もうどんだけですか!マッドハッターちゃん!
アタシは女王様の専属護衛でもあるハートのトランプ兵「ハートのA」、メルシーよ。
趣味はお菓子作り、特技はファンタジー拳……命名したのは今ですけど何か?
ああ、そんなことより今日は女王様が不機嫌だから追い出されちゃったのよね……アタシの化粧が気に入らなかったのかしら?
「めるる〜ん! おはよー!」
「アラ、おはよう」
「ねーねー! 今日はお茶会ないの!?」
「残念、アタシもミュルミュルちゃんも買い物に行ってないのよ」
「えー」
「ざんねーん」
小さなアリスちゃん達の頭を撫でてから、アタシは自分の家に向かおうとしたけど、ふと用事を思い出したから、道を外れて踊る木の森を木を殴って大人しくさせながら進む。
で、着いたのは「お化け屋敷」と言われているボロボロのお屋敷。
アタシはそこの、不気味な悲鳴を上げ続ける鍵をチョップで粉砕した後に、入り口を開ける。
「ドナちゃーん♪」
「う、うわぁああああ! 異教徒め! 死ね! 死ね!!」
「あぶねっ!」
投げられたのは、円盤形に加工された刃の武器。
エンゲツリンだかなんだか……いや、アタシの目的は武器の解説じゃないわ。
「アタシよアタシ! メルシーよ!」
「め、る、しー? め、メルシー……! メルジィー!!」
「もう! いきなり武器を投げるなんて危ないじゃない!」
「だっでいぎょうどだどおもっで!!」
「大丈夫よ、ここには女性を殺してファックする死姦魔も、キンタマを切り裂く切り裂きレズビアンもいないわよ」
「メルジー!!」
そこにいたのはアリスちゃんみたいだけど、「まだ」普通の女の子であるドナちゃんもといドネルトちゃんだった。
教団とは別の閉鎖的な国の宗教の兵士であったこの子は、かなり精神的に病んでいて、このように不思議の国にも未だ馴染めてない。
可哀想だけど、アタシにはドナちゃんをはげまして甘やかすくらいしかできないのよ……。
「ぐるじぃい……」
「アラ! ごめんなさいね!」
「う゛ー……」
「はいはい泣かないの! ホラ、何か作ってあげるから!」
「ハンバーグ!!」
「意外に高度な物頼むわね!?」
でも言った以上は作る。
時間はかかって昼過ぎになっちゃったけど、とりあえずソースまで作って、後は置いてあったパンを切ってお皿に乗せてあげる。
「いたっきまーす!」
「はい、どうぞ」
手で掴んでご飯を行儀悪く食べるドナちゃん。
でもアタシだって嫌いな玉ねぎを全部ドナちゃんのハンバーグに入れたからそこはお互い様……よね?
「で、どうかしら?」
「美味しい!!」ブパッ
「いやぁああ! 汚い! 飲み込んでから答えなさい!」
そして噛んだものを飲んでから、また「美味しい!」の叫び。
……この子を拾った時も、ふざけて茶葉をあげたら美味しいとか叫んだから当てにはならないけど、自分の作った物を美味しそうに食べてくれるから嬉しいわ。
「全く、女の子なんだからマナーくらい身に付けないと」
「異教徒と同じなんて……」
「アラアラ、じゃあアタシと一緒は嫌なのね……残念だわ……」
「同じでいい!!」
「そう!」
「異教徒は嫌いだけど、メルシー好き!!」
「困ったわねえ……」
と、一息置いて、ドナちゃんは言う。
「うん、オカマなのにきれーだし、オカマなのに優しいし」
「もう! オカマじゃなくてオトナって言いなさい! オトコオンナの略で!」
……ええ、アタシは男よ。
身長は大体189センチ、体重は隠したさほどついてないように見える筋肉のせいで100キロオーバーしてて、声は結構低いわ。
それがハート柄のゴスロリを着てて、不思議の国を歩いているのよ。
今ではいいけど、昔は石や槍を投げられたわ。
でもこれだけは言っておくわ……女の子を慰めるのが、オカマではいけないのかしら?
いえ、女の子慰めるのはオカマでもいいじゃない!
