ファントムアーマー
生まれてすぐに、その少女は両親と引き離され、教団のために養育された。
魔物を殺し、捨て駒となるための教育を日夜受け、何度も死ぬような戦いに投入され、実際に死にかけた。
いくら魔物を斬り、その鎧を血に染めても戦いに終わりはなく、その先には新たな戦いがあるだけだった。
そんな時だった、神の加護が突如降り、自身が勇者となったのは。
かくして勇者となった少女は、人間らしい気持ちも、家族の情も知らずに魔王を倒すために旅立つのだった。
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女勇者アメルダ・ソシファリスは長きに渡る戦いの果て、王魔界に辿り着いた。
一重に魔王を打ち滅ぼし、平和な世界を作らんとしたためだったが。
「・・・くっ」
必殺の、一撃が届かなかった。
魔王城の警備に来ていたドラゴンマスター、ダムド・ディオクレイスの実力は、アメルダの予想を遥かに越えていた。
「随分と魔物の血を吸ってる鎧じゃねーか・・・」
銀色のドラゴンの背中で、ダムドは倒れ伏したアメルダを見据えた。
「・・・随分と魔物を斬ってきたみてーだな?、鎧に魔物の思念が染み付いてやがる、が、今死ぬには惜しいな、どうだ?」
すっと、ダムドはアメルダに右手を差し出した。
「降魔龍騎士団に入り、俺たちと一緒に来ねーか?」
「ふざけないでっ!、魔物に与するくらいなら、潔く死を選ぶわっ」
ダムドはドラゴンから降りると、手にした巨大な青龍偃月刀を振り上げた。
「そーかい、ならば望み通りにしてやろう」
武器を大上段から振り下ろすダムド、あまりの殺気に、アメルダは意識を刈り取られ、そのまま気絶してしまった。
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「生きてる?」
気づくとアメルダはしっかり治療され、どこかの城の一室にいた。
「・・・気づいたか?」
部屋には白衣の軍医がいたが、一瞬アメルダは軍医を見て目を見開いてしまった。
その軍医、顎から鼻にかけては金属の機械が嵌められ、左足も義足だったからだ。
「無事なら、いい、親父は、あんたを、治せと言った、傷はもう、治療してある」
軍医は一礼だけすると、歩行杖をつきながらそのまま退室した。
敵に命を救われてしまった、アメルダはあまりの悔しさに歯ぎしりしていた。
だが同時にまたとないチャンスだ、もしここがダムドの本拠地なら、当然彼は何処かにいるはず。
見つけて命を奪えば、まだまだ逆転出来る、ドラゴンマスターと呼ばれるほどの将、討ちとれれば名前も上がるというもの。
それに、まだ負けた借りを返せてはいない。
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チャンスは意外なことにすぐに来た、一人で医務室前の廊下を歩いていたのだ。
アメルダはこっそりナイフを忍ばせ、背後から襲いかかった。
「・・・ふんっ」
しかし完全に隙をついたはずの一撃は軽くかわされ、そのまま腕をとられて投げ飛ばされてしまった。
「見え見えだ、もっと腕を磨いて出直すんだな」
そのまま悠々とダムドは立ち去り、後には悔しがる勇者が残った。
またある日はクタクタに疲れ、書斎の椅子でうたた寝している時を狙った。
だが1秒前まで眠り込んでいたはずの団長は、アメルダが飛びかかるや否やいきなり覚醒し、鋭い手刀でもって下手人を昏倒させてしまった。
そんなことが、しばらく続いたが、変わらずダムドはアメルダを城に置き続け、何かの弾みで怪我をさせた場合は軍医のギルフォード・アウグストスに治療させた。
何度目かの医務室、アメルダがベッドに腰掛けていると、班長の一人である紅翼が現れた。
この青年は身体中に刺青があり、『彫師』の異名をとる人物だ。
「まったく、お前さんも強情さなあ、親父はお前さんを気に入っとるのに・・・」
