第二十話「京都」
救世主神教団ファリサイ修道院、ミカドの都国の行政機関にラフェールはまず足を運んだ。
「これは、ラフェール様・・・」
出迎えたのは修道院長のゴルゴス、ファリサイ修道院のトップであり、実質救世主神教団の頭でもある。
「わたくしはこれから奈落の塔を降り、とある魔物と交渉しますわ」
「・・・魔物、ですか?」
ゴルゴスは怪訝そうに眉をひそめたが、相手は元老院の三賢者の一人、表立って文句を言うことは出来ない。
「そう、それである程度サムライ衆を連れて行こうかと思いますの、手配して下さる?」
「ははっ、ただちに」
ラフェールに一礼すると、ゴルゴスはすぐさま手配にとりかかった。
「・・・(ウリアが行方知らずのこの時期にラフェールまで、後のミカはまだ対処しやすい、今の内に『戦車計画』を進めておくとしよう)」
ラフェールはゴルゴスが、邪悪な顔をしているのには気付かず、奈落の塔の下にある街に思いを馳せた。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
タワー、かつてはそう呼ばれていた塔から降りて、空を見上げると、やはり遮那は違和感を感じた。
「本当に、位相がずれている空間なんだな・・・」
荒れ果てた道路を歩きながら、遮那は隣を歩くガヴリエルを見た。
「説明してくれないか?、何故こんなことになったか・・・」
しばらくガヴリエルは遮那を見ていたが、やがて一つ息を吐くと、口を開いた。
「千年前の大崩壊、ICBMによる攻撃のことは覚えているね?」
無論覚えている、大天使ミカエルが魔物たちを浄化するために各地に放ったICBM。
これにより、純化された世界、ミカドの都国は完成したのだ。
「その際、凄まじい魔力の奔流がICBMを直撃、その相乗効果でとんでもないエネルギーが溢れた」
本来魔法と科学は出会わない技術、この出会わないはずの技術のエネルギーがぶつかり合い、未知の力を生み出したのだ。
その力は空間を歪ませ、京都を京都ボルテクスへと変貌させた。
「そしてこの変化を京都ボルテクスでは、『京都受胎』と呼んでいる」
嫌な予感に、遮那は背中を冷たい汗が伝うのを感じた。
「まさか、その魔法は、京都受胎の原因になった技は・・・」
ガヴリエルは、すっと右手を遮那に向ける。
「君がICBMを破壊しようと使った技、あれが原因さ」
あまりのことに、遮那は絶句してしまっていた。
なんとなく嫌な予感はしていたが、まさかこれほどの事態だったとは。
自身が行った罪、自身が行った業、それがミカドの都国、京都ボルテクスを生みだしてしまったのだ。
「・・・遮那さま」
真由は微かに首を振り、ガヴリエルを見つめた。
「私たちをここに連れてきたのは、そんな話しをして遮那さまを追い込むためですか?」
やや目つきの厳しい真由に対して、ガヴリエルは両手を振った。
「誤解させたならごめん、そんなつもりはなかったんだけど・・・」
「・・・お前の意思はどうあれ、この荒廃は私がもたらしたものに違いはない」
遮那はやっとそう呟いた。
「ガヴリエル、私は罪を償い、この世界を救ってみせる」
「独善だね、サナト、ただの一個人が償えるほどこの対価は安くはないよ?、君一人でなんとかなるならすでにボクは君の命を要求しているさ」
ふうっ、とガヴリエルは空を眺め、こちらに向かって伸びている建造物を見た。
「けど、償おうとする意思はわかったよ、それに攻撃を決行したミカエルはボクの身内、天使にも責任はある、ボクは君に力を貸そうと思う」
にやり、とガヴリエルは微笑むと、遮那の両肩を叩いた。
「さ、何か事を起こすのならボクたちだけじゃダメさ、まずは仲間を集めないと」
「・・・悪いが、そうはいかねーな」
突然、凄まじい熱風が三人を襲った。
「『衝撃反射』っ!」
ただちに変身して、熱風を跳ね返す遮那、するとどこからか感心したかのような口笛が聞こえた。
「ひゅ〜、やるじゃねーか」
とんっ、と遮那たちの前に、全身マントを纏った女剣士が現れた。
