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第七話「救出」



新京極の道を北へ上り、市役所へと向かう遮那と真由。


どういうわけだかさっぱりわからないが、道のあちこちにはスライムや魔界の存在らしき禍々しい植物が増えていた。



「・・・三津島一佐の召喚でしょうか?」


走りながら息一つ切らさずに真由はそう呟いた。


「おそらく、だが三津島一佐だけの仕業ではないだろう」


アムルタートがやっていたように、高位の魔物により様々な魔物が呼び出されているのだ。


「人間さんがいるっ!」


道の端からスライムが人間の少女の姿をして遅いかかってきた。



「ちいっ!、急いでいるというにっ!」


手斧を一閃して、スライムを脅かすと、その隙に何とか先へと進む。



しばらく行くと、今度は物陰からたくさんの植物の触手が飛び出してきた。



「遮那さまっ!」



「おおおおっ!」


回転するように切り抜けると、後ろから迫る触手相手に手斧を後ろ手に振るって牽制する。



「面倒なことになったな・・・」


まだ市役所までの道半ばではあるが、すでに幾度も魔物の襲撃を受けた。



「っ!、来ますっ!」


「わかっているっ!」


今度は空からハーピーの大群が迫ってきた。



あまりに数が多い、十数体はいるだろうか、空から高速でこちらに迫ってくる。


「伏せろっ!」


遮那の声とともに、滑り込むような形で二人が地に伏せると、何人かは痛そうな音ともに電柱に突っ込み、目を回した。



「それにしても魔物ばかりだな・・・」


新京極界隈には、遮那と真由以外には人間はもうほとんど見えない。


もしかしたら反乱軍か、魔物に攫われたのかもしれない。


スライムもハーピーも人間を遥かに上回る身体能力、普通なら遮那たちもとっくに捕まっているだろう。


だが今は何としてもジブリルを救い出さなければならない、その意思が力となり、二人に実力以上の能力を与えているのだ。


「・・・ここから先には進ませない」


市役所まであとわずか、そんな場面でいきなり大地が裂け、どろりとした溶岩が二人の前に現れた。



「ラヴァゴーレムか?!」


慄く遮那の前で、溶岩は人間の女性の姿をとる。


「わたしはラヴァゴーレムのアールマティ、サナトとマユ、あなたたち二人を足止めする」


瞬間何故か遮那の股間目掛けて飛来する溶岩の拳。


素早く避けると、遮那は試しに近くに落ちていた小石を投げた。


「それじゃあ、目くらましにもならない」


だが小石はアールマティが手を振ると、そのまま身体が一時的に溶岩に変わり、透けてしまった。



「・・・(なるほど、ならばいかなる攻撃も通用しないというわけか)」



仮に斧で斬撃を与えても、溶岩ならば暖簾に腕押し、逆に熱でこちらが火照る結果になりかねない。



「諦めて、サナト、あなたはわたしと運命を共にしてもらう」


今度は二方向から遮那に溶岩の拳が迫る。


「ぬくっ!」


これもなんとかかわしたが、かすかに溶岩が身体に触れ、遮那は焼くつくような激しい熱を感じた。



「情熱的だなアールマティ、まるでハワイのペレ神みたいだぞ?」


ハワイの火山の神ペレは火山やダンス、稲妻の神とされる気性の激しい女神だ。



「だが、アールマティ、私はジブリルを救わねばならない、処刑は刻一刻と迫っているからな」



「処刑?、それは本当なの?」


アールマティは拳を戻すと、じっと遮那を見つめた。


「本当だ、このままだとジブリルは市役所前で公開処刑にされてしまう」



遮那の言葉を聞いて、アールマティの表情が変わった。



「人が死ぬ所は出来るだけ見たくない、サナト、早くジブリルとやらを助けてあげて」


アールマティは大人しく地面に正座すると、両拳を身体の前に突き出した。



「その代わり、もし次にわたしに会ったら、その時には容赦しない」



「・・・そうならぬことを願う限りだ」


遮那は真由とともに、新京極を走り抜け、先へと向かった。









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市役所前にはたくさんの人が集まり、広場の中央には気絶したジブリルが張り付けにされていた。



