第十三話「異界」
「真由、真由っ!」
気づくと遮那は、深い森の中にいた。
「どこだ、ここは・・・?」
まさかこれまでのことは全て夢だったのだろうか?
否、身体のあちこちには神秘的な紺色の刺青が走り、全身からは人間離れした力が漏れている。
「夢ではない、か」
遮那の記憶の更新は、京都に飛来したICBMを見上げていたところで終わっている。
あの時大地が裂け、凄まじいエネルギーが漏れていたが、それからどうなったのか。
「とにかく、まずはこの辺りを探索してみるか」
ここがどこかはさっぱりわからないが、ここがどこかわかればある程度何があったのかはわかるかもしれない。
慎重に遮那は歩き始めた。
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いつもの手斧はどうやら無くしてしまったため、今の遮那は丸腰である。
だが今や遮那の身体そのものが兵器となってしまっている、気にする必要はないだろう。
「・・・ん?」
森の奥から、何やら楽しげな音楽の音が聞こえてきた。
誰かがピアノでも弾いているのだろうか?、否、ピアノだけでなく可愛らしい少女の歌声まで聞こえる。
「つまりこちらには人間がいるということか?」
木々をかき分け、遮那は音のする方向に向かって歩いていく。
「ここは・・・」
遮那が辿り着いた場所は、まるで絵本の中の王国のような場所だった。
丸い城壁に、どことなく愛嬌のある城、さらにはあちこちに散りばめられたトランプの意匠の装飾。
遮那の頭の中に、不思議の国のアリスという単語が思い浮かんだ。
「ようこそお兄ちゃん」
いつの間にいたのか、城門の前に青いワンピースに金髪碧眼の美しい少女、否幼女がいた。
「ようこそ、アリスの王国へ」
スカートをつまみ一礼してみせる幼女、アリス、何者かはわからないが、ここのことに詳しそうだ。
「私はサナト、アリスとやらここはどこだろうか?」
「ここはねー、アリスの王国なんだよ?、アリスは女王さまだから、なんでもできるんだよー」
ぱちりとアリスが指を鳴らすと、遮那の前に高そうな椅子が現れた。
「ほらほら座って座って、お兄ちゃんかっこいいから、特別にアリスのお友達にしてあげるね」
ぐいぐいと押され、無理やり椅子に座らさられる遮那、何やらよくわからない方向に話しが進んでいるような気がする。
「ね、ね、お兄ちゃんお兄ちゃん、アリスのお友達になってくれるよね?」
上目遣いでそんなことを言ってくるアリス、遮那は彼女のあまりの幼さに戸惑いを感じた。
「それは・・・」
「えー、友達になってくれないの?」
不機嫌そうにこちらを見つめてくるアリス、ここはなんとかしなければ情報が聞き出せないかもしれない。
「じゃーね、お兄ちゃんアリスの『こいびと』になってよ」
恋人、友達よりもいきなりハードルが上がっているような気がするが。
「・・・アリス」
「えー、お兄ちゃん『こいびと』いるの?」
恋人と聞いて、儚げに笑う真由の笑顔が一瞬頭に浮かんだが、遮那は結局何も言わなかった。
「じゃあお兄ちゃんはアリスの『こいびと』だからね?」
くるくると嬉しそうに椅子の周りを走り回るアリス。
ピタリとアリスは遮那の正面に立つと、にこりと無邪気に微笑んだ。
「それじゃあお兄ちゃん、アリスの『こいびと』になるなら条件があるの
あのねー・・・・・・・
し ん で く れ る?」
瞬間遮那が腰かけていた椅子の周りからいきなり巨大なアイアンメイデンが現れた。
「なにっ!」
立ち上がる暇なく、遮那は中に取り込まれてしまった。
「しんでくれたら、ずっと一緒にいられるんだよ?」
すりすりとアイアンメイデンの表面を撫でるアリス。
「それってすごく素敵だよね」
からん、と音がしてアイアンメイデンの下からたくさんの注射器のような器具の破片が出てきた。
続いて内部からたくさんの光弾が放たれて、アイアンメイデンは破壊された。
「・・・死ぬかと思ったぞ」
無傷の状態で出てきた遮那を見てアリスは目を丸くした。
「残念だが強引に私をスケルトンにすることは出来ない、別の手段を考えるのだな」
「お兄ちゃんかっこいいだけでなくて、すごく強いんだね」
