アメとムチだよ!キキーモラちゃん!
「コノブタヤロウガ!!」
パシィン!!
そんな音が響いて、俺の前でパピヨンマスクとボンテージ姿のダークエルフが鞭を幼馴染である望愛(のあ)へ打つ。
「ひぃん!」
「ホラ、モットナケヤ! ブタヤロウコラァ!」
「あぁん!」
「ホラドウシタ! マダウタレタリナイカ!」
「いやぁん!」
「あの」
「ウルセエ! ブガイシャハスッコンデロ!」
「えぇー!?」
俺、あんたが今(物理的に)鞭打ってる子の幼馴染なんですけど!?
「オラァ!」
「あひぃん!」
「フゥ……コレデキョウノクンレンハシュウリョウダ、サッサトフクキロ、コノメスブタ!!」
「は、はぃい……」
未だに興奮気味のまま、望愛はごそごそ恥ずかしそうにメイド服を着ると、共に「SM部」から逃げるように出る。
だが俺は帰り際、何故かダークエルフにビンタを食らった。
「望愛、なんで俺殴られたの?」
「Mっぽいからじゃないですか?」
「お前と一緒にすんな!!」
……俺の幼馴染である望愛はキキーモラだ。
主人に仕えることが何よりの喜びで、そして生き甲斐で、生きる意味、そんな献身的の化身みたいな魔物。
だが望愛はどこを間違ったのか……中学まで「ケンちゃん〜野球しよ〜!」なんていう、キキーモラにしては活発な女の子だったのに、今では鞭打たれて喜んでるクソマゾの上にメイド服を着る電波少女である。
前は普通だったし、俺のことも普通にケンちゃんと呼んでいたのに、今は「ご主人様」、そしてクソ敬語だ。
保健の先生曰く、キキーモラとしての本能が出てるし、俺がどうやら好きだからのサインらしいけど、微塵も嬉しくないのはなぜなんだろうか。
「もっと! 罵声もっと!」
「……」
「放置プレイが一番嫌です……」
さっきとは打って変わって、耳と尻尾を垂らして校庭の隅にあるSM部の小屋の前で「の」の字を書き始める。
変化がわかりやすいけどうぜえ。
「ご主人様の馬鹿……」
「はいはい悪かったって……。……オラ、行くぞ!」
「骨だァアアアア!! 今行きます!」
骨を出すとすぐに飛びついてくるのは変わってない。
とりあえず厭らしくこっち見ながら骨を舐めてくる望愛を無視して、俺は周りの視線に耐えながら帰路へ着く。
そしてスーパーの前。
「今日の晩御飯は……」
「私を! 私を是非!」
「そうだ、キムチ鍋にするか」
「ファーック!! 私を食え! ユー・イート・ミー!!」
「あぁー! うるせえ!」
その場で取っ組み合いになっていると、さっきのSM部のダークエルフが近づいてきて、互いを引き離した後、俺の頬をビンタしてからボンテージとパピヨンマスクのままスーパーへ向かって行った。
「なんで!?」
「あ、怪我してる!」
ビンタされた際に口の中を切ったせいか、血の味が広がった。
痛くないけど、血の味で口の中はクソ不快だ。
「唾付ければ治りますかね?」
「骨食わせようとすんじゃねえよ!!」
涎塗れの骨を俺の頬に押し付けてくる望愛。
俺があまりに抵抗するので、ついには手を捕まれ、顔を近づけられる。
「キスで治ります! 抵抗しないでください、ご主人様!!」
「やめろぉおおお! 初キッスがスーパーの前とか2組の後藤(アマゾネス)じゃねえんだよ!」
「んふぅー!」
後頭部を無理矢理掴まれ、もう後数センチに迫った時だ。
「この野郎〜っ……! ハーッ!!」
「うゆっ!?」
思い切り、口の息を吐いてやった。
「く、くっさぁあああああああ!!」
「朝は餃子、昼はにんにく醤油がけラーメンの最悪ダブルコンボの味はどうかな!?」
鼻を押さえて転げまわる望愛。
ウルフ種の為か嗅覚が鋭いキキーモラの望愛は、常人でも最悪気絶する(いつかに、三十路ぐらいのユニコーンにレイプされかけた時にやったら気絶したので立証済みの)俺の口内悪臭にやられたのだ、その被害はとてつもないだろう。
「死ぬっ! だ、誰か消○力! ファブリー○でもいいからぁー!」
「もう無理矢理しないか!?」
「しません!」
「よし!」
「とは言い切れません!」
とりあえず望愛を置いて、俺はスーパーでキムチ鍋の材料を買いに出かけた。
***
夜。
最悪な事に、「晩御飯は望愛ちゃんと食べなさい」と、クナイが刺さって画鋲代わりになって、達筆で書かれた習字紙を見て、俺は絶望した。
