読切小説
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臆病風に吹かれて
生きる事は、ただ呼吸をすることではない、行動することだ。

昔の人はよくそんなことを考えたなと思う。だとしたら生きるためにする行動じゃなくて、死ぬためにする行動も生きると言えるのだろうか?

それならば、俺も今から少しの間だけ生きることができるな。生きているとも、死んでいるとも言えない俺も最後には生きてた事になる。

十分だ、最後に生きていたことになるなら、行動しよう。そう考えていたときに、来客を告げるチャイムが鳴った。ちょうど良かった、自分が生きていたことの証明人として中に招こう。

来客は腕が翼になっており爬虫類のような尻尾を持っていた。種族名は確かコカトリスだっただろうか?まぁ、どうでもいい事だ。

「ボクのこと、覚えてる……かな?」

彼女は頼りなさそうな声で聞いてきた。

俺は昔の、自信を持って生きていたと言える頃の記憶を探る、そこには顔見知り程度で話したことも無いが彼女の顔もあった。

俺は黙って首を縦に振った。

「よかった。ボクは君と話した事がないから、君が覚えているか不安だったんだ。」

彼女はホッとした様子で笑顔になった。

「ちょうど良かった、今から俺が生きたことを証明できる立会人が欲しかったんだ。」

俺は彼女に言った。彼女は意味がわからないと言いたそうな顔だったが、天井から垂れ下がるロープを見て俺が何をしようとしているのか理解したようだった。

「ふざけないでよ。」

彼女は大声で叫んだ。その声は今にも泣きそうなほどに震えていた。

「勇気を振り絞って、好きな人に告白しに来たのに、なんで……」

途中から彼女は泣いていた。泣かせたのは間違いなく俺だった、泣かせるために行動した訳ではないのに。

「死ぬ勇気があるなら、もっと臆病になってよ、死ぬことを怖がってよ、ボクにできることは何でもするから、生きようとしてよぉ。」

彼女が泣きながら叫んだ言葉は、俺に対する願いだった、望みだった、想いだった。

自分の頬に涙が伝うのを感じた、悲しくなんか無いのに、自分が必要とされて、生きることを求められて嬉しいのに、涙が溢れてくる。

彼女を抱きしめて、ありがとうと何度も呟いた。それは彼女へのお礼の言葉であり、これからも生きることの決意だった。

その日から俺と彼女は一緒に暮らした。俺が彼女に依存するかたちだったが、それで良かった、彼女と一緒にいれば死ぬことが怖くなった、彼女の為に行動することが、俺が生きることの証明になった。



今日も精一杯彼女の為に行動しよう、彼女と一緒に生きれることに感謝しながら。
14/09/17 08:45更新 / アンノウン

■作者メッセージ
この世で最大の不幸は、戦争や貧困などではありません。

人から見放され、「自分は誰からも必要とされていない」と感じる事なのです。

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