Extra Report.03 俺と皆と結婚式
〜交易都市・セレファイス〜
「………………」
俺、エヴァン・シャルズヴェニィは、人生最大の行事に挑んでいた。
めっちゃ緊張する、若しかしたら糞ガキの『GE』との戦いよりも緊張してる。
今、俺が着ているのは緑を基調にした普段着ではなく、眩しいくらいに純白なタキシード。
タキシードを着てても、黒眼鏡は相変わらず掛けてっから……タキシードに黒眼鏡、うん、見事なまでにチグハグな組み合わせだ
何で俺がタキシードを着てるのかって? 決まってんだろ?
け っ こ ん し き だ か ら だ!
而も、『友人・知人』の結婚式じゃなくて、『俺』の結婚式だ!
これで緊張しないでいられるかっての……知り合いの結婚式に参列するならまだしもさ、俺の結婚式なんだぞ。
「はぁ……緊張するなぁ……」
俺はネフレン=カの墓所からセレファイスに戻ってきてから、どういう経緯で結婚式を挙げる事になったのかを思い出していく……
×××
『此処が、セレファイス……噂は聞いていたけど、本当に活力に溢れた都市じゃない』
ネフレン=カの墓所から、我が故郷・セレファイスに戻ってきた俺達。
俺、フェラン、コラム、キーン、ボイドの五人に、ネフレン=カの墓所で関係を持ったホーヴァスを加えて、だ。
ネフレン=カの墓所の屍人都市の運営はどうすんだ、と出発前に聞いた所、
『大丈夫よ。出発前に超長距離用の通信球を渡しておいたから、此処からでも都市運営に関わる案件の処理は可能よ』
との事で、こうして俺達一行にホーヴァスが加わったんだ。
んで、ホーヴァスを加えた俺達一行はゲイリーの医療所ではなく、現在ローラさんの屋敷に滞在してる。
ゲイリーの押し掛け女房であるエルザを除いても、俺達六人が居候するにはゲイリーの医療所は流石に狭い。
大きめの宿屋に宿泊するという手もあったが、幾等余ってるとはいえ、ローラさんからの支援金を宿屋の宿泊費に充てるのは勿体ない。
思い切って、ちょっと大きめの家でも買おうかなぁ、と思ってたら
『なら、我の屋敷に来ると良い。我の屋敷には、使われていない部屋が大量にあるからな』
と、ローラさんに誘われ、お言葉に甘えさせてもらった。
ローラさんの屋敷へと移った俺達は、激動ばかりだった七ヶ月間の疲れを癒すようにノンビリとした毎日を送ってる。
いや、俺はノンビリとはちょっぴり程遠い毎日なんだが。
都市運営に関しては熟練たるローラさんの助言を受けながら、ホーヴァスは超長距離用の通信球を使ってネフレン=カの墓所の屍人都市の運営に励んでる。
んで、統治者としての仕事を終えたホーヴァスは、毎晩俺に宛がわれた部屋に訪れては交わりをねだってくる。
そして、毎回交わりの度に誰かが乱入―大抵はフェランだが―してきて、朝までシッポリ交わり続けるという、チ○コの乾かぬ毎日だったりする。
既に強力なインキュバスと化してるとはいえ、よく涸れないよなぁ、俺。
俺は何時か来る糞ガキ……オリバー・ウェイトリィとの決着に備えて、毎日フランシス様の指導をフェランとコラムと一緒に受けてる。
フランシス様の指導には俺を含めた何時もの三人に、キーンとホーヴァスが加わった。
尤も、統治者としての仕事があるから、ホーヴァスはあまり指導を受けられないが。
