お気に入りの相合傘
ボクはご主人様のお気に入りでした。買ってもらった日からご主人様は雨が降らないような天気も、ボクを持ち歩いてくれてとても嬉しかった。
でも、ハート柄の傘を持っているご主人様は学校ではからかわれてしまいました。ご主人様は笑って誤魔化していましたけれど、ボクだけはちゃんと知っています。その時のご主人様の笑顔が嘘だった事も、後になってボクの内側で泣いてた事もずっと隣で見ていましたから。
その時からでした、ボクがご主人様の傍にずっと居たいと想うようになったのは。
ご主人様が成長するにつれてだんだんとボクではご主人様を雨から守れなくなって、ご主人様もボクより大きな傘を使う事が増えてきました。
ボクはご主人様に使ってもらえないのが寂しくて、子供用に作られた自分が恨めしく思えた時に声が聞こえました。「貴女は彼にもっと使って欲しいのね?」と女性の声が。
当然ですが、その時まではボクはただの傘です。肯定しようとしても頷く事も「はい」と言うこともできません、ですが彼女は物であるボクの心を読み取ったかのかのように「なら、貴女を魔物にしてあげましょう。そうすれば貴女は自分の意思で彼の傍にいられるわ」と言います。
彼女がボクを持ち上げるとボクの体に『何か』が流れてくるのがわかりました。それは手元から中棒へ伝わり、受骨へ、親骨へと流れていきます。
露先や石突きまで届くとボクの体に変化が起こりました。体中が熱いのです、まるで炎で炙られているかのように。それは、物であるボクにはあるはずのない感覚でした。そして、そのままボクは体の熱さに耐え切れずに気を失ってしまいました。
「で、気付いたら女の子になって倒れていたと」
「あの、ボクの話を信じてもらえましたか?」
「信じるも何も、お前についてるのって目玉ができてはいるけど紛れも無い俺の傘だからなぁ……それに俺の友達に母親が父親のご先祖様の提灯だったなんて奴もいるし」
ご主人様にボクがどうして部屋で気絶していたのかを説明すると、あっさりと信じてくれた。
「ありがとうございます、これでいつでもご主人様と一緒にいられますね♥」
「それはいいんだけどさ、何で傘の内側から生えてる舌はずっと俺を舐めてくるの?」
「えっと、ご主人様とこうやってちゃんとお話できるのが嬉しくて……嫌でしたか?」
ご主人様に迷惑だったかもしれないと思いボクは舌を動かすのをやめる。でも、どうしてかご主人様をみていると舌で舐めたくなってしまう。
「わりと気持ち良いし、嫌じゃないからそんなにシュンとするなって、特に傘の方の目は今にも泣きそうな感じでこっちを見るな俺はそういうのに弱いんだよ……でも、あんまり人前ではやらない方がいいんじゃないかな、恥ずかしいし」
「人前ではってことは、今みたいに二人っきりなら良いんですか?」
「良いよ、俺も恋人がいなくて寂しかったんだよ。これでお気に入りの傘をずっと使えるし、恋人もできて一石二鳥だな」
「恋人ですか?」
「え、あれ? 違うの?」
ご主人様は驚いたようで、内心ガッカリしているのがはっきりとわかった。
「ボクはただご主人様にずっと使って頂きたいだけで、恋人なんてボクには恐れ多いですよ」
「ちょっと待って、お前は俺のこと好き?」
「もちろん大好きに決まってるじゃないですか」
「で、一生傍に居てくれるんだよな?」
「もちろんですよ」
「じゃあ、俺が一目惚れしました付き合ってくださいって言ったら?」
「それは……ボクでよければ喜んで」
「だったら恋人でいいじゃん」
あれ? ボクがご主人様の恋人? つまり、伴侶ってことでボクがご主人様の奥さんになる事だよね?
