夢見る少女だから仕方ない
「お前の姉ちゃんってさぁ、すっげえ美人なのになんでまだ独身なんだ?」
「え? あぁー……? 知らね」
「弟のお前が理解してないのかよ、僕もあんな姉ちゃん欲しかったなぁ」
「俺はお前んちの姉ちゃんが欲しいなぁ。年も近いし、モデルみたいだし、おっぱい大きいし。俺の姉ちゃんなんて貧乳で口やかましいんだぞ」
互いに姉ちゃんが交換できる制度でもあったらいいのに、僕はそう思いつつ自分の姉ちゃんと言うのを振り返る。
母方のご先祖様は妖精の国の妖精の女王――ティターニアで、父方は江戸から建ってる剣術道場を構える武人一家で、姉ちゃんはそこの長女、俺はそこの長男。
姉ちゃんは、まぁ、俺よりも非力なので普通の女の子として女学校で学園生活をエンジョイする普通の魔物だ、いたって他の魔物と変わった所はないと思うが……あるところが、なんというか。
「俺んちの姉ちゃんなんか、いつまでも俺が鼻たれのままと思ってんだぜー、毎朝学校の用意したの!? ってうるせーし。キキーモラだからかなぁ」
「仕方なくね、お前んちのお兄さんもお前と同じで色々忘れっぽいんだろ? いつまでも小さい弟なんだよ、多分、年も離れてんだし」
「そうなるのかなぁ」
「……はぁ」
少し、というか、かなり羨ましい。
自分も姉だけど、怒ることは僕のほうが多いから、マゾというわけではないけど気にかけてくれるお姉さんがほんとに。
友人と別れて、しばらく歩くと僕の家がある、帰っても父さんは道場、母さんはその手伝いでいないだろうから僕の部屋に行こうとすると、ふとリビングですぅすぅと音がする。
「……姉ちゃん」
金髪で、胸も大きい美人、背中にステンドグラスみたいな蝶の羽が生える、とても地味な顔の僕と血がつながってるとは思えない魔物がソファーで寝ていた。
中学時代の体操シャツと短パンで、お腹を出したまま寝ていたから僕はタオルケットをかけて、台所の冷蔵庫を見る。
普通の食材よりもお菓子やジュースが多い僕の家の冷蔵庫には、今、朝ご飯やお弁当用のものどころか、お菓子もほとんど入っていない。
お金はあとで母さんに言うとして、まずは買い物に行かないとなぁと考えていると、お姉ちゃんがあくびをしておき上がり、僕の方へのそのそ目を擦りながらやって来る。
「オレンジジュース……ないなぁ。あれ、ジュースない」
「今丁度買い物行こうと思ってて。僕行ってくるから」
「ん!?」
寝ぼけた顔した姉ちゃんは目を開いて、一転、きりっとした表情になる。
「ダメよ、お姉ちゃんも高士(僕の名前)と行く! 前も襲われそうになったとか言ってたじゃない!」
「えー……その、一緒じゃダメかな」
「一緒?」
「それなら姉ちゃんの好きなお菓子とジュースも選べるし」
「……うん! うん! それならいいよ、じゃあ着替えてくる!」
姉ちゃん、静江は……何と言うか、僕が行動するたびにこうやって何かにつけて代わろうとする。
二才しか離れてないのに、重たい物を持つとかも、何でも代わろうとするんだけど、もう僕だって十六歳なんだからやめてほしい。
という訳で「一緒にやる」と言うことでなんとか妥協するのを知ってからは、こうして姉弟一緒にやっている、それでも姉ちゃんメインになることには変わりないけど。
「どっちにっしようかなぁ……」
「姉ちゃん、後どんくらいかかるの? 早く行こう?」
「待ってよー! きちんとおめかししないと!」
……結局一時間かかって、ようやく家から出るともう夕方の五時を知らせるサイレンが鳴っていて、微妙に暗い道を歩いていく。
「お菓子何買おうかなぁ、季節限定あったらいいなぁ」
「本当母さんもだけどよく飽きないよね、僕たまにはカラ〇ーチョとか食べたい」
「口の中が大火事になっちゃうじゃない! よくあんなの食べれるよね……」
「僕が食堂で食べてる物よりマシだと思うよ、姉ちゃんとか気絶するレベルのだし」
母さんと姉ちゃんは妖精とは言え、僕よりも大きくてモデルみたいだ。
けれど、こんなこと言うのは父さんが怒るけど、全体的に子供っぽいんだ――二人とも、舌から趣味まで。