「うん、オトナのメルシー大好き! ……」
「ありがとう。ん? どうしたの?」
「ねえ、メルシーは私の処女いる?」
「そうねー」
と、紅茶を口に含んだところで、セリフがリピートされて、思い切り紅茶を霧状にして吹いた。
「何言いだすのあーたは!?」
「だって、メルシーはおちんちんあるでしょ? 男でしょ?」
「オトナよ、まああるけどね!?」
「私、メルシーの事好きだよ、後ね」
「もう」
ドナちゃんの頭を撫でるアタシ。
「ここはドナちゃんの国じゃないのよ、体で払うなんて言っちゃダメ」
「……でも」
「もう! 本当に襲っちゃうわよ!」
「あう」
「じゃあアタシは買い物に行ってくるから!」
「いってらっしゃい、晩御飯ね」
「ん?」
「ステーキ」
「ワッショイ!! 結構高級そうじゃねーのよぉ!!」
悲鳴に近い声を出したけど、お金なんか腐るほど(っていうか使わないのよね、アタシは城のお食事食べれるし)あるから、大丈夫よね。
不満そうな顔だけど、ステーキを食べれば元に戻るわよね?
***
――……私は本気なのに。
そんなことを思いながら、ドネルトは自分の得物である円形の刃物、満月輪を壁から抜いて、恐る恐る外に出て、好いている男の背を見る。
「メルシー」
そう呟いた時、彼女の訓練された耳に喘ぎ声と呻く声が聞こえ、思わず満月輪を構えて、匍匐前進で進んだ。
そこには彼女が見たことのない、恐らくサキュバスかはたまた新種の魔物と、男が交わり合っていた。
気配を消して、すぐ隣に移動して、好奇心からそれを観察して、真っ赤な顔をする。
(こ、こんなことするんだ……!!)
「う〜ん、そろそろ増やしちゃおうか」
「あぅー……うっ!」
「もう、堪え性がないなあ」
(おうっ?)
と、プロであるドネルトが消している気配を素人が気付くはずもないが、魔物は被っていた帽子をドネルトの頭へと下ろした。
「ん……」
違和感を感じたが、何とか声を押さえて、ゆっくりと匍匐で後退していく。
「私は……メルシーが……」
***
ちょっと遅くなっちゃったかしら?
もう月が頭を見せていて、マズイなと思いつつ、発情して寄って来るマーチヘア達の集団を事前に何とか避けながら、ドネルトちゃんの住処を目指す。
それで着いた時、何故か鍵はかかっていなくて、「進歩したわねー」と、油断して入った時。
――タンタンタンタン!!
「なっ!?」
壁へと体が磔にされて、ステーキ肉の入った籠を落として、音のした方向を見る。
それは――エンゲツリン。
「メルシー」
「ドナちゃん!? ちょ、これどういうことよ!?」
「メルシー、私ね、思ったんだ」
そこに現れたのは、「帽子」を被ったドナちゃん。
でも一瞬わからなかった、だって……むくれていた顔はどこか凛々しくなって……何より、雰囲気が違う。
前まではちょっと大きい猛獣だったのに、急にチェシャ猫になったような――そんな。
「メルシーは私を子供扱いする」
「子供だものっ……!」
エンゲツリンは結構深く刺さって、まったく抜けれない。
しかも頭がポーッとしてきて、何故か股間が妙に熱いのよ……!!
「私はメルシーがオカマでも好きだよ、子供欲しいんだよ……」
「ドナちゃん……!」
「メルシー、だいす」
「URASYAAAAAA!!」
「にゃっ!?」
掛け声とともに何とか気合とか色々でゴスロリを破って、ブリーフ一丁になるアタシ。
背に腹は代えられないわ。
「メルシー」
「セクハラNO!!」
「ひぐっ!」
思い出したのよ!
この変な帽子を被って、急に冷静になっちゃうのにセクハラ仕掛けてくる魔物!