一つアメルダは気になることを訪ねてみた。
「ねえ?、どうして貴方たちはダムド団長を親父と呼ぶの?」
「ああ?、そりゃあ、あの方が儂らを息子扱いしてくれるからだわ」
団長と部下ではない、降魔龍騎士団は家族として繋がっているのだと言う。
「儂もギルも、ここにいる野郎の大半は謂わば世間のはみ出しもんよ、けどなあ、あの方はそんな儂らはみ出しもんにも場所をくれた、役目をくれた、誇りをくれた、家族をくれた」
彫師と呼ばれるほど強面の青年が、この時ばかりは幼い少年のように見えた。
「ゴミゴミ言われてきた儂らにも差別しねー、それどころか息子と呼んでくれる、いい歳こいて、それが嬉しいんだわ」
「・・・息子」
「お前さんもさあ、娘になる資格はあんだからしっかり考えねーとな?」
紅翼が立ち去った後、アメルダは瞳を閉じ、何かを考えこんでいた。
やがて思考をまとめると、瞳を開き、ゆっくりベッドから立ち上がった。
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降魔龍騎士団の本拠地たる、王魔界外れにある魔界都市カイーナの古城、ルミナリエカイーナ城の一角には、騎士以外の所謂歩兵部隊も暮らしている。
下半身が騎乗に適さない、主にドラゴンに乗れない魔物娘が大半だが、中にはこちらが向いているものもいる。
降伏し、降魔龍騎士団に迎え入れられたアメルダ・ソシファリスは、ムシュマヘー班班長、ワームのムシュマヘー・テオドシアの従士として、ここに配属された。
「やっるじゃんっ」
ムシュマヘーのアメルダに対する評価は高かった。
遠征任務に行けば必ず役目を果たし、教団との戦いでも奮戦して見せた。
「ありがとうございます、班長」
アメルダの言葉に、ちっちっちとムシュマヘーは指を鳴らした。
「お姉ちゃん、ムシュマヘーお姉ちゃん、みんな家族なんだから、ね?」
ムシュマヘー班長は姉という単語にいたくこだわっていた。
テオドシア家はかなりの姉妹、しかしムシュマヘーは下のほうの妹、その辺りが関わっているのかもしれない。
「ダムド団長が親父なら私はお姉ちゃん、でしょ?」
「ふん、言うではないか」
そう呟きながら城門より現れたのは、ダムドの騎龍であるウシュムガルだった。
その美しい銀色の鱗と銀髪から、白銀龍と呼ばれるドラゴンだ。
「親父は親父だが、貴様はまだまだ毛の生えた餓鬼、修行が足らん」
「むかーっ、お姉ちゃんだってお母さんのこと気にして未だに親父に告白出来てないじゃんっ!」
「な、何いっ!、貴様言ってはならんことを・・・」
完全に姉妹喧嘩である、アメルダは何やら激しくなっていく口論をどう止めようか思案していたその時。
「ド阿呆どもがっ!、城の前で何騒いでやがるっ!」
突如現れたダムドが二人の魔物を引き剥がした。
「「親父っ!」」
「ウシュムガルっ!、ムシュマヘーっ!、てめーら二人とも罰則だっ!、仲良く城中の廊下でも磨いてろっ!」
怒り心頭のダムドは二人の魔物が渋々城に入るのを見て、アメルダに視線を移した。
「うちのがすまねーな、まあ、あれで腕は確かだから許してやってくれ」
軽く頭を撫でられ、アメルダは心が高まるのを感じた。
「き、気にしてません、その、お、おや、おや、じ・・・」
最後の呼称はあまりに小さく、ダムドには届かなかった。
「んだ?、『大家』がどーかしたのか?」
「い、いえ、なんでもありませんっ!」
慌ててアメルダは一礼し、そのまま城に駆け込んで行った。
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数日後、魔王からのオーダーでダムドに率いられた歩兵部隊の面々は、レスカティエに赴いた。
何度目かになる奪還作戦を阻止するために、増援が欲しいという皇女デルエラの要望である。
