第二十八話「煉獄」
「時空貫通砲正常作動、京都ボルテクスへの着弾を確認」
「東山エリアに着弾、試射は成功です」
封霊船プルガトリウムの艦橋、オペレーターからの報告に、ミカエルは満足気に頷いた。
「素晴らしいわ、これほどまでに正確に着弾するなんて」
これならばニ射目をカテドラル周辺に絞れば、ガイア、グリゴリ、ともに殲滅出来るだろう。
遮那たちがどこにいるかはまだ把握出来てはいないが、カテドラルを破壊した後にあちこちに砲撃すれば何とでもなる。
「すぐ二発目のチャージを、このままボルテクスを駆逐するわよ」
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「・・・これは」
大霊廟付近にあった古びた高速道路は破壊され、後には巨大なクレーターが残っていた。
「十中八九ミカドの都国の攻撃ですね」
真由はなんとかそう呟いたが、釈然としない表情である。
「ああ、だが、京都ボルテクスに干渉するには奈落の塔を抜けなければならないはずだ」
実際遮那もミカドの都国からガヴリエルに導かれる形で奈落の塔を通じ、京都ボルテクスに来たのだ。
それが、どういうわけだか、奈落の塔を使うことなく、強力な砲撃が市街地に命中した。
「どうなっている?」
「サナトっ!」
ばらばらと何人かの見知った魔物たちが霊廟前に集合した。
アシャ、アールマティ、アムルタート、それに先ほど合流したハルワタートとクシャスラだ。
「みんな、京都御所は?」
「今はナジャが私の代わりに妖精たちを率いて、広目天と一緒に守っていますわ、それよりも・・・」
遮那の言葉に、アムルタートが口を開いたが、その表情はすこぶる剣呑だ。
「ああ、あの一撃、何もない場所からいきなり現れやがった、まるで空間を貫いたみてーにな?」
アシャはあれが被弾するところを目撃したようだ、何もない場所から現れる、どういうことだ?
「サナト、ミカドの都国はとんでもない兵器を、生み出したのかもしれない」
アールマティの言葉に遮那は頷いた、空間を貫き、目的地に直接砲撃する。
そんな射程も何も関係ないような兵器を作られたとあっては、遮那にはどうすることも出来ない。
間に合わなかったのか?、このまま己は何も出来ずに終わるさだめにあるのか?
「サナト、まだそうと、決まったわけじゃない」
アールマティは空中を見上げると、一点にめがけて溶岩の拳を放った。
「・・・むっ!」
直後、空中に不思議な魔法陣が浮かび上がり、アールマティの一撃はその魔法陣を打ち消した。
「連中はどうやら、魔法陣の力で、空間を歪めて砲弾を撃ち込んでいる」
「つまり、砲弾が転移する前にエネルギーをぶつければ、魔法陣をかき消し砲撃を防げる、と?」
真由の仮説にアールマティは頷いたが、すぐさままっすぐに奈落の塔を指差した。
「それだけじゃない、魔法陣の許容をはるかに上回るエネルギーをぶつけられれば、こちらから空間に、進入することも可能なはず」
「つまり、どうすりゃいい?」
頭から煙を拭きながら、アシャはアールマティに詰めよった。
「ミカエルはこことは違う安全な場所から京都ボルテクスに攻撃をしている、つまり魔法陣を通じてそこに行ける、というわけですわね?」
アムルタートの言葉を受けて、遮那は先ほどの魔法陣が消えた場所を見た。
「魔法陣をこじ開けたならばすぐさま飛び込む必要がありそうだな?」
しばらくアールマティは考えていたが、何度か頷くと、五本指を立てた。
「私たちのエネルギーを一点に集め、その瞬間に突入出来れば良い、けれど・・・」
「出るのは敵地のど真ん中、だろう?」
クシャスラの指摘通り、もし突入が成功しても、そこはミカエルを含め、たくさんの敵が存在する場所であるはずだ。
そんな場所に送り出せるのはたった一人、あまりに危険過ぎる。
「・・・だが、これしか手はない」
遮那は静かに頷くと、修羅人の姿に変身し、両拳を握った。
「私が行こう、ミカエルとは因縁もある、ここいらで決着をつけるべきだろう」
「遮那さま・・・」
心配そうに目を細める真由だが、遮那はにこやかに微笑んだ。
「心配するな真由、私は真由の無敵の幼馴染、簡単にはやられんさ」
なおも何か口を開こうとする真由だが、ウォフ・マナフは彼女の肩に手を置くと、軽く頷いた。
「わかりました、ですが遮那さま、必ず、私のところへ、帰ってきて下さい」
「無論だ、君を残してどこかに行くほど私は酷薄ではない」
ふっ、と遮那は微笑むと、素早く、それこそ風のように真由の唇を奪ってみせた。
「・・・んっ!!」
アンデットである真由の唇は、冷たさこそ感じるが、虜にするような不思議な感覚を遮那に与えた。
ずっと抱きしめていたくなるような不思議な感覚、敢えて言うならば魔物娘としての魔性の魅力だろうか?
