魔物娘が艦隊に着任しました
遡ること五日前。
「吹雪型駆逐艦一番艦・吹雪、本日より一週間以内にタウイタウイ泊地への転属を命ずる」
日ノ本国防海軍舞鶴鎮守府・執務室。
執務机に腰掛る、白い制服姿の若い青年は目の前に直立不動する一人の駆逐艦にそう告げた。
吹雪と呼ばれた少女は呆然と、中将の肩章を持つ青年の顔を見る。
顔の前で手を組まれ、軍帽を目深に被った状態では何も伺い知ることは出来なかった。
「泊地への移動にはこちらで手筈を整えてある。深海棲艦の影響下から解放された空域を空軍の飛行機でもってボルネオ島まで移動、そこから現地の漁船に乗せてもらい泊地まで向かうといい。艤装での移動は現地人への懸念と政治的な都合上許可が下りなかった、装備はこちらで輸送手続きを済ませておくから心配はいらない」
吹雪は言葉が出ない。
一体なぜ、何故私が『あの魔境』に?
ましてやここに着任したばかりの私を……。
ぐるぐると頭の中で疑問が渦巻く。
「あとは君の私物をまとめておいてくれれば結構だ。準備が出来次第私に報告へ来るように……吹雪君、聞いているのか?」
舞鶴を治める青年……提督は語気を強めて吹雪を呼びかける。
左隣に黙して立つ『秘書艦』の加賀型航空母艦一番艦・加賀に睨まれ、吹雪は納得がいかなくとも身体を震わせ返答するほかなかった。
「りょうかい、しました……」
再び時を遡り現在。
快晴の空、どこまでも続くような澄んだ海。
地平の彼方をよく見れば、小さくぽつりと見える黒い島。
どことなく禍々しく、黒く澱んで見えるのは気のせいだろう。
「はあ……空はあんなに青いのに。なんて、ね」
憧れの先輩の言葉を借りて、本日何度目ともわからぬため息をつく。
吹雪は木造漁船の縁に顔を置いて憂鬱に浸っていた。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい? 酔っちゃったならしばらく船止めようか?」
操舵室から、船の持ち主である褐色肌の男性が申し訳なさげに顔を出す。
吹雪も思わず顔を上げて笑顔を返すが、どこか空回りしているような陰のある暗い表情を際立たせてしまうこととなった。
「あ、いえ大丈夫ですよそのまま向かってください。あはは、ごめんなさい心配かけさせてしまって」
「無理もないよ、お嬢ちゃん。たしかジパングからここまで一人で来たんだろう? それに今から向かう場所は確か……」
男は半ズボンの尻ポケットに入れていた地図を広げる。
「タウイタウイ……ジパングから来た『カンムス』って娘たちが集まってる、海軍の基地がある場所だね。ひょっとしてお嬢さんも……」
「はい、私も艦娘です。名前は吹雪といいます」
「そっか、昼寝してるとこをじいさんに叩き起こされたと思ったら軍人さんに連れられた小さい女の子を差し出されたときにゃ仰天したが……あの背中の装備がないだけでこんなに違うもんなんだなぁ」
わははと笑う漁師に吹雪も思わず苦笑いを浮かべる。
提督から深海棲艦の襲撃はほぼないと言われてはいるが、それでも艤装もなければ護衛艦すらもいないこの状況にはある意味気が気ではなかった。
「まあそんな心配するこたねえよ。あのタウイタウイに艦娘さんたちが来てくれてから、ここら一帯はあの真っ黒い化けモンは全然出てこないんだ」
「そうなんですか」
「皆いい子たちだよ……ただ、なんというかまあ……」
言いづらそうに口ごもる漁師。
やっぱりあの噂のせいだろうか……吹雪は駆逐艦同士で語られている『噂話』を思い出す。
『タウイタウイ泊地に所属する艦娘は独自の進化を遂げている魔境である』
『そこは本土の手も届かない治外法権であり、現地の魔物が住み着いている』
『そこで保護・建造される艦娘は皆魔物によって改造されて恐ろしい怪物にされてしまう』
どれもこれも聞くに恐ろしい話だが、極めつけはこれだ。
『ある日本土から艦娘が派遣された。そこで艦娘は噂の魔物と遭遇し、周りに助けを求めたがすでに提督も艦娘、憲兵すらも魔物になっていた。艦娘は逃げきれずに捕まって……そして二度とその艦娘が返ってくることはなかった』
「お嬢ちゃん顔真っ青だけどホントに大丈夫? 気分悪いなら無理しない方が」
「あっ、いいいえふぶきは大丈夫ですっ」
「そ、そう。とりあえずもうすぐ着くから頑張って」
青年漁師の言葉に吹雪はこれから先どうなるのだろうと、不安に飲まれるのだった。
それから十分後、木造漁船は民間用の埠頭へと停泊した。
いよいよタウイに上陸する……吹雪は気が進まないながらも私物をまとめた背負い袋を肩にかけて船に降り立った。
すると、二人の女性が吹雪に近づいてくる。
一人は薄紅色の和服に紺色の袴を身にまとい、長い髪をポニーテールにしてまとめている。
日本初の航空母艦と名高い鳳翔であった。
「こんにちは、航空母艦の鳳翔です」
「あ、初めまして吹雪です! 本日より舞鶴鎮守府からタウイタウイ泊地へ転属となりました! よろしくお願いします!」
吹雪は二人に向かって敬礼した。
しかしもう一人の人物の風体の異様さに思わず困惑してしまう。
夏場だというのに冬服である紺色の軍服を身に纏い、襟には中佐の襟章と何やら目玉をモチーフにしたような金色のバッジをつけている。
それ以上に目を引くのは軍服と対照的なまでに真っ白で長い髪、色白の肌に赤い瞳。
そして服の上からでもわかる、豊満な体型……特にある一部分は吹雪の幼さ残る身体的コンプレックスを刺激するには十分な質量であった。
服装からして海軍関係者……まさか提督なのだろうか。
「ふふ、こんにちは吹雪さん。私は佐伯璃夢、当泊地の提督の副官を務めております」
「副官? 珍しいですね、そういったことは秘書艦がついてやるものですけど……」
吹雪の怪訝そうな視線に気づいた女性はくすりと妖艶な笑みを浮かべる。
「勿論、秘書艦もいますわ。鳳翔さんもその一人です」
「ふふ、秘書艦だなんてそんな……むしろ私は提督の……」
佐伯の言葉に両手を頬にあて顔を赤らめる鳳翔。
よく見ると彼女の来ている和服がじっとりと濡れていることに気付く。
服は彼女の肢体に張り付くように輪郭を露わにしており、どことなく扇情的な雰囲気を醸し出している。
「それじゃあ、俺は用事も済んだんでこれで失礼させていただきますね」
「あっ漁師のお兄さん! ここまでありがとうございました!」