何で魔法が使えないキーンがフランシス様の指導を受けんのかなぁ、と不思議に思ってたら、キーンは『武装錬金』が使えるんだとフェランに教えられた時は本当に吃驚した。
まぁ、兎に角だ……俺とキーンは基礎中の基礎たる精神集中による魔力練成、フェランとコラムは何時も通りの魔法の体得に励んでる。
そんなこんなで早くも一年……何故か大人しい教団に不気味さを感じつつ、昼は魔法の鍛練、夜はウッフンアッハンな交わりという毎日を俺は送ってた。
この一年、色々あったなぁ。
フランシス様の勧めで昇級試験を受けたら、学徒級から一気に大導師級まで等級が上がって、『偉大なる八人』になったり。
俺が大導師級へ昇級した際、フランシス様は『偉大なる八人』の称号を俺に譲り、現在は俺達の指導をしながら悠々自適な隠居生活の真っ最中だ。
ローラさんが出産を迎え、無事に俺とローラさんの子供・セーラが産まれたり。
ゲイリーが怪しい研究で、また自分の医療所を吹っ飛ばしたり。
因みに、探検家としての活動は開店休業状態だったりする。
『エヴァンよ……我と結婚式を挙げようではないか』
発端は、この一言……部屋で寛いでた俺達の元に休憩中と思しきローラさんが訪れて、唐突に結婚式を挙げようと言ってきたんだ。
『ブホォッ!?』
『£$:%#〆∀&§*¥@○♀♂〒っ!?』
その唐突な言葉に俺は飲んでいた紅茶を盛大に吹き出し、セーラと遊んでたフェラン達も目を丸くして言葉になってない叫びを上げ、俺の娘たるセーラは可愛らしく首を傾げてる。
『エヴァンよ、何を驚いておるのだ?』
『ろ、ろろろ、ローラさんっ!? いきなり何を言ってるんすか!?』
驚くわっ! いきなり結婚式を挙げようなんて言われたら、誰でも驚くわっ!
『我が娘・セーラも産まれた、そろそろ住民達にも我と汝の関係を発表せねばならぬ』
うぐ、確かに……この一年、ローラさんの屋敷に出入りしてるから、街に出る度にヒソヒソと俺とローラさんの関係が何なのかを囁かれてるし。
『それに……我としても、『いい加減、意中の男を見つけて結婚しろ』等と、既婚の知人達から言われるのも面倒なのでな』
それもそうだよなぁ、最近ローラさん宛の手紙の中には『早く恋人を見つけて、結婚しろ』なんて書かれてるのもあった。
『故に、我と汝の関係を発表を兼ねて結婚式を挙げようぞ』
と、いう事で、ローラさんは仕事の合間を縫ってとは思えない手早さでテキパキと準備を整え、今に至る訳だ。
×××
「う、うぅぅ……本気で緊張するぞ、オイ……」
セレファイス郊外にある教会、新郎の控室で俺は緊張でメデューサの眼力で石化されたみてぇにカチコチに固まってた。
セレファイス領主のローラさんと結婚式を挙げる、それだけでもガチガチに緊張するのに、俺と結婚式を挙げるのはローラさん『だけ』じゃない。
俺は緊張の溜息を吐きながら、新婦の控室へと向かう事にした。
「あっ、エヴァンッ♪ 見て見てっ、ウェディングドレスッ!」
「このドレスを着るのも、懐かしいですね……」
「そう言えば、汝は元々ユニコーンであったな」
「…………♪」
「ぬ、ぬぅ……やはり、緊張するな……」
「ふふっ、一世一代の晴れ舞台でヘマをしないようにしなさい」
新婦の控室の扉を開けた俺の目に―いや、俺に目玉は無いんだけど―飛び込んできたのは、純白のウェディングドレスに身を包んだフェラン達。
そうだよ! ローラさんだけじゃなくて、フェラン達とも結婚式を挙げるんだよ!
