読切小説
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イースターでもらった卵からスライム娘が出てくるお話し



『復活祭(イースター)
十字架にかけられて亡くなった救世主が三日目に復活したことを記念・記憶する教会で最も重要な祭。』


以上魔物娘版ウィキペディアより抜粋。





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「ふう、これでよし、と……」

 朝の眩しい光はとうに失せ、礼拝堂の天窓から差し込む日光は昼のものに近づきつつある、そんな時刻。
 先刻の典礼で入ってきた、人・魔物問わずたくさんの人々が床に残した足跡をおおむね消し去り、私はモップを片手に一息ついた。
 魔物娘たちの存在が明るみになって、もうだいぶ経ち、彼女らのなかにも教会に来るような魔物が増えてきている。
 そのためどのような典礼か、把握しているしていないはともかくとして、こうして大きな行事があれば、一般の人間に混じって魔物娘たちも押しかけてくるのだ。
 こうした変化を示すものとして、後ろ、すなわち礼拝堂の入り口近くの壁には、日々の典礼の予定が書かれたポスター、教会主催の勉強会の日程を知らせる紙に混ざって『教会内ナンパ、並びに性行禁止』の注意書きも貼られている。
 こうして注意書きを貼らねばならないということは、実際にそんなことが過去にあったということでもあるのだが。

「お疲れ様」

 考えごとをしていたため、反応が一瞬遅れてしまい、私はビクリと身体を震わせて声のほうに振り返る。
 いつからいたのか、片手にバスケットを携え、シンプルな眼鏡をかけた老修道女がたくさん並べられた長椅子の間を通って、こちらに近づいてくるところだった。

「お疲れ様ですシスター、イースターも終わりですね」

 主の復活を記念する復活祭ことイースター、ちょうど今日はその日に当たり真夜中から続いていた行事も今はほとんど終了し、役目があって外に出ていたシスターも帰ってきたようだ。

「ええ、でも高槻、あなた昨日から寝てないんだから掃除が終わったら早く帰ったほうがいいわよ?」

 それに、と続けるとシスターは私に近寄り耳もとに唇を寄せる。
 こんな距離まで近づかれてしまうとシスターの優しげな瞳を間近に見てしまい、正直ドキドキしてしまうのだが……。

「もう三日も帰ってないでしょ? 確かに最近色々続いたけど、その前は直近の休みまで一週間お泊まり、少しやり過ぎよ?」

 めっ、とシスターは幼い子供を叱るように私の額を人差し指で小突く。

「あはは、まあ健康だけが取り柄ですから私は……」

「このまま行くとその取り柄だってなくなりかねないわよ? 生意気言ってないで早く休みなさいな、後は私がやっておいてあげるから、ね?」

 バチンとシスターに額をデコピンされてしまい、私は無意識的にヨタヨタと後ろに下がって、そのまま礼拝用の椅子に腰掛けてしまった。

 「ほらほら、やっぱり疲れてるじゃない、まずは休みなさいな。疲労を押してまで奉務を続けることを主は望まれないわよ?」

 クスクス笑いながらシスターはバスケットを椅子に置くと私からモップを奪い取り、自分の唇に人差し指を立てて見せる。

「そんな頑張り屋な高槻にプレゼントでーす」

 先ほど置いたバスケットの中から、シスターは何やら白いものを取り出した。
 かなり大きい、おそらく私の握りこぶし二つ分くらいはあるだろうか?