「おーい、傘の方の目がバッテンになってるぞ、大丈夫か?」
「あ、あっと、えーと……ご主人様はボクの事を妻として認め、健やかなる時も病める時も愛する事を誓いますか?」
「誓うけど、それ神父さんが言う言葉だぞそれ」
「ご主人様、愛してます」
「俺も愛してるよ」
舌がご主人様とボクを纏めて包むと、傘は幸せそうに閉じて小さな相合傘を作った。
でも、ハート柄の傘を持っているご主人様は学校ではからかわれてしまいました。ご主人様は笑って誤魔化していましたけれど、ボクだけはちゃんと知っています。その時のご主人様の笑顔が嘘だった事も、後になってボクの内側で泣いてた事もずっと隣で見ていましたから。
その時からでした、ボクがご主人様の傍にずっと居たいと想うようになったのは。
ご主人様が成長するにつれてだんだんとボクではご主人様を雨から守れなくなって、ご主人様もボクより大きな傘を使う事が増えてきました。
ボクはご主人様に使ってもらえないのが寂しくて、子供用に作られた自分が恨めしく思えた時に声が聞こえました。「貴女は彼にもっと使って欲しいのね?」と女性の声が。
当然ですが、その時まではボクはただの傘です。肯定しようとしても頷く事も「はい」と言うこともできません、ですが彼女は物であるボクの心を読み取ったかのかのように「なら、貴女を魔物にしてあげましょう。そうすれば貴女は自分の意思で彼の傍にいられるわ」と言います。
彼女がボクを持ち上げるとボクの体に『何か』が流れてくるのがわかりました。それは手元から中棒へ伝わり、受骨へ、親骨へと流れていきます。
露先や石突きまで届くとボクの体に変化が起こりました。体中が熱いのです、まるで炎で炙られているかのように。それは、物であるボクにはあるはずのない感覚でした。そして、そのままボクは体の熱さに耐え切れずに気を失ってしまいました。
「で、気付いたら女の子になって倒れていたと」
「あの、ボクの話を信じてもらえましたか?」
「信じるも何も、お前についてるのって目玉ができてはいるけど紛れも無い俺の傘だからなぁ……それに俺の友達に母親が父親のご先祖様の提灯だったなんて奴もいるし」
ご主人様にボクがどうして部屋で気絶していたのかを説明すると、あっさりと信じてくれた。
「ありがとうございます、これでいつでもご主人様と一緒にいられますね♥」
「それはいいんだけどさ、何で傘の内側から生えてる舌はずっと俺を舐めてくるの?」
「えっと、ご主人様とこうやってちゃんとお話できるのが嬉しくて……嫌でしたか?」
ご主人様に迷惑だったかもしれないと思いボクは舌を動かすのをやめる。でも、どうしてかご主人様をみていると舌で舐めたくなってしまう。
「わりと気持ち良いし、嫌じゃないからそんなにシュンとするなって、特に傘の方の目は今にも泣きそうな感じでこっちを見るな俺はそういうのに弱いんだよ……でも、あんまり人前ではやらない方がいいんじゃないかな、恥ずかしいし」
「人前ではってことは、今みたいに二人っきりなら良いんですか?」
「良いよ、俺も恋人がいなくて寂しかったんだよ。これでお気に入りの傘をずっと使えるし、恋人もできて一石二鳥だな」
「恋人ですか?」
「え、あれ? 違うの?」
ご主人様は驚いたようで、内心ガッカリしているのがはっきりとわかった。
「ボクはただご主人様にずっと使って頂きたいだけで、恋人なんてボクには恐れ多いですよ」
「ちょっと待って、お前は俺のこと好き?」
「もちろん大好きに決まってるじゃないですか」
「で、一生傍に居てくれるんだよな?」
「もちろんですよ」
「じゃあ、俺が一目惚れしました付き合ってくださいって言ったら?」
「それは……ボクでよければ喜んで」
「だったら恋人でいいじゃん」
あれ? ボクがご主人様の恋人? つまり、伴侶ってことでボクがご主人様の奥さんになる事だよね?
「おーい、傘の方の目がバッテンになってるぞ、大丈夫か?」
「あ、あっと、えーと……ご主人様はボクの事を妻として認め、健やかなる時も病める時も愛する事を誓いますか?」
「誓うけど、それ神父さんが言う言葉だぞそれ」
「ご主人様、愛してます」
「俺も愛してるよ」
舌がご主人様とボクを纏めて包むと、傘は幸せそうに閉じて小さな相合傘を作った。
14/09/17 08:33更新 / アンノウン