「どうも、お嬢ちゃん。色々と大変だろうけど頑張ってな」
「あ、ちょっとお待ちになってくださいな」
漁師の青年が木造漁船に乗り込み立ち去ろうとしたところ、佐伯に呼び止められる。
佐伯は青年の元へ歩いていき、ポケットから何やら小瓶を取り出し手渡した。
「これ、この間ウチの子たちとサンマ漁を手伝ってくれたお礼です。今回のお礼も兼ねて中身はいつもの阿武隈さんに加えて北上さんと大井さんのもブレンドした特注品ですわ」
「うおおマジか……! いいんですかいそんな貴重なモン貰っちまって」
「うふふ、奥様にもそろそろ二人目をプレゼントしてあげないと、と思いまして。息子君、妹さん欲しがってるみたいですし」
「ははは、貴女方にゃ世話になりっぱなしだなホント……今度大物仕入れたらそっちに送っときますよ」
「ふふ、吉報を期待して待ってますよ」
青年は茶色の液体が入った小瓶を大事そうにポケットに入れ、船のエンジンを起動する。
遠ざかる木造船へ、三人は手を振った。
しばらくして佐伯は満面の笑みで吹雪のほうへ振り返る。
「さ、行きましょうか。私たちの提督の元へ」
提督のいる泊地指揮所まで歩いてきた吹雪はただならぬ違和感を感じていた。
先ほどの漁師の青年や、今両隣にいる鳳翔と佐伯を除いて人はおろか、艦娘の一人も見かけないのである。
「ああ、そうですわ吹雪さん。貴女に伝えておかなくてはいけないことがあります」
「ヒッはい、なんですか佐伯中佐……」
「ふふ、ここでは璃夢さんで構わないわ」
「そんな、畏れ多いですよ上官に向かって……」
不意打ちを食らい顔を羞恥で赤らめ縮こまる吹雪を見て微笑む佐伯。
鳳翔もころころと笑みを浮かべている。
佐伯はおほんと咳ばらいをし、打って変わって真剣な表情で吹雪に話し始める。
「それはおいおい慣れてもらうとして。吹雪さん、貴女にはこれから提督の下で働くに相応しいか抜き打ちテストを受けてもらいます」
「テストですかっ? 私、正直ここら辺のこと余り……」
「ああ、大丈夫よ。そんなに難しいものでもないし。貴女にやってほしいことは一つだけ」
佐伯は白い人差し指をピンと立てる。その指先を吹雪の胸に向けた。
「受け入れてほしいの、私たちを」
「受け……入れる?」
「そう。私や隣にいる鳳翔さん、この泊地に所属する艦娘たちやそれを支えてくれる妖精さんや島民さんたち、そして何より……」
「ありのままの私たちを受け入れてくれる、提督さんを」
佐伯の瞳がより紅く染まる。
鳳翔の足音にぴちゃりぴちゃりと水音が混じり始める。
「提督は今、執務室で秘書艦とともにいます。実は私たちがいつ訪れるかについては伝えていません」
「ええっそれって、もしかして提督たちも……」
「ある意味貴女との相性が合うかの抜き打ち検査みたいな形になりますね。貴女はそこで提督を見定めて貰いもし受け入れられないようであれば、貴女は不合格。その時点で当泊地での勤務は終了となります」
スウっと目を細める佐伯に、吹雪は身震いした。
こみ上げる恐怖に抗いながら声を絞り出す。
「もし、不合格になったら私は……どうなるんですか」
「……解体はしないからそこは安心していいわ。元居た鎮守府に送還します」
「そう、なんですか」
佐伯の言葉に少しだけホッとした吹雪、直後鳳翔の言葉によって再び恐怖がこみ上げることとなる。
「でも璃夢様、確か今日は午後から天気が崩れるのではありませんでしたか? しかも三日ほど長引く、とも」
「あら、そうだったかしら……あらあら確かに外が暗くなり始めてますわね」
「あっうそ、なんで……さっきまであんなに晴れてたのに」
快晴が嘘だったように、空には黒みを帯びた雲がかかり始めている。
ただでさえ薄暗い廊下は、突き当りが暗黒に染まるほどになってしまった。
鳳翔の和服からとろりと粘度を帯びた水が滴り始める。
「そうなったらさっきの漁師さんを呼んでボルネオ島まで戻ってもらうことも出来ませんね」
「そうなると吹雪ちゃんにはこの泊地で待機してもらわないといけませんね……最低三日間は」
「あのう……もし、ダメだったらその……艤装使って戻りますから……」
大丈夫と言おうとした吹雪は、佐伯が眼前にまで迫ってきたことによって中断させられた。
佐伯は目線を吹雪に合わせ強く肩を掴む。
その口元と目はまるで赤い三日月が張り付いているようにも見えた。
「ダメよ、そんなことは許されません。貴女に何かあったら提督が悲しんでしまいますわ。吹雪、≪私たちと一緒に提督に会いに行きましょう≫」
「もう璃夢様ったら言霊まで使わなくてもいいでしょう? 吹雪ちゃん、ダメだったらなんて、そんな悲しいこと言わないでください。私は吹雪ちゃんは『前に来た子』よりも良い子だと信じてますよ」
「ひっいっ、あ……ごめんなさいっ」
もし佐伯に角と蝙蝠の羽があっても違和感はない、そう思わせるほどの気迫。
吹雪は一刻も早く立ち去りたかったが、先程の佐伯の最後の言葉を何故か実行せねばならないような気がしてならず、自然と執務室のある廊下の先へと足を運ばせてしまう。
最早吹雪の胸中には恐怖しかない。
座学で初めて深海棲艦の姿とその生態、生々しい実戦動画を見た時でもここまで恐ろしいとは思わなかった。
二か月ほど前に舞鶴の工廠で建造されてから必死に演習や座学に打ち込み、時間さえあれば自主練も行い、理解ある仲間とともに先輩たちから教えを請うたりもした。
その甲斐あってか遠征任務や鎮守府近海の警護任務といった実戦も任されるようになった。
全てが順風満帆になるはずだった……それなのに。
あのとき、舞鶴の執務室で転属を言い渡された後。
部屋を出た直後、聞いてしまったのだ。
『全く、やっと追い出せるな。あの真面目過ぎる態度ではどうも…………ね』
『そうね、私たちがここを切り盛りする上であの子は…………』
信じたくなかった。
空耳だと思いたかった……でも。
吹雪の頬に涙がつたう。
俯く彼女の横で、佐伯は全体を粘液質に変化させた鳳翔に睨まれ萎縮していた。
(ほら泣いちゃったじゃないですか吹雪ちゃん。怖がりな子相手にやり過ぎですっ)
(いやいや鳳翔さん貴女も乗り気でしたでしょう? そもそもこれ私のせいじゃない気が)
(今日はバツとして貴女だけおゆはんのおかず抜きです)
(そんなのあんまりですわ!)
