神は言っている!ダークヴァルキリーちゃん!
「じゃあ堕落神は言いましたのところからやるぞ」
「おう」
「全ての――もういい、早く私の胸に飛び込みぶち犯せ!! さあ早く、ハリーハリー!!」
「おい黙ってろお前! すいません皆さん、すいません!」
俺の一つ歳上だが、家が隣同士の幼馴染みであるヴァルキリーの桂里奈へとエルボーを食らわせて黙らせた後に、図書室から退室。
ヴァルキリーである桂里奈は魔物だらけのこの学校で珍しく、天使の女だ。
生徒会長もやってるし、成績は優秀だったんだが。
何故か桂里奈はここんとこ最近、クールな生徒会長キャラからこうして急に変な下ネタを叫ぶ痴女と化した。
「す、すまない……」
「またかよ。お前、どうしたんだよ最近……」
「わからん」
先程の興奮してた雰囲気はどこへやら、少し頬を赤くした桂里奈が頭を抱えて壁に寄り掛かる。
「頭の中にだな……。よくわからん声が響いて」
「二重の意味で頭が大丈夫か? 厨二か?」
「大丈夫だ、問題ない」
キリッとした表情で答えた桂里奈。
まあ……本人が大丈夫ってなら大丈夫、か?
一応明日辺りに桂里奈の家に行って机にポエムとかないか調べておくか。
「うーん……。とりあえず今日明日は自転車の後ろに乗っけてくれ」
「生徒会長様がいいのかよ」
「誰だってやっているなら構わないだろう? それとも何だ、昔みたいに頭を胸に近づけてよーしよしすればいいのか」
「ふざけん――あ?」
と、笑おうとした時だった。
桂里奈は何の断りもなく、俺に抱きついてきて、頭を撫でてきた。
「か、桂里奈……?」
「……え? ――ッ!!」
何故か顔を青ざめさせて桂里奈は――俺を突き飛ばし、そのまま走る……!?
「桂里奈!? ちょ、待ておい桂里奈ー!」
***
結局、桂里奈も俺も学校から上履きのまま家に。
何とか見失わずにすんだけど、桂里奈は家に着くなり門の閂を掛けてからさらには裏口に俺に全く懐かないクソシェパードのラムを放ちやがった。
「……あー。桂里奈ー」
ラムに吠えられながらも二階にある桂里奈の部屋に呼び掛けてみたが、反応はない。
「桂里奈! 桂里奈!」
「誰だようるせ……あ、理雄君か」
「おじさん」
ラムの首輪を引っ張って、ボサボサの頭をしてでてきたのは、桂里奈の親父さんだった。
見た目はこんなんでも、魔力の強い魔物の強姦を取り締まる特殊部隊のリーダーってんだから、ヴァルキリーの審美眼?ってヤツはやっぱり凄いんだと思う。
「桂里奈に何か用かい」
「よくわかんねえんですけど」
とりあえず経緯を話すと、しばらく唸ってから閂を開けてくれた。
「理雄君は絶対入れるなって言われたからね、内緒だから」
「ありがとうございます」
そうしてそのままリードを持ち、ラムの散歩へと出かけるおじさん。
俺は靴を脱いでから、桂里奈の部屋の前にようやくたどり着いた。
『……誰だ』
「理雄」
『はぁ!? 何で、お前が……。……父上が、入れたのか……』
扉を開けようとしたが鍵が掛かっていて開かない。
こじ開けるわけにもいかないから、とりあえずは話をしてみる。
「どうしたんだよ? まあ、ビックリしたけど突き飛ばすのはねーだろ?」
『それは、本当にすまない』
上から目線みたいなしゃべり方は相変わらず。
だけど悲しそうな声は、本当に反省しているように聞こえるし許す。
『……私は』
「あん?」
『母上のような、ヴァルキリーになりたいと、保育園の頃から話していたよな』
「あー、最近までずっとな。物心付いた頃から言われてる」
『ふふふ、すまんな。それを、それだけが夢で……もう、無理なんだがな……』
「え?」
『私は……もう……』
「桂里奈? 桂里奈?」
