連載小説
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第五話「今日から俺は!!」
翌日、朝。

昨日は早速ちゆりにRAIN友達に登録されてることを確認して、トークしようとしたが、仕事で疲れてるであろうと思い、天香はその日はいつもより早い……午後九時に布団へもぐり、ちゆりが起きているであろう午前六時半に起きた。




「早く起きすぎた……」




いつもは遅刻寸前の時間に起きて、叔母に呆れられながらの朝食抜きの車登校だが。

やることもないので、とりあえずは食事をする居間へ入る天香。




「おっはー」

「珍しいな天香、こんな時間に起きるなんて」

「早く寝すぎた。朝ごはん何ー?」

「お前が起きるとは思ってなかったから作ってない。自分で何か作れ」

「へーい」




恐らくは夜勤明けなのだろう、目に隈を作った風香が面倒そうにインスタントの味噌汁袋と卵、茶碗を二つ渡すと、欠伸をしながら居間から出ていく。

天香は茶碗に「わかめ」と書かれたかやく、チューブに入った味噌を適当に入れる。




「あ、RAIN……」




未だに起動していない携帯電話を思い出し、天香は薬缶に水を入れ、火にかけてから自室へ戻っていく。

充電器に差さっていた、今は廃れかける折り畳み携帯電話を取り出し、電源を付ける。

完全に起動すると慣れた手つきでボタンを押し、数秒でRAINのサイトを開く。




「お?」




早速というのか。

「ちゆりん・ヨッシー」と表示されたグループに更新情報があり、天香は素早くそれを開く。






【これを見たらでいいので、朝、生徒会長室に来て下さい】






「……ふほぉおお!?」




思わず声を出してしまい、ベッドへ思い切り身を投げる天香。

その後は携帯電話を持ったまま狭いベッドを転がり、次には体操選手も驚きのスピンをしてベッドから飛んで降りた。




「や、やべえ……! 俺の心臓メッチャ震えてるよ……!」




子供の頃からひしぎとシュンとしか遊ばず、外出しても叔母とコインゲームをするしかなかったので、女子からの告白どころか、女友達はシュンを除けば誰もいなかったのだ。

妄想だらけである天香の頭はすでに沸騰寸前であり、頭にはRAINに書いてあった文字だけがめぐっている。




「今行きます、ちゆりさぁああああああん!!」




素早く着替えてから、天香はやかんの火を消して、家を飛び出していった。

祖母に「ご飯勿体ない!」と叫ばれたが、「俺の青春はここからだぁあ!!」と叫ぶ天香は聞く耳がなかった。








***








高等部会長室。

生徒会室の隣にある、木製の扉が嵌められた生徒会長のみが自由に使用できる部屋だ。

歴代の生徒会長の写真、資料があるので防犯の為でもあるが、会長が恋人と密かに交わる為に作られた部屋でもある。




「栄養ドリンク買った方がよかったかな〜」

「僕に聞かないでくれるか……? この毒針、会長がいきなり襲うとは考えられない……」

「蔵人はわかってねーなー」




天香は今、風紀委員長の毒針、公安委員長のオーガであり、一応毒針の恋人――六甲山 美代(ろっこうさん みよ)と共に会長室を目指している。

会長室にはできるかぎり、部外者は近づけたくなく、毒針の部下による情報だと最近になって隣町の県立魔園学園の不良たちが動いているのだと聞いて、警戒しているらしい。

かと言って、天香にはなぜ二人が釘バットとメリケンサックを持っているのかがわからない。




「あ?」

「風紀委員長にはわかんねーよ、女心ってのーがさぁ」

「ふ、君に女心があったことに僕は驚きだね」

「あんだと、あぁ!?」

「やんのかゴラァッ!」




