフを彼女の腕---腱や血管のある手首を狙って振るう
それを彼女は弾かれた方向に飛んで避ける
そして間合いを取って睨み合い、タイミングを計ってワーウルフが襲ってくるとそれに応じる...
一体何回繰り返したかも判らないくらい同じことを続けている
二人が闘い始めて既に10分、決着は一向につかずにいた
「はぁ...はぁ...」
荒い息を整えながら、息一つ切らさず隙を覗う少女に裕は信じられない気持ちで一杯だった
子供の頃から続けてきた空手、入隊してから骨身に染み込ませた格闘術、それを目の前の少女はいとも簡単にかわし、それどころか隙あらばと的確に急所を狙って攻撃してくる
自らの姿を見れば迷彩服の至る所が掠めた鋭い爪によって切れており、防弾素材で編み込んだ防弾ベストにすら切れ目ができている
さすがに防弾プレート(防弾ベスト自体は砲弾の破片や拳銃弾程度の防弾機能しか無く、中にセラミック製の防弾プレートを挿入することでライフル弾を防ぐことができる(ただし重さは10kg近くになる))は貫通しないようだが避け損なったらかなり危険だ
対して目の前のワーウルフは掠り傷一つ無い
演習での疲れや、防弾ベストの重みで動きが鈍っているとはいえ一撃も当たらない、裕は少しずつ追い詰められていた
しかし、ワーウルフもまた焦っていた
目の前にいる獲物が予想以上にしぶとく手強い、隙を覗いつつも攻めあぐねいていた
(...体力が限界に近い...何とかしないと...)
長く続く闘いに裕の疲労はピークに達していた
恐らく、次の攻防で全てが決まる、しかし自分は圧倒的に不利だ
逆転する方法は何か無いか...睨み合いながら必死に打開策を模索する
(...小銃はあの子の後ろ...拳銃には弾は入ってない...何か...!)
---あった、まだ出していない『武器』が
「ガアアアァァァァァッ!!!」
裕が閃いたのとワーウルフが飛び出したのはほぼ同時だった
---やるしかない、そしてチャンスは1度きり---
ナイフの振りにくい左側を狙って爪を剥き出しにした右手が来る、それを裕は...
『ガキィィィィィン!』
---受け止めた、出していなかった『武器』...『刃の無い銃剣』で
「!?」
弾かれるのではなく、止められることは考え無かったであろう少女は慌てて退がろうとする、と、その瞬間彼女の動きが鈍った
その一瞬の隙を裕は見逃さなかった
銃剣を捨て、左手で彼女の右手首を掴む、右足で足を払い、体制を崩したところでナイフを握ったままの右手で胸元を重心をかけて地面に向けて力の限り押す
『ドンッ!』
鈍い音と共に倒れた彼女に馬乗りになり、右手を抑えながらナイフを首元に当てる
「はぁ...はぁ...はぁ...」
(...勝った...)
荒く息を吐きながら頭のガッツポーズを決めた
自衛隊の『首返し』と呼ばれる技の応用だったがうまくいった
普段は固くて鞘から抜けにくい銃剣が素早く抜けたことも助かった
目の前で押し倒された少女は信じられないという風に目を見開いてこちらを見上げていた
「はぁ...はぁ...動くな...お前の負けだ...」
言葉が通じるか判らなかったが、この状態からなら何を言われたかは判る筈だった
「っ!...!」
果たして、彼女の顔は悔しさに満ちたものに変わっていった
(まだ暴れる気か...?)
何が起きてもいいよう身構えていた
「...............!!!」
しかし、この変化は予想していなかった
---涙---
目の前の少女はぼろぼろと大粒の涙を流し始めた
「ぅ...っく...う...」
悔しさで染まっていた顔がみるみるくしゃくしゃになっていく、そして...
「ぅ...ウエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェンッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
大声で泣き出してしまった
(...え?え?何で?)
最早、先ほどまでの闘気のような気迫の欠片もない少女に、裕は困惑を隠せなかった
とりあえず、ナイフを納め、彼女の上から降りて起こしてあげる、それでもまだ泣き続けた
「ううぅぅぅ...っ!ボクは...やっぱり...ダメなワーウルフなんだぁ...ウエエエエエェェェェンッ!!!!!!」
ぺたんとその場に座り込んで泣き続ける彼女に裕はオロオロし始めた
(どうすればいい!?何すればいい!?)
