愛知る新聞
「今朝から妙に『おめでとう』とか言われると思ったらこれが原因か」
先輩が寮の掲示板とにらめっこをしながら一人で納得していた。
「しょうがないんじゃないっすか? 色恋沙汰が一番受ける記事らしいですし」
「あぁイールか。まぁ、めでたい事だから別にいいんだけどよ。今度からちゃんと本人に確認取るように言っとけよ。この記者はお前の知り合いだろ」
まあ、確かにこの記事を書いたラスクは昔からの幼馴染だが、まさか記事の事に許可を取っていなかったのか。
「今度あった時に言っておきます。所で先輩、聞きたいことがあるんですけど……」
――――――――――――――
「いらっしゃ……って何だイールか。どうよ、ボクの記事の評判は? シレンさんどんな顔してた?」
大きな尻尾を振りながら、俺の幼馴染は自分の書いた記事を貰いに来たお客じゃないことに少々残念そうにしながら出迎えてくれた。
「先輩なら別に驚いた様子も無かったよ、ってか確かに記事を書いたのはお前だけど情報源は俺だって事を忘れんなよ」
「いいのぉ? ボクにそんなこと言っちゃって、ボクがその気になればキミの事を小遣い稼ぎのために先輩の情報売った悪徳騎士だって記事も書けるんだからね」
「良いんだよ別に、機密情報は話してるわけじゃないし。それと先輩が今度から記事を書くならちゃんと本人に記事にしていいか確認を取れって言ってたぞ」
「はいはーい、以後気をつけまーす。それと情報料ね、イールが巡回中に偶然現場に居合わせたおかげでボクにも情報が入ってきたお陰で直ぐに記事が書けたんだから」
「俺は昔から噂好きのリスの情報源だしな」
俺はそう言いながらお金を受け取る。
「それよりもさ、騎士ってそれなりにお金もらえるんだよね。なんでこんな小遣い稼ぎしてるんだよぉ。ボクはイールが何か贅沢してるなんて噂聞いたこと無いんだけど」
「まぁ、でっかい買い物をしたいからな」
「へぇ……ボクに言ってみ? 大丈夫、絶対に言いふらしたりしないから」
「そうだな、お前が言うわけ無いよな。記事にして書くんだけだもんな」
とは言っても、先輩に聞いた限りではそろそろ目標金額に届きそうだし言っても良いかもしれない。
「なんだよケチー、いつか金欲にまみれた最低の悪徳騎士って記事書いてやるんだからなー」
「そんな嘘だらけの記事を書かれたら責任とって貰わなくちゃな」
「……!?なな、なんだよ、責任って。ボクにキミを養えって言うのか!?」
ラスクが言ってることとは裏腹に尻尾が嬉しそうに振れているのを見て俺は悟った。このままじゃ本気でそんな事を記事に書かれてまうと。
「わかった、言うよ。だけど場所を替えよう」
「えー、なんでだよー」
「新聞社で秘密を言えるかっての」
「……それもそうか」
そんな訳で俺がラスクを連れてきたのは公園だった。それもつい先日、先輩が告白されて告白した例の公園だ。
「おぉー賑わってるねー。これもボクの記事の効果かな?」
「それもあると思うけど先輩自体の人柄もあると思うぞ」
確かに周りを見ればちっちゃい子が『しょうらい、およめさんになってあげるー』とか真似をしてたり、『俺がお前の世界一の夫だ!!』とか奥さんであるラージマウスに叫んでいたりと。いつもよりも騒がしかった。
これなら俺が今からすることも違和感無くできるだろう。
「あの人達、店休んで何やってんだよ」
「ん? 知り合いでもいたのか?」
「新聞社の近くに世界一おいしいチーズ屋ってあるでしょ? あそこの夫婦」
「あぁ、結構人気店だよな、あそこ」
まぁ俺は行ったことがないから知らんのだが。
「ボクは好きなんだよね、あそこのチーズ。お昼ご飯に買ったりしてて今日は休みだと思ったらこんなところに」
よし、今度から寄ろう。
「それにしても考えたね、これだけ騒がしければ確かに秘密がバレはしないよね。木を隠すなら森の中、情報を隠すなら情報の中って事だね」
「いや、そこまで深く考えていた訳じゃないんだが」
それに別に隠すつもりがあるわけじゃないし。
「……まぁいいや、で秘密を言ってもらいましょうか」
ラスクがニヤニヤしながら聞いてくる、やばいめっちゃかわいいなコイツ。
「じゃあ、言うぞ。聞いてなかったとか言われても二回は言わないからな」
「ふふん、ボクが聞き逃すなんてヘマをする訳が無いじゃないか」
言ったな、聞き逃さないって言ったの忘れないからな。
「ラスク……俺はお前が好きだ、愛してる、結婚してくれ」
そう言うとピンと尻尾を立てて固まっている幼馴染に俺は指輪の入っている箱を渡す。
「えっ……えっ!?なにこれ、ドッキリ?」
「いや、大真面目だ。それと俺が金を貯めてた理由はこの指輪と結婚費用の為だ、先輩に聞いたら結婚費用分も今回で届きそうだったから言うことに決めてたんだよ。この秘密お前ならいくらで買ってくれる?」
さすがに本気のプロポーズだと周りの視線を集めるな。覚悟はしていたつもりでもちょっと恥ずかしくなってしまう。
「……ボクの……一生で、お願いします」
照れているのか、大きな尻尾で顔を覆い隠しながらラスクはOKの返事をくれた。
こうして俺は自分の秘密を彼女の人生と引き換えに売ったのであった。