故に指揮をとる数名のドラゴンライダー以外は魔物娘が多い歩兵部隊を主力とし、ダムドはレスカティエに遠征したが、当然その部隊にはアメルダもいた。
城に入ると、すでにデルエラは会議室に各部隊の隊長を集めていた。
「・・・来たわね、ダムド団長」
「久しぶりだなデルエラ、元気そうで何より、お前さんの幼なじみは元気か?、あの鼻垂れ小僧は・・・」
「そんな世間話をしてもらうために呼んだわけではないわよ?」
「違いねーはな」
ダムドはかっかっ、と笑うと、席に座り、デルエラの説明に耳を傾けた。
どうやら戦いは明日の朝には始まりそうだが、教団の兵力はかなりのものらしい。
「指揮をとるのは勇者である大ウィザード、心眼のノエリア、それ以外は雑兵だけど、彼女がいる以上は注意が必要ね」
デルエラの言葉にダムドは頷いた。
「わかった、そっちは俺が押さえよう」
ドラゴンマスターの異名をとるダムドならば、勇者とも渡り合えるだろう、デルエラは素早く頷くと幾つか地図に印をうった。
「それじゃあ各員、しっかりね?」
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翌日、ダムドの率いる降魔龍騎士団歩兵部隊はノエリアが率いる中央部隊と対峙した。
「緊張してるか?」
銀色の鎧を身につけたダムドは傍に立つアメルダに問いかけた。
現在元勇者はその身に勇者時代の頑強な鎧を身につけ、その手には剣を握っている。
「・・・はい」
「そーか、俺もだ」
えっ?、とアメルダはダムドの顔を見つめたが、ダムドはすぐに顔を逸らした。
「・・・団長、この戦いが終わったら言いたいことがあります」
「はっ、ならきっちり生き残れるように立ち回れっ」
ダムドは龍の顔を思わせるフルヘイスの兜を被ると、ドラゴン状態のウシュムガルの手綱を引きながら、青龍偃月刀で前を示した。
「行くぜっ!、野郎どもっ」
おおおおおおおおっ、と魔物たちの声が上がり、何度目かになるレスカティエ防衛戦が始まった。
教団兵の実力は決して弱くはない、しかし先頭を切って前進するのは最強のドラゴンライダーと呼ばれた人物、ダムド・ディオクレイス。
一度手にした青龍偃月刀がきらめけば、着実に敵兵は無力化されていく。
アメルダはしばしその姿に魅入っていたが、すぐさま気を取り直し、敵兵とぶつかる。
アメルダの実力も勇者となっただけありかなりのものである、危なげなく敵兵を倒していく。
「せやあっ!」
何人目かを突き倒したとき、ついに彼女は現れた。
「・・・ノエリア」
心眼のウィザードノエリア、閉ざされた瞳は光を見せぬ代わりにそれ以外を全て見せると称される魔法使いの勇者。
「来ましたかアメルダ、何故ですか?」
身につけたマントを翻し、杖から詠唱なしで炎の弾丸を放ちながらノエリアはアメルダに問いかける。
「数多の魔物を斬り、教団のために尽くしてきた貴女が、何故?」
弾丸をなんとかかわしながらアメルダはチャンスをうかがう。
「ノエリア、教団は正しいの?」
これまでのアメルダならば疑わなかった、しかし降魔龍騎士団で、人間も魔物もなく家族のように共にあれることを知った以上、教団は正しいとは言い切れない。
「堕落しましたねアメルダ、昔馴染みのよしみ、私が滅して差し上げます」
空から無数に降り注ぐ隕石、これも詠唱なしだ。
「・・・くっ」
慌てずにアメルダは大きく飛び上がって隕石をかわすと、その内一つをノエリアに弾き返した。
「っ!」
直撃すればノエリアを吹き飛ばしたかもしれないが、彼女はウィザードらしく魔法障壁を張り、かわしてみせた。
「てやあっ!」
同時にアメルダは上空から剣を投じてノエリアの杖を破壊した。
「・・・なっ!」
魔法障壁は一点にしか張れない、アメルダはノエリアの技の弱点を知っていたのだ。
続いてそのままノエリアを押し倒す形で拘束した。
「くっ、離してくださいっ!」
「離さないわっ!、貴女も魔物を倒すだけでなく、融和する道を探るべきよっ」
