チャプター01「プロローグ・嵐の夜の異変」
時代は、変革を迎えていた。
一部の達人のみが使えた剣と魔法の時代が終わり、銃と科学の時代が訪れた。
森は切り開かれ、鉄道のレールが走った。
かつて農村を耕した鍬は、農業用トラクターへと姿を変えた。
聖剣は機関銃に代わり、魔導書は電子タブレットになった。
科学万能。誰が言ったかそんな時代。
魔法は、一部の伝統として残された物以外忘れ去られ、
人々が恐れた神や悪魔も、科学の登場によりただのまやかしである事が明らかとなった。
……だが。
これで、ほんとうに人間に恐れる物は無くなったのだろうか?
過去の歴史に記されている怪物達は、ただの虚構に過ぎないのだろうか?
雪に閉ざされた山脈に、
未開のジャングルの奥地に、
光届かぬ深海の奥深くに、
今も息を潜めて息づいているのではないのだろうか?
再び、地上に君臨する日を夢見て───
その日は嵐であった。
深夜の海を、暴風雨が吹き荒れていた。
そんな中でも船を進め、遠海で釣り上げた魚介類を本国へ輸送しなくてはならない。
だが、本来それを行うはずの大人達は、その船には少数しか乗っていない。
大人達に変わり、作業を行っている者、それは。
……
……
…………沖合い漁業ブーム。
ジパングのテレビで紹介されているそれは、「過酷で逃げられない仕事」である遠海での漁業を子供に体験させ、ちょっとやそっとでは挫けない、根性のある子供を育てるという物。
働いた賃金は親の口座に振り込まれる。
子供は根性を持ち、親は大金を得る。
win-winな物だと、世間では認識されている。
……だが、その実態は。
「うぐ、げげげげぇ!」
「おい!しっかりしろ!」
狭い雑魚寝部屋に押し込まれた子供達は皆疲れ果てて、
その内の一人が嵐による船の揺れに耐えきれず、嘔吐した。
「げぇ!おろろろ……」
苦しむ少年と、少しでも楽にさせようとその背中をさする少年。
そこに。
「この馬鹿者がァ!」
「ぎっ!」
「がっ!」
背後から、いかにも柄の悪そうな男が少年二人を罵声と共に蹴飛ばした。
「皆が寝ているのに何をゲロ吐いとんじゃダボカスが!」
「でも、彼は吐き気が……」
「根性のない証拠じゃアホタレがぁ!!」
再び、男が二人を蹴飛ばす。
驚くべき事にこの男、この船における少年達の教官役である。
「皆が寝ている部屋で吐くっつーのはな、皆の事を考えてない証拠じゃダボが!起きろ!罰として船内100週!眠ったら海に捨ててやるからな!さあ早く行け!グズグズするなクソガキが!」
怒号を飛ばされ、部屋から走り出“される”少年達。
教官は、先の嘔吐物を見て「明日の朝までに片付けておけ!もし残ってたらどちき回っぞクソが!」と、同じように疲れ果てた少年に吐き捨てると、怒りながら部屋を後にした。
……これが、メディアがこぞって取り上げる「沖合い漁業ブーム」の実態である。
子供達には過酷な労働を強制され、職員による虐待が横行する。
一応医師はいるのだが、それこそ最低限生きていけるための処置しかしない、
子供達を、生かさず殺さずの状態にするだけの物だ。
