連載小説
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前編
「……………………」
カツ、カツ…と石畳を鳴らし、買い物等で賑わう大通りを無言で歩く人間。
その靴音に他愛無い世間話に夢中になっていた魔物達はそそくさと道を開け、鬼ごっこに興じていた子供達も蜘蛛の子を散らすが如く逃げ出す。
一九〇センチという中々見る事の無い長身を包むは襟の立った純白のマント、品の良さを漂わせる白いスーツに白いスカーフ、更に真っ白な革靴。
目が痛くなる程に白で統一された服装だけ見れば貴族に見えるが、ある意味では怖い顔がソレを台無しにしている。
何故なら顔の上半分、口元だけが露出した無骨な鉄仮面を被っており、拷問用とも取れる鉄仮面の威圧感は半端ではない。

(まぁ、仕方あるまい)
歩いているだけで見事に避けられる様に、心中で諦めたような笑みを浮かべる。
一部を除き、この威圧感溢れる風貌で恐れぬモノはいない事を重々理解している。
威圧感溢れる仮面の人間の名は白城琴乃(シラギ・コトノ)……少女のような名前を持つが立派な男性であり、彼が歩く都市国家・アーカムでは知らぬ者はいない有名人だ。
尤も、良い意味ではなく悪い意味で、だが。



白城琴乃は敬愛する義父と七人の義兄弟達と共に科学万歳、魔法や魔物等のファンタジー要素とは無縁の世界に住んでいたが、ソレも一ヶ月と二週間前の話。
現在、琴乃は法が違えば理も違う、人間と魔物が共存する異世界で暮らしている。
而も、この世界の魔物は琴乃が想像していた魔物とは異なり、異形の部分はあれどもその姿は目を奪われる事間違い無しの美女なのだ。
更にこの世界の魔物は人間の男性を心から愛し、その男性との間に子供を作る事に無上の喜びを覚えると言う。
血肉を喰らって人間に害を為すというイメージを真っ向から否定する、この世界の魔物に随分と驚かされたが今はもう慣れた。
何故、そんな世界に琴乃は居るのかと言うと、ソレはこの世界の魔物を統べる魔王の娘、アステラ・フォン・ラブハルトに召喚されたからだ。

曰く、この世界の魔物は魔物を敵視する武装宗教組織・『教団』の新兵器に悩まされている。
その兵器とは全長一五メートル程の巨大ロボットとアンドロイド。
琴乃の住んでいた世界ではSF、ロボットアニメの産物がこの世界には存在するのだ。
この世界の技術が琴乃の住んでいた世界より発展しているなら納得出来るが、この世界の技術は魔法で進んでいる面はあっても琴乃の住んでいた世界で言えば中世と同レベル。
琴乃の住んでいた世界は勿論、現在彼の住む世界でも完全なオーバーテクノロジーである空想の産物に魔物達は悩まされている。
ソレに対抗する為に三人の義兄弟と共に琴乃はアステラに召喚され、魔物側の勇者として戦ってほしいと頼まれ、その頼みを彼等は引き受けた。
いや、引き受けるしかなかった……敬愛する義父の教え―戦う為の力が在る者は弱き者を護るべし―もあるが、当分元の世界に帰れないからだ。

アステラの頼みを引き受けた琴乃達は、魔物との共存を選んだ人間達や魔物の住む地域を攻撃する教団の迎撃に駆り出されている。
魔物側の勇者として戦う事になった琴乃がアーカムの住民に悪い意味で有名なのは、彼の戦闘スタイルが原因だ。
一言で言うなら『グロテスク』、琴乃の戦闘スタイルはとてもじゃないが勇者とは言えない代物で、幼い頃から見慣れている義兄弟達以外は感謝するよりも先に恐怖する。
威圧感溢れる鉄仮面、グロテスクな戦闘スタイル、この二つが護りたいと願う弱き者達を怖がらせてしまうのだ。
尤も、琴乃自身は己が評価を気にしていない……共に戦う義兄弟を含め、自分達は英雄や勇者等と呼ばれる人間ではない事を理解しているからだ。



「…………そうか。多忙な所、態々時間を割いてもらって済まない」
「力になれなくて済まんね、見かけたら教えてくれるように商売仲間に頼んでみるわ」
「あぁ、頼む……そうだ、労力に見合わぬとは思うが貴殿の懐に納めてくれ」
そんな琴乃の現在地はアーカムの商店街、そして行っているのは情報収集。
魔物の行商人―刑部狸という種族らしい―に一通り話を聞いた琴乃は、ズボンのポケットから出した三枚の銀貨を彼女に渡す。
「……毎度思うんだけど多いってば、コレ」
「人間に化け、反魔物派領に潜入するリスクを考えれば妥当な額だと思うが」
「まぁ、旦那がそう言うんだったら受け取るけど……」
琴乃の言葉に苦笑しながら、行商人は受け取った銀貨を懐に仕舞う……この銀貨、一枚で一般家庭なら一週間は何も困らず生活出来る代物で、ソレが三枚となると結構な額になる。
ソレだけの金額を払う事も惜しまない琴乃の頼みとは、一体何だろうか?