『ローラだけ狡いっ! アタシも、エヴァンと結婚式挙げたいっ!』
何でこうなったのかというと、ローラさんが結婚式を挙げようと言った時に、フェランが自分も俺と結婚式を挙げたいと言い出したのが発端だ。
その一言で火が付いたんか、皆が俺と結婚式を挙げたいと騒ぎ始めたんだ。
俺を無視してフェラン達が騒ぎだし、騒ぎを静観してたローラさんの
『ふむ……ならば、全員まとめて挙げるとしよう』
という鶴の一声で、騒ぎは終息した。
「ねぇねぇ、エヴァン。アタシのドレスはどうかな? 似合ってるかな?」
新婦の控室に入ってきた俺を見つけたフェランが、ウェディングドレスの裾を汚さないようにしながら駆け寄ってくる。
そして、俺の前に立つとクルリと回り、ドレスの裾がフワリと舞い上がる。
「お、おぅ……似合ってる、似合ってる、んでもって綺麗だぞ」
あぁ、俺の語彙の貧相さが恨めしい……こんな時ぐらい、気取った言葉を吐けよ、俺。
「えへへ♪」
だが、俺の言葉が本心から出た言葉だというのが分かったのか、フェランは頬を赤くする。
何だかんだで、フェランとは付き合いが長い……今思えば、あの奇妙な遺跡でフェランと出会わなかったら、こうして皆と結婚式を挙げるなんて事は無かった。
それどころか、こうして皆と出会う事も無かった。
皆と出会ってなけりゃ、『今の俺』とは違う『俺』になってた。
そう考えると、フェランは恋の天使って事になるな……って、うをおぅ、自分で言ったくせに凄い恥ずかしいぞ、畜生。
そもそも、ローラさんとホーヴァス以外は強姦紛いの交わりで男女の関係を持ったから、恋とは全然呼べんが。
「あら、綺麗なのはフェランだけなのかしら?」
耳聡く聞いてたらしい……ホーヴァスが気品に溢れる優雅な足取りで俺に近付き、俺へ近付くホーヴァスに釣られるように皆が俺の元に近付いてくる。
勿論、ウェディングドレスという一世一代の晴れ姿への賛辞が目的だろうが。
「ははっ!」
こうしてフェラン達に囲まれた俺は笑う、皆に出会えた事を心から感謝するように。
×××
『偉大なる八人』エヴァン・シャルズヴェニィ氏の多重婚について
新魔王歴二七一年 籠手月(七月)ノ二七日。
将来有望と注目される探検家にして、二一歳という若さで『偉大なる八人』へと加わった天才魔法使いであるエヴァン氏が結婚したという情報を得た。
結婚の相手はエキドナのローラ氏……王魔界・アーカムに次ぐ、第二の首都とも呼ばれる交易都市・セレファイスの領主である。
注目を浴びるエヴァン氏が、小さな田舎都市でしかなかったセレファイスを大陸最大級の都市へ発展させたローラ氏と結婚しただけでも驚きだが、驚くのはまだ早かった。
なんと、エヴァン氏はローラ氏の他にも五人の魔物と同時に結婚したのである。
ローラ氏以外の結婚の相手は、ダークマターのフェラン氏、バイコーンのコラム氏、サハギンのキーン氏、ドラゴンのボイド氏、ヴァンパイアのホーヴァス氏。
キーン氏を除く、五人の花嫁達は個体数の少ない稀少種族か、魔物の中でも上位に位置する実力者である。
だが、ローラ氏はエキドナ、夫に対する強い独占欲で有名なラミア種の最上位種である。
エヴァン氏の多重婚に強い不満があると思われていたが、エヴァン氏の妻の一人であり、一夫多妻を奨励するバイコーンのコラム氏の影響か、不満は皆無のようである。
また、キーン氏は昨今珍しい『白い』サハギンであり、私が独自に入手した情報に因れば、彼女の出身はングラネク山脈近辺に伝わる伝説の地底湖らしい。
ングラネク山脈の地下には淡水・海水問わず、水棲の魔物達が暮らす地底湖があるという伝説があるが、その伝説は信憑性に欠けた眉唾物として長年疑われてきた。
ソレが真実なら、キーン氏は存在を疑われた伝説が実在する事を証明する生き証人である。
その事を考慮すれば、エヴァン氏の花嫁達は錚々たる顔ぶれである。
錚々たる顔ぶれであるハーレムを作ったエヴァン氏の多重婚をどう思うか、私は親魔物派の独身男性、及び独身魔物の反応を調査した。
その結果、独身男性の意見中、『モゲろ』、『死ねばいいのに』の意見が其々四割半で拮抗し、残る一割は『自分と代われ』という意見を示した。
一方、独身魔物の意見は『バイコーンが居るから、仕方ない』という意見が七割を占めている。
私はエヴァン氏に取材を敢行、花嫁達との馴れ初めを質問してみたが、何故かローラ氏以外の馴れ初めは黙秘されてしまったので、此処ではローラ氏との馴れ初めのみを記す。
エヴァン氏の母であり、『探検女王』と呼ばれたアリシア・シャルズヴェニィ氏とローラ氏は種族を超えた親友同士だった。
エヴァン氏が生後三ヶ月を迎えた時、ローラ氏は彼が成人した際に婿として貰う事をアリシア氏と約束、その約束を切欠に結婚を前提とした交際を始めたそうだ。
尤も、アリシア氏と交わされた約束をローラ氏本人から話されるまで、エヴァン氏はこの事を全く知らなかったそうである。
ローラ氏と交際を始めた時、エヴァン氏は既にフェラン氏とコラム氏との間に肉体関係を築いていたそうだが、ローラ氏はソレを容認した上で彼と交際していたそうである。
『偉大なる八人』のエヴァン氏が、これからどのような新婚生活を営むのか?
