昔の話
『正義』とは自分を正当化する為の汚い言葉だ、少なくとも自分のために力を使うもの、それと自分のために力を使わせるものにとっては。
正義について カイ=ウェルツ
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たぶん僕が五歳ぐらいの時だった、僕は毎日のように近くにある公園に遊びに行っていたのだが、どうしても向かいの家で一人で遊んでいる人間の子が気になってしかたなかった、僕にはその子が寂しそうに見えたから。
「ねえ、君は暇なの?だったら一緒に公園で遊ばない?」
その日は勇気を出してその子を一緒に遊びに誘ったのだ。
「!!君…誰?」
いきなり話しかけたからか、相当びっくりしたらしい。
「私はレン。君の名前は?」
僕はその子の名前を聞いてみることにした。
「………」
返事が無い、もしかして聞こえなかったのだろうか?
「ねぇ、私に君の名前を教えてよ。」
今度は少し大きめの声を出してその子に言う。
「…僕は…カイ。」
その子…カイは僕に目を合わせないようにしてそういった。
僕が目を合わせようとするとカイが目をそらす、それが数回続た。
「…何がしたいの…君は。」
カイが鬱陶しそうに僕に言った。
「何って、私は君と目を合わせたいだけだよ。」
ただ聞かれただけだったから答えただけだった。
「どうでもいいだろ!!目を合わせても合わせなくても!!」
カイはそんな小さなことで怒鳴った。
「ごっごめん、あ!そうだ公園に行こう。」
僕はそういってカイを半ば強引に公園に連れて行った。
カイが少し震えてることも知らずに。
元々公園になんか行く気は無かった、無理やり連れてかれただけなのに…なんで。
「久しぶりだな、だんまり。」
喋らない、最初はあがって喋れなかった。
『だんまり』そんなあだ名を付けられてからは意図的に。
「おい!だんまり!無視すんなよ。」
喋らないから『だんまり』なのに無視するなだと、こいつは馬鹿なんじゃないかな?
「弱いものいじめをするなー!」
僕をここに連れてきた魔物の子のレンが大声で叫んだ。
「カイをいじめたら僕が容赦しないからな!!」
わけがわからなかった、関係ないはずのレンがなんで僕を助けてくれるのか。
とりあえず僕を馬鹿にしようとしてた奴等はレンが追い払ってくれた。
「あっありがとう。」
僕はお礼を言った、彼女がいなければたぶんそのまま馬鹿にされ続けていたから。
「ごめんね。」
なぜか謝られた、僕が感謝する立場であって謝られる立場ではないのに。
「何で君が謝るの?」
僕は彼女にそのことを尋ねた。
「だって僕は君が一人で遊んでいる理由も知らずに無理やりここに連れて来ちゃったから。」
彼女は申し訳なさそうにそういった。
「大丈夫だよ、君が一緒にいてくれたから…ってなんで『僕』って使ってるの!?」
今まで気づかなかった彼女が一人称を『私』から『僕』に変えていることに。
「だって君を守るのに『私』だったら格好つかないでしょ、それとこれからはずっと僕が君を守ってあげる。」
彼女は僕に『守ってあげる』そういってくれた。
多分、僕がレンのことを気になり始めたのはこのときからだろう。
「じゃあ、僕を守ってくれたお礼に僕の秘密を教えてあげる。でも、ここだとみんなに見られちゃうからついてきて。」
僕たちは公園から出て行った。
カイが連れて行ってくれたのは近くにある丘だった。
「ここはね、この丘でも誰も知らない場所なんだよ。だから二人だけの秘密だよ。」
カイが自慢げにそういって僕に笑顔を見せてくれた。
「静かなところだね。」
ここには僕たちの会話以外には木が風に揺られる音ぐらいしかない。
「いいところでしょ。あと、この石を見てて。」
カイは僕に片手に乗せた石を見せてきた。僕はその石をしっかりと見つめる。
少しするとその石がゆっくりと宙に浮いた。
「これが僕の秘密その二。」
カイは呪文詠唱もせずに石を浮かせた。
「えっと…今の…魔法?」
僕はわけもわからずにカイに質問する。
「違うよ魔法じゃない、僕のお父さんはこの能力のことをサイコキネシスって言ってた。」
おそらくカイは人間の中でも異端な部類なのだろう。
「ねぇ、そのサイコキネシスって他にどんなことができるの?」
「魔法に似たことは大体できるらしいけど僕はまだ小さな石を持ち上げるくらいしかできないんだ。」
僕の問いにカイはそう答えてくれた。
「僕はもっと、もーーーっと強くなって君を守ってあげる。」
そんなことを言ったカイに僕は少しずつ特別な感情を抱き始めていた。
英雄気分で助けたこの少年に恋をするなんて、この時の僕は思いもしなかった。
10/04/13 17:45更新 / アンノウン
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