「・・・では、行こう」
遮那が唇を離し、奈落の塔を睨み据えていると、一行の真上に魔法陣が現れた。
「・・・来た」
アールマティの言葉を皮切りに、真由、ウォフ・マナフ、アシャ、アールマティ、ハルワタート、アムルタート、クシャスラの七人の魔物娘は、自分のエネルギー魔法陣にぶつけた。
空間を七色の光が満たし、空中に浮かんだ魔法陣を光に染めていく。
光の中、ガラスが割れるような音がして、魔法陣の中心が、合わないレンズのように歪んだ。
「遮那さまっ!」
真由の声に、遮那は地を蹴り、空中を浮遊すると、魔法陣に現れた『歪み』へと突入した。
「はあっ!」
『歪み』をくぐると、すぐ目の前に強力なエネルギー波が現れた、恐らくミカエルが発射した主砲だろう。
「邪魔だっ!」
死亡遊戯を一閃、エネルギー砲を相殺させると、遮那は『歪み』の先へと飛来した。
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転移した先は、どうやらミカドの都国の上空のようだ。
「・・・よくこんなものを作ったな」
上空に浮かぶ巨大戦艦の甲板に、遮那は立っていた。
「とりあえず、主砲を破壊しておく必要があるな」
また京都ボルテクスを攻撃されても困る、遮那は破邪光弾を放って、見える位置にあった砲台を全て破壊した。
「侵入者だっ!」
瞬間、あちこちから武装したサムライたちが現れ、遮那を取り囲む。
「やれやれ、熱烈大歓迎だな?」
斬りかかってきたサムライを突き倒し、そのまま後ろから迫っていたサムライに回し蹴りを食らわす。
「どうした?、こんなものではないだろう?」
遮那は地を蹴り、空中に飛び上がると、上空から雨のように破邪光弾を放ってサムライたちを弾き飛ばす。
「つ、強い・・・」
「これがラフェール様すら凌駕した、修羅人の実力・・・」
だが、遮那がいくらサムライを倒しても、次から次へと甲板にサムライが押し寄せてくる。
「きりがないな」
サムライを殴り飛ばしながら、短くつぶやくと、遮那はサムライたちが出てくる入り口めがけて破邪光弾を放った。
サムライたちが慄く前で入り口は大炎上、誰も出てこれなくなった。
「次は・・・」
死亡遊戯を発動させ、遮那は甲板の床を叩き斬ると、開いた穴に飛び込んだ。
「なっ!」
「逃げたぞっ!」
サムライたちは遮那が消えた穴を見たが、すでに彼は廊下を走り去っていた。
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廊下を走った先、第一艦橋には既に大天使としての姿を現したミカエルがいた。
「・・・来たわね修羅人、いえ混沌王サナト」
「ミカエル、もう諦めろ、ガヴリエルもウリエルもラファエルも、みんな秩序の限界を悟った、今こそ天使は魔物と強力して、世界を復興すべきだ」
遮那の言葉にミカエルはうっすらと微笑んだが、その表情はどちらかと言えば侮蔑か、もしくは嘲笑に近かった。
「サナト、所詮貴方は私の姉である『明けの明星』の操り人形に過ぎない、目を覚ましなさい」
ミカエルは羽をたたみ、艦長席に腰掛けると、遮那に片手を差し出した。
「サナト、もし貴方が罪を償うならば主神様はお認め下さるわ、こちら側につきなさい」
「ミカエル、今更そんなことを言われても私の答えは決まっている」
ふっ、とミカエルは鼻を鳴らすと、席から立ち上がり、翼を広げた。
「愚かねサナト、今回の私は本気、貴方では勝てないわよ?」
前回京都大使館でミカエルと戦った時、彼女は仮初めの肉体での戦いだった。
当然今目の前にいるミカエルは本体、仮初め以上の能力であるはずだ。
「勝って見せるさ、私もこれまで遊んでいたわけではない」
両拳を構え、遮那は黄金の瞳でミカエルを睨み据える。
「ふっ、やはり人間は愚かね?、勝ち目の無い戦いに挑むなんて、それとも貴方は人間と魔物、両方の愚かさを持ってるのかしら?」
ミカエルは剣を引き抜くと、遮那に向ける。
「ここが貴方の墓場となるのよっ!」
16/09/15 22:57更新 / 水無月花鏡
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