俺の母はクノイチで、結婚はしているけれど、親父がとある大手企業の重役なので、会議に出たりするとき、割とガチで命を狙われるらしいから、それを守る為に家を空けることがたびたびあるんだけど、それが望愛の両親もいない日――つまり、望愛が安全な様にと俺の家に泊まる日と重なるとは……クソファックだ。
「じゃあ……私を食べましょう!」
「納豆何処にあったっけか……」
「やめてください死んでしまいます」
納豆を探すフリをしてみると、涙目で俺を止める。
まだ歯を磨いてもないし、これで納豆が加わったらバブルスライムも卒倒するぐらいになるかもしれない。
それはそれで面白いけど、これで望愛が臭死したらシャレにならない。
「歯磨いてくっから」
「はい……じゃあ私はお野菜切ってます……」
「いいよ、俺が来てからで」
そして俺は望愛と洗面台に向かう。
「お前も磨いとけよ、骨食って涎だらけだし」
「はい」
「……たくっ」
二人きりになったのに敬語を外さない、なんか、なんつーか、クソファック。
黙って二人で歯を磨いて、黙ってグチュグチュペッ。
ものの三分で終わった歯磨きは物足りない、前までは十分以上かかってたけど、楽しくやってたのに。
「じゃあお前野菜な」
「全部やります!」
「いいっつーの、俺だってやれっから」
そそっかしい癖に一人でやろうとする、それもクソファックだ。
俺は言っとくけど、キキーモラの性格に甘える気はない。
……あくまで俺はこいつの幼馴染であって、恋人じゃないしな。
「何でですか……何で、私の本能否定するんですか……」
「……は?」
包丁を持ったまま、望愛がポツリとつぶやいた。
「私は、キキーモラとして、仕えたいのに……」
「クソファーックッ!!」
「きゃっ!?」
俺は思わず持っていた鱈をパックごと握りつぶした。
「もう一回言ってみろ!」
「え!?」
「今言ったこと! リピィートゥッ!!」
「き、キキーモラとして……」
「それがクソファーックッ!!」
「ひぃ!」
俺は手を洗ってから、望愛の肩に手を置いて、思い切り睨む。
「俺はな!」
「は、はいぃ……」
「俺はな! 典型的なキキーモラより! ドMなキキーモラよりな!」
「……?」
俺は、俺は!
「――そのまんまの望愛が好きなんだよっ!」
必死こいて、何言ってるか一瞬わからなくなった。
でもこれは、俺の本心だ。
「ご主人様……」
「世界一臭い缶詰がどっかにあったな……」
「け、ケンちゃん!!」
「なんだよ」
「わ、私……その……うん」
望愛は、俺の大好きなキキーモラは、泣きそうな顔で、でも、すごくうれしそうな顔で。
「私も、大好き!」
飛びついて来た。
さっきまでなら俺は口臭で討伐してたけど、今はそんなことしない。
俺の好きな幼馴染で、キキーモラの望愛に、そんなことができるはずないだろ?
***
「ケンちゃんがこういうの好きだからって、つい、そう思って」
「成程なあ……」
出されたのはメイドさん(キキーモラ)がご主人様にレイプされるという、ごく普通のAVだった。
別に俺は好きでもないし、嫌いでもなかったんだが、「こういうのもアリかな」と、言っていたのを思い出して、少し反省する。
恐らく一緒に見てた霧山から霧山の彼女に伝わって、伝言ゲームの方式で望愛に「俺はメイドをレイプするのが好きだ」ってことが伝わったんだろう。
「悪かった」
「ケンちゃんは悪くないって! でもね」
「あん?」
「ちょっとは世話を焼きたいな〜……なーんて」
「じゃあ明日から朝、起こしてくれ」
「……嫌味?」
いつも寝坊で遅刻寸前になる望愛に対して、ちょっとからかい。
俺は冗談だと言ってから、空になったキムチ鍋を片付ける。
「それぐらいやらせてよ!」
「うるせーやい」
「むー」
ダルダルのTシャツとホットパンツに着替えた、前のように活発なキキーモラになった望愛は、机に顔を乗せて頬を膨らませる。
「あー、でもまだ腹減るな」
「ケンちゃんが鱈潰したからー」
「お前だって肉、全部食っちまったじゃねえか」
「う……」
「仕方ね、メックでも行くか!」
「私も!」
そして俺と望愛は外に出る。
そして一歩後ろに下がった望愛に、「ちげえだろ」と指摘。
「何が?」
「俺とお前は……あー、もう」
俺は望愛の手を繋ぐ。
望愛の尻尾や耳の毛が一気に逆立って、顔を真っ赤にして固まった。
「主人とメイドじゃなくて、恋人だろうが」
そう言うと、望愛は黙ってうなずいて、俺と夜の街を歩き出した。
パシィン!!
