連載小説
[TOP][目次]
緋炎のレクイエム
俺はガルシア・ロッソ。ある主神教を信仰する都市で勇者の一人だ。

とはいえ俺は美食にも肉欲にも愛情にも快楽をあまり得られない。
俺が一番に感じる快楽は、全力の戦い。悪意も何かの手の平の上でということもなく全力でぶつかり合うことが一番の楽しみにして幸福だ。まあそれで変わり者扱いだが実力で周りを黙らせればいいとトレーニングを続けた結果、俺は有名になっていたらしくさまざまな他の地方の勇者たちからも手合わせを頼まれたりするようになり最近は充実した日々を送っていた。



しかし、その日々が終わりを告げた。魔物達が少しづつ近づいてきているとのことらしい。魔物は危険な存在と聞く。話によれば殺しはしなくなったが人間を間接的に滅ぼしなおかつ我欲、特に性欲を否応なしに押し付けてくるとのことらしい。戦場にそんな感情を持ってくるとは奴らは阿保なのか?と思う…とはいえ俺も出来るだけ人々を逃がすために奔走せねばならないな…と思っているとどうやらかなり近くまで来ているらしい…

俺は覚悟を決め、ある術をかけてもらった。俺がなんとしてでも戦えない人々を守るのだ…










魔物達が来たので、俺は最前線に一人で出る。俺のかけてもらった術は、俺が死なない限り誰もあの都市に入ることは敵わないと言うものだ。魔物達が諦めるか俺が力尽きるまでの間に出来るだけ遠くに逃げてくれと願う。

魔物達が都市の門の前に来た。俺は仁王立ちで待つ、魔物達は『なにをしたのか知らないけど、通れないし門も開かないわね…』と少しの苛立ちを見せる。
俺は「俺を殺さねば通ることは敵わん」と構えて言うと魔物達は『解除にも手間取りそうだし、面倒なことしてくれたわね…』と苛立ちを強めていく。
俺は「戦場に性欲なんて不純物を持ってくる奴らは戦場に来るな、邪魔でしかない。」と言うと魔物達は『なんなの…こいつ…』と異質なものを見る眼で俺を見る。俺からしたらお前達こそ異質だと思う…だが一人だけ俺の持論に頷いている魔物がいる。確か図鑑ではリザードマンという魔物の項目に亜種としていたサラマンダー、だったと思う。その魔物が俺を見ていた。

そいつは『確かに、我欲を混ぜてしかもこっちは殺さずにやらないといけない。無心でやらないと足元を掬われるのも確かかもしれない』と頷いている…そしてその魔物は『なら、アタシとサシでヤらない?』と提案をしてくる。俺は「我々の受ける意味は?」と聞く。するとあいつは上司らしき魔物になにかを直談判している…

上司らしき魔物が来て『私たちが勝ったら、ここを通して。貴方が負けなければ、二度と私たちはここには来ない。この条件でどうかしら?』と案を出してきた。俺は信じて良いものか?と思うが連絡用の水晶を見るともう半分近くが脱出しているらしい。これなら何とかなるかもしれないと思い受けなければ奴ら全員の相手をしなければならないとはんだんしその提案を受けることにした。

隊を下がらせ、向き直る。少しは話のわかる相手だ。全力で戦うことが最低限の礼儀だろう…

ローブを脱ぎ捨て、改めて彼女を見据える…少なくとも他の魔物たちとは違い押し付けがましいものもなにもなく全力でやりあえる喜びに満ちている。これは期待できそうだと思い気合いが入る。彼女は『アタシはスカーレット!魔界緋炎騎士団所属!始めよう!』と自己紹介をしてくる。ならば俺もと「俺はガルシア・ロッソ!この国の勇者の一人だ、かかってこい!!」と返すと彼女は持っている剣を構えて間合いを詰めてくる、対する俺も両手剣を構え最初に剣が激突する…流石に言うだけありなかなかの重さだ。これなら相当楽しめそうだと心がゆっくりと踊り始める…
何度か激突と格闘の応酬が繰り返され、彼女の実力がわかり始めた。リスクを負わずに勝てる相手ではない…