琴乃が行商人に頼んだのは行方知れずの義兄弟の行方調査だ。
琴乃は七男一女の義兄弟の四男、彼には三人の義兄と一人の義弟―尤も、彼を含めて全員『十七歳』なのだが―がいる。
この世界に召喚される時、自分を含めた四人は紫色の光に、残る四人は白い光に包まれ、紫色の光に包まれた方はアーカムに召喚されたが、残る四人の行方が分からない。
この事をアステラに話すと、
『多分、教団だな。連中には『異世界から召喚した者には勇者の素質が在る』って伝承があってさ。連中は万年人手不足、異世界の者を召喚して人材確保ってなぁ充分考えられる』
という推測混じりの答えに琴乃は即座に行動を開始した。

アステラを通じて、彼女の姉のデルエラ率いる過激派―大陸全ての土地を魔界に変える事を目的とした一派だ―の工作員と接触。
過激派は緩やかな魔物化を促す、所謂『呪われた装備品』を反魔物派領にばら撒いており、この装備品をばら撒く工作員を経由して自分達の情報を教団側へとリーク。
また、元から親魔物派領に居るという可能性を考慮して、親魔物派領を行脚する行商人に目撃情報の収集―ついでに尋ね人として義兄弟達の似顔絵も配布―を依頼。
そして、琴乃は毎日行商人が集まる区画に足を伸ばし、情報収集を頼んでいない行商人を見かければ情報収集を頼み、前から頼んでいた者を見かければ話を聞く。
無論、過激派の工作員にも情報収集を頼んでおり、調査結果を聞く事も忘れてはいない。

「……………………」
行商人達が集まる区画での情報収集を終えて魔王城に帰る琴乃の背中には、営業の成果が出ないサラリーマンの哀愁が漂っている。
気性の荒い魔物でも襲うのを躊躇う程にドンヨリとした暗黒オーラを放ち、その鉄仮面もあって琴乃の進路上に居る者達は一目散に逃げ出す。
もうお分かりだろう、今日も今日とて成果無しである。
(この世界に来てから一ヶ月半は経つが有力情報は皆無。既に分かりきっていたとはいえ、やはり堪えるな)
一九〇センチ以上の大男集団、コレで目立たない理由は無いのだが、それでも義兄弟達の行方は掴めない。
(考えられるのは……やはり、『ネルカティエ』か)
行方の掴めない義兄弟達……考えられる可能性の中で最も高確率なのが義兄弟達は一種の鎖国状態にあるネルカティエに居る、という可能性。

軍事都市・ネルカティエ。
アステラの姉であるデルエラが陥落させた、教団勢力圏内では二番目の規模を誇っていた宗教国家・レスカティエ。
教団は何度か奪還を試みたが失敗が続き、続く失敗に教団はレスカティエ奪還を諦めたが、それでも諦めきれない幹部達が中心になって作ったらしい。
都市として成立したのは一〇年前だが、ネルカティエには巨大ロボットとアンドロイドを開発した最新鋭を通り越した技術力を持つ。
巨大ロボットとアンドロイドが現れてからは工作員の潜入が尽く失敗、教団関係者という確かな身分証明を持たない人間は領土への立ち入りを禁じられているらしい。
一種の鎖国状態にあるネルカティエに居るのなら、情報が入ってこないのも納得出来る。
既に死亡している、この世界とは別の異世界に召喚された等も考えたが、ネルカティエ説以外は総じて確率が零に限りなく近く、琴乃はコレ等の可能性を除外している。

「そうなると、我々が潜入する……ん?」
アーカム城の義兄弟達と共にネルカティエへの潜入計画を練ろうか、と考えた時、非常に弱々しい魔力を感じた琴乃は視線を横に向ける。
其処には裏通りに続く路地……魔力は路地の奥から感じられ、ウィル・オー・ウィスプに魅入られた旅人のように琴乃は裏通りに続く路地に足を進める。
「コレは……」
路地の奥で琴乃が見つけたのはゴミ捨て場に捨てられた、ショーウィンドウに服を着せて飾られていそうな等身大の人形。
大きさは一六〇センチ程、球体関節が無ければ―若しくは、何かに隠れて見えなければ―死体に見える程に精巧な人形。
それなりに経っているのか、癖の無いロングストレートの銀髪や表面が埃やら汚れやらに塗れている。

「…………」
恐らく古くなって捨てられたと思しき、死体と見紛うばかりの精巧な人形に琴乃は口元に手を当てて考え込む。
淡いピンクの瞳が拾ってくれと訴えているように見える程に、この人形が妙に気になる。
此処で出会うのが運命と言わんばかりに、琴乃を強く惹きつける何かがこの人形にはある。
「…………」
虚ろな硝子の瞳と鉄仮面に隠された瞳がジッと見つめ合う。
どのくらい見つめ合っていたのだろうか、琴乃は人形を背負って来た道を逆戻りする。
「全く、傍から見れば変質者そのものだな」
そう、苦笑しながら。