舌に関しては父さんも辛い物が苦手だから、僕がぶっ壊れてるだけ(ハバネロとかその辺も平気なんだよなぁ)だろうけど、姉ちゃんは色々子供っぽいことが目立つ。
趣味がまず落書きだ、ノートで勉強してるのを見るけど、目を少しでも離すと文章の間にアニメキャラとかの絵が描かれている、ちなみに妙に上手い。
それに着る服も薄いピンク色か、中学時代の体操服やジャージがほとんどで、一番まともというか、個人的に綺麗が映える服は制服くらいだし。
「へぶっ」
「姉ちゃん!?」
「……」
「その、大丈夫? 擦りむいてはないけど……」
「大丈夫! ひりひりするだけ!」
「そう、でも姉ちゃん、痛くなったら絶対言ってね、僕も悲しい」
「……うん……実はお姉ちゃん、めっちゃくっちゃ痛いの……」
いくら経っても僕は小さい弟なんだろうけど、家族、それも姉弟なんだから遠慮しないで言ってほしい。
そりゃあいくら武道家の息子だって言っても、あんまり鍛えていない帰宅部の僕なので、かっこよくお姫様抱っこは無理だけど、背負うくらいはできる。
小学校の頃はよく姉ちゃんに背負われてた側だからわからなかったけど、人一人、というかティターニアも重いんだなと思いつつ。
まずは姉ちゃんをコンビニの入り口にあるベンチに下して、僕だけで入ると、冷却スプレーだけ買ってきて姉ちゃんの少し赤くなった膝に吹きかける。
「ぢべたぁああああ!!」
「冷却スプレーだし。姉ちゃん、何買ってくる? おごるよ?」
「そして冷却スプレーみたいに冷たい高士〜……。んー、季節限定スイーツがいいかなぁ」
「はいはい」
冷却スプレーに不機嫌になったけど、おごるの一言ですぐに機嫌を直したのか、姉ちゃんは一瞬で大人しくなる。
僕は少し高くついたけど、季節限定のフルーツプリンに、自分用の鷹の爪チップスなる新商品を買って出てくると、姉ちゃんは数人の小人……いや、フェアリーたちと話していた。
ここだけ切り取るとコンビニの前ということも忘れる、姉ちゃんは昔話の女王様みたいで見とれていた。
「あ、私の弟君だよ!」
聞いてたよりイケメンだ〜などと言われて、ようやくというか、一気に現実に引き戻される。
妖精達に手を振りながら、姉ちゃんは僕と並んで帰る、もう空も暗いから母さんが心配するだろうし――と、危ないかもと言いながら手をつなぐ。
いつの間にか同じくらいになった手の大きさ、けれどいつも姉ちゃんと手をつなぐとこのままどこでも行けそうな気がしてならない。
実際にはどこにも行ったことがないはずだけど、なんでだろうか……不安感もありながらだけど、姉ちゃんと僕はちゃんと家に帰ってくる。
「ただいま〜」
「ただいま」
「おかえり〜。二人とも遅かったじゃない、どこ行ってたの?」
「コンビニ、姉ちゃんが膝打っちゃって冷やしてた。晩御飯もうできる?」
「ちょっと時間かかるかなぁー。宿題しちゃってても大丈夫だよ。監視よろしくね、はい五百円」
「うん」
「あー! 高士だけお小遣いとかずるーい! 私もー!」
「静江がサボるの止めるんだから、これくらいは当たり前でしょ! もらいたかったらもっとお手伝い! それかテストの順位上から数えるのが早いようにしなさい!」
姉ちゃんはデコピンされながら、渋々僕と姉ちゃんの部屋に向かって、おやつを食べながら宿題をする。
監視しないと落書きどころか、スイーツのレビューをスマホで打ち始めるかもしれないので、スマホは僕の見えるところにおいて、何とか宿題を終える。
疲労困憊だ、姉ちゃんのいる学校は結構有名どころで、人気の女学校なのだけど、宿題とか課題は僕の通う共立の1.5倍はあるし仕方ないか。
「う〜疲れたよ〜」
「じゃあチップス食べる?」
「いらないよ!? なんで脈絡もなく!?」
全力で拒否された、おいしいのに。
姉ちゃんは空になったスイーツ容器を捨てながら、あーあと言う。
「妖精の国にいればこんなことしなくてよかったのかなぁ?」
「そうなのかなぁ、昔話だよねそもそも」
「確かイギリス辺りに実在したけど、普通の魔界と変わらなくなっちゃったって言うよね。まぁ、お姉ちゃんは日本語以外しゃべる気もないから面倒だしやっぱりいいや!」
