第六話「御使」
ジブリルに連れられ、遮那と真由は新京極の怪しい収容施設から出て、レジスタンスの本部に向かった。
アムルタートとナジャには何人かのレジスタンスとともに、引き続き収容施設の転移装置を調べて貰っている。
この間ナジャが駄々をこねていたが、アムルタートが上手くなだめすかし、事なきを得た。
「・・・本部、とはここか」
二人が招かれたのは新京極の喫茶店『カミツレ』だった。
「ささっ、奥へどうぞ?」
カミツレの奥には事務所のスペースがあったが、部屋の隅にあるロッカーの内部には、地下に続く穴があった。
「ここから降りるのか・・・」
穴に備え付けられた梯子を下り、遮那と真由はレジスタンスの本部に足を踏み入れた。
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「ようこそレジスタンスの本部へ」
地下の小部屋にある椅子に腰掛け、ジブリルは頷いた。
「改めて、ボクはジブリル、レジスタンスのリーダーさ、サナトとマユ、君たちのことは少しだけ調べさせて貰ったよ?」
ジブリルはレジスタンスから渡された紙に目を通す。
「二人ともかなりの使い手、魔物と十分やりあえるみたいだね?」
一体何を調べたのか、そんなことを言われて遮那と真由は顔を見合わせた。
「ボクたちレジスタンス、そして救世主神教団は君たちを歓迎する、どうか一緒に三津島一佐を止めるために力を貸して欲しい」
ジブリルの言葉に、しばらく二人は黙り込んだ。
「三津島一佐を止めなければならないというのはよくわかっている、しかし・・・」
何故だろうか?、レジスタンスと言うよりも救世主神教団に全幅の信頼を寄せることが出来ない。
「(遮那さま、もしかしてウォフ・マナフは救世主神教団に攻撃されたのでは?)」
ひそひそと真由は遮那に耳打ちをする。
「(・・・何故そう思う?)」
「(三津島一佐が挙兵してから用意したにしては、あまりに装備が整っています)」
たしかに、サブマシンガンにしてもその他の装備にしても、この平和な日本では入手はしにくい。
すなわち前以て何らかの手段で用意をしており、この場面でそれを出したと考えるべきか。
そうなればいかなる手段、経緯があるにせよ救世主神教団は魔物の存在を知っており、新京極閉鎖を敢行出来るなんらかの伝手があったというわけだ。
結果的に閉鎖を三津島一佐に横取りされることになったが、もし真由の考えが当たりならば救世主神教団が全ての原因となる。
「(証拠は何もないが、当たらずしも遠からずと言ったところか?)」
遮那の言葉に真由は頷く。
「(恐らくは、それで遮那さま、どうされるのですか?、レジスタンスに協力を?)」
しばらく遮那は考えていたが、やはり信用しきることは出来なさそうだ。
「どうかなサナト、考えてみては貰えないかな?」
ジブリルの言葉に、遮那は軽く頷いた。
「・・・少し、考えさせて貰いたい」
「わかった、けれど・・・」
ジブリルは深刻な表情で遮那と真由の二人を見つめた。
「もうあまり時間はない、三津島一佐と大使ミカ、早く二人に会わないと・・・」
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「大変なことになってしまったな」
閉鎖が続いている新京極、前日よりも明らかに重武装な兵士を見ながら、遮那と真由は露店のベンチに腰掛けた。
「はい、三津島一佐と救世主神教団、このまま行けば全面対決に巻き込まれてしまいますね」
否、もう半分くらいは巻き込まれているのかもしれない、どうしたものか。
「・・・なんだって」
「うっそ、マジで?」
すぐ近くで近所の女子高生が何やら話しをしていた。
「マジマジ、その娘だけじゃないと思うよ、見たのは」
「けどさあ、それだといよいよヤバくない?」
なんの話しをしているのかはさっぱりわからないが、遮那はなんとなく耳を傾けていた。
「ヤバイよね、『天使』が出るなんて」
「その話し、詳しく聞かせてくれないか?」
気づけば遮那は女子高生の座るベンチの前に立っていた。
「え?、お兄さん、誰?」
明らかに二人は怪訝そうに遮那を見ているが、彼の真剣な表情に気圧されたのか、口を開いた。
「ウチの友達、大使館でバイトしてるんだけど、この封鎖の何日か前に、大使館で天使を見たんだって」