ふわりとアリスは宙に浮かぶと、メリーゴーランドのような馬に飛び乗った。
「待てっ!、アリス」
「こっこまで、おいで〜」
そのままアリスは城の中に入って行ってしまった。
追いかけないわけにはいかない、遮那は直ちにアリスを追って城の中に入った。
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城の廊下には等身大の巨大なトランプが壁に沿って並べられていた。
女王を守る兵士か何かのように所狭しと並べられている。
その廊下を歩こうとして、遮那の第六感が警告を発した。
慌てて後ろへさがると、トランプが槍を手に先ほどまで遮那がいた場所を串刺しにするところだった。
「熱烈大歓迎だな」
襲い掛かってくるトランプの兵士たち、遮那は右手から『破邪光弾』を放って撃破していく。
新手が奥から現れたが、今度は光の刀身を腰から引き抜く技、『死亡遊戯』でバラバラに切り裂く。
兵士を全滅させると、遮那は急いで廊下を走り抜けていく。
そういえば随分昔、不思議な都市伝説を聞いた覚えがある。
関東大震災でとある良家の子女が死に、魂が神に召された。
しかしそれを気の毒に思った赤い悪魔と黒い死霊使いが魂を回収し、魔物として復活させた。
少女は二人の保護者と幸せに暮らしていたが、時として公衆電話、現代ならば携帯電話を通じて人間を異世界に連れ去ったりしているらしい。
もしかしたらあのアリスが復活した良家の子女なのかもしれない。
廊下の先には巨大な広間があった。
「鏡か・・・」
四面の壁は全て磨き上げられた鏡でつくられており、合わせ鏡が無限の光景を作り出していた。
なんとなく不吉な気分にさせられるような、そんな場所である。
『サナトお兄ちゃんのために、白いお姉ちゃんに頼んで、楽しい遊び相手を用意したよ〜』
どこからともなくアリスの声がする、『楽しい遊び相手』、恐らくあの悪魔のような少女のこと、碌な相手ではないだろう。
『このお城にいるから、頑張って見つけてね〜』
とにかくまずはアリスの欲求を満たすために遊び相手とやらを見つけ出さねばならないだろう。
鏡の広間には一つだけ赤い印が付けられた壁があった。
「・・・ふむ」
よく見ると、それは鏡に見せられた扉のようだ。
ふと、扉に手をかけようとして、遮那は扉の中から凄まじい力を感じた。
「なんだ、これは・・・」
間違いない、この扉の先に、アリスの言う『楽しい遊び相手』がいるのだ。
心を落ち着け、遮那は扉を開いた。
「修羅人と、『モンスサマナー』の対決、面白そうだよね〜」
「・・・待っていた」
扉の先は紅い壁の広間だった。
壁には一箇所だけ扉があったが、その前に立つようにして、一人の男がいた。
大正時代の書生が被るような制帽に、腰には軍刀。
その身にまとった外套の内側には詰襟の制服を着込んでいる。
近づかなくてもよくわかる、この男は数々の命をかけた戦いを経て強くなった、本物の戦士だ。
「君が、修羅人?」
じっと黙りこんでいる青年のすぐ近くを、可愛らしいフェアリーが飛んでいた。
「この人はね、『永劫の探求者』如月雷電さん、巷じゃ『モンスサマナー』なんて呼ばれてるよ〜」
私はフェアリーのエデ、よろしくね〜、とフェアリーは続けた。
「修羅人さん、私たちは永劫の探求をしてる時にいきなり『小主神』に呼び出されちゃったの」
エデのセリフに、黙って雷電は頷いた。
「修羅人さん、貴方の力をためさせてもらうよ?」
雷電は軍刀に手をかけると、そのまま引き抜き、遮那に切り掛かった。
「雷電さん、間違っても、殺さないでね?」
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「異界の者と戦い、己のうちにあるコトワリを学ぶのよ、サナト・・・」
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analyzer
混沌王 遮那
種族 修羅人
使用技 『破邪光弾』、『死亡遊戯』、『地母晩餐』
攻撃全般に強く、仙術に弱い
16/08/17 13:23更新 / 水無月花鏡
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