「信者の人に配ってたんだけど、一つすっごく大きいのがあって、持て余しちゃったの」

 イースターには当日来てくれた信者の人に卵を配るのが私のいる教会の定番だ。
 大半の卵は私やシスター含め、教会に務める者が一パックずつ用意して当日までにバスケットに入れて置くのだが、信者の人が卵を持ってきてくれることもある。
 普段はそれほど増えたりすることはないが、今年に関してはイースター前ハーピーの一団が見学しに来た際、礼代わりとしてごっそり卵を納めていったため比較的卵の数は多かった。
 シスターはその卵を配り、その後は集まった人々に簡単ではあるがイースターについて話しをする役割が振り分けられていたはず。

「それにしても大きいですね、駝鳥か何かでしょうか?」


「うーん、わからないわね。というよりこんなに大きいのにバスケットに入ってたことにも気づかなかったのよ」

 私も歳かしらね? などと冗談めかして呟くシスター、六十過ぎても未だに衰え知らずな体力はまだまだ現役のはずだが、とりあえず今は何も言わないでおく。

「それで出来れば高槻に受け取って欲しいの。もう司祭様たちは帰っちゃったし、良かったらこの卵で何か作ろうか?」

 このシスターの作る料理は絶品。普段から何かと世話になってばかりなのだが、今日はただでさえ忙しかった復活祭、あまりシスターの負担を増やしたくはない。

「シスター、気持ちだけ頂戴します。卵ですから私でもなんとなるはずです」

「そう? 高槻もついに私から独り立ちする日が来たということかしら?」

 よよっと泣き真似をしてみせるシスターだが数秒後にはケロっとしている。

「ま、卵なら焼くだけでも食べられるし、好きなように調理してね?」

 シスターはバスケットの中から取り出した大きな卵を私に託すと、モップを手に礼拝堂の床を磨き始めた。

「……(ありがとうございます、シスター)」

 ともあれせっかくのシスターの好意、正直来週まで泊まるつもりだったが、こうまで言われては仕方がない。
 それにシスターもクタクタになるまで私が作業しているのを見かねてこう言ってくれているのだ、ここはその好意に甘えさせてもらうとしよう。

「それではシスター、失礼します」

 私の声にシスターはモップを動かす手を止め、微笑みながらこちらに手を振った。

「うん、またしばらく休みがないみたいなんだから、しっかり休んでね?」

 にこやかに私を送り出すシスターに一礼し、私は先ほどモップがけしたばかりの磨かれた床をまっすぐ歩いて開かれたままだった扉を抜け、二時間ぶりに眩しい光を浴びる。

「……ふう」

 それにしても疲れた。典礼や片付けをしている際には気づかなかったが、こうして暇になると急に眠気が襲いかかってくる。

「事故はしないようにしないとな……」

 あくびを噛み殺し、礼拝堂のすぐ脇にある事務所の扉を開こうとして、私はさっきシスターからもらった卵に微かな違和感を感じた。
 先ほどもかなりの大きさではあったが、なんだか一回り巨大化しているような……?
 まあ魔物娘やら天使のおかげでもっと不思議なことが起こる世の中にはなっているので、このくらいのことは別に気にする必要はないのかもしれない。
 気を取り直して私は事務所へのドアノブをひねり人のいない部屋へ立ち入ると、入り口付近のハンガーにかけたままになっていた上着を羽織り、靴を履き替えて車を運転出来る態勢を整えた。

「さて、じゃあ帰ろうかな?」

 ここから自宅まではそれほど離れてはいない、普段私が使うジャイロキャノピーを使えばものの十分でたどり着ける距離だ。

「あ、高槻じゃない」

 掃除を終えたのか、先ほどのシスターがちょうど礼拝堂から出てくるところだった。

「今から私買い出しに行くんだけど、良かったら送ってあげようか?」

 魅力的な提案ではある。疲れているときほど事故になりやすく、また集中も切れやすい。
 しかしここまで世話になってしまった以上なんだか申し訳なくなってしまう。

「なら私が目的地までシスターを送ります。用事が終わってから帰宅しますので、その後に車を教会に戻してください」

「それでもいいけど最近高槻、教会の車を運転してないでしょ? 当直明けで疲れてるときに普段乗らないMT車に乗ってエンストさせない自信があるのかしら?」

 うっ! 鋭い指摘だ。確かに私は基本的に通勤や出向には自分のキャノピーを使うし、上役の車を運転する時もあるがあれはAT車、ここ最近教会の社用車は使っていない。
 おずおずとシスターを見ると、彼女はニコニコしながら手の中で車の鍵を弄んでいる。