「相変わらず適当!」
まぁ、それが姉ちゃんなんだけど。
「まだできないのかなぁ。ねー、高士は好きな人とかできた?」
「まだだよ。姉ちゃんは?」
「い、いるにはいるんだけど、中々理性との葛藤がね……」
「ええ……」
姉ちゃんはいったい何と戦っているんだ……。
とりあえずはフォローしとかないとこれは怒るパターンだな。
「普通に告白すればいいじゃないか、姉ちゃん綺麗だし、性格最悪なわけでもないし。言いにくいなら行動すれば?」
「……」
顔を赤くして黙ってしまう。
褒めすぎたんだろうかと思っていると、急に自分の隣へ、そして肩に寄りかかってくる。
「ね、姉ちゃん?」
「……ここまでしてもわかんないの悪いところ……」
と、何か言うと不機嫌そうに姉ちゃんは離れて「出てけー! 姉ちゃんは不機嫌だ!」と僕を追い出した。
今日はよくわからない、母さんに聞いても苦笑いだけだし、父さんはデリカシーにかける「あの日じゃないのか」と言って母さんにはたかれた。
結局分からずじまいのまま、頬を膨らます姉ちゃんの隣で飯を食うことになって気まずかった。
***
『もっと素直になればいいと思う。ただそれは恥ずかしい、自分は本当に子供だと思うけど、私の好きな彼も鈍感すぎる!』
そうスマートフォンに入ってるSNSアプリの機能でつぶやいて、自分は寝転がって暗い天井を見上げる。
私の好きな人……あれだけで分かれも鬼畜かもしれないけど、少し鈍感すぎやしないかと思う。
と、返信で「わかります! うちの弟も鈍感!」といくつか返ってくる。
「そうだぞ……! 姉ちゃんというか、魔物の女の子はみんな今は告白されるほうが嬉しいんだぞ、高士……」
小声で言うと呪詛みたいだなと思いつつ、自分の卒業までにしなかったら絶対する、女の気配がしてもすると誓って私は今日も寝るのだった。
十八にもなって、気づいてもらえないだけで拗ねて、ちょっと難しいことを願ってしまう。
相変わらず少し夢見がちな少女みたいだなぁ、なんて――思いつつ。
「え? あぁー……? 知らね」
「弟のお前が理解してないのかよ、僕もあんな姉ちゃん欲しかったなぁ」
「俺はお前んちの姉ちゃんが欲しいなぁ。年も近いし、モデルみたいだし、おっぱい大きいし。俺の姉ちゃんなんて貧乳で口やかましいんだぞ」
互いに姉ちゃんが交換できる制度でもあったらいいのに、僕はそう思いつつ自分の姉ちゃんと言うのを振り返る。
母方のご先祖様は妖精の国の妖精の女王――ティターニアで、父方は江戸から建ってる剣術道場を構える武人一家で、姉ちゃんはそこの長女、俺はそこの長男。
姉ちゃんは、まぁ、俺よりも非力なので普通の女の子として女学校で学園生活をエンジョイする普通の魔物だ、いたって他の魔物と変わった所はないと思うが……あるところが、なんというか。
「俺んちの姉ちゃんなんか、いつまでも俺が鼻たれのままと思ってんだぜー、毎朝学校の用意したの!? ってうるせーし。キキーモラだからかなぁ」
「仕方なくね、お前んちのお兄さんもお前と同じで色々忘れっぽいんだろ? いつまでも小さい弟なんだよ、多分、年も離れてんだし」
「そうなるのかなぁ」
「……はぁ」
少し、というか、かなり羨ましい。
自分も姉だけど、怒ることは僕のほうが多いから、マゾというわけではないけど気にかけてくれるお姉さんがほんとに。
友人と別れて、しばらく歩くと僕の家がある、帰っても父さんは道場、母さんはその手伝いでいないだろうから僕の部屋に行こうとすると、ふとリビングですぅすぅと音がする。
「……姉ちゃん」
金髪で、胸も大きい美人、背中にステンドグラスみたいな蝶の羽が生える、とても地味な顔の僕と血がつながってるとは思えない魔物がソファーで寝ていた。
中学時代の体操シャツと短パンで、お腹を出したまま寝ていたから僕はタオルケットをかけて、台所の冷蔵庫を見る。
普通の食材よりもお菓子やジュースが多い僕の家の冷蔵庫には、今、朝ご飯やお弁当用のものどころか、お菓子もほとんど入っていない。