×××

「……何やってんだ、オメェ」
何かを弄る琴乃の背後に立つ人物は彼に何をしているのかを尋ねる。
琴乃の背後に立つのはアステラ・フォン・ラブハルト。
琴乃をこの世界に召喚した張本人であり、魔王の五番目の娘であるリリムである。
白地に黒い縞の武骨な胸当てと肩当て、手には短い鉤爪が付いた同じ柄の籠手、白虎柄のグリーブの中に黒のズボンの裾を詰めた姿は軽装の女軍人。
事実、アステラは魔王軍の幹部で、教団からは『アーカムの白虎』と恐れられる武闘派だ。
琴乃が帰ってきたと聞き、彼に書類仕事を手伝ってもらおうと来てみたらこの状況である。
「改造だ」
アステラの問いに琴乃は振り返りもせず素っ気無く答える……琴乃の周囲には分解された人形の四肢や工具が散らばり、その中には大小様々な黒い球体が幾つも転がっている。

「改造って……その人形、どうするつもりだ?」
「戦闘に使う」
「……んじゃ、その丸いのは何だ?」
「強力磁石、提供は技術班」
「……磁石なんて、何に使うんだよ?」
「関節部に使用する」
「……鋼鉄ジ○グ?
「何故、貴様がソレを知っている」
アステラと短いやり取りをしつつ、人形の修理―改造?―を続ける琴乃。
表面の汚れを落とし、分解したパーツを弄り、関節に磁石を嵌め、パーツと磁石に魔術で強化を施し、を繰り返して徐々に完成形に近付けていく。
「取り敢えずは完成だ」
「見た目は……あんまり変わってねぇな」
修理、もとい改造の完了に琴乃は満足気な笑みを浮かべ、アステラは改造が終わって壁に靠れるように置かれた人形をジロジロと見つめる。
改造が終わった人形は改造前と比べて変化が殆ど無い、精々綺麗になった程度だ。

「外観は、な。各パーツに耐久強化の魔術を魔力鍍装(エンチャント)、東(アズマ)の氣を籠めた一撃が直撃しても表面に罅はおろか、歪みが生じない程の耐久性だ」
「東のパンチでソレェ? 頑丈過ぎだろ、ソレ」
藍香(アイカ)東、先日の教団の攻撃の際に魔物化した琴乃の義姉だ。
徒手空拳での戦いなら魔王の娘のアステラですら二発でKO、人間だった頃も相手を一撃で倒した事から元の世界では『現代の李書文(リ・ショブン)』とも呼ばれていた程の実力者。
そんな東の一撃を受けても平気という耐久性にアステラは呆れるしかない。
「あくまで想定上、実際に試してみなければ分からんが……それでも、生半可な達人ではそうなるのは確定事項だ。後はどうやって動かすか、だが……」
「ま、ソレは大丈夫だろ」
「ん? ソレはどういう」
改造が終わった人形を、あとはどうやって動かすか……その方法をどうするかで悩む琴乃にアステラは大丈夫だと答え、その答えに彼が首を傾げた瞬間だ。

「あ……あぁ……」
「なっ!?」
「にゃは、やっぱりそうなるか」
突然、人形が呻き声にも似た声を上げた事に琴乃は驚き、アステラはニヤリと笑う。
驚く琴乃と笑うアステラの前で怪異は続く……淡いピンク色の硝子の瞳が妖しい光を放ち、痙攣を起こしたように人形が小刻みに震える。
痙攣じみた震えが治まった直後、ぎこちない動きで人形がゆっくりと立ち上がる。
「○@*□$#¥&◇!?」
「…………? …………?」
突然動き始めた等身大の人形というホラー映画じみた状況に琴乃は言葉にならない呻きを上げ、人形はぎこちない動きで周囲を見渡す。
「…………あ」
「…………!」
琴乃と人形の目が合った。
「お……は、よう……ござ、います……ご主人、様……」
「……………………(ドサッ)」
「ぬぁ!? 気絶したぁ!」
ペコリとお辞儀する人形の姿、慌てるアステラの声を最後に琴乃は意識を手放した。



「ぬぅ……あの程度で気絶するとは、私とした事がなんと情けない」
「にゃはは〜」
「…………?」
気絶していたのは僅か数分……数分ながら気絶してしまった事に琴乃は呻き、アステラはカラカラと笑い、気絶させた本人―本人?―である人形は可愛らしく首を傾げる。
因みに琴乃とアステラはシックな丸テーブルを挟んでソファーに座り、人形は琴乃の座るソファーの後ろに立っている。
「アステラ、彼女……彼女、か? まぁ、いい。兎に角彼女は何者だ?」
「あぁ、コイツはリビングドール。オメェにも分かるように言うなら付喪神ってヤツさ」
背後に立つ人形を親指で指しながら琴乃は何故人形が動き出したのかをアステラに問い、聞かれるのが分かっていたアステラはスラスラと答える。