直後、激昂したノエリアは閉ざされていた両眼を開いた。
「教団に・・・」
マントからノエリアが取り出したのは小さな魔法石がはめ込まれたペンダント。
「栄光あれっ!」
直後地面に叩きつけると、凄まじい轟音とともに半径数メートルが爆炎につつまれた。
「・・・しまっ」
身体が蒸発するような炎のなか、アメルダは一つだけ後悔していた。
「・・・(結局、団長に『親父』って言えなかったな)」
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「探し出せ、どこかにいるはずだ」
戦闘後、ダムドは数名の人員で生存者を探していたが、戦場にはこれだけの戦にも関わらず死体が少ない。
おまけによく見るとすでにゴーストやらゾンビやらが跋扈しだしており、レスカティエの魔力濃度の高さが窺い知れた。
歩兵部隊の面々も半数くらいは旦那を手に入れたようで、彼の後ろに付き従う魔物娘たちは、今回旦那獲得に失敗した面子である。
「親父、発見したでやんす」
分厚いメガネの龍騎士、秋山伶人は騎龍であるプロキシマの背中の上で戦場の一点を指差した。
「・・・む」
そこには瓦礫に埋もれた鎧の少女がおり、気を失っているのかぐったりしている。
すぐにダムドは駆け寄ったが、見知った鎧の中にいたのは、彼のよく知る人物ではなかった。
「心眼の、ノエリア?」
鎧の中で気を失っていたのはアメルダではなくノエリア、どうなっているのか。
「お、親父っ、これを見るでやんすっ!」
伶人が差し出した剣は確かにアメルダの剣だった、だがそれを見た瞬間、ダムドは目を見開いた。
「そんな・・・」
剣の柄には、高温で焼きついたかのように、小さな右手の影が映っていた。
誰も何も言わなかったが、アメルダ・ソシファリスがどうなったのかは、明白なことだった。
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「メルキオール博士によると、あの鎧には無数の魔物の思念が宿っていたようだ」
ルミナリエカイーナ城の廊下、ダムドと並んで歩くのは騎士団の副団長である隻眼の騎士、ミズラフ・ガロイスだ。
「ノエリアが自爆した時、彼女だけでも生かそうとアメルダは素早く転移魔法を使いノエリアを救った、鎧に染み込んだ魔物の血ならばあの魔法くらいなんとかなると知っていたようだ」
ミズラフの手元にあるレポートには流麗な字で報告が書かれ、一番下には『ラケル・メルキオール』のサインがしてある。
「・・・だがそれで自分が死んだら、意味ねーじゃねーか」
険しい表情でダムドは呟いた。
「ダムド・・・」
「アメルダよ、親父より先に死ぬ娘があるか・・・」
ダムドはミズラフを伴い、医務室に入った。
ベッドにはあちこち包帯を巻かれたノエリアがいたが、その瞳は暗い。
「親父・・・」
「世話かけたな、ギル」
少し外して欲しい、そう告げるとギルフォードは一礼して医務室から出て行った。
「ダムド、俺も少し出ている」
「悪いな、ミズラフ」
一瞬だけミズラフはノエリアを見ると、医務室から出て行った。
「気分はどうだ?」
ダムドの問いに、ノエリアは下を向いた。
「まあまあです」
しばらく互いに黙り込んでいたが、やがてノエリアは口を開いた。
「アメルダは、死んだのですね・・・」
「間違いなくな」
「ドラゴンマスター、ダムド・ディオクレイス、私を、殺すのですか?」
「そんな気はねーな」
「嘘ですっ」
ノエリアは近くのテーブルに置いてあった水差しをダムドに投げたが、彼は避けずに右手で止めた。
「あなたは私を憎んでいるはずっ!、私を殺し、アメルダの仇をとりたいはずですっ!」
「・・・『復讐するは、我にあり』」
静かにダムドは呟いた。
「□□□□は人間による勝手な報復行為をゆるしちゃいねーよ」
「・・・ドラゴンマスターと呼ばれる御身が、まさか主神さまの信徒ぶるのですか?」