毒針は背中に背負っていた釘バット、六甲山はメリケンサックを拳に嵌め、その場が学園祭から戦場へと変化しかけた、その時。




「おーい、お前ら何してんだ?」

「「こいつが! あっ」」

「……成程。浮田、会長室に行ってろ」

「あ、は、はい……」




相変わらず生パスタを齧っていて、真面目な雰囲気が取れなかったイヅク。

だが今はこめかみに血管が浮き出ており、笑みを必死に作っているのだろうか、口の端がひきつっている。




「お前らさぁ……。去年から全く反省してない系? 俺と会長との約束忘れた?」

「違います……」

「ごめんなさい……」




しょぼくれた二人の委員長と、後ろから鬼神のようなオーラを出すイヅクを背に、天香は会長室の前に移動する。

木製戸を三回ノックしてから、服装を整えていると、「どうぞ」と声がかかる。




「何か用でしょうか、ちゆりさん!」

「天香君……来てくれたんだ」

「……え?」




いつもならば白い肌の頬がほんのりと紅いちゆりの顔だったが、今は何故か目に隈ができ、顔が少し青ざめている。

よく見れば金色の目は少し充血していて、薄紫の髪もだいぶ荒れている。




「だ、大丈夫ですかちゆりさん!?」

「えへへ……あまり元気じゃないけど、もう学園祭始まっちゃうから休むわけにもいかなくて。あ、今日の予定なんだけど……」

「ダメですって! ほら、保健室行きましょう!?」

「……大丈夫だから! ほっといて!」






肩を貸そうと近づいて、天香は手を差し伸べた――その瞬間だった。

ちゆりが振り返って、思い切り爪手を振った……天香の顔に。






「い、いってえ!!」

「あ……」




ちゆりの爪から垂れる赤黒い液体と、天香の額から垂れた同じ液体。

ちゆりは顔を真っ青にして、しばらく固まっていたが、苦痛に呻く天香を見ると目に涙を溜め、




「ごめんねっ!!」




と、素早い動きで会長室を出て行ってしまった。

天香は額の激痛に呻き続けていたが、ちゆりがいないのに気付くとすぐに会長室を飛び出す。




「ちゆりさん!? ちゆりさん!」

「浮田! どーしたんだ会長、泣きながら……」

「イヅク先輩! ちゆりさん、どっちの方に!?」

「え、あ、ああ、玄関の方だと思うんだけど。何があったんだ!?」

「ちゆりさん、具合悪そうだったんで保健室連れて行こうとしたら」

「……なるなる。まあ、具合悪いわけじゃねえよ。昨日、ちょっとあってな」

「え?」

「とりあえず会長追ってくれ、俺はざくろと今日の仕事片づけっからよ。昨日のこと聞きながら会長励ましてやってくれや」

「イヅク先輩が追いかけた方が……」

「惚れた女の尻しか追いかけないのが俺のポリシーなんでな。ほれ、早く行け」

「うおっ」



イヅクに押されて、天香は少し不機嫌そうな顔をしたが、代議委員長が業務用のパスタ十束を取り出して簡単に折ると、脱兎の如く玄関へと向かっていった。



「イヅク、よかったの? 会長を一年坊に追わせて」

「会長も初等部の頃の『泣き虫会長』じゃねーんだよ。俺らと同じ、高校生で生徒会の人間だ」

「……まあねえ」

「それにざくろにゾッコンの俺より、惚れた男に追ってもらった方が会長も嬉しいだろ?」

「はん、褒める前にデートの時に気が利く事せいや」

「冷たいねえ……」



折れたパスタを数本纏めて噛み砕くと、イヅクは「頑張れ浮田〜」と、校門へ走っていく天香へ手を振った。





***





意外にも龍と言う魔物の移動速度は速い。

様々な魔物がいる中でも珍しい、地面から浮いての移動であり、泥濘や砂利に関係なく移動するため、人間の中でも身体能力が驚くほど高い天香でさえ追い付くどころか見失わないことが精一杯だ。