吹雪には伺い知れぬ力で会話する二人。
もし今の佐伯の半ベソの表情を見れば多少は気分が改善しただろう。
三人は執務室の前に辿り着いた。
ドアをノックしようとした佐伯は、俯く吹雪に声をかける。
「では、改めて確認します。吹雪さん、提督を受け入れるかは貴女の心次第。でも出来る限り……彼を拒絶しないでくださいね。では開けますよ、準備の方はいいですか?」
「……はい」
すっかり意気消沈してしまった吹雪。
佐伯は提督との挨拶が済んだあと、結果はどうあれ謝ることにした。
コンコンッとノックしたのち返答が返るのを数秒待つ。
しかし返事はなく、それどころか部屋の中が何やら騒がしい。
よくよく耳を澄ませてみると……。
『あ、あ………♡ ていとくっていと………−ぁん♡』
『いっぱいど………ゅせー…………らしなよ〜♡』
「あの、佐伯中佐……璃夢さん? 部屋の中から聞こえてくるのって……これ」
「あら、タイミングドンピシャだったみたいですわね。調度いいです、おーぷんざどあー!」
佐伯が勢いよく執務室のドアを開けるとそこには。
「あはぁぁ♡ 北上しゃんのおみちゅとてーとくのせーし♡ ぐちゃぐちゃにぃ、まざってりゅうぅ♡」
「大井っちぃ、トバしすぎだよもうぅ♡ てーとくの魚雷ちんちんまだ、かたいよぉ♡」
「はぁっハァッ北上ッ大井ッ、もっとお前等の雌蕊にぶちまけてヤるッ」
部屋の中央に巨大な花が咲いていた。
その中で一人の男が全裸で、これまた全裸な少女二人に覆いかぶさっていた。
よく見ると少女二人の足先は花の中へと繋がっていて、皮膚の色も青々としており髪の色も淡いピンク色に染まっている。
「あんっ♡ おっぱいつぶしゅのだめぇ♡ 北上しゃんにあげる蜜が、ひぎゅうっっ♡ ちんぽ、てーとくのさんそぎょらいきちゃったぁ♡ やっあぁっあっあっあぁ〜〜〜〜っっ♡」
「いいなあ大井っちぃ♡ てーとくのせーしみるくと大井っちの蜜なめさせてよぅ♡ ちゅるっれろぉ♡」
「ひいああぁぁぁ♡ だめ、らめれすう♡ わたしのたねぇ、すっちゃやらあ♡ わたしの孕み種ごとちゅるちゅるするのだめなのぉ♡」
「なら何度でも種付けしてやるよこの変態百合雷巡ども! 卵子全部俺の精子でだめにしてやるっっオラァァ!!」
提督と呼ばれる男が大井の腰を掴みあげてぶじゅううっっと結合部から勢いよく白濁液が飛び出すほどに注入する。
大井は弓形に反りながら舌を出して提督の愛が浸み込むのを感じていた。
「ひにいいいっっ♡ 卵巣がっらんそうがぁ♡ てーとくにごうちんされちゃうのぉ♡ ゲージ破壊されちゃうのぉぉ♡」
「あはっ♡ 大井っちけいれんしすぎぃ♡ てーとくちんぽ、すごいみゃくうって、ひゃんっ♡ もうきゅうに顔にかけないでよ〜♡」
「なんだ北上、俺のチンコとも衝突する気だったのか? 昨日はあれだけ阿武隈とやってたろうが、欲張りむすっ………めって………え?」
提督が未だそり立つ剛直を北上に挿入しようとしたところで、執務室の出入り口にいる三人の存在に気付いた。
佐伯は口元に手を当てニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。
一つ飛んで隣り合う鳳翔は青く艶やかな肌を震わせ、コッソリと右手を袴の上から股間を撫でまわしてウットリとシテいた。
そして……二人の真ん中にいる見慣れない姿の女の子。
吹雪は今日一番に顔を上気させ、提督たちの痴態を見たまま固まっていた。
「どしたのてーとくっ♡? はやくうしろからあたしの子宮にもせーしちょーだいよ〜♡」
「くっ先が当たる……じゃなくてだ北上っ前っ前見ろって! 大井も起きて!」
「ふぇ? まえってぇ………あ、璃夢様に鳳翔さんやっほ〜……あと知らない駆逐艦も」
ことここに至りて、提督は今日新しい艦娘が着任することを失念していた。
正確には今日来るのは知っていたのだが、何時来るのかまでは教えてもらっていなかった。
佐伯のやつ、謀ったな! 提督は心の中で悪態をつきながら近くにいた大井を抱き起そうとする。
「ひぃ♡ ひぃ♡ てーとくのおたまじゃくしぃ、わたしの卵子に北上さんの卵子とてーとくせいしがハイブリッドセックスしてるのぉ♡」
「ダメだイキすぎて大井っちワールドにトリップしてる! 北上さん、寝そべってないで相方起こすの手伝って!」
「あ〜……めんどい。あたしもてーとくに腰砕かれちゃったから無理だな〜、せっかくだし一緒に起こして〜」
「ふ ざ け ん な馬鹿! だーもう、佐伯中佐! 鳳翔さん! この二人一緒にどうにかしてくれぇ!」
「それは野暮ってものですわ提督」
「はあ、はあ♡ 提督っ私にもお情けをっ♡」
「ちきしょーっ! ってどわあお!?」
「へ?」
不意に提督の足が花びらに踏み込んだとき、ずるっと空を切った。
バランスを崩した提督はそのまま真っすぐ吹雪の方へと落ちていく。
「ぬわああ!! だ、大丈夫かえっとふぶきアフゥってそれは……」
「きゃあっ! ……なにこれヌメヌメしたものが顔……に」
「あらあら」
「まあ流石提督、まだ艦娘なのに気が早い♡」
「おーやるねえ♪」
「北上さぁん、てーとくぅ……私子供は日ノ本二つ分ほしいです♡ ……ってあれ? 提督は?」
多種多様な反応の中、吹雪は見た。
己の右手が、馬乗りしている提督の直立する酸素魚雷を握っていることに。
さらに一瞬ではあるが顔にもおいなり酸素魚雷が乗ったと気づいたとき。
「ぎゃあああああああもげるうううううううう…………」
提督の絶叫と大爆笑の渦の中、吹雪の意識はそこでブラックアウトした。
「あれ? ここは……?」
目を覚ますと、月並みではあるが知らない点状に知らない部屋。
ベッドに仕切りのついたカーテン……目の前には医薬品の入った棚。
医務室だろうか、そう思い上体を起こすと、部屋に誰かが入ってくる。
「お、良かった〜目が覚めたみたいだね。気分はどうかな?」
「はい、特にどこにも異常……は」
「んん、どしたの? やっぱりどこか異常が? 修理する?」
吹雪の前に現れたのは、工作艦・明石。
だが吹雪よりも一回りちみっこい上、何やら巨大な腕みたいな禍々しい機械装置の上に座している。
服装も白いセーラー服は黒く染まっており、新手の深海棲艦かといわれれば信じてしまいそうだ。
「い、いや結構です……」
「まあまあそう遠慮なさらずにぃ〜、着任早々提督に襲われたんだって? そんな有望株放っておく訳にはいかないでしょう! というわけで早速、この全身感度が三千倍まで上昇させることができる装置を……」
「へえそれ、ちゃんとテストは済ませてあるのかしら?」
「勿論、提督も大満足でしたよ! まるでトコロテンのよう、に、って……あーどうも璃夢様」
「ちょっと借りますね〜」
いつの間にやら背後に忍び寄っていた佐伯によって、明石は手に持っていた灰色のバトンのような円筒状の装置を取られてしまう。
そして装置を明石の艤装(?)に無造作に突っ込んだ。
「ガチっとなっと」
「ちょっ!? なんてことをってあわわ制御がぁぁぁぁ! ひゃんっそこっ、だめええええ♡」
「はい面倒見てくれてありがとう、そのままイッてらしゃいませ〜」
「いやああ提督たしゅけてええええっっっ♡」
紫色のスパークを起こす艤装によって全身をまさぐられる明石。
そのまま明石は艤装に連れ去られるように医務室を飛び出していった。
残された吹雪は呆然とした様子だったが、直後顔を急激に真っ赤に染めて膝の上の布団に顔を突っ込んだ。
「うあぁぁぁ……あれ、夢じゃなかったんだ……司令官の、アレが……うばあぁぁぁぁぁ……」