この男、見ての通り女性の扱いがまったく判らない
学生時代から空手で鍛えた体と人相の悪い顔の為、女性からは一切モてず、生を受けて26年彼女がいたことは一度もなかった
「え、と...あの...」
「ウエエエエエェェェェンッ!!!!!」
何と声をかけていいか判らない男と泣き止まない少女、一体いつまでこの状況が続くかと思われたが...遂に、裕は意を決して...
「ふえっ?」
少女を抱き締めた
「...ごめんな...俺が悪かった...許してくれ...な?」
抱き締めながら優しく頭を撫でる、まるで親が子供にするように...
「えぐっ...ぅっ...ひっく...」
そして、どうやら効果はあったようだった
先程まで泣きじゃくっていた少女は、最初こそ驚いた様子だったが次第に落ち着きを取り戻していった
---10分後---
「...落ち着いたか?」
「ぐすっ...うん...ありがと...」
裕の腕の中で泣いていた少女はようやく落ち着き、もぞもぞと裕から離れた
それでもさっきまで泣いていたため目元は腫れ、涙の痕が幾筋も残っていた、尻尾も元気なく下を向いてしまっている
裕は背中のリュックから真空パックされたタオル(防水処置といって着替えからタオル、メモ帳等まで濡れる物は全て行う)を取り出し、優しく目元を拭ってあげた
くすぐったそうに首をすくめる少女だったが、逃げたり嫌がったりはしなかった
「...君、名前は?」
タオルをしまいながら聞きたいことだらけのなかからまず簡単なことを聞いた
「...イーシェ...イーシェ・ウィルフィ」
随分と大人しくなった少女は素直に自らの名前を答えた
「よしイーシェ、君に聞きたい事があるん...」
『ぐうぅ〜〜〜ぅ』
「...」
「...///」
響き渡る腹の音、この場にいるのはこの男と狼少女だけ、そして少女は赤くなって俯いてしまった、以上の条件からして考えられることは一つ...
「...もしかして...お腹空いた?」
「.........うん.........///」
---更に40分後---
「ご馳走様ッ!」
「はい、お粗末様」
裕が持っていた携帯糧食(いわゆる『レーション』と言われるカロリー重視のご飯、不味いと言われているが日本のものはかなりマシなほうである)を3食も食べた少女は元気を完全に取り戻していた
食事をしながら彼女から様々な情報を得た
ここが日本どころかまったく次元の違う異世界だということ、魔物のこと、魔族と『教団』と呼ばれる勢力との争いのこと
---そして彼女の生い立ちについても...
彼女は元々ワーウルフの群れのリーダーの子として産まれた、本来ならそれは喜ばれるべきことだった...だが、一つの事がそれを拒んだ
彼女は一人だけ他のワーウルフ達と違い『白い毛』をしていた
『望まれざる子が産まれた』
群れはイーシェを呪われた子供として迫害した
そして、彼女が12歳になった時...群れを追われた
ろくに狩りの仕方も教わらないまま彼女は一人になった...
そのため、今でも狩り苦手な為自分はダメなワーウルフだと思っていたらしい
(...まるで俺だ...)
迷彩化粧をメイク落としで拭きながらそう感じた
外見だけで群れから迫害され、ずっと一人だった...自分と同じじゃないか...と
「...それにしても、何で俺を襲ったんだ?」
最後に、と聞いた質問にイーシェは申し訳無さそうに応えた
「えっとネ、最近獲物が見つからなくてお腹が空いてたんだ、そしたら男の人の匂いがして、来てみたらあなたがいて、荷物を持ってたから男の人とご飯両方手に入るかもっ、て...」
どうやら、彼女からしてみれば鴨が葱を背負って歩いているような状態だったらしい
結一の誤算は鴨が意外と強かったことか...