リビングドール、生きた人形。
情念の籠もった人形に魔力が宿る事で生まれる魔物であり、その出自故に所有者に愛され、大切にされる事に強い執着心を持つ彼女達は、所有欲を煽るような不思議な魅力を持つ。
気に入った人間を性的な意味で襲う以外にも人形の振りをして獲物を待つ事もあり、一度魅入られたら最後、二度と離れられなくなるらしい。
粗末に扱われて捨てられたか、大切に扱われて愛情を注がれたかの違いはあるが、総じて彼女達は所有者に愛される事を望むそうだ。

「ふむ、成程な」
「そういや、すっかり忘れてたけど……オメェ、何でコイツ拾ってきたんだ?」
その説明に納得して頷く琴乃に、アステラは彼の背後に立つリビングドール―正確には、魔物化する前の彼女だ―を拾ってきた理由を尋ねる。
ゴミ捨て場に捨てられていたのを態々拾って修理……もとい改造する程だ、何らかの理由は在るに違いない。
「何故拾ってきたのか、か……彼女が気になった、というのもあるが、一番の理由は私の『負担を減らす』為だな」
「オメェの負担? ……あぁ、あぁ、成程ね」
「…………?」
その理由に首を傾げるアステラだが、その意味が直ぐに分かったらしく苦笑混じりに納得、拾われた本人はその意味が分からずに首を傾げたままだ。

「んで、コイツの名前は」
「アルルカンだ」
「どうす……はい?」
このリビングドールの名前をどうする、と尋ねる途中で挟まれた琴乃の言葉にアステラは面食らったような表情を浮かべる。
「アルルカン、ソレが彼女の名前だ。尤も、彼女が気に入れば、の話だが……どうだ?」
「アルルカン? ソレが、私の、名前? アルルカン、アルルカン……」
『アルルカン』はどうだ、と琴乃は背後に立つリビングドールに振り返って尋ね、名無しの彼女は与えられた名前を何度も呟く。
そして、彼女は考えるような仕草を見せた後、
「アルルカン。はい、気に入り、ました」
朗らかで上品な笑みを琴乃に向ける。

「ふっ、気に入ってもらえて何よりだ。取り敢えず」
「取り、敢えず?」
「服を着せよう。何時までも全裸というのは目の毒だ」
「……………………」←耳まで真っ赤

×××

「アーカムは住宅街、商店街、工業区、中央区の四区画に分けられる。住宅街は庶民層と富裕層、商店街は取り扱っている商品毎に分けられている」
「工業区と中央区はどのような場所なのですか?」
「工業区は通称『職人街』、ドワーフやサイクロプスを中心に工芸品や武具を生産する区画。中央区は魔王城を中心に軍事施設が集まった区画、当然だが一般市民は基本的に立ち入り禁止だ」
その翌日、生まれたばかりのアルルカンの案内を兼ねて日課と化した情報収集に出た琴乃。
キョロキョロと周囲を見渡しながら、静々と琴乃の後を追うアルルカンは黒を基調としたロングスカートのメイド服。
メイド服に身を包むアルルカンと白いスーツを着る琴乃、二人の姿は傍から見れば貴族の息子とその付き人―威圧感溢れる鉄仮面が無ければ―にも見える。
興味津々といった感じで質問を繰り返すアルルカンに、琴乃は観光ガイド宛らにスラスラと彼女の質問に答えながら目的地を目指す。

「そう言えば、魔王様の御城は何だか貴族の御屋敷みたいですよね」
「確かに魔王城は城と言うより邸宅に見えるがソレは地下に機能を集中させた結果であり、地上部分は言わば見張り塔だ」
目的地へと向かう途中、振り返って魔王城を見るアルルカンに琴乃はアステラから聞いた話を彼女に聞かせる。
魔王城は巣の入口に見張り塔を建てた蟻の巣……何でも、度重なる戦火で老朽化した城を代替わりした際に大胆に改装し、城としての機能を地下に集中させたそうだ。
魔王城は有事の際の避難シェルターも兼ねており、アーカムのほぼ全域をカバーする程に広大な城内の七割近くが住民の生活スペース。
正直な話、城がシェルターを兼ねている、と言うよりは『シェルターの中に城がある』、といった感じだ。
因みに、地上の『見張り塔』だけでハリウッドスターの豪邸並に豪華だ。

「時は金なり、時間は有限だ。過ぎた時間は如何に大金を積んでも買い戻す事は不可能、迅速に行動するぞ」
「はい、ご主人様」
アルルカンの案内はついでであり、本来の目的は行方不明の義兄弟達の調査だ。
商店街の一角にある行商人達が集まる区画、行商人達が利用する宿屋街。
何時迎撃に駆り出されるか分からない以上、この二ヶ所を手早く回らなくてはならない。
速足で歩き出す琴乃、彼の後を追うアルルカン……結局今日も収穫は無く、アルルカンにアーカムを案内しただけだった。