「あらあら初々しいですこと、何だか新鮮ですねその反応は」
「一体何がどうなってるのぉ〜……そもそもこんな……あんな……あうあ〜」
「それについては、私から説明しよう」
医務室に入ってきたのは、先ほど大井・北上コンビと乱交を繰り広げていた男性。
しかし引き締まった小麦色の肉体と雄々しい酸素魚雷は、白い軍服でもって覆い隠されていた。
男の姿を見た吹雪はベッドから降り立ち、敬礼する。
「初めまして吹雪くん。先ほどはすまなかった、何処か怪我はないかい? 明石には診てもらったから大事はないとは思うんだが……」
「はい、どこにも問題はないです。あ、えっと、初めまして! 本日よりタウイタウイ泊地に着任しました、吹雪です! よろしくお願いします!」
「改めて、私は佐伯雄一。ここタウイタウイ泊地の指揮を執っている」
敬礼する雄一の肩章は大佐の位を示していた。
吹雪はふと疑問を口にした。
「あれ、佐伯って……確か璃夢さんも」
「ええ、そうですよ。私と司令官はお互い婚約してます」
微笑む璃夢は左の白い手袋を外す。薬指には、若干ピンク色の黒い指輪がはまっていた。
絡めるように提督の左腕をとると、同じ指に同じ意匠の指輪をつけていた。
「うわあ〜……何だか素敵です」
「でしょう♡ この指輪はね、旦那様がレスカティエへ演習に行ったときに買ってもらいまして、あの夜は一際激しく」
「ちなみに私たちも持ってるよ婚約指輪〜ね、大井っち?」
「そ、それは北上さんと一緒だからはめてるんであって提督のことなんか……」
璃夢ののろけを遮って医務室に入ってきたのは重雷装巡洋艦である北上と大井であった。
だが吹雪が一般的に認知している姿とは大きくかけ離れていた。
まるで巨大な百合の花の花弁から二人が絡み合っているかのような姿であり、二人とも上着のみ着用してはいたが止め処なく分泌している蜜液によって張り付きかえって扇情を誘っている。
ちなみに二人の足元には『A&Y工廠・試製零式ホバープランター』と銘打たれた横長の植木鉢のような装置が付いており、地面からは三センチほど離れていた。
「やっほー新しい駆逐姦。また提督の餌食が増えて嬉しいよ〜」
「このロリコン提督が……私と北上さんがいながらよその子に手を出すなんて、ほんっとケダモノね」
「あら大井さん、そんなこという悪い子にはしばらく提督の秘書艦から外れてもらおうかしらね」
「大井っちぃ……」
「ちょ、待って待って! 今のなし今のなし! 駆逐艦なんていくらでもズボズボ犯していいから、それだけはっ!」
「お、大井っち……」
「嫌あぁぁぁぁ引かないで北上さぁん!!」
「物理的に離れるの無理だけどね〜」
「えっと……司令官」
「……にぎやかで申し訳ないね。さて、君には色々と説明しなければならないね」
提督は帽子をかぶり直し、吹雪を見据える。
吹雪は未だ混乱の渦中にいた。
タウイタウイは魔境、そう聞いてある程度過酷な環境であっても耐え忍ぶ覚悟はしていた。
だが待ち受けていたのは、想像すら絶した光景。
「そうだな、まずは言うよりも見てもらった方が早いか……」
「あら、散々見せつけましたのにもうおかわりですの? ならばそこのベッドで私と……♡」
「あ、私も混ざる〜大井っちもいいよね?」
「……優しく、してよね。ヤリすぎで腰痛めて任務に支障がでたら嫌だもの」
「君らは大人しくしてください。吹雪くん、外を見てごらん」
雄一に促され、窓から外の様子を伺う。
港湾を一望できるそこかしこに、先程までは姿すらなかった艦娘達の姿があった。
しかし、そこには吹雪の良く知る『艦娘』の姿はなかった。
それどころか……。
「何が見える、吹雪くん?」
「その、えっと……言わなきゃ、ダメですか?」
「出来る限りにはね」
「うう、その……皆あちこちで、その……え」
「え、何だい?」
「うううぅぅ……ぇ、えっちなことを……して」
「どんな風に?」
赤面する吹雪の視線の先には、北上・大井と同じく『異形と化した艦娘』があちこちで軍人と思わしき男性や同僚と睦事をしている光景が広がっていた。
中には本来風紀を率先して取り締まるはずの憲兵が、吹雪自身よりも幼い海防艦に囲まれ逆輪姦のような洗礼を受けていた。
「貴方、あまり吹雪さんをいじめちゃいけません。繊細な子なんですから。それに『見えてる』ということは『私たちを受け入れてくれた』何よりの証拠でしょう?」
「む、それもそうか。重ねて申し訳ない吹雪くん」
「いえ、それより何であんなに沢山……さっきまでは誰もいなかったのに」
「それは私が結界を張って隠していたからよ」
璃夢が紺色の軍帽を取ると、彼女からピンク色の波動が広がる。
思わず吹雪が目を閉じて、再び視線を璃夢に戻したとき。
そこには禍々しい一対の黒い悪魔の羽を生やし、黒山羊の如く捻じれ曲がった一対の角を生やした『悪魔』が立っていた。
あまりの迫力に吹雪は尻もちをついてしまう。
「改めて、初めまして吹雪さん。私は魔王の娘が一人、リリムの璃夢と申します」
「ま、おう……? 何を言って」
「大丈夫だ吹雪くん、とって食われたりはしないよ」
「むしろ提督が食べちゃうもんね〜性的な意味で、あんっ♡」
「ケダモノ……んっ♡」
ケラケラ笑う北上にむすくれる大井。
二人とも知ってか知らずかそれぞれの股間をまさぐっていた。
「どうしちゃったんですか二人とも……」
「私の気にあてられて発情しちゃったのね……あれ、そういえば吹雪さんはなんともないのね?」
「ええ、まあ……」
吹雪は顔を赤らめもじもじと太ももをすり合わせる。
それを見た璃夢は口元に手をあて何やら考えこみ始めた。
「おかしいわね……魔物は言わずもがな、ましてや人間体に近い艦娘が私の魅了にあてられない訳がないのに……」
「えっと……?」
「そっとしておいてあげてくれ、璃夢はああなると中々帰ってこなくなるんだ」
「そうですか……ところで提督」
「ああ、君が聞きたいことはよくわかってるよ。……本土の連中は相変わらず隠し事が上手いようだ」
提督は吹雪を起こし上げると、かがんで目線を合わせる。
困惑する吹雪の瞳には、先の野獣の如き性愛者ではなく一人で多くの命を背負い立つ提督が映っていた。
「いいかい、吹雪くん。よく聞いて欲しい。我々はもう人間じゃない」
「人間じゃ、ない……?」
「私たちは……」
「―――人を愛してやまない、魔物だ」
吹雪はこれから未知の領域へと抜錨していく。
それは常識を覆す出会い。
非情を討ち、日常を尊ぶ。
そして、何よりも……愛するものを守らんがため。
魔物娘が艦隊に着任しました/完
「で、結局アタシらとの絡みを書いて満足したと」
「作者が悪いのよ……いいえ〜何でもないです♡」
「吹雪型駆逐艦一番艦・吹雪、本日より一週間以内にタウイタウイ泊地への転属を命ずる」
日ノ本国防海軍舞鶴鎮守府・執務室。
執務机に腰掛る、白い制服姿の若い青年は目の前に直立不動する一人の駆逐艦にそう告げた。
吹雪と呼ばれた少女は呆然と、中将の肩章を持つ青年の顔を見る。
顔の前で手を組まれ、軍帽を目深に被った状態では何も伺い知ることは出来なかった。
「泊地への移動にはこちらで手筈を整えてある。深海棲艦の影響下から解放された空域を空軍の飛行機でもってボルネオ島まで移動、そこから現地の漁船に乗せてもらい泊地まで向かうといい。艤装での移動は現地人への懸念と政治的な都合上許可が下りなかった、装備はこちらで輸送手続きを済ませておくから心配はいらない」
吹雪は言葉が出ない。
一体なぜ、何故私が『あの魔境』に?
