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第十九話「奈落」



「ミカ、不味いことになりましたわ」


「ラフェール?、どうかしたの?」


「ウリエルが、修羅人とワイトに敗れ、ガヴリエルの監禁に失敗したみたいですわ」


「なっ、そんな馬鹿な・・・」


「ガヴリエルは元々親人派、親魔派の異端、修羅人一派をボルテクスに案内することは予想に難しくありませんわ」


「ウリエルを倒すほどの連中がボルテクスに行けば、原住民と魔物娘を勢い付かせるきっかけになるかもしれないわね」


「・・・それなら、わたくしがボルテクスに行って、修羅人との交渉に当たりますわ」


「ラフェール・・・」


「元々修羅人、というよりサナトには興味がありましたもの、ちょうど良い機会ですわ」







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ジブリル、大天使ガヴリエルの案内で遮那と真由はミカドの都国の郊外を歩いていた。



「大崩壊の後、ボクたちは選ばれし民、つまり神に従属を誓った人とミカドの都国を作った」


当初の予定通り、ミカドの都国の建国はうまく行き、結果神の千年王国は完成したというわけだ。



「ただ、ミカエルたちは何を焦ったのか、国の支配体制をかなり厳重にした、悪即斬と言っても過言ではないくらいにね?」


それがガヴリエルには許せなかった、ある程度の自由は保障しようとしたが、結果失敗して幽閉されたというわけだ。




「やっぱり、迷ったって、間違えたって、それが人間なんだから、完璧な人生なんてないんだよね〜」




ガヴリエルはそう告げながら、道の先に見えている巨大な奇岩を指差した。



「あれ、何に見える?」




見たところ奇岩に開いた洞窟に見えるが、よく見るとそれは何かの先端の気もした。




「あれはミカドの都国の人間からは『奈落の塔』と呼ばれる場所だよ、もちろん立ち入り禁止」




奇岩は近くで見ると、意外に小さかった、鍵のついていた扉を開いて、遮那と真由はガヴリエルの先導で中に入る。








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「サナトとマユは、ここに来たことがあるかな?」


階段を下りながらガヴリエルはそんなことを質問したが、もちろん遮那と真由の答えはノーである。



ミカドの都国に来たことも初めてなら、奈落の塔とやらに入るのも初めてだ。



「ふうん、果たしてそうかな?」



奈落の塔の上部、そこにはたくさんの小部屋が存在した。


ロッカーにはいくつもの作業服のようなものが残され、ある小部屋には日誌の破片のようなものもあった。



「・・・『西暦20・・年、十一月二十六日
『・・受胎』を乗り越え、ついに我々は天井の国に辿り着いた、この先に明るい太陽がある』」


正確な年は不明だが、西暦とはまた見慣れた懐かしい紀元だ。


「・・・何者なんだ?、これを書いたのは」



ガヴリエルに遮那が問いかけると、彼女は悲しそうに微笑んだ。



「サナトは、ミカドの都国の歴史についてどこまで知ってる?」


「あまり詳しくは・・・」



そう、と呟くと、ガヴリエルは小部屋の椅子に腰を下ろした。





「今から行く場所はミカドの都国の市民の大半には内緒にされてる場所、ボクら四大天使は『ボルテクス』と呼んでる場所さ」



「・・・ボルテクス」


聞いたことのない名前だ、どういう場所なのだろうか?



「ボクらのミカドの都国とはズレた異界に存在するのが、ボルテクス、空間も、時間の流れも歪んだ新世界」



恐ろしい言葉が飛び出した、ならばミカドの都国では大崩壊から千年経っていても、そのボルテクスではまだ西暦2000年代の世界なのだろうか?




「君の推察は大体当たってるよサナト、ボルテクスは大崩壊で誕生したもう一つの世界、行けばわかるけど、魔物娘が跋扈するかなり危険な場所さ」



「なるほど、しかし何故大天使がそれほど詳しく把握しているのですか?」


真由の言葉に遮那も頷いた、そんな危険地帯ならば調べようとせずに封印すべきではないか?