私はエヴァン氏の動向を常に調査し、この調査結果を執筆活動に活かしたいと思う。
〜とある小説家が残した手記から抜粋〜
×××
〜『人類の護符』本拠地・ゴーツウッド〜
「さぁて……準備は出来てるかぁっ、野郎共ぉ!」
エヴァンが結婚式を挙げ、セレファイス住民から嫉妬混じりの祝福を浴びていた頃。
オリバー・ウェイトリィは兇悪な笑みを浮かべて叫ぶ。
オリバーが立っているのは『人類の護符』の本拠地・ゴーツウッドに建造された砦の城壁、彼の眼下には大勢の構成員が並んでいる。
並ぶ構成員の目には意思の光は無く、虚ろな目で城壁に立つオリバーを見上げている。
いや、意思は無くとも、感情は在った……魔物を一匹残らず殲滅するという、最早狂気に等しき使命感が構成員の目に宿っている。
「この一年、僕達は歯痒い思いをしてきた! 屑共を一匹残らずブッ殺す為に、この僕が生み出した『魔物娘捕食者』が全部ブッ壊されたからだ!」
城壁に立つオリバーは叫ぶ、純粋な狂気を宿した目で見上げる構成員達に。
「偉大な神様から与えられた使命を進められなかった! たった一年、その一年がぁ! 僕達『人類の護符』には惜しいにも関わらずに、だ!」
オリバーは叫ぶ、使命を果たせなかった無念を。
「だがなぁ、その一年の鬱憤を晴らす時がやってきたぜぇ! 僕達の使命を果たす時が、コレから再び始まるんだぁ!」
オリバーは叫ぶ、その無念を晴らす時が来たと。
「この一年の鬱憤を晴らす、記念すべき場所は……親魔物派領・セレファイス! そうだ、あのクソッタレ、憎きエヴァン・シャルズヴェニィが住む都市だ!」
オリバーは叫ぶ、狂気に等しき使命を再開させる号砲を鳴らす土地の名を。
「行くぜ、野郎共ぉ! 魔物は一匹残らず滅べ! 現世は神様と人間だけで支配する! ソレを屑共を知らしめる、聖戦を派手におっ始めるぜぇ!」
腕を振り上げて聖戦の開幕を叫ぶオリバーに、意思持たぬ構成員達は腕を振り上げて歓喜の咆吼を上げる。
咆吼を上げた狂信者の軍勢は進む、進む、進む、魔物に仇為す怪物達を引き連れて。
一糸乱れぬ、不気味な動きで進む、進む、進む、透明で純粋なる狂気を胸に宿して。
「さぁ、さぁ! 決着付けようぜぇ、エヴァン・シャズヴェニィ! テメェを慕う屑共を殺してやってくださいってお願いしたくなる程嬲ってから、テメェをブッ殺してやらぁ!」
進む狂信者の隊列を見下ろしながら、オリバーは叫ぶ。
蓄積されたエヴァンへの殺意を、憎悪を、怨嗟を、オリバーは叫ぶ。
狂信者の軍勢が迫る、因縁の決着を付ける為に。
狂信者の軍勢が迫る、世界の命運を決する為に。
Extra Report.03 俺と皆と結婚式 Closed
「………………」
俺、エヴァン・シャルズヴェニィは、人生最大の行事に挑んでいた。
めっちゃ緊張する、若しかしたら糞ガキの『GE』との戦いよりも緊張してる。
今、俺が着ているのは緑を基調にした普段着ではなく、眩しいくらいに純白なタキシード。
タキシードを着てても、黒眼鏡は相変わらず掛けてっから……タキシードに黒眼鏡、うん、見事なまでにチグハグな組み合わせだ
何で俺がタキシードを着てるのかって? 決まってんだろ?