ましてやここに着任したばかりの私を……。
ぐるぐると頭の中で疑問が渦巻く。
「あとは君の私物をまとめておいてくれれば結構だ。準備が出来次第私に報告へ来るように……吹雪君、聞いているのか?」
舞鶴を治める青年……提督は語気を強めて吹雪を呼びかける。
左隣に黙して立つ『秘書艦』の加賀型航空母艦一番艦・加賀に睨まれ、吹雪は納得がいかなくとも身体を震わせ返答するほかなかった。
「りょうかい、しました……」
再び時を遡り現在。
快晴の空、どこまでも続くような澄んだ海。
地平の彼方をよく見れば、小さくぽつりと見える黒い島。
どことなく禍々しく、黒く澱んで見えるのは気のせいだろう。
「はあ……空はあんなに青いのに。なんて、ね」
憧れの先輩の言葉を借りて、本日何度目ともわからぬため息をつく。
吹雪は木造漁船の縁に顔を置いて憂鬱に浸っていた。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい? 酔っちゃったならしばらく船止めようか?」
操舵室から、船の持ち主である褐色肌の男性が申し訳なさげに顔を出す。
吹雪も思わず顔を上げて笑顔を返すが、どこか空回りしているような陰のある暗い表情を際立たせてしまうこととなった。
「あ、いえ大丈夫ですよそのまま向かってください。あはは、ごめんなさい心配かけさせてしまって」
「無理もないよ、お嬢ちゃん。たしかジパングからここまで一人で来たんだろう? それに今から向かう場所は確か……」
男は半ズボンの尻ポケットに入れていた地図を広げる。
「タウイタウイ……ジパングから来た『カンムス』って娘たちが集まってる、海軍の基地がある場所だね。ひょっとしてお嬢さんも……」
「はい、私も艦娘です。名前は吹雪といいます」
「そっか、昼寝してるとこをじいさんに叩き起こされたと思ったら軍人さんに連れられた小さい女の子を差し出されたときにゃ仰天したが……あの背中の装備がないだけでこんなに違うもんなんだなぁ」
わははと笑う漁師に吹雪も思わず苦笑いを浮かべる。
提督から深海棲艦の襲撃はほぼないと言われてはいるが、それでも艤装もなければ護衛艦すらもいないこの状況にはある意味気が気ではなかった。
「まあそんな心配するこたねえよ。あのタウイタウイに艦娘さんたちが来てくれてから、ここら一帯はあの真っ黒い化けモンは全然出てこないんだ」
「そうなんですか」
「皆いい子たちだよ……ただ、なんというかまあ……」
言いづらそうに口ごもる漁師。
やっぱりあの噂のせいだろうか……吹雪は駆逐艦同士で語られている『噂話』を思い出す。
『タウイタウイ泊地に所属する艦娘は独自の進化を遂げている魔境である』
『そこは本土の手も届かない治外法権であり、現地の魔物が住み着いている』
『そこで保護・建造される艦娘は皆魔物によって改造されて恐ろしい怪物にされてしまう』
どれもこれも聞くに恐ろしい話だが、極めつけはこれだ。
『ある日本土から艦娘が派遣された。そこで艦娘は噂の魔物と遭遇し、周りに助けを求めたがすでに提督も艦娘、憲兵すらも魔物になっていた。艦娘は逃げきれずに捕まって……そして二度とその艦娘が返ってくることはなかった』
「お嬢ちゃん顔真っ青だけどホントに大丈夫? 気分悪いなら無理しない方が」
「あっ、いいいえふぶきは大丈夫ですっ」
「そ、そう。とりあえずもうすぐ着くから頑張って」
青年漁師の言葉に吹雪はこれから先どうなるのだろうと、不安に飲まれるのだった。
それから十分後、木造漁船は民間用の埠頭へと停泊した。
いよいよタウイに上陸する……吹雪は気が進まないながらも私物をまとめた背負い袋を肩にかけて船に降り立った。
すると、二人の女性が吹雪に近づいてくる。
一人は薄紅色の和服に紺色の袴を身にまとい、長い髪をポニーテールにしてまとめている。
日本初の航空母艦と名高い鳳翔であった。
「こんにちは、航空母艦の鳳翔です」
「あ、初めまして吹雪です! 本日より舞鶴鎮守府からタウイタウイ泊地へ転属となりました! よろしくお願いします!」
吹雪は二人に向かって敬礼した。
しかしもう一人の人物の風体の異様さに思わず困惑してしまう。
夏場だというのに冬服である紺色の軍服を身に纏い、襟には中佐の襟章と何やら目玉をモチーフにしたような金色のバッジをつけている。
それ以上に目を引くのは軍服と対照的なまでに真っ白で長い髪、色白の肌に赤い瞳。
そして服の上からでもわかる、豊満な体型……特にある一部分は吹雪の幼さ残る身体的コンプレックスを刺激するには十分な質量であった。
服装からして海軍関係者……まさか提督なのだろうか。
「ふふ、こんにちは吹雪さん。私は佐伯璃夢、当泊地の提督の副官を務めております」
「副官? 珍しいですね、そういったことは秘書艦がついてやるものですけど……」
吹雪の怪訝そうな視線に気づいた女性はくすりと妖艶な笑みを浮かべる。
「勿論、秘書艦もいますわ。鳳翔さんもその一人です」
「ふふ、秘書艦だなんてそんな……むしろ私は提督の……」
佐伯の言葉に両手を頬にあて顔を赤らめる鳳翔。
よく見ると彼女の来ている和服がじっとりと濡れていることに気付く。
服は彼女の肢体に張り付くように輪郭を露わにしており、どことなく扇情的な雰囲気を醸し出している。
「それじゃあ、俺は用事も済んだんでこれで失礼させていただきますね」
「あっ漁師のお兄さん! ここまでありがとうございました!」
「どうも、お嬢ちゃん。色々と大変だろうけど頑張ってな」
「あ、ちょっとお待ちになってくださいな」
漁師の青年が木造漁船に乗り込み立ち去ろうとしたところ、佐伯に呼び止められる。
佐伯は青年の元へ歩いていき、ポケットから何やら小瓶を取り出し手渡した。
「これ、この間ウチの子たちとサンマ漁を手伝ってくれたお礼です。今回のお礼も兼ねて中身はいつもの阿武隈さんに加えて北上さんと大井さんのもブレンドした特注品ですわ」
