読切小説
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恋する二輪の百合の花
「で、この前みたいにすき焼き食べたいとかじゃないだろうな?」

そもそも俺は呼び出しの理由を知っている、ってか魔物娘からの呼び出しなんて相当な鈍感でもない限りは告白だって気づくはずだ。

「あのっボクは、キミの事が……すっす、素直じゃないと思ってるんだから!」

俺が素直じゃないのはあってるけどさぁ、お前が伝えたい事はそれじゃあないだろ、と心の中で突っ込みを入れながら俺は小百合の方を見る。
『それはお姉様もですわ』とでも言いたげな顔をして首を横に振っていた。どうやら乙女の告白は失敗のようだ。


その日の夜の事だった、俺が小百合から呼び出されたのは。


「やっほー、お待たせ。で、話って何か……なぁ!?」

俺は小百合に指定された公園に着くと、待っていた小百合にちょっと気取りながら声をかけた……のだが乙女が花弁の上でぐったりとしているのを見て最後に驚きの声を上げてしまった。

「もう雄利兄様から姉さまに告白してしまうのはどうでしょうか?」
「ちょっと待って、それよりもなんで乙女が気を失ってるのかが気になるんだけど」

流石にこの二人も魔物娘だ、不審者に襲われたなんてことになっても余裕で返り討ちにできるはずだが万が一のことが脳裏によぎってしまう。

「あぁ、その事でしたら今日もヘタレてしまったオシオキとして、いつもより激しくシてあげたら失神してしまっただけですから雄利兄様は気になされなくても大丈夫ですわ」
「お前は本当に姉に対しては容赦ないよな」

よかった、俺が心配したような事が起こったわけじゃなくて。

「雄利お兄様の名前を叫びながら果ててしまったお姉様も可愛かったです……って、今はそんなことよりも雄利兄様からお姉様告白してあげないのですか?」
「俺から告白するとちゃんと二人にしたいからなぁ」

姉を失神させた事を『そんなこと』で済ましやがった、と小百合の黒い部分に驚きながらも俺は平然を装いつつ返事を返す。

「雄利兄様はお姉様以外にも想いを寄せている人がいるのですか!? 一体誰を?」

あれ? もしかして小百合も乙女と同じように気付かれて無いと思ってるのかこれは。

「いや、誰をって言われても」
「お姉様も知っている人なのですか?」

俺の言葉を遮るように小百合が続けて質問を飛ばしてくる。

「ちょっと落ち着け、知ってるも何も俺は小百合のことも好きだからな」
「ふぇ!?」

俺の言葉に驚いたのか小百合は素っ頓狂な声を上げた。

「だって、お前ら二人で一つだろ? 俺は乙女も小百合も合わせたお前らの両方が好きなんだよ」
「えっあっ……そ、そうだ! 雄利兄様、お姉様の絞りたての蜜飲みます?」
「待て、ただでさえ気を失ってる乙女にこれ以上追い討ちをかけるな」

ダメだ、わりと冷静な小百合が混乱してやがる。小百合は勘が鋭いから気付いてると思ってたのに。

「だって、雄利兄様がいきなりあんなこと言うので気が動転してしまって。あの……雄利兄様は私の気持ちをわかっているんですよね?」
「まぁね、乙女の気持ちがわかってるんだからお前の気持ちもお見通しに決まってるだろ……むしろ、何で気付かれないと思ったのかが知りたいよ」
「あっ!」

小百合は今更そんな事に気付いたようで、変な所抜けてるのは乙女と一緒なのだから本当に姉妹だなと実感した。

「でもさ、俺は乙女が告白したいって言うならさせてやりたいんだよ」
「ですけど、お姉様に任せたらいつになるか分からないですよ?」
「だったらいつまでも待ってやるさ、魔物に好きになられたからには逃げられないんだろ? だったら男としてドーンと構えてればいいだけなんだからよ」
「雄利兄様……そうですね、私が待てなくなったらお姉様を無理やりにでも告白させてやりますわ」
「おう、そうしてやれ」


そうして、この日の夜は彼女達と別れたのだが……俺が構えてるのは結局翌日までとなった。


「うぅ、雄利。今日も体育館裏に……」

朝、教室に入ると半べそで昨日と同じことを頼んでくる乙女がいた。

「お前、二日連続でかよ」
「だって、小百合が昨日の事をばらすって」
「えぇ、お姉様が昨日も雄利兄様の名前を……」

小百合はそう言いながら俺にウィンクを飛ばしてきた。たぶん、もう待てなくなったんだろう……それにしても本当に姉に容赦が無いな、無理やりにでもとは聞いたけど脅すなんて考えもしなかったぞ。

「わー!! 言うから、今日こそちゃんとボク言うから、ばらさないでってば!」

乙女、ごめんな。俺はその話もう知ってるんだ……まぁ、結果は変わらないからいいよな?

そんなこんなで俺達の日常は少しずつ変わりながらも進んでいく。
14/09/17 08:34更新 / アンノウン

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