け っ こ ん し き だ か ら だ!
而も、『友人・知人』の結婚式じゃなくて、『俺』の結婚式だ!
これで緊張しないでいられるかっての……知り合いの結婚式に参列するならまだしもさ、俺の結婚式なんだぞ。
「はぁ……緊張するなぁ……」
俺はネフレン=カの墓所からセレファイスに戻ってきてから、どういう経緯で結婚式を挙げる事になったのかを思い出していく……
×××
『此処が、セレファイス……噂は聞いていたけど、本当に活力に溢れた都市じゃない』
ネフレン=カの墓所から、我が故郷・セレファイスに戻ってきた俺達。
俺、フェラン、コラム、キーン、ボイドの五人に、ネフレン=カの墓所で関係を持ったホーヴァスを加えて、だ。
ネフレン=カの墓所の屍人都市の運営はどうすんだ、と出発前に聞いた所、
『大丈夫よ。出発前に超長距離用の通信球を渡しておいたから、此処からでも都市運営に関わる案件の処理は可能よ』
との事で、こうして俺達一行にホーヴァスが加わったんだ。
んで、ホーヴァスを加えた俺達一行はゲイリーの医療所ではなく、現在ローラさんの屋敷に滞在してる。
ゲイリーの押し掛け女房であるエルザを除いても、俺達六人が居候するにはゲイリーの医療所は流石に狭い。
大きめの宿屋に宿泊するという手もあったが、幾等余ってるとはいえ、ローラさんからの支援金を宿屋の宿泊費に充てるのは勿体ない。
思い切って、ちょっと大きめの家でも買おうかなぁ、と思ってたら
『なら、我の屋敷に来ると良い。我の屋敷には、使われていない部屋が大量にあるからな』
と、ローラさんに誘われ、お言葉に甘えさせてもらった。
ローラさんの屋敷へと移った俺達は、激動ばかりだった七ヶ月間の疲れを癒すようにノンビリとした毎日を送ってる。
いや、俺はノンビリとはちょっぴり程遠い毎日なんだが。
都市運営に関しては熟練たるローラさんの助言を受けながら、ホーヴァスは超長距離用の通信球を使ってネフレン=カの墓所の屍人都市の運営に励んでる。
んで、統治者としての仕事を終えたホーヴァスは、毎晩俺に宛がわれた部屋に訪れては交わりをねだってくる。
そして、毎回交わりの度に誰かが乱入―大抵はフェランだが―してきて、朝までシッポリ交わり続けるという、チ○コの乾かぬ毎日だったりする。
既に強力なインキュバスと化してるとはいえ、よく涸れないよなぁ、俺。
俺は何時か来る糞ガキ……オリバー・ウェイトリィとの決着に備えて、毎日フランシス様の指導をフェランとコラムと一緒に受けてる。
フランシス様の指導には俺を含めた何時もの三人に、キーンとホーヴァスが加わった。
尤も、統治者としての仕事があるから、ホーヴァスはあまり指導を受けられないが。
何で魔法が使えないキーンがフランシス様の指導を受けんのかなぁ、と不思議に思ってたら、キーンは『武装錬金』が使えるんだとフェランに教えられた時は本当に吃驚した。
まぁ、兎に角だ……俺とキーンは基礎中の基礎たる精神集中による魔力練成、フェランとコラムは何時も通りの魔法の体得に励んでる。