天使、魔物だけでなく、今度は天使。
「その娘が言うには大使のミカや青い服の人たちと色々話してたみたいだけど、よくわからない」
「・・・そうか、驚かせてすまなかったな、ためになった」
遮那は真由のいるベンチに戻ったが、女子高生たちはヒソヒソ話しをしながらいずこかへと去った。
「聞いていたか?」
遮那の問いに真由は頷いた。
「天使、ですね」
さらにきな臭くなってきた、封鎖の何日か前に大使館に天使が現れた。
本来ならば一笑するところだが、魔物がいるとわかった今はそんなことをすることは出来ない。
「それから、青い服の人」
ベンチから見える程度の位置では、またしても救世主神教団が演説している。
全員基督教の司祭を思わせるような、神秘的な青い衣を纏っている。
「救世主神教団、でしょうか?」
真由の言葉に遮那は頷いた。
「確証はないが、八割方は間違いないだろうな」
もし救世主神教団が大使館と繋がっていると仮定するならば、これほど簡単に銃火器を集められたのにも納得がいく。
そればかりか、封鎖する伝手もまた大使館を通じてならばどうとでも出来る。
全てのことが、これで繋がるのだ。
「アムルタートの言葉から推察するに、サキュバスであるウォフ・マナフを召喚したのは三津島一佐だろう」
しかし召喚が上手く行かず、結果的にウォフ・マナフは河原町に現れてしまう。
そこを大使館と救世主神教団の意を受けた兵士に攻撃され、あのようなことに。
大使館としてはウォフ・マナフを逃がしたくないため、殺人犯逃亡、ガス爆発、と情報を捏造して閉鎖した。
「・・・おそらく、事情としてはこんなところだろう」
遮那の言葉に真由もまた軽く頷いた。
「はい、ですがそうなると大使館と救世主神教団は魔物の存在を知っていたことになります」
そこだ、何故魔物の存在を知っていたのか、そこが最後にして最大の謎である。
「・・・関係からして大使館、と言うよりも天使と魔物は敵対していそうではあるがな」
天使と魔物は敵対しているというのは、様々な神話であってもほぼ共通する事柄である。
決め付けは危険だが、人間を導く天使と人間を堕落させる魔物という構図は良く聞く話しではある。
「経緯はどうあれ三津島一佐が魔物を利用し、レジスタンスの裏に天使がいるというのは間違いないかもしれませんね」
そうなると今回の抗争は、人間を挟んだ神魔の戦いに見えてくる。
「ただまあ、人間の問題を人間に解決させるのはまだ良心的かもしれないな」
実際ソドムとゴモラのように、何らかの悪徳に対して、現代社会ならばICBM(大陸間弾道ミサイル)を放つくらいやりそうだが。
「とにかく、まずは三津島一佐からだな、レジスタンスと手を切るのはそれからでも良い」
一人一人バラバラでいるうちは三津島には勝てない、今は協力しなければ。
カミツレに戻り、その旨を伝えようと二人は馴染みの喫茶店へ歩き出した。
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「むっ!」
数十分ぶりにカミツレに戻ると、店の中はかなり荒らされていた。
「遮那さま、お気をつけを・・・」
床に散乱した薬莢の温度、机にぶちまけられたコーヒーの湯気、襲撃は数分前のことだろう。
「・・・ううっ」
カウンターの裏に、レジスタンスの男が倒れていた。
慌てて遮那は駆け寄ると、抱き起こす。
「おいっ、しっかりしろっ!」
「お、お前は、サナト、か?」
うっすら目を開くと、レジスタンスは遮那の肩を掴んだ。
「リーダーが、リーダーが、攫われた」
「ジブリルが?」
とするならば、襲撃者は三津島一佐の手の者か、まさか本部の位置が割れているとは。
「み、三津島は、リーダーを見せしめに市役所前で公開処刑にするつもりだ」
公開処刑だと?、そんな無法がまかり通ってよいものか。
「た、頼むサナト、リーダーを・・・」
サナトに小太刀を託すと、レジスタンスの男は気絶した。
「・・・助けるほかないな」
公開処刑を見過ごすことは出来ない、京都市役所ならばまだ近く、間に合うはずだ。
「参りましょう遮那さま、ジブリルを助け出すのです」
遮那と真由は静かに頷くと、市役所へと向かった。
16/08/05 22:42更新 / 水無月花鏡
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