お金はあとで母さんに言うとして、まずは買い物に行かないとなぁと考えていると、お姉ちゃんがあくびをしておき上がり、僕の方へのそのそ目を擦りながらやって来る。
「オレンジジュース……ないなぁ。あれ、ジュースない」
「今丁度買い物行こうと思ってて。僕行ってくるから」
「ん!?」
寝ぼけた顔した姉ちゃんは目を開いて、一転、きりっとした表情になる。
「ダメよ、お姉ちゃんも高士(僕の名前)と行く! 前も襲われそうになったとか言ってたじゃない!」
「えー……その、一緒じゃダメかな」
「一緒?」
「それなら姉ちゃんの好きなお菓子とジュースも選べるし」
「……うん! うん! それならいいよ、じゃあ着替えてくる!」
姉ちゃん、静江は……何と言うか、僕が行動するたびにこうやって何かにつけて代わろうとする。
二才しか離れてないのに、重たい物を持つとかも、何でも代わろうとするんだけど、もう僕だって十六歳なんだからやめてほしい。
という訳で「一緒にやる」と言うことでなんとか妥協するのを知ってからは、こうして姉弟一緒にやっている、それでも姉ちゃんメインになることには変わりないけど。
「どっちにっしようかなぁ……」
「姉ちゃん、後どんくらいかかるの? 早く行こう?」
「待ってよー! きちんとおめかししないと!」
……結局一時間かかって、ようやく家から出るともう夕方の五時を知らせるサイレンが鳴っていて、微妙に暗い道を歩いていく。
「お菓子何買おうかなぁ、季節限定あったらいいなぁ」
「本当母さんもだけどよく飽きないよね、僕たまにはカラ〇ーチョとか食べたい」
「口の中が大火事になっちゃうじゃない! よくあんなの食べれるよね……」
「僕が食堂で食べてる物よりマシだと思うよ、姉ちゃんとか気絶するレベルのだし」
母さんと姉ちゃんは妖精とは言え、僕よりも大きくてモデルみたいだ。
けれど、こんなこと言うのは父さんが怒るけど、全体的に子供っぽいんだ――二人とも、舌から趣味まで。
舌に関しては父さんも辛い物が苦手だから、僕がぶっ壊れてるだけ(ハバネロとかその辺も平気なんだよなぁ)だろうけど、姉ちゃんは色々子供っぽいことが目立つ。
趣味がまず落書きだ、ノートで勉強してるのを見るけど、目を少しでも離すと文章の間にアニメキャラとかの絵が描かれている、ちなみに妙に上手い。
それに着る服も薄いピンク色か、中学時代の体操服やジャージがほとんどで、一番まともというか、個人的に綺麗が映える服は制服くらいだし。
「へぶっ」
「姉ちゃん!?」
「……」
「その、大丈夫? 擦りむいてはないけど……」
「大丈夫! ひりひりするだけ!」
「そう、でも姉ちゃん、痛くなったら絶対言ってね、僕も悲しい」
「……うん……実はお姉ちゃん、めっちゃくっちゃ痛いの……」
いくら経っても僕は小さい弟なんだろうけど、家族、それも姉弟なんだから遠慮しないで言ってほしい。
そりゃあいくら武道家の息子だって言っても、あんまり鍛えていない帰宅部の僕なので、かっこよくお姫様抱っこは無理だけど、背負うくらいはできる。
小学校の頃はよく姉ちゃんに背負われてた側だからわからなかったけど、人一人、というかティターニアも重いんだなと思いつつ。
まずは姉ちゃんをコンビニの入り口にあるベンチに下して、僕だけで入ると、冷却スプレーだけ買ってきて姉ちゃんの少し赤くなった膝に吹きかける。
「ぢべたぁああああ!!」
「冷却スプレーだし。姉ちゃん、何買ってくる? おごるよ?」
「そして冷却スプレーみたいに冷たい高士〜……。んー、季節限定スイーツがいいかなぁ」
「はいはい」
冷却スプレーに不機嫌になったけど、おごるの一言ですぐに機嫌を直したのか、姉ちゃんは一瞬で大人しくなる。
僕は少し高くついたけど、季節限定のフルーツプリンに、自分用の鷹の爪チップスなる新商品を買って出てくると、姉ちゃんは数人の小人……いや、フェアリーたちと話していた。
ここだけ切り取るとコンビニの前ということも忘れる、姉ちゃんは昔話の女王様みたいで見とれていた。
「あ、私の弟君だよ!」
聞いてたよりイケメンだ〜などと言われて、ようやくというか、一気に現実に引き戻される。