まるで蜥蜴のような仮面をかぶり、その本当の顔を伺い知ることは出来ない。
「お前さんが『ガイアの救世主』修羅人だな?」
「ガイア、だと?」
突然の新しい単語に、遮那は首をかしげた。
「『ガイア教団』の弥勒の予言が正しいかどうか、試させてもらうぜ?」
瞬間、女剣士は地を蹴り、背中に背負ったバスターブレードを引き抜いて遮那に切り掛かってきた。
「やる気かっ!」
遮那は両手に光を纏うと、女剣士の剣を弾き、掌打を放つ。
「おっ、やるようになったじゃねーか」
女剣士はこれをかわすと、剣に炎を纏った。
「おらあっ!」
放たれた火炎放射を、遮那は慌てずに障壁を展開して弾き飛ばす。
「さすがは修羅人だぜ、やってくれんじゃねーか」
「何故私を狙う?、お前は何者だ?」
やっと遮那は口を開いたが、どうも女剣士の太刀筋には見覚えがあった。
「俺たちは『ガイア教団』、深き大地の底より産まれた闇の眷属、魔物とともに混沌を目指す集団さ」
ガイア教団、京都ボルテクスにそのような連中がいたとは・・・。
「行くぜ?、お前が救世主ならそれを証明しやがれっ!」
続いて繰り出される高速の斬撃、普通の人間なら見切れないだろうが、今の遮那にはよく見える。
「そこだっ!」
太刀筋を見切ると、遮那は破邪光弾を放ち、女剣士を弾き飛ばした。
「くうっ、やるじゃねーか、ならこいつを喰らえっ!」
女剣士は全身から赤い粒子を放ち、高速で遮那に近づく。
「なるほど、肉体強化の魔法か、だが・・・」
遮那は構えを解くと、じっと神経を研ぎ澄まし、女剣士の動きを探る。
「終わりだっ!」
「そこだ、『物理反射』」
女剣士が剣を振り下ろした隙を狙って、遮那は身体にシールドをはりめぐらす。
「ぐわっ!」
自分の攻撃を跳ね返され、女剣士は大きく仰け反る。
「っあ、やってくれたな・・・」
「もうやめよう」
遮那は変身を解除すると、構えを解いて見せた。
「遮那さまっ!」
「正気かいサナト?、相手はまだ剣を握っているよ?」
真由とガヴリエルの言葉に、遮那は微かに首を振った。
「この型は組手だ、最初から君は私の命を奪うつもりはなかった、違うか?」
遮那の言葉に、女剣士はバスターブレードを背中に納めた。
「へっ、お見通しかい、修羅人」
「・・・生きていたのだな、アシャ・ワヒシュタ」
意外な名前に、真由は遮那を見た。
「アシャ・ワヒシュタ、たしか彼女は三津島一佐の・・・」
女剣士の背中から炎が燃え上がり、マントを燃やし尽くした。
「やっぱ、俺の旦那は一味も二味も違うな」
仮面の奥にあったのは、間違いなくあの時に京都御所で戦ったサラマンダー、アシャ・ワヒシュタだった。
「だから、サナトには隠し事は無駄だって、言ったのに」
どろりとした溶岩が流れ、アシャの隣にラヴァゴーレムが現れた。
「けっ、一度戦わなきゃ、あいつが本当にサナトかわかんねーだろがよ、アールマティ」
ラヴァゴーレムのアールマティは、遮那を見て微笑んだ。
「久しぶりサナト、元気そうで、良かった」
ラヴァゴーレムのアールマティ、彼女はジブリルことガヴリエルの処刑が迫る中、敢えて見逃してくれた魔物だ。
もしあの時見逃してくれなかったら、ジブリル救出は間に合わなかったかもしれない。
二人とも全然変わっていない、やはり魔物は人間の常識では計れないということか。
「まっ、積もる話も色々あるからさ、俺たちと一緒にきてくれねーかな?」
「・・・『ガイア教団』、それに弥勒とやらのことか?」
遮那の言葉に、アールマティは頷いた。
「そう、偽りに満ちたこの世界を解き放ち、本当の自由を、作り出すために・・・」
遮那は一旦二人に手を向けると、真由とアイコンタクトをとった。
「・・・(どう思う?)」
「・・・(わかりません、信用していいものか、しかし・・・)」
「・・・(しかし?)」
「・・・(アシャもアールマティも魔物、まだ信用出来ると思います)」
軽く頷くと、遮那は二人の魔物のほうを向いた。
「わかった、案内してくれ」
16/08/31 19:59更新 / 水無月花鏡
戻る
次へ