互いに睨み合う遮那とミカエル、戦い自体は先ほどの一戦でどちらの実力が上かははっきりしている。



だが無限動力炉ヤマトを使って分身して見せたように、ミカエルはまだ奥の手を持っているかもしれない。


遮那はそれを警戒しているのだ。



先に動き出したのは遮那、破邪光弾を使って牽制するとともに、ミカエル本人への被弾も狙う。



「っ！」



すぐさまミカエルは横に飛ぶと、破邪光弾をかわしながらも、遮那めがけて火炎を放って見せた。



遮那もまた火炎をかわすと、足捌きを変えてミカエルに接近し、そのまま死亡遊戯を放つ。



「・・・ふんっ！」


しかしミカエルはこれを見切り、強化された剣で死亡遊戯を押し止めた。



「やってくれる・・・」


「ふんっ！、伊達や酔狂で私が大天使筆頭の地位にいるのではないわ」


ミカエルは剣を返し、今度は下段から遮那の足下を狙う。


「遅いな・・・」



遮那はミカエルの剣を見切ると、地を蹴り、大きく飛び上がった。



「はあっ！」


そのままくるりと一回転して急降下すると、ミカエルにかかと落としを見舞う。


「味な真似を・・・」


ミカエルはこれをかわすと、距離をとり、剣を構えなおした。



「さすがに簡単には勝たせてはくれないか・・・」


遮那もまた後ろへ下がると、額を滴り落ちる汗を右拳で拭い、両腕を構えなおした。


「貴方の拳は先ほどよく見せてもらったわ、ある程度ならば動きを見切れる」


なるほど、まああれだけ戦えばいくらかは癖や拳の動きも見えてくるものかもしれないものだが。


だが遮那は勝たなければならない、ミカエルを倒し、プルガトリウムを止めなければ京都ボルテクスとそこに住まう者は破滅してしまう。


何としても、ここでミカエルを下さなければならないだろう。



「行くわよっ！、混沌王っ！」



今度は、踏み込むとともに横薙ぎに剣を振るい、遮那を攻撃する。



「っ！」


鋭い一撃に、遮那は知らず冷や汗をかきながらも、なんとか後ろに仰け反る形で攻撃をかわした。


「はあっ！」



だが、ミカエルの攻撃はそれだけでは終わらなかった。


横薙ぎに斬りつけたその瞬間、踏み込んだ足を軸にして、回転するように二段斬撃を放ったのだ。



「なにっ！」


仰け反る形でかわした遮那にはこれをもう一度かわすような余裕はない。


咄嗟に遮那は障壁を張り、左手を伸ばしたが、咄嗟のことだったため満足に障壁を張りきれていない。


ミカエルの一撃で障壁は破壊され、剣は彼の左腕を切り裂いた。



「・・・っ！」



手首から吹き出す鮮血、大事には至っていないようだが、今丁寧に治療をしているような余裕はない。



「ミカエルっ！」



遮那は気合を込めて、全力の死亡遊戯を放つ。


「っ！」



あまりに早い、動きを見ていたミカエルも、これは身体に障壁を張り、威力を軽減させるので精一杯だ。



ミカエルは吹き飛ばされ、無限動力炉ヤマトに背中をぶつけた。



「くっ・・・」



「今度こそ終わりだ、ミカエル」


どうやらミカエルの分身体も全て倒されたようで、ガヴリエルたちもミカエルに剣を向けている。


「混沌王、仮に貴方が人間を信じようと、必ず人は罪を犯す、貴方がやることは、全て無意味よ？」


息を荒げながらそんなことを吐露するミカエルだが、遮那はゆっくりと手を伸ばすと、彼女の手を取った。



「ミカエル、確かに人間は歴史上何度も罪を犯しているかもしれない、だが、罪を犯すだけが人間ではないはずだ」


穏やかな遮那の声、ミカエルはじっと遮那を見つめながら、これまでの人類の歴史を思い返していた。


凄惨な戦いや殺戮の後も、人間は何度も同じように罪を繰り返した。


そんな人間に、今更何を期待するというのか？



「ミカエル、人間は本当にもう期待出来ないのか？、君の言うように罪を犯しながらも人間は前に進んでいく、だからこそ人間は未だに滅亡せず、新たな道を模索しているのではないか？」