妖精達に手を振りながら、姉ちゃんは僕と並んで帰る、もう空も暗いから母さんが心配するだろうし――と、危ないかもと言いながら手をつなぐ。
いつの間にか同じくらいになった手の大きさ、けれどいつも姉ちゃんと手をつなぐとこのままどこでも行けそうな気がしてならない。
実際にはどこにも行ったことがないはずだけど、なんでだろうか……不安感もありながらだけど、姉ちゃんと僕はちゃんと家に帰ってくる。
「ただいま〜」
「ただいま」
「おかえり〜。二人とも遅かったじゃない、どこ行ってたの?」
「コンビニ、姉ちゃんが膝打っちゃって冷やしてた。晩御飯もうできる?」
「ちょっと時間かかるかなぁー。宿題しちゃってても大丈夫だよ。監視よろしくね、はい五百円」
「うん」
「あー! 高士だけお小遣いとかずるーい! 私もー!」
「静江がサボるの止めるんだから、これくらいは当たり前でしょ! もらいたかったらもっとお手伝い! それかテストの順位上から数えるのが早いようにしなさい!」
姉ちゃんはデコピンされながら、渋々僕と姉ちゃんの部屋に向かって、おやつを食べながら宿題をする。
監視しないと落書きどころか、スイーツのレビューをスマホで打ち始めるかもしれないので、スマホは僕の見えるところにおいて、何とか宿題を終える。
疲労困憊だ、姉ちゃんのいる学校は結構有名どころで、人気の女学校なのだけど、宿題とか課題は僕の通う共立の1.5倍はあるし仕方ないか。
「う〜疲れたよ〜」
「じゃあチップス食べる?」
「いらないよ!? なんで脈絡もなく!?」
全力で拒否された、おいしいのに。
姉ちゃんは空になったスイーツ容器を捨てながら、あーあと言う。
「妖精の国にいればこんなことしなくてよかったのかなぁ?」
「そうなのかなぁ、昔話だよねそもそも」
「確かイギリス辺りに実在したけど、普通の魔界と変わらなくなっちゃったって言うよね。まぁ、お姉ちゃんは日本語以外しゃべる気もないから面倒だしやっぱりいいや!」
「相変わらず適当!」
まぁ、それが姉ちゃんなんだけど。
「まだできないのかなぁ。ねー、高士は好きな人とかできた?」
「まだだよ。姉ちゃんは?」
「い、いるにはいるんだけど、中々理性との葛藤がね……」
「ええ……」
姉ちゃんはいったい何と戦っているんだ……。
とりあえずはフォローしとかないとこれは怒るパターンだな。
「普通に告白すればいいじゃないか、姉ちゃん綺麗だし、性格最悪なわけでもないし。言いにくいなら行動すれば?」
「……」
顔を赤くして黙ってしまう。
褒めすぎたんだろうかと思っていると、急に自分の隣へ、そして肩に寄りかかってくる。
「ね、姉ちゃん?」
「……ここまでしてもわかんないの悪いところ……」
と、何か言うと不機嫌そうに姉ちゃんは離れて「出てけー! 姉ちゃんは不機嫌だ!」と僕を追い出した。
今日はよくわからない、母さんに聞いても苦笑いだけだし、父さんはデリカシーにかける「あの日じゃないのか」と言って母さんにはたかれた。
結局分からずじまいのまま、頬を膨らます姉ちゃんの隣で飯を食うことになって気まずかった。
***
『もっと素直になればいいと思う。ただそれは恥ずかしい、自分は本当に子供だと思うけど、私の好きな彼も鈍感すぎる!』
そうスマートフォンに入ってるSNSアプリの機能でつぶやいて、自分は寝転がって暗い天井を見上げる。
私の好きな人……あれだけで分かれも鬼畜かもしれないけど、少し鈍感すぎやしないかと思う。
と、返信で「わかります! うちの弟も鈍感!」といくつか返ってくる。
「そうだぞ……! 姉ちゃんというか、魔物の女の子はみんな今は告白されるほうが嬉しいんだぞ、高士……」
小声で言うと呪詛みたいだなと思いつつ、自分の卒業までにしなかったら絶対する、女の気配がしてもすると誓って私は今日も寝るのだった。
十八にもなって、気づいてもらえないだけで拗ねて、ちょっと難しいことを願ってしまう。
相変わらず少し夢見がちな少女みたいだなぁ、なんて――思いつつ。
18/05/29 00:28更新 / 二酸化O2