「……ご好意に甘えさせていただきます」

「そうそう、こういう時はしっかりお姉さんに頼りなさいな」

 またしてもこのシスターの世話になってしまった。こんなことを続けていてはその内彼女の尻に敷かれてしまうかもしれない。







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「じゃあしっかり休んでね?」

 私が暮らしているマンションの前までシスターは送ってくれると、窓の外へヒラヒラと手を振ってからたくさんの車で混み合う道路を見事なハンドルさばきで走り抜けていった。

「……ふう、疲れたな」

 シスターの車が見えなくなると、私はマンションの鍵を取り出そうとポケットに手を入れる。

「……?」

 そこでまた違和感を感じた。さっきの卵がまたしても大きくなり、カバンの中を圧迫していたからである。
 慌ててカバンの中を確認してみて、私は知らず仰天した。今や卵は大きく膨れ上がり、大きめのニット帽すらも突き破りそうなほどになっていたのである。

「これはまずいな……」

 私は急いでマンションを駆け上がり、部屋の前にたどり着くと、肩で息をしながらその扉を開いた。

「……とりあえずは、ここに、置くかな」

 走ってきたため息は極めて荒い。もしマンションの中で走る私の姿を見る者がいたならば、おそらく不審人物か異常者として通報するかもしれないレベルだ。
 ともあれ巨大化した卵は、入ってすぐにある台所に持ち込み、冷蔵庫の上に置いていた籠の中に安置する。

「しかし、なんの卵だろうか?」

 教会には信者の人がたくさんの卵を持ってくる。中には魔物娘もいるのだが、まさか卵生の魔物娘の卵が混ざっていたのではないか?

「こんなことになっては、食べる気にはなれないな……」

 上着を脱いで寝間着に着替えると、私は寝室のベッドに腰を下ろして、なんとなく書架の上に飾られている帝王の肖像画を見つめた。

「……(卵が巨大化するとは、不思議なこともあるのだなあ)」

 魔物娘と関わっているうちに不思議なことには慣れたつもりだったが、まだまだわからないことだらけかもしれない。
 とにかく今は眠くて思考がまとまらない。少し寝て、その上で卵をどうするのかを考えるべきだろう。
 携帯電話のタイマーをセット、とりあえずは五時間程度の仮眠でいいだろうか?

「……やれやれ」

 私はゆっくりベッドに横たわると、そのまま速やかに眠りの世界へと落ちていった。






 闇の中で微かな音を聞いたような気がする。まるで硬い壁を突き破ろうとするかのような、そんな音だ。
 不完全ながら私の意識は、もうあるのだろうか? 闇の中に沈みながらも外から差し込む夕焼けの光や、どこからか聞こえてくるバイクの音、それらをなんとなく感じる。

「っ!」

 瞬間、すぐ耳元で振動とともにアラーム音が鳴り響き、ビクリと私は身体を仰け反らせた。

「……んん? 今、何時だ?」

 外からは夕焼けの光が差し込み、部屋全体を茜色に染めている。

「何だ? 少し早くないか?」

 アラームをセットしてはいたが、目覚めるにはいささか早い気がする。不審に思いながらも携帯電話を確認すると、目覚ましではなく着信だった。

「……シスター?」

 表示画面を見ると家まで送ってくれたシスターからの電話であることがわかり、私はすぐさま通話ボタンを押した。
 緊急の用事かもしれない、私は心を落ち着けてから口を開く。

「はい、高槻ですが……」

『あ、ごめんねお休み中に、少しだけ言っておかないといけないことがあって』

 言わなければならないこと? なんだろうか、もしかしたら教会で何か不祥事でも起きたのだろうか?