「ジブリル・・・」


どうやら間に合ったようだ、しかしあたりには反乱軍兵士が銃を持って立っており、救出は難しそうだ。



「遮那さま、正面から行くしか方法はありません」


どうやらやる気のようで、真由は遮那の腰からレジスタンスの小太刀をとると、引き抜いた。



「行きますっ!」



そのまま真由は群衆を掻き分け、広場に向かって走り出した。



「真由っ!、やれやれ、じゃじゃ馬お姫様を助けるのも私の役目か?」


遮那もまた斧を掴むと、広場に走る。





「レジスタンスだっ!」


真由を見てすぐに反乱兵士が銃を向けるが、少女は臆せずに進むと、小太刀を投擲して銃を破壊する。



「なっ!」


恐ろしいまでの精度だ、やろうと思えば兵士の片目に命中させることすら可能ではないか。



「やあっ!」


そのまま大地を蹴り、丸腰の兵士の顔に飛び蹴りを食らわせると、真由は落ちていた銃の先端から小太刀を引き抜く。



続いて近くにいたもう一人の兵士の足を払いバランスを崩すと、真由は小太刀の柄頭で首筋を攻撃し、昏倒させた。


「な、何だあれはっ!」


「人間に、あんな動きが出来るのかっ!?」


真由のあまりに素早い動きに慄く兵士たち、だが仲間はもう一人いた。



「ジブリル救出は一人ではない、サナトを忘れていたかっ!」


拳銃で威嚇射撃をするとともに遮那は兵士に近づき、斧の柄で頭を殴り気絶させた。



「遮那さまっ!」


真由と背中合わせに遮那は立つと、またしても銃を向けてきた兵士の足目掛けて発砲し、動きを止めた。


「とにかく、速やかに任務を遂行するぞ」


「はいっ!」



二人は互いに違う方向に走り出すと、迎撃に現れた兵士を突き倒す。



「仮にジブリル救出に成功してもこれでは逃げられん、なんとか活路を開くぞ」




斧を構え直し、遮那は反乱軍兵士を睨み据える。



「また来ますっ!」


今度は抜刀隊が現れ、素早い動きで二人に斬りかかってきた。


「小癪なっ!」


すぐさま遮那は斧で剣を弾くと、刀身を返して峰で腹部を狙い無力化する。


「退けっ!」


遮那の大声に、浮き足立っていた兵士たちは我先にと逃げていった。



兵士がいなくなると遮那はジブリルの縄を解き、助け出した。



「う、ん・・・、サナト?」



どうやら気がついたようだ、ジブリルはゆっくりと目を開く。


「助けて、くれたの?」


「ああ、まだ安全とは言えない、急ぐぞ」


そのまま遮那はジブリルをつれて、新京極へと戻っていった。







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本部の場所が割れている以上カミツレには戻れない、遮那たちはとりあえず新京極の路地裏に逃げ込んだ。



「なんとか、なりましたね」


ほっと一息つく真由、遮那もまた油断なく光らせていた瞳を緩めた。



「二人とも、本当にありがとう、ボクがこうして生きているのは、二人のおかげだよ」


ニコニコ笑うジブリル、だがその瞳がふっ、と細くなった。


「・・・まさか人の子に助けられる日が来るなんて・・・」



呟いたジブリルの言葉は、そのまま風の中に消え、誰の耳にも入らずに消えていった。



「サナト、それにマユ、君たちはレジスタンスでもないのに危険を冒してまでボクを助けてくれた、どうしてかな?」


人間誰しも自分自身が可愛いもの、だが時として己自身を他所にしてでもやらなければならないことがある。



「理由はない、ただ私は近くで消えるとわかっている命を見捨てられなかっただけだ」


ふいっ、と遮那は視線を逸らしたが、ジブリルはその横顔を眺めた。



「・・・そっか、きっとその、愛すべき未完成さが、人間の可能性の部分なのかもしれないんだね・・」


何度か頷くと、ジブリルは遮那と真由にIDカードを二枚ずつ渡した。



「二枚の内、片方はこの京都御所の反乱軍の本部にまで行ける、もう片方は大使館に入りミカと会見できるはずだよ?」



両方偽造だけどね〜、とジブリルは続けた。



「どちらと先に会っても良いけど、後悔しない道を選ぶことをボクは望むね?」



少し休むよ、そう呟くとジブリルはいずこかへと去っていった。



「・・・どうする?、真由」


反乱軍と大使館、どちらから先に回るか遮那は決めあぐねていた。



「・・・遮那さまは、どうしたいのですか?」


真由の問いかけに、遮那は頷く。


「私は反乱軍の封鎖を解く前に、ミカを説得して他国からの介入を止めさせるべきだと思う」


まずは介入の刻限を長くしてもらう必要がある、時間があれば三津島一佐も説得できるかもしれない。



「決まりですね、まずは大使館へ向かいましょうか」


二人は互いに視線をかわすと、ミカの待つ大使館へと向かった。









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「・・・ボクはサナトとマユに、人間の希望を見た」



「やはり君の判断は、性急な気がしてならない」




「早まった真似はしないほうが良いよ?」









「・・・ミカエル」
16/08/08 17:15更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
皆さま、こんにちは〜、水無月であります。

なんとかジブリルを救出し、今度は大使館と京都御所を回ることになる第六話でした。

主人公だけでなくヒロインも強いですが、おそらくヒロインには秘められた力があったのでしょう。


ではでは今回はこの辺りで。

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