「うおおマジか……! いいんですかいそんな貴重なモン貰っちまって」
「うふふ、奥様にもそろそろ二人目をプレゼントしてあげないと、と思いまして。息子君、妹さん欲しがってるみたいですし」
「ははは、貴女方にゃ世話になりっぱなしだなホント……今度大物仕入れたらそっちに送っときますよ」
「ふふ、吉報を期待して待ってますよ」
青年は茶色の液体が入った小瓶を大事そうにポケットに入れ、船のエンジンを起動する。
遠ざかる木造船へ、三人は手を振った。
しばらくして佐伯は満面の笑みで吹雪のほうへ振り返る。
「さ、行きましょうか。私たちの提督の元へ」
提督のいる泊地指揮所まで歩いてきた吹雪はただならぬ違和感を感じていた。
先ほどの漁師の青年や、今両隣にいる鳳翔と佐伯を除いて人はおろか、艦娘の一人も見かけないのである。
「ああ、そうですわ吹雪さん。貴女に伝えておかなくてはいけないことがあります」
「ヒッはい、なんですか佐伯中佐……」
「ふふ、ここでは璃夢さんで構わないわ」
「そんな、畏れ多いですよ上官に向かって……」
不意打ちを食らい顔を羞恥で赤らめ縮こまる吹雪を見て微笑む佐伯。
鳳翔もころころと笑みを浮かべている。
佐伯はおほんと咳ばらいをし、打って変わって真剣な表情で吹雪に話し始める。
「それはおいおい慣れてもらうとして。吹雪さん、貴女にはこれから提督の下で働くに相応しいか抜き打ちテストを受けてもらいます」
「テストですかっ? 私、正直ここら辺のこと余り……」
「ああ、大丈夫よ。そんなに難しいものでもないし。貴女にやってほしいことは一つだけ」
佐伯は白い人差し指をピンと立てる。その指先を吹雪の胸に向けた。
「受け入れてほしいの、私たちを」
「受け……入れる?」
「そう。私や隣にいる鳳翔さん、この泊地に所属する艦娘たちやそれを支えてくれる妖精さんや島民さんたち、そして何より……」
「ありのままの私たちを受け入れてくれる、提督さんを」
佐伯の瞳がより紅く染まる。
鳳翔の足音にぴちゃりぴちゃりと水音が混じり始める。
「提督は今、執務室で秘書艦とともにいます。実は私たちがいつ訪れるかについては伝えていません」
「ええっそれって、もしかして提督たちも……」
「ある意味貴女との相性が合うかの抜き打ち検査みたいな形になりますね。貴女はそこで提督を見定めて貰いもし受け入れられないようであれば、貴女は不合格。その時点で当泊地での勤務は終了となります」
スウっと目を細める佐伯に、吹雪は身震いした。
こみ上げる恐怖に抗いながら声を絞り出す。
「もし、不合格になったら私は……どうなるんですか」
「……解体はしないからそこは安心していいわ。元居た鎮守府に送還します」
「そう、なんですか」
佐伯の言葉に少しだけホッとした吹雪、直後鳳翔の言葉によって再び恐怖がこみ上げることとなる。
「でも璃夢様、確か今日は午後から天気が崩れるのではありませんでしたか? しかも三日ほど長引く、とも」
「あら、そうだったかしら……あらあら確かに外が暗くなり始めてますわね」
「あっうそ、なんで……さっきまであんなに晴れてたのに」
快晴が嘘だったように、空には黒みを帯びた雲がかかり始めている。
ただでさえ薄暗い廊下は、突き当りが暗黒に染まるほどになってしまった。
鳳翔の和服からとろりと粘度を帯びた水が滴り始める。
「そうなったらさっきの漁師さんを呼んでボルネオ島まで戻ってもらうことも出来ませんね」
「そうなると吹雪ちゃんにはこの泊地で待機してもらわないといけませんね……最低三日間は」
「あのう……もし、ダメだったらその……艤装使って戻りますから……」
大丈夫と言おうとした吹雪は、佐伯が眼前にまで迫ってきたことによって中断させられた。
佐伯は目線を吹雪に合わせ強く肩を掴む。
その口元と目はまるで赤い三日月が張り付いているようにも見えた。
「ダメよ、そんなことは許されません。貴女に何かあったら提督が悲しんでしまいますわ。吹雪、≪私たちと一緒に提督に会いに行きましょう≫」
「もう璃夢様ったら言霊まで使わなくてもいいでしょう? 吹雪ちゃん、ダメだったらなんて、そんな悲しいこと言わないでください。私は吹雪ちゃんは『前に来た子』よりも良い子だと信じてますよ」
「ひっいっ、あ……ごめんなさいっ」
もし佐伯に角と蝙蝠の羽があっても違和感はない、そう思わせるほどの気迫。
吹雪は一刻も早く立ち去りたかったが、先程の佐伯の最後の言葉を何故か実行せねばならないような気がしてならず、自然と執務室のある廊下の先へと足を運ばせてしまう。
最早吹雪の胸中には恐怖しかない。
座学で初めて深海棲艦の姿とその生態、生々しい実戦動画を見た時でもここまで恐ろしいとは思わなかった。
二か月ほど前に舞鶴の工廠で建造されてから必死に演習や座学に打ち込み、時間さえあれば自主練も行い、理解ある仲間とともに先輩たちから教えを請うたりもした。
その甲斐あってか遠征任務や鎮守府近海の警護任務といった実戦も任されるようになった。
全てが順風満帆になるはずだった……それなのに。
あのとき、舞鶴の執務室で転属を言い渡された後。
部屋を出た直後、聞いてしまったのだ。
『全く、やっと追い出せるな。あの真面目過ぎる態度ではどうも…………ね』
『そうね、私たちがここを切り盛りする上であの子は…………』
信じたくなかった。
空耳だと思いたかった……でも。
吹雪の頬に涙がつたう。
俯く彼女の横で、佐伯は全体を粘液質に変化させた鳳翔に睨まれ萎縮していた。
(ほら泣いちゃったじゃないですか吹雪ちゃん。怖がりな子相手にやり過ぎですっ)
(いやいや鳳翔さん貴女も乗り気でしたでしょう? そもそもこれ私のせいじゃない気が)
(今日はバツとして貴女だけおゆはんのおかず抜きです)
(そんなのあんまりですわ!)