『ううん、さっき君にあげたあの卵のこと、あれからとんでもないことがわかったの』

 何だか嫌な予感がしてきた。どのような真実があるのかはわからないが、これからシスターが話すことは碌でもないような内容なのだろう。そんな予感に知らず私はシーツをつかんでいた。

『高槻にあげたあの卵、イースター前の時節に教会に来たたくさんのハーピー属のうち、誰かの卵だと思うの』

 そう言えばそんなこともあった。ハーピーやガンダルヴァ、サンダーバードにカラステングなどハーピー属の一団がイースター前の時期にやってきたのだが、その時に卵を置いていってくれたのである。
 誰のものかは不明だが、その時に何らかの手違いで普通の卵の中に魔物の卵が混ざってしまったのではないか?
 サーっと私は血の気が失せるのを感じた。嫌な予感に心臓はバクバクと脈動し、携帯電話を持つ右手は小刻みに震えている。

『どのハーピーの卵かはまだわからないけど魔物娘の卵、慎重に取り扱っ……』

 シスターの言葉が聞こえるか聞こえないかのその際どいタイミングで、台所のほうから大きな音が聞こえた。

「っ!」

『高槻? 今変な音がしたけど、大丈夫?』

「申し訳ありません。少しだけ切らせてもらいます」

 まだ何か言っている先方を放置して電話を切ると、すぐさま私は台所へと飛び込む。

「……ふぁ?」

 薄暗い台所。まず目についたのは床のあちこちに散乱する白い破片。直接触らねばわからないがおそらく卵の殻だろう。
 もっと詳しく様子を調べようと一歩踏み出してみて、私の足に何やら粘着質な何かがはり付いた。

「これは、スライム、か?」

 ネバネバするそれは私の足の裏に張り付いていたかと思うと、モゾモゾ動き出し、まるで意思があるかのように台所の隅へと向かう。

「……むっ!?」

 そして台所の一角。具体的に言えば冷蔵庫が設置されている片隅には眠そうな表情で目をこするスライムの少女がいた。
 少女はしばらく私のことをじっと見ていたかと思うと、いきなり目を見開き、発情した魔物特有の蕩けた視線をこちらに向ける。

「ふあああ……。おはようパパ」

 パパ、だと? 当たり前だが私に娘はいない。もしや産まれて最初に私を見たために父親と認識したのか?

「落ち着いて下さい、私は貴女のパパではありません」

「? じゃあおとうさん?」

 産まれたばかりにも関わらず意外と語彙は豊富か? いやいや、そんなことを考えている場合ではない。
 今この瞬間にもスライム少女は妖しい瞳のまま、ジリジリとこちらに近づいきているのだ。