「ドナちゃん! あーたマッドハッターの帽子かぶったわね!?」
「ま、まっどはったー?」
「狂った帽子屋! キノコみたいに増えてくのよウープス!!」
「ふ、ふえ……違うもん! 私は!」
「シャラッセー!!」
気合とかいろいろ詰まった声で何とか帽子を飛ばすアタシ。
それを条件反射だろうか、ついつい追っているドナちゃんを、背後から羽交い絞めにすると、暴れながらも、ドナちゃんは泣きながら思っていることをアタシに訴えた。
「異教徒なんかにメルシー渡したくないの!」
「私がおかしくて狂ってるのはわかってるもん!」
「でもメルシーは優しいから好きなの!!」
「だから、メルシーを襲うのー!!」
「おかしいっておもわれてもいいもん!!」
「魔物になったけど、わだじ、メルシーが……ひぐっ!」
「うぅ〜……うわーん!!」
マッドハッターは狂ってるとか言われてるけど、どうやらマッドハッターになってもドナちゃんはドナちゃんみたい。
顔をぐしゃぐしゃにしながらアタシに泣きじゃくって、もうアタシのキノコどころじゃないらしい。
「ドナちゃん」
「……ぐずっ」
「あーたはまだ子供なのよ、魔物だからって無理にエッチする必要ないの。それが当たり前の国だったの?」
「……うん」
「……そうなの。でもね、無理はしちゃダメ、声が震えてるわよ」
「ごめんなさい……」
アタシは赤ん坊の頃に不思議の国へ来て、前「ハートのA」に育ててもらったから、外の様子なんてよくわかんないわ、けどね、この子が辛い思いしてここへ来たっていうのは、わかるのよ。
「でもね、ドナちゃんはおかしくないわ。そりゃあ、ご飯を手で食べるとか、エンゲツリン」
「まんげつりん……」
「マンゲツリンをお客さんに発射するのはおかしいわ、でもね……」
「むゆ?」
アタシはいつものように、慣れたウインク。
「アタシがオカマってゆうのもおかしいでしょ? 狂ってるでしょ?」
「メルシーはおかしくない、おかしくないオカマなの……」
「ありがとう」
ぎゅうと、強くなっていく抱きしめ。
でもまだ、弱くて、可愛い抱きつきだ。
「メルシー、私はフツーなの?」
「ええ、フツーなのよ」
「……えへへ、メルシーもフツーだよ」
「……ありがとね」
少なくとも、今はまだ、この子にとっては。
まだ魔物になりきってない、純粋なこの子はもう少しでマッドハッターの思考になるかもしれない。
男性を襲うのに抵抗を持たない、それが、この小さな女の子にフツーになってしまうかもしれない。
でもいいのよ、それだったら。
無理して襲うより、遥かにいいもの。
「メルシー」
「ん?」
「だーいすき!!」
「アタシもよ」
ブリーフ一丁のオカマと魔物と化した狂人少女。
そんな二人は抱き合って。
アタシは狂っているのかもわからない中で、ドナちゃんの頭を撫でる。
アタシとドナちゃんの二人では、少なくともフツーな中で。
趣味はお菓子作り、特技はファンタジー拳……命名したのは今ですけど何か?
ああ、そんなことより今日は女王様が不機嫌だから追い出されちゃったのよね……アタシの化粧が気に入らなかったのかしら?
「めるる〜ん! おはよー!」
「アラ、おはよう」
「ねーねー! 今日はお茶会ないの!?」
「残念、アタシもミュルミュルちゃんも買い物に行ってないのよ」
「えー」
「ざんねーん」
小さなアリスちゃん達の頭を撫でてから、アタシは自分の家に向かおうとしたけど、ふと用事を思い出したから、道を外れて踊る木の森を木を殴って大人しくさせながら進む。
で、着いたのは「お化け屋敷」と言われているボロボロのお屋敷。
アタシはそこの、不気味な悲鳴を上げ続ける鍵をチョップで粉砕した後に、入り口を開ける。
「ドナちゃーん♪」
「う、うわぁああああ! 異教徒め! 死ね! 死ね!!」
「あぶねっ!」
投げられたのは、円盤形に加工された刃の武器。
エンゲツリンだかなんだか……いや、アタシの目的は武器の解説じゃないわ。
「アタシよアタシ! メルシーよ!」
「め、る、しー? め、メルシー……! メルジィー!!」
「もう! いきなり武器を投げるなんて危ないじゃない!」
「だっでいぎょうどだどおもっで!!」
「大丈夫よ、ここには女性を殺してファックする死姦魔も、キンタマを切り裂く切り裂きレズビアンもいないわよ」
「メルジー!!」
そこにいたのはアリスちゃんみたいだけど、「まだ」普通の女の子であるドナちゃんもといドネルトちゃんだった。
教団とは別の閉鎖的な国の宗教の兵士であったこの子は、かなり精神的に病んでいて、このように不思議の国にも未だ馴染めてない。
可哀想だけど、アタシにはドナちゃんをはげまして甘やかすくらいしかできないのよ……。
「ぐるじぃい……」
「アラ! ごめんなさいね!」
「う゛ー……」
「はいはい泣かないの! ホラ、何か作ってあげるから!」
「ハンバーグ!!」
「意外に高度な物頼むわね!?」
でも言った以上は作る。
時間はかかって昼過ぎになっちゃったけど、とりあえずソースまで作って、後は置いてあったパンを切ってお皿に乗せてあげる。
「いたっきまーす!」
「はい、どうぞ」
手で掴んでご飯を行儀悪く食べるドナちゃん。
でもアタシだって嫌いな玉ねぎを全部ドナちゃんのハンバーグに入れたからそこはお互い様……よね?