「せいっ、やぁっ、たぁ!」
「ふむ、やはり動きが雑だな。動きは小さく、常に相手との最短距離を狙え」
「はいっ!」
誕生から二日目……アルルカンは人虎と組手を行っており、組手を行う二人の傍に控える琴乃とアステラはその様子をジッと見ている。
アルルカンが着ているのはアステラ直属部隊を示す白虎柄の防具一式、人虎は臍の下辺りからスリットの入った空色のワンピース。
懸命に人虎目掛けて腕を振るうアルルカン、彼女が一生懸命に頑張る様子に微笑みながら人虎は振るわれる拳を避け続ける。

さて、アルルカンと対峙する人虎には普通の人虎と異なる部分がある。
ソレは毛色……普通の人虎は黄金色に黒い縞だが、この人虎は空を思わせる青色に紺色の縞、アルルカンの拳を避ける度に靡くポニーテールも藍色と全身青尽くしだ。
この青い人虎が琴乃の義姉―と言っても、歳は同じだが―である藍香東であり、素手ならアステラをも凌ぐアーカムでもトップクラスの実力者である。

「いきなり東と組手ってハードル高過ぎねぇ?」
「時間を掛ければいい、というモノでもない。何時教団が攻撃してくるか分からん以上、アルルカンには少しでも早く戦う事に慣れてもらう必要がある」
生まれて二日目のアルルカンに東と組手をさせる、という暴挙にアステラは呆れたように肩を竦める。
先に一撃入れた方が勝ち、というルールで行われている組手だが、アルルカンの拳は東に掠りもせずに空を切るばかり。
一方、東は振り回される拳をまるで立ち上る煙のようにユラリ、ユラリと避け続ける。
「ふっ……」
アルルカンの拳が伸び切った隙に、ペシッ…と彼女の額に打ち込まれる東のデコピン。
だが、たかがデコピンとはいえ東がやれば
「うきゃあぁ!?」
猛スピードで走る車と衝突したかの如く吹き飛ぶ、最早デコピンとは言えない一撃と化す。

「きゅう〜……」
「我(オレ)の勝ち、だな」
デコピンとは言い難い一撃で吹き飛ばされて目を回すアルルカン、東は彼女の首根っこを掴んで立ち上がらせる。
因みに東は身長一八七センチ……琴乃達異世界組の中では彼女が『一番小さい』のだが、とても一七歳の少女とは思えぬ長身の持ち主である。
「まだ続けるか?」
「う、うぅ……」
闘志に溢れる笑み浮かべる東だが、圧倒的過ぎる実力差にアルルカンは眉を八の字にして目を潤ませている。

「挫けずに続ければ、何時か我に当てる事も出来よう。そうすれば、」
「……そうすれば?」
「『ご主人様』の褒美が貰えるかも知れんぞ?」
「頑張ります!」
「ん?」
そう言いながら東は琴乃に視線を向け、その視線にアルルカンはヤル気を再燃させるが、琴乃はチラリと向けられた視線の意味が分からなかった。
「では、続けるぞ」
「行きます!」
「参れ!」
その後、アルルカンと東の組手は一方的過ぎる展開を見かねたアステラに止められるまで続き、結果はアルルカンの惨敗に終わった。



「リッカ、頼んでいた品はどの程度進んだのだ?」
「ん? あぁ、白城か。『例のアレ』なら、まぁボチボチってところかな」
アルルカンと東の組手が終わり、二人がシャワーを浴びている頃。
二人と分かれた琴乃が向かっているのは魔王軍技術研究区、新技術や新兵器の開発・研究を行っている区画。
その一角、新兵器開発局を訪れた琴乃は何かの設計図と睨み合っていたドワーフ―リッカ、というらしい―に話し掛け、リッカは設計図から彼に視線を移す。
「アンタに頼まれた『アレ』、中々に技術者魂を擽らせるじゃないか」
「ふん、開発状況の報告を頼む」
『例のアレ』、が何かは分からないが、琴乃がリッカに頼んだ何かはドワーフの技術者魂を擽らせるモノらしい。
笑うリッカに琴乃は事務的な口調で『例のアレ』がどの程度進んだのかを尋ねる。

「つまんないねぇ。ま、『杭打ち』と『大砲』は試験運用やってから微調整するだけだ」
「『螺旋』はどうなっている?」
「あぁ〜、『螺旋』はちょいと難航気味。加速性と耐久性の釣り合いが中々取れなくてさ」
『杭打ち』、『大砲』、『螺旋』。
この三つが『例のアレ』の名前―名前、というよりはコードネームだろう―なのだろうが、その全貌が何なのかを知っているのはこの場に居る二人だけだ。
「まぁ、いい……突然で悪いが仕様変更だ」
( ゚Д゚)?
「……何だ、その変な顔は? 仕様変更と言っても『私が使う』のではなく、『アルルカンに使わせる』為の仕様変更だ」
突然の発言に面白おかしい表情を浮かべるリッカに、琴乃は何故? と問われる前に仕様変更の理由を彼女に告げる。

「アルルカンに使わせる、だって? 何でまた急に」
「アルルカンの方が有効活用出来ると判断したからだ……アルルカンは愛玩用ではなく、戦闘用に改造した人形が魔物化したという稀有な個体なのは知っているだろう?」
「まぁ、ねぇ……」
ソレはリッカも知っている。
アルルカンの関節に使われている磁石はリッカが提供した物であり、アルルカンが戦闘用の改造を受けた人形だった事もリッカは知っている。
「改造中は特に意識はしていなかったが、アステラの発言と今日の組手を思い出して、な」

『……鋼鉄ジ○グ?