『死ぬしか……ないのかな……理雄』
俺はその時、頭が真っ白になったのかもしれない。
何を思ったか置いてあった掃除機を持ち上げると――桂里奈の部屋の扉へと、投げつけた。
「桂里奈ぁあ!? 大丈夫……か……? え?」
「あ、あ、り、理雄、これ、これはち、違うんだ……」
桂里奈が好きな白色の部屋の中。
カラスみたいな色のした羽根が舞っていて。
「理雄……わ、たしは、あ……うわぁあああ……あぁああ……」
「桂里奈……?」
白い翼と白い肌、それとは逆さまみたいになった、黒い翼と紫の肌。
何を思ったのか、白いペンキをそこらじゅうに撒き散らしていて、バケツを頭にかぶって情けなく泣いている桂里奈が――堕落したヴァルキリーが、そこにいた。
***
自覚による堕落症状。
病院でそう言われた桂里奈は、黒くなった翼を見て、ため息を吐いた。
「これでもう母上や父上と同じ仕事は無理か」
「別に堕落したくらいで。ネットで調べてみたら人手不足だからむしろやる気があればいいみたいだぜ?」
「そのやる気があれば、な」
どこか諦めたように、けど吹っ切れたように笑う桂里奈。
「何故かな。別の気持ちが出てきてしまったんだ、私に」
「なんだよ、黒くなってギャングでもやりたくなったか? 紫か」
「いいや。ギャングなんかよりも、もっと罪深いかもしれない」
「はあ?」
意味がわからん。
そう言いかけた俺の口に、桂里奈の唇が、重なった。
それに反応できずに、ただ突っ立ってる俺に、桂里奈は俺の手を優しく握る。
「いつか一緒に仕事をして。お前を支えるような女に私は、お前は誰にでも支えられるような男にすると言った」
けれど、と、桂里奈は続けた。
「今、私は……。お前を、理雄、理雄を私だけの男にしたいんだ」
「桂里奈……」
「だから、私だけを見てほしい。今だけの慰めじゃなく……永遠に」
――堕落しようがしまいが。
俺には関係のないことだ、理雄という男には。
俺は桂里奈の手を握り返して。
そっと、キスをして。
「お前だけの、男になるよ」
堕落の誓いを、立てたのだった。
「おう」
「全ての――もういい、早く私の胸に飛び込みぶち犯せ!! さあ早く、ハリーハリー!!」
「おい黙ってろお前! すいません皆さん、すいません!」
俺の一つ歳上だが、家が隣同士の幼馴染みであるヴァルキリーの桂里奈へとエルボーを食らわせて黙らせた後に、図書室から退室。
ヴァルキリーである桂里奈は魔物だらけのこの学校で珍しく、天使の女だ。
生徒会長もやってるし、成績は優秀だったんだが。
何故か桂里奈はここんとこ最近、クールな生徒会長キャラからこうして急に変な下ネタを叫ぶ痴女と化した。
「す、すまない……」
「またかよ。お前、どうしたんだよ最近……」
「わからん」
先程の興奮してた雰囲気はどこへやら、少し頬を赤くした桂里奈が頭を抱えて壁に寄り掛かる。
「頭の中にだな……。よくわからん声が響いて」
「二重の意味で頭が大丈夫か? 厨二か?」
「大丈夫だ、問題ない」
キリッとした表情で答えた桂里奈。
まあ……本人が大丈夫ってなら大丈夫、か?
一応明日辺りに桂里奈の家に行って机にポエムとかないか調べておくか。
「うーん……。とりあえず今日明日は自転車の後ろに乗っけてくれ」
「生徒会長様がいいのかよ」
「誰だってやっているなら構わないだろう? それとも何だ、昔みたいに頭を胸に近づけてよーしよしすればいいのか」
「ふざけん――あ?」
と、笑おうとした時だった。
桂里奈は何の断りもなく、俺に抱きついてきて、頭を撫でてきた。
「か、桂里奈……?」
「……え? ――ッ!!」
何故か顔を青ざめさせて桂里奈は――俺を突き飛ばし、そのまま走る……!?