そんなこんなで早くも一年……何故か大人しい教団に不気味さを感じつつ、昼は魔法の鍛練、夜はウッフンアッハンな交わりという毎日を俺は送ってた。
この一年、色々あったなぁ。
フランシス様の勧めで昇級試験を受けたら、学徒級から一気に大導師級まで等級が上がって、『偉大なる八人』になったり。
俺が大導師級へ昇級した際、フランシス様は『偉大なる八人』の称号を俺に譲り、現在は俺達の指導をしながら悠々自適な隠居生活の真っ最中だ。
ローラさんが出産を迎え、無事に俺とローラさんの子供・セーラが産まれたり。
ゲイリーが怪しい研究で、また自分の医療所を吹っ飛ばしたり。
因みに、探検家としての活動は開店休業状態だったりする。
『エヴァンよ……我と結婚式を挙げようではないか』
発端は、この一言……部屋で寛いでた俺達の元に休憩中と思しきローラさんが訪れて、唐突に結婚式を挙げようと言ってきたんだ。
『ブホォッ!?』
『£$:%#〆∀&§*¥@○♀♂〒っ!?』
その唐突な言葉に俺は飲んでいた紅茶を盛大に吹き出し、セーラと遊んでたフェラン達も目を丸くして言葉になってない叫びを上げ、俺の娘たるセーラは可愛らしく首を傾げてる。
『エヴァンよ、何を驚いておるのだ?』
『ろ、ろろろ、ローラさんっ!? いきなり何を言ってるんすか!?』
驚くわっ! いきなり結婚式を挙げようなんて言われたら、誰でも驚くわっ!
『我が娘・セーラも産まれた、そろそろ住民達にも我と汝の関係を発表せねばならぬ』
うぐ、確かに……この一年、ローラさんの屋敷に出入りしてるから、街に出る度にヒソヒソと俺とローラさんの関係が何なのかを囁かれてるし。
『それに……我としても、『いい加減、意中の男を見つけて結婚しろ』等と、既婚の知人達から言われるのも面倒なのでな』
それもそうだよなぁ、最近ローラさん宛の手紙の中には『早く恋人を見つけて、結婚しろ』なんて書かれてるのもあった。
『故に、我と汝の関係を発表を兼ねて結婚式を挙げようぞ』
と、いう事で、ローラさんは仕事の合間を縫ってとは思えない手早さでテキパキと準備を整え、今に至る訳だ。
×××
「う、うぅぅ……本気で緊張するぞ、オイ……」
セレファイス郊外にある教会、新郎の控室で俺は緊張でメデューサの眼力で石化されたみてぇにカチコチに固まってた。
セレファイス領主のローラさんと結婚式を挙げる、それだけでもガチガチに緊張するのに、俺と結婚式を挙げるのはローラさん『だけ』じゃない。
俺は緊張の溜息を吐きながら、新婦の控室へと向かう事にした。
「あっ、エヴァンッ♪ 見て見てっ、ウェディングドレスッ!」
「このドレスを着るのも、懐かしいですね……」
「そう言えば、汝は元々ユニコーンであったな」
「…………♪」
「ぬ、ぬぅ……やはり、緊張するな……」
「ふふっ、一世一代の晴れ舞台でヘマをしないようにしなさい」
新婦の控室の扉を開けた俺の目に―いや、俺に目玉は無いんだけど―飛び込んできたのは、純白のウェディングドレスに身を包んだフェラン達。
そうだよ! ローラさんだけじゃなくて、フェラン達とも結婚式を挙げるんだよ!