ノエリアの言葉にダムドは頭を振った。
「考えてみろ、もし今お前さんを斬ればお前さんを愛するやつや、慕うやつが俺を殺しにくるだろ?」
「・・・それは」
「俺がそいつらに殺されたら、今度は降魔龍騎士団が怒りと憎しみに支配される、そうやって復讐は復讐を生んでいくのさ」
微かに震えるダムドの右手、おそらく彼自身アメルダが死に、悲しいはずだ。
しかし、大局のため、敢えてノエリアを許すと言っているのだ。
なんとなくノエリアは、アメルダが何故降魔龍騎士団に居着いたのか、わかる気がした。
「・・・もう少しだけ、貴方のそばに居てもいいですか?」
ノエリア自身も見極めてみたくなった、この人物が、どのような男なのか。
「親父殿っ!、大変じゃっ!」
いきなり医務室に入ってきたバフォメットは降魔の三博士の一人、ラケル・メルキオール、魔法力学や魔物化、豊富な魔界の知識を備えた龍騎士たちの相談役だ。
「どした博士?」
「アメルダの鎧に異変がっ」
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メルキオールの研究室にあったノエリアの鎧
、今その鎧には形容しがたい力がまとわりついていた。
「・・・なんとなくゴーストみてーな雰囲気だな」
「うむ、恐らく鎧に染み付いていた魔物たちの力が何らかの働きをしたのじゃろう」
現在研究室にはダムドとメルキオールだけでなく副団長であるミズラフ、さらには班長の紅翼、伶人、ムシュマヘーらもいた。
「・・・う、ん?、わたし」
一瞬鎧の兜の奥に二つの光が灯り、ゆらりと鎧が動き始めた。
「アメルダ、か?」
ダムドは鎧の奥に、アメルダそっくりの、半透明の幻を見た。
「まっ違いなしっ、アメルダだよっ!」
どうやらムシュマヘーや他の班長にも見えたようだ。
「私、生きてる?、あれ?」
どうやらアメルダは自分に起きたことには気づいていなかったようだ。
「アメルダ、落ち着いて話を聞いてくれ、お前さんは魔物になったらしい」
ダムドの言葉に、アメルダは身体のあちこちを見る。
「え?、ええ?、何コレ鎧?、え?、私の身体から?、え?、え?」
かなり錯乱してしまっているようだ、当たり前だ、気づいたら身体が変わっている、驚かないほうが難しい。
否、身体は吹き飛んでいるからこの場合は蘇ったというべきか。
「アメルダ、俺は別にお前さんが魔物だろーと差別はしねー、けど聞いておく」
すっ、とダムドはまっすぐにアメルダを見つめた。
「お前さんは、これからどうしたい?」
しばらくアメルダは黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「私は、みんなと一緒にいたい、降魔龍騎士団は、私の家族だから」
アメルダは微笑むと、ダムドに向かって頭を下げた。
「これからもよろしくお願いします、『親父』」
「アメルダ、お前・・・」
悪戯っぽく笑うと、アメルダは周りにいる班長たちにも笑いかけた。
「よろしくお願いします」
家族を知らなかった勇者、戦いの果てに身体を失い、姿も変質してしまった。
しかし、彼女はこれからも生き続けるだろう。
今の彼女には、新しい家族がいるのだから。
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「ふむ、どうやら成功したようだな」
「はい、そのようです、ハーデス様」
「なんだペルセフォネ、余の采配が不満か?」
「いえ、ただ何故彼女をリビングアーマーに?、ゴーストでも良かったのでは?」
「あの鎧に染み付いた魔物たちの思念が余に嘆願したのだ、鎧と一緒に魔物化してほしいと」
「そういうことでしたか・・・」
「本来リビングアーマーの姿は夫にしか見えんはずだが、そうか、真実の絆を育んだか・・・」
「ハーデス様?」
「人間の心とは、絆とは、素晴らしいものだな」
16/04/11 17:10更新 / 水無月花鏡