読切小説
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耳と尻尾
「今日はこの予定通りに過ごすんだぞ」

少女が落書きのように書かれた予定表を少年に自慢げに見せる。少女はウルフ種特有の耳をうれしそうにピコピコと動かす、尻尾もパタパタと振っているのが分かる。

「どうせ、それ通りになんかいきっこないって。お前はどっか絶対ミスるんだからさ」

少年も笑いながら少女をからかう。少年にとっても少女にとっても当たり前の会話でいつまでもこんな日常が続くと思っているはずだ。

「違うもん、今日こそはミスんないもん」

そんなことを言う少女にはどこか抜けているところがあって、大勢の前ではしっかりしているが少年と二人っきりのときは安心してしまうのかよく失敗してしまう癖があった。

「まぁいいや、ミスったら俺が上手くカバーしてやるよ」

俺は少年にも少女にも見覚えがある、少年は昔の俺で、少女は俺がよく遊んでいた幼馴染のアヌビスなのだから。

もう少し、この懐かしい会話を見ていたい。そんなことを思っていても夢とは非常で俺の意思に関係なくこの懐かしい場面を消していってしまった。



目が覚めるともう少し夢を見ていたかったな、とぼんやりとした頭で思う。はっきりとした内容は思い出せないが楽しい夢だったことは確かだ。

こういう夢から覚めると必ず思うことがある、夢とは非常なものだ、と。

楽しい夢なんて起きればすぐに忘れてしまうのに、悪夢なら起きた後でもしっかり頭に焼き付いて忘れたくても忘れられないのだから。

俺はベッドから降りて机の上にあった煙草を一本取り出し、口にくわえる。そのまま煙草の近くに置いてあったライターで火をつけ煙を吸い込む。

煙は俺の肺へと入り、血液に溶けてすぐに頭にへと回りぼんやりとした頭を回転させる。

いつからだったろうか、格好付けだった煙草がなくてはならないものになったのは。最初は苦いとしか感じられなかった煙が銘柄によってかすかに変わる味が分かるようになってしまったのは。

そしてそのまま一本吸い終わると時計を確認する、午後二時を回っていた。

とりあえず腹が減ったので飯でも食おうかと思い煙草とライターをポケットに入れ居間へと向かう。

確か、今日は家族は出かけると言っていたはずだ。しょうがない、カップラーメンでも食べようか。そう思っていたとき、居間には昔に見慣れたピコピコ動く耳とフサフサの尻尾が居た。

「起きるのが遅いぞ、予定通りに事が進まないではないか」

お茶をすすりながら俺を確認すると同時に怒ってくる耳と尻尾。俺は訳が分からない。

「ふむ、お前しばらく見ない間に変わったな。髪の毛なんて茶髪に染めてしまって」

とりあえず、落ち着こう。そう思ってポケットから煙草を取り出す。

「煙草も吸うようになったのか、本当に変わったな」

オーバーなんだよリアクションが、耳と尻尾め。

「とりあえず昼ご飯を食べるだろ?今から準備してくる」

「そんなことよりも何で耳と尻尾……じゃなかった、お前が居るのかを知りたいんだが、俺は」

「母上から頼まれたのだ、留守にしている間お前の面倒を見てやってくれとな。できれば夜のお世話も頼むと」

自慢げに語る耳と尻尾。ってか母親、俺に彼女がいないからって変な手回しすんなよ。

「お前もそんなこと断ればよかったじゃないか、そんなに暇じゃないだろお前だって」

「案外暇なのだよ、休みというものはな。それにもう予定だって書いてしまったぞ」

そういって予定表を俺に見せてくる。



十二時 一緒に昼食をとる、お互いカップルのようにあーんとかやったりして食べさせたい。

十三時 懐かしい話で盛り上がる、そのまま昔のようなテンションでちゅっちゅらびゅらびゅ。

十四時 汗をかいたので二人でシャワー、そのまま風呂場でちゅっちゅらびゅらびゅ。

十五時 おやつを口移しで食べさせあう、そのままちゅっちゅらびゅらびゅ。

十六時 一緒に散歩、なつかしの公園でちゅっちゅらびゅらびゅ。

十七時 公園でバレ無いかと心配し、汗をかいたので再び二人でシャワー、そのままちゅっちゅらびゅらびゅ。

十八時 夕食をカップルのようにお互いに食べさせる、デザートは わ た し。

十九時 お互いの将来の夢を語る、そのまま子作り計画。同時に私が嫁になること確定。

二十時 二人でお風呂、そのままちゅっちゅらびゅらびゅ。

二十一時 就寝、ベッドの中でちゅっちゅらびゅらびゅ。



「させねーよ!!」

思わず大声を出す。なにこれ、ヤってしかないじゃん。このとおりに実行しても絶対俺の体力持たないっての。そもそも絶対阻止するぞ。

「何故だ!よく出来てるとは思わないのか?」

「自分で読み返したらどうだよ、その予定表をよ」

「どれ、ちゅっちゅらびゅら……ち、違うこれは裏予定表だ。ちゃんとした予定表は別に書いたはずだ」

どうやら目の前の淫獣は裏でこれを実行しようとしていたのか。でも、こういうちょっと抜けているところは昔と変わらなくてすこし安心した。

「何故笑うのだ、これはちょっとミスっただけなんだぞ」

「いや、お前昔からあんまり変わんないと思ってな、かなり淫乱になったが」

「そういう、お前だってあんま変わってないじゃないか、私のミスをフォローしてくれるのはお前だけなんだぞ」

ああ、そうか俺も自分で変わったと思い込んだだけで変わってないのか。そう思うとなんか安心した。

「とりあえず、今の言葉は俺はプロポーズとして受け取っていいのか?」

「えっ今のはそういう意味じゃなくてだな」

「まぁ、いいさミスったら俺が上手くカバーしてやるよ」

そういって彼女の頭をなでる。

耳は昔のようにうれしそうにピコピコと動き、尻尾もパタパタと振っていた。
14/09/17 08:42更新 / アンノウン

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