「ねーねー、おとうさんから何だかいい匂いがする……♡」

 嫌な予感しかしない、私は壁際にまで追い込まれ、知らず胸ポケットに入れていたロザリオを掴んでいた。

「……神よ……」

「むふふ……いただきまーす♡」

 スライム少女が私めがけて飛びかかろうとするその刹那。





「そこまでよっ!!」

 毅然とした声とともに玄関の扉が開かれ、バサッと巨大な網が台所を走る。

「ふにゃっ!」

 私に飛びかかろうとしていたスライム少女はそのまま網に絡め取られてしまい、プニュッと間抜けな音とともに床に倒れた。

「ふう、間一髪だけど、間に合ったみたいね?」

 呆然とする私の前で、網を片手にホッと一息ついている老女は、さっき電話をかけていたシスターその人だ。

「し、シスター? な、なぜここに……?」

「何だか嫌な予感がしてね? それで貴方の家に急いで向かったのだけれど……」

 正解だったみたいね? と、網の中でジタバタするスライム少女と、壁際に追い込まれて蒼白な顔をしている私を代わる代わる見て、シスターはそう呟く。

「……この子は、ハンプティエッグ」

 眼鏡をかけ直しながら、シスターはジタバタしているスライム少女に目を向けた。

「不思議の国原産のハーピー、ジャブジャブから産まれてくる魔物娘ね」

 シスター曰く、本来ジャブジャブの卵からはジャブジャブが産まれるそうだが、稀に未婚の男が近くにいると、孵化を待てずに別種の魔物となって襲いかかってくるのだとか。

「今回は高槻がジャブジャブの卵を持って帰っちゃったから待ちきれなくなって出てきた見たいね」

 シスターは丁寧に網をほどいて、その下にいたハンプティエッグを助け出し、私に襲い掛からないようにしっかり腕を掴んだ。

「ううっ、おばあちゃん、おとうさんのなんなの?」

 襲撃を邪魔されたためか、恨めしげにハンプティエッグはシスターを眺めている。

「私? 私は、まあ高槻の保護者みたいなものかしら? 真面目だけが取り柄の男の子が身体を壊さないように誘導するのが私のお仕事」

「間違いではないですが、改めて言われるとへこみますね」

 ガックリと肩を落とすと、シスターはクスクス笑いながらハンプティエッグを膝の上に座らせた。

「まあこんな子だから高槻を落とすのは骨が折れるけど、それでも頑張ってみる?」

「もちろん、わたしおとうさんをなんとしてでもおとしちゃうから♡」

 とんでもない宣言をされてしまった気がする。いきなり襲いかかってくる気配はないが、これでは問題を先延ばしにしてしまっただけではないのか?

「それじゃあまずは私の近くでこの世界のことについてしっかり学んで、それからね?」

「えー、やだやだ、わたしおとうさんとずっといっしょにいたいよ〜」

 またしてもジタバタと暴れようとするが、今度はシスターの膝の上だったためか、たやすく押さえ込まれてしまった。

「うふふ、私の住んでる所は高槻のいる教会のすぐ隣、それに高槻はよく休みが減るから毎日会えるけど、それでも嫌?」

「え? おとうさんがいつもちかくにいるの?」

「もちろん、朝から夕方まで、その代わり私の言うことはしっかり聞いていい子にしててね?」

 なだめるようなシスターの言葉に、ハンプティエッグは少しずつ落ち着きを取り戻してきたのか、何度か頷く。

「うんっ、じゃあわたしおばあちゃんといっしょにいるー」

 よしよしとシスターはハンプティエッグの頭を撫でると、彼女をかかえたままゆっくり立ち上がり、私に向かって一礼した。

「じゃ高槻、私はこの子を引き取ることにしたから、あとはよろしくね?」

「おとうさんまたねー」

 悠々と去っていくシスターと無邪気に手を振るハンプティエッグ、私は呆然と見ている事しか出来なかった。










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 そんな大事件があったものの、実は私の日常そのものはあまり変わらなかったたりする。
 というのも、シスターがうまくハンプティエッグをコントロールしているためなのか、教会で私と会っても、こちらが作業中はおとなしくしていたりするのだ。
 もちろん仕事が終われば私に近寄ろうとするが、シスターのもとで色々と学んでいるらしく、いきなり襲いかかるような真似はしない。

「おとうさん、はいっ」

 とは言え、まったく私がハンプティエッグと関わる機会がないわけではない。

「いつも、悪いですね」

 何度目になるだろうか? 机とベッドしかない当直室にシスターと二人で押しかけてきて弁当を差し入れてくれるのは……。

「高槻、しっかり食べて明日に備えてね? 今回は……」

 『高槻用』と表に書かれた弁当箱の中に詰められた生姜焼きとポテトサラダを指差すシスター。

「この二つを弟子が作ったの、明日感想聞かせてあげてね?」

「りょーりができるようになればおとうさん、わたしのものになるんだよね?」

 シスターに毎日何を吹き込まれているのか。ニコニコ笑いながらハンプティエッグは可愛らしい動作で頭を下げる。

「じゃあおとうさんおやすみなさい、またあしたね?」

 シスターに連れられてスルスルと部屋から出ていくハンプティエッグ、二人が退出してから私は知らず破顔していた。

「ふふっ、こういうのも、いいのかもしれないな……」

 私はしばらくシスターとハンプティエッグの二人が作ってくれた弁当を、じっと眺めるのだった。




17/04/20 14:09更新 / 水無月花鏡

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半分くらい実話です。

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