そんな音が響いて、俺の前でパピヨンマスクとボンテージ姿のダークエルフが鞭を幼馴染である望愛(のあ)へ打つ。
「ひぃん!」
「ホラ、モットナケヤ! ブタヤロウコラァ!」
「あぁん!」
「ホラドウシタ! マダウタレタリナイカ!」
「いやぁん!」
「あの」
「ウルセエ! ブガイシャハスッコンデロ!」
「えぇー!?」
俺、あんたが今(物理的に)鞭打ってる子の幼馴染なんですけど!?
「オラァ!」
「あひぃん!」
「フゥ……コレデキョウノクンレンハシュウリョウダ、サッサトフクキロ、コノメスブタ!!」
「は、はぃい……」
未だに興奮気味のまま、望愛はごそごそ恥ずかしそうにメイド服を着ると、共に「SM部」から逃げるように出る。
だが俺は帰り際、何故かダークエルフにビンタを食らった。
「望愛、なんで俺殴られたの?」
「Mっぽいからじゃないですか?」
「お前と一緒にすんな!!」
……俺の幼馴染である望愛はキキーモラだ。
主人に仕えることが何よりの喜びで、そして生き甲斐で、生きる意味、そんな献身的の化身みたいな魔物。
だが望愛はどこを間違ったのか……中学まで「ケンちゃん〜野球しよ〜!」なんていう、キキーモラにしては活発な女の子だったのに、今では鞭打たれて喜んでるクソマゾの上にメイド服を着る電波少女である。
前は普通だったし、俺のことも普通にケンちゃんと呼んでいたのに、今は「ご主人様」、そしてクソ敬語だ。
保健の先生曰く、キキーモラとしての本能が出てるし、俺がどうやら好きだからのサインらしいけど、微塵も嬉しくないのはなぜなんだろうか。
「もっと! 罵声もっと!」
「……」
「放置プレイが一番嫌です……」
さっきとは打って変わって、耳と尻尾を垂らして校庭の隅にあるSM部の小屋の前で「の」の字を書き始める。
変化がわかりやすいけどうぜえ。
「ご主人様の馬鹿……」
「はいはい悪かったって……。……オラ、行くぞ!」
「骨だァアアアア!! 今行きます!」
骨を出すとすぐに飛びついてくるのは変わってない。
とりあえず厭らしくこっち見ながら骨を舐めてくる望愛を無視して、俺は周りの視線に耐えながら帰路へ着く。
そしてスーパーの前。
「今日の晩御飯は……」
「私を! 私を是非!」
「そうだ、キムチ鍋にするか」
「ファーック!! 私を食え! ユー・イート・ミー!!」
「あぁー! うるせえ!」
その場で取っ組み合いになっていると、さっきのSM部のダークエルフが近づいてきて、互いを引き離した後、俺の頬をビンタしてからボンテージとパピヨンマスクのままスーパーへ向かって行った。
「なんで!?」
「あ、怪我してる!」
ビンタされた際に口の中を切ったせいか、血の味が広がった。
痛くないけど、血の味で口の中はクソ不快だ。
「唾付ければ治りますかね?」
「骨食わせようとすんじゃねえよ!!」
涎塗れの骨を俺の頬に押し付けてくる望愛。
俺があまりに抵抗するので、ついには手を捕まれ、顔を近づけられる。
「キスで治ります! 抵抗しないでください、ご主人様!!」
「やめろぉおおお! 初キッスがスーパーの前とか2組の後藤(アマゾネス)じゃねえんだよ!」
「んふぅー!」
後頭部を無理矢理掴まれ、もう後数センチに迫った時だ。
「この野郎〜っ……! ハーッ!!」
「うゆっ!?」
思い切り、口の息を吐いてやった。
「く、くっさぁあああああああ!!」
「朝は餃子、昼はにんにく醤油がけラーメンの最悪ダブルコンボの味はどうかな!?」
鼻を押さえて転げまわる望愛。
ウルフ種の為か嗅覚が鋭いキキーモラの望愛は、常人でも最悪気絶する(いつかに、三十路ぐらいのユニコーンにレイプされかけた時にやったら気絶したので立証済みの)俺の口内悪臭にやられたのだ、その被害はとてつもないだろう。
「死ぬっ! だ、誰か消○力! ファブリー○でもいいからぁー!」
「もう無理矢理しないか!?」
「しません!」
「よし!」
「とは言い切れません!」
とりあえず望愛を置いて、俺はスーパーでキムチ鍋の材料を買いに出かけた。
***
夜。
最悪な事に、「晩御飯は望愛ちゃんと食べなさい」と、クナイが刺さって画鋲代わりになって、達筆で書かれた習字紙を見て、俺は絶望した。