「ミカエル、サナトの言う通りさ、人間はまだまだ可能性を秘めている、君が思っている以上に、人間の未来は明るいもののはずだよ？」



罪を犯す人間は数多存在する、しかし罪を犯してもそれを償う人間もまた存在する。


罪を犯そうとして犯す人間など、滅多にいない、だからこそ魔物娘は人間を見捨てず、ともにあろうとするのだ。


ガヴリエルの言葉に、ミカエルは目を逸らしたが、その瞳の中には迷いが渦巻いていた。



「ミカエル、君も本当は、人間と魔物娘を信じてみたいのではないか？」



「・・・それは」



ミカエルは人間を箱庭に閉じ込めようとした、だがそれは、あまりに人間を愛するがゆえの行動だったはずだ。


人間を愛するがゆえに、結果的に数多の人間を殺め、遮那と敵対してしまった。



「主神様の造形物を嫌うわけがないわ、だから私は、人間を完全にしたかった、罪を犯さず、無垢なままにしたかった・・・」



やはりそうだ、ミカエルは人間をあまりに愛おしく思い過ぎたのだ。


初めから人口を管理すれば抑制する必要はない、最初から無垢になるように教育すれば罪も犯さない。


そうなれば、二度と人間が凄惨な争いや、醜い罪を犯す必要はない。



「信じるんだミカエル、人間は愚かなままではない、魔物娘と生き、天使と生き、新たな世界を作り出せると」




ミカエルはしばらく瞳を閉じていた、遮那の言葉を反芻しているのか、その表情は強張っている。



「・・・わかったわ」



一瞬だけ、ミカエルの頬を、光るものが滴り落ちた。


「混沌王貴方を、ううん、人間と魔物娘を信じてみるわ」



遮那の手を握り返すと、ミカエルはゆっくり立ち上がった。




「・・・ミカエル」



「人間の世界に、天使が介入すべきではなかったのかもしれないわ、人間の世界は、人間の手で、作り出すべきなのかもしれないわね」



ミカエルとの和睦は成った、これで一先ずミカドの都国との戦いは終わりのはずだ。



「・・・よく、成し遂げたね？」


にこやかにガヴリエルは笑うと、遮那の両肩を叩いた。



「君の意思が、揺るがない正義が、ミカエルを動かしたんだね」



「違う、私だけの力ではない」


遮那はふふっ、と笑うとミカエルを見つめ、さらにはその場にいた全員の顔を眺めた。



「天使たちが、人間の可能性を認めるまでに歩み寄ってくれたから、だな」









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ミカドの都国の新たな出発のために地上に残った四大天使との別れ、奈落の塔を降り、遮那は東山霊廟に一旦戻った。



「遮那さまっ！」


霊廟前に辿り着くと、感極まったのか、いきなり真由が抱きついてきた。


「真由、今帰ったぞ？」



とんとん、と遮那は真由の背中を叩きながら、しばらく彼女の持つ不思議な安らぎに身を委ねていた。










「とりあえずはミカドの都国、四大天使との和平は成立した」



東山霊廟の一角、遮那、真由、アシャ、アールマティ、アムルタート、クシャスラ、ハルワタートは円になるような形で話しをしていた。



「そうか、まさか本当に実現させるとはな・・・」


しみじみと頷くクシャスラに、ハルワタートはクスリと笑った。



「姉様、市民の皆さんが砲撃で慌てても、『あいつならやり遂げる』とか言ってましたよね〜」



「なっ！、は、ハルワタートっ！」


ふふっ、と微笑むハルワタート、クシャスラはごほんと咳払いをすると、真剣な表情で遮那を見つめた。



「だが、こうなった以上グリゴリは我々を捨て置かないはずだ」


クシャスラの言うようにルシファーらグリゴリはさらなる混沌を求めている、ミカドの都国と和解した今、何かを仕掛けてくるかもしれない。



「その通り、ルシファーは、おそらく仕掛けてくる、はず」


アールマティは静かにそう呟くと、小さな文書を取り出した。



「それは？」



「京都ボルテクスに、配られている文書、グリゴリへの、投降を、呼びかけている」


文書を受け取ると、遮那は素早く流し読みしてみた。



「『戦いは終わった、今から混沌と享楽が支配する世界が来る、きたるべき新世界に乗り遅れないために、グリゴリへ来れ』、か」



「なんと言う勝手な、天使との戦いを終わらせたのは遮那さまなのに・・・」


横から文書を見ていた真由は、紙を破り捨てんと言わんばかりに激怒している。


「市民の中には何がなにやら解らない方もおられますわ、確かにこれだとグリゴリが戦いを終わらせたみたいにかんじますわね」



アムルタートもどうやら難色を示しているようだ、彼女の配下の妖精たちも頑張ったのに、これでは・・・。


「ならさ、とっととルシファーの奴を締めちまおぜ」


「落ち着けアシャ、ルシファーほどの堕天使が何の備えもしていないわけがないだろう？」


シェムハザを始めとする堕天使に、ミスラのガイア教団、ルシファーに接触するのは至難の技だろう。



「とにかく策を練ろう、ルシファーと会わねばならない・・・」



「そんなことしなくても、すぐ会えるよ？」


突如として、部屋に幼い少女の声が響いた。


「言ったはずだよ？、会おうと思えばいつでも会える、って」


遮那たちが囲む円の中心に、見知った少女が現れた。



「・・・お前はっ！」


「久しぶりだね、サナトお兄ちゃん」

■作者メッセージ
みなさまこんばんは〜、水無月であります。

ミカエル、ミカドの都国との和睦も成り、いよいよ長らく謎のままだった人物の正体が、次回は明かされてまいります。

お話もいよいよ佳境、頑張らせていただきます。

では、今回はこの辺りで。