読切小説
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冷蔵庫から!ファミリアちゃん!
「ハァイ! どうもファミリアのネネーシャルって言います!」
「ファミリア?」

日本家屋で山奥にある俺の家、やって来たのは見たこともない魔物だ。
今、オトンは出張、オカンが家の裏にある滝にいて居ないし、ちょっと不安だ。

「お兄さんはサバトに興味あります?」
「そういや今日はカレーを作ってたんだ」

にこやかなファミリアのネネーシャルちゃんをとりあえず玄関から出して、急いで鍵を閉め、龍であるオカンの作った結界札を貼って、一端厠に寄ってからリビングに戻る。
そういやカレーか……最近、作ってなかったし作ろうかな。
と、冷蔵庫を開けた瞬間。

「お、お兄さんはサバトにき、興味あります……? 寒ぅ……」
「うわぁあああ!」

冷蔵庫の中にギュウギュウにネネーシャルちゃんが詰まっていた光景を見ることになった。
何で結界張ったのに!?

「さ、流石、テニア通信販売会社……。売ってたコレで人間の家なんて簡単に入れました……」
「なっ」

最近通信販売会社の邪婆羽悪駆(ジャバウォック)神威を越えるとか言うサバトがスポンサーの通信販売会社の、あのいつもはいテンションの社長が商品を紹介するアレで有名な名前かま出されて、思わずネネーシャルちゃんの肉球を見た。
もう江戸時代から生きてた魔力を込めたオカンの札をどうやって破って――!?

「絶対壊れないヘアピンと絶魔プラスチックを使った使用者に流さないドライバー……便利です」
「原始的だった!!」

肉球にあったのは銀色のヘアピンと赤色のドライバーだった。
どうやらオカンの結界は魔力を遮断してはくれるが、原始的なキーピックには対応しなかったらしい。
つか玄関の鍵を新しいのに替えろよそろそろ。

「で、冷蔵庫の中から失礼しましたが。お兄さん、サバトに興味あります?」
「とりあえず出ない!? 顔真っ青な上に鼻水と涙が出てるよ!」

冷蔵庫からネネーシャルちゃんを出す。

「冷蔵庫って魔界の冬国より寒い……」
「当然だよね」

密閉空間の上に暗闇だ、外より冷気が籠るから寒くて当然。

「で、で、実は私はサバトの勧誘に来たんですけど」
「は、はあ」
「お兄さんはサバトに本当に興味ありませんの?」
「いや、なんつーか……。サバトって集会があるじゃん。俺ってオカン……あ、自営業の手伝いみたいなのだから休みないし、昼型だから」
「全然構いませんよ! 集会やイベントは参加できる時に参加すべきで、強制するなんてことはしません! あ、結婚式はチャペルしかあり得ませんけど」
「へ、へえ〜……。あ、あと、俺ってさ……その」
「どうなさいましたか」
「どちらかと言えばさあ……。その、俺って妹より姉ちゃん欲しいんだよ……」
「その点はご安心を!」

ネネーシャルちゃんはポケットからコンパクトを取り出して、なにかを呟くと、炬燵の天坂に魔方陣を出す。

「最近はそういう方も増えてきたので! ロリ姉という属性も取り扱うようになったんです! ただ人口は少ないですが」
「おぉー……サバトすげーな」
「ふふふ、時代と共に進化するのです」
「あー、でも無理かな……」
「な、何故!?」
「あ、えと、ここって実はさ……」

と、説明しようとした時。

「ただいまー」
「な! オカン!? ネネーシャルちゃん早く帰るんだ!」
「ええ!? ここまで説明した上にこんなセクシー美少女を帰らせる気ですか!?」
「セクシー美少女!? いや、命の危険に関わ」
「あら? 誰かしら?」

