旅は道連れ
桜が咲き誇り、暖かい日差しの中で俺は一人の女性に声をかけられた。一目で大陸から来たとわかる奇抜な服装、赤い瞳に黄金色をした髪、そして何よりも俺は心の底から綺麗だと思った。
「なぁ、ボクの話を聞いているのかい?」
「あっごめん、見惚れてて聞いてなかったよ」
「見惚れる?あの見事に咲き誇っている薄いピンク色をした花をつけている木にか?」
多分、彼女は一面に咲いている桜のことを言っているのだろう。本当は俺が見惚れていたのはあの満開の桜よりもずっと綺麗な彼女に見惚れていたのだけれど、初対面の人に貴女に見惚れていたなんて言われても警戒されるだけなのだろうから、心の奥にしまっておく。
「まぁそんな所、それでなんだっけ?」
「この近くに宿が無いか探していたのだがちょうど良いところにキミがいたので聞こうと思っていたんだ」
「宿か……あるけど、多分空いてないと思うよ。俺が見てた木のことを桜って言うんだけど、この時期はこの村まであの花を見に来る人たちで賑わうからさ」
「ふむ、そうか確かに見るだけで価値はありそうな景色だものな。すまなかったな手間を取らせてしまって」
「あっちょっと待って、よかったら俺の家に泊まっていけばいいんじゃないかな?さっきちゃんと話を聞いていなかったお詫びも含めてさ」
「いや、話しかけただけのキミにそこまで迷惑をかける訳にはいかないよ」
「どうせ一人で暮らすには俺の家も広すぎるんだし、それに行く当ても無いんでしょ?」
「そうだけど……」
「だったら、いいじゃない」
俺はそう言って、強引にだが彼女を自分の家まで連れて行く。いつもならそんなに誘ったりはしないのだが、彼女とはどうしても一緒に居たいという気持ちが強かった。
「やはり、キミに迷惑をかけるのは申し訳なくてだな」
「ここまで来ちゃったんだから遠慮しないで入って入って」
彼女はしっかりと靴を脱いでから家に上がった。
「何をそんなに見ているんだ?もしかしてボクは無作法でもしてしまったか?」
「いや、大陸の人は靴を履いたまま家に上がるって聞いたからそこを言っておこうと思ったんだけど、しっかり脱いで上がってくれるからちょっと驚いただけだよ」
「まぁ、一応ジパングに行くと決めたときには作法とかを学んでおいていたからな。それでも無礼を働いてしまうと思うがその時は注意してくれると助かる」
「俺が見てる限りはしっかりとできてるから安心してよ。ところでさ、何でジパングに来ようと思ったの?」
「ここはボクたち魔物と共存していると聞いてな、見てみたいと思っていたんだ。それに季節が変わっていき非常に綺麗だとも聞いたから旅行もかねてな」
『ボクたち魔物』? 彼女が魔物であるようには俺には見えない。むしろ普通に大陸の人間だと思っていた。
「あの、俺にはキミが魔物だなんて思えないんだけど本当に?」
「あぁ、ボクはヴァンパイアの母上と人間の父上の間に生まれたれっきとした魔物だよ?ここでは隠す必要なんて無いと思うけれどね」
「へぇー、俺は言われるまで気づかなかったよ。でも、確かにここなら別に皆が受け入れてくれるから」
「そうだね、ボクも大陸よりはずっと楽をできてるからね」
そういって笑ってみせる彼女の姿はよりいっそう俺の彼女と離れたくないという気持ちを大きくしていった。
なんとなく、俺と彼女は日々を過ごしていく。
泊めた次の日には彼女がゆっくりと桜を見たいと言うから取って置きの場所へ連れて行って花見をしながら団子を食べたりした、初めて食べる団子の食感に彼女は驚いたりもしていたが、俺はそんな彼女の顔を見るだけでも満足できていた。
一日、また一日と彼女と過ごしていくうちに、俺は彼女に惹かれていった。それと同時に彼女が旅人であることを思い出して明日には旅に戻ってしまうかもしれないという不安が大きくなっていく、彼女が旅に戻る夢を見て泣いてしまう時もあった。
そして、彼女が俺の家に泊まったままいつの間にか夏になっていた。
「もう、だいぶ暑くなってきたな」
「そうだね、もう夏だからね本当に暑くなってきたね」
「それでだな、ボクがここに泊めて貰ってからずいぶんと経つだろう?」
「うん」
「ボクは元々は旅をしてる身でありながらずいぶんとここに長く居てしまった、だからな」
……嫌だ、きっとキミはこの先に『もう旅立とうと思う』なんていうつもりなんだろ?俺はそんなの聞きたくない。
「あの、キミが良かったらでいいんだがボクを来年まで。いや、ずっとキミと一緒に居させて欲しいのだけれど」
「えっ!」
自分の予想とはあまりにも違った答えに思わず声が出てしまった。でもそれは俺には嬉しすぎて少しの間、夢なんじゃないかと疑ってしまった。
「ダメ、かな?」
「いや、そんなこと無いよ。俺もキミの傍から離れたくないと思ってたから、俺でよければ」