『ローラだけ狡いっ! アタシも、エヴァンと結婚式挙げたいっ!』
何でこうなったのかというと、ローラさんが結婚式を挙げようと言った時に、フェランが自分も俺と結婚式を挙げたいと言い出したのが発端だ。
その一言で火が付いたんか、皆が俺と結婚式を挙げたいと騒ぎ始めたんだ。
俺を無視してフェラン達が騒ぎだし、騒ぎを静観してたローラさんの
『ふむ……ならば、全員まとめて挙げるとしよう』
という鶴の一声で、騒ぎは終息した。
「ねぇねぇ、エヴァン。アタシのドレスはどうかな? 似合ってるかな?」
新婦の控室に入ってきた俺を見つけたフェランが、ウェディングドレスの裾を汚さないようにしながら駆け寄ってくる。
そして、俺の前に立つとクルリと回り、ドレスの裾がフワリと舞い上がる。
「お、おぅ……似合ってる、似合ってる、んでもって綺麗だぞ」
あぁ、俺の語彙の貧相さが恨めしい……こんな時ぐらい、気取った言葉を吐けよ、俺。
「えへへ♪」
だが、俺の言葉が本心から出た言葉だというのが分かったのか、フェランは頬を赤くする。
何だかんだで、フェランとは付き合いが長い……今思えば、あの奇妙な遺跡でフェランと出会わなかったら、こうして皆と結婚式を挙げるなんて事は無かった。
それどころか、こうして皆と出会う事も無かった。
皆と出会ってなけりゃ、『今の俺』とは違う『俺』になってた。
そう考えると、フェランは恋の天使って事になるな……って、うをおぅ、自分で言ったくせに凄い恥ずかしいぞ、畜生。
そもそも、ローラさんとホーヴァス以外は強姦紛いの交わりで男女の関係を持ったから、恋とは全然呼べんが。
「あら、綺麗なのはフェランだけなのかしら?」
耳聡く聞いてたらしい……ホーヴァスが気品に溢れる優雅な足取りで俺に近付き、俺へ近付くホーヴァスに釣られるように皆が俺の元に近付いてくる。
勿論、ウェディングドレスという一世一代の晴れ姿への賛辞が目的だろうが。
「ははっ!」
こうしてフェラン達に囲まれた俺は笑う、皆に出会えた事を心から感謝するように。
×××
『偉大なる八人』エヴァン・シャルズヴェニィ氏の多重婚について
新魔王歴二七一年 籠手月(七月)ノ二七日。
将来有望と注目される探検家にして、二一歳という若さで『偉大なる八人』へと加わった天才魔法使いであるエヴァン氏が結婚したという情報を得た。
結婚の相手はエキドナのローラ氏……王魔界・アーカムに次ぐ、第二の首都とも呼ばれる交易都市・セレファイスの領主である。
注目を浴びるエヴァン氏が、小さな田舎都市でしかなかったセレファイスを大陸最大級の都市へ発展させたローラ氏と結婚しただけでも驚きだが、驚くのはまだ早かった。
なんと、エヴァン氏はローラ氏の他にも五人の魔物と同時に結婚したのである。
ローラ氏以外の結婚の相手は、ダークマターのフェラン氏、バイコーンのコラム氏、サハギンのキーン氏、ドラゴンのボイド氏、ヴァンパイアのホーヴァス氏。
キーン氏を除く、五人の花嫁達は個体数の少ない稀少種族か、魔物の中でも上位に位置する実力者である。
だが、ローラ氏はエキドナ、夫に対する強い独占欲で有名なラミア種の最上位種である。
エヴァン氏の多重婚に強い不満があると思われていたが、エヴァン氏の妻の一人であり、一夫多妻を奨励するバイコーンのコラム氏の影響か、不満は皆無のようである。
また、キーン氏は昨今珍しい『白い』サハギンであり、私が独自に入手した情報に因れば、彼女の出身はングラネク山脈近辺に伝わる伝説の地底湖らしい。
ングラネク山脈の地下には淡水・海水問わず、水棲の魔物達が暮らす地底湖があるという伝説があるが、その伝説は信憑性に欠けた眉唾物として長年疑われてきた。
ソレが真実なら、キーン氏は存在を疑われた伝説が実在する事を証明する生き証人である。
その事を考慮すれば、エヴァン氏の花嫁達は錚々たる顔ぶれである。
錚々たる顔ぶれであるハーレムを作ったエヴァン氏の多重婚をどう思うか、私は親魔物派の独身男性、及び独身魔物の反応を調査した。
その結果、独身男性の意見中、『モゲろ』、『死ねばいいのに』の意見が其々四割半で拮抗し、残る一割は『自分と代われ』という意見を示した。
一方、独身魔物の意見は『バイコーンが居るから、仕方ない』という意見が七割を占めている。
私はエヴァン氏に取材を敢行、花嫁達との馴れ初めを質問してみたが、何故かローラ氏以外の馴れ初めは黙秘されてしまったので、此処ではローラ氏との馴れ初めのみを記す。
エヴァン氏の母であり、『探検女王』と呼ばれたアリシア・シャルズヴェニィ氏とローラ氏は種族を超えた親友同士だった。
エヴァン氏が生後三ヶ月を迎えた時、ローラ氏は彼が成人した際に婿として貰う事をアリシア氏と約束、その約束を切欠に結婚を前提とした交際を始めたそうだ。
尤も、アリシア氏と交わされた約束をローラ氏本人から話されるまで、エヴァン氏はこの事を全く知らなかったそうである。
ローラ氏と交際を始めた時、エヴァン氏は既にフェラン氏とコラム氏との間に肉体関係を築いていたそうだが、ローラ氏はソレを容認した上で彼と交際していたそうである。
『偉大なる八人』のエヴァン氏が、これからどのような新婚生活を営むのか?