吹雪には伺い知れぬ力で会話する二人。
もし今の佐伯の半ベソの表情を見れば多少は気分が改善しただろう。
三人は執務室の前に辿り着いた。
ドアをノックしようとした佐伯は、俯く吹雪に声をかける。
「では、改めて確認します。吹雪さん、提督を受け入れるかは貴女の心次第。でも出来る限り……彼を拒絶しないでくださいね。では開けますよ、準備の方はいいですか?」
「……はい」
すっかり意気消沈してしまった吹雪。
佐伯は提督との挨拶が済んだあと、結果はどうあれ謝ることにした。
コンコンッとノックしたのち返答が返るのを数秒待つ。
しかし返事はなく、それどころか部屋の中が何やら騒がしい。
よくよく耳を澄ませてみると……。
『あ、あ………♡ ていとくっていと………−ぁん♡』
『いっぱいど………ゅせー…………らしなよ〜♡』
「あの、佐伯中佐……璃夢さん? 部屋の中から聞こえてくるのって……これ」
「あら、タイミングドンピシャだったみたいですわね。調度いいです、おーぷんざどあー!」
佐伯が勢いよく執務室のドアを開けるとそこには。
「あはぁぁ♡ 北上しゃんのおみちゅとてーとくのせーし♡ ぐちゃぐちゃにぃ、まざってりゅうぅ♡」
「大井っちぃ、トバしすぎだよもうぅ♡ てーとくの魚雷ちんちんまだ、かたいよぉ♡」
「はぁっハァッ北上ッ大井ッ、もっとお前等の雌蕊にぶちまけてヤるッ」
部屋の中央に巨大な花が咲いていた。
その中で一人の男が全裸で、これまた全裸な少女二人に覆いかぶさっていた。
よく見ると少女二人の足先は花の中へと繋がっていて、皮膚の色も青々としており髪の色も淡いピンク色に染まっている。
「あんっ♡ おっぱいつぶしゅのだめぇ♡ 北上しゃんにあげる蜜が、ひぎゅうっっ♡ ちんぽ、てーとくのさんそぎょらいきちゃったぁ♡ やっあぁっあっあっあぁ〜〜〜〜っっ♡」
「いいなあ大井っちぃ♡ てーとくのせーしみるくと大井っちの蜜なめさせてよぅ♡ ちゅるっれろぉ♡」
「ひいああぁぁぁ♡ だめ、らめれすう♡ わたしのたねぇ、すっちゃやらあ♡ わたしの孕み種ごとちゅるちゅるするのだめなのぉ♡」
「なら何度でも種付けしてやるよこの変態百合雷巡ども! 卵子全部俺の精子でだめにしてやるっっオラァァ!!」
提督と呼ばれる男が大井の腰を掴みあげてぶじゅううっっと結合部から勢いよく白濁液が飛び出すほどに注入する。
大井は弓形に反りながら舌を出して提督の愛が浸み込むのを感じていた。
「ひにいいいっっ♡ 卵巣がっらんそうがぁ♡ てーとくにごうちんされちゃうのぉ♡ ゲージ破壊されちゃうのぉぉ♡」
「あはっ♡ 大井っちけいれんしすぎぃ♡ てーとくちんぽ、すごいみゃくうって、ひゃんっ♡ もうきゅうに顔にかけないでよ〜♡」
「なんだ北上、俺のチンコとも衝突する気だったのか? 昨日はあれだけ阿武隈とやってたろうが、欲張りむすっ………めって………え?」
提督が未だそり立つ剛直を北上に挿入しようとしたところで、執務室の出入り口にいる三人の存在に気付いた。
佐伯は口元に手を当てニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。
一つ飛んで隣り合う鳳翔は青く艶やかな肌を震わせ、コッソリと右手を袴の上から股間を撫でまわしてウットリとシテいた。
そして……二人の真ん中にいる見慣れない姿の女の子。
吹雪は今日一番に顔を上気させ、提督たちの痴態を見たまま固まっていた。
「どしたのてーとくっ♡? はやくうしろからあたしの子宮にもせーしちょーだいよ〜♡」
「くっ先が当たる……じゃなくてだ北上っ前っ前見ろって! 大井も起きて!」
「ふぇ? まえってぇ………あ、璃夢様に鳳翔さんやっほ〜……あと知らない駆逐艦も」
ことここに至りて、提督は今日新しい艦娘が着任することを失念していた。
正確には今日来るのは知っていたのだが、何時来るのかまでは教えてもらっていなかった。
佐伯のやつ、謀ったな! 提督は心の中で悪態をつきながら近くにいた大井を抱き起そうとする。
「ひぃ♡ ひぃ♡ てーとくのおたまじゃくしぃ、わたしの卵子に北上さんの卵子とてーとくせいしがハイブリッドセックスしてるのぉ♡」
「ダメだイキすぎて大井っちワールドにトリップしてる! 北上さん、寝そべってないで相方起こすの手伝って!」
「あ〜……めんどい。あたしもてーとくに腰砕かれちゃったから無理だな〜、せっかくだし一緒に起こして〜」
「ふ ざ け ん な馬鹿! だーもう、佐伯中佐! 鳳翔さん! この二人一緒にどうにかしてくれぇ!」
「それは野暮ってものですわ提督」
「はあ、はあ♡ 提督っ私にもお情けをっ♡」
「ちきしょーっ! ってどわあお!?」
「へ?」
不意に提督の足が花びらに踏み込んだとき、ずるっと空を切った。
バランスを崩した提督はそのまま真っすぐ吹雪の方へと落ちていく。
「ぬわああ!! だ、大丈夫かえっとふぶきアフゥってそれは……」
「きゃあっ! ……なにこれヌメヌメしたものが顔……に」
「あらあら」
「まあ流石提督、まだ艦娘なのに気が早い♡」
「おーやるねえ♪」
「北上さぁん、てーとくぅ……私子供は日ノ本二つ分ほしいです♡ ……ってあれ? 提督は?」
多種多様な反応の中、吹雪は見た。
己の右手が、馬乗りしている提督の直立する酸素魚雷を握っていることに。
さらに一瞬ではあるが顔にもおいなり酸素魚雷が乗ったと気づいたとき。
「ぎゃあああああああもげるうううううううう…………」
提督の絶叫と大爆笑の渦の中、吹雪の意識はそこでブラックアウトした。
「あれ? ここは……?」
目を覚ますと、月並みではあるが知らない点状に知らない部屋。
ベッドに仕切りのついたカーテン……目の前には医薬品の入った棚。
医務室だろうか、そう思い上体を起こすと、部屋に誰かが入ってくる。
「お、良かった〜目が覚めたみたいだね。気分はどうかな?」
「はい、特にどこにも異常……は」
「んん、どしたの? やっぱりどこか異常が? 修理する?」
吹雪の前に現れたのは、工作艦・明石。
だが吹雪よりも一回りちみっこい上、何やら巨大な腕みたいな禍々しい機械装置の上に座している。
服装も白いセーラー服は黒く染まっており、新手の深海棲艦かといわれれば信じてしまいそうだ。
「い、いや結構です……」
「まあまあそう遠慮なさらずにぃ〜、着任早々提督に襲われたんだって? そんな有望株放っておく訳にはいかないでしょう! というわけで早速、この全身感度が三千倍まで上昇させることができる装置を……」
「へえそれ、ちゃんとテストは済ませてあるのかしら?」
「勿論、提督も大満足でしたよ! まるでトコロテンのよう、に、って……あーどうも璃夢様」
「ちょっと借りますね〜」
いつの間にやら背後に忍び寄っていた佐伯によって、明石は手に持っていた灰色のバトンのような円筒状の装置を取られてしまう。
そして装置を明石の艤装(?)に無造作に突っ込んだ。
「ガチっとなっと」
「ちょっ!? なんてことをってあわわ制御がぁぁぁぁ! ひゃんっそこっ、だめええええ♡」
「はい面倒見てくれてありがとう、そのままイッてらしゃいませ〜」