突然の仕様変更はアステラの発言と今日の組手が切欠だ。
元々、アルルカンに磁石を使ったのは整備と修理を楽にする為で、琴乃はダイナミックで鋼鉄なアレを意識したつもりは無い。
まぁ、『アルルカンをどうやって動かすか』という問題もその時は忘れていたが。
そして、今日の組手の際にせめて一泡吹かせようとでも思ったのか、アルルカンは右腕の肘から先を発射―恐らく、同磁極の反発を利用したのだろう―したのだ。
尤も、東には避けられた上に腕の回収方法を考えていなかったのか、慌てて飛ばした腕を回収しようとした隙に頭を叩かれて終わったのだが。
『アルルカン、オメェ……腕、飛ばせんの?』
『はい、飛ばせるみたいです……東様に一発でもいいから当てたいなって思ったら、腕が飛んでいってしまいました』
どうやら無我夢中だったらしく、東とアステラは勿論、当の本人も『腕が飛んだ』という事実に驚きを隠せなかった。
その光景にある事を閃いた琴乃はソレを実現させる為、こうしてリッカの許を訪れたのだ。

「……という改修を頼む。偶然の代物なのかどうかは後日確認するが、コレを利用しない手は無い」
「ふぅん、異世界の人間は面白い事を考えるねぇ。了解、やってやろうじゃん」
その説明に納得するように頷き、琴乃が提示した改修案を聞いたリッカは楽しげな笑みを浮かべる。
リッカの目は新しい玩具を手に入れた子供の如くキラキラと輝いており、彼女の脳内では琴乃の提示した改修案を実現させる為の設計図が何枚も描かれているだろう。
(さて、そうなると……)
ヤル気を溢れさせるリッカに口端を僅かに上げた琴乃は、アルルカンのトレーニング内容を脳内で組み立てていた。

―コンコンッ
『アルルカンです。お邪魔しても宜しいでしょうか?』
唐突な来客は琴乃が去ってから数分後……控えめなノックにリッカは目を丸くして驚き、羽ペンを走らせる手を止めてしまう。
何故、此処に? と疑念抱くと同時にリッカは改修案の設計図を隠し―琴乃には完成まで秘密にしておけ、と言われたからだ―、急いで扉に向かう。
「直接、お会いになるのは初めてですね」
「え、あ、うん……で、何の用?」
扉を開ければ其処にはやはりアルルカン、上品な笑みと共にお辞儀をする彼女にリッカは何の用だと尋ねる。
「はい。リッカ様に作ってもらいたい物がありまして、こうして訪ねてきた次第です」
「ふぅん? 何を作ってほしいのかは知らないけど、取り敢えず中に入りなよ」
立ち話も何だから、とアルルカンを部屋の中に招き、彼女が作ってほしいと頼んだモノにリッカは溜息を吐く。
あぁ、また残業だ、と。

×××

「おぉ〜い、オメェ等居る」
「ん? 何の用だ?」
「ぎゃあぁぁ――――――――――――――!!」
さて、アルルカンの誕生から早くも一ヶ月。
琴乃達が訓練室に居ると聞いたアステラは訓練室を訪れ、『天井からニュッと顔を出した』琴乃に彼女は悲鳴を上げた。
「何だ、突然。何の用だと尋ねた瞬間に絶叫を上げるな」
「いきなり天井から現れれば、誰でもビビるわ! つぅか、何をしてんだ!?」
腹筋運動だ」
そう言う琴乃は天井の梁に足を掛けて蝙蝠の如くぶら下がっており、「ふんっ!」と気合の入った声と共に腹筋運動を繰り返す彼にアステラは溜息を吐いた。

「レスカティエに向かう、だと?」
「あぁ、デル姉ぇの要請でさ」
自主練を中断し、アステラに用件を尋ねた琴乃。
曰く、レスカティエの実質的支配者であるデルエラが援軍を要請したそうだ。
鎖国状態にあるネルカティエは兎も角、他の教団勢力圏には工作・諜報員が潜入しており、教団に何らかの動きが在れば逐一報告される。
ネルカティエを中心とした教団の大部隊がレスカティエに派兵される、という情報を入手したデルエラはアーカムに援軍を要請。
その要請を受け、アステラは直属部隊を率いてレスカティエに向かうそうだ。
「書類上、オメェ等はアテの直属部隊の所属。当然、アテと一緒にレスカティエに行く事になる」
琴乃達は書類上ではアステラの部下―尚、アルルカンもアステラ直属部隊に配属された―になっており、ソレを伝える為にアステラは訓練室を訪れたそうだ。

