読切小説
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恋の道に師匠なし
「ごめんね、また呼び出しちゃってさ」

珍しいな、絹江が素直に謝るなんて。そして、彼女の目の前には書類が山のように積まれてある。

「いや、今回はちゃんと生徒会の用事だろ? 気にしてないって」

今日は俺も絹江に用事があったところだ。

「二人でやればそんなに時間はかからないと思うけど、本当にごめんね」

絹江は普段はふざけているけど、生徒会長としては非常に優秀だ。実際に俺の数倍の速度で書類の山を片付けていっている。

「でも、珍しいな。お前がこんなに書類を溜め込むなんて、いつもならすぐに片付けてるだろ?」

俺はちょっとした疑問を絹江に投げかけた。

「いや、ちょっと最近浮かれててね。そのせいでキミに迷惑をかけるなんて大失敗だよ」
「んー気にしてねえよ、むしろ今日に限ってはお前と二人っきりなのは好都合だ」
「そう言ってくれるとボクも少しは気が楽になるよ。今日がホワイトデーで休校じゃなかったら他の役員にも手伝ってもらえたんだろうけどね」
「いや、だから先月のお返しとしてお前にホットケーキでも焼こうかなって思ってるんだけど」

その言葉を聞いた途端に絹江は顔をパァっと輝かせた。

「キミの分の書類を返してもらおうか」
「何でだよ」
「ボクは今すぐにキミの心のこもったホットケーキが食べたくなってしまってね。大丈夫だよ、ボクが本気を出せばキミがホットケーキを作り終えるころには書類なんて片付けられるさ」

絹江は俺に有無を言わせないで書類を奪い取るとさっきの数倍の速度で片付け始めていく。
こうなったら俺には絹江を止められない。しょうがない、言われたとおりにホットケーキを焼くか。

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我ながら上手く作れたと思う。
俺は綺麗な焼き色がついたフワフワのホットケーキを見ながらそう考えた。いやホットケーキなんて簡単なものだから誰でも上手く作れる何て言われたら何も言えないけど。
それでも個人的には会心の出来だ。

「美味しそうじゃないか」

横から書類を片付けたらしい絹江が話しかけてくる。

「かけるのはアルラウネの蜜でいいよな?」
「うん、それでいいよ。ボクは紅茶の準備をしといたから、ささやかなティーパーティーになるね」

絹江は楽しそうにどの茶葉を使うか選んでいる、俺はそんな彼女の笑顔を見られただけでも満足だ。

「いやぁ、キミがボクのために心を込めて作ってくれたものだ、食べるのがもったいない気もするね」
「いや、ふつうに温かいうちに食べた方が美味いぞ」
「それは分かってるんだけどさ、愛しの人がボクのために作ってくれたものだよ? リャナンシーでなくても芸術的な価値を感じるものだよ!」
「変な亊言ってないでさっさと食べなさい」

ホットケーキを一口食べる度に幸せそうな絹江の笑顔を見つめた。そして俺は改めて彼女が可愛いと思い知る。
そんなことを考えていると一口サイズに切られたホットケーキが俺の前に突き出されていた。

「さっきからボクばっかり見て食べてないからさ、ボクが食べさせてあげるよ。ほら、アーンってして♪」

言われるがままに俺は食べさせてもらう、少し恥ずかしいけど誰も見てないんだ少しぐらいイチャついたっていいだろう。

「お返しにボクもキミに食べさせてもらいたいなぁ」
「分かってるよ」

俺はさっき絹江がしてくれたようにホットケーキをフォークで一口サイズに切るとそれを彼女の口元へと運ぶ。

「んっこうやって食べるとさっきよりも美味しいね。」

とびきりの笑顔で絹江は俺に話しかける。
俺はそれに同意するように彼女にそっとキスをした。
14/09/17 08:35更新 / アンノウン

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