先輩が寮の掲示板とにらめっこをしながら一人で納得していた。
「しょうがないんじゃないっすか? 色恋沙汰が一番受ける記事らしいですし」
「あぁイールか。まぁ、めでたい事だから別にいいんだけどよ。今度からちゃんと本人に確認取るように言っとけよ。この記者はお前の知り合いだろ」
まあ、確かにこの記事を書いたラスクは昔からの幼馴染だが、まさか記事の事に許可を取っていなかったのか。
「今度あった時に言っておきます。所で先輩、聞きたいことがあるんですけど……」
――――――――――――――
「いらっしゃ……って何だイールか。どうよ、ボクの記事の評判は? シレンさんどんな顔してた?」
大きな尻尾を振りながら、俺の幼馴染は自分の書いた記事を貰いに来たお客じゃないことに少々残念そうにしながら出迎えてくれた。
「先輩なら別に驚いた様子も無かったよ、ってか確かに記事を書いたのはお前だけど情報源は俺だって事を忘れんなよ」
「いいのぉ? ボクにそんなこと言っちゃって、ボクがその気になればキミの事を小遣い稼ぎのために先輩の情報売った悪徳騎士だって記事も書けるんだからね」
「良いんだよ別に、機密情報は話してるわけじゃないし。それと先輩が今度から記事を書くならちゃんと本人に記事にしていいか確認を取れって言ってたぞ」
「はいはーい、以後気をつけまーす。それと情報料ね、イールが巡回中に偶然現場に居合わせたおかげでボクにも情報が入ってきたお陰で直ぐに記事が書けたんだから」
「俺は昔から噂好きのリスの情報源だしな」
俺はそう言いながらお金を受け取る。
「それよりもさ、騎士ってそれなりにお金もらえるんだよね。なんでこんな小遣い稼ぎしてるんだよぉ。ボクはイールが何か贅沢してるなんて噂聞いたこと無いんだけど」
「まぁ、でっかい買い物をしたいからな」
「へぇ……ボクに言ってみ? 大丈夫、絶対に言いふらしたりしないから」
「そうだな、お前が言うわけ無いよな。記事にして書くんだけだもんな」
とは言っても、先輩に聞いた限りではそろそろ目標金額に届きそうだし言っても良いかもしれない。
「なんだよケチー、いつか金欲にまみれた最低の悪徳騎士って記事書いてやるんだからなー」
「そんな嘘だらけの記事を書かれたら責任とって貰わなくちゃな」
「……!?なな、なんだよ、責任って。ボクにキミを養えって言うのか!?」
ラスクが言ってることとは裏腹に尻尾が嬉しそうに振れているのを見て俺は悟った。このままじゃ本気でそんな事を記事に書かれてまうと。
「わかった、言うよ。だけど場所を替えよう」
「えー、なんでだよー」
「新聞社で秘密を言えるかっての」
「……それもそうか」
そんな訳で俺がラスクを連れてきたのは公園だった。それもつい先日、先輩が告白されて告白した例の公園だ。
「おぉー賑わってるねー。これもボクの記事の効果かな?」
「それもあると思うけど先輩自体の人柄もあると思うぞ」
確かに周りを見ればちっちゃい子が『しょうらい、およめさんになってあげるー』とか真似をしてたり、『俺がお前の世界一の夫だ!!』とか奥さんであるラージマウスに叫んでいたりと。いつもよりも騒がしかった。
これなら俺が今からすることも違和感無くできるだろう。
「あの人達、店休んで何やってんだよ」
「ん? 知り合いでもいたのか?」
「新聞社の近くに世界一おいしいチーズ屋ってあるでしょ? あそこの夫婦」
「あぁ、結構人気店だよな、あそこ」
まぁ俺は行ったことがないから知らんのだが。
「ボクは好きなんだよね、あそこのチーズ。お昼ご飯に買ったりしてて今日は休みだと思ったらこんなところに」
よし、今度から寄ろう。
「それにしても考えたね、これだけ騒がしければ確かに秘密がバレはしないよね。木を隠すなら森の中、情報を隠すなら情報の中って事だね」
「いや、そこまで深く考えていた訳じゃないんだが」
それに別に隠すつもりがあるわけじゃないし。
「……まぁいいや、で秘密を言ってもらいましょうか」
ラスクがニヤニヤしながら聞いてくる、やばいめっちゃかわいいなコイツ。
「じゃあ、言うぞ。聞いてなかったとか言われても二回は言わないからな」
「ふふん、ボクが聞き逃すなんてヘマをする訳が無いじゃないか」
言ったな、聞き逃さないって言ったの忘れないからな。
「ラスク……俺はお前が好きだ、愛してる、結婚してくれ」
そう言うとピンと尻尾を立てて固まっている幼馴染に俺は指輪の入っている箱を渡す。
「えっ……えっ!?なにこれ、ドッキリ?」
「いや、大真面目だ。それと俺が金を貯めてた理由はこの指輪と結婚費用の為だ、先輩に聞いたら結婚費用分も今回で届きそうだったから言うことに決めてたんだよ。この秘密お前ならいくらで買ってくれる?」
さすがに本気のプロポーズだと周りの視線を集めるな。覚悟はしていたつもりでもちょっと恥ずかしくなってしまう。
「……ボクの……一生で、お願いします」
照れているのか、大きな尻尾で顔を覆い隠しながらラスクはOKの返事をくれた。
こうして俺は自分の秘密を彼女の人生と引き換えに売ったのであった。
17/03/20 01:03更新 / アンノウン