そして彼女は感謝の言葉の変わりに俺と口付けを交わした。
「なぁ、ボクの話を聞いているのかい?」
「あっごめん、見惚れてて聞いてなかったよ」
「見惚れる?あの見事に咲き誇っている薄いピンク色をした花をつけている木にか?」
多分、彼女は一面に咲いている桜のことを言っているのだろう。本当は俺が見惚れていたのはあの満開の桜よりもずっと綺麗な彼女に見惚れていたのだけれど、初対面の人に貴女に見惚れていたなんて言われても警戒されるだけなのだろうから、心の奥にしまっておく。
「まぁそんな所、それでなんだっけ?」
「この近くに宿が無いか探していたのだがちょうど良いところにキミがいたので聞こうと思っていたんだ」
「宿か……あるけど、多分空いてないと思うよ。俺が見てた木のことを桜って言うんだけど、この時期はこの村まであの花を見に来る人たちで賑わうからさ」
「ふむ、そうか確かに見るだけで価値はありそうな景色だものな。すまなかったな手間を取らせてしまって」
「あっちょっと待って、よかったら俺の家に泊まっていけばいいんじゃないかな?さっきちゃんと話を聞いていなかったお詫びも含めてさ」
「いや、話しかけただけのキミにそこまで迷惑をかける訳にはいかないよ」
「どうせ一人で暮らすには俺の家も広すぎるんだし、それに行く当ても無いんでしょ?」
「そうだけど……」
「だったら、いいじゃない」
俺はそう言って、強引にだが彼女を自分の家まで連れて行く。いつもならそんなに誘ったりはしないのだが、彼女とはどうしても一緒に居たいという気持ちが強かった。
「やはり、キミに迷惑をかけるのは申し訳なくてだな」
「ここまで来ちゃったんだから遠慮しないで入って入って」
彼女はしっかりと靴を脱いでから家に上がった。
「何をそんなに見ているんだ?もしかしてボクは無作法でもしてしまったか?」
「いや、大陸の人は靴を履いたまま家に上がるって聞いたからそこを言っておこうと思ったんだけど、しっかり脱いで上がってくれるからちょっと驚いただけだよ」
「まぁ、一応ジパングに行くと決めたときには作法とかを学んでおいていたからな。それでも無礼を働いてしまうと思うがその時は注意してくれると助かる」
「俺が見てる限りはしっかりとできてるから安心してよ。ところでさ、何でジパングに来ようと思ったの?」
「ここはボクたち魔物と共存していると聞いてな、見てみたいと思っていたんだ。それに季節が変わっていき非常に綺麗だとも聞いたから旅行もかねてな」
『ボクたち魔物』? 彼女が魔物であるようには俺には見えない。むしろ普通に大陸の人間だと思っていた。
「あの、俺にはキミが魔物だなんて思えないんだけど本当に?」
「あぁ、ボクはヴァンパイアの母上と人間の父上の間に生まれたれっきとした魔物だよ?ここでは隠す必要なんて無いと思うけれどね」
「へぇー、俺は言われるまで気づかなかったよ。でも、確かにここなら別に皆が受け入れてくれるから」
「そうだね、ボクも大陸よりはずっと楽をできてるからね」
そういって笑ってみせる彼女の姿はよりいっそう俺の彼女と離れたくないという気持ちを大きくしていった。
なんとなく、俺と彼女は日々を過ごしていく。
泊めた次の日には彼女がゆっくりと桜を見たいと言うから取って置きの場所へ連れて行って花見をしながら団子を食べたりした、初めて食べる団子の食感に彼女は驚いたりもしていたが、俺はそんな彼女の顔を見るだけでも満足できていた。
一日、また一日と彼女と過ごしていくうちに、俺は彼女に惹かれていった。それと同時に彼女が旅人であることを思い出して明日には旅に戻ってしまうかもしれないという不安が大きくなっていく、彼女が旅に戻る夢を見て泣いてしまう時もあった。
そして、彼女が俺の家に泊まったままいつの間にか夏になっていた。
「もう、だいぶ暑くなってきたな」
「そうだね、もう夏だからね本当に暑くなってきたね」
「それでだな、ボクがここに泊めて貰ってからずいぶんと経つだろう?」
「うん」
「ボクは元々は旅をしてる身でありながらずいぶんとここに長く居てしまった、だからな」
……嫌だ、きっとキミはこの先に『もう旅立とうと思う』なんていうつもりなんだろ?俺はそんなの聞きたくない。
「あの、キミが良かったらでいいんだがボクを来年まで。いや、ずっとキミと一緒に居させて欲しいのだけれど」
「えっ!」
自分の予想とはあまりにも違った答えに思わず声が出てしまった。でもそれは俺には嬉しすぎて少しの間、夢なんじゃないかと疑ってしまった。
「ダメ、かな?」
「いや、そんなこと無いよ。俺もキミの傍から離れたくないと思ってたから、俺でよければ」
そして彼女は感謝の言葉の変わりに俺と口付けを交わした。
14/09/17 08:41更新 / アンノウン