「いい天気だねぇ、それにしてもなんでこんなに人が集まってるのやら」

大勢の人が集まっている中で先生はまるで死人のような青白い顔で空を見上げた。それだけなら普段は家に篭りきっている先生が、珍しく外に出ただけですんだのかもしれない。
ところが先生の格好はローブを纏っている以外は全裸であり、どこからどう見ても不審者にしか見えなかった。それが原因で人が集まっていることはどうやら気づいていないようだ。

「ん？おお、助手君。そんなところにいたのか、キミが買い出しに行ってなかなか帰ってこないからな、わざわざ探したぞ」

どうやら先生は俺を見つけたらしく、まっすぐにこちらへと向かってくる。正直な所、俺は逃げ出したいがそれをすると先生を裏切ってしまうのと同じな気がしてその場を動けなかった。

「まったく、実験体兼助手のキミがいなければボクの研究は進まないのだから、ボクの為にも買い物はさっさと済ませてくれるとありがたいのだが」

「先生、俺の気持ちも少しは汲んでください」

「キミがなにを言いたいのかボクにはさっぱりわからないのだが？……ところでさっきサキュバスに『あなた大胆ね、私だってそこまでする度胸はないわよ』と言われたのだがキミならわかるかい？ボクは死霊魔術や淫魔術を使った覚えはないのだが」

この人は本当に自覚ないんだな、ここまでくると逆に尊敬しかけるよまったく。

「えーと、たぶんほぼ全裸の格好でまったく隠す気もなく街中を歩いてることだとおもいますけど」

「あぁ、そんなことか。暑さや寒さなんてほとんど感じないからな光が遮られればそれで十分だ、それにボクは死人だぞ魅力を感じるような身体ではないだろ」

「そんなことありませんよ、俺は先生のこと十分に魅力的だとおもいます。それに俺は先生の事を好きですし」

「……キミはよく恥ずかしげもなく大勢の前でそんなことを言えるな」

あ……そういえば、先生の格好のせいでたくさんの人が集まってたんだっだ。周りを見てみると拍手やらよくやったなどの声がかけられる。
俺はさっき言ったことを思い出して恥ずかしくなる。いや、だけど先生が気づいてないならまだ希望はある。

「キミがボクのことを想っていてくれてるのは嬉しいんだが……そっそのな、結婚となるとまだ心の準備が」

いつもは気づかないくせに、なんでこんな時だけ気づくんですか！？それになんか話が進んでますよ、俺は一言も結婚なんていってません。

「先生、もう帰りましょう。買い物も終わってますし、何より俺の心が折れそうです」

「そうだね、ボクも久しぶりに外の空気をすえたし帰ろうか」



「もうやだ、しばらくはどこに買い物に行ってもからかわれるよ」

先生の家へ帰ってすぐに俺は自分の部屋に引きこもった。恐らくもう俺の話を知らない人たちなんかいないはずだ。

「あの、入ってもいいか？」

ノックと共に先生がドアの向こうから尋ねてくる。俺は「どうぞ」とだけ言う。

「さっきはすまなかったな」

謝ってはくるけど先生は家の中にいるときはローブさえ脱いで生まれたままの姿をさらしている、まぁいつもどおりな格好なのだけれど。

「いいですよ、俺がからかわれるだけなんで。とりあえず先生は今度から外へ行くときには必ず服を着ていってください」

「その、やっぱりキミはボクの裸を誰かに見られるのは嫌なのか？」

「そりゃそうですよ、俺は先生が好きなんですし独占したいって気持ちがありますから」

さっき街中で言ってしまったんだ今更隠したって仕方がない、というか俺は先生に対してこの気持ちを隠してたつもりはなかったんだけど。

「そうか……あのな、いつもはキミは実験体としてボクの魔術を受けているだろう、それの副作用みたいなもので好きだと言ってるんだと思っていたから受け流していたんだが……キミは本当にボクのことが好きなんだよな？」

「間違いなく俺は先生のことを愛してます」

確かに魔術の実験で自分を抑えられなくなって先生を押し倒したりはしたけど、それ抜きで俺は先生のことが好きだから自信を持って答えられる。

「ボクは死体だし、研究することしか考えていないし、先ほどのように一般常識が欠けていたりもするんだぞ、そんな女でも本当にいいのか」

「そんなの今更ですね、俺は貴女だから好きになったんですよ」

自分でもクサイ台詞だとは思うが、先生はそういう言葉に耐性が無いようで顔がすぐに真っ赤になっていった。

「……そっそうだ、ボクは新しく恋愛について興味を持ったから研究したいんだが……手伝ってくれるか？」

「喜んでお手伝いさせていただきます」

そして俺は先生を抱きしめてキスをした。