さらにしばらくぶつかり合いを続け、出し惜しみは出来ないと判断し奥の手を使うことにし彼女を一度肩からの体当たりで弾き飛ばし距離を取る。「ここから全力でいかせてもらう…」と俺はエネルギーを開放する。そして「さあ、第2ラウンドだ…」と地面を蹴り間合いを詰め剣で凪ぎ払うも彼女も上に跳び回転を加えて剣を振り下ろす…!!手に衝撃が伝わってくるがそれさえも全力で激突出来る相手が居ることの喜びに変わる…!!

だが、互いの剣は激突の衝撃で離れたところの地面に突き刺さっている…どうやら飛んでいってしまったらしい。だが最期に頼りになる武器は、まだ残っている…どうやら彼女もそれはおなじらしく徒手空拳で構えている。そうでなくては…









どれくらいぶつかり合っただろうか、もうふらふらで開放したエネルギーも底をついている…。恐らく次が最後の一撃になる。そう俺の身体が警告を鳴らしている…だが辞められない。こんなに満たされる戦いは初めてだから…!!




互いの心臓の辺りを目掛けて拳が撃ち込まれ、俺は倒れるがどうやら彼女も倒れたらしい。負けていないなら解除する必要は無い。俺は守りきったのだ…!!!

しばらくして、何とか立てるくらいまで回復が出来たので立ち上がる…彼女もほぼ同時に立ち上がる。そして『ここまで楽しかったのは初めてだ!!』と嬉しそうに言う。それに対し「俺もだ。悪意も殺意も雑念もなく全力で心行くまでぶつかり合うことが出来たことに感謝する。」と言って「この勝負の結果は、引き分けだと思われる」と続けると彼女も頷き「約束通り退け」と言うと魔物達の大将らしき女は『まさか物理的な戦闘能力ではこの軍のなかでもトップクラスの彼女と真っ向からやり合って引き分けに持ち込める地点で超人よ…貴方』と言い軍をまとめて去っていった。不満たらたら未練たらたらだが約束は守ってくれたらしい。

彼女を除いては。彼女は『これで終わりは、嫌だ!!!』と叫ぶ。俺としてもまた戦いたいが…と思っていると通信が入った。どうやら俺の身体は魔力の浸食を受けてしまい戻れなくなってしまったらしい。どうしたものかと思っていると彼女が『どうしたんだ?』と聞いてくる。俺が経緯を話すと彼女は『悪いことしちゃったな…』と言うも俺は「まあ、これで俺はもう守るものがない以上自由なわけだな…強者を求めて旅に出るか…」と若干なげやりになると彼女は『なら、アタシの故郷に来ないか?』と誘われ俺はそれを受けた。彼女とのぶつかり合いは今までで一番満たされたものだったから。





















それから十数年経ち、俺たちの間には娘が産まれた。名前をローズと言い昨日一人立ちをした。

あれからの日常は勇者をしていたときでは味わえないものだったろうと思う。俺が勇者でなくなって数ヵ月で別の理由があったらしいが親魔物都市となったらしいことを聞いたときは「俺のやったことはなんだったんだ…」と言葉がこぼれたが彼女は『あいつらは約束守ったけど他の隊がいかないとは言ってなかったしそもそも知らなかったんじゃないかな…』と苦笑いしていた。俺は「まあ、それなら仕方ないかもしれないな…連絡しとけよとは思うが…」と多分俺も苦笑いしていたのを思い出す

そんなことを思い出していると朝食が終わった。洗い物を済ませて食休みを終えたら日課の組手だ。俺たちは二人で強くなりより高みへ登るのだ。勇者としての建前や仮面を捨てた後に残ったのはそれだったから。そして隣に居る彼女が居るからこそ俺はさらに上にいけたから

おわり
23/04/09 02:12更新 / サボテン
戻る 次へ

■作者メッセージ
どうも、サボテンです。

今回の話はいかがだったでしょうか?

ご意見、ご感想などお待ちしております

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33