まずは小手調べとばかりにミカエルは遮那に斬りかかる。


素早さも鋭さも、あの時大使館で戦った仮初めとは比べものにならないほどの実力だろう。


「・・・（ミカエルか、思えば京都からの腐れ縁、随分と長い付き合いになったものだ）」





だが遮那はこれを見切ると、両手をクロスさせて刀身を受け止めた。



「・・・ほう、中々やるわね」


ミカエルは今度は下段から足を払うような形で遮那に一撃を加える。


「甘いっ！」


だが遮那はこれも飛び上がってかわすと、同時にミカエルに飛び蹴りを食らわせた。


「ちっ！」


ミカエルは素早く身を返してこれをかわすと、そのままぐるりと横薙ぎの一撃を遮那に放つ。



「ふっ！」


今度は遮那は『物理無効』の障壁を左手に張ると、ミカエルの剣を掴んだ。



「なっ！」



「はあっ！」



気合いとともに右手で手刀を刀身に打ち据え、剣を真っ二つにしてしまった。




「やってくれるわね」



ミカエルは後ろに下がると、役立たずになった剣を投げ捨てると、艦長席の下から予備の剣を引き出した。




「なるほど、認めてあげる、貴方の実力は並みの天使なら遥かに凌駕する、けれど・・・」



今度はミカエルの左手に紫と金色の炎が纏われる。



「メギドの炎か」



「ご明察、さあ消え去りなさいっ！」


腕を鞭のように振るい、ミカエルは遮那めがけてメギドの炎を放つ。


「メギドの炎、確かに強力な技ではある、しかし・・・」



遮那は両手に『万能耐性』の障壁を張る。



「使い所さえ間違わなければ対抗策はいくらでもある」



遮那はまず左手の手の甲でメギドの炎に触るとそのまま虎拳の形で弾き、さらに右手で拳打を放ってメギドの炎をミカエルに跳ね返した。




「ば、馬鹿なっ！、人間ごときが、メギドの炎を・・・」



「メギドを制する、『メギドラハン』とでも呼ぼうか？」



メギドの炎の直撃を受け、ミカエルは第一艦橋から弾き出された。



「・・・くっ！、ここは一時引く」



左半身を押さえながら、ミカエルは素早く廊下を走り抜けていった。



「待てっ！」



ここでミカエルをなんとかしなければ、もうどうしようもない。


遮那はミカエルを追って、プルガトリウムの奥へと進んでいった。









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修道院の廊下を思わせるような巨大な廊下を遮那は全速力で駆け抜けるが、武装したサムライに足を止められてしまう。