裕は「何故男が居る?」と思いながらも、あの時隙ができたのは空腹の為か、と納得していた
「...ごめんなさい...」
しゅん、と萎んでしまったイーシェに思わず苦笑し頭を撫でてあげた
「もういいよ、済んだ事だし、気にしてないよ」
優しく撫でてあげると上目遣いにこちらを見つめてきたので更に言った
「お腹が空いたからって人を襲っちゃいけないよ?イーシェはいい子なんだから」
判った?と付け加えながら手を離すと、何故かぼ〜っとしながら頷いた
「よし、それじゃあ俺は行くよ」
リュックを背負いながら裕は立ち上がった
イーシェから近くの村の方角はある程度聞いた為そこに向かう事にしたのだ
「じゃあな」と言いながら彼女に背を向け歩き出した裕は気づいていなかった
---頬を赤くして送られる熱い視線に、パタパタと激しく揺れる尻尾に...
「うおっ!!??」
いきなり背中にタックルを食らった
転びそうになるが何とか踏み止まる
「何だ!!??」
慌てて背中を見ると...イーシェが抱きついていた
「ど、どうした?イーシェ?」
怪訝な表情を浮かべながら聞くと...
「...様...」
「ん?」
「ご主人様!」
「え?」
「ボクも連れてってください!ご主人様!」
「...『ご主人様』、ってもしかして...」
「ハイ!あなたです!ご主人様!」
「......ぇええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!!!!!!!」
「何故に!?」と裕は思っていますが、魔物娘図鑑でワーウルフの項目を読んだことのある方はお気づきだろう
ワーウルフは自分よりも強いオスを主人と認識する
勝った上にご飯まであげ、止めの撫で撫ででイーシェは完全に裕を『主人』と認識してしまったのだ
「いや...おま...!!!!!」
あまりの衝撃にうまく喋れないでいると
「...ダメ、ですか?」
「うっ(汗)」
くぅ〜ん、と捨て犬のようなつぶらな瞳で見つめてくるイーシェに固まってしまう26歳童『ピー』(自主規制)男
「...はぁ...行こうか」
勝てる戦ではなかった(笑)
「やったー!ありがとうがざいます、ご主人様!」
すりすりと頬擦りされて困ったような表情を浮かべながらも、どこか満更でもない様子の童『ピー』(自主規制)男...
イヤ〜イイネ〜ウラヤマシイネ〜...............(死ネバイイノニ(怒)
なんて作者が考えていたら、突然二人の目の前に光が現れた
「きゃっ!」
「なっ!」
それは、裕をこの世界に送った光と良く似ていた
違うのは規模が小さいことだった
「イーシェ!」
「きゃっ!ご主人様!」
咄嗟にイーシェを庇うように抱き締めきつく目を瞑った、飛ばされても離れ離れにならないように
そして、光が弾け、一際強い光が二人を包んだ...
「......あれ?」
しかし、いくら待っても飛ばされる気配がない
恐る恐る目を開けてみると...大きなバッグがあった、そして裕はそれを見たことがあった
「...衣嚢(いのう)?」
それは、衣嚢と呼ばれる官品(国から貸与される物品)のバッグである
恐る恐る近づき中を開けてみた、すると...
「何ですか?それ?」
「...弾...だね」
中には89式用の5.56mm弾と拳銃用の9mm弾が弾倉と共に入っていた
「あ!ご飯もある♪」
「...」
さらに、全部食べてしまっていた携帯糧食も3日分は入っていた
「これは...迷彩とアーマー...」
極めつけはボロボロになった迷彩服と防弾ベストの代わりが入っている、まさに至れり尽くせりだった...が迷彩服は1着ではなかった
「...これは...(汗)」
「...(キラキラ)」
明らかに裕よりも小さい...あえて言うならイーシェに丁度良さそうなサイズの迷彩服だった
「......」
「...じーっ(キラキラ)」
「......あげる」
「ありがとうございます♪」
勝てる戦ではなかった(笑)
「ご主人様とお揃い♪お揃い♪」
嬉しそうなイーシェに「まぁいいか...」と思ってしまう裕だった...
「...ってここで脱ぐんじゃない!!!!!!」
「え〜ボクご主人様なら見られてもいいですよ?」
「いいからあっち!!!!!!」
「は〜い」
「...はぁ」
いつもの溜め息が出る今日この頃であった...
「ご主人様〜これどうやって着るんですか〜?」
「脱いでから来るなあああぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
...溜め息ではなく、叫びで終わる今日この頃であった...
to be a continued...