「で、どうかしら?」
「美味しい!!」ブパッ
「いやぁああ! 汚い! 飲み込んでから答えなさい!」
そして噛んだものを飲んでから、また「美味しい!」の叫び。
……この子を拾った時も、ふざけて茶葉をあげたら美味しいとか叫んだから当てにはならないけど、自分の作った物を美味しそうに食べてくれるから嬉しいわ。
「全く、女の子なんだからマナーくらい身に付けないと」
「異教徒と同じなんて……」
「アラアラ、じゃあアタシと一緒は嫌なのね……残念だわ……」
「同じでいい!!」
「そう!」
「異教徒は嫌いだけど、メルシー好き!!」
「困ったわねえ……」
と、一息置いて、ドナちゃんは言う。
「うん、オカマなのにきれーだし、オカマなのに優しいし」
「もう! オカマじゃなくてオトナって言いなさい! オトコオンナの略で!」
……ええ、アタシは男よ。
身長は大体189センチ、体重は隠したさほどついてないように見える筋肉のせいで100キロオーバーしてて、声は結構低いわ。
それがハート柄のゴスロリを着てて、不思議の国を歩いているのよ。
今ではいいけど、昔は石や槍を投げられたわ。
でもこれだけは言っておくわ……女の子を慰めるのが、オカマではいけないのかしら?
いえ、女の子慰めるのはオカマでもいいじゃない!
「うん、オトナのメルシー大好き! ……」
「ありがとう。ん? どうしたの?」
「ねえ、メルシーは私の処女いる?」
「そうねー」
と、紅茶を口に含んだところで、セリフがリピートされて、思い切り紅茶を霧状にして吹いた。
「何言いだすのあーたは!?」
「だって、メルシーはおちんちんあるでしょ? 男でしょ?」
「オトナよ、まああるけどね!?」
「私、メルシーの事好きだよ、後ね」
「もう」
ドナちゃんの頭を撫でるアタシ。
「ここはドナちゃんの国じゃないのよ、体で払うなんて言っちゃダメ」
「……でも」
「もう! 本当に襲っちゃうわよ!」
「あう」
「じゃあアタシは買い物に行ってくるから!」
「いってらっしゃい、晩御飯ね」
「ん?」
「ステーキ」
「ワッショイ!! 結構高級そうじゃねーのよぉ!!」
悲鳴に近い声を出したけど、お金なんか腐るほど(っていうか使わないのよね、アタシは城のお食事食べれるし)あるから、大丈夫よね。
不満そうな顔だけど、ステーキを食べれば元に戻るわよね?
***
――……私は本気なのに。
そんなことを思いながら、ドネルトは自分の得物である円形の刃物、満月輪を壁から抜いて、恐る恐る外に出て、好いている男の背を見る。
「メルシー」
そう呟いた時、彼女の訓練された耳に喘ぎ声と呻く声が聞こえ、思わず満月輪を構えて、匍匐前進で進んだ。
そこには彼女が見たことのない、恐らくサキュバスかはたまた新種の魔物と、男が交わり合っていた。
気配を消して、すぐ隣に移動して、好奇心からそれを観察して、真っ赤な顔をする。
(こ、こんなことするんだ……!!)
「う〜ん、そろそろ増やしちゃおうか」
「あぅー……うっ!」
「もう、堪え性がないなあ」
(おうっ?)
と、プロであるドネルトが消している気配を素人が気付くはずもないが、魔物は被っていた帽子をドネルトの頭へと下ろした。
「ん……」
違和感を感じたが、何とか声を押さえて、ゆっくりと匍匐で後退していく。
「私は……メルシーが……」
***
ちょっと遅くなっちゃったかしら?
もう月が頭を見せていて、マズイなと思いつつ、発情して寄って来るマーチヘア達の集団を事前に何とか避けながら、ドネルトちゃんの住処を目指す。
それで着いた時、何故か鍵はかかっていなくて、「進歩したわねー」と、油断して入った時。
――タンタンタンタン!!
