恋する兵士
「まさか次の相部屋がお前になるとはなぁ」
「せっかく弟が入団試験に受かったってのにちょっとぐらい喜んでくれたっていいだろ!!」
呆れた様な顔をしている血の繋がらない兄に俺は文句を言う。
「いやぁ、お前が入団試験に受かったってのは兄として喜んでるつもりだけど、面接で『兄に憧れて』なんて言ったらしいじゃねえか」
「言ったけど、それがどうしたんだよ」
「嘘はいけないと思うんだよなぁ」
「なっ!!嘘は言ってないから」
うん、嘘は言ってない。実際に勇者候補にも選ばれた兄さんに憧れてはいる、ただそれよりも強い理由を隠していただけで。
「へぇ……所で今年の新人リストを教官から見せてもらったんだけど『ユーファ・B・トーラス』って名前があったんだよな。俺の記憶が正しければ、確かお前が子供の頃によく遊んでたランサービートルの名前だった気がするんだよな」
「ユーファは関係ないだろ!!」
ユーファの名前を出されてついムキになってしまう。
「その反応、好きな子と一緒に居たいからか!! 別に隠さずに正直に言っても面接に通った思うぞ。父さんも言ってたろ、この世は愛に満ち溢れてるってさ。特にこの国じゃあエロス様を信仰しているんだ、愛に勝るものなんて無いんだから、別に恥ずかしがることは無いだろ」
「だいたい、兄さんの方はどうなんだよ。勇者候補にもなったらモテるんじゃないの?」
「俺か……俺はまだ運命の出会いをしたことが無いからな。まぁ好きな人ができたら、お前にも教えてやるよ。でだ、ユーファちゃんとお前はどこまでの関係なんだ? 教えろよ」
「絶対、教えねぇ!!」
俺が兄さんに羽交い締めにされながらも抵抗していると、トントンとドアがノックされた。
「あの……新人の、ユーファ・B・トーラスです。……同じく、新人の……ビートくんが、この部屋だと……聞いたのですが……」
その言葉を聞くと、兄さんは俺にすぐさま俺に技をかけるのを止めてドアを開けてユーファを招き入れる。
「どうぞ、弟がお世話になってるらしいね」
ドアが開かれるとティアラのような形をした五本の角が特徴的なランサービートルが一礼して入ってくる。紛れもなく俺の知っているユーファだった。
「失礼……します」
「おいおい、どうしたビート。好きな人に会えたからってそんなに顔を赤くするなよ」
「これはさっきまで兄さんが技をかけてたからだろ!!」
「……お兄さん?」
「おっと、これは失礼。ビートの兄のシレンです。まぁ、兄とは言っても同じ孤児院育ちってだけだからそこまで気を使わなくても大丈夫だよ。弟をよろしく頼むね」
そう言うと兄さんはユーファと入れ替わりに出て行ってしまった。
「なんか……楽しそうな、お兄さん……だね」
「真面目にしてれば格好良いんだけどね、所でわざわざ部屋まで来るなんてどうしたんだよ」
俺が聞くとユーファは花で編んだ冠を渡してくる。
「これ……お祝いに」
「ありがとうな、ユーファは昔からこういうの作るのが得意だったよな」
「うん……花で何か作るのは好き」
ユーファは嬉しそうに頷いて俺の頭に花の冠をかけてくれる。
「でも、俺にはいつも花の冠だよな。なんでなんだ?」
「だって……ビートくんは、ボクの……王子様、だから……♥」
その言葉に俺はなんだか恥ずかしくなってしまう。
「そうだ、ユーファも試験に受かったんだから俺からもお祝いしなくちゃな、なにがいい?」
「……キス、して……ほしい」
恥ずかしそうにしながらも、期待に満ちた目でユーファは言った。
「キスって、ユーファお前なに言ってんだよ」
「ボクは、ビートくんが……好きだよ……ビートくんは、ボクの事……キライ?」
「いや、好きだけどさ」
「だったら……いい、でしょ……」
「わかったよ、キスだけだからな。それ以上はまだするつもりはないからな」
「……うん」
少し不満そうに頬を膨らませるユーファの唇にそっと自分の唇を重ねる。
肌と肌が触れ合う。それだけなのに愛おしい気持ちが膨れ上がってしまう。
「……ねぇ、もっと」
ユーファはどこか熱を帯びた瞳でねだる、だけど俺はまだかすかに残る理性で何とかユーファと愛し合いたいという誘惑を断ち切る。
「駄目だって、時間は作るから。また今度な……その時はちゃんと俺も心の準備をしておくから」
「……ん、わかった」
どこか物足りなさそうな、でも嬉しそうな表情でユーファは納得してくれる。
俺の兵士としての生活はどうやら騒がしくなりそうだった。
16/02/02 09:39更新 / アンノウン