「ちゆりさん! 待って!」



叫びながら走るものの、ちゆりの方はただただ走るばかりで、聞く耳を持とうとしない。

天香自身、長距離の上にペースを落とすことなく走っている為に肩で息をし、意識が朦朧としているがそれでもちゆりを追いかける。



「ちゆ……り……さん……」



しばらくは耐えたがその内に体はふらつき、千鳥足になって、最終的に天香は道へ倒れてしまう。

陽炎のようなものが見え、去っていくちゆりをただ見ながらも、天香の意識は少し前に経験したようにブラックアウトしてしまった……。





***





突然の頭痛。

だが天香がそれが頭痛だと気づくのに、数秒かかった。



「起きた?」



目を覚ました、その眼前。

木製だろうか、粗く削ってあるが「龍」となんとなくわかる仮面を付けた、そんな人物が天香の顔を覗いていたのだ。



「う、うわぁああああ!?」

「良かった、元気そうだね」



飛び起きてみれば後ずさって、天香は今更になって頭痛が気になってきた。

仮面の人物は紺色の甚平を着、手にはバファ○ンの箱を持っている。



「あ、あんたは……」

「鷺士郎。千住院、鷺士郎。君を運んだ千住院ちゆりの父親」

「え?」

「良かったね、うちのちゆりは男怖いからなかなか助けてくれないし」



仮面――鷺士郎と名乗った人物は荒れた布団をたたみ始め、バ○ァリンの箱を天香に投げる。



「道で倒れてたんだって? 何かあったのかな?」

「俺……! ちゆりさん!」

「ちゆりなら今は神社にいるよ、離れだからここはね。靴は縁側に置いてあるから、ご自由に」



天香は頭痛に顔をゆがめながらも、何とか歩き出して縁側で靴を履く。

ふらふらの足取りで神社らしき建築物に向かう天香だったが、目的地に着く前に目当ての人物を発見した。



「……ちゆりさん」

「か、天香君……。お、起きたんだ」



いつも見る聖ミネルヴァの制服ではなく、胸の谷間がよく見える巫女服を着ていて、手には何故か栄養ドリンクやゼリーが大量に入ったレジ袋を提げている。



「それ」

「こ、これ!? わ、私と天香君で、天香君が起きたら食べようかな〜……なんて……都合よすぎだよね……」

「そ、そんなことないですって!」



ガーゼが貼られた額を見て、肩を落とすちゆりを、必死に慰める天香。

ようやく顔を上げて鼻をすすると、ちゆりは少し充血した目を擦って、袋の中に入った栄養ドリンクを一つ差し出す。



「一緒に飲も?」

「は、はい!」

「じゃあこっち、神社で飲も!」



腕を引かれ、心臓が口から出るような気分で天香はちゆりと共に神社の賽銭箱前で、並んで座った。

「猛り液(子供用)」とラベルに書かれた小さいビンを天香に渡し、自分は「剛・夜中無双」と書かれた栄養ドリンクとも言えないような、一升瓶を取り出してラッパ飲みをしだし、それを数秒で飲み干すと、少し悲しげに微笑んだ。



「昨日ちょっとあって。あ、愚痴になっちゃうかもしれないけど、いいかな?」

「全然、寧ろ何があったか気になるんで」

「うん……。実はね、私って婚約者がいるんだ」



天香は飲んでいたビンの飲み物を全て吹き出す。



「だ、大丈夫!? で、でもお父さんもお母さんも許してないし、相手が勝手に決めたから私、最近まで知らなかったんだ」

「そ、そ、そうなんですか……」



そっと胸をなでおろし、天香は二本目の栄養ドリンクを受け取る。



「それで、昨日イヅク君とざくろちゃんでドリンクバーの混ぜっこしてたら……婚約者の人が来てね」

「ふむふむ」



天香は空気を読んで「ドリンクバーの混ぜっこ」には突っ込まず、話を聞く。



「……私の胸、触ってきて」

「殺ォす!! 俺の全力見せたらぁああああああああ!!」

「か、天香君!? お、落ち着いて! ほら!」



むぎゅう、と。

暴れそうだった天香を急いで、抱き付いて抑えるちゆり。

天香はしばらく暴れていたが、その内甘い体臭の香りと、ふくよかな胸に挟まれて大人しくなった。



「落ち着いた?」

「は……はい……」

「もう、すぐに殺すなんて言っちゃダメだよ!」

「わ、わかりました」

「……あ、それでね。私、こんな人と結婚したくないって思って、それで……」

「それで?」

「イヅク君に駆除頼んじゃって、そしたら怖い黒服の人たちが来ちゃって……」

「イヅク先輩何者ー!?」

「さ、さあ? あ、そ、それで、婚約者の人が『あのオンボロ神社、すぐに潰してやる!』って、言って、帰ってって……怖くて……」

「……そう、だったんですか」



うつむいた天香だったが、すぐに顔を上げ、栄養ドリンクを一気に飲み干すと、ちゆりの手を握る。



「でも大丈夫です! 俺がいる限り、ちゆりさんには指一本触れさせません!」

「あ、あう……」

「神社に来ようが学園祭に来ようが……あ」



勢いで手を握ってしまったことに気づいて、すぐに手を離す天香。

お互いに顔を赤くして、しばらく沈黙していたが。



「仲直りできた?」



と、首を傾げて聞いてきた鷺士郎に気づいて、天香とちゆりは首を縦に振る。

鷺士郎の方はただ頷いて、身を翻して離れの方へ向かっていく。



「お昼ご飯できたらしいから、食べなさい。今日はちゆりも天香君もゆっくり休んで」

「うん、わかった」

「ありがとうございます!」



とりあえずというか。

二人は恥ずかしそうにだが、手を繋いで離れへ向かっていったのだった。







***







一方、残された聖ミネルヴァ学園の生徒会室では。



「イヅクぅうう! あまりの文章の多さに管理委員長姉も弟も倒れてもうたぁああ!!」

「代議委員長! 美代が知恵熱だっていうのに四十度近く出しました!」

「神楽塾、インタビューで真面目モード使い切った健が全裸になってグラウンドを走ってるから止めてくれ……!!」

「……もう知らぁーん!!」



この時ばかりは、流石に何時も飄々とした代議委員長の神楽塾 イヅクも、悲鳴を上げて天香を行かせたことに後悔し、ちゆりを恨むのだった。
13/08/29 22:07更新 / 二酸化O2
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■作者メッセージ
間がだいぶ空きましたがおはこんばんにち和姦((((

二酸化です、Twitterで出没してた上に読み切り書いてて遅れました、ごめんなさい

暑さも静まってきましたが皆さん、風邪にご注意くださいね

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