「なっ!?」
壁へと体が磔にされて、ステーキ肉の入った籠を落として、音のした方向を見る。
それは――エンゲツリン。
「メルシー」
「ドナちゃん!? ちょ、これどういうことよ!?」
「メルシー、私ね、思ったんだ」
そこに現れたのは、「帽子」を被ったドナちゃん。
でも一瞬わからなかった、だって……むくれていた顔はどこか凛々しくなって……何より、雰囲気が違う。
前まではちょっと大きい猛獣だったのに、急にチェシャ猫になったような――そんな。
「メルシーは私を子供扱いする」
「子供だものっ……!」
エンゲツリンは結構深く刺さって、まったく抜けれない。
しかも頭がポーッとしてきて、何故か股間が妙に熱いのよ……!!
「私はメルシーがオカマでも好きだよ、子供欲しいんだよ……」
「ドナちゃん……!」
「メルシー、だいす」
「URASYAAAAAA!!」
「にゃっ!?」
掛け声とともに何とか気合とか色々でゴスロリを破って、ブリーフ一丁になるアタシ。
背に腹は代えられないわ。
「メルシー」
「セクハラNO!!」
「ひぐっ!」
思い出したのよ!
この変な帽子を被って、急に冷静になっちゃうのにセクハラ仕掛けてくる魔物!
「ドナちゃん! あーたマッドハッターの帽子かぶったわね!?」
「ま、まっどはったー?」
「狂った帽子屋! キノコみたいに増えてくのよウープス!!」
「ふ、ふえ……違うもん! 私は!」
「シャラッセー!!」
気合とかいろいろ詰まった声で何とか帽子を飛ばすアタシ。
それを条件反射だろうか、ついつい追っているドナちゃんを、背後から羽交い絞めにすると、暴れながらも、ドナちゃんは泣きながら思っていることをアタシに訴えた。
「異教徒なんかにメルシー渡したくないの!」
「私がおかしくて狂ってるのはわかってるもん!」
「でもメルシーは優しいから好きなの!!」
「だから、メルシーを襲うのー!!」
「おかしいっておもわれてもいいもん!!」
「魔物になったけど、わだじ、メルシーが……ひぐっ!」
「うぅ〜……うわーん!!」
マッドハッターは狂ってるとか言われてるけど、どうやらマッドハッターになってもドナちゃんはドナちゃんみたい。
顔をぐしゃぐしゃにしながらアタシに泣きじゃくって、もうアタシのキノコどころじゃないらしい。
「ドナちゃん」
「……ぐずっ」
「あーたはまだ子供なのよ、魔物だからって無理にエッチする必要ないの。それが当たり前の国だったの?」
「……うん」
「……そうなの。でもね、無理はしちゃダメ、声が震えてるわよ」
「ごめんなさい……」
アタシは赤ん坊の頃に不思議の国へ来て、前「ハートのA」に育ててもらったから、外の様子なんてよくわかんないわ、けどね、この子が辛い思いしてここへ来たっていうのは、わかるのよ。
「でもね、ドナちゃんはおかしくないわ。そりゃあ、ご飯を手で食べるとか、エンゲツリン」
「まんげつりん……」
「マンゲツリンをお客さんに発射するのはおかしいわ、でもね……」
「むゆ?」
アタシはいつものように、慣れたウインク。
「アタシがオカマってゆうのもおかしいでしょ? 狂ってるでしょ?」
「メルシーはおかしくない、おかしくないオカマなの……」
「ありがとう」
ぎゅうと、強くなっていく抱きしめ。
でもまだ、弱くて、可愛い抱きつきだ。
「メルシー、私はフツーなの?」
「ええ、フツーなのよ」
「……えへへ、メルシーもフツーだよ」
「……ありがとね」
少なくとも、今はまだ、この子にとっては。
まだ魔物になりきってない、純粋なこの子はもう少しでマッドハッターの思考になるかもしれない。
男性を襲うのに抵抗を持たない、それが、この小さな女の子にフツーになってしまうかもしれない。
でもいいのよ、それだったら。
無理して襲うより、遥かにいいもの。
「メルシー」
「ん?」
「だーいすき!!」
「アタシもよ」
ブリーフ一丁のオカマと魔物と化した狂人少女。
そんな二人は抱き合って。
アタシは狂っているのかもわからない中で、ドナちゃんの頭を撫でる。
アタシとドナちゃんの二人では、少なくともフツーな中で。
13/12/31 01:24更新 / 二酸化O2