これに抗議し、業界を干されたとあるお笑い芸人はこう語ったという。
“あれは教育でも支援でもなくただの犯罪だ”、と。
そんな、地獄が繰り広げられられる漁船。
それを動かしているのもまた、子供であった。
目の下に大きなクマを作った中学生ぐらいの少年が、眠気に堪えて船の舵を切っている。
「……ん?」
ふと、ソナーに目をやると、
船に近づいてくる何か大きな物体が一つ。
「おい、これ……」
「なんだ、これ……クジラじゃないよな?」
同じく、ブリッジ作業員の少年を呼び止め、ソナーに映る謎の影について問う。
大きさは、見るに100mを軽く越えている。
世界最大と呼ばれるクジラでさえ、30m前後。
「……船の下にくるぞ」
「……どっかの潜水艦か?」
ソナーに目を見張る少年達。
巨大な影は、かなり深い場所にいるらしく、ぶつかる心配こそない。
だが、正体不明の巨大な「何か」が自分達の近くにいるという現実は、少年達に謎の緊張感を走らせた。
そして、巨大な影が船の真下に来た、その時。
「うわああああ?!」
巨大な揺れが船を襲い、ソナーを見ていた少年達が吹き飛ばされる。
船内にいる都合上少年達には見えなかったのだが、少年達の乗っていた船は、なんと巨大な触手のような物に巻き付かれていた。
『ピギュッ!ピギュウァッ!』
時折響く謎の音は、触手の主が発する鳴き声なのか。
青い、タコのそれを思わせる触手が船を締め付ける度に、ミシミシという鉄と木材が軋む音が響く。
「な、何だ?!何が起こってんだ?!」
「解らない!巨大な何かが船を締め付けてる!」
「クソッ!怪獣映画かよ?!」
未曾有の事態に、少年達は混乱に陥っていた。
それを尻目に、巨大な何かは船を壊そうとするように締め付けていく。
「乗組員を全員起こせ!緊急事態だ!!」
「何とか振り払えないのか?!」
「ダメだ!絡み付いて取れやしない!」
「陸に通信は!」
「ダメだ!さっきの衝撃で浸水、通信装置がオジャンだ!」
「クソぉっ!!下の方に置いとくからそうなるんだよ!!」
もがく少年達を嘲笑うかのように、触手は次々と船に巻き付いていく。
そして。
「うわあああああああ!!!!」
少年達の絶叫と共に、船は暗い海の底へと、引きずり込まれていった……
一部の達人のみが使えた剣と魔法の時代が終わり、銃と科学の時代が訪れた。
森は切り開かれ、鉄道のレールが走った。
かつて農村を耕した鍬は、農業用トラクターへと姿を変えた。
聖剣は機関銃に代わり、魔導書は電子タブレットになった。
科学万能。誰が言ったかそんな時代。
魔法は、一部の伝統として残された物以外忘れ去られ、
人々が恐れた神や悪魔も、科学の登場によりただのまやかしである事が明らかとなった。
……だが。
これで、ほんとうに人間に恐れる物は無くなったのだろうか?
過去の歴史に記されている怪物達は、ただの虚構に過ぎないのだろうか?
雪に閉ざされた山脈に、
未開のジャングルの奥地に、
光届かぬ深海の奥深くに、
今も息を潜めて息づいているのではないのだろうか?
