読切小説
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大好きだから
「あー授業とか疲れるわ」

三時限目の授業が終わりボクの隣の席に座っている健太が背筋を伸ばしながら呟いた。

「何を言うか、キミは今のところほとんど寝てただけだろう。それの一体どこが疲れるんだ?」

「いやー昨日は夜遅くまでゲームやってたから寝不足だし、今日はこのクラスだけ何故か空き教室を使ってるじゃん? この教室だと窓の側になっちゃうからポカポカして眠くてさ」

「わかっていると思うが、ボクはダンピールであってヴァンパイアじゃないから日光で弱ったところを襲うなんてマネはできないぞ。ボクとしてはキミになら襲われてみたい気もするんだがな」

「それよりも葵、教室が騒がしい理由を教えてくれよ、まだ昼飯の時間じゃないだろ?」

彼は教室が騒がしいことに気づいたようで、見事にボクの発言は何事も無かったかのようにスルーされた。

「この騒ぎはな、さっきの授業中に佐原さん達二人が遅刻してきたのが原因なんだ」

「遅刻? 確かに佐原たちが遅刻するのは珍しいけど、たったそれだけで何でこんな騒ぎになるんだよ」

「確かに遅刻だけであの二人から匂いがしなかったなら皆がこんなに騒ぐことなんて無かっただろうね」

ボクがそう言うと彼はクンクンと教室の匂いを嗅ごうとするが……すぐに諦めた。

「ダメだ、何の匂いもしないぞ」

「まぁ、そうだろうね。人間だったら普通は気づかないもん」

「大体わかったよ、その説明でよ。まぁ、あの二人はいつかそうなるんじゃないかなとは思ってたしな」

彼は苦笑いをして、クラスの皆に囲まれている二人をじっと見つめた。

「なに? もしかしてキミも羨ましいとか思ってたりするの?」

「いや、このクラスもだいぶカップルとか増えたなぁと思ってな。色恋沙汰に縁の無さそうな石川も小田切と付き合ってるんだろ?」

「らしいね。やっぱり恋人とか羨ましいんじゃないの? ボクとかどうよ?」

「しつこいわ。それに好きな人なら既にいるから」

「なにそれ、ボクは初耳なんですけど。ボクに相談してくれれば……きっかけとかさ、つくってあげれるかもよ?」

嘘だ。絶対に協力なんかできないのに。ボクは彼が好きで……好きで堪らないのに、そんなことできるわけがないのに。なんでこんな嘘をついちゃうんだよ。

「……言ってないからな。それにきっかけならもう十分つくってあるよ」

「そうなんだ」

そうか、そうなんだ。ボクが知らないだけで、彼はもう好きな人がいて。ボクは……どうしたらいいんだろう?

「お前はあんまり心配しなくてもいいさ、成功するのはわかりきってるしな」

なんでだよ。笑顔でそんなこと言われたって、ボクはどんな顔をしたらいいかわからないのに。ボクの気持ちなんか知らないくせに、心配するななんて言われてもボクには無理に決まってるじゃないか。

「さてと、次はメロウ先生の授業か。寝れるな」

「そうだね」

ボクはため息をつきながらどうしたらいいか考えるしかなかった。





「チャイムも鳴ったし、今日の授業はここまで〜」

授業らしい授業もせず、この時間を佐原さん達に質問だけしていたメロウ先生が授業の終わりを告げる。

隣を見れば机に伏せて寝ている健太がいる。もしも、ボクがこのまま首筋に噛み付いて血を吸えば彼はボクだけを見てくれるだろうか?
そうすればこんなに苦しい思いをせずにすむのだろうか?

「あ、天宮さんちょっといいかしら?」

メロウ先生がボクを呼び止めた。一体なんのようなんだろうか、ボクはやらなくちゃいけないことがあるのに。
仕方なくまだ教壇にいる先生の元へいく。

「これといった用事は無いんだけど、なんか天宮さんが思い詰めた顔をしてるからちょっと気になったのよね〜」

「そんな事で、ボクを呼ばないでください」

「一回自分の心を素直に話してからでもいいんじゃないかしら? 無理矢理に相手の心を自分の方に向けさせたって貴女が納得いかなくなるだけよ」

「! 先生、気づいてたんですか」

「なんとなくね。私はそろそろ職員室に帰るわね。まぁ、そんなに悩まなくてもいい方に転ぶわよ、きっと」

確かにボクは結果を急ぎすぎてたかもしてない、ボクの想いを伝えてからでも遅くは無いのかも知れない。だったらボクが今しなくちゃいけないのは……。



「ほら、起きろ」

健太の体を揺すりながら起こす。

「ん、もう授業終わったのか?」

「もうとっくに終わったよ、昼ごはん屋上で一緒に食べよう」

「そうだな、でも何で屋上?」

「ボクがここだと話せないことが、伝えたいことがあるから」

そういって無理矢理に彼の手を引っ張っていく、もしかしたらボクが彼と普通にしてられるのは今日までかもしれないんだから。



「で、話したいことってなんだよ?」

ご飯を食べ終わって彼が聞いてくる。

「あのさ、ボクは今までキミに伝えられなかったことがあるんだ」

深呼吸。胸の鼓動が早くなる。肌が熱くなる。それでも精一杯に声を出す。

「ボクは、天宮 葵は、キミが、藤原 健太が好きだ。愛してる。」

ただ、自分の気持ちを言葉にしただけなのに涙が出そうになる。

「……わかってるよ、そんくらい」

彼はボクの告白に動じることも無く答えた。

「なんだよ、それ。ずるいよ、キミばっかりボクの事を知ってて、ボクはキミの事を少ししか知らないなんてさ」

涙が溢れ出す、ボクは涙を止めることなんかできなくてそのまま彼に向かって倒れこんだ。

「勘違いしないでくれ、俺は口下手だから上手く言えないけどさ。俺もお前のことが好きだよ」

倒れこんだボクを抱きしめながら彼が囁いた。

「やっぱり、キミはずるいや。だけど、ボクだってキミの事をもっと知ってやるんだからな」

流してる涙の意味が変わって、ボクはそう呟いた。
14/09/17 08:41更新 / アンノウン

■作者メッセージ
「今頃、あの二人は上手くやってるかしら? まぁ藤原君から恋愛相談を受けてて天宮さんが好きだって聞いてたし。大丈夫よね」
職員室でそんなことを思っているメロウ先生であった。

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