「……むぅ」
「ヘコむ必要はねぇぜ、東。今回の援軍にはヘルガも連れてくから」
「おぉ、そうか!」
レスカティエに向かうと聞いた東は虎耳を垂れさせ、見るからに消沈した様子を見せるが、アステラの言葉を聞いた途端破顔する。
ヘルガとは魔王軍内部でも名高い軍医であり、東の最愛の恋人でもある。
魔物にとって短い間でも伴侶と離れる事は苦痛であり、遠征の際は伴侶を同行させるのは魔王軍内部では常識なのだ。
「オメェは親魔物派で唯一、連中の切り札の『マキナ』を使えるんだ、頼りにしてるぜ」
「ふっ、任せておけ」
アステラの言葉に不敵な笑みを返す東。

先日の襲撃で東は魔物化したが、魔物化と同時に『ある力』に目覚めた。
その力とは『機神召喚(サモン・マキナ)』、ネルカティエが開発した巨大ロボットの召喚だ。
教団が『マキナ』と呼んでいる巨大ロボットの召喚を東が成功させた事にアーカムは勿論、大陸各地の親魔物派に衝撃を走らせた。
なにせ、今まで見届けるしかなかった脅威に対抗する為の力を得たのだ……東が召喚したマキナ・虎功夫(フゥクンフー)を研究すれば、何れ親魔物派もマキナを獲得する事が出来る。
マキナ登場から苦汁を舐めさせられていた親魔物派にとって、マキナを開発出来るようになれば、最大の反撃の好機となる。
尤も、現在唯一マキナを操れる東も何時、何処で、誰から学び、どうやって使えるようになったのかは分からないのだが。

「んじゃ、早速レスカティエに向かうぜ。転移魔法陣(ポータル)を使えばあっという間さ」
踵を返して訓練室から去るアステラの後を琴乃達は追う。
(……何だ、この胸騒ぎは? レスカティエに何があると言うのだ)
アステラの後を追いながら、琴乃はコレから起こる戦いに妙な胸騒ぎを覚えた。



「よっ、デル姉ぇ」
「いらっしゃい、こうして顔を合わせるのも久し振りね」
レスカティエに到着後、アステラは詰所に部隊を残してデルエラの私室を訪れた。
何処か禍々しさを漂わせる豪華な装飾品が随所に飾られた部屋は王族らしさを感じさせ、アステラの質素極まる部屋とは大違いである。
二人は姉妹だけあってよく似ており、二人の違いを挙げるならその身に纏う雰囲気。
アステラは言動から妖艶さよりも快活さを感じさせるが、デルエラは座しているだけでも情欲をそそらせる妖しさを漂わせている。
成程、何もせずとも敬虔な信者を親魔物派に引き摺りこむというのも納得出来る。
「早速で悪ぃけど、ソッチの状況を教えてくれ」
「そうね、世間話は連中を追い払った後にしましょう」

デルエラ配下の諜報員がその情報……ネルカティエを中心に近隣の教団の部隊を集結させ、レスカティエ奪還作戦を近々敢行する、という情報を入手したのは五日前の事だ。
嘗て何度も行われた奪還作戦、その全てはデルエラの下に降った元・勇者達を中心とした防衛部隊の前に失敗し続けたが今回は以前と状況が大きく異なる。
巨大ロボット・マキナとアンドロイド、この二つがレスカティエに攻め込んでくるのだ。
この事態にデルエラは万が一に備えて民間人をレスカティエに近い親魔物派領に避難させ、住民の避難は七割方完了しているそうだ。
現在、レスカティエに残っているのは避難途中の住民とデルエラ率いる防衛部隊、そして琴乃達を含めたアステラ直属部隊のみ。

「そう言えば、貴方達が来る少し前に六、七〇人くらいの団体様が来たのよ」
「はぁ?」
だと思われたが、実はそうでもなかった……こんな非常事態のレスカティエに団体が来た、というデルエラの言葉にアステラは開いた口が塞がらない。
「何で、こんな時に団体様が来るんだよ……」
「その団体様の代表……キザイア、と言ったかしら。彼女の話に因ると、ね」
曰く、この大所帯は避難民、ネルカティエ近辺の森で静かに暮らしていたセイレムという小さな集落の住人達。
一ヶ月前にネルカティエの攻撃を受けた事で集落を捨ててアーカムに向かう途中だったが、碌な準備も無しの強行軍で住民達の疲労はピークに達しそうであった。
其処で進路上にあったレスカティエで準備を整え、道中の疲れを癒すつもりだったそうだ。