「桂里奈!? ちょ、待ておい桂里奈ー!」
***
結局、桂里奈も俺も学校から上履きのまま家に。
何とか見失わずにすんだけど、桂里奈は家に着くなり門の閂を掛けてからさらには裏口に俺に全く懐かないクソシェパードのラムを放ちやがった。
「……あー。桂里奈ー」
ラムに吠えられながらも二階にある桂里奈の部屋に呼び掛けてみたが、反応はない。
「桂里奈! 桂里奈!」
「誰だようるせ……あ、理雄君か」
「おじさん」
ラムの首輪を引っ張って、ボサボサの頭をしてでてきたのは、桂里奈の親父さんだった。
見た目はこんなんでも、魔力の強い魔物の強姦を取り締まる特殊部隊のリーダーってんだから、ヴァルキリーの審美眼?ってヤツはやっぱり凄いんだと思う。
「桂里奈に何か用かい」
「よくわかんねえんですけど」
とりあえず経緯を話すと、しばらく唸ってから閂を開けてくれた。
「理雄君は絶対入れるなって言われたからね、内緒だから」
「ありがとうございます」
そうしてそのままリードを持ち、ラムの散歩へと出かけるおじさん。
俺は靴を脱いでから、桂里奈の部屋の前にようやくたどり着いた。
『……誰だ』
「理雄」
『はぁ!? 何で、お前が……。……父上が、入れたのか……』
扉を開けようとしたが鍵が掛かっていて開かない。
こじ開けるわけにもいかないから、とりあえずは話をしてみる。
「どうしたんだよ? まあ、ビックリしたけど突き飛ばすのはねーだろ?」
『それは、本当にすまない』
上から目線みたいなしゃべり方は相変わらず。
だけど悲しそうな声は、本当に反省しているように聞こえるし許す。
『……私は』
「あん?」
『母上のような、ヴァルキリーになりたいと、保育園の頃から話していたよな』
「あー、最近までずっとな。物心付いた頃から言われてる」
『ふふふ、すまんな。それを、それだけが夢で……もう、無理なんだがな……』
「え?」
『私は……もう……』
「桂里奈? 桂里奈?」
『死ぬしか……ないのかな……理雄』
俺はその時、頭が真っ白になったのかもしれない。
何を思ったか置いてあった掃除機を持ち上げると――桂里奈の部屋の扉へと、投げつけた。
「桂里奈ぁあ!? 大丈夫……か……? え?」
「あ、あ、り、理雄、これ、これはち、違うんだ……」
桂里奈が好きな白色の部屋の中。
カラスみたいな色のした羽根が舞っていて。
「理雄……わ、たしは、あ……うわぁあああ……あぁああ……」
「桂里奈……?」
白い翼と白い肌、それとは逆さまみたいになった、黒い翼と紫の肌。
何を思ったのか、白いペンキをそこらじゅうに撒き散らしていて、バケツを頭にかぶって情けなく泣いている桂里奈が――堕落したヴァルキリーが、そこにいた。
***
自覚による堕落症状。
病院でそう言われた桂里奈は、黒くなった翼を見て、ため息を吐いた。
「これでもう母上や父上と同じ仕事は無理か」
「別に堕落したくらいで。ネットで調べてみたら人手不足だからむしろやる気があればいいみたいだぜ?」
「そのやる気があれば、な」
どこか諦めたように、けど吹っ切れたように笑う桂里奈。
「何故かな。別の気持ちが出てきてしまったんだ、私に」
「なんだよ、黒くなってギャングでもやりたくなったか? 紫か」
「いいや。ギャングなんかよりも、もっと罪深いかもしれない」
「はあ?」
意味がわからん。
そう言いかけた俺の口に、桂里奈の唇が、重なった。
それに反応できずに、ただ突っ立ってる俺に、桂里奈は俺の手を優しく握る。
「いつか一緒に仕事をして。お前を支えるような女に私は、お前は誰にでも支えられるような男にすると言った」
けれど、と、桂里奈は続けた。
「今、私は……。お前を、理雄、理雄を私だけの男にしたいんだ」
「桂里奈……」
「だから、私だけを見てほしい。今だけの慰めじゃなく……永遠に」
――堕落しようがしまいが。
俺には関係のないことだ、理雄という男には。
俺は桂里奈の手を握り返して。
そっと、キスをして。
「お前だけの、男になるよ」
堕落の誓いを、立てたのだった。
14/05/05 23:42更新 / 二酸化O2