……時すでに遅し。
そこに笑顔で、白い着物と薄紫の長い髪を滝行で濡らしたオカンが浮いていた。

「山奥にわざわざ来るなんて……。御苦労様です、入信者の方ですね」
「え? 入信者?」
「あら? ご存じなかったの、ダメじゃない武志、説明しなきゃ」
「いや、説明する暇が……」
「え? え?」
「わかったわ、じゃあ私が説明します。そうですね……。まず、私は江戸と呼ばれる時代から生きてきて、あることを考えました……。妖怪、魔物と言えど常に淫乱ではならないと」

ネネーシャルちゃんがまた真っ青な顔になっている。
いや、寒いとは思う。
オカンの金色の目がじっと見てきて、尚且つ……魔物には嫌なものでしかない清純な気持ちになれるお香が香り始めたから。

「ですから私は思いました! 真の良き妻は淫乱だけではなく! 清らかな心と家事ができなければならないと!」
「あ、あの、わ、私はサバトの集会があるので〜……」

と、ネネーシャルちゃんが玄関に向かおうとした時、オカンの爪手がネネーシャルちゃんの頭を掴んだ。

「強制でない……。そう聞こえましたが……」
「わ、わ、私はサバトではバフォメット様の演説を聞きたくてー!」
「それよりも般若心経を聞くと清らかになりますから♪ ……ようこそ、龍神教へ……」
「あ、あ、いやぁーっ!!」

オカンの部屋へと引きずられていくネネーシャルちゃん。
説明するべきだったね、はい、俺の家は……。

「坊っちゃんこんにちは、もう二ヶ月は滝に打たれてますが……最近は旦那様と二日間で50回もしてしまいました、修行不足ですね……」
「い、いや、だいぶはマシになりましたよ……? 前は二日間で98回じゃなかったですか、来瞳さんはマーチヘアなのに頑張ってる、いや、頑張りすぎです」

……清らかな心と淫乱さのバランスを取る為にオカンが作った、龍神教の本部なんだ。

***

「もういやぁ〜……。サバト帰るぅ〜……」
「御苦労様、ネネーシャルちゃん」

私にD-Dレモンを差し出したのは、街で見かけて気に入った武志さん。
でもまさかこんなキ〇ガイ宗教の跡取りとは……バフォメット様の言う通り、下調べはして誘拐からのサバト勧誘にしておけば……!

「ごめんね、早く説明すればよかった」
「あ、いえ、武志さんが謝ることでは……」
「いやいや。オカンは人に宗教の教えを押し付けちゃうし、悪いと思ってないから代わりに謝んなきゃいけないよ」

武志さん本当にいい人だ……。

「そうだ、日曜になればオカンは支部に回らないといけないから、そんときにサバト見に行っていいかな?」
「! 本当ですか!?」
「敵情視察って訳じゃないけど、子供の頃から慣れしたんでる以外の宗教も気になるし……。それに」

武志さんは少し頭を掻いて、顔を赤くして言った。

「嫌だ嫌だとか言っても、滝に打たれてた時はちゃんとしてたし。まあキーピックはダメだと思うけど、サバトが本当に好きで人に勧めてるんだなあってわかってさ」
「……」



「ネネーシャルちゃんみたいないい子、たくさんいるかなあ、って」



しばらく私は顔を伏せて、考える。
顔を上げると、そこには恥ずかしそうに「言っちまった……」と呟く武志さん。

「も、もち、もちろん! どどどうせなら……えっと……」
「え?」
「ななななんでも無いです! わ、私はそれよりもバフォメット様に連絡をー!」
「あ! ここオカンの持ってる黒電話以外電話通じない……」

知ってます。
けど私は……その。



「……武志さんが、好きです……」



サバトの教えとか関係なく。
私は、好きです。
だから、その、嫌かもしれないけど、武志さんがいるなら……頑張れます。

「ネネーシャルちゃん?」
「ヒャウァアっ!?」
「次の修行はお料理ですよ〜……。懐石料理です」
「懐石料理!? 無理無理作れませんって!?」

……頑張れる、多分。
14/05/15 21:40更新 / 二酸化O2

■作者メッセージ
ファミリアちゃんとサバト勧誘に出掛けたい

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