「いやああ提督たしゅけてええええっっっ♡」
紫色のスパークを起こす艤装によって全身をまさぐられる明石。
そのまま明石は艤装に連れ去られるように医務室を飛び出していった。
残された吹雪は呆然とした様子だったが、直後顔を急激に真っ赤に染めて膝の上の布団に顔を突っ込んだ。
「うあぁぁぁ……あれ、夢じゃなかったんだ……司令官の、アレが……うばあぁぁぁぁぁ……」
「あらあら初々しいですこと、何だか新鮮ですねその反応は」
「一体何がどうなってるのぉ〜……そもそもこんな……あんな……あうあ〜」
「それについては、私から説明しよう」
医務室に入ってきたのは、先ほど大井・北上コンビと乱交を繰り広げていた男性。
しかし引き締まった小麦色の肉体と雄々しい酸素魚雷は、白い軍服でもって覆い隠されていた。
男の姿を見た吹雪はベッドから降り立ち、敬礼する。
「初めまして吹雪くん。先ほどはすまなかった、何処か怪我はないかい? 明石には診てもらったから大事はないとは思うんだが……」
「はい、どこにも問題はないです。あ、えっと、初めまして! 本日よりタウイタウイ泊地に着任しました、吹雪です! よろしくお願いします!」
「改めて、私は佐伯雄一。ここタウイタウイ泊地の指揮を執っている」
敬礼する雄一の肩章は大佐の位を示していた。
吹雪はふと疑問を口にした。
「あれ、佐伯って……確か璃夢さんも」
「ええ、そうですよ。私と司令官はお互い婚約してます」
微笑む璃夢は左の白い手袋を外す。薬指には、若干ピンク色の黒い指輪がはまっていた。
絡めるように提督の左腕をとると、同じ指に同じ意匠の指輪をつけていた。
「うわあ〜……何だか素敵です」
「でしょう♡ この指輪はね、旦那様がレスカティエへ演習に行ったときに買ってもらいまして、あの夜は一際激しく」
「ちなみに私たちも持ってるよ婚約指輪〜ね、大井っち?」
「そ、それは北上さんと一緒だからはめてるんであって提督のことなんか……」
璃夢ののろけを遮って医務室に入ってきたのは重雷装巡洋艦である北上と大井であった。
だが吹雪が一般的に認知している姿とは大きくかけ離れていた。
まるで巨大な百合の花の花弁から二人が絡み合っているかのような姿であり、二人とも上着のみ着用してはいたが止め処なく分泌している蜜液によって張り付きかえって扇情を誘っている。
ちなみに二人の足元には『A&Y工廠・試製零式ホバープランター』と銘打たれた横長の植木鉢のような装置が付いており、地面からは三センチほど離れていた。
「やっほー新しい駆逐姦。また提督の餌食が増えて嬉しいよ〜」
「このロリコン提督が……私と北上さんがいながらよその子に手を出すなんて、ほんっとケダモノね」
「あら大井さん、そんなこという悪い子にはしばらく提督の秘書艦から外れてもらおうかしらね」
「大井っちぃ……」
「ちょ、待って待って! 今のなし今のなし! 駆逐艦なんていくらでもズボズボ犯していいから、それだけはっ!」
「お、大井っち……」
「嫌あぁぁぁぁ引かないで北上さぁん!!」
「物理的に離れるの無理だけどね〜」
「えっと……司令官」
「……にぎやかで申し訳ないね。さて、君には色々と説明しなければならないね」
提督は帽子をかぶり直し、吹雪を見据える。
吹雪は未だ混乱の渦中にいた。
タウイタウイは魔境、そう聞いてある程度過酷な環境であっても耐え忍ぶ覚悟はしていた。
だが待ち受けていたのは、想像すら絶した光景。
「そうだな、まずは言うよりも見てもらった方が早いか……」
「あら、散々見せつけましたのにもうおかわりですの? ならばそこのベッドで私と……♡」
「あ、私も混ざる〜大井っちもいいよね?」
「……優しく、してよね。ヤリすぎで腰痛めて任務に支障がでたら嫌だもの」
「君らは大人しくしてください。吹雪くん、外を見てごらん」
雄一に促され、窓から外の様子を伺う。
港湾を一望できるそこかしこに、先程までは姿すらなかった艦娘達の姿があった。
しかし、そこには吹雪の良く知る『艦娘』の姿はなかった。
それどころか……。
「何が見える、吹雪くん?」
「その、えっと……言わなきゃ、ダメですか?」
「出来る限りにはね」
「うう、その……皆あちこちで、その……え」
「え、何だい?」
「うううぅぅ……ぇ、えっちなことを……して」
「どんな風に?」
赤面する吹雪の視線の先には、北上・大井と同じく『異形と化した艦娘』があちこちで軍人と思わしき男性や同僚と睦事をしている光景が広がっていた。
中には本来風紀を率先して取り締まるはずの憲兵が、吹雪自身よりも幼い海防艦に囲まれ逆輪姦のような洗礼を受けていた。
「貴方、あまり吹雪さんをいじめちゃいけません。繊細な子なんですから。それに『見えてる』ということは『私たちを受け入れてくれた』何よりの証拠でしょう?」
「む、それもそうか。重ねて申し訳ない吹雪くん」
「いえ、それより何であんなに沢山……さっきまでは誰もいなかったのに」
「それは私が結界を張って隠していたからよ」
璃夢が紺色の軍帽を取ると、彼女からピンク色の波動が広がる。
思わず吹雪が目を閉じて、再び視線を璃夢に戻したとき。
そこには禍々しい一対の黒い悪魔の羽を生やし、黒山羊の如く捻じれ曲がった一対の角を生やした『悪魔』が立っていた。
あまりの迫力に吹雪は尻もちをついてしまう。
「改めて、初めまして吹雪さん。私は魔王の娘が一人、リリムの璃夢と申します」
「ま、おう……? 何を言って」
「大丈夫だ吹雪くん、とって食われたりはしないよ」
「むしろ提督が食べちゃうもんね〜性的な意味で、あんっ♡」
「ケダモノ……んっ♡」
ケラケラ笑う北上にむすくれる大井。
二人とも知ってか知らずかそれぞれの股間をまさぐっていた。
「どうしちゃったんですか二人とも……」
「私の気にあてられて発情しちゃったのね……あれ、そういえば吹雪さんはなんともないのね?」
「ええ、まあ……」
吹雪は顔を赤らめもじもじと太ももをすり合わせる。
それを見た璃夢は口元に手をあて何やら考えこみ始めた。
「おかしいわね……魔物は言わずもがな、ましてや人間体に近い艦娘が私の魅了にあてられない訳がないのに……」
「えっと……?」
「そっとしておいてあげてくれ、璃夢はああなると中々帰ってこなくなるんだ」
「そうですか……ところで提督」
「ああ、君が聞きたいことはよくわかってるよ。……本土の連中は相変わらず隠し事が上手いようだ」
提督は吹雪を起こし上げると、かがんで目線を合わせる。
困惑する吹雪の瞳には、先の野獣の如き性愛者ではなく一人で多くの命を背負い立つ提督が映っていた。
「いいかい、吹雪くん。よく聞いて欲しい。我々はもう人間じゃない」
「人間じゃ、ない……?」
「私たちは……」
「―――人を愛してやまない、魔物だ」
吹雪はこれから未知の領域へと抜錨していく。
それは常識を覆す出会い。
非情を討ち、日常を尊ぶ。
そして、何よりも……愛するものを守らんがため。
魔物娘が艦隊に着任しました/完
「で、結局アタシらとの絡みを書いて満足したと」
「作者が悪いのよ……いいえ〜何でもないです♡」
18/01/31 23:42更新 / 小林プラスチック