私はエヴァン氏の動向を常に調査し、この調査結果を執筆活動に活かしたいと思う。
〜とある小説家が残した手記から抜粋〜
×××
〜『人類の護符』本拠地・ゴーツウッド〜
「さぁて……準備は出来てるかぁっ、野郎共ぉ!」
エヴァンが結婚式を挙げ、セレファイス住民から嫉妬混じりの祝福を浴びていた頃。
オリバー・ウェイトリィは兇悪な笑みを浮かべて叫ぶ。
オリバーが立っているのは『人類の護符』の本拠地・ゴーツウッドに建造された砦の城壁、彼の眼下には大勢の構成員が並んでいる。
並ぶ構成員の目には意思の光は無く、虚ろな目で城壁に立つオリバーを見上げている。
いや、意思は無くとも、感情は在った……魔物を一匹残らず殲滅するという、最早狂気に等しき使命感が構成員の目に宿っている。
「この一年、僕達は歯痒い思いをしてきた! 屑共を一匹残らずブッ殺す為に、この僕が生み出した『魔物娘捕食者』が全部ブッ壊されたからだ!」
城壁に立つオリバーは叫ぶ、純粋な狂気を宿した目で見上げる構成員達に。
「偉大な神様から与えられた使命を進められなかった! たった一年、その一年がぁ! 僕達『人類の護符』には惜しいにも関わらずに、だ!」
オリバーは叫ぶ、使命を果たせなかった無念を。
「だがなぁ、その一年の鬱憤を晴らす時がやってきたぜぇ! 僕達の使命を果たす時が、コレから再び始まるんだぁ!」
オリバーは叫ぶ、その無念を晴らす時が来たと。
「この一年の鬱憤を晴らす、記念すべき場所は……親魔物派領・セレファイス! そうだ、あのクソッタレ、憎きエヴァン・シャルズヴェニィが住む都市だ!」
オリバーは叫ぶ、狂気に等しき使命を再開させる号砲を鳴らす土地の名を。
「行くぜ、野郎共ぉ! 魔物は一匹残らず滅べ! 現世は神様と人間だけで支配する! ソレを屑共を知らしめる、聖戦を派手におっ始めるぜぇ!」
腕を振り上げて聖戦の開幕を叫ぶオリバーに、意思持たぬ構成員達は腕を振り上げて歓喜の咆吼を上げる。
咆吼を上げた狂信者の軍勢は進む、進む、進む、魔物に仇為す怪物達を引き連れて。
一糸乱れぬ、不気味な動きで進む、進む、進む、透明で純粋なる狂気を胸に宿して。
「さぁ、さぁ! 決着付けようぜぇ、エヴァン・シャズヴェニィ! テメェを慕う屑共を殺してやってくださいってお願いしたくなる程嬲ってから、テメェをブッ殺してやらぁ!」
進む狂信者の隊列を見下ろしながら、オリバーは叫ぶ。
蓄積されたエヴァンへの殺意を、憎悪を、怨嗟を、オリバーは叫ぶ。
狂信者の軍勢が迫る、因縁の決着を付ける為に。
狂信者の軍勢が迫る、世界の命運を決する為に。
Extra Report.03 俺と皆と結婚式 Closed
12/10/25 14:36更新 / 斬魔大聖
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