再び、地上に君臨する日を夢見て───
その日は嵐であった。
深夜の海を、暴風雨が吹き荒れていた。
そんな中でも船を進め、遠海で釣り上げた魚介類を本国へ輸送しなくてはならない。
だが、本来それを行うはずの大人達は、その船には少数しか乗っていない。
大人達に変わり、作業を行っている者、それは。
……
……
…………沖合い漁業ブーム。
ジパングのテレビで紹介されているそれは、「過酷で逃げられない仕事」である遠海での漁業を子供に体験させ、ちょっとやそっとでは挫けない、根性のある子供を育てるという物。
働いた賃金は親の口座に振り込まれる。
子供は根性を持ち、親は大金を得る。
win-winな物だと、世間では認識されている。
……だが、その実態は。
「うぐ、げげげげぇ!」
「おい!しっかりしろ!」
狭い雑魚寝部屋に押し込まれた子供達は皆疲れ果てて、
その内の一人が嵐による船の揺れに耐えきれず、嘔吐した。
「げぇ!おろろろ……」
苦しむ少年と、少しでも楽にさせようとその背中をさする少年。
そこに。
「この馬鹿者がァ!」
「ぎっ!」
「がっ!」
背後から、いかにも柄の悪そうな男が少年二人を罵声と共に蹴飛ばした。
「皆が寝ているのに何をゲロ吐いとんじゃダボカスが!」
「でも、彼は吐き気が……」
「根性のない証拠じゃアホタレがぁ!!」
再び、男が二人を蹴飛ばす。
驚くべき事にこの男、この船における少年達の教官役である。
「皆が寝ている部屋で吐くっつーのはな、皆の事を考えてない証拠じゃダボが!起きろ!罰として船内100週!眠ったら海に捨ててやるからな!さあ早く行け!グズグズするなクソガキが!」
怒号を飛ばされ、部屋から走り出“される”少年達。
教官は、先の嘔吐物を見て「明日の朝までに片付けておけ!もし残ってたらどちき回っぞクソが!」と、同じように疲れ果てた少年に吐き捨てると、怒りながら部屋を後にした。
……これが、メディアがこぞって取り上げる「沖合い漁業ブーム」の実態である。
子供達には過酷な労働を強制され、職員による虐待が横行する。
一応医師はいるのだが、それこそ最低限生きていけるための処置しかしない、
子供達を、生かさず殺さずの状態にするだけの物だ。
これに抗議し、業界を干されたとあるお笑い芸人はこう語ったという。
“あれは教育でも支援でもなくただの犯罪だ”、と。
そんな、地獄が繰り広げられられる漁船。
それを動かしているのもまた、子供であった。
目の下に大きなクマを作った中学生ぐらいの少年が、眠気に堪えて船の舵を切っている。
「……ん?」
ふと、ソナーに目をやると、
船に近づいてくる何か大きな物体が一つ。
「おい、これ……」
「なんだ、これ……クジラじゃないよな?」
同じく、ブリッジ作業員の少年を呼び止め、ソナーに映る謎の影について問う。
大きさは、見るに100mを軽く越えている。
世界最大と呼ばれるクジラでさえ、30m前後。
「……船の下にくるぞ」
「……どっかの潜水艦か?」
ソナーに目を見張る少年達。
巨大な影は、かなり深い場所にいるらしく、ぶつかる心配こそない。
だが、正体不明の巨大な「何か」が自分達の近くにいるという現実は、少年達に謎の緊張感を走らせた。
そして、巨大な影が船の真下に来た、その時。
「うわああああ?!」
巨大な揺れが船を襲い、ソナーを見ていた少年達が吹き飛ばされる。
船内にいる都合上少年達には見えなかったのだが、少年達の乗っていた船は、なんと巨大な触手のような物に巻き付かれていた。
『ピギュッ!ピギュウァッ!』
時折響く謎の音は、触手の主が発する鳴き声なのか。
青い、タコのそれを思わせる触手が船を締め付ける度に、ミシミシという鉄と木材が軋む音が響く。
「な、何だ?!何が起こってんだ?!」
「解らない!巨大な何かが船を締め付けてる!」
「クソッ!怪獣映画かよ?!」
未曾有の事態に、少年達は混乱に陥っていた。
それを尻目に、巨大な何かは船を壊そうとするように締め付けていく。
「乗組員を全員起こせ!緊急事態だ!!」
「何とか振り払えないのか?!」
「ダメだ!絡み付いて取れやしない!」
「陸に通信は!」
「ダメだ!さっきの衝撃で浸水、通信装置がオジャンだ!」
「クソぉっ!!下の方に置いとくからそうなるんだよ!!」
もがく少年達を嘲笑うかのように、触手は次々と船に巻き付いていく。
そして。
「うわあああああああ!!!!」
少年達の絶叫と共に、船は暗い海の底へと、引きずり込まれていった……
16/12/23 08:00更新 / エロアリエロナシエロエロ
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