ワーウルフが繰り出した爪が空を切りながら裕に向かってくる
それを左手で弾きながらナイフを彼女の腕---腱や血管のある手首を狙って振るう
それを彼女は弾かれた方向に飛んで避ける
そして間合いを取って睨み合い、タイミングを計ってワーウルフが襲ってくるとそれに応じる...
一体何回繰り返したかも判らないくらい同じことを続けている
二人が闘い始めて既に10分、決着は一向につかずにいた
「はぁ...はぁ...」
荒い息を整えながら、息一つ切らさず隙を覗う少女に裕は信じられない気持ちで一杯だった
子供の頃から続けてきた空手、入隊してから骨身に染み込ませた格闘術、それを目の前の少女はいとも簡単にかわし、それどころか隙あらばと的確に急所を狙って攻撃してくる
自らの姿を見れば迷彩服の至る所が掠めた鋭い爪によって切れており、防弾素材で編み込んだ防弾ベストにすら切れ目ができている
さすがに防弾プレート(防弾ベスト自体は砲弾の破片や拳銃弾程度の防弾機能しか無く、中にセラミック製の防弾プレートを挿入することでライフル弾を防ぐことができる(ただし重さは10kg近くになる))は貫通しないようだが避け損なったらかなり危険だ
対して目の前のワーウルフは掠り傷一つ無い
演習での疲れや、防弾ベストの重みで動きが鈍っているとはいえ一撃も当たらない、裕は少しずつ追い詰められていた
しかし、ワーウルフもまた焦っていた
目の前にいる獲物が予想以上にしぶとく手強い、隙を覗いつつも攻めあぐねいていた
(...体力が限界に近い...何とかしないと...)
長く続く闘いに裕の疲労はピークに達していた
恐らく、次の攻防で全てが決まる、しかし自分は圧倒的に不利だ
逆転する方法は何か無いか...睨み合いながら必死に打開策を模索する
(...小銃はあの子の後ろ...拳銃には弾は入ってない...何か...!)
---あった、まだ出していない『武器』が
「ガアアアァァァァァッ!!!」
裕が閃いたのとワーウルフが飛び出したのはほぼ同時だった
---やるしかない、そしてチャンスは1度きり---
ナイフの振りにくい左側を狙って爪を剥き出しにした右手が来る、それを裕は...
『ガキィィィィィン!』
---受け止めた、出していなかった『武器』...『刃の無い銃剣』で
「!?」
弾かれるのではなく、止められることは考え無かったであろう少女は慌てて退がろうとする、と、その瞬間彼女の動きが鈍った
その一瞬の隙を裕は見逃さなかった
銃剣を捨て、左手で彼女の右手首を掴む、右足で足を払い、体制を崩したところでナイフを握ったままの右手で胸元を重心をかけて地面に向けて力の限り押す
『ドンッ!』
鈍い音と共に倒れた彼女に馬乗りになり、右手を抑えながらナイフを首元に当てる
「はぁ...はぁ...はぁ...」
(...勝った...)
荒く息を吐きながら頭のガッツポーズを決めた
自衛隊の『首返し』と呼ばれる技の応用だったがうまくいった
普段は固くて鞘から抜けにくい銃剣が素早く抜けたことも助かった
目の前で押し倒された少女は信じられないという風に目を見開いてこちらを見上げていた
「はぁ...はぁ...動くな...お前の負けだ...」
言葉が通じるか判らなかったが、この状態からなら何を言われたかは判る筈だった
「っ!...!」
果たして、彼女の顔は悔しさに満ちたものに変わっていった
(まだ暴れる気か...?)
何が起きてもいいよう身構えていた
「...............!!!」
しかし、この変化は予想していなかった
---涙---
目の前の少女はぼろぼろと大粒の涙を流し始めた
「ぅ...っく...う...」
悔しさで染まっていた顔がみるみるくしゃくしゃになっていく、そして...
「ぅ...ウエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェンッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
大声で泣き出してしまった
(...え?え?何で?)
最早、先ほどまでの闘気のような気迫の欠片もない少女に、裕は困惑を隠せなかった
とりあえず、ナイフを納め、彼女の上から降りて起こしてあげる、それでもまだ泣き続けた
「ううぅぅぅ...っ!ボクは...やっぱり...ダメなワーウルフなんだぁ...ウエエエエエェェェェンッ!!!!!!」
ぺたんとその場に座り込んで泣き続ける彼女に裕はオロオロし始めた
(どうすればいい!?何すればいい!?)