俺の母はクノイチで、結婚はしているけれど、親父がとある大手企業の重役なので、会議に出たりするとき、割とガチで命を狙われるらしいから、それを守る為に家を空けることがたびたびあるんだけど、それが望愛の両親もいない日――つまり、望愛が安全な様にと俺の家に泊まる日と重なるとは……クソファックだ。
「じゃあ……私を食べましょう!」
「納豆何処にあったっけか……」
「やめてください死んでしまいます」
納豆を探すフリをしてみると、涙目で俺を止める。
まだ歯を磨いてもないし、これで納豆が加わったらバブルスライムも卒倒するぐらいになるかもしれない。
それはそれで面白いけど、これで望愛が臭死したらシャレにならない。
「歯磨いてくっから」
「はい……じゃあ私はお野菜切ってます……」
「いいよ、俺が来てからで」
そして俺は望愛と洗面台に向かう。
「お前も磨いとけよ、骨食って涎だらけだし」
「はい」
「……たくっ」
二人きりになったのに敬語を外さない、なんか、なんつーか、クソファック。
黙って二人で歯を磨いて、黙ってグチュグチュペッ。
ものの三分で終わった歯磨きは物足りない、前までは十分以上かかってたけど、楽しくやってたのに。
「じゃあお前野菜な」
「全部やります!」
「いいっつーの、俺だってやれっから」
そそっかしい癖に一人でやろうとする、それもクソファックだ。
俺は言っとくけど、キキーモラの性格に甘える気はない。
……あくまで俺はこいつの幼馴染であって、恋人じゃないしな。
「何でですか……何で、私の本能否定するんですか……」
「……は?」
包丁を持ったまま、望愛がポツリとつぶやいた。
「私は、キキーモラとして、仕えたいのに……」
「クソファーックッ!!」
「きゃっ!?」
俺は思わず持っていた鱈をパックごと握りつぶした。
「もう一回言ってみろ!」
「え!?」
「今言ったこと! リピィートゥッ!!」
「き、キキーモラとして……」
「それがクソファーックッ!!」
「ひぃ!」
俺は手を洗ってから、望愛の肩に手を置いて、思い切り睨む。
「俺はな!」
「は、はいぃ……」
「俺はな! 典型的なキキーモラより! ドMなキキーモラよりな!」
「……?」
俺は、俺は!
「――そのまんまの望愛が好きなんだよっ!」
必死こいて、何言ってるか一瞬わからなくなった。
でもこれは、俺の本心だ。
「ご主人様……」
「世界一臭い缶詰がどっかにあったな……」
「け、ケンちゃん!!」
「なんだよ」
「わ、私……その……うん」
望愛は、俺の大好きなキキーモラは、泣きそうな顔で、でも、すごくうれしそうな顔で。
「私も、大好き!」
飛びついて来た。
さっきまでなら俺は口臭で討伐してたけど、今はそんなことしない。
俺の好きな幼馴染で、キキーモラの望愛に、そんなことができるはずないだろ?
***
「ケンちゃんがこういうの好きだからって、つい、そう思って」
「成程なあ……」
出されたのはメイドさん(キキーモラ)がご主人様にレイプされるという、ごく普通のAVだった。
別に俺は好きでもないし、嫌いでもなかったんだが、「こういうのもアリかな」と、言っていたのを思い出して、少し反省する。
恐らく一緒に見てた霧山から霧山の彼女に伝わって、伝言ゲームの方式で望愛に「俺はメイドをレイプするのが好きだ」ってことが伝わったんだろう。
「悪かった」
「ケンちゃんは悪くないって! でもね」
「あん?」
「ちょっとは世話を焼きたいな〜……なーんて」
「じゃあ明日から朝、起こしてくれ」
「……嫌味?」
いつも寝坊で遅刻寸前になる望愛に対して、ちょっとからかい。
俺は冗談だと言ってから、空になったキムチ鍋を片付ける。
「それぐらいやらせてよ!」
「うるせーやい」
「むー」
ダルダルのTシャツとホットパンツに着替えた、前のように活発なキキーモラになった望愛は、机に顔を乗せて頬を膨らませる。
「あー、でもまだ腹減るな」
「ケンちゃんが鱈潰したからー」
「お前だって肉、全部食っちまったじゃねえか」
「う……」
「仕方ね、メックでも行くか!」
「私も!」
そして俺と望愛は外に出る。
そして一歩後ろに下がった望愛に、「ちげえだろ」と指摘。
「何が?」
「俺とお前は……あー、もう」
俺は望愛の手を繋ぐ。
望愛の尻尾や耳の毛が一気に逆立って、顔を真っ赤にして固まった。
「主人とメイドじゃなくて、恋人だろうが」
そう言うと、望愛は黙ってうなずいて、俺と夜の街を歩き出した。
13/11/17 19:13更新 / 二酸化O2