「どけっ！」


斬りかかってくるサムライをなぎ払い、遠距離から攻撃してくる者は破邪光弾で弾き飛ばす。



「全員で態勢を整え、槍衾をかけろっ！、いかに修羅人とはいえ致命傷を与えられるはずだ」



廊下の端から端までにサムライたちが槍を構え、修羅人に向かってピタリと穂先を向ける。



「・・・むっ！」


巨大な盾に槍、防御と攻撃を兼ね備えたバランスの良い構えだ。


「目標修羅人っ！、全員でかかれっ！」



瞬間サムライたちが槍を構えたまま遮那に突撃をかけた。


「・・・なるほど、考えたな」



しかし遮那は身を低くとると、滑り込むかのように下からサムライたちの足を払う。


「なにっ！」




「・・・ふんっ！」



そのまま身体を回転させて、周囲に死亡遊戯を放つ。



空間を光の刀身が走り抜け、サムライの手にしていた槍と盾は両断された。


「馬鹿なっ！」



「退けっ！」


全身から波動を放ち、無防備になっていたサムライたちを弾き飛ばすと、遮那は急ぎ先へと進んだ。










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「・・・来たわね、混沌王」


プルガトリウムの機関室、ついに遮那はミカエルを追い詰めた。


二つの巨大な動力炉が連結された不思議な機関室で、遮那とミカエルは対峙する。



「終わりだミカエルっ！、投降せよ」




「投降？、四大天使の筆頭たる私が降伏するわけがないわ」



ミカエルは剣を引き抜くと、遮那に向けた。


「ミカエル、私の実力はすでに貴様を凌駕している、無益な戦いはやめろ」



「ふん、『明けの明星』の傀儡ごときが、私に指図かしら？」



剣を上段に構えると、ミカエルは遮那に斬りかかった。



「やはり、やる気か・・・」



ミカエルの一撃をかわすと、遮那は素早く回し蹴りを放つ。


しかしミカエルも大したもの、遮那の攻撃を見切ると、そのまま剣を返して柄頭で彼の足を打ち据える。




「っ！」



痺れるような鈍い痛みに、遮那の表情が微かにこわばる。



「混沌王、罪に塗れた今の人類を救うには主神様のご意思に従う他ないわ」



ミカエルは剣を構え直すと、油断せずに遮那を見つめた。



「戦争、貧困、差別、全ての始まりは人間がエデンの知恵の実を得て、神に逆らったこと」



「ミカエル・・・」



無限動力炉ヤマトから力を得ると、ミカエルは先ほどとは比べものにならない速度で遮那に斬りかかる。



これをなんとか見切ると、遮那は右手に障壁を張り、攻撃を止める。



「神に逆らう愚かな人、私はもう、人間同士が争い、世界が悲しみに染まるのを、見たくはないのよ・・・」



数多のの悲しみを見た、数多の絶望を見た、数多の死を、見てきた。



だからこそミカエルは願った、人間が愚かなまま成長しないならば、せめて原初の静寂を手に入れようと。



例えその手が血に濡れようと、例えその先に正義がなくとも、ミカエルは人間の平安を願った。




「全ての罪が始まる前のエデンに戻す、そのためなら私は・・・」



「哀れだなミカエル、人間の代わりに罪を肩代わりするなど、愚の骨頂」



遮那は左拳でミカエルの顎を殴り飛ばすと、破邪光弾を至近距離から叩き込む。



「がはっ！」




「人間の罪を断罪して殺戮したばかりか、人間が罪を贖う機会すら奪うつもりなのかっ！？」



跳ね飛ばされ、無限動力炉ヤマトに背中をぶつけるミカエル。


ミカエルは口から血を吐くと、回復魔法で怪我そのものは治したが、ダメージそのものはかなり受けているようだ。



「くっ・・・」



「そんなに人間も魔物も信じられないのか、お前ほどの天使がっ！」



「控えなさい混沌王っ！」



ミカエルは無限動力炉ヤマトに手をかけると、体内にエネルギーを蓄える。


「あなたに、あなたに私の気持ちがわかってたまるものですかっ！」



瞬間エネルギーが炸裂し、ミカエルは六人に分身した。



「・・・これは、いささか不利か」


遮那の顔に微かに死相がにじむ。



無限動力炉ヤマトから得たエネルギーによる純粋な分身、一人一人の実力はオリジナルに匹敵するはずだ。



「さあ、混沌王、どうかしら？、六対一のこの状況、切り抜けられる？」



「・・・くっ」



遮那は両拳を構え、六人に分身したミカエルを睨みつける。


遮那の実力は確かにミカエルを超えている、だが六人に分身したということは単純計算で六倍強くなった計算になる。



「ミカエルっ！」


連続で斬りかかるミカエルを、なんとか遮那は捌くと、後ろへ後退する。


「甘いわね」


だがミカエルの内一人が遮那の肩を蹴り、後ろへ飛ぶと、修羅人の背中に柄頭で一撃を加えた。



「ぐあっ！」


衝撃で跳ね飛ばされたところを、またしても複数のミカエルが斬り伏せる。


「っ！」



これは物理反射の障壁を張り、なんとか攻撃を止めることが出来たが、遮那は冷や汗をかいていた。



「・・・このままでは」



「終わりよっ！」


三人のミカエルの剣にメギドの炎が顕現する。



「まずいっ！、直撃する」



さしもの遮那も死を覚悟したその刹那、すさまじい衝撃が三人のミカエルを弾き飛ばした。



「なっ・・・」



孤立無援なはずの遮那を誰かが助けた、これは本来ありえないことである。


本来ミカドの都国に至るには奈落の塔を抜けて来なければならず、あんな短期間で突破できる訳がない。


遮那の仲間たちが急ぎ、奈落の塔の突破に乗り出したのだとしても、内部な広く、間に合うはずがないのだ。


慌ててそちらに視線を向けたミカエルだが、あまりのことに、しばらく絶句してしまった。



「まさか、貴女たち、が？」



そこにいたのはガヴリエル、ウリエル、ラファエルの三人の大天使だった。


意外な助っ人の出現に、遮那もまた目を見開いた。


「やあサナト、君があんまりだらしないから、助けに来てあげたよ？」


にやりと笑うガヴリエル、剣を引き抜くと、ゆっくりと立ち上がり剣をかまえ直したミカエルに切っ先を向ける。



「ミカエル、ボク達は君の悲しみや絶望をよくわかっている、よくわかるからこそ、君を止めてみせる」



「控えなさいガヴリエルっ！、貴女を処罰せずに監禁していたのが全ての誤り、私は一人でも戦うっ！」



耳を貸すつもりは、どうやらミカエルにはないようだ。


今度はウリエルが説得を試みる。


「ミカエル、確かに人間を処罰することは必要かもしれない、だがもうしばらく待つのも、永久を生きる天使の役目ではないか？」



「ウリエルっ！、所詮は貴方もミカドの都国から去った堕天使、今更私に意見する資格はないわっ！」



「ミカエル、人間と魔物の有り様が変わり、世界が進歩しているなら、わたくしたちも共に手を携えることを考えてみてはどうですの？」



ラファエルの必死の声も、ミカエルには届きそうもない。



「人間は主神さまの愛子、そして魔物は人間の天敵、この構図を主神様が変えられない以上、私は主神様の意に従う」


やはり口で言っても無駄なようだ、ガヴリエルは悲しそうにミカエルを見つめる。



「やはり、戦うしかないんだね？」


五人のミカエルの分身体が、剣を構えて四人に襲いかかる。



「・・・彼の出番がないことを祈ってたよ？」


瞬間、光が走り二刀流の鎧武者がどこからか現れてミカエルの剣を弾き、その内の一人を両断した。


斬り裂かれたミカエルの分身体は、そのまま一言も話さずに、消え失せた。


「魔物の召喚、まさか・・・」


光が来た方向を見ると、そこには管を構えたモンスサマナー、如月雷電が立っていた。


「戻れ、ヨシツネ」



短く告げて鎧武者を管に戻すと、雷電は剣を引き抜き、ミカエルの前に立った。



「大天使ミカエル、皇都の守護者としてお前を倒す」



「さあサナト、分身はボク達に任せて君はあの分からず屋を・・・」



ガヴリエルに対して頷くと、遮那はミカエルを改めて見据えた。


「大天使ミカエルっ！」



ゆらりと両拳を構え、遮那は戦闘態勢をとる。



「ここで終わらせるっ！」

■作者メッセージ
みなさまこんばんは〜、水無月であります。

今回はミカエルとの二戦目、ガタキリバみたいにオリジナルとまったく同じ能力の分身を出しましたが、心強い味方が現れたおかげでなんとかなりそうです。

次回辺りでミカエルとは決着をつけられるようにしたいですね。

ではでは今回はこの辺りで。