この男、見ての通り女性の扱いがまったく判らない
学生時代から空手で鍛えた体と人相の悪い顔の為、女性からは一切モてず、生を受けて26年彼女がいたことは一度もなかった
「え、と...あの...」
「ウエエエエエェェェェンッ!!!!!」
何と声をかけていいか判らない男と泣き止まない少女、一体いつまでこの状況が続くかと思われたが...遂に、裕は意を決して...
「ふえっ?」
少女を抱き締めた
「...ごめんな...俺が悪かった...許してくれ...な?」
抱き締めながら優しく頭を撫でる、まるで親が子供にするように...
「えぐっ...ぅっ...ひっく...」
そして、どうやら効果はあったようだった
先程まで泣きじゃくっていた少女は、最初こそ驚いた様子だったが次第に落ち着きを取り戻していった
---10分後---
「...落ち着いたか?」
「ぐすっ...うん...ありがと...」
裕の腕の中で泣いていた少女はようやく落ち着き、もぞもぞと裕から離れた
それでもさっきまで泣いていたため目元は腫れ、涙の痕が幾筋も残っていた、尻尾も元気なく下を向いてしまっている
裕は背中のリュックから真空パックされたタオル(防水処置といって着替えからタオル、メモ帳等まで濡れる物は全て行う)を取り出し、優しく目元を拭ってあげた
くすぐったそうに首をすくめる少女だったが、逃げたり嫌がったりはしなかった
「...君、名前は?」
タオルをしまいながら聞きたいことだらけのなかからまず簡単なことを聞いた
「...イーシェ...イーシェ・ウィルフィ」
随分と大人しくなった少女は素直に自らの名前を答えた
「よしイーシェ、君に聞きたい事があるん...」
『ぐうぅ〜〜〜ぅ』
「...」
「...///」
響き渡る腹の音、この場にいるのはこの男と狼少女だけ、そして少女は赤くなって俯いてしまった、以上の条件からして考えられることは一つ...
「...もしかして...お腹空いた?」
「.........うん.........///」
---更に40分後---
「ご馳走様ッ!」
「はい、お粗末様」
裕が持っていた携帯糧食(いわゆる『レーション』と言われるカロリー重視のご飯、不味いと言われているが日本のものはかなりマシなほうである)を3食も食べた少女は元気を完全に取り戻していた
食事をしながら彼女から様々な情報を得た
ここが日本どころかまったく次元の違う異世界だということ、魔物のこと、魔族と『教団』と呼ばれる勢力との争いのこと
---そして彼女の生い立ちについても...
彼女は元々ワーウルフの群れのリーダーの子として産まれた、本来ならそれは喜ばれるべきことだった...だが、一つの事がそれを拒んだ
彼女は一人だけ他のワーウルフ達と違い『白い毛』をしていた
『望まれざる子が産まれた』
群れはイーシェを呪われた子供として迫害した
そして、彼女が12歳になった時...群れを追われた
ろくに狩りの仕方も教わらないまま彼女は一人になった...
そのため、今でも狩り苦手な為自分はダメなワーウルフだと思っていたらしい
(...まるで俺だ...)
迷彩化粧をメイク落としで拭きながらそう感じた
外見だけで群れから迫害され、ずっと一人だった...自分と同じじゃないか...と
「...それにしても、何で俺を襲ったんだ?」
最後に、と聞いた質問にイーシェは申し訳無さそうに応えた
「えっとネ、最近獲物が見つからなくてお腹が空いてたんだ、そしたら男の人の匂いがして、来てみたらあなたがいて、荷物を持ってたから男の人とご飯両方手に入るかもっ、て...」
どうやら、彼女からしてみれば鴨が葱を背負って歩いているような状態だったらしい
結一の誤算は鴨が意外と強かったことか...
