連載小説
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序章 招き
「皆さん、夕食が出来ましたよ!」
「おぉ、夕餉が出来たか」
居間で寛いでいた七人は、台所から聞こえた声に応じてゾロゾロと台所へと向かう。
台所に向かう七人は総じて身長が高い……その中で一番身長が低い少女でも一八〇センチ後半はあり、一番大きい者は約二五〇センチというギネス級の身長だ。
巨漢揃いの七人がゾロゾロと歩く様は、齢数百年の古木が歩いているようにも見える。
「さぁ、冷めないうちにどうぞ」
また、台所で巨漢七人を待っていた割烹着を纏う少年も、目算で一九〇センチ後半という破格の長身だ。

「ほら、紅蓮(グレン)、貴方はコッチです」
「ぬ、忝い」
「ぬぅっ! 一心(イッシン)、ソレは私が食べようとしていたオカズだぞ!」
「けぇっけけけけ、早い者勝ちってもんですよ」
「堯明(タカアキ)、済まないが醤油を取ってくれないか?」
「あぁ……」
「うむ、やはり武人(タケヒト)の作る飯は、ごふっ!
ぎ、ぎゃあぁぁ!? お、俺の飯が血塗れにぃ!?」
ワイワイと賑やかな―少々、賑やかとは程遠いトラブルが混じってはいるが―夕食。
オカズの取り合い、調味料の橋渡し等、何処の一般家庭でも見られる平和な一幕。


キイィィ―――…………ン


『ん?』
賑やかで和やかな夕食は、突然の耳鳴りで終わりを迎えた。
八人は一斉に顔を上げ、『今の耳鳴りは何だ?』と其々が其々の顔を見合わせる。
直ぐに治まった耳鳴りに首を傾げつつも、八人が夕食を再開させようとした瞬間だった。

キィイィイィィイイイィィィイイィィイィィイィイィィィイイィィン!!

「な……がぁ……!?」
「な、何だ!? この耳鳴りは!」
先程よりも強い耳鳴りが八人の耳に響く。
まるで耳の近くで黒板を思いっきり引っ掻いたような、甲高くて耳障りな高音。
超音波じみた耳鳴りに八人は耳を塞ぎ、悶え苦しむように頭を振り回す。
八人を襲う異変は耳鳴りだけでは終わらない……耳鳴りに悶え苦しむ八人を、二色の光がそっと包み込む。

「ぬ、おぉ……とうとう小生、天に召されるのかぁ……!?」
「ぎ、げひっ……地獄のお出迎えにしては……派手ですねぇ……」
「あぁ、糞っ……何なんだよ、この光はぁ!」
「く、うぅ……分かるのは、人智を超えた事態に……陥っている、という事だけか……」
一つは白、清廉な白、されど何処か怖気を感じさせる白。
瞼を容赦無く貫く白き光に包まれるは四人。
紅い神父服を纏う坊主、緑色のスーツを纏う痩躯。
黒革のツナギを纏う少年、モノトーンの服を纏う少年。

「紅蓮……一心……夜斗(ヤト)……勇一(ユウイチ)……!」
「コレは……まさか……!?」
「く、あぁ……一体、私達に……何が……!?」
「う、ぐぅ……が、あぁ……」
一つは紫、妖艶な紫、されど何処か慈愛を感じさせる紫。
身体を優しく覆う紫の光に包まれるは四人。
空色のワンピースを纏う少女、顔の上半分を覆う鉄仮面を被る少年。
淡い紫色の燕尾服を纏う少年、真っ黒な胴着を纏う巨漢。
白と紫、二つの光に包まれた八人。
光に包まれ、耳鳴りに悶え苦しむ八人の耳に、耳鳴りを裂いて異口同音の声が届く。


集え、我等の下に!


貫録溢れる低い声、若さ溢れる高い声。
二つの声が紡ぐ同じ言葉。
その言葉が響いた瞬間、光は前触れ無く消え、光に包まれた八人も消えた。
残されたのは未だに湯気を立ち上らせる、食べかけの夕食だけだった。
13/12/03 07:58更新 / 斬魔大聖
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