「そのレスカティエが戦争の準備中だったのは、彼女達も知らなかったみたいね」
「あちゃ〜、運が悪い連中だなぁ」
休憩で立ち寄ったレスカティエが非常事態だった事はセイレムの住人達には想定外であり、その事を聞かされて驚くキザイアの顔が目に浮かんだ二人は苦笑する。
「んで? そのセイレムって集落から来た連中は?」
「強行軍で疲れ切っていたから、今は東区画の宿屋街で休ませているわ。疲れが取れ次第、避難させる予定よ」
「あっそ……んじゃ、連中を追い払った後、アーカムに向かう途中だったってソイツ等をアテが引き取るわ」
「お願いね、アステラ。ソレと部隊の配置だけど……」
その後、指揮系統や部隊の配置等を煮詰めていくアステラとデルエラ。
二人の脳内は如何にしてレスカティエを守りきるか、ソレだけだった。



「うへぇ、来たねぇ」
「あぁ……」
琴乃達がレスカティエを訪れてから三日後……住民の避難作業は完了し、セイレムからの避難民も逃がし、軍属しかいないレスカティエに敵が迫る。
レスカティエ外周部、城壁に立つ琴乃とアステラは迫りつつある軍勢に眉を顰める。
数は大凡五〇〇〇程と国を落とすには数が少ないが、質の高い精鋭ばかりを集めたのだと思われる。

教団と魔物の戦いは相手を誘惑の成否が戦局を決める……教団側は堪えられるかどうか、魔物側は堕とせるかどうか、その成否はそのまま自軍の戦力増減に繋がる。
誘惑成功は敵の戦力減少、自軍の戦力増強、更に伴侶のゲットと一石三鳥。
まぁ、コレは未婚の魔物の場合で、既に伴侶が居る魔物の場合は気絶させて終わりだが。
そして、戦力が減った上に相手は増える、というダブルパンチを教団側は貰う事になる。
その為、教団は防具に誘惑を防ぐ魔力鍍装をしたり、薬で強引に誘惑を無効化したり等、あの手この手で誘惑を防ごうとする。
然し、魔物の誘惑は同性愛者も問答無用で虜にする代物で、教団側の誘惑対策は焼け石に水程度の効果しか無かったが、ソレもマキナとアンドロイドの登場までだ。
アンドロイドには誘惑が通じず、気絶させようにも機械だから気絶しない。
マキナなら操縦席のハッチを抉じ開ければいいが、操縦席の明確な位置を掴めておらず、そもそも、操縦席の位置を掴む以前の問題としてどうやって接近するかが問題だ。
人間なら効果絶大な誘惑もアンドロイドとマキナには通用せず、ソレが親魔物派を劣勢に追い込んだ原因の一つである。

「うぅ〜ん……やっぱり、アイアンマンが結構いるなぁ」
「アイアンマンもそうだが……最大の懸念はマキナを何機投入してくるか、だ」
望遠鏡を片手にアステラは呟き、その呟きに琴乃は仮面の下で険しい表情を浮かべる。
アンドロイドなら琴乃の推測を基にした対抗策があるがマキナに関しては東が頼みの綱で、マキナが一、二機なら特に問題は無いがソレ以上投入されると些か厳しい。
マキナの動力が何なのか分からない以上、動力が切れれば只の大きな的に過ぎない。
教団にとってマキナが切り札ならいいのだが、使い捨て前提の量産可能な代物だとしたら、動力が切れるまで粘られた時点で自分達は終わりだ。
(連中にとって、マキナがおいそれと投入出来ない切り札ならいいのだが……)
教団の軍勢を前に、そう願わずにはいられない琴乃だった。



「白城さん! 敵の侵入を確認、迎撃をお願いします!」
「了解した、直ぐに出撃する。行くぞ、アルルカン!」
「はい!」
城壁から戻り、開戦を待つばかりだった琴乃の元に息を切らした伝令役のラージマウスが現れ、教団が内部に侵入してきたという報告を受けた彼はアルルカンと共に出撃する。
二人の担当はレスカティエの西側、嘗ては重税に喘ぐ貧民街だった区画だ。
今では単にこういった場所の方が落ち着く、誰にも邪魔されずに交わり続けたい夫婦達が住む区画であり、環境自体は改善されたが今でも乱雑に小屋のような家が並んでいる。
その乱雑さは地理に詳しい地元民でも時折迷う程で、予め最新の地図を脳内に叩き込んだ琴乃達や西側担当の部隊は兎も角、教団側はその乱雑さで迷いに迷う筈だ。

「アルルカン、『AG』は使用可能か?」
「初めての実戦運用ですが、大丈夫です」
西側直通の転移魔法陣に向かう途中、琴乃はアルルカンに『AG』は使えるのか、と問い、彼女の答えに口端が僅かに上がる。
『AG』完成から突貫で訓練した為不安だったが、自信に満ちた答えは実に頼もしい。
「ふっ……では、勝利を掴みに行くぞ」
「諒解です、ご主人様」
確認している間に西側直通の転移魔法陣に到着したらしい……二人の目前には淡い輝きを放つ魔法陣が地面に描かれており、二人は魔法陣へと乗る。
そして、二人は戦場へと跳んだ。
14/01/08 06:42更新 / 斬魔大聖
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