事実ミカドの都国の人間の大半には、奈落の塔のことは伏せられているようだが、大天使が把握しているのは意図的に情報を操作した結果だろう。



「それが事件さ、実はボルテクスの人間がこの奈落の塔を作り出したんだ」



なんと、奈落の塔はミカドの都国の人間が作ったわけではないのか。


そう考えれば、ボルテクスの人間がミカドの都国を目指して作り出したと推察出来る。



「人間と魔物娘が協力して作り出したこの塔は、空間を突き抜け、ミカドの都国にまで届いた、そしたらどうなると思う?」



ガヴリエルの質問に、遮那はすぐさま口を開いていた。



「たくさんの人間が、『純化』されなかった人間が上ってくる」



「しかも人間だけではありません、魔物娘まで・・・」



二人に向かって、ガヴリエルは嬉しそうに頷いた。



「そ、二人とも出来の良い教え子で助かるよ」


実際こんな大それた真似をやってのけたのだ、たくさんの人間、魔物娘が奈落の塔を通じてミカドの都国にやって来たに違いない。



「君たちの想像通り、たくさんの人間と魔物娘がやってきたけど、ミカエルはそれを許さなかった」



ガヴリエルはそれを止め、ルールを守って移住したがる者だけでも受け入れようとしたが、結果的に叶わず、幽閉された。



それが、ガヴリエルの守ろうとした、人間の最低限の自由。




「それからは伝え聞いた話だけど、かなり大規模な戦争があって、ついにボルテクスの連中は追い返されたらしい」



ガヴリエルはその場にいたわけではなさそうだが、今のミカドの都国の現状を鑑みるに、彼女の聞いた話は間違いではなさそうだ。



「・・・だからここ数百年は奈落の塔を使う人間はいなかったはずだよ?」


休憩は終わりとばかりに、ガヴリエルは立ち上がると、また下に続く道を指差した。



「さ、まだまだ先は長いよ?」








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奈落の名前の通り、本当に地の底に続くのではないかと思うような長い道のり。



塔の端々には骨組みが露出した箇所があったが、それはミカドの都国ではほとんど見なかった現代風の鉄筋で造られている。


「・・・これは」


さらに、壁や天井に使われている石材は、遮那と真由にとって、非常に馴染み深い、懐かしさすら感じるものだ。




「気づいたかな?」


ガヴリエルは所々鉄筋が露出した場所を調べながら頷いた。



「コンクリート、ここにある壁はコンクリートで造られている」



間違いない、かなり古びてはいるが、この奈落の塔を形作っているのは、遮那たちのいた二十世紀の技術だ。


「そ、魔界の技術も使用されているけど、骨子になっているのは人間たちの技術、ボルテクスからミカドの都国へ至らんとする執念が形作った道」



言わば人間の技術と魔物娘の技術のハイブリッドだね、とガヴリエルは続けた。


「さあ、もうすぐ見えてくるよ、ボルテクスが」



下へと続く階段を下りていくと、こんどはどこかのドームのような場所にたどり着いた。



「・・・ここは」



薄暗いドームの周りはガラス張りになっており、かなりの高度から、周囲の景色を眺めることができた。



「奈落の塔の下層部、実は黙っていたけど奈落の塔はもともとボルテクスからミカドの都国に至るために作られた塔じゃないんだよ」


ガヴリエルはドームに置かれたベンチに積もった埃を払うと、ゆっくり腰掛けてガラス張りから外を見た。



ガヴリエルにつられて、遮那と真由もまた、ガラス張りに近づく。



「奈落の塔は元々あった塔を利用して、ミカドの都国に届くように作られた、言わばリサイクル品さ」


「・・・まさか、これはっ!?」


ガラスから外を見て、遮那は絶句してしまっていた。


「サナト、君はこの景色を見たことがあるはずさ」



ボルテクス、それはぐるりと、まるで地球儀の中かプラネタリウムのように街が全方位に張り付き、建物が真ん中に向かって伸びている世界だった。



本来ならば空があるはずが、重力を無視して街が空に張り付いている。


空だけでなく、周りにもまるで球体の内側の壁のように街が張り付いていた。


慌てて奈落の塔の先端を確認した遮那は、またしても絶句した。


球体の街のちょうど真ん中、すなわち奈落の塔の先端には、漆黒の太陽があり、奈落の塔はそこに続いている。



「遮那さま、間違いありません、この街は・・・」


呆然とする真由の言葉に、遮那はやっと頷いた。


「ああ、この街は、我々が生まれ育った街、京都だ」


遮那はベンチに座ったガヴリエルを見た。


「だから言ったろ、サナト、『ここに来たことはあるかい?』ってさ?」



ガヴリエルは複雑そうな顔で立ち上がった。






「ようこそ、『京都ボルテクス』へ」
16/08/28 14:26更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
みなさまこんにちは〜、水無月であります。

いよいよ舞台は新世界、京都ボルテックスに移るわけですが、本家のボルテックス界の説明がすごく難しいため、こんな感じになりました。

ところで先日某動画を見ていて、ふと大天使メタトロン(『修羅』登場)の大きさを割と真面目に計算してみたのですが・・・。


「この大きさじゃ、ラ=グー○かゲッター○ンペラーだろっ!」(by弟)

ではでは、今回はこの辺りで。

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