裕は「何故男が居る?」と思いながらも、あの時隙ができたのは空腹の為か、と納得していた
「...ごめんなさい...」
しゅん、と萎んでしまったイーシェに思わず苦笑し頭を撫でてあげた
「もういいよ、済んだ事だし、気にしてないよ」
優しく撫でてあげると上目遣いにこちらを見つめてきたので更に言った
「お腹が空いたからって人を襲っちゃいけないよ?イーシェはいい子なんだから」
判った?と付け加えながら手を離すと、何故かぼ〜っとしながら頷いた
「よし、それじゃあ俺は行くよ」
リュックを背負いながら裕は立ち上がった
イーシェから近くの村の方角はある程度聞いた為そこに向かう事にしたのだ
「じゃあな」と言いながら彼女に背を向け歩き出した裕は気づいていなかった
---頬を赤くして送られる熱い視線に、パタパタと激しく揺れる尻尾に...
「うおっ!!??」
いきなり背中にタックルを食らった
転びそうになるが何とか踏み止まる
「何だ!!??」
慌てて背中を見ると...イーシェが抱きついていた
「ど、どうした?イーシェ?」
怪訝な表情を浮かべながら聞くと...
「...様...」
「ん?」
「ご主人様!」
「え?」
「ボクも連れてってください!ご主人様!」
「...『ご主人様』、ってもしかして...」
「ハイ!あなたです!ご主人様!」
「......ぇええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!!!!!!!」
「何故に!?」と裕は思っていますが、魔物娘図鑑でワーウルフの項目を読んだことのある方はお気づきだろう
ワーウルフは自分よりも強いオスを主人と認識する
勝った上にご飯まであげ、止めの撫で撫ででイーシェは完全に裕を『主人』と認識してしまったのだ
「いや...おま...!!!!!」
あまりの衝撃にうまく喋れないでいると
「...ダメ、ですか?」
「うっ(汗)」
くぅ〜ん、と捨て犬のようなつぶらな瞳で見つめてくるイーシェに固まってしまう26歳童『ピー』(自主規制)男
「...はぁ...行こうか」
勝てる戦ではなかった(笑)
「やったー!ありがとうがざいます、ご主人様!」
すりすりと頬擦りされて困ったような表情を浮かべながらも、どこか満更でもない様子の童『ピー』(自主規制)男...
イヤ〜イイネ〜ウラヤマシイネ〜...............(死ネバイイノニ(怒)
なんて作者が考えていたら、突然二人の目の前に光が現れた
「きゃっ!」
「なっ!」
それは、裕をこの世界に送った光と良く似ていた
違うのは規模が小さいことだった
「イーシェ!」
「きゃっ!ご主人様!」
咄嗟にイーシェを庇うように抱き締めきつく目を瞑った、飛ばされても離れ離れにならないように
そして、光が弾け、一際強い光が二人を包んだ...
「......あれ?」
しかし、いくら待っても飛ばされる気配がない
恐る恐る目を開けてみると...大きなバッグがあった、そして裕はそれを見たことがあった
「...衣嚢(いのう)?」
それは、衣嚢と呼ばれる官品(国から貸与される物品)のバッグである
恐る恐る近づき中を開けてみた、すると...
「何ですか?それ?」
「...弾...だね」
中には89式用の5.56mm弾と拳銃用の9mm弾が弾倉と共に入っていた
「あ!ご飯もある♪」
「...」
さらに、全部食べてしまっていた携帯糧食も3日分は入っていた
「これは...迷彩とアーマー...」
極めつけはボロボロになった迷彩服と防弾ベストの代わりが入っている、まさに至れり尽くせりだった...が迷彩服は1着ではなかった
「...これは...(汗)」
「...(キラキラ)」
明らかに裕よりも小さい...あえて言うならイーシェに丁度良さそうなサイズの迷彩服だった
「......」
「...じーっ(キラキラ)」
「......あげる」
「ありがとうございます♪」
勝てる戦ではなかった(笑)
「ご主人様とお揃い♪お揃い♪」
嬉しそうなイーシェに「まぁいいか...」と思ってしまう裕だった...
「...ってここで脱ぐんじゃない!!!!!!」
「え〜ボクご主人様なら見られてもいいですよ?」
「いいからあっち!!!!!!」
「は〜い」
「...はぁ」
いつもの溜め息が出る今日この頃であった...
「ご主人様〜これどうやって着るんですか〜?」
「脱いでから来るなあああぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
...溜め息ではなく、叫びで終わる今日この頃であった